説明

ポンプ機構を有するマイクロ流体デバイス、その製造方法、及び液体移送方法

【課題】 駆動装置又は逆止弁などの複雑な機構が不要なポンプ機構を有するマイクロ流体デバイス、その製造方法及びそれを用いた液体の移送方法を提供する。
【解決手段】(1)刺激の変化に応答して可逆的に膨潤・収縮する、応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、前記流路の流れ方向に応答速度の順に配設され、
(2)前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を、略同一の刺激状態に保ちながら刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、
(3)その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送するポンプ機構を有するマイクロ流体デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材中に毛細管状の微小な流路と、該流路の一部に設けられたポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスに関し、マイクロ流体デバイスにポンプ駆動用の配管や配線を接続することなく駆動できるポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスに関する。本発明はまた、ポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスの製造方法、及び、マイクロ流体デバイスの流体移送方法に関する。
【0002】
本発明のマイクロ流体デバイスは、化学や生化学の微小反応装置(マイクロ・リアクター);化学分析、生化学分析、医療診断などの分野に於ける微小分析デバイス;質量スペクトルや液体クロマトグラフィーなどの分析試料調製用微小デバイス;抽出、膜分離、透析、分散、微粒子化などの化学的処理デバイスなどとして使用される。
【背景技術】
【0003】
非特許文献1には、シリコンゴムで形成された液体流路と、該流路とシリコンゴムの隔壁を隔てて形成された加圧用空洞を有するマイクロ流体デバイスが記載されている。そして、流路の3カ所に相対する位置に設けられた加圧用空洞に配管を通じて圧縮空気を導入し、シリコンゴム隔壁をたわめて流路側に押し出すことによって流路断面積を減少させて流路を遮断し、これを3カ所の空洞について順次行うことで液体の移送を行う方法が記載されている。
【0004】
本発明者等による特許文献1には、磁力の作用によりダイヤフラムを変形させてポンプ室の容積を変化させ、逆止弁を併用して流路中の流体を移送するポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスが開示されている。
【0005】
本発明者等による特許文献2には、毛細管状の流路の途上に、磁性流体が装填された毛細管状のシリンダの一端を接続し、該シリンダに磁力を周期的作用させて磁性流体をシリンダ中で往復運動させ、逆止弁を併用して、流路中の流体を移送する流体移送方法が開示されている。
【0006】
本発明者等による特許文献3には、ダイヤフラム外面に凸状構造が設けられていて、該凸状構造を含む範囲を外部から圧迫することによってダイヤフラムが選択的に圧迫されるダイヤフラム式ポンプ機能を有するマイクロ流体デバイスが開示されている。
【0007】
本発明者等による特許文献4には、エネルギー線硬化性樹脂を素材として用いた、ダイヤフラム型ポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスの製造方法が開示されている。
【0008】
本発明者等による特許文献5には、毛細管状の流路の途中に、流体の加圧による圧力差で開く弁と、二箇所の圧迫部からなるマイクロ流体デバイスポンプと、それを用い、前記二箇所の圧迫部を前記弁の方向へ順次圧迫する流体移送方法が開示されている。
【0009】
本発明者等による特許文献6には、毛細管状の流路の途中に、流体の加圧により開く弁と、圧迫により変形する圧迫部位を有するマイクロ流体デバイスポンプを使用し、前記圧迫部位を圧迫して流路断面を変形させながら該圧迫部位を前記弁の方向へ移動させる流体移送方法が開示されている。
【0010】
本発明者等による特許文献7には、弁室内にゲルで形成された弁体が配設された逆止弁と、該逆止弁を用いたダイヤフラム式ポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスが開示されている。
【0011】
しかし、上記のポンプ機構はいずれもマイクロ流体デバイスを、配管で接続された流体の圧力や機械的圧迫や磁力の移動によって個別に駆動するものであり、多数のマイクロ流体デバイスを同時に運転する際には、多くの駆動機構が必要となった。即ち、多数並列運転により分析の処理速度向上や反応スクリーニングの速度向上を図ろうとすると、大がかりな駆動装置が必要であった。
【0012】
一方、刺激応答性ゲルを用いたバルブ機構として、本発明者等による特許文献8及び特許文献9には、多孔質の刺激応答性ゲルを用いたバルブ機構が開示されている。
また、本発明者等による特許文献10には、温度応答性ゲルを弁体とし、温度で開閉できる微小バルブ機構とその製造方法が開示されている。
【非特許文献1】「サイエンス(SCIENCE)」誌(第288巻、113頁、2000年)
【特許文献1】特開2003-083256
【特許文献2】特開2004-088843
【特許文献3】特開2003-139065
【特許文献4】特開2003-139660
【特許文献5】特開2005-163585
【特許文献6】特開2005-019495
【特許文献7】特開2004-225788
【特許文献8】特開平06-228215
【特許文献9】特開平06-228216
【特許文献10】特開2002-066999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、多数のマイクロ流体デバイスを同時に運転する際にも、マイクロ流体デバイスを個別に駆動するための多数の駆動装置を必要としないポンプ機構を有するマイクロ流体デバイス、さらに、逆止弁などの複雑な機構が不要な上記のポンプ機構を有するマイクロ流体デバイス、その製造方法、及び液体の移送方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記課題を解決するためには、刺激応答性ゲルをアクチュエーターとして用い、かつ、応答速度の異なる刺激応答性ゲルを並べてアクチュエーターとすることにより、外部から非接触の繰り返し刺激を特定の場所に限定することなく与えても、多数のポンプ機構を同時に駆動することが出来ることを見いだし、本発明に到達した。
【0015】
即ち本発明は、毛細管状の流路と、前記流路の途中に設けられ、前記流路中の流体を移送するためのポンプ機構とを備えたマイクロ流体デバイスであって、
前記ポンプ機構が、
(1)刺激の変化に応答して可逆的に膨潤・収縮する、応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、膨潤度が高くなる刺激状態においては流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる位置に、前記流路の流れ方向に応答速度の順に配設され、
(2)前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を、略同一の刺激状態に保ちながら刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、
(3)その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送する
機構を有することを特徴とするマイクロ流体デバイスを提供するものである。
【0016】
また、本発明は、上記のマイクロ流体デバイスの製造方法であって、
(1)互いに応答速度の異なる刺激応答性ゲルAと刺激応答性ゲルBをそれぞれ形成すべき部分に、エネルギー線照射によって刺激応答性ゲルA及びBをそれぞれ形成しうる前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbを配し、前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbに対してエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルA及びBを形成する工程
又は
(2)前記刺激応答性ゲルAを形成すべき部分を含む範囲に、前記刺激応答性ゲル形成用組成物aを配し、前記刺激応答性ゲルAを形成すべき部分にエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルAを形成し、さらに、前記刺激応答性ゲルBを形成すべき部分を含む範囲に、前記刺激応答性ゲル形成用組成物bを配し、前記刺激応答性ゲルBを形成すべき部分にエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルBを形成する工程
