説明

ポリマー及びリガンド固定化用担体

【課題】 熱安定性が高く、不純物が少なく、リガンドと担体との結合が化学的に安定で、アフィニティ性の高いポリマー、及び該ポリマーを含むリガンド固定化用担体を提供すること。
【解決手段】 少なくともスチレン系モノマーとt−ブチルメタクリレートとを含んで重合されてなるポリマーであって、前記スチレン系モノマーが30mol%以上90mol%以下であり、該ポリマーの少なくとも一部が、下記一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基で置換されてなることを特徴とするポリマー。
【化1】


式中、Xは−O−又は−NH−を表し、Qはスペーサー基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断薬、検査薬、液体クロマトグラフィに好適に使用可能なポリマーに関し、特にリガンド固定化用担体として好適に用いることができるポリマーに関する。当該リガンド固定化用担体は、アフィニティクロマトグラフィの原理を使い、抗体などの液体中の有用物質あるいは病因物質を分離または精製するのに好適である。
【背景技術】
【0002】
分離または精製を目的とする物質(目的物質)に対し、親和性のある物質(リガンド)を不溶性担体に固定化しておき、該目的物質をこのリガンドに特異的に吸着させて回収し、精製を行う技術が、アフィニティクロマトグラフィとして知られている(例えば、非特許文献1参照。)。また、抗体の精製を目的に、リガンドとしてカッパ軽鎖結合蛋白をアガロースに結合させたアフィニティゲルを用いる方法(例えば、特許文献1参照。)や、両末端にエポキシ基を有する親水性スペーサーを介したエポキシ反応によりリガンド(抗体)を水不溶性セルロースに固定化した担体(例えば、特許文献2参照。)等が開示されている。
しかし、アガロースのごとき天然物由来の担体ゲルを用いた場合、ゲル自体が40℃以上で溶解してしまい温度に対する安定性が悪いという欠点があった。セルロースの場合、エポキシ化セルロースを合成するためにエピクロルヒドリンのごとき毒性の強い試薬を使用しなければならず、また作製したエポキシ化セルロースはリガンドに存在する官能基との結合選択性が低いため、リガンドのアフィニティ機能を有する特定部位にも結合してしまい、その結果、得られた固定化担体はアフィニティ性能が低いという欠点があった。さらに、アガロースあるいはセルロースのごとき担体ゲルは天然物由来であることから純度が低いという欠点があった。
【0003】
また、リガンドと担体がジスルフィド結合で連結したリガンド固定化担体が開示されている(例えば、非特許文献1及び特許文献3参照。)。しかしながら、ジスルフィド結合は化学的に不安定で他のチオール基を有する化合物(たとえば、システイン残基を有するペプチドやタンパク質)が存在すると容易に開裂してしまうという欠点があった。
固定化担体として、チオール基、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基のような官能基が導入されたポリスチレン、ポリメタクリル酸およびその誘導体、あるいはこれらの共重合体、更にはポリビニルアルコール、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの合成高分子化合物が開示されている(例えば、特許文献4及び特許文献5参照。)。しかしながら、上述の一般的な合成高分子では、たとえばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸のごとき脂肪族系のポリマーからなるリガンド固定化担体の場合、抗体分離性が著しく低下し、ポリスチレン、ヒドロキメチルポリスチレンのごとき芳香族系のポリマーは、目的物質以外の抗体も結合させるという非特異的な結合が起こり、選択性が低いという欠点があることがわかった。
【特許文献1】特開平7−146280号公報
【特許文献2】特開平6−34633号公報
【特許文献3】特開平2004−45120号公報
【特許文献4】特開平6−34633号公報
【特許文献5】特開2004−45120号公報
【非特許文献1】「Immobilized Affinity Ligand Techniques」 Academic Press 1992年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、担体の熱安定性が高く、不純物が少なく、リガンドと担体との結合が化学的に安定で、アフィニティ性の高いポリマー、及び該ポリマーを含むリガンド固定化用担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
