説明

ポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法およびポリブチレンテレフタレートの製造方法

【課題】ポリブチレンテレフタレート製造装置内に残存する付着物を容易に除去し、しかも次バッチ反応ポリマーの品質を悪化させないポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法を提供すること。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート製造装置を洗浄するに際し、主たるジカルボン酸がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分が1,4−ブタンジオールである、固有粘度が0.4以上のペレット状またはフレーク状ポリエステルと、該ポリエステルに対し、5重量%以上の1,4−ブタンジオールとを該装置内へ投入し、ポリエステルが溶融しない状態で撹拌し、その後加熱溶融することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固有粘度が0.4以上のポリエステルを用いたポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法、およびポリブチレンテレフタレートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂等の結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性、耐溶剤性、その他物理的・化学的特性に優れるため工業的価値が高く、繊維、フィルム、シート、ボトルなどの他、エンジニアリングプラスチックスとしての用途が拡大し、自動車、電気・電子機器等の広汎な分野に使用されている。
【0003】
ポリブチレンテレフタレートは、一般に直接重合法またはエステル交換法によって製造される。ここでいう直接重合法とは、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを主成分としてエステル化反応を行い、次いで減圧下で重縮合反応することによりポリブチレンテレフタレートを製造する方法である。また、エステル交換法とは、テレフタル酸のエステル形成誘導体と1,4−ブタンジオールとを主成分としてエステル交換反応を行い、次いで減圧下で重縮合反応することによりポリブチレンテレフタレートを製造する方法である。直接重合法においては、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとのエステル化反応により反応水が生成する他、1,4−ブタンジオールの脱水環化反応によってテトラヒドロフランと水が生成する。また、エステル交換反応においても、テトラヒドロフランと水が生成する。
【0004】
ポリブチレンテレフタレートのエステル化反応やエステル交換反応は、一般的にチタン酸エステルに代表される有機チタン化合物や有機スズ化合物等の金属化合物を触媒として用いる。
【0005】
有機チタン化合物は、エステル化反応やエステル交換反応、およびそれに続く重縮合反応の優れた触媒活性を有する反面、水によって加水分解を受け、かつ失活しやすいという欠点を有しており、反応過程で生成する水によって加水分解されて失活した際には、触媒残渣がエステル化生成物または重合体中に不溶化し、異物化する他、反応中に飛散し、長時間高温下にさらされて反応缶内に固着する。
【0006】
また、原料であるテレフタル酸やイソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸等のジカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体並びに他のジアシル化合物等は昇華性を有する。このため、エステル化反応やエステル交換反応後に反応装置の内部および配管各所にこれら昇華物が付着・残存する場合がある。
【0007】
またポリエステル低重合体および種々の特性を付与するために添加する耐熱剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤等も、同様に反応中に飛散し、長時間高温下にさらされて反応缶内に固着する。
【0008】
このように昇華、飛散して付着した物は、長期間の操業中に反応缶内部で堆積、固着し、反応中に高温の熱履歴を受け続け、架橋反応や炭化反応を起こし徐々に着色し、最終的に黒褐色になる。この黒褐色物が重合体中に混在する場合には異物となり、それが著しい場合は成型品または繊維の物理・化学的特性の低下を引き起こすなどの問題を招いていた。 上記問題を解決するため、異物を濾過するためのフィルターを設置することもあるが、長期間操業すると発生する異物量が多くなり、フィルター寿命が短くなり操業性が悪化する問題があった。
【0009】
そこで、反応装置内に残存した昇華物やポリマー架橋物を定期的に除去する方法が必要である。従来から提案されている方法として、特許文献1には、グリコール類またはグリコール類と一級または二級アミン類を用いる方法が、特許文献2にはリン酸と一種類のグリコール溶液とからなる洗浄組成物を用いた方法が、特許文献3には無水酢酸を用いる方法が、特許文献4にはポリアルキレングリコールとアルキレングリコール、リン酸等の混合液を用いる方法が提案されている。
【0010】
