説明

ポリ乳酸系共重合体

【課題】耐熱性および機械的強度が向上し、電気・電子部品用部材として利用可能な共重合体を提供する。
【解決手段】少なくとも第一の繰り返し単位を持つ第一ブロックと第二の繰り返し単位を持つ第二ブロックとを有する共重合体であって前記第一の繰り返し単位が式1で表され、前記第二の繰り返し単位がフラン誘導体である共重合体。


(式1において、Rは(CH)x(x=2〜20)を表す。また、pおよびqは自然数1から40を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非石油系由来モノマーから合成可能である新規ポリ乳酸系共重合体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガス排出源としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・醗酵等も有るが、燃焼による部分が大きく、現状の大気中の炭酸ガス濃度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされたものと言って過言ではない。
【0003】
ところで、近年、カーボンニュートラルとして、炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。すなわち、植生によって、炭酸ガスの吸収を図る一方で、将来枯渇が予想される石油資源の代替を図るというものである。
【0004】
プラスチックにおいても、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックが開発され、当初、これらは生分解性樹脂として注目を集めたが、最近では植物系プラスチックとしてその意義が見直されている。
【0005】
こうした植物系プラスチックの中にあって、物性と量産化の可能性からポリ乳酸の実用化が期待されてきたが、ポリ乳酸では、既存の石油系プラスチックに比べて機械的強度、特に強靭性に劣るという欠点が有り、早くからその改良が望まれてきた。
【0006】
このため、ポリ乳酸と汎用のフィラーや樹脂材料をブレンドし、機械的強度を補う検討が行われている。特許文献1では、ポリ乳酸と無機フィラーおよび有機珪素化合物をブレンドすることにより、耐熱性と耐衝撃性を向上することが開示されている。
【0007】
また、特許文献2では脂肪族ポリエステルポリエーテル共重合体と、ポリ乳酸と、有機繊維や植物繊維などの補強用繊維を混練することにより、衝撃強度、剛性、耐熱強度が向上することが開示されている。
【0008】
また、特許文献3および特許文献4には、石油資源由来のポリマーとポリ乳酸をブレンドすることが開示されている。特許文献3では、ポリエステルとポリ乳酸をブレンドすることにより、耐熱性と紡糸性に優れるポリマーアロイが得られることが開示されている。特許文献4ではポリカーボネートとポリ乳酸を混合することにより耐衝撃性および耐熱性に優れる電子部材を提供することが開示されている。
【0009】
また特許文献5および6、非特許文献1には、ポリ乳酸と他のモノマー成分をブロック共重合させる技術が開示されている。ポリ乳酸と共重合させるモノマー成分として、特許文献5では芳香族ポリカーボネートが、特許文献6ではテレフタル酸が、非特許文献1ではε-カプロラクトンが開示されている。
【0010】
また、特許文献7には、石油系由来モノマーとしてアミノ酸を乳酸とブロック共重合させる方法についての開示はあるが、その機械的強度に関する物性は開示されていない。
【0011】
【特許文献1】特開2004−352908号公報
【特許文献2】特開2007−186545号公報
【特許文献3】特開2005−200593号公報
【特許文献4】特開2006−335909号公報
【特許文献5】特開平9−216942号公報
【特許文献6】特開平8−302003号公報
【非特許文献1】Macromolecules 36、5585−5592 (2003)
【特許文献7】特開平11−302374号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の技術にはそれぞれ以下のような課題が生じる。
特許文献1から6および非特許文献1に開示されている無機フィラー、有機合成繊維、石油資源由来の樹脂および他のモノマー成分などを用いると、ポリ乳酸以外の割合が増加するため高植物度が損なわれる問題がある。また、電気・電子部品用部材に求められる耐熱性および機械的強度については十分とは言えず更なる向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、
少なくとも第一の繰り返し単位を持つ第一ブロックと第二の繰り返し単位を持つ第二ブロックとを有する共重合体であって
第一の繰り返し単位が式1で表され、
第二の繰り返し単位が式2または式3で表されることを特徴とする共重合体が提供される。
【0014】
【化1】