少なくともスチレン系モノマーとt−ブチルメタクリレートとを含んで重合されてなるポリマーであって、前記スチレン系モノマーが30mol%以上90mol%以下であり、該ポリマーの少なくとも一部が、下記一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基で置換されてなることを特徴とするポリマーによって、上記課題の解決に至った。
【化1】

一般式(1)中、Xは−O−又は−NH−を表し、Qはスペーサー基を表す。
【0006】
さらに、一般式(1)中、Qで表されるスペーサー基がポリオキシエチレン鎖を含み、かつポリマーが水不溶性である場合や、前記ポリマーが架橋し、粒子の形状を有する場合が好適である。
これらのポリマーは、リガンド固定化用担体として好適に利用できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に因れば、担体の熱安定性が高く、不純物が少なく、リガンドと担体との結合が化学的に安定で、アフィニティ性の高いポリマー、及び該ポリマーを含むリガンド固定化用担体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のポリマーは、少なくともスチレン系モノマーとt−ブチルメタクリレートとを含んで重合されてなるポリマーであって、前記スチレン系モノマーが30mol%以上90mol%以下であり、該ポリマーの少なくとも一部が、一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基で置換されてなることを特徴とするポリマーである。
【0009】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のポリマーは、少なくともスチレン系モノマーとt−ブチルメタクリレートとを含んで重合されてなるポリマーであって、前記スチレン系モノマーが30mol%以上90mol%以下であり、該ポリマーの少なくとも一部が、下記一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基で置換されてなることを特徴とするポリマーであり、好ましくはスチレン系モノマーが40mol%以上80mol%以下の場合である。
【0010】
スチレン系モノマーとt−ブチルメタクリレート以外の成分として、上記条件を満足する範囲内で他の重合体成分を含有させることができる。他の成分としては(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、架橋する場合にはジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレングリコールが好ましい。
該成分スチレン系モノマーが90mol%より大きいとリガンドの選択性が低下し、目的物質以外の物理吸着が大きくなる。また、該成分スチレン系モノマーが30mol%より小さいと、リガンドのアフィニティ性が低下し、目的物質の吸着が著しく低下する。
【0011】
下記一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基は、t−ブチルメタクリレートのカルボン酸基の部分で置換され得る。置換の割合は、存在するカルボン酸基の全体に対して、1%以上100%以下であることが好ましく、10%以上90%以下であることがより好ましい。
【0012】
一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基について説明を行う。
【化2】

【0013】
ここで、Xは−O−又は−NH−を表す。Qはスペーサー基を表し、好ましくは、ポリオキシエチレン鎖、アルキレン鎖、アミノ鎖、ポリオキシプロピレン基を含有する2価の連結基であり、より好ましくは下記(1)又は(2)で表される二価の連結基である。
【0014】
【化3】

【0015】
スペーサー基が上記(1)の場合、aは、1以上の整数を表す。ポリオキシエチレン鎖の長さは特に限定されないが、分子量で60から10000までが好ましい。より好ましくは100から1000である(ここで述べるポリオキシエチレン鎖には単一のエチレンオキサイドをも含む)。bは、0又は1以上の整数を表し、好ましくは0又は1〜6の整数であり、より好ましくは0〜2であり、特に好ましくは0又は1である。
