説明

ポリベンザゾール繊維織物

【課題】外部応力に対する安定性、耐熱性、難燃性のみならず、織物の均一性が要求される用途にも使用可能なポリベンザゾール繊維織物を提供する。
【解決手段】ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面の凸型率(%)が少なくとも75%であるポリベンザゾール繊維を、経糸及び/又は緯糸に使用してなるポリベンザゾール繊維織物。また、繊維の断面が凸型断面であるポリベンザゾールモノフィラメント繊維を、経糸及び/又は緯糸に使用してなるポリベンザゾール繊維織物。ここで、凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリベンザゾール繊維織物に関し、詳しくは、印刷用スクリーン、耐熱フィルター、濾過用フィルター、セパレータ、安全ネット、ジオテキステイル、電磁波遮蔽透視メッシュ等に使用可能な織物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷用スクリ−ンはシルク、ステンレス、ナイロン、ポリエステル等のメッシュ織物を使用して製造されるが、シルクは強度、寸法安定性に問題があり、ステンレスは強度は高いものの、弾性回復性、瞬発性に問題がある上に、高価であるため、現在はポリエステルやナイロン等の熱可塑性樹脂製のものが多くなり、とくに寸法安定性に優れる点、低価格である点でポリエステル製のものが多用されている。
しかしながら、最近の電子回路の印刷分野においては印刷精度の向上に対する要求がますます厳しくなってきており、高強度で高弾性率を有する繊維からなるスクリーン紗が要求されている。かかる高強度・高弾性率を有する繊維としてスーパー繊維、たとえば全芳香族系ポリアミド繊維、全芳香族系ポリエステル繊維、炭素繊維等が挙げられるが、全芳香族系ポリアミド繊維は吸湿性による寸法安定性が劣るという問題点、全芳香族系ポリエステル繊維はインキ通過性、乳剤の塗布性等が劣るという問題点、炭素繊維は折れやすいという問題点を抱えていた。例えば特許文献1等に示されているように繊度の小さいモノフィラメントのポリベンザゾール繊維を用いて上記の問題を解決しようとした試みも開示されている。モノフィラメントポリベンザゾール及びその製造方法に付いては特許文献2に開示がある。精密な印刷を実現するためには、印刷中にスクリーン紗から発生するスカムを抑えることが最重要課題である。しかし、このスカムの発生はポリベンザゾール繊維等の剛直繊維表面のフィブリル化の進行に伴う繊維構造に内在する問題であり、これを解決して耐刷性の向上を図るためには繊維構造の設計、ひいては繊維そのものの製造方法から見直す必要があった。
【0003】
【特許文献1】特開平10−331048号公報
【特許文献2】特開平8−27622号公報
【0004】
電子回路の印刷のような精密な印刷を行うためには、繊度の小さいモノフィラメントを用い、オープニングエリアを大きく取る必要がある。上述の全芳香族系ポリアミド、全芳香族系ポリエステル、ポリベンザゾールからなる繊維を使用したスクリーン紗の強度、弾性率は、織物組織にもよるが、精密印刷用としては不十分で実用化に至っていないのが現状である。また、濾過用フィルターなどにおいても同様であり、ポリベンザゾール繊維の大きな特徴である耐熱性や難燃性を生かした用途での実用化が十分ではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、精密印刷用スクリ−ン紗、濾過用フィルターなどの織物の均一性が要求される用途にも使用可能で、ポリベンザゾール繊維の高強度、耐熱性、難燃性などの特性を生かした様々な用途に展開が可能なポリベンザゾール繊維織物を提供することである。
そこで、本発明者は、上記のような用途での織物を構成する繊維について検討し、繊維の断面の均一性が重要な要因であり、液体中で凝固させられるポリベンザゾールのような繊維は、溶融紡糸や乾式紡糸で得られる繊維に比べて繊維断面が著しく変形してしまっていることが原因であることを見出し、さらに、ポリベンザゾール繊維の断面を円形に近く均一性を高めた繊維とすることについて鋭意研究の結果、本発明に到達したのである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
1.ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面についての下記の凸型率(%)が少なくとも75%であるポリベンザゾール繊維を、経糸及び/又は緯糸に使用してなるポリベンザゾール繊維織物。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
2.繊維の断面が凸型断面であるポリベンザゾールモノフィラメント繊維を、経糸及び/又は緯糸に使用してなるポリベンザゾール繊維織物。
3.前記モノフィラメント繊維の断面が、光学顕微鏡によって観察した際に、シース層とコア層の二層に識別可能であり、コア層の平均直径rの繊維断面直径rに対する比率R(%)が90%以下である第1又は2に記載のポリベンザゾール繊維織物。
