説明

マイクロキャリアー上の多能性(pluripotent)および多分化能(multipotent)細胞の培養

in vitroで多能性または多分化能細胞を培養するための方法であって、多能性または多分化能細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、そしてROCK阻害剤の存在下で、懸濁培養中、マイクロキャリアー−細胞複合体を培養する工程を含む、前記方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ROCK阻害剤の存在下、マイクロキャリアー上の多能性および多分化能細胞の培養に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、分化した細胞とは異なり、分裂し、そして自己再生するかまたは表現型的にそして機能的に異なる娘細胞に分化するかいずれかの能力を有する(Keller, Genes Dev. 2005;19:1129-1155; WobusおよびBoheler, Physiol Rev. 2005;85:635-678; Wiles, Methods in Enzymology. 1993;225:900-918; Choiら, Methods Mol Med. 2005;105:359-368)。
【0003】
ヒト胚性幹細胞(hESC)は、多様な幹細胞タイプに分化する能力を持つ多能性細胞である。胚性幹細胞(ESC)などの幹細胞が多能性であり、そして3つの胚葉すべての細胞に分化可能であることから、これらは多くの疾患および組織傷害のための再生療法に用いる細胞の理想的な供給源となっている(Keller, Genes Dev. 2005;19:1129-1155; WobusおよびBoheler, Physiol Rev. 2005;85:635-678)。
【0004】
1回以上の継代を必要とする、幹細胞の多くの量への拡大は、細胞療法に必須である。
【0005】
現在、コロニーとして増殖する幹細胞(ヒト胚性幹細胞、hESCを含む)は、ルーチンに、2次元(2D)増殖で、プラスチック培養表面上に維持される。2D培養上でより多くの量へと拡大するには、広い表面積の使用が必要となるであろう。これらの2Dコロニーをより小さいサイズに分散させるために、反復ピペッティングまたは酵素処理によって手動で細胞を継代するのは、現実的ではなくなるだろう。広い表面積に植え付けるため、多くのプレートを調製すると、取り扱いエラーが生じやすくなりうる。さらに、例えばNuncトレーなどの非常に広い表面積が必要だろう。
【0006】
したがって、コーティングされたプラスチック表面上の2Dコロニー培養として幹細胞を増殖させる現在の方法は、スケールアップには不向きであり、そして培養を行う実験条件は、一般的に、優れた制御には不向きである。先行技術には、懸濁培養中のマイクロキャリアー上などの、3次元(「3D」)環境において幹細胞を培養するいくつかの試みが含まれる。マイクロキャリアー上のマウス胚性幹細胞(Fernandesら, 2007; Abranchesら, 2007; KingおよびMiller, 2007)および肺葉体として懸濁培養中で分化しているhESC(Dangら, 2004; FokおよびZandstra, 2005; Cameronら, 2006)のいくつかの研究を除いて、懸濁培養中のhESCを長期に連続培養する頑強な方法はない。
【0007】
当該技術分野において、胚性幹細胞が懸濁培養中で「胚様体」として分化することが知られる。こうした胚様体は、すでに分化した細胞の塊を含む。例えば、Gerecht Nirら(2004)は、胚様体を培養するための回転壁バイオリアクターの使用を記載した。胚様体培養はまた、Zandstraら(2003)、Dangら(2004)およびWartenbergら(1998)によっても、攪拌系を用いて示された。胚様体懸濁培養はまた、DangおよびZandstra(2005)ならびにKingおよびMiller(2007)によっても報告されてきている。こうした技術は、分化した幹細胞を含むこれらの組織様胚様体凝集体を培養するのに適しているが、未分化幹細胞には適していない。
【0008】
FokおよびZandstra(2005)は、未分化マウス胚性幹細胞(mESC)増殖のための攪拌懸濁培養系を記載した。攪拌懸濁培養系は、マイクロキャリアーおよび凝集体培養を含んだ。ガラス・マイクロキャリアー上で培養されたマウス胚性幹細胞は、組織培養フラスコ対照に匹敵する集団倍加時間を有した。白血病阻害因子を除去すると、mESC凝集体は、多系譜分化が可能な胚様体(EB)に発達した。マウスESCの懸濁培養はまた、KingおよびMiller(2005)にも記載された。しかし、KingおよびMiller(2005)は、「未分化ヒトESC(hESC)の拡大はmESCよりも困難であり、そして攪拌培養中ではまだ報告されてきていない」と述べている。
