説明

ポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法

【課題】PPSの耐熱性、耐薬品性、難燃性等の優れた性質を損なうことなく、低コストでかつ生産安定性に優れたPPS繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂に対し、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂0.1〜8重量%を溶融混練した後、285〜310℃で溶融紡糸することを特徴とするポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは低コストで、且つ、生産性が向上したポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略す)は、その優れた耐熱性,耐薬品性,難燃性を生かして電気・電子機器部材,自動車機器部材として注目を集めている。また、射出成形,押出成形等により各種成型部品,フィルム,シート,繊維等に成形可能であり、耐熱性,耐薬品性,難燃性の要求される分野に幅広く用いられている。
【0003】
しかし、PPS樹脂はその融点が高い故に、溶融加工温度や使用温度が高く、そのため揮発性成分が発生し易く、特にフラッシュ法PPSは揮発成分ガスの発生が顕著である。このため溶融紡糸工程において、揮発性成分が紡糸口金の汚れを引き起こし、作業量の増大や糸切れの原因となる問題があり、その低減が強く望まれている。
【0004】
この口金汚れの原因はオリゴマーであるといわれており、オリゴマーの発生を抑制するために多くの提案がされている。
【0005】
PPS樹脂を熱酸化処理することにより、オリゴマーを除去あるいはポリマーに反応させることは以前より行われている。例えば、ポリマー粘度が5000〜16000ポイズ(500〜1600Pa・s)(310℃、剪断速度200/秒)の範囲で、非ニュートニアン係数nが1.5〜2.1になるようにPPS樹脂にキュアリングを施し、これを溶融押し出しして得られる押出成形物が開示されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では熱酸化処理の際にゲル化物が生成し、溶融紡糸時にゲル化物がパックに詰まりやすく、パック圧の急激な上昇を招きやすい難点がある。
【0006】
また、PPSの加工温度を下げることで揮発ガス成分の発生を抑制することができる。PPSの加工温度を下げる方法としては、オリゴマー状エステルを添加する方法(特許文献2)、モノマー性のカルボン酸エステルを添加する方法(特許文献3)、他のチオエーテルを添加する方法(特許文献4)、特定の芳香族リン酸エステルを添加する方法(特許文献5)、ポリアルキレングリコールを添加する方法(特許文献6)が示されている。しかし、いずれの方法においても添加物の耐熱性が乏しいため成形加工時に添加物による蒸発ガスや分解ガスが発生したり、添加物が低分子量であるため成形品表面に移行し、添加物が金型表面や成形品表面を汚染する等の問題を有するものである。
【特許文献1】特開昭63−207827号公報
【特許文献2】特開昭62−45654号公報
【特許文献3】特開昭62−230848号公報
【特許文献4】特開昭62−230849号公報
【特許文献5】特開平1−225660号公報
【特許文献6】特開平4−103661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PPSの耐熱性、耐薬品性、難燃性等の優れた性質を損なうことなく、低コストで且つ生産安定性に優れたPPS繊維の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂に対し、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂0.1〜8重量%を溶融混練した後、285〜310℃で溶融紡糸することを特徴とするポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法により解決される。
【発明の効果】
【0009】
耐熱性、耐薬品性、難燃性等に優れたPPS繊維を低コストで且つ生産安定性に優れたPPS繊維の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明は(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂に対し、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂0.1〜8重量%を溶融混練した後、285〜310℃で溶融紡糸することを特徴とするポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法である。
【0012】
本発明で用いられるポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂は下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、耐熱性の観点から下記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、より好ましくは90モル%以上含むものが好ましい。
【0013】
【化1】

【0014】
耐熱性の点から、上記構造式で示される繰返し単位を70モル%以上、特に90モル%以上を含む重合体であることが好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満を、下記の構造式を有する繰り返し単位等で構成することが可能である。
【0015】
【化2】

【0016】
本発明で用いられるPPSはPPSが92〜99.9重量%より構成されていることを特徴としている。PPSが92重量%以上とすることで耐熱性、耐薬品性、難燃性等PPSの優れた特徴を有することができる。
【0017】