4.織物の単位目付当たりの経糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上、緯糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上である第1〜3のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維織物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の織物は、経糸及び/又は緯糸は、ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面又はモノフィラメント繊維の断面が円形に近く均一であるため、印刷用スクリーン、耐熱フィルター、濾過用フィルターなどに使用可能であり、織物の引張強度が0.5Nm2/g 以上の高強度で、かつ低伸度であるため、ジオテキステイル、安全ネット、電磁波遮蔽透視メッシュ、セパレータ、等に使用可能である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の織物に用いるポリベンザゾール繊維とは、ポリベンザゾールポリマーよりなる繊維をいい、ポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBTともいう)、またはポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)から選ばれる1種以上のポリマーをいう。本発明においてPBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要はなく、ビフェニレン基、ナフチレン基などであってもよい。PBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいうが、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要は無い。さらにPBOは、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のホモポリマーのみならず、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のフェニレン基の一部がピリジン環などの複素環に置換されたコポリマーや芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。このことは、PBTやPBIの場合も同様である。また、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上の混合物、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上のブロックもしくはランダムコポリマー及びこれらのポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーなども含まれる。
【0009】
PBZポリマーに含まれる構造単位としては、好ましくは、特定濃度で液晶を形成するライオトロピック液晶ポリマーから選択される。当該ポリマーは構造式(a)〜(h)に記載されているモノマー単位からなり、好ましくは、本質的に構造式(a)〜(d)から選択されたモノマー単位からなるものである。また、これらのモノマー単位において、アルキル基やハロゲン基などの置換基を有するモノマー単位を一部含んでもよい。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
ポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルホン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
【0013】
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
【0014】
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
【0015】
この様にして重合されるドープは紡糸部に供給され、紡糸口金から通常100℃以上の温度で吐出される。口金細孔の配列は通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列であっても良い。口金細孔数は特に限定されないが、紡糸口金面における紡糸細孔の配列は、紡出糸条(ドープフィラメント)間の融着などが発生しないような孔密度を保つことが肝要である。
【0016】
