説明

ポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーの製造方法

非ポリベンゾビスオキサゾールポリマーを使用し、ポリマーをヒドロキシル化し、凝固ポリマーを形成し、そして凝固ポリマーを加熱し、ヒドロキシル化ポリマーにおいて閉環が生じることによるポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーの新規製造方法に関する。これは最初に非ポリベンゾビスオキサゾールポリマーを形成し、そしてポリマーの繰り返し単位をポリベンゾビスオキサゾールへと変換することによって達成される。
【背景技術】
【0002】
ロッド様ポリマーから形成される繊維は、一般的に、防弾、ロープおよびケーブル、ならびに耐切断性衣服を含む様々な用途で使用される。ポリベンゾビスオキサゾールポリマーは、それらのロッド様構造のため、優れた物性を提供する。
【0003】
ロッド様ポリマーからの繊維は、典型的に、紡糸口金を通してポリマー溶液を押出すことによって形成される。ポリ(ベンゾ[1,2d:5,4−d’]ビスオキサゾール−2,6−ジイル−1,4−フェニレン)のような(シス−ポリベンゾビスオキサゾールポリマー)(c−PBO)の限られた溶解性のため、かかるポリマーから製造される繊維は、典型的に、ポリリン酸(PPA)のような強い鉱酸から紡糸される。時間が経過しても繊維に存在する残留ポリリン酸は、繊維の物性を低下させる原因となり得る。
【0004】
また、繊維の代わりに、フィルムまたはシートの形態のようなポリマーも同様に有用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、ポリリン酸を使用せずに、ポリベンゾビスオキサゾールポリマーのシス異性体のようなポリマーを製造する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
a)溶媒と、次の構造:
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、
Ar
【0009】
【化2】

【0010】
であり、Ar
【0011】
【化3】

【0012】
である]を有するポリマーとを含んでなるポリマー溶液を形成する工程と、
b)酸素原子を提供するアルキルカルボン酸の存在下で、a)のポリマー溶液と、酸化剤とを接触させて、Arの少なくとも一部をヒドロキシル化し、オルトヒドロキシル基を有するヒドロキシル化ポリマーを形成する工程と、
c)工程b)のヒドロキシル化ポリマーから凝固ポリマーを形成する工程と、
d)凝固ポリマーを加熱して、オルト−ヒドロキシル基の少なくとも一部の閉環を形成する工程と
を含んでなるポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーの製造方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、最初に芳香族ポリアミドポリマーを製造し、そしてその後芳香族ポリアミドポリマーをポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーに変換することによって、ポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーを製造する方法に関する。
【0014】
反応手順の最初の工程は、発明の開示に定義される構造Iのポリマーの溶液を形成することを含む。溶液の形成において代表的な溶媒には、限定されないが、硫酸、ポリリン酸、メタンスルホン酸、n−メチルピロリジノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドおよびテトラヒドロフランが含まれる。好ましくは、溶媒は硫酸またはn−メチルピロリジノンである。最も好ましくは、溶媒は硫酸である。
【0015】
構造Iのポリマーは当該分野で既知であり、そして芳香族ジアミンと芳香族二酸との反応によって形成可能である。
【0016】
適切なジアミンモノマーには、限定されないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジフェニルジアミン、3,3’−ジフェニルジアミン、3,4’−ジフェニルジアミン、4,4’−オキシジフェニルジアミン、3,3’−オキシジフェニルジアミン、3,4’−オキシジフェニルジアミン、4,4’−スルホニルジフェニルジアミン、3,3’−スルホニルジフェニルジアミン、4,4’−スルホニルジフェニルジアミン、3,3’−スルホニルジフェニルジアミンおよび3,4’−スルホニルジフェニルジアミンが含まれる。好ましくは、芳香族ジアミンは、m−フェニレンジアミンまたはp−フェニレンジアミンである。適切な二酸モノマーには、限定されないが、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、3,3’−オキシジ安息香酸、3,4’−オキシジ安息香酸、4,4’−スルホニルジ安息香酸、3,3’−スルホニルジ安息香酸、3,4’−スルホニルジ安息香酸、4,4’−ジ安息香酸、3,3’−ジ安息香酸および3,4’−ジ安息香酸が含まれる。好ましくは、二酸モノマーは、テレフタル酸、イソフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸であり、テレフタル酸が最も好ましい。
【0017】
Arが定義される場合、構造は以下のように表記される。
【0018】
【化4】

