説明

ポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法

溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂をTダイからフィルム状に押し出し、得られたフィルムを実質的に未延伸の状態で徐冷してポリブチレンテレフタレート樹脂を結晶化させ、得られた結晶化フィルムを延伸する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、膜厚の均一性及び耐熱収縮性に優れたポリブチレンテレフタレートフィルムをTダイ法により製造する方法に関する。
【背景技術】
ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、電気的性質等に優れているため、従来からエンジニアリング用プラスチックとして注目され、自動車部品、電気・電子部品等の射出品として使用されてきた。PBTはまたガスバリア性や保香性にも優れているので、膜厚の均一性や耐熱収縮性に優れた薄いPBTフィルムができれば、包装材として有用である。しかしPBTには、溶融張力が低いため急速な延伸ができず、ガラス転移温度が常温に近いためフィルム皺が発生しやすいといった問題がある。そのため、PBT樹脂を10〜30μm程度で均一な厚さを有するきれいな包装用フィルムに成形するのは極めて困難である。
フィルムの製造法にはTダイ法とインフレーション成形法とがあるが、一般的にTダイ法に比較してインフレーション成形法は生産性が高く、薄いフィルムの製造に適している。しかしインフレーション成形法で製造したPBTフィルムには、膜厚ムラが多く、熱収縮率が大きいという問題がある。
Tダイ法によりPBTフィルムを製造する場合、Tダイから押し出した溶融PBT樹脂を冷却することにより得られる未延伸フィルムは、薄膜化とともに機械的強度等の物性の改善のために、延伸する。Tダイ法により作製した未延伸フィルムに二軸延伸を施してPBTフィルムを製造する方法として、特開昭49−80178号は、溶融PBTをTダイから例えば65℃の冷却ロール上に押し出し、得られた未延伸フィルムをPBTの二次転移点温度以上で融点より10℃以上低い温度で同時二軸延伸する方法を提案している。また特公昭51−40904号は、溶融PBTをTダイから例えば30℃の冷却ロール上に押し出し、得られた未延伸フィルムをまずPBTの二次転移点温度以上で融点より10℃以上低い温度で延伸し、次いで一段目の延伸温度以上の温度で一段目の延伸方向に対して直角方向に延伸する方法を提案している。また特開昭51−146572号は、Tダイから例えば30℃の冷却ロール上に押し出し、得られた未延伸フィルムをまずPBTのガラス転移温度以上〜100℃以下の温度で横方向に延伸し、次いで一段目の延伸温度より高くかつPBTの融点以下の温度で長手方向に延伸する方法を提案している。
しかしこれらの文献は、溶融PBT樹脂を急冷することにより作製した未延伸フィルムを二軸延伸するために、延伸加工性が不十分であり、得られるフィルムの膜厚ムラ及び熱収縮率が大きかった。PBTフィルムの二軸延伸を容易にするために、他の樹脂フィルムと積層する方法、ポリエチレン、ポリプロピレン等の相溶性の良い樹脂をブレンドする方法等が提案されているが、いずれの方法でも包装フィルムとして最適な10〜30μm程度の膜厚まで薄膜化するのは困難であった。
発明の目的
従って、本発明の目的は、膜厚の均一性及び耐熱収縮性に優れたポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法を提供することである。
【発明の開示】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、Tダイから押し出した溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂のフィルムを、実質的に未延伸の状態で徐冷して結晶化させた後に延伸すると、膜厚の均一性及び耐熱収縮性に優れたポリブチレンテレフタレートフィルムが得られることを発見し、本発明に想到した。
すなわち、本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法は、溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂をTダイからフィルム状に押し出し、得られたフィルムを実質的に未延伸の状態で徐冷して前記ポリブチレンテレフタレート樹脂を結晶化させ、得られた結晶化フィルムを延伸することを特徴とする。
未延伸のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの徐冷は、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度−40℃〜結晶化温度+20℃の温度まで行うのが好ましい。前記未延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの徐冷速度は30℃/秒以下とするのが好ましい。前記結晶化未延伸フィルムの厚さは30〜200μmであるのが好ましい。前記結晶化未延伸フィルムは少なくとも長手方向に延伸するのが好ましい。前記結晶化未延伸フィルムは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度−50℃〜結晶化温度−10℃の温度で延伸するのが好ましい。前記延伸の倍率は1.5倍以上であるのが好ましい。
