説明

ポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ及びその製造方法

【課題】 側面及び両端がポリマーで修飾されたカーボンナノチューブ類、並びに、カーボンナノチューブ類の構造に損傷を与えることなく、且つ、工業的に有利な方法で、カーボンナノチューブ類の表面をポリマーで修飾する方法を提供する。
【解決手段】 ナノスケールカーボンチューブと、一般式(1)
【化1】


[式中、R1はH又はC1-C4アルキル基を、R2はカルボニル基(−CO−)又は基−CO−CmH2m−C6H4−(m=0〜4)を、Xはハロゲン原子を示す。]で表されるアジド化合物との反応生成物に、(メタ)アクリレート類、スチレン類等のモノマーをリビングラジカル重合法でグラフト重合させてなるポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーで表面修飾されたナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料及びその製造方法に関する。更に、本発明は、該複合材料の製造法で使用する化合物にも関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、帯電防止膜形成などの目的のために、導電性フィラーとしてカーボンナノチューブを用いることが報告されている(例えば、特許文献1を参照)。しかし、黒鉛質構造を持ったカーボンナノチューブは、溶媒や樹脂との親和性に劣ること、黒鉛質構造の欠陥が存在すると形状に曲がりが生じ、曲がりくねった複数のCNTが絡み合った繭状の凝集体となっている。このため、カーボンナノチューブを溶媒中あるいは樹脂中に解きほぐして分散させることが困難なものとなっている。
【0003】
樹脂成形体に帯電防止性を付与するためにカーボンナノチューブを導電性フィラーとして用いて樹脂中で導電ネットワークを形成する際に、カーボンナノチューブが凝集体となっている場合は、本来必要な導電性フィラー量よりも多くの量で使用することが必要となる。また、たとえ該カーボンナノチューブの凝集体を解きほぐして分散させた場合でも、個々のカーボンナノチューブは、曲がった形状なので導電ネットワークを形成するには、直線状の形状に比べて多くの量で使用する必要がある。
【0004】
このため、カーボンナノチューブの溶媒、樹脂等の媒体との相溶性を向上させるべく、カーボンナノチューブの表面を有機物で修飾することが行われている。例えば、有機化合物をカーボンナノチューブ表面に共有結合させることが提案されており、そのような有機化合物として、カルベン類(非特許文献1)、アジド(またはナイトレン)類(非特許文献2)、アゾメチンイリド類(非特許文献3)、ジアゾニウム類(非特許文献4)又はフッ素化合物(非特許文献5)が報告されている。しかしながら、これらの技術は、低分子量の化合物又はオリゴマー領域の化合物で修飾しているだけであるので、樹脂等の媒体との相溶性を向上させる効果が必ずしも満足し得るものではない。
【0005】
また、単層カーボンナノチューブの存在下でスチレンのリビングアニオン重合を行うことにより、ポリスチレンをカーボンナノチューブ側面に直接結合させる手法が報告されている(非特許文献6)。しかし、リビングアニオン重合は操作が煩雑で工業化が困難である。
【0006】
一方、リビングアニオン重合に比較してより簡便に反応を管理できるラジカル型のリビング重合法であるATRP(Atom Transfer Radical Polymerization)法を用いて、カーボンナノチューブを重合体で修飾する手法が知られている(非特許文献7)。しかしながら、この方法では、単層カーボンナノチューブ表面に開始剤を導入する工程が極めて煩雑である。より詳しくは、この非特許文献7においては、カーボンナノチューブ表面の損傷が懸念される強酸(60%硝酸)でカーボンナノチューブ表面を処理してカルボキシル基を設け、これを更にチオニルクロライドと反応させて酸クロライドを得た後、開始剤を導入するためのブリッジとなるジオール化合物(エチレングリコール)をカーボンナノチューブ同士の架橋が起こらない条件で結合し、更に、開始剤となる2−ブロモー2−メチルプロピオニルブロマイドを反応させて開始点を形成する。この開始点を介してメチルメタクリレート等をリビングラジカル重合する。その結果、カーボンナノチューブ表面とポリマー鎖とは、-COO-CH2CH2-O-CO-C(CH3)2-なる構造の連結基を介して結合している。このように非特許文献7に記載の方法に従って、ラジカル型リビング重合法であるATRP法を用いる場合、開始剤(開始点)の導入法が煩雑であり、工業的生産面及びコスト面で大きな障害になると考えられる。
【0007】
更に、カーボンナノチューブを強酸で処理することによりカーボンナノチューブの両端部にカルボキシル基等の官能基を形成させ、このカルボキシル基と、アミノ基を有する化合物とを反応させることにより、アミド結合を介してカーボンナノチューブの両端部を修飾する手法も報告されている(非特許文献8)。しかし、この手法では、カーボンナノチューブを強酸で処理することが必須であるため、強酸によりカーボンナノチューブ自体の構造が損傷されるおそれが高いという問題点がある。
【0008】
また、リビングラジカル重合法であるATRP法にてあらかじめポリ(t−ブチルアクリレート)を製造し、その成長末端をアジド化し、これをフラーレン(C60)に付加させることにより得られた化合物(PtBA−C60)および該化合物のポリ(t−ブチルアクリレート)部分を加水分解してポリアクリル酸に変換して得られた化合物(PAA−C60)が知られている(非特許文献9)。しかし、フラーレンに比較して、サイズが長大であり、また、その側面の反応性が低いカーボンナノチューブに、同様の方法が適用できるかどうかについては記載されていない。
【0009】
上記のようにカーボンナノチューブの分散性向上に関して多くの報告が見られるが、工業的な観点から興味が持たれる、媒体(有機溶媒、樹脂など)への高濃度分散が可能なカーボンナノチューブ類及びその工業的に有利な製造法は未だ開発されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2002−67209号公報(請求項1)
【非特許文献1】C. Haddon, et al., Science 28295(1998)
【非特許文献2】A. Hirsch, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 40(2), 4002(2001)
【非特許文献3】M., Prato, et al., JACS 124, 760(2002)
【非特許文献4】J.M. Tour, et al., Mancomolecules 35, 8825(2002)
【非特許文献5】R.E. Smally, et al., J. Phys. Chem. B, 1052525(2001)
【非特許文献6】P.M., Ajaya, et al., JACS. 125, 9258(2003)
【非特許文献7】Deyue Yan, et al., J. Am. Chem. Soc., 126, 412 (2004)
【非特許文献8】M.A. Hamon, et al., Adv. Mater. 11, 834(1999)
【非特許文献9】C. Wang, et al., Macromolecules 36, 6060(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機溶媒、樹脂などの有機媒体中に高濃度に分散可能なカーボンナノチューブ類、並びに、かかる有機媒体に高濃度に分散可能なカーボンナノチューブを、カーボンナノチューブ類の構造に損傷を与えることなく、且つ、工業的に有利に製造する方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来技術の問題点に鑑みて、上記目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、次の知見を得た。
【0012】
(1)特定構造のアジド化合物が、カーボンナノチューブ類と反応してその表面(側面及び両端)に共有結合する。
【0013】
(2)こうしてカーボンナノチューブ類の表面に共有結合した特定構造のアジド化合物は、リビングラジカル重合のための開始点(開始剤)として機能する。
【0014】
(3)そのため、該開始点に、(メタ)アクリレート類及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーをリビングラジカル重合法でグラフト重合させることにより、該モノマーを含むポリマーまたはコポリマーでカーボンナノチューブ類の表面(側面及び両端)を修飾できる。
【0015】
(4)カーボンナノチューブ類と上記アジド化合物との反応、該反応の生成物に対するリビングラジカル重合法によるグラフト重合反応は、カーボンナノチューブ類の構造を実質上損傷させることがない。
【0016】
(5)リビングラジカル重合法は、リビングアニオン重合に比し、工業的応用に適しているため、工業的な実施の面でも有利である。
【0017】
本発明は、上記知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであって、次のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料及びその製造法を提供するものである。また、本発明は、該製造法で使用するアジド化合物を提供するものでもある。
【0018】
項1 下記一般式(1a)
【0019】
【化1】

[式中、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【0020】
【化2】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【0021】
【化3】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示し、
R3は、(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーの重合体を示す。]
で表される少なくとも1種の修飾基が、ナノスケールカーボンチューブの表面(側面及び両端)に結合していることを特徴とするポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。
【0022】
項2 R2が、式(p)で表される基である項1に記載のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。
【0023】
項3 ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体
である項1に記載のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブである項1に記載のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。
【0024】
項4 (a)ナノスケールカーボンチューブの表面(側面及び両端)に、(b)下記一般式(1b)
【0025】
【化4】

