説明

ポリ塩化ビニル系樹脂組成物

【課題】 従来品に比べて低線膨張率で、且つ、優れた耐衝撃性を有する塩化ビニル系樹脂組成物及びその成形体の提供。
【解決手段】 平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(A)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(B)とからなり、かつエラストマー成分の重量比が(A)/(B)=30/70〜95/5である塩化ビニル系樹脂(A+B)100重量部に、針状あるいは板状の無機物を10〜60重量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低線膨張率で、耐衝撃性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ポリ塩化ビニル系樹脂は機械的強度、耐薬品性に優れた特性を有する材料として多くの用途に使われている。さらに、雨樋や窓枠部材に使用する際には、熱収縮性、線膨張率を小さくするために針状あるいは板状の無機物を添加する塩化ビニル系樹脂組成物が提案されているが、このような無機物を添加すると耐衝撃性が悪くなるという欠点を有しており、この無機物充填塩化ビニル系樹脂組成物に種々の衝撃改良剤を添加させた塩化ビニル系樹脂組成物が、例えば、特開2000―355646に開示されている。しかしながら、上記塩化ビニル系樹脂組成物でそのような衝撃改良剤を添加した成型品では、耐衝撃は向上するも線膨張率が大きくなってしまうという傾向があり本来の無機充填剤の効果が得られなくなる。そこで、さらに線膨張率や耐衝撃性に優れる塩化ビニル系樹脂組成物が要望されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、従来品に比べて低線膨張率を保持しつつ、優れた耐衝撃性を有する塩化ビニル系樹脂組成物及びその成形体を提供することである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題について検討を重ねた結果、特定の平均粒子径を有する2種類のエラストマー成分に塩化ビニルがグラフト重合されてなる塩化ビニル系樹脂に針状又は板状の無機物を含有させることにより、従来品に比べて低線膨張率で、耐衝撃性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物が得られることを見いだした。
【0005】請求項1記載の発明(本発明1)は、平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(A)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(B)とからなり、かつエラストマー成分の重量比が(A)/(B)=30/70〜95/5である塩化ビニル系樹脂(A+B)100重量部に、針状あるいは板状の無機物を10〜60重量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0006】また、請求項2記載の発明(本発明2)は、平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)の重量比が(a)/(b)=30/70〜95/5であるエラストマー成分(a+b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂100重量部に、針状あるいは板状の無機物を10〜60重量部含有する塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0007】本発明でいう針状の無機物とは、長径が短径の3倍以上の針状、紡錘状、円柱状等の粒子形状を有する無機物を意味し、例えば、ワラストナイト、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム等が挙げられる。本発明でいう板状の無機物とは、いわゆる板状だけでなく、鱗片状、薄片状の形状の無機物を意味し、例えば、タルク、マイカ、合成ハイドロサルタイト等が挙げられる。これらの針状又は板状の無機物の添加量は、塩化ビニル系グラフト共重合体100重量部に対して、10〜60重量部である。添加量が10重量部未満では、線膨張率の改善効果が不十分であり、また60重量部を超えると耐衝撃性、成形加工性が低下する。
【0008】上記エラストマー成分は、製造される塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂の耐衝撃性を向上させるために配合するものであり、本発明の効果を十分に発現させるためには、平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)と平均粒子径が0.2μm以上のエラストマー成分(b)との2種類のエラストマー成分からなる必要がある。エラストマー成分(a)の平均粒子径が0.15μm以上になると、エラストマー成分(b)の平均粒子径との際が明瞭にならず、エラストマー成分の二様分布化による耐衝撃性向上効果が十分に得られず、塩化ビニル系樹脂組成物は耐衝撃性が不十分となってしまう。また、平均粒子径が小さすぎると微粒子を多数含むことになり成型時の金型付着、外観不良等の原因になるため、好ましくは0.05μm以上が好ましい。また、エラストマー成分(b)の平均粒子径が0.20μm未満であると、エラストマー成分(a)との粒子径との違いが明確にならず、ゴム成分の二様分布化による耐衝撃性向上効果が発揮されがたいためである。また、平均粒子径が大きすぎると引張強度などの機械的強度が著しく低下するために上記範囲に限定される。好ましい範囲としては0.20〜1μmである。
【0009】エラストマー成分(a)とエラストマー成分(b)の重量比は30/70〜95/5に限定される。エラストマー成分(a)の含有量が上記エラストマー成分全体中30重量%未満であると、アクリル系共重合体の粒子間距離が大きくなってしまい、最終的に得られる成形体の耐衝撃性が発現しにくくなり、含有量が90%を越えると、ゴム成分の二様分布化による耐衝撃性向上効果が発揮されがたくなる。好ましい範囲は50/50〜90/10(重量比)である。
