説明

ポリペプチド系重合体およびその合成方法

本発明は、ポリペプチド系重合体を合成する新規な方法およびこの方法により得られる一般式(I)(式(I)中、RとRはそれぞれ、置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、nは2以上の自然数である)のポリペプチド系重合体に関する。前記ポリペプチド系重合体の合成方法は、一般式(II)のイミンと、一酸化炭素とをモノマーとし、金属コバルト触媒存在下で交互共重合を発生させ、一般式(I)のポリペプチド系重合体を直接生成するものである。本発明の方法が提供する新しいアプローチによれば、従来の複雑な工程を必要とせず、ポリペプチドの合成を大幅に簡易化でき、また従来の方法では得られないポリペプチド系重合体を得ることができる。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はポリペプチド系化合物の合成に関する。特に、遷移金属触媒存在下でイミンと一酸化炭素との交互共重合反応によって合成されるポリペプチド系重合体に関する。この反応は全く新しいタイプの重合反応であり、全く新しいポリペプチド合成方法でもある。この方法によれば、従来の方法では得ることが困難であったポリペプチド系重合体を得ることができる。これらのポリペプチド系重合体は、独特な性質および用途を有する。
【背景技術】
【0002】
ポリペプチドは重要なバイオポリマーであり、生体の体内構造や機能のキャリアとして
ばかりではなく、触媒、素材、医薬の分野においても広範に用いられている。従来、この種の重合体はアミノ酸を原料として合成されているが、この方法によれば、まず特殊な試薬を用いて、極めて安定したカルボキシル基を化学的手法で活性化し、ペプチド結合を生成する必要があった。このような合成は、生物体内ではリボゾームと酵素の触媒作用により行われるものであり、この方法を用いれば、遺伝子工学によって特定のアミノ酸配列を持つポリペプチドを合成することが可能である。化学的方法を用いてポリペプチドを合成すれば、より簡便である。例えば、液相および固相カップリング技術は、短ペプチドを合成する最も一般的な方法である。しかし、分子量の大きいポリペプチドの合成の最も簡単な方法はアミノ酸−N−カルボン酸無水物(NCA)の開環重合反応法である。NCAは通常ホスゲンによりアミノ酸を活性化して得られる。しかし、この方法は、コストが高いことから、ポリペプチド系材料を大規模生産する上で、好ましくない。
【0003】
アミノ酸を原料とするために生じるこれらの問題を解決するための新しい方法として、一級アミンとハロ酢酸とを「モノマー前駆体」として、固相合成技術により段階を経てペプトイドと呼ばれるオリゴペプチドを生成する方法がある。しかしながら、分子量の大きいポリペプチドの合成に用いるモノマー前駆体として最も関心を集めたのは、イミンと一酸化炭素である。これらは提案されて久しく、金属触媒存在下の共重合反応によって直接ポリペプチドを生成することが可能ではないかと広く論議されていた。しかし残念ながら、適当な触媒が見つからないことから、この反応を実現することはこれまで困難であった。
【0004】
1998年、SenとArndtsenとは、それぞれアシル基パラジウム結合にイミンを挿入する反応を研究し、期待したポリペプチドは得られなかったものの、アミドを得ることに成功した(Kacker,S. et al. Angew. Chem.Int.Ed. 1998,37,1251;Dghaym,R.D. et al. Organometallics 1998,17,4)。これが、遷移金属炭素結合にイミンを挿入した最初の成功例である。Arndtsenらは、さらに、ニッケルおよびマンガンのカルボニル化合物を用いて、イミンの挿入を試みた。しかし、現在までのところ、一つのイミンと一酸化炭素とを金属炭素結合に挿入して、アミノ酸の構成ユニットを一つ生成したのが最高の成果であった。ポリペプチドを合成するという面では、最も簡単なジペプチドの合成にすら成功していない(Davis,J.L. et al. Organometallics 2000,19,4657−4659;Lafrance,D. et al. Organometallics 2001,20,1128−1136)。
【0005】
NCAの開環重合反応によって分子量の大きいポリペプチドを合成する方法は、通常、N−非置換アミノ酸の場合に適用される。このような開環重合反応で、N−置換アミノ酸から分子量の大きいポリペプチドを合成することは、立体障害の関係から、非常に困難である(Cosani,A. et al. Macromolecules 1978,11,1041;Ballard,D.G.H. et al. J.Chem.Soc. 1958,355)。現在までに得られているのは、プロリンの重合体およびN−メチルアラニンの短鎖重合体のみである。
【0006】
本発明で用いる金属コバルト触媒は、重要なカルボニル化反応の触媒である。このようなカルボニル化反応を触媒する触媒活性物質は、通常、アシルコバルト化合物である(Galamb,V.,et al. J.Am.Chem.Soc. 1986,108,3344)。アシルコバルト化合物の触媒の存在下で、窒素複素環プロパンと一酸化炭素とを共重合反応させ、βペプチドを得ることに成功している(Jia,L. et al. J.Am.Chem.Soc. 2002,24,7282)。最近、Senらがこの反応パターンを参考にして、アシルコバルト化合物触媒を用いてイミンと一酸化炭素とを共重合反応させる構想を発表した。しかし、結果的には、期待したポリペプチドは得られず、N−アルキルフタルイミジンが生成された(Funk,J.K. et al. Helv.Chim.Acta 2006,89,1687)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリペプチド系重合体およびその合成方法を提供することであり、具体的には、遷移金属触媒存在下でのイミンと一酸化炭素の交互共重合反応によって、新規なポリペプチド系重合体を生成することである。このようなポリペプチド系重合体は、従来の方法(例えば、開環重合反応法)では得ることができない。また、これら重合体は特殊な性質を有し、素材や医薬の分野で広範な用途が見込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
具体的には、本発明に係るポリペプチド系重合体は、一般式(I)で表される構造を有する。
【化1】