【0015】
(式1において、Rは(CHx(x = 2〜20)を表す。また、pおよびqは自然数1から40を表す。)
【0016】
【化2】

【0017】
(式2において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【0018】
【化3】

【0019】
(式3において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【0020】
また、本発明の第一ブロックの重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.0〜1.5であることを特徴とする共重合体が提供される。
【0021】
また、本発明の式2で表される2,5位置換フラン誘導体ブロックのフラン誘導体は、式4で表される2,5−フランジカルボン酸、又は式5で表される2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、又は式6で表される2,5−ヒドロキシメチルフランカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つの化合物、又は2つ以上の化合物であることを特徴とする共重合体が提供される。
【0022】
【化4】

【0023】
また、本発明の式3で表される3,4位置換フラン誘導体ブロックのフラン誘導体は、式7で表される3,4−フランジカルボン酸、又は式8で表される3,4−ビスヒドロキシメチルフラン、又は式9で表される3,4−ヒドロキシメチルフランカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つの化合物、又は2つ以上の化合物であることを特徴とする共重合体が提供される。
【0024】
【化5】

【0025】
また、式10で表される共重合体が提供される。
【0026】
【化6】

【0027】
(式10において、Rは、(CHx(x=2〜20)を示す。また、r、sは自然数1から40を表す。また、tは自然数1から10を表す。)
【0028】
また、本発明の第一のブロックと第二のブロック100モル%合計中の比が、(10:90)から(90:10)であることを特徴とする共重合体が提供される。
【0029】
また、本発明の共重合体と、脂肪族ジオール化合物が結合していることを特徴とする共重合体が提供される。
【0030】
また、本発明の脂肪族ジオール化合物は、−(CHx−(x = 2〜20)、または−(CHCHO)CHCH−(y = 1〜9)で表されることを特徴とする共重合体が提供される。
【0031】
また、本発明の共重合体と、ε-カプロラクトン、σ-バレロラクトン、β-ブチロラクトン、β-プロピオラクトンからなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物が結合していることを特徴とする共重合体が提供される。
【0032】
また、本発明の共重合体が、鎖延長部位を有することを特徴とする共重合体が提供される。
【0033】
また本発明の鎖延長部位は、イソシアネート基であることを特徴とする共重合体が提供される。
【0034】
さらに本発明によれば、少なくとも第一の繰り返し単位を持つ第一ブロックと第二の繰り返し単位を持つ第二ブロックとを有する共重合体の製造方法であって
式11で表される脂肪族アルコールと、式12で表される2,5位置換フラン化合物または式13で表される3,4位置換フラン化合物を反応させることにより共重合体を合成することを特徴とする共重合体の製造方法が提供される。
【0035】
【化7】

【0036】
(式11において、Rは(CHx(x = 2〜20)を表す。また、pおよびqは自然数1〜40を表す。)
【0037】
【化8】

【0038】
(式12において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、カルボキシル基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【0039】
【化9】

【0040】
(式13において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、カルボキシル基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【0041】
また、本発明によれば、式11式で表される脂肪族アルコールの重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.0〜1.5であることを特徴とする共重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0042】
本発明における共重合体は、その構造中に植物成分から合成可能で剛直な骨格を有するフラン環部位を有することにより、高植物度が損なわれることなく機械的強度、特に強靭性が高く、例えば電気・電子部品等の筐体材料用途などに好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
本発明の実施の形態について説明する。
【0044】
本発明に係る共重合体は、少なくとも、第一の繰り返し単位を持つ第一ブロックと第二の繰り返し単位をもつ第二ブロックを有する共重合体である。
第一の繰り返し単位は式1で表される。
【0045】
【化10】

【0046】
Rは(CHx(x = 2〜20)を表す。また、pおよびqは自然数1から40を表す。第一の繰り返し単位は1種でもよく、またRが異なる2種類以上の単位が含まれた構造であってもよい。また、第一ブロックの分子量は206から8000がよい。より好ましくは206から5000がよい。
【0047】
また、本発明の第一ブロックは、第一の繰り返し単位の構造だけでもよいが、他のモノマー単位の構造を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA 、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、などの脂肪族ジオール類を挙げることができる。このような他のモノマー単位は、第一ブロックを構成する全モノマー単位の0から30 モル% の含有割合であることが好ましく、さらに0から10モル% であることが好ましい。
【0048】
また、第一ブロックの重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0から1.8であればよい。好ましくは、1.0から1.5であることがよく、さらに好ましくは、1.0から1.3であることがよい。
【0049】
また、第二の繰り返し単位は式2または式3で表される。
【0050】
【化11】

