説明

ポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法

【課題】高性能ポリベンザゾール成形品の工業生産における装置メンテナンス周期の改善、及び燐酸溶媒の金属イオン汚染抑制。
【解決手段】成形体を製造する際に、ドープを撹拌し均一分散する装置及び/又は均一分散されたドープを移送するポンプ装置の少なくともド−プ接液部分、更には濾材を高耐蝕材で構成されてなる製造装置を用いてポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高性能高分子、特に機械的強度や耐熱性に優れた高分子から成る成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香環のパラ結合等の剛直ユニットを主鎖に持つ高分子は耐熱性が高く、力学特性も優れている。これらの高分子の中でもポリベンズアゾール類は極めて耐熱性が高い高性能高分子である。これらのポリマーの重合及び成形工程はポリ燐酸を溶媒として用いる事が知られている(WolfeらMaclomolecules,1981年909頁及び915頁)。これらのポリ燐酸溶媒を利用するポリマーは実験室規模ではその性能評価がなされてきたが、近年まで工業的に生産されることはなく、工業的実施に伴う問題は議論されることはなかった。
【0003】
これらの高性能ポリマーを重合したり、繊維やフィルム等に加工する際に、剪断を加える反応機やポリマー溶液を移送するポンプ、口金から定量吐出するためのポンプでは、ポリマー溶液を加工しやすい粘性係数まで下げるために、工程温度が160℃を越える場合が多い。また、装置内での剪断発熱によってさらに高い温度になることがある。この際に、従来より用いられてきたSUS316Lやステライト鋼(三菱マテリアル)といった耐蝕材料では、ポリ燐酸が金属を腐蝕する為に装置の一部が溶けだして溶媒のリサイクルを困難にしたり、装置寿命が短くなるといった問題が生じた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はポリ燐酸溶媒を用いる高性能ポリマーを重合及び成形加工する際に、従来の装置材質を改善し反応機やポンプの寿命改善とリサイクル溶媒中の金属イオン濃度を低減しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明に係る第1発明は、ポリ燐酸溶媒とポリ燐酸に可溶なポリマーからなるドープから成形体を製造する際に、ドープを撹拌し均一分散する装置及び/又は均一分散されたドープを移送するポンプ装置の少なくともド−プ接液部分が116%ポリ燐酸175℃浸漬評価での材質溶出速度が0.1(mm/年)以下である耐蝕材であり、耐蝕材がニッケル系合金で構成されてなる製造装置を用いることを特徴とするポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法であり、第2発明は、上記第1発明の濾材を用いることを特徴とするポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
ポリ燐酸などの金属腐食性が高い溶媒を用いて、高性能高分子を加工するさいには高度な耐蝕性能を有する素材を利用しないと装置の腐食と回収溶媒への金属溶出の問題が発生する。本発明により、生産設備の腐食によるメンテナンス頻度および回収溶媒への金属の溶出が低減され製品製造コストを低減させることを可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳述する。
本発明は、Wolfeらの「Liquid Crystalline Polymer Compositions,Process and Products」 U.S.Patent 4,703,103(October 27,1987);Wolfeらの「Liquid Crystalline Polymer Compositions,Process and Products」 U.S.Patent 4,533,692(August 6,1985);Wolfeらの「Liquid Crystalline Poly(2,6−Benzothiazole) Compositions,Process and Products」 U.S.Patent 4,533,724(August 6,1985);Wolfeらの「Liquid Crystalline Polymer Compositions,Process and Products」 U.S.Patent 4,533,693(August 6,1985);Evers「Thermoxdatively StableArticulated p−Benzobisoxazole p−Benzobisthiazole Polymers」 U.S.Patent 4,359,567(November 16,1982);Tsaiらの「Method for Making Heterocyclic Block Copolymer Compositions,Process and Products」 U.S.Patent 4,578,432(March 25,1986);11 Ency.Poly.Sci.