説明

ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法

【課題】ポリ(メタ)アクリレートを変性するための代替的な方法の提供
【解決手段】ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法であって、以下の工程a)およびb):
a)コポリマーを製造する工程、該コポリマーは、
aa)成分Aとして、一般式(I)の少なくとも1の(メタ)アクリレートと、
ab)成分Bとして、一般式(II)の少なくとも1のモノマーとを、
重合することにより得られ、
b)基R4を有するカルボキシル基を、エステル交換またはエステル化を触媒する酵素の存在下にアルコールによりエステル交換またはエステル化する工程
を有する前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法、本発明による方法により製造されるポリマー自体、ならびに該ポリマーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
完全に、または部分的にアクリレートおよび/またはメタクリレートから製造されるポリマーは、ポリ(メタ)アクリレートと呼ばれ、その際、重合は場合により、(メタ)アクリレートと重合することができる1もしくは複数の別のモノマーの存在下で実施することができる。ポリ(メタ)アクリレートの数多くの適用分野が公知であり、ポリ(メタ)アクリレートはたとえば洗剤中の繊維保護剤として、腐食防止剤として、または錯化剤として適切である。ポリ(メタ)アクリレートが、どの使用目的のために最も適切であるかは、ポリ(メタ)アクリレートを別のモノマーと共重合するか、およびどのようなモノマーと共重合するか、あるいは得られるポリマーをさらに変性するかどうかに依存する。従ってポリ(メタ)アクリレートを変性することができる方法は極めて重要でありうる。
【0003】
一方では、官能基を既にモノマーベース中に導入し、このようにして変性したモノマーを引き続き所望のポリ(メタ)アクリレート(誘導体)へと重合する可能性が存在する。たとえば欧州特許出願公開第0999229号は、ポリオキシアルキレンからアクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを製造する方法に関する。この方法では、それぞれのモノマー(アクリル酸および/またはメタクリル酸またはこれらのエステル)を、触媒作用を有する酵素の存在下に、ポリオキシアルキレンを用いてエステル化またはエステル交換する。酵素として加水分解酵素、特にエステラーゼ、リパーゼおよびプロテアーゼが、ならびに具体的な実施例として、市販品のNovozym 435(登録商標)が記載されている。しかし、これらのモノマーの重合は欧州特許出願公開第0999229号には記載されていない。ただし、この反応経路を実施すべき場合には、一方では変性の種類に応じて相応するモノマーが不安定であり、かつしばしば分解することなしに重合することはできないことが問題となっている。他方、モノマーの変性は、相応するモノマーが、わずかな数の別のモノマーと共重合することができる場合にのみにも行うことができる。これらの理由から、変性は既にモノマーのレベルで回避される。
【0004】
これに対して欧州特許出願公開第0386507号は、ラジカル重合により得られたポリアクリル酸エステルを、自体公知のエステル交換触媒、たとえばナトリウムメチラート、メタンスルホン酸またはトリフルオロ酢酸の存在下にエステル交換することによって、長鎖の炭化水素基およびポリオキシアルキレン基を有するポリアクリル酸エステルを製造する方法に関する。この方法の欠点は、70〜160℃、有利には110〜150℃の高い温度であり、従って温度に不安定な化合物を使用することはできない。
【0005】
国際公開第2004/042069号は、放射線硬化可能な、および/またはデュアル(キュア)硬化可能なポリ(メタ)アクリレートの製造方法に関する。この方法では、少なくとも1の(メタ)アクリレート(成分A)ならびに少なくとも1のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(成分B)の重合によりポリマーが製造される。成分Bは、エステル官能基中にアルキル基を有しており、アルキル基は再びヒドロキシルにより置換されている。このヒドロキシ官能性側鎖(成分Bに由来)は、得られたポリマー中で、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリル酸を用いてエステル交換またはエステル化することによって、改めて反応される。この反応は、エステル交換またはエステル化を触媒する酵素の存在下に、特にリパーゼ、エステラーゼまたはプロテアーゼの存在下に行われる。
【0006】
文献中には、ポリマー中の酸基を酵素によりエステル交換またはエステル化することに関して、別の例が記載されている。たとえば米国特許出願公開2004/0082023号は、酵素、有利にはリパーゼの存在下に、少なくとも1のカルボキシル基を有するポリマーを、アルコールによりエステル化する方法に関する。具体的な実施例として、特にポリ−L−グルタル酸もしくはDL−ポリアスパラギン酸を、酵素であるNovozym 435の存在下にグリセロールを用いてエステル化することが記載されている。さらに、ポリアクリル酸とエチレングリコールならびにグリセロールとの反応が記載されている。この反応に関して、これらは単に、ごくわずかな程度に進行するにすぎず、しかも酵素が存在するかしないかとは無関係であることが判明している。しかし、米国特許出願公開2004/0082023号は、酵素の存在が、ポリ(メタ)アクリレートの変性に対して影響を与えうるかを開示していない。しかしながら、出願人が実施した比較試験によれば、ポリマー主鎖に直接結合している酸基をエステル化する際に、酵素の存在は、低い反応率を生じるにすぎないことが判明している。
【0007】
K.Pavel等による、Makromol.Chem.194、第3369〜3376頁(1993)は、リパーゼの触媒作用による、メタクリル酸およびオリゴマーのカルボキシ末端基をイソプロピルアルコールによりエステル化することを記載している。この場合、リパーゼとしてカンディダ・シリンドラセアからのリパーゼを使用している。代替的に、使用されるモノマー(α−(11−メタクリロイルアミノウンデカノイル)−ω−ヒドロキシ−オリゴ(オキシウンデカメチレンカルボニル)を、スチレンもしくはその他のコポリマーの存在下に重合し、かつその際に得られるポリマーを同一のリパーゼによりエステル化することができる。その際に得られるポリマーにおいて、エステル化はポリマー主鎖の側鎖中で行われ、その際、アミド結合も、複数のエステル結合も有する側鎖は、存在するリパーゼにより部分的に分解される、つまりポリマーのエステル化に代わってポリマーの基礎となっているモノマーの部分的な分解が行われる。従って、K.Pavel等により記載されている方法は、極めて不均一な生成物が製造されるという欠点を有している。
【0008】
P.Inprakhon等の、Designed Monomers and Polymers(2001)、4、第95〜106頁は、リゾムコール・ミーヘイ(Rhizomucor miehei)からのリパーゼの使用下でのケイ皮アルコールを用いた、リパーゼの触媒作用によるオリゴメチルアクリレートのエステル交換を記載している。しかし、エステル交換はオリゴマーの末端基においてレジオ選択的に進行するにすぎない。メタクリル酸単位のエステル基は、オリゴマーの末端に存在するのではなく、その主鎖に存在しているが、変性されなかった。同様の結果が、T.Lalot等によるPolymer Bulletin 26、第55〜62頁(1991)に記載されており、ここではオリゴメタクリレートの末端基のみが、リポザイムの存在下にアリルアルコールによってエステル交換される。R.Kumar等のChem.Commun.2004、第862〜863頁は、4−ヒドロキシメチルフェノールを用いて、ポリエチレングリコール二酸を酵素の触媒作用によりエステル化して、末端の酸基においてエステル化されているポリマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0999229号
【特許文献2】欧州特許出願公開第0386507号
【特許文献3】国際公開第2004/042069号
【特許文献4】米国特許出願公開2004/0082023号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】K.Pavel等著、Makromol.Chem.194、第3369〜3376頁(1993)
【非特許文献2】P.Inprakhon等著、Designed Monomers and Polymers(2001)、4、第95〜106頁
【非特許文献3】T.Lalot等著、Polymer Bulletin 26、第55〜62頁(1991)
【非特許文献4】R.Kumar等著、Chem.Commun.2004、第862〜863頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の根底に存在する課題は、ポリ(メタ)アクリレートを変性するための代替的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は本発明により、ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法であって、以下の工程
a)コポリマーを製造する工程、該コポリマーは、
aa)成分Aとして、一般式(I)
【化1】