延伸フィルムは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度−110℃〜結晶化温度−50℃の温度で再延伸するのが好ましい。前記再延伸の倍率は1.1倍以上であるのが好ましい。再延伸フィルムは、室温〜前記ポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス転移温度の範囲内の温度で冷延伸してもよい。前記冷延伸の倍率は1.1倍以上であるのが好ましい。前記ポリブチレンテレフタレート樹脂は、樹脂全体を100質量%として、ポリオレフィン及び/又はエラストマーを5〜15質量%含むのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明のTダイ法によるポリブチレンテレフタレートフィルムを製造する装置の一例を示す概略図であり、
図2は本発明のTダイ法によるポリブチレンテレフタレートフィルムを製造する装置の別の例を示す概略図であり、
図3は本発明のTダイ法によるポリブチレンテレフタレートフィルムを製造する装置のさらに別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
[1]ポリブチレンテレフタレート樹脂
原料とするポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂に特に制限はないが、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸とを構成成分とするホモポリマーからなるのが好ましい。但し耐熱収縮性等の物性を損なわない範囲で、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分、又はテレフタル酸以外のカンボン酸成分を共重合成分として含んでいてもよい。そのようなジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンメタノール等が挙げられる。ジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸等が挙げられる。好ましいPBT樹脂の具体例としては、例えば東レ(株)から商品名「トレコン」として市販されているホモPBT樹脂を挙げることができる。
PBT樹脂はPBTのみからなる場合に限定されず、本発明の効果を阻害しない範囲で目的に応じて他の熱可塑性樹脂を含有しても良い。他の熱可塑性樹脂としてはポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド(PPS);ポリアミド(PA);ポリイミド(PI);ポリアミドイミド(PAI);ポリエーテルサルフォン(PES);ポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリカーボネート;ポリウレタン;フッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;エラストマー等を挙げることができる。特にPBT樹脂がポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン及び/又はエラストマーを含有していると、溶融粘度及びメルトテンションが高くなるので、延伸加工性が向上するとともに、得られるフィルムの機械的強度やヒートシール性が向上するので好ましい。中でもPBT樹脂はポリエチレンを含むのが好ましい。他の熱可塑性樹脂を含有する場合、その割合はPBT樹脂全体を100質量%として、5〜15質量%であるのが好ましく、5〜10質量%であるのがより好ましい。従って、特に断りがない限り、本明細書において使用する用語「ポリブチレンテレフタレート樹脂」は、PBT単体のみならず、PBT+他の熱可塑性樹脂の組成物の両方を含むものと理解すべきである。
PBT樹脂には一般の熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、すなわち可塑剤、酸化肪止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、界面活性剤、染料や顔料等の着色剤、流動性の改善のための潤滑材、結晶化促進剤(核剤)、無機充填材等も要求性能に応じ適宜使用できる。
[2]PBTフィルムの製造方法
図1は、本発明のTダイ法によるPBTフィルムを製造する装置の一例を示す。溶融PBT樹脂をTダイ7から押し出すことにより得られた押出フィルム5は、加熱キャスティングロール1で引き取ることにより徐冷して結晶化未延伸フィルム6を形成する。得られた結晶化未延伸フィルム6は、加熱キャスティングロール1とこれに平行に設けた第2のロール2との間で延伸した後、ガイドロール9を経て巻き取りリール8により巻き取る。
