説明

ポリラクチド樹脂、その製造方法およびこれを含むポリラクチド樹脂組成物

本発明は、優れた機械的物性の発現および維持が可能で、優れた耐熱性を示し、半永久的用途への使用が可能なポリラクチド樹脂、その製造方法およびこれを含むポリラクチド樹脂組成物に関する。前記ポリラクチド樹脂は、特定の条件下で、0.1day−1以下の低い加水分解速度定数kおよび100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリラクチド樹脂、その製造方法およびこれを含むポリラクチド樹脂組成物に関する。より具体的には、本発明は、優れた機械的物性の発現および維持が可能で、優れた耐熱性を示し、半永久的用途への使用が可能なポリラクチド樹脂、その製造方法およびこれを含むポリラクチド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリラクチド(あるいはポリ乳酸)樹脂は、下記一般式の繰り返し単位を含む樹脂の一種である。このようなポリラクチド樹脂は、既存の原油ベースの樹脂とは異なり、バイオマス(biomass)に基づくため、再生資源の活用が可能であり、生産時、既存の樹脂に比べて地球温暖化ガスのCOが少なく排出され、埋立時、水分および微生物によって生分解されるなどの環境に優しい属性と共に、既存の原油ベースの樹脂に準ずる適切な機械的強度を有する素材である。
【0003】
【化1】

【0004】
このようなポリラクチド樹脂は、主に、使い捨て包装/容器、コーティング、発泡、フィルム/シートおよび繊維用途に使用されてきており、最近は、ポリラクチド樹脂をABS、ポリカーボネートまたはポリプロピレンなどの既存の樹脂と混合して物性を補強した後、携帯電話の外装材または自動車内装材などの半永久的用途に使用しようとする努力が盛んになっている。しかし、ポリラクチド樹脂は、製造または使用時、分解または解重合などによって優れた機械的物性を発現および維持することが難しいため、今のところはその応用範囲が制限されているのが現状である。
【0005】
一方、以前に知られたポリラクチド樹脂の製造方法としては、乳酸を直接縮重合するか、ラクチド単量体を有機金属触媒下に開環重合(ring opening polymerization)する方法が知られている。このうち、直接縮重合する方法は、低価格の高分子を作ることはできるものの、重量平均分子量10万以上の高分子量を有する重合体を得にくいため、ポリラクチド樹脂の物理的、機械的物性を十分に確保することが難しい。また、ラクチド単量体の開環重合方法は、乳酸からラクチド単量体を製造しなければならないため、縮重合に比べて高いコストがかかるが、相対的に大きい分子量の樹脂を得ることができ、重合調整が有利で商業的に適用されている。
【0006】
このような開環重合に使用されている代表的な触媒としては、例えば、Sn(Oct)(Oct=2−ethyl hexanoate)のようなSn含有触媒を挙げることができる。しかし、このような触媒は、開環重合反応を促進するだけでなく、一定水準以上の転換率の下では解重合(depolymerization)も共に促進する傾向にあることが報告されている(米国特許第5,142,023号;Leenslag et al.Makromol.Chem.1987、188、1809−1814;Witzke et al.Macromolecules1997、30、7075−7085)。このため、前記開環重合によって製造されたポリラクチド樹脂も、十分に大きい分子量を有しにくく、使用中の解重合などによって熱的分解または加水分解などが現れ、物理的、機械的物性が十分でなかった。
【0007】
これにより、以前に知られた開環重合反応を適用しても、十分に大きい分子量および優れた機械的物性を有するポリラクチド樹脂を提供することが難しく、さらに、ポリラクチド樹脂の使用中にも樹脂の分解または解重合が起こり、機械的物性の大きな低下が現れるなどの欠点があった。このため、環境に優しいポリラクチド樹脂を携帯電話の外装材または自動車内装材などの半永久的用途に使用しようとする努力は限界に達している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,142,023号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Leenslag et al.Makromol.Chem.1987、188、1809−1814
【非特許文献2】Witzke et al.Macromolecules1997、30、7075−7085
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、優れた機械的物性の発現および維持が可能で、優れた耐熱性および耐加水分解性を示し、半永久的用途への使用が可能なポリラクチド樹脂を提供することである。
【0011】
また、本発明は、高い転換率で前記ポリラクチド樹脂の製造を可能にするポリラクチド樹脂の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明はさらに、前記ポリラクチド樹脂を含むポリラクチド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、約100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有し、60℃の温度および90%の相対湿度下で、下記数式1によって計算される加水分解速度定数kが約0.1day−1以下であり、ポリラクチド樹脂の重量を基準として、触媒に由来する錫または亜鉛の残留金属量が約20ppm以下であるポリラクチド樹脂を提供する。
【0014】
【数1】

【0015】
前記数式1において、Mn,0は、ポリラクチド樹脂の初期数平均分子量を示し、Mn,tは、60℃の温度および90%の相対湿度下で時間t(day)の間維持させた時の、ポリラクチド樹脂の数平均分子量を示す。
【0016】
本発明はさらに、下記化学式1の有機金属複合体の存在下に、ラクチド単量体を開環重合するステップを含み、有機金属複合体は、ラクチド単量体の100モルに対して、約0.0005〜0.1モルの割合で添加される前記ポリラクチド樹脂の製造方法を提供する。
【0017】
【化2】

【0018】
前記式において、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜2の整数であり、aは、0または1であり、Mは、SnまたはZnであり、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキル、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル、置換または非置換の炭素数6〜10のアリールであり、Rは、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキレン、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6〜10のアリーレンであり、XとYは、それぞれ独立にアルコキシまたはカルボキシル基である。
【0019】
また、本発明は、下記化学式2および3の化合物の存在下に、ラクチド単量体を開環重合するステップを含み、化学式2および3の化合物は、それぞれラクチド単量体の100モルに対して、約0.0005〜0.1モルの割合で添加される前記ポリラクチド樹脂の製造方法を提供する。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
前記式において、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜2の整数であり、Mは、SnまたはZnであり、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキル、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル、置換または非置換の炭素数6〜10のアリールであり、Rは、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキレン、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6〜10のアリーレンであり、XとYは、それぞれ独立にアルコキシまたはカルボキシル基である。
【0023】
本発明はさらに、前記ポリラクチド樹脂を含むポリラクチド樹脂組成物を提供する。
【0024】
以下、発明の具体的な実現例によるポリラクチド樹脂、その製造方法およびこれを含むポリラクチド樹脂組成物について説明する。
【0025】
明示的な別の記載がない限り、本明細書全体で使われるいくつかの用語は、次のように定義される。
【0026】
本明細書全体において、特別な言及がない限り、「含む」または「含有する」とは、ある構成要素(または構成成分)を特別な制限なしに含むことを称し、他の構成要素(または構成成分)の付加を除くものと解釈されない。
【0027】
また、本明細書全体において、「ラクチド単量体」は、次のように定義可能である。通常、ラクチドは、L−乳酸からなるL−ラクチド、D−乳酸からなるD−ラクチド、L−形態とD−形態がそれぞれ1つずつからなるmeso−ラクチドに分けられる。また、L−ラクチドとD−ラクチドが50:50で混合されているものを、D,L−ラクチドあるいはrac−ラクチドという。これらラクチドのうち、光学的純度の高いL−ラクチドあるいはD−ラクチドのみを用いて重合を進行させると、立体規則性が極めて高いL−あるいはD−ポリラクチド(PLLAあるいはPDLA)が得られることが知られており、このようなポリラクチドは、光学的純度の低いポリラクチド対比結晶化速度が速く、結晶化度も高いことが知られている。ただし、本明細書において、「ラクチド単量体」とは、各形態に応じたラクチドの特性の差およびこれより形成されたポリラクチドの特性の差に関係なくあらゆる形態のラクチドを含むものと定義される。
【0028】
そして、本明細書全体において、「ポリラクチド樹脂」とは、下記一般式の繰り返し単位を含む単一重合体または共重合体を包括して称するものと定義される。このような「ポリラクチド樹脂」は、上述した「ラクチド単量体」の開環重合によって下記の繰り返し単位を形成するステップを含んで製造でき、このような開環重合および下記の繰り返し単位の形成工程が完了した後の重合体を、前記「ポリラクチド樹脂」と称することができる。この時、「ラクチド単量体」の範疇には、あらゆる形態のラクチドが含まれることは上述したとおりである。
【0029】
【化5】