【0009】
US2007/0264713(Terstegge)は、マイクロキャリアー上でヒト胚性幹細胞を培養する試みを開示する。ヒト胚性幹細胞をCytodex3(Amersham)マイクロキャリアーとともに、多様な体積の馴化培地を含むスピナーまたはバイオリアクター内に導入する。培養を20〜30rpmで30分から1時間攪拌する。培養を10日間〜6週間の間の多様な期間、維持する。しかし、幹細胞の大規模連続産生に本質的に必要である、培養の継代または継代培養が行われることは、決してなかった。幹細胞の大規模産生には、マイクロキャリアー上での連続継代および「優れた」(指数関数的な)増殖速度を伴う継代培養能の立証が本質的に必要である。Tersteggeらの研究ではこれは示されなかった。
【0010】
WO2008/004990は、フィーダー細胞の非存在下で幹細胞を培養する試みを記載し、そしてマイクロキャリアーの使用を熟考する。これはMatrigelを用いない培養に関する。WO2008/004990は、幹細胞分化の阻害における正荷電表面の影響を記載する。
【0011】
Phillipsら, 2008(Journal of Biotechnology 138(2008)24-32)において、凝集体ならびに単細胞を植え付けることによって、マイクロキャリアー上でhESCを培養する試みが報告されている。最初に、5日間に渡って3倍拡大が達成されたが、各連続継代に伴って、細胞拡大は減少し、第6週を超えると細胞は継代不能であった。
【0012】
Cytodex 1および3などの商業的に入手可能なマイクロキャリアーを用いて、ヒト胚性幹細胞(hESC)の培養をスケールアップする以前の試みは成功しなかった。hESC培養は死ぬか、またはキャリアー上で分化し、そして増殖不能であった(OhおよびChoo, 2006)。
【0013】
ROCK阻害剤Y−27632は、2D培養において、解離したヒト胚性幹細胞の生存を許容可能にする因子として、WatanabeらおよびHarbらによって提唱されてきている(Watanabeら A ROCK inhibitor permits survival of dissociated human embryonic stem cells. Nature Biotechnology Vol.25 No.6 p681-686 June 2007. WO 2008/035110. Harbら The Rho-Rock-Myosin Signaling Axis Determines Cell-Cell Integrity of Self-Renewing Pluripotent Stem Cells. PLoS ONE 3(8): e3001. doi:10:1371/journal.pone.0003001)。
【0014】
ROCK阻害剤は、ヒト胚性幹細胞の凍結保存を改善しうる剤としてもまた研究されてきている(Xiangyun Liら ROCK inhibitor improves survival of cryopreserved serum/feeder-free single human embryonic stem cells. Human Reproduction, Vol.24, No.3 pp.580-589, 2009. Martin-Ibanezら Novel cryopreservation method for dissociated human embryonic stem cells in the presence of a ROCK inhibitor. Human Reproduction. Vol. 23. No.12 pp.2744-2754, 2008. Claassenら ROCK Inhibition Enhances the Recovery and Growth of Cryopreserved Human Embryonic Stem Cells and Human Induced Pluripotent Stem Cells. Molecular Reproduction & Development 2009)。しかし、すべての場合において、Matrigel上でのヒト胚性幹細胞の2D培養の背景においての使用が示される。
【0015】
