説明

ポリマーアロイ繊維、ポリアミド系極細繊維の混合体

【課題】溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束を抑制し、比表面積を増大させることで、ポリアミド極細繊維の特長とも言える吸着性能や超ソフト感を最大限に発現させることができるポリマーアロイ繊維前駆体、ポリアミド系極細繊維の混合体を提供する。
【解決手段】難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)でそれぞれ構成される島成分(A)’、(B)’、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)で構成される海成分(C)からなる海島構造状の多成分系ポリマーアロイからなる繊維であって、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)がポリアミドであることを特徴とするポリマーアロイ繊維、及び、少なくともポリアミド(A)と難溶出性熱可塑性ポリマー(B)で構成されるポリアミド系極細繊維の混合体、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーアロイ繊維およびポリアミド系極細繊維に関する。さらに詳しくは、ポリアミド極細繊維の特長とも言える吸着(吸水、吸湿、消臭)性能や超ソフト感を最大限に発現させることができるポリアミド系極細繊維を与え得るポリマーアロイ繊維およびポリアミド系極細繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維に吸水等の吸着性能や、超ソフト感を付与することを目的としたポリアミド極細繊維を溶融紡糸するに際し、単糸直径がミクロンサイズの繊維については、単純に難溶出性ポリマー(ポリアミド)と易溶出性ポリマーの複合断面繊維を得て、易溶出性ポリマーを溶出除去して得る、いわゆる複合紡糸法が知られている。また、単純に、紡糸口金設計を工夫して溶融紡糸により直接ポリアミド単独繊維を得ることも知られている。
【0003】
一方、極細繊維と言うのに相応しい単糸直径がナノサイズの極細繊維(以下、単に「極細繊維」と称することがある)については種々の製法がある。例えば、溶融ポリマーもしくは溶液ポリマーに電圧を印加し、基布等の電極に噴射して極細繊維層(不織布)を形成させる、いわゆるエレクトロスピニング法、または、難溶出性ポリマーと易溶出性ポリマーとを溶融時にポリマーブレンドしたポリマーアロイ繊維を得て、易溶出性ポリマーを溶出除去して得る、いわゆるポリマーアロイ法等がある。エレクトロスピニング法は極細繊維を不織布形態で得るのには好適であるが、長繊維で得るのは製法上極めて難しく、ポリマーアロイ法が現在では主流と言える。
【0004】
例えば、ポリアミドにポリエチレン、酸変性ポリオレフィンをブレンドして繊維化し、これからポリエチレン、酸変性ポリオレフィンを溶出除去することでポリアミド極細繊維が得られることが開示されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載のポリアミド極細繊維は、ポリエチレンおよび酸変性ポリオレフィンを溶出除去する工程において、ポリアミドの分子間力(ポリアミド極細単繊維表面間のアミド結合部での水素結合)からポリアミド極細繊維が集束し、極細繊維の特長である吸着性能や超ソフト感を最大限に発現できるものとは言い難い。
【0005】
この他にも、ポリアミド/ポリエチレン系ポリマーアロイ繊維からポリエチレンを溶出除去することでポリアミド極細繊維ブロック状集束体が得られることが開示されている(特許文献2)。この実施例において、不織布シートをサンドペーパーでバフィングして毛羽立たせることできめ細かなタッチが得られることが記載されているが、バフィングは極細繊維集束体を強制的に引き離す手法であり、不織布シート自体の耐久性の低下、また高次加工場で極細繊維が飛散する等、作業環境的見地からも優れたポリアミド極細繊維の製造方法とは言い難い。
【0006】
このように、従来のポリマーアロイ法を駆使したポリアミド極細繊維の製造方法は、特許文献1、2から見ても明らかなように、ポリアミド極細繊維の集束が課題である。そこで、溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束を抑制し、吸着性能や超ソフト感を最大限に発現させることができるポリマーアロイ繊維前駆体、ポリアミド極細繊維が求められている。
【特許文献1】特開平4−174767号公報
【特許文献2】特開平10−53967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、特に溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束を抑制し、比表面積を増大させることで、ポリアミド極細繊維の特長とも言える吸着性能や超ソフト感を最大限に発現させることができるポリマーアロイ繊維前駆体、及びポリアミド系極細繊維の混合体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
【0009】
(1)難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)でそれぞれ構成される島成分(A)’、(B)’、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)で構成される海成分(C)からなる海島構造状の多成分系ポリマーアロイからなる繊維であって、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)がポリアミドであることを特徴とするポリマーアロイ繊維。