式(I)中、RとRはそれぞれ、置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、nは2以上の自然数である。
【0009】
一般式(I)で表されるポリペプチド系重合体には、以下の化合物が含まれる。
(1)一般式(I)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、R=R=メチル基ではないことを条件とする、ポリペプチド系重合体。
【0010】
(2)一般式(I)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基である、ポリペプチド系重合体。
【0011】
(3)一般式(I)で表され、Rはメチル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基である、ポリペプチド系重合体。
【0012】
(4)一般式(I)で表され、Rはメチル基であり、Rは、置換もしくは未置換のアルキル基であり、Rが置換メチル基であるとき、メチル基の3つの水素のいずれもが置換されている、ポリペプチド系重合体。
【0013】
(5)一般式(I)で表され、Rはメチル基であり、Rは置換もしくは未置換のアリール基である、ポリペプチド系重合体。
【0014】
本発明によって提供する、上記一般式(I)で表されるポリペプチド系重合体の合成方法では、下記一般式(II)で表されるイミンをモノマーとする。
【化2】

式(II)中、RとRとはそれぞれ、置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、遷移金属触媒存在下で一酸化炭素と交互共重合し、一般式(I)のポリペプチド系重合体を直接生成する。
【化3】

式(I)中、RとRはそれぞれ、置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、nは2以上の自然数である。
前記重合反応の触媒は、下記一般式(III)で表される金属コバルト化合物である。
【化4】

式(III)中、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子、リン配位子、窒素配位子またはイソニトリル配位子である。
【0015】
一般式(III)で表される金属コバルト化合物には、以下の化合物が含まれる。
(1)式(III)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子である、金属コバルト化合物。
【0016】
(2)式(III)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子である、金属コバルト化合物。
【0017】
(3)式(III)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基であり、Lはカルボニル基配位子である、金属コバルト化合物。
【0018】
一般式(III)で表される金属コバルト化合物(すなわちアシルコバルト化合物)は、溶液状態下では、通常、一般式(IV)で表される金属コバルト化合物(すなわちアルキルコバルト化合物)との混合物であり、両者は互いに転化して、以下のように平衡し、不可分の関係にある。
【化5】

前記重合反応の触媒には、一般式(III)で表される化合物に転化しうる前駆体化合物(IV)が含まれる。当該前駆体化合物(IV)は、重合反応の条件下で化合物(III)に転化しうるため、重合反応の触媒の役割を果たすことができる。
【0019】
触媒前駆体である化合物(IV)には、以下の化合物が含まれる。
(1)式(IV)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子、リン配位子、窒素配位子またはイソニトリル配位子である、金属コバルト化合物。
【0020】
(2)式(IV)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子である、金属コバルト化合物。
【0021】
(3)式(IV)で表され、Rは置換もしくは未置換のアルキル基であり、Lはカルボニル基配位子である、金属コバルト化合物。
【0022】
前記共重合反応は、極性または非極性の不活性な希釈剤中において行うことができる。反応を行う際の一酸化炭素の圧力は、広範囲で可能であるが、好ましくは0.1013MPa以上、さらに好ましくは4.14〜5.52MPaである。また、反応を行う際の温度は、広範囲で可能であるが、触媒の安定性の面から、200℃以下であり、好ましくは20〜100℃、更に好ましくは40〜60℃である。反応時間は反応速度によって決まり、0.1〜120時間であってよいが、好ましくは1〜48時間である。
【0023】
さらに具体的には、本発明の前記重合反応の反応プロセスは、下記の反応式によって表される。
【化6】

