説明

ポリ塩化ビフェニル類の定量方法

【課題】ポリ塩化ビフェニル類を含有する疎水性試料中よりポリ塩化ビフェニル類の定量に妨害となる共存物質を、簡便な操作で、十分に除去して、ポリ塩化ビフェニル類を定量し得る分析方法を提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビフェニル類を含有する疎水性試料を、ゲル浸透クロマトグラフィーで処理した後、該処理で得た主としてポリ塩化ビフェニル類よりなる分取物を用い、ガスクロマトグラフにてポリ塩化ビフェニル類を定量する方法において、ゲル浸透クロマトグラフィーで処理した後のガスクロマトグラフに供する分取物を、予め濃硫酸で処理した後、ガスクロマトグラフを用いポリ塩化ビフェニル類を定量する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビフェニル類の定量方法に関し、更に詳しくは疎水性試料中のポリ塩化ビフェニル類の定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスなどに使用されている絶縁油などの疎水性試料に含まれるポリ塩化ビフェニル類〔以下、PCB類と略称することがある。〕を定量するに際しては、PCB類の定量に妨害となる共存物質を予め除去することが必要であるが、このような共存物質には、カラムクロマトグラフ処理などの通常の処理方法だけでは分離が困難なものもある。このため、非特許文献1〔平成12年12月28日厚生省告示第633号で改正された平成4年7月3日厚生省告示第192号の別表第二「特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法」〕に記載された、いわゆる公定法では、疎水性試料を濃硫酸と液−液接触させて処理する操作を繰り返したのちに、共存物質を上記カラムクロマトグラフ処理などの処理方法により除去する方法が開示されている。また、同様な絶縁油中のPCB分析の前処理として、非特許文献2[絶縁油中のPCBs分析におけるゲルクロマトグラフィーを用いた前処理方法:環境化学Vol.13,No.4,pp.1033−1040,2003]には、試料を硫酸処理し、次いでゲル浸透クロマトグラフィー〔以下、GPCと略称することがある。〕を用いた処理方法が開示されている。
【0003】
GPCでの処理前に、PCB類を含有する疎水性試料を濃硫酸で処理する方法は、絶縁油中に含まれるPCB類の定量に妨害となる共存物質を分解し、GPCで絶縁油等の疎水性試料からPCB類を分離する際に、合わせてこれら分解物も分離できることより極めて有効な方法である。
【0004】
しかしながら、該試料の前処理方法として予め濃硫酸で処理し、次いでGPCで処理する併用方法においても、PCB類との分離が困難な共存物質を十分に除去し得るものではなく、更に優れた除去方法の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】平成12年12月28日厚生省告示第633号で改正された平成4年7月3日厚生省告示第192号の別表第二「特別管理一般廃棄物及び特別管理産業廃棄物に係る基準の検定方法」
【非特許文献2】絶縁油中のPCBs分析におけるゲルクロマトグラフィーを用いた前処理方法:環境化学Vol.13,No.4,pp.1033−1040,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
かかる事情下に鑑み、本発明者等はより優れた疎水性試料中よりPCB類の定量に妨害となる共存物質の除去方法を見出すべく鋭意検討した結果、理由は詳らかではないが、従来、PCB類を含有する疎水性試料の前処理として、GPCによる処理(疎水性試料とPCB類の分離)に先立ち行うとされていた濃硫酸での処理を、GPCによる処理後に得られたPCB類に対し行う場合にはPCB類の定量に妨害となる共存物質が著しく減少することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、ポリ塩化ビフェニル類を含有する疎水性試料を、ゲル浸透クロマトグラフィーで処理した後、該処理で得た主としてポリ塩化ビフェニル類よりなる分取物を用い、ガスクロマトグラフにてポリ塩化ビフェニル類を定量する方法において、ゲル浸透クロマトグラフィーで処理した後のガスクロマトグラフに供する分取物を、予め濃硫酸で処理することを特徴とするポリ塩化ビフェニル類の定量方法を提供するにある。
【0008】
また、本発明は、濃硫酸での処理が、分取物と濃硫酸の液−液処理であることを特徴とする上記記載のポリ塩化ビフェニル類の定量方法を提供するにある。
【0009】
