説明

ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法

【課題】 ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を製造するに際し、重合反応開始から終点のほとんど全区間を通して重合発熱を均一化することにより、装置の除熱能力を有効利用して、重合時間を短縮し、重合転化率が高く、かつ、重合スケールの少ないポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 塩化ビニル系単量体100重量部に対して、重合開始剤として、(A)10時間半減期温度が35℃以上50℃未満の重合開始剤を合計0.0001重量部以上0.03重量部未満、(B)10時間半減期温度が50℃以上60℃未満の重合開始剤を合計0.005重量部以上0.03重量部未満、(C)ラウロイルペルオキシドを0.005重量部以上0.045重量部未満、使用し、且つ、重合温度が52℃以上72℃未満であることを特徴とするポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂(以下、「塩ビペースト樹脂」と略記する)は、可塑剤を必須成分とし、炭酸カルシウムなどの充填剤、発泡剤、安定剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、顔料、表面処理剤、チキソトロープ剤、接着性付与剤等の部剤を必要に応じて適当量用い、これらを混合、混練して、プラスチゾルと称する流動体の状態で加工される。用途分野は非常に広範囲であり、壁紙や床材等の住宅内装関係、アンダーボディーコートやシーラントなどの自動車関係、鋼板コートや帆布コート等の分野で使用されている。この塩ビペースト樹脂を得る目的で、塩化ビニル単量体の微細懸濁重合が多く行われている。微細懸濁重合は、水を分散媒とし、単量体、乳化剤、油溶性の重合開始剤等の混合物を、ホモジナイザ等を用いて微細な乳化分散液に均質化した後、所定温度にて重合する方法である。重合反応生成物は、通常、平均径が0.1〜10μmの球状の粒子が水媒体中に分散しているラテックスである。
【0003】
一般に、塩ビペースト樹脂は、製造するに際して、重合スケールが少ないこと、及び重合時間が短いこと、が求められている。
【0004】
重合スケールが少ないことに関しては、一般に、塩ビペースト樹脂のラテックスは不安定であり、ラテックス中には重合反応中に発生した塩ビ樹脂の凝集物が混在していることが多い。この凝集物は一般に重合スケールと呼ばれている。ラテックス中に重合スケールが多く混在すると、移送配管の詰りによる操業トラブル、収率の低下、濾過フィルターのメンテナンスの負担増等のラテックス製造上の手間やコスト増加の問題が起きるばかりでなく、品質上でも、濾過フィルターを通過する小さな重合スケール(粗粒)が塩ビペースト樹脂の中に混在し、これがペースト塗布加工に際して、成形品の表面にスジ引きや粒状突起をしばしば引き起こすという問題がある。重合スケールを低減させる手段としては、重合が不安定となる重合転化率60%以降に重合攪拌数を低下させる方法(特許文献1)が知られているが、攪拌数低下によりジャケットによる除熱効率が低下するので、重合液を安全に除熱する為には、重合転化率60%以降の重合発熱を抑制する必要があり、それに伴い重合時間が遅延するという問題があった。
【0005】
重合時間、すなわち塩化ビニル単量体の重合反応を進めて塩ビペースト樹脂のラテックスを得るまでに要する時間、が短いことに関しては、一般に、重合時間が短縮されると、塩ビペースト樹脂の時間当たりの生産量が多くなり、工業上有利となる為、従来から種々の方法が報告されている。例えば、重合器を縦長にして、ジャケットの伝熱面積を大きくすることにより、重合器の除去能力を高め、重合時間を短縮する手法が報告されている。しかし、塩化ビニルの乳化重合や微細懸濁重合では重合反応が進むにつれて重合液が体積収縮する為に、重合反応が進むにつれて重合液との接触面積が減り、重合器の除熱能力が大きく低下するという問題、それに加えて、ジャケットの冷却水通水部位が大きく露出して重合器内部の壁面や攪拌翼への重合スケール付着を引き起こすという問題が生じる場合があった。これを解決する目的で、ジャケットを分割して冷却水通水部位が反応液面から露出しないように段階的に調整する手法(特許文献2)、が報告されている。しかし、重合液が大きく体積収縮する重合後半には重合器の徐熱能力が大きく低下する為、重合反応開始から終点の全区間の重合発熱を考慮すると、重合反応速度を十分に上げることができないという問題があった。また、これらの手法は、いずれも大きな設備費を要するというコスト的な不具合もあった。一方、重合開始剤を重合反応の途中で追加することにより、重合全区間における重合発熱を均一化し、装置の除熱能力を有効利用して重合時間を短縮する手法が報告されている(特許文献3)。しかし、重合途中で追加した重合開始剤の熱分解が不十分なままで重合反応が終了するために、重合末期の発熱のコントロールが難しくなる問題、残存開始剤が多くなることで塩ビペースト樹脂最終製品の熱安定性等の品質が悪化する恐れがある問題、さらに、重合開始剤を追加する操作が煩雑であることに加えて、追加設備を増設する為の大きな設備費を要するというコスト的な不具合があった。
【特許文献1】特開平10−265511
【特許文献2】特開平5−140205
【特許文献3】特開平3−149202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述したような課題を解決し、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を製造するに際し、重合開始剤を重合反応の途中で追加することなく、重合反応開始から終点のほとんど全区間を通して重合発熱を均一化することにより、装置の除熱能力を最大に有効利用して、重合時間を短縮し、重合転化率が高く、かつ、重合スケールの少ないポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような背景に鑑み鋭意研究を重ねた結果、10時間半減期温度の異なる複数の重合開始剤を特定の範囲で組み合わせることにより、前述の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、ラウロイルペルオキシドを主体とした開始剤処方を用いて、重合反応開始から終点のほとんど全区間を通して重合発熱を均一化することにより、装置の除熱能力を最大に有効利用して、重合時間を短縮し、重合転化率が高く、かつ、重合スケールの少ないポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法を提供するものである。以下、本発明を詳細に説明する。