【0010】
(2)前記ポリアミドがポリカプロアミド(ナイロン6)であることを特徴とする前記(1)に記載のポリマーアロイ繊維。
【0011】
(3)前記難溶出性熱可塑性ポリマー(B)がポリプロピレンであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載のポリマーアロイ繊維。
【0012】
(4)前記易溶出性熱可塑性ポリマー(C)がポリ乳酸であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維。
【0013】
(5)難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)の合計と易溶出性熱可塑性ポリマー(C)の重量比が10:90〜50:50であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維。
【0014】
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に有する布帛。
【0015】
(7)少なくともポリアミド(A)と難溶出性熱可塑性ポリマー(B)で構成されるポリアミド系極細繊維の混合体。
【0016】
(8)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維から易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出除去して得られる前記(7)に記載のポリアミド系極細繊維の混合体。
【0017】
(9)前記ポリアミド(A)がポリカプロアミド(ナイロン6)であることを特徴とする(7)または(8)に記載のポリアミド系極細繊維の混合体。
【0018】
(10)前記熱可塑性ポリマー(B)がポリプロピレンであることを特徴とする前記(7)〜(9)のいずれかに記載のポリアミド系極細繊維の混合体。
【0019】
(11)前記(7)〜(10)のいずれかに記載のポリアミド系極細繊維の混合体を少なくとも一部に有する布帛。
【0020】
(12)前記(7)〜(10)のいずれかに記載のポリアミド系極細繊維の混合体を少なくとも一部に有する繊維製品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束を抑制し、比表面積を増大させることで、ポリアミド極細繊維の特長とも言える吸着(吸水、吸湿、消臭)性能や超ソフト感を最大限に発現させるポリマーアロイ繊維前駆体、及びポリアミド系極細繊維の混合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明のポリマーアロイ繊維は、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)でそれぞれ構成される島成分(A)’、(B)’、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)で構成される海成分(C)からなる海島構造状の多成分系ポリマーアロイからなる繊維であって、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)がポリアミドであることを特徴とするポリマーアロイ繊維であることが重要である。このようなポリマーアロイ繊維から、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出除去することにより、ポリアミド極細繊維の単繊維間に難溶出性熱可塑性ポリマー(B)が均一に配された、ポリアミドと(B)のポリアミド系極細繊維の混合体が得ることができ、ポリアミド極細単繊維間に難溶出性熱可塑性ポリマー(B)を均一に配することで、ポリアミド極細繊維の集束を抑制し、比表面積を増大させることで、ポリアミド極細繊維の特長とも言える吸着性能や超ソフト感を最大限に発現させることができるのである。
【0024】
なお、ここで言うポリマーアロイ繊維とは、異種のポリマーを溶融時に混合(混練)後、溶融紡糸して得られる繊維を言い、複合断面口金で異種のポリマーを複合形成した複合断面繊維とは異なる。ポリマーアロイの混合形態としては、単純な海島構造や相連続構造、またポリマーの組み合わせによっては、ポリマー同士が完全に溶け合った形態等がある。また、ここで言う海島構造状とは、ポリマーアロイ繊維横断面方向において、真円、楕円状等に島が微分散している構造をいい、通常、繊維縦断面方向では、細く伸びた筋状の島が微分散していると推定されるものである。
【0025】
また、本発明でいう「極細繊維」とは、単糸の平均直径として数百nm以下程度の繊維を意図しており、好ましくは300nm以下である繊維をいい、好ましくは200nm以下である。下限としては、1nm以上、好ましくは10nm以上である。単糸の平均直径は、極細繊維の前駆体となるポリマーアロイ繊維の島の平均直径で評価する。
【0026】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する難溶出性熱可塑性ポリマー(A)であるポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体からなる樹脂であって、かかるポリアミドとしては、染色性、機械特性に優れている主としてポリカプロアミド(ナイロン6)からなることが好ましい。ここで言う「主として」とは、ポリカプロアミドを構成するアミド単位中、ε−カプロラクタム単位が80モル%以上であることを言い、さらに好ましくは90モル%以上である。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミン等の単位が挙げられる。