[式中、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【0026】
【化5】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【0027】
【化6】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示す。]
で表される少なくとも1種の連結基がその窒素原子で結合しており、上記一般式(1b)で表される連結基の基R1、基R2及びメチル基が結合している炭素原子に、(メタ)アクリレート類及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーがリビングラジカル重合法によりグラフト重合されていることを特徴とするポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。(即ち、前記一般式(1a)で表される少なくとも1種の修飾基が、ナノスケールカーボンチューブの表面(側面及び両端)に結合していることを特徴とするポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ複合材料)。
【0028】
項5 R2が、式(p)で表される基である項4に記載のポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【0029】
項6 ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体
である項4に記載のポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【0030】
項7 ナノスケールカーボンチューブと、一般式(1)
【0031】
【化7】

[式中、
Xは、ハロゲン原子を示し、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【0032】
【化8】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【0033】
【化9】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示す。]
で表されるアジド化合物の少なくとも1種とを反応させ、得られた反応生成物に、(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーをリビングラジカル重合法でグラフト重合させることを特徴とするポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料の製造方法。
【0034】
項8 R2が、式(p)で表される基である項7に記載の製造方法。
【0035】
項9 ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体
である項7に記載の製造方法。
【0036】
項10 リビングラジカル重合法が、ATRP (Atom Transfer Radical Polymerization)法である項7に記載の製造方法。
【0037】
項11 リビングラジカル重合を、塩化第一銅(CuCl)及び臭化第一銅(CuBr)から選択される触媒及び2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ−tert−ブチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジヘプチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ(1−ブチル−ペンチル)−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジトリデシル−2,2'−ビピリジル、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン及び下記式(3)
【0038】
【化10】

で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の配位子の存在下で、又は、NiBr2(P(n-C4H9)3)2の存在下で行う項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
【0039】
項12 項7〜11のいずれかに記載の製造方法により得られるポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【0040】
項13 一般式(1)
【0041】
【化11】