【0030】
前記「ポリラクチド樹脂」と称し得る重合体の範疇には、前記開環重合および繰り返し単位の形成工程が完了した後のすべての状態の重合体、例えば、前記開環重合が完了した後の未精製または精製された状態の重合体、製品成形前の液状または固状の樹脂組成物に含まれている重合体、または製品の成形が完了したプラスチックまたは織物などに含まれている重合体などがすべて含まれる。したがって、本明細書全体において、「ポリラクチド樹脂」の諸物性は、前記開環重合および繰り返し単位の形成工程が完了した後の任意の状態を呈する重合体の物性として定義可能である。
【0031】
また、本明細書全体において、「ポリラクチド樹脂組成物」とは、前記「ポリラクチド樹脂」を含むかこれより製造されるもので、製品成形前または製品成形後の任意の組成物を称するものと定義される。このような「ポリラクチド樹脂組成物」と称し得る組成物の範疇には、製品成形前のマスターバッチまたはペレットなどの状態を呈する液状または固状の樹脂組成物のみならず、製品成形後のプラスチックまたは織物などもすべて包括可能である。
【0032】
一方、本発明者らは、特定の触媒を用いた後述する製造方法により、以前に知られたポリラクチド樹脂に比べて大きい分子量を有しながら、特定の条件下に測定された加水分解速度定数および重合時の触媒に由来する錫または亜鉛の残留金属量が特定範囲を満たすポリラクチド樹脂が製造できることを見出し、発明に至った。
【0033】
発明の一実現例によれば、このようなポリラクチド樹脂は、約100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有し、60℃の温度および90%の相対湿度下で、下記数式1によって計算される加水分解速度定数kが約0.1day−1以下であり、ポリラクチド樹脂の重量を基準として、触媒に由来する錫または亜鉛の残留金属量が約20ppm以下のものとなり得る。
【0034】
【数2】

【0035】
前記数式1において、Mn,0は、ポリラクチド樹脂の初期数平均分子量を示し、Mn,tは、60℃の温度および90%の相対湿度下で時間t(day)の間維持させた時の、ポリラクチド樹脂の数平均分子量を示す。
【0036】
このようなポリラクチド樹脂は、以前に知られたポリラクチド樹脂に比べて大きい分子量を有するものである。また、前記ポリラクチド樹脂は、特定の加水分解速度定数範囲および触媒に由来する錫または亜鉛の残留金属量の特定範囲を満たすが、これは、以前に知られたいかなるポリラクチド樹脂も満たすことができなかった低い水準のものである。以下により詳細に説明するが、優れた重合活性を有するだけでなく、分解または解重合因子の除去性能を有する特定の触媒を用いてポリラクチド樹脂を製造することにより、以前に知られたいかなるポリラクチド樹脂に比べて高い分子量を有しながらも、いかなるポリラクチド樹脂も満たすことができなかった低い水準の加水分解速度定数および低い残留金属量(つまり、低い残留触媒量)を示す一実現例によるポリラクチド樹脂が製造できることが明らかになった。
【0037】
このようなポリラクチド樹脂は、以前に知られたポリラクチド樹脂に比べて高い分子量、より具体的には、最大約1,000,000の重量平均分子量を有することにより、以前のポリラクチド樹脂に比べて優れた引張強度などの物理的、機械的物性を示すことができる。より具体的には、前記ポリラクチド樹脂は、約100,000〜1,000,000、好ましくは約150,000〜1,000,000、より好ましくは約150,000〜800,000の大きい重量平均分子量を有することにより、優れた物理的、機械的物性を示すことができる。
【0038】
また、前記ポリラクチド樹脂は、後述する特定の触媒の優れた重合活性によって少量の触媒下でもより大きい分子量で提供可能である。したがって、前記ポリラクチド樹脂は、重合後に樹脂内に残る残留金属量、つまり、触媒の残留量が最小化できる。より具体的には、前記ポリラクチド樹脂は、その樹脂自体の重量を基準として、重合時に使用された触媒に由来する錫または亜鉛の残留金属を約20ppm以下、好ましくは約15ppm以下、より好ましくは約3〜10ppmの極めて低い残留量で含むことができる。
【0039】
本発明者らの実験結果、このような低い残留金属量、言い換えれば、低い触媒残留量を含むポリラクチド樹脂は、使用中の解重合または分解などが最小化され、これに伴う機械的物性の低下が最小化されることにより、引張強度などの物理的、機械的物性を優れて維持することができ、これにより、ポリラクチド樹脂の半永久的使用が可能になることが明らかになった。
【0040】
これに対し、前記残留金属量が約20ppmを超える場合、使用中の解重合および分解などが比較的大きく生じて機械的物性の大きな低下が現れ、このため、以前に知られたポリラクチド樹脂と同様に半永久的使用が困難であることが確認された。
【0041】
前記触媒に由来する残留金属量(つまり、触媒残留量)に応じて、ポリラクチド樹脂の分解の程度および機械的物性の低下の程度が左右される原因は、次のように予測可能である。
【0042】
ポリラクチド樹脂の製造過程中には、例えば、開環重合のための錫または亜鉛などを含む触媒が使用されるが、このような触媒の一部は、最終製造された樹脂内に不可避に残留するようになる。しかし、このような残留触媒は、ポリラクチド樹脂の末端に結合することがあり、このような結合体が水分またはカルボン酸と加水分解反応またはトランスエステル化反応などを起こし、前記ポリラクチド樹脂の分解や分子量の減少をもたらし得る。
【0043】
また、前記触媒によって媒介される反応は、単量体−ポリマー間の熱力学的平衡が伴う反応である。したがって、前記ポリラクチド樹脂に少量のラクチド単量体および触媒が残留する場合、このような残留触媒によって残留ラクチド単量体とポリラクチド樹脂との間の反応が媒介されることがあり、これは、熱力学的平衡によってポリラクチド樹脂の解重合および分子量の減少などをもたらし得る。
【0044】
このようなポリラクチド樹脂の分解または解重合などにより、樹脂の分子量および機械的物性が大きく低下することがあり、これは、ポリラクチド樹脂の半永久的使用を極めて困難にする。
【0045】
しかし、上述した発明の一実現例によるポリラクチド樹脂は、優れた重合活性を有する特定の触媒の使用により、触媒の少ない使用量でも大きい分子量を有するように提供可能である。したがって、前記ポリラクチド樹脂は、以前に知られたいかなる樹脂よりも低い触媒残留量を有することができ、これにより、触媒に由来する残留金属量が以前に知られたいかなるポリラクチド樹脂よりも低い水準となる。そのため、前記残留触媒による使用中の樹脂の分解または解重合や機械的物性の低下を大きく低減することができる。
【0046】
一方、発明の一実現例によるポリラクチド樹脂は、高温および高湿の厳しい条件で測定した加水分解速度定数kが約0.1day−1以下の特性を満たすことができ、好ましくは前記kが約0.07day−1以下となり得、より好ましくは前記kが約0.01〜0.05day−1となり得る。
【0047】
この時、前記加水分解速度定数kは、一定条件下で時間の経過に伴うポリラクチド樹脂の数平均分子量の減少の程度を数値化した特性値である。通常、ポリラクチド樹脂は、水分によって加水分解反応を起こし、これは、酸または塩基によって促進され得、また、カルボン酸またはルイス酸(例えば、錫含有触媒など)の存在によってもトランスエステル化反応などが促進され得ることが知られている。このようなポリラクチド樹脂の反応(分解)因子などを考慮して、前記kの意味は、下記数式2の加水分解速度式によっても表示可能である(Tsuji et al.,Journal of Applied Polymer Science、Vol.77、1452−1464(2000))。
【0048】
【数3】