【0016】
スペーサー基が上記(1)の場合、ポリオキシエチレンの末端水酸基と、水酸基含有マレイミジルとをエーテル化反応で結合させることで得られる。マレイミジル基と水酸基の間にアルキレン基を介す場合(bが1以上の場合)は、ヒドロキシアルキルマレイミジル等の化合物を用いることで得られる。
スペーサー基が上記(1)で、Xが−O−の場合は、ポリオキシエチレンの末端水酸基と、水酸基含有マレイミジルとをエーテル化反応で結合させたときの、ポリオキシエチレンの片端水酸残基である。
スペーサー基が上記(1)で、Xが−NH−の場合は、(i)ポリオキシエチレンの末端水酸基と、水酸基含有マレイミジルとをエーテル化反応で結合し、ポリオキシエチレンの他方の末端水酸残基をアミノ基に変換する、(ii)上記(1)のスペーサーの両末端がアミンである化合物に無水マレイン酸を反応させた後、脱水し閉環する、(iii)ポリオキシエチレンの片末端水酸基をアミノ基に変換した後、ポリオキシエチレンの他方の末端水酸基と水酸基含有マレイミジルをエーテル化反応させる、(iv)ポリオキシエチレンの末端水酸基をアミノ基に変換した後、一分子中にN−ヒドロキシスクシンイミドエステル基とマレイミジル基を持つような二官能性試薬を反応させてマレイミジル基を導入する、等の方法により目的物質を得ることができる。
【0017】
スペーサー基が上記(2)の場合、cは、1以上の整数を表し、好ましくは1〜12の整数であり、より好ましくは1〜6である。
スペーサー基が上記(2)の場合で、Xが−O−の場合は、マレイミジル基と水酸基の間にアルキレン基を介す化合物、例えば、ヒドロキシメチルマレイミジル等の化合物を用いることで目的物質を得ることができる。
スペーサー基が上記(2)で、Xが−NH−の場合は、スペーサー基が(1)の場合と同様の方法により目的物質を得ることができる。
【0018】
Qで表されるスペーサー基として好ましくは、上記(1)で表されるポリオキシエチレン鎖を有するスペーサー基である。特に、リガンド固定化用担体として、粒子の形状を有する場合が好適である。ポリオキシエチレン鎖を導入することで水中、バッファ液中での分散性が高まり、操作性が容易になる。また、Qで表されるスペーサー基が上記(1)で表されるポリオキシエチレン鎖を有する結合基の場合、Xは−O−であることが好ましい。
【0019】
マレイミジル基をQ及びXを介して共重合体に導入する方法は、いかなる方法であってもよく、その目的によって適宜選択することができる。
例えば、Xが−O−の場合、(メタ)アクリル酸t−ブチル共重合体のごとき基材を酸又はアルカリで加水分解し、エステル部を一旦カルボキシル基に変換したカルボン酸含有共重合体と、Xの末端が水酸基である化合物とを、エステル反応させて導入しても良いし、あるいは、エステル交換触媒を用いて上記基材と直接エステル交換反応させることにより導入しても良い。または、あらかじめX及びQが結合した対応するモノマーを共重合することによって得ることもできる。Qが上記(1)に示すようなポリオキシエチレン鎖を有する場合には、カルボン酸に加水分解してからエステル反応させる方法が好ましい。
【0020】
本発明のポリマーに含まれるマレイミジル基の量は特に限定されるものではないが、0.001mmol/g以上含有することが好ましく、単位質量当たりの反応量をできるだけ多くするという観点から、0.01mmol/g以上1.0mmol/g以下が更に好ましく、特に、0.05mmol/g以上0.5mmol/g以下が好ましい。0.001mmol/g以上とすることにより、アフィニティ担体としてSH基含有物質を固定化することができ、0.05mmol/g以上とすることにより固定化の能力が特に充足される。
なお、上記ポリマー中のマレイミジル基の量は、次の方法によって測定した値とする。
【0021】
まず、ポリマー粒子を一定量ねじ口試験管にW(g)秤量し、あらかじめ調製した2−メルカプトエチルアミン(東京化成社製)の反応液を、2−メルカプトエチルアミンが過剰量になるよう一定量加え、攪拌反応させる。
次に、ポリマー粒子を遠心分離したのち、上澄み溶液の2−メルカプトアミンと4,4’−ジチオジピリジンとを反応させ、324nmの吸光度からモル吸光係数ε=19800を用いて上澄み溶液中の2−メルカプトエチルアミン量B(mol)を求める。