[式中、
1は、HまたはCH3を表し、かつ
2は、Hまたはアルキル基であり、アルキル基は官能基、たとえばアクリル基、エーテル基、アミノ基、エポキシ基、ハロゲン基またはスルホン酸基により置換されていてもよい]の少なくとも1の(メタ)アクリレートと、
ab)成分Bとして、一般式(II)
【化2】

[式中、
3は、R1と同じものを表し、かつ
4は、R2と同じものを表し、かつn=1〜40である]の少なくとも1のモノマーとを、
重合することにより得られ、
b)基R4を有するカルボキシル基を、エステル交換またはエステル化を触媒する酵素の存在下にアルコールによりエステル交換またはエステル化する工程
を有する、ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法により解決される。
【0013】
本発明の範囲では、「メタクリル酸またはアクリル酸」のための略称として、「(メタ)アクリル酸」という概念を使用し、相応して「メタクリレートまたはアクリレート」のための略称として、「(メタ)アクリレート」という概念を使用する。同じことが、ここから生じるポリマーにも該当し、該ポリマーを「ポリ(メタ)アクリレート」と呼ぶ。「ポリ(メタ)アクリレート」とは、本発明の範囲では、モノマー単位として、成分Aの定義によるアクリル酸、メタクリル酸、アクリレートまたはメタクリレートからなる群から選択される、少なくとも1のモノマーを含有するポリマーまたはコポリマーであると理解される。このことは、たとえばアクリレートと、前記の群(成分A)に該当しない成分Bに記載の別のモノマー少なくとも1種との重合により得られる本発明によるコポリマーも、この概念に含まれることを意味している。このようなモノマー(成分B)の1例は、ブチル−10−ウンデセノエートである。
【0014】
工程a)
工程a)は、少なくとも1の成分A、少なくとも1の成分Bおよび場合により1もしくは複数の成分Cの重合により得られるコポリマーの製造を含む。成分Aは、(少なくとも)1の一般式(I)
【化3】

[式中、
1は、HまたはCH3を表し、かつ
2は、Hまたはアルキル基であり、アルキル基は官能基、たとえばアクリル基、エーテル基、アミノ基、エポキシ基、ハロゲン基またはスルホン酸基により置換されていてもよい]の(メタ)アクリレートである。
【0015】
有利には工程a)で一般式(I)のモノマーを、成分Aとして使用する。有利には成分Aは、C1〜C6−アルキルアクリレートであるか、またはC1〜C6−アルキルメタクリレート、メタクリル酸、またはアクリル酸である。特に有利には成分Aは、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレートまたはブチルアクリレートである。
【0016】
成分Bとして本発明による方法では、工程a)で(少なくとも)1の、一般式(II)
【化4】

