説明

ポリ乳酸捺染物の製造方法

【課題】 ポリ乳酸成形体に対し、優れた発色再現性をもって任意の柄、色相に捺染することができるとともに、ポリ乳酸が本来有する適切な柔軟性と強靭性を、捺染後においても実質的に保持したポリ乳酸捺染物を連続的かつ効率良く製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】 染着性に優れ、かつポリ乳酸が本来有する風合いをも維持したまま、ポリ乳酸成形体を捺染してポリ乳酸捺染物を得るための方法が開示されている。ポリ乳酸捺染物は、ポリ乳酸成形体上に分散染料を付与し、ポリ乳酸成形体に分散染料を、常圧かつ過熱蒸気雰囲気下にて105℃から140℃の温度で染着させることにより製造することができる。本発明の方法は、例えば、繊維加工分野、フィルム加工分野、シート加工分野において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸捺染物の製造方法に関する。より詳細には、ポリ乳酸成形体を優れた発色性で捺染することができ、風合いが維持されかつ脆弱化が防止されたポリ乳酸捺染物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料等に使用される繊維またはフィルムの材料として、ナイロン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの芳香族ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、およびポリエチレン樹脂などのプラスチックが汎用されている。しかし、このような樹脂でなる製品は、自然環境下での分解速度が極めて遅いため、その用途を終えて埋設処理等の廃棄処分されたとしても、半永久的に残存すると言われている。また、それらの樹脂でなる製品が投棄された場合、それらが景観を損う、土壌または水生生物の生活環境を破壊する、などの問題も懸念されている。
【0003】
これらの問題に対し、近年では、上記汎用プラスチック製品に替わる材料として、環境に優しいポリ乳酸(PLA)樹脂が開発されている。ポリ乳酸樹脂は、生育時に二酸化炭素を吸収する植物を原料として調製されるため、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素の削減に寄与し得る。さらに、ポリ乳酸樹脂は分解され易い性質(易分解性)を有しており、例えば、水の存在下で分解され得、高温に曝されるほど比較的容易かつ加速度的に加水分解され得る。あるいは、微生物によっても分解され得る。従って、ポリ乳酸樹脂は、上記汎用プラスチック製品の廃棄における問題点を解決し得るとともに、二酸化炭素の削減も含め、環境問題の解決に貢献することが期待されている。従って、汎用プラスチックの代替材料として、繊維製品、成形物等の種々の用途への応用が期待されている。
【0004】
一方で、ポリ乳酸樹脂を繊維製品(例えば、衣料等)、成形品などに応用するためには、人々の嗜好、趣向、またはファッション性などの観点からポリ乳酸樹脂でなる繊維製品、成形品を種々の色相に染色する技術を確立することが所望される。
【0005】
従来、このようなポリ乳酸樹脂でなる成形体(例えば、ポリ乳酸繊維)を染色するために、アセテート用染料に準じるI/O値を有する分散染料が推奨され、主にこれらが使用されている(非特許文献1および2)。この分散染料は、ポリ乳酸樹脂を良好な色に染色し得、さらに、ビルドアップ、湿潤堅牢度、および/または日光堅牢度を高め得る。さらに、ポリ乳酸成形体の染色においては、例えば、所定の分散染料を用いて染色する技術も知られている(例えば、特許文献1)。
【0006】
しかし、これらの技術はいずれも浸染を前提とするものである。一方で、ポリ乳酸樹脂を用いた製品(例えば、ポリ乳酸繊維で構成される布帛、シートおよびフィルム)の汎用性を高めるためには、所望の柄、色相に染色し得る捺染技術の確立も要求されている。
【0007】
従来の捺染技術のうち、ポリエステル繊維に関する捺染技術は、古くから確立されている。代表的な捺染技術としては、乾熱固着による方法と、スチームを利用する方法とに大別される。ここで、乾熱固着によるポリエステル繊維の捺染は200℃近くの温度を要し、使用する分散染料の気化拡散を利用してポリエステル繊維に分散染料を染着させる技術である。乾熱固着による捺染は、このような高温を必要とするため、捺染の際に分散染料と混合する糊の選定が重要であり、糊自体の固化または劣化を回避しなければならない。また、分散染料の選定も必ずしも容易ではない。分散染料の種類によっては、気化による捺染を必要としない部分への昇華汚染の問題、および染色機内の汚染の問題を考慮する必要がある。
【0008】
これに対し、スチームを利用した捺染技術は、さらに、HT(High Temperature)スチーム法とHP(High Pressure)スチーム法とに大別される。HTスチーム法は、常圧下で過熱蒸気を利用することにより分散染料の気化拡散を行ってポリエステル繊維への捺染を行う捺染技術である。HPスチーム法は、閉鎖系において一定加圧下で高圧蒸気を利用することにより分散染料の溶解拡散を行ってポリエステル繊維への捺染を行う捺染技術である(例えば、非特許文献3および4)。
【0009】
HTスチーム法では、例えば、PETような200℃以上の融点(PETの融点は265℃である)を有する芳香族系ポリエステルでなる繊維に対し、分散染料を含む色糊を使用する。色糊の印捺・乾燥のあと、一般的に、常圧下において、過熱蒸熱機を使用し、170℃〜180℃で7分〜10分の時間をかけて染料を染着させる。この方法を用いることにより、効率的に連続発色させることができる。この過熱蒸気雰囲気下で付与される温度は、PET繊維内に分散染料を気化移行させる為に必要な温度とされており、染着時間は、その温度における、気化した分散染料の繊維内への拡散に要する時間と、生産効率のバランスとから決定される。
【0010】
HPスチーム法による繊維の捺染、例えば、PETの捺染においては、分散染料を含む色糊が付与されたPETを、高圧蒸気雰囲気下にて、130℃で30分〜60分間処理し、染料を染着させる。上述したように、HPスチーム法を用いる捺染技術では、分散染料は、気化移行することなく、高温ではあるが、加圧状態で存在する充分量の水分中に溶解して、繊維内部に移行拡散する。
【0011】
しかし、このようなポリエステル繊維の捺染技術を、ポリ乳酸成形体にそのまま応用することは困難である。例えば、仮に、従来の乾熱固着の方法を用いて、ポリ乳酸成形体を分散染料で捺染しようとしても、捺染物の風合いが低下する、捺染物自体が脆弱化するなどの問題の他に、ポリ乳酸成形体自体が溶融し、捺染物自体が得られなくなるという問題もある。ポリ乳酸の融点は、その性状によって必ずしも一定ではないが、一般に130℃〜170℃であり、分散染料を気化拡散させる温度(例えば、200℃)では、ポリ乳酸成形体自体が溶融するからである。
【0012】
あるいは、従来のHTスチーム法を用いて、ポリ乳酸成形体を分散染料で捺染しようとしても、上記と同様、付与される熱(170℃〜180℃)によって、ポリ乳酸成形体が悪影響を受け、捺染物の風合いが低下する、捺染物自体が脆弱化する、ポリ乳酸成形体自体が溶融し、捺染物自体として存在し難くなるなどの問題がある。
【0013】
これに対し、HPスチーム法を用いた捺染では、上記のような風合いの低下、捺染物自体の脆弱化のような問題は回避され得ると考えられる。しかし、HPスチーム法は、高圧を維持するために閉鎖系の染色システムを採用せざるを得ない。そのため、非連続バッチ式工程を採らざるを得ず、大量のポリ乳酸捺染物を効率的に生産することが困難である。
【0014】
このように、ポリ乳酸成形体に対するより効率的な捺染技術の確立が所望されている。