[式中、
Xは、ハロゲン原子を示し、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【0042】
【化12】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【0043】
【化13】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示す。]
で表されるアジド化合物。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、下記のような顕著な効果が達成される。
【0045】
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料は、ナノスケールカーボンチューブの表面(側面及び両端)がポリマーで修飾されているので、溶媒、樹脂等の媒体に対する親和性が劇的に向上しており、これら媒体への均一分散が極めて容易であり、また、ナノスケールカーボンチューブが該媒体中で沈殿したり、相分離したりすることが実質上ないという利点を有する。
【0046】
このことは、後述の実施例で得られたポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ分散液の遠心分離実験からも確認できる。
【0047】
従って、本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブは、樹脂中に又は樹脂と溶媒との混合物中に容易に均一分散させることができ、得られる分散物は、各種の分野、例えば、電磁遮蔽フィルム、塗料、帯電防止材料などの分野で使用するのに適している。
【0048】
本発明の製造法は、ナノスケールカーボンチューブの構造を実質上損傷させることがなく、また、リビングアニオン重合を使用する従来法に比し、工業的な実施の面でも有利である。
【0049】
また、本発明の一般式(1)で表されるアジド化合物は、ナノスケールカーボンチューブの構造を実質上損傷させることなく、ナノスケールカーボンチューブの表面と反応して、該表面に結合し、リビングラジカル重合法の開始剤として働く。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
ナノスケールカーボンチューブ
本発明においてポリマーで修飾されるナノスケールカーボンチューブとしては、各種のものが使用できるが、特に、次のものが例示できる。
【0051】
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体。
【0052】
これらのうちでも、特に、上記アモルファスナノスケールカーボンチューブ、ナノフレークカーボンチューブおよび鉄−炭素複合体が、溶媒、樹脂中での分散が良好であり、好ましい。これらチューブが溶媒、樹脂中での分散が良好である理由は完全には解明されていないが、これらチューブの最外層の炭素網面が不連続であるため、溶媒、樹脂等との親和性が高くなっているためと推察される。そして、更に、本発明に従い、かかるナノスケールカーボンチューブの表面をポリマーで修飾すると、樹脂、溶媒などの媒体に対する相溶性が更に一層向上する。
【0053】
カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、黒鉛シート(即ち、黒鉛構造の炭素原子面ないしグラフェンシート)がチューブ状に閉じた中空炭素物質であり、その直径はナノメートルスケールであり、壁構造は黒鉛構造を有している。カーボンナノチューブのうち、壁構造が一枚の黒鉛シートでチューブ状に閉じたものは単層カーボンナノチューブと呼ばれ、複数枚の黒鉛シートがそれぞれチューブ状に閉じて、入れ子状になっているものは入れ子構造の多層カーボンナノチューブと呼ばれている。本発明では、これら単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブがいずれも使用できる。
【0054】
本発明で使用できる単層カーボンナノチューブとしては、直径が0.4〜10nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が0.7〜5nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が0.7〜2nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
【0055】
また、本発明で使用できる多層カーボンナノチューブとしては、直径が1〜100nm程度、長さが1〜500μm程度のものが好ましく、直径が1〜50nm程度、長さが1〜100μm程度のものがさらに好ましく、特に、直径が1〜40nm程度、長さが1〜20μm程度のものが好ましい。
【0056】
アモルファスナノスケールカーボンチューブ
また、上記アモルファスナノスケールカーボンチューブは、WO00/40509(特許第3355442号)に記載されており、カーボンからなる主骨格を有し、直径が0.1〜1000nmであり、アモルファス構造を有するナノスケールカーボンチューブであって、直線状の形態を有し、X線回折法(入射X線:CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される炭素網平面(002)の平面間隔(d002)が3.54Å以上、特に3.7Å以上であり、回折角度(2θ)が25.1度以下、特に24.1度以下であり、2θバンドの半値幅が3.2度以上、特に7.0度以上であることを特徴とするものである。
【0057】
該アモルファスナノスケールカーボンチューブは、マグネシウム、鉄、コバルト、ニッケル等の金属の塩化物の少なくとも1種からなる触媒の存在下で、分解温度が200〜900℃である熱分解性樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール等を、励起処理することにより得られる。
【0058】
出発原料としての熱分解性樹脂の形状は、フィルム状乃至シート状、粉末状、塊状などの任意の形状であって良い。例えば、基板上に薄膜化アモルファスナノスケールカーボンチューブを形成させた炭素材料を得る場合には、基板上に熱分解性樹脂を塗布あるいは載置した状態で、適切な条件下に励起処理すればよい。
【0059】
該励起処理としては、例えば、不活性雰囲気中、好ましくは450〜1800℃程度の温度域でかつ原料の熱分解温度以上で加熱する、室温〜3000℃程度の温度域でかつ原料の熱分解温度以上でのプラズマ処理する等の処理が例示できる。
【0060】
本発明で使用するアモルファスナノスケールカーボンチューブは、アモルファス構造(非晶質構造)を有するナノスケールのカーボンナノチューブで、中空直線状であり、細孔が高度に制御されている。その形状は、主に円柱、四角柱などであり、先端の少なくとも一方が、キャップを有していない(開口している)場合が多い。先端が閉口している場合には、形状がフラット状である場合が多い。
【0061】
該アモルファスナノスケールカーボンチューブの外径は、通常1〜1000nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜200nm程度の範囲にあり、より好ましくは、1〜100nm程度の範囲にある。そのアスペクト比(チューブの長さ/直径)は2倍以上であり、好ましくは5倍以上である。
【0062】
ここで、「アモルファス構造」とは、規則的に配列した炭素原子の連続的な炭素層からなる黒鉛質構造ではなく、不規則な炭素網平面からなる炭素質構造を意味し、多数の微細なグラフェンシートが不規則に配列し、原子の配列が不規則になっている。代表的な分析手法である透過型電子顕微鏡による像からは、本発明による非晶質構造のナノスケールカーボンチューブは、炭素網平面の平面方向の広がりがアモルファスナノスケールカーボンチューブの直径の1倍より小さい。このように、アモルファスナノスケールカーボンチューブは、その壁部が黒鉛構造ではなく多数の微細なグラフェンシート(炭素網面)が不規則に分布したアモルファス構造を有しているため、最外層を構成する炭素網面は、チューブ長手方向の全長にわたって連続しておらず、不連続となっている。特に、最外層を構成する炭素網面の長さは、20nm未満、特に5nm未満である。
【0063】
非晶質炭素は一般的にはX線回折を示さないが、ブロードな反射を示す。黒鉛質構造では、炭素網平面が規則的に積み重なっているので、炭素網平面間隔(d002)が狭くなり、ブロードな反射は高角側(2θ)に移行して、次第に鋭くなり(2θバンドの半値幅が狭くなり)、d002回折線として観測できるようになる(黒鉛的位置関係で規則正しく積み重なっている場合はd002=3.354Åである)。
【0064】
これに対し、非晶質構造は、上記のように一般的にはX線による回折を示さないが、部分的に非常に弱い干渉性散乱を示す。X線回折法(入射X線=CuKα)において、ディフラクトメーター法により測定される本発明によるアモルファスナノスケールカーボンチューブの理論的な結晶学的特性は、以下の様に規定される:炭素網平面間隔(d002)は、3.54Å以上であり、より好ましくは3.7Å以上である;回折角度(2θ)は、25.1度以下であり、より好ましくは24.1度以下である;前記2θバンドの半値幅は、3.2度以上であり、より好ましくは7.0度以上である。
【0065】
典型的には、本発明で使用するアモルファスナノスケールカーボンチューブは、X線回折による回折角度(2θ)が18.9〜22.6度の範囲内にあり、炭素網平面間隔(d002)は3.9〜4.7Åの範囲内にあり、2θバンドの半値幅は7.6〜8.2度の範囲内にある。
【0066】
本発明のアモルファスナノスケールカーボンチューブの形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。すなわち、透過型電子顕微鏡によるアモルファスナノスケールカーボンチューブ像の長さをLとし、そのアモルファスナノスケールカーボンチューブを伸ばした時の長さをL0とした場合に、L/L0が0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
【0067】
かかるアモルファスナノスケールカーボンチューブのチューブ壁部分は、あらゆる方向に配向した複数の微細な炭素網平面(グラフェンシート)からなる非晶質構造であり、これらの炭素網平面の炭素平面間隔により活性点を有するためか、媒体である溶媒、樹脂との親和性に優れているという利点を有する。
【0068】
鉄−炭素複合体
また、本発明で使用する上記鉄−炭素複合体は、特開2002−338220号公報に記載されており、(a)ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブ(a)のチューブ内空間部の10〜90%の範囲に(b)の炭化鉄又は鉄が充填されている。即ち、チューブ内空間部の100%の範囲に完全に充填されているものではなく、上記金属又は合金がそのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に充填されている(即ち、部分的に充填されている)ことを特徴とするものである。壁部は、パッチワーク状ないし張り子状(いわゆるpaper mache状)のナノフレークカーボンチューブである。
【0069】
本願特許請求の範囲及び明細書において、「ナノフレークカーボンチューブ」とは、フレーク状の黒鉛シートが複数枚(通常は多数)パッチワーク状ないし張り子状(paper mache状)に集合して構成されている、黒鉛シートの集合体からなる炭素製チューブを指す。
【0070】
かかる鉄−炭素複合体は、
(1)不活性ガス雰囲気中、圧力を10-5Pa〜200kPaに調整し、反応炉内の酸素濃度を、反応炉容積をA(リットル)とし酸素量をB(Ncc)とした場合の比B/Aが1×10-10〜1×10-1となる濃度に調整した反応炉内でハロゲン化鉄を600〜900℃まで加熱する工程、及び
(2)上記反応炉内に不活性ガスを導入し、圧力10-5Pa〜200kPaで熱分解性炭素源を導入して600〜900℃で加熱処理を行う工程
を包含する製造方法により製造される。
【0071】
ここで、酸素量Bの単位である「Ncc」は、気体の25℃での標準状態に換算したときの体積(cc)という意味である。
【0072】
該鉄−炭素複合体は、(a) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブと(b)炭化鉄又は鉄とからなるものであって、該カーボンチューブ内空間部(即ち、チューブ壁で囲まれた空間)の実質上全てが充填されているのではなく、該空間部の一部、より具体的には10〜90%程度、特に30〜80%程度、好ましくは40〜70%程度が炭化鉄又は鉄により充填されている。
【0073】
本発明で使用する鉄−炭素複合体においては、特開2002−338220号公報に記載されているように、炭素部分は、製造工程(1)及び(2)を行った後、特定の速度で冷却するとナノフレークカーボンチューブとなり、製造工程(1)及び(2)を行った後、不活性気体中で加熱処理を行い、特定の冷却速度で冷却することにより、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
【0074】
<(a-1)ナノフレークカーボンチューブ>
本発明のナノフレークカーボンチューブと炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、典型的には円柱状であるが、そのような円柱状の鉄−炭素複合体(特開2002−338220号の実施例1で得られたもの)の長手方向に垂直な断面の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を図3に示し、側面のTEM写真を図1に示す。
【0075】
また、図4の(a-1)にそのような円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図を示す。図4の(a-1)において、100は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像を模式的に示しており、200は、ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像を模式的に示している。
【0076】
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブは、代表的には、中空円筒状の形態を有し、その断面をTEM観察した場合、弧状グラフェンシート像が同心円状に集合しており、個々のグラフェンシート像は、不連続な環を形成しており、その長手方向をTEMで観察した場合、略直線状のグラフェンシート像が、長手方向にほぼ並行に多層状に配列しており、個々のグラフェンシート像は、長手方向全長にわたって連続しておらず、不連続となっているという特徴を有している。