紡出糸条は十分な延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように十分な長さのドローゾーン長が必要で、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが要求され、大雑把には単孔吐出量(Q)によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2.2g/dtex以上が望ましい。
【0017】
上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)は、凝固浴に浸漬する前に、ポリベンザゾールが非相溶性である液体の蒸気に接触させることが重要であり、この処理によって、ポリベンザゾールマルチフィラメントを構成する各モノフィラメント繊維の各断面が、円形に近い断面を形成しやすくなり、マルチフィラメント中での凸型率を75%以上に高くすることができる。
【0018】
本発明における凸型率とは、ポリベンザゾール繊維のマルチフィラメント中の各繊維断面において、凸型断面の繊維がマルチフィラメント中に占める割合である。また、凸型断面とは、断面の輪郭線のどの場所で接線を引いても1点でしか接することができない形状であり、輪郭線の主要部に凹部やへこみを有さず、全体に凸型形状で、概ね円形と見做せるような断面である。凸型断面に該当しない断面とは、断面の輪郭線の主要部に凹部やへこみを有し、2点以上で共通の接線が引ける断面である(図1)。
本発明においては、概ね円形から真円に近い断面の繊維が75%以上であるため、繊維間の摩擦抵抗性が低減できる。凸型率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0019】
本発明におけるポリベンザゾール繊維の凸型率を高くする方法としては、繊維の断面の変形が大きくならないうちに、急速に凝固剤に接触させればよく、上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)を、凝固浴に浸漬する前に、ポリベンザゾールが非相溶性である液体、すなわち、凝固剤の蒸気などに積極的に接触させる蒸気処理を施す方法が推奨できる。
ポリベンザゾールの凝固剤としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコールの少なくとも1種が好ましく、簡便性の点で、水がより好ましい。
【0020】
蒸気処理は、ドープフィラメントを前記の液体の蒸気を含む気体(空気)に積極的に接触させるため、ドープフィラメント中に凝固剤が繊維内部全体にわたって急激に浸透、拡散し、凝固核のようなものが繊維中心部方向に形成されるのではないかと考えられる。繊維化した後に繊維断面を観察すると、驚くべきことに、構造形成開始のタイミングの違いに基づいて発生したと考えられる境界線が認められ、いわゆる、シース・コアと表現できる二層の発現が認められる。凝固剤が中心部までよく浸透するほど、コア層は小さくなり、最終的には境界線が認められなくなる。なお、蒸気処理をしない従来の繊維においても、シース・コア構造は認められない。
【0021】
蒸気処理の温度は、凝固剤の種類によっても異なるが、水の場合は、水蒸気雰囲気の温度または噴きつける水蒸気の温度は50〜200℃が好ましく、さらに好ましくは60〜160℃である。50℃未満では強度を低下させる効果が小さくなる。一方、200℃を越えると糸切れが多発して生産性が著しく低下する傾向がある。水より低沸点の凝固剤であればより低温でもよく、水より高沸点の凝固剤であればより高温でもよく、沸点と蒸気圧とを考慮して適宜選定することができる。
蒸気相中の全気体成分に対する蒸気成分の含有率は、短時間処理のためには、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
【0022】
蒸気相温度が低すぎると、シース層の厚みが発達せず、逆に温度が高すぎるとシース・コア構造は発現するが、通過中のフィラメントの温度が上昇し、糸切れが多発する傾向がある。蒸気の含有率についても、低すぎるとシース・コア構造を発現しにくくなる。
蒸気処理する装置は、ドープフィラメントが蒸気に接触し、少なくとも表層部の凝固を進行させることができるものであればよく、連続式、非連続式、密閉形、非密閉形など特に限定されない。
【0023】
蒸気相を通過した後のフィラメントは、次に凝固(抽出)浴に導かれて、ポリベンザゾールの溶剤の抽出とフィラメントの完全な凝固がなされる。凝固浴は、特に限定されず、如何なる形式の凝固浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用出来る。最終的に凝固浴においてフィラメント中に残存する溶剤が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体に特に限定はないが、好ましくはポリベンザゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。抽出液は燐酸水溶液や水が簡便で望ましい。また凝固(抽出)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗する方法も採用できる。また、凝固(抽出)工程において、フィラメント束を水酸化ナトリウム水溶液などで中和処理して後、水洗することは好ましい方法である。この後乾燥、熱処理を施してシース・コア構造を持つ繊維とすることができる。
