説明

ポリブチレンテレフタレート

【課題】生産性、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れ、フィルム、モノフィラメント、繊維、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することが出来るポリブチレンテレフタレートを提供する。
【解決手段】触媒としてチタン化合物と周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物とを使用して得られ、テレフタル酸ユニット1mol当たり、チタンの含有量がチタン原子として320μmol以下であり、周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量が金属原子として130μmol以下であり、固有粘度が1.10以上であるポリブチレンテレフタレート。本発明の好ましい態様においては、環状2量体の含有量が1500ppm以下、環状3量体の含有量が1000ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレートに関し、詳しくは、生産性、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れ、フィルム、モノフィラメント、繊維、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することが出来るポリブチレンテレフタレートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂の中で代表的なエンジニアリングプラスチックであるポリブチレンテレフタレートは、成形加工の容易さ、機械的物性、耐熱性、耐薬品性、保香性、その他の物理的、化学的特性に優れていることから、自動車部品、電気・電子部品、精密機器部品などの射出成形品に広く使用されている。近年は、その優れた性質を活かし、フィルム、シート、モノフィラメント、繊維などの分野でも広く使用される様になってきており、これらの分野では従来の射出成形品に比べ高い分子量のポリブチレンテレフタレートが求められている。
【0003】
しかしながら、ポリブチレンテレフタレートは、耐加水分解性が必ずしも十分ではなく、特に湿熱下の使用においては、分子量の低下に伴う機械的物性の低下が問題になっている。一般に、ポリブチレンテレフタレートは末端カルボキシル基濃度が高いほど耐加水分解性が悪化することが知られており(例えば特許文献1)、加水分解による分子量低下、ひいては機械的物性などの低下を招くことが大きな問題である。
【0004】
上記の問題を解決するため、溶融重合で得られたポリブチレンテレフタレートを一旦固化させ、その融点以下の温度で固相重合させることにより、末端カルボキシル基濃度を低減させることが広く行われている(例えば特許文献1参照)。ところが、この方法では、一旦冷却固化させたポリブチレンテレフタレートを再度昇温する必要があるため、エネルギーロスが大きくなるという問題がある。また、通常の溶融成形はポリブチレンテレフタレートの融点以上で行われるため、従来のポリブチレンテレフタレートでは、固相重合によって末端カルボキシル基濃度を低減させても、成形時に再び末端カルボキシル基濃度の上昇が起こるという問題がある。この末端カルボキシル基濃度の上昇は、ブタジエンやテトラヒドロフランを発生する反応と表裏一体であるため(例えば非特許文献1参照)、結果的に成形時のガスの発生が多くなるという問題も惹起する。
【0005】
上記のような溶融時の末端カルボキシル基濃度の上昇速度は、触媒として添加されポリブチレンテレフタレート中に残存しているチタン化合物の存在によって促進されると考えられるが、これを抑制するためにチタン化合物を減らそうとすると、重合速度が遅くなり、実用的な重合速度でポリブチレンテレフタレートを製造する場合は重合温度を上げざるを得なくなる。そのため、結果として、末端カルボキシル基濃度が上昇する分解反応を促進し、意図したようには末端カルボキシル基濃度が低下しない。また、高温の反応は色調の悪化を招き、商品価値を落とすという問題もある。
【0006】
上記の様な問題を解決するため、触媒としてチタン化合物と特定の金属化合物とを特定のモル比で使用することにより重合温度を低く設定する方法(例えば特許文献2参照)や特定状態のチタンの使用が提案されている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、これらの方法においても上記課題の解決は十分とは言えない。
【0007】
ところで、ポリブチレンテレフタレートの製造方法としては、一般に、原料にジメチルテレフタレートと1,4―ブタンジオールを使用するエステル交換法(DMT法)又はテレフタル酸と1,4―ブタンジオールを使用する直接重合法が知られているが、エステル交換法は反応の副生物としてメタノールが発生する等、副生低分子量物の回収処理の問題を有していることから、近年では、原料原単位的に有利な直接重合法が注目されている。
【0008】
ところが、ポリブチレンテレフタレートの製造で使用されるチタン触媒は、その一部がポリブチレンテレフタレートの製造工程の途中で失活してしまうという問題があり、当該失活は、原料としてテレフタル酸を使用する直接重合法の場合に顕著である(例えば特許文献4及び5)。チタン触媒の失活は、文字通り反応性の悪化を招き、所望の分子量のポリブチレンテレフタレートを得るには、余分に触媒を添加したり、より高い温度で反応を行ったりする必要がある。
【0009】
一方、フィルム、シート、モノフィラメント、繊維などの用途では、色調のみならず、ヘイズや異物(フィルム中の異物はフィッシュアイと呼ばれる)等によって商品価値が大きく左右されるためこれらの大幅な低減が求められている。
【0010】
ところが、余分な触媒の添加は、失活する触媒を増加させ、ヘイズの悪化や異物の増加を招く一方で、高い反応温度は色調の悪化を引き起こすため、これらの性能を両立させることは困難である。
【0011】
これらの問題を解決するために、ポリブチレンテレフタレート製造の際に添加する有機チタン化合物の量を規定し、初期のエステル化反応段階で有機スズ化合物を共存させる方法(例えば特許文献4及び6参照)、更に、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを連続的にエステル化する反応を2段階に分け、第1段階のエステル化反応では有機スズ化合物のみを添加し、第2段階のエステル化反応で有機チタン化合物を追添加し、触媒由来の異物やヘイズを低減する方法が提案されている(例えば特許文献7参照)。