【0051】
(式2において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【0052】
【化12】

【0053】
(式3において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【0054】
式2で表される2,5位置換フラン誘導体の中では、式4で表される2,5−フランジカルボン酸、又は式5で表される2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、又は式6で表される2,5−ヒドロキシメチルフランカルボン酸が好ましい。
【0055】
【化13】

【0056】
また式3で表される3,4位置換フラン誘導体の中では、式7で表される3,4−フランジカルボン酸、又は式8で表される3,4−ビスヒドロキシメチルフラン、又は式9で表される3,4−ヒドロキシメチルフランカルボン酸が好ましい。
【0057】
【化14】

【0058】
これらの第二の繰り返し単位は、式2または式3に表される構造体の群より選択される少なくとも1つ、又は2つ以上の構造を有してもよい。また共重合体中に、式2及び式3がそれぞれ有してもよい。
【0059】
第一の繰り返し単位と第二の繰り返し単位の中でも式10に表される共重合体がより好ましい。
【0060】
【化15】

【0061】
(式10において、Rは、(CHx(x=2〜20)を示す。 また、r、sは自然数1から40を表す。また、tは自然数1から10を表す。)
【0062】
また、本発明に係る共重合体の数平均分子量(Mn)の範囲は344〜20000であり、より好ましくは、344〜8000がよい。
【0063】
また、本発明に係る共重合体の重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.0から1.8であればよい。好ましくは、1.0から1.5であることがよく、さらに好ましくは、1.0から1.3であることがよい。
【0064】
また、本発明に係る共重合体は、脂肪族炭化水素骨格、エステル結合、エーテル結合、又はそれらの組合せを繰り返し単位として有するポリマーを含むことが好ましい。特に、式14または式15で表される炭素原子数が2〜22の脂肪族ジオールが含まれていることがより好ましい。
−(CH2x−(x = 2〜20) (14)
−(CH2CH2O)CH2CH2−(y = 1〜9)(15)
【0065】
また、本発明に係る共重合体は、ε-カプロラクトン、σ-バレロラクトン、β-ブチロラクトン、β-プロピオラクトン、からなる群より選択される少なくとも1つのポリマーが含まれていることが好ましい。
【0066】
また、共重合体中に、鎖延長の繰り返し単位を含んでいてもよい。鎖延長の繰り返し単位としては、ウレタン結合を形成することができるもの、例えば、ジイソシアネート基が好ましい。
【0067】
また、本発明で得られる共重合体は、その実用化に当って無機並びに有機のフィラー、補強剤、結晶化促進剤、離形剤、ワックス類、各種安定剤、着色剤等を必要に応じて併用することも可能である。
【0068】
また本発明の共重合体を成形する方法には、特に制限はなく、公知の射出成形、射出・圧縮成形、圧縮成形法など、通常の電子機器製品の製造に必要とされる成形方法を用いることができる。
【0069】
本実施の形態では、植物成分より合成可能なポリ乳酸骨格を有する第一ブロックとフラン誘導体が結合した共重合体により、高植物度が損なわれることなく、機械的強度の高い共重合体を得られることができる。また、第一ブロックに、重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)小さい、すなわち分子量分布が小さいポリ乳酸骨格があることにより、分子鎖同士が規則正しい構造を形成するようになり、隣り合った分子鎖間で発生する分子鎖間相互作用、例えば、クーロン力、水素結合の形成数、ファンデルワールス力、凝集エネルギー密度等が大きくなり、その結果機械的強度が大幅に改善される。
【0070】
更には、鎖長延長部または脂肪族炭化水素骨格、エステル結合、エーテル結合、又はそれらの組合せを繰り返し単位として有するポリマーを有することにより、共重合体の柔軟性が高まり機械的強度が向上する。
【0071】
本発明に係る共重合体の合成方法について説明する。
【0072】
本発明に係る共重合体は、乳酸系ポリマーとフラン誘導体を共重合反応させることにより合成することができる。
【0073】
本発明で使用する乳酸系ポリマーは、L−乳酸、D−乳酸、及びそれらの混合物が任意に重合しているものをいう。具体的な構造には特に限定されるものでもないが、例えば末端にヒドロキシル基を持つ乳酸系ポリマー(式11)が挙げられる。特にL−乳酸が単独で重合しているものが好ましい。
【0074】
【化16】