【0010】また、エラストマーを構成するモノマーとしては、充分な柔軟性を塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂に付与するため、その単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上0℃未満であるのが好ましい。
【0011】さらに、上記エラストマー成分としては、単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上0℃未満である少なくとも1種類の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー(以下、アクリル系モノマーと称する)からなるアクリル系共重合体であることが好ましく、本発明においては、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。尚、(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマーとは、(メタ)アクリレート、又は、(メタ)アクリレートと共重合可能な他のラジカル重合性モノマーと(メタ)アクリレート(50重量%以上)との混合モノマーである。
【0012】上記単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上0℃未満の(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチルアクリレート(Tg=−24℃、以下かっこ内に温度のみを示す)、n−プロピルアクリレート(−37℃)、 n−ブチルアクリレート(−54℃)、イソブチルアクリレート(−24℃)、sec−ブチルアクリレート(−21℃)、n−ヘキシルアクリレート(−57℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−85℃)、n−オクチルアクリレート(−85℃)、イソオクチルアクリレート(−45℃)、イソノニルアクリレート(−85℃)、n−デシルアクリレート(−70℃)、n−オクチルメタクリレート(−25℃)、n−ノニルメタクリレート(−35℃)、n−デシルメタクリレート(−45℃)、ラウリルメタアクリレート(−65℃)等が挙げられる。なお、上記単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるラジカル重合性モノマーの単独重合体のガラス転移温度は、高分子学会編「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」(1986年、培風館社)によった
【0013】上記エラストマー成分として、更に好ましくは、単独共重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるアクリル系モノマーからなる共重合体(コア部)40〜90重量%に、単独共重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満であるアクリル系モノマーからなる混合モノマー(シェル部)10〜60重量%をグラフト共重合せしめたコアーシェル構造からなるアクリル系共重合体である。アクリル系共重合体にコア−シェル構造を持たせることにより、アクリル系共重合体の耐衝撃性向上効果をより高めることが可能となる。即ち、コア部を、単独共重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるアクリル系モノマーで形成せしめることにより、コア部がより柔軟になり、高速の歪みに対しても十分な柔軟性を示すことによりより耐衝撃性が向上する。一方、シェル部を、単独重合体のガラス転移温度が−55℃以上で0℃未満であるアクリル系モノマーで形成せしめることにより、柔軟性を保ちながら、コア部の合着を防止することができ、効果的に耐衝撃性を向上させることが可能となる。
【0014】上記単独共重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるラジカル重合性モノマーは本発明のアクリル系共重合体粒子の中心部(以下コアとする)を形成し、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させる目的で使用され、高速の歪みに対しても充分な柔軟性を要することより単独重合体のガラス転移温度が−60℃未満であることが必要であり、−60℃であれば特に種類は限定されないが、工業的に一般に使用されるポリマーのガラス転移温度を鑑みて−140℃以上が適当である。上記ラジカル重合性モノマーとしては、例えば、n−ヘプチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−メチルヘプチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ノニルアクリレート、2−メチルオクチルアクリレート、2−エチルヘプチルアクリレート、n−デシルアクリレート、2−メチルノニルアクリレート、2−エチルオクチルアクリレート等が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、上記単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるラジカル重合性モノマーの単独重合体のガラス転移温度は、高分子学会編「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」(1986年、培風館社)によった。