【0077】
より詳しくは、本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブは、図3及び図4の(a-1)の200から明らかなように、その長手方向に垂直な断面をTEM観察した場合、多数の弧状グラフェンシート像が同心円状(多層構造のチューブ状)に集合しているが、個々のグラフェンシート像は、例えば210、214に示すように、完全に閉じた連続的な環を形成しておらず、途中で途切れた不連続な環を形成している。一部のグラフェンシート像は、211に示すように、分岐している場合もある。不連続点においては、一つの不連続環を構成する複数の弧状TEM像は、図4の(a-1)の222に示すように、層構造が部分的に乱れている場合もあれば、223に示すように隣接するグラフェンシート像との間に間隔が存在している場合もあるが、TEMで観察される多数の弧状グラフェンシート像は、全体として、多層状のチューブ構造を形成している。
【0078】
また、図1及び図4の(a-1)の100から明らかなように、ナノフレークカーボンチューブの長手方向をTEMで観察した場合、多数の略直線状のグラフェンシート像が本発明で使用する鉄−炭素複合体の長手方向にほぼ並行に多層状に配列しているが、個々のグラフェンシート像110は、鉄−炭素複合体の長手方向全長にわたって連続しておらず、途中で不連続となっている。一部のグラフェンシート像は、図4の(a-1)の111に示すように、分岐している場合もある。また、不連続点においては、層状に配列したTEM像のうち、一つの不連続層のTEM像は、図4の(a-1)の112に示すように、隣接するグラフェンシート像と少なくとも部分的に重なり合っている場合もあれば、113に示すように隣接するグラフェンシート像と少し離れている場合もあるが、多数の略直線状のTEM像が、全体として多層構造を形成している。
【0079】
かかる本発明のナノフレークカーボンチューブの構造は、従来の多層カーボンナノチューブと大きく異なっている。即ち、図4の(a-2)の400に示すように、入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、その長手方向に垂直な断面のTEM像が、410に示すように、実質上完全な円形のTEM像となっている同心円状のチューブであり、且つ、図4の(a-2)の300に示すように、その長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像310等が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
【0080】
以上より、詳細は未だ完全には解明されていないが、本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブは、フレーク状のグラフェンシートが多数パッチワーク状ないし張り子状に重なり合って全体としてチューブを形成しているようにみえる。
【0081】
このような本発明のナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間部に内包された炭化鉄又は鉄からなる鉄−炭素複合体は、特許第2546114号に記載されているような入れ子構造の多層カーボンナノチューブのチューブ内空間部に金属が内包された複合体に比し、カーボンチューブの構造において大きく異なっている。
【0082】
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成しているナノフレークカーボンチューブをTEM観察した場合において、その長手方向に配向している多数の略直線状のグラフェンシート像に関し、個々のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。即ち、図4の(a-1)の100に示されるように、110で示される略直線状のグラフェンシートのTEM像が多数集まってナノフレークカーボンチューブの壁部のTEM像を構成しており、個々の略直線状のグラフェンシート像の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
【0083】
このように、鉄−炭素複合体においては、その壁部を構成するナノフレークカーボンチューブの最外層は、チューブ長手方向の全長にわたって連続していない不連続なグラフェンシートから形成されており、その最外面の炭素網面の長さは、通常、2〜500nm程度、特に10〜100nm程度である。
【0084】
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成するナノフレークカーボンチューブの壁部の炭素部分は、上記のようにフレーク状のグラフェンシートが多数長手方向に配向して全体としてチューブ状となっているが、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
【0085】
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
【0086】
<(a-2)入れ子構造の多層カーボンナノチューブ>
前記のように、工程(1)及び(2)を行った後、特開2002−338220号に記載のように、不活性気体中で加熱処理を行い、特定の冷却速度で冷却することにより、得られる鉄−炭素複合体を構成するカーボンチューブは、入れ子構造の多層カーボンナノチューブとなる。
【0087】
こうして得られる入れ子構造の多層カーボンナノチューブは、図4の(a-2)の400に示すように、その長手方向に垂直な断面のTEM像が実質上完全な円を構成する同心円状のチューブであり、且つ、その長手方向の全長にわたって連続したグラフェンシート像が平行に配列している構造(同心円筒状ないし入れ子状の構造)である。
【0088】
本発明で使用する鉄−炭素複合体を構成する入れ子構造の多層カーボンナノチューブの壁部の炭素部分は、X線回折法により測定した場合に、炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するものである。
【0089】
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体の入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる壁部の厚さは、49nm以下、特に0.1〜20nm程度、好ましくは1〜10nm程度であって、全長に亘って実質的に均一である。
【0090】
<(b)内包されている炭化鉄又は鉄>
本明細書において、上記ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ内空間部の炭化鉄又は鉄による充填率(10〜90%)は、本発明により得られた鉄−炭素複合体を透過型電子顕微鏡で観察し、各カーボンチューブの空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の像の面積に対する、炭化鉄又は鉄が充填されている部分の像の面積の割合である。
【0091】
炭化鉄又は鉄の充填形態は、カーボンチューブ内空間部に連続的に充填されている形態、カーボンチューブ内空間部に断続的に充填されている形態等があるが、基本的には断続的に充填されている。従って、本発明で使用する鉄−炭素複合体は、金属内包炭素複合体ないし鉄化合物内包炭素複合体、炭化鉄又は鉄内包炭素複合体とも言うべきものである。
【0092】
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体に内包されている炭化鉄又は鉄は、カーボンチューブの長手方向に配向しており、結晶性が高く、炭化鉄又は鉄が充填されている範囲のTEM像の面積に対する、結晶性炭化鉄又は鉄のTEM像の面積の割合(以下「結晶化率」という)は、一般に、90〜100%程度、特に95〜100%程度である。
【0093】
内包されている炭化鉄又は鉄の結晶性が高いことは、本発明鉄−炭素複合体の側面からTEM観察した場合、内包物のTEM像が格子状に配列していることから明らかであり、電子線回折において明確な回折パターンが得られることからも明らかである。
【0094】
また、本発明で使用する鉄−炭素複合体に炭化鉄又は鉄が内包されていることは、電子顕微鏡、EDX(エネルギー分散型X線検出器)により容易に確認することができる。
【0095】
<鉄−炭素複合体の全体形状>
本発明で使用する鉄−炭素複合体は、湾曲が少なく、直線状であり、壁部の厚さが全長に亘ってほぼ一定の均一厚さを有しているので、全長に亘って均質な形状を有している。その形状は、柱状で、主に円柱状である。
【0096】
本発明による鉄−炭素複合体の外径は、通常、1〜100nm程度、特に1〜50nm程度の範囲にあり、好ましくは1〜30nm程度の範囲にあり、より好ましくは10〜30nm程度の範囲にある。チューブの長さ(L)の外径(D)に対するアスペクト比(L/D)は、5〜10000程度であり、特に10〜1000程度である。
【0097】
本発明で使用する鉄−炭素複合体の形状を表す一つの用語である「直線状」なる語句は、次のように定義される。即ち、透過型電子顕微鏡により本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を200〜2000nm四方の範囲で観察し、像の長さをWとし、該像を直線状に伸ばした時の長さをWoとした場合に、比W/Woが、0.8以上、特に、0.9以上となる形状特性を意味するものとする。
【0098】
本発明で使用する鉄−炭素複合体は、バルク材料としてみた場合、次の性質を有する。即ち、本発明では、上記のようなナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブから選ばれるカーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体は、顕微鏡観察によりかろうじて観察できる程度の微量ではなく、多数の該鉄−炭素複合体を含むバルク材料であって、鉄−炭素複合体を含む炭素質材料、或いは、炭化鉄又は鉄内包炭素質材料ともいうべき材料の形態で大量に得られる。
【0099】
特開2002−338220の実施例1で製造されたナノフレークカーボンチューブとそのチューブ内空間に充填された炭化鉄からなる本発明炭素質材料の電子顕微鏡写真を、図2に示す。
【0100】
図2から判るように、本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料においては、基本的にはほとんど全ての(特に99%又はそれ以上の)カーボンチューブにおいて、その空間部(即ち、カーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されており、空間部が充填されていないカーボンチューブは実質上存在しないのが通常である。但し、場合によっては、炭化鉄又は鉄が充填されていないカーボンチューブも微量混在することがある。
【0101】
また、本発明の炭素質材料においては、上記のようなカーボンチューブ内空間部の10〜90%に鉄または炭化鉄が充填されている鉄−炭素複合体が主要構成成分であるが、本発明の鉄−炭素質複合体以外に、スス等が含まれている場合がある。そのような場合は、本発明の鉄−炭素質複合体以外の成分を除去して、本発明の炭素質材料中の鉄−炭素質複合体の純度を向上させ、実質上本発明で使用する鉄−炭素複合体のみからなる炭素質材料を得ることもできる。
【0102】
また、従来の顕微鏡観察で微量確認し得るに過ぎなかった材料とは異なり、本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料は大量に合成できるので、その重量を容易に1mg以上とすることができる。後述する本発明製法をスケールアップするか又は何度も繰り返すことにより本発明の該材料は無限に製造できる。
【0103】
本発明炭素質材料は、該炭素質材料1mgに対して25mm2以上の照射面積で、CuKαのX線を照射した粉末X線回折測定において、内包されている鉄または炭化鉄に帰属される40°<2θ<50°のピークの中で最も強い積分強度を示すピークの積分強度をIaとし、カーボンチューブの炭素網面間の平均距離(d002)に帰属される26°<2θ<27°のピークの積分強度Ibとした場合に、IaのIbに対する比R(=Ia/Ib)が、0.35〜5程度、特に0.5〜4程度であるのが好ましく、より好ましくは1〜3程度である。
【0104】
本明細書において、上記Ia/Ibの比をR値と呼ぶ。このR値は、本発明で使用する鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を、X線回折法において25mm2以上のX線照射面積で観察した場合に、炭素質材料全体の平均値としてピーク強度が観察されるために、TEM分析で測定できる1本の鉄−炭素複合体における内包率ないし充填率ではなく、鉄−炭素複合体の集合物である炭素質材料全体としての、炭化鉄又は鉄充填率ないし内包率の平均値を示すものである。
【0105】
尚、多数の本発明鉄−炭素複合体を含む炭素質材料全体としての平均充填率は、TEMで複数の視野を観察し、各視野で観察される複数の鉄−炭素複合体における炭化鉄又は鉄の平均充填率を測定し、更に複数の視野の平均充填率の平均値を算出することによっても求めることができる。かかる方法で測定した場合、本発明で使用する鉄−炭素複合体からなる炭素質材料全体としての炭化鉄又は鉄の平均充填率は、10〜90%程度、特に40〜70%程度である。
【0106】
ナノフレークカーボンチューブ
上記の鉄又は炭化鉄がナノフレークカーボンチューブのチューブ内空間に部分内包されている鉄−炭素複合体を酸処理することにより、内包されている鉄又は炭化鉄が溶解除去され、チューブ内空間部に鉄又は炭化鉄が存在しない中空のナノフレークカーボンチューブを得ることができる。
【0107】
上記酸処理に使用する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等を例示でき、その濃度は0.1N程度のものが好ましい。酸処理方法としては、種々の方法により行うことが可能であるが、例えば、0.1Nの塩酸100mlに対して、1gの鉄内包ナノフレークカーボンチューブを分散し、室温で6時間撹拌処理し、ろ過分離した後、さらに、2回0.1Nの塩酸100mlで同様の処理を行なうことで、中空のナノフレークカーボンチューブを得ることができる。
【0108】
この酸処理によってもナノフレークカーボンチューブの基本的構成は特に変化を受けない。よって、チューブ内空間部に鉄又は炭化鉄が存在しない中空のナノフレークカーボンチューブにおいても、その最外面を構成する炭素網面の長さは、500nm以下であり、特に2〜500nm、特に10〜100nmである。
【0109】
アジド化合物
本発明で使用するアジド化合物は、次の一般式(1)で表される化合物である。
【0110】
【化14】