[式中、
3は、R1と同じものを表し、かつ
4は、R2と同じものを表し、かつn=1〜40である]のモノマーを使用する。
【0017】
有利には工程a)で一般式(II)のモノマーを使用する。成分Bとして、式中でR3が、HまたはCH3であり、nが、2〜8であり、かつR4が、C1〜C4−アルキルであるモノマーが有利である。特に有利であるのは、成分Bとして、式中でR3が、Hであり、nが、2〜8であり、かつR4が、C1〜C4−アルキルであるモノマーであり、特にブチル−10−ウンデセノエートまたはエチル−4−ペンテノエートである。
【0018】
場合により工程a)において成分Cとして(少なくとも)1の、別のモノマーを成分AおよびBと共重合することができる。成分Cとして原則として、一般式(I)および(II)のモノマーと共重合可能な全てのモノマーが適切である。成分Cが存在する場合には、有利には別のモノマーを成分Cとして共重合する。有利には成分Cとして、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸および前記の酸のアミドからなる群から選択されるモノマーを使用する。特に有利には成分Cは、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンから選択されている。
【0019】
その他の記載がない限り、アルキル基という概念は、たとえば置換基R2またはR4に関して、C1〜C30−アルキル基を表し、該アルキル基は線状であっても分枝鎖状であっても、ならびに環式であってもよい。環式成分も線状成分も有するアルキル基もこの定義に含まれる。有利にはこれはC1〜C18−アルキル基であり、さらに有利にはC〜C8−アルキル基であり、特に有利にはC1〜C4−アルキル基である。場合によりアルキル基は官能基、たとえばアクリル基、エーテル基、アミノ基、エポキシ基、ハロゲン基またはスルホン酸基により1回もしくは複数回置換されていてもよい。アルキル基のための例は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソ−プロピル基、n−ブチル基、イソ−ブチル基、2−エチルヘキシル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、t−ブチルシクロヘキシル基、イソボルニル基またはトリメチルシクロヘキシル基である。
【0020】
本発明による方法の有利な実施態様では工程a)において、
− 成分A10〜90質量%、有利には20〜80質量%、特に有利には40〜70質量%および
− 成分B10〜90質量%、有利には20〜70質量%、特に有利には30〜60質量%および
− 成分C0〜50質量%、有利には0〜40質量%、特に有利には0〜25質量%を使用する。
【0021】
工程a)で製造された、側鎖にカルボキシル基を有するポリ(メタ)アクリレートは、当業者に公知の種々の方法で製造することができる。この場合、ラジカル重合による製造が有利である。
【0022】
重合は一般に、乳化重合、溶液重合または塊状重合により行い、その際、溶液重合が有利である。
【0023】
1実施態様では、工程a)による側鎖にカルボキシル基を有するポリ(メタ)アクリレートを、乳化重合により製造する。乳化重合の際に、成分A、Bならびに場合によりCを、水、乳化剤、開始剤および場合により調節剤の存在下に相互に反応させる。
【0024】
乳化剤として一般に、アニオン性、非イオン性、カチオン性または両性の乳化剤を使用し、その際、アニオン性および非イオン性の乳化剤が有利である。適切なアニオン性乳化剤は、長鎖の脂肪族カルボン酸およびスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩またはアンモニウム塩、アルカリ−C12〜C16−アルキルスルフェート、オキシエチル化およびスルフェート化またはスルホン化された長鎖の脂肪族アルコールまたはアルキルフェノールおよびスルホジカルボン酸エステルである。適切な非イオン性乳化剤は、オキシエチル化脂肪アルコールおよびアルキルフェノールであり、その際、エチレンオキシド単位は、2〜50モル/モルであってよい。適切なカチオン性乳化剤は、アンモニウム化合物、ホスホニウム化合物、およびスルホニウム化合物であり、これらは疎水性分子部分として少なくとも1の長鎖脂肪族炭化水素鎖を有している。種々の乳化剤の組み合わせ、例えばイオン性および非イオン性の乳化剤の組み合わせを使用することも可能である。
【0025】
使用される水は有利には蒸留水か、または脱塩水である。というのも、塩はエマルションの安定性を損なう可能性があるからである。一般に重合法は窒素下に実施される。というのも酸素が重合を妨害するからである。
【0026】
工程a)で製造されるポリ(メタ)アクリレートの分子量は、調節剤の添加により低減することができる。適切な調節剤は例えばハロゲン含有化合物、例えば四塩化炭素、四臭化炭素、ブロマール、臭化ベンジルおよびトリクロロブロモメタンまたはメルカプタン、例えばブチルメルカプタンまたはドデシルメルカプタンまたはRongalit(登録商標)である。
【0027】
開始剤として、(メタ)アクリレートの重合のために、一般に当業者に公知の全ての開始剤が適切である。一般に水溶性のペルオキソ化合物、例えば過硫酸アルカリ金属塩またはアンモニウム塩、過酸化水素、またはt−ブチル−ペルオキシ−エチルヘキサノエートを使用する。さらに、レドックス系、例えばH22−アスコルビン酸、H22−Fe(II)/Fe(III)、H22−Ce(IV)、過硫化Fe、メタ重亜硫酸Feまたはヒドロペルオキシド−金属塩が適切である。阻害剤は一般に、使用されるモノマーの量に対して0.05〜8質量%、有利には02〜2質量%の量で使用する。
【0028】
場合により重合後になお存在する開始剤を重合後に失活させて、工程b)において本発明により製造されたポリ(メタ)アクリレートの可能な重合を回避することができる。失活は一般に還元剤、例えばアスコルビン酸の添加により行う。
【0029】
重合は一般に30〜120℃、有利には40〜110℃、特に有利には50〜90℃の温度範囲で実施する。重合は一般に1〜20、有利には1〜15バール、特に有利には1〜5バールの圧力で実施する。
【0030】
乳化剤は、使用される成分A、Bおよび場合によりCの量に対して、一般に0.5〜15質量%、有利には0.5〜10質量%、特に有利には0.5〜5質量%の量で使用する。
【0031】
重合後に得られるポリ(メタ)アクリレートの粒径は、光散乱により測定して、一般に20〜1000nm、有利には20〜500nm、特に有利には50〜400nmである。
【0032】
pH値は、乳化重合の場合、一般に1〜6、有利には2〜6である。ヒドロキシル価は一般に少なくとも20〜180、有利には少なくとも40〜120である。分散液の固体含有率は一般に10〜50、有利には20〜40および得られるポリマーのガラス転移温度は一般に−40〜+80℃である。
【0033】
別の有利な実施態様では、工程a)による側鎖にカルボキシル基を有するポリ(メタ)アクリレートは、溶液重合により製造される。溶液重合の場合、成分A、Bならびに場合によりCを溶剤、開始剤、および場合により調節剤の存在下に相互に反応させる。
【0034】
このような溶液重合法は公知である。これらの方法は通常、その中で生じたポリマーが可溶性であり、かつその中に重合の終了後にしばしば10質量%を越える量で存在していてよい不活性有機溶剤中で行われる。この場合、反応は通常、ラジカル形成重合開始剤の存在下に行われる。さらに連鎖移動剤を使用することができる。
【0035】
さらに保護コロイドを使用することができる。これらは例えば重合の際に使用されるモノマーに対して0.05〜4質量%の範囲で存在していてよい。保護コロイドとしてC1〜C12−アルキルビニルエーテルを使用する場合、これらは有利には10〜200(H.フィケンチャーによりシクロヘキサノン中、1質量%の重合濃度および25℃で測定)のK値を有する。
【0036】
有機溶剤として一般に、不活性有機溶剤、例えば従来技術において上記の化合物を製造するために公知の溶剤を使用する。
【0037】
例えば芳香族溶剤、例えばベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、クメン、ならびに前記の芳香族溶剤の混合物を適切な比率で使用する。実施に関して特に技術において慣用の芳香族の混合物、例えばキシレンの混合物が重要である。
【0038】