即ち本発明は、
塩化ビニル系単量体100重量部に対して、重合開始剤として、(A)10時間半減期温度が35℃以上50℃未満の重合開始剤を合計0.0001重量部以上0.03重量部未満、(B)10時間半減期温度が50℃以上60℃未満の重合開始剤を合計0.005重量部以上0.03重量部未満、(C)ラウロイルペルオキシドを0.005重量部以上0.045重量部未満、使用し、且つ、重合温度が52℃以上72℃未満であることを特徴とするポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法(請求項1)、
(B)として、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート、から選ばれた少なくとも一つを選択したことを特徴とする請求項1記載の塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法(請求項2)、
(A)として、クミルペルオキシネオデカノエート、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、から選ばれた少なくとも一つを選択したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法(請求項3)、
重合温度が56℃以上68℃未満であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法(請求項4)、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラウロイルペルオキシドを主体とした開始剤処方を用いて、重合反応開始から終点のほとんど全区間を通して重合発熱を均一化することにより、装置の除熱能力を有効利用して、ポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法を行うことが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明は、ラウロイルペルオキシドを主体とした開始剤処方に関するものであり、塩化ビニル系ペースト樹脂(以下、塩ビペースト樹脂と略記する)の製造に適用することができる。
【0011】
本発明におけるラウロイルペルオキシドとは、10時間半減期温度が62℃の重合開始剤である。構造式を(1)に示す。
【0012】
【化1】

本発明における10時間半減期温度とは、ベンゼン中0.1モル/リットルの濃度において、未反応の重合開始剤が、10時間で初期濃度の半分にまで減少する温度をいう。
【0013】
本発明における重合開始剤の組み合わせ、及びその量は、重合発熱の均一化の為、塩化ビニル系単量体100重量部に対して、重合開始剤として、(A)10時間半減期温度が35℃以上50℃未満の重合開始剤を合計0.0001重量部以上0.03重量部未満、(B)10時間半減期温度が50℃以上60℃未満の重合開始剤を合計0.005重量部以上0.03重量部未満、(C)ラウロイルペルオキシドを0.005重量部以上0.045重量部未満、の組み合わせで使用することが好ましい。
【0014】
更に好ましくは、塩化ビニル系単量体100重量部に対して、(A)を合計0.0005重量部以上0.02重量部未満、(B)を合計0.005重量部以上0.025重量部未満、(C)ラウロイルペルオキシドを0.005重量部以上0.045重量部未満、使用することであり、重合反応開始から終点のほとんど全区間を通して重合発熱が極めて良く均一化され、転化率が高く、重合スケールも低減される。
【0015】
本発明における(A)10時間半減期温度が35℃以上50℃未満の重合開始剤は、特に限定されるのもではないが、例えば、クミルペルオキシネオデカノエート(10時間半減期温度(以下同様)37℃)、α,α'−ビス(ネオデカノイルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼン(36℃)、イソブチリルペルオキシド(33℃)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート(47℃)、t−ヘキシルペルオキシネオデカノエート(45℃)、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルペルオキシネオデカノエート(41℃)、t−オクチルペルオキシネオデカノエート(41℃)、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート(44℃)、エトキシエチルペルオキシジカーボネート(43℃)、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート(41℃)等が挙げられる。中でも重合発熱の均一化、重合スケール低減、等の観点から、クミルペルオキシネオデカノエート(37℃)、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート(44℃)、t−ブチルペルオキシネオデカノエート(47℃)、が好ましい。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

本発明における(B)10時間半減期温度が50℃以上60℃未満の重合開始剤は、特に限定されるのもではないが、例えば、t−ブチルペルオキシピバレート(55℃)、t−ヘキシルペルオキシピバレート(53℃)、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート(51℃)、アゾビス(ジメチルバレロニトリル)(51℃、但しトルエン溶媒中)等が挙げられる。中でも重合発熱の均一化、重合スケール低減、等の観点から、t−ヘキシルペルオキシピバレート(53℃)、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート(51℃)、が好ましい。