更に、本発明は、濃硫酸での処理が、分取物と濃硫酸を含浸させた硫酸シリカゲルとの液−固処理であることを特徴とする上記記載のポリ塩化ビフェニル類の定量方法を提供するにある。
【0010】
加えて、本発明は、ガスクロマトグラフが、高分解能ガスクロマトグラフであることを特徴とする上記記載のポリ塩化ビフェニル類の定量方法を提供するにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来よく知られていたPCB類を含有する疎水性試料を濃硫酸で処理し、次いでGPCで処理した後、高分解能ガスクロマトグラフを用いて疎水性試料中のPCB類を定量する方法に比較し、PCB類の定量に妨害となる共存物質を著しく減少せしめることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1により得たA社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図2】実施例2により得たA社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図3】比較例1により得たA社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図4】実施例3により得たB社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図5】実施例3により得たC社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図6】実施例4により得たB社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図7】実施例4により得たC社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図8】比較例2により得たB社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図9】比較例2により得たC社使用済み絶縁油のクロマトグラムである。
【図10】PCB標準品のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法に適用される疎水性試料は、疎水性の液体試料であって、例えばトランス、コンデンサーなどの電気機器に絶縁、冷却などのために封入されて使用される絶縁油、該絶縁油を分解処理して得られる分解処理油などの油性試料が挙げられる。かかる油性試料は希釈されることなくそのまま用いてもよいし、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどのような疎水性溶媒で希釈して用いてもよい。
【0014】
また、疎水性試料としては、例えば焼却炉から排出される煤塵、燃え殻、土壌から採取される土質試料などの固形試料、雨水、排水などの水質試料などから、n−ヘキサン、トルエンなどのような疎水性溶媒により抽出されたPCB類を含む疎水性溶液も挙げられる。
【0015】
固形試料や水質試料から疎水性溶媒によりPCB類を抽出するには、例えば固形試料または水質試料を上記のような疎水性溶媒と接触させればよい。
【0016】
固形試料または水質試料から疎水性溶媒によりPCB類を抽出することにより得られた疎水性溶媒抽出液は、そのまま疎水性試料として用いてもよいが、通常は、PCB類と共に抽出される他の共存物質を分離するために、n−ヘキサン、トルエンなどの疎水性溶媒抽出液からPCB類を極性有機溶媒でさらに抽出し、得られた極性有機溶媒抽出液からPCB類を疎水性溶媒に転溶させる。かかる極性有機溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、n−メチルピロリドンなどが挙げられる。極性有機溶媒抽出液から疎水性溶媒に転溶させるには、例えば極性有機溶媒抽出液に水を加えたのち、疎水性溶媒により抽出すればよい。
【0017】
本発明の実施において、PCB類を定量する疎水性試料は、先ずGPC処理に供する。本発明で使用するGPC装置およびその使用条件は特に制限されるものではなく、例えば島津製作所のLC−20AD&CTO−20A−分取装置や米国ウォーターズ社のW2690−Fraction CollectorIIや515&717Plus−WFCIIIなどで液体クロマトグラフ部(カラム層と液送ポンプ)と分取装置が付属のもの等が使用される。また、使用カラムとしてはCLNpak EV−2000(内径20mm、長さ30cm)やCLNpak PAE−800(内径8mm、長さ30cm)等が使用される。溶離液としては酢酸エチル/シクロヘキサン(容量比3/7)、流速4.2ml/分やヘキサン/アセトン(容量比70/30〜90/10)、流速4〜6mL/分、さらにはアセトン/シクロヘキサン(容量比95/5〜80/20)、流速0.8mL/分等がカラム等との組み合わせで使用される。カラムの温度は使用する溶離液の沸点未満で行えばよく、通常約30〜50℃の範囲で実施される。
