説明

ポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなる微生物固定化用担体

【課題】凝集性または付着性があまり強くない微生物菌体を高密度で固定化できる担体を提供すること。
【解決手段】本発明の微生物固定化用担体は、連通気孔を有するポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなり、該ポリビニルホルマール樹脂がアニオン性官能基を有し、そして該多孔質体の表面にカチオン性アミン高分子が静電的に吸着されている。本発明の微生物固定化用担体は、大腸菌のような比較的固定化が困難であった微生物を高密度に固定できるだけでなく、微生物の固定化の直前に高圧蒸気滅菌処理をするだけで簡便に利用可能であるため、雑菌の混入を防止しやすい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなる微生物固定化用担体に関する。より詳細には、微生物を高密度に固定化できる担体ならびに微生物の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は、温和な条件下で種々の反応を触媒できるため、省エネルギーかつ環境に対する負荷の少ない反応プロセスを構築するために有用である。しかし、酵素は通常、微生物自体またはその培養液から分離精製して調製されるため、製造コストが高い。これに対し、近年、微生物細胞自体を酵素剤として利用することが検討されている。この菌体生体触媒 (whole cell biocatalyst) の技術により、反応プロセスの簡略化やコストの削減が可能となる。
【0003】
微生物などの細胞を利用する生物反応プロセスにおいては、酵素を多量に含む細胞を工業的に効率よく利用するために、細胞を固定化することが試みられている。細胞を固定化する方法としては、次の3つに大別される:1)不溶性の担体に細胞を結合させる担体結合法、2)架橋剤を用いる架橋法、3)高分子ゲルマトリクス格子中に包み込むまたは半透膜マイクロカプセルに封じ込める、包括法。細胞を確実に固定化するためには、包括法が好ましいが、固定化された細胞周辺の物質移動などを考慮して、多孔性担体を用いる担体結合法が種々検討されている。例えば、凝集性酵母は、ポリウレタンフォーム片と混合するだけで、容易に固定化できる(非特許文献1および2参照)。また、付着性動物細胞については、多孔性セルロース担体を用いてインキュベートするだけで固定化できたこと(非特許文献3参照)、および陽荷電基を有するポリエチレンイミンあるいは細胞付着因子を導入した多孔性セルロース担体において、浮遊性動物細胞を高濃度に固定化できたこと(非特許文献4および非特許文献5参照)が報告されている。また、特許文献1には、動物細胞を固定化するための担体として、陽荷電基を有するポリエチレンイミンを介して細胞付着因子および細胞接着因子を結合させた多孔性セルロース担体が記載されている。
【0004】
複数のペンダントアミンを有するポリマーで処理した疎水性担体を用いることにより、細胞の固定化量が向上する方法(特許文献2)、あるいは、疎水性担体をポリエチレンイミンで処理することによって、高密度で菌体を担体に固定化することができることも報告されている(特許文献3)。さらに、多孔質ポリビニルアセタール樹脂からなる担体が、親水性であるため、微生物との親和性が高いことが知られている(特許文献4)。
【特許文献1】特開平5−252941号公報
【特許文献2】特開2004−129572号公報
【特許文献3】特開2007−49966号公報
【特許文献4】特開2000−84348号公報
【非特許文献1】フルタ(H. Furuta)、外,「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」,1997年,第84巻,第2号,p.169−171
【非特許文献2】リュウ(Y. Liu)、外,「バイオケミカル・エンジニアリング・ジャーナル(Biochemical Engineering Journal)」,1998年,第2巻,第3号,p.229−235
【非特許文献3】タツヤ・オガワ(Tatsuya Ogawa)、外5名,「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」,1992年,第74巻,第1号,p.27−31
【非特許文献4】寺嶋修司、外5名,「生物工学会誌」,1993年,第71巻,第3号,p.165−170