(a)結晶化未延伸フィルムの形成
(i)溶融混練工程
まずPBT樹脂と、上記[1]で述べた添加剤等とを溶融混練し、溶融PBT樹脂を調製する。溶融混練の方法は特に限定されないが、通常は二軸押出機中で均一に混練する方法をとる。混練温度はPBT樹脂の融点+10℃〜融点+40℃であるのが好ましい。混練温度をPBT樹脂の融点+40℃より高くすると、樹脂の熱劣化が進行する恐れがある。このため押出機中で混練を行う場合、発熱しないようなスクリュー構造を有するもの、又は適当な冷却装置を有するものを使用する。混練温度の下限をPBT樹脂の融点+10℃未満にすると、押出量が不安定となるため好ましくない。例えばPBT樹脂がホモポリマーの場合、その融点は約220〜230℃であるので、混練温度は230〜270℃とする。融点はASTM D4591により測定した(以下同じ)。
混練した溶融PBT樹脂を押出機から直接に又は別の押出機を介してTダイ7から押し出すか、一旦冷却してペレット化した後再度押出機を介してTダイ7から押し出す。Tダイ7のギャップは通常5mm以下とする。Tダイ7から押し出す樹脂温度はPBT樹脂の融点−10℃〜融点+30℃であるのが好ましく、PBT樹脂の融点〜融点+10℃であるのがより好ましい。
(ii)徐冷工程
溶融PBT樹脂をTダイ7から押し出すことにより得られた押出フィルム5は、加熱キャスティングロール1で受け、ロール1で徐冷して結晶化未延伸フィルム6を形成する。結晶化未延伸フィルム6を形成することにより延伸加工性が向上するので、これを延伸により薄膜化すると、非晶質の未延伸フィルムを薄膜化した場合より膜厚ムラが減少する。
加熱キャスティングロール1はPBT樹脂の結晶化温度−40℃〜結晶化温度+20℃の温度とするのが好ましい。ここで用語「結晶化温度」は、試料を250℃で溶融後、20℃/分で降温した時に、示差走査熱量計(DSC)により検出される結晶化ピークの温度を意味する。例えばPBT樹脂がホモポリマーの場合、その結晶化温度は約170〜190℃である。この温度範囲の加熱キャスティングロール1に接した押出フィルム5は、PBT樹脂の結晶化温度−40℃〜結晶化温度+20℃の温度まで徐冷される。
ロール1がPBT樹脂の結晶化温度+20℃超の温度であると、得られる未延伸フィルム6は結晶化しない。一方ロール1がPBT樹脂の結晶化温度−40℃未満の温度であると、押出フィルム5の冷却が速すぎ、得られる未延伸フィルム6の結晶化度が低く、従って延伸加工性も低い。押出フィルム5は、PBT樹脂の結晶化温度−35℃〜結晶化温度+10℃の温度まで徐冷するのがより好ましい。
Tダイ7と加熱キャスティングロール1との間に加熱手段を設けない場合、十分な徐冷速度を確保するために、Tダイ7と加熱キャスティングロール1との間の距離はできるだけ短い方が好ましく、具体的には20cm以下とするのが好ましい。
徐冷速度は、30℃/秒以下であるのが好ましく、20℃/秒以下であるのがより好ましく、10℃/秒以下であるのが特に好ましい。押出フィルム5は徐冷しないと十分に結晶化しない。徐冷速度の下限は特に限定的ではないが、生産性の観点から、0.3℃/秒であるのが好ましい。
後段での延伸を容易にするために、結晶化未延伸フィルム6の厚さを30〜200μmとするのが好ましく、35〜100μmとするのがより好ましい。結晶化未延伸フィルム6の厚さを30〜200μmとし、かつ結晶化未延伸フィルム6形成時のネックイン現象(加熱キャスティングロール1にキャストされたフィルムがTダイ7の有効幅より狭くなる現象)を抑制するために、加熱キャスティングロール1の周速を5〜20m/分とするのが好ましく、5〜15m/分とするのがより好ましい。加熱キャスティングロール1の直径は35〜70cmであるのが好ましい。必要に応じて加熱キャスティングロール1を複数設けてもよい。この場合各加熱キャスティングロール1の周速は同じにするが、各加熱キャスティングロール1の温度は同じでも良く、また下流に行くに従ってPBT樹脂の結晶化温度−40℃〜結晶化温度+20℃の温度範囲内で順に低下してもよい。
(b)延伸
(i)延伸工程
図1に示すように、得られた結晶化未延伸フィルム6は、加熱キャスティングロール1と第2のロール2との間に周速差を設け、長手方向(MD)に延伸する。結晶化未延伸フィルム6は、PBT樹脂の結晶化温度−50℃〜結晶化温度−10℃の温度で延伸するのが好ましく、これにより溶融張力を比較的高倍率の延伸に適した範囲にできるので、膜厚ムラの少ない均一な延伸が可能となる。延伸温度はPBT樹脂の結晶化温度−50℃〜結晶化温度−30℃の温度とするのがより好ましい。結晶化未延伸フィルム6が延伸される領域(延伸領域)61は、加熱キャスティングロール1と第2のロール2の間にあるので、延伸領域61が上記好ましい延伸温度範囲となるように、ロール間距離(両ロールの共通接線上における両接点間の距離)を10cm以下とするのが好ましい。ロール間距離を10cm以下とすることにより、延伸領域61を比較的狭くすることもでき、これによりネックイン現象を一層効果的に抑制できる。延伸領域61の温度を一定に保つために、加熱手段を用いて両ロール間において結晶化未延伸フィルム6を加熱してもよい。延伸したフィルムは、第2のロール2によりPBT樹脂の結晶化温度−140℃以下に冷却するのが好ましく、これにより延伸した状態を安定化できる。