【0018】
分取したPCB溶出液にはPCB類の定量に妨害となる共存物質が存在するので、濃硫酸と接触せしめPCB類の定量に妨害となる共存物質を分解せしめる。濃硫酸による処理方法は特に制限されないが、例えば、PCB分取液にヘキサンやヘプタン等の有機溶媒を加えた後、容器内に供給し、これに濃硫酸を加え、スターラー等を用いて緩やかに0.5〜5時間、通常1〜3時間攪拌処理する。硫酸処理に用いるPCB分取液を含有する有機溶媒と濃硫酸の混合割合は特に制限されないが、容量比で1:1〜5:1、通常2:1〜3:1の範囲で行えばよい。また、有機溶媒を加えるPCB分取液は必要に応じ溶媒留去等の方法で濃縮して用いてもよい。更に攪拌処理はPCB分取液と濃硫酸の十分な接触によりPCB分取液中のPCB類の定量に妨害となる共存物質を分解せしめる目的で行うものであるから、かかる目的を達成し得る方法であれば、例えば容器を振とうさせPCB分取液と濃硫酸を接触せしめる方法を用いてもよい。攪拌後の処理液は、分液ロート等に移し入れ、静置して非油層(主として濃硫酸)と油層を分離し、非油層は廃棄する。かかる硫酸での処理は1回でもよいが、必要に応じ複数回行ってもよい。次いで残った油層にアルカリ水溶液を添加して中和処理した後、静置して非油層と油層を分離し、非油層は廃棄する。油層中に残存する水溶性不純物を除去する目的で、純水を加え振とう等により混合処理した後、静置して非油層と油層を分離し、非油層は廃棄する。かかる純水による洗浄操作は静置分離した非油層の色等を判断材料として必要に応じ複数回行ってもよい。水洗処理後の油層は脱水材等を加えて脱水処理する。脱水処理後の油層は必要に応じて濃縮し、ガスクロマトグラフを用いてポリ塩化ビフェニル類を定量する試料として供する。ガスクロマトグラフに用いる試料は、通常1μL程度であるから、これに併せて硫酸処理量は決定すればよい。
本発明において濃硫酸とは、90%(質量%)以上の濃度を有する硫酸、普通には、濃度約96〜約98%(質量%)の硫酸を意味するが、好ましくは市販の試薬特級(濃度98%)の適用が推奨される。
【0019】
上記方法はいわゆるPCB溶出液を濃硫酸で処理する液−液処理であるが、硫酸処理の別法としてPCB溶出液を濃硫酸を含浸させた硫酸シリカゲルを用い処理することもできる。本発明に適用する濃硫酸を含浸させた硫酸シリカゲルとしては、特に制限されないが、例えば容器底部よりガラス繊維ろ紙、硝酸銀シリカゲル層、シリカゲル層、硫酸シリカゲル層、無水硫酸ナトリウム層が順次積層されたエンプティーリザーバー等の小型濾過用容器(カラム)を用いればよい。このようにして形成された乾式の硫酸シリカゲル・硝酸銀シリカゲルカラムに、PCB分取液を上部より導入し、硫酸と接触処理せしめればよい。カラムに導入するPCB分取液は必要に応じ溶媒留去等の方法で濃縮して用いてもよく、また複数回に分けてカラムに導入してもよい。PCB分取液をカラムに導入後、次いでヘキサン等の溶媒を導入し、カラムに付着するPCB類をヘキサン等の溶媒に溶出し、カラム底部に設置した容器で回収する。回収したPCB類を含有する溶媒は必要に応じて濃縮し、ガスクロマトグラフを用いてポリ塩化ビフェニル類を定量する試料として供すればよい。
【0020】
硫酸処理後の試料は次いで、ガスクロマトグラフを用い該試料中のPCB類を定量すればよい。使用するガスクロマトグラフは特に制限されるものではなく公知のものであればよいが、キャピラリーカラムを装着できる高分解能ガスクロマトグラフ(キャピラリーガスクロマトグラフ)がより望ましい。検出器は特に制限されるものではなく公知のものであればよいが、例えばガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)、電子捕獲型検出器(ECD)を備えたガスクロマトグラフ〔以下、GC/ECDと略称することがある。〕などが挙げられる。
【0021】
本発明において、液−液硫酸処理後の試料はそのままガスクロマトグラフにより試料中に含有されるポリ塩化ビフェニル類を定量してもよく、必要に応じて脱水処理後の油層(試料)を市販のシリカゲル充填層を通過させ、油層中に残存する共存物質を更に除去してもよい。かかるシリカゲル充填層での処理としては、例えばカラムにシリカゲル、水酸化カリウム被覆シリカゲル、硫酸被覆シリカゲルなどを充填したシリカゲルカラムに硫酸処理後の試料を通過させることにより行われる。シリカゲル充填剤は、カラムに単独充填して使用しても良く、多層構成の多層シリカゲルカラムとして使用しても良い。シリカゲルカラム通過後の試料は、溶媒留去などの方法により濃縮してもよい。