【0024】
上記反応で用いられる金属触媒は、アシルコバルト化合物であり、下記の構造を有する。
【化7】

式中、Rはアルキル基、フェニル基または置換フェニル基である。
【0025】
イミンは下記の構造を有する。
【化8】

式中、R’はフェニル基、置換フェニル基またはアルキル基である。
【0026】
生成されるポリペプチドは下記の構造を有する。
【化9】

式中、R’はフェニル基、置換フェニル基またはアルキル基であり、nは2以上の自然数である。
【0027】
本発明の合成方法は、以下の工程を有する。
1)COガスを充満させたオートクレーブに、乾燥した不活性希釈剤を加え、触媒を濃度が0.1mM〜1M、好ましくは1〜100mMとなるように加える。一酸化炭素の圧力が0.1013MPaを超えるまで、好ましくは4.14〜5.52MPaまで加圧した後、触媒が、部分的にカルボニル基を失っている形から、すべて上記アシルコバルトの形に転化するよう静置する。静置時間は0.5〜24時間、好ましくは6〜12時間である。
【0028】
2)脱圧力後、イミンを加えてバルブを閉め、一酸化炭素の圧力が0.1013MPa超、好ましくは4.14〜5.52MPaになるまで加圧した後、オイルバスで加熱、攪拌する。反応温度は20〜100℃、好ましくは40〜60℃とする。
【0029】
3)反応完了後、冷却し、脱圧力した後、オートクレーブを開き、得られた液体から溶媒を真空除去することによって、上記ポリペプチドの粗生成物が得られる。
【0030】
本発明の前記希釈剤としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、n−デカン、石油エーテル等のアルカン類;ベンゼン、トルエン、p−ジメチルベンゼン、o−ジメチルベンゼン、m−ジメチルベンゼン、エチルベンゼン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジメトキシプロパン、1,4−ジオキサン、アニソール等のエーテル類;メチルアセテート、エチルアセテートなどのエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、フェニルニトリルなどのニトリル類が挙げられる。n−ヘキサンなどのアルカン類または1,4−ジオキサンなどのエーテル類が好ましい。
【0031】
本発明の前記R、R、Rに関して言及した「置換もしくは未置換のアルキル基」とは、一つまたは複数の部位が置換可能であるアルキル基を指す。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、フェノキシメチル基、フェノキシエチル基、ベンジルオキシメチル基、ベンジルオキシエチル基、フタルイミドメチル基、フルオロメチル基、フルオロエチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、エトキシシクロペンチル基、シクロヘキシル基、tert−ブチルオキシシクロヘキシル基、ベンジルオキシシクロシキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ベンジル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、4−メトキシベンジル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、tert−ブチル基、tert−ペンチル基またはベンジル基が好ましい。
【0032】
「置換もしくは未置換のアリール基」とは、一つまたは複数の部位が置換可能であるアリール基を指す。アリール基の例としては、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、エチルフェニル基、エトキシフェニル基、プロピルフェニル基、トリメチルフェニル基、ナフチル基、ピリジル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基が挙げられる。フェニル基、トリル基またはメトキシフェニル基が好ましい。
【0033】
「置換もしくは未置換のアルコキシ基」とは、一つまたは複数の部位が置換可能であるアルコキシ基を指す。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、iso−プロピルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、フェノキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2―フェニルエトキシ基、3−フェニルプロピルオキシ基、2−メトキシエトキシ基、3−メトキシプロピルオキシ基、2−フェノキシエトキシ基、3−フェノキシプロピルオキシ基、フルオロエトキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基が挙げられる。メトキシ基、エトキシ基またはフェノキシ基が好ましい。
【0034】
「置換もしくは未置換のアリールオキシ基」とは、一つまたは複数の部位が置換可能であるアリールオキシ基を指す。アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、メチルフェノキシ基、エチルフェノキシ基、プロピルフェノキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、ピロリルオキシ基、ピランオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基が挙げられる。フェノキシ基、メチルフェノキシ基が好ましい。
【0035】
「アミド基」としては、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジプロピルアミド基、ジイソプロピルアミド基、ジベンジルアミド基、シクロペンチルアミド基、シクロヘキシルアミド基が挙げられる。シクロペンチルアミド基またはシクロヘキシルアミド基が好ましい。
【0036】
「リン配位子」とは、ホスフィンまたは亜リン酸エステル系配位子を指す。3価のリン配位子の例としては、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリ(o−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(m−メチルフェニル)ホスフィン、トリ(p−メチルフェニル)ホスフィン、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリプロピル、亜リン酸トリブチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリトリルが挙げられる。トリフェニルホスフィン、トリ(o−メチルフェニル)ホスフィンまたは亜リン酸トリフェニルが好ましい。
【0037】
「窒素配位子」の例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、ピリジン、キノリンが挙げられる。ピリジンが好ましい。
【0038】
「イソニトリル配位子」の例としては、メチルイソニトリル、エチルイソニトリル、プロピルイソニトリル、イソプロピルイソニトリル、ブチルイソニトリル、tert−ブチルイソニトリル、ベンジルイソニトリル、フェニルイソニトリルが挙げられる。tert−ブチルイソニトリルが好ましい。
【0039】
周知のとおり、金属触媒存在下でのイミンと一酸化炭素の交互共重合反応は、長期にわたり期待されつつ、実現が困難であった。本発明で提供する触媒系は、金属触媒存在下でのイミンと一酸化炭素の交互共重合を実現して、ポリペプチド系重合体を得ることができ、ポリペプチド系重合体の合成に新たなる道を切り開いた。この合成方法によれば、従来の方法における複雑な合成工程やアミノ酸活性化工程を必要とせず、ポリペプチドの合成を大幅に簡易化できる。また、イミンはカルボニル化合物(アルデヒドやケトン)および適当なアミンから容易に得ることができ、一酸化炭素もまた安価で豊富な原料であるため、この合成方法は、非常に経済的で実用的なポリペプチド系重合体合成方法である。特に、この方法は、これまで期待されながら得られなかったポリペプチド系重合体を得ることができるため重要な意義があり、しかもこの種のポリペプチド系重合体は、素材や医薬分野において広範な用途が見込まれる。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0040】
(実施例1)
【化10】