【0024】
こののち繊維を乾燥させ、更に必要に応じて熱処理工程を通す。乾燥温度はポリベンザゾールの凝固剤や溶剤が飛びやすい温度であれば特に限定されないが、具体的には150〜400℃、好ましくは200〜300℃、更に好ましくは220〜270℃とする。弾性率を向上させる目的で、必要に応じて張力下にて熱処理を施しても良い。熱処理温度については、400〜700℃、好ましくは500〜680℃、更に好ましくは550〜630℃とする。かける張力は0.3〜1.2g/dtex、好ましくは0.5〜1.1g/dtex、さらに好ましくは0.6〜1.0g/dtexである。
【0025】
本発明のポリベンザゾール繊維におけるシース層とコア層との簡便な判別は、繊維断面を光学顕微鏡で観察することによって可能である。光学顕微鏡で繊維断面を40倍程度に拡大して観察すると、シース層とコア層の境界が円形の線として認められる。この円形の線の外側がシース層で、内側がコア層である。
【0026】
シース層が凝固剤蒸気の浸透に起因して形成された場合、シース層の厚みはできるだけ厚く、コア層の直径はできるだけ小さい方が好ましい。蒸気がよく浸透、拡散するような蒸気処理条件を選択すれば、コア層の比率が低くなり、ついにはコア層の比率は0%にすることができる。
本発明のポリベンザゾール繊維においてコア層が占める割合、すなわち、繊維断面方向におけるコア層の平均直径(r)の、繊維断面直径(r)に対する比率であるR(%)は、90%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは60%以下であり、0%に近づくことが最も好ましい。
R(%)が90%を超えるとフィブリル化しやすく、耐屈曲性能が不十分になる傾向がある。
【0027】
本発明で用いるポリベンザゾール繊維がフィブリル化しにくく、屈曲に対する耐久性が向上する理由は明確ではないが、蒸気の作用でシース層の結晶の配向が適度に乱れて繊維表層の方向性や特定方向への応力集中が緩和され、フィブリル化が抑制されるためと推察できる。
【0028】
ポリベンザゾール繊維の繊度は用途によって適宜設定することができる。たとえば本発明の織物を10メッシュ以上の印刷スクリーン(紗)に使用する場合には、モノフィラメントでの使用となるので、繊維直径が5〜1000μm、とくに精密印刷用に使用される場合には繊維直径が5〜50μmが好ましい。土木用補強材として使用する場合にはモノフィラメントの形態でポリベンザゾール繊維を経糸及び/又は緯糸として使用してもよいが、マルチフィラメントの形態で使用してもよい。マルチフィラメントの形態で使用する場合は、該マルチフィラメント100%がポリベンザゾール繊維で構成されていてもよく、他の熱可塑性ポリマーからなる繊維と複合化された形態で構成されていてもよい。複合化された形態の場合、織物としての経糸方向および緯糸方向の各々の引張強度が本発明を満足する上で、少なくとも50質量%以上がポリベンザゾール繊維であることが好ましい。そして、マルチフィラメントとしての総繊度は550〜10000dtex、とくに1100〜3300dtexが好ましい。さらに、本発明の織物は経糸または緯糸のどちらか一方にモノフィラメントを適用した構造のものでもよく、無論、経糸および緯糸双方がモノフィラメントで構成された織物、経糸および緯糸双方がマルチフィラメントで構成された織物すべてを含むものである。
【0029】
一般に高強度・高弾性率を有する繊維は通常、繊維表面がフィブリル化しやすい傾向にあるが、本発明に使用されるポリベンザゾール繊維は高強度・高弾性率を有しているものの、製造方法の説明で述べたように、繊維断面が円形に近く、特有の繊維表層部(シース層)を有するために繊維表面のフィブリル化は生じにくい。そのため製織する際に繊維表面のフィブリル化がほとんどないので、織目に該フィブリル化物が詰まったりすることがない。このため、本発明の織物は、織物表面が平滑であることがより一層求められる精密印刷用スクリーン用として好適である。さらにより一層の表面平滑を付与するために、織物を構成するポリベンザゾール繊維は、熱可塑性樹脂、あるいはポリシロキサン及び/又はフッソ系樹脂などで被覆することが好ましい。
【0030】
該熱可塑性樹脂としてはポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエ−テルイミド;ポリエーテルケトン;ポリエーテルエーテルケトン;ポリフェニレンサルファイド;ポリエーテルスルフォン;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンなどを挙げることができるが、中でも融点が120℃以上のポリマーを使用することが好ましい。これらの熱可塑性樹脂中には難燃剤、撥水剤、制電剤、除電剤、紫外線吸収剤等の添加剤が含有されていてもよい。
