説明

ポリマー組成物及び成形体

【課題】ポリマー本来の優れた物性と低透過性とを併せ持つポリマー組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリマー、及び、鱗片状又は板状フィラーを含み、鱗片状又は板状フィラーは、平均粒径が3μm以下であり、かつ、粒径が1μm以上の粒子のうち、粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上であることを特徴とするポリマー組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、ホースやシール材などとして利用されている。高分子材料がガスや液体を透過させるものであると、他の部材に悪影響を与えたり、環境にも良くなかったりするので、高分子材料にはガスや液体に対する低透過性(バリア性)が求められる。
【0003】
特に自動車のエンジン、AT装置、燃料系統、それらの周辺装置などに使用される高分子材料に対しては、近年の環境規制に伴い、SHED(Sealed Housing for Evaporative Determination)規制が強化されており、特に燃料バリア性に優れる高分子材料の開発が望まれている。
【0004】
高分子材料の低透過性を向上させる手段としては、高分子材料にフィラーを添加することが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1には、フッ素ゴムにカーボンビーズ、ガラスビーズなどのフィラー(充填材)を配合することが記載されている。
【0006】
特許文献2及び3には、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマーに粒径が40〜48nmのFEFカーボンブラックを添加したことが記載されている。
【0007】
特許文献4には、有機過酸化物系架橋性フッ素ゴムに平均粒径30μmのグラファイトや平均粒径20μmの雲母を添加したことが記載されている。
【0008】
特許文献5には、ブチルゴムに特定のアスペクト比を持つ鱗片状フィラーを一定量充填し且つゴム層の伸びる方向に配向させておくことが記載されている。
【0009】
特許文献6には、含フッ素エラストマーおよびセリサイトを含む含フッ素エラストマー組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−131543号公報
【特許文献2】特開平11−172231号公報
【特許文献3】特開平11−193332号公報
【特許文献4】特開平11−293075号公報
【特許文献5】特開2005−36966号公報
【特許文献6】国際公開第2007/111334号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年の環境保護への意識の高まりもあって、従来の技術では達成できない高度な低透過性を実現する手段が求められる。そこで、本発明は、ポリマー本来の優れた物性と低透過性とを併せ持つポリマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らの知見によれば、燃料や薬品に対する低透過性を改善するために鱗片状または板状フィラーを添加するうえで、ポリマー本来の物性、特に機械物性を損なわないために粒子径の小さいフィラーを選択することが好適である。しかし、粒子径が小さいと、フィラーを添加したことによる低透過性の向上効果が十分に得られず、ポリマー物性を維持しながら高い低透過性を得ることが困難であった。本発明者らは、粒径が小さいフィラーを選択すると同時に、特定の粒度分布を持つフィラーを選択すると、驚くべきことにポリマーが本来有する物性を損なうことなく、高度な低透過性が実現できることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、ポリマー、及び、鱗片状又は板状フィラーを含み、鱗片状又は板状フィラーは、平均粒径が3μm以下であり、かつ、粒径が1μm以上の粒子のうち、粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上であることを特徴とするポリマー組成物に関する。
【0014】
ポリマー組成物は、鱗片状又は板状フィラーをポリマー100質量部に対して2〜50質量部含むことが好ましい。
【0015】
ポリマーは、含フッ素エラストマー、含フッ素樹脂及びゴム(但し、含フッ素エラストマー及び含フッ素樹脂を除く)からなる群より選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
ポリマーは、含フッ素エラストマーであることが好ましい。
【0017】
本発明は、上記ポリマー組成物から形成される成形体にも関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリマー組成物からは、ポリマー本来の優れた特性を持つだけでなく、ガス、燃料及び薬液に対する低透過性に優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のポリマー組成物は、平均粒径が3μm以下であり、かつ、粒径が1μm以上の粒子のうち、粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上である鱗片状又は板状フィラーを含むので、得られる成形体が極めて低い透過性を示す。
【0020】
本明細書において、フィラーが鱗片状又は板状であるとは、厚さが約0.01〜0.5μmであり、長径が0.5〜25μmであるフィラーを全体の75%以上有するフィラーを意味する。フィラーの厚さ及び長径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定する値である。
【0021】
鱗片状又は板状フィラーは、平均粒径が3μm以下であり、下限は特に限定されないが、1μm以上であることが望ましい。平均粒径が3μm以下であると、ポリマー本来の物性を損なわずに低透過性を実現できる。平均粒径が大きすぎると、ポリマー本来の物性を損なわずに高度な低透過性を実現することができない。
【0022】
本明細書において、平均粒径および粒度分布は、液相沈降法により測定し、粒子の沈降状態を光透過法により求めるものである。測定データは面積基準で表すものとする。
【0023】