【0015】上記単独共重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートはコアポリマー存在下で重合され、本発明のアクリル系共重合体粒子の外殻部(以下シェルとする)の主成分を形成し、塩化ビニル系樹脂の耐衝撃性を向上させると共にコアの低ガラス転移ポリマーを被覆してアクリル系共重合体の粒子の粘着性を低減される目的で使用される。従って、単独重合体のガラス転移温度が−55℃以上であることが必要であり、ある程度の柔軟性を保持する上で0℃未満が必要である。上記単独重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、クミルアクリレート、n−ヘプチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−メチルヘプチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ノニルメタクリレート、2−メチルオクチルメタクリレート、2−エチルヘプチルメタクリレート、n−デシルメタクリレート、2−メチルノニルメタクリレート、2−エチルオクチルメタクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、上記単独重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートモノマーの単独重合体のガラス転移温度は、高分子学会編「高分子データ・ハンドブック(基礎編)」(1986年、培風館社)によった。
【0016】また、上記アクリル系共重合体には、上記塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂の耐衝撃性を向上させ、更に、上記アクリル系共重合体を製造する際、及び、製造後の上記アクリル系共重合体の粒子の合着を抑制するために多官能性モノマーが併用されるのが好ましい。
【0017】上記多官能性モノマーとしては、例えば、ジ(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1.6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、トリ(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。また、その他の多官能性モノマーとしては、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルサクシネート、トリアリルイソシアヌレート等のジもしくはトリアリル化合物、ジビニルベンゼン、ブタジエン等のジビニル化合物等が挙げられ、これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】上記アクリル共重合体における上記多官能性モノマーの量は、アクリル系共重合体を形成する、単独重合体のガラス転移温度が−140以上0℃未満である(メタ)アクリレートと、これと共重合可能なラジカル重合性モノマーから成る混合モノマー成分100重量部に対して、0.1〜10重量部が好ましく、上記多官能性モノマーの配合量が、0.1重量部未満では、アクリル共重合体が塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂中で独立した粒子形状を保てなくなるため、塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂の耐衝撃性が低下する。一方、10重量部を越えると、アクリル系共重合体の架橋密度が高くなり、有効な耐衝撃性が得られなくなるため上記範囲に限定される。
【0019】本発明において、上記アクリル系共重合体を得る方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。これらの中では、耐衝撃性の発現性がよく、アクリル系共重合体の粒子径の制御が行い易い点から乳化重合法が望ましい。なお、上記共重合とは、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等すべての共重合をいう。
【0020】上記乳化重合法は、従来公知の方法で行うことができ、例えば、必要に応じて、乳化分散剤、重合開始剤、pH調整剤、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0021】上記アルキル(メタ)アクリレートを共重合する方法としては特に限定されず、例えば、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられる。好ましくは、耐衝撃性の発現がよく、上記アルキル(メタ)アクリレート共重合体よりなる樹脂粒子の粒子径を制御しやすい乳化重合法を用いる。上記乳化重合法においては、乳化分散剤及び重合開始剤を用いることができる。
【0022】上記乳化分散剤は、アクリル系モノマー成分と多官能性モノマーとの混合物(以下、混合モノマーともいう)の乳化液中での分散安定性を向上させ、重合を効率的に行うために用いるものである。上記乳化分散剤としては特に限定されず、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、部分ケン化ポリ酢酸ビニル、セルロース系分散剤、ゼラチン等が挙げられる。これらの中では、アニオン系界面活性剤が好ましく、上記アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルサルフェート(ハイテノールN−08、第一工業製薬社製)等が挙げられる。
【0023】上記重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水等の水溶性重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の有機系過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系開始剤等が挙げられる。
【0024】上記乳化重合法の種類は特に限定されず、例えば、一括重合法、モノマー滴下法、エマルジョン滴下法等が挙げられる。