【0049】
また、前記発明の一実現例において、このような加水分解速度定数kは、ポリラクチド樹脂を、60℃の温度および90%の相対湿度の条件下に露出させた状態で、時間(day)の経過に伴う樹脂の数平均分子量を測定し、前記数式1に代入して線形回帰することによって求めることができる。つまり、このような線形回帰の結果導き出されたグラフ(例えば、図3参照)の勾配から前記加水分解速度定数kを求めることができる。
【0050】
後述する実施例からも裏付けられるように、分解または解重合因子の除去性能を有する特定の触媒を用いて重合反応を進行させることにより、上述した加水分解速度定数範囲を満たすポリラクチド樹脂が得られることが明らかになった。これは、以前に知られたいかなる樹脂よりも低い水準の加水分解速度定数範囲を満たすものである。
【0051】
また、本発明者らの実験結果、このような加水分解速度定数範囲を満たすポリラクチド樹脂は、厳しい条件下でも引張強度などの機械的物性の低下がほとんどなく、ポリラクチド樹脂の半永久的使用が可能になることが明らかになった。これに対し、前記加水分解速度定数範囲を外れる場合、ポリラクチド樹脂の分子量の大きな低下および機械的物性の顕著な低下が現れ、以前に知られた樹脂と同様に半永久的使用が困難であることが確認された。
【0052】
したがって、上述した分子量範囲および各特性値範囲を満たすポリラクチド樹脂は、優れた物理的、機械的物性を発現できるだけでなく、使用中にもこのような物理的、機械的物性を優れて維持することができ、携帯電話の外装材または自動車内装材などへの半永久的使用が可能になる。
【0053】
一方、上述した特性を満たすポリラクチド樹脂は、優れた重合活性および優れた分解因子などの除去性能を有する特定の触媒を用いて得ることができるが、このような特定の触媒は、下記化学式1の有機金属複合体となるか、下記化学式2および3の化合物を含む触媒組成物となり得る。
【0054】
【化6】