本発明で用いられるPPS樹脂はクロロホルム抽出量が0.5〜4重量%であると口金汚れ抑制効果が大きく好ましい。クロロホルムで抽出される化合物はPPSオリゴマーなどに代表される低分子化合物であり、これらの化合物が紡糸時に揮発することにより口金汚れが発生すると考えられている。クロロホルム抽出量が0.5重量%より少ない場合はもともと口金汚れに起因する有機系低重合度物が少ないため口金汚れ効果が少ない。一方、4重量%を越えると低分子量化合物の発生を抑制することができず、口金汚れが発生し糸切れなどを引き起こす。好ましくはPPS樹脂のクロロホルム抽出量は2〜4重量%であり、より好ましくはPPS樹脂のクロロホルム抽出量は2〜3.5重量%、更に好ましくはPPS樹脂のクロロホルム抽出量は2〜3重量%である。
【0018】
本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法は前工程、重合反応工程、および回収工程の順で行われる公知の方法によって製造することができる。
【0019】
本発明で用いる(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する工程が含まれるが、本発明で用いるPPS樹脂において、どのような方法で回収を行うかによりPPS樹脂のクロロホルム抽出量が変わってくる。
【0020】
本発明の回収は冷却条件下で行うことが好ましく、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が上げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
【0021】
フラッシュ法は、溶媒回収と同時に固形物を回収することができ、また回収時間も比較的短くできことから、経済性に優れた回収方法である。この回収法では、固化過程でNaに代表されるイオン性化合物や有機系低重合度物(オリゴマー)がポリマー中に取り残されやすい傾向があり、クロロホルム抽出量が2〜4重量%となる。
【0022】
本発明で用いるPPS樹脂の回収方法としては、重合反応物を結晶化させながら徐々に冷却した後、固形物を濾過して回収する方法が挙げられるが、この方法の場合は、徐々に冷却するためフラッシュ法に比べ時間がかかり、生産性が若干低い傾向がある。また、有機溶媒と固形分を分離する工程が別途必要となる。但し、おそらく結晶化過程で粒子から排除されるため、回収した固形物から残存するイオン性化合物や有機系低重合度物の除去やイオン交換がフラッシュ上に比べ比較的容易であるため、クロロホルム抽出量が2%より少なくなる。
【0023】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の回収方法は特に限定されないが、フラッシュ法により回収されたPPS樹脂が経済性に優れていることからより好ましく用いられる。
【0024】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂は、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであることが好ましい。
【0025】
酸処理を行う場合は次の通りである。本発明でPPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有さないものであれば特に限定はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸及びプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸及び塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0026】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜攪拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、pH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間攪拌することにより十分な効果が得られる。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを物理的に除去するため、水または温水で数回洗浄することが必要である。洗浄に用いる水は、酸処理に基づいた化学変性の効果を損なわない意味で蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0027】
熱水処理を行う場合は次の通りである。すなわち、本発明において使用するPPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上にすることが好ましい。本発明の熱水洗浄によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作は、通常、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱攪拌することにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水が多いいことが好ましいが、通常、水1Lに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0028】
また処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが好ましい。更に、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0029】
有機溶媒で洗浄する場合は次の通りである。すなわち、本発明でPPS樹脂の洗浄に有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチルピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい、また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0030】
有機溶媒による洗浄方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜攪拌または加熱することも可能である。
【0031】