有利であるのは、工程b)による酵素反応のために妨げとならない溶剤であり、従って工程b)の実施前の溶剤の除去は、不要である。さらに有利には、トルエン、シクロヘキサン、1,3−ジオキサン、メチル−イソ−ブチルエーテル、イオン液、t−ブタノール、メチルイソブチルケトン、アセトン、キシレン、N−メチルピロリドン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルアミルケトンおよびソルベントナフサから選択される溶剤を使用する。有利には製造すべきポリマーの極性と(工程a)において)ほぼ一致する溶剤を選択する。
【0039】
モノマーAおよびBならびに場合により別のモノマーの共重合は、一般にラジカル形成重合開始剤の存在下に行う。製造のために適切な開始剤は例えばEP−B0106991から公知である。これらは一般に、重合の際に使用されるモノマーに対して0.01〜20質量%、有利には0.05〜10質量%の量で使用する。共重合は紫外線の作用によっても、場合によりUV開始剤の存在下に実施することができる。このような開始剤は例えばベンゾインおよびベンゾインエーテル、α−メチルベンゾインまたはα−フェニルベンゾインのような化合物である。いわゆるトリプレット増感剤、たとえばベンジルジケタールも使用することができる。UV線源として、例えば高エネルギーUVランプ、例えばカーボンアークランプ、水銀ランプまたはキセノンランプも、UVの少ない光源、例えば高い青色割合を有する発光管も使用される。
【0040】
溶液重合のために有利には適切な開始剤は、例えば過酸化物、例えばジアルキルペルオキシド、例えばジ−t−ブチルペルオキシドおよびジ−t−アミルペルオキシド、ペルオキシエステル、例えばt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートおよびt−アミルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジアシルペルオキシド、例えばベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、およびデカノイルペルオキシド、ペルカーボネート、例えばt−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ペルケタールおよびケトンペルオキシド、ならびにアゾ開始剤、例えば2,2′−アゾビス−(2,4−ジメチル−ペンタニトリル)、2,2′−アゾビス−(2−メチルプロパノニトリル)、2,2′−アゾビス−(2−メチルブタノニトリル)、1,1′−アゾビス−(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2′−アゾビス−(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−フェニルアゾ−2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリルおよび2,2′−アゾビス−(イソブチロニトリル)[AIBN]であり、例えば商品名Porofor Nで市販されている。
【0041】
コポリマーが低いK値を有している場合、共重合は有利には調節剤の存在下で実施される。適切な調節剤は例えばメルカプト化合物、例えばメルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、ブチルメルカプタン、およびドデシルメルカプタンである。調節剤としてさらにアリル化合物、例えばアリルアルコール、アルデヒド、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、およびイソブチルアルデヒド、ギ酸、ギ酸アンモニウム、プロピオン酸およびブテノールである。共重合を調節剤の存在下に実施する場合、重合の際に使用されるモノマーに対して通常は0.05〜20質量%を必要とする。
【0042】
適切な保護コロイドは、アルキル基中に1〜12個の炭素原子を有するポリアルキルビニルエーテルである。ポリアルキルビニルエーテルのK値は、一般に10〜200、有利には20〜100である(シクロヘキサン中1%の溶液として25℃で測定)。
【0043】
適切なポリアルキルビニルエーテルは例えばポリメチルビニルエーテル、ポリエチルビニルエーテル、ポリプロピルビニルエーテル、ポリイソプロピルビニルエーテル、ポリブチルビニルエーテル、ポリイソブチルビニルエーテルおよびポリヒドロキシブチルビニルエーテルならびに前記のポリアルキルビニルエーテルの混合物である。有利には保護コロイドとして、ポリエチルビニルエーテルを使用する。添加される保護コロイドの量は、重合の際にそのつど使用されるモノマーに対して、通常0.05〜4質量%、有利には0.1〜2質量%である。
【0044】
重合は通常、30℃〜200℃の温度で、有利には50℃〜160℃の温度で行う。これより低い重合温度は、弱く架橋した、および高分子量のコポリマーを製造するために適用され、他方、高い重合温度は、低いK値を有するポリマーを製造するために選択される。分子量はさらに、そのつど使用される重合開始剤に依存する。共重合は標準圧力で、減圧で、ならびに場合により高めた圧力で、例えば1〜200バールの圧力で実施することができ、有利には共重合を標準圧力で実施する。
【0045】
弱く架橋した、および特に高分子量の共重合体を製造するために、有機溶剤、場合により存在する保護コロイドおよびモノマーを反応器に装入し、かつ窒素流中で所望の重合温度で徐々に連続的に、および少量ずつ開始剤を添加することにより重合する。開始剤はこの場合、形成される反応熱を制御しながら連行することができるように供給する。ポリマーは懸濁液として微粒子状の粒子の形で生じ、かつ乾燥することにより粉末の形で単離することができるか、または溶液中に残留する(沈殿重合または溶液重合)。
【0046】
中程度の、および低い分子量のコポリマーを製造するために、溶剤、場合により存在する保護コロイド、および成分Bに記載のモノマーを反応器に装入し、窒素流中で所望の重合温度に加熱し、次いで成分Aに記載のモノマーならびに場合により成分Cに記載のモノマーを比較的長い時間にわたって、有利には2〜8時間で、連続的に、または少量ずつ、計量供給する。共重合の終了後に、ポリマーは有機溶剤から分離することができる。
【0047】
工程a)で得られたポリ(メタ)アクリレートは、一般に、1000〜1000000、有利には5000〜500000、特に有利には10000〜200000の平均分子量を有する。平均分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)により確認した。これは質量平均分子量(Mw)である。
【0048】
工程a)におけるポリ(メタ)アクリレートの製造は、ワンポット法または回分法、供給法および連続的な運転法により可能である。前記の運転法の実施は、当業者に公知である。
【0049】
工程a)で得られた、側鎖にカルボキシル基を有するポリ(メタ)アクリレートは、当業者に公知の方法で単離することができる。1つの実施例は例えばEP−A0029637に記載されている。
【0050】
工程b)
工程a)で製造したコポリマーを引き続き工程b)でエステル交換またはエステル化を触媒する酵素の存在下にアルコールを用いてエステル交換またはエステル化する。その際、主として基R4を有するカルボキシル基をエステル交換またはエステル化する。成分Aに由来するカルボキシル基はこれに対して、エステル交換またはエステル化されないか、ごくわずかな割合でエステル交換またはエステル化されるに過ぎない。工程b)は、場合により安定剤の存在下で実施することができる。
【0051】
アルコールとして原則として全てのアルコールが適切であるが、有利には1種類のアルコールを使用し、ただし場合により2種類またはそれ以上のアルコールを混合物の形で使用することができる。有利にはアルコールは糖、チオアルコール、アミノアルコール、不飽和アルコール、飽和脂肪族アルコール、またはポリオールから選択される。糖のための例は、グルコース、サッカロース、ソルビットまたはメチルグルコシドである。チオアルコールとして原則として、ヒドロキシ置換基もメルカプト置換基も有する全ての化合物が適切である。有利なチオアルコールは、化学式:HO−(C1〜C8−アルキル)−SHを有し、特にメルカプトエタノールである。アミノアルコールとして、原則としてヒドロキシ置換基およびアミノ置換基を有する全ての化合物が適切である。アミノ置換基として特に−NH2、−NH(C1〜C6−アルキル)および−N(C1〜C6−アルキル)2が考えられ、その際、場合によりアミノ置換基はふたたび少なくとも一置換されていてもよく、たとえば基−COOH、−SO3H、−PO32、−CH2COOHおよび−CH2N(CH2COOH)2からの1もしくは複数の置換基により置換されていてもよい。有利なアミノアルコールは、一般式(III)
【化5】