【0012】
ところが、これらの方法では、異物やヘイズの低減効果は限定的であるだけでなく、スズ化合物の多量添加によるポリブチレンテレフタレートの色調の悪化を招くという問題がある。
【0013】
【非特許文献1】飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(1989年12月22日、日刊工業新聞社発行、第274頁)
【特許文献1】特開平9−316183号公報
【特許文献2】特開平8−20638号公報
【特許文献3】特開平8−41182号公報
【特許文献4】特開2002−284868号公報
【特許文献5】特開2002−284870号公報
【特許文献6】特開平10−330469号公報
【特許文献7】特開平10−330468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、生産性、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れ、フィルム、モノフィラメント、繊維、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することが出来るポリブチレンテレフタレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、触媒としてチタン化合物と周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物とを使用して特定の態様で重合反応を行うならば、驚くべきことに、熱分解反応に起因する末端カルボキシル基の上昇が抑制され、低末端カルボキシル基濃度のポリブチレンテレフタレートが得られ、更には、溶融成形時における末端カルボキシル基濃度の上昇も抑制可能であり、加えて重縮合時反応が大幅に促進されるために、結果的に重合温度を下げ、色調の悪化や熱分解等の品質の劣化を防ぎながら、所望の分子量のポリブチレンテレフタレートを製造することが可能であるとの知見を得、本発明の完成に至った。
【0016】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は、触媒としてチタン化合物と周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物とを使用して得られ、テレフタル酸ユニット1mol当たり、チタンの含有量がチタン原子として320μmol以下であり、周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量が金属原子として130μmol以下であり、固有粘度が1.10以上であることを特徴とするポリブチレンテレフタレートに存する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産性、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れ、フィルム、モノフィラメント、繊維、電気電子部品、自動車部品などに好適に使用することが出来るポリブチレンテレフタレートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に本発明は限定されるものではない。
【0019】
本発明のポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記する)とは、テレフタル酸単位および1,4−ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有し、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸単位から成り、ジオール成分の50モル%以上が1,4−ブタンジオール単位から成る高分子を言う。全ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98%以上であり、全ジオール単位中の1,4ブタンジオール単位の割合は、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上、最適には98%以上である。テレフタル酸単位または1,4−ブタンジオール単位が50モル%より少ない場合は、PBTの結晶化速度が低下し、成形性の悪化を招く。
【0020】
本発明において、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分には特に制限はなく、例えば、フタル酸、イソフタル酸、4,4'−ジフェニルジカルボン酸、4,4'−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4'−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4'−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4'−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などを挙げることが出来る。これらのジカルボン酸成分は、ジカルボン酸として、または、ジカルボン酸エステル、ジカルボン酸ハライド等のジカルボン酸誘導体を原料として、ポリマー骨格に導入できる。
【0021】
本発明において、1,4−ブタンジオール以外のジオール成分には特に制限はなく、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ジブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4'−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール等を挙げることが出来る。
【0022】
本発明においては、更に、乳酸、グリコール酸、m−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール等の三官能以上の多官能成分などを共重合成分として使用することが出来る。
【0023】