【0022】
このようにガスクロマトグラフによる疎水性試料中のPCB類の定量に際し、試料の前処理方法として、GPC処理の後、硫酸処理を行う方法が、何故従来一般的に実施されていた硫酸処理の後GPC処理を行う方法に比較し、PCB類の定量に妨害となる共存物質の除去に著しく優れた効果を発現するのか、その理由は詳らかではないが、疎水性試料に濃硫酸を作用させた場合には、共存物質の分解除去と同時に新たな妨害物質が疎水性試料成分と濃硫酸との反応によって生成し、精製効率が頭打ちとなるが、疎水性試料を硫酸処理に先立ちGPCで処理し、次いで濃硫酸と作用させる場合は、疎水性試料と濃硫酸の反応により生成する新たな妨害物質の量が著しく減少するため、精製効率が向上するものと考えられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例によって限定されるものではない。
【0024】
実施例1
A社使用済みの絶縁油を用い、該絶縁油中に含有されるPCB類をGC/ECD法で分析した。分析に際し、ガスクロマトグラフ用試料としての前処理は以下の手順、並びに条件で実施した。分析結果を図1に示す。図中、横軸記載の約8.5min〜約32minの範囲がPCB類検出範囲である。尚、比較のため、PCB標準品のクロマトグラムを図10に示す。
【0025】
(GPC処理)
使用済み絶縁油0.8gをGPC溶離液(酢酸エチル/シクロヘキサン---容量比3/7)5mLに溶解して得た試料のうち2mLをGPC装置に注入して、PCB溶出範囲を分取した。この分取液をロータリーエバポレーターを用い5mLまで濃縮し、これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕を加えて10mLに希釈した。
【0026】
(液−液硫酸処理)
100mLの三角フラスコに上記GPC処理で得た希釈液10mLを移し入れ、これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕10mLを添加、次いで濃硫酸(濃度98%)〔和光純薬工業社製、試薬一級〕10mLを添加し、攪拌子を入れスターラーで内部試料が飛びちらないように緩やかに2時間攪拌した。
【0027】
攪拌後、この溶液を100mLの分液ロートに移し入れ、静置法により油層(n−ヘキサン試料液)と非油層(硫酸)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。溶液の移し入れに際しては、三角フラスコの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も分液ロートに移し入れた。
【0028】
次いで非油層を排出した上記分液ロートに0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液〔和光純薬工業社製、試薬一級〕10mLを添加し、手で緩やかに振混ぜた後、約5分間、静置により油層と非油層(KOH)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0029】
次いで非油層を排出した上記分液ロート上部より壁面を洗浄するように純水10mLを添加し、手で緩やかに振混ぜた後、約5分間、静置法により油層と非油層(水)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0030】
上記、純水での洗浄処理を再度繰り返し、非油層を排出した後、分液ロートに残った油層を100mLのビーカーに移し入れた。溶液の移し入れに際しては、分液ロートの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も上記と同じビーカーに移し入れた。
【0031】
次いで上記ビーカーに無水硫酸ナトリウム〔和光純薬工業社製、「残留農薬試験用」〕5gを添加し、手で緩やかに攪拌した後、ろ紙を使用してろ過分離し、ろ過後の油層をロータリーエバポレーターで1mLまで濃縮した。
【0032】
(ECD測定)
上記で得たn−ヘキサン試料液について、ガスクロマトグラフ(ECD検出器付き)〔GC/ECD装置〕により、PCB類を定量した。
【0033】
定量に用いたGC/ECD装置の構成および条件は以下の通りである。
ガスクロマトグラフ部
カラム:キャピラリーカラム:DB−5ms〔J&W社製:長さ30m、内径0.25mm、膜圧0.1μm〕
カラム温度: 60〜300℃(昇温速度:1〜20℃/分)
注入量:1μL
注入口温度:280℃
キャリアガス:ヘリウムガス、1mL/分
【0034】