【0031】
ポリベンザゾール繊維に熱可塑性樹脂を被覆する方法としては、溶融した熱可塑性樹脂の浴にポリベンザゾール繊維を浸漬する溶融ディップ法、溶融した熱可塑性樹脂とポリベンザゾール繊維(モノフィラメント)を1つのノズル孔を通して繊維表面に樹脂を被覆する溶融押出被覆法(カバ−ヤ−ン法)、溶媒に溶解させた樹脂を浴にいれてその中をポリベンザゾール繊維を通す溶解ディップ法等を挙げることができ、ポリベンザゾール繊維表面に均一に熱可塑性樹脂が被覆され得る方法であればいずれをも採用できる。ポリベンザゾール繊維はモノフィラメント、マルチフィラメントのいずれの形態で樹脂を被覆してもよい。マルチフィラメントの場合には、マルチフィラメントを構成する単位の1つであるモノフィラメントの周囲に熱可塑性樹脂が被覆されていれば、単位のモノフィラメントが複数固着していてもよいが、マルチフィラメントの可撓性の点で単位のモノフィラメントが離れているほうが好ましい。
【0032】
熱可塑性樹脂で被覆されたポリベンザゾール繊維を用いて製織された織物はホットロ−ルプレス等の手段で経糸および緯糸の交点を熱接着することにより、織物の目ズレを防止したり、織物強度を高めることができる。
【0033】
また、ポリシロキサンとは鎖状オルガノポリシロキサンを示し、25℃下での粘度が5〜200000センチポイズのジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、変性ポリシロキサンなどを挙げることができる。
【0034】
ポリシロキサンのポリベンザゾール繊維への被覆量は、繊維表面を均一に斑なく覆うことができる量であればよく、たとえば、繊維質量に対して0.1質量%以上であればよく、とくに4〜20質量%であることが好ましい。
【0035】
また、上述のフッ素系樹脂としてはテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCFE)等を挙げることができ、これらの樹脂を乳化剤等を添加したエマルジョンの状態で使用する。具体的には、フッ素系樹脂のエマルジョンをポリベンザゾール繊維に10〜50質量%付着させた後、350℃以上の温度で加熱焼成して繊維表面に弗素系樹脂を被覆することができる。繊維への付着手段は上記のポリシロキサンの付着手段と同じ方法を挙げることができる。
【0036】
さらには、上述のポリシロキサンとフッ素系樹脂とを別々に2段付着させるか、あるいは混合液として1段付着させて加熱焼成することも可能である。かかる場合、ポリシロキサンとフッ素系樹脂との繊維への付着量は、合計で1質量%以上であることが好ましく、1〜20質量%、特に3〜10質量%が好適である。そして、ポリシロキサンとフッ素系樹脂との混合割合は前者:後者=1:9〜9:1(質量比)、特に5:5〜9:1であることが好ましい。
【0037】
上記の繊維表面への樹脂の被覆は繊維の形態で被覆してもよく、織物に製織した後に被覆してもよい。
【0038】
本発明の織物は、上記のモノフィラメント及び/又はマルチフィラメントを使用して作製されるが、織り方は用途に応じて適宜設定されるものである。たとえば、印刷用スクリーンとしての使用を目的とする場合には、ポリベンザゾール繊維のモノフィラメントを経糸および緯糸として使用して製織し、プレセット、ソーピング、熱加工して所定の厚みとメッシュ数のものを製造することができる。スクリーンとして使用する場合の織密度は経糸緯糸共に通常10〜600本/インチ(10〜600メッシュの平織)であるが、印刷用インキの供給量や絵柄の線幅に応じて適宜選択すればよい。好ましい織密度は、200〜500メッシュで、高精度の印刷では300〜450メッシュの織密度が好ましい。
【0039】
スクリーンの場合、紗張工程に供されるが、スクリーン枠は木製、金属製、樹脂製のいずれでもよく、特にアルミ製のものが耐久性、作業性、耐薬品性の点から好ましい。かかるスクリーンは、ポリベンザゾール繊維を構成要件としているので、高いテンションで紗張を行うことができるとともに、紗張後の経時変化が少ないので、次工程である乳剤の塗布工程で放置する時間は短くてすみ、一晩放置で十分である。紗張工程を経たスクリーンは、感光性または感熱性の樹脂組成物である乳剤が塗布される。感光性または感熱性の樹脂組成物としては、重クロム酸アンモニウム塩等の重クロム酸塩類、各種のジアゾ化合物、S.B.Q系感光剤、アクリルモノマー感光剤等を含有し、乳剤樹脂としてはゼラチン、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、アクリル系樹脂など、あるいはこれらの混合物が使用され、これらに乳化剤、帯電防止剤等の添加剤を加えて乳剤が形成される。
【0040】
塗り重ねにより所望の厚みになるように乳剤を塗布した後、乾燥されたスクリーンは露光または加熱工程によって最終的に仕上げられる。パターンの焼き付けは使用する乳剤によって異なるが、通常は高圧水銀ランプ、キセノンランプ等を光源に用い、1〜1.5m程度の距離で2〜5分間露光させ、未感光部分は水に浸漬後、水スプレー等で除去する。