【非特許文献1】茂木ら、「繊維学会誌」,2001年,第57巻,p.234−243
【非特許文献2】山口、「加工技術」,2001年,第36号,p.458−463
【非特許文献3】坂上末治、「HTスチームと染色加工」,繊維社,昭和48年7月11日,pp.121
【非特許文献4】的場由穂、「染色ノウハウの理論化」,染織経済新聞社,昭和60年7月1日,pp.462−470
【特許文献1】特開平8−311781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、低融点のポリ乳酸成形体を任意の柄、色相に捺染することができ、しかも発色再現性に優れ、そしてポリ乳酸が本来有する適切な柔軟性と強靭性を、捺染後においても実質的に保持するポリ乳酸捺染物を連続的かつ効率良く製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ポリ乳酸成形体上に染料を付与する工程;および、該染料を、常圧かつ過熱蒸気雰囲気下において、105℃から140℃の温度で、ポリ乳酸成形体に染着させる工程;を包含するポリ乳酸捺染物の製造方法である。
【0017】
一つの実施形態においては、前記ポリ乳酸成形体の長さを基準とする前記ポリ乳酸捺染物の収縮率が10%以下である。
【0018】
別の実施形態においては、前記染着が4分から20分間行われる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、低融点のポリ乳酸成形体を任意の柄、色相に、優れた発色再現性をもって染色する方法が提供される。また、本発明によれば、風合い、特に、低融点のポリ乳酸が本来有する適切な柔軟性と強靭性を、捺染後においても実質的に保持することでき、脆弱化の問題も回避され得る、ポリ乳酸捺染物の製造方法が提供される。本発明によれば、従来の捺染技術に用いられるHTスチームを利用した高温常圧蒸熱機に特別な改良を加えることもなく、湿潤堅牢度に優れたポリ乳酸捺染物を連続的かつ効率良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳述する。
【0021】
本発明のポリ乳酸捺染物の製造方法では、まず、ポリ乳酸成形体上に染料を付与し、ついで、この染料を、常圧かつ過熱蒸気雰囲気下において、105℃から140℃の温度で、ポリ乳酸成形体に染着させる。
【0022】
本発明に用いられるポリ乳酸成形体は、ポリ乳酸(PLA)樹脂から製造された繊維(例えば、フィラメント)、糸、布帛、フィルムおよびシートを包含していう。糸またはフィラメントには、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、ステープルファイバー(スフ)、トウ、ハイバルクスフ、ハイバルクトウ、紡績糸、混紡糸、加工糸、仮撚糸、異形断面糸、中空糸、コンジュゲート糸、POY(部分配向糸)、DTY(延伸加工糸)、POY−DTY、スライバー等が包含される。また、布帛は、織布、編物、不織布、紐や縄を含む組物、綿状ハイバルクスフ、スライバー、多孔質スポンジ、フェルト、紙、網等の繊維構造体と認識され得るものを包含していう。
【0023】
本発明に用いられるポリ乳酸成形体に包含される糸および布帛は、ポリ乳酸繊維以外の繊維として、綿、麻、シルク、羊毛など天然繊維;ナイロン、アクリル、ポリエステル、ポリトリメチレンテレフタレート、アセテートなど合成繊維または半合成繊維;および/またはレーヨン、銅キュプラアンモニウムなど再生繊維のうち、少なくとも1種を含有するものであってもよい。ポリ乳酸成形体における、このような他の繊維の含有量は特に限定されず、当業者によって適切に選択され得る。
【0024】
本発明に用いられるポリ乳酸成形体の主成分であるポリ乳酸(PLA)は生分解性、すなわち、水または海水中、あるいは土壌または堆肥中で適切な時間をかけて分解する性質を有する。このようなポリ乳酸は、L−乳酸および/またはD−乳酸を構成単位として含むポリマーまたはコポリマーであるか、あるいはこれらの乳酸のうちの少なくとも1種と、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などの有機酸とのコポリマーである。
【0025】
本発明に用いられるポリ乳酸成形体は、当業者に周知の手法を用いて、例えば、耐加水分解性および/または生分解性のような性能を向上させたものであってもよい。
【0026】
本発明において、ポリ乳酸成形体のうち、特にポリ乳酸繊維またはそれを用いた糸あるいは布帛を使用する場合、当該繊維を得るための製糸条件、紡績条件、編織条件、後処理条件、下染条件、および/または加工条件は、当業者によって任意に設定され得、所望の、太さ、断面形状、繊度(テックス、デニール、番手等)、引っ張り強さおよび伸び率、結束強さ、耐熱性、捲縮度、吸水性、吸油性、嵩高さ、腰の強さ、風合い等の物性や特性を有する糸あるいは布帛に加工され得る。本発明において、ポリ乳酸繊維が用いられる場合、当該繊維は当業者に周知の方法を用いて紡糸される。例えば、押出機を用いて溶融紡糸する溶融紡糸法;ポリ乳酸樹脂を溶媒に溶解し、溶液とした後、該溶液をノズルから貧溶媒中に吐出させる湿式紡糸法;該溶媒をノズルから乾燥気体中に吐出させる乾式紡糸法等を用いて製造され得る。
【0027】
さらに、本発明に用いられるポリ乳酸成形体は、必要に応じて可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、充填剤、付着防止剤、帯電防止剤、表面ぬれ改善剤、焼却補助剤、滑り防止剤、顔料などの当業者に公知の添加剤が任意の割合で配合されているものであってもよい。
【0028】
本発明に用いられるポリ乳酸成形体はまた、予め当業者に周知の手段を用いて、ヒートセット(熱成形)されていてもよい。このようなヒートセットの条件は、特に限定されないが、例えば、100℃〜130℃の温度で30秒〜120秒間かけて、できるだけテンションをかけない条件においてヒートセットを行う。
【0029】
本発明に用いられるポリ乳酸成形体は、表面に付着している不純物、糊剤、油分、柔軟剤などを事前に取り除く目的で、例えば、60℃〜90℃の温度下にて3分〜10分かけて予め洗浄が行われてもよい。このような洗浄が行われる場合、ノニオン系洗浄剤またはアニオン系洗浄剤が単独または組合わせて使用され得る。
【0030】
本発明に用いられる染料に特に制限はないが、分散染料が例示される。このような分散染料が有する特性としては、一般にポリエステル繊維を染色するために用いられる、ポリ乳酸成形体に対する染着性が良好であること、浸染が可能であることなどが挙げられる。本発明に用いられ得る分散染料の例としては、アゾ系分散染料、キノフタロン系分散染料、アントラキノン系分散染料、ピリドン系分散染料、ニトロ系分散染料、メチン系分散染料、配合分散染料、ならびに他の分散染料が挙げられる。このような分散染料は単独で使用されてもよく、あるいは組合せて使用されてもよい。組合わせて使用する場合、その混合比は特に限定されず、当業者によって適宜選択され得る。
【0031】
本発明に用いられ得るアゾ系分散染料の例としては:
DIANIX Yellow Brown SE−R(ダイスター社製);
DIANIX Yellow Brown S−2R 150%(ダイスター社製);
DIANIX Orange E−3R(ダイスター社製);
DIANIX Rubine SE−B(ダイスター社製);
DIANIX Rubine C−B 150%(ダイスター社製);
DIANIX Rubine SE−FG(ダイスター社製);
DIANIX Deep Red SF(ダイスター社製);
DIANIX Red C−4G 150%(ダイスター社製);
DIANIX Violet S−4R(ダイスター社製);
DIANIX Blue S−2G(ダイスター社製);
DIANIX Blue F2B−SE(ダイスター社製);