有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなるほど洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧かに洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にも夜が、バッチ式戦場の場合、通常5分間以上洗浄することによって十分な効果が得られる。また、連続式で洗浄することも可能である。
【0032】
これらの酸処理、熱処理または有機溶媒による洗浄は、目的の溶融粘度及びクロロホルム抽出量を有するPPSを得るために適宜組み合わせて行うことが可能である。
【0033】
本発明において用いるPPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての過熱による架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0034】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260度が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、1〜100時間が好ましく、2〜50時間がより好ましく、3〜25時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼付の加熱装置であっても良いが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは攪拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0035】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが好ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間が更に好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは攪拌翼付の加熱装置であっても良いが、効率よくしかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは攪拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0036】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の形状は特に限定されるものではない。フラッシュ法で得られたPPS樹脂の形状は顆粒状かパウダー状であるので、それをそのまま使用してもかまわない。また、一旦フレークやペレットの形状にした後、使用してもかまわない。
【0037】
本発明で用いられる(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂はジオール成分とテレフタル酸成分を用いて得られる重合体である。ジオール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(2’−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンなど、およびそれらのエステル形成能を持つそれらの誘導体が挙げられる。
【0038】
エチレングリコールおよびそのエステル形成能を有する誘導体、1,3−プロパンジオールおよびそのエステル形成能を有する誘導体と、テレフタル酸およびそのエステル形成能を有する誘導体を重縮合して得られるポリアルキレンテレフタレートがポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)は熱安定性に優れるため、口金汚れを抑制する効果が大きく、且つ、比較的安価なポリマーであることから好ましい。
【0039】
本発明の製造方法で用いられるポリアルキレンテレフタレートの固有粘度は0.5〜1.1であることが好ましい。ここで言う固有粘度はポリアルキレンテレフタレートの分子量に置き換えることもでき、固有粘度0.5〜1.1に相当する数平均分子量(Mn)は10000〜30000である。固有粘度が0.5より小さいと結晶性が低下する傾向にあり、また、1.1を超えると分散性が低下し樹脂組成物の機械特性が低下する傾向にある。より好ましくは、0.6〜1.0である。
【0040】
本発明で用いられる(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂の形状は特に限定されるものではなく、例えば、ペレット、フレーク、顆粒状、パウダーなどが挙げられる。
【0041】
本発明は(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂に対し、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂0.1〜8重量%を溶融混練した後溶融紡糸することを特徴としている。ポリアルキレンテレフタレートをこの範囲とすることで、樹脂組成物の流動性および結晶性が飛躍的に向上する。本来、PPSは融点が285℃と高く、流動性を得るためには300℃以上に加熱する必要がある。本発明の樹脂組成物とすることで融点は変化しないが融点以上における流動性が飛躍的に向上することを見出したものである。また、驚くべきことに本発明で用いられるPPS樹脂組成物は一度溶融すると融点である285℃まで冷却しても十分な流動性を得ることができる。このような樹脂組成物とすることで低温での成型加工性と寸法安定性を両立することができた。
【0042】
この原因は明らかではないが、PPS分子間にポリアルキレンテレフタレートが入り込み樹脂組成物を可塑化し流動化していると考えられる。また、ポリアルキレンテレフタレートがPPS分子間に入り込むことで、ポリアルキレンテレフタレートのベンゼン環とPPSのベンゼン環がスタッキングし、冷却時の結晶性を向上させていると考えられる。このようなことから、ポリアルキレンテレフタレートの含有量が0.1重量%より少ないと285〜310℃での流動性が低くなり紡糸時に糸切れとなる。また、8重量%より多いとPPS樹脂の優れた特性である耐熱性、耐薬品性、難燃性等が得られない。更に、ポリアルキレンテレフタレートが異物となり最終製品の強度が低下する。好ましくは0.1〜5重量%である。