鱗片状又は板状フィラーは、粒径が1μm以上の粒子のうち、粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上である。粒径が10μm以上の粒子が占める割合は、13%以上であることが好ましく、上限は特に限定されず平均粒径が3μm以下となる範囲であればよい。粒径が10μm以上の粒子の占める割合が少ないフィラーでは、充分な低透過性が実現できない。
【0024】
粒径が1μm以上の粒子のうち、粒径が10μm以上の粒子が占める割合は、超遠心式自動粒度分布測定装置((株)堀場製作所製CAPA−700、回転数700rpm、媒体:純水、温度:室温)により測定して得られる粒度分布から算出する値である。
【0025】
鱗片状又は板状フィラーは、アスペクト比(扁平率)が10以上であることが好ましく、より好ましくは20以上であり、さらに好ましくは50以上であり、特に好ましくは100以上である。アスペクト比が10未満であると透過性が大きくなる傾向がある。
【0026】
上記アスペクト比とは、鱗片状又は板状フィラーの厚さに対する長径の比(長径/厚さ)をいう。
【0027】
鱗片状又は板状フィラーとしては、上述したフィラーの物性を充足することから、マイカ、タルク、モンモリロナイト、シリカ、グラファイト及びクレーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、マイカがより好ましい。
【0028】
マイカ(雲母)としては、マスコバイト(白雲母)、フロゴバイト(金雲母)、バイオタイト(黒雲母)、セリサイト(絹雲母)及び合成雲母からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、セリサイトであることがより好ましい。セリサイトは、天然セリサイトであっても、合成セリサイトであってもよい。
【0029】
鱗片状又は板状フィラーは、湿式粉砕、乾式粉砕などの粉砕方法によって得ることができる。湿式粉砕はきれいな表面ができ、乾式粉砕は製造工程が簡単でコストが安いというそれぞれの特徴がある。
【0030】
本発明のポリマー組成物は、鱗片状又は板状フィラーをポリマー100質量部に対して、2〜50質量部含むものであることが好ましく、2〜40質量部含むものであることがより好ましく、3〜40質量部含むものであることがさらに好ましく、5〜30質量部含むものであることが特に好ましく、10〜25質量部含むものであることが最も好ましい。鱗片状又は板状フィラーが少なすぎると充分な低透過性が得られないおそれがあり、多すぎるとフィラーの微分散が困難となり、充分な機械強度が得られないおそれがある。
【0031】
ポリマーは、含フッ素エラストマー、含フッ素樹脂及びゴム(但し、含フッ素エラストマー及び含フッ素樹脂を除く)からなる群より選択される少なくとも一種であり、成形体に柔軟性、耐薬品性、耐熱性等を付与できることから、含フッ素エラストマーであることが好ましい。
【0032】
上記含フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、及び、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
上記ゴム(但し、含フッ素エラストマー及び含フッ素樹脂を除く)としては、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルニトリルゴム、エチレンプロビレンゴム、クロロスルホン化ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、及び、水素化ニトリルゴムからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0034】
上記含フッ素エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、フッ素ゴム(a)及び熱可塑性フッ素ゴム(b)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、フッ素ゴム(a)であることがより好ましい。
【0035】
フッ素ゴム(a)は、非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)及びパーフルオロフッ素ゴム(a−2)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、パーフルオロフッ素ゴムとは、その構成単位のうち、90モル%以上がパーフルオロモノマーからなるものをいう。
【0036】
非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)としては、ビニリデンフルオライド(以下、VdFとする)系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン(以下、TFEとする)/プロピレン系フッ素ゴム、TFE/プロピレン/VdF系フッ素ゴム、エチレン/ヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPとする)系フッ素ゴム、エチレン/HFP/VdF系フッ素ゴム、エチレン/HFP/TFE系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、またはフルオロホスファゼン系フッ素ゴムなどがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または本発明の効果を損なわない範囲で任意に組み合わせて用いることができるが、VdF系フッ素ゴム、TFE/プロピレン系フッ素ゴムを用いることが好ましい。
【0037】
VdF系フッ素ゴムとしては、VdFに由来する繰り返し単位とVdF以外の含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位とを含むものであることが好ましく、VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0038】