【0027】
また、ポリカプロアミドの重合度は、ポリマーアロイ繊維、ポリマーアロイ繊維中に含まれる易溶出性熱可塑性ポリマーを溶出除去して得られるポリアミドと(B)の極細繊維の混合体、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは98%硫酸相対粘度で2〜3.3の範囲であり、更に好ましくは2〜2.8の範囲である。
【0028】
また、ポリカプロアミド中に含有される低分子量残留物量としては、好ましくは熱水抽出法により検出される低分子量残留物量で1.8重量%以下であり、更に好ましくは1.5重量%以下である。低分子量残留物量が1.8重量%を越えると、溶融紡糸時にモノマー、オリゴマー等の低分子量物が発生し、紡糸口金の表面汚れが顕在化し、その結果として紡糸操業性不良を引き起こす可能性がある。
【0029】
ポリカプロアミド中の低分子量残留物を除去する方法としては、重合されたポリカプロアミドチップを、90〜120℃程度の沸騰水に接触させ、低分子量残留物を抽出することが好ましい。ポリカプロアミド中の低分子量残留物量は、チップ形状、浴比等によっても異なることがあるが、抽出時間は20〜40hr程度で、必要に応じてヒドラジン等の還元剤を添加することが好ましい。抽出操作を終えたポリカプロアミドチップは、約10重量%の水分を含有するため乾燥をすると良い。ポリカプロアミドチップの乾燥方法は、1.3kPa以下の減圧下で、バッチ方式で加熱する方法、あるいは、ポリカプロアミドチップと加熱された窒素とを連続的に接触させる方法等が挙げられる。ポリカプロアミドチップを大量生産する場合は、連続運転が可能な後者が有利であり、少量多品種生産をする場合は前者が有利である。通常の場合、乾燥はポリカプロアミドの融点以下の温度である100〜120℃において、10〜30hr程度保持することにより、水分率が概ね0.1重量%以下となるまで行うと良い。
【0030】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する難溶出性熱可塑性ポリマー(B)は、溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束を抑制する役割を果たすものである。溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束は、ポリアミドの分子間力に起因するものであり、本発明は、ポリアミド極細単繊維間に(B)を均一に配し、ポリアミド極細繊維の集束を抑制するものである。従って、難溶出性熱可塑性ポリマー(B)として、分子間力を増大させる、例えば、ポリアミドで言うアミノ基(−NH)やカルボキシル基(−COOH)のような極性基の縮重合で構成されている極性ポリマーを用いるよりは炭化水素のような極性を有していない方が好ましく、更には安定した溶融紡糸が可能、溶出除去で用いるアルカリ等にも抵抗を示す、ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるオレフィン系ポリマーであることが好ましく、更に好ましくはポリプロピレンである。
【0031】
ポリプロピレンとはプロピレンを重合させたポリマーである。重合体の分子構造としては、1つおきにあるメチル基(−CH)が、立体的に一方向にのみ出るアイソタクチック重合体、交互に出るシンジオタクチック重合体、全く無秩序に出るアタクチック重合体の3種類に分類されるが、アイソタクチック重合体を主とするポリプロピレンであると、融点が高いので、ポリアミド、特にポリカプロアミドとの溶融紡糸においては好ましい。また、分子の組成としては、プロピレン単独重合体であるホモ重合体、その他エチレンや1−ブテン等を共重合させたランダム重合体(ポリプロピレン分子鎖中に不連続で共重合されている)、もしくはブロック重合体(ポリプロピレン分子鎖中に連続で共重合されている)の3種類に分類されるが、光沢感等の風合い、高い剛性が得られる等の観点からホモ重合体が好ましい。
【0032】
また、ポリプロピレンの流動特性は、ポリマーアロイ繊維、ポリマーアロイ繊維中に含まれる易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出除去して得られるポリアミドと(B)の極細繊維の混合体、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは230℃のMFR(メルトマスフローレイト)で5〜100(g/10min)の範囲であり、更に好ましくは5〜70(g/10min)の範囲である。ここでメルトマスフローレイトは後述する方法により測定される値である。