[式中、
Xはハロゲン原子を示し、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、下記の式(p)で表されるカルボニル基又は下記一般式(q)で表される基を示す。
【0111】
【化15】

【0112】
【化16】

(一般式(q)において、mは0又は1〜4の整数を示す。)]。
【0113】
上記一般式(1)において、R1で示されるアルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキル基、特に炭素数1〜3の直鎖又は分岐のアルキル基が好ましく、なかでもメチル基、エチル基等が好ましい。
【0114】
また、上記一般式(1)において、Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子が好ましく、なかでも臭素原子が好ましい。
【0115】
一般式(1)で表される化合物は、一般に、例えば、次の反応工程式1に示す方法に従って製造できる。
反応工程式1
【0116】
【化17】

上記反応工程式1において、X、R1及びR2は前記に同じであり、Yはハロゲン原子(塩素原子、臭素原子)を示す。
【0117】
上記反応工程式1の反応をより詳しく説明すると、まず、一般式(s1)で表されるカルボン酸誘導体とハロゲン化剤とを、適当な溶媒中、塩基の存在下で反応させる。一般式(s1)で表されるカルボン酸誘導体は、公知であるか、又は、公知方法により容易に製造できる化合物である。ハロゲン化剤としては、例えば、クロロ炭酸エチルを例示できる。溶媒としては、例えば、アセトン等の有機溶媒を例示できる。塩基としては、例えば、トリエチルアミン等のアミン類等を例示できる。一般式(s1)で表されるカルボン酸誘導体1モルに対して、ハロゲン化剤を等モル以上、特に1〜3モル程度使用するのが好ましい。塩基は、ハロゲン化剤1モルに対して、等モル以上、特に1〜3モル程度使用するのが好ましい。一般式(s1)で表されるカルボン酸誘導体とハロゲン化剤との反応は、通常、−10℃〜室温程度で行うのが好ましい。こうして、一般式(s2)で表される酸ハライド(中間体)を得る。
【0118】
次いで、こうして得られた一般式(s2)で表される酸ハライドにアジ化ナトリウムを適当な溶媒中で反応させる。溶媒としては、例えば、水等を例示できる。アジ化ナトリウムの使用量は、一般式(s2)で表される酸ハライド1モルに対して、等モル以上、特に1〜3モル程度であるのが好ましい。この反応は、0〜50℃程度、特に室温付近の温度で行うのが好ましい。こうして、目的とする一般式(1)で表されるアジド化合物を得る。
【0119】
得られる粗製の一般式(1)で表されるアジド化合物は、必要であれば、通常公知の精製手段、例えば、溶媒抽出法、再結晶法等により精製できる。
【0120】
一般式(1)で表されるアジド化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0121】
モノマー
本発明において、リビングラジカル重合法で重合させるモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリレート類、スチレン類が好ましい。
【0122】
本明細書及び特許請求の範囲において、「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリレート及び/又はメタクリレートを指すものとする。同様に、「(メタ)アクリル酸」という用語は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を指す。
【0123】
上記(メタ)アクリレート類としては、(メタ)アクリル酸の(C1−C12)アルキルエステル、ヒドロキシ低級(C1−C3)アルキルエステル、アラルキルエステル(特にベンジルエステル)、炭素数1〜4のパーフルオロアルキルエステル等が使用できる。なかでも、メチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、t−ブチルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを挙げることができる。
【0124】
また、スチレン類としては、スチレンの他、下記一般式(M1)又は(M2)で表されるものを例示できる。
【0125】
【化18】

[一般式(M1)において、Raは、CF3、F、Br、Cl、CH3、i-C4H9、Si(CH3)3、CH2Cl、−O−(C=O)−CH3、−CH2−O−CH3、−CH2−O−(C=O)−CH3、−SO3C2H5を示す。]
【0126】
【化19】

[一般式(M2)において、Rbは、CF3又はCH3を示す。]
これらモノマーは、1種単独で使用してもよく、また、2種以上を併用してもよい。これら一般式(M1)及び一般式(M2)で表されるモノマーは、いずれも公知のモノマーである。これらモノマーのうちでも、スチレン、スチレンスルホン酸エチル等を使用するのが好ましい。
【0127】
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブの製造法
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブは、例えば、上記一般式(1)で表されるアジド化合物により、ナノスケールカーボンチューブの表面(側面及び両端)を修飾する工程(第1工程)およびリビングラジカル重合法により上記モノマーをグラフト重合させる工程(第2工程)を含む方法により製造できる。
【0128】
<第1工程:アジド化合物による修飾工程>
まず、第1工程として、ナノスケールカーボンチューブに一般式(1)で表されるアジド化合物を反応させる。該アジド化合物の使用量は、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、ナノスケールカーボンチューブ100重量部当たり、5〜5000重量部程度、特に50〜500重量部程度とするのが好ましい。
【0129】
反応は、不活性溶媒中で行うのが好ましい。かかる不活性溶媒としては、上記アジド化合物を溶解させると共に、ナノスケールカーボンチューブとは実質上反応しない溶媒が挙げられ、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等を挙げることができる。溶媒の使用量は、広い範囲から適宜選択できるが、通常は、ナノスケールカーボンチューブ100重量部当たり、1000〜1,000,000重量部程度、特に10000〜200,000重量部程度とするのが好ましい。
【0130】
反応に際しては、上記溶媒にナノスケールカーボンチューブを分散させる。分散は、公知の分散装置、例えば、超音波ホモジナイザー等の装置を用いて行えばよい。次いで、上記一般式(1)で表されるアジド化合物を添加して、反応させる。
【0131】
反応は、酸素の非存在下で行うのが好ましく、アルゴン、チッ素等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。また、上記溶媒中の溶存酸素についても脱酸素するのが好ましく、例えば、事前に溶媒に上記不活性ガスを吹き込む等の方法で脱酸素しておくと有利である。
【0132】
反応温度は、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、80〜150℃程度、特に100〜130℃程度とするのが好ましい。反応時間は、反応温度、アジド化合物の使用量などによっても異なるが、一般には、30分〜200時間程度である。
【0133】
上記反応により、ナノスケールカーボンチューブの側面及び両端に、一般式(1c)
【0134】
【化20】