本発明のPBTは、1,4−ブタンジオールとテレフタル酸(又はテレフタル酸ジアルキル)とのエステル化反応(又はエステル交換反応)で得られたオリゴマーを重縮合する際に触媒としてチタン化合物と周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物とを使用することによって得られる。これらの触媒は、エステル化反応(又はエステル交換反応)時に使用して、そのまま重縮合反応に持ち込んでもよいし、エステル化反応(又はエステル交換反応)では使用せずに、または、どちらか一方の触媒のみ使用し、他方の触媒は重縮合段階で追加してもよい。更には、エステル化反応(又はエステル交換反応)で、最終的に使用する触媒量の一部を使用し、重縮合反応の進行と共に適宜追加することも出来る。何れにしても、本発明においては、最終的に得られるPBT中に、必然的にチタンと周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属とが含有されるが、その量については後述する。なお、以下において、チタン化合物をチタン触媒、周期表1族金属化合物、2族金属化合物をそれぞれ1族金属触媒、2族金属触媒ということがある。
【0024】
チタン化合物の具体例としては、酸化チタン、四塩化チタン等の無機チタン化合物、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等が挙げられる。これらの中ではテトラアルキルチタネートが好ましく、その中ではテトラブチルチタネートが好ましい。
【0025】
チタンの他に、スズが触媒として使用されていてもよい。スズは、通常、スズ化合物として使用され、その具体例としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸などが挙げられる。
【0026】
スズはポリブチレンテレフタレートの色調を悪化させるため、その添加量はスズ原子として、通常最終的に得られるPBTに対する重量比として、通常200ppm以下、好ましくは100ppm以下、更に好ましくは10ppm以下、中でも添加しないことが好ましい。
【0027】
本発明における周期表1族金属化合物の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムの各種化合物が挙げられ、周期表2族金属化合物の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの各種化合物が挙げられるが、取り扱いや入手の容易さ、触媒効果の点から、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムの化合物が好ましく、中でも、触媒効果と色調に優れるリチウム又はマグネシウムの化合物が好ましく、特にはマグネシウム化合物が好ましい。マグネシウム化合物の具体例としては、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等が挙げられ、これらの中では酢酸マグネシウムが好ましい。
【0028】
また、前記のチタン触媒、1族金属触媒、2族金属触媒とは別に、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、マンガン化合物、亜鉛化合物、ジルコニウム化合物、コバルト化合物、正燐酸、亜燐酸、次亜燐酸、ポリ燐酸、それらのエステルや金属塩などの燐化合物などの反応助剤を使用してもよい。
【0029】
本発明のPBTにおけるチタンの含有量は、テレフタル酸ユニット1mol当たり、チタン原子として320μmol以下であることが必要であり、好ましくは270μmol以下、更に好ましくは230μmol以下、特に好ましくは190μmol以下である。チタンの含有量の下限は、チタンが含有されている限り特に制限されないが、通常45μmol、好ましくは90μmol、更に好ましくは130μmolである。チタンの含有量が多過ぎる場合は、色調、耐加水分解性などが悪化するだけでなく、チタン触媒の失活により溶液ヘイズや異物が増加し、少な過ぎる場合は重合性が悪化する。
【0030】
本発明のPBTにおける周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量の含有量は、テレフタル酸ユニット1mol当たり、金属原子として130μmol以下であることが必要であり、好ましくは120μmol以下、更に好ましくは110μmol以下、特に好ましくは100μmol以下である。周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量の下限は、それらが含有されている限り特に制限されないが、通常10μmol、好ましくは30μmol、更に好ましくは50μmolである。
【0031】
周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量が多過ぎる場合は、重縮合後期で分子量の伸長が頭打ちとなり、所定の分子量のPBTが得られなかったり、結果的に熱履歴を多く受けるために色調の悪化や耐加水分解性の悪化を招いたりする。一方、その含有量が少な過ぎる場合は、重縮合速度が遅くなり、本発明の効果が見られなくなる。
【0032】
また、本発明のPBTにおいて、チタン原子に対する周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属のモル比[(周期表1族+2族金属)/チタン)]は、通常0.1〜5、好ましくは0.1〜2、更に好ましくは0.3〜1.0、特に好ましくは0.3〜0.8である。
【0033】
チタン原子などの金属含有量は、湿式灰化などの方法でポリマー中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0034】
本発明のPBTの末端カルボキシル基濃度は、通常30μeq/g、好ましくは1〜20μeq/g、更に好ましくは1〜10μeq/g、特に好ましくは1〜7μeq/gである。末端カルボキシル基濃度が高すぎる場合はPBTの耐加水分解性が悪化する傾向にある。
【0035】
ところで、PBTの末端カルボキシル基濃度を下げても、混練時や成形時の熱により上昇すると、結果的に製品の耐加水分解性を悪化させるだけでなく、テトラヒドロフラン(THF)等のガスの発生を招くことがある。従って、本発明のPBTにおいて、不活性ガス雰囲気下、245℃で40分間、熱処理した際の加水分解反応を除く末端カルボキシル基濃度の上昇は、通常0.1〜20μeq/g、好ましくは0.1〜15μeq/g、更に好ましくは0.1〜10μeq/g、特に好ましくは0.1〜8μeq/gである。
【0036】
加水分解反応は、PBT中に含まれる水分を減少させる操作、具体的には乾燥を十分行えば防止することが可能であり、成形時などに問題となるTHFの発生も伴わないが、加水分解以外の分解反応による末端カルボキシル基濃度の上昇は、乾燥操作で防ぐことが不可能である。一般的には、分子量が低い方が、また、PBT中のチタン濃度が高い方が、加水分解以外の熱分解による末端カルボキシル基濃度の上昇が大きい傾向がある。
【0037】