【0033】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する易溶出性熱可塑性ポリマー(C)は、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)として用いるポリアミドや、難溶出性熱可塑性ポリマー(B)と互いに非相溶で、かつ溶出用の処理溶液における溶解速度が(A)成分もしくは(B)成分の溶解速度のうちいずれか早い方に対する比として、5倍以上であることが、溶出除去が容易な点から好ましい。通常、(A)、(B)成分および溶出用の処理溶液との関係で適宜なポリマーが選択されるが、具体的には、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステルや、それらを主とした共重合体、脂肪族ポリエステル等が挙げられるが、最近の環境に対する社会情勢を考慮すると、バイオマス利用、生分解性の観点から脂肪族ポリエステルであることが好ましい。ここで脂肪族ポリエステルを例示すると、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン等が挙げられるが、安定した溶融紡糸が可能という点でポリ乳酸がより好ましい。
【0034】
ポリ乳酸とは乳酸モノマーを重合したものであり、L体またはD体の光学純度が90%以上であると、融点が高くなりポリアミドとの溶融紡糸においては好ましい。また、ポリ乳酸の性質を損なわない範囲において、乳酸以外のモノマーを共重合していても良いが、好ましくはポリ乳酸を構成する乳酸単位として80モル%以上であり、更に好ましくは90モル%以上である。
【0035】
また、ポリ乳酸の分子量は、ポリマーアロイ繊維、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは重量平均分子量で5万〜30万の範囲であり、更に好ましくは5万〜15万の範囲である。
【0036】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する難溶出性熱可塑性ポリマー(A)(ポリアミド)、(B)及び易溶出性熱可塑性ポリマー(C)の組み合わせとしては、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)が処理溶液により溶出し、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)(ポリアミド)、(B)が溶出しなければ特に制限はないが、ポリマーアロイの溶融紡糸安定性、溶出除去後のポリアミド極細繊維の凝集を抑制する観点等から、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)として、好ましくはポリカプロアミド、難溶出性熱可塑性ポリマー(B)として好ましくはオレフィン系ポリマー、更に好ましくはポリプロピレン、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)として、好ましくは脂肪族ポリエステル、更に好ましくはポリ乳酸である。この際、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出する処理溶液としては、水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液が好ましく挙げられる。 本発明のポリマーアロイ繊維を構成する、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)には、本発明の効果を損なわない範囲において種々の添加剤を含んでも良い。この添加剤を例示すると、マンガン化合物などの安定剤、酸化チタンなどの着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、導電性付与剤、繊維状強化剤等が挙げられる。
【0037】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)の合計と易溶出性熱可塑性ポリマー(C)の重量比は、ポリマーアロイ繊維、ポリマーアロイ繊維中に含まれる易溶出性熱可塑性ポリマーを溶出除去して得られるポリアミド系極細繊維の混合体、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは10:90〜50:50の範囲であり、更に好ましくは20:80〜45:55の範囲である。(A)、(B)の合計:(C)(重量比)が10:90未満では、溶出除去時の原料ロスが大きく経済的観点から好ましくない。また、(C)を溶出除去して得られるポリアミド系極細繊維の混合体が細くなりすぎることから、布帛等にした時、生地密度が荒くなりすぎて、繊維製品の生地設計が困難となったり、製品バリエーションが少なくなったりする傾向にある。また、(A)、(B)の合計:(C)(重量比)が50:50を超えると、海と島の接触界面が大きくなって相互作用が過大となり、紡糸操業性不良を引き起こしたり、高次(糸加工、染色、機能加工)通過性を悪化させたりすることがある。また、ポリマーの組み合わせによっては、海島が逆転したポリマーアロイ繊維となるため、目的とするポリアミド系極細繊維の混合体を得ることができなくなったりする。
【0038】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)(ポリアミド)と(B)の重量比は、ポリマーアロイ繊維中に含まれる易溶出性熱可塑性ポリマーを溶出除去して得られるポリアミドと(B)の極細繊維の混合体、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは(A):(B)=99:1〜50:50の範囲であり、更に好ましくは90:10〜60:40の範囲である。(A):(B)(重量比)が上記範囲にあることにより、溶出除去後のポリアミド極細繊維の集束を抑制しつつ、ポリアミド極細繊維の特徴とも言える吸着性能や超ソフト感が十分発現する。
【0039】
