説明

ポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体及びその製造方法

【課題】 室温での放置や各種溶媒中でも安定な、結晶性ポリマーを用いる結晶性ナノ構造体とその製造方法を提供すること。
【解決手段】 (1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を熱水中に溶解させた(I液)を調製する工程、(2)酒石酸(B)を熱水中に溶解させた(II液)を調製する工程、(3)(I液)と(II液)とを混合し、ポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基型錯体を形成させる工程、(4)(3)で得られた酸塩基型錯体を含む混合熱水液を降温させることにより、酸塩基型錯体結晶を含有する複合体を析出させる工程、を有することを特徴とする直鎖状ポリエチレンイミン(a)骨格を有するポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基錯体結晶を含有するポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体の製造方法、該方法で得られるナノ複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルオーダーの特定構造を有する、結晶性ポリマーと酒石酸とからなる錯体結晶を含有するナノ複合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機または無機化合物の分子間相互作用による平衡または非平衡系自己組織化は、特定の空間形状とナノメートルオーダーの規則性構造を有するナノ構造物を与えることが多く、その構造物から様々な組成の有機/無機複合ナノ材料を構築することができることから、学際的にも、産業的にも多くの関心が寄せられている。特に、非平衡的な自己組織化過程では、時空間的範囲で、安定性に優れた複雑なナノ構造物を高度選択的に与えることが可能であり、それによる材料設計にはプログラム的な優位性が潜められる。特に、ポリマー結晶由来の安定なナノ構造物は、多くの分子情報を構造物中に取り入れることができるので、様々な機能材料設計に展開できる。
【0003】
高分子からなるナノ構造物としては、生体高分子のDNA、蛋白質などの集合体からなることは良く知られている。最近は、合成ポリマーとして、例えば、ポリメタクリレートのような水に不溶性ポリマーを水と極性溶剤との混合溶剤に分散し、それを加熱下溶解させた後、室温に冷却させることによる相分離過程を引き起こし、ナノサイズ空洞を有する多孔性構造物を得ることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、結晶性ポリマーからなる結晶性のナノ構造物の例は少ない。
【0004】
また、ポリ(リシン)の側鎖のアミノ基にエチレングリコールを結合させたポリマーとシリカソースの混合液中、ポリマーの単結晶が形成し、かつその単結晶がシリカと複合し、ポリマーとシリカとが複合したナノプレートに成長することが報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、シリカソースが存在しない状態での該ポリマーの結晶由来のナノプレートを得ることは出来なかった。
【0005】
一方、本発明者らはすでに、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶化に着目し、それの繊維状結晶及びその結晶体を反応場に用いることによる複雑階層シリカ構築を展開して来た。しかしながら、直鎖状ポリエチレンイミンの種々の結晶体は基本的に、該ポリマー中のエチレンイミン、即ち1つのモノマーユニットに2分子の水が結合したことを特徴とするもので、その結晶体は室温で放置させると結晶体中の水分子が揮発され、結晶体は変化してしまい、安定な結晶体を維持することはできなかった。
【0006】
室温放置、または溶媒中に加えても安定して存在できるポリマー結晶体のナノ構造体は、ナノ材料全般においては有用なツールまたはパーツとして用いることができるので、産業上広く応用できることが期待されるものの、いまだ簡便な手法での合成がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−30017号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Enrico G.,et al.,J.AM.CHEM.SOC.2006,128,2276−2279
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、室温での放置や各種溶媒中でも安定な、結晶性ポリマーを用いる結晶性ナノ構造体とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーに対して、非蒸発性の有機酸を組み合わせることにより、従来の水分子との相互作用ではなく、酸塩基の相互作用によって、ポリマー結晶中に当該有機酸を取り込ませることができ、得られた結晶性複合体が、室温のみならず、媒体中においても安定性が良好であることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基型錯体結晶を含有することを特徴とするポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体とその簡便な製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明での直鎖状ポリエチレンイミンの骨格を有するポリマーと酒石酸との酸塩基錯体結晶を含有するナノ複合体は、空気中、水中、有機溶剤中においても、結晶性が変化することがなく、長期に安定保存出来ることに大きな特徴を有する。これは、通常の直鎖状ポリエチレンイミンの骨格を有するポリマーが水分子と結合してなる結晶体と大きく異なる。従って、本発明の複合体は、様々な無機酸化物のナノ構造体形成の反応場、テンプレートとして用いることができる。また、結晶性ナノ複合体は、種々のポリマー成形材料のフィラーとして用いることもできる。更に、酒石酸という不斉分子が結晶中に取り込まれたことによる、不斉認識の材料として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1で得たD−酒石酸を複合化したナノ複合体の走査電子顕微鏡での観察写真である。