ECD部
温度:300℃
【0035】
実施例2
実施例1と同じ絶縁油を用い、分析に際し、ガスクロマトグラフ用試料としての硫酸処理方法が異なる以外は、実施例1と同じ装置、条件で、該絶縁中に含有されるPCB類をGC/ECD法で分析した。その結果を図2に示す。図中、横軸記載の約8.5min〜約32minの範囲がPCB類検出範囲である。
【0036】
(GPC処理)
使用済み絶縁油0.8gをGPC溶離液(酢酸エチル/シクロヘキサン---容量比3/7)5mLに溶解して得た試料のうち2mLをGPC装置に注入して、PCB溶出範囲を分取した。この分取液をロータリーエバポレーターを用い0.5mLまで濃縮した。
【0037】
(硫酸シリカゲルの製造)
1000mL分液ロートにシリカゲル(和光純薬工業社製、ワコーゲルDX、238-01781)100gを供給し、これに硫酸(濃度98%)〔和光純薬工業社製、試薬特級〕83gを添加し、添加物がさらさらの状態になるまで約1時間振とうし、44%硫酸シリカゲルを得た。
【0038】
(硝酸銀シリカゲル・硫酸シリカゲルカラムの製造)
6mLポリプロピレン製注射筒(ジーエルサイエンス(株)、5010-60102)にガラス繊維ろ紙(Toyo RoshiKaisha,LTD ADVANTEC GLASS FIBER FILTER GA-100,13mm)を敷き、先ず10%硝酸銀シリカゲル(和光純薬工業社製、「ダイオキシン類分析用」、197-11611)0.2gを充填し、次にシリカゲル(和光純薬工業社製、ワコーゲルDX、238-01781)0.5gを上記10%硝酸銀シリカゲル層の上に充填し、次に上記方法で製造した44%硫酸シリカゲル2gを上記シリカゲル層の上に充填し、更に上記硫酸シリカゲル層の上に無水硫酸ナトリウム〔和光純薬工業社製、「残留農薬試験用」、197-07125〕0.5gを充填、積層した。
【0039】
(液−固硫酸処理)
このようにして得た硝酸銀シリカゲル・硫酸シリカゲルを充填してなる注射筒(カラム)をスピッツ管(内径16.5mm長さ105mm)の上に配設し、GPC処理で得た濃縮液0.5mLをパスツールピペットを使用して注射筒に移し入れ、濾過液はスピッツ管に貯液した。GPC処理で得た濃縮液容器を約1mLのn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕で洗浄し、この洗浄液を注射筒に移し入れた。この操作をスピッツ管への貯液量が7mLになるまで繰り返した後、次いで自動濃縮装置(ユースエンジニアリング(株)社製、AUTOMATIC EVAPORATER ACMD-120)を用いて約0.5mLに濃縮した。これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕を加えて1mLに定容した。
【0040】
(ECD測定)
上記で液−固硫酸処理で得たn−ヘキサン試料液を用い、ガスクロマトグラフ(ECD検出器付き)〔GC/ECD装置〕により、PCB類を定量した。定量に用いたGC/ECD装置の構成および条件は実施例1と同一である。
【0041】
比較例1
実施例1と同じ絶縁油を用い、分析に際し、ガスクロマトグラフ用試料としての前処理条件が違う以外は、実施例1と同じ装置、条件で、該絶縁中に含有されるPCB類をGC/ECD法で分析した。その結果を図3に示す。図中、横軸記載の約8.5min〜約32minの範囲がPCB類検出範囲である。
【0042】
(硫酸処理)
100mLの三角フラスコに、実施例1で用いたと同じ使用済み絶縁油(PCBが存在しないもの)0.8gと、n−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕20mLを添加し、これに硫酸(濃度98%)〔和光純薬工業社製、試薬特級〕10mLを添加し、攪拌子を入れスターラーで内部試料が飛びちらないように緩やかに2時間攪拌した。
【0043】
攪拌後、この溶液を100mLの分液ロートに移し入れ、静置法により油層(n−ヘキサン試料液)と非油層(硫酸)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。溶液の移し入れに際しては、三角フラスコの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も分液ロートに移し入れた。
【0044】
次いで非油層を排出した上記分液ロートに0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液〔和光純薬工業社製、試薬一級〕10mLを添加し、手で振混ぜた後、約5分間、静置法により油層と非油層(KOH)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0045】