本発明のポリマーアロイ繊維を構成する難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)、つまり島の平均直径は、ポリマーアロイ繊維、ポリマーアロイ繊維中に含まれる易溶出性熱可塑性ポリマーを溶出除去して得られるポリアミドと(B)の極細繊維の混合体、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性、またはそれらを安定して得るために適当な範囲より適宜選択して良いが、好ましくは1〜300nmの範囲であり、更に好ましくは10〜200nmの範囲である。島の平均直径が1nm未満では、海と島の接触界面が大きくなって相互作用が過大となり、紡糸操業性不良を引き起こしたり、高次通過性を悪化させたりする場合がある。島の平均直径が300nmを越えると、島自体が欠点となるため、紡糸操業性不良を引き起こしたり、更には得られるポリマーアロイ繊維にも毛羽や単糸切れ等が発生しやすくなったりする場合がある。ここでポリマーアロイ繊維横断面方向に現れる島は、やや歪んだ楕円状となる場合があり、必ずしも真円とは限らないため、ここで言う島の平均直径とは島の面積から円換算で求めたものを言う。上記において、島の平均直径の測定方法は後述する方法により行うものとする。
【0040】
また、島の面積がある一定以上のものがある一定量存在している場合、島自体が欠点となるため、紡糸操業性不良を引き起こしたり、更には得られるポリマーアロイ繊維にも毛羽や単糸切れ等が発生しやすくなったりする場合がある。従って、本発明のポリマーアロイ繊維の繊維横断面方向に現れる直径500nm以上の粗大島の総面積が、全ての島の総面積の2%以下であることが好ましく、更に好ましくは1%以下である。
また、島の繊維縦断面方向の平均長さLと島の平均直径Dの比であるL/Dが4以上であることが好ましい。上記構造を満足できないと、ポリマーアロイ繊維中の島自体が欠点となるため、紡糸操業性不良を引き起こしたり、更には得られるポリマーアロイ繊維にも毛羽や単糸切れ等が発生しやすくなったりする場合がある。また、ポリマーアロイ繊維に含まれる易溶出性熱可塑性ポリマーを溶出除去しても、L/Dが小さいため極細繊維の混合体としての形態を維持できない可能性がある。
【0041】
本発明のポリマーアロイ繊維の断面形状は、ポリマーアロイ繊維、あるいはその布帛、繊維製品の要求特性から適宜選択して良い。例示すると、真円、楕円、三葉、四葉、十字、中空、扁平、T字、X字、H字断面等が挙げられる。また、その繊維形態は、長繊維、短繊維、不織布、熱成形体等、様々な繊維製品形態を採ることができる。
【0042】
本発明のポリマーアロイ繊維の製造方法は、下記の方法を採用することが好ましい。すなわち、ポリアミド(A)と難溶出性熱可塑性ポリマー(B)と易溶出性熱可塑性ポリマー(C)とを溶融混練し、海島構造状のポリマーアロイチップを得る。そして、これを溶融紡糸することにより本発明のポリマーアロイ繊維を得ることができる。また、ポリアミドと(B)と(C)の溶融混練方法は、特に限定されるものではないが、粗大な凝集ポリマーの生成を大幅に抑制し、均一な島を形成する観点から、押出混練機や静止混練機等により強制的に混練することが好ましい。強制的に混練する観点から、押出混練機としては二軸押出混練機、静止混練機としては分割数100万割以上のものを用いることが好ましい。また、前記に記載したポリマーアロイチップの溶融紡糸方法は、特に限定されるものではないが、島の再凝集を抑制する観点から、紡糸口金から吐出するまでの滞留時間が、ポリマーアロイの溶融部先端、例えば、プレッシャーメルタータイプの溶融紡糸装置の場合はメルター部から、エクストルーダータイプの溶融紡糸装置の場合はシリンダー入口から、紡糸口金から吐出するまでの時間を20分以内とすることが好ましい。
【0043】
本発明のポリマーアロイ繊維の製造方法は、一般的な溶融紡糸方法で特に限定されるものではないが、前記に記載した製造方法を選択することにより、島の再凝集が抑制されるため、ポリマーアロイの粘弾性バランスが崩れにくく、紡糸吐出が安定し、高速曳糸性や糸斑を著しく改善できるという利点もある。
【0044】
更には、通常の繊維(ポリマーアロイ繊維以外の繊維)、例えばポリアミド繊維を溶融紡糸する口金の吐出孔径よりも大きい吐出孔径を有する口金を用いると、口金吐出孔でのポリマーアロイへの剪断応力を低減し、粘弾性バランスを保つことができるため溶融紡糸性が向上し好ましい。具体的には、ポリマーアロイの口金吐出孔での吐出線速度を20m/分以下にできる口金を用いることが好ましい。
【0045】
加えて、通常の繊維、例えばポリアミド繊維を溶融紡糸する糸条の冷却よりも伸長流動が不安定化しやすいことから、ポリマーアロイを、迅速に冷却固化させることが溶融紡糸性を安定化させるため好ましい。具体的には、口金から積極的な冷却開始位置までの距離を1〜10cmとすることが好ましい。
【0046】
また、本発明のポリマーアロイ繊維は、紡糸した後に一旦巻き取ることなく引き続き延伸する直接紡糸延伸法、紡糸速度を4000m/分以上のように高速として実質的に延伸工程を省略する高速紡糸法、それらを組合せた高速直接紡糸延伸法、加えて、紡糸した後に一旦巻き取り、巻き取った後に延伸する2工程法等のいずれの製造方法でも可能であるが、未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するため、紡糸速度は2000m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。
【0047】