を含むことを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、毛細管状の流路を備えたマイクロ流体デバイスの、前記流路中の流体を移送する方法であって、
(1)刺激の変化に応答して可逆的に膨潤・収縮する、応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、膨潤度が高くなる刺激状態においては流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる位置に、前記流路の流れ方向に応答速度の順に配設され、
(2)前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を、略同一の刺激状態に保ちながら刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、
(3)その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送する
ことを特徴とするマイクロ流体デバイス中の流体の移送方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、多数のマイクロ流体デバイスを同時に運転する際にも、マイクロ流体デバイスを個別に駆動するための多数の複雑な駆動装置を必要としないポンプ機構を有するマイクロ流体デバイス、その製造方法及び液体移送方法を提供することができる。これにより、多数並列運転による分析の処理速度の向上や反応スクリーニングの速度の向上を計ることが容易になる。また本発明は、単純な構造で生産性の高いポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスとその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための要部について説明する。
【0020】
〔刺激応答性ゲル〕
本発明のポンプ機構を有するマイクロ流体デバイスに用いる刺激応答性ゲルは、温度、光、電場、水素イオン濃度(pH)、溶液中の塩濃度、溶液中の特定の溶質濃度などの刺激の変化に応答して体積や形状が変化するゲルである。刺激応答性ゲルの種類は用途目的に応じて選択すればよいが、これらの中で、温度応答性ゲルが、非接触による駆動が可能で、且つ駆動が容易であり、特性の制御も容易であるため好ましい。それに次いで光応答性ゲルが好ましい。
【0021】
以下、説明の煩雑さを避けるため、特記しない限り、上記の刺激応答性ゲルの内で最も好ましい温度応答性ゲルを例として本発明を説明するが、温度応答性以外の刺激応答性ゲルの場合も話は同様である。温度応答性ゲルとしては、任意の温度応答性ゲル、即ち、温度の変化によって体積が変化するゲルを使用することが出来る。ゲルの体積の変化、即ちゲルの膨張・収縮は、その機構を限定する必要はなく、例えば、ゲル−固体転移による体積変化や、ゲル相領域内での膨潤度の変化であってよい。また、例えば温度によってpHが変化する物質とpH応答性ゲルとの組み合わせなどのように、間接的に温度に応答するものであってもよい。温度応答性ゲルの寸法変化は等方的であっても非等方的であっても良い。なお、上記でいうゲルの体積とは、刺激応答性ゲルが多孔質ゲルである場合には、細孔も含む見かけの体積を言う。
【0022】
温度応答性ゲルは、膨潤媒の凝固点以上沸点以下の温度範囲、好ましくは室温付近である0℃〜60℃の範囲内の温度変化で、収縮時の体積を基準とした膨張時の体積(近似的に質量とすることが出来る)の変化量が、平衡膨潤状態(保持時間24時間の測定条件)の比にして、1.1〜100倍であることが好ましく、1.2〜10倍が更に好ましい。変化量をこの下限以上とすることにより、流路の閉塞の不完全による送液量の定量性の低下を防ぎ、また駆動のための温度差を小さくできる。変化量が上記の上限以下とすることにより、ポンプ機構の耐圧性の低下、耐久性の低下、応答速度の低下、流路内壁からのゲルの剥離脱落、ゲルの自己破壊などの防止が図れる。
温度応答性ゲルは、ゲル−固体転移温度付近で大きく体積や形状が変化するため、使用可能な温度範囲、好ましくは0℃〜60℃の温度範囲にゲル−固体転移温度を持つことが好ましい。さらに、本発明に使用する温度応答性ゲルは、下限臨界溶解温度(LCST)型の温度応答性ゲルであることが好ましい。LCST型の温度応答性ゲルは、低温側で膨張し、高温側で収縮するため、低温側である室温で流路を閉塞した状態となり、ポンプ休止時に液体を流路内に安定に保持することが容易である。
【0023】
所定温度変化によるゲルの体積の変化量は、基本的には、重合して温度応答性ゲルを形成しうる単量体(以下、「感温性単量体」と称する)によって決まるが、その他に、架橋剤の添加量の調節などによる架橋密度の調節、異なるゲル/固定転移温度を持つ感温性単量体や感温性でない単量体(以下、「非感温性単量体」と称する)との共重合、温度応答性ゲルと非温度応答性ゲルの相互貫入網目構造(IPN)形成、温度応答性ゲルと非温度応答性の線状ポリマーの相互貫入網目構造(セミIPN)形成、温度応答性ゲル中への固体粒子や非感温性ゲル粒子の分散、温度応答性ゲルが多孔質ゲルである場合にはその空隙率などによって調節することも出来る。
【0024】
本発明に使用することのできる温度応答性ゲルは、水性ゲルであっても非水ゲルであっても良いが、水性ゲルであることが、ゲル/固体転移温度や強度面からのゲルの選択幅が広く、又、体積や寸法の変化量が大きくすることが容易であるため好ましい。
【0025】
本発明のマイクロ流体デバイスが、後述の第1の方式のマイクロ流体デバイスである場合には、温度応答性ゲルは流路に流す流体で膨潤するため、温度応答性ゲルは、本流路に流す流体を膨潤媒として温度応答性ゲルとなるゲルを選択する。
【0026】
本発明のマイクロ流体デバイスが、後述の第2の方式のマイクロ流体デバイスである場合には、温度応答性ゲルは流路と隔壁で仕切られたゲル室内の流体に膨潤させるため、本流路に流す液体とは無関係な液体を膨潤媒とする温度応答性ゲルを任意に選択できる。
或いは、上記第1の方式、第2の方式を問わず、本発明のポンプ機構部分を使用目的の流路部分と直列に配置し、本発明のポンプ機構により押し出された、又は吸引される液体により、使用目的の流路の液体を移送する構造とする場合にも、本流路に流す液体とは無関係な液体を膨潤媒とする温度応答性ゲルを任意に選択できる。
【0027】
このような感温性単量体は任意のものを使用することが出来、例えば水性ゲルの場合、N−アルキル(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルキレン(メタ)アクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミドや、ミリスチル(メタ)アクリレート等の長鎖アルキル基や長鎖アルキレン基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
N−アルキル(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルキレン(メタ)アクリルアミドの例としては、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−メチルエチルアクリルアミド、N,N−メチルイソプロピルアクリルアミド、N,N−メチル−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−シクロプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N,N−シクロプロピルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン等を挙げることができる。
【0029】
長鎖アルキル基や長鎖アルキレン基を有する(メタ)アクリレートの例としては、炭素数9〜20のアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。なかでも、室温付近で転移が起こることから、N−イソプロピルアクリルアミドやミリスチル(メタ)アクリレートが好ましい。勿論、これらの感温性単量体は、これら同士、或いは感温性を示さない他の単量体との共重合体とすることも出来る。
【0030】
非水ゲルの場合、例えば架橋ポリスチレン−シクロヘキサン系のように、多くの架橋重合体−θ溶媒の組み合わせがUCST型のゲル−固体転移温度を示す。また、多くのアルケン型重合体−脂肪族又は芳香族溶媒系はLCST型のゲル−固体転移温度を示す。その他、架橋ポリイソブチレン−ベンゼン系のように、UCST型とLCST型の2つのゲル−固体転移温度を持つものもある。
【0031】
本発明で使用する温度応答性ゲルは、膨張した状態に製造すると、流路の閉塞が不十分なゲルが形成されがちである。室温で流路内壁を圧迫するほどに膨潤するゲルを形成するためには、例えば、温度応答性ゲルが収縮した状態となる温度で製造する方法、温度応答性ゲルを形成する際に使用する膨潤媒として、平衡膨潤度より小さい膨潤度となる膨潤媒量で製造する方法、温度応答性ゲルを形成する際に使用する膨潤媒として、本ポンプ機構を使用する際に用いる膨潤媒より温度応答性ゲルの膨潤度が小さいものを使用する方法、本温度応答性ゲルの膨潤媒で膨潤するゲル粒子をゲル形成材料に添加する方法、あらかじめ流路断面積よりやや大きめに作製する方法等により製造することが出来る。