【0075】
また本発明で使用する乳酸系ポリマーは、乳酸の環状二量体であるラクチドの開環重合法(特開平7−118259号公報、特開平7−138253号公報参照)、乳酸の直接重縮合法(特開平9−31180号公報)、溶融重縮合法や固相重合法(特開2001−139672号公報、特開2001−297143号公報)、さらに、これらの2種類以上の組合せなどの公知の方法で製造することができる。フラン誘導体との反応性を考慮すると末端にヒドロキシ基を有するものが好ましい。
【0076】
また、乳酸系ポリマーの分子量は206〜8、000がよい。より好ましくは、206〜5、000がよい。重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、1.0から1.8であればよい。好ましくは1.0から1.5であればよく、さらに好ましくは1.0から1.3であることがよい。
【0077】
本発明で使用するフラン誘導体としては、フラン骨格を持つものであればよいが、特に2,5-フランジカルボン酸(式16)、3,4−フランジカルボン酸(式17)、2,5−ビスヒドロキシメチルフラン(式18)、および2,5−ヒドロキシメチルフランカルボン酸(式19)が挙げられる。これらのフラン誘導体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0078】
【化17】

【0079】
【化18】

【0080】
【化19】

【0081】
【化20】

【0082】
本発明で使用するフラン誘導体は、糖類などから作られる化合物であり、市販されている材料を適用でき(Penn Specialty Chemicals, Inc.)また従来公知の化学合成方法(米国特許3、326、944号公報、非特許文献 Ann., 580、179 (1953)、非特許文献 J. Org. Chem.、27、2946 (1962) 等によって合成してもよい。
【0083】
乳酸系ポリマーとフラン誘導体の100モル%合計中の比は、(10:90)から(90:10)の範囲であることが好ましい。この範囲を外れると、機械的物性、耐熱性が劣ってしまう。また、(10:90)から(70:30)の範囲がより好ましくは、さらに(10:90)から(50:50)の範囲が好ましい。
【0084】
また、第1ブロックの乳酸系ポリマーと第二ブロックのフラン誘導体の量モル比を変えることによって、共重合体の成形体の性質を変えることができる。つまり、フラン誘導体のモル比を高くすることによって、ポリ乳酸系マルチブロック共重合体組成物の弾性率や強度をより高めることができる。
【0085】
また、鎖延長剤としては、従来公知のニ官能性の鎖延長剤を用いることができる。鎖延長剤としては、ウレタン結合を形成することができるもの、例えば、ジイソシアネート化合物を用いることができる。
【0086】
具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、n―キシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−TDI、2,5−TDI、および2,6−TDIからなる群より選択される、少なくとも1つの化合物、又は2つ以上の混合物であることが好ましい。鎖延長剤の添加量は、乳酸系ポリマーとフラン誘導体の共重合体に対し、100〜200モル%の範囲が好ましい。
【0087】
また、脂肪族炭化水素骨格、エステル結合、エーテル結合、又はそれらの組合せを繰り返し単位として有するポリマーとしては、従来公知の脂肪族ジオールを用いることができる。特に、式14または式15で表される炭素原子数が2〜22の脂肪族ジオールが含まれていることがより好ましい。
【0088】
脂肪族ジオールの添加量は、前記乳酸系ポリマーとフラン誘導体共重合体に対し、80〜120モル%の範囲が好ましい。
【0089】
−(CH2x−(x = 2〜20) (14)
−(CH2CH2O)CH2CH2−(y = 1〜9)(15)
【0090】
以下、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0091】
<(1)両末端ヒドロキシ基乳酸系ポリマーの合成>
酢酸エチルで再結晶した L−ラクチド(60g、0.42 mol)を、触媒としてオクチル酸スズ(L−ラクチドに対し0.03wt%)、開始剤として両末端ヒドロキシ基を有する1,4−ブタンジオール(2.7g、0.03 mol)と混合した後、アンプルに入れ、開環重合を行った。重合条件は、圧力が0.1Torr、重合温度が180℃、重合時間が1時間であった。得られた乳酸系ポリマーを粉砕し、クロロフォルム(100 ml)で溶解し、これをジエチルエーテル中(1000ml)に注いで乳酸系ポリマーを沈殿させた。
【0092】
このようにして得られたポリ乳酸の数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。その結果、ポリ乳酸の数平均分子量(Mn)は2100であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.1であった。このポリ乳酸の核磁気共鳴スペクトル(NMR)を測定したところ、このポリ乳酸の両末端にヒドロキシ基を有していることが示された。
