説明

ポリベンザゾールフィルム

【課題】 力学特性の異方性が小さく、優れた電気特性を有すると共に、高耐熱性、高強力であるポリベンザゾールフィルムを提供する。
【解決手段】 直径5〜100nm、長さ1〜100μmであるカーボンナノチューブを含有することを特徴とするポリベンザゾールフィルムである。好ましくは更に引張破断強度が340MPa以上有し、縦方向と横方向の引張破断強度の比が0.85以上であり、10GHzの高周波域で測定した比誘電率が2.70〜3.10であるポリベンザゾールフィルムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気特性に優れた高強度ポリベンザゾールフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の、電気電子機器の軽薄短小化、高性能化に伴い、内部の回路に用いられる素材への要求性能は、急速に高まってきている。特に電気電子機器用、半導体装置用材料に求められている特性のなかで、電気特性と耐熱性は、最も重要な特性である。近年、回路の微細化と信号の高速化に伴い、誘電率の低い絶縁材料が要求されている。この2つの特性を両立させるための材料として、耐熱性高分子を用いた絶縁材が、期待されている。例えば、従来から用いられている二酸化シリコン等の無機の絶縁材は、高耐熱性を示すが、誘電率が高く、要求特性が高度化している現在では、前述の特性について、両立が困難になりつつあり、ポリイミド樹脂に代表される耐熱性高分子は、電気特性と耐熱性に優れ、2つの特性の両立が可能であり、実際にプリント回路基板や半導体装置のパッシベーション膜などに用いられている。
【0003】
しかしながら、近年の半導体装置の高機能化、高性能化にともない、電気特性、耐熱性について著しい向上が必要とされているため、更に高性能な高分子材料が、必要とされるようになっている。特に、誘電特性に関しては、比誘電率や誘電正接の値そのものが小さいこと、回路が薄く、細くなることによる回路を構成する金属の発熱に耐え、万が一でも発火しない高分子材料が求められている。これに対して、これまでには、例えば、ポリイミド等の耐熱性高分子材料に微細な空隙を多数形成させて実効的な比誘電率を下げる試みがなされている。残念ながらこのような試みの多くは、高分子材料の機械的な特性を損ない、また微細空隙に進入する水分などの極性不純物の影響により期待とは裏腹に誘電特性を低下せしめてしまう場合すらある。特に空隙を利用して低誘電率化を計った場合には、空隙内に進入した水分など極性物質が高周波域にて共鳴を生じ、また共鳴状態が温度により変化することにより誘電特性の温度依存性、周波依存性が悪化することがあった。
【0004】
かかる問題を解決するため、あらかじめ微細な空隙を有する物質を配合することにより誘電特性を改善する試みがなされている。しかしながら、水系プロセスにより得られる所謂中空の高分子粒子の多くは耐熱性に劣るため、かかる用途には不適である。シリカバルーンなどの無機の中空粒子はそのサイズが比較的大きいために近年の回路微細化に対応する程度の微細な空隙としても散ることはできない。また、耐熱性の向上は認められるが、素材としての難燃性を両立している素材は見受けられない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような技術的な困難を克服し、力学特性の異方性が小さく、優れた電気特性を有すると共に、高耐熱性、難燃性を有するポリベンザゾールフィルムを得ることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、直径5〜100nm、長さ1〜100μmであるカーボンナノチューブを含有することを特徴とするポリベンザゾールフィルムであり、好ましい態様は、引張破断強度が340MPa以上有し、縦方向と横方向の引張破断強度の比が0.85以上である上記のポリベンザゾールフィルムである。また好ましい態様は、常温下で10GHzの高周波域で測定した比誘電率が2.70〜3.10であること上記のポリベンザゾールフィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の構成よりなるカーボンナノチューブを含有したポリベンザゾールフィルムは、力学物性に優れその異方性が少なく、かつ電子部品用材料として求められる誘電率などの電気特性に優れている。そのため、電力装置から高周波域で用いられるプリント配線板、COF、FPC、モジュール基板、インターポーザ、システムインパッケージ基板、半導体層間絶縁膜など電子情報機器の要素材料として広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のフィルムは、例えば、ポリベンザゾールポリマーのドープ中にカーボンナノチューブを均一に分散させた原料ドープをヒートプレス成形するか、ダイスから押出し成形した後、そのまま凝固液に漬け凝固するか、または一軸または二軸延伸をおこなった後凝固液に漬け凝固し、次いで水洗などで溶媒を除去した後、熱風などで乾燥後、巻き取りることで得られる。
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明におけるポリベンザゾール(PBZ)とは、ポリベンズオキサゾール(PBO)、ポリベンズチアゾール(PBT)またはポリベンズイミダゾール(PBI)から選ばれる一種以上のポリマーをいう。本発明においては、PBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要はない。さらにPBOは、ポリ(フェニレンベンゾビスオキサゾール)や芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。同様の考え方は、PBTやPBIにも適用される。また、PBO、PBT及び/またはPBIの混合物、PBO、PBT及びPBIのブロックコポリマー及び/またはランダムコポリマー等のような二つまたはそれ以上のポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーも含まれる。好ましくは、ポリベンザゾールは、ライオトロピック液晶ポリマー(鉱酸中において特定濃度で液晶を形成する性質を持つ)であり、特にポリベンズオキサゾールが好ましい。