VdF系フッ素ゴムとしては、VdFに由来する繰り返し単位を25〜85モル%、含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位を75〜15モル%含むものが好ましく、VdFに由来する繰り返し単位を30〜80モル%、含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位を70〜20モル%含むものがより好ましく、VdFに由来する繰り返し単位を70〜80モル%、含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位を30〜20モル%含むものがさらに好ましい。VdF及び含フッ素エチレン性単量体と共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位は、VdFに由来する繰り返し単位と含フッ素エチレン性単量体に由来する繰り返し単位の合計量に対して、0〜10モル%であることが好ましい。
【0039】
含フッ素エチレン性単量体としては、VdF以外の含フッ素エチレン性単量体であれば特に限定されないが、TFE、クロロトリフルオロエチレン(以下、CTFEとする)、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、PAVEとする)、フッ化ビニルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、なかでも、TFE、HFP及びPAVEからなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0040】
他の単量体としては、VdF及び含フッ素エチレン性単量体以外の単量体であれば特に限定されないが、たとえばエチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、架橋部位を与える単量体などがあげられるが、これらの中でも架橋部位を与える単量体が好ましい。
【0041】
架橋部位を与える単量体としては、たとえばVdF、一般式(1):
CY=CY−RCHR (1)
(式中、Yは、水素原子、フッ素原子またはCH、Rは、フルオロアルキレン基、パーフルオロアルキレン基、フルオロポリオキシアルキレン基またはパーフルオロポリオキシアルキレン基、Rは、水素原子またはCH、Xは、ヨウ素原子または臭素原子を表す)
で表されるヨウ素または臭素含有単量体、一般式(2):
CF=CFO(CFCF(CF)O)(CF−X (2)
(式中、mは、0〜5の整数、nは、1〜3の整数、Xは、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、臭素原子を表す)
で表される単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0042】
架橋部位を与える単量体が持つヨウ素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、又は、アルコキシカルボニル基が、架橋点として機能する。
【0043】
VdF系フッ素ゴムとしては、VdF/HFP系ゴム、VdF/HFP/TFE系ゴム、VdF/CTFE系ゴム、VdF/CTFE/TFE系ゴム、VdF/PAVE系ゴム、VdF/TFE/PAVE系ゴム、VdF/HFP/PAVE系ゴム、VdF/HFP/TFE/PAVE系ゴム、VdF/TFE/プロピレン系ゴム、VdF/エチレン/HFP系ゴムなどが好ましくあげられる。
【0044】
TFE/プロピレン系フッ素ゴムとしては、TFEに由来する繰り返し単位とプロピレンに由来する繰り返し単位とを含むものであることが好ましく、TFE及びプロピレンと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0045】
TFE/プロピレン系フッ素ゴムの中でも、TFEに由来する繰り返し単位を40〜70モル%、プロピレンに由来する繰り返し単位を60〜30モル%含むものが好ましく、より好ましくはTFEに由来する繰り返し単位を50〜60モル%、プロピレンに由来する繰り返し単位を50〜40モル%含むものである。他の単量体に由来する繰り返し単位は、TFEに由来する繰り返し単位とプロピレンに由来する繰り返し単位の合計量に対して、0〜40モル%であることが好ましい。
【0046】
他の単量体としては、TFE及びプロピレンと共重合可能なものであればいかなるものでもよいが、架橋部位を与える単量体であることが好ましい。
【0047】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば特公平5−63482号公報、特開平7−316234号公報に記載されているようなパーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)やパーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)などのヨウ素含有単量体、特開平4−505341号公報に記載されている臭素含有単量体、特開平4−505345号公報、特開平5−500070号公報に記載されているようなシアノ基含有単量体、カルボキシル基含有単量体、アルコキシカルボニル基含有単量体などがあげられる。
【0048】
パーフルオロフッ素ゴム(a−2)としては、TFEに由来する繰り返し単位とPAVEに由来する繰り返し単位とを含むものであることが好ましく、TFE及びPAVEと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含むものであってもよい。
【0049】
パーフルオロフッ素ゴム(a−2)としては、TFEに由来する繰り返し単位を50〜90モル%、PAVEに由来する繰り返し単位を10〜50モル%含むものが好ましく、より好ましくはTFEに由来する繰り返し単位を50〜80モル%、PAVEに由来する繰り返し単位を20〜50モル%含むものであり、さらに好ましくはTFEに由来する繰り返し単位を55〜70モル%、PAVEに由来する繰り返し単位を30〜45モル%含むものである。TFE及びPAVEと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位は、TFEに由来する繰り返し単位とPAVEに由来する繰り返し単位の合計量に対して、0〜5モル%であることが好ましく、0〜2モル%であることがより好ましい。これらの組成の範囲を外れると、ゴム弾性体としての性質が失われ、樹脂に近い性質となる傾向がある。
【0050】
PAVEとしては、たとえばパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0051】
また、TFE及びPAVEと共重合可能な他の単量体としては、TFE及びPAVEと共重合可能なものであればいかなるものでもよく、前記した単量体等をあげることができるが、これらの中でも、架橋部位を与える単量体が好ましい。