延伸倍率は結晶化未延伸フィルム6の厚さによって異なるが、通常は1.5倍以上であるのが好ましく、1.8〜4倍であるのがより好ましい。延伸倍率を上げるほど透明性が向上する。加熱キャスティングロール1と第2のロール2との周速比を適宜設定することにより、所望の倍率に延伸できる。第2のロール2の直径に特に制限はなく、通常は加熱キャスティングロール1と同じく35〜70cmとすればよい。
(ii)再延伸工程
上記(i)の工程により得られた延伸フィルムは長手方向に再延伸してもよく、これにより透明性が一層向上するとともに、一層薄膜化できる。図2は延伸工程後に再延伸工程を行う装置の一例を示す。この装置は、ロール2の上にニップロール10を設けるとともに、ロール2とロール9との間に一対のロール3,10を挿入した以外、図1の装置と同じである。以下、一対のロール3,10の作用を中心に説明する。
再延伸は、図2に示す装置の第2のロール2と第3のロール3との間に周速差を設けることにより行う。第2のロール2と第3のロール3との間にある延伸領域62の温度はPBT樹脂の結晶化温度−110℃〜結晶化温度−50℃の範囲とするのが好ましく、PBT樹脂の結晶化温度−90℃〜結晶化温度−50℃の範囲とするのがより好ましい。延伸領域62の温度を上記好ましい範囲にするために、上記(i)の工程により得られた延伸フィルム11を、第2のロール2によりPBT樹脂の結晶化温度−90℃〜結晶化温度−30℃の温度で処理するとともに、第2のロール2と第3のロール3とのロール間距離を10cm以下とするのが好ましい。第2のロール2による処理温度は、PBT樹脂の結晶化温度−80℃〜結晶化温度−40℃の範囲であるのがより好ましい。再延伸フィルム12は、第3のロール3によりPBT樹脂の結晶化温度−140℃以下に冷却するのが好ましい。第3のロール3の直径は、第2のロール2と同じく35〜70cmとすればよい。再延伸の倍率は1.1倍以上とするのが好ましく、1.3〜3倍とするのがより好ましい。
(iii)冷延伸工程
再延伸フィルムは、さらに長手方向に冷延伸してもよい。図3は再延伸工程後に冷延伸工程を行う装置の一例を示す。この装置は、ロール3とロール9との間に一対のロール4,10を挿入した以外、図2の装置と同じである。従って、一対のロール4,10の作用を中心に説明する。冷延伸は、図3に示す第3のロール3と第4のロール4との間に周速差を設けることにより行う。第3のロール3と第4のロール4との間にある延伸領域63の温度は室温〜PBT樹脂のガラス転移温度(Tg)の範囲とするのが好ましい。ここでガラス転移温度TgはJIS K7121により測定したものである。ホモPBT樹脂のTgは一般的に22〜45℃である。延伸領域63の温度を上記好ましい範囲にするために、再延伸フィルム12を、第3のロール3によりPBT樹脂の結晶化温度−110℃〜結晶化温度−80℃の温度で処理するとともに、第3のロール3と第4のロール4とのロール間距離を10cm以下とするのが好ましい。第3のロール3による処理温度は、PBT樹脂の結晶化温度−140℃〜結晶化温度−90℃であるのがより好ましい。このような冷延伸を施すことにより、フィルムの透明性を一層向上できる。第4のロール4の直径は、第3のロール3と同じく35〜70cmとすればよい。冷延伸の倍率は1.1倍以上とするのが好ましく、1.3〜3倍とするのがより好ましい。
(iv)その他の態様
図2に示す装置を用いて、上記(i)の延伸工程のみを行ってもよい。この場合、例えば第3のロール3を第2のロール2と同じ周速で回転させながら、延伸フィルム11をPBT樹脂の結晶化温度−140℃以下に冷却することにより、冷却処理をさらに長時間行うことができる。また第3のロール3により冷却処理を行う場合、延伸フィルム11を、第2のロール2によりPBT樹脂のガラス転移温度(Tg)超〜結晶化温度−10℃以下の温度で焼きなます工程を設けてもよく、これにより得られるPBTフィルムの耐熱収縮性が一層向上する。
図3に示す装置を用いて、延伸を上記(ii)の再延伸工程までとしてもよい。この場合、第4のロール4を冷却用とすれば、再延伸フィルム12に対する冷却処理をさらに長時間行うことができる。また第4のロール4により冷却処理を行う場合、再延伸フィルム12を、第3のロール3によりPBT樹脂のガラス転移温度(Tg)超〜結晶化温度−10℃以下の温度で焼きなます工程を設けてもよい。
(v)横延伸工程
上記(i)〜(iv)のいずれかの工程により製造されたPBTフィルムに対して、引き続き横方向(TD)に延伸してもよい。横延伸を行う方法としては、テンター法等の公知の方法が挙げられる。
(c)熱処理
上述の方法により製造されたPBTフィルムは、そのままでも従来の製造方法で得られるものよりも優れた耐熱収縮性を有するが、耐熱収縮性を一層向上させるために、さらに熱処理を施してもよい。熱処理は、熱固定処理及び/又は熱収縮処理により行えばよい。これらの熱処理は、PBTフィルムのガラス転移温度超〜結晶化温度−10℃以下の温度で行うのが好ましい。