【0055】
【化7】

【0056】
【化8】

【0057】
前記式において、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜2の整数であり、aは、0または1であり、Mは、SnまたはZnであり、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキル、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル、置換または非置換の炭素数6〜10のアリールであり、Rは、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキレン、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6〜10のアリーレンであり、XとYは、それぞれ独立にアルコキシまたはカルボキシル基である。
【0058】
したがって、前記発明の一実現例によるポリラクチド樹脂内に残留する錫または亜鉛の金属は、このような触媒に含まれて残留することができる。例えば、前記残留金属は、前記化学式1の有機金属複合体の形態で含まれるか、前記化学式2および3の化合物の混合物の形態で含まれる。このような触媒がポリラクチド樹脂内に極めて低い含有量で残留できることはすでに上述したとおりであり、これにより、ポリラクチド樹脂使用中の分子量の減少や機械的物性の低下などが抑制され、ポリラクチド樹脂の半永久的使用が可能になる。
【0059】
また、前記化学式1または化学式2および3の触媒に含まれているカルボジイミド成分(化学式2に対応する成分)は、水分または酸などと結合してこれらを除去する作用を果たすことができる。このような水分または酸などは、トランスエステル化反応または加水分解反応などによってポリラクチド樹脂の分解を促進する代表的な分解因子の一つである。したがって、前記残留触媒の作用により、ポリラクチド樹脂の分解、解重合または分子量の減少などがさらに抑制できる。したがって、発明の一実現例によるポリラクチド樹脂は、より優れた機械的物性を発現および維持することができ、半永久的使用が可能になる。
【0060】
上述した発明の一実現例によるポリラクチド樹脂は、前記ポリラクチド樹脂およびこれに含まれている残留ラクチド単量体の重量を合わせた総重量を基準として、約1.0重量%以下の残留ラクチド単量体を含むことができ、好ましくは約0.7重量%以下、より好ましくは約0.1〜0.5重量%の残留ラクチド単量体を含むことができる。
【0061】
このようなラクチド単量体の残留量は、高分離能を有するNMR機器を用いてポリラクチド樹脂を分析し、その結果導き出されたNMRスペクトルにおいて、単量体と樹脂にそれぞれ由来するCHピークの積分値の比を求めて測定することができる。
【0062】
ラクチド単量体の開環重合反応は、単量体と、これより生成されるポリラクチド樹脂の熱力学的平衡が伴う反応である。つまり、重合初期には、ラクチド単量体の重合によるポリラクチド樹脂の製造反応が主に生じるが、一定水準の重合が生じた後は、ポリラクチド樹脂の解重合が共に起こるようになる。したがって、開環重合によって製造されたポリラクチド樹脂内にはある程度のラクチド単量体が残留する。しかし、このような残留ラクチド単量体は、ポリラクチド樹脂内に残留する触媒の媒介下に、使用中のポリラクチド樹脂の解重合または分解を促進することができる。しかも、このようなポリラクチド樹脂の分解によってカルボン酸が形成され得るが、このようなカルボン酸は、ポリラクチド樹脂の分解をさらに促進することがある。これにより、ポリラクチド樹脂の使用中に分子量の大きな減少が生じ得、これは、樹脂の機械的物性を低下させることがある。
【0063】
しかし、前記一実現例によるポリラクチド樹脂は、優れた重合活性を有する特定の触媒から製造されることにより、短時間内に高い分子量を有するように得られる。このため、重合中の平衡反応である解重合がほとんど起こらず、微量のラクチド単量体のみが前記ポリラクチド樹脂内に残留することができる。これにより、ポリラクチド樹脂使用中の分子量の減少およびこれに伴う機械的物性の低下がさらに低減できる。
【0064】
一方、上述した発明の一実現例によるポリラクチド樹脂は、上述した特性以外にも、約20meq/kg以下、好ましくは約15meq/kg以下、より好ましくは約3〜15meq/kg以下の酸度を有することができる。
【0065】
これは、前記ポリラクチド樹脂製造のための特定の触媒がカルボジイミド成分を含むが、このようなカルボジイミド成分が水分または酸などと結合してこれらを除去することができるからである。これにより、前記ポリラクチド樹脂は、以前に知られた樹脂に比べて低い酸度を示すことができる。
【0066】
すでに上述したように、前記水分または酸などは、樹脂内の残留触媒を媒介としてポリラクチド樹脂のトランスエステル化反応などを起こすことができ、これは、ポリラクチド樹脂の分子量の減少および機械的物性の低下を起こす主な一要因とされ得る。しかし、前記発明の一実現例によるポリラクチド樹脂は、上述した低い範囲の酸度を示すことにより、使用中の分解、解重合または分子量の減少などが抑制でき、これにより、使用中の機械的物性の低下が大きく低減され、半永久的用途への使用が可能になる。
【0067】
また、前記一実現例によるポリラクチド樹脂は、熱重量分析(TGA)に従って室温から300℃まで昇温した時、約20重量%未満、より具体的には約10重量%未満、さらに具体的には約5重量%未満の重量減少を示すことができる。後述する実施例および図2などからも裏付けられるように、以前に知られたポリラクチド樹脂は、300℃まで昇温した時に多量熱分解され、約30重量%を超える重量減少を示す。これに対し、前記ポリラクチド樹脂は、最大としても約20重量%未満の重量減少を示すもので、優れた耐熱性を示すことができる。したがって、前記ポリラクチド樹脂は、半永久的な用途に極めて好適に使用可能である。
【0068】
一方、発明の他の実現例により、上述したポリラクチド樹脂の製造方法が提供される。発明の一実施例によれば、このような製造方法は、前記化学式1の有機金属複合体の存在下に、ラクチド単量体を開環重合するステップを含むことができ、この時、前記有機金属複合体は、ラクチド単量体の100モルに対して、約0.0005〜0.1モルの割合で添加できる。
【0069】
また、発明の他の実施例によれば、前記製造方法は、前記化学式2および3の化合物の存在下に、ラクチド単量体を開環重合するステップを含むことができ、この時、化学式2および3の化合物は、それぞれラクチド単量体の100モルに対して、約0.0005〜0.1モルの割合で添加できる。
【0070】
このような製造方法は、金属触媒にカルボジイミド成分が結合された化学式1の有機金属複合体や、化学式2のカルボジイミド系化合物および化学式3の金属触媒を含む触媒組成物の存在下に、前記ラクチド単量体を開環重合してポリラクチド樹脂を製造するものである。
【0071】
以下の実施例によっても裏付けられるように、このような特定の触媒、つまり、前記有機金属複合体または触媒組成物は、優れた重合活性を示すことにより、ラクチド単量体の100モルに対して、約0.0005〜0.1モルの割合で極めて少量の触媒を使用しても大きい分子量のポリラクチド樹脂が得られる。
【0072】
したがって、このような発明の一実施例または他の実施例の製造方法により、発明の一実現例による分子量範囲および残留触媒量範囲を満たすポリラクチド樹脂が製造できる。
【0073】
一方、前記ラクチド単量体の開環重合反応は、触媒がヒドロキシ基含有開始剤または水分などと反応して金属ヒドロキシまたはアルコキシド化合物を形成し、このような化合物が実質的な触媒活性種として使用されることが知られている。つまり、このような金属ヒドロキシまたはアルコキシド化合物により開環重合反応が促進されてポリラクチド樹脂が製造され、前記金属ヒドロキシまたはアルコキシド化合物の形成過程で一部のカルボン酸またはヒドロキシ基含有化合物が残るが、このようなカルボン酸またはヒドロキシ基含有化合物がポリラクチド樹脂の解重合または分解に関与することができる。
【0074】
より具体的には、ポリラクチド樹脂の解重合または分解は、主に、前記カルボン酸や、ラクチド単量体に含まれている水分および乳酸による加水分解反応、高分子鎖の末端に結合される触媒によるバックバイティング(back−biting)反応または触媒が末端に結合された高分子鎖とカルボン酸との間のトランスエステル化反応などによって起こると予測される。
【0075】
しかし、前記有機金属複合体または触媒組成物の特定の触媒は、優れた重合活性を示し、極めて低い残留金属量、言い換えれば、極めて低い触媒残留量を有するポリラクチド樹脂の製造を可能にする。しかも、前記特定の触媒の優れた重合活性により短時間内に高い分子量を有するポリラクチド樹脂が製造できるため、その重合過程で平衡反応である解重合がほとんど起こらず、ラクチド単量体の残留量も極めて低いポリラクチド樹脂が得られる。
【0076】
また、前記特定の触媒には、一定の置換基が結合されたカルボジイミド成分が含まれるが、このような成分が水分またはカルボン酸などと結合してこれらを除去する作用を果たすことができる。
【0077】
このような触媒の諸作用により、残留触媒、残留ラクチド単量体、水分またはカルボン酸などのポリラクチド樹脂中の解重合または分解因子が大きく低減でき、ポリラクチド樹脂の使用中にも残留触媒中のカルボジイミド成分が前記解重合または分解因子を低減する作用を示すことができる。
【0078】
これにより、上述した製造方法によれば、ポリラクチド樹脂の使用中に分解または解重合が大きく低減され、加水分解速度定数kが約0.1day−1以下の低い範囲を満たす発明の一実現例によるポリラクチド樹脂が製造できる。
【0079】
したがって、前記発明の他の実現例によれば、所定の加水分解速度定数範囲および触媒に由来する残留金属量の特定範囲を満たしながらも、高い分子量範囲を有する発明の一実現例によるポリラクチド樹脂が製造できる。すでに十分に上述したように、このようなポリラクチド樹脂は、高い分子量による優れた機械的物性を示すことができるだけでなく、使用中の分子量の減少および機械的物性の低下が低減され、半永久的用途への適用が可能である。
【0080】
また、発明の他の実現例の製造方法によれば、特定の触媒の優れた重合活性に起因し、上述した優れた物性を有するポリラクチド樹脂が高い転換率で製造できる。
【0081】
一方、前記発明の他の実現例による製造方法において、前記ラクチド単量体は、乳酸から製造できる。また、このようなラクチド単量体は、あらゆる形態のラクチド、例えば、L,L−ラクチド、D,L−ラクチドまたはD,D−ラクチドなどを含むいかなる形態のラクチドともなり得る。
【0082】