上記の評価法において温度と時間を規定したのは、温度が低すぎたり時間が短すぎたりすると末端カルボキシル基濃度の上昇の速度が小さすぎ、逆の場合は大きすぎて評価が不正確になるためである。また、極端に高い温度で評価すると、末端カルボキシル基が生成する以外の副反応が併発し、評価が不正確になることも理由の一つである。当該熱処理条件では、PBTに含まれる水分が引き起こす加水分解反応以外の反応による数平均分子量の低下は無視することが可能であり、加水分解反応による末端カルボキシル基濃度の上昇分は、熱処理前後の末端グリコール基濃度の上昇分と略同じと見做すことが出来るため、混練時や成形時に問題となる加水分解反応以外の熱分解反応による末端カルボキシル基濃度の上昇分は以下の式(1)で求めることが出来る。
【0038】
【数1】

【0039】
熱分解反応評価の信頼性の観点からは、加水分解反応が少ない方が好ましいため、熱処理に使用するPBTの含水量は、通常200ppm以下が推奨される。熱処理前後の末端グリコール基濃度は、H−NMRによって定量することが出来る。
【0040】
本発明のPBTの末端カルボキシル基濃度は、PBTを有機溶媒などに溶解し、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を使用して滴定することにより求めることが出来る。
【0041】
また、本発明のPBTの末端ビニル基濃度は、通常15μeq/g以下、好ましくは10μeq/g以下、更に好ましくは8μeq/g以下である。末端ビニル基濃度が高すぎる場合は、色調悪化や固相重合性悪化の原因となる。生産性を低下させることなく、分子量の大きいPBTや触媒濃度の低いPBTを製造する場合、一般的には重合温度を上げたり、反応時間を長くしたりすることが求められるため、末端ビニル基濃度は上昇する傾向にある。
【0042】
PBTの末端には、水酸基、カルボキシル基、ビニル基の他に、原料由来のメトキシカルボニル基が残存していることがあり、特に、テレフタル酸ジメチルを原料とする場合には多く残存することがある。ところで、メトキシカルボニル末端は、固相重合、混練、成形などによる熱により、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸を発生し、特に、食品用途に使用される場合には、これらの毒性が問題になる。また、蟻酸は金属製の成形機器や真空関連機器などを痛める。そこで、本発明における末端メトキシカルボニル基濃度は、通常0.5μeq/g以下、好ましくは0.3μeq/g以下、更に好ましくは0.2μeq/g以下、特に好ましくは0.1μeq/g以下である。
【0043】
上記の各末端基濃度は、重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合溶媒にPBTを溶解させ、H−NMRを測定することによって定量することが出来る。この際、溶媒シグナルとの重なりを防ぐため、重ピリジン等の塩基性成分などを極少量添加してもよい。
【0044】
本発明のPBTの固有粘度は1.10dL/gであることが必要である。固有粘度が1.10dL/g未満の場合は、成形品の機械的強度が不十分となるばかりでなく、特にフィルムやシート等の成形の際、ドローダウンが大きくなり、品質および生産性に悪影響が出る。固有粘度の上限は、通常1.60dL/g、好ましくは1.40dL/g、更に好ましくは1.30dL/gである。上記の固有粘度は、フェノール/テトラクロルエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃で測定した値である。
【0045】
本発明のPBTの降温結晶化温度は、通常160〜200℃、好ましくは170〜195℃、更に好ましくは175〜190℃である。本発明における降温結晶化温度とは、示差走査熱量計を使用して樹脂が溶融した状態から降温速度20℃/minで冷却した際に現れる結晶化による発熱ピークの温度である。降温結晶化温度は、結晶化速度と対応し、降温結晶化温度が高いほど結晶化速度が速いため、射出成形に際して冷却時間を短縮し、生産性を高めることが出来る。降温結晶化温度が低い場合は、射出成形に際して結晶化に時間が掛かり、射出成形後の冷却時間を長くせざるを得なくなり、成形サイクルが伸びて生産性が低下する傾向にある。
【0046】
本発明のPBTの溶液ヘイズは、特に制限されないが、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒(重量比3/2)20mLにPBT2.7gを溶解させて測定した際の溶液ヘイズとして、通常10%以下、好ましくは5%以下、更に好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下である。溶液ヘイズが高い場合は、透明性が悪化し、異物も増加する傾向があるため、フィルム、モノフィラメント、繊維など、特に透明性が要求される用途においては、商品価値を著しく落とす。溶液ヘイズは、チタン触媒の失活が大きい場合に上昇する傾向がある。
【0047】
本発明のPBTにおける環状2量体の含有量は、PBTに対する重量比として、通常1500ppm以下、好ましくは1200ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは800ppm以下であり、その下限値は通常10ppmである。また、環状3量体の含有量は、通常1000ppm以下、好ましくは800ppm以下、更に好ましくは600ppm以下、特に好ましくは500ppm以下であり、その下限値は通常10ppmである。環状2量体および環状3量体の含有量が上記の範囲を超える場合は、金型汚れやロール汚れが惹起され、フィルム表面にブリードアウトし、食品包装などの用途ではその溶出が問題となる。
【0048】
次に、本発明のPBTの製造方法について説明する。PBTの製造方法は、原料面から、ジカルボン酸を主原料として使用するいわゆる直接重合法と、ジカルボン酸ジアルキルを主原料として使用するエステル交換法とに大別される。前者は初期のエステル化反応で主に水が生成し、後者は初期のエステル交換反応で主にアルコールが生成するという違いがある。
【0049】
また、PBTの製造方法は、原料供給またはポリマーの払い出し形態から回分法と連続法に大別される。初期のエステル化反応またはエステル交換反応を連続操作で行って、それに続く重縮合を回分操作で行ったり、逆に、初期のエステル化反応またはエステル交換反応を回分操作で行って、それに続く重縮合を連続操作で行う方法もある。
【0050】