次いで非油層を排出した上記分液ロート上部より壁面を洗浄するように純水10mLを添加し、手で振混ぜた後、約5分間、静置法により油層と非油層(水)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0046】
上記、純水での洗浄処理を再度繰り返し、非油層を排出した後、分液ロートに残った油層を100mLのビーカーに移し入れた。溶液の移し入れに際しては、分液ロートの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も上記と同じビーカーに移し入れた。
【0047】
次いで上記ビーカーに無水硫酸ナトリウム〔和光純薬工業社製、「残留農薬試験用」〕5gを添加し、手で緩やかに攪拌した後、ろ紙を使用してろ過分離し、ろ過後の油層をロータリーエバポレーターで3mLまで濃縮した。
【0048】
(GPC処理)
上記硫酸処理により得た濃縮液(n−ヘキサン試料液)3mLをGPC溶離液(酢酸エチル/シクロヘキサン---容量比3/7)で5mLに定容した。このようにして得た試料2mLをGPC装置に注入して、PCB溶出範囲を分取した。次いで、この分取液をロータリーエバポレーターを用い(0.5mLまで)濃縮し、これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕を加えて1mLに定容した。
【0049】
(ECD測定)
上記GPC処理で得たn−ヘキサン試料液を用い、ガスクロマトグラフ(ECD検出器付き)〔GC/ECD装置〕により、PCB類を定量した。定量に用いたGC/ECD装置の構成および条件は実施例1と同一である。
【0050】
実施例3
B社使用済み絶縁油とC社使用済み絶縁油を用い、該絶縁油中に含有されるPCB類をGC/ECD法で分析した。分析に際し、ガスクロマトグラフ用試料としての前処理は以下の手順、並びに条件で実施した。B社使用済み絶縁油の分析結果を図4、C社使用済み絶縁油の分析結果を図5に示す。図中、横軸記載の約8.5min〜約32minの範囲がPCB類検出範囲である。
【0051】
(GPC処理)
使用済み絶縁油0.7gをGPC溶離液(酢酸エチル/シクロヘキサン---容量比3/7)5mLに溶解して得た試料のうち2mLをGPC装置に注入して、PCB溶出範囲を分取した。この分取液をロータリーエバポレーターを用い5mLまで濃縮し、これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕を加えて10mLに希釈した。
【0052】
(液−液硫酸処理)
100mLの三角フラスコに上記GPC処理で得た希釈液10mLを移し入れ、これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕10mLを添加、次いで濃硫酸(濃度98%)〔和光純薬工業社製、試薬一級〕10mLを添加し、攪拌子を入れスターラーで内部試料が飛びちらないように緩やかに2時間攪拌した。
【0053】
攪拌後、この溶液を100mLの分液ロートに移し入れ、静置法により油層(n−ヘキサン試料液)と非油層(硫酸)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。溶液の移し入れに際しては、三角フラスコの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も分液ロートに移し入れた。
【0054】
次いで非油層を排出した上記分液ロートに0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液〔和光純薬工業社製、試薬一級〕10mLを添加し、手で緩やかに振混ぜた後、約5分間、静置により油層と非油層(KOH)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0055】
次いで非油層を排出した上記分液ロート上部より壁面を洗浄するように純水10mLを添加し、手で緩やかに振混ぜた後、約5分間、静置法により油層と非油層(水)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0056】
上記、純水での洗浄処理を再度繰り返し、非油層を排出した後、分液ロートに残った油層を100mLのビーカーに移し入れた。溶液の移し入れに際しては、分液ロートの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も上記と同じビーカーに移し入れた。
【0057】