そして、前記製造方法において、前記化学式1または化学式2の化合物は、炭素数3〜10のアルキル基、シクロアルキル基、アルキレン基またはシクロアルキレン基や、炭素数6〜10のアリール基またはアリーレン基が置換された特定のカルボジイミド構造を有することができるが、後述する実施例および比較例からも裏付けられるように、前記化合物がこのような特定のカルボジイミド構造を有することにより、優れた重合活性を示しながらも、樹脂などに含まれている水分または酸などを効果的に除去することができ、上述した大きい分子量、低い残留金属量(触媒残留量)および低い加水分解速度定数範囲を満たすポリラクチド樹脂が製造できるようになる。このような面で、前記化学式1または化学式2の化合物としては、Rが、炭素数1〜10のアルキル基で置換された1価のフェニル基、炭素数3〜10のアルキル基またはシクロアルキル基であり、Rが、炭素数1〜10のアルキル基で置換された2価のフェニレン基または炭素数3〜10のアルキレン基またはシクロアルキレン基である化合物を使用することができる。
【0083】
また、前記化学式1に結合されたMX2−pまたは化学式3の化合物は、SnまたはZn含有化合物またはこれらの2種以上の混合物となり得、このような化合物の代表例としては、tin(II)2−ethylhexanoate(Sn(Oct))を挙げることができる。
【0084】
そして、前記化学式1の有機金属複合体は、後述する実施例によっても裏付けられるように、前記化学式2および3の化合物を反応させるステップを含む方法で製造できる。
【0085】
また、前記発明の他の実現例による製造方法において、前記化学式1の有機金属複合体または前記化学式2および3の化合物は、それぞれラクチド単量体の100モルに対して、約0.0005〜0.1モル、好ましくは約0.0005〜0.01、より好ましくは約0.0005〜0.005の割合で添加される。このような触媒の添加割合が小さ過ぎると、重合活性が十分でないことがあり、触媒の添加割合が大き過ぎる場合、製造されたポリラクチド樹脂の残留金属量(残留触媒量)が大きくなり得る。
【0086】
そして、前記ポリラクチド樹脂の製造方法によれば、化学式1の有機金属複合体を単一の触媒として使用するか、化学式2および3の化合物を含む触媒組成物を使用することができるが、重合を介して得られる樹脂の高い分子量や重合活性または樹脂への転換率などの面で、前記化学式1の有機金属複合体を単一の触媒として使用することがより好ましい。
【0087】
そして、前記化学式2および3の化合物を触媒として使用する場合、これらの化合物は、同時に添加されてもよいが、時間差をおいて順次に添加されてもよく、単量体の投入および重合開始前の一定時間間隔をおいて添加されるか、重合開始直前に添加されてもよいことはもちろんである。ただし、前記化学式2および3の化合物がある程度反応してこれらの複合体を形成できるようにするために、前記化学式2および3の化合物を重合開始前の一定時間間隔をおいて同時に添加した後、単量体を投入して重合を開始することが好ましい。
【0088】
また、前記ポリラクチド樹脂の製造方法において、前記開環重合反応は、ヒドロキシ基含有化合物を含む開始剤の存在下に進行することができる。このような開始剤は、前記触媒と反応して実質的な触媒活性種を形成し、前記開環重合反応を開始する役割を果たすことができる。また、前記開始剤は、一部の解重合または樹脂の分解に関与して分子量を調整する役割を果たすこともできる。
【0089】
このような開始剤としては、ヒドロキシ基を有する化合物を特別な制限なく使用することができる。ただし、このような化合物が8未満の炭素数を有する場合、分子量が低く、開環重合温度で気化することがあり、このため、重合反応に加わりにくくなり得る。したがって、前記開始剤としては、炭素数8以上のヒドロキシ基含有化合物を使用することが好ましい。
【0090】
そして、このような開始剤は、ラクチド単量体の100モルに対して、約0.001〜1モル、好ましくは約0.01〜0.5モル、より好ましくは約0.05〜0.3モルの割合で添加され、前記開環重合が進行することができる。仮に、このような開始剤の添加割合が小さ過ぎると、ポリラクチド樹脂の分子量が過度に高く、以降の加工が難しくなり得、開始剤の添加割合が大き過ぎると、樹脂の分子量と重合活性が低くなり得る。
【0091】
また、前記ラクチド単量体の開環重合反応は、実質的に溶媒を使用しないバルク重合で進行させることが好ましい。この時、実質的に溶媒を使用しないとは、触媒を溶解するための少量の溶媒、例えば、使用ラクチド単量体1Kgあたり最大約1ml未満の溶媒を使用する場合まで包括することができる。
【0092】
前記開環重合をバルク重合で進行させることにより、重合後、溶媒除去などのための工程の省略が可能になり、このような溶媒除去工程における樹脂の分解または損失なども抑制することができる。また、前記バルク重合により、前記ポリラクチド樹脂を高い転換率および収率で得ることができる。
【0093】
そして、前記ラクチド単量体の開環重合は、120〜200℃の温度で、約0.5〜8時間、好ましくは約0.5〜4時間進行することができる。上述した製造方法では、優れた活性を有する触媒を用いることにより、以前に知られたものより短時間開環重合を進行させても、大きい分子量を有するポリラクチド樹脂を高い転換率および収率で得ることができ、短時間の重合進行により樹脂の解重合や分解も低減できる。
【0094】
上述した製造方法によれば、高い分子量、低い残留金属量(残留触媒量)および低い加水分解速度定数範囲などを示すことにより、優れた機械的物性を発現および維持することができ、優れた耐熱性を示すポリラクチド樹脂、例えば、発明の一実現例によるポリラクチド樹脂を高い転換率で製造することができる。
【0095】
一方、発明のさらに他の実現例により、上述したポリラクチド樹脂を含むポリラクチド樹脂組成物が提供される。
【0096】
このようなポリラクチド樹脂組成物は、優れた機械的物性の発現および維持が可能で、優れた耐熱性などを示すポリラクチド樹脂を含むことにより、優れた物理的、機械的物性を示し、電子製品パッケージングあるいは自動車内装材などの半永久的用途に好適に使用可能である。
【0097】
前記ポリラクチド樹脂組成物は、ポリラクチド樹脂を単独で含むか、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂またはポリプロピレン樹脂などを共に含むこともできる。ただし、ポリラクチド樹脂特有の物性を示すことができるように、前記樹脂組成物は、これに含まれている樹脂の全体含有量を基準として、約40重量%以上、好ましくは約60重量%以上、より好ましくは約80重量%以上のポリラクチド樹脂を含むことができる。
【0098】
また、前記ポリラクチド樹脂組成物は、以前から様々な樹脂組成物に含まれていた多様な添加剤をさらに含むこともできる。
【0099】
そして、前記ポリラクチド樹脂組成物は、最終製品成形前の液状または固状の樹脂組成物となるか、最終製品状態のプラスチックまたは織物などとなり得るが、前記最終プラスチックまたは織物製品などは、各製品の形態に応じた通常の方法によって製造できる。
【発明の効果】
【0100】
上述したように、本発明によれば、優れた機械的物性の発現および維持が可能で、優れた耐熱性などを示すポリラクチド樹脂およびその製造方法が提供可能である。
【0101】
したがって、本発明は、既存の使い捨て用途の素材に制限されていたポリラクチド樹脂を、飲食物包装フィルム、生活用品フィルムおよびシートのような使い捨て用品のみならず、電子製品パッケージングあるいは自動車内装材などのような半永久的な使用を必要とする多様な分野の素材に使用させるのに大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】合成例2の有機金属複合体に対する13CNMRスペクトルである。
【図2】(a)Sn(Oct)の100℃での119SnNMRスペクトル、(b)Sn(Oct)と、ドデシルアルコールおよびラクチド単量体とを反応させた時の、100℃での119SnNMRスペクトル、そして、(c)有機金属複合体Bと、ドデシルアルコールおよびラクチド単量体とを反応させた時の、100℃での119SnNMRスペクトルをそれぞれ示す。
【図3】実施例6および11と比較例1−2および1−6で製造されたポリラクチド樹脂に対する熱重量分析(TGA)結果を示すグラフである。
【図4】実験例2において、実施例11ないし14、比較例1−6、3および4のポリラクチド樹脂を、高温、高湿下で維持する時間(t)に応じて、「Log[Mn,t/Mn,0]」値の変化様相を線形回帰して示すグラフである。
【図5】実験例2において、実施例11ないし14、比較例1−6、3および4のポリラクチド樹脂を、高温、高湿下で維持する時間(t)に応じて、「一定時間経過後の引張強度(TS(t))/初期引張強度(TS(0))」値の変化様相を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0103】
以下、発明の具体的な実施例により、発明の作用および効果をより詳細に説明する。ただし、このような実施例は、発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって発明の権利範囲が定められるのではない。
【0104】
[実験方法]
下記の実施例および比較例において、空気や水に敏感な化合物を扱うすべての作業は、標準シュレンク技術(standard Schlenk technique)またはドライボックス技術を用いて実施した。
【0105】
核磁気共鳴スペクトルは、ブルカー600分光計(Bruker 600 spectrometer)を用いて得、HNMRは600MHzで測定した。
【0106】
重合体の分子量と分子量分布は、GPC(gel permeation chromatography)を用いて測定し、この時、ポリスチレン(polystyrene)サンプルを標準とした。
【0107】
触媒またはその製造のために用いたSn(Oct)(Oct=Octoate)化合物は、アルドリッチ社製を購入し、Sn(OBu)(OBu=butoxy)化合物は、既存の文献に従って製造して用いた(Gsell and Zeldin J.inorg.nucl.Chem、37、1133(1975))。
【0108】
[合成例1]
Sn(Oct)(アルドリッチ社)(0.2g、0.49mmol)と、下記化学式4の化合物(TCI社)(0.36g、1.0mmol)を、100mLのフラスコにそれぞれ投入し、トルエン30mLを入れて、100℃で1時間撹拌した。以降、真空下で溶媒を除去し、ヘプタン溶媒によって洗浄し、乾燥して、有機金属複合体A0.36gを得た。
【0109】
【化9】