【非特許文献5】シュージ・テラシマ(Shuji Terashima)、外5名,「ジャーナル・オブ・ファーメンテーション・アンド・バイオエンジニアリング(Journal of Fermentation and Bioengineering)」,1994年,第77巻,第1号,p.52−56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の方法では細胞を高密度に固定化できるが、いずれの方法においても、細胞の固定化の直前に種々の前処理を行う必要がある。言い換えれば、雑菌除去のための高圧蒸気滅菌工程の後にペンダントアミン処理またはポリエチレンイミン処理が行われる。そのため、これらの処理時に担体が雑菌汚染される可能性があり、工業的利用においては、ペンダントアミン処理またはポリエチレンイミン処理の工程での雑菌汚染防止のために、多大の設備や煩雑な作業を必要とする。
【0006】
本発明の目的は、凝集性または付着性があまり強くない微生物菌体を高密度で固定化でき、かつ高圧蒸気滅菌処理をするだけで簡便に利用可能な担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、連通気孔を有するポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなる微生物固定化用担体を提供し、該ポリビニルホルマール樹脂はアニオン性官能基を有し、そして該多孔質体の表面にカチオン性アミン高分子が静電的に吸着されている。
【0008】
本発明はまた、微生物の固定化方法を提供し、該方法は、連通気孔を有するポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなる微生物固定化用担体を、カチオン性アミン高分子で処理する工程、該処理した担体を滅菌する工程、および滅菌した担体と微生物とを接触させる工程を含み、該ポリビニルホルマール樹脂はアニオン性官能基を有する。
【0009】
1つの実施態様では、上記アニオン性官能基はカルボキシル基である。
【0010】
ある実施態様では、上記ポリビニルホルマール樹脂多孔質体の気孔率は80%以上であり、そして該多孔質体の表面の該気孔の開口部の平均孔径は10〜500μmの範囲である。
【0011】
さらなる実施態様では、上記ポリビニルホルマール樹脂多孔質体のホルマール化度は70モル%以上である。
【0012】
他の実施態様では、上記カチオン性アミン高分子はポリエチレンイミンである。
【0013】
別の実施態様では、上記担体は、150kPa以上の水蒸気で滅菌されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなる微生物固定化用担体は、その表面にアニオン性官能基を有するので、カチオン性アミン高分子を静電的に強く吸着する。そのため、高圧蒸気滅菌後においても微生物菌体固定化性能を損失せず、微生物菌体を高密度で固定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(微生物固定化用担体)
本発明の微生物固定化用担体は、連通気孔を有するポリビニルホルマール樹脂多孔質体(以下、PVFM多孔質体と略すことがある)からなり、ポリビニルホルマール樹脂はアニオン性官能基を有し、そして多孔質体の表面にカチオン性アミン高分子が静電的に吸着されている。
【0016】
多孔質体は、微生物を高密度で固定化して保持し得る点で、連通気孔を有することが必要である。ここで、「連通気孔を有する」とは、多孔質体表面上の1つの開口部とそれに繋がる気孔が、内部で連絡して、空洞状(中空状)をなしていることを意味する。したがって、ある1つの開口部から入った気体、液体などの流体は、内部の孔を通って、(他の)開口部から出てくることが可能である。
【0017】
ポリビニルホルマール樹脂多孔質体は、ポリビニルアルコールを気孔形成剤とともに、酸性条件下でホルマール化処理して得られる。すなわち、ポリビニルアルコールの水溶液に、気孔形成剤、ホルムアルデヒド水溶液、および酸を加えて、例えば、反応型に流し込んで、加熱することにより、水に不溶のポリビニルホルマール樹脂を得、続いて気孔形成剤、未反応のホルムアルデヒド、および酸を水洗除去することによって多孔質体とする。