【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

本発明における重合開始剤の種類としては、重合発熱の均一化、重合スケール低減、等の観点から、(B)として、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート、から選ばれた少なくとも一つを選択することが特に好ましい。
同様の観点から、(A)として、クミルペルオキシネオデカノエート、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、から選ばれた少なくとも一つを選択することが特に好ましい。
【0021】
本発明におけるポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の重合温度は、主開始剤であるラウロイルペルオキシドの10時間半減期温度(62℃)、及び重合により得られる樹脂の重合度、最終製品の物性の観点から、52℃以上72℃未満が好ましく、56℃以上68℃未満が特に好ましい。本発明における重合温度とは、後述する重合器中の温度(「内温」と略記している)を意味する。
【0022】
本発明における塩ビペースト樹脂は、塩化ビニル単量体単独、または塩化ビニル単量体とこれと共重合可能な単量体(以下、「塩化ビニル系単量体」と略記する。)を重合して製造される。塩化ビニルと共重合可能な単量体は特に限定されるものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン等のオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニリデン等のビニリデン類、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸及びその酸無水物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ブチルベンジル等の不飽和カルボン酸エステル類、スチレン、αーメチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、更にはジアリルフタレート等の架橋性モノマー等の、塩化ビニルと共重合可能な単量体が使用できる。これらの単量体の使用量は、塩化ビニルとの混合物中50重量%未満であるのが好ましい。
【0023】
本発明における塩ビペースト樹脂の製造方法としては、特に限定されないが、好ましくは乳化重合又は微細懸濁重合といった重合方法、その中でも微細懸濁重合が好適に用いられる。微細懸濁重合とは、水を分散媒とし、単量体、重合開始剤、界面活性剤、等の混合物を、微細な乳化分散液に均質化した後、所定温度にて重合する方法である。微細懸濁重合時の均質化においては、一段または二段加圧式高圧ポンプ、コロイドミル、遠心ポンプ、ホモミキサー、振動式攪拌器、ノズルまたはオリフィスからの高圧噴出および超音波などの公知の方法を用いる事ができる。更に重合後に得られるラテックスを噴霧乾燥法や流動床乾燥法等により乾燥することにより塩ビペースト樹脂が得られる。本発明の塩ビペースト樹脂は、前記重合方法によって得られた単一のラテックスから乾燥されることにより得られるもの、或いは2種以上のラテックスをブレンドし、乾燥されることにより得られるもの、或いは別々に乾燥した複数のポリ塩化ビニル系ペースト樹脂を混合することにより得られるもの、のいずれを用いることもできるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0024】
本発明における界面活性剤は特に限定されるものではないが、アニオン性界面活性剤が通常単量体100重量部当たり0.1〜3重量部程度用いられる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルエーテルリン酸エステル等のカリウム、ナトリウム、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0025】
本発明における分散助剤は特に限定されるのもではないが、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸類等が挙げられる。その他の重合助剤としては、芳香族炭化水素、ポリビニルアルコール、ゼラチン、粒子径調整剤(硫酸ナトリウム及び重炭酸ナトリウムなど)、連鎖移動剤、抗酸化剤などが挙げられる。これらは単独または二種類以上を組み合わせて用いる事ができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(重合転化率)
本発明における重合転化率とは、塩化ビニル系単量体が重合した割合を示す。塩化ビニル系単量体は常温で気体であり、重合体(塩ビペースト樹脂)は固体である為、重合転化率はラテックスの固形分濃度から計測した。
【0027】
尚、表1記載の重合転化率とは、重合終了時の重合転化率を示す。90%以上を「◎」、85%以上90%未満を「○」、80%以上85%未満を「△」、80%未満を「×」と判定した。
【0028】
本発明の実施例1〜9の重合転化率は、いずれも○〜◎となり、良好であった。
(重合発熱の均一性)
図1に示すように、本発明における重合反応に用いたステンレス製攪拌機付き耐圧容器(重合器)1は、周りに温度調整した水を通水するジャケット構造2になっている。本発明では、冷水と蒸気の入りの量を調整して、ジャケット中を通水する水の温度(以下、「ジャケット温度」と略記する)を制御することで、重合器中の温度(以下、「内温」と略記する)を所定の温度に調整し、重合反応を進めた。重合発熱が大きい場合は、ジャケット温度を低下する必要があるので、内温とジャケット温度の温度差が大きいほど重合発熱が大きいことを意味する。
【0029】
本発明では、転化率20%、転化率40%、転化率60%時の、内温とジャケット温度の温度差を比較することで、重合発熱の均一性を判定した。
本発明においては、
転化率20%時の内温とジャケット温度の温度差を、△T(20%)
転化率40%時の内温とジャケット温度の温度差を、△T(40%)
転化率60%時の内温とジャケット温度の温度差を、△T(60%)
と表記した。