【0041】
一酸化炭素雰囲気下で、300mlのオートクレーブに、乾燥した1,4−ジオキサンを50mlと、アシルコバルト触媒(III)(R=PhCH,L=CO)のヘキサン溶液(2.0M、6mmol)を3ml加えた。バルブを閉め、一酸化炭素の圧力を5.52MPaまで上昇させた後、12時間静置した。脱圧力した後、イミン2aを1.0g(66mol)加えた。バルブを閉め、一酸化炭素の圧力を5.52MPaまで上昇させた。50℃のオイルバスで12時間電磁攪拌を行い反応させた。室温まで冷却した後、脱圧力し、オートクレーブを開いて、黒褐色の液体を得た。溶媒を真空除去し、黒褐色の粘稠物を得た。上記黒褐色の粘稠物に少量のn−ヘキサンを加えて、充分攪拌して洗浄し、未反応のモノマーなどの不純物を除去して固体粉末を得た。この固体を吸引濾過して集め、ポリペプチド1aの灰白色粉末を得た。H NMR(400MHz,ClCDCDCl):δ7.17(bs,5H,Ph),6.50(bs,1H,CH),2.57(bs,3H,Me).13C NMR (125MHz,ClCDCDCl):δ171.1(CO),134.3(Ph),129.5(Ph),59.5(CH),33.2(Me).IR(KBr):νco1647cm−1
【0042】
(実施例2)
1,4−ジオキサンの代わりにn−ヘキサンを希釈剤として用いる以外は、実施例1と同様に操作して、ポリペプチド1aの灰白色粉末を得た。
【0043】
(実施例3)
触媒をオートクレーブに加えた後、1気圧超の一酸化炭素雰囲気下で静置する処理を経ずに、直接イミンのモノマーを加える以外は、実施例1と同様に操作して、ポリペプチド1aの灰白色粉末を得た。
【0044】
(実施例4)
金属コバルト触媒(III)(R=CH,L=CO)を用いる以外は、実施例1と同様に操作して、ポリペプチド1aの灰白色粉末を得た。
【0045】
(実施例5)
【化11】