【0018】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略すことがある)としては、アニオン性官能基を有するPVAが使用される。PVAの平均重合度は500〜3800が好ましい。平均重合度が500未満の場合は、高気孔率を有するスポンジ状多孔質体を得ることが困難になり、平均重合度が3800を超える場合は、水に溶解したときの粘度が高くなりすぎるため、混練工程において取り扱いが困難となる。アニオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホ基、チオール基、硫酸エステル基、リン酸エステル基などが挙げられ、特に、カルボキシル基が好適である。アニオン性官能基を有するPVAは、完全ケン化物であってもよく、また部分ケン化物であってもよい。複数の異なるアニオン性官能基を有するPVAを混合してもよく、あるいはアニオン性官能基を有さないPVAを混合してもよい。重合度の異なるPVAをブレンドして使用することもでき、また、上記重合度範囲のPVAに限らず、例えば、重合度1500のPVAと重合度300のPVAとを混合して使用してもよい。
【0019】
ホルマール化反応時の水溶液中のPVAの濃度は、特に限定されないが、5〜20質量%が好ましく、6〜12質量%がより好ましい。PVA濃度が20質量%を超える場合は、溶液の粘度が高くなりすぎて、取り扱いが難しい。また、PVA濃度が5質量%より低い場合は、得られる多孔質体の強度が低下する。
【0020】
ホルマール化反応時の水溶液中のホルムアルデヒドの濃度は、特に限定されないが、反応制御が容易な点で、2.0〜8.0質量%が好ましく、2.5〜5.0%がより好ましい。なお、ホルマール化反応において、ホルムアルデヒドとともに、ベンズアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、グリオキザールなどの脂肪族あるいは芳香族アルデヒドを併用することもできる。その場合には、アセタール化されたポリビニルアセタール部分が存在し得るが、本発明においては、このような樹脂についてもポリビニルホルマール樹脂多孔質体という。
【0021】
気孔形成剤は、PVAの成型には直接関与しないが、後に取り除かれて、空洞を形成する。気孔形成剤は、酸性条件下で水溶性の物質であり、ホルマール化反応後に水洗除去できるものであればいずれも使用できる。気孔形成剤としては、ポリオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリトリトール)、ポリオキシ類(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)、セルロース誘導体、デンプン、デンプン誘導体などが挙げられる。中でも、デンプンが好適である。デンプンは、その種類を問わない。例えば、タピオカデンプン、コーンスターチ、デンプン加工物などが挙げられる。気孔形成剤の添加量は、目的とする気孔率や気孔径により適宜決定され得る。本発明の担体の製造においては、3〜12質量%の濃度が適切である。約12質量%より高くなると、ホルマール化反応速度が遅くなり、約3質量%より低くなると、ホルマール化反応時の収縮が大きくなり、得られる多孔質体の平均気孔率が低下する。
【0022】
反応触媒の酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸、マレイン酸、シュウ酸、クエン酸などの有機酸が挙げられる。中でも、硫酸または塩酸が好ましく、濃度は3〜10重量%が好ましい。
【0023】
反応温度は、通常、約30℃〜80℃、好ましくは、約40℃〜70℃である。
【0024】
ホルマール化度は、ホルムアルデヒドの量、酸の濃度、反応温度、または反応時間を適宜選定することにより調節できる。また、ホルマール化度を高める方法として、反応後、気孔形成剤、酸、およびホルムアルデヒドを水洗除去した後、再度酸とホルムアルデヒドとの混合溶液に浸漬し、2次反応を行うこともできる。ホルムアルデヒド濃度が高いほど反応速度が速くなるが、ホルマール化度の制御は困難となる。ホルマール化度を70モル%以上にすることにより、得られるアニオン性PVFM多孔質体の機械的強度が高くなり、堅固になり、摩擦などにより崩壊しにくくなる。したがって、PVFM多孔質体のホルマール化度が70モル%以上であることが、PVFM多孔質体を処理して得られる担体を攪拌培養する際に機械的強度を高め、担体の使用期間を長くできる点で好適である。
【0025】
ホルマール化度は、重水素クロロホルムおよびトリフルオロ酢酸水溶液中でのプロトンNMR測定から次式により求められる:
ホルマール化度F=(a/c)×100(%)
aは、エーテル基に隣接するメチレンプロトン(例えば、4.667、5.150、5.313、および5.326ppm)のピーク強度の合計を表し、cはメチンプロトン(例えば、4.153および4.442ppm)のピーク強度の合計を表す。
【0026】