尚、△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の算出方法は、重合開始から1時間毎に内容物のラテックスを少量サンプリングすることで、X軸に転化率、Y軸にサンプリング時の内温とジャケットの温度差をプロットしたXYグラフを作成し、そのグラフより概算する方法を用いた。
「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」が0.7℃未満を「◎」、0.7℃以上1.4℃未満を「○」、1.4℃以上3.0℃未満を「△」、3.0℃以上を「×」と判定した。
【0030】
本発明の実施例1〜9の重合発熱の均一性は、いずれも○〜◎となり、良好であった。
(ジャケット温度の測定方法)
図1のジャケット温度測定点6の箇所を、測温体(岡崎製作所製 シース測温抵抗体)を用いて測定した。図に示すように、ジャケット温度測定点6は、ジャケット入口8の直近に位置する。
(内温の測定方法)
図1の内温測定点5の箇所を、測温体(岡崎製作所製 シース測温抵抗体)を用いて測定した。図1に示すように、内温測定点5は、ジャケット温度測定点6の縦垂直方向に位置し、高さは重合器底面と初期の重合液面高さの中点であり、重合器側壁面から攪拌軸方向に2cm離れた点に位置する。
(重合スケール)
得られたラテックスを、JIS Z8801:2000に記載の、目開き1.7ミリメートルの試験用ふるいで全量濾し、採取した重合スケール量の乾燥重量を測定した。100g未満を「○」、100g以上300g未満を「△」、300g以上を「×」と判定した。
【0031】
本発明の実施例1〜9の重合スケールは、いずれも△〜○となり、良好であった。
【0032】
(実施例1)
予め脱気したステンレス製攪拌機付き耐圧容器(重合器)にて、塩化ビニル系単量体100重量部(10kg)、脱イオン水200重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.80重量部、セチルアルコール0.5重量部、重合開始剤として、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.01重量部を仕込み、耐圧ホモジナイザーにより均質化し、均質化分散液を得た。その後、攪拌機の回転数を30rpmに設定し、ジャケット温度を上げて内温を上昇させ、内温が60℃に到達した時点からカスケード制御で内温を60℃に保ちながら重合反応を進めた。重合開始から1時間毎に内容物のラテックスを少量サンプリングして重合転化率を測定した。ジャケット温度が上昇して内圧が降下した時点を重合反応の終了とし、この時点までの時間を重合時間とした。そして未反応の塩化ビニル単量体を回収し、内容物のラテックスを取出した。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.8℃(判定:○)、重合転化率は85.9℃(判定:○)、重合スケールは98g(判定:○)となった。
【0033】
(実施例2)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.02重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合発熱のバランスが特に好ましく、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.5℃(判定:◎)、重合転化率は90.0℃(判定:◎)、重合スケールは74g(判定:○)となった。
【0034】
(実施例3)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.014重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.02重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は1.2℃(判定:○)、重合転化率は89.6℃(判定:○)、重合スケールは87g(判定:○)となった。
【0035】
(実施例4)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.005重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.02重量部、ラウロイルペルオキシド0.02重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は1.1℃(判定:○)、重合転化率は90.7℃(判定:◎)、重合スケールは90g(判定:○)となった。
【0036】
(実施例5)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.04重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合発熱のバランスが特に好ましいが、重合スケールがやや多く、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.4℃(判定:◎)、重合転化率は89.3℃(判定:○)、重合スケールは122g(判定:△)となった。
【0037】
(実施例6)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.001重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.015重量部、ラウロイルペルオキシド0.03重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.8℃(判定:○)、重合転化率は90.9℃(判定:◎)、重合スケールは72g(判定:○)となった。
【0038】
(実施例7)
実施例1の重合開始剤を、t−ブチルペルオキシネオデカノエート0.006重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.03重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合発熱のバランスが特に好ましく、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.4℃(判定:◎)、重合転化率は89.3℃(判定:○)、重合スケールは61g(判定:○)となった。
【0039】
(実施例8)
