説明

ポリマの変色又は脱色方法

【課題】アルコールを用いてアゾ顔料等の有機顔料により着色されたポリマを変色又は脱色できるポリマの変色又は脱色方法を提供する。
【解決手段】有機顔料により着色されたポリマを変色又は脱色するに際して、ポリマとアルコールを反応容器内に収容し、温度200℃以上で、かつ反応器内を高圧に保ってポリマ中の有機顔料を分解して、変色又は脱色するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ顔料等の有機顔料により着色されたポリマの変色又は脱色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中国をはじめとする新興国の需要増大などによる石油資源の枯渇が問題となっている。これに加えて、環境問題が強く意識される現代社会においては、石油資源を原料として製造されるプラスチック製品のリサイクルは重要な課題であり、これまでにその多くが実践されてきている。多様なプラスチック製品は、見た目の美しさのみならず、製品の種類や用途などが識別しやすくなることや耐光性をはじめとした特性が付与されることなどから、顔料や染料による着色加工がなされることが多い。このような着色材料についても、分別回収の推進や色分別装置などを用いることにより、同じ素材のプラスチックでも色別に回収しリサイクルすることが可能となってきている。
【0003】
廃電線のリサイクルにおいても、分別回収が進められており、特許文献1に示されるように、電線・ケーブル被覆材へのリサイクルが盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4114562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、着色されたプラスチック材料は分別回収すれば同じ色の材料にリサイクルすることは可能であるが、異色材料が混在した場合などは同じ色の材料や元の用途へのリサイクルは困難であることが多い。
【0006】
これは廃電線のリサイクルにおいても同様であり、分別回収されたポリエチレンやポリ塩化ビニルなどの被覆材は、その多くが元の電線被覆材料などにリサイクルされているが、異種材料や異色の被覆材料が混在したものは、黒色のプラスチックとしてのリサイクルにその用途が限定されてしまう。
【0007】
廃電線の回収システムや分別技術の向上によりコンタミネーション(以下コンタミという)の低減化が進められているが、完全に色別回収することは難しい。色分別装置も開発されてきているが、設備投資や歩留まり、材料形状の制限など課題が残されている。
【0008】
これらの問題を解決するためには、着色されたプラスチック材料を脱色する技術が効果的であると考えられる。さらに廃プラスチックのリサイクルに使用する場合などを想定すると、より工業的な方法が求められる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、アルコールを用いてアゾ顔料等の有機顔料により着色されたポリマを変色又は脱色できるポリマの変色又は脱色方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、有機顔料により着色されたポリマを変色又は脱色するに際して、ポリマとアルコールを反応容器内に収容し、温度200℃以上で、かつ反応器内を高圧に保ってポリマ中の有機顔料を分解して、変色又は脱色することを特徴とするポリマの変色又は脱色方法である。
【0011】
請求項2の発明は、反応容器内の圧力を1.0MPa以上に保ってポリマ中の有機顔料を変色又は脱色する請求項1記載のポリマの変色又は脱色方法である。
【0012】
請求項3の発明は、前記アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノールの1種もしくは2種以上の組み合わせて用いる請求項1又は2記載のポリマの変色又は脱色方法である。
【0013】
請求項4の発明は、前記有機顔料が、アゾ顔料である請求項1〜3のいずれかに記載のポリマの変色又は脱色方法である。
【0014】
請求項5の発明は、変色又は脱色に用いたアルコールを繰り返し用いる請求項1〜4のいずれかに記載のポリマの変色又は脱色方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アゾ顔料等の有機顔料で着色されたポリマを200℃以上のアルコール中で、高圧下で加熱することにより有機顔料による色相を変色又は脱色させることができる。特に、赤色と黄色の混合物を脱色できるので、色選別する種類を減少させリサイクルを効率化することが期待される。また、緑色と青色の混合物は本発明を用いれば、青色としてリサイクルすることが可能となる。この他にもアゾ顔料による着色ポリマが混合したものにはリサイクルの効率化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の検討に使用した実験装置の模式図を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
本発明は、有機顔料で着色されたポリマをアルコールを用い、これを反応容器内で200℃、好ましくは250℃以上にし、高圧下(1.0MPa以上、50MPa以下)で反応させることで、変色又は脱色させるものである。
【0019】
ポリマに関しては有機顔料で着色が可能であれば特に制約はなく、プラスチックだけでなくゴムへの適用も可能である。
【0020】
有機顔料とは特に分子内に発色団であるアゾ結合(N=N)を少なくとも1つ以上有するアゾ顔料であり、アルコールとの反応によりアゾ結合を分解することで発色を抑制することができる。
【0021】
アゾ顔料は、大きくモノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、縮合アゾ顔料に分類されるが、特にモノアゾ顔料で着色されたポリマの脱色において有効に作用する。
【0022】
本発明は、着色されたポリマ中の着色成分を、200℃以上のアルコールを用いて分解させることにより、ポリマ中の着色成分による発色を抑制するものである。
【0023】
従来、ポリマの脱色方法として、アルコールを用いて抽出脱色を行うことが知られている。しかしながら、抽出脱色の場合、抽出された着色成分がアルコール中に混入してしまい、脱色に用いたアルコールをそのまま再利用することができないとの問題を有していた。現在、VOC削減の観点からも、アルコールを再利用することの重要性は高まってきている。
【0024】
これに対し、本発明は、200℃以上のアルコールを用いて、高圧下で、着色成分を分解させるものであり、アルコールに着色成分が混入することなくポリマの変色又は脱色を行うことができ、使用したアルコールを再利用することができる。
【0025】
上記のような着色成分の分解を良好に行うために、アルコールの温度は200℃以上が好ましく、より好ましくは250℃以上である。また、アルコールの温度はポリマ分解温度以下(ポリエチレンの場合、400℃以下)とするのが好ましい。
【0026】
また、圧力は、1.0MPa以上であればよいが、その上限圧力は、反応容器の破損が生じる等、実用上の問題から、50MPa以下とするのが良い。
【0027】
次に、図1により、着色されたポリマを変色又は脱色する装置例を説明する。
【0028】