以上のようにして得られたPVFM多孔質体は、表面開口部とそれに繋がる内部の連通気孔を有する多孔質体であり、その表面にアニオン性官能基を有するため、親水性である。アニオン性PVFM多孔質体は、上記のようにして得られた状態のままであっても、微生物との親和性に比較的富んでいる。また、表面にアニオン性官能基を有しているため、カチオン性の物質を強く吸着することが可能である。
【0027】
得られる多孔質体の表面における気孔径は、特に限定されず、微生物菌体のサイズに応じて、適宜決定され得る。好ましくは1〜1,000μm、より好ましくは10〜500μmである。PVFM多孔質体の気孔率(空隙率)が80%以上で、かつ表面の開口部の平均孔径が10〜500μmであることが、微生物を高密度に固定化するのに好適である。
【0028】
連通気孔の平均気孔径および開口部の孔径は、電子顕微鏡写真を用いて測定できる。平均気孔率は、見かけ体積(Va)および真体積(V)を測定して、式:ε=(1―V/Va)×100(%)により求められる。見かけ体積(Va)は、例えば、ノギスを用いて、含水状態の多孔質体の3箇所で測定した直径の平均値として求められる。また、真体積(V)は、例えば、島津製作所製乾式自動密度計アキュビック1330(商品名)を用いて測定される。
【0029】
得られたPVFM多孔質体は、裁断などの加工により適当な形状とすることができる。PVFM多孔質体の形状や大きさは、特に限定されないが、例えば、立方体、直方体、球、円柱、シート状などであり、目的に応じて適宜選定できる。また、大きさについては、培養槽内で微生物を高濃度に固定するために、多孔質体の比表面積をより大きくできる小さなものが好ましい。取り扱いの容易さの点で、10mm以下の大きさが適当である。
【0030】
本発明の微生物固定化用担体は、PVFM多孔質体の表面に、カチオン性アミン高分子が静電的に吸着されている。本発明で用いられるカチオン性アミン高分子は、培養液中で微生物の活性に悪影響を及ぼすことなく、水溶液中で陽荷電を持つものであれば、特に限定されない。このようなカチオン性高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリ−L−リシン、ポリ−D−リシン、ポリ−DL−リシン、ポリ−L−オルニチン、ポリ−D−オルニチン、ポリ−DL−オルニチン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリジアリルアミン、キトサンなどが挙げられる。高密度に微生物を固定化でき、特に凝集性または付着性が弱い微生物でも高密度に固定化できる点で、ポリエチレンイミンが特に好ましい。カチオン性アミン高分子は、担体と微生物との相互作用を考慮すると、分子量が大きい分子であることが好ましく、その重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは50,000以上かつ200,000以下である。
【0031】
本発明の微生物固定化用担体は、上記アニオン性PVFM多孔質体を、カチオン性アミン高分子で処理して、その表面にカチオン性アミン高分子が静電的に吸着させることにより製造される。具体的には、アニオン性PVFM多孔質体をカチオン性アミン高分子の水溶液中に浸漬することによって行われる。カチオン性アミン高分子水溶液の濃度は、特に限定されないが、0.01〜10g/Lが好適である。浸漬時間は、カチオン性アミン高分子水溶液の濃度、多孔質体の種類などに応じて適宜決定され得、通常は10分〜60分であり、振盪または攪拌しながら浸漬することが好ましい。
【0032】
こうして得られた微生物固定化用担体においては、カチオン性アミン高分子は、担体表面に静電的に強力に吸着しているため、以下で述べるような種々の滅菌処理によってもほとんど脱離しない。したがって、微生物を接触させる直前に滅菌可能であり、雑菌の混入防止に有利である。また、使用するまでは、高温および直射日光を避け、乾燥して冷暗所に保管するのが好ましい。蒸気または放射線で滅菌した後、密封して湿潤状態で保管することもできる。
【0033】
(微生物の固定化方法)
本発明の微生物固定化用担体を用いて、微生物を固定化することができる。微生物の固定化方法は、本発明の微生物固定化用担体を滅菌する工程、および滅菌した担体と微生物とを接触させる工程、を含む。
【0034】
本発明において、固定化され得る微生物としては、細菌、酵母、藻類、糸状菌類、シアノバクテリアなどが挙げられる。本発明の微生物固定化用担体は、凝集性の微生物や糸状菌類、多細胞生物に対しても用いられ得るが、凝集性または付着性が弱い微生物に特に好適に用いられる。ここで、凝集性または付着性が弱いとは、培養における凝集塊の形成や容器への付着が少なく、微生物が培養液中に浮遊する傾向があることをいう。このような微生物としては、大腸菌、枯草菌、乳酸菌、光合成細菌、化学合成細菌、好熱性細菌などが挙げられる。天然のものであっても、遺伝子組換え体であってもよい。