本発明のポリマーアロイ繊維は、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出除去することにより、ポリアミド極細単繊維間に難溶出性熱可塑性ポリマー(B)が均一に配された、ポリアミドと(B)の極細繊維の混合体とする。易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出させ、除去する処理溶液としては、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)が溶出せず、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)が溶出すれば特に制限はない。通常、有機溶媒、酸性溶媒、アルカリ性溶媒を用いることができるが、前記したポリマーアロイ組成、つまり、ポリカプロアミド、ポリプロピレンを島成分、ポリ乳酸を海成分とする場合は、ポリ乳酸のみを容易に溶解できる点からアルカリ性溶媒であることが好ましい。この場合、ポリマーアロイ繊維をそのままアルカリで溶出、布帛とした後にアルカリで溶出、いずれの工程でも加工することができる。ここで言うアルカリとは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられるが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリを0.5〜10g/Lの溶液濃度とし(pH=10〜14)、60〜120℃、20〜60minで処理することが好ましい。
【0048】
本発明のポリアミド系極細繊維の混合体は、通常のポリアミド繊維と比較して比表面積が増大するといったことから、優れた吸着性能を示すメリットがある。例えば、吸湿性能の指標であるΔMRは3〜5%に達し、綿とほぼ同等の吸湿性能を示すのである。ここで言うΔMRとは、30℃、90%RH下での吸湿率から、25℃、65%RH下での吸湿率を差し引いた値である。また、本発明のポリアミド系極細繊維の混合体は、湿気だけでなく、種々の物質の吸着性能にも優れ、例えば消臭繊維としても有用である。さらには綿並の吸水性を発揮する場合もあるだけでなく、ウールのように糸条長手方向に可逆的な水膨潤性を示す場合もあり、合成繊維でありながら天然繊維の機能を発現することも可能である。
【0049】
本発明のポリマーアロイ繊維、ポリアミド系極細繊維の混合体からなる布帛は、織編物を主とし、通常の方法により製造される。通常の方法とは、例えば、繊維の百科事典(丸善)p146〜p170、p188〜p198に記載の通りである。また、好ましくは本発明のポリアミド系極細繊維の混合体を少なくとも20%以上使用することが、前記に記載した性能を保持することができる。
【0050】
本発明のポリマーアロイ繊維を用いた繊維製品としては、キャミソール、ショーツ等のインナーウエア、ストッキング、ソックス等のレッグニット、シャツやブルゾン等のスポーツ・カジュアルウエア、パンツ、コート、紳士・婦人衣料等の衣料用途のみならず、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにはフィルター等の産業資材用途、車両内装用途にも好適に用いることができる。
【0051】
本発明のポリアミド系極細繊維の混合体を用いた繊維製品としては、従来の合成繊維には無い優れた特性を有することから、前記に記載した用途以外にも、シートコスメ、マスカラといった美容分野、吸水フェルト、研磨布といった工業資材、創傷被覆材といった医療分野にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。また、本発明のポリマーアロイ繊維の物性の測定方法は以下の通りである。
【0053】
A.ポリカプロアミドの98%硫酸相対粘度(ηr)
オストワルド粘度計にて下記溶液の25℃での落下秒数を測定し、下式により算出した。
ポリカプロアミドを1g/100mlとなるように溶解した98%濃硫酸(T1)、98%濃硫酸(T2)とすると、
(ηr)=T1/T2。
【0054】
B.ポリカプロアミド中の低分子量残留物量(MO量)
35メッシュを通過し、115メッシュに留まるポリカプロアミド粉末を、水分率が0.03重量%以下となるまで乾燥、その重量を秤量した(W1)。その後、浴比200倍の沸騰水で4hr抽出し、水洗後、再び水分率が0.03重量%以下となるまで乾燥、その重量を秤量した(W2)。下式により算出した。
(MO量)(重量%)={(W1−W2)/W1}×100。
【0055】
C.ポリプロピレンのMFR
JIS K7210:1999(プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法)のB法に準じて測定した。なお、試験条件は附属書A(規定)表1の条件(コード名)Mに従うものとする。
【0056】
D.ポリ乳酸の重量平均分子量(Mw)
ポリ乳酸のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し測定溶液とした。これをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算でMwを求めた。
【0057】
E.透過型電子顕微鏡(TEM)による繊維およびペレットの断面観察
繊維については繊維横断面に、ペレットについてはストランド横断面に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)(日立(株)社製H−7100FA型)で観察した(倍率40,000倍)。また、島ポリマーと海ポリマーの識別がしやすいように必要に応じてPTA染色を施した。