【0032】
温度応答性ゲルの形成方法は任意である。好ましい方法としては、例えば、
(I)架橋重合法として、
(I−i)感温性単量体が架橋重合性単量体であって、該感温性単量体を架橋重合させる方法、
(I−ii)温度応答性ゲル素材が、非架橋重合性の感温性単量体と、該感温性単量体と共重合する架橋重合性化合物を含有し、これらを共重合させる方法、
(II)後架橋法として、
(II−i)感温性単量体から成る非架橋重合体を例えば電離放射線により架橋する方法、
(II−ii)温度応答性ゲル素材が、感温性単量体の非架橋重合体を架橋させる架橋剤、例えば光(又は熱又は水)架橋剤を含有し、感温性単量体の熱(又は光)重合に引き続いて該重合体の光(又は熱又は水)架橋反応を行う方法、
を例示できる。これらの中、上記(I−ii)の架橋重合法が製造が容易で好ましく、中でも、該架橋重合が、エネルギー線架橋重合であることが、形成速度が速く、また、容易に後述の多孔質ゲルを形成できるため好ましい。エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線の如き光線;エックス線、ガンマ線の如き電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線の如き粒子線が挙げられる。
【0033】
非架橋重合性の感温性単量体を用いる場合、これと共重合させる架橋重合性化合物は、代表的には1分子内に2個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能単量体や多官能オリゴマーを挙げることができる。このような多官能単量体としては、例えば、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン等の2官能単量体、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等の3官能単量体、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能単量体、ジペンタエリスリト−ルヘキサアクリレート等の6官能単量体等が挙げられる。これらの単量体を混合して用いることも勿論可能である。
光応答性ゲルとしては、例えばジアゾ化合物のような光によりシス-トランス転移する化合物を含有するゲルを例示できる。pH応答性ゲルとしては、フタール酸含有アクリレートを素材とする水性ゲルなどの、酸基含有水性ゲルを例示できる。塩濃度応答性ゲルとしては、カルボキシル基や燐酸基などの、中程度の強さの酸基を含有する水性ゲル、アミノ基、イミノ基などの中程度の強さの塩基基を含有する水性ゲル、アミノ酸のように、中程度の酸基と塩基を含有する水性ゲルを例示できる。溶質の有無や濃度に応答するゲルとしては、例えば該溶質と選択的にハイブリッドを形成する物質を含有するゲルを例示できる。
【0034】
エネルギー線照射により架橋可能な多官能オリゴマーは、例えば、数平均分子量が500〜50000のオリゴマー(プレポリマーとも言う)であってもよく、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端にアクリル基又はメタクリル基を有するポリウレタン樹脂等を挙げることができる。もちろんこれらのオリゴマ−同士を混合して用いることもできるし、単量体と混合して用いることもできる。
【0035】
架橋重合性化合物は、前記感温性単量体と混合可能であるか、共通溶剤を有するものであればよい。また、後述のように、多孔質の温度応答性ゲルを形成する場合には、孔形成剤と相溶するものを選択することができる。架橋重合性化合物の混合量や種類を選択することで、温度応答性ゲルの膨潤度やその変化の程度を調節することが出来る。架橋重合性化合物の添加量を増すか、或いは官能基数の多い架橋重合性化合物を使用して、架橋密度を上げるほど、温度応答性ゲルの硬度や強度は増し、寸法変化量は減少する。
【0036】
本発明においては、温度応答性ゲルの強度、硬度、膨潤度、応答温度、応答感度などを調節する目的で、温度応答性ゲル素材に、感温性単量体と共重合可能な他の重合性化合物を加えることもできる。
【0037】
感温性単量体と共重合させることの出来る他の重合性化合物としては、温度応答性ゲル素材に溶解するものであればよく、単官能の単量体又は単官能オリゴマーを使用できる。例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸エチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルセロソルブ(メタ)アクリレート、n−ビニルピロリドン、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
温度応答性ゲルは、エネルギー(架橋)重合性化合物の重合物を主たる樹脂成分とするものが、エネルギーによりパターン成形することが可能であり好ましい。エネルギー線によりパターン成形することにより、任意の位置に、任意の形状の温度応答性ゲルを形成でき、かつ支持体に固着させることが出来る。
【0038】
温度応答性ゲルは、少なくともゲル状態か固体状態の少なくとも一方に於いて多孔質であることが好ましい(以下このようなゲルを「多孔質ゲル」と称する)。多孔質ゲルとは、重合体部分と空隙部分から成る多孔質体であり、該重合体部分がゲル状の重合体又はゲル化しうる重合体で構成されている多孔質体である。該多孔質ゲルは、ゲル状態でも固体状態でも多孔質であることが、応答速度を高くできる点でさらに好ましい。
【0039】
温度応答性ゲルが固体状態で多孔質であることは、電子顕微鏡観察により多孔質であることを確認することが出来る。度応答性ゲルがゲル相状態で多孔質であることは、液体窒素によるゲル状態からの瞬間的な冷却固化と、凍結乾燥法による試料調製法を用いた電子顕微鏡観察により確認することが出来る。ゲルを多孔質とすることで、膨潤時に膨潤媒が吸収されるためのゲル内の必要拡散距離や、収縮時に膨潤媒がゲルから吐き出されるために要するゲル内の必要拡散距離が大幅に短縮されるため、膨張・収縮の応答速度が増し、それにより、膨張・収縮の応答速度が向上し、高速の液体移送が可能なポンプ機構を形成できる。
【0040】
多孔質ゲルの製造方法は任意であるが、例えば、特開平5−16076号公報に開示されている方法で製造することが出来る。即ち、感温性単量体、架橋重合性単量体、及び、これら単量体と相溶し、かつこれらの共重合体とは相溶しない化合物(以下、相分離剤と称する)の均一混合溶液(以下、「刺激応答性ゲル形成用組成物」と称する場合がある。また、応答速度の速い方の刺激応答性ゲル(刺激応答性ゲルA)を形成する刺激応答性ゲル形成用組成物を「刺激応答性ゲル形成用組成物a」、応答速度の遅い方の刺激応答性ゲル(刺激応答性ゲルB)を形成する刺激応答性ゲル形成用組成物を「刺激応答性ゲル形成用組成物b」と称する場合がある。)を調製し、この刺激応答性ゲル形成用組成物を用いて、上記の通常の温度応答性ゲル形成と同様の方法で、エネルギー線を照射して架橋重合体を形成すると共に相分離させて多孔質体となし、必要に応じて細孔中の相分離剤を使用時の膨潤媒と置換する方法により製造することが出来る。この方法において、相分離剤の混合比を多くすると、ゲル状態でも固体状態でも多孔質であるような多孔質ゲルが得られ、相分離剤を比較的少なくすると、ゲル状態で多孔質、固体状態で非多孔質であるような多孔質ゲルが得られる。また、相分離剤として温度応答性ゲルの膨潤剤を用いて、温度応答性が流が固体となる温度で架橋重合させる方法、例えばN−イソプロピルアクリルアミドの場合には、相分離剤として水を用い、30℃以上の温度で架橋重合させる方法により、相分離剤の混合比を多くすると、ゲル状態でも固体状態でも多孔質であるような多孔質ゲルが得られ、相分離剤を比較的少なくすると、ゲル状態で非多孔質、固体状態で多孔質であるような多孔質ゲルが得られる。
【0041】
相分離剤としては、感温性単量体と架橋重合性単量体の混合物とは相溶するが、該混合物にエネルギー線を照射することにより生成する架橋重合体を膨潤させず、かつエネルギー線に対して不活性なものであれば特に限定無く用いることが出来る。
【0042】
相分離剤としては、例えば一価又は多価アルコール類、カプリン酸メチル等のアルキルエステル類、ジイソブチルケトン等のジアルキルケトン類、液状ポリエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ルのモノエステル、ポリエチレングリコールのモノエーテル、ポリエチレングリコールソルビタンモノエステル、ポリエチレングリコールソルビタンジエステル、ポリエチレングリコールソルビタントリエステル、ポリエステルポリオール、ポリエチレングリコ−ルアミン等のオリゴマー類、酢酸セルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、キトサン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエ−テルスルホン、ポリウレタン、フェノキシ樹脂、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール等及びこれらの共重合体等のオリゴマーやポリマー類が挙げられる。相分離剤はこれら同士やこれらを含む混合物であってよいし、これらに生成する架橋重合体を膨潤させる溶剤を混合したものであっても良い。