【0025】上記一括重合法は、ジャケット付重合反応器内に純水、乳化分散剤、及び、混合モノマーを一括して添加し、窒素気流加圧下で撹拌して充分乳化した後、反応器内をジャケットで所定の温度に昇温し、その後重合させる方法である。
【0026】上記モノマー滴下法は、ジャケット付重合反応器内に純水、乳化分散剤、及び、重合開始剤を入れ、窒素気流下による酸素除去及び加圧を行い、反応器内をジャケットにより所定の温度に昇温した後、混合モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0027】上記エマルジョン滴下法は、混合モノマー、乳化分散剤、及び、純水を撹拌して乳化モノマーを予め調製し、次いで、ジャケット付重合反応器内に純水、及び、重合開始剤を入れ、窒素気流下による酸素除去及び加圧を行い、反応器内をジャケットにより所定の温度に昇温した後、上記乳化モノマーを一定量ずつ滴下して重合させる方法である。
【0028】上記アルキル(メタ)アクリレート樹脂がコアーシェル構造を有している場合においても、その形成方法は特に限定されないが、例えばまず、コア部を形成する混合モノマー、純水及び乳化剤から調整した乳化モノマー液に重合開始剤を加えて重合反応を行い、コア部の樹脂粒子を形成し、次いでシェル部を構成する混合モノマー液、純水及び乳化剤から調整した乳化モノマー液を添加し、上記コア部にシェル部をグラフト共重合させる方法等が挙げられる。
【0029】このようにして得られたアクリル系共重合体は、上記コア部の表面を上記シェル部が三次元的に覆い、上記シェル部を構成する共重合体と上記コア部を構成する共重合体とが部分的に共有結合し、上記シェル部が三次元的な架橋構造を形成している。上記方法において、上記シェル部のグラフト共重合は、上記コア部の重合と同一の重合行程で連続して行ってもよい。
【0030】上記コア部とシェル部の割合は、上記乳化重合法において、コア部を形成する混合モノマーとシェル部を形成する混合モノマーとの割合を調整することによって調節可能であり、要求される性能に応じて適宜決定される。
【0031】上記したような重合方法において、反応終了後に得られるアクリル系共重合体の固形分比率は、アクリル系共重合体の生産性、重合反応の安定性の点から10〜60重量%が好ましい。
【0032】本発明の塩化ビニル系グラフト共重合体は、上記アクリル系共重合体1〜30重量%と塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%とをグラフト重合させて得られる。上記アクリル系共重合体の配合量が1重量%未満では、製造される塩化ビニル系グラフト共重合体が充分な耐衝撃性を得ることができず、30重量%を越えると、製造される塩化ビニル系グラフト共重合体の曲げ強度や引張強度等の機械的強度が低くなるため上記範囲に限定される。更に、上記アクリル系共重合体の好ましい配合量は、4〜20重量%である。
【0033】上記塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーとは、塩化ビニル、又は塩化ビニルと共重合可能なモノマーと塩化ビニル(50重量%以上)との混合モノマーであり、塩化ビニルと共重合可能なモノマーとしては特に限定されることなく通常のモノマーが使用され得る。
【0034】上記塩化ビニル系グラフト共重合体樹脂中のポリ塩化ビニルの重合度は、小さすぎても大きすぎても充分な成形品の成形性が得られにくくなるため、300〜4000が適当であり、好ましくは400〜1600である。
【0035】上記アクリル系共重合体に、塩化ビニルをグラフト共重合させる方法としては、特に限定されず、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法等が挙げられる。これらの中では、懸濁重合法が好ましい。上記懸濁重合法により重合を行う際には、分散剤、重合開始剤等が用いられる。
【0036】上記分散剤としては、特に限定はされないが、上記アクリル系共重合体の分散安定性を向上させ、塩化ビニルのグラフト重合を効率的に行う目的で添加される。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸塩−アルキルアクリレート共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル及びその部分ケン化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン、無水マレイン酸−スチレン共重合体等が挙げられ、これらは単独または2種類以上組み合わせて用いることができる。
【0037】上記重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル重合開始剤がグラフト共重合に有利であるという理由から好適に用いられる。例えば、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジオクチルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエートα−クミルパーオキシネオデカノエート等の有機パーオキサイド類、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0038】塩化ビニルをグラフト共重合させる際に、重合中に重合槽内に付着するスケールを減少させる目的で、上記アクリル系共重合体の分散溶液に、凝集剤が添加されても良い。更に、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤等が添加されてもよい。
【0039】上記懸濁重合法としては、例えば、以下の方法を用いることができる。すなわち、温度調整機、及び、撹拌機を備えた反応容器に、純水、上記アクリル系共重合体分散溶液、分散剤、重合開始剤、及び、必要に応じて水溶性増粘剤、重合度調節剤を投入する。その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、更に撹拌条件下で塩化ビニルを主成分とするビニルモノマーを投入した後、反応容器内をジャケットにより加熱し、塩化ビニルのグラフト共重合を行う。このとき、重合温度は30〜90℃、重合時間2〜20時間が好ましい。