【0058】
F.島ポリマーの直径、平均直径、直径500nm以上の粗大島の総面積の割合
上記TEMによる繊維およびペレットの断面写真を画像処理ソフト(三谷商事(株)社製WINROOF)を用いて処理し、求めた島ポリマーの面積を円換算して直径を算出した。島ポリマーの平均直径は、得られた個々の直径から数平均して算出した。直径500nm以上の粗大島の総面積の割合は、島の総面積に占める割合で算出した。これらの算出に用いる島ドメイン数は、同一断面内で無作為抽出した300の島ドメインとした。ただし、TEM観察用のサンプルは超薄切片とするため、サンプルに破れや穴あきが発生しやすい。このため、島ポリマーの直径解析時にはサンプルの状況と照らし合わせながら慎重に行った。
【0059】
G.吸湿性(標準吸湿率、最高吸湿率、吸湿率差)
(1)繊維から編密度が45本/2.54cmの丸編地を作成し、2%−水酸化ナトリウム水溶液で、95℃で1hr浸透し、ポリ乳酸成分を溶出除去後、流水で1hr水洗し、1日間風乾した。なお、ポリカプロアミド単独繊維丸編地については、流水で1hr水洗し、1日間風乾の操作のみを行った。
(2)上記操作を行った丸編地1gを、重量既知の秤量瓶に入れ、秤量瓶の蓋を開放した状態で、乾燥機中で40℃、10Torr以下で30分間予備乾燥した。
(3)予備乾燥後の丸編地を、20℃、65%RHに設定された恒温恒湿槽中に、秤量瓶の蓋を開放した状態で入れ、24時間調湿した。
(4)調湿後、秤量瓶に蓋をした後、速やかに丸編地の入った秤量瓶の総重量を測定し、そこから秤量瓶の重量を差し引き、丸編地の重量(W65%)を算出した。
(5)重量算出後の丸編地を、30℃、90%RHに設定された恒温恒湿槽中に秤量瓶の蓋を開放した状態で入れ、24時間調湿した。
(6)調湿後、秤量瓶に蓋をした後、速やかに丸編地の入った秤量瓶の総重量を測定し、そこから秤量瓶の重量を差し引き、丸編地の重量(W90%)を算出した。
(7)重量算出後の丸編地を、秤量瓶の蓋を開放した状態で、乾燥機中で80℃、10Torr以下で1時間乾燥した。
(8)乾燥後、秤量瓶に蓋をした後、速やかに丸編地の入った秤量瓶の総重量を測定し、そこから秤量瓶の重量を差し引き丸編地の重量(W)を算出した。
(9)上記W65%、W90%、Wから下式により算出した。
標準吸湿率(MR65%)=(W65%−W)/W×100(重量%)
最高吸湿率(MR90%)=(W90%−W)/W×100(重量%)
吸湿率差(ΔMR)=MR90%−MR65%(重量%)。
【0060】
H.消臭性(アンモニアの消臭率)
試料3gを500mlのポリエチレン製容器内に固定した後、アンモニアを容器内に200ppmの濃度となるよう導入した。そして、密栓後、容器を50℃で1分間保持し、アンモニアを十分気化させた。そして、30℃で10分間放置後、容器内の空気をサンプリングし、ガステック(株)社製のガス検知管でアンモニア濃度(Appm)を測定した。上記(Appm)から下式により算出した。
アンモニアの消臭率=(200−A)/200×100(%)
【0061】
なお、試料については、繊維から編密度が45本/2.54cmの丸編地を作成し、2%−水酸化ナトリウム水溶液で、95℃で1hr浸透し、ポリ乳酸を溶出除去後、流水で1hr水洗し、1日間風乾したものを使用した。なお、ポリカプロアミド単独繊維丸編地については、流水で1hr水洗し、1日間風乾したものを使用した。
【0062】
I.ソフト性
検査者の触感によって丸編地のソフト性を下記に記載の基準で点数付けした。検査者は熟練検査者30人とし、30人の点数の平均値を算出した。
ソフト感が非常に良い。:3点
ソフト感がやや良い。 :2点
ソフト感があまりない。:1点
ソフト感が全く無い。 :0点
【0063】
なお、丸編地については、繊維から編密度が45本/2.54cmの丸編地を作成し、2%−水酸化ナトリウム水溶液で、95℃で1hr浸透し、ポリ乳酸を溶出除去後、流水で1hr水洗し、1日間風乾したものを使用した。なお、ポリカプロアミド単独繊維丸編地については、流水で1hr水洗し、1日間風乾したものを使用した。
【0064】
(実施例1〜7)
ηrが2.6、MO量が1重量%のポリカプロアミドと、表1に示すMFRのポリプロピレン(アイソタクチック型ホモ重合体)、Mwが9.2万のポリL−乳酸(光学純度98%)とを、それぞれの水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、表1に示す重量比で、二軸押出混練機で、240℃で溶融混練して、海がポリ乳酸、島がポリカプロアミド、ポリプロピレンの海島構造状のポリマーアロイチップを得た。
【0065】
そして、これらのポリマーアロイチップを水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、プレッシャーメルタータイプの溶融紡糸装置で、240℃で溶融、紡糸口金を介して紡糸糸条を吐出した。続いて口金直下より10cmの距離からMO吸引、続いて18℃の冷風で冷却、給油した。巻き取りについては、2500m/minで引き取り、1.7倍で延伸、135℃で熱セットした後、巻取速度4000m/分で高速直接紡糸延伸を行い、120デシテックス−40フィラメントの、海がポリL−乳酸、島がポリカプロアミド、ポリプロピレンの海島構造状のポリマーアロイ繊維を得た。
【0066】
得られたポリマーアロイ繊維について、島ポリマーの平均直径、直径500nm以上の粗大島の総面積の割合、吸湿性、消臭性、ソフト性ついて測定した。これらの結果を表1に示す。なお、得られたポリマーアロイ繊維を、2%−水酸化ナトリウム水溶液で95℃で1hr浸透し、ポリL−乳酸を溶出除去した後のポリカプロアミド系極細繊維の混合体の形態は、ナノサイズの極細繊維が部分的に集束してはいるものの、程良くほぐされた形態となっていた。