[式中、
1.R=R′=COOH、SO3H、PO32またはHであるか、あるいは
2.R=CH2COOH、R′=CH2N(CH2COOH)2である]の化合物である。
【0052】
特に有利なアミノアルコールは、アミノエタノールおよびジメチルアミノエタノールである。不飽和アルコールとして、たとえばプロパルギルアルコールならびにアリルアルコールが適切であり、原則として芳香族アルコール、たとえばフェノールも適切である。飽和の脂肪族アルコールは、C1〜C30−アルキル鎖ならびにヒドロキシル置換基を有する化合物である。有利であるのはこの場合、C8〜C18−アルキルアルコール、特にラウリルアルコールである。ポリオールとして原則として、少なくとも2のヒドロキシル置換基を有する全ての化合物が適切である。本発明による化合物の範囲内では、ポリオールの概念には、EP−A386507に定義されているような化合物、つまり(CH2−CH2−O−)n断片を有する化合物であると理解される。有利なポリオールはブタンジオール、エチレングリコールまたはグリセロールである。
【0053】
本発明の実施態様では、工程b)におけるアルコールとして糖、チオアルコール、アミノアルコールまたはポリオールを使用する。
【0054】
本発明の有利な実施態様では、工程b)においてチオアルコールまたはアミノアルコールを使用する。特に有利には工程b)におけるアルコールとして、メルカプトエタノール、ジメチルアミノアルコールまたはラウリルアルコールを使用する。
【0055】
本発明のもう1つの実施態様では、工程b)において、飽和の脂肪族アルコール、有利にはC8〜C30−アルキルアルコールを使用する。
【0056】
本発明のこの別の実施態様では、工程b)において有利にはC8〜C18−アルキルアルコール、特に有利にはラウリルアルコールを使用する。
【0057】
本発明のもう1つの実施態様では、工程b)において、ヒドロキシ置換基以外に、少なくとも1の別の官能基を有するアルコールを使用する。有利にはこの官能基は、チオ基、アミノ基または別のヒドロキシ基である。
【0058】
エステル交換またはエステル化を触媒する酵素として、有利には加水分解酵素を使用する。本発明の意味での加水分解酵素は、物質を可逆的な反応で加水分解反応により分解する酵素である。加水分解酵素により触媒される反応は、EC番号(酵素委員会番号)によればEC3.X.X.Xによっても分類される。適切な加水分解酵素は当業者に公知であり、たとえばアミダーゼ、アミラーゼ、カルボキシペプチダーゼ、キモトリプシン、デソキシリボヌクレアーゼ、エステラーゼ、グリコシダーゼ、ヘミセルラーゼ、ラクターゼ、ペプチダーゼ、トリプシン、ウレアーゼ、リパーゼ、またはプロテアーゼである。エステル交換またはエステル化を触媒し、かつ本発明による方法において使用するために特に好適である酵素、たとえば前記の加水分解酵素は、たとえば例1に記載されているような酵素スクリーニングにより同定することができる。適切な加水分解酵素は、例1に記載のスクリーニング法で、基質を0%より多く、有利には10%より多く、20%より多く、30%より多く、40%より多く、50%より多く、または60%より多くを反応させる。
【0059】
加水分解酵素は特に、リパーゼ(EC3.1.1.3)、エステラーゼ(EC3.1.X.X)、グリコシラーゼ(EC3.2.X.X)およびプロテアーゼ(EC3.4.X.X)からなる群から選択されていてもよい。酵素としてカンディダ・アンタルクティカのフラクションBから、アルカリゲネス種から、アスペルギルス種から、ムコール種から、ペニシリウム種から、ゲオトリクム種から、リゾプス種から、バークホルデリア種から、バークホルデリア・プランタリから、カンディダ種から、シュードモナス種から、サーモミセス種から、またはブタ膵臓からのリパーゼはさらに有利である。特に有利であるのは、カンディダ・アンタルクティカのフラクションBからの、またはバークホルデリア・プランタリからのリパーゼである。
【0060】
本発明による方法で使用することができるカンディダ・アンタルクティカのフラクションBからのリパーゼは、有利には以下の遺伝子バンクの寄託番号により寄託されているアミノ酸配列を有している:gi:1085991、gi:1170790、gi:1311320、gi:576303、gi:576302、gi:576301、gi:576300、gi:576299またはgi:515792。本発明による方法で使用することができるバークホルデリア種からのリパーゼは、有利には以下の遺伝子バンクの寄託番号により寄託されているアミノ酸配列を有している:gi:76583779、gi:69989725、gi:67763516、gi:67754522、gi:67711158、gi:67682447、gi:67662116、gi:67651564、gi:67647896、gi:67641733、gi:67632700、gi:67545107、gi:67533555、gi:67464317、gi:67464316、gi:6710422、gi:46314081、gi:3660419、gi:2194041またはgi:576295。遺伝子バンクデータバンクは、NCBI、USA(http://www.ncbi.ulm.nih.gov/entrez/query.fcgi)から入手することができる。その他の有利なリパーゼは、例1に記載されており、かつ従来技術において公知の方法により取得することができる。
【0061】
本発明による方法で使用される酵素は、精製された形で存在していても、または細胞溶解産物の形で使用してもよい。酵素を精製するための方法は当業者に公知であり、かつたとえばクロマトグラフィー技術および特異的な抗体の使用を含む。細胞溶解産物は、前記の微生物のカルチャーから、細胞膜を分解することにより取得することができる。
【0062】
酵素は遊離の形でも、担体上に化学的に、または物理的に結合されて固定化した形でも使用することができる。酵素触媒の量は、工程a)で製造されるコポリマーの、エステル化またはエステル交換すべきカルボキシ基の量に対して、有利には0.1〜20質量%、特に有利には1〜10質量%である。
【0063】
アルコールを用いた酵素によるエステル交換またはエステル化は、一般に低い温度で、有利には20〜100℃、特に有利には40〜80℃で行う。酵素によるエステル交換またはエステル化の反応条件は緩和である。低い温度およびその他の緩和な条件に基づいて、化学的な触媒(たとえばEP−A386507に記載されているもの)を使用する場合のようなその他の場合に生じうる、工程b)での副生成物の形成が回避される。
【0064】
酵素による反応(工程b))のために、工程a)からの生成物を一般には、それ以上前処理することなく使用することができる。しかし工程a)において溶剤として水を使用した場合には、この水を工程b)による酵素反応の前にほぼ除去すべきである。必要な場合には工程a)で製造した生成物から、揮発性物質(たとえば溶剤)を除去することができるか、または付加的な物質(たとえば溶剤)を添加することができる。工程a)で得られる生成物は、できる限り酵素を酸化によって損傷しうるラジカル開始剤を含んでいないか、またはラジカル開始剤は少なくあるべきである。
【0065】
反応時間は特に使用される酵素触媒の量および活性、および所望の反応の度合い、ならびに側鎖中に含有されているカルボキシル基の種類に依存する。
【0066】
エステル交換またはエステル化のために使用されるアルコールは一般に、コポリマー中に含有されている基R4を有するカルボキシル基の数に対して、等モル量で、または過剰量で使用する。有利にはアルコール対カルボキシル基のモル比は、1:1〜10:1である。これより高い過剰は、妨げにはならない。特に有利にはこの比率は、2〜4:1、特に3:1である。
【0067】
一般に工程b)で、基R4を有するカルボキシル基全体の少なくとも10%、有利には少なくとも20%、特に有利には少なくとも40%がエステル交換またはエステル化される。
【0068】
場合により使用される適切な安定剤は、2,6−ジブチルフェノール、たとえばジ−t−ブチルフェノール、p−クレゾール、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジメチルヒドロキノンまたはフェノチアジンからなる群から選択される。しかし、安定剤を使用しないで工程b)を実施することも可能である。
【0069】