【図2】実施例1で得たD−酒石酸を複合化したナノ複合体の示差走査熱量分析結果である。
【図3】実施例2で得たL−酒石酸を複合化したナノ複合体の走査電子顕微鏡での観察写真である。
【図4】実施例2で得たL−酒石酸を複合化したナノ複合体の示差走査熱量分析結果である。
【図5】実施例3で得たD−酒石酸とL−酒石酸とを3:7で複合化したナノ複合体の走査電子顕微鏡での観察写真である。
【図6】実施例4で得たD−酒石酸とL−酒石酸とを1:1で複合化したナノ複合体の走査電子顕微鏡での観察写真である。
【図7】実施例4で得たD−酒石酸とL−酒石酸とを1:1で複合化したナノ複合体の示差走査熱量分析結果での観察写真である。
【図8】実施例5で得たmeso−酒石酸を複合化したナノ複合体の走査電子顕微鏡での観察写真である。
【図9】実施例5で得たmeso−酒石酸を複合化したナノ複合体の示差走査熱量分析結果である。
【図10】実施例1、2、4及び5で得たナノ複合体のX線回折測定結果である。
【図11】応用例1で得たシリカで被覆したナノ複合体の走査電子顕微鏡での観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで、ナノファイバーを基本ユニットにした複雑形状のシリカ含有ナノ構造体(粉体)及びそれらの製法を提供した(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報等参照。)。
【0015】
この技術の場合、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを熱水中溶解させ、その溶液を室温までに冷やすことで、ポリマー結晶体が析出する。その結晶体は、必ず一個のエチレンイミンユニットに二個の水分子が結合した組成で構成される。
【0016】
即ち、直鎖状ポリエチレンイミンは常に結晶化する傾向を有し、特に水の中では、水分子との相互作用を経由し、ナノメートルオーダーの構造を有する結晶性構造物に成長させることができる。しかし、この結晶性構造物は、水分子との関わりが前提であり、結晶中の水分子が蒸発してしまうと結晶自体が変化することにより、全体の構造も維持出来なくなる。しかしながら、直鎖状ポリエチレンイミンの結晶において、水の替わりに非蒸発性の化合物を該結晶中に取り入れることができれば、安定性に優れる結晶性構造物が得られるものであるが、このとき、水分子とエチレンイミンとの関わりを完全に排除しなければ、室温での安定性を維持できないと考えられる。
【0017】
本発明では、従来の水分子がエチレンイミンと結合をすることを完全に防ぐことを考案した。即ち、エチレンイミンの塩基性に酸性の有機化合物を酸塩基相互作用で結合させれば、水分子とエチレンイミンとの相互作用は起こらない。その結果、水分子の替わりに、酸性の分子が結合したポリマー結晶を得ることができると推測される。その中で、多くの酸性有機化合物中、水分子の替わりにポリマー結晶成長に関わることが可能な分子が酒石酸であることを見出したことにより、本発明が完成したものである。
【0018】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、安定な結晶を形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0019】
前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、結晶性会合体形成能が高いほど好ましい。従って、単独重合体であっても共重合体であっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献を参照。)により得ることができる。
【0020】
[酒石酸]
酒石酸として、D−体、L−体、meso−体、更には、D−体とL−体の任意比の混合物を用いることができる。これら酒石酸の光学異性体を選択することにより、得られるポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体のナノ構造を制御することが可能である。
【0021】
[ポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体]
本発明のポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体は、白い粉末状態であり、その粉末は1〜80μmの粒子径を有する粒子であり、特に10〜50μmの粒子径を有する粒子とすることが可能である。このとき、粒子は完全な球体であることを必要とせず、楕円形であっても、又、複数の球体の一部が重なり合った形状であって良い。楕円形のときの粒子径はもっとも長い部分を言うものであり、複数の球体が重なり合った場合には、それぞれの球体の最も長い部分を便宜上粒子径という。
【0022】
ナノ複合体の粒子の内部構造は、用いる酒石酸の種類により、変化させることが可能である。即ち、L−酒石酸又はD−酒石酸を単独で用いて場合には、1〜50nmのシート状のナノ構造体を基本骨格とし、これが複雑に絡み合った形状となっている(図面参照)。