& Eng.,「Polybenzothiazoles and Polybenzoxazoles」,601(J.Wiley & Sons 1988) and W.W.Adamsら 「The Materials Science and Engineering of Rigid−Rod Polymers」(Materials Research Society1989)に記載されているようなPBO、PBT、PBIのホモポリマーのランダム、シーケンシャル、ブロック共重合ポリマー及びこれらの誘導体、およびそれらの一部を主鎖に含むポリマーをポリ燐酸溶媒を経て加工する製造方法に関する。
【0008】
ポリマーは化学構造式(c)(d)に代表されるようなAB型 かつ/または 化学構造式(a)(b)に代表されるようなAA/BB型単位であることができる。
【0009】
【化1】

【0010】
式中、各々のArは種々の芳香属基を表わす。芳香属基はピリジニレン基のようなヘテロ環であってもよい、但し炭素で環を形成している事が好ましい。芳香属基は縮合した多環基環若しくは縮合していない多環基であってもよい、但し1つの6員環が好ましい。大きさ制約はないが、芳香属基は18個以下の炭素原子を含む事が好ましく、より好ましくは12個以下の炭素原子を含む事が好ましく、さらに好ましくは6個以下の炭素原子を含む事が好ましい。AA/BB型単位のAr1は1,2,4,5−フェニレン構造もしくはその類似体である事が好ましい。AB型単位のArは1,3,4−フェニレン構造もしくはその類似体である事が好ましい。各々のZは互いが無関係に酸素原子もしくは硫黄原子もしくは窒素と水素原子である。各々のDMは互いが無関係に直接結合もしくは2価の有機構造である。2価の構造単位としては、前述の芳香属基(Ar)が好ましい。特に、1,4−フェニレン構造もしくはその類似体が好適である。各々のアゾール環の窒素原子とZ構造は隣接する芳香属基の炭素原子と結合して、5員アゾール環と芳香属基が縮合した形になっている。AA/BB型単位のアゾール環は、引用文献中の11 Ency.Poly.Sci.& Eng.,「Polybenzothiazoles and Polybenzoxazoles」,601(J.Wiley & Sons 1988)に図示されているシス型もしくはトランス型の何れであってもよい。
【0011】
ポリマーはAB−PBZ繰り返し単位もしくはAA/BB−PBZ繰り返し単位で構成される事が好ましく更に好ましくは本質的にAA/BB−PBZ繰り返し単位で構成される事が好ましい。ポリマー中のアゾール環はZが酸素原子または硫黄原子または窒素と水素である事が好ましい。
【0012】
本発明で用いる繰り返し単位は構造式(a)−(h)に示したものが好ましい。より好ましくは構造式(a)−(f)に示したものが良く、更に好ましくは構造式(a)−(d)に示したものが好適である。
【0013】
【化2】

【0014】
PBZポリマーは少なくとも平均でおよそ25以上の繰り返し単位を有する事が好ましい、より好ましくは少なくともおよそ50以上の繰り返し単位を有する事が好ましく、更に好ましくは少なくともおよそ100以上の繰り返し単位を有する事が好ましい。AA/BB−PBZ剛直鎖の極限粘度数は、25℃メタンスルフォン酸の測定で、少なくともおよそ10dl/g以上である事が好ましい、より好ましくは少なくともおよそ15dl/g以上である事が好ましく、更に好ましくは少なくともおよそ20dl/g以上である事が好ましい。ある用途に対しては極限粘度数は、少なくともおよそ25もしくは30dl/gであることが最適である。極限粘度数は、60dl/gであってもよいが、40dl/gである事が好ましい。半剛直なAB−PBZポリマーの極限粘度数は、少なくともおよそ5dl/g以上である事が好ましい、より好ましくは少なくともおよそ10dl/g以上である事が好ましく、更に好ましくは少なくともおよそ15dl/g以上である事が好ましい。
【0015】
このポリマーあるいはコポリマーは、モノマーもしくはオリゴマーをポリ燐酸溶媒中で反応させることで好ましい繰り返し単位まで重合する事ができる。
【0016】
ポリマーのポリ燐酸溶媒の濃度斑をなくしかつミクロ分散させることは成形品の欠点を減らし品質を安定化させる上で極めて重要である。本発明で利用する事が可能な反応機は2軸のニーダー、1軸リアクター、1軸押し出し機に分散エレメントを用いた物、2軸押し出し機が利用できる。特に高粘度に対応できる機種を選定する事が好ましい。