次いで上記ビーカーに無水硫酸ナトリウム〔和光純薬工業社製、「残留農薬試験用」〕5gを添加し、手で緩やかに攪拌した後、ろ紙を使用してろ過分離し、ろ過後の油層をロータリーエバポレーターで1mLまで濃縮した。
【0058】
(ECD測定)
上記で得たn−ヘキサン試料液について、ガスクロマトグラフ(ECD検出器付き)〔GC/ECD装置〕により、PCB類を定量した。
【0059】
定量に用いたGC/ECD装置の構成および条件は以下の通りである。
ガスクロマトグラフ部
カラム:キャピラリーカラム:DB−5ms〔J&W社製:長さ30m、内径0.25mm、膜圧0.1μm〕
カラム温度: 60〜300℃(昇温速度:1〜20℃/分)
注入量:1μL
注入口温度:280℃
キャリアガス:ヘリウムガス、1mL/分
【0060】
ECD部
温度:300℃
【0061】
実施例4
実施例3と同じ絶縁油を用い、分析に際し、GPC処理およびガスクロマトグラフ用試料としての硫酸処理方法が異なる以外は、実施例3と同じ装置、条件で、該絶縁中に含有されるPCB類をGC/ECD法で分析した。B社使用済み絶縁油の分析結果を図6、C社使用済み絶縁油の分析結果を図7に示す。図中、横軸記載の約8.5min〜約32minの範囲がPCB類検出範囲である。
【0062】
(GPC処理)
使用済み絶縁油0.35gをヘキサンに溶解して1.4mLとし、その中の0.5mLをGPC装置に注入して、PCB溶出範囲を分取した。この分取液をロータリーエバポレーターを用い0.5mLまで濃縮した。
【0063】
(硫酸シリカゲルの製造)
1000mL分液ロートにシリカゲル(和光純薬工業社製、ワコーゲルDX、238-01781)100gを供給し、これに硫酸(濃度98%)〔和光純薬工業社製、試薬特級〕83gを添加し、添加物がさらさらの状態になるまで約1時間振とうし、44%硫酸シリカゲルを得た。
【0064】
(硝酸銀シリカゲル・硫酸シリカゲルカラムの製造)
6mLポリプロピレン製注射筒(ジーエルサイエンス(株)、5010-60102)にガラス繊維ろ紙(Toyo RoshiKaisha,LTD ADVANTEC GLASS FIBER FILTER GA-100,13mm)を敷き、先ず10%硝酸銀シリカゲル(和光純薬工業社製、「ダイオキシン類分析用」、197-11611)0.2gを充填し、次にシリカゲル(和光純薬工業社製、ワコーゲルDX、238-01781)0.5gを上記10%硝酸銀シリカゲル層の上に充填し、次に上記方法で製造した44%硫酸シリカゲル2gを上記シリカゲル層の上に充填し、更に上記硫酸シリカゲル層の上に無水硫酸ナトリウム〔和光純薬工業社製、「残留農薬試験用」、197-07125〕0.5gを充填、積層した。
【0065】
(液−固硫酸処理)
このようにして得た硝酸銀シリカゲル・硫酸シリカゲルを充填してなる注射筒(カラム)をスピッツ管(内径16.5mm長さ105mm)の上に配設し、GPC処理で得た濃縮液0.5mLをパスツールピペットを使用して注射筒に移し入れ、濾過液はスピッツ管に貯液した。GPC処理で得た濃縮液容器を約1mLのn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕で洗浄し、この洗浄液を注射筒に移し入れた。この操作をスピッツ管への貯液量が7mLになるまで繰り返した後、次いで自動濃縮装置(ユースエンジニアリング(株)社製、AUTOMATIC EVAPORATER ACMD-120)を用いて約0.5mLに濃縮した。これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕を加えて1mLに定容した。
【0066】
(ECD測定)
上記で液−固硫酸処理で得たn−ヘキサン試料液を用い、ガスクロマトグラフ(ECD検出器付き)〔GC/ECD装置〕により、PCB類を定量した。定量に用いたGC/ECD装置の構成および条件は実施例3と同一である。
【0067】
比較例2
実施例3と同じ絶縁油を用い、分析に際し、ガスクロマトグラフ用試料としての前処理条件が違う以外は、実施例3と同じ装置、条件で、該絶縁中に含有されるPCB類をGC/ECD法で分析した。B社使用済み絶縁油の分析結果を図8、C社使用済み絶縁油の分析結果を図9に示す。図中、横軸記載の約8.5min〜約32minの範囲がPCB類検出範囲である。
【0068】
(硫酸処理)
100mLの三角フラスコに、実施例3で用いたと同じ使用済み絶縁油2.5gと、n−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕20mLを添加し、これに硫酸(濃度98%)〔和光純薬工業社製、試薬特級〕10mLを添加し、攪拌子を入れスターラーで内部試料が飛びちらないように緩やかに2時間攪拌した。
【0069】