【0043】
相分離剤は、エネルギー線照射により重合体を成形した後、系によっては除去せずに用いることもできるが、除去することもできる。除去は洗浄、乾燥、置換等の任意の方法を採用しうるが、相分離剤を除去する必要がある場合には、相分離剤が水溶性であることが、除去しやすい為、好ましい。
【0044】
刺激応答性ゲル形成用組成物の粘度は任意であり、弁体となる部分に塗布してエネルギー線を照射する製造方法に於いては、1〜100PaSであることが、塗布が容易であり、好ましいが、(一時的な)支持体上に塗布して、エネルギー線をパターン露光する製造方法に於いては、25℃において0.1〜10PaSであることが、塗布が容易であり好ましい。
【0045】
所定の温度変化を与えたときに、異なる応答速度を示す刺激応答性ゲルの組み合わせとしては、使用目的に応じた任意の温度変化、例えば20℃−60℃の温度変化、を与えたとき、使用目的に応じた所定の寸法変化を生じる時間が異なる温度応答性ゲルの組み合わせを用いうる。その組み合わせとしては、例えば、
(i)同一の温度変化を与えたときに、各温度での平衡膨潤度に至る速度が異なるもの(平衡膨潤度は、同じであっても異なっていてもよい)としては、
(i−a)多孔質の温度応答性ゲルに於ける空隙率が異なるもの(一方の空隙率がゼロ、即ち、非多孔質である場合を含む)、
(i−b)多孔質の温度応答性ゲルに於ける細孔径が異なるもの、
(i−c)温度応答性ゲルがフィルム状や繊維状の温度応答性ゲルの集合体であって、該フィルム状の温度応答性ゲルの厚みや繊維状の温度応答性ゲルの直径が異なるもの、
を例示でき、また、
(ii)同一の温度変化を与えたときの平衡膨潤度の差が異なるもの(平衡膨潤度に至る速度は、同じであっても異なっていてもよい)として、
(ii−a)異なるゲル−固体転移温度を持つ温度応答性ゲル、
(ii−b)膨張状態及び/又は収縮状態における平衡膨潤度が互いに異なる温度応答性ゲル、
を例示できる。勿論、これらは併用してよい。
【0046】
〔マイクロ流体デバイス〕
本発明のマイクロ流体デバイスは、その外形は特に限定する必要はなく、用途目的に応じた形状を採りうる。例えば、シート状(フィルム状、リボン状などを含む。以下同じ)、板状、塗膜状、棒状、チューブ状、その他複雑な形状の成型物などであり得るが、製造の容易さや使用の容易さから、シート状または板状であることが好ましい。マイクロ流体デバイス外から見た流路の形状は、用途目的に応じて直線、分岐、櫛型、曲線、渦巻き、ジグザグ、その他任意の形状であってよい。
【0047】
ポンプ機構を形成する部分の流路の断面形状は任意であるが、矩形、台形、円、半円形、スリット状など(矩形その他の角のある形状は、角が丸められた形状を含む。以下同じ)であり得る。ポンプ機構を形成する部分の流路の断面積も任意であるが、温度応答性ゲルを除く断面積が、好ましくは1μm〜10mm、さらに好ましくは10μm〜1mm、最も好ましくは100μm〜0.1mmである。流路断面積が上記か元以上であると製造が容易であり、上記上限以下であると良好なポンプの耐圧性や応答速度が得られる。
【0048】
流路の断面の幅(流路の長手方向に直角な断面における、最大の辺の寸法を流路の「幅」、該断面中でそれに直角な方向の寸法を流路の「高さ」又は「深さ」と称する。但し、流路の断面が円や楕円の場合には、上記「辺」の代わりに「径」とする。)は任意であるが、好ましくは、1μm〜100mm、さらに好ましくは3μm〜10mm、最も好ましくは10μm〜3mmである。流路断面の高さも任意であり、好ましくは1μm〜3mm、さらに好ましくは3μm〜1mm、最も好ましくは10〜500μmである。上記流路の幅と高さは、流路の断面積が上記の範囲内にあり、且つ上記範囲内にあることが好ましい。これらの範囲内の場合に本発明の効果が十分に発揮されるため好ましい。但し、上記は温度応答性ゲルを除いた部分の寸法とする。流路の幅や高さは一定である必要はない。 ポンプ機構部分以外の流路の断面形状や断面寸法は任意である。ポンプ機構を形成する部分の流路の断面積をその他の部分の断面積より大きくすることで、ポンプ容量即ち流体移送量を増すことが出来る。
【0049】
<第一の方式>
本発明の第1の方式のマイクロ流体デバイスは、前記刺激応答性ゲルが配設されている位置が前記流路内である。即ち、本発明の第1の方式のマイクロ流体デバイスは、流路の流路方向の内壁の一定範囲に、刺激の変化に応答して可逆的に膨潤−収縮し、膨潤度が高くなる刺激状態においては流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、流路方向に応答速度の順に配設されている。従って、本発明の第1の方式のマイクロ流体デバイスにおいては、流路内の流体を該刺激応答性ゲルの膨潤媒とする。
前記各刺激応答性ゲルの流路長さ方向の寸法の下限は任意であるが、流路幅の0.5倍以上が好ましく、1倍以上がさらに好ましく、2倍以上な最も好ましい。該下限以上とすることにより、刺激応答性がルの膨張時に確実に流路を遮断することが容易になり、ポンプ機能の再現性と吐出圧が増す。流路長さ方向の寸法の上限は、マイクロ流体デバイスの流路長の範囲であれば任意であるが、好ましくは10cm以下、さらに好ましくは5cm以下、最も好ましくは2cm以下である。この上限以下とすることにより、刺激応答性ゲルの応答速度が増し、ポンプ機能の再現性と定量性が増す。
前記複数種の刺激応答性ゲルの流路長さ方向の各寸法は同じであっても異なっていてもよいが、略同じとすることが、該ゲルの膨張・収縮に際して無理な力が掛からず、耐久性が増すため好ましい。
前記複数種の刺激応答性ゲル同士は互いに接触して配設されていても、間を開けて配設されていても良いが、該ゲルの流路長さ方向の寸法の0.1倍〜1倍程度の間隔を開けることが、ゲルの応答速度が増し、ポンプ機能の再現性と定量性が増すため好ましい。前記複数種の刺激応答性ゲルは、独立したものであっても、一体形成されたものであってもよい。
刺激応答性ゲルは、応答速度の速い方のゲルも遅い方のゲルもそれぞれポンプ機構と成す流路内に任意の状態で配設される。例えば、(a)流路が4つの内壁面で囲まれた直方体型の形状をしている場合、内壁の1面に固着し残りの3面との間に間隙を有する形状、内壁の2面に固着し残りの2面との間に間隙を有する形状、又は内壁の3面に固着し残りの1面との間に間隙を有する形状(いずれも、流路の横断面(液流れ方向と直交する流路断面)の内周の一部に刺激応答性ゲルが固着されている形状の例)、(b)どの内壁にも固着しておらず、該ゲルの配設位置を決め、流出を防止する堰や杭や網が設けられた形状であり得る。或いは、(c)流路の横断面(液流れ方向と直交する流路の断面)における全内壁に固着しており、中心に空隙を有する形状であってもよいが、上記(a)又は(b)が、定量性に勝り、吐出圧の高いポンプ機構を形成しやすく、また耐久性に勝るポンプ機構を形成しやすいため好ましい。
【0050】
(第1の方式のマイクロ流体デバイスの構造と形成方法)
このような構造を形成する方法は任意であり、例えば後述の本発明のマイクロ流体デバイスの好ましい形態において、それらを製造する方法によって好ましく製造出来るが、その他に、光造形法によっても、好ましく製造できる。
【0051】
光造形法とは、エネルギー線硬化性組成物の未硬化層にエネルギー線のパターン照射により、表面から所定の深さまでの前記未硬化層をパターン硬化させ、未照射部分の未硬化のエネルギー線を除去すること無く、その上にエネルギー線の第2層を置き(或いはエネルギー線の液面下に、第2層の厚みとなる深さだけ第1層を沈め)第2層をパターン硬化させ、この工程を繰り返して立体構造を形成する方法を言う。光造形法によれば、本マイクロ流体デバイスを任意の断面方向から形成することが出来る。
【0052】
本発明の第1の方式のマイクロ流体デバイスの好ましい形態は、部材の表面に、流路と成る溝状の欠損部を有する第1部材の該欠損部形成面に、他の第2部材が固着されることにより、第1部材の欠損部と第2部材とで流路が形成されており、該流路内に温度応答性ゲルが装着されているものである。
【0053】
第1部材の表面に形成された、流路となる溝状の欠損部は、その他の欠損部と接続されていてもよい。その他の欠損部は、例えば、第1部材を貫通する孔状の欠損部であっても良いし、第1部材の表面から第1部材内部の毛細管状の流路に連絡した形状であっても良い。
【0054】
第1部材の欠損部が、第2部材と積層されることにより、本発明のマイクロ流体デバイスの流路となる。従って、第1部材の欠損部の形状、寸法は、上述の本発明のマイクロ流体デバイスの空洞の形状、寸法と同様である。第1部材は、流路となる溝状の欠損部を有するものであることが好ましい。
【0055】
第1部材に欠損部を設ける方法、若しくは、欠損部を有する第1部材を形成する方法は任意であり、例えば、射出成型、溶剤キャスト法、溶融レプリカ法、切削、フォトリソグラフィー(エネルギー線リソグラフィーを含む)、レーザーアブレーション、X線(放射線)アブレーション、光造形法、エッチング法、蒸着法、気相重合法、溝となるべき部分を切り抜いたシート状部材と板状部材との接着などの方法を利用できる。