【0110】
[合成例2]
Sn(Oct)(アルドリッチ社)(0.2g、0.49mmol)と、下記化学式5の化合物(ラインケミー社)0.36gを、100mLのフラスコにそれぞれ投入し、合成例1と同様の方法で有機金属複合体B0.4gを得た。
【0111】
図1は、有機金属複合体Bに対する13CNMRスペクトルである。図1を参照すれば、Sn(Oct)触媒と化学式5の化合物との反応で3つのカルボニルピークがδ188、183、182ppmで現れるが、δ183の場合、極めてシャープに現れることから、化学式5の化合物に結合されたOct−H acid化合物に対するピークであると考えられ、δ188ppmで現れた広いピークは、free Sn(Oct)と一致し、δ182ppmで現れた広いピークは、化学式5の化合物が配位した有機金属複合体に対するものと考えられる。
【0112】
図2は、上から下へ、(a)Sn(Oct)の100℃での119SnNMRスペクトル、(b)Sn(Oct)と、ドデシルアルコールおよびラクチド単量体とを反応させた時の、100℃での119SnNMRスペクトル、そして、(c)有機金属複合体Bと、ドデシルアルコールおよびラクチド単量体とを反応させた時の、100℃での119SnNMRスペクトルをそれぞれ示す。
【0113】
図2を参照すれば、Sn(Oct)は、δ−516で極めて狭いピークを示し(図2(a))、ドデシルアルコールおよびラクチド単量体と反応すると、δ−497でSnピークが広くなり、down field shiftが現れる(図2(b))。これに対し、前記有機金属複合体Bをドデシルアルコールおよびラクチド単量体と反応させると、δ−491でSnピークがより広くなり、前記Sn(Oct)に比べてより顕著なdown field shiftが現れる(図2(c))。この結果から、有機金属複合体Bが、以前にポリラクチド樹脂の開環重合のために用いられていたSn(Oct)とは異なる触媒構造を有することが確認され、また、図2(c)で観察される顕著なdown field shiftから、有機金属複合体Bでは、カルボジイミド構造を有する化学式5の化合物がSn(Oct)と配位結合し、中心金属Snが陽イオン的特性をより大きく示すことが確認される。このような大きい陽イオン的特性により、前記有機金属複合体Bは、ラクチド単量体とより大きい反応性を示し、その開環重合のための触媒としてより向上した活性を示すことが予想される。
【0114】
【化10】