攪拌後、この溶液を100mLの分液ロートに移し入れ、静置法により油層(n−ヘキサン試料液)と非油層(硫酸)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。溶液の移し入れに際しては、三角フラスコの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も分液ロートに移し入れた。
【0070】
次いで非油層を排出した上記分液ロートに0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液〔和光純薬工業社製、試薬一級〕10mLを添加し、手で振混ぜた後、約5分間、静置法により油層と非油層(KOH)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0071】
次いで非油層を排出した上記分液ロート上部より壁面を洗浄するように純水10mLを添加し、手で振混ぜた後、約5分間、静置法により油層と非油層(水)に分離し、非油層は分液ロート下部より排出した。
【0072】
上記、純水での洗浄処理を再度繰り返し、非油層を排出した後、分液ロートに残った油層を100mLのビーカーに移し入れた。溶液の移し入れに際しては、分液ロートの内壁をn−ヘキサン(上記と同じ)で洗浄し、この洗浄液も上記と同じビーカーに移し入れた。
【0073】
次いで上記ビーカーに無水硫酸ナトリウム〔和光純薬工業社製、「残留農薬試験用」〕5gを添加し、手で緩やかに攪拌した後、ろ紙を使用してろ過分離し、ろ過後の油層をロータリーエバポレーターで3mLまで濃縮した。
【0074】
(GPC処理)
上記硫酸処理により得た濃縮液(n−ヘキサン試料液)3mLをGPC溶離液(酢酸エチル/シクロヘキサン---容量比3/7)で5mLに定容した。このようにして得た試料2mLをGPC装置に注入して、PCB溶出範囲を分取した。次いで、この分取液をロータリーエバポレーターを用い(0.5mLまで)濃縮し、これにn−ヘキサン〔和光純薬工業社製、「残留農薬・PCB試験用300」〕を加えて1mLに定容した。
【0075】
(ECD測定)
上記GPC処理で得たn−ヘキサン試料液を用い、ガスクロマトグラフ(ECD検出器付き)〔GC/ECD装置〕により、PCB類を定量した。定量に用いたGC/ECD装置の構成および条件は実施例3と同一である。
【0076】
実施例1〜実施例4、比較例1および比較例2のクロマトグラムから明らかなように、疎水性溶液よりなる試料を、従来法である濃硫酸で処理し次いでGPC処理する試料の前処理方法に比し、GPC処理後に濃硫酸処理を行う本発明方法はPCB類の定量に妨害となる共存物質を著しく減少し得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、PCB類を含有する疎水性試料よりガスクロマトグラフを用いポリ塩化ビフェニル類を定量する方法において、極めて簡便な処理方法で従来公知の前処理方法に比較し、PCB類の定量に妨害となる共存物質を著しく減少し得るので、PCB類を容易に正確に定量できることとなり、廃棄物処理等の産業分野における利用可能性は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビフェニル類を含有する疎水性試料を、ゲル浸透クロマトグラフィーで処理した後、該処理で得た主としてポリ塩化ビフェニル類よりなる分取物を用い、ガスクロマトグラフにてポリ塩化ビフェニル類を定量する方法において、ゲル浸透クロマトグラフィーで処理した後のガスクロマトグラフに供する分取物を、予め濃硫酸で処理することを特徴とするポリ塩化ビフェニル類の定量方法。
【請求項2】
濃硫酸での処理が、分取物と濃硫酸の液−液処理であることを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビフェニル類の定量方法。
【請求項3】
濃硫酸での処理が、分取物と濃硫酸を含浸させた硫酸シリカゲルとの液−固処理であることを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビフェニル類の定量方法。
【請求項4】
ガスクロマトグラフが、高分解能ガスクロマトグラフであることを特徴とする請求項1記載のポリ塩化ビフェニル類の定量方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−169676(P2010−169676A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292294(P2009−292294)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)