ブランクとして、サンプルを含まない系の2−メルカプトアミン量C(mol)も同様に測定し、下記の式に従ってマレイミジル基量M(mmol/g)を求める。
M=(C−B)/W×1000
【0022】
本発明においてスチレン系モノマーとは、t−ブチルメタクリレートと共重合可能な芳香族モノマーを意味し、スチレン、メチルスチレン、アミノスチレン、アセトキシスチレン、t−ブチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、フルオロスチレン、クロロメチルスチレン、シアノメチルスチレン、メトキシスチレン、フェニルスチレンなどが挙げられる。この中でも特に重合性と価格面から、スチレンが好ましい。
【0023】
本発明のポリマーの重合には公知の方法が利用でき、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、シード重合法等が好適に用いられる。さらに、膜乳化法として知られる乳化方法を使って懸濁重合することもできる。必要に応じて、当業者には周知の重合開始触媒を用いることができる。具体的には、ジアシルパーオキサイド、ケトンパーオキサイドおよびアルキルハイドロパーオキサイドのような有機過酸化物;過酸化水素およびオゾンのような無機過酸化物;およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN;和光純薬社よりV−60として入手可能)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(和光純薬社よりV−59として入手可能)および2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社よりV−65として入手可能)のような油溶性アゾ系有機化合物;2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二酸塩(和光純薬社よりV−50として入手可能)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](和光純薬社よりVA−086として入手可能)および2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二酸塩(和光純薬社よりVA−044として入手可能)のような水溶性アゾ系有機化合物が挙げられる。重合開始剤を用いる場合は、それらは重合が良好に開始されるのに充分な量で用いられる。このような量は当業者に周知で
ある。一般には、0.1〜5.0質量%の量で用いることが好ましい。
【0024】
得られたポリマーはメタノール等の溶媒に希釈分散させ、濾別し、更に水洗及び/又は溶剤洗浄の後、噴霧乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段によって粉体として単離することができる。
上記で重合されたポリマーを熱融解したり、溶剤に溶解することにより所望の形に成型後、冷却したり、溶剤を除去することにより固化することができる。
また、本発明のポリマーは必要に応じて架橋されるが、重合時に架橋させても、重合した後に架橋させてもよい。架橋の方法は特に限定されるものではないが、架橋剤の添加、電磁波の照射、電子線の照射、粒子線の照射などがある。架橋剤の種類は特に限定されるものではないがジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレングリコール、尿素樹脂、メラミン樹脂等がある。
【0025】
本発明のポリマーは、リガンド固定化用担体として好適に用いることができる。
担体にリガンドを固定化する方法としては、担体に導入したマレイミジル基とリガンドのメルカプト基との反応が好適に用いられる。リガンドがペプチドである場合、ペプチド連鎖中のシステイン残基のメルカプト基を利用して担体に固定化することができ、リガンドが抗体である場合は、抗体をペプシンで消化し、抗体の可変部位のみに精製して、リガンドに生成するメルカプト基を用いて担体に固定化することができる。また、抗体をアミノエタンチオールなどのチオール化合物で還元断片化し、生成したメルカプト基を用いて担体に固定化することができる。マレイミジル基とメルカプト基との反応は速やかで、かつ得られた結合は化学的安定性が高い。担体へのリガンドの固定化は担体とリガンドとを純水中もしくはバッファ中で混合攪拌すれば良い。
【0026】