実施例1の重合開始剤を、クミルペルオキシネオデカノエート0.005重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.03重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合発熱のバランスが特に好ましく、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.2℃(判定:◎)、重合転化率は88.7℃(判定:○)、重合スケールは75g(判定:○)となった。
【0040】
(実施例9)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.001重量部、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.02重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合発熱のバランスが特に好ましく、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.4℃(判定:◎)、重合転化率は91.0℃(判定:◎)、重合スケールは81g(判定:○)となった。
【0041】
(比較例1)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合末期の発熱が弱く、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は1.5℃(判定:△)、重合転化率は77.3℃(判定:×)、重合スケールは125g(判定:△)となった。
【0042】
(比較例2)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、t−ヘキシルペルオキシピバレート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.05重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合スケールが多く、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は0.8℃(判定:○)、重合転化率は84.7℃(判定:△)、重合スケールは340g(判定:×)となった。
【0043】
(比較例3)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、ラウロイルペルオキシド0.02重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合末期の発熱が弱く、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は3.9℃(判定:×)、重合転化率は64.1℃(判定:×)、重合スケールは125g(判定:△)となった。
【0044】
(比較例4)
実施例1の重合開始剤を、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート0.01重量部、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート0.01重量部、に変更した以外は実施例1と同様の手法で重合反応を行った。△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)、重合時間、重合転化率、重合スケール量を表1に示す。本処方は重合末期の発熱が弱いことに加えて重合スケールが極めて多く、重合発熱の均一性「△T(20%)、△T(40%)、△T(60%)の差」は3.8℃(判定:×)、重合転化率は75.0℃(判定:×)、重合スケールは305g(判定:×)となった。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明において重合発熱の均一性を評価するために使用した重合器の概略図
【符号の説明】
【0047】
1. 重合器全体
2. ジャケット
3. 攪拌軸
4. 攪拌翼
5. 内温測定点
6. ジャケット温度測定点
7. ジャケットポンプ
8. ジャケット入口
9. ジャケット出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系単量体100重量部に対して、重合開始剤として、(A)10時間半減期温度が35℃以上50℃未満の重合開始剤を合計0.0001重量部以上0.03重量部未満、(B)10時間半減期温度が50℃以上60℃未満の重合開始剤を合計0.005重量部以上0.03重量部未満、(C)ラウロイルペルオキシドを0.005重量部以上0.045重量部未満、使用し、且つ、重合温度が52℃以上72℃未満であることを特徴とするポリ塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。
【請求項2】
(B)として、t−ヘキシルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシネオヘプタノエート、から選ばれた少なくとも一つを選択したことを特徴とする請求項1記載の塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。
【請求項3】
(A)として、クミルペルオキシネオデカノエート、ビス(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、から選ばれた少なくとも一つを選択したことを特徴とする請求項1または請求項2記載の塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。
【請求項4】
重合温度が56℃以上68℃未満であることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の塩化ビニル系ペースト樹脂の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−115269(P2008−115269A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299493(P2006−299493)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】