【0041】
上記のスクリーンはポリベンザゾール繊維を構成要件としているので、紗テンションを高くすることができ、弾性回復性、寸法安定性も良好であることから、とくに繊維直径が10〜70μm、さらには35μm以下のモノフィラメントを使用し、300メッシュ以上、とくに400メッシュ以上の高密度スクリーンを製造することができる。
【0042】
本発明の織物を土木用強化材として使用する場合は、その織り方に制限はなくまた、ポリベンザゾール繊維の繊度も目的に応じて適宜選択することができる。鉄道、道路等の盛土築堤用や地盤改良用および山岳斜面の改良、河岸部や海岸部の護岸用に使用される場合、とくに軟弱地盤表層処理、水中堤体不等沈下防止、洗掘、吸出防止、フィルター材、ドレーン材、さらには土嚢等に使用される場合には、織物の厚みを薄くして目付を小さくすることで該織物の透水性を高めることができる。本発明の織物は上述のようにポリベンザゾール繊維を使用しているので高引張強度を有し、織物の厚みを薄くすることで透水性をも高めることができ、さらには織物の厚みを薄くしても砂の栽荷荷重に十分耐えることができる。
【0043】
以上、本発明の織物の用途を印刷用スクリーンおよび土木用強化材について説明したが、本発明の織物の用途はこられに限定されるものではなく、耐熱フィルター、濾過フィルター等のフィルター、セパレータ、電磁波遮蔽透視メッシュ、安全ネット、プラスチック補強材、セメント補強材、ゴム補強材等の産業資材分野に幅広く使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を更に実施例によって説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本発明では、以下の測定方法を採用した。
【0045】
<極限粘度>
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
<繊維繊度>
単糸繊度は温度20℃、湿度65RH%の雰囲気中で24時間調整した試料につきデニコン[サーチ(株)製]を使用して試料長50mm、本数20で測定を行い、算術平均値を求めた。総繊度は前記条件で調整された試料をラップリールに10m巻きとって質量を測定し、これを9000mの質量に換算して求めた。
<糸の引張特性>
JIS L 1013に準拠してオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて引張特性を求めた。
【0046】
<繊維断面観察の方法>
サンプル繊維をエポキシ樹脂(ガタン社製のG−2)に胞埋したものを、クロスセクションポリッシャー(日本電子(株)製 SM−09010)にてアルゴンイオンエッチングして、観察用繊維断面を得た。次いで、光学顕微鏡によってコア層とシース層との境界線を観察し、コア層の平均直径(r)と繊維断面直径(r)とを測定し、コア層の平均直径(r)の繊維断面直径(r)に対する比率R(%)を求めた。
R(%)=(r/r)×100
【0047】
<凸型率>
上記方法にて作成したエポキシ樹脂に胞埋したマルチフィラメント中の繊維断面を走査電子顕微鏡で、繊維の外輪郭の形を観察した。なお、観察前にカーボン蒸着を施し、日立社製走査電子顕微鏡(型番S−4500)を使用し、加速電圧は5〜10kV、倍率は1000〜3000倍にて観察した。
断面の輪郭線のどの場所で接線を引いても1点でしか接することの出来ない場合を凸型断面とし、輪郭線の2点以上で共通の接線が引ける場合を、凹部を有する断面とした。マルチフィラメント中における凸型断面の繊維の割合を算出した。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
【0048】
<織物の引張特性>
JIS L 1096に準拠して引張特性を求めた。
【0049】
(比較例用繊維の製造)
極限粘度〔η〕が29dl/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)(以下、PBOと略記)をポリリン酸に溶解させた紡糸ドープ(PBO濃度14質量%)を用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、1.65dtexになるような条件で紡糸を行った。
すなわち、紡糸ドープを紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166のノズルから紡出し、紡出されたドープフィラメントをクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却し、クエンチチャンバーを通過後、マルチフィラメントに収束させながら第1凝固・洗浄浴中に浸漬し、フィラメントを凝固させた。その後、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。その後、水分率が2%になるまで乾燥させて巻き取って評価用の繊維を得た。得られた比較例用繊維の断面測定の結果、R値は100%、凸型率は72%であった。