1族金属触媒および/または2族金属触媒は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽に供給することが出来るが、その供給位置に特に制限はなく、これら反応槽の反応液気相部から反応液上面へ供給してもよいし、反応液液相部に直接供給してもよい。また、この場合、テレフタル酸やチタン触媒と共に供給してもよいし、独立して供給してもよいが、触媒の安定性の観点からはテレフタル酸やチタン触媒とは独立に且つ反応液気相部から反応液上面に供給することが好ましい。
【0051】
2族金属触媒は、常温で固体であり、そのまま供給することも出来るが、供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するためには、水、1,4−ブタンジオール等の溶媒に溶解して供給することが好ましい。この際の濃度は、溶液全体に対する金属触媒の濃度として、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、更に好ましくは0.08〜8重量%である。
【0052】
また1族金属触媒および/または2族金属触媒は、エステル化反応槽またはエステル交換反応槽に続く重縮合反応槽やそれに付帯したオリゴマー配管に添加することも出来る。この場合も供給量を安定化させ、熱による変性などの悪影響を軽減するためには、水、1,4−ブタンジオール等の溶媒や、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の共重合成分に溶解して供給することが好ましい。この際の濃度は、上記と同様の範囲である。
【0053】
直接重合法を採用した連続エステル化法の一例は、次の通りである。すなわち、テレフタル酸を主成分とする前記ジカルボン酸成分と1,4−ブタンジオールを主成分とする前記ジオール成分とを原料混合槽で混合してスラリーとし、単数または複数のエステル化反応槽内で、好ましくはチタン触媒と1族金属触媒および/または2族金属触媒との存在下に、通常180〜260℃、好ましくは200〜245℃、更に好ましくは210〜235℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜101kPa、更に好ましくは60〜90kPaの圧力(絶対圧力、以下同じ)下で、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜6時間で、連続的にエステル化反応させる。
【0054】
直接重合法の場合は、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとのモル比は、以下の式(2)を満たすことが好ましい。
【0055】
【数2】

【0056】
上記の「エステル化反応槽に外部から供給される1,4−ブタンジオール」とは、原料スラリー又は溶液として、テレフタル酸またはテレフタル酸ジアルキルエステルと共に供給される1,4−ブタンジオールの他、これらとは独立に供給する1,4−ブタンジオール(別供給1,4−ブタンジオール)、触媒の溶媒として使用される1,4−ブタンジオール等、反応槽外部から反応槽内に入る1,4−ブタンジオールの総和である。
【0057】
上記のBM/TMの値が1.1より小さい場合は、転化率の低下や触媒失活を招き、5.0より大きい場合は、熱効率が低下するだけでなく、THF等の副生物が増大する傾向にある。BM/TMの値は、好ましくは1.5〜4.5、更に好ましくは2.0〜4.0、特に好ましくは3.1〜3.8である。
【0058】
また、エステル交換法を採用した連続法の一例は、次の通りである。すなわち、単数または複数のエステル交換反応槽内で、チタン触媒と1族金属触媒および/または2族金属触媒との存在下に、通常110〜260℃、好ましくは140〜245℃、更に好ましくは180〜220℃の温度、また、通常10〜133kPa、好ましくは13〜120kPa、更に好ましくは60〜101kPaの圧力下で、通常0.5〜5時間、好ましくは1〜3時間で、連続的にエステル交換反応させる。
【0059】
エステル交換法の場合、テレフタル酸ジアルキルと1,4−ブタンジオールとのモル比は、以下の式(3)を満たすことが好ましい。
【0060】
【数3】

【0061】
上記のBM/DMの値が1.1より小さい場合は、転化率の低下や触媒活性の低下を招き、2.5より大きい場合は、熱効率が低下するだけでなく、THF等の副生物が増大する傾向にある。BM/DMの値は、好ましくは1.1〜1.8、更に好ましくは1.2〜1.5である。
【0062】
本発明において、エステル化反応またはエステル交換反応は、反応時間短縮のため、1,4−ブタンジオールの沸点以上の温度で行うことが好ましい。1,4−ブタンジオールの沸点は反応の圧力に依存するが、101.1kPa(大気圧)では230℃、50kPaでは205℃である。
【0063】
エステル化反応槽またはエステル交換反応槽としては、公知のものが使用でき、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよく、また、単数槽としても、同種もしくは異種の槽を直列または並列させた複数槽としてもよい。中でも、攪拌装置を有する反応槽が好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼から成る通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転するタイプも使用することが出来る。
【0064】
攪拌の形態は、特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部などから直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応器の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も採ることが出来る。
【0065】
攪拌翼の種類は、公知のものが選択でき、具体的には、プロペラ翼、スクリュー翼、タービン翼、ファンタービン翼、デイスクタービン翼、ファウドラー翼、フルゾーン翼、マックスブレンド翼などが挙げられる。
【0066】
次に、得られたエステル化反応生成物またはエステル交換反応生成物としてのオリゴマーは、重縮合反応槽に移される。この際、実施例で規定されるオリゴマーのエステル化率は、通常90%以上、好ましくは95%以上であり、また、数平均分子量は、通常300〜3000、好ましくは500〜1500である。
【0067】