【0043】
本発明の溶融混練の方法は特に限定されず、公知の加熱溶融混合装置を使用することができる。
【0044】
加熱溶融混合装置としては、単軸押出機、2軸押出機、スクリューが3軸-以上備えられた多軸押出機、それらの組み合わせの多軸押出機、ニーダー・ルーダーなどを使用することができる。中でも、2軸押出機を用いるとPPSとポリアルキレンテレフタレートの分散性が向上することから紡糸性が向上するため好ましく用いられる。より好ましくはニーディングゾーンが2箇所以上ある2軸押出機を用いることである。
【0045】
本発明の溶融混練の方法において、混練時のPPSおよびポリアルキレンテレフタレートの混練機への供給方法は特に限定されず、例えば、PPSおよびポリアルキレンテレフタレートを予めブレンドし混練機へ供給する方法、PPSおよびポリアルキレンテレフタレートの各々を計量しながら混練機へ供給する方法、PPSを供給した混練機へポリアルキレンテレフタレートをサイドフィードで供給する方法が挙げられる。
【0046】
溶融混練の温度は、280〜350℃で溶融混練することが好ましい、ここでいう温度とは混練部分や混練機先端にある樹脂の温度である。通常、混練機先端に温度計を取付けて測定することができる。溶融混練の温度がこの範囲とすることで紡糸の安定性や得られる繊維の強度、色調など品質が良好となるので好ましい。
【0047】
混練時間は特に限定されないが、0.5〜30分であることが好ましい。混練時間をこの範囲とすることで、分散性とPPSの熱分解抑制が両立でき、紡糸の安定性や得られる繊維の強度、色調など品質が良好となるので好ましい。
【0048】
本発明は上記溶融混練した後、紡糸温度は285〜310℃で溶融紡糸することを特徴としている。紡糸温度が310℃を越えるとPPSに含まれているオリゴマーなど有機系低重合度物やポリアルキレンテレフタレートの分解物やオリゴマーなどが揮発し、口金が汚れなどにより糸切れが多発するなど、安定した紡糸が困難となる。紡糸温度を低くすることで有機系低重合度物の発生量が少なくなるなどして、ポリアルキレンテレフタレートの分解物やオリゴマーの揮発量が抑制できるため、より低温で溶融紡糸することが好ましいが、285℃未満では樹脂の流動性が悪く安定した溶融紡糸が困難となる。本発明の範囲とすることで、ポリマーの流動性と有機系低重合度物や分解物などの揮発成分の発生量が両立でき、安定してポリフェニレンスルフィド繊維を製造することができる。より好ましい紡糸温度は285〜300℃である。
【0049】
本発明のポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法において、溶融混練工程を経て、溶融紡糸工程により溶融紡糸されれば特に限定されるものではない。具体的には例えばPPS樹脂とポリアルキレンテレフタレート樹脂を予め押出機で溶融混練したペレットを使用しても良いし、ポリアルキレンテレフタレート樹脂が高濃度に含有したマスターバッチを作成しておき、紡糸工程で任意の濃度に希釈しても良い。また、混練機を紡糸機に直結し、ペレットを得ることなく混練した溶融物を直接紡糸してもかまわない。
【0050】
紡糸工程では、増粘によるゲル化を防止するため、窒素雰囲気下で上記紡糸温度に加熱し、口金より吐出することが望ましい。口金は通常の溶融紡糸に使用するもの、例えば吐出孔径Dが0.15〜0.5mmφで、吐出孔深さLが0.2〜2.0mm程度のものが好ましく用いられる。
【0051】
口金から吐出した糸条は、通常、紡出後に風速5〜100m/分のチムニー風により冷却され、集束剤として油剤を適量付与させて、巻き取ることにより得られる。引き取り速度に特に制限は無いが、通常500m/分〜7000m/分の範囲である。また、製造プロセスもUY(低速紡糸)もしくはPOY(高速紡糸)の状態で一旦巻き取り公知の延伸機を用いて延伸処理するUY−DT(延伸撚糸)、POY―DT方式、一旦巻き取ることなく紡糸延伸工程を連続して行うDSD(直接紡糸延伸)方式などのプロセスが適用出来る。また、POY―仮撚り工程やDT−仮撚り工程などの工程も適用することも可能である。
【0052】
さらに、短繊維を製造する際には、必要に応じて、紡糸で得られた糸条を温水浴中、もしくは熱板上にて適正倍率にて延伸後、必要に応じてスタッフィングボックス型クリンパーにて捲縮を付与し、所定の温度にて弛緩熱処理を施し、次いで、油剤を付与後、所定の長さに繊維を切断し、短繊維を得ることができる。得られる糸の特性に特に制限は無いが、通常、単糸繊度0.5〜10.0dtex、強度は2.0cN/dtex以上、好ましくは3.0cN/dtex以上、より好ましくは3.1cN/dtex以上であり、強度の上限に特に制限はないが通常10.0cN/dtex以下、伸度10〜100%、乾熱収縮率0〜20.0%、の繊維が得られる。
【0053】
また本発明のPPS繊維の断面形状は特に限定されるものでは無く、通常の円形断面のみならず、△断面、Y字断面、□断面、十字断面、中空断面、C型断面、田型断面などいかなる異形断面も採用できる。
【0054】
本発明で得られた繊維は、抄紙ドライヤーキャンバス、ネットコンベヤー、バグフィルター、モーター結束糸などの各種用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下に本発明を実施例で具体的に説明する。
【0056】
以下の実施例において、材料特性については下記の方法により行った。
(1)メルトフローレート(MFR)
測定温度315.5℃、5000g荷重とし、ASTM−D1238−86に準ずる方法で測定した。
(2)クロロホルム抽出量
PPSポリマー10gを円筒形濾紙に秤量し、クロロホルム200mLでソックスレー抽出(バス温120℃、5時間)を行った。抽出後クロロホルムを除去し、残差量を秤量しポリマー重量当たりで計算した。
(3)紡糸時糸切れ回数
紡糸時間が0〜10時間、10〜20時間における糸切れ回数をカウントした。糸切れ回数が要因は様々考えられるが、0〜10時間と比較し10〜20時間で糸切れ回数が多くなるのは口金汚れによる糸切れである。
[参考例1]PPS−1の調製(フラッシュ法)