【0046】
イミン2bを用いる以外は実施例1と同様に操作して、ポリペプチド1bの灰白色粉末を得た。収率は100%であった。H NMR(400MHz,ClCDCDCl):δ 6.98(bs,4H,C),6.48(bs,1H,CH),2.56(bs,3H,MeN),2.16(bs,3H,Me).13C NMR(125MHz,ClCDCDCl):δ 171.2(CO),138.9(C),131.2(C),130.1(C),59.1(CH),33.1(MeN),21.7(Me).IR(KBr):νco1647cm−1
【0047】
(実施例6)
【化12】

【0048】
イミン2cを用いる以外は実施例1と同様に操作して、ポリペプチド1cの灰白色粉末を得た。H NMR(400MHz,ClCDCDCl):δ6.98(bs,2H,C),6.68(bs,2H,C),6.42(bs,1H,CH),3.60(bs,3H,MeO),2.54(bs,3H,MeN).13C NMR(125MHz,ClCDCDCl):δ171.3(CO),159.9(C),131.0(C),125.9(C),114.9(C),59.2(CH),55.9(MeO),33.1(MeN).IR(KBr):νco1646cm−1
【0049】
(実施例7)
【化13】

イミン2dを用いる以外は実施例1と同様に操作して、ポリペプチド1dの灰白色粉末を得た。H NMR(400MHz,ClCDCDCl):δ6.69(bs,2H,C),6.31(bs,1H,CH),2.85−2.33(bs,3H,MeN),2.05(bs,3H,3Me).13C NMR(125MHz,ClCDCDCl):δ172.1(CO),138.6(C),130.9(C),58.2(CH),31.8(MeN),21.4(3Me).IR(KBr):νco1648cm−1
【0050】
(実施例8)
【化14】

一酸化炭素雰囲気下で、300mlのオートクレーブに、乾燥した1,4−ジオキサンを50mlと、アシルコバルト触媒(III)(R=PhCH,L=CO)のヘキサン溶液(0.5M、2mmol)を2ml加えた。バルブを閉め、一酸化炭素の圧力を5.52MPaまで上昇させた後、12時間静置した。脱圧力した後、イミン2eを1.0g(66mol)加えた。バルブを閉め、一酸化炭素の圧力を5.52MPaまで上昇させた。50℃のオイルバスで12時間電磁攪拌を行い反応させた。室温まで冷却した後、脱圧力をし、オートクレーブを開いて、黄色の澄んだ液体を得た。溶媒を除去して乾燥させ、ポリペプチド1eの灰白色固体粉末を得た。H NMR(400MHz,ClCDCDCl):δ 5.32−4.89(m,1H,CH),2.94(bs,3H,MeN),0.80(bs,9H,t−Bu).13C NMR(125MHz,ClCDCDCl):δ 171.15(CO),57.53(CH),37.12(tert−C),34.25(MeN),28.33(3Me).IR(KBr):νco1641cm−1
【0051】
(実施例9)
【化15】

イミン2fを用いる以外は実施例5と同様に操作して、ポリペプチド1fの灰白色固体粉末を得た。H NMR(400MHz,ClCDCDCl):δ5.39−4.96(m,1H,CH),2.95(bs,3H,MeN),1.05(m,2H,CH),0.82(m,6H,2Me),0.64(bs,3H,Me).13C NMR(125MHz,ClCDCDCl):δ171.22(CO),56.38(CH),39.97(tert−C),34.66(MeN),32.75(CH),24.42(2Me),8.86(Me).IR(KBr):νco1640cm−1
【0052】
上記実施例で示した操作と同様に行い、イミンと触媒のモル比を変更することによって、下表1のような重合反応結果が得られた。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される構造を有する化合物である、ポリペプチド系重合体。
【化1】

[式(I)中、RとRはそれぞれ、置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、nは2以上の自然数である。]
【請求項2】
一般式(I)で表される構造を有する化合物である、ポリペプチド系重合体。
【化2】