【0056】
第1部材は複数の素材で構成されていてもよく、例えば、表面に形成された欠損部の底と側面が異なる素材で形成されていても良い。また例えば、空洞となる欠損部を含むその周辺部のみが、その他の部分と異なる素材で形成されていて良い。
第1部材には、該欠損部以外の構造部分、例えば、マイクロ流体デバイスの用途目的に応じて、流路、貯液槽、反応槽、検出機構、バルブなどとなる構造を設けることができる。
【0057】
第1部材の形状は、特に限定する必要はなく、本発明に成るマイクロ流体デバイスの外形と同様であって良い。第1部材は第2部材との接着の容易さなどの点から、平面状の形状であることが好ましく、シート状、板状又は棒状であることが特に好ましい。第1部材側から圧迫する場合には、第1部材はシート状であることが特に好ましい。第2部材が樹脂ダイヤフラムとなる場合には、第1部材は支持体上に形成されたものであってもよい。支持体は、中硬質素材(m)又は高硬質素材(h)で形成されていることが好ましい。
【0058】
第2部材は、第1部材の欠損部が形成された面に接着し、第1部材の欠損部と第2部材で空洞を形成することが可能なものであれば、その形状、構造、表面状態などは任意であり、欠損部を設ける必要がないこと以外は、第1部材の場合と同様であるが、ほぼ均一な厚みを持つシート状又は板状であることが好ましい。
【0059】
第1部材と第2部材の固定方法や、上記第1部材や第2部材が層状部材で構成されている場合には、その各層状部材の固定方法は任意であり、例えば、クランプ、ネジ、リベットなどによる非固着の固定であり得るが、固着が好ましい。固着方法は任意であり、互いに固着させる部材の少なくとも一方が粘着力を示す半硬化状態で互いに密着させ、その状態で硬化させて固着する方法、接着剤の使用、粘着剤の使用、部材表面への溶剤塗布による接着、熱や超音波による融着、柄視の場合にはアノード接合などの方法を使用しうるが、樹脂の場合には半硬化状態で密着固化させる方法、及び、無溶剤型の接着剤の使用が好ましい。無溶剤型接着剤としてエネルギー線硬化性樹脂を用い、エネルギー線照射により硬化させて接着する方法が、生産性が高く好ましい。
【0060】
<第2の方式>
本発明はまた、前記流路の内壁の少なくとも一面の一定範囲が柔軟な隔壁であり、該隔壁の前記流路の裏面側に、刺激応答性ゲルが配設されるゲル室が設けられており、前記刺激応答性ゲルが配設される位置が前記ゲル室であるマイクロ流体デバイスであり得る。これを本発明の第2の方式のマイクロ流体デバイスと称する。
【0061】
即ち、本発明の第2の方式のマイクロ流体デバイスは、毛細管状の流路と、前記流路の途中に設けられ、前記流路中の流体を移送するためのポンプ機構とを備えたマイクロ流体デバイスであって、前記ポンプ機構が、
(1)前記流路の内壁の少なくとも一面の一定範囲が柔軟な隔壁であり、該隔壁の前記流路の裏面側に、刺激応答性ゲルが配設されるゲル室が設けられ、
(2)該ゲル室中に、刺激の変化に応答して可逆的に膨潤−収縮し、膨潤度が高くなる刺激状態においては前記隔壁を前記流路側に押し出すことによって流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる、応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、流路方向に応答速度の順に配設され、
(3)前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を、略同一の刺激状態に保ちながら刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、
(4)その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送する
機構を有することを特徴とするマイクロ流体デバイスに関する。
以下、本発明の第2の方式によるマイクロ流体デバイスの要部について説明する。
【0062】
(刺激応答性ゲル)
前記刺激応答性ゲルと同様であるが、本発明の第2の方式によるマイクロ流体デバイスに於いては、ゲルは流路とは隔壁によって隔てられているため、本流路に流す液体とは無関係な液体を膨潤媒とする刺激応答性ゲルを任意に選択できる。
【0063】
(隔壁)
本発明の第2の方式によるマイクロ流体デバイスは、流路の内壁の少なくとも一部が柔軟な隔壁とされ、該隔壁は、流路の裏側から刺激応答性ゲルで圧迫されたときに、流路側に押し出されて流路を実質的に閉塞することが可能にされている。該隔壁の素材は、他の部分の流路壁を構成する素材と同じであっても異なっていてもよいが、より柔軟な異なる素材で構成することが、マイクロ流体デバイスの耐圧性を増す意味で好ましい。該部分の内壁の厚さ×引張弾性率の値は、好ましくは10〜2000Pam、さらに好ましくは20〜1000Pam、最も好ましくは50〜500Pamである。この下限未満であると、マイクロ流体デバイスの流路の耐圧性が低くなると共に、マイクロ流体デバイスの製造が困難となる。この上限を超えると、刺激応答性ゲルの膨潤時に流路の遮蔽が不十分となりがちであり、ポンプ機構の定量性と吐出圧が低下しがちである。
該柔軟な隔壁を構成する素材としては、例えばシリコンゴム(ポリジメチルシロキサン)、ゴム類、エラストマー類、ゲルが好ましい。該隔壁を構成するゲルは本ポンプ機構の駆動に使用する刺激に対して刺激応答性でないゲルであり、このゲルの膨潤媒は流路に流す流体であってもよいし、ゲル室内の流体であってもよいし、これらのいずれとも混合しない流体であってもよい。
【0064】
(ゲル室)
前記柔軟な隔壁の前記流路の裏面側には、ゲルを配設するゲル室が設けられている。該ゲル室は前記柔軟な隔壁により前記流路と仕切られている。該ゲル室の寸法は、深さ、即ち前記隔壁の流路の裏面側からゲル室の対向面までの距離が、流路の深さの0.3〜100倍であることが好ましく、1〜10倍であることがさらに好ましい。この下限以上とするkとにより、容易に確実に流路を閉塞することが可能になり、この上限未満とすることにより、刺激の変化に迅速に応答するポンプ機構が容易に形成できる。該ゲル室の幅は、下限が流路の幅の0.3倍以上であることが好ましく、0.5倍以上であることがさらに好ましい。この下限以上とすることにより、容易に確実に流路を閉塞することが可能になる。ゲル室の幅の上限は任意であり、限定することを要しない。マイクロ流体デバイスの幅と同じであってよい。しかし、流路幅の10倍以下であることが好ましい。これ以上としても、性能上は特に利点はなく、製造が困難となりがちである。
ゲル室には本第2の方式によるマイクロ流体デバイスに用いる刺激応答性ゲルの膨潤媒が注入されているか、又は流通できるようになっている。そして、該ゲル室には前記刺激応答性ゲルが、膨潤度が高くなる刺激状態においては前記柔軟な隔壁を押して流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる位置に、前記流路の長さ方向に対して応答速度の順に配設されている。配設の方式に関しては、前記第1の方式のマイクロ流体デバイスの場合と同様である。例えば、固着されていても、固着されずに移動しないように保持されていてもよいし、固着位置も、隔壁の前記流路の裏面であっても、ゲル室の任意の内面であってもよい。刺激応答性ゲルの寸法についても、前記第1のマイクロ流体デバイスの場合と同様であるが、収縮時の高さがゲル室の深さの99%以下であるか、ゲル室の幅より小さいかの少なくとも一方であることが好ましく、両方であることがされに好ましい。これにより、刺激応答性ゲルの応答速度が増す。また、ゲルが膨潤して流路を閉塞している状態に於いても、ゲル室は膨潤媒が流通出来るように、細い溝が形成されているか、多孔質膜が配設されていることが好ましい。これにより、流路の閉状態から開状態への応答速度を速くできる。これは特に、ゲル室に刺激応答性ゲルの膨潤媒を流通させ、膨潤媒を交換することにより本ポンプ機構緒を駆動する場合に好ましい。
【0065】
(膨潤媒室)
本発明の第2の方式のマイクロ流体デバイスに於いて、膨潤媒透過性の多孔質膜を介して前記ゲル室に隣接する、流路とは独立した膨潤液室を有することも好ましい。これにより、刺激応答性ゲルが膨潤する際の膨潤媒の供給が十分に行われ、応答速度が増す。該多孔質膜は、前記隔膜より剛性が高く、刺激応答性ゲルの膨潤時に変形の度合いが少ないことが、ポンプ機能を確実に稼働させるために好ましく、そのように素材と厚みを選定することが好ましい。本発明のマイクロ流体デバイスが、本発明の好ましい構造である、樹脂層の積層構造として形成されている場合には、該膨潤媒室は、流路形成層、柔軟な隔壁層、ゲル室層、多孔質隔膜層、及び膨潤媒室層の順に積層されている構造が好ましい。
【0066】
(第2の方式のマイクロ流体デバイスの構造と形成方法)
本第2の方式によるマイクロ流体デバイスについても構造とその形成方法は任意であり、第1の方式によるマイクロ流体デバイスの場合と同様の構造を好ましく採ることができる。
即ち、本発明に於ける好ましい第2の方式によるマイクロ流体デバイスの形態は、部材の表面に達する、流路と成る欠損部を有する第1部材の欠損部が形成された面に、柔軟な隔壁をとなるフィルム状の第3部材が固着され、その裏面に、ゲル室となる欠損部を有する第4部材が積層固着されることにより、第1部材の欠損部と第3部材とで流路が形成され、第4部材の欠損部と第3部材でゲル室が形成されており、かつ、前記ゲル室に温度応答性ゲルが装着されている形態である。