DIANIX Dark Blue SE−3RT(ダイスター社製);
DIANIX Navy S−2G(ダイスター社製);
TERASIL Rubine 2GFL(チバスペシャルティケミカルズ社製);
KAYALON POLYESTER Yellow 4GE(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Yellow 5R−SE200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Orange R−SF(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Yellow Brown 2RL−S(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red BR−S(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red BL−E(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red 3BL−S200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Rubine GL−SE200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Violet 3RL−S200(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Blue 2R−SF(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Navy Blue R−SF(日本化薬(株)製);
MIKETON POLYESTER Orange SF(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Orange SC(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Orange SC e/c(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Yellow Brown 2RL(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Scarlet 3R(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Scarlet RCS e/c(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Red FL(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Red BSF(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Red 2BSF(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Red 3BSF(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Rubine GL(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Violet ADW(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Blue G−ADW(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Blue 3RT paste(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Blue 3RSF(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Blue7GSF(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Navy Blue3GS(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Navy Blue RRSF(ダイスター社製);
などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられ得るアントラキノン系分散染料の例としては:
DIANIX Red AM−86(ダイスター社製);
DIANIX Briliant Violet R(ダイスター社製);
DIANIX Turquoise S−BG(ダイスター社製);
DIANIX Blue FBL(ダイスター社製);
DIANIX Blue S−BG(ダイスター社製);
TERATOP Pink 3G(チバスペシャルティケミカルズ社製);
TERASIL Red FB 200%(チバスペシャルティケミカルズ社製);
TERASIL Blue BGE−01(チバスペシャルティケミカルズ社製);
TERASIL Violet BL 150%(チバスペシャルティケミカルズ社製);
KAYALON POLYESTER Pink RCL−E(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Red Vilolet FB−L conc(日本化薬(株)製);などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0033】
本発明に用いられ得るキノフタロン系分散染料の例としては:
DIANIX Yellow S−3G(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Yellow 3GSL(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Yellow F3G(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Yellow GSL(ダイスター社製);などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0034】
本発明に用いられ得るピリドン系分散染料の例としては、DIANIX Flavine XF(ダイスター社製)などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0035】
本発明に用いられ得るニトロ系分散染料の例としては:
DIANIX Yellow AM−42(ダイスター社製);
TERATOP Yellow GWL(チバスペシャルティケミカルズ社製);などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0036】
本発明に用いられ得るメチン系分散染料の例としては、DIANIX Yellow 7GL(ダイスター社製)などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0037】
本発明に用いられ得る配合分散染料の例としては:
DIANIX Yellow PAL(ダイスター社製);
DIANIX Yellow AC−Enew(ダイスター社製);
DIANIX Yellow Brown CC(ダイスター社製);
DIANIX Rubine CC(ダイスター社製);
DIANIX Red ASC−E 01(ダイスター社製);
DIANIX Red CC(ダイスター社製);
DIANIX Red PAL(ダイスター社製);
DIANIX Blue PAL(ダイスター社製);