[式中、X、R1及びR2は、一般式(1)におけると同じ意味を有する。]
で表される基がその窒素原子で結合する。上記一般式(1c)で表される基は、その窒素原子とナノスケールカーボンチューブ表面の炭素原子との間で化学結合(共有結合)を形成して、ナノスケールカーボンチューブ表面に結合している。
【0135】
ナノスケールカーボンチューブ表面に結合する上記一般式(1c)で表される基の量は、一般に、一般式(1)で表されるアジド化合物の使用量が増大するに連れて増大する。従って、一般式(1)で表されるアジド化合物の使用量を調整することにより、ナノスケールカーボンチューブ表面に結合する上記一般式(1c)で表される基の量を調整することもできる。
【0136】
こうして上記一般式(1c)で表される基が結合したナノスケールカーボンチューブを含む反応混合物が得られるが、この連結基が結合したナノスケールカーボンチューブを含む反応混合物は、そのまま引き続きリビングラジカル重合工程に使用してもよく、また、連結基が結合したナノスケールカーボンチューブを公知の単離法により単離してから引き続くリビングラジカル重合工程に使用してもよい。
【0137】
<第2工程:リビングラジカル重合工程>
上記一般式(1c)で表される基は、前記のように、リビングラジカル重合のための開始点(開始剤)として機能し、前記モノマーをリビングラジカル重合法により重合させて、ポリマーを成長させることができる。
【0138】
従って、上記第1工程で得られた、アジド化合物で修飾されたナノスケールカーボンチューブに、前記モノマーをリビングラジカル重合反応させることにより、対応するポリマーをグラフト重合させることができる。
【0139】
リビングラジカル重合反応としては、ATRP(atom transfer radical polymerization)法が使用できる。ATRP法は、分子量分布の狭いポリマーの生成が可能な重合方法であり、リビングアニオン重合法に比し、工業的に有利である。例えば、リビングアニオン重合にあっては、微量の水分等の不純物混入防止の管理が重要であり、当該管理のために操作が煩雑である。これに対して、ATRP法は、通常の脱酸素操作を行う程度で良好な反応が継続できるという簡便さを有し、工業的な製造法として、スケ−ルアップの際にも有利である。
【0140】
一般に、ATRP法においては、開始剤及び触媒の存在下、必要に応じて溶媒を使用し、前記モノマーをリビングラジカル重合させる。本発明のポリマーの重合法としてATRP法を用いる場合、前記一般式(1)で表されるアジド化合物の少なくとも1種で表面修飾したナノスケールカーボンチューブ、即ち、前記一般式(1c)で表される基が側面及び両端に結合したナノスケールカーボンチューブが、開始剤として働く。その結果、ナノスケールカーボンチューブの表面に結合した前記一般式(1c)で表される基を開始点(開始剤)として、リビングラジカル重合が進行し、得られるポリマーによりナノスケールカーボンチューブの側面及び両端を修飾することができる。
【0141】
また、触媒としては、一般的なATRP法の触媒が使用でき、例えば、遷移金属、特に、銅、ニッケル、鉄、ルテニウム等の塩化物及び臭化物が好ましい。ただし、銅は1価のイオン、ニッケル、鉄、およびルテニウムは2価のイオンが用いられる。これら金属触媒は、通常は、有機金属錯体として、または、ビピリジル系やアミン系の化合物を配位子として併用して用いられる。これら触媒のなかでも、塩化第一銅(CuCl)、臭化第一銅(CuBr)、NiBr2(P(n-C4H9)3)2が好ましい。
【0142】
また、上記配位子の代表例としては、2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ−tert−ブチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジヘプチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ(1−ブチル−ペンチル)−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジトリデシル−2,2'−ビピリジル、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、化合物(3)(即ち、下記式(3)で表される化合物)などが挙げられる。またルテニウム2+錯体を使用する場合は、トリイソプロポキシアルミニウムなどのルイス酸の併用が好ましい。これらの中でも、臭化第一銅及び塩化第一銅からなる群から選ばれる銅系触媒と2,2'−ビピリジルまたは1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミンとを組み合わせた触媒が特に好ましい。
【0143】
【化21】

特に、本発明では、上記ATRP法によるリビングラジカル重合を、塩化第一銅(CuCl)及び臭化第一銅(CuBr)から選択される触媒及び2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ−tert−ブチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジヘプチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ(1−ブチル−ペンチル)−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジトリデシル−2,2'−ビピリジル、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン及び上記化合物(3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の配位子の存在下で、又は、NiBr2(P(n-C4H9)3)2の存在下で行うのが好ましい。
【0144】
本発明の第2工程であるリビングラジカル重合工程においては、無溶媒で重合を行うことができるが、必要に応じて溶媒を使用することもできる。溶媒の種類は特に限定されないが、原料モノマー及び触媒(又は触媒と配位子とからなる触媒系)を溶解するものが広い範囲から使用できる。なかでも、連鎖移動、不均化等の停止反応を促進しないものが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、メタノール、水、炭酸エチル等が使用できる。さらに、通常のラジカル重合で連鎖移動剤として作用するもの、例えば、クロロホルム等の他の溶媒も使用可能である。
【0145】
本発明においてリビングラジカル重合反応は、第1工程の反応混合物に、又は、前記一般式(1c)で表される基が結合したナノスケールカーボンチューブに、前記モノマー、触媒(又は触媒と配位子とからなる触媒系)及び必要に応じて上記溶媒等を添加して行う。
【0146】
モノマーの使用量は、適宜選択すればよいが、一般には、ナノスケールカーボンチューブ1重量部に対して、大過剰、例えば、10〜10,000重量部程度、好ましくは100〜1000重量部程度とすると良好な結果が得られる。
【0147】
また、触媒の使用量は、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、ナノスケールカーボンチューブ1重量部に対して、大過剰、例えば、10〜1000重量部程度、特に50〜200重量部程度とするのが好ましい。
【0148】
触媒と配位子とからなる触媒系を使用する場合、一般には、触媒1重量部に対して、配位子を0.1〜10重量部程度、特に0.5〜3重量部程度使用するのが好ましい。
【0149】
溶媒を使用する場合、溶媒の使用量は、広い範囲から適宜選択できるが、一般には、モノマー1重量部に対して、0〜10重量部程度、特に0〜3重量部程度とするのが好ましい。
【0150】
反応系は、酸素の不存在下で行うのが好ましく、アルゴン、チッソ、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。また、上記溶媒中の溶存酸素についても脱酸素するのが好ましく、例えば、事前に溶媒に上記不活性ガスを吹き込む等の方法で脱酸素しておくと有利である。
【0151】
重合反応温度は、広い範囲から適宜選択できるが、モノマーの自発的な反応を抑制する観点から、一般には、15〜90℃程度、特に20〜60℃程度とするのが好ましい。室温程度の低温でも、溶媒として水を用いて、容易に重合が進行する例もある。本発明のリビング重合に要する反応時間は、他の重合条件にもよるが、一般には、0.5〜72時間程度である。
【0152】
また、2種以上のモノマーを同時に重合させるとランダム共重合体を生成でき、順次重合させると通常のラジカル重合法では合成困難であったブロック共重合体を生成できる。たとえば、最初にアクリレート類(A)の重合を行い、その後に上記以外の他の単量体(B)の重合を行うと、重合体ブロックAと重合体ブロックBとからなるA−B型のブロック共重合体を生成できる。上記単量体Bの重合に続いて、再度単量体Aの重合を行うと、A−B−A型のブロック共重合体を生成できる。また、単量体A,Bを上記とは逆の順に重合させると、B−A−B型のブロック共重合体を生成できる。上記他の単量体(B)としては、例えば、前記スチレン類を例示できる。
【0153】
こうして、ナノスケールカーボンチューブの側面及び両端に、一般式(1a)
【0154】
【化22】