【0040】上記した懸濁重合法では、ジャケット温度を変えることにより反応容器内の温度、つまり重合温度を制御することが可能である。反応終了後は、未反応の塩化ビニル等を除去しスラリー状にし、更に脱水乾燥することにより塩化ビニル系グラフト共重合体が製造される。
【0041】上記の製造方法で得られた塩化ビニル系グラフト共重合体は、アクリル系共重合体にポリ塩化ビニルの一部が直接結合しているので、耐衝撃性に優れるとともに機械的強度にも優れる。
【0042】このような塩化ビニル系グラフト共重合体は、上記特性を有しているため、耐衝撃性、機械的強度を要する成形品に好適に用いられる。
【0043】上記塩化ビニル系グラフト共重合体を用いた成形品もまた本発明の1つである。塩化ビニル系樹脂組成物を成形することにより、本発明の成形品を得る場合には、必要に応じて熱安定剤、安定化助剤、滑剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、充填剤等を添加してもよい。
【0044】上記熱安定剤としては、特に限定されず、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等の有機錫安定剤、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】上記安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】上記滑剤としては、特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】上記加工助剤としては、特に限定されず、例えば、重量平均分子量10万〜200万のアルキルアクリレート/アルキルメタクリレート共重合体であるアクリル系加工助剤が挙げられ、具体例としては、n−ブチルアクリレート/メチルメタクリレート共重合体、2−エチルヘキシルアクリレート/メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】上記酸化防止剤としては、特に限定されず、例えば、フェノール系抗酸化剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】上記顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記充填剤としては特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、タルク等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】また、上記成形品を得る場合には、成形時の加工性を向上させる目的で、上記塩化ビニル系グラフト共重合体に可塑剤を添加してもよい。上記可塑剤としては特に限定されず、例えば、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】上記した各種配合剤を塩化ビニル系グラフト共重合体に混合する方法としては、特に限定されず、例えば、ホットブレンドによる方法、コールドブレンドによる方法等が挙げられる。また、上記塩化ビニル系グラフト共重合体の成形方法としては、特に限定されず、例えば、押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法等が挙げられる。
【0052】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明するが、下記の例に限定されるものではない。
〔アクリル系共重合体の製造〕表1に示した、コア層、及びシェル層を形成するためのモノマー(以下、それぞれをコア層形成用モノマー、シェル層形成用モノマーという)をそれぞれ、所定量の純水(モノマー100重量部に対し60重量部)、及び、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアンモニウムサルフェート(全モノマー100重量部に対して1.0重量部)を混合、撹拌し、それぞれの乳化モノマー液を調製した。
【0053】次に撹拌機及び還流冷却器を備えた反応器に、純水を入れ(全モノマー100重量部に対し160重量部)、容器内の酸素を窒素により置換した後、撹拌下で反応温度を70℃まで昇温した。昇温終了後、反応器に開始剤(全モノマー100重量部に対し過硫酸アンモニウム0.5重量部)、及び、コア層形成用モノマー液の50%を一括して投入し、重合を開始した。続いて、コア層形成用モノマー液の残りを滴下した。コア層形成用モノマーの滴下が終了次第、更に、シェル層形成用モノマー液を順次滴下した。乳化モノマーの滴下を所定時間(a1:1時間、a2:3時間、b1:8時間)で終了し、その後、1時間の熟成期間をおいた後、重合を終了して固形分濃度約30重量%のアクリル系共重合体ラテックス(a1)、(a2)、(b1)を得た。得られたアクリル系共重合体の粒子の平均粒子径は、光散乱粒度計(光散乱粒度計DLS−7000:大塚電子(株)製)にて測定し、結果を表1に示した。
【0054】〔塩化ビニル系グラフト共重合体の作製〕
(A1〜A2、B1〜B4)撹拌機及びジャケットを備えた重合器に、純水170重量部、表2及び表3に記載のアクリル系共重合体ラテックス(固形分として9重量部)、部分けん化ポリビニルアルコール(クラレポバールL−8、クラレ社製)の3%水溶液5重量部、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトローズ60SH50、信越化学社製)の3%水溶液2.5重量部、t−ブチルパーオキシピバレート0.03重量部、硫酸アルミをアクリル系共重合体固形分に対してアルミニウムイオンが3000ppmとなるよう一括投入し、その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、更に攪拌条件下で塩化ビニル100重量部を投入した。その後、ジャケット温度の制御により重合温度57.5℃にてグラフト重合を開始した。