【0017】
本発明に利用できるポンプとして、ギヤポンプ、モーノポンプ(兵神装備)、スクリューフィーダー等が可能である。吐出圧力を高く設定できるギヤポンプが特に有用である。特に大型の設備においては長いポリマーラインを移送する際の粘性抵抗に見合った昇圧能力が必要である。
【0018】
装置から発生する燐酸溶解金属量を低減するには、ポリ燐酸溶液で潤滑された装置摺動部分を燐酸耐蝕に強い材質にする事に加えて、材料の硬度が高く摩耗に強い材質を選定する必要がある。部品を母材から加工する場合と溶射材から加工する場合があるが、組成だけでなく組織が緻密である溶射方法を選定する事が肝要である。
【0019】
燐酸耐蝕材の例としては、ハステロイ等のニッケル系合金、タンタル・ニオブ系合金、ステライト等のコバルト系合金、SUS317等のステンレス鋼、グラファイトやアルミナ等のセラミックスが利用できる。中でも特に優れているのはニッケル系合金である。さらに耐摩耗性に優れたニッケルベースのタングステンカーバイト合金やニッケル系合金のHIP(熱間等方圧加圧)処理母材が好ましい。サーメットや窒化炭素等のコーティングも有用であるが母材の耐食性とコーティングの厚みを適切にしてピンホールによる性能低下が生じないように工夫する必要がある。異種類の材料を組み合わせて使用するには、熱膨張や接合部分の残留応力に配慮することは言うまでもない。
【0020】
本発明で加工する溶液は、ポリ燐酸溶液で160℃を超える温度ではステンレス鋼のような耐食性金属でも溶かす性質がある。このために、反応機やポンプのクリアランスを変化させて、分散能力や送液能力を経時適に低下させる。また、燐酸溶媒中に金属イオンが溶出することから溶媒リサイクルする際の溶媒品質の変化が避けられない。一旦溶媒中に溶けだした金属イオンを吸着して溶媒精製することは、きわめて困難でありポリマー成形工程での金属溶出を最小限にすることは重要である。
【0021】
ポリ燐酸による装置や配管の腐食を低減させるには工程の温度を下げることが効果的であるが、利用するポリマーの重合度が高くなると溶液の粘性係数が高くなる事から温度を下げる事に限界がある。また反応機内の温度は温度を高めて反応時間を短くする事で装置サイズを小さくし、設備コストを低減できる事から高い温度でも使用可能にすることが望まれる。
【0022】
ポリ燐酸溶媒を経由して加工する高性能高分子材料ポリベンズビスオキザゾールを例として本発明を説明する。重合度がおよそ200のポリベンズビスオキサゾールポリマーのポリマー濃度がおよそ14重量パーセントであるポリ燐酸溶液から繊維を製造するために好ましい温度は165℃以上でより好ましくは170℃以上である。しかしながら、この溶液の170℃における粘度は1000Pa・s(剪断速度10毎秒)と高い為に反応機やポンプ内でのせん断エネルギーの熱消散が大きく溶液温度が著しく増大する。その為に通常の耐蝕材では腐食が進行して、装置の摩耗や好ましくない金属イオンの溶媒への溶出が進行して。装置部品の交換周期が数ヶ月と短くなったり、溶液中の金属イオン濃度が高くなるといった問題が生じる。
【0023】
高温下でポリ燐酸を加工する装置の材質として特に燐酸耐蝕に優れた物を使用する必要がある。燐酸耐蝕の評価は高い温度で確認するほど判定が容易である。従って場合によっては実際の加工温度より高い温度での評価になるが、耐蝕性が優れた材料を用いることで工業生産が安定に実施できる。本発明の評価は210℃116%ポリ燐酸溶液に素材を40時間浸漬して重量減少を測定する方法で行う。評価温度が210℃よりも低いと材料の溶出量が小さく測定が困難である。また230℃以上では評価容器として用いるガラスの溶出が多く実施が困難である。ポリ燐酸濃度には特に制約はないが、市販で入手が容易な116%で評価する。浸漬時間は40時間を標準として24時間あたりの溶出量を計算する。耐蝕性が高い材料については100時間、耐食性が不十分な材料については4時間程度まで評価時間を短縮しても1(mm/年)を超えるかの判定が出来れば支障はない。
【0024】
180℃で重合度200のポリベンズビスオキサゾールの14%溶液を加工する場合に使用する耐蝕材としては1(mm/年)以下さらに好ましくは0.5(mm/年))以下より好ましくは0.1(mm/年)以下である。
【0025】
ポリ燐酸溶液を加工する反応機やポンプはポリ燐酸溶液で潤滑されているが、部品の擦れによる摩耗と燐酸による溶解が同時に起こる。二軸押し出し機やギヤポンプの寿命を伸ばすには材料の硬度を上げることが必須である。このような用途に適した冶金材料として、ステライトが利用されてきたが燐酸耐蝕が不十分で長期間の使用に耐えない。本発明に適した材料としてはプラストハード(三菱マテリアル製)等のニッケル系合金およびニッケルベースのタングステンカーバイド含有合金等である。摺動による摩耗の耐性が充分である材料の硬度はHRC20以上、より好ましくはHRC40以上、さらに好ましくはHRC50以上である。耐蝕性に優れて硬度が高い素材としては、前記したWC含有材料、ニッケルベース合金に好適な物がある。