【0035】
カチオン性アミン高分子が吸着している微生物固定化用担体は、微生物と接触させる前に滅菌処理に供する。滅菌処理としては、高圧蒸気によるオートクレーブ滅菌、煮沸滅菌、放射線滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌などが挙げられる。本発明においては、容易である上に、カチオン性アミン高分子やPVFM多孔質体の変質を起こしにくい点で、高圧蒸気によるオートクレーブ滅菌が好ましい。より効果的に雑菌を死滅できる点で、滅菌を150kPa以上の水蒸気で行うことが、特に好ましい。
【0036】
次に、滅菌処理した担体と微生物とを接触させる。この工程は、微生物を含む培地に滅菌処理した担体を加え、培地中で振盪または撹拌することによって行われる。培地は、使用する菌体に適した組成のものを選べばよく、微生物の量、培地の量、担体の量なども、微生物の種類、担体の種類などに応じて適宜決定され得る。接触させる時間は、通常、数時間〜数日間、例えば、0.5時間〜48時間である。微生物を含む培地と接触させて微生物を担体に保持させた後、担体を取り出して新鮮培地に加え、さらに培養を数時間〜数日間行うことによって、微生物を担体に高密度で固定化することができる。必要に応じて、適時、培地を新鮮培地に交換し得る。
【0037】
担体に固定化された微生物の数または濃度は、種々の方法によって測定され得る。例えば、微生物菌体内で恒常的に発現している酵素、具体的には、例えば乳酸脱水素酵素の活性を測定することによって、固定化菌体濃度を測定することができる。
【0038】
また、MTTアッセイ(ティム・モスマン(Tim Mosmann)、「ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッド(Journal of Immunological Methods)」,1983年,第65巻,p.55-63)によって、固定化微生物の濃度を精度よく測定することができる。MTTアッセイは、詳細には、黄色のMTT(3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)−2,5−ジフェニル−2H−テトラゾリウムブロミド)が生細胞内のミトコンドリア内に存在する脱水素酵素により還元され、その結果生じる紫色のMTTホルマザンの量が生細胞数に対応することに基づく。生成したMTTホルマザンは、水に不溶であるため、通常は2−プロパノールで溶解した後、吸光度を測定する。
【0039】
あるいは、所定の溶液中で微生物を担体から物理的に剥がし、その前後の担体の乾燥重量または湿重量の差から、担体に固定された微生物の量を測定することもできる。また、微生物を剥がした後、得られた懸濁液の濁度を測定してもよく、あるいは血球計算盤を用いて懸濁液中の細胞数を計数してもよい。
【0040】
上記の方法によって、担体に固定化された微生物(すなわち、固定化微生物)が得られる。固定化微生物は、培地中で、凍結して、あるいは乾燥して保存される。固定化微生物は、各微生物に応じた適切な反応系で使用され、担体に高密度で固定化され得るので、反応効率がよい。また、繰り返し使用も可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0042】
(実施例1:アニオン性ポリビニルホルマール樹脂多孔質体の調製)
PVA−117(株式会社クラレ製、完全ケン化PVA、重合度1700)550gおよびゴーセナール(登録商標)T−HS−1(日本合成化学工業株式会社製、カルボキシル基変性PVA、重合度1100)550gに水を加えて9Lとし、加熱してPVAを完全に溶解させ、PVA水溶液を得た。デンプン1kgを水に分散して1Lとし、このデンプン分散液をPVA水溶液に加えて十分に攪拌した。続いて、37質量%のホルムアルデヒド水溶液1.2Lと50質量%の硫酸水溶液1Lとを加え、さらに攪拌混合した。
【0043】
この混合液を20L容積のポリ塩化ビニル製容器に流し込み、60℃で18時間加熱した。その後、得られた樹脂塊を反応容器から取り出し、十分に水洗することによってデンプン、残存するホルマリン、および硫酸を除去して、良好な反発弾性を有するアニオン性PVFM多孔質体を得た。
【0044】