【0050】
(実施例用繊維の製造)
比較例用繊維の製造装置において、クエンチチャンバーの出口に内径5mm、長さ1mの筒を設置し、筒内に水蒸気を導入して筒内を水蒸気雰囲気で満たし、マルチフィラメントを筒内に通過させたことが異なる以外は比較例と同様にして評価用の繊維を得た。
なお、筒の周囲はヒーターで加熱し、水蒸気温度を制御した。満たした水蒸気の温度は75℃の飽和水蒸気とし、マルチフィラメントが水蒸気雰囲気を通過する時間は0.6秒となるようにした。
得られた実施例用繊維の断面は、R値が31%、凸型率が89%であった。
【0051】
[実施例及び比較例]
実施例用及び比較例用に製造されたそれぞれのポリベンザゾ−ル繊維から分繊して得たモノフィラメントを経糸および緯糸に使用し、スルザー織機で300メッシュに製織してメッシュ織物を得た。実施例の製織性は良好で筬やヘルド等にもスカム等のフィブリル化物の発生は見られなかったが、比較例の場合は、製織性は不良であり、スカム等のフィブリル化物の発生が見られた。
メッシュ織物をアルミフレームに張り、ポリビニルアルコール−酢酸ビニル系の感光乳剤(NK−14、カーレー社製)を塗布し、乾燥後に高圧水銀ランプで露光し、線幅80μmのパターンを焼き付け、未感光部分は水洗除去してスクリーンを作製した。このスクリ−ンを用いてガラス板にパターンを6000回印刷したところ、実施例の場合は、線幅80μmのパタ−ンがほとんどずれることなく鮮明に印刷されていた。比較例の場合は、目詰まりが発生しパタ−ンに不鮮明な部分が発生していた。
【0052】
[参考例]
市販のアラミド繊維を使用すること以外は実施例と同様にしてメッシュ織物を作製した。製織性は良好であったが、得られた織物の強度はポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維に比べて弱く、伸度の大きいものであった。該メッシュ織物からスクリーンを実施例と同様にして作製して印刷したが、2000回を越えた時点で伸度が大きいためパターンがずれて印刷されていた。
【0053】
以上の評価結果を表1にまとめた。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリベンザゾール繊維織物は、経糸及び/又は緯糸の繊維断面が円形に近く均一であるため、印刷用スクリーン、耐熱フィルター、濾過用フィルターなどに好適であり、また、織物の経糸及び/又は緯糸の引張強度が0.5Nm2/g 以上の高強度であるため、高強力で軽量の織物の製造が容易であり、ジオテキステイル、安全ネット、電磁波遮蔽透視メッシュ、セパレータ、さらには、耐熱性、難燃性が必要な様々な産業用資材用途に使用可能であり、産業上の寄与が大きい織物である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明における凸型断面と凹部を有する断面(凸型断面でない断面)の例を示す説明図である。
【図2】本発明におけるポリベンザゾール繊維断面のシース・コアの一例を示す模式的説明図である。
【符号の説明】
【0056】
:繊維断面直径
:コア層の直径




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンザゾールマルチフィラメント中の各モノフィラメント繊維の各断面についての下記の凸型率(%)が少なくとも75%であるポリベンザゾール繊維を、経糸及び/又は緯糸に使用してなるポリベンザゾール繊維織物。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
【請求項2】
繊維の断面が凸型断面であるポリベンザゾールモノフィラメント繊維を、経糸及び/又は緯糸に使用してなるポリベンザゾール繊維織物。
【請求項3】
前記モノフィラメント繊維の断面が、光学顕微鏡によって観察した際に、シース層とコア層の二層に識別可能であり、コア層の平均直径rの繊維断面直径rに対する比率R(%)が90%以下である請求項又は2に記載のポリベンザゾール繊維織物。
【請求項4】
織物の単位目付当たりの経糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上、緯糸方向の引張強度が0.5Nm2/g 以上である請求項1〜3のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維織物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63692(P2008−63692A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242644(P2006−242644)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】