これらの方法では反応缶内壁に付着残存したポリマーは除去可能であるが、洗浄後に反応装置を水洗する必要があること、洗浄に用いるグリコールとしてはエチレングリコールが一般的であるが、ポリマーの融点がグリコールの沸点よりも高いため、反応缶を加圧しなければならないこと、洗浄時間も長時間になること、洗浄液を再使用するには洗浄の結果混入した不純物を除去する必要があること、洗浄前後は反応装置を点検する必要があるため操業面を考慮すると好ましくないこと、などの問題があった。
【0011】
また、特許文献5には、主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分がエチレングリコールであるフレーク状ポリエステル低重合体と、エチレングリコールとを加熱撹拌する方法が記載されている。
【0012】
この方法では、ポリエステルが低重合体であるため固有粘度が低く、撹拌により容易に粉砕され粉体となるため、短時間で溶融してしまい、目的とした洗浄効果を得ることができないこと、本方法は洗浄に用いるポリエステル低重合体の主たるジカルボン酸成分がテレフタル酸、主たるグリコール成分がエチレングリコールであり、本方法をポリブチレンテレフタレートの製造装置の洗浄に適用した場合、ポリエステル低重合体が残存していると洗浄後に製造するポリブチレンテレフタレートの品質に悪影響を及ぼすため、ポリエステル低重合体を除去するために水洗する必要があること等、操業面を考慮するとポリブチレンテレフタレートの製造装置の洗浄方法としては好ましくない。
【特許文献1】特開平5−295392号公報
【特許文献2】特開昭58−141209号公報
【特許文献3】特開平8−48997号公報
【特許文献4】特開平11−80342号公報
【特許文献5】特開2001−151876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
かかる状況下、ポリブチレンテレフタレート製造装置内、特にエステル化反応またはエステル交換反応装置内に残存する付着物を容易に除去し、しかも次バッチ反応ポリマーの品質を悪化させないポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はすなわち、
(1)ポリブチレンテレフタレート製造装置を洗浄するに際し、主たるジカルボン酸がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分が1,4−ブタンジオールである、固有粘度が0.4以上のペレット状および/またはフレーク状ポリエステルと、該ポリエステルに対し、5重量%以上の1,4−ブタンジオールとを該装置内へ投入し、ポリエステルが溶融しない状態で撹拌し、その後加熱溶融することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法、
(2)固有粘度が0.4以上のペレット状および/またはフレーク状ポリエステルと、1,4−ブタンジオールとを前記製造装置内へ投入し、100〜200℃で10分以上撹拌した後、200〜250℃の範囲まで加熱して溶融することを特徴とする(1)のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法、
(3)洗浄に使用するペレット状および/またはフレーク状ポリエステルと1,4−ブタンジオールの投入量の総体積Vと、前記製造装置で製造するポリブチレンテレフタレートの原料の総体積Vとの関係が下式を満たすことを特徴とする(1)または(2)のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法、
≦ V
(4)ポリブチレンテレフタレート製造装置が、エステル化反応またはエステル交換反応の反応缶と、一つ以上の重縮合反応の反応缶からなり、ポリエステルと1,4−ブタンジオールをエステル化反応またはエステル交換反応装置に投入することを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかのポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法、
(5)(4)のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄に際し、洗浄に使用したポリエステルを溶融後、再度重合反応を行うことを特徴とするポリブチレンテレフタレートの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリブチレンテレフタレート製造装置を洗浄するに際し、主たるジカルボン酸がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分が1,4−ブタンジオールである固有粘度が0.4以上のペレット状および/またはフレーク状ポリエステルと、1,4−ブタンジオールとを該装置内へ投入し、撹拌しながら溶融することで、ポリブチレンテレフタレート製造装置を効率よく洗浄することができる。