図1において、1はソルトバスで、アジテータ5とヒータ6とを備え、制御装置8にてソルトバス1内が所定の温度に加熱される。
【0029】
このソルトバス1に、着色されたポリマとアルコールとを、SUS製反応容器2に投入する。
【0030】
ここで、反応容器2内は、ポリマの酸化を防止するために、Arガスなどの不活性ガスを配管7を通して反応容器2内に供給すると共に同じく配管7と減圧バルブ4を介して反応容器2内をArガスで十分にパージしてからソルトバス1に投入する。
【0031】
ポリマとアルコールとは、反応容器2内で200℃以上の温度と高圧(1MPa以上の高圧状態、或いは亜臨界、超臨界状態)に保つことで、ポリマ中の有機顔料は分解される。
【0032】
このとき、反応中の圧力は、反応容器2に接続された圧力計3によって常時モニタリングされる。所定の反応時間が経過したら、ソルトバス1から反応容器2を取り出して水冷する。水冷後、反応容器2内が十分に減圧されたら、反応容器2から反応生成物及び液状残渣物を取り出す。
【0033】
この図1の装置は小スケールでのバッチ方式であるが、工業的に実施する場合は、ポリマとアルコールの混合・分離が可能な連続式プロセスを利用することが望ましい。このようなプロセスの例としては、特許文献1に示されるような押出機を利用した方法を用いる。
【0034】
すなわち、着色されたポリマを所定のサイズにして反応用押出機に投入して加熱・昇圧し、その押出機内にアルコールを注入し、反応押出機内でポリマとアルコールを高温・高圧として、有機顔料を分解して脱色又は変色させ、その押出機から分離ホッパに導入し、分離ホッパで、ポリマからなる残渣液とアルコールガスとに分離し、残渣液は回収し、アルコールガスは、冷却・凝縮して再度分解反応に用いることで、工業的に連続した処理が行える。
【実施例】
【0035】
先ず、有機顔料で着色されたポリマを図1の装置を用いて、温度と圧力と、アルコールの種類を変えて顔料の分解反応を行った。
【0036】
すなわち、予め所定の温度に加熱しておいたソルトバスに容量20ccのSUS製反応容器2に封入した顔料で着色したポリマとアルコールを投入する。ここで、反応容器2内はポリマとアルコールを封入後、ポリマの酸化を防止するためにArガスなどの不活性ガスで十分にパージしてからソルトバスに投入する。ポリマとアルコールは反応容器2内でアルコールが所定の温度・圧力に昇温・昇圧され、ポリマはアルコールにより脱色または変色される。このとき、反応中の圧力は反応容器に接続された圧力計3によって常時モニタリングされる。所定の反応時間が経過したら、ソルトバス1から反応容器2を取り出して水冷する。水冷後、反応容器2内が十分に減圧されたら、反応容器2から脱色または変色されたポリマを取り出す。
【0037】
この際、表2に示す条件でアルコールによりアゾ顔料で着色されたポリマを脱色する検討を行った。
【0038】
実験に使用したポリマは、直鎖型低密度ポリエチレン(d=0.922g/cm3、MI=2.5g/10min.)である。
【0039】
顔料は表1に示すとおりであり、各色相(赤、黄、緑、青)ともにポリエチレン100質量部に対して顔料濃度の総量を0.5〜0.8質量部とした。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表2に示す条件で、予め所定の温度に加熱しておいたソルトバスに、ポリエチレンを1.5g、アルコールまたは蒸留水を仕込んだ反応容器を投入した。加熱時間は30分とした。ここで、加熱時間とは反応容器をソルトバスに投入した時点から反応容器をソルトバスから取り出した時点までとした。加熱時間経過後、反応容器をソルトバスから取り出して十分に水冷し、残圧を抜いてからポリエチレンを回収した。ポリエチレンが変色又は脱色されているかについては加熱前後のポリエチレンを色差計による分析で判断した。色差計はコニカミノルタ製の色彩色差計(CR−400)を用いた。
【0043】
色差(ΔE)の算出には、L*a*b*表色系を用いた。L*a*b*表色系とは、明るさをL軸、色度(色相、彩度)をa(赤〜緑)軸、b(黄〜青)軸とした三次元直交座標により示される表色系であり、ΔEは座標上の2点間距離である(ΔL)2+(Δa)2+(Δb)2の平方根により求められる。判定は、変色又は脱色前の原料に対するΔEが30以上であれば変色又は脱色されたもの(合格)とし、ΔEが30未満であれば変色又は脱色が不十分であるもの(不合格)とした。
【0044】
次に表2に示した実施例1〜18と比較例1〜6をさらに説明する。
【0045】
〔実施例1〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとして、メタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を200℃に設定し、反応容器内の圧力を4.3MPaとしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは38.1であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはメタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0046】
〔実施例2〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとして、エタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を200℃に設定し、反応容器内の圧力を2.6MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは38.2であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはエタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0047】
〔実施例3〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を200℃に設定し、反応容器内の圧力を1.5MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは36.4であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはn−プロパノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0048】
〔実施例4〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてメタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を220℃に設定し、反応容器内の圧力を5.0MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは57.1であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはメタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0049】