【0093】
<(2)乳酸系ポリマーとフラン誘導体の共重合>
容量500mlのフラスコに、上記(1)で得られた両末端ヒドロキシ基乳酸系ポリマー(上記一般式10)(63g、0.030 mol)、および2,5-フランジカルボン酸(2.23g、0.014 mol)を含むクロロフォルム(CHCl)(50ml)とジメチルスルホキシド(DMSO)(50ml)の混合溶媒を加えた。
【0094】
次に、塩化スズ二水和物(SnCl・2HO)(0.16g、0.0007 mol)とp-トルエンスルホン酸(p-TSA)(0.13g、0.0007 mol)を加えて、160℃、6時間、攪拌下、N雰囲気で重縮合反応を行った。
最後に得られた反応生成物をメタノール中に注いで共重合体を沈殿させた。
【0095】
このようにして得られた乳酸系ポリマーとフラン誘導体のブロック共重合の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したところ、数平均分子量(Mn)は、約4、600、重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.2であった。また、この共重合体の核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、両末端にヒドロキシ基を有し、乳酸系ポリマーの第一ブロックと2,5−フランジカルボン酸の第二ブロックのモル比は、約67:33であることが示された。
【0096】
<(3)鎖長延長反応>
上記(2)で得られた乳酸系ポリマーとフラン誘導体の共重合体(30g、0.007 mol)に対し鎖長延長剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(2.4g、0.014 mol)と触媒としてオクチル酸スズ(Sn(Oct))(0.009g、0.00002 mol)を加えて、攪拌下、150℃で20分間反応を行った。 次いで、ジオール成分として、1,4−ブタンジオール(0.63g、0.007 mol)を加えて、攪拌下、150℃で10分間鎖長延長反応を行った。
【0097】
このようにして得られた乳酸系ポリマーとフラン誘導体のブロック共重合の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定したところ、数平均分子量(Mn)は、約80、000、重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は1.8であった。さらに、核磁気共鳴スペクトルを測定したところ、ウレタン結合の生成を確認し、上記の第1ブロックと第2ブロックとが50/50モル%で含有することが示された。
【0098】
<機械的強度評価用サンプルの作製>
上記実施例1で得られたポリ乳酸系マルチブロック共重合体組成物をホットプレス機により150℃〜200℃の温度条件下で圧縮成型し、70mm x 25mm x 2mmの平板サンプルを得た。
【0099】
<機械的強度の評価(平板3点曲げ特性)>
機械的強度の評価は、平板3点曲げ試験により行った。長さ70mm、幅25mm、厚み2mmの平板サンプルを110℃で2時間加熱し十分結晶化させ試験片とした。得られた試験片をJIS K 7203に基づき、曲げ強度、曲げ弾性率について評価した。
【0100】
(比較例1)
上記実施例1の(1)で得られた両末端ヒドロキシ基乳酸系ポリマー(30g、0.014 mol)に対し、ヘキサメチレンジイソシアネート(2.4g、0.014mol)とオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)(0.009g、0.00002 mol)を加えて、攪拌下、150℃で30分間鎖長延長反応を行った。それ以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0101】
(比較例2)
上記実施例1の(1)で得られた両末端ヒドロキシ基乳酸系ポリマー(30g、0.014 mol)に対し、ヘキサメチレンジイソシアネート(4.7g、0.028mol)とオクチル酸スズ(Sn(Oct)2)(0.009g、0.00002 mol)を加えて、攪拌下、150℃で20分間反応を行った。次いで、反応生成物に脂肪族ジオール成分として、1,4−ブタンジオール(0.63g、0.007 mol)を加えて、攪拌下、150℃で10分間鎖長延長反応を行った。それ以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0102】
(比較例3)
市販のポリ乳酸(ユニチカ株式会社製、商品名:テラマック、グレード:TE−4000)を比較例3とした。それ以外は、実施例1と同様にサンプルを作製し、評価を行った。
【0103】
上記実施例1および比較例1〜3で得られた組成物の機械的特性の検討を行い、結果を表1に示す。
【0104】
【表1】