DIANIX Blue K−FBL(ダイスター社製);
DIANIX Blue ACE(ダイスター社製);
DIANIX Blue PLUS(ダイスター社製);
DIANIX Dark Blue S−LF(ダイスター社製);
TERATOP Red FN−R(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Yellow EL−F2G(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Red EL−FR(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Scarlet EL−F2G(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Blue EL−B(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Blue EL−FG(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Tuequoise EL−FG(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Black EL−FGL(チバスペシャルティケミカルズ社製);
KAYALON POLYESTER Scarlet 2R−E(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Blue B−SF conc(日本化薬(株)製);
KAYALON POLYESTER Blue T−S new(日本化薬(株)製);
SUMIKARON Yellow E−RPD(住化ケムテックス(株)製);
SUMIKARON Red E−RPD(住化ケムテックス(株)製);
SUMIKARON Blue E−RPD(住化ケムテックス(株)製);
SUMIKARON Yellow SE−RPD(住化ケムテックス(株)製);
SUMIKARON Red SE−RPD(住化ケムテックス(株)製);
SUMIKARON Blue SE−RPD(住化ケムテックス(株)製);
などの商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0038】
本発明に用いられ得る他の分散染料の例としては:
DIANIX Blue AM−SLR(ダイスター社製);
TERASIL Yellow SD(チバスペシャルティケミカルズ社製);
CIBACET Navy FL−R(チバスペシャルティケミカルズ社製);
MIKETON POLYESTER Yellow YL(ダイスター社製);
MIKETON POLYESTER Brown GF #700(ダイスター社製);
Amacron(アメリカンカラーアンドケミカル社製);
Calcosperse(アメリカンサイナミド社製);
DIANIX Yellow BrownDianix Fast(ダイスター社製);
DIANIX Light(ダイスター社製);
Eastman Polyester(イーストマンケミカルプロダクツ社製);
Foron、Genacron(クラリアント社製);
Hisperse(マエダ化成(株)製);
Interchem Polydye(インモント社製);
Intrasperse(ヨークシャージャパン(株)製);
Kiwalon(紀和化学工業(株)製);
Reform(エヌエスカラーテクノ(株)製);
Serilene(ヨークシャージャパン(株)製);
Terasil(チバスペシャルティケミカルズ社製);
のような商品名でなる分散染料が挙げられる。
【0039】
本発明に用いられる分散染料は、上述したような染料成分に加えて、他の成分が添加されたものであってもよい。より具体的には、得られる捺染物に紫外線減衰効果を付与する目的で、紫外線吸収剤が添加されていてもよい。このような紫外線吸収剤には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤などが包含される。
【0040】
上記紫外線吸収剤のより具体的な商品名の例としては、アスピライト BS(双龍(株)製);サンアップ LF(伸葉(株)製);サンガード T−40(センカ(株)製);サンライフ LP−200(日華化学(株)製);サンライフ LPSS−700(日華化学(株)製);サンライフ LPSS−800(日華化学(株)製);ユニガード E200N(第一工業製薬(株)製);Cibtex APS(チバスペシャルティケミカルズ社製);Cibtex LFN(チバスペシャルティケミカルズ社製);Cibtex LFN new(チバスペシャルティケミカルズ社製);Cibafast P(チバスペシャルティケミカルズ社製);Cibafast P new(チバスペシャルティケミカルズ社製);Sandolite LP new(クラリアント社製);などが挙げられる。上記分散染料の他の成分として添加される、このような紫外線吸収剤の添加量は特に限定されず、当業者によって適宜任意の添加量が選択され得る。
【0041】
なお、本発明においては、上記分散染料の他の成分として、紫外線吸収剤以外に、任意の割合の、増量剤、pH調整剤、分散均染剤、染色助剤、浸透剤(例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)などを含有していてもよい。
【0042】
以下、染料として分散染料を用いる場合について説明する。上記ポリ乳酸成形体上への分散染料の付与方法に特に制限はない。付与方法としては、印捺、塗布、配置など、織布、不織布などの繊維を含有する成形体などの染色に際して、当業者が通常行う方法が選択される。
【0043】
印捺により分散染料を付与する場合、まず、分散染料と糊剤とを混合分散させてなる色糊を調製し、この色糊をポリ乳酸成形体上に塗布あるいは配置することにより行われる。
【0044】
上記色糊を調製するにあたり、使用され得る糊剤に特に制限はなく、例えば捺染用糊剤が用いられる。捺染用糊剤の例としては、アルギン酸ソーダ、ローカストビーンガム、シラツ系ガム、デンプン、加工デンプン、CMC(カルボキシメチルセルロース)、メイプロガム、グアーガム、ブリティッシュガム、タマリンドガム類、水溶性アクリル共重合物、ガラクトマンナン、ポリサッカロイドなどが挙げられる。色糊の調製において、このような糊剤は単独または任意の割合で組合わせて使用することができる。色糊における糊剤の含有量は特に限定されないが、色糊の全体量を基準として、例えば、2質量%〜10質量%である。
【0045】
上記色糊は、分散染料の分解を防止する目的で、一般的には不揮発酸を含有させることにより、水溶液中で、弱酸性、例えばpH4〜6を示すように調製される。弱酸性に調製するために用いられる不揮発酸の例としては、1価の有機酸、2価の有機酸(例えば、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸またはそれらの組合わせ)が挙げられる。
【0046】
上記色糊はまた、必要に応じて、塩素酸ソーダ、ヨウ素酸カリウムなどの染料還元防止剤;および/またはエチレンオキサイド配合物、弱カチオン活性剤、ポリアルキレンポリオール配合品、多価アルコールエステル系活性剤のような濃染剤を任意の割合で含有していてもよい。
【0047】
印捺方法としては、連続的捺染、断続的捺染または局所的捺染などが挙げられる。捺染はいずれの方法で行われてもよい。印捺が連続的に行なわれる場合、例えば、ローラ捺染機、自動スクリーン捺染機、ロータリー捺染機などの手段が使用される。印捺が断続的または局所的に行われる場合、ハンド式スクリーン捺染機、半自動スクリーン捺染機などの手段が使用される。
【0048】
印捺を行わない場合、上記ポリ乳酸成形体上に分散染料を塗布または配置してもよい。この場合、色糊を調製する代わりに、分散染料を水性溶媒、有機溶媒などに分散または溶解させた染料液を調製する。そして、例えば、インクジェット方式、転写捺染、静電電子写真方式などの方法により、この染料液を直接、ポリ乳酸成形体上に塗布または配置する。このような方法により、ポリ乳酸成形体上への染料の付与が行われ、次いで、染着される。
【0049】
上記いずれかの手段または方法によって、分散染料が付与されたポリ乳酸成形体は、必要に応じて乾燥される。乾燥条件は、特に限定されないが、例えば、70℃〜100℃の温度で、2分間〜5分間行われる。この乾燥は、使用するポリ乳酸成形体の形態、分散染料の付与量(印捺量、塗布量、配置量)、乾燥機の配置、生産効率などの諸条件を考慮して、ポリ乳酸成形体自体の物性を損なわない範囲で適宜自由に変更され得る。
【0050】
次いで、ポリ乳酸成形体への分散染料の染着が常圧かつ過熱蒸気雰囲気下にて、所定の温度を付与することにより行われ、ポリ乳酸捺染物が得られる。
【0051】
上記染着の工程は、いわゆるHTスチーム法の条件下にて行われる。ただし、従来のポリエステル繊維をHTスチーム下で捺染する際の条件とは全く異なる条件が採用される。すなわち、本発明においては、常圧に保たれ(例えば、開放系の)、かつ過熱蒸気雰囲気下にあるハウジング(例えば、連続過熱蒸熱機)内で、上記分散染料が付与され、必要に応じて乾燥されたポリ乳酸成形体を一般には105℃から140℃、一つの実施形態では110℃〜140℃、別の実施形態では120℃〜130℃の温度に曝すことにより、当該染着が行われる。ここで、曝される温度が105℃を下回ると、ポリ乳酸成形体に分散染料を充分に染着させることができず、発色性に劣る場合がある。他方、曝される温度が140℃を上回ると、ポリ乳酸成形体の主成分であるポリ乳酸自体が硬化する場合がある。またさらに、高い温度を用いるとポリ乳酸自体が溶融するだけではなく、使用する分散染料が気化拡散してハウジング内に拡散し、機内汚染を引き起こす;などの問題を発生させる恐れがある。
【0052】
従来のポリエステル繊維に用いられるHTスチーム法における捺染では、170℃〜180℃の温度が採用されている。そして、170℃を下回る温度では、使用する分散染料を充分に気化させることができず、満足し得る捺染物を得られないことが知られている。これに対し、本発明の方法においては、このような分散染料の気化拡散を敢えて生じさせることなく、全く異なる機構によって、ポリ乳酸成形体に分散染料を染着させる。より具体的には、本発明に用いられる105℃〜140℃という比較的マイルドな温度条件によって、ポリ乳酸成形体自体の損傷を防止する一方で、ポリ乳酸成形体上に付与された分散染料が、接触拡散によってポリ乳酸成形体に染着するものと考えられる。さらに、本発明における染着工程は、170℃未満の過熱蒸気雰囲気下で行われるため、ポリ乳酸成形体および分散染料の周辺には、従来のポリエステル繊維に用いられる170℃以上のHTスチーム法における捺染条件に比べより多くの水分が存在することとなる。このため、接触拡散だけでなく、分散染料の一部はこの水分に溶解し、溶解拡散を通じて両者が相乗的に機能して、ポリ乳酸成形体に染着させているものと考えられる。
【0053】
なお、上記染着工程に用いられる過熱蒸気雰囲気とは、105℃〜140℃に加熱されたハウジング(例えば、連続過熱蒸熱機)内において、湿球温度が、90℃〜100℃を示す条件をいう。また、この過熱蒸気雰囲気を達成するためにハウジング内に供給される加圧水蒸気の温度は、例えば、105℃〜140℃、あるいは125℃〜135℃である。本発明の一つの実施形態においては、ハウジングの温度よりも供給する加圧水蒸気の温度が低く設定されている。すなわち、供給された加圧蒸気は、ハウジング内で加熱され、分散染料が付与されたポリ乳酸成形体を染着処理する温度に調節される。
【0054】
さらに、本発明においては、上記染着工程における時間を調整することにより、得られる捺染物の風合い(例えば、ポリ乳酸が本来有する適切な柔軟性と強靭性)を維持することができ、かつ脆弱化(例えば、強度劣化)あるいは過度の収縮による硬化を防止することができる。上記染着工程が行われる時間(染着時間)は、一般的には4分間〜20分間であり、一つの実施形態では4分間〜16分間であり、他の実施形態では、4分間〜8分間である。
【0055】
上記分散染料を付与したポリ乳酸成形体を連続的にハウジング内を通過させるように構成し、かつ通過時間を上記染着時間となるように調整することにより、通過時間内に染料がポリ乳酸成形体に染着し、連続的にポリ乳酸捺染物が製造される。
【0056】
なお、上記染着工程において、ポリ乳酸成形体は収縮する場合がある。すなわち、得られるポリ乳酸捺染物は、染着前のポリ乳酸成形体に比べて、収縮する場合がある。この収縮の割合(収縮率)については後述するが、収縮率はある一定の範囲内にあることが好ましい。本発明においては、収縮率は10%以下であり、一つの実施形態では収縮率が8%以内となるように、上記染着工程が行われる。このような収縮率の範囲内で上記染着工程を行うことにより、得られるポリ乳酸捺染物は、それ自体が脆弱化(例えば、強度劣化)または硬化するという問題が発生する恐れを回避し得る。
【0057】
上記染着工程を経て得られたポリ乳酸捺染物は、その後、必要に応じて水洗され、捺染物に残存する色糊が膨潤除去される。さらに、この捺染物を、還元剤と還元補助剤とを含有する溶液で還元洗浄することにより、捺染物表面に付着した未固着の分散染料が分解かつ除去される。このような還元洗浄に用いられる還元剤の例としては、ハイドロサルファイトが挙げられる。ハイドロサルファイトは、例えば、1g/L〜3g/Lの濃度に調製されて使用され得る。また、このような還元洗浄に用いられる還元補助剤の例としては、アルカリ(より具体的な例としては、ソーダ灰)が挙げられ、少量(例えば、0.5g/L〜3g/L)の濃度に調製されて使用され得る。還元洗浄に使用する上記溶液には、洗浄効果を向上させる目的で、任意の割合のノニオン系界面活性剤が含有されていてもよい。上記還元洗浄は、特に限定されないが、例えば、50℃〜70℃の温度下にて10分間〜20分間かけて行われる。
【0058】
還元洗浄後、ポリ乳酸捺染物は、必要に応じてさらに水洗が施され、当該捺染物に残存する染料分解物、残留還元剤および残留還元補助剤が除去される。その後、乾燥を行ってもよい。
【0059】
このようにして、優れた発色再現性とともに、ポリ乳酸が本来有する適切な柔軟性と強靭性を実質的に保持したポリ乳酸捺染物を、連続的かつ効率良く製造することができる。なお、本発明により得られたポリ乳酸捺染物は、必要に応じて、仕上げ加工として帯電防止剤、吸汗剤、撥水剤、撥油剤、防汚剤、抗菌剤、消臭剤などが当業者に周知の方法を用いて付与される。あるいは、得られたポリ乳酸捺染物の寸法を一定化する目的で、幅出し加工、防縮加工などのヒートセット、スチームセットが施されてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は制限されるものではない。
【0061】
(実施例1)
実施例1は、3質量%の配合ブラック染料を含有する色糊を用いて、ポリ乳酸捺染物を製造した例である。
【0062】
<調製例1:色糊(1)の処方>
表1に記載の割合で分散染料および分散剤を含む配合ブラック染料100質量部を処方した。
【0063】
【表1】

【0064】
他方で、エーテル化デンプン(日華化学(株)製Nicca Gum 3A)5質量部と、CMC(日華化学(株)製Nicca Gum C−10)2質量部と、ガラクトマンナン(Meyhall社製Meypro Gum NP)2質量部と、アルギン酸ソーダ(富士化学(株)製スノーアルギンT−M)1質量部とを混合し、これに水を添加して100質量部とした元糊を処方した。
【0065】
次いで、上記で処方した配合ブラック染料3gおよび元糊60gと、pH調整のための酒石酸3gとを混合し、全量が100gとなるように水を添加して、配合ブラック染料を3質量%の割合で含有する色糊(1)を得た。
【0066】
<作製例1:印染パイルニット(1−1)の作製>
調製例1で得られた色糊(1)を、試験室用自動捺染機(辻井染機工業(株)製Model No.SP−300AR)を用いて、圧力4.5、スピード2、マグネチック・ローラ直径9mmの条件で、150メッシュの紗に通して、ポリ乳酸繊維100%のパイルニット(目付け400g/m)(以下、パイルニット(1)ということがある)に印捺した。次に、印捺されたパイルニットを、試験室用乾熱固着機(辻井染機工業(株)製Model No.PT−2A−300)を用い、無緊張下にて90℃で3分間乾燥することにより、印捺パイルニット(1−1)を得た。なお、後述の収縮率を評価する目的で、この印捺パイルユニット(1−1)の印捺部分の適切な2点に印を入れ、その2点の間の長さP(cm)を計測した。
【0067】
<実施例1-1:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)について、DH型高温常圧蒸熱機(Mathis社製)を使用し、湿球温度100℃の条件下にて機内に過熱蒸気を導入しながら、110℃の温度で8分間、蒸熱処理を行った。次いで、このパイルニットの印捺部を、冷水でオーバーフロー水洗(2分間)し、余分な色糊を充分に除去した。このパイルニットを、1.5g/Lのソーダ灰、2g/Lのハイドロサルファイトおよび1g/LのリポトールPE(日華化学(株)製ノニオン性洗浄剤)を含有する浴中に浸漬し、60℃にて10分間還元清浄を行った。その後、得られたパイルニットを、付着残渣を除去するためにさらに水洗し、室温にて乾燥して、ポリ乳酸捺染物Aを得た。
【0068】
<実施例1-2:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を110℃の温度で16分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Bを得た。
【0069】
<実施例1-3:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を120℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Cを得た。
【0070】
<実施例1-4:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を120℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Dを得た。
【0071】
<実施例1-5:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を120℃の温度で16分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Eを得た。
【0072】
<実施例1-6:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を130℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Fを得た。
【0073】
<実施例1-7:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を130℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Gを得た。
【0074】
<実施例1-8:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を140℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Hを得た。
【0075】
<実施例1-9:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を140℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Iを得た。
【0076】
<比較例1-1:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を150℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物aを得た。
【0077】
<比較例1-2:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)の蒸熱処理を150℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例1-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物bを得た。
【0078】
<比較例1-3:HPスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例1で得られた印捺パイルニット(1−1)について、高圧蒸熱機(辻井染機工業(株)を使用し、飽和蒸気の封入下、110℃の温度で30分間、高圧蒸熱処理を行った。得られたパイルニットについて、実施例1-1と同様の還元清浄、水洗および乾燥を行って、ポリ乳酸捺染物cを得た。
【0079】
<比較例1-4:浸染染色によるポリ乳酸浸染物の製造>
調製例1(表1)で処方した配合ブラック染料0.15gに、染色助剤として0.1gのニッカサンソルト7000(日華化学(株)製アニオン分散剤)、およびpHを4.0〜4.5の範囲に保持するための0.03mlの8%酢酸を添加し、水で総量を100mlとして染色液を作成した。この染色液に、パイルニット(1)5gを浸漬し、110℃の温度で30分間加熱し、得られたパイルニットを水洗した。このパイルニットを、1.5g/Lのソーダ灰、2g/Lのハイドロサルファイトおよび1g/LのリポトールPE(日華化学(株)製ノニオン性洗浄剤)を含有する浴中に浸漬し、60℃にて10分間還元清浄を行った。その後、得られたパイルニットを、付着残渣を除去するためにさらに水洗し、室温にて乾燥して、ポリ乳酸浸染物dを得た。
【0080】
(実施例2)
実施例2は、6質量%の配合ブラック染料を含有する色糊を用いて、ポリ乳酸捺染物を製造した例である。
【0081】
<調製例2:色糊(2)の処方>
調整例1で処方した配合ブラック染料6gおよび元糊60gと、pH調整のための酒石酸3gとを混合し、全量が100gとなるように水を添加したこと以外は、調製例1と同様にして、配合ブラック染料を6質量%の割合で含有する色糊(2)を得た。
【0082】
<作製例2:印捺パイルニット(1−2)の作製>
調製例1で得られた色糊(1)の代わりに、調製例2で得られた色糊(2)を用いたこと以外は、上記作製例1と同様にして、パイルニット(1)に印捺および乾燥を施した印捺パイルニット(1−2)を得た。
【0083】
<実施例2-1:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)について、DH型高温常圧蒸熱機(Mathis社製)を使用し、湿球温度100℃の条件下にて機内に過熱蒸気を導入しながら、110℃の温度で8分間、蒸熱処理を行った。次いで、このパイルニットの印捺部を、冷水でオーバーフロー水洗(2分間)し、余分な色糊を充分に除去した。このパイルニットを、1.5g/Lのソーダ灰、2g/Lのハイドロサルファイトおよび1g/LのリポトールPE(日華化学(株)製ノニオン性洗浄剤)を含有する浴中に浸漬し、60℃にて10分間還元清浄を行った。その後、得られたパイルニットを、付着残渣を除去するためにさらに水洗し、室温にて乾燥して、ポリ乳酸捺染物Jを得た。
【0084】
<実施例2-2:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を110℃の温度で16分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Kを得た。
【0085】
<実施例2-3:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を120℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Lを得た。
【0086】
<実施例2-4:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を120℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Mを得た。
【0087】
<実施例2-5:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を120℃の温度で16分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Nを得た。
【0088】
<実施例2-6:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を130℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Oを得た。
【0089】
<実施例2-7:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を130℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Pを得た。
【0090】
<実施例2-8:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を140℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Qを得た。
【0091】
<実施例2-9:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を140℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物Rを得た。
【0092】
<比較例2-1:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を150℃の温度で4分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物eを得た。
【0093】
<比較例2-2:HTスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)の蒸熱処理を150℃の温度で8分間行ったこと以外は実施例2-1と同様にして、ポリ乳酸捺染物fを得た。
【0094】
<比較例2-3:HPスチーム法によるポリ乳酸捺染物の製造>
作製例2で得られた印捺パイルニット(1−2)について、高圧蒸熱機(辻井染機工業(株)を使用し、飽和蒸気の封入下、110℃の温度で30分間、高圧蒸熱処理を行った。得られたパイルニットについて、実施例2-1と同様の還元清浄、水洗および乾燥を行って、ポリ乳酸捺染物gを得た。
【0095】
<比較例2-4:浸染染色によるポリ乳酸浸染物の製造>
調製例1(表1)で処方した配合ブラック染料0.3gに、染色助剤として0.1gのニッカサンソルト7000(日華化学(株)製アニオン分散剤)、およびpHを4.0〜4.5の範囲に保持するための0.03mlの8%酢酸を添加し、水で総量を100mlとして染色液を作成した。この染色液に、パイルニット(1)(材料A)5gを浸漬し、110℃の温度で30分間加熱し、得られたパイルニットを水洗した。このパイルニットを、1.5g/Lのソーダ灰、2g/Lのハイドロサルファイトおよび1g/LのリポトールPE(日華化学(株)製ノニオン性洗浄剤)を含有する浴中に浸漬し、60℃にて10分間還元清浄を行った。その後、得られたパイルニットを、付着残渣を除去するためにさらに水洗し、室温にて乾燥して、ポリ乳酸浸染物hを得た。
【0096】
(実施例3:捺染物の評価)
上記実施例1および2で得られたポリ乳酸捺染物A〜R、比較例1-1〜1-3および比較例2-1〜2-3で得られたポリ乳酸捺染物a〜cおよびe〜g、ならびに比較例1-4および2-4で得られたポリ乳酸浸染物dおよびhについて、以下の評価を行った。
【0097】
<実施例3-1 評価項目および評価方法>
捺染物の評価項目および評価方法は、以下の通りである。
【0098】
(評価1:染料染着性(染着濃度))
各捺染物の印捺部分または浸染部分の光学反射率をMachbeth社製COLOR−EYE 7000により測定し、K/S合計値を求めた。K/S合計値が高い方ほど、分散染料の染着率が高い(よく染着されている)ことを示す。
【0099】
(評価2:捺染物の色差)
各捺染物の印捺部分を、自然光に近いとされるD65光源下の2度視野におけるCIE Lab.計算値を求め、この計算値と基準の捺染物の計算値との差異を求めて、染色の程度を評価した。色差が大きいほど、基準の捺染物と比べて、染色の程度が劣る。
【0100】
(評価3:捺染物の湿潤堅牢度)
各捺染物について、JIS0846−1996 水試験によるナイロンおよび綿添布への汚染試験を行った。汚染試験後のナイロン添布および綿添布を、JIS L0805汚染用グレースケールで評価した。このグレースケールは1級〜5級に分類されている。本明細書においては、ナイロン添布および綿添布を汚染することなく洗浄が可能である4級以上の場合、湿潤堅牢度が高い(ポリ乳酸成形体に対し分散染料が充分に染着している)と評価した。
【0101】
(評価4:収縮率)
各捺染物の収縮率は、以下の式(1)により求めた。
【0102】
【数1】

【0103】
式(1)において、Pは、印捺パイルニットの印捺部分内に定めた適切な2点XおよびY間の距離(cm)であり、P’は、蒸熱処理後または高圧蒸熱処理後の捺染物における上記2点XおよびY間の距離(cm)である。収縮率は小さい方が良好である。
【0104】
(評価5:風合いの変化)
風合いの変化は、各捺染物を、繊維加工分野における専門家5名の触診判断により、評価した。捺染工程前の原布(ポリ乳酸繊維100%のパイルニット(1)(目付け400g/m)の触感を級数5とし、一番蒸熱条件が厳しく、硬化程度の大きい150℃、8分の蒸熱条件で得られた捺染布の触感を級数1とした。そして、級数5と級数1との中間の触感を級数3、更に、級数1と3の間の触感を級数2、級数3と5の間の触感を級数4とした。各捺染物における合計値の平均値を算出し、小数点以下第一位を四捨五入した整数で表した。級数が大きいほど、良好な触感である。
【0105】
(評価6:ポリ乳酸成形体の強度変化)
染着工程におけるポリ乳酸成形体の強度変化は、ポリ乳酸繊維100%のタフタ織物(目付け65g/m)を用いて評価した。捺染前および捺染後のタフタ織物を、JISL1096 エレメンドルフ形引き裂き試験を行って、強度変化を測定した。
【0106】
<実施例3-2 ポリ乳酸成形体の評価>
(1)染料染着性
実施例1および比較例1-1〜1-4で得られた各捺染物のK/S合計値を表2に、実施例2および比較例2-1〜2-4で得られたK/S合計値を表3に、それぞれ示す。
【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
上記データについて、以下の式(2)および(2’):
【0110】
【数2】