〔実施例5〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてエタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を220℃に設定し、反応容器内の圧力を4.2MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは56.3であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはエタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0050】
〔実施例6〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を220℃に設定し、反応容器内の圧力を2.2MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは56.4であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはn−プロパノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0051】
〔実施例7〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてメタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を270℃に設定し、反応容器内の圧力を8.5MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは61.6であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはメタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0052】
〔実施例8〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてエタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を270℃に設定し、反応容器内の圧力を6.8MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは61.7であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはエタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0053】
〔実施例9〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を270℃に設定し、反応容器内の圧力を5.3MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは60.1であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはn−プロパノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0054】
〔実施例10]
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてメタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を10.2MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは61.9であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはメタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0055】
〔実施例11〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてエタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を9.2MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは62.1であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはエタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0056】
〔実施例12〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を8.6MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは62.0であった。これより、アゾ系顔料で赤色に着色されたポリエチレンはn−プロパノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0057】
〔実施例13〕
ポリエチレンとして黄色のポリエチレン、アルコールとしてメタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を10.1MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは73.3であった。これより、アゾ系顔料で黄色に着色されたポリエチレンはメタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0058】
〔実施例14〕
ポリエチレンとして黄色のポリエチレン、アルコールとしてエタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を9.3MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは73.1であった。これより、アゾ系顔料で黄色に着色されたポリエチレンはエタノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0059】
〔実施例15〕
ポリエチレンとして黄色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を8.6MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは73.3であった。これより、アゾ系顔料で黄色に着色されたポリエチレンはn−プロパノールにより変色されることが分かった。変色後のポリマを目視にて確認したところ、ほぼ着色前のポリマと同様の色(白色)であった。よって、当該実施例においてはポリマが脱色されていることが分かった。
【0060】
〔実施例16〕
ポリエチレンとして緑色のポリエチレン、アルコールとしてメタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を10.0MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは41.5であった。これより、アゾ系顔料で緑色に着色されたポリエチレンはメタノールにより変色されることが分かった。
【0061】
また、実施例16では加熱後の生成物は青色を呈していた。これは、成分であるモノアゾエロー(78)の発色が抑制され、シアニンブルー(266)とカーボンブラック(41)による発色が残ったことによるものである。