[式(I)中、RとRはそれぞれ、置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基であり、nは2以上の自然数であり、R=R=メチル基ではないことを条件とする。]
【請求項3】
前記一般式(I)におけるRは置換もしくは未置換のアルキル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基である、請求項1または2に記載のポリペプチド系重合体。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるRはメチル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基または置換もしくは未置換のアリール基である、請求項1または2に記載のポリペプチド系重合体。
【請求項5】
前記一般式(I)におけるRはメチル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基である、請求項1または2に記載のポリペプチド系重合体。
【請求項6】
前記一般式(I)におけるRはメチル基であり、Rは置換もしくは未置換のアリール基である、請求項1または2に記載のポリペプチド系重合体。
【請求項7】
前記一般式(I)におけるRはメチル基であり、Rは置換もしくは未置換のアルキル基であり、
が置換メチル基であるとき、メチル基の3つの水素のいずれもが置換されている、請求項1または2に記載のポリペプチド系重合体。
【請求項8】
前記一般式(I)におけるRはメチル基であり、Rはtert−ブチル基またはtert−ペンチル基である、請求項1または2に記載のポリペプチド系重合体。
【請求項9】
一般式(II)で表されるイミンをモノマーとする、ポリペプチド系重合体の合成方法。
【化3】

[式(II)中、RとRは請求項1に定義された意味を表し、遷移金属触媒存在下で一酸化炭素と交互共重合し、下記一般式(I)のポリペプチド系重合体を直接生成する。]
【化4】

[式(I)中、RとRは請求項1に定義された意味を表し、nは2以上の自然数を表す。]
【請求項10】
一般式(III)で表される金属コバルト化合物からなる、請求項9に記載の方法における遷移金属触媒。
【化5】

[式(III)中、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子、リン配位子、窒素配位子またはイソニトリル配位子である。]
【請求項11】
前記一般式(III)におけるRは、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子である、請求項10に記載の遷移金属触媒。
【請求項12】
前記一般式(III)におけるRは、置換もしくは未置換のアルキル基であり、Lはカルボニル基配位子である、請求項10に記載の遷移金属触媒。
【請求項13】
前記一般式(III)において、Rはメチル基もしくはベンジル基であり、Lはカルボニル基配位子である、請求項10に記載の遷移金属触媒。
【請求項14】
重合反応条件下において一般式(III)の金属コバルト化合物に転化することが可能な前駆体化合物からなる、請求項9に記載の方法における遷移金属触媒。
【化6】

[式(III)中、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子、3価のリン配位子、3価の窒素配位子またはイソニトリル配位子である。]
【請求項15】
一般式(IV)で表される金属コバルト化合物からなる、請求項14に記載の遷移金属触媒の前駆体化合物。
【化7】

[式(IV)中、Rは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子、3価のリン配位子、3価の窒素配位子またはイソニトリル配位子である。]
【請求項16】
前記一般式(IV)におけるRは置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアルコキシ基、置換もしくは未置換のアリールオキシ基またはアミド基であり、Lはカルボニル基配位子である、請求項15に記載の前駆体化合物。
【請求項17】
前記イミンと前記一酸化炭素との共重合反応は不活性希釈剤中で行われ、前記一酸化炭素の圧力は0.1013MPa(すなわち1気圧)以上であり、反応温度は200℃以下である、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記イミンと前記一酸化炭素との共重合反応はエーテル系不活性希釈剤中で行われ、前記反応温度は20〜100℃である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
1)一酸化炭素を充満したオートクレーブに乾燥した1,4-ジオキサンを加え、濃度が0.1mM〜1Mとなるように金属コバルト触媒を加えた後、バルブを閉め、前記一酸化炭素の圧力が0.1013MPa超になるように(すなわち、1気圧超になるように)加圧し、0.5〜24時間静置して、前記金属コバルト触媒のうちのカルボニル基が脱離している一部を、下記構造のアシルコバルト型の前記金属コバルト触媒に転化する工程、
【化8】

[式中、Rはアルキル基、フェニル基または置換フェニル基である。]

2)脱圧力後、下記構造のイミンを加えてバルブを閉め、前記一酸化炭素の圧力を0.1013MPa超になるよう加圧し、反応温度20〜100℃で重合反応させる工程、
【化9】

[式中、R’はフェニル基、置換フェニル基またはアルキル基である。]

3)前記反応完了後に冷却し、脱圧力後、前記オートクレーブを開いて液体を得、真空除去によって溶媒を除去し、下記一般式で表される構造のポリペプチド系重合体を得る工程、
【化10】

[式中、R'はフェニル基、置換フェニル基またはアルキル基であり、nは2以上の自然数である。]

を有するポリペプチド系重合体の合成方法。


【公表番号】特表2010−511637(P2010−511637A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539590(P2009−539590)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/CN2007/003465
【国際公開番号】WO2008/067729
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(509159274)南▲開▼大学 (1)
【氏名又は名称原語表記】NANKAI UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】94 Weijin Road, Nankai District, Tianjin 300071 CHINA
【Fターム(参考)】