次いで、得られたアニオン性PVFM多孔質体を約2mm角の立方体に裁断した。この裁断したアニオン性PVFM多孔質体を、20質量%の硫酸と15質量%のホルムアルデヒドとを含有する混合溶液に、50℃にて18時間浸漬した。その後、十分に水洗して、残留する硫酸およびホルムアルデヒドを除去し、乾燥してアニオン性PVFM多孔質体を得た。
【0045】
得られたアニオン性PVFM多孔質体の平均気孔率は90%であり、平均気孔径は70μmであり、そしてホルマール化度は85%であった。
【0046】
(実施例2:アニオン性PVFM多孔質体に対する種々のカチオン性アミン高分子の吸着処理)
上記実施例1で得たアニオン性PVFM多孔質体粒子を、1質量%濃度の種々のカチオン性アミン高分子水溶液に20℃にて30分間含浸し、脱水したものを、60℃の温風にて乾燥させ、カチオン性アミン高分子吸着処理担体を得た。
【0047】
カチオン性アミン高分子としては、ポリエチレンイミン(和光純薬工業株式会社製、P−70、粘度平均分子量70,000)、ポリ−L−リシン(チッソ株式会社製)、ポリアリルアミン(日東紡製、PAA−H−10C、重量平均分子量約60,000)、またはポリジアリルアミン(日東紡製、PAS−H−10L、重量平均分子量約200,000)を用いた。
【0048】
(実施例3:ポリエチレンイミン処理アニオン性PVFM多孔質体担体への大腸菌の固定化)
菌体として、大腸菌Escherichia coli K12株を使用した。この大腸菌懸濁培地を以下のように調製した。コンピテントセル(NovaBlue、メルク株式会社)を平板培地(トリプトン(10g/L)、酵母エキス(5g/L)、NaCl(5g/L)、寒天(15g/L))に塗布し、37℃で静置培養した。形成したコロニーを1個取り、液体培地(トリプトン(10g/L)、酵母エキス(5g/L)、NaCl(5g/L))4mLを入れた試験管に移し、37℃で12時間振盪培養した。この懸濁培地を新しい液体培地で10倍に希釈した。
【0049】
容量100mLのねじ口三角振盪フラスコに、上記実施例2で調製した2mm角のポリエチレンイミン処理PVFM多孔質体担体250個および純水約20mLを入れ、121℃で20分間オートクレーブにて滅菌処理を行った。純水を除去した後、上記大腸菌の菌体懸濁培地を15mL加え、37℃の水浴中、振盪速度100回/分で往復振盪培養を開始した。培養開始から約1、3、6、9、および11時間後に担体粒子を1〜10個ずつサンプリングした。サンプリングした担体粒子を、リン酸緩衝液中で超音波ホモジナイザーを用いて20秒間処理することにより菌体を破壊し、担体粒子に固定化された大腸菌中の乳酸脱水素酵素(LDH)の活性をLDH cytotoxicity detection kit(タカラバイオ株式会社)を用いて測定した。なお、予め容量100mLのねじ口三角振盪フラスコを用いて大腸菌の振盪培養を行い、大腸菌の菌体懸濁培地の波長660nmにおける濁度(OD660)と菌体内のLDH活性との間に比例関係が成立することを確認した。両者の比例関係に基づいて、測定した固定化菌体内のLDH活性から固定化菌体濃度を評価した。結果を図1に示す。ここで、図の縦軸は、固定化菌体濃度を担体粒子1cmあたりのOD660として表示する。
【0050】
(実施例4:ポリ−L−リシン処理アニオン性PVFM多孔質体担体への大腸菌の固定化)
ポリエチレンイミン処理PVFM多孔質体担体の代わりに、上記実施例2で調製したポリ−L−リシン処理PVFM多孔質体担体を用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で大腸菌を固定化し、固定化菌体濃度を測定した。結果を図1に併せて示す。
【0051】
(実施例5:ポリアリルアミン処理PVFM多孔質体担体への大腸菌の固定化)
ポリエチレンイミン処理PVFM多孔質体担体の代わりに、上記実施例2で調製したポリアリルアミン処理PVFM多孔質体担体を用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で大腸菌を固定化し、固定化菌体濃度を測定した。結果を図1に併せて示す。
【0052】
(実施例6:ポリジアリルアミン処理アニオン性PVFM多孔質体担体への大腸菌の固定化)
ポリエチレンイミン処理PVFM多孔質体担体の代わりに、上記実施例2で調製したポリジアリルアミン処理PVFM多孔質体担体を用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で大腸菌を固定化し、固定化菌体濃度を測定した。結果を図1に併せて示す。
【0053】
(比較例1:無処理疎水性担体への細菌の固定化)