[式中、R1及びR2は、一般式(1)におけると同じ意味を有し、R3は、(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーのリビングラジカル重合体を示す。]
で表される修飾基が結合した本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブないしポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料を含有する反応混合物を得る。
【0155】
こうして得られた反応混合物から本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブないしポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料を単離するには、各種の方法が使用できる。例えば、上記反応混合物に、使用したモノマーを溶解し得る溶媒、例えば、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の有機溶媒を過剰量加えて希釈し、この希釈液を濾過すればよい。必要であれば、この希釈及び濾過の操作を繰り返してもよい。本発明では、ナノスケールカーボンチューブの大きさに対して十分小さい細孔サイズを有するフィルターで濾過することによって、触媒、未反応モノマー、反応溶媒、配位子等を除去することができ、これにより目的生成物を単離できる。
【0156】
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブないしポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブは、ナノスケールカーボンチューブの側面及び両端に、前記一般式(1a)で表される修飾基が結合していることを特徴とする。
【0157】
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブにおいて、ナノスケールカーボンチューブ表面に結合している前記一般式(1a)で表される修飾基の量は、本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブの5〜50重量%、特に10〜40重量%である。
【0158】
前記一般式(1a)中のR3は、(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーをリビングラジカル重合させてなる基(ポリマー鎖)を示す。即ち、R3は、該モノマーが前記リビングラジカル重合により成長したポリマー鎖からなる基である。かかるポリマー鎖の例としては、前記(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー又はコポリマーであり、具体的には、アクリレート類のホモポリマー及びコポリマー、スチレン類のホモポリマー及びコポリマー、アクリレート類とスチレン類とのランダム共重合体、アクリレート類からなるブロックとスチレン類からなるブロックとからなるブロック共重合体等が挙げられる。
【0159】
また、本発明は、ナノスケールカーボンチューブの側面及び両端に前記一般式(1b)で表される連結基の窒素原子が結合しており、更に該一般式(1b)で表される連結基の基R1、基R2及びメチル基が結合している炭素原子に、(メタ)アクリレート類及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーがリビングラジカル重合法によりグラフト重合されていることを特徴とするポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料を提供するものである。
【0160】
本発明のポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料において、ナノスケールカーボンチューブ表面に結合している一般式(1b)で表される連結基と該連結基を開始点としてリビングラジカル重合法によりグラフト重合された、(メタ)アクリレート類及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーからなるポリマーの合計量は、本発明のポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料の5〜50重量%、特に10〜40重量%である。
【0161】
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料は、ナノスケールカーボンチューブに、前記リビングラジカル重合法により成長した重合体が、前記一般式(1b)で表される連結基を介して結合(グラフト重合)しているという点で、前記非特許文献6に記載の複合材料とは明確に異なる新規な材料である。
【0162】
また、前記非特許文献7に記載のポリマー修飾多層カーボンナノチューブと比べると、本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料は、連結基の構造において全く異なっている。
【0163】
また、本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料は、前記非特許文献8に記載の材料と対比しても、連結基の構造において、明確に異なっている。
【0164】
本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ、ポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料は、溶媒、樹脂等の媒体に対する親和性が劇的に向上しており、これら媒体への均一分散が極めて容易であり、また、ナノスケールカーボンチューブが該媒体中で沈殿したり、相分離したりすることが実質上ないという利点を有する。このような優れた分散性ないし分散安定性は、本発明のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブないしポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料に固有の性質である。
【実施例】
【0165】
以下に参考例(ナノスケールカーボンチューブの製造例)、実施例および比較例を示して本発明の特徴とするところをより一層明確にするが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0166】
参考例1
アモルファスナノスケールカーボンナノチューブの製造
アモルファスナノスケールカーボンナノチューブは以下に示す方法で作製した:
60μm×10mm×10mmのPTFEフィルムに無水塩化鉄粉末(粒径500μm以下)10mgを均一に振りかけた後、プラズマ励起した。プラズマ励起の条件は、以下の通りであった:
雰囲気 :アルゴン(Ar)
内圧 :0.01torr
投入電力 :300W
RF周波数:13.56MHz。
【0167】
反応終了後、アモルファスナノスケールカーボンチューブ(外径;10〜60nm、長さ;5〜6μm)が形成されたことを、走査電子顕微鏡(SEM)およびX線回折により確認した。
【0168】
また、得られたアモルファスナノスケールカーボンチューブのX線回折角度(2θ)は19.1度であり、それから計算される炭素網平面間隔(d002)は4.6Å、2θのバンドの半値幅は8.1度であった。
【0169】
参考例2
原料としてトルエンを用い、触媒として塩化第2鉄を用い、特開2002−338220号に記載の方法に従って反応を行うことにより、炭化鉄がナノフレークカーボンチューブのチューブ内空間部に部分的に内包された鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を得た。
【0170】
得られた鉄−炭素複合体は、SEM観察の結果から、外径20〜100nm、長さ1〜10ミクロンで直線性の高いものであった。また、炭素からなる壁部の厚さは、5〜40nmであり、全長に亘って実質的に均一であった。該壁部は、TEM観察において、その炭素壁面が、入れ子状でもスクロール状でもなく、パッチワーク状(いわゆる paper mache 状ないし張り子状)になっているように見え、また、X線回折法から炭素網面間の平均距離(d002)が0.34nm以下の黒鉛質構造を有するナノフレークカーボンチューブであることを確認した。また、X線回折、EDXにより、上記本発明の鉄−炭素複合体には炭化鉄が内包されていることを確認した。
【0171】
得られた本発明の炭素質材料を構成する多数の鉄−炭素複合体を含む炭素質材料を電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、ナノフレークカーボンチューブの空間部(即ち、ナノフレークカーボンチューブのチューブ壁で囲まれた空間)への炭化鉄の充填率が20〜60%の範囲の種々の充填率を有する鉄−炭素複合体が混在していた。
【0172】
該多数の鉄−炭素複合体のナノフレークカーボンチューブ内空間部への炭化鉄のTEM観察像の複数の視野を観察して算出した平均充填率は30%であった。また、X線回折から算出されたR値は、0.57であった。
【0173】
実施例1
2−ブロモイソ酪酸10.9g、トリエチルアミン7.26g及びアセトン約30gからなる溶液中に、クロロ炭酸エチル7.15gを約30gのアセトンに溶解させた溶液を、氷冷下、滴下して反応させ、活性な中間体(酸クロライド)を得た。
【0174】
得られた反応混合物に、次いで、アジ化ナトリウム6.74gを水30gに溶解してなる溶液を、撹拌下、室温で30分程度を要して滴下した。
【0175】
得られたアジド化合物を含む反応混合物に、水と酢酸エチルを添加し、目的物を有機層に抽出した。酢酸エチル層をロータリーエバポレータを用いて全量の20%程度まで濃縮し、この濃縮液を下記の実施例2においてそのまま使用した。
【0176】
なお、該濃縮液の一部をサンプリングして、生成物の構造を、1H-NMR、IR及び元素分析により分析した。1H-NMRにおいて、δ=1.95ppmにシングレットピークが観察された。また、IR分析において、2100cm-1にアジド基特有の吸収が見られた。これら分析結果より、得られたアジド化合物は、一般式(1)において、R1=メチル基、R2=カルボニル基、X=Brである化合物であることを確認した。
【0177】
実施例2
(1) 第1工程:アジド化合物での修飾工程
容量100mlの丸底フラスコに、上記参考例2と同様にして得られた鉄−炭素複合体(炭化鉄を部分内包しているナノフレークカーボンチューブ)35mgおよびジメチルホルムアミド(DMF)23.2gを仕込み、超音波ホモジナイザーを用いて予備分散をおこなった。その後、得られた分散液にアルゴンガスを吹き込み、脱酸素した。得られた分散液にアルゴンガスを吹き込んで脱酸素し、次いで、上記実施例1で得たアジド化合物含有濃縮液(アジド化合物を0.141g含有)を添加し、撹拌下、バス温度130℃まで昇温した。同温度で撹拌を2日間行った。
【0178】
得られた反応混合物を、0.2μmPTFEフィルターで濾過し、DMFで十分洗浄した。
【0179】
(2) 第2工程:リビングラジカル重合工程(ATRP法)
容量100mlの丸底フラスコに、上記第1工程で得られたアジド化合物修飾鉄−炭素複合体全量及びスチレン20gを仕込み、系内にアルゴンガスを吹き込んで脱酸素し、直ちに、ニッケル触媒としてNiBr2(P(n-C4H9)3)22.9gを添加し、バス温度100℃まで昇温して同温度で4時間撹拌した。
【0180】
得られた反応混合物を大量のトルエンで希釈し、希釈液を0.2μmPTFEフィルターを用いて濾過し、トルエンで十分洗浄し、減圧乾燥機を用いて60℃、1日間乾燥した。こうして、実施例1で得たアジド化合物で修飾され、更にスチレンをリビングラジカル重合によりグラフトさせた鉄−炭素複合体を得た。
【0181】
得られたポリスチレンで修飾された鉄−炭素複合体の熱分析結果を下記に示す。即ち、上記ポリスチレンをグラフト重合させることにより修飾した鉄−炭素複合体と、未修飾品(本実施例2で原料として使用した鉄−炭素複合体そのもの)の熱分析(TG−DTA)を行い、ポリマーによる修飾率(ポリマーの存在割合)を決定した。熱分析は、昇温速度10℃/分で室温から900℃まで昇温する間に減少した重量を測定した。ポリスチレンをグラフト重合して修飾した鉄−炭素複合体は、約70%重量減少した。一方、未修飾品は約55%重量減少した。この結果から、グラフト重合により結合されたポリスチレン及びアジド化合物由来の連結基の合計量は、ポリスチレンで修飾された鉄−炭素複合体全量の約15重量%であることが判った。
【0182】
また、得られた本発明のポリスチレン修飾鉄−炭素複合体は、トルエンに良く分散し、分散安定性が優れていた(後記試験例1参照)。
【0183】
比較例1
従来技術における代表的なカーボンナノチューブの化学修飾法であるジアゾニウム法(前記非特許文献4、J.M. Tour, et al., Mancomolecules 35, 8825(2002))を、実施例2で原料として用いたナノスケールカーボンチューブ(鉄−炭素複合体、すなわち、炭化鉄を部分内包しているナノフレークカーボンチューブ)に適用した。より詳しくは、下記の通りである。
【0184】
(1)p-アミノ安息香酸エステルの合成
還流管付き丸底フラスコ(容量500ml)に、tert-ブチルアルコール11.0gを入れ、次にジクロロメタン約200gとピリジン12.8gを添加し、溶解させた。得られた溶液に、p-ニトロ安息香酸クロライド25gを徐々に加え、その後バス温度60℃で1日間反応を続けた。得られた反応混合物をジクロロメタンで希釈後、純水、希塩酸さらに重曹飽和水溶液で洗浄した。再結晶は、ヘキサンで行った。
【0185】
得られた精製品18.32gをエタノール約400mLに溶解後、触媒としてパラジウム担持炭素2gを分散し、水素約5.6Lを添加した。計算量の水素を反応させた後、触媒を除去し、乾燥し、粗製品を得た。再結晶は、ヘキサン/酢酸エチルで行った。
【0186】
1H-NMRにおいて、tert-ブチル基に由来するシグナル及び芳香環に由来するシグナルが測定されたことから、生成物がp−アミノ安息香酸tert-ブチルであることを確認した。
【0187】
(2) 修飾反応
丸底フラスコにジクロロベンゼン75mLとテトラヒドロフラン(THF)15mLとの混合溶媒に、上記参考例2と同様にして得られた鉄−炭素複合体50mgを加え、超音波ホモジナイザーで分散を促進した。その後、アルゴンガスを吹き込んで脱酸素し、p-アミノ安息香酸tert-ブチルエステル8.59gと亜硝酸イソアミル0.9gを添加し、昇温してバス温約55〜60℃で約2日反応を続けた。
【0188】
反応終了後、0.2μポリテトラフロオロエチレン(PTFE)製フィルターで、生成物を濾取し、DMFで洗浄を繰り返し、乾燥して精製品を得た。
【0189】
試験例1
溶媒に対する分散安定性の評価
R. Yerushalmi-Rosen, et al., Nano Lett. 2(1)25(2002)に記載の手法に従い、上記実施例2及び比較例1で得られた修飾された鉄−炭素複合体(炭化鉄が部分内包されたナノフレークカーボンチューブ)及び無修飾の鉄−炭素複合体のトルエンに対する分散性を評価した。
【0190】
トルエン100gに、実施例2および比較例1で得られた修飾鉄−炭素複合体又は無修飾の鉄−炭素複合体0.2gを添加し、超音波ホモジナイザー(超音波照射条件:周波数=20kHz、150ワット、照射時間=3分間)で十分混合した。得られた混合液を遠心分離機を用いて4,000回転/分(3130g)で20分間処理した。その後、混合液を取り出し、その様子を観察した。
【0191】
評価に用いた修飾又は無修飾ナノスケールカーボンチューブのトルエンに対する分散性が優れている場合、遠心分離処理後も、混合液は、ナノスケールカーボンチューブの黒色を呈する。一方、トルエンに対する分散性が低い場合、遠心分離処理後は、上澄み液中のナノスケールカーボンチューブの量が少ないか、または存在しない。
【0192】
実施例2で得た修飾ナノスケールカーボンチューブをトルエンに分散させた分散液は、遠心分離処理後も、当該分散液全体が当初の黒色を維持しており、分散液中に修飾ナノスケールカーボンチューブが実質上沈殿することなく多量に存在しており、沈殿は、ごく少量しか認められなかった。また、遠心分離後の分散液は、3ヶ月放置した後も、同様に当初の黒色を維持していた。
【0193】
一方、比較例1で得た修飾ナノスケールカーボンチューブをトルエンに分散させた分散液は、遠心分離処理後は、上澄み液がほとんど無色透明となり、大量の沈殿が遠心分離用ビーカーの底部に認められたことから、上澄み液中に修飾ナノスケールカーボンチューブが殆ど存在しないことが明らかであった。
【0194】
また、無修飾のナノスケールカーボンチューブ(実施例2で原料として使用した鉄−炭素複合体そのもの)も、比較例1と同様に遠心分離処理後は、上澄み液中に殆ど存在しなかった。
【0195】
上記結果から明らかなように、本発明のポリスチレン修飾鉄−炭素複合体は、非特許文献4の方法で修飾した鉄−炭素複合体(比較例1)およびポリマーで修飾していない鉄−炭素複合体そのものに比し、遙かに分散性及び分散安定性において優れていることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0196】
【図1】特開2002−338220号の実施例1で得られた炭素質材料を構成する鉄−炭素複合体1本の電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図2】特開2002−338220号の実施例1で得られた炭素質材料における鉄−炭素複合体の存在状態を示す電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図3】特開2002−338220号の実施例1で得られた鉄−炭素複合体1本を輪切状にした電子顕微鏡(TEM)写真である。尚、図3の写真中に示されている黒三角(▲)は、組成分析のためのEDX測定ポイントを示している。
【図4】カーボンチューブのTEM像の模式図を示し、(a-1)は、円柱状のナノフレークカーボンチューブのTEM像の模式図であり、(a-2)は入れ子構造の多層カーボンナノチューブのTEM像の模式図である。
【符号の説明】
【0197】
100 ナノフレークカーボンチューブの長手方向のTEM像
110 略直線状のグラフェンシート像
200 ナノフレークカーボンチューブの長手方向にほぼ垂直な断面のTEM像
210 弧状グラフェンシート像
300 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向の全長にわたって連続する直線状グラフェンシート像
400 入れ子構造の多層カーボンナノチューブの長手方向に垂直な断面のTEM像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1a)
【化1】

[式中、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【化2】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【化3】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示し、
R3は、(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーの重合体を示す。]
で表される少なくとも1種の修飾基が、ナノスケールカーボンチューブの側面及び両端に結合していることを特徴とするポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。
【請求項2】
R2が、式(p)で表される基である請求項1に記載のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。
【請求項3】
ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体
である請求項1に記載のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブである請求項1に記載のポリマー修飾ナノスケールカーボンチューブ。
【請求項4】
(a)ナノスケールカーボンチューブの側面及び両端に、(b)下記一般式(1b)
【化4】

[式中、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【化5】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【化6】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示す。]
で表される少なくとも1種の連結基がその窒素原子で結合しており、上記一般式(1b)で表される連結基の基R1、基R2及びメチル基が結合している炭素原子に、(メタ)アクリレート類及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーがリビングラジカル重合法によりグラフト重合されていることを特徴とするポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【請求項5】
R2が、式(p)で表される基である請求項4に記載のポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【請求項6】
ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体
である請求項4に記載のポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【請求項7】
ナノスケールカーボンチューブと、一般式(1)
【化7】

[式中、
Xは、ハロゲン原子を示し、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【化8】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【化9】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示す。]
で表されるアジド化合物の少なくとも1種とを反応させ、得られた反応生成物に、(メタ)アクリレート及びスチレン類からなる群から選ばれる少なくとも1種のモノマーをリビングラジカル重合法でグラフト重合させることを特徴とするポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料の製造方法。
【請求項8】
R2が、式(p)で表される基である請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
ナノスケールカーボンチューブが、
(i) 単層カーボンナノチューブ、
(ii) アモルファスナノスケールカーボンチューブ、
(iii) ナノフレークカーボンチューブ及び入れ子構造の多層カーボンナノチューブからなる群から選ばれるカーボンチューブ、又は
(iv)上記(iii)のカーボンチューブと炭化鉄又は鉄とからなり、該カーボンチューブのチューブ内空間部の10〜90%の範囲に炭化鉄又は鉄が充填されている鉄−炭素複合体
である請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
リビングラジカル重合法が、ATRP (Atom Transfer Radical Polymerization)法である請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
リビングラジカル重合を、塩化第一銅(CuCl)及び臭化第一銅(CuBr)から選択される触媒及び2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ−tert−ブチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジヘプチル−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジ(1−ブチル−ペンチル)−2,2'−ビピリジル、4,4'−ジトリデシル−2,2'−ビピリジル、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン及び下記式(3)
【化10】

で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の配位子の存在下で、又は、
NiBr2(P(n-C4H9)3)2の存在下で行う請求項7〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれかに記載の製造方法により得られるポリマー−ナノスケールカーボンチューブ複合材料。
【請求項13】
一般式(1)
【化11】

[式中、
Xは、ハロゲン原子を示し、
R1は、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、
R2は、式(p)
【化12】

で表される基を示すか、又は、一般式(q)
【化13】

(式中、mは0又は1〜4の整数を示す。)で表される基を示す。]
で表されるアジド化合物。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28421(P2006−28421A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212095(P2004−212095)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】