ここで定義されるリガンドは、ターゲット物質と相互作用をもつものであれば、合成品、天然物の限定はされないが、抗体やレセプターなどを好ましく用いることができる。抗体を用いるのであれば、たとえば抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD28抗体、抗CD34抗体、抗CD199抗体、抗CCR4抗体、抗低比重リポ蛋白質(LDL)抗体、抗酸化LDL抗体、抗β2ミクログロブリン抗体、抗黄色ブドウ球菌毒素抗体などを用いることができ、目的によってその他のものも含めて種々選定することができる。
【0027】
また、レセプターを使用するのであれば、例えばCCR3,CCR4等のサイトカインレセプターやFcγ,Fcε等のイムノグロブリンレセプター、RAGE,LDLレセプター等のスカベンジャ−レセプター等,T細胞レセプターや主要組織適合性抗原等の細胞認識レセプター等を用いることができるがこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の担体は水不溶性であることが好ましい。本発明の担体の形態は特に限定しないが、液体処理カラムとして用いる場合には、粒子、繊維、中空繊維、糸束、ヤーン、ネット、編地、織物等が用いられるが、表面積が大きくかつ細胞を流した場合にも詰まることなく、流路抵抗の低いことを考慮すると、粒子、繊維、編地、織物、中空糸、多孔質膜が好ましく用いられる。特に操作性の点で粒子が好ましい。さらには、プレート上あるいはフィルム上にスポットとしてリガンド固定化担体が形成されていても良い。この場合、粒子状のリガンド固定化担体がプレート上あるいはフィルム上に固着されていても良いし、プレート上あるいはフィルム上にリガンド固定化部位が直接形成されていても良い。
【0029】
粒子の場合、その粒径は種々の用途に応じて選択可能であるが、一般的に乾燥状態での個数平均粒径が0.1〜1000μmであり、中でも固液分離の容易性の観点から、1〜200μmであることが好ましく、特に、5〜100μmであることが好ましい。
ここで、個数平均粒径は、乾燥粒子を光学顕微鏡または電子顕微鏡にて写真撮影し、その中から無作為に選んだ100個から200個の粒子の粒子径を各々測定し、それらの合計値を個数で除した値である。
【0030】
本発明において、ポリマーを粒子状とするためには公知の方法が利用でき、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法、シード重合法等が好適に用いられる。さらに、膜乳化法として知られる乳化方法を使って懸濁重合することもできる。
【0031】
本発明におけるリガンド固定化用担体は、特殊な反応性官能基を有さないので添加剤や溶媒との反応、残存による粒子物性への悪影響が全くないか、きわめて少ないという利点がある。また本発明におけるリガンド固定化用担体は熱および溶剤に対する安定性が高いので、ソックスレー抽出などの精製処理を長時間行うことで不純物を低減化でき、純度を上げることができる。
【0032】
さらに本発明におけるリガンド固定化用担体は着色を目的に、公知の染料、顔料、カーボンブラック、磁性粉などを添加することも可能である。マイクロカプセルにすることも可能で、多孔質粒子とすることも可能である。
【0033】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、部は質量部を示す。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
(架橋ポリマー粒子の合成)
ジビニルベンゼン(純度55質量%)を架橋剤として使用し、表1のごとくスチレン(和光純薬(株)製)およびメタクリル酸メチル(和光純薬(株)製)とメタクリル酸t−ブチル(和光純薬(株)製)との共重合比を変化させた基材粒子を作製した。造粒方法は、懸濁重合法を用い、分級操作を施し、個数平均粒径50μmに調整した。個数平均粒径の測定は、上述の通りである。
得られた粒子をイオン交換水及び溶剤で洗浄後、単離乾燥して基材粒子を得た。
【0035】
【表1】

【0036】
(ポリオキシエチレン鎖の導入)
上記で得られた基材粒子各10部を塩酸(和光純薬(株)製)75部に分散させ、ジオキサン(和光純薬(株)製)150部を加え、80℃で6時間反応させた。得られた粒子をメタノールに分散/洗浄しさらにイオン交換水及び溶剤で洗浄後、単離乾燥してポリメタクリル酸含有担体粒子を得た。カルボン酸の定量から共重合体のメタクリル酸t−ブチル成分の98%がメタクリル酸に変換されていた。