【0067】
(比較例1)
ηrが2.6、MO量が1重量%のポリカプロアミドを水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、プレッシャーメルタータイプ溶融紡糸機で260℃で溶融、紡糸口金を介して紡糸糸条を吐出した。続いて口金直下より13cmの距離からMO吸引、続いて18℃の冷風で冷却、給油した。巻き取りについては、2500m/minで引き取り、1.7倍で延伸、160℃で熱セットした後、巻取速度4000m/分で高速直接紡糸延伸を行い、120デシテックス−40フィラメントのポリカプロアミド繊維を得た。
【0068】
得られたポリカプロアミド繊維について、吸湿性、消臭性、ソフト性ついて測定した。これらの結果を表1に示す。
【0069】
(比較例2)
ηrが2.6、MO量が1重量%のポリカプロアミドとMwが9.2万のポリL−乳酸(光学純度98%)とを、それぞれの水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、表1に示す重量比で、二軸押出混練機で、240℃で溶融混練して、海がポリL−乳酸、島がポリカプロアミドの海島構造状のポリマーアロイチップを得た。
【0070】
そして、このポリマーアロイチップを水分率が0.03重量%以下になるまで乾燥した後、プレッシャーメルタータイプ溶融紡糸機で230℃で溶融、紡糸口金を介して紡糸糸条を吐出した。続いて口金直下より10cmの距離からMO吸引、続いて18℃の冷風で冷却、給油した。巻き取りについては、2500m/minで引き取り、1.7倍で延伸、135℃で熱セットした後、巻取速度4000m/分で高速直接紡糸延伸を行い、120デシテックス−40フィラメントの、海がポリL−乳酸、島がポリカプロアミドの海島構造状のポリマーアロイ繊維を得た。
【0071】
得られたポリマーアロイ繊維について、島ポリマーの平均直径、直径500nm以上の粗大島の総面積の割合、吸湿性、消臭性、ソフト性ついて測定した。これらの結果を表1に示す。なお、得られたポリマーアロイ繊維を、2%−水酸化ナトリウム水溶液で95℃で1hr浸透し、ポリL−乳酸を溶出除去した後のポリカプロアミド極細繊維の形態は、ナノサイズの極細繊維がバンドル状に集束した形態となっていた。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の結果から明らかなように、本発明のポリマーアロイ繊維からなるポリアミド系極細繊維の混合体は、従来のポリアミド繊維、ポリアミド極細繊維と比較して、吸湿、消臭等の吸着性能や超ソフト感に優れており、極めて顕著な効果を奏するものであると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)でそれぞれ構成される島成分(A)’、(B)’、易溶出性熱可塑性ポリマー(C)で構成される海成分(C)からなる海島構造状の多成分系ポリマーアロイからなる繊維であって、難溶出性熱可塑性ポリマー(A)がポリアミドであることを特徴とするポリマーアロイ繊維。
【請求項2】
前記ポリアミドがポリカプロアミドであることを特徴とする請求項1に記載のポリマーアロイ繊維。
【請求項3】
前記難溶出性熱可塑性ポリマー(B)がポリプロピレンであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリマーアロイ繊維。
【請求項4】
前記易溶出性熱可塑性ポリマー(C)がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維。
【請求項5】
難溶出性熱可塑性ポリマー(A)、(B)の合計と易溶出性熱可塑性ポリマー(C)の重量比が10:90〜50:50であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維を少なくとも一部に有する布帛。
【請求項7】
少なくともポリアミド(A)と難溶出性熱可塑性ポリマー(B)で構成されるポリアミド系極細繊維の混合体。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリマーアロイ繊維から易溶出性熱可塑性ポリマー(C)を溶出除去して得られる請求項7に記載のポリアミド系極細繊維の混合体。
【請求項9】
前記ポリアミド(A)がポリカプロアミドであることを特徴とする請求項7または8に記載のポリアミド系極細繊維の混合体。
【請求項10】
前記熱可塑性ポリマー(B)がポリプロピレンであることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のポリアミド系極細繊維の混合体。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれかに記載のポリアミド系極細繊維の混合体を少なくとも一部に有する布帛。
【請求項12】
請求項7〜10のいずれかに記載のポリアミド系極細繊維の混合体を少なくとも一部に有する繊維製品。

【公開番号】特開2008−240209(P2008−240209A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85934(P2007−85934)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】