【0026】
製造工程における金属溶出に着目した場合、濾過部材は接液面積が大きく耐蝕材に変える効果が高い。一般に濾過部材は100ミクロン以下の細線で構成されている。SUS316を用いても短期間で部材の強度がなくなってしまい濾過機能を果たせなくなる。SUS316Lの溶出速度は、170℃では0.09(mm/年)であるが、180℃では0.19(mm/年)と2倍になる。実際に100×800メッシュのあやたたみ織りのSUS316L金網を用いた場合、170℃では1ヶ月使用可能であったものが、180℃では2週間で金網の破片が流れ出して使用不可となった。溶出速度は遅い方が好ましく、連続使用期間が長くないと交換ロスでポリマー屑が多くなる等の不都合が生じる。特に、好ましい濾過材料としては、SUS316やSUS317やスーパーステンレ鋼NAS354N(日本冶金工業)、さらにハステロイC―22が好適である。
【0027】
成型品への異物混入を防ぐ目的で、濾過を行う。必要な濾過精度は成型品の種類により異なり、フイルム用途では異物突起となるサイズ以上の物を捕捉する。繊維では、紡糸での糸破断に影響するサイズ以上の固形物を捕捉する必要がある。濾材が溶出する事によって、目開きが大きくなり所望の濾過精度を維持できなくなる前に濾材を交換する必要がある。また、細い線径のワイヤーの不織布を用いる場合などは溶出が進行すると線材そのものがちぎれて流れ出して製品中に欠点として入ってしまう。このような不具合を防止するために、濾材の交換周期を非常に短くすると、交換に伴うロスが増えるばかりでなく溶媒中に溶け込む金属イオン量が増大してしまう。好ましい、濾材の耐蝕性能としては濾過温度(175℃)での燐酸による材質溶出速度が0.1(mm/年)以下より好ましくは、0.05(mm/年)以下、さらに好ましくは0.02(mm/年)である。
【実施例】
【0028】
以下の実施例は説明だけの目的であり、これらにより本発明の明細書および特許請求の範囲の何れに対しても制約を与えるものではない。断りがない場合には分量およびパーセンテージはすべて重量で示す。
【0029】
<燐酸溶媒による材料溶出速度評価法>厚さ2mm、幅10mm、長さ30mmの材料を、メチルアルコールで洗浄後風乾した後、電子天秤で秤量して室温下で直径50mmのパイレックス製ビーカーに150ccの116%といっしょに入れる。210℃の熱風循環式乾燥器(ヤマト科学株式会社製DS−64)に入れて、所定温度に上がる(約10分)を含めて40時間後にビーカーをとりだす。室温で徐冷した後に試料のまわりの燐酸を拭き取り流水中で5分間水洗してから精製水に1時間浸漬し風乾する。試料を電子天秤で秤量して重量減少を測定したデータと試料表面積、および材料密度のデータから減量速度を求める。取り扱う溶液の性質上流動下での耐蝕評価は実施せず、上記の静置場(自然対流のみ)での評価で材料の燐酸への溶出速度を評価した。
<硬度値>JIS Z2245(1998年)記載のロックウエル硬さ、Cスケール値を材料提供メーカーから入手した。
【0030】
参考例1
極限粘度数30dl/gのシス−ポリベンツオキサゾールポリマーを14重量%溶かしたポリ燐酸溶液を、200℃の呼び径90mm、L/D=30の2軸押し出し機で混練し、その先端に設置した150cc/revのギヤポンプで20MPaに昇圧して、流量400kg/時で供給した。この時の2軸押し出し機出口でのポリマードープ温度は205℃で、装置の材質は2軸押し出し機のスクリューおよびバレルがハステロイC−276、 ギヤポンプの接液部分は住友電工製M23Sであった。装置を連続して5ヶ月運転したが、ギヤポンプの吐出効率の低下がなく安定して生産を継続することができた。
【0031】
ハステロイC−276とイゲタロイM23Sの210℃の116%燐酸への溶出速度はそれぞれ、0.07mm/年と0.08mm/年であった。
【0032】
比較例1
参考例1において、ギヤポンプをステライト#3で製作したところ、ポリマー溶液温度205℃の条件では3ヶ月でギヤポンプの吐出効率が95%から76%に低下したために、新しいギヤポンプと交換する必要があった。
【0033】
ステライト#3の210℃の116%燐酸への溶出速度は、4.1mm/年であった。
【0034】
参考例2
参考例1において、2軸押し出し機のバレルのハステロイC―276製シリンダーは3ヶ月の運転後にスクリューニーダーとの接触部分に深さ0.12mmの傷が多数生じた。シリンダーをすべて三菱マテリアル製MAプラストハード−Sを使用したところ、6ヶ月の運転でシリンダー内壁には0.05mm以上の傷がつかなかった。