カルボキシル基変性PVAを使わず、PVA−117(株式会社クラレ製、完全ケン化PVA、重合度1700)1100gのみを使用したこと以外は、上記実施例1に記載した方法で通常の疎水性のPVFM多孔質体を得た。平均気孔率は90%であり、平均気孔径は60μmであり、そしてホルマール化度は85%であった。この通常のPVFM多孔質体を約2mm角の立方体に裁断した。
【0054】
ポリエチレンイミン処理アニオン性PVFM多孔質体担体の代わりに、この通常のPVFM多孔質体を担体として用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で大腸菌を固定化し、固定化菌体濃度を測定した。結果を図1に併せて示す。
【0055】
(比較例2:ポリエチレンイミン処理疎水性担体への細菌の固定化)
上記比較例1で調製した2mm角の通常のPVFM多孔質体の一部を用いて、上記実施例2に記載した方法と同様にしてポリエチレンイミン処理を行った。
【0056】
ポリエチレンイミン処理アニオン性PVFM多孔質体担体の代わりに、このポリエチレンイミン処理した通常のPVFM多孔質体を担体として用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で大腸菌を固定化し、固定化菌体濃度を測定した。結果を図1に併せて示す。
【0057】
(比較例3:無処理アニオン性PVFM多孔質体担体への細菌の固定化)
ポリエチレンイミン処理アニオン性PVFM多孔質体担体の代わりに、ポリエチレンイミン処理をしていないアニオン性PVFM多孔質体を担体として用いたこと以外は、実施例3と同様の手順で大腸菌を固定化し、固定化菌体濃度を測定した。結果を図1に併せて示す。
【0058】
固定化担体として通常の疎水性PVFM多孔質体担体およびアニオン性PVFM多孔質体を用いた場合、無処理の場合は大腸菌がほとんど担体粒子内に固定化されなかった(比較例1および比較例3)。ポリエチレンイミン処理した場合でも(比較例2)、アニオン性PVFM樹脂多孔質体担体をポリエチレンイミンで処理した担体(実施例3)と比較すると、固定された菌体濃度は半分程度であった。このように、カチオン性アミン高分子処理したアニオン性PVFM樹脂多孔質体を固定化用担体として用いることにより、非常に高い濃度で菌体を固定化し得ることが明らかになった。
【0059】
また、ポリエチレンイミン以外にも、ポリ−L−リシン、ポリアリルアミン、またはポリジアリルアミンで吸着処理されたアニオン性担体を用いた場合にも、比較的高い濃度で菌体が固定化されていた(実施例4〜6)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の微生物固定化用担体は、微生物を高密度に固定化できるので、微生物中に存在する酵素を利用する場合も反応効率を高めることができる。また、凝集性または付着性があまり強くない細胞、あるいは大きさが微小であり、これまでに固定化が困難であった細菌(例えば、大腸菌)についても、より簡便にかつ高密度で菌体を担体に固定化することができる。特に、大腸菌は、遺伝子組換えの宿主として広く利用されているため、遺伝子組換え産物の大量生産や遺伝子組換え大腸菌を酵素剤として用いる反応プロセスへの利用にも有利である。また、雑菌の混入防止のための滅菌処理も容易で、工業的な大量生産に際して非常に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】種々の処理を行った微生物固定化用担体粒子に固定化された大腸菌の菌体濃度の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通気孔を有するポリビニルホルマール樹脂多孔質体からなる微生物固定化用担体であって、該ポリビニルホルマール樹脂がアニオン性官能基を有し、そして該多孔質体の表面にカチオン性アミン高分子が静電的に吸着されている、担体。
【請求項2】
前記アニオン性官能基がカルボキシル基である、請求項1に記載の担体。
【請求項3】
前記ポリビニルホルマール樹脂多孔質体の気孔率が80%以上であり、そして該多孔質体の表面の該気孔の開口部の平均孔径が10〜500μmの範囲である、請求項1または2に記載の担体。
【請求項4】
前記ポリビニルホルマール樹脂多孔質体のホルマール化度が70モル%以上である、請求項1から3のいずれかの項に記載の担体。
【請求項5】
前記カチオン性アミン高分子がポリエチレンイミンである、請求項1から4のいずれかの項に記載の担体。
【請求項6】
150kPa以上の水蒸気で滅菌されている、請求項1から5のいずれかの項に記載の担体。

【図1】
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