このようにして得られたポリメタクリル酸含有担体粒子P1〜P7のいずれか10部にポリエチレングリコール200(和光純薬(株)製)150部、硫酸(和光純薬(株)製)15部を混合して、120℃で5時間反応させた。得られた粒子をイオン交換水及び溶剤で洗浄後、単離乾燥して担体粒子にポリオキシエチレン鎖を導入したポリオキシエチレン鎖導入基材粒子PP−1〜PP−7を得た。
【0037】
(マレイミジル基の導入)
ポリオキシエチレン鎖導入基材粒子PP−1〜PP−7のいずれか10部にヒドロキシメチルマレイミジル5部、トルエン350部を入れ60〜70℃に加熱撹拌し、触媒のp−トルエンスルホン酸一水和物0.5部を入れ、温度を上げて6時間還流下反応させた。得られた粒子をメタノールに分散/洗浄しさらに、エタノールで8時間ソックスレー抽出を行った。濾過した後、イオン交換水及び溶剤で再度洗浄後、単離乾燥して本発明のリガンド固定化用担体および比較の担体(試料1〜7)を得た。このようにして得られたマレイミジル基含有ポリマー粒子のマレイミジル基量は以下の方法で測定した。
【0038】
(マレイミジル基含有担体粒子中のマレイミジル基定量法)
粒子を一定量ねじ口試験管にW(g)秤量し、あらかじめ調製した2−メルカプトエチルアミン(東京化成社製)の反応液を、2−メルカプトエチルアミンが過剰量になるよう一定量加え、攪拌反応させた。
粒子を遠心分離したのち上澄み溶液の2−メルカプトアミンと4,4’−ジチオジピリジンと反応させ、324nmの吸光度からモル吸光係数ε=19800を用いて上澄み溶液中の2−メルカプトエチルアミン量B(mol)を求めた。ブランクとして、サンプルを含まない系の2−メルカプトアミン量C(mol)も同様に測定し、下記の式に従ってマレイミジル基量M(mmol/g)を求めた。
M=(C−B)/W×1000
【0039】
求めたマレイミジル基量を表2に示した。この粒子1部を10部の純水に入れ、30秒間超音波処理して顕微鏡観察したところ、試料5以外は良好に分散していることを確認した。
【0040】
【表2】

【0041】
(不純物の評価)
得られた担体を0.1mol/lのリン酸/EDTAバッファー(pH7.2)中に30℃で3時間浸漬した後、遠心分離し、上澄み液の280nmの吸収度を分光光度計(日立製作所製U−3310)を用いて測定した。試料番号1から4の試料では、吸光度変化は0.005から0.01までの間で、ほとんど変化しなかった。比較としてアクチベーテッドチオールセファロース4B(アマシャムバイオサイエンス社製)を同様に測定したところ、吸光度で0.2増大した。天然物由来のアガロースベースのリガンド固定化用担体は不純物が多いものであった。
【0042】
(アフィニティ特性を評価)
実施例1で作製した各担体に対し以下の方法でアフィニティ特性を評価した。
1) マウスIgG(和光純薬工業(株)製,商品コード132−13726)を一次抗体とし、この抗体を還元断片化し粒子に結合させる。ついで、抗マウスIgG,ウサギ,IgG(H+L)(和光純薬工業(株)製,商品コード017−17601)を二次抗体として、アフィニティカップリングさせた後、二次抗体の分離操作を行いSDS−PAGEにて二次抗体の回収の有無を調べる。
2) 一次抗体を還元断片化処理しないでそのまま、粒子と混合する。二次抗体をアフィニティカップリングさせた後、二次抗体の分離操作を行いSDS−PAGEにて二次抗体の回収の有無を調べる。
【0043】
1)の操作で二次抗体の分離が確認された場合の評価を○及び◎とし、特に分離が良好で明確に確認できる場合を◎とし、全く確認されない場合を×とした。
一方、2)の操作で二次抗体の分離が確認されないレベルに応じて○及び◎とし、特に分離が全く確認できないものを◎とし、明確に確認された場合を×とした。
結果を下記表3に示した。
【0044】
[実施例2]
(アミノエトキシエタノール鎖の導入)
実施例1と同様にジビニルベンゼン(純度55質量%)を架橋剤として使用し、スチレン(和光純薬(株)製)とメタクリル酸t−ブチル(和光純薬(株)製)との共重合比が50:50の基材粒子を作製した。造粒方法は、懸濁重合法を用い、分級操作を施し、個数平均粒径50μmに調整した。得られた粒子をイオン交換水及び溶剤で洗浄後、単離乾燥して基材粒子を得た。この粒子10部を2−(2−アミノエトキシ)エタノール(和光純薬(株)製)50部に分散させ、メシチレン(和光純薬(株)製)15部を加え、窒素雰囲気下テトラ−n−プロポキシチタンを0.2部滴下し、14時間還流下反応させた。得られた粒子をメタノールに分散/洗浄しさらにイオン交換水及び溶剤で洗浄後、単離乾燥して水酸基導入基材粒子PP−8を得た。