【0019】
好ましい構造Iポリマーは、次の構造を有する。
【0020】
【化5】

【0021】
この構造Icは一般的にPPD−Tと呼ばれる。
【0022】
さらに好ましい構造Iポリマーは、次の構造を有する。
【0023】
【化6】

【0024】
この構造Idは一般的にMPD−Tと呼ばれる。
【0025】
反応手順のさらなる工程は、構造IのAr基をヒドロキシル化して、オルトヒドロキシル基をもたらすことを含んでなる。ヒドロキシル化の工程は、アルキルカルボン酸および酸化剤の使用を含む。適切なアルキルカルボン酸には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等が含まれる。好ましくは、アルキルカルボン酸はギ酸または酢酸である。最も好ましくは、アルキルカルボン酸は酢酸である。アルキルカルボン酸は、硫酸より低い解離定数を有し、そしてヒドロキシル化のために必要な酸素を含有する。
【0026】
適切な酸化剤には、ニトロシル硫酸、四酢酸鉛および硝酸ナトリウムが含まれる。好ましくは、酸化剤はニトロキシ硫酸である。
【0027】
好ましくは、酸化剤は、不活性雰囲気下で機械的に撹拌しながら、酸を含有するポリマー溶液に添加される。不活性雰囲気とは、本質的に不活性である雰囲気を意味する。適切な不活性雰囲気としては、限定されないが、窒素、ヘリウムおよび貴ガスが挙げられる。
【0028】
構造IのAr基のヒドロキシル化によって、ポリマー中に以下が存在するであろう。
【0029】
【化7】

【0030】
Ia、Ib、IcおよびIdに対して相当するヒドロキシル化構造は、次の通りである。
【0031】
【化8】

【0032】
代表的なヒドロキシル化工程で、Ar基の一部のみがヒドロキシル化されるであろうことは理解される。従って、ほとんどの場合、未反応のAr基が最終的なポリマーに存在するであろう。
【0033】
本方法のさらなる工程は、Ar基がオルトヒドロキシル基を含有するポリマー(ならびに未反応Ar基を含有するポリマー)からの凝固されたポリマーの形成を含む。この工程は、繊維を含む芳香族ポリアミドポリマーの形成における既知および従来の方法で行われてよい。この工程は、フィルムまたは繊維のように溶液から固体ポリマーを形成するいずれかの技術によって実行可能である。溶液からの繊維は、湿式紡糸、乾燥ジェット湿式(エアーギャップ)紡糸、ジェット減衰紡糸、遠心紡糸、電子紡糸等によるものであってよい。本発明の繊維紡糸のために最も有用な方法の例は、米国特許第3,869,429号明細書、米国特許第3,869,430号明細書および米国特許第3,767,756号明細書に見ることができる。固体ポリマー形成後、ヒドロキシル化ポリマーは、洗浄、pH変性、加熱処理、乾燥および結晶化のような、残留溶媒の量を低下させ、ポリマーの機械特性を改善するための当該分野で既知の方法によって加工可能である。好ましくは、ポリマーを水浴中で凝固させて、第2の水浴中で洗浄し、中和浴で中和し、そして乾燥させる。
【0034】
反応手順のさらなる工程は、形成された固体ポリマーの加熱を利用する。加熱工程によって、オルトヒドロキシル基を含有するAr基の一部の閉環が生じる。便宜上、適切な温度範囲は、170〜280℃、好ましくは185〜250℃であり、最も好ましい温度は、200℃と240℃との間である。代表的な加熱時間は5〜60秒の範囲である。
【0035】
従って、ポリマーを含有するオキサゾールが形成される。
【0036】
繊維の場合、加熱の間に繊維が、繊維形成において既知の張力を受けることは理解される。適切な張力は、1デニールにつき1.0〜18.0グラム(gpd)の範囲にあり、2.0〜10.0gpdが好ましく、そして2.5〜5.0gpdが最も好ましい。
【0037】
閉環の結果、繊維は以下の構造の繰返し単位を含有する。
【0038】
【化9】