反応はこのような反応のために適切な全ての反応器中で実施することができる。そのような反応器は当業者に公知である。有利には反応を攪拌反応器、固定床反応器またはテイラー反応器中で行う。
【0070】
エステル交換またはエステル化の間に生じる反応水もしくは生じるアルコールは、当業者に公知の方法により、たとえば吸収(たとえば分子ふるいを用いて)、蒸留、または透析蒸発により除去することができる。
【0071】
反応は、所望の反応率、一般には5〜100%の反応率が達成されるまで実施する。この場合、反応実施の際に、反応の間に生じるアルコールもしくは水を同時に除去することで、比較的高い反応率が、反応平衡の推移に基づいて比較的短い反応時間で達成される。
【0072】
酵素触媒は、反応に引き続き、適切な措置により、たとえば濾過またはデカンテーションにより分離し、かつ場合により複数回使用することができる。
【0073】
工程b)は、場合により溶剤の存在下に実施することができる。適切な溶剤の選択は、使用されるポリマーの溶解度に著しく依存する。適切な溶剤の例は、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、t−ブタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンまたはイオン液である。前記の溶剤2種類またはそれ以上の混合物も適切である。場合によっては、工程b)でエステル化すべきアルコールがポリマーの分解または溶解を生じる場合には、溶剤を省略することもできる。ポリマーは溶剤中で清澄に溶解するか、乳化するか、分散するか、または部分的にのみ溶解する。この場合の含水率は、生成物の加水分解を抑制するために、10質量%未満であるべきである。有利には含水率は、工程a)からの使用されるポリマーの量に対して2質量%未満である。
【0074】
本発明のもう1つの対象は、前記の方法により製造することができるポリマーである。この場合、前記の方法の工程b)において、成分Bに由来する断片の側鎖に別の官能基が導入されているポリマーが有利である。これは特にアミノ基、メルカプト基、または別のヒドロキシル基である。さらに、基R4を有するカルボキシル基のエステル交換度またはエステル化度が、10%、有利には20%、特に40%であるポリマーが有利である。もう1つの有利な実施態様では、本発明によるポリマーは、C8〜C18−アルコールにより、特にラウリルアルコールによりエステル化されている。有利にはこのエステル化度は、20%、特に40%である。
【0075】
本発明のもう1つの対象は、洗剤中の繊維保護剤として、クラスト形成防止剤として、金属の錯化のため、灰色化防止剤として、鋼表面の不動態化のための腐食防止剤中で、分散染料中で、建築化学薬品における、接着剤中で、製紙のため、分散剤として、分散液中で、塗料および被覆中で、または錯化剤としての本発明によるポリマーの使用に関する。本発明による方法の工程b)でどのようなアルコールをエステル交換またはエステル化のために使用するかに応じて、これは使用分野に影響を及ぼす。付加的にチオ基を有するアルコールは特に腐食防止剤として好適であり、他方、付加的にアミノ基を有するアルコールは、洗剤添加剤として特に良好に使用することができる。
【0076】
本発明を以下の実施例に基づいて詳細に説明する。
【発明の効果】
【0077】
本発明による方法の利点は、成分A以外に、成分Bと共に、カルボキシル基がα−位でオレフィン結合に結合していない別のモノマー単位を導入することにより、簡単な方法でポリ(メタ)アクリレートを製造もしくは変性することができることである。従ってカルボキシル基は、直接にポリマー主鎖に結合していない。このモノマー単位Bは、ポリマー中で簡単な方法によりアルコールを用いて変性することができるので、選択的に高い反応率で、本発明による方法の(工程a)で得られた)ポリマーのエステル交換またはエステル化を行うことができる。従来技術に記載されている方法に対して、ポリマーの末端基の変性が行われるのみでなく、特にカルボキシル基がアルキルスペーサーを介して、ポリマー主鎖に結合しているポリマー側鎖の変性が行われる。この場合、特に有利であるのは、アルキルスペーサーを導入することにより、成分Bに由来するカルボキシル基を選択的に、かつ高い反応率でエステル交換またはエステル化することができることである。
【0078】
本発明による方法のもう1つの利点は、特にK.Pavel等に記載されている方法と比較して、側鎖中で分解が行われないことにある。本発明による方法によればむしろ、側鎖の安定した変性が可能である。さらに、本発明による方法は、2〜48時間の短い反応時間で行われることが有利である。
【0079】
本発明による方法では、工程b)で使用されるアルコールが可変的であるので、このようにして別の官能基も工程a)で製造されるポリマー中に導入することができ、このことによって工程b)で製造されるポリマーを再び変性することが可能である。
【0080】
従って本発明による方法によれば、アルコールにより変性された新規のポリ(メタ)アクリレートを得ることができる。
【実施例】
【0081】
工程a)によるコポリマーの製造
コポリマー1
馬蹄形攪拌機、冷却器および油浴を有するプロセス制御される2Lの実験室用攪拌機中で、該実験室用攪拌機を窒素でパージした後に、トルエン200gを装入する。引き続き85℃に加熱する。第一の供給流を介して5.5時間にわたってエチルアクリレート(70質量%)595.0gを計量供給する。第二の供給流を介して、4時間にわたってブチル−10−ウンデセノエート(30質量%)260.2gを計量供給する。第三の供給流を介して、6.5時間にわたってトルエン90g中のPorofor N 2.55g(固体含有率:トルエン中のPorofor N 2.7%、合計で0.3質量%)を計量供給する。供給流1〜3を、装入物が85℃に加熱されたら、同時に開始し、第三の供給流が終了した後で、さらに1時間、後重合する。
【0082】
その際に得られるコポリマーの固体含有率は、62.8%である(真空下に120℃で2時間にわたって測定)。該コポリマーを以下ではポリ(エチルアクリレートコ−ブチルウンデセノエート)と呼ぶ。
【0083】
コポリマー2
コポリマー2を、コポリマー1と同様に製造する。ただし供給流1中ではブチルアクリレートを使用する。その際に得られるコポリマーの固体含有率は63.1%である(真空下に120℃で2時間にわたって測定)。該コポリマーを以下ではポリ(ブチルアクリレートコ−ブチルウンデセノエート)と呼ぶ。
【0084】
コポリマー3
コポリマー3を、コポリマー2と同様に製造する。ただし供給流2中でエチル−4−ペンエノエートを使用する。その際に得られるコポリマーは、58.4%の固体含有率を有する(真空下に120℃で2時間にわたって測定)。該コポリマーを以下ではポリ(ブチルアクリレート−コ−エチル−4−ペンテノエート)と呼ぶ。Mw=64000。
【0085】
コポリマー4
コポリマー4を、コポリマー1〜3と同様に製造する。供給流1中で、エチルアクリレート595.0gを使用し、かつ供給流2中で、エチル−4−ペンテノエート138.67gを使用する。その際に得られるコポリマーは、63.7%の固体含有率を有する(真空下に120℃で2時間にわたって測定)。該コポリマーを以下ではポリ(エチルアクリレート−コ−エチル−4−ペンテノエート)と呼ぶ。
【0086】
コポリマー5
コポリマー5を、コポリマー4と同様に製造するが、ただし供給流2中で、エチル−4−ペンテノエート260.2gを使用する。その際に得られるコポリマーは、67000のMw値を有している。該コポリマーを以下では、ポリ(エチルアクリレート−コ−エチル−4−ペンテノエート)と呼ぶ。
【0087】
n−ブタノールおよびエタノールを定量化するためのHPLC分析:
"Aminex Fermentation Monitoring"カラム(150×7.8mm、Biorad)を"Cation H"前カラムと共に使用する。30℃および1.0mL/分の流速で、試料5.0μLを注入し、かつ5mMの硫酸溶液で溶離する。エタノールは6.5分後に溶離し、かつn−ブタノールは、11.0分後に溶離する。検出のために、RI検出器を使用する。定量化のために、較正用溶液を用いて較正曲線を作成する。
【0088】
例1:ポリ(エチルアクリレート−コ−ブチルウンデセノエート)のエステル交換のための酵素スクリーニング
【化6】