また、洗浄に用いたポリエステルは、溶融後、再度重合反応を行うことで、再度ペレット化して使用することができ、工業的価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明におけるポリブチレンテレフタレートとはテレフタル酸を酸成分に、1,4−ブタンジオールをグリコール成分に用いた主鎖にエステル結合を有する高分子量の熱可塑性ポリエステルであるが、その他の酸成分としてイソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸等を、その他のジオール成分としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールを一部含んでいてもよい。ポリブチレンテレフタレートに上記共重合成分が含まれる場合、共重合成分はそれぞれテレフタル酸、1,4−ブタンジオールに対して40モル%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の洗浄方法は、ポリブチレンテレフタレートの製造工程のエステル化反応またはエステル交換反応での残存物を洗浄する。したがって、エステル化反応またはエステル交換反応と、それに続く重縮合反応を1つの反応缶で行う製造装置においても適用可能であるが、効率的に残存物を除去するためには、エステル化反応またはエステル交換反応の反応缶および、1つ以上の重縮合反応の反応缶からなる製造装置において好ましく利用される。また、より好ましくは、エステル化反応またはエステル交換反応の反応缶と重縮合反応の反応缶をつなぐ移行管の途中に、残存物除去のための目開き0.5mm以下のフィルターを有する製造装置である。
【0019】
本発明の洗浄方法は、一般的な溶融重合装置、具体的には装置内に撹拌翼、精留塔、環流冷却器、窒素導入口、減圧口、ポリマー抜き出し口等を有する溶融重合装置に好ましく使用することができる。
【0020】
本発明の洗浄方法は、ポリブチレンテレフタレートの製造装置を洗浄する方法であるため、主たるジカルボン酸がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分が1,4−ブタンジオールであるポリエステルを用いることが好ましい。また、本発明の洗浄方法はポリブチレンテレフタレートの製造工程のエステル化反応またはエステル交換反応ポリエステルはポリブチレンテレフタレート製造装置内のエステル化反応またはエステル交換反応での残存物を好ましく洗浄することができるため、ポリエステルと1,4−ブタンジオールをポリブチレンテレフタレート製造装置内のエステル化反応またはエステル交換反応の反応缶に投入することが好ましい。ポリエステルの状態としてはペレット状、フレーク状またはペレット状とフレーク状の混合物であることが好ましいが、より好ましくはペレット状である。ここで言うペレットとは、溶融したポリエステルから、ストランドカッターによって製造した粒状物全般を指す。また、フレークとは、粉末から造粒装置により製造した粒状物やペレットまたはポリマーブロック状物が粉砕されることによりできた薄片を指す。ペレットおよびフレークの形状は特に限定されるものではない。洗浄のためにポリエステルを反応装置に投入し、反応装置を昇温し、撹拌を開始すると、ポリエステルは反応装置内壁を擦りながら溶融していき、反応装置内壁に付着している固着物等を洗い流すことができる。この時、溶融状態のポリエステルを反応装置に投入した場合では、反応缶内壁の付着物の除去に長時間を要するため好ましくない。また粉体状態のポリエステルでは、ペレット状またはフレーク状のものと比べて、表面積が大きいため、短時間で溶融してしまい、洗浄効果が少なく、好ましくない。
【0021】
洗浄のために使用するペレット状および/またはフレーク状ポリエステルとしては、固有粘度が0.4以上であることが好ましい。ここで言うポリエステルの固有粘度とは、ペレット状および/またはフレーク状ポリエステルの一部を抜き取り、o−クロロフェノールを溶媒として25℃で測定した固有粘度のことである。0.4以下の低重合体を使用した場合、撹拌により容易に粉砕され粉体となるため、短時間で溶融してしまい、目的とした洗浄効果を得ることができないので好ましくない。また、固有粘度の上限は特に限定されるものではないが、固有粘度が高すぎると溶融するのに長時間を要するため、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下である。
【0022】
本発明の洗浄方法においては、ポリエステルとともにその5重量%以上の1,4−ブタンジオオールを反応装置内に投入することが好ましい。投入量がポリエステルの5重量%未満の場合、ポリエステルを溶融するのに長時間を要する上、1,4−ブタンジオールによる反応缶上部の洗浄が不十分であるため好ましくない。また、上限は特に限定されるものではないが、投入量が過剰な場合、1,4−ブタンジオールを反応系外に留出させるのに時間がかかるため、好ましくは100重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。
【0023】
本発明の洗浄に用いるペレット状またはフレーク状ポリエステルの大きさは、特に限定されるものではないが、好ましくは0.5〜50mm、より好ましくは2〜10mm、厚みは好ましくは0.1〜50mm、より好ましくは1〜10mmである。
【0024】