熱固定処理は、テンター方式、ロール方式又は圧延方式により行えばよい。熱収縮処理は、テンター方式、ロール方式、圧延方式、ベルトコンベア方式又はフローティング方式により行えばよい。
[3]PBTフィルム
以上のようにして製造されたPBTフィルムは、半透明から透明であり、従来の延伸PBTフィルムと比較して、膜厚の均一性及び耐熱収縮性に優れている。具体的には、平均膜厚8〜20μmのフィルムの膜厚差は1〜3μmであり、MD(長手方向)の熱収縮率は0.3%以下であり、TD(横方向)の熱収縮率は0.5%以下である。このためムラの少ない印刷層や金属蒸着層を形成できる。またヒートシール、印刷等の二次加工においてフィルム寸法の変化が少ない。平均膜厚は、PBTフィルムの横方向における中心部及び両端部の厚さをそれぞれ2点ずつ計6点の膜厚を測定した値の平均値である。膜厚差は、PBTフィルムの横方向における中心部及び両端部の厚さをそれぞれ2点ずつ計6点測定し、そのうちの最大値と最小値との差を算出したものである。この値が小さいほうが良好な結果となることを意味する。熱収縮率は、PBTフィルムを150℃で10分間暴露したときのMD及びTDの収縮率をそれぞれ測定したものである。
本発明の製造方法により得られるPBTフィルムは、必要に応じて他のフィルムと積層化してもよい。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【実施例1】
PBT樹脂(商品名「トレコン1200S」。東レ(株)製。融点:220℃。ガラス転移温度:22℃。結晶化温度:182℃)を二軸押出機(スクリュー径:300mm、押出量:50kg/hr)に投入し、235±5℃で溶融混練して、押出機中で溶融PBT樹脂を調製した。図3に示す装置を用いて、この溶融PBT樹脂を押出機の先端に設置されたTダイ7から押し出し、170℃に温調した回転する加熱キャスティングロール1(周速:10m/分、ロール径:50cm)上に受けた。押出フィルム5を加熱キャスティングロール1上で9℃/秒の速度で徐冷し、平均膜厚が50μmの結晶化未延伸フィルム6を形成した。
得られた結晶化未延伸フィルム6を、加熱キャスティングロール1と130℃に温調した第2のロール2(周速:20m/分)との間(ロール間距離:5cm)で2倍に延伸した。得られた延伸フィルム11を、さらに第2のロール2と80℃に温調した第3のロール3(周速:40m/分)との間(ロール間距離:5cm)で2倍に再延伸した。得られた再延伸フィルム12を35℃に温調した第4のロール4(周速:40m/分)で冷却し、平均膜厚が13μmのPBTフィルム13を作製した。得られたPBTフィルム13の膜厚差及び熱収縮率を測定した結果、膜厚差は2μmであり、長手方向の熱収縮率は0.1%であり、横方向の熱収縮率は0.2%であった。
【実施例2】
加熱キャスティングロール1の温度を150℃とし、周速を15m/分とし、徐冷速度を18℃/秒とし、図2に示す装置を用いた以外は実施例1と同様にして、平均膜厚が40μmの結晶化未延伸フィルム6を形成した。得られた結晶化未延伸フィルム6を、加熱キャスティングロール1と、100℃に温調した第2のロール2(周速:30m/分)との間(ロール間距離:5cm)で2倍に延伸した。得られた延伸フィルム11を、35℃に温調した第3のロール3(周速:30m/分)で冷却し、平均膜厚が20μmのPBTフィルム13を作製した。得られたPBTフィルムの膜厚差及び熱収縮率を測定したところ、膜厚差は2μmであり、長手方向の熱収縮率は0.1%であり、横方向の熱収縮率は0.15%であった。
【実施例3】
加熱キャスティングロール1の温度を180℃とし、周速を15m/分とし、徐冷速度を12℃/秒とした以外は実施例1と同様にして、平均膜厚が40μmの結晶化未延伸フィルム6を形成した。得られた結晶化未延伸フィルム6を、加熱キャスティングロール1と、130℃に温調した第2のロール2(周速:30m/分)との間(ロール間距離:5cm)で2倍に延伸した。得られた延伸フィルム11をさらに第2のロール2と60℃に温調した第3のロール3(周速:45m/分)との間(ロール間距離:5cm)で1.5倍に再延伸した。得られた再延伸フィルム12を、第3のロール3と、25℃に温調した第4のロール4(周速:67.5m/分)との間(ロール間距離:5cm)で1.5倍に冷延伸し、平均膜厚が8μmのPBTフィルム13を作製した。得られたPBTフィルム13の膜厚差及び熱収縮率を測定したところ、膜厚差は2μmであり、長手方向の熱収縮率は0.2%であり、横方向の熱収縮率は0.2%であった。
比較例1
キャスティングロール1の温度を60℃とした以外は実施例1と同様にして、平均膜厚が13μmのPBTフィルム13を作製した。得られたPBTフィルム13の膜厚差及び熱収縮率を測定したところ、膜厚差は4μmであり、長手方向の熱収縮率は15%であり、横方向の熱収縮率は20%であった。