【0089】
ポリ(エチルアクリレート−コ−ブチルウンデセノエート)のトルエン溶液(ウンデカノエート3.92ミリモル含有)5.0g(固体含有率および使用されるモノマーの質量パーセントにより計算)およびラウリルアルコール7.84ミリモルを、酵素調製物100mgと共に60℃で24時間振とうする。HPLCにより遊離するフタノールの量を測定し、かつ反応率を計算する。
【0090】
【表1】

【0091】
例2:ポリ(ブチルアクリレート−コ−エチルペンテノエート)をエステル交換するための酵素スクリーニング
【化7】

【0092】
ポリ(ブチルアクリレート−コ−エチルペンテノエート)のトルエン溶液5.0g(ペンテノエート6.835ミリモルを含有)およびラウリルアルコール13.67ミリモルを、酵素調製物100mgと共に60℃で24時間振とうする。HPLCを用いて、遊離するエタノールの量を測定し、かつ反応率を計算する。
【0093】
【表2】

【0094】
例3:ポリ(ブチルアクリレート−コ−ブチルウンデセノエート)における基質の比率の変更
【化8】

【0095】
ポリ(ブチルアクリレート−コ−ブチルウンデセノエート)のトルエン溶液5.0g(ウンデセノエートを3.94ミリモル含有)およびラウリルアルコール3.94/7.88/11.81ミリモルを、Novozym 435 100mgと共に60℃で24時間振とうする。HPLCを用いて、遊離するブタノールの量を測定し、かつ反応率を計算する。
【0096】
【表3】

【0097】
例4:メルカプトエタノールおよびポリ(エチルアクリレート−コ−ブチル−10−ウンデセノエート)
【化9】

【0098】
ポリ(エチルアクリレート−コ−ブチル−10−ウンデセノエート)のトルエン溶液5.0g(ウンデセノエート3.94ミリモル含有)およびメルカプトエタノール1.96/3.92/5.88ミリモルを、Novozym 435 100mgと共に60℃で24時間、窒素雰囲気下に振とうする。HPLCを用いて、遊離するブタノールおよびエタノールの量を測定する。ごくわずかなエタノールが判明する。ブタノールの量から反応率を計算する。
【0099】
【表4】

【0100】
例5:ジメチルアミノエタノールおよびポリ(エチルアクリレート−コ−ブチル−10−ウンデセノエート)
【化10】

【0101】
ポリ(エチルアクリレート−コ−ブチル−10−ウンデセノエート)のトルエン溶液5.0g(ウンデセノエート3.92ミリモルを含有)およびジメチルアミノエタノール(DMAE)3.92/7.84/11.76ミリモルを、Novozym 435 100mgと共に60℃で24時間振とうする。HPLCを用いて遊離するブタノールおよびエタノールの量を測定する。ごくわずかなエタノールが判明する。ブタノールの量から反応率を計算する。
【0102】
【表5】