【0010】
ポリベンザゾールポリマーに含まれる構造単位としては、モノマー単位は構造式(a)〜(i)に記載されているモノマー単位から成る。
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
ポリベンザゾールポリマーのドープとは、ポリマーの溶液を指し、ポリマーを酸溶媒中で重合することにより公知の方法で調製することができる。溶媒としては、例えば、硫酸、メタンスルフォン酸、またはポリリン酸などの無機酸や有機酸が挙げられるが、ポリリン酸が特に好適である。ドープ中のポリマー濃度は、0.5質量%〜30質量%、好ましくは5質量%〜20質量%である。
【0020】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985,8,6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988,9,22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989,7,11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992,2,18)に記載されている。例えば、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中で、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約120℃〜230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させ合成できる。
【0021】
本発明におけるカーボンナノチューブとは、実質的に炭素からなる管状の化合物で、層構成は多層であり、層の数は問わない。この多層炭素壁中にナノサイズの金属を内包している。カーボンナノチューブの外径は5nm〜100nm、長さは1nm〜100nm、より好ましくは、長さが10nm〜100nmである。これ以上の大きさ場合、電気電子分野に要求される薄膜のフィルムに均一に分散させることが困難になり、表面にカーボンナノチューブが露出するなどして返って絶縁性を阻害し、性能の低下につながりかねないという欠点を発現する。
【0022】
カーボンナノチューブをポリベンザゾールに含有させる方法としては、特に限定されず、ポリベンザゾールの重合工程のいずれかの段階で添加することが好ましい。例えば、原料を仕込む際に同時にカーボンナノチューブを仕込む方法、段階的または一定昇温速度で温度を上げて反応させている任意の時点でカーボンナノチューブを添加する方法などで含有させることができる。カーボンナノチューブの含有量は0.1質量%〜30質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜15質量%である。
【0023】
フィルムを製造する方法としては、例えば、米国特許第4,487,735号等に記載されているように、粘稠なドープを回転ドラム上に押し出すことにより一軸配向フィルムができる。これをチューブとして押し出し、マンドレル上で吹き込みまたは押し込むことにより二軸配向させる。次いで水中に浸して凝固させることにより、フィルムを形成させることができる。そして、更に洗浄することにより溶媒を除去することができる。また、特表平06−503521号公報に記載されているように、ポリマーのドープをテフロン(登録商標)シート等の任意の支持体で挟みヒートプレス成形した未延伸のフィルム状ドープ、あるいはダイスまたは2本のロールから押出した未延伸のフィルム状ドープを得てテフロン(登録商標)シート等の任意の支持体にラミネートした後、1軸または2軸延伸した後、凝固液に浸漬することで凝固してフィルムを得ることができる。
【0024】
凝固したフィルムは、水洗後、70℃以上、通常300℃以下で乾燥するとともに熱処理することによりカーボンナノチューブを固定する。熱処理後の引張破断強度保持率は、カーボンナノチューブを付与していないポリベンザゾールフィルムに対して80%以上を有し、熱処理によるポリマーへの悪影響は少ない。
【0025】
本発明のポリベンザゾールフィルムの厚さは、用途によって0.1μm〜10mmと広く選択することができる。例えば、磁気記録テープ用の基材に使用する場合の厚さは、3μm以下が好適である。一方、電気絶縁用途に使用する場合の厚さは、25μm以上が好適である。
【0026】
本発明の効果の発現機構は明確にはなっていないが、電気伝導度や電波吸収性に優れるカーボンナノチューブが高分子中に分散することによって、高分子の分子鎖の主鎖末端や、側鎖に存在する官能基の分極を抑え、エネルギーとして消逸すすることによって、フィルム上に形成された回路への影響を抑えることによって発現するものと考えられるが、本発明は、この考察に拘束されるものではない。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって制限を受けるものではない。なお実施例における各特性の評価は、以下の方法によって行なった。
(1)フィルムの厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン(R)1245D)を用いて測定した。
【0028】
(2)フィルムの比誘電率、誘電正接
比誘電率、誘電正接の測定は下記の要領によって実施した。
(試験片の作製)
耐熱性高分子フィルムを、必要厚みになる枚数重ね、250℃のホットプレスにて300kgf/cm2の荷重を加えて圧着して1.6mm厚、100mm×100mmの板状試験片を作製した。この際、層間にボイドがないことを目視によって確認した。