【0115】
[合成例3]
Sn(Oct)(アルドリッチ社)(0.2g、0.49mmol)と、下記化学式6の化合物(TCI社)(0.12g、1.0mmol)を、100mLのフラスコにそれぞれ投入し、トルエン30mLを入れて、100℃で1時間撹拌した。以降、真空下で溶媒を除去し、ヘプタン溶媒によって洗浄し、乾燥して、有機金属複合体C2.5gを得た。
【0116】
【化11】

【0117】
[合成例4]
Sn(Oct)(アルドリッチ社)(0.2g、0.49mmol)と、下記化学式7の化合物(TCI社)(0.21g、1.0mmol)を、100mLのフラスコにそれぞれ投入し、トルエン30mLを入れて、100℃で1時間撹拌した。以降、真空下で溶媒を除去し、ヘプタン溶媒によって洗浄し、乾燥して、有機金属複合体D2.9gを得た。
【0118】
【化12】

【0119】
[実施例1]
有機金属複合体Aを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol)、160℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例1の有機金属複合体A(0.2mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置した後、160℃の重合温度で2時間反応させた。以降、固まった高分子を、クロロホルム30mLを入れて溶かした後、メタノール溶媒下で沈殿させた。この沈殿物をガラス漏斗に濾過して回収した重合体を、真空オーブンで50℃に24時間乾燥して、ポリラクチド樹脂1.62g(投入された単量体総量基準81重量%)を得た。分子量(Mw)は491,000であり、Mw/Mnは2.0であった。
【0120】
[実施例2]
有機金属複合体Aを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/60000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例1の有機金属複合体A(0.07mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置した後、180℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.34g(投入された単量体総量基準81重量%)を得た。分子量(Mw)は274,000であり、Mw/Mnは1.7であった。
【0121】
[実施例3]
有機金属複合体Bを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol)、160℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例2の有機金属複合体B(0.2mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、160℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.70g(投入された単量体総量基準85重量%)を得た。分子量(Mw)は684,000であり、Mw/Mnは1.8であった。
【0122】
[実施例4]
有機金属複合体Bを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/60000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例2の有機金属複合体B(0.07mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、180℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.61g(投入された単量体総量基準81重量%)を得た。分子量(Mw)は276,000であり、Mw/Mnは1.9であった。
【0123】
[実施例5]
有機金属複合体Bを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/80000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例2の有機金属複合体B(0.05mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、180℃の重合温度で4時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.8g(投入された単量体総量基準88重量%)を得た。分子量(Mw)は221,000であり、Mw/Mnは1.8であった。
【0124】
[実施例6]
有機金属複合体Cを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例3の有機金属複合体C(0.1mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、180℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.67g(投入された単量体総量基準83重量%)を得た。分子量(Mw)は214,000であり、Mw/Mnは1.7であった。
【0125】
[実施例7]
有機金属複合体Dを用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、合成例4の有機金属複合体D(0.1mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、180℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.78g(投入された単量体総量基準89重量%)を得た。分子量(Mw)は257,000であり、Mw/Mnは1.9であった。
【0126】
[実施例8]
化学式5の化合物およびSn(Oct)触媒の存在下でのポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/80000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(Oct)(0.05mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、180℃の重合温度で4時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.56g(投入された単量体総量基準78重量%)を得た。分子量(Mw)は231,000であり、Mw/Mnは1.84であった。
【0127】
[実施例9]
化学式5の化合物およびSn(Oct)触媒の存在下でのポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(3000g)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(Oct)(0.21g)を、5L重合反応器にそれぞれ投入し、180℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂2550g(投入された単量体総量基準85重量%)を得た。分子量(Mw)は345,000であり、Mw/Mnは1.91であった。
【0128】
[実施例10]
化学式5の化合物およびSn(OBu)触媒の存在下でのポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(OBu)(0.1mL、3.5mM濃度のトルエン溶液)を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、真空下で12時間放置し、180℃の重合温度で2時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂1.56g(投入された単量体総量基準78重量%)を得た。分子量(Mw)は371,000であり、Mw/Mnは1.98であった。
【0129】
[実施例11]
化学式5の化合物およびSn(Oct)触媒の存在下でのアルコール開始剤を用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/200000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(3000g)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(Oct)(0.04g)およびドデシルアルコール(ラクチドのモル対比0.1モル%)を、5L重合反応器にそれぞれ投入し、180℃の重合温度で4時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂2820g(投入された単量体総量基準94重量%)を得た。分子量(Mw)は221,000であり、Mw/Mnは1.98であった。
【0130】
[実施例12]
化学式5の化合物およびSn(Oct)触媒の存在下でのアルコール開始剤を用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/150000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(3000g)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(Oct)(0.06g)およびドデシルアルコール(ラクチドのモル対比0.1モル%)を、5L重合反応器にそれぞれ投入し、180℃の重合温度で4時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂2820g(投入された単量体総量基準94重量%)を得た。分子量(Mw)は225,000であり、Mw/Mnは2.05であった。
【0131】
[実施例13]
化学式5の化合物およびSn(Oct)触媒の存在下でのアルコール開始剤を用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/100000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(3000g)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(Oct)(0.08g)およびドデシルアルコール(ラクチドのモル対比0.1モル%)を、5L重合反応器にそれぞれ投入し、180℃の重合温度で4時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂2790g(投入された単量体総量基準93重量%)を得た。分子量(Mw)は212,000であり、Mw/Mnは2.1であった。
【0132】
[実施例14]
化学式5の化合物およびSn(Oct)触媒の存在下でのアルコール開始剤を用いたポリラクチド樹脂の製造(Sn/ラクチド=1/60000(mol/mol)、180℃)
L−ラクチド単量体(3000g)、化学式5の化合物(ラインケミー社)(ラクチドの重量対比0.1wt%)、Sn(Oct)(0.14g)およびドデシルアルコール(ラクチドのモル対比0.1モル%)を、5L重合反応器にそれぞれ投入し、180℃の重合温度で3時間反応させた。実施例1と同様の方法でポリラクチド樹脂2850g(投入された単量体総量基準95重量%)を得た。分子量(Mw)は223,000であり、Mw/Mnは2.1であった。
【0133】
前記実施例1ないし14を参照すれば、化学式1の有機金属複合体または化学式2および3の化合物の混合物を触媒として用いてポリラクチド樹脂を製造する場合、比較的短時間内に最小20万以上の大きい重量平均分子量を有するポリラクチド樹脂が高い転換率で得られることが確認された。
【0134】
また、実施例11ないし14を参照すれば、ヒドロキシ基含有開始剤を添加する場合、より高い転換率でポリラクチド樹脂が得られ、開始剤の添加によりポリラクチド樹脂の分子量が減少し、分子量調整の機能を果たせることが確認された。
【0135】
[比較例1]
ポリラクチド樹脂の製造
有機金属複合体Aの代わりにSn(Oct)(アルドリッチ社)を触媒として使用したことを除けば、実施例1と同様の方法で、L−ラクチド単量体(3000g)およびSn(Oct)(アルドリッチ社)(0.21g)を、5L重合反応器にそれぞれ投入し、180℃の重合温度でそれぞれ2時間と6時間反応させた(2時間反応−比較例1−2;6時間反応−比較例1−6)。実施例1と同様の方法で以降の工程を進行させ、比較例1−2の場合、ポリラクチド樹脂1015g(投入された単量体総量基準35重量%)を得、比較例1−6の場合、ポリラクチド樹脂2670g(投入された単量体総量基準89重量%)を得た。分子量(Mw)およびMw/Mnを測定した結果、比較例1−2の場合、165,000および1.69であり、比較例1−6の場合、282,000および1.99であった。
【0136】
前記比較例1を参照すれば、既存のSn(Oct)触媒を使用する場合、ポリラクチド樹脂への転換率が低くなり、ポリラクチド樹脂の分子量も比較的低くなることが確認される。また、ポリラクチド樹脂の高い分子量を得るためには、長時間の重合反応が必要であるため、重合反応の平衡反応である解重合も相当部分生じ、残留ラクチド単量体の量も大きく増加すると予想される。
【0137】
[比較例2]
ビス(トリメチルシリル)カルボジイミド、ホスファイトあるいはフェノール類の添加剤(ラクチド単量体対比0.1重量%)を使用しながら、有機金属複合体Aの代わりにSn(Oct)(アルドリッチ社)を触媒とした使用したことを除けば、実施例1と同様の方法で、L−ラクチド単量体(2g、13.8mmol)およびSn(Oct)(0.14mg、Sn/ラクチド=1/40000(mol/mol))を、30mLのバイアルにそれぞれ投入し、180℃の重合温度で重合時間を変更しながら反応を進行させた後、重合収率(転換率)および重量平均分子量を測定した。シリコン原子が含まれているカルボジイミド化合物、つまり、ビス(トリメチルシリル)カルボジイミドを用い、ホスファイト添加剤としては、TNPP、Irgafos126を用い、フェノール類添加剤としては、Irganox1076を用いた。この重合結果得られた転換率および重量平均分子量データを、表1にまとめて示した。
【0138】
【表1】

【0139】
前記表1を参照すれば、アルキル基、シクロアルキル基またはアリール基が置換された特定のカルボジイミド化合物(例えば、化学式2の化合物またはこのような化合物が結合された化学式1の有機金属複合体)を使用するのではなく、他のカルボジイミド化合物を使用する場合、重合活性が低く、ポリラクチド樹脂への転換率が低いだけでなく、低い重量平均分子量を有するポリラクチド樹脂のみが得られることが確認された。また、米国特許第5,338,822号などに開示されたように、ホスファイトあるいはフェノール類の添加剤を使用しても、約9万以下の重量平均分子量を有するポリラクチド樹脂が得られるだけであって、大きい分子量を有するポリラクチド樹脂を得るには限界があることが確認された。
【0140】
[実験例1]
比較例1において、2、6時間それぞれ重合して得られたポリラクチド樹脂(比較例1−2および1−6)と、実施例6および11で得られたポリラクチド樹脂に対して熱安定性をテストするためにTGA分析を行った。その結果は、図3に示した。また、前記TGA分析は、室温から400℃まで昇温速度10℃/minで昇温させながら行い、TGA分析装置としては、mettler−toledo TGA 851eを用いた。
【0141】
図3を参照すれば、実施例のポリラクチド樹脂は、略300℃まで昇温する場合にも分解などが最小化され、約10重量%未満の重量減少を示すのに対し、比較例1−2および1−6のポリラクチド樹脂は、略300℃まで昇温する場合、最小30重量%を超える重量減少を示すことが確認された。
【0142】
したがって、実施例のポリラクチド樹脂は、比較例のポリラクチド樹脂に比べて優れた耐熱性を示し、大きい分子量およびこれに伴う優れた機械的物性が維持できることが確認された。
【0143】
[実験例2]
ポリラクチド樹脂内の残留金属量(残留触媒量)の測定
ポリラクチド樹脂内の触媒に由来する残留金属量(残留触媒量)は、誘導結合プラズマ発光誘導法(inductively coupled plasma e mission spectroscopy)によって測定した。このような方法で、実施例11ないし14で製造されたポリラクチド樹脂内において、触媒に由来して残留する錫(Sn)の金属量を測定し、下記表2に示した。また、これとの比較のために、比較例1−6のポリラクチド樹脂と共に、NatureWorksから購入した商品名:4032Dと6201Dのポリラクチド樹脂サンプルを比較例3および4とし、これら比較例1−6、3および4に対する残留金属量を共に測定し、表2に示した。
【0144】
ポリラクチド樹脂の加水分解速度定数kおよび機械的物性の測定
前記実施例11ないし14のポリラクチド樹脂および比較例1−6、3および4のポリラクチド樹脂に対して、次の方法で加水分解速度定数kおよび機械的物性(引張強度)を測定した。各ポリラクチド樹脂に対してHAAKE Minijet IIの射出成形機(Injection molder)を適用して引張強度を測定可能な試験片を製造した。200℃で試験片を製造する間にある程度の分子量の減少現象が起こることが観察された。ただし、これは、すべて同じ程度に起こるもので、特性の比較に特別な問題がないことを確認した。
【0145】
このように製造された各試験片を、60℃の温度、90%の相対湿度の水蒸気雰囲気下の恒温抗湿条件下に維持させ、時間(day)の経過に伴う引張強度、数平均分子量および重量平均分子量の変化を測定した。時間の経過に伴って測定された各物性の測定結果は、下記表2にまとめられたとおりである。
【0146】
このように測定された数平均分子量から数式1の「Log[Mn,t/Mn,0]」の値を求め、時間の経過に伴う前記「Log[Mn,t/Mn,0]」値を線形回帰し、図4に示した。また、前記測定された引張強度から「一定時間経過後の引張強度(TS(t))/初期引張強度(TS(0))」の比率値を求め、時間の経過に伴う比率値のグラフを、図5に示した。
【0147】
【表2】