【0039】
構造IIa、b、cおよびdから得られる相当する閉環構造は、次の通りである。
【0040】
【化10】

【0041】
加熱工程で、典型的に、オルトヒドロキシル基を含有するAr基の一部のみが、閉環、すなわち、オキサゾール含有ポリマーをもたらすことが理解される。しかしながら、少なくとも30%、そして一般的に50%より多くのオルトヒドロキシル基が変換されると考えられる。
【0042】
従って、本発明において、最終的なポリマーは、典型的に、少なくとも構造III、ならびに構造Iおよび構造IIの少なくとも1種の繰返し単位を含有する。しかしながら、構造IIIが構造Iまたは構造IIの1種のみと一緒に存在することは、本発明の範囲内である。
【0043】
また、反応手順に関して、Iaの使用の指示によって、ヒドロキシル化に関してIIa、そして閉環に関してIIIaがもたらされる。同様に、b、cおよびdの指示は、ヒドロキシル化に進む、および閉環に進む出発ポリマー種において適用できる。
【0044】
上述したように、構造IcまたはIdの好ましい出発材料はPPD−TまたはMPD−Tである。以下は、反応手順の略図を表す。
トランス;
【0045】
【化11】

【0046】
シス;
【0047】
【化12】

【0048】
試験方法
強度、伸びおよび弾性率をASTM D 3822に従って決定する。強度(破断強度)、破断点伸びおよび弾性率をインストロン(Instron)試験機上で試験繊維を破断することによって決定する。強度を、線密度によって除算された破断応力として報告する。弾性率を、強度と同様の単位に変換された初期応力/歪み曲線の勾配として報告する。伸びは、破断時の長さの増加百分率である。
【0049】
固有粘度は、ポリマーの質量濃度に対する相対的な粘度の自然対数の比率であり、25℃で100mlの濃硫酸中の0.5gのポリマーの溶液に対して測定される。
【0050】
相対粘度は、溶媒の粘度に対する溶液中ポリマーの粘度の比率であり、一定温度での溶媒の流出時間によって除算された溶液の流出時間によって表される。
【0051】
以下の実施例において、全ての部およびパーセントは、他に明記されない限り重量による。
【実施例】
【0052】
実施例1
窒素インレット/アウトレットおよび高圧空気によって駆動されるバスケットスターラーを備えた反応釜をシリコーン油浴中にセットアップした。固有粘度6.0のPPD−T[p−フェニレンテレフタルアミド]3.0グラム、および硫酸100グラムを窒素下で添加し、そして混合物を徐々に約70℃まで加熱し、溶液を形成した。この溶液に、ニトロシル硫酸(95%)1.68グラムおよび酢酸1グラムを添加した。NSAおよびPPD−Tを基準としたニトロ硫酸(NSA)のモル%は50.0%であった。溶液を窒素下で70℃で12時間撹拌した。溶液の色は、ヒドロキシル化反応の結果として黄色から青みがかった緑色へと変化した。得られた溶液は室温で水性媒体中で沈殿し、これを5回、それぞれ200mlの水で洗浄し、そして最後に希釈水酸化ナトリウム溶液で約9のpHまで中和された。黄褐色の沈殿ポリマーを濾過し、そして窒素下で一晩120℃で真空オーブン中で乾燥させた。乾燥されたが加熱処理されていない試料を、標準燃焼法によるC、H、NおよびOに関する元素分析にかけた。結果は以下の通りである。
【0053】
【表1】