【0023】
D−酒石酸とL−集積体とを任意の割合で混合した酒石酸を用いると、粒状結晶を形成し、その一つの粒が1〜50nmの厚さを有するシートが一定の間隔(5〜30nm)で重なってできた多重の積層構造であることを特徴とする。
【0024】
また、meso−酒石酸を用いると、粒状結晶を形成し、その一つの粒が1〜50nmの厚さを有するシートが巻かれてできた多孔性構造体であることを特徴とする。
【0025】
いずれの場合においても、ポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体は、DSCでの一回加熱走査範囲(150℃以下まで)において、100℃以上の温度から大きく吸熱し、融点を示さないことを特徴とする。即ち、結晶体でありながら、酒石酸のカルボン酸とイミンとの間での脱水を起こし、アミド化が進行する。
【0026】
又、何れの酒石酸を用いても、そのナノ複合体は、XRD測定において酒石酸の種類に関わらず、同様な回折パータンを示すことを特徴とする。
【0027】
[酸塩基型錯体結晶を含有するポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体の製造方法]
本発明のナノ複合体の製造方法は、下記の工程を有することを特徴とする。
(1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を熱水中に溶解させた(I液)を調製する工程、
(2)酒石酸(B)を熱水中に溶解させた(II液)を調製する工程、
(3)(I液)と(II液)とを混合し、ポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基型錯体を形成させる工程、
(4)(3)で得られた酸塩基型錯体を含む混合熱水液を降温させることにより、酸塩基型錯体結晶を含有するナノ複合体を析出させる工程。
【0028】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、前述のものを何れも用いることができ、ポリマー(A)の粉末を蒸留水に加え、それを80℃以上まで加熱することによって、ポリマーの熱水溶液(I液)を調製する。このとき、ポリマー(A)の濃度としては、0.5〜8質量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
一方、酒石酸(B)の粉末を蒸留水に加え、それを80〜100℃の範囲で加熱し、酒石酸の熱水溶液(II液)を調製する。このとき、酒石酸(B)の濃度としては1〜15質量%の範囲であることが好ましい。
【0030】
上記で得られた、(I液)と(II液)とを混合し、80〜100℃の温度範囲から冷却する。このとき冷却方法については特に限定されるものではなく、空気雰囲気下で自然冷却し、室温まで下げる方法で良い。この過程で、白い粉末が析出してくる。この粉末が本発明のナノ複合体である。
【0031】
熱水溶液である(I液)と(II液)とを混合する際、(I液)中のエチレンイミンユニットのモル数(アミン官能基のモル数)と(II液)中のカルボン酸官能基のモル数との比が1:1であることが最も好ましく、等量ではない場合ではいずれかの官能基の過剰範囲として10モル%以内にすることが好ましい。
【0032】
また、自然冷却過程において混合液は静置したままでも良く、又は攪拌や振動を与えることによって析出を促進させることもできる。
【0033】
得られた白色の析出物は、そのまま単離しても、また蒸留水で洗浄した後、室温下で乾燥させて単離しても良い。更に蒸留水での洗浄後、引き続きエタノール、アセトンなどの有機溶剤で洗浄し、乾燥させることもできる。
【0034】
尚、酒石酸(B)以外の化合物、特には酸性基を有する化合物を併用することにより、ポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体の内部の構造(ナノ構造)を変化させることも可能である。このとき、着色性化合物を加えると、ナノ複合体にも着色可能である。このとき、使用できる化合物は、熱水中に均一に溶解することが可能な化合物であれば特に限定されるものではなく、例えば、カルボン酸残基、スルホン酸残基を有するポルフィリン類またはフタロシアニン類色素、コンゴーレッド、アシッドレッド、アシッドバイオレット、インジゴカルミン等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例および応用例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0036】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを理学社製広角X線回折装置「Rint−Ultma」にセットし、Cu/Kα線、40kV/30mA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜70°の条件で測定を行った。
【0037】
[示差走査熱量分析]
単離乾燥した試料を測定パッチにより秤量し、それをSIIナノ技術示差走査熱量分析測定装置(TG−TDA6300)にセットし、昇温速度を10℃/分として、20℃から800℃の温度範囲にて測定を行った。
【0038】
[走査電子顕微鏡による形状分析]
単離乾燥した試料をガラススライドに載せ、それをキーエンス社製表面観察装置VE−7800にて観察した。
【0039】
合成例1
[線状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成]
市販のポリエチルオキサゾリン(平均分子量50,000,平均重合度約500,Aldrich社製)30gを、5Mの塩酸水溶液150mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン500mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0040】