【0067】
第1部材の表面に形成された、流路となる溝状の欠損部は、その他の欠損部と接続されていてもよい。その他の欠損部は、例えば、第1部材を貫通する孔状の欠損部であっても良いし、第1部材の表面から第1部材内部の毛細管状の流路に連絡した形状であっても良い。第4部材の欠損部についても同様である。また、第3部材は、第1部材の流路となる欠損部と、第4部材のゲル室となる欠損部との隔壁となれば良く、その他の部分に任意の欠損部を設けうる。
第1部材や第4部材に溝を設ける方法、各部材の積層方法や固着方法については、本発明の第1の方式によるマイクロ流体デバイスの場合と同様である。但し、第3部材は柔軟薄い部材であるため、一時的な支持体上に形成し、該一時的な支持体を除去することにより第1部材又は第4部材の表面に転写する方法が好ましい。
【0068】
[製造方法]
本発明のマイクロ流体デバイスの製造方法は、本発明に成るマイクロ流体デバイスを製造する方法であり、次の(1)又は(2)の工程を有することを特徴とする。
(1)互いに応答速度の異なる刺激応答性ゲルAと刺激応答性ゲルBをそれぞれ形成すべき部分に、エネルギー線照射によって刺激応答性ゲルA及びBをそれぞれ形成しうる前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbを配し、前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbに対してエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルA及びBを形成する工程。
(2)前記刺激応答性ゲルAを形成すべき部分を含む範囲に、前記刺激応答性ゲル形成用組成物aを配し、前記刺激応答性ゲルAを形成すべき部分にエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルAを形成し、さらに、前記流路となる溝を有する部材1の前記溝中の前記刺激応答性ゲルBを形成すべき部分を含む範囲に、前記刺激応答性ゲル形成用組成物bを配し、前記刺激応答性ゲルBを形成すべき部分にエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルBを形成する工程。
【0069】
上記に於いて、刺激応答性ゲルAを形成すべき部分は、本発明の第1の方式の場合には流路となる溝であり、第2の方式の場合にはゲル室となる溝(凹部)である。また、前記(1)又は(2)のゲル形成工程の後、流路となる溝又はゲル室となる溝を覆うように他の部材を積層することにより前記流路やゲル室を形成することが出来る。該他の部材を積層する工程は、刺激応答性ゲルが収縮した状態で行うことが、製造が容易であり好ましい。また、前記(1)又は(2)のゲル形成工程において、前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbを配する部分、即ち流路となる溝又はゲル室となる溝が、エネルギー線硬化型樹脂組成物の未硬化物又は半硬化物により形成されていることが好ましい。これにより、形成される刺激応答性ゲルが強固に外部分に固着し、信頼性と再現性に優れたポンプ機構を形成できる。
その他のマイクロ流体デバイス部分の形成方法については任意であるが、前記本発明の第1の方式と第2の方式のマイクロ流体デバイスの構造形成に関する部分で述べた方法を好ましく採ることが出来る。
【0070】
[流体送液方法]
本発明の流体移送方法は、本発明になるマイクロ流体デバイスの前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を略同一の刺激状態に保ちながら膨潤度が高くなる刺激状態と膨潤度が低くなる刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送する。移送の流量は、ポンプ機構部分の流路の容量と刺激の繰り返し周波数により決定できる。勿論、刺激の繰り返し周波数がゲルの応答速度に比べて速過ぎると移送不能となる。
【0071】
例えば、流路内の流入口に近い側に応答速度の速いゲルAが配設され、流出口に近い側に応答速度の遅いゲルBが配設されている場合、両ゲルの膨潤度が高くなる刺激状態に変化させると、応答速度の速いゲルAが先に膨張して流路を閉塞する。この時、遅いゲルBはまだ流路を開放した状態にあるから、速いゲルAによって押し出される流体の半量は流入口側へ、半量は抽出口側へ押し出される。その後、応答速度の遅いゲルBが流路を閉塞する、この時、速いゲルAは既に流路を閉塞しているから、遅いゲルBによって押し出される流体は全て流出口側へ押し出される。各ゲルにより押し出される量が等しいとすると、合計として、両ゲルにより押し出される量の1/2だけ流出口方向へ押し出される。
【0072】
次いで、膨潤度が低くなる刺激状態に変化させると、応答速度の速いゲルAが先に収縮して流路を開く。この時、遅いゲルBはまだ流路を閉じた状態にあるから、該部分へ吸引される流体の全量が流入口側から吸引される。その後、応答速度の遅いゲルBが収縮して該部分の流路を開くが、その時、速いゲルAは既に流路を開いているから、該流路部分へ吸引される流体の半量は流入口側から、半量が流出口側から吸引される。各ゲルにより吸引される量が等しいとすると、合計として、両ゲルにより吸引される量の1/2だけ流入口から吸引される。以上が繰り返されることにより、流体は応答速度の速いゲル側から遅いゲル側へと移送される。
【0073】
また、流路内に、流入口から流出口方向に順に、応答速度の速いゲル、中間のゲル、遅いゲルの3種のゲルを配設すると、膨潤度が高くなる刺激状態に変化させると、応答速度の速いゲル、中間のゲル、遅いゲルの順に流路を閉塞し、流路中の流体は流出口方向へ押し出される。次いで、膨潤度が低くなる刺激状態に変化させると、応答速度の速いゲル、中間のゲル、遅いゲルの順に流路を開き、流体は流入口側から該流路部分中に吸引される。これを繰り返すことにより、流体は応答速度の速いゲル側から遅いゲル側へと移送される。
【0074】
刺激応答性ゲルが温度応答性ゲルである場合、温度変化を与える機構や方法は任意であり、例えば、マイクロ流体デバイに接触又は近接させる固体、液体、気流等の媒体の繰り返し温度変化や、異なる温度の媒体との繰り返し交換、光線、赤外線、マイクロ波などの間欠的な照射、マイクロ流体デバイスに組み込まれた電気ヒーターの繰り返し加熱等の方法を使用しうる。あるいは、流路内の流体の反応熱であり得る。
刺激応答性ゲルが光応答性ゲルである場合、光強度変化、或いは照射波長変化を繰り返す機構は任意である。
本流体移送方法は、多数のマイクロ流体デバイスの同時並行的稼働が容易である。本発明の流体移送方法は、マイクロ流体デバイスが(生)化学の合成や分析デバイスにおける反応液などの送液方法として有用である。
【0075】
本発明の第2の方式によるマイクロ流体デバイスを使用する場合には、ゲル室や膨潤媒室に刺激応答性ゲルの膨潤媒を流通させ、膨潤媒を交換することにより、本ポンプ機構緒を駆動することもできる。例えば、刺激応答性ゲルにpH応答性ゲルや特定の溶質に応答するゲルを使用し、ゲル室に流す膨潤媒の種類を交互に変えることで駆動することが出来る。又、温度応答性ゲルを用いた場合には、温度の異なる膨潤媒を交互に流す方法を採ることも出来る。
【0076】
本発明のマイクロ流体デバイスおよび流体移動方法は、刺激応答性ゲルとして温度応答性ゲルを用い、昇降温による吸脱着方式の濃縮デバイスや、PCR(ポリメラーゼ連打反応)などの温度を上下させる用途に使用すると、該温度変化によってポンプ機構が自動的に駆動されるため、特に有用である。また、太陽光エネルギーを利用した有価物の合成やエネルギー生産に使用するマイクロ流体デバイスの場合に、刺激応答性ゲルとして温度応答性ゲルや光応答性ゲルを用いると、日夜の温度差や照度差により、自動的に流体移送を行うことができ、特に有用である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は、特に断りがない限り「質量部」を表わす。
【0078】
[エネルギー線照射装置]
200wメタルハライドランプが組み込まれた、ウシオ電機株式会社製のマルチライト200型露光装置用光源ユニットを用いた。紫外線強度は50mw/cm2である。
【0079】
[材料の調製]
〔エネルギー線硬化性樹脂組成物X〕
架橋重合性化合物として数平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(大日本インキ化学工業株式会社製の「ユニディックV−4263」)を60部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(第1工業製薬株式会社製の「ニューフロンティアHDDA」)を20部、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=17)アクリレート(第1工業製薬株式会社製の「N−177E」)20部、紫外線重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製の「イルガキュア184」;光重合開始剤)を2部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製;重合遅延剤)0.1部を均一に混合してエネルギー線硬化性組成物Xを調製した。