【0105】
表1に示すように、本乳酸系ポリマーをヘキサメチレンジイソシアネートで連結した比較例1、乳酸系ポリマーと1,4−ブタンジオールをヘキサメチレンジイソシアネートで連結した比較例2、および従来のポリ乳酸である比較例3よりも、実施例1の方が、著しく曲げ強度及び弾性率が向上することが判明した。つまり、本実施例に係る共重合体は、ポリ乳酸単位と剛直なフラン環を有するフラン誘導体が結合することにより、非常に優れた強靭性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係る共重合体およびその製造方法は、電気・電子部品等の筐体材料用途などに好適に用いることが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第一の繰り返し単位を持つ第一ブロックと第二の繰り返し単位を持つ第二ブロックとを有する共重合体であって
前記第一の繰り返し単位が式1で表され、
前記第二の繰り返し単位が式2または式3表されることを特徴とする共重合体。
【化1】

(式1において、Rは(CH)x(x =2〜20)を表す。また、pおよびqは自然数1から40を表す。)
【化2】

(式2において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【化3】

(式3において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【請求項2】
前記第一ブロックの重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.0〜1.5であることを特徴とする請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
式2で表される2,5位置換フラン誘導体ブロックのフラン誘導体は、式4で表される2,5−フランジカルボン酸、又は式5で表される2,5−ビスヒドロキシメチルフラン、又は式6で表される2,5−ヒドロキシメチルフランカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つの化合物、又は2つ以上の化合物であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の共重合体。

【化4】

【請求項4】
式3で表される3,4位置換フラン誘導体ブロックのフラン誘導体は、式7で表される3,4−フランジカルボン酸、又は式8で表される3,4−ビスヒドロキシメチルフラン、又は式9で表される3,4−ヒドロキシメチルフランカルボン酸からなる群より選択される少なくとも1つの化合物、又は2つ以上の化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の共重合体。

【化5】

【請求項5】
式10で表される請求項3に記載の共重合体。
【化6】

(式10において、Rは、(CHx(x=2〜20)を示す。 また、r、sは自然数1から40を表す。また、tは自然数1から10を表す。)
【請求項6】
前記第一のブロックと前記第二のブロックの100モル%合計中の比が、(10:90)から(90:10)であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項7】
前記共重合体と、脂肪族ジオール化合物が結合していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項8】
前記脂肪族ジオール化合物は、−(CHx−(x = 2〜20)、または−(CHCHO)CHCH−(y = 1〜9)で表されることを特徴とする請求項7に記載の共重合体。
【請求項9】
前記共重合体と、ε-カプロラクトン、σ-バレロラクトン、β-ブチロラクトン、β-プロピオラクトンからなる群から選ばれた少なくとも1つの化合物が結合していることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項10】
前記共重合体が、鎖延長部位を有することを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の共重合体。
【請求項11】
前記鎖延長部位は、イソシアネート基を有する化合物であることを特徴とする請求項10に記載の共重合体。
【請求項12】
少なくとも第一の繰り返し単位を持つ第一ブロックと第二の繰り返し単位を持つ第二ブロックとを有する共重合体の製造方法であって
式11で表される脂肪族アルコールと、式12で表される2,5位置換フラン化合物または式13で表される3,4位置換フラン化合物を反応させることにより共重合体を合成することを特徴とする共重合体の製造方法。
【化7】


(式11において、Rは(CHx(x = 2〜20)を表す。また、pおよびqは自然数1から40を表す。)
【化8】

(式12において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【化9】


(式13において、R’およびR’’は、エステル基、アミド基、ケトン基、アルキル基を表す。)
【請求項13】
式11で表される脂肪族アルコールの重量平均分子量数(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、1.0〜1.5であることを特徴とする請求項12に記載の共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−227717(P2009−227717A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71516(P2008−71516)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】