【0148】
前記表2を参照すれば、化学式1の有機金属複合体または化学式2および3を含む触媒組成物を用いて製造された実施例11ないし14のポリラクチド樹脂は、射出成形が完了した試験片の状態でも15万以上の大きい重量平均分子量を有することができ、触媒に由来する残留金属量が20ppm以下と極めて低い水準を維持するだけでなく、加水分解速度定数kが0.1day−1以下、特に、0.05day−1以下の低い水準となり得ることが確認される。この時、前記残留金属量が低い水準を維持するとは、ポリラクチド樹脂内の残留触媒量が極めて低い水準であることを意味する。
【0149】
これに対し、比較例1−6のポリラクチド樹脂または商用化された比較例3および4のポリラクチド樹脂は、このような物性を満たすことができず、20ppmを上回る残留金属量を有するか、加水分解速度定数kが0.1day−1を上回ることが確認される。
【0150】
また、表2、図4および図5を参照すれば、前記20ppm以下の残留金属量(つまり、低い水準の残留触媒量)および0.1day−1以下の加水分解速度定数kを示す実施例のポリラクチド樹脂は、高温、高湿の厳しい条件下に維持されても引張強度などの機械的物性の低下がほとんど観察されず、半永久的用途への適用が可能であることが確認される。
【0151】
しかし、このような残留金属量および加水分解速度定数範囲を外れる比較例1−6のポリラクチド樹脂(つまり、残留触媒量および加水分解速度定数が高いポリラクチド樹脂)または商用化された比較例3および4のポリラクチド樹脂は、時間の経過に伴って引張強度の顕著な低下、特に、略1/3にも満たない水準に引張強度が低下することにより、初期に高い分子量を有するように形成されても優れた機械的物性を維持することができず、半永久的用途への適用が不可能であることが確認される。
【0152】
[実験例3]
比較例1−6で得られたポリラクチド樹脂と、比較例3の商用化されたポリラクチド樹脂と、実施例11ないし14で得られたポリラクチド樹脂に対して酸度を測定した。酸度の測定は、Metrohm 809 Titando装備を用い、適正溶液として0.1NのKOHエタノール溶液を使用した。その結果は、表3に示した。
【0153】
【表3】

【0154】
表3を参照すれば、実施例のポリラクチド樹脂は、10meq/kg以下の低い酸度を示すのに対し、比較例の場合、29meq/kg以上の高い酸度を示すことが確認された。これより、実施例で得られたポリラクチド樹脂は、大きい分子量および低い酸度を示すことができることが確認された。また、このような実施例のポリラクチド樹脂が低い酸度を有することにより、触媒が末端に結合した樹脂と、水分または酸のトランスエステル化反応または加水分解反応などが抑制され、重合後または使用中にポリラクチド樹脂の分解または分子量の減少などが顕著に低減できると予測される。
【0155】
したがって、前記実施例のポリラクチド樹脂は、高い分子量による優れた機械的物性を発現および維持することができ、優れた耐加水分解性を示し、半永久的用途への適用が可能であると予測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100,000〜1,000,000の重量平均分子量を有し、
60℃の温度および90%の相対湿度下で、下記数式1によって計算される加水分解速度定数kが0.1day−1以下であり、
ポリラクチド樹脂の重量を基準として、触媒に由来する錫または亜鉛の残留金属量が20ppm以下であることを特徴とするポリラクチド樹脂。
【数1】

(前記数式1において、Mn,0は、ポリラクチド樹脂の初期数平均分子量を示し、Mn,tは、60℃の温度および90%の相対湿度下で時間t(day)の間維持させた時の、ポリラクチド樹脂の数平均分子量を示す。)
【請求項2】
前記錫または亜鉛の残留金属は、下記化学式1の有機金属複合体または下記化学式2および3の化合物の混合物を含む残留触媒として含まれることを特徴とする請求項1に記載のポリラクチド樹脂。
【化1】

【化2】

【化3】

(前記式において、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜2の整数であり、aは、0または1であり、Mは、SnまたはZnであり、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキル、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル、置換または非置換の炭素数6〜10のアリールであり、Rは、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキレン、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6〜10のアリーレンであり、XとYは、それぞれ独立にアルコキシまたはカルボキシル基である。)
【請求項3】
前記ポリラクチド樹脂および残留ラクチド単量体の重量を合わせた総重量に対して、1.0重量%以下の残留ラクチド単量体を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項4】
20meq/kg以下の酸度を有することを特徴とする請求項1に記載のポリラクチド樹脂。
【請求項5】
下記化学式1の有機金属複合体の存在下に、ラクチド単量体を開環重合するステップを含み、
有機金属複合体は、ラクチド単量体の100モルに対して、0.0005〜0.1モルの割合で添加されることを特徴とする請求項1に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【化4】

(前記式において、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜2の整数であり、aは、0または1であり、Mは、SnまたはZnであり、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキル、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル、置換または非置換の炭素数6〜10のアリールであり、Rは、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキレン、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6〜10のアリーレンであり、XとYは、それぞれ独立にアルコキシまたはカルボキシル基である。)
【請求項6】
下記化学式2および3の化合物の存在下に、ラクチド単量体を開環重合するステップを含み、
化学式2および3の化合物は、それぞれラクチド単量体の100モルに対して、0.0005〜0.1モルの割合で添加されることを特徴とする請求項1に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【化5】

【化6】

(前記式において、nは、0〜15の整数であり、pは、0〜2の整数であり、Mは、SnまたはZnであり、RおよびRは、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキル、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキル、置換または非置換の炭素数6〜10のアリールであり、Rは、置換または非置換の炭素数3〜10のアルキレン、置換または非置換の炭素数3〜10のシクロアルキレン、置換または非置換の炭素数6〜10のアリーレンであり、XとYは、それぞれ独立にアルコキシまたはカルボキシル基である。)
【請求項7】
前記MX2−pは、tin(II)2−ethylhexanoate(Sn(Oct))であることを特徴とする請求項5または6に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項8】
は、炭素数1〜10のアルキル基で置換された1価のフェニル基、炭素数3〜10のアルキル基またはシクロアルキル基を示し、Rは、炭素数1〜10のアルキル基で置換された2価のフェニレン基または炭素数3〜10のアルキレン基またはシクロアルキレン基を示すことを特徴とする請求項5または6に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記開環重合は、バルク重合で進行することを特徴とする請求項5または6に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記開環重合は、120〜200℃の温度で0.5〜8時間進行することを得請求項5または6に記載のポリラクチド樹脂の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のポリラクチド樹脂を含むことを特徴とするポリラクチド樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−514427(P2013−514427A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544344(P2012−544344)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005417
【国際公開番号】WO2011/074760
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】