【0080】
〔エネルギー線硬化性樹脂組成物Y〕
架橋重合性化合物として前記数平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー「ユニディックV−4263」を10部、紫外線重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製の「イルガキュア184」0.02部均一に混合してエネルギー線硬化性組成物Yを調製し、さらに、溶剤としてイソプロパノール(IPA、関東化学製)90部加えて均一に混合し、エネルギー線硬化性組成物Yの10%IPA溶液を調製した。
【0081】
本エネルギー線硬化性組成物Xの紫外線硬化フィルムは引張弾性率が約520MPa、破断伸び率が約21%であった。
【0082】
〔刺激応答性ゲル形成用組成物a〕
感温性単量体としてN−イソプロピルアクリルアミド(和光純薬株式会社製)を95部、架橋重合性単量体として上記数平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマーを5部、光重合開始剤として上記、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを5部、孔形成剤として分子量4万のポリビニルピロリドン(和光純薬株式会社製)を25部、及び架橋ポリビニルピロリドン粉末(半井化学株式会社製)を50部、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬株式会社製)110部を混合して刺激応答性ゲル形成用組成物a(「ゲル材料a」と称する場合がある)を調製した。
【0083】
〔刺激応答性ゲル形成用組成物b〕
前記ポリビニルピロリドン(和光純薬株式会社製)を12部、及び架橋ポリビニルピロリドン粉末(半井化学株式会社製)を25部、前記N,N−ジメチルアセトアミドを55部としたこと以外は刺激応答性ゲル形成用組成物aと同様にして、刺激応答性ゲル形成用組成物b(「ゲル材料b」と称する場合がある)を調製した。
なお、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド水性ゲルは25℃〜35℃付近に下限臨界相溶温度(LCST)型のゲル−固体転移温度を有することが知られている。
【0084】
[実施例1]
本実施例では前記第1の方式のマイクロ流体デバイスについて述べる。
〔マイクロ流体デバイスの作製〕
<第1部材>
図1に示したように、75mm×25mm×1mmのアクリル板で形成された基材1に、エネルギー線硬化性樹脂組成物X(以下、単に「樹脂組成物X」と称する場合がある)を塗布し、該樹脂組成物Xが完全硬化するには不十分な量である40秒間だけ紫外線を照射して、基材1状に樹脂組成物Xの半硬化物(流動性は失われているが、未反応の重合性基と粘着性が残存している状態)で形成された接着層2を形成した。
該接着層2の上に樹脂組成物Xを塗布し、フォトマスクを通して、流路4となす部分以外の部分に、40秒間紫外線を照射し、非照射部の未硬化の樹脂組成物Xを50%エタノール水溶液で洗浄除去することにより、前記接着層2の上に樹脂組成物Xの半硬化物で形成された、流路4となす欠損部を有する樹脂層3を形成し、基材(1)に接着層2及び樹脂層3が固着した第1部材11を形成した。第1部材11の樹脂層3側表面には、流路4となる溝状の欠損部が形成されている。
【0085】
<刺激応答性ゲルAの形成>
第1部材11の流路4となる溝状の欠損部に、応答速度の速い方の刺激応答性ゲルAを与える刺激応答性ゲル形成用組成物a(以下、「ゲル材料a」と称する場合がある)を注入し、前記欠損部の流入口(13)を設ける側の端から20mmの部分から長さ5mmの範囲に、フォトマスクを用いて紫外線を30秒間照射し、照射範囲のゲル材料aをゲル化させた。次いで、非照射部の未硬化のゲル材料aを圧力空気で吹き飛ばして除去した。
【0086】
<刺激応答性ゲルBの形成>
第1部材の溝状の欠損部の刺激応答性ゲルA形成部以外の部分に、応答速度の遅い方の刺激応答性ゲルBを与える刺激応答性ゲル形成用組成物b(以下、「ゲル材料b」と称する場合がある)を注入し、前記刺激応答性ゲルAから流入口(13)を設ける側へ2mm離れた部分から長さ5mmの範囲に、フォトマスクを用いて紫外線を30秒間照射し、照射範囲のゲル材料bをゲル化させた。次いで、非照射部の未硬化のゲル材料bを水で洗浄除去し、流水中に24時間浸漬して、ポリビニルピロリドン及びN,N−ジメチルアセトアミドを洗浄除去し、ポリN−イソプロピルアクリルアミドのゲル及びそれに閉じこめられている架橋ポリビニルピロリドン粒子ゲルの膨潤媒を水に置換した。
このとき、室温20℃において、刺激応答性ゲルAル、刺激応答性ゲルB共に、流路4となる溝状の欠損部の高さよりやや高く盛り上がっていた。この第1部材を60℃のホットプレート上に載せると、刺激応答性ゲルA、刺激応答性ゲルB共に収縮したので、押し出された水を濾紙で拭い取った。
【0087】
<第2部材>
厚さ60μmのポリプロピレンシートを一時的な支持体(図示略)として用い、これに樹脂組成物Xを塗布し、40秒間紫外線を照射して半硬化させ、第2部材12を形成した。これを、前記第1部材11の樹脂層面に積層すると、粘着力により密着した。これに60秒間紫外線を照射して全ての樹脂組成物Xを完全に硬化させ、第1部材と第2部材を固着した。
【0088】
その後、前記一時的な支持体(図示略)を剥離除去し、第1部材11の支持体1側から流路4の端に、流路4に達する孔をドリルで開け、刺激応答性ゲルA側に流入口15を、また刺激応答性ゲルB側に流出口16を形成した。
【0089】
〔各部の寸法〕
作製したマイクロ流体デバイスは長さ75mm×幅25mm×厚さ1.35mmの板状であり、第1部材の基材1は厚さ1mm、接着層2は厚さ50μm、樹脂層3は厚さ150μm、第2部材は厚さ150μmであった。また、流路4は幅500μm、長さ40mm、深さ150μmであり、刺激応答性ゲルA、刺激応答性ゲルB共に幅500μm、長さ5mm、60℃時の厚さは約80μm、20℃時の厚さは、流路対向壁に密着する寸法(150μm以上)であり、流入口15、流出口16共に直径500μmであった。
【0090】
〔ゲルの特性試験〕
別途作成した刺激応答性ゲルAとBをエタノールに浸漬して膨潤媒をエタノールに交換した時、これらのゲルの体積は殆ど変化しなかった。このエタノール置換ゲルを液体窒素で急冷し凍結乾燥して、走査型電子顕微鏡で観察したところ、いずれも直径10μm程度の細孔が認められ、多孔質構造であった。このとき空隙は刺激応答性ゲルAの方が多く、又、孔径も刺激応答性ゲルAの方が大きかった。
また、別途支持体のないゲルを調製して平衡膨潤度の試験を行った結果、20℃と60℃に於ける各平衡膨潤状態(各保持時間24時間)の比は、刺激応答性ゲルAが3.4倍、刺激応答性ゲルBが3.2倍であった。
作製したマイクロ流体デバイスの刺激応答性ゲルAと刺激応答性ゲルBの応答速度の違いを調べた。流路内に水を満たした状態で、実体顕微鏡でゲルを観察しながら、室温20℃のマイクロ流体デバイスを60℃の温調プレートに乗せると、数秒の内に刺激応答性ゲルA,刺激応答性ゲルBの順で収縮した。次いで、マイクロ流体デバイスを15℃の温調プレートに乗せ替えると、数秒の内に刺激応答性ゲルA,刺激応答性ゲルBの順で膨張した。
【0091】
〔使用試験〕
作製したマイクロ流体デバイスの流入口15及び流出口16にそれぞれフィッティング(図示略)を接着し、軟質塩化ビニルチューブ(図示略)を接続して、流入口15に接続したチューブの他端を着色水の入った試験管に浸漬した。
マイクロ流体デバイスを60℃の温調プレート上に置いて流出口16を吸引し、マイクロ流体デバイスの流路4内に着色水を導入した。その後、該チューブ端を空の試験管に投入した。
マイクロ流体デバイスを15℃に調節された温調プレートに乗せ替えると、着色水は流出口16から押し出された。次いで、該マイクロ流体デバイスを60℃に調節された温調プレートに乗せ替えると、着色水は流入口15から吸引された。この操作を繰り返すことにより、着色水は、流入口15側から流出口16方向へと移相された。
【0092】
[実施例2]
本実施例では前記第2方式のマイクロ流体デバイスについて述べる。
【0093】
<第1部材>
刺激応答性ゲルA及び刺激応答性ゲルBを形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして第1部材を作成した。
【0094】
<第3部材>
厚さ60μmのポリプロピレンシートを一時的な支持体(図示略)として用い、これにエネルギー線硬化性樹脂組成物Yの10%イソプロパノール溶液をスピンコーターにて塗布し、塗膜を40℃の真空乾燥機にて30分間乾燥してイソプロパノールを揮発除去した後、紫外線を1秒間照射して半硬化させ、第3部材21(樹脂層21)を形成した。これを、前記第1部材の樹脂層3面に積層すると、粘着力により密着した。これに紫外線を1秒間照射してエネルギー線硬化性樹脂組成物Yの硬化を進め、第1部材11と第3部材21を固着した。その後、水に投入して、前記一時的な支持体を剥離除去した。