【0052】
架橋部位を与える単量体としては、たとえば、VdF、前記一般式(1)及び(2)で表される単量体などがあげられ、これらをそれぞれ単独で、または任意に組み合わせて用いることができる。
【0053】
架橋部位を与える単量体が持つヨウ素原子、臭素原子、シアノ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基が、架橋点として機能する。
【0054】
パーフルオロフッ素ゴム(a−2)の具体例としては、国際公開第97/24381号パンフレット、特公昭61−57324号公報、特公平4−81608号公報、特公平5−13961号公報などに記載されているフッ素ゴムなどがあげられる。
【0055】
また、フッ素ゴム(a)は数平均分子量1000〜500000のものが好ましい。
【0056】
非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)やパーフルオロフッ素ゴム(a−2)として例示したものは主モノマーの構成であり、前記した以外架橋部位を与える単量体や、変性単量体等を共重合したものも好適に用いることができる。
【0057】
前記含フッ素エラストマーは、中でも、耐熱性、圧縮永久ひずみ、加工性、コストの点から、VdF単位を含むフッ素ゴムであることが好ましく、VdF単位とHFP単位とを有するフッ素ゴムであることがより好ましい。
【0058】
また、圧縮永久ひずみが良好な点から、VdF/HFP系フッ素ゴム、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴム及びTFE/プロピレン系フッ素ゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種のゴムであることが好ましく、VdF/TFE/HFP系フッ素ゴムであることがより好ましい。
【0059】
以上説明した非パーフルオロフッ素ゴム(a−1)及びパーフルオロフッ素ゴム(a−2)は、常法により製造することができるが、好ましい製造方法としては、フッ素ゴムの製造法として公知のヨウ素移動重合法をあげることができる。重合時の温度、時間などの重合条件としては、モノマーの種類や目的とするエラストマーにより適宜決定すればよい。
【0060】
本発明においては、フッ素ゴム(a)と熱可塑性フッ素ゴム(b)とからなる組成物を用いることもできる。
【0061】
含フッ素エラストマーは、本発明のポリマー組成物中、20〜98重量%であることが好ましく、30〜95重量%であることがより好ましい。
【0062】
さらに本発明のポリマー組成物には、架橋剤を含むことが好ましいが、架橋剤の種類は特に限定されるものではなく、含フッ素エラストマーの種類や溶融混練条件に応じて、適宜選択することができる。
【0063】
架橋剤は、含フッ素エラストマーに架橋性基(キュアサイト)が含まれる場合は、キュアサイトの種類によって、または得られる成形体などの用途により適宜選択すればよい。架橋系としてはポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系、イミダゾール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、チアゾール架橋系のいずれも採用できる。これらの中でも、低透過性と加工性の両立が可能である点から、ポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系が好ましく、ポリオール架橋系、パーオキサイド架橋系がより好ましい。
【0064】
ポリオール架橋系により架橋する場合は、架橋点に炭素−酸素結合を有しており、圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという特徴がある点で好適である。
【0065】
パーオキサイド架橋系により架橋する場合は、架橋点に炭素−炭素結合を有しているので、架橋点に炭素−酸素結合を有するポリオール架橋系及び炭素−窒素二重結合を有するポリアミン架橋系に比べて、耐薬品性及び耐スチーム性に優れているという特徴がある。
【0066】
ポリアミン架橋により架橋してなる場合は、架橋点に炭素−窒素二重結合を有しているものであり、動的機械特性に優れているという特徴がある。しかし、ポリオール架橋系またはパーオキサイド架橋系架橋剤を用いて架橋する場合に比べて、圧縮永久歪みが大きくなる傾向がある。
【0067】
ポリアミン架橋剤としては、たとえば、ヘキサメチレンジアミンカーバメート、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミン、4,4’−ビス(アミノシクロヘキシル)メタンカルバメートなどのポリアミン化合物があげられる。これらの中でも、N,N’−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0068】
ポリオール架橋剤としては、従来、フッ素ゴムの架橋剤として知られている化合物を用いることができ、たとえば、ポリヒドロキシ化合物、特に、耐熱性に優れる点からポリヒドロキシ芳香族化合物が好適に用いられる。
【0069】
上記ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、特に限定されず、たとえば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、ビスフェノールAという)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン(以下、ビスフェノールAFという)、レゾルシン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシスチルベン、2,6−ジヒドロキシアントラセン、ヒドロキノン、カテコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン(以下、ビスフェノールBという)、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)テトラフルオロジクロロプロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、トリ(4−ヒドロキシフェニル)メタン、3,3’,5,5’−テトラクロロビスフェノールA、3,3’,5,5’−テトラブロモビスフェノールA、ジアミノビスフェノールAFなどがあげられる。これらのポリヒドロキシ芳香族化合物は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などであってもよいが、酸を用いて共重合体を凝析した場合は、上記金属塩は用いないことが好ましい。
【0070】
パーオキサイド架橋系の架橋剤としては、熱や酸化還元系の存在下で容易にパーオキシラジカルを発生し得る有機過酸化物であればよく、具体的には、たとえば1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)−p−ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキシン−3、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどをあげることができる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。
【0071】
これらの中でも、得られる成形体などの圧縮永久歪みが小さく、成形性に優れているという点から、ポリヒドロキシ化合物が好ましく、耐熱性が優れることからポリヒドロキシ芳香族化合物がより好ましく、ビスフェノールAFがさらに好ましい。
【0072】
架橋剤の添加量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、0.05〜10質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、0.3〜7質量部であることがさらに好ましく、1〜5質量部であることが特に好ましい。架橋剤が、0.05質量部より少ないと、架橋度が不足するため、成形体の耐熱性及び耐油性等の性能が損なわれる傾向があり、10質量部をこえると、架橋密度が高くなりすぎるため架橋時間が長くなる傾向があることに加え、経済的にも好ましくないものであり、また、得られるポリマー組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0073】
また、ポリオール架橋系においては、ポリオール架橋剤と併用して、通常、架橋助剤を用いる。架橋助剤を用いると、フッ素ゴム主鎖の脱フッ酸反応における分子内二重結合の形成を促進することにより架橋反応を促進することができる。
【0074】
ポリオール架橋系の架橋助剤としては、一般にオニウム化合物が用いられる。オニウム化合物としては特に限定されず、たとえば、第4級アンモニウム塩等のアンモニウム化合物、第4級ホスホニウム塩等のホスホニウム化合物、オキソニウム化合物、スルホニウム化合物、環状アミン、1官能性アミン化合物などがあげられ、これらの中でも第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0075】
具体的には、たとえば、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロリド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどの第4級アンモニウム塩;8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムアイオダイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムメチルスルフェート、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムブロミド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ドデシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−エイコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−テトラコシル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド(以下、DBU−Bとする)、8−ベンジル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムハイドロキサイド、8−フェネチル−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、8−(3−フェニルプロピル)−1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセニウムクロリド、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−ウンデク−7−エンなどの環状アミン;ベンジルメチルアミン、ベンジルエタノールアミンなどの一官能性アミン;テトラブチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド(以下、BTPPCとする)、ベンジルトリメチルホスホニウムクロリド、ベンジルトリブチルホスホニウムクロリド、トリブチルアリルホスホニウムクロリド、トリブチル−2−メトキシプロピルホスホニウムクロリド、ベンジルフェニル(ジメチルアミノ)ホスホニウムクロリドなどの第4級ホスホニウム塩などがあげられる。
【0076】
これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、DBU−B、BTPPCが好ましい。
【0077】
また、架橋助剤として、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩とビスフェノールAFの固溶体、特開平11−147891号公報に開示されている塩素フリー架橋助剤を用いることもできる。
【0078】
有機過酸化物の架橋助剤としては、たとえば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3,3−トリフルオロ−2−プロペニル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリオン)、トリス(ジアリルアミン)−S−トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N−ジアリルアクリルアミド、1,6−ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’−テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6−トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5−ノルボルネン−2−メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイトなどがあげられる。これらの中でも、架橋性、架橋物の物性の点から、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)が好ましい。
【0079】
架橋助剤の添加量は、含フッ素エラストマー100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましく、0.1〜10質量部であることがより好ましく、0.3〜10質量部であることがさらに好ましく、0.5〜5質量部であることが特に好ましい。架橋助剤が、0.1質量部より少ないと、架橋時間が実用に耐えないほど長くなり、かつ得られる成形体の耐熱性及び耐油性が低下する傾向があり、20質量部をこえると、架橋時間が速くなり過ぎることに加え、成形体の圧縮永久歪も低下し、かつ、得られるポリマー組成物の成形加工性が低下する傾向がある。
【0080】
本発明のポリマー組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタンなどの他の重合体、顔料、難燃剤、滑剤、光安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、離型剤、発泡剤、香料、オイル、柔軟化剤などを、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で含有するものであってよい。
【0081】
本発明のポリマー組成物におけるポリマーは、従来公知の方法で製造することができる。
【0082】
本発明のポリマー組成物は、鱗片状又は板状フィラー、含フッ素エラストマー及び架橋剤を含むものが好ましい。
【0083】
本発明のポリマー組成物は、鱗片状又は板状フィラー及びポリマーをオープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いて混合することにより製造することができる。このほか、密閉式混合機を用いる方法やエマルジョン混合から共凝析する方法によっても調製することができる。所望により架橋剤、添加剤等を混合してもよい。
【0084】
本発明のポリマー組成物は、鱗片状又は板状フィラー、含フッ素樹脂、含フッ素エラストマー及び架橋剤を含むものであることも好ましい。この場合、含フッ素樹脂中にフィラー及び含フッ素エラストマーを均一に分散することができる点から、含フッ素樹脂の溶融状態で、含フッ素エラストマーを動的に架橋させて、その少なくとも一部が架橋された架橋含フッ素エラストマーとすることが好ましい。
【0085】
ここで、動的に架橋処理するとは、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、押出機等を使用して、含フッ素エラストマーを溶融混練と同時に動的に架橋させることをいう。これらの中でも、高剪断力を加えることができる点で、二軸押出機等の押出機を用いることが好ましい。
【0086】
また、溶融状態とは、含フッ素樹脂が溶融する温度下での状態を意味する。溶融する温度は、含フッ素樹脂のガラス転移温度および/または融点により異なるが、120〜330℃であることが好ましく、130〜320℃であることがより好ましい。温度が、120℃未満であると、含フッ素樹脂と含フッ素エラストマーの間の分散が粗大化する傾向があり、330℃をこえると、含フッ素エラストマーが熱劣化する傾向がある。
【0087】
得られたポリマー組成物は、含フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成する構造、または含フッ素樹脂と架橋含フッ素エラストマーが共連続を形成する構造を有することができるが、その中でも、含フッ素樹脂が連続相を形成しかつ架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成する構造を有することが好ましい。
【0088】
含フッ素エラストマーが、分散当初マトリックスを形成していた場合でも、架橋反応の進行に伴い、含フッ素エラストマーが架橋含フッ素エラストマーとなることで溶融粘度が上昇し、架橋含フッ素エラストマーが分散相になる、または含フッ素樹脂との共連続相を形成するものであってもよい。
【0089】
このような構造を形成すると、本発明のポリマー組成物は、優れた耐熱性、耐薬品性および耐油性を示すと共に、低透過性と良好な成形加工性を有することとなる。その際、架橋含フッ素エラストマーの平均分散粒子径は、0.01〜30μmであることが好ましい。平均分散粒子径が、0.01μm未満であると、流動性が低下する傾向があり、30μmをこえると、得られる成形体の強度が低下する傾向がある。
【0090】
また、本発明のポリマー組成物は、含フッ素樹脂が連続相を形成し、かつ架橋含フッ素エラストマーが分散相を形成する構造の一部に、含フッ素樹脂と架橋含フッ素エラストマーとの共連続構造を含んでいても良い。
【0091】
含フッ素樹脂/架橋含フッ素エラストマーの重量比は、98/2〜30/70であることが好ましく、95/5〜40/60であることがより好ましく、90/10〜50/50であることがさらに好ましい。含フッ素樹脂の重量比が98/2より多くなると充分な柔軟性が付与できない傾向があり、30/70より少なくなると架橋含フッ素エラストマーが均一に分散せず一部共連続となり組成物自体の機械強度が著しく低下したり、流動性が著しく低下したりする傾向がある。
【0092】
本発明のポリマー組成物を、成形することによって各種の成形体を得ることができる。本発明のポリマー組成物から形成される成形体も本発明の1つである。
【0093】
成形は従来公知の方法により行うことができ、例えば、圧縮成形、射出成形、押し出し成形、カレンダー成形等があげられ、溶剤に溶かしてディップ成形、コーティング等により成形してもよい。
【0094】
本発明のポリマー組成物から各種成形体を得るにあたり、架橋する工程を経てもよい。架橋条件は、成形方法や成形体の形状により異なるが、おおむね、100〜200℃で数秒〜180分の範囲である。また、架橋物の物性を安定化させるために二次架橋を行ってもよい。二次架橋条件としては、150〜300℃で30分〜30時間程度である。
【0095】
本発明のポリマー組成物から形成される層と他の材料を含む少なくとも1つの層とを含む積層体とすることもできる。当該「他の材料」は、要求される特性、予定される用途などに応じて適切なものを選択すればよいが、例えば、ポリオレフィン(例:高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリエステル、塩化ビニル樹脂(PVC)、塩化ビニリデン樹脂(PVDC)などの熱可塑性重合体、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴムなどの架橋ゴム、金属、ガラス、木材、セラミックなどをあげることができる。
【0096】
本発明のポリマー組成物から形成される層と他の材料とを含む層との間に接着剤層を介在させてもよい。接着剤層を介在させることによって、本発明のポリマー組成物を含む層と他の材料を含む基材層とを強固に接合一体化させることができる。接着剤層において使用される接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物;ポリオレフィンの酸無水物変性物;高分子ポリオール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール化合物とアジピン酸等の二塩基酸とを重縮合して得られるポリエステルポリオール;酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体の部分ケン化物など)とポリイソシアネート化合物(例えば、1,6−ヘキサメチレングリコール等のグリコール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対2の反応生成物;トリメチロールプロパン等のトリオール化合物と2,4−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物とのモル比1対3の反応生成物など)との混合物;等を使用することができる。なお、積層構造形成のためには、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0097】
また、本発明のポリマー組成物から形成される層と他の材料から形成される層を有する積層体を作製する場合、必要に応じて本発明のポリマー組成物から形成される層に表面処理を行ってもよい。この表面処理としては、接着を可能とする処理方法であれば、その種類は特に制限されるものではなく、例えばプラズマ放電処理やコロナ放電処理等の放電処理、湿式法の金属ナトリウム/ナフタレン液処理などが挙げられる。また、表面処理としてプライマー処理も好適である。プライマー処理は常法に準じて行うことができる。プライマー処理を施す場合、表面処理されていないポリマー組成物から形成される層の表面をプライマー処理することもできるが、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、金属ナトリウム/ナフタレン液処理などを予め施したポリマー組成物から形成される層の表面を更にプライマー処理すると、より効果的である。
【0098】
本発明のポリマー組成物から形成される成形体は、例えば、半導体製造装置、液晶パネル製造装置、プラズマパネル製造装置、プラズマアドレス液晶パネル、フィールドエミッションディスプレイパネル、太陽電池基板等の半導体関連分野;自動車分野;航空機分野;ロケット分野;船舶分野;プラント等の化学品分野;医薬品等の薬品分野;現像機等の写真分野;印刷機械等の印刷分野;塗装設備等の塗装分野;分析・理化学機分野;食品プラント機器分野;原子力プラント機器分野;鉄板加工設備等の鉄鋼分野;一般工業分野;電気分野;燃料電池分野などの分野で好適に用いることができるが、これらのなかでも自動車分野でより好適に用いることができる。
【0099】
自動車分野では、ガスケット、シャフトシール、バルブステムシール、シール材およびホースはエンジンならびに周辺装置に用いることができ、ホースおよびシール材はAT装置に用いることができ、O(角)リング、チューブ、パッキン、バルブ芯材、ホース、シール材およびダイアフラムは燃料系統ならびに周辺装置に用いることができる。具体的には、エンジンヘッドガスケット、メタルガスケット、オイルパンガスケット、クランクシャフトシール、カムシャフトシール、バルブステムシール、マニホールドパッキン、オイルホース、酸素センサー用シール、ATFホース、インジェクターOリング、インジェクターパッキン、燃料ポンプOリング、ダイアフラム、燃料ホース、クランクシャフトシール、ギアボックスシール、パワーピストンパッキン、シリンダーライナーのシール、バルブステムのシール、自動変速機のフロントポンプシール、リアーアクスルピニオンシール、ユニバーサルジョイントのガスケット、スピードメーターのピニオンシール、フートブレーキのピストンカップ、トルク伝達のO−リング、オイルシール、排ガス再燃焼装置のシール、ベアリングシール、EGRチューブ、ツインキャブチューブ、キャブレターのセンサー用ダイアフラム、防振ゴム(エンジンマウント、排気部等)、再燃焼装置用ホース、酸素センサーブッシュ等として用いることができる。
【実施例】
【0100】
つぎに本発明を実施例をあげて説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0101】
実施例および比較例では、下記の材料を使用した。
【0102】
<含フッ素エラストマー1>
3元系フッ素ゴム (ダイキン工業(株)製、G−558)
【0103】
<含フッ素エラストマー2>
3元系フッ素ゴム (ダイキン工業(株)製、G−902)
【0104】
<フィラー1>
セリサイト(絹雲母)(斐川礦業(株)製、斐川マイカZ01、形状:リン片状、平均粒径:2μm、粒径が1μm以上の粒子のうち粒径が10μm以上の粒子が占める割合が15%)
【0105】
<フィラー2>
セリサイト(絹雲母)(斐川礦業(株)製、斐川マイカZ20、形状:リン片状、平均粒径:2μm、粒径が1μm以上の粒子のうち粒径が10μm以上の粒子が占める割合が5%)
【0106】
<カーボンフィラー1>
東海カーボン(株)製、シーストS、形状:粒状、平均粒径:0.07μm
【0107】
<カーボンフィラー2>
Cancarb Ltd.製、Thermax N−990
【0108】
<架橋助剤>
トリアリルイソシアヌレート(日本化成(株)製、タイク)
【0109】
<架橋剤>
パーオキサイド(日油(株)製、パーヘキサ25B)
【0110】
実施例1
100質量部の含フッ素エラストマー1に対して、受酸剤(協和化学工業(株)製、酸化マグネシウム「MA150」)3質量部、水酸化カルシウム「カルディック2000」(近江化学工業(株)製)6質量部を混合し、さらに、フィラー1を20質量部の割合で混合し、常法によりロールにて混練してポリマー組成物を調製した。
【0111】
このポリマー組成物を170℃×15分間の1次プレスして架橋を行ったのち、さらにオーブン中で230℃で24時間のオーブン架橋で組成物を架橋し、成形体を得た。下記の方法で、成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0112】
(標準架橋条件)
混練方法 :ロール練り
1次プレス架橋 :170℃で15分
2次オーブン架橋:230℃で24時間
【0113】
<引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)>
ポリマー組成物を標準架橋条件で1次プレス架橋および2次オーブン架橋して厚さ2mmのシートとし、JIS−K6251に準じて測定する。
【0114】
<燃料透過性>
ポリマー組成物を標準架橋条件で1次プレス架橋および2次オーブン架橋して厚さ0.5mmのシート状試験片を作製した。20mLの容積を有するSUS製容器(開放部面積1.26×10−3)に模擬燃料であるCE10(トルエン/イソオクタン/エタノール=45/45/10容量%)を18mL入れて、前記シート状試験片を容器開放部にセットして密閉することで、試験体とする。該試験体を恒温装置(40℃)に入れ、試験体の重量を測定し、単位時間あたりの重量減少が一定となったところで燃料透過性を求めた。燃料透過性の指標は下記の式で表される燃料透過係数を用いた。表1に示す燃料透過係数は、比較例5の燃料透過係数を100とした場合の値である。
【0115】
【数1】

【0116】
実施例2
フィラー1の添加量を表1に示す量にした以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0117】
実施例3
100質量部の含フッ素エラストマー2に対して、架橋助剤4質量部、架橋剤1.5質量部混合し、さらに、フィラー1を20質量部の割合で混合し、常法によりロールにて混練してポリマー組成物を調製した。
【0118】
このポリマー組成物を160℃×10分間の1次プレスして架橋を行ったのち、さらにオーブン中で180℃で4時間のオーブン架橋で組成物を架橋し、成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。表1に示す燃料透過係数は、比較例7の燃料透過係数を100とした場合の値である。
【0119】
実施例4
フィラー1の添加量を表1に示す量にした以外は、実施例3と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0120】
比較例1
フィラー1の代わりにフィラー2を添加した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0121】
比較例2
フィラー1の代わりにフィラー2を添加した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0122】
比較例3
フィラー1の代わりにフィラー2を添加した以外は、実施例3と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0123】
比較例4
フィラー1の代わりにフィラー2を添加した以外は、実施例4と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0124】
比較例5
フィラー1の代わりにカーボンフィラー1を添加した以外は、実施例1と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0125】
比較例6
フィラー1の代わりにカーボンフィラー1を添加した以外は、実施例2と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0126】
比較例7
フィラー1の代わりにカーボンフィラー2を添加した以外は、実施例3と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0127】
比較例8
フィラー1の代わりにカーボンフィラー2を添加した以外は、実施例4と同様の方法で、ポリマー組成物から形成される成形体を得た。成形体の引張破断強度(Tb)および引張破断伸び(Eb)を測定し、燃料透過性を評価した。結果を表1に示す。
【0128】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明のポリマー組成物は、特に低透過性が求められる用途に好適であり、例えば、燃料ホースとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、及び、鱗片状又は板状フィラーを含み、
鱗片状又は板状フィラーは、平均粒径が3μm以下であり、かつ、粒径が1μm以上の粒子のうち粒径が10μm以上の粒子が占める割合が10%以上である
ことを特徴とするポリマー組成物。
【請求項2】
鱗片状又は板状フィラーをポリマー100質量部に対して2〜50質量部含む請求項1記載のポリマー組成物。
【請求項3】
ポリマーは、含フッ素エラストマー、含フッ素樹脂及びゴム(但し、含フッ素エラストマー及び含フッ素樹脂を除く)からなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2記載のポリマー組成物。
【請求項4】
ポリマーは、含フッ素エラストマーである請求項1、2又は3記載のポリマー組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載のポリマー組成物から形成される成形体。

【公開番号】特開2010−209275(P2010−209275A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59295(P2009−59295)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】