【0062】
〔実施例17〕
ポリエチレンとして緑色のポリエチレン、アルコールとしてエタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を9.3MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは41.4であった。これより、アゾ系顔料で緑色に着色されたポリエチレンはエタノールにより変色されることが分かった。
【0063】
また、実施例17では加熱後の生成物は青色を呈していた。これは、成分であるモノアゾエロー(78)の発色が抑制され、シアニンブルー(266)とカーボンブラック(41)による発色が残ったことによるものである。
【0064】
〔実施例18〕
ポリエチレンとして緑色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を8.5MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは42.0であった。これより、アゾ系顔料で緑色に着色されたポリエチレンはn−プロパノールにより脱色されることが分かった。
【0065】
また、実施例18では加熱後の生成物は青色を呈していた。これは、変色顔料成分であるモノアゾエロー(78)の発色が抑制され、シアニンブルー(266)とカーボンブラック(41)による発色が残ったことによるものである。
【0066】
実施例より200℃以上のアルコールで、また圧力が1.0MPa以上で、アゾ顔料により赤、黄、緑に着色されたポリエチレンを変色又は脱色できることが分かった。また、緑についてはアゾ顔料以外の顔料成分であるシアニンブルー(266)とカーボンブラック(41)が残留するため青色に変色している。
【0067】
実施例16〜18のように、アゾ顔料を含む複数の顔料により着色されたポリマにおいて、アゾ顔料を分解して発色を抑制することにより、複数の色が混ざり合ったポリマを単色に統一してリサイクルを容易にすることができる。
【0068】
次に比較例を説明する。比較例では、実施例と同様の実験を以下のとおりに行った。
【0069】
〔比較例1〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてメタノール(3.0g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を170℃に設定し、反応容器内の圧力を2.1MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは13.5であった。これより、170℃においてはメタノールによる脱色効果は十分ではないことが分かった。
【0070】
〔比較例2〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてエタノール(4.4g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を170℃に設定し、反応容器内の圧力を1.6MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは13.7であった。これより、170℃においてはエタノールによる脱色効果は十分ではないことが分かった。
【0071】
〔比較例3〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、アルコールとしてn−プロパノール(5.8g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を170℃に設定し、反応容器内の圧力を0.7MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは14.5であった。これより、170℃においてはn−プロパノールによる脱色効果は十分ではないことが分かった。
【0072】
〔比較例4〕
ポリエチレンとして赤色のポリエチレン、溶媒として蒸留水(1.5g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を11.2MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは20.1であった。これより、蒸留水では赤色に着色したポリエチレンを十分に脱色できないことが分かった。
【0073】
〔比較例5〕
ポリエチレンとして黄色のポリエチレン、溶媒として蒸留水(1.5g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を11.3MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは23.3であった。これより、蒸留水では黄色に着色したポリエチレンを十分に脱色できないことが分かった。
【0074】
〔比較例6〕
ポリエチレンとして緑色のポリエチレン、溶媒として蒸留水(1.5g)を用いて実験を行った。ソルトバスの温度を320℃に設定し、反応容器内の圧力を11.2MPaにしたところ、加熱前のポリエチレンと加熱後の生成物の色差ΔEは17.0であった。これより、蒸留水では緑色に着色したポリエチレンを十分に脱色できないことが分かった。
【0075】
比較例1〜3より、170℃では、脱色効果が十分ではないことが分かった。実施例の結果から200℃以上に加熱したアルコールを用いることで、効果的に変色又は脱色できることが分かった。
【0076】
比較例4〜6より、320℃において蒸留水では脱色は十分に起こらないことから、実施例の変色又は脱色効果は単なる加熱によるものではなく、アルコールが変色又は脱色に作用していることが分かった。
【符号の説明】
【0077】
1 ソルトバス
2 反応容器
3 圧力計
4 減圧バルブ
5 アジテータ
6 ヒータ
7 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料により着色されたポリマを変色又は脱色するに際して、ポリマとアルコールを反応容器内に収容し、温度200℃以上で、かつ反応器内を高圧に保ってポリマ中の有機顔料を分解して、変色又は脱色することを特徴とするポリマの変色又は脱色方法。
【請求項2】
反応容器内の圧力を1.0MPa以上に保ってポリマ中の有機顔料を変色又は脱色する請求項1記載のポリマの変色又は脱色方法。
【請求項3】
前記アルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、n−ペンタノール、i−ペンタノールの1種もしくは2種以上の組み合わせて用いる請求項1又は2記載のポリマの変色又は脱色方法。
【請求項4】
前記有機顔料が、アゾ顔料である請求項1〜3のいずれかに記載のポリマの変色又は脱色方法。
【請求項5】
変色又は脱色に用いたアルコールを繰り返し用いる請求項1〜4のいずれかに記載のポリマの変色又は脱色方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−241922(P2010−241922A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90869(P2009−90869)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】