【0095】
<第4部材>
基材1の代わりに厚さ60μmのポリプロピレンシートを一時的な支持体(図示略)として用いたこと、流路4となる溝の代わりにゲル室24と成す溝を形成したこと、刺激応答性ゲルA及び刺激応答性ゲルBを流路4となる溝の中の代わりにゲル室24となる溝をの中に形成したこと、以外は、実施例1の第1部材11と同様にして一時的な支持体状に形成された樹脂層7と樹脂層8から成る第4部材22を作製し、該台4部材22のゲル室24となる溝形成面を前記第3部材21の面に密着させ、紫外線を40秒間照射して、全てのエネルギー線硬化性樹脂組成物X及びエネルギー線硬化性樹脂組成物Yを完全に硬化させ、第1部材11、第3部材21、第4部材22を互いに固着した。
その後、前記一時的な支持体(図示略)を第4部材から剥離除去し、実施例1と同様にして流入口15と流出口16を形成し、同様にして、ゲル室の両端に樹脂層8側から穴を開けて、刺激応答性ゲルA5に近い側にゲル室流入口25、刺激応答性ゲルB6に近い側にゲル室流出口26を形成した。
【0096】
〔各部の寸法〕
作製したマイクロ流体デバイスは長さ75mm×幅25mm×厚さ1.35mmの板状であり、第1部材の基材1は厚さ1mm、接着層2は厚さ50μm、樹脂層3は厚さ150μm、樹脂層21(第3部材)は厚さ5μm、樹脂層7は厚さ150μm、樹脂層8は厚さ150μmであった。また、流路4は幅500μm、長さ40mm、深さ150μmであり、ゲル室24は幅500μm、長さ40mm、深さ150μmであり、刺激応答性ゲルA、刺激応答性ゲルB共に幅500μm、長さ5mm、60℃時の厚さは約130μm、20℃時の厚さは、隔壁23が流路4の対向壁に密着する寸法であり、流入口15、流出口16、ゲル室流入口25、ゲル室流出口26共に直径500μmであった。
【0097】
〔使用試験〕
作製したマイクロ流体デバイスの流入口15及び流出口16にそれぞれフィッティング(図示略)を接着し、軟質塩化ビニルチューブ(図示略)を接続して、流入口15に接続したチューブの他端を着色水の入った試験管に浸漬し、流出口16に接続したチューブ端を空の試験管に投入した。
また、ゲル室流入口25及びゲル室流出口26にそれぞれフィッティング(図示略)を接着し、軟質塩化ビニルチューブ(図示略)を接続して、ゲル室流入口25に接続したチューブの他端を水の入った試験管に浸漬した。マイクロ流体デバイスを60℃の温調プレート上に置いてゲル室流出口26を吸引し、ゲル室24内に水を導入し、その後、該チューブ端を水の入った試験管に浸漬した。
マイクロ流体デバイスを15℃に調節された温調プレートに乗せ替えると、着色水は流出口16から押し出された。次いで、該マイクロ流体デバイスを60℃に調節された温調プレートに乗せ替えると、着色水は流入口15から吸引された。この操作を繰り返すことにより、着色水は、流入口15側から流出口16方向へと移相された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の第1の方式のマイクロ流体デバイスの平面模式図およびα部側面断面模式図である。
【図2】本発明の第2の方式のマイクロ流体デバイスの平面模式図およびα部側面断面模式図である。
【符号の説明】
【0099】
1:基材
2:接着層
3、7、8:樹脂層
4:流路
5:刺激応答性ゲルA
6:刺激応答性ゲルB
11:第1部材
12:第2部材
15:流入口
16:流出口
21:第3部材
22:第4部材
23:隔壁
24:ゲル室
25:ゲル室流入口
26:ゲル室流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管状の流路と、前記流路の途中に設けられ、前記流路中の流体を移送するためのポンプ機構とを備えたマイクロ流体デバイスであって、
前記ポンプ機構が、
(1)刺激の変化に応答して可逆的に膨潤・収縮する、応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、膨潤度が高くなる刺激状態においては流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる位置に、前記流路の流れ方向に応答速度の順に配設され、
(2)前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を、略同一の刺激状態に保ちながら刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、
(3)その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送する
機構を有することを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記刺激が温度であり、前記刺激応答性ゲルが温度応答性ゲルである請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記刺激応答性ゲルが多孔質ゲルである請求項1又は2記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、同一温度に於ける空隙率が互いに異なる多孔質ゲルである請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、同一の刺激変化に対する膨潤度の差が異なるものである請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
前記応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、前記流路中に配設されている請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、液流れ方向と直交する流路断面の内周の一部に固着されている請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
前記流路の内壁の少なくとも一面の一定範囲が柔軟な隔壁であり、該隔壁の前記流路の裏面側に、刺激応答性ゲルが配設されるゲル室が設けられており、前記刺激応答性ゲルが配設される位置が前記ゲル室である請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
前記マイクロ流体デバイスが、膨潤媒透過性の多孔質膜を介して前記ゲル室に隣接する、流路とは独立した膨潤液室を有する請求項8記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のマイクロ流体デバイスの製造方法であって、
(1)互いに応答速度の異なる刺激応答性ゲルAと刺激応答性ゲルBをそれぞれ形成すべき部分に、エネルギー線照射によって刺激応答性ゲルA及びBをそれぞれ形成しうる前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbを配し、前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbに対してエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルA及びBを形成する工程
又は
(2)前記刺激応答性ゲルAを形成すべき部分を含む範囲に、前記刺激応答性ゲル形成用組成物aを配し、前記刺激応答性ゲルAを形成すべき部分にエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルAを形成し、さらに、前記刺激応答性ゲルBを形成すべき部分を含む範囲に、前記刺激応答性ゲル形成用組成物bを配し、前記刺激応答性ゲルBを形成すべき部分にエネルギー線を照射することにより前記刺激応答性ゲルBを形成する工程
を含むことを特徴とするマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項11】
前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbを配す前における前記刺激応答性ゲル形成用組成物a及びbを配する部分が、エネルギー線硬化型樹脂組成物の未硬化物又は半硬化物により形成されている請求項9記載のマイクロ流体デバイスの製造方法。
【請求項12】
毛細管状の流路を備えたマイクロ流体デバイスの、前記流路中の流体を移送する方法であって、
(1)刺激の変化に応答して可逆的に膨潤・収縮する、応答速度の異なる2種以上の刺激応答性ゲルが、膨潤度が高くなる刺激状態においては流路を閉塞し、膨潤度が低くなる刺激状態においては流路を閉塞しない状態となる位置に、前記流路の流れ方向に応答速度の順に配設され、
(2)前記2種以上の刺激応答性ゲルの各々を、略同一の刺激状態に保ちながら刺激状態を繰り返し変化させることにより、応答速度の速い刺激応答性ゲルと応答速度の遅い刺激応答性ゲルの膨潤・収縮速度の差を生じせしめ、
(3)その差により前記応答速度の速い刺激応答性ゲルの方向から、前記応答速度の遅い刺激応答性ゲルの方向に前記流体を移送する
ことを特徴とするマイクロ流体デバイス中の流体の移送方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate