説明

ポリ乳酸系フィルムまたはシート

【課題】耐熱性が改善されたポリ乳酸系フィルムまたはシートの提供。
【解決手段】ポリ乳酸を含む樹脂組成物を溶融成膜法により成膜するフィルムまたはシートであって、樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)と、酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)をそれぞれ含んでなり、溶融成膜時の樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であるか、または溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃で温度制御化能な工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、フィルムまたはシートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温でも成膜フィルム形状を保持できる耐熱性が改善されたポリ乳酸系フィルムまたはシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸は植物由来のバイオマスポリマーであり、石油由来のポリマーに替わる樹脂として注目されている。
しかし、ポリ乳酸(本発明では光学異性体のL体を主成分としたポリL乳酸のことを言う)は、結晶性ポリマーであるが非常に結晶化速度が遅いため、通常の成膜条件である溶融フィルム化後に冷却ロールでニップする方法では、ほとんど結晶化しない。
そこで従来、以下のようないくつかの方法によるポリ乳酸系フィルムの耐熱性改善が試みられている。
【0003】
例えば、溶融押出法等でシート化した後に、二軸延伸することで延伸配向結晶化させ、ポリ乳酸のフィルム化の耐熱性を発現している(特許文献1)。
しかし、この方法では延伸時の内部残留応力があるため、使用温度が高くなると熱収縮が非常に大きくなるという欠点がある。そのため、実際に使用できる温度はせいぜい100℃程度までとなってしまう。
【0004】
また、ポリ乳酸に他の高融点材料をブレンドすることで耐熱性を発現する試みがなされている(特許文献2)。
しかし、この方法では植物由来成分比率(バイオマス度)の低下、透明性の低下等の問題が生じてしまう。
【0005】
成形材料の分野では、結晶核剤等の添加により、結晶成長速度を速くすることで、金型温度を低く、短時間で成形するという試みが盛んであるが、フィルム成形の場合は、一般的にはフィルムの形状を保持するため溶融成膜後に直ぐにガラス転移温度以下まで冷却を行う。そのため、成形部品に比べフィルムは薄いこともあり、この冷却方法では冷却速度が速くなってしまうため、有用な核剤を添加してもほとんど効果が得られない。
当該問題について、フィルム成形後の後の工程で、60〜100℃に加熱工程を設けることで、結晶化を促進することが提案されている(特許文献3)。なお、当該温度範囲はポリ乳酸の金属ロールからの剥離不良による成膜フィルムの変形を抑制するためとも記載されている。
しかし、この方法では一度冷却固化してから、再度、加熱するため非効率である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第330712号公報
【特許文献2】特開平11−116788号公報
【特許文献3】特開2007−130894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のポリ乳酸系フィルムでは、ポリ乳酸のガラス転移温度(およそ60℃)以上の環境下では熱変形を起こし、もとの形状を維持できない場合や、透明性のものであれば、再結晶化に伴う白化現象を引き起こす問題があった。また、ポリ乳酸系フィルムを基材とし、これに粘着剤を塗布してなる粘着テープでは、例えば溶剤系または水系の粘着剤を塗布する場合、100〜150℃程度のオーブンに通し、粘着剤を固形分のみとすることで粘着テープを得るため、乾燥過程でのフィルムの変形や、融解の恐れがある。そのため、粘着剤を別に作製して、フィルムに転写させて得る手法でしか、粘着テープを作製することができず、製品構成の自由度が小さくなる等の多くの問題点を有していた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者等は、上記の課題を解消するべく鋭意研究した結果、酸性官能基変性オレフィン系ポリマーをポリ乳酸に添加することでガラス転移温度以上(さらに言えば融点以上の溶融状態)でもロールからの剥離が容易であること、テトラフルオロエチレン系ポリマーをポリ乳酸に添加することで溶融張力を改善でき100℃以上(さらに言えば融点付近の温度)でも十分に成膜フィルム形状を保持可能となること、テトラフルオロエチレン系ポリマーがポリ乳酸の結晶促進に寄与していること、さらに成膜直後の工程で樹脂混和物の結晶化温度に設定することで、より効果的にポリ乳酸の結晶化を促進できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
〔1〕溶融成膜法を用いてポリ乳酸を含む樹脂組成物のフィルムまたはシートを製造する方法であって、樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)と、酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を含んでなり、溶融成膜工程における樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であるか、または、溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、フィルムまたはシートの製造方法。
〔2〕溶融成膜工程における樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であり、かつ、溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、上記〔1〕記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔3〕ポリ乳酸(A)100重量部に対し、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)を0.1〜5.0重量部含んでなることを特徴とする、上記〔1〕または〔2〕のいずれかに記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔4〕ポリ乳酸(A)100重量部に対し、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を0.1〜10.0重量部含んでなることを特徴とする、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔5〕溶融成膜法が、最終的に溶融状態の樹脂組成物が二本の金属ロール間空隙を通過することで所望の厚さに成膜する手法である、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔6〕溶融成膜法がカレンダー成膜法であることを特徴とする、上記〔5〕に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔7〕ポリ乳酸を含む樹脂組成物をカレンダー成膜法により成膜するフィルムまたはシートであって、樹脂組成物は、ポリ乳酸(A)100重量部と、酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)0.1〜5.0重量部と、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)0.1〜10.0重量部をそれぞれ含んでなり、カレンダー成膜法におけるカレンダーロール圧延時の樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であるか、または溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、フィルムまたはシートの製造方法。
〔8〕カレンダー成膜法におけるカレンダーロール圧延時の樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であり、かつ、溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、
上記〔7〕記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔9〕酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの酸性官能基が酸無水物である、上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔10〕ポリ乳酸(A)100重量部に対し、さらに結晶促進剤(D)0.1〜5.0重量部を含んでなる、上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔11〕樹脂組成物の前記結晶化促進工程が金属ロールによるものであることを特徴とする、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載のフィルムまたはシートの製造方法。
〔12〕ポリ乳酸を含むフィルムまたはシートであって、ポリ乳酸(A)と、酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を含んでなる樹脂組成物からなり、JISC3005の加熱変形試験方法に準じて、150℃の雰囲気下で10N、30分間の荷重を加えたときの変化率が、40%以下であり、下記式(1)
相対結晶化率(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (1)
(式中、ΔHcは成膜後のフィルムサンプルの昇温過程での結晶化に伴う発熱ピークの熱量であり、ΔHmは融解に伴う熱量を示す)
で求められる相対結晶化率が50%以上であることを特徴とする、フィルムまたはシート。
〔13〕ポリ乳酸を含むフィルムまたはシートであって、ポリ乳酸(A)と、酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)と、を含んでなる樹脂組成物からなり、150℃の温度雰囲気下で10分間保存した時の下記式(2)
加熱収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100 (2)
(式中、L1は試験前の標線長さ、L2は試験後の標線長さを示す)
で求められる加熱収縮率が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに5%以下であることを特徴とする、上記〔12〕記載のフィルムまたはシート。
〔14〕ポリ乳酸(A)100重量部に対し、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)を0.1〜5.0重量部含んでなることを特徴とする、上記〔12〕または〔13〕のいずれかに記載のフィルムまたはシート。
〔15〕ポリ乳酸(A)100重量部に対し、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を0.1〜10.0重量部含んでなることを特徴とする、上記〔12〕〜〔14〕のいずれかに記載のフィルムまたはシート。
〔16〕酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの酸性官能基が酸無水物である、上記〔12〕〜〔15〕のいずれかに記載のフィルムまたはシート。
〔17〕ポリ乳酸(A)100重量部に対し、さらに結晶促進剤(D)0.1〜5.0重量部を含んでなる、上記〔12〕〜〔16〕のいずれかに記載のフィルムまたはシート。
【発明の効果】
【0009】
耐熱性が改善されたポリ乳酸系フィルムまたはシートの提供。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はカレンダー成膜機の模式図である。
【図2】図2はポリッシング成膜機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系フィルムまたはシートは、(A)ポリ乳酸、(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーおよび(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーを配合したものを成膜し、製造する。フィルムまたはシートとは、プラスチックフィルムのことをいい、厚さは、通常10〜500μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは30〜300μmである。
【0012】
ポリ乳酸の原料モノマーである乳酸は、不斉炭素原子を有するため、光学異性体のL体とD体が存在する。本発明で使用する(A)ポリ乳酸は、L体の乳酸を主成分とした重合物である。製造時に不純物として混入するD体の乳酸の含有量が少ないものほど、高結晶性で高融点の重合物となるため、できるだけL体純度の高いものを用いるのが好ましく、より好ましくはL体純度が95%以上のものを用いる。なお、使用するポリ乳酸は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えばレイシアH−400(三井化学(株)製)等が挙げられる。
【0013】
本発明で使用する(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、主に(A)ポリ乳酸のロール滑性を得るために添加する。酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシル誘導体基等が挙げられ、カルボキシル誘導体基とは、カルボキシル基から化学的に誘導されるものであって、例えば、エステル基、アミド基、イミド基およびシアノ基等が挙げられる。
【0014】
(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、例えば、未変性ポリオレフィン系重合体に、酸性官能基含有不飽和化合物をグラフトして得られる。
未変性ポリオレフィン系重合体としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、プロピレン重合体、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレンとα−オレフィンの共重合体、プロピレンとα−オレフィンの共重合体等のポリオレフィン類またはそのオリゴマー類、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、低結晶性エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリプロピレンとエチレン−プロピレンゴムのブレンド等のポリオレフィン系エラストマー類およびこれらの二種以上の混和物が挙げられる。好ましくはプロピレン共重合体、プロピレンとα−オレフィンの共重合体、低密度ポリエチレンおよびそれらのオリゴマー類であり、特に好ましくはプロピレン重合体、プロピレンとα−オレフィンの共重合体およびそれらのオリゴマー類である。なお、オリゴマー類は、熱分解による分子量減成法、あるいは重合法により得られるものが挙げられる。
【0015】
酸性官能基含有不飽和化合物としては、カルボキシル基含有不飽和化合物、カルボキシル誘導体基含有不飽和化合物等が挙げられ、カルボキシル基含有不飽和化合物としては、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸、クロロ(無水)イタコン酸、クロロ(無水)マレイン酸、(無水)シトラコン酸、および(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また、カルボキシル誘導体基含有不飽和化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、マレイミドおよび(メタ)アクリロニトリル等のビニルシアニドが挙げられる。好ましくは、カルボキシル基含有不飽和化合物であり、より好ましくは酸無水物基含有不飽和化合物であり、最も好ましくは無水マレイン酸である。
【0016】
(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量が10,000〜80,000であることが重要であり、好ましくは15,000〜70,000、より好ましくは20,000〜60,000である。10,000未満では成形後のブリードアウトの原因となり、80,000を超えるとロール混練中にポリ乳酸と分離してしまう。なお、ブリードアウトとはフィルム成形後に時間経過により低分子量成分がフィルム表面に出てくる現象をいう。
【0017】
(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、酸価が10〜70mgKOH/gであるのが好ましく、20〜60mgKOH/gがより好ましい。10mgKOH/g未満ではロール剥離効果が得られず、70mgKOH/gを超えるとロールへのプレートアウトを引き起こす。本発明でいうプレートアウトとは、金属ロールを用いて樹脂組成物を溶融成膜する際に、金属ロールの表面に樹脂組成物に配合される成分又はその酸化、分解、化合、劣化した生成物等が付着もしくは堆積することをいう。本発明において、酸価はJIS K0070−1992の中和滴定法に準拠して測定した。
【0018】
(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、酸性官能基含有不飽和化合物と未変性ポリオレフィン系重合体とを有機過酸化物の存在下で反応させることによって得られる。有機過酸化物としては、一般にラジカル重合において開始剤として用いられているものが使用できる。反応は、溶液法、溶融法のいずれの方法も用いることができる。溶液法では、未変性ポリオレフィン系重合体および酸性官能基含有不飽和化合物の混合物を有機過酸化物とともに有機溶媒に溶解し、加熱することにより得ることができる。反応温度は好ましくは110〜170℃程度である。また、溶融法では未変性ポリオレフィン系重合体および酸性官能基含有不飽和化合物の混合物を有機過酸化物と混合し、溶融混合して反応させることによって得ることができる。溶融混合は、押し出し機、プラベンダー、ニーダーおよびバンバリーミキサー等の各種混合機で行うことができ、混練温度は通常、未変性ポリオレフィン系重合体の融点〜300℃の温度範囲である。
【0019】
(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、市販品を用いることができ、例えば、三洋化成工業(株)製の「ユーメックス1010」(無水マレイン酸基含有変性ポリプロピレン、酸価:52mgKOH/g、重量平均分子量:32,000、変性割合:10重量%)、「ユーメックス1001」(無水マレイン酸基含有変性ポリプロピレン、酸価:26mgKOH/g、重量平均分子量:49,000、変性割合:5重量%)、「ユーメックス2000」(無水マレイン酸基含有変性ポリエチレン、酸価:30mgKOH/g、重量平均分子量:20,000、変性割合:5重量%)等が挙げられる。
【0020】
(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーは、(A)ポリ乳酸100重量部に対して通常0.1〜5.0重量部、ロール滑性効果の持続性とバイオマス度維持の観点から好ましくは0.3〜3.0重量部である。0.1重量部未満ではロール滑性効果が得がたく、5.0重量部を超えると添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。ここでバイオマス度とは、フィルムまたはシートの乾燥重量に対する使用したバイオマスの乾燥重量の割合のことである。
【0021】
本発明で使用する(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーは、テトラフルオロエチレンの単独重合体またはテトラフルオロエチレンと他の単量体との共重合体であってもよい。
【0022】
使用できるテトラフルオロエチレン系ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロジイオキゾールコポリマー等が挙げられる。
【0023】
テトラフルオロエチレン系ポリマーのポリ乳酸に対する結晶化促進効果は、テトラフルオロエチレン系ポリマーの結晶構造に依存していると考えられる。広角X線回折を行ったところ、ポリ乳酸の結晶格子の面間隔が4.8オングストロームであるのに対して、テトラフルオロエチレン系ポリマーの面間隔は4.9オングストロームであった。このことより、テトラフルオロエチレン系ポリマーがエピタキシー的作用を有することにより、ポリ乳酸の結晶核剤としての効果が得られるものと考えられる。ここで、エピタキシー的作用とは、テトラフルオロエチレン系ポリマーの表面でポリ乳酸が結晶成長し、テトラフルオロエチレン系ポリマーの結晶表面の結晶面にそろえてポリ乳酸が配列する成長の様式をいう。
【0024】
テトラフルオロエチレン系ポリマーの面間隔は共重合体であっても、テトラフルオロエチレン部の結晶形態に支配されるため、面間隔はいずれも同じである。従って、ポリテトラフルオロエチレンの結晶形態が維持でき、物性が大きく変わらない程度であれば、共重合成分の量は特に限定されないが、通常、テトラフルオロエチレン系ポリマー中での共重合成分の割合は5重量%以下であることが望ましい。
【0025】
さらに、テトラフルオロエチレン系ポリマーの重合方法は、乳化重合で得られたものが特に好ましい。乳化重合で得られたテトラフルオロエチレン系ポリマーは、繊維化しやすいためポリ乳酸中でネットワーク構造を取りやすくなり、溶融成膜過程の流動場でのポリ乳酸の結晶化促進に効果的であると考えられる。
【0026】
また、ポリ乳酸中に均一に分散させるために、テトラフルオロエチレン系ポリマーの粒子を、例えば(メタ)アクリル酸エステル系重合体のようなポリ乳酸との親和性が良好なポリマーで変性したものが好ましい。
【0027】
アクリル変性テトラフルオロエチレン系ポリマーの市販品としては、三菱レイヨン(株)から、メタブレン(登録商標)Aシリーズとして、メタブレンA−3000、メタブレンA−3800などが市販されている。
【0028】
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーは、(A)ポリ乳酸100重量部に対して通常0.1〜10重量部、溶融張力向上効果とバイオマス度維持の観点から好ましくは1.0〜5.0重量部である。0.1重量部未満では溶融張力向上の効果が十分でなく、10重量部を超えると添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0029】
(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーの結晶形成促進効果をより有効にするために、本発明は成膜時の温度条件を制御する結晶化促進工程を備える。結晶化促進工程とは、溶融成膜工程において溶融成膜された樹脂組成物を、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃に一旦保持することで結晶化を促進させる工程である。溶融成膜された樹脂組成物は結晶化促進工程を経てから冷却固化させる。すなわち、結晶化促進工程等は、溶融成膜された樹脂組成物を結晶化温度(Tc)±10℃に温度制御された状態に晒すことにより、溶融成膜後の表面形状を保持した状態で、結晶化が促進される。その方法は特に限定されないが、例えば、所定の温度に加熱可能なロールやベルト等に、溶融成膜したものを直接接触させて、成膜から連続で行える方式が、処理が短時間となるため、生産性の点で望ましい。
【0030】
なお、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃で温度制御可能な工程、すなわち、結晶化促進工程は、できればできるだけ長時間のほうが好ましい。最終的に樹脂組成物の結晶化の度合いに依存するので、一概には指定できないが、好ましくは加熱変形率が40%以下となるような条件設定であれば、十分にその温度でのフィルムまたはシートの使用が可能と考えられる。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、(D)結晶促進剤を含んでもよい。結晶促進剤は、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、ポリ乳酸の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。例えば、有機系物質であるポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。それらのうちでも、最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し、良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお、使用する結晶促進剤は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0032】
(D)結晶促進剤は、(A)ポリ乳酸100重量部に対して通常0.1〜5重量部、より良好な結晶促進効果とバイオマス度維持の観点から好ましくは0.3〜3重量部である。0.1重量部未満では結晶促進の効果が十分でなく、5重量部を超えると添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0033】
結晶化温度に常に制御する観点から、ロールは金属ロールであることが望ましい。樹脂組成物を金属ロールから簡単に剥離できる組成にすることが望ましく、この観点からも上述の(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの添加が必要となる。
【0034】
また本発明において、溶融成膜法としてカレンダー成膜法を用いてもよい。この場合、カレンダーロール圧延時の樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であることにより、さらに結晶化を促進することが可能である。これは、融点以下の温度で圧延することにより配向結晶化効果を得るものである。(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーが、樹脂組成物中でフィブリル化し、ネットワーク化することで、配向結晶化効果が格段に向上する。これは(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーの結晶核剤効果との相乗効果と考えられる。上記温度範囲で圧延することにより、平滑な面状態と良好な配向結晶化効果を得ることができる。
【0035】
本発明のポリ乳酸系フィルムまたはシートは、各成分を二軸押出機などによる連続溶融混練機、あるいは、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、ロール混練機などのバッチ式溶融混練機により均一分散させた樹脂組成物を作製し、これを溶融状態で二本の金属ロール間空隙を通すことで所望の厚さにしたものを、さらに樹脂組成物の降温結晶化温度に設定したロールに通し、最終的に冷却することで得られる。
【0036】
成膜方法の具体的な手段としては、押出機の先に2〜4本程度の金属ロールが付属した装置(ポリッシング成膜法、ローラーヘッド成膜法)などで、押出機で樹脂組成物を溶融状態にしたものを連続的に金属ロール部に供給し、金属ロール部で所望の厚さに成膜する方法や、ロール混練や押出機などで溶融させた樹脂組成物を、3〜6本程度の金属ロールのロール間空隙を順次に通過させることで、最終的に所望の厚さにするカレンダー成膜法などがある。いずれも溶融状態の樹脂を加熱した金属ロール間空隙に通すため、金属ロール表面から簡単に剥離できる組成にすることが望ましい。さらに結晶化温度を常に制御する観点から、降温結晶化温度に設定するロールも金属ロールであることが望ましい。こちらについても、同様に樹脂組成物を金属ロールから簡単に剥離できる組成にすることが望ましい。以上の観点から上述の(B)酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの添加が必要となる。
【0037】
フィルムまたはシートの厚さはその用途に応じ、適宜調整されるが一般的には10〜500μm、好ましくは20〜400μm、特に好ましくは30〜300μmである。本発明のフィルムまたはシートは一般に用いられるフィルムまたはシートと同様の用途に使用できるが、特に粘着フィルムまたはシートの基材として好適に使用できる。
【0038】
押出機やロール成膜時の樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であることにより、結晶化を促進することが可能である。これは、融点以下の温度で成膜することにより配向結晶化効果を得るものである。(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーが、樹脂組成物中でフィブリル化し、ネットワーク化することで、配向結晶化効果が格段に向上する。これは(C)テトラフルオロエチレン系ポリマーの結晶核剤効果との相乗効果と考えられる。上記温度範囲で成膜することにより、平滑な面状態と良好な配向結晶化効果を得ることができる。
【0039】
本発明は、他の結晶核剤の添加等で樹脂混和物の結晶化温度が変化しても、予め示差走査熱分析装置(以下、DSCと略する。)で測定を行い、降温過程での結晶化に伴う発熱ピークの最高点温度を把握しておくことにより、常に最適な結晶化条件を得ることができる。その際、加熱温度の変化による成膜フィルムの形状変化は、ほとんど考慮する必要がない。
また、結晶化促進工程でフィルムまたはシートの結晶化を進めた後に冷却固化するため、内部応力が残存しにくく、使用時の極端な加熱収縮を引き起こすことは無い。そのため、本発明の手法で成膜された高結晶化フィルムまたはシートは、ポリ乳酸の融点付近まで形状保持が可能であり、これまで使用できなかった耐熱性が必要な用途でも十分に使用可能である。
さらに、再度加熱する工程が不要のため、経済性、生産性の面でも非常に有用な手法である。
【0040】
図1は、本発明の一実施形態のカレンダー成膜機の模式図である。図1を詳細に説明すると、第1ロール1、第2ロール2、第3ロール3、第4ロール4という、4本のカレンダーロール間で溶融樹脂を圧延して徐々に薄くしていき、最終的にロール3とロール4の間を通過した時に所望の厚さになるよう調製する。カレンダー成膜の場合にはカレンダーロール1〜4における樹脂組成物の成膜が「溶融成膜工程」に相当する。また、結晶化温度に設定したテイクオフロール5は、作製されたフィルムまたはシート8が最初に接触するロール群を示し、1つまたは2つ以上(図1では3本)のロール群で構成され、カレンダーロール4から溶融状態のシート8を剥離する役割を果たす。テイクオフロール5の本数は多いほうが、等温結晶化時間が長くなり、結晶化を促進するのに有利である。カレンダー成膜の場合にはテイクオフロール5において、溶融成膜されたシート8の結晶化が促進されるので、シート8がテイクオフロール5を通過する工程が「結晶化促進工程」に相当する。二本の冷却ロール6および7は、それらの間にシート8を通過させることによりシート8を冷却し、固化させるとともにシート8の表面を所望の形状に成形する役割を果たす。そのため、通常は一方のロール(例えば、ロール6)が金属ロールで、シート8の表面形状を出すためにロール表面がデザインされたものであり、他方のロール(例えば、ロール7)としてゴムロールが使用される。なお、図中の矢印はロールの回転方向を示す。
【0041】
図2は、本発明の他の実施形態のポリッシング成膜機の模式図である。図2に示すように、押出機(図示せず。)の押出機先端部10を、加熱したロール2および3の間に配置し、予め設定された押出し速度で、ロール2および3の間に溶融樹脂を連続的に押し出す。押し出された溶融樹脂は、ロール2および3の間で圧延されて薄くなり、最終的にロール3とロール4の間を通過した時に所望の厚さになるよう調製される。その後、結晶化温度に設定された3本のテイクオフロール5を通過し、最後に冷却ロール6および7を通過することで、固化したシート8が作製される。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実施例等における評価は下記のようにして行った。
【0043】
後述する表1に用いる材料名の略号を下記に示す。
【0044】
ポリ乳酸
A1:レイシアH−400(三井化学(株)製)
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー
B1:無水マレイン酸基含有変性ポリプロピレン(重量平均分子量=49,000、酸価=26mgKOH/g):ユーメックス1001(三洋化成工業(株)製)
B2:無水マレイン酸基含有変性ポリプロピレン(重量平均分子量=32,000、酸価=52mgKOH/g):ユーメックス1010(三洋化成工業(株)製)
B’:未変性の低分子量ポリプロピレン(重量平均分子量=23,000、酸価=0mgKOH/g):ビスコール440P(三洋化成工業(株)製)
ポリテトラフルオロエチレン系ポリマー
C1:ポリテトラフルオロエチレン:フルオンCD−014(旭硝子(株)製)
C2:アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン:メタブレンA−3000(三菱レイヨン(株)製)
C’:高分子量アクリル重合体:メタブレンP−531A(三菱レイヨン(株)製)
結晶促進剤
D1:フェニルホスホン酸亜鉛:エコプロモート(日産化学工業(株)製)
【0045】
[実施例1]
上記の原材料が下記表1に示す配合割合で配合された樹脂組成物を調製し、バンバリーミキサーにて溶融混練を行った後、逆L型4本カレンダーにて厚さ0.1mmになるように成膜を行った。次に、図1のようにカレンダー圧延成膜(すなわち、溶融成膜工程に相当する。)の直後に、任意の温度に加熱可能なロール(カレンダー成膜の場合はテイクオフロール)を3本配し、圧延フィルムが上下交互に通過できるようにすることで結晶化促進工程とした。その後に冷却ロールを通過することでフィルムを固化する。圧延過程での樹脂温度(すなわち、溶融成膜工程における樹脂温度である。)は、カレンダー成膜の場合はカレンダーロール4の表面温度で代用する。成膜速度は5m/minとし、実質的な結晶化時間(テイクオフロール通過時間)は約5秒である。
【0046】
[実施例2〜10]
下記表1に示す配合割合で配合された樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により実施例2〜10のフィルムをそれぞれ成膜した。
【0047】
[比較例1〜4]
下記表1に示す配合割合で配合された樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により比較例1〜4のフィルムをそれぞれ成膜した。
【0048】
<融解温度>
DSCにて測定した、成膜後のフィルムサンプルの再昇温過程での融解に伴う吸熱ピークのトップ時の温度を融解温度(Tm,結晶融解ピーク温度ともいう)とした。
【0049】
<結晶化温度>
DSCにて測定した、成膜後のフィルムサンプルの200℃からの降温過程での結晶化に伴う発熱ピークのピークトップ時の温度を結晶化温度(Tc,結晶化ピーク温度ともいう)とした。
【0050】
<溶融成膜工程における樹脂温度>
溶融成膜工程における樹脂の設定温度(℃)のことである。例えば、カレンダー成膜法の場合には、カレンダーロールによる樹脂組成物の圧延工程における樹脂組成物の温度に該当する。なお、実施例1〜10、比較例1〜4では、第4ロールの表面温度を測定して、溶融成膜工程における樹脂温度とした。
【0051】
<結晶化促進温度>
本実施形態では、フィルムサンプルをテイクオフロールに接触させることにより結晶化促進工程を行った。その際、図1の3本のテイクオフロール5の表面温度を略同一とし、その温度を結晶化促進温度(℃)とした。なお、本願発明では、結晶化促進温度は、結晶化温度(Tc)±10℃が好ましい。また、該温度範囲内であれば、3本のテイクオフロールが互いに異なった温度であっても良い。
【0052】
<成膜性結果>
(1)ロールへのプレートアウト: ロール表面の汚れを目視により評価し、ロール表面の汚れがない状態を「なし」、ロール表面の汚れがある状態を「あり」と判断した。なお、比較例1および2については、カレンダーによる成膜ができなかったため、測定をしていない。
(2)膜の剥離性: 第4ロール4からの溶融膜の剥離性により評価し、テイクオフロールで引き取り可能である状態を「良好」、テイクオフロールで引き取り不可である状態を「不良」と判断した。
(3)フィルム面状態: 目視により評価し、フィルム表面に粗さがなく平滑である状態を「良好」、バンクマーク(樹脂の流れムラによる凹凸)やサメ肌、ピンホールがある状態を「不良」と判断した。なお、比較例1および2については、カレンダーによる成膜ができなかったため、測定をしていない。
【0053】
<相対結晶化率の算出方法>
DSCにて測定した、成膜後のフィルムサンプルの昇温過程での結晶化に伴う発熱ピークの熱量ΔHcと、その後の融解に伴う熱量ΔHmから、以下の式(3)を用い算出した。なお、比較例1および2については、カレンダーによる成膜ができなかったため、測定をしていない。
【0054】
相対結晶化率(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (3)
【0055】
(合否判定) 相対結晶化率50%以上を合格とする。
【0056】
結晶化温度および相対結晶化率の測定で使用したDSCおよび測定条件は、以下のとおりである。
(試験装置)エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製 DSC6220
(試験条件)
a)測定温度域 20℃→200℃→0℃→200℃
(まず20℃から200℃への昇温過程での測定に続けて、200℃から0℃への降温過程での測定を行い、最後に0℃から200℃への再昇温過程での測定を行った。)
b)昇温/降温速度:2℃/min
c)測定雰囲気:窒素雰囲気下(200ml/min)
なお、再昇温過程で、結晶化に伴うピークが無かったことから、2℃/minの昇温速度で結晶化可能領域が100%結晶化するものと判断し、相対結晶化率の算出式の妥当性を確認した。
【0057】
<加熱変形率>
JISC3005の加熱変形試験方法に準じ測定した。使用した測定装置および測定条件は、以下のとおりである。
(測定装置)テスター産業(株)製 加熱変形試験機
(試料サイズ)厚さ1mm×幅25mm×長さ40mm(フィルムを総厚1mmに重ねた)
(測定条件)
a)測定温度(150℃)
b)荷重(10N)
c)測定時間:30分(再結晶化を考慮し、エージングなしで試験開始)
(加熱変形率算出方法)試験前の厚みT1と試験後の厚みT2を測定し、以下の式(4)を用い算出した。なお、比較例1および2については、カレンダーによる成膜ができなかったため、測定をしていない。
【0058】
加熱変形率(%)=(T1−T2)/T1×100 (4)
【0059】
(合否判定) 40%以下を合格とする。
【0060】
<加熱収縮率>
フィルムを150mm×150mm切り出し、フィルム成膜時の流れ方向(以下、MD方向という。)と幅方向(以下、TD方向という。)のそれぞれに100mmの標線を書き込み、それを150℃に加熱したオーブンに10分間投入し、取り出した後の寸法変化を確認した。
加熱収縮率算出方法;試験前の標線長さL1と試験後の標線長さL2を測定し、以下の式(5)を用い算出した。なお、比較例1および2については、カレンダーによる成膜ができなかったため、測定をしていない。
【0061】
加熱収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100 (5)
【0062】
(合否判定) MD方向、TD方向ともそれぞれ5%以下を合格とする
【0063】
(総合判定) 総合的な評価結果として、全ての評価結果が合格基準を満たすものを○、相対結晶化率に関する項目が合格していれば△、相対結晶化率に関する項目が不合格の場合は×として総合判定を行った。
【0064】
実施例1〜10および比較例1〜4の評価結果をそれぞれ表2および表3に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表2および表3に示す評価結果から、本発明に係る実施例1〜10はいずれも相対結晶化率が高く、結果として加熱変形率が抑制されているため、総合判定が(○または△)であった。また成膜性についても、剥離性およびフィルム面状態は全て良好で、ロールへのプレートアウトも発生していない。
実施例1〜10のなかでも、(i)溶融成膜工程における樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であり、かつ、(ii)溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されるフィルム(実施例1〜3、8)については、結晶化工程が2箇所で行われることになるため、結晶化がより促進されるという効果がある。例えば、上記(i)の処理のみを経由した実施例7のフィルムの相対結晶化率(63%)、または上記(ii)の処理のみを経由した実施例4のフィルムの相対結晶化率(52%)に比べると、上記(i)および(ii)の処理を共に経由した実施例2については結晶化率が82%とより高くなっている。
一方、本発明に係る配合割合を充足しないか、または製造工程を踏襲しない比較例1〜4では、相対結晶化率が50%未満であり、加熱変形率について所望の物性値を満足するフィルムは得られず、総合判定はいずれも×であった。
【符号の説明】
【0069】
1 第1ロール
2 第2ロール
3 第3ロール
4 第4ロール
5 テイクオフロール
6 冷却ロール
7 冷却ロール
8 冷却された圧延シート
9 バンク(樹脂だまり)
10 押出機先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成膜法を用いてポリ乳酸を含む樹脂組成物のフィルムまたはシートを製造する方法であって、
樹脂組成物は、
ポリ乳酸(A)と、
酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を含んでなり、
溶融成膜工程における樹脂組成物の温度が、
樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であるか、
または、溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、
フィルムまたはシートの製造方法。
【請求項2】
溶融成膜工程における樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であり、かつ、
溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、請求項1記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項3】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)を0.1〜5.0重量部含んでなることを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項4】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を0.1〜10.0重量部含んでなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項5】
溶融成膜法が、最終的に溶融状態の樹脂組成物が二本の金属ロール間空隙を通過することで所望の厚さに成膜する手法である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項6】
溶融成膜法がカレンダー成膜法であることを特徴とする、請求項5に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項7】
ポリ乳酸を含む樹脂組成物をカレンダー成膜法により成膜するフィルムまたはシートであって、
樹脂組成物は、
ポリ乳酸(A)100重量部と、
酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)0.1〜5.0重量部と、
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)0.1〜10.0重量部をそれぞれ含んでなり、
カレンダー成膜法におけるカレンダーロール圧延時の樹脂組成物の温度が、
樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であるか、または
溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃の結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、フィルムまたはシートの製造方法。
【請求項8】
カレンダー成膜法におけるカレンダーロール圧延時の樹脂組成物の温度が、樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であり、かつ、溶融成膜された該樹脂組成物が、降温過程での結晶化温度(Tc)±10℃結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、請求項7記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項9】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの酸性官能基が酸無水物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項10】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、さらに結晶促進剤(D)0.1〜5.0重量部を含んでなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項11】
樹脂組成物の前記結晶化促進工程が金属ロールによるものであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルムまたはシートの製造方法。
【請求項12】
ポリ乳酸を含むフィルムまたはシートであって、
ポリ乳酸(A)と、
酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)と、
を含んでなる樹脂組成物からなり、
JISC3005の加熱変形試験方法に準じて、150℃の雰囲気下で10N、30分間の荷重を加えたときの変化率が、40%以下であり、
下記式(1)で求められる相対結晶化率が50%以上である
相対結晶化率(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (1)
(式中、ΔHcは成膜後のフィルムサンプルの昇温過程での結晶化に伴う発熱ピークの熱量であり、ΔHmは融解に伴う熱量を示す)
ことを特徴とするフィルムまたはシート。
【請求項13】
ポリ乳酸を含むフィルムまたはシートであって、
ポリ乳酸(A)と、
酸性官能基を含み、その酸価が10〜70mgKOH/gであり、かつ、重量平均分子量10,000〜80,000である、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)と、
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を含んでなる樹脂組成物からなり、
150℃の温度雰囲気下で10分間保存した時の下記式(2)
加熱収縮率(%)=(L1−L2)/L1×100 (2)
(式中、L1は試験前の標線長さ、L2は試験後の標線長さを示す)
で求められる加熱収縮率が、流れ方向(MD方向)、幅方向(TD方向)ともに5%以下であることを特徴とする、請求項12記載のフィルムまたはシート。
【請求項14】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)を0.1〜5.0重量部含んでなることを特徴とする、請求項12または13に記載のフィルムまたはシート。
【請求項15】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を0.1〜10.0重量部含んでなることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載のフィルムまたはシート。
【請求項16】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマーの酸性官能基が酸無水物である、請求項12〜15のいずれか1項に記載のフィルムまたはシート。
【請求項17】
ポリ乳酸(A)100重量部に対し、さらに結晶促進剤(D)0.1〜5.0重量部を含んでなる、請求項12〜16のいずれか1項に記載のフィルムまたはシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−106272(P2010−106272A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229735(P2009−229735)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】