攪拌機および底に弁の付いた20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム836g(20.1モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3960g(40.0モル)、酢酸ナトリウム625g(7.62モル)、およびイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は0.17モルであった。また、硫化水素の飛散量は0.023モルであった。
【0057】
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2925g(19.9モル)、NMP1515g(15.3モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封した。その後、400rpmで攪拌しながら、200℃から225℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、225℃で30分保持した。次いで274℃まで0.3℃/分の速度で昇温し、274℃で50分保持した後、282℃まで昇温した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら、内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく攪拌して大半のNMPを除去し、PPSと塩類を含む固形物を回収した。
【0058】
得られた固形物およびイオン交換水15120gを攪拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した17280gのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0059】
得られたケークおよびイオン交換水11880gを、攪拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0060】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水17280gを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを80℃で熱風乾燥し、さらに120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPS−1は、MFRが200g/10分、クロロホルム抽出量が2.6%であった。
【0061】
[参考例2]PPS−2の調製(フラッシュ法ではない後処理方法)
攪拌機付きの20リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム(三協化成)2383g(20.0モル)、96%水酸化ナトリウム848g(20.4モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)3267g(33モル)、酢酸ナトリウム531g(6.5モル)、及びイオン交換水3000gを仕込み、常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水4200gおよびNMP80gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.018モルであった。
【0062】
次に、p−ジクロロベンゼン(シグマアルドリッチ)2974g(20.2モル)、NMP2594g(26.2モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、400rpmで攪拌しながら、227℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、その後270℃まで0.6℃/分の速度で昇温し270℃で140分保持した。その後250℃まで1.3℃/分の速度で冷却しながら684g(38モル)のイオン交換水をオートクレーブに圧入した。その後200℃まで0.4℃/分の速度で冷却した後、室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、10リットルのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を20リットルの温水で数回洗浄、濾別した。次いで100℃に加熱されたNMP10リットル中に投入して、約1時間撹拌し続けたのち、濾過し、さらに熱湯で数回洗浄した。次に9.8gの酢酸を含む20リットルの温水で洗浄、濾別した後、20リットルの温水で洗浄、濾別してPPSポリマー粒子を得た。これを、80℃で熱風乾燥し、120℃で24時間で真空乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPS−2は、MFRが180g/10分、クロロホルム抽出量が0.5%であった。
【0063】
[参考例3]PETの製造
高純度テレフタル酸(三井化学社製)1000gとエチレングリコール(日本触媒社製)450gのスラリーを予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約1230gが仕込み、温度250℃、圧力1.2×105Paに保持されたエステル化反応槽に4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、このエステル化反応生成物の1230gを重縮合槽に移送した。
【0064】
引き続いて、エステル化反応生成物が移送された前記重縮合反応槽に、三酸化アンチモンを230ppmとなるように添加し、その後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応系を250℃から285℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。
【0065】