【0054】
以下の計算から、(PPD−Tに関して定義された)Ar基の約15%がヒドロキシル化されたと決定された。
【0055】
(試料のO含有量−PPD−T対照のO含有量)/(100%置換のO含有量−PPD−T対照のO含有量)(13.67−11.81)(23.68−11.81)×100=1.86/11.87×100=15.67%
【0056】
実施例2〜7
100%硫酸20.4kgおよび酢酸0.21kgを窒素下で二軸スパイラルブレードを備えたミキサー中で冷凍した。この冷凍された硫酸スラリーにPPD−Tポリマー4.9kgを−20℃で添加した。温度を15分間かけて約82℃まで徐々に上げながら、混合物を連続的に撹拌した。表1に示される様々な量のニトロシル硫酸を溶液に添加した。混合物を窒素下で82℃で激しく混合しながら、さらに2時間撹拌した。ポリマー溶液(濃緑色)を、米国特許第3,819,587号明細書に記載されるように標準エアーギャップ紡糸によって繊維へと紡糸し、1.5dpfフィラメントの400デニールヤーンを形成した。次いで、このヤーンを15分間、185℃の温度で閉環を生じるように加熱処理した。
【0057】
【表2】

【0058】
実施例8
窒素インレットおよびアウトレットおよびバスケットスターラーを備えた乾燥1リットル反応釜に、100.1%硫酸97部、6.3の固有粘度のポリ(p=フェニレンテレフタルアミド)[PPD−T]3部、およびニトロシル硫酸3部を添加した。混合物を50℃まで加熱し、そして窒素下で5時間、または全てのPPD−Tポリマーが完全に溶解されるまで撹拌した。氷酢酸3部を添加し、そして温度を75℃まで高め、そしてさらに3時間撹拌した。得られた薄緑色ポリマー溶液の少量をガラスプレートに配置し、そして20ミルドクターブレードを使用することによって薄フィルムを塗布した。ポリマーフィルムをガラストレイで蒸留水に浸漬し、硫酸を抽出する。液体が中性pHを示すまで、得られたポリマーフィルムを数回洗浄し、残留硫酸を除去した。得られたフィルムを120℃真空オーブンに配置し、乾燥させた。得られたフィルムは薄茶色である。乾燥フィルムを、環化のための熱処理のため、10分間250℃のオーブン中に配置した。乾燥させたが、熱処理されていないフィルム試料をPPD−Tポリマー対照と一緒にC、H、N、Oの元素分析にかけ、ヒドロキシル化の程度を決定した。結果は以下の通りである。
【0059】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)溶媒と、次の構造:
【化1】


[式中、
Ar
【化2】


であり、Ar
【化3】


である]を有するポリマーとを含んでなるポリマー溶液を形成する工程と、
b)酸素原子を提供するアルキルカルボン酸の存在下で、a)のポリマー溶液と、酸化剤とを接触させて、Arの少なくとも一部をヒドロキシル化し、オルトヒドロキシル基を有するヒドロキシル化ポリマーを形成する工程と、
c)工程b)のヒドロキシル化ポリマーから凝固ポリマーを形成する工程と、
d)凝固ポリマーを加熱して、オルト−ヒドロキシル基の少なくとも一部の閉環を形成する工程と
を含んでなるポリベンゾビスオキサゾール含有ポリマーの製造方法。
【請求項2】
Arが、
【化4】


である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Arが、
【化5】


である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Arが、
【化6】


である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
Arが、
【化7】


である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酸化剤が、ニトロ硫酸、四酢酸鉛または硝酸ナトリウムである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
酸化剤がニトロ硫酸である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アルキルカルボン酸がギ酸または酢酸である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
アルキルカルボン酸が酢酸である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
加熱が170〜280℃の範囲内である請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2009−501269(P2009−501269A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521521(P2008−521521)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【国際出願番号】PCT/US2006/026872
【国際公開番号】WO2007/008887
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】