実施例1〜3のPBTフィルムは、溶融PBT樹脂をTダイから押出すことにより得られたフィルムを、加熱キャスティングロール1上で徐冷して結晶化未延伸フィルムとした上で延伸しているので、膜厚の均一性に優れており、且つ熱収縮率が低いことが分かる。一方比較例1のPBTフィルムは、溶融PBT樹脂を急冷することにより作製した非晶質の未延伸フィルムを延伸したものであるため、実施例1〜3と比較して膜厚差が大きく、熱収縮率も劣っている。
以上の通り、実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、本発明はそれらに限定されず本発明の趣旨を変更しない限り種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
以上詳述したように、本発明のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法は、溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂をTダイからフィルム状に押し出し、得られたフィルムを実質的に未延伸の状態で徐冷してポリブチレンテレフタレート樹脂を結晶化させ、得られた結晶化フィルムを延伸するので、得られるポリブチレンテレフタレートフィルムは膜厚の均一性及び耐熱収縮性に優れている。そのため本発明の製造方法により得られるポリブチレンテレフタレートフィルムは各種包装材、包装袋、即席食品用容器の蓋材等の用途に好適である。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融ポリブチレンテレフタレート樹脂をTダイからフィルム状に押し出し、得られたフィルムを実質的に未延伸の状態で徐冷して前記ポリブチレンテレフタレート樹脂を結晶化させ、得られた結晶化フィルムを延伸することを特徴とするポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、未延伸のポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの徐冷を前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度−40℃〜結晶化温度+20℃の温度まで行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記未延伸ポリブチレンテレフタレート樹脂フィルムの徐冷速度を30℃/秒以下とすることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記結晶化未延伸フィルムの厚さを30〜200μmとすることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記結晶化未延伸フィルムを少なくとも長手方向に延伸することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記結晶化未延伸フィルムを前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度−50℃〜結晶化温度−10℃の温度で延伸することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記延伸の倍率は1.5倍以上であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、延伸フィルムを前記ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度−110℃〜結晶化温度−50℃の温度で再延伸することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記再延伸の倍率は1.1倍以上であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、再延伸フィルムを、室温〜前記ポリブチレンテレフタレート樹脂のガラス転移温度の範囲内の温度で冷延伸することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記冷延伸の倍率は1.1倍以上であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートフィルムの製造方法において、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂は、樹脂全体を100質量%として、ポリオレフィン及び/又はエラストマーを5〜15質量%含有することを特徴とする方法。

【国際公開番号】WO2004/048071
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555043(P2004−555043)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015078
【国際出願日】平成15年11月26日(2003.11.26)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】