最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の撹拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻し、重縮合反応を停止して、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてPETチップ1000gを得た。得られたポリマーのIVは0.65であった。
【0066】
[参考例4]PTTの製造
ジメチルテレフタレート1000g、1,3−プロパンジオール789gおよびエステル交換反応触媒としてテトラブチルチタネート(以下TBTという)0.21g、酢酸リチウム2水和物(以下LAHという)0.21gを用い、140〜230℃まで撹拌しながら4時間かけて昇温し、エステル交換反応を終了し、着色防止剤としてリン酸0.05gを添加した。
【0067】
引き続いて、重縮合層に移送しTBT1.05gを添加して、その後、低重合体を30rpmで撹拌しながら、反応温度を230℃から250℃まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。最終温度、最終圧力到達までの時間はともに60分とした。所定の撹拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻し、重縮合反応を停止して、冷水中にストランド状に吐出、直ちにカッティングしてPTTチップ1000gを得た。このポリマーのIVは1.12であった。
【0068】
実施例1
PPS顆粒97重量%およびPETチップ3重量%を320℃に加熱されたベント式2軸混練押出機に供給して、せん断速度100sec−1、滞留時間1分にて溶融押出し、PPS97重量%およびPET3重量%であるポリマーチップを得た。
【0069】
次いで、得られたポリマーチップを150℃で10時間、真空乾燥し、2軸混練押出機が接続された紡糸機に供給した。紡糸機に接続された2軸混練押出機は設定温度300℃、せん断速度100sec−1とした。また、紡糸温度は295℃、口金口径0.23mm、口金孔数24ホール、1000m/分の条件で紡糸し、未延伸糸を得た。20時間紡糸した結果、口金汚れは無く、糸切れ回数は0回であり紡糸性は良好であった。
【0070】
次いで得られた未延伸糸を、延伸温度90℃、熱処理温度170℃、延伸倍率2.6倍で延伸した。延伸時の糸切れ回数は0回であり延伸性は良好であった。
【0071】
得られた延伸糸は強度3.8cN/dtex、伸度35%であり糸物性の良好な糸であった。得られた糸物性を表1に示した。
実施例2
PETをPTTに変更した以外は実施例1と同様にして行った。紡糸の結果および糸物性を表1に示した。
実施例3
PPS−1をPPS−2に変更した以外は実施例1と同様にして行った。紡糸の結果および糸物性を表1に示した。
比較例1
PPS−1を150℃で10時間、真空乾燥し、2軸混練押出機が接続された紡糸機に供給した。紡糸機に接続された2軸混練押出機は設定温度320℃、せん断速度100sec−1とした。また、紡糸温度は320℃、口金口径0.23mm、口金孔数24ホール、1000m/分の条件で紡糸し、未延伸糸を得た。20時間紡糸した結果、口金汚れが激しく、糸切れ回数は10回であり紡糸性は悪いものであった。
【0072】
次いで得られた未延伸糸を、延伸温度90℃、熱処理温度170℃、延伸倍率2.6倍で延伸した。延伸時に毛羽が多く発生し、延伸性は悪いものであった。
【0073】
得られた延伸糸は強度2.4cN/dtex、伸度35%であった。得られた糸物性を表1に示した。
比較例2
紡糸温度を295℃に変更した以外は比較例1と同様にして行った。結果を表1に示した。
【0074】
紡糸時にパック圧が上昇し糸が吐出されず紡糸することができなかった。
【0075】
【表1】

【0076】
実施例4〜6および比較例3
PETの量を変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表2に示した。
【0077】
本請求項の範囲内では糸切れ回数が0であり延伸時の毛羽の発生もなく製糸性が良好であった。
【0078】
一方、PETの添加量が多いと紡糸工程ではバラスが発生し糸切れが多発し、延伸工程でも毛羽が発生した。得られた糸は強度が低いものであった。
【0079】
【表2】

【0080】
実施例7〜9および比較例4
紡糸温度を変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表3に示した。
【0081】
紡糸温度を高くすると口金汚れが発生する傾向が見られ、本請求項の範囲内を超えると紡糸工程の糸切れや延伸工程の毛羽発生が多く発生した。
【0082】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂に対し、(b)ポリアルキレンテレフタレート樹脂0.1〜8重量%を溶融混練した後、紡糸温度285〜310℃で溶融紡糸することを特徴とするポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法。
【請求項2】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、クロロホルム抽出量が0.5〜4重量%であることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法。
【請求項3】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、フラッシュ法で得られたものであることを特徴とする請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法。
【請求項4】
(b)ポリアルキレンテレフタレートがポリエチレンテレフタレートおよびポリトリメチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリフェニレンスルフィド繊維の製造方法。

【公開番号】特開2010−144267(P2010−144267A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320739(P2008−320739)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】