Matrigelでコーティングしたマイクロキャリアーを用いて、本発明者らは先に、ヒト胚性幹細胞およびヒト人工多能性細胞を含む、霊長類由来の未分化多能性細胞の懸濁中での安定したそして連続する増殖を連続的な継代をを通して達成した(部分的に、Ohら 2009に報告し、そしてさらに、米国特許出願、2009年3月17日出願のUS 61/069,694、2008年10月31日出願のUS 61/110,256、2009年1月29日出願のUS 61/148,064、および2009年2月27日出願のUS 61/155,940にさらに記載する)。しかしこれまで、細胞外マトリックス由来物質の表面コーティングを持たないマイクロキャリアーを用いては、この結果は得られてきていない。
【0016】
それ以来、Lockらは、Matrigelでコーティングしたマイクロキャリアー上でのhESCの増殖を記載してきているが、継代は伴わず(Lockら expansion and Differentiation of Human Embyronic Stem Cells to Endoderm Progeny in a Microcarrier Stirred-Suspension Culture. Tissue Engineering: Part A Vol.15, No.00, 2009)、そしてNieらはマトリックスコーティングまたはフィーダー細胞層を有するマイクロキャリアー上のhESCの増殖を調べてきている(Nieら Scalable Culture and Cryopreservation of Human Embyronic Stem Cells on Microcarriers. Biotechnol. Prog., 2009, Vol.25, No.1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】US2007/0264713(Terstegge)
【特許文献2】WO2008/004990
【特許文献3】WO 2008/035110
【特許文献4】US 61/069,694
【特許文献5】US 61/110,256
【特許文献6】US 61/148,064
【特許文献7】US 61/155,940
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Keller, Genes Dev. 2005;19:1129−1155
【非特許文献2】WobusおよびBoheler, Physiol Rev. 2005;85:635−678
【非特許文献3】Wiles, Methods in Enzymology. 1993;225:900−918
【非特許文献4】Choiら, Methods Mol Med. 2005;105:359−368
【非特許文献5】Fernandesら, 2007
【非特許文献6】Abranchesら, 2007
【非特許文献7】KingおよびMiller, 2007
【非特許文献8】Dangら, 2004
【非特許文献9】FokおよびZandstra, 2005
【非特許文献10】Cameronら, 2006
【非特許文献11】Gerecht Nirら(2004)
【非特許文献12】Zandstraら(2003)
【非特許文献13】Wartenbergら(1998)
【非特許文献14】DangおよびZandstra(2005)
【非特許文献15】KingおよびMiller(2005)
【非特許文献16】Phillipsら, 2008(Journal of Biotechnology 138(2008)24−32)
【非特許文献17】OhおよびChoo, 2006
【非特許文献18】Watanabeら、 Nature Biotechnology Vol.25 No.6 p681−686 June 2007
【非特許文献19】Harbら、PLoS ONE 3(8): e3001. doi:10:1371/journal.pone.0003001
【非特許文献20】Xiangyun Liら、Human Reproduction, Vol.24, No.3 pp.580−589, 2009
【非特許文献21】Martin−Ibanezら、Human Reproduction. Vol. 23. No.12 pp.2744−2754, 2008
【非特許文献22】Claassenら、Molecular Reproduction & Development 2009
【非特許文献23】Ohら 2009
【非特許文献24】Lockら、Tissue Engineering: Part A Vol.15, No.00, 2009
【非特許文献25】Nieら、Biotechnol. Prog., 2009, Vol.25, No.1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らはここで、マトリックスコーティングを持たないマイクロキャリアー上、ROCK阻害剤の存在下で、培養しそして継代する細胞の多能性状態を維持しつつ、多能性幹細胞を首尾よく培養し、そして継代することが可能であることを見出した。
【0020】
本発明は、ROCK阻害剤の存在下、in vitro培養中で、多能性および多分化能細胞を安定して、そして長期に培養するための方法を提供する。
【0021】
この方法を用いて、ヒト胚性幹細胞を拡大しそして継代し、そして拡大しそして継代するヒト胚性幹細胞集団の多能性を、少なくとも9回の継代を超えて維持してきている。
【0022】
したがって、本発明の1つの側面は、懸濁培養中、マイクロキャリアー上の、多能性または多分化能細胞の成長および増殖に関する。方法は、培養中の細胞のそれぞれの多能性または多分化能状態を保持しながら、1回または複数回の継代を通じて培養する工程を含んでもよい。培養補助剤または添加剤として培地に添加可能なROCK阻害剤の存在下で培養を行う。
【0023】
培養中にROCK阻害剤を含めることによって、本発明者らは、マトリックス、例えば細胞外マトリックス物質でマイクロキャリアー表面をコーティングする必要がないことを見出した。今日まで、これは、懸濁マイクロキャリアー培養多能性または多分化能細胞、特にヒトまたは霊長類胚性幹細胞およびヒトまたは霊長類人工多能性細胞の多能性または多分化能状態を維持するのに本質的に必要であると見なされてきた。
【0024】
マイクロキャリアーに多能性または多分化能細胞を植え付ける。次いで、マイクロキャリアー−細胞複合体を懸濁培養中で培養して、好ましくは培養中の多能性または多分化能細胞の数を拡大する。培養細胞を継代してもよく、そして継代細胞をまた、例えばさらなる培養のためまたは分化のため、マイクロキャリアー上に植え付けてもよい。
【0025】
この方式で、多能性または多分化能細胞は、複数回の継代、例えば少なくとも2回の継代を経ることも可能であり、ここで、培養されそして継代される細胞は、それぞれの多能性または多分化能状態を保持する。この方法を用いると、継代間の各培養周期中に、多能性または多分化能細胞の増殖が見られ、そして多くの(少なくとも9回の)継代に渡ってこれが維持されうる。
【0026】
この培養法は、in vitro培養中の多能性または多分化能細胞の連続増殖および継代を可能にし、それによって、多能性または多分化能細胞を、療法的に有用な数まで拡大するための方法を提供する。
【0027】
マイクロキャリアー上の多能性または多分化能細胞の連続継代がしばしば好ましいが、本発明の方法の一部として、多能性または多分化能細胞をマイクロキャリアー上の培養から、他の培養系、例えば2Dコロニー培養にトランスファーし、その後、懸濁マイクロキャリアー培養に戻してもよい。
【0028】
いくつかの態様において、マイクロキャリアーを、マトリックス、好ましくは細胞外構成要素を有するマトリックスでコーティングする。いくつかの態様において、マイクロキャリアーは正に荷電される。方法は、好ましくは、継代前の各培養周期中、多能性または多分化能細胞をマイクロキャリアーに付着させる工程を伴う。コーティングされていないマイクロキャリアー上でいくつかの培養周期を行い、そしてマトリックスでコーティングされたマイクロキャリアー上で他の周期を行うことも許容されうる。
【0029】
マイクロキャリアー上の多能性または多分化能細胞の連続継代がしばしば好ましいが、本発明の方法の一部として、培養細胞をマイクロキャリアー上の培養から、他の培養系、例えば2Dコロニー培養にトランスファーし、その後、懸濁マイクロキャリアー培養に戻してもよい。
【0030】
本発明のさらなる側面は、ROCK阻害剤の存在下、懸濁培養中の、マイクロキャリアーに付着した多能性および多分化能細胞の分化に関する。
【0031】
いくつかの態様において、上述のマイクロキャリアー培養法を使用することによって、多能性または多分化能細胞を分化に必要な細胞密度まで増殖させてもよい。必要な細胞密度が得られたら、培養条件を変化させて、マイクロキャリアーに付着した多能性または多分化能細胞の分化を誘導してもよい。分化のため、多能性または多分化能細胞の増殖のために用いたものと比較して同じまたは異なるマイクロキャリアーを用いてもよい。同様に、マトリックスコーティングを用いる場合、同じまたは異なるマトリックスコーティングを用いてもよい。例えば、多能性または多分化能細胞の成長および増殖のため、第一