重縮合反応槽の形態は、縦型攪拌完全混合槽、縦型熱対流式混合槽、塔型連続反応槽などの何れの型式であってもよく、また、これらを組み合わせることも出来る。中でも、少なくとも1つの重縮合反応槽においては攪拌装置を有するタイプであることが好ましく、攪拌装置としては、動力部、軸受、軸、攪拌翼から成る通常のタイプの他、タービンステーター型高速回転式攪拌機、ディスクミル型攪拌機、ローターミル型攪拌機などの高速回転するタイプも使用することが出来る。
【0068】
攪拌の形態は、特に制限されず、反応槽中の反応液を反応槽の上部、下部、横部などから直接攪拌する通常の攪拌方法の他、配管などで反応液の一部を反応器の外部に持ち出してラインミキサー等で攪拌し、反応液を循環させる方法も採ることが出来る。水平方向に回転軸を有する表面更新とセルフクリーニング性に優れた横型の反応器を使用しても良い。
【0069】
重縮合反応は、チタン触媒と1族金属触媒および/または2族金属触媒との存在下に、通常210〜280℃、好ましくは220〜250℃、更に好ましくは230〜245℃、特に好ましくは少なくとも一つの反応槽においては230〜240℃の温度で、好ましくは攪拌を行いながら、通常1〜12時間、好ましくは3〜10時間で、通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、特に好ましくは13kPa以下の減圧状態で行う。着色や劣化を抑え、ビニル基などの末端の増加を抑制するため、少なくとも1つの反応槽において、通常1.3kPa以下、好ましくは0.5kPa以下、更に好ましくは0.3kPa以下の高真空下で行うのがよい。
【0070】
重縮合反応により得られたポリマーは、通常、重縮合反応槽の底部からポリマー抜き出しダイに移送されてストランド状に抜き出され、水冷されながら又は水冷後、カッターで切断され、ペレット状、チップ状などの粒状体とされる。
【0071】
更に、PBTの重縮合反応工程は、一旦、溶融重縮合で比較的分子量の小さい、例えば、固有粘度0.1〜0.9程度のPBTを製造した後、引き続き、PBTの融点以下の温度で固相重縮合(固相重合)させることも出来る。
【0072】
本発明のPBTには、2,6−ジ−t−ブチル−4−オクチルフェノール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3’,5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等のフェノール化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−ラウリルチオジプロピオネート)等のチオエーテル化合物、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等の燐化合物などの抗酸化剤、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、モンタン酸やモンタン酸エステルに代表される長鎖脂肪酸およびそのエステル、シリコーンオイル等の離型剤などを添加してもよい。
【0073】
本発明のPBTには、強化充填材を配合することが出来る。強化充填材としては、特に制限されないが、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維などの無機繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維などの有機繊維、ガラスフレーク、雲母、金属箔等の板状無機充填材、セラミックビーズ、アスベスト、ワラストナイト、タルク、クレー、マイカ、ゼオライト、カオリン、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらの強化充填材は、2種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0074】
本発明のPBTには、難燃性を付与するために難燃剤を配合することが出来る。難燃剤としては、特に制限されず、例えば、有機ハロゲン化合物、アンチモン化合物、リン化合物、その他の有機難燃剤、無機難燃剤などが挙げられる。有機ハロゲン化合物としては、例えば、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、ポリペンタブロモベンジルアクリレート等が挙げられる。アンチモン化合物としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等が挙げられる。リン化合物としては、例えば、リン酸エステル、ポリリン酸、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等が挙げられる。その他の有機難燃剤としては、例えば、メラミン、シアヌール酸などの窒素化合物などが挙げられる。その他の無機難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ素化合物、ホウ素化合物などが挙げられる。
【0075】
本発明のPBTには、必要に応じ、慣用の添加剤などを配合することが出来る。斯かる添加剤としては、特に制限されず、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤などの安定剤の他、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤などが挙げられる。これらの添加剤は、重合途中または重合後に添加することが出来る。更に、PBTに、所望の性能を付与するため、紫外線吸収剤、耐候安定剤などの安定剤、染顔料などの着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃性改良剤などを配合することが出来る。
【0076】
本発明のPBTには、必要に応じて、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンオキサイド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を配合することが出来る。これらの熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用することも出来る。
【0077】
前記の種々の添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されないが、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸または2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、付加的成分を含めて、混練機に一括して供給することが出来、あるいは、順次供給することも出来る。また、付加的成分を含めて、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておくことも出来る。
【0078】
本発明のPBTの成形加工方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押し出し成形、プレス成形などの成形法を適用することが出来る。
【0079】
本発明のPBTは、色調、耐加水分解性、熱安定性、透明性、成形性に優れているため、電気、電子部品、自動車用部品などの射出成形部品として好適であるが、特に、異物が少なく、透明性や成形性に優れているため、フィルム、モノフィラメント、繊維などの用途において改良効果が顕著である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
【0081】
(1)オリゴマーのエステル化率:
以下の式(4)によって酸価およびケン化価から算出した。酸価は、ジメチルホルムアミドにオリゴマーを溶解させ、0.1NのKOH/メタノール溶液を使用して滴定により求めた。ケン化価は0.5NのKOH/エタノール溶液でオリゴマーを加水分解し、0.5Nの塩酸で滴定し求めた。
【0082】
【数4】

【0083】
(2)オリゴマー混合物中のテレフタル酸ユニット重量比:
後述するオリゴマー受器で取得したオリゴマーには、PBTオリゴマーと未反応の1,4−ブタンジオールが含まれており、ここではこれをオリゴマー混合物と呼び、純粋なPBTオリゴマーとは区別することにする。重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合溶媒1mLにオリゴマー混合物100mgを溶解させ、室温でH−NMRを測定し、オリゴマー混合物中のPBTオリゴマー分子中の1,4−ブタンジオールユニット含有量、テレフタル酸ユニット含有量および未反応1,4−ブタンジオール含有量をこれらのシグナル強度比から求め、算出した。NMR装置には日本電子(株)製「α−400」又は「AL−400」を使用した。
【0084】
(3)PBTの末端カルボキシル基濃度:
ベンジルアルコール25mLにPBT0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lベンジルアルコール溶液を使用して滴定した。
【0085】
(4)PBTの末端水酸基濃度:
重クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール=7/3(体積比)の混合溶媒1mLにPBT約100mgを溶解させ、重ピリジン36μLを添加し、50℃でH−NMRを測定し求めた。NMR装置には日本電子(株)製「α−400」又は「AL−400」を使用した。
【0086】
(5)PBTの固有粘度(IV):
ウベローデ型粘度計を使用し次の要領で求めた。すなわち、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を使用し、30℃において、濃度1.0g/dLのポリマー溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式(5)より求めた。
【0087】
【数5】

【0088】
(6)PBT中のチタン、周期表1族金属および2族金属の濃度:
電子工業用高純度硫酸および硝酸でPBTを湿式分解し、高分解能ICP(Inductively Coupled Plasma)−MS(Mass Spectrometer )(サーモクエスト社製)を使用して測定した。
【0089】
(7)溶液ヘイズ:
フェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合溶媒20mLにPBT2.70gを110℃で30分間溶解させた後、30℃の恒温水槽で15分間冷却し、日本電色(株)製濁度計(NDH−300A)を使用し、セル長10mmで測定した。値が低いほど透明性が良好であることを示す。
【0090】
(8)加水分解反応以外の反応による末端カルボキシル基濃度の上昇(ΔAV(d)):
内径5mmのキャピラリーにPBTペレットを粉砕後に乾燥して充填して窒素置換し、窒素下で245℃にコントロールしたオイルバスに浸漬し、40分後に取り出し、液体窒素で急冷させた。内容物の温度が十分下がった後、内容物を取り出し、末端カルボキシル基濃度および末端水酸基濃度を測定し、前述の式(1)より求めた。
【0091】
(9)PBT中の環状2量体および環状3量体含有量:
ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム=2/3(体積比)3mLにPBT0.1gを溶解させた後、クロロホルム20mL、メタノール10mLを加えてポリマーを沈殿させる。続いて濾別した上澄み液を乾固した後、ジメチルホルムアミド2mLに溶解させ、2重量%の酢酸水/アセトニトリルの混合溶媒を溶離液とし、高速液体クロマトグラフィー(カラム:三菱化学(株)製「MCI−GEL ODS−1LU」)で測定して求めた。環状2量体や環状3量体が少ない方が成形時の金型汚染などが少ない。
【0092】
(10)ペレット色調:
日本電色(株)製色差計(Z−300A型)を使用し、L、a、b表色系におけるb値で評価した。値が低いほど黄ばみが少なく色調が良好であることを示す。
【0093】
(11)耐加水分解性(加水分解試験後のIV保持率):
PBTペレットを純水を張った圧力容器に直接水に触れない様に入れ、密閉した後、121℃の加圧飽和水蒸気下で48時間処理し、固有粘度(IV ')の測定を行う。上述のIV及びIV 'の値から以下の式(6)によりIV保持率を算出する。IV保持率が大きいほど耐加水分解性が良好なことを示す。
【0094】
【数6】

【0095】
また、以下の諸例においては図1に示す連続エステル化装置を使用した。図1中、符号(A)は攪拌機を具備したスラリー調製槽、(B)はスラリー供給のためのポンプ、(C)は流量計、(D)は、オーバーフロー方式で連続的にオリゴマーを取得できるよう設計され且つ攪拌機を具備したエステル化反応槽、(E)はエステル化反応槽と同圧に保たれたオリゴマー受器、(F)はコンデンサ、(G)は液封式の留出液の受器、(H)はコールドトラップ、(J)は内圧を一定に保つための窒素供給自動式バルブ、(K)は真空ポンプである。
【0096】
実施例1:
(連続エステル化工程)
図1に示す連続エステル化装置を使用し、次の要領でPBTの製造を行った。先ず、テレフタル酸1.0モルに対し、1,4−ブタンジオール3.5モルの割合で混合した50℃のスラリーをスラリー調製槽(A)から、予め、エステル化率99%のPBTオリゴマーを充填したエステル化反応槽(D)に、4.8kg/hとなるように連続的に供給し、オリゴマーをオーバーフローラインから排出した。オリゴマー受器(E)までの配管はオリゴマーが析出しないようにエステル槽と同じ温度に保ち、オリゴマー受器(E)は室温に保った。スラリー中には、触媒としてテレフタル酸1molに対し、184μmolのテトラブチルチタネートを1,4−ブタンジオールの6重量%溶液として添加した。
【0097】
反応槽(D)の内温は230℃、圧力は79kPaとし、生成する水とTHF及び余剰の1,4−ブタンジオールを、留出ラインから留出させ、コンデンサ(F)で凝縮させ、ごく一部の凝縮しない成分については、ドライアイスで冷却したコールドトラップ(H)で捕集した。系が安定した後のエステル化反応槽(D)におけるテレフタル酸ユニット換算の滞留時間は3時間であり、得られたオリゴマーのエステル化率は98%であった。
【0098】
(重縮合工程)
上記の連続エステル化反応により得られたオリゴマー150gを、トルクメーター付攪拌機を具備したガラス製重合管に仕込んだ後、重合管内を窒素で十分置換し、予め、H−NMRで求めたテレフタル酸ユニットに対し所定量となる酢酸マグネシウム4水塩を、2重量%水溶液として添加した。これを、245℃のオイルバスに浸漬し、15分間オリゴマーを融解させた。15分後に攪拌を開始し、更に、15分後、プログラム式圧力制御装置を使用して大気圧から85分かけて1torrまで減圧にする操作を行い、その後、1torrに保持した。減圧を開始した時点を重縮合開始時間とし、攪拌トルクをモニターしながら、予め検定したIV=0.85に相当する攪拌トルクに到達するまでの時間と、IV=1.20に到達するまでの時間を測定した。IV=1.20に相当するトルクに到達した時点でポリマーを抜き出し、水冷後にペレットを得た。重縮合速度は高粘度領域でも頭打ちにならず、重縮合時間は短かった。また、得られたポリマーの末端カルボキシル基濃度は小さく、色調や透明性、熱安定性に優れていた。このポリマーの分析結果をまとめて表1に示した。
【0099】
実施例2〜6:
実施例1において、酢酸マグネシウム4水塩の代わりに、表1で示した化合物を添加した他は、実施例1と同様に行った。
【0100】
比較例1:
実施例1において、酢酸マグネシウム4水塩を添加しない他は、実施例1と同様に行った。重縮合速度に劣り、色調が悪化した。
【0101】
比較例2:
実施例1において、酢酸マグネシウム4水塩をテレフタル酸ユニット1molに対し、182μmol添加した他は、実施例1と同様に行った。後期の重縮合速度に劣り、実施例1に比べ末端カルボキシル基濃度が上昇し色調が悪化する傾向にあった。
【0102】
比較例3:
実施例1において、テトラブチルチタネートをテレフタル酸ユニット1molに対し、370μmol添加した他は、実施例1と同様に行った。末端カルボキシル基濃度が上昇し、色調が悪化した。また、溶液ヘイズも高く透明性に劣っていた。
【0103】
実施例7:
実施例1において、IV=0.85に達した時点で重縮合を停止し、ポリマーを抜き出して水冷後にペレットを得た。このペレット15gを120℃で4時間乾燥させた後、ガラス管に仕込み、十分窒素置換をした後、0.3torr、190℃に保持し、固相重合させた。所定のIVに達した時点でペレットを取り出した。AVが低く、環状2量体、環状3量体濃度が低いポリマーが得られた。
【0104】
実施例8:
実施例1において、IV=0.85に達した時点で重縮合を停止し、ポリマーを抜き出して水冷後にペレットを得た。このペレット15gを120℃で4時間乾燥させた後、ガラス管に仕込み、十分窒素置換をした後、0.3torr、205℃に保持し、固相重合させた。所定のIVに達した時点でペレットを取り出した。AVが低く、環状2量体、環状3量体濃度が低いポリマーが得られた。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本連続エステル化装置の一例の説明図
【符号の説明】
【0108】
A:スラリー調製槽
B:スラリー供給ポンプ
C:流量計
D:エステル化反応槽
E:オリゴマー受器
F:コンデンサ
G:留出液受器
H:コールドトラップ
J:自動バルブ
K:真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒としてチタン化合物と周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の化合物とを使用して得られ、テレフタル酸ユニット1mol当たり、チタンの含有量がチタン原子として320μmol以下であり、周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量が金属原子として130μmol以下であり、固有粘度が1.10以上であることを特徴とするポリブチレンテレフタレート。
【請求項2】
末端カルボキシル基濃度が0.1〜10μeq/gである請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート。
【請求項3】
チタンの含有量が190μmol以下である請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート。
【請求項4】
周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属の含有量が100μmol以下である請求項1〜3の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート。
【請求項5】
周期表1族および2族から選ばれる少なくとも1種の金属がマグネシウムである請求項1〜4の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート。
【請求項6】
環状2量体の含有量が1500ppm以下である請求項1〜5の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート。
【請求項7】
環状2量体の含有量が1000ppm以下である請求項1〜5の何れかに記載のポリブチレンテレフタレート。

【図1】
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【公開番号】特開2007−63318(P2007−63318A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247398(P2005−247398)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】