本発明の洗浄は環流下で行うのが好ましく、すなわち100〜200℃で10分以上撹拌することが好ましい。温度が100℃未満であるとポリエステルが溶融するのに長時間を要し、洗浄時間がかかりすぎるので好ましくない。また200℃を越えるとポリエステルが容易に溶融して本発明の目的を満足しないため好ましくない。100〜200℃で10分以上撹拌しながら洗浄を行った後、ポリエステルを完全に溶融させるために200〜250℃の範囲まで加熱することが好ましい。200℃未満で加熱した場合、ポリエステルが完全に溶融しておらず、異物を濾過するフィルターが目詰まりするため好ましくなく、250℃を越えると、洗浄中にポリエステルの熱分解が進むので好ましくない。この後、過剰な1,4−ブタンジオールを反応系外に留出させる。洗浄する装置がエステル化反応またはエステル交換反応の反応缶と、一つ以上の重縮合反応の反応缶からなる場合、移行管を介して次の反応缶に移行し真空下でさらに過剰な1,4−ブタンジオールを反応系外に留出させ重合度を上げてストランド状に吐出しストランドカッターで再ペレット化することで、再生ポリブチレンテレフタレート樹脂を製造することができる。
【0025】
本発明において、洗浄に使用するポリエステルと1,4−ブタンジオールの投入量の常温における総体積が、該製造装置で製造するポリブチレンテレフタレートの原料の総体積以上、すなわち、ポリブチレンテレフタレートの原料の相体積Vに対して、ペレット状ポリエステルと1,4−ブタンジオールの投入量の総体積が、下式を満たすことが好ましい。
≦ V
【0026】
もし洗浄に使用するポリエステルと1,4−ブタンジオールの投入量の総体積が、該製造装置で製造するポリブチレンテレフタレートの原料の総体積未満であると、反応缶上部の洗浄が不十分であるため好ましくない。上限は限定されるものではなく、反応槽容量100%まで投入しても構わない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の内容および効果を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り以下の記載例に限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は以下の測定方法で実施した。
固有粘度はo−クロロフェノールを溶媒として、25℃で測定した。
色調(b値)はスガ試験機(株)製のSMカラーマシンを使用して測定した。
反応缶の洗浄効果は、反応缶内壁および上部の付着物の付着具合を目視にて確認し、○、×で判定した(○・・合格、付着物なし、×・・不合格、付着物あり)。
【0028】
[実施例1]
(1)エステル化反応缶でのポリブチレンテレフタレート低重合体の重合
原料投入口、移行口、精留塔、環流冷却器、窒素導入口、撹拌翼を有するSUS316L製エステル化反応缶と、環流冷却器、窒素導入口、減圧口、撹拌翼、ポリマー抜き出し口等を有するSUS316L製重縮合反応缶、およびこれらをつなぐ移行管を有し、この移行管に目開き40μmのフィルターを有する反応装置を用い、次のように重合した。テレフタル酸755kgと1,4−ブタンジオール492kg、エステル化触媒としてテトラブチルチタン600gを加え、撹拌しながら235℃に徐々に昇温し、3時間エステル化反応を行いポリブチレンテレフタレート低重合体を製造した。このポリブチレンテレフタレート低重合体を溶融状態で2kgf/cm2に加圧し移行管経由で移行した。移行にかかった時間は202秒であった。次いで撹拌しながら重縮合反応缶内を減圧にして余剰の1,4−ブタンジオールを留出させ、所定の溶融粘度になったところで重縮合反応を完了した。その後、重縮合反応缶内を加圧し、口金を経由してポリマーをストランド状に吐出してペレット1000kgを得た。ペレットの色調(b値)は10.1であった。この操作を繰り返したところ、移行にかかる時間は徐々に遅延したため移行時間が300秒を越えた時点で新しいフィルターに交換することにした。移行時間が300秒を越えるまでに移行した回数をフィルター寿命としてカウントしたところ、生産を継続するに従い43回、31回、22回、15回、10回と徐々に短くなった。エステル化反応缶内部を観察したところ、反応缶内壁にはポリブチレンテレフタレート低重合体の付着や残存が確認でき、上部には黒褐色および白色の付着物が確認できた。
【0029】
(2)反応缶の洗浄
上記エステル化反応が終了したエステル化反応缶に、主たるジカルボン酸がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分が1,4−ブタンジオールであり、固有粘度が0.4〜0.93のポリエステルからなるペレット状ポリエステル1000kgと1,4−ブタンジオール416kgを投入し、徐々に加熱した。30分後に撹拌を開始し、200℃以下で15分保持した。その後さらに230℃まで昇温を続け、環流下で3時間撹拌洗浄した後、溶融状態で移行管経由で移行した。このとき移行時間は294秒と長く、フィルターには多くの異物が捕集できていた。次いで撹拌しながら重縮合反応缶内を減圧にして余剰の1,4−ブタンジオールを留出させ、所定の溶融粘度になったところで重縮合反応を完了した。その後、重縮合反応缶内を加圧し、口金を経由してポリマーをストランド状に吐出してペレットにした。ペレットの色調(b値)は12.5であった。洗浄終了後、エステル化反応缶内を確認したところ、内壁に付着していた残留ポリマーは完全に除去されており、金属特有の光沢を有していた。また、上部に付着していた着色物も完全に除去されていた。
【0030】
(3)エステル化反応缶洗浄後のポリブチレンテレフタレート低重合体の重合