【0055】重合器内の圧力が0.72MPaの圧力まで低下したところで塩化ビニルモノマーの重合率が80%になるので反応終了を確認し、消泡剤(東レシリコンSH5510、東レ社製)を加圧添加した後に反応を停止した。その後、未反応の塩化ビニルモノマーを除去し、更に脱水乾燥することにより塩化ビニル系樹脂を得た。塩化ビニル系樹脂中の塩化ビニルの重合度は約1000であった。その結果を表2に示しておく。
【0056】〔塩化ビニル系樹脂組成物の作成〕
(実施例1〜4、比較例1〜5)表4及び表5の組成に従い、上記で得られた塩化ビニル系樹脂、ワラストナイト(商品名:SH600、キンセイマティック社製)、マイカ(商品名:A300、大塚化学社製)、有機錫系安定剤(商品名:ONZ−7F、三共有機合成社製)を1.0部、滑剤(商品名:WAX−OP、クラリアントジャパン)0.5部を、スーパーミキサー(100L、カワタ社製)にて攪拌混合して塩化ビニル系樹脂組成物を得た。
【0057】(成型品の製作)得られた塩化ビニル系樹脂組成物を190℃で3分間ロール混練した後、200℃で3分間プレスした厚さ3mmの塩化ビニル系樹脂成型品を成形した。
【0058】〔評価〕得られた各ポリ塩化ビニル系樹脂成型品ついて、下記の評価を行った。結果を表4及び5に示した。
(線膨張率)上記成型品サンプルを用い、プラスチックの線膨張試験方法(JIS K 7197)に則り、測定温度:23℃〜70℃、昇温速度:は5℃/minで線膨張率を測定した。
(耐衝撃性)硬質プラスチックのシャルピー衝撃試験方法(JIS K 7111)に準拠し、エッジワイズ衝撃試験片を用い、測定温度:23℃でシャルピー衝撃強度を測定した。
【0059】
【表1】


【0060】
【表2】


【0061】
【表3】


【0062】
【表4】


【0063】
【表5】


【0064】
【発明の効果】本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(A)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(B)とからなり、かつエラストマー成分の重量比が(A)/(B)=30/70〜95/5である塩化ビニル系樹脂(A+B)100重量部に、針状あるいは板状無機物を10〜60重量部含有することにより、また、平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)の重量比が(a)/(b)=30/70〜95/5となるエラストマー成分(a+b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂100重量部に、針状あるいは板状無機物を10〜60重量部含有することにより無機充填ポリ塩化ビニル樹脂に衝撃改良剤を添加する系と比較して線膨張率を保持しつつ耐衝撃性をより向上させることができ、雨樋、窓枠部材等の住宅資材、硬質塩化ビニル管、継手などの管工機材等で特に線膨張率、耐衝撃性を必要とする用途に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(A)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂(B)とからなり、かつエラストマー成分の重量比が(A)/(B)=30/70〜95/5である塩化ビニル系樹脂(A+B)100重量部に、針状あるいは板状の無機物を10〜60重量部含有すること特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】 平均粒子径が0.15μm未満のエラストマー成分(a)と平均粒子径0.2μm以上のエラストマー成分(b)の重量比が(a)/(b)=30/70〜95/5であるエラストマー成分(a+b)1〜30重量%に塩化ビニルを主成分とするビニルモノマー70〜99重量%をグラフト共重合して得られる塩化ビニル系樹脂100重量部に、針状あるいは板状の無機物を10〜60重量部含有すること特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】 上記エラストマー成分は、単独重合体のガラス転移温度が−140℃以上0℃未満である少なくとも1種類の(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部と、多官能性モノマー0.1〜10重量部とからなるアクリル系共重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】 上記単独共重合体のガラス転移温度が−140℃以上−60℃未満であるラジカル重合性モノマー100重量部及び多官能性モノマー0.1〜1重量部の共重合体40〜90重量%に、単独共重合体のガラス転移温度が−55℃以上0℃未満である(メタ)アクリレートを主成分とするラジカル重合性モノマー100重量部及び多官能性モノマー1.5〜10重量部の混合モノマー10〜60重量%をグラフト共重合したコアーシェル構造からなることを特徴とする請求項3に記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】 針状の無機物がウォラストナイトであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載の塩化ビニル系樹脂組成物からなる成形体。

【公開番号】特開2003−253082(P2003−253082A)
【公開日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−52128(P2002−52128)
【出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】