【0111】
に基づいて、K/S合計指数値(%)を求めた。このK/S合計指数値(%)は、実施例1については捺染物c(比較例1-3:HPスチーム法)のK/S合計値を100%とし、実施例2については捺染物f(比較例2-2:HPスチーム法)のK/S合計値を100%とした場合の、それぞれの捺染物の染色の程度を表す数値である(小数点以下第一位を四捨五入)。結果を表4および表5に示す。
【0112】
【表4】

【0113】
【表5】

【0114】
上記表2および表3(表4および表5)のそれぞれに示されるように、HTスチーム法を用いて得られたポリ乳酸捺染物のK/S合計値は、蒸熱処理の際に付与した温度と相関関係を有していた。本実施例または比較例で使用した温度の範囲においては、温度上昇とともに、K/S合計値も上昇し、ポリ乳酸成形体に対する分散染料の染着率が向上することがわかる。特に、130℃までの温度上昇においては、この染着率の変化が大きい。他方、表2および表3(表4および表5)に記載された蒸熱温度および処理時間が同条件である場合の結果を比較すると、120℃以下の付与温度では、高濃度の配合ブラック染料の染着率は、処理時間を長く設定するほど高くなる傾向にある。
【0115】
本発明の方法を用いて得られたポリ乳酸捺染物A〜R(実施例1-1〜1-9、2-1〜2-9)と、HPスチーム法を用いて得られた捺染物cおよびg(比較例1-3または2-3)とを比較すると、上記表2および表3(表4および表5)に示されるように、本発明の方法を用いて得られたポリ乳酸捺染物は、いずれも染着性が著しく劣るものではなく、むしろHPスチーム法の捺染物により近い染着性を示していることがわかる。特に、使用した分散染料の濃度を高め、かつ蒸熱処理の際に付与する温度を向上させるほど、その染着性が近似する傾向にある。従って、本発明のHTスチーム法を用いれば、HPスチーム法よりも生産効率が高く、かつ、同等又はそれ以上の染着率で、ポリ乳酸成形体の捺染ができることが明かになった。
【0116】
また、表4および5からわかるように、本発明の方法を用いて得られた捺染物A〜R(実施例1-1〜1-9、2-1〜2-9)と、浸染染色して得られた浸染物dおよびh(比較例1-4および2-4)とを比較すると、本発明の方法を用いて得られたポリ乳酸捺染物は、浸染物とより近似したK/S合計指数値を示している。特に、本発明のHTスチーム法による捺染において、温度を高くするほど、ポリ乳酸成形体に対する染着性は、浸染処理による染着性よりも優れていることがわかる。
【0117】
(2)捺染物の色差
各捺染物の印捺部分について、D65光源下の2度視野におけるCIE Lab.計算値を求め、実施例1で得られた捺染物については、捺染物F(実施例1-6:130℃、4分処理)を基準として、および実施例2については、捺染物O(2-6:130℃、4分処理)を基準として、色差を求めた。結果を表6および表7に示す。
【0118】
【表6】

【0119】
【表7】

【0120】
表6および表7に示されように、本発明の方法を用いて得られた各ポリ乳酸捺染物(実施例1-3〜1-9および2-3〜2-9)の色差はいずれも小さく、使用した分散染料の色(黒色)および濃度を考慮すれば、分散染料は、ほぼ同等にポリ乳酸成形体に染着され、処理条件によって、顕著な差異が生じていなかったことがわかる。
【0121】
(3)捺染物の湿潤堅牢度
ポリ乳酸捺染物MおよびN(それぞれ、実施例2-4および実施例2-5)について、JIS L0846−1996による水試験を行い、湿潤堅牢度を評価した。この試験で得られたナイロン添布および綿添布のJIS L0805汚染用グレースケールで評価したところ、いずれも5級であった。本発明により得られたポリ乳酸捺染物は充分良好な洗浄が可能であり、ポリ乳酸成形体に対し分散染料が充分に染着していたことがわかった。
【0122】
(4)収縮率
ポリ乳酸捺染物A〜I(実施例1-1〜1-9)およびポリ乳酸捺染物a〜c(比較例1-1〜1-3)の収縮率(%)を、上記式(1)に基づいて算出した(小数点以下第1位を四捨五入)。結果を表8に示す。
【0123】
【表8】

【0124】
表8に示されるように、本発明の方法により得られた捺染物A〜Iはいずれも、比較例1および2の捺染物aおよびbと比較して、収縮率が小さく、寸法安定性に優れていることがわかる。さらに、捺染物A〜Iは、従来のHPスチーム法を用いて得られた比較例1-3の捺染物cと比較して、同等またはそれ以下の収縮に留まっていたことがわかる。
【0125】
(5)風合い
実施例1で得られたポリ乳酸捺染物A〜Iおよび比較例1-1〜1-3で得られた捺染物a〜cについて、風合いを評価した。結果を表9に示す。
【0126】
【表9】

【0127】
表9に示すように、本発明の方法を用いて得られたポリ乳酸捺染物A〜Iは、いずれも充分な風合いを有しており、特に蒸熱処理に付与した温度が低いほど、原布の風合いに近似していたことがわかる。
【0128】
(6)染着工程における強度変化
本発明の方法において、染着工程におけるポリ乳酸成形体の強度変化を検討した。ポリ乳酸繊維100%でなるタフタ織物(目付け65g/m)でなる2つの生地を準備した。一方の生地について、印捺および乾燥工程を行うことなく、実施例1と同じ条件で蒸熱処理を行い、室温にて乾燥させたタフタ織物(蒸熱処理タフタ織物)を調製した。未処理のタフタ織物および蒸熱処理タフタ織物の引き裂き強度を、JIS L1096エレメンドルフ形引き裂き試験により測定し、以下の式(3)により、強度低下率(%)を求めた。
【0129】
【数3】

【0130】
式(3)において、Sは未処理のタフタ織物の引き裂き強度、S’は蒸熱処理タフタ織物の引き裂き強度を示す。結果を表10に示す。
【0131】
【表10】

【0132】
表10に示すように、本発明に用いられる蒸熱処理条件では、ポリ乳酸成形体の強度低下は比較的小さく、ポリ乳酸捺染物が実用的な強度を有し得ることがわかる。よって、本発明の方法により得られたポリ乳酸捺染物は、上記染着性、湿潤堅牢度、収縮率および風合いの各評価とともに、蒸熱処理による著しい強度低下も回避されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、ポリ乳酸成形体に対し、優れた発色再現性をもって任意の柄、色相に捺染することができるとともに、ポリ乳酸が本来有する適切な柔軟性と強靭性を、捺染後においても実質的に保持したポリ乳酸捺染物を連続的かつ効率良く製造することができる。本発明は、例えば、繊維加工分野、フィルム加工分野、シート加工分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸成形体上に染料を付与する工程;および
該染料を、常圧かつ過熱蒸気雰囲気下において、105℃から140℃の温度で、ポリ乳酸成形体に染着させる工程;
を包含する、ポリ乳酸捺染物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリ乳酸成形体の長さを基準とする前記ポリ乳酸捺染物の収縮率が10%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記染着が4分から20分間行われる、請求項1または2に記載の方法。

【公開番号】特開2006−28723(P2006−28723A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55952(P2005−55952)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000214272)長瀬産業株式会社 (137)
【出願人】(501072016)長瀬カラーケミカル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】