その粉末を50mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水500mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー会合体粉末を濾過し、そのポリマー会合体粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は22g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、LPEIの重合度は加水分解前の約500と同様である。
【0041】
実施例1
[D−酒石酸とL−PEIからなるナノ複合体]
合成例1で得たL−PEI(含水率46wt%)粉末197.5mgを3.0gの蒸留水中に加え、それを約95℃まで加熱し、L−PEIが完全に溶解した水溶液を調製した。一方、D−酒石酸(東京化成工業株式会社製)粉末187.7mgを2.0gの蒸留水溶解し、その溶液を約95℃まで加熱した。約95℃で加熱したまま、D−酒石酸溶液をL−PEI水溶液中に注ぎ、L−PEI(500unit mmol/L)とD−酒石酸(250mmol/L)との混合溶液を調製した。この混合溶液を室温(25℃)まで自然放冷する過程で生じる沈殿物を遠心分離にて洗浄、回収し、大気中で乾燥させ、L−PEIとD−酒石酸とからなる複合体を得た。収量は290mgであった。
【0042】
実施例2
[L−酒石酸とL−PEIからなるナノ複合体]
実施例1において、D−酒石酸の代わりにL−酒石酸(東京化成工業株式会社製)粉末を用いる以外、実施例1と同様にして複合体を得た。収量は293mgであった。
【0043】
実施例3
[D/L−酒石酸とL−PEIからなるナノ複合体]
実施例1において、D−酒石酸の粉末56.3mgとL−酒石酸の粉末131.4mgを2.0gの蒸留水に溶解した溶液を用いる以外は実施例1と同様にして複合体を得た。収量は289mgであった。
【0044】
実施例4
[D,L−酒石酸とL−PEIからなるナノ複合体]
実施例1において、D,L−酒石酸(東京化成工業株式会社製、D−酒石酸とL−酒石酸との等モル混合品)粉末を用いる以外は実施例1と同様にして、複合体を得た。収量は290mgであった。
【0045】
実施例5
[meso−酒石酸とL−PEIからなる酸塩基錯体型ポリマー結晶体]
実施例1において、meso−酒石酸一水和物(東京化成工業製品)粉末を210.6mg用いる以外は実施例1と同様にして、複合体を得た。収量は292mgであった。
【0046】
応用例1
[D,L−酒石酸とL−PEIからなるナノ複合体を足場とするシリカの析出]
実施例4の方法により、LPEIとD,L−酒石酸の複合体を作製し、表面洗浄後、その固体を乾燥せず、蒸留水10mLに分散させた。この分散液をシリカソース溶液20mL[体積比で2−プロパノール/蒸留水/MS−51=4/2/1、MS−51:メチルシリケート−51(コルコート株式会社製品)]に添加し、室温で90min静置した。その後沈殿物を2−プロパノールで洗浄後、遠心分離により回収した。この操作を3回繰り返した後、得られた固体を室温にて乾燥し、シリカで被覆されたD,L−酒石酸とL−PEIからなるナノ複合体を得た。図11には得られた複合体の走査電子顕微鏡の写真を示した。積層構造を有する明確なイメージが観察出来た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基型錯体結晶を含有することを特徴とするポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体。
【請求項2】
前記複合体中の、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)中のアミン官能基と酒石酸(B)中のカルボン酸官能基とのモル比が1:1である請求項1記載のポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体。
【請求項3】
前記複合体の大きさが10〜50μmの粒子径を有する粒子であり、その粒子内部は1〜50nmの厚さを有するシート状の層が5〜30nmの間隔で積層した構造を有するものである請求項1又は2記載のポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体。
【請求項4】
(1)直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を熱水中に溶解させた(I液)を調製する工程、
(2)酒石酸(B)を熱水中に溶解させた(II液)を調製する工程、
(3)(I液)と(II液)とを混合し、ポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基型錯体を形成させる工程、
(4)(3)で得られた酸塩基型錯体を含む混合熱水液を降温させることにより、酸塩基型錯体結晶を含有する複合体を析出させる工程、
を有することを特徴とする直鎖状ポリエチレンイミン(a)骨格を有するポリマー(A)と酒石酸(B)との酸塩基錯体結晶を含有するポリマー/酒石酸結晶性ナノ複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−126964(P2011−126964A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285069(P2009−285069)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】