【0035】
ハステロイC−276とMAプラストハード−Sの210℃の116%燐酸への溶出速度はそれぞれ、0.07mm/年と0.16mm/年であった。硬度の測定値は、ハステロイC−276はHRCで20未満(HRBで90)、MAプラストハード−SではHRCで40であった。耐蝕性で十分であっても材料硬度が不足すると装置の摩耗が著しい。
【0036】
比較例2
極限粘度数30dl/gのシス−ポリベンツオキサゾールポリマーを14重量%溶かしたポリ燐酸溶液を、197℃の呼び径30mm、L/D=35の2軸押し出し機で混練し、その先端に設置した10cc/revのギヤポンプで13MPaに昇圧して、流量20kg/時で供給した。この時の2軸押し出し機出口でのポリマードープ温度は200℃で、装置の材質は2軸押し出し機のスクリューおよびバレルがステライト#6、 ギヤポンプの接液部分はステライト#6であった。装置を間欠運転で延べ3ヶ月運転したが、2軸押し出し機の材料溶出によりクリアランスが0.3mmから1.1mmまで拡大し、ギヤポンプの吐出効率は95%から77%まで低下した。この運転中に回収された10%オルト燐酸水溶液中の金属イオン濃度を測定したところ、クロムイオンが10ppm検出された。
【0037】
ステライト#6の210℃の116%燐酸への溶出速度は、3.5mm/年で、硬度値はHRCで44であった。耐蝕性能が悪いと生産設備としては利用することができない。
【0038】
(実施例1)
米国特許4533693号示す方法により得られた、30℃のメタンスルホン酸溶液で測定した固有粘度が28.4dL/gのポリベンゾオキサゾール14.0(重量)%と五酸化リン含量率83.2%のポリリン酸からなる紡糸ドープを紡糸に用いた。2軸混練装置で混練と脱泡を行った後、ギヤポンプで昇圧し、重合体溶液を175℃に保つた配管中を紡糸頭内に設置したスピンパックに移送した。スピンパック内はハステロイC−22の800X100メッシュ(線径は0..065mmと0.1mm)のあやたたみ織り金網濾材を通過さる構造になっていた。孔数664を有する紡糸口金から175℃で紡出し、温度60℃の冷却風を用いて吐出糸条を冷却した後、凝固浴中に導入した。紡速350m/分で引き取り連続してオンラインで紡糸・凝固・水洗(中和)・乾燥を行ない平均で1112デシテックスの強度38cN/デシテックスの高強度ポリベンズビスオキサゾール繊維が得られた。このスピンパックを1ヶ月間連続使用したところ。平均糸切れ回数は0.07件/日であった。
(比較例3)
同じ紡糸頭内に並列しで設置されたハステロイC−22の代わりにSUS316Lの800X100メッシュ(線径は0.065mmと0.1mm)のあやたたみ織り金網濾材を取り付けたスピンパックで孔数664を有する紡糸口金から175℃で紡出したところ同様に平均で1115デシテックスの強度38cN/デシテックスの高強度ポリベンズビスオキサゾール繊維が得られた。このスピンパックでは運転初期の10日間は糸切れがなかったが、その後1日あたり1件の糸切れが発生し13日目にスピンパックを取り外して内部を分解したところ金網の細線がやせて裏が透けるようになっており、とことどころ細線が切れていた。
【0039】
175℃におけるハステロイC−22およびSUS316Lの116%ポリ燐酸への溶出速度はそれぞれ、0.01mm/年および0.13mm/年であった。SUS316Lは175℃のポリベンザゾール溶液では濾材として利用が困難である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ燐酸溶媒とポリ燐酸に可溶なポリマーからなるドープから成形体を製造する際に、ドープを撹拌し均一分散する装置及び/又は均一分散されたドープを移送するポンプ装置の少なくともド−プ接液部分が116%ポリ燐酸175℃浸漬評価での材質溶出速度が0.1(mm/年)以下である耐蝕材であり、耐蝕材がニッケル系合金で構成されてなる製造装置を用いることを特徴とするポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法。
【請求項2】
請求項1記載の濾材を用いることを特徴とするポリ燐酸溶液から成形体を製造する方法。

【公開番号】特開2010−116663(P2010−116663A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289279(P2009−289279)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願平11−353591の分割
【原出願日】平成11年12月13日(1999.12.13)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】