【0045】
(マレイミジル基の導入)
上記基材粒子PP−8の10部にヒドロキシメチルマレイミジル5部、トルエン350部を入れ60〜70℃に加熱撹拌し、触媒のp−トルエンスルホン酸一水和物0.5部を入れ、温度を上げて6時間還流下反応させた。得られた粒子をメタノールに分散/洗浄しさらに、エタノールで8時間ソックスレー抽出を行った。濾過した後、イオン交換水及び溶剤で再度洗浄後、単離乾燥して本発明のリガンド固定化用担体(試料8)を得た。このようにして得られたマレイミジル基含有ポリマー粒子のマレイミジル基量を(試料1〜7)と同様の法で測定したところ、0.1mmol/gであった。
【0046】
[実施例3]
(マレイミジル基の導入)
実施例1で作製した基材粒子P−2の10部に、塩化チオニル(和光純薬(株)製)300部を入れ分散させた後、75〜80℃に加熱撹拌し、5時間還流下反応させた。得られた粒子をトルエンに分散/洗浄し、単離乾燥した。この粒子10部に乾燥トルエン90部を加えて再分散した後、この中にピリジン(和光純薬(株)製)3部を入れ、ヒドロキシメチルマレイミジル5部を入れて室温で12時間反応させた。得られた粒子をイオン交換水及び溶剤で繰り返し洗浄後、単離乾燥して本発明のリガンド固定化用担体(試料9)を得た。このようにして得られたマレイミジル基含有ポリマー粒子のマレイミジル基量を、試料1〜7と同様の方法で測定したところ、0.2mmol/gであった。
【0047】
実施例2と実施例3で得られた本発明の試料番号8と試料番号9を、実施例1と同様の測定方法によって、不純物とアフィニティ特性を評価した。
不純物の評価において、試料番号8と試料番号9の試料では、吸光度変化は0.005から0.01までの間で殆ど変化しなかった。
アフィニティ特性については、その結果を表3に示した。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示すように、スチレン含有量が90mol%を超えると物理吸着が増大し、選択性が低下し、スチレン含有量が30mol%を下回るとアフィニティ特性自体が低下することがわかった。特に、スチレン含有量が40mol%以上80mol%以下の場合にアフィニティ特性が良好であった。
【0050】
このように、アフィニティ特性の発現には基材粒子の親水性と疎水性のバランスが重要であることがわかった。スチレン含有量が30mol%を下回ると親水性が強くなりすぎて抗体との親和性が低下し、90mol%を超えると疎水性が強くなりすぎて物理吸着が増大し、かつ水分散性が低下するものと考えられる。特に、スチレン含有量を40〜80mol%に設定することにより親水性と疎水性のバランスがより好ましい状態になり良好なアフィニティ特性が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともスチレン系モノマーとt−ブチルメタクリレートとを含んで重合されてなるポリマーであって、
前記スチレン系モノマーが30mol%以上90mol%以下であり、該ポリマーの少なくとも一部が、下記一般式(1)で表されるマレイミジル基を含む官能基で置換されてなることを特徴とするポリマー。
【化1】

(式中、Xは−O−又は−NH−を表し、Qはスペーサー基を表す。)
【請求項2】
前記ポリマーが水不溶性であり、前記スペーサー基がポリオキシエチレン鎖を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記ポリマーが、架橋し、粒子の形状を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリマー。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のポリマーを含むリガンド固定化用担体。

【公開番号】特開2006−119119(P2006−119119A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188183(P2005−188183)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】