(試験片の測定)
上記試料について、Qメータ法にて1MHzの比誘電率、誘電正接を測定した。さらに、アジレントテクノロジ社製、N5250Aミリ波PNAシリーズ・ネットワーク・アナライザを用い、空洞共振摂動法により1GHz〜30GHzの範囲での比誘電率、誘電正接を測定した。
【0029】
(3)フィルムの引張破断強度
測定対象の厚さ15μmフィルムにおいて、2方向(以下、MD方向およびTD方向と呼ぶ)から100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R)機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸度を測定した。
(4)フィルムの体積抵抗率
JIS C2318準拠の方法にて、体積抵抗率を測定した。
【0030】
(フィルムの作製方法)
ポリベンザゾールのポリリン酸溶液(ポリマードープ)を調製後、ヒートプレス機で170℃、100kgf/cm2の条件下でテフロン(登録商標)シートに挟んだ状態でプレスした。その後、フィルム状ドープを金枠に固定して、残留リン濃度が1500ppm以下になるまで水洗し、110℃で3時間乾燥し、厚さ15μmのフィルムを得た。
【0031】
(実施例1)
窒素気流下、2,4−ジアミノレゾルシノール塩酸塩9.00g,テレフタル酸6.99g,カーボンナノチューブ0.20g,122%ポリリン酸57.5gを60℃で30分間撹拌した後、ゆっくりと昇温して135℃で20時間、150℃で5時間、170℃で5時間反応せしめた。30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が27dl/gのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールのポリマードープを前述の方法によりフィルム製膜し、カーボンナノチューブを2質量%含有した厚み15μmのフィルムを得た。フィルムの測定結果を表1に示す。
【0032】
(実施例2)
実施例1においてカーボンナノチューブ0.30gを用いた他は同様にして、固有粘度26dl/gのポリマードープを得た。前述の方法で製膜してカーボンナノチューブを3質量%含有した厚み15μmのポリパラフェニレンベンズビスオキサゾールフィルムを得た。フィルムの測定結果を表1に示す。
【0033】
(実施例3)
実施例1においてカーボンナノチューブ0.52gを用いた他は同様にして、固有粘度25dl/gのポリマードープを得た。前述の方法で製膜してカーボンナノチューブを5質量%含有した厚み15μmのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールフィルムを得た。フィルムの測定結果を表1に示す。
【0034】
(実施例4)
実施例1においてカーボンナノチューブ1.34gを用いた他は同様にして、固有粘度24dl/gのポリマードープを得た。前述の方法で製膜してカーボンナノチューブを13質量%含有した厚み15μmのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールフィルムを得た。フィルムの測定結果を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
実施例1においてカーボンナノチューブを添加しなかった他は同様にして、固有粘度29dl/gのポリマードープを得た。前述の方法で製膜して厚み15μmのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールフィルムを得た。フィルムの測定結果を表1に示す。
【0036】
(比較例2)
実施例1においてカーボンナノチューブを2.02gを用いた他は同様にして、固有粘度21dl/gのポリマードープを得た。前述の方法で製膜してカーボンナノチューブを17質量%含有した厚み15μmのポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールフィルムを得た。カーボンナノチューブの分散が不充分になりポリマードープの延性が不足したため、一様な厚みのフィルムが得られなかった。
【0037】
【表1】

【0038】
表1より明らかなように、カーボンナノチューブが付与されたポリベンザゾールフィルムは、電子部品用材料として求められる体積抵抗、比誘電率、誘電正接の性能に優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上、述べてきたように、本発明のポリベンザゾールフィルムは、温度に対する通電特性が非常に安定しており、電力装置から高周波域で用いられるプリント配線板、COF、FPC、モジュール基板、インターポーザ、システムインパッケージ基板、半導体層間絶縁膜など電子情報機器の要素材料として広く用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径5〜100nm、長さ1〜100μmであるカーボンナノチューブを含有することを特徴とするポリベンザゾールフィルム。
【請求項2】
引張破断強度が340MPa以上有し、縦方向と横方向の引張破断強度の比が0.85以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリベンザゾールフィルム。
【請求項3】
常温下で10GHzの高周波域で測定した比誘電率が2.70〜3.10であることを特徴とする請求項1、2いずれかに記載のポリベンザゾールフィルム。

【公開番号】特開2006−176667(P2006−176667A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371783(P2004−371783)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】