洗浄効果の確認および次反応のポリエステルの品質確認を行うため、上記(1)と同様に反応したところ、ポリブチレンテレフタレート低重合体の移行にかかった時間は205秒であった。また重縮合反応完了後、口金を経由してストランド状に吐出してペレット化したところ、色調(b値)は9.9で異物の混入はなかった。ポリエステルBの重合を繰り返したときのフィルター寿命は移行回数42回であった。以上のことから(1)のエステル化反応により生じた反応缶の付着物は(2)の洗浄により除去されることが示された。
【0031】
[実施例2〜6]、[比較例1〜5]
(実施例2)200℃以下の撹拌時間を10分とした以外は実施例1と同様に洗浄した。
(実施例3)固有粘度が0.4〜0.5のポリエステルからなるペレット状ポリエステルを用いた以外は実施例1と同様に洗浄した。
(実施例4)投入量の総体積を1.2倍とした以外は実施例1と同様に洗浄した。
(実施例5)206℃まで昇温した以外は実施例1と同様に洗浄した。
(実施例6)247℃まで昇温した以外は実施例1と同様に洗浄した。
(比較例1)粉末状ポリエステルを使用する以外は実施例1と同様に実施した。
(比較例2)固有粘度が0.05〜0.35のポリエステルからなるポリエステル低重合体を使用する以外は実施例1と同様に洗浄した。
(比較例3)ペレット状ポリエステルと1,4−ブタンジオールを投入し加熱開始してから1時間後に撹拌を行い、200℃以下での撹拌時間を3分間とした以外は実施例1と同様に洗浄した。
(比較例4)ペレット状ポリエステルと1,4−ブタンジオールの投入量の総体積を0.7倍とした以外は実施例1と同様に洗浄した。
(比較例5)293℃まで昇温した以外は実施例1と同様に洗浄した。
【0032】
実施例2〜6では、実施例1と同様にエステル化反応缶の付着物が洗浄により除去された。一方、比較例1では洗浄に粉末状ポリエステルを使用したため、短時間で溶融してしまい、反応缶内壁の付着物は完全に除去できず、洗浄後のフィルター寿命を延ばすことはできなかった。比較例2では洗浄にポリエステル低重合体を使用したため、撹拌により短時間で粉砕溶融してしまい、比較例1と同様の結果になった。比較例3では撹拌開始から3分後に200℃を越えたため、ペレット状ポリエステルが溶融してしまい、反応缶内壁の付着物は完全に除去できず、洗浄後のフィルター寿命を延ばすことはできなかった。比較例4では投入量が少なかったため、反応缶上部の付着物は除去できず、洗浄後のフィルター寿命を延ばすことはできなかった。比較例5では293℃で洗浄を行ったため、洗浄中に熱分解して逆に反応缶を汚す結果になった。
【0033】
【表1】

【0034】
上記の結果から明らかなように本発明によれば、今まで除去が困難であった反応缶上部の付着物が容易に除去できるだけでなく、反応缶内壁の付着物も除去できる。また通常のポリエステル類の重合反応に使用している原料からなるポリエステルおよび1,4−ブタンジオールを用いているため、洗浄後の処理方法も容易であり、水洗等の後工程も必要ない。さらに洗浄後に重合するポリエステル類に悪影響を与えず、反応缶そのものの腐食等の問題もない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート製造装置を洗浄するに際し、主たるジカルボン酸がテレフタル酸であり、主たるグリコール成分が1,4−ブタンジオールである、固有粘度が0.4以上のペレット状またはフレーク状ポリエステルと、該ポリエステルに対し、5重量%以上の1,4−ブタンジオールとを該装置内へ投入し、ポリエステルが溶融しない状態で撹拌し、その後加熱溶融することを特徴とするポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法。
【請求項2】
固有粘度が0.4以上のペレット状および/またはフレーク状ポリエステルと、1,4−ブタンジオールとを前記製造装置内へ投入し、100〜200℃で10分以上撹拌した後、200〜250℃の範囲まで加熱して溶融することを特徴とする請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法。
【請求項3】
固有粘度が0.4以上のペレット状および/またはフレーク状ポリエステルと1,4−ブタンジオールの投入量の総体積Vと、前記製造装置で製造するポリブチレンテレフタレートの原料の総体積Vとの関係が下式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法。
≦ V
【請求項4】
ポリブチレンテレフタレート製造装置が、エステル化反応またはエステル交換反応の反応缶と、一つ以上の重縮合反応の反応缶からなり、ポリエステルと1,4−ブタンジオールをエステル化反応またはエステル交換反応装置に投入することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄方法。
【請求項5】
請求項4記載のポリブチレンテレフタレート製造装置の洗浄に際し、洗浄に使用したポリエステルを溶融後、再度重合反応を行うことを特徴とするポリブチレンテレフタレートの製造方法。

【公開番号】特開2006−312697(P2006−312697A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136529(P2005−136529)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】