【0103】
例6:ポリ(ブチルアクリレート−コ−エチルペンテノエート)とのコントロール反応
【化11】

【0104】
ポリ(ブチルアクリレート−コ−エチルペンテノエート)のトルエン溶液5.0g(ペンテノエート6.76ミリモルを含有)およびラウリルアルコール20.27ミリモルを、Novozym 435 100/200mgと共に60℃で24時間振とうする。HPLCを用いて遊離するブタノールおよびエタノールの量を測定する。ブタノールの量から反応率を計算する。
【0105】
【表6】

【0106】
以下の比較例A)およびB)はUS2004−0082023の記載に従って実施したものである。
【0107】
比較例A)
100mlの丸底フラスコ中に、ポリアクリル酸(7.2gもしくは酸基100ミリモル)およびエチレングリコール(18.6gもしくは300ミリモル)を85℃で20分攪拌する。Novozym2.58gの添加後に、さらに85℃で24時間攪拌する。間隔をあけて真空を適用して、生じた水を除去する。
【0108】
冷却後に該バッチをメタノール中に溶解し、かつ担持された酵素を濾別する。生成物を酢酸エチル中で沈殿させ、かつ反応率をD2OもしくはDMSO(ジメチルスルホキシド)中で、1H−NMRによりUS2004−0082023と同様に分析する。
【0109】
【表7】

【0110】
比較例B)
100mlの丸底フラスコ中で、ポリアクリル酸1質量部およびエチレングリコール3〜10質量部を85℃で20分間攪拌する。Novozym 435を0.1質量部添加した後で、さらに85℃で24時間攪拌する。間隔をあけて真空を適用して生じた水を除去する。
【0111】
冷却後に、該バッチをメタノール中に溶解し、担持された酵素を濾別し、かつメタノールを回転蒸発器で除去する。反応率を1H−NMRによりUS2004−0082023と同様に測定する。
【0112】
【表8】

【0113】
前記の例は、ポリマー中の側鎖のエステル交換またはエステル化の際にアルコールと共に酵素を使用することがどのような影響を及ぼすかを明らかに示している。比較例は、ポリマー主鎖に直接結合したポリアクリル酸の酸基のエステル交換またはエステル化の際に、酵素を使用しても改善につながらない(それどころか反応率はより低い)ことを示している。これに対して、本発明による方法によりポリマー主鎖に直接結合していないポリマーの酸基をエステル交換またはエステル化する場合、酵素の使用は明らかな反応率の向上をもたらす。特に例2ならびに6から、酵素の非存在下でもエステル交換は極めて低い度合いで行われることが明らかである。しかし酵素を使用すると、ポリマー主鎖に直接結合していない酸基は選択的に(明らかにより高い反応率で)エステル交換される。
【0114】
図式I〜VIに関して注意すべきは、これはそのつどのポリマーのエステル交換工程の理想化された記載であることである。それぞれの図式の右側に図示されているコポリマー(エステル交換生成物)は、理想化された、100%の反応率に関して記載されている。しかし比較例から読み取ることができるように、反応は通常、100%までは行われないので、それぞれのポリマーは、それぞれの図式の左側に、エステル交換前の相応する出発コポリマーに関して記載されているような単位も有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法であって、以下の工程
a)コポリマーを製造する工程、該コポリマーは、
aa)成分Aとして、一般式(I)
【化1】

[式中、
1は、HまたはCH3を表し、かつ
2は、Hまたはアルキル基であり、アルキル基は官能基、たとえばアクリル基、エーテル基、アミノ基、エポキシ基、ハロゲン基またはスルホン酸基により置換されていてもよい]の少なくとも1の(メタ)アクリレートと、
ab)成分Bとして、一般式(II)
【化2】

[式中、
3は、R1と同じものを表し、かつ
4は、R2と同じものを表し、かつn=1〜40である]の少なくとも1のモノマーとを、
重合することにより得られ、
b)基R4を有するカルボキシル基を、エステル交換またはエステル化を触媒する酵素の存在下にアルコールによりエステル交換またはエステル化する工程
を有する、ポリマー中の側鎖をエステル交換またはエステル化する方法。
【請求項2】
工程b)で使用されるアルコールが、糖、チオアルコール、アミノアルコール、不飽和アルコール、飽和脂肪族アルコールまたはポリオールから選択されており、特にメルカプトエタノール、ジメチルアミノアルコールまたはラウリルアルコールから選択されていることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
酵素として、カンディダ・アンタルクティカのフラクションBから、アルカリゲネス種から、アスペルギルス種から、ムコール種から、ペニシリウム種から、ゲオトリクム種から、リゾプス種から、バークホルデリア種、バークホルデリア・プランタリから、カンディダ種から、シュードモナス種から、サーモミセス種から、またはブタ膵臓からのリパーゼを使用することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
工程b)で、基R4の40%より多くをアルコールによりエステル交換またはエステル化することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
工程a)で、成分Cとして、一般式(I)および(II)のモノマーと共重合可能な、少なくとも1の別のモノマー、有利にはスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンから選択されるモノマーを使用することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
成分Aとして、C1〜C6−アルキルアクリレート、C1〜C6−アルキルメタクリレート、メタクリル酸またはアクリル酸を使用し、
成分B中で、R3は、HまたはCH3であり、nは2〜8であり、かつR4は、C1〜C4−アルキルであり、
工程b)のアルコールとして、メルカプトエタノールまたはジメチルアミノアルコールを使用し、かつ/または
酵素として、カンディダ・アンタルクティカのフラクションBからの、またはバークホルデリア・プランタリからのリパーゼを使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
工程b)で、アルコールとして、ラウリルアルコールを、メルカプトエタノールまたはジメチルアミノアルコールの代わりに使用することを特徴とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
工程a)で、
成分A 10〜90質量%、
成分B 10〜90質量%、
成分C 0〜50質量%
を使用し、その際、成分A〜Cの合計は、100質量%であることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工程b)を、20〜100℃、有利には40〜80℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
工程b)を、溶剤中で、有利にはトルエン中で実施することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
工程b)で、アルコール対基R4を有するカルボキシル基のモル比が、2〜4:1であることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法により製造することができるポリマー。
【請求項13】
洗剤中の繊維保護剤として、クラスト形成防止剤として、金属の錯化のため、灰色化防止剤として、鋼表面の不動態化のための腐食防止剤中で、分散染料中で、建築化学薬品における、接着剤中で、製紙のため、分散剤として、分散液中で、塗料および被覆中で、または錯化剤としての、請求項12記載のポリマーの使用。

【公開番号】特開2012−126919(P2012−126919A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−80115(P2012−80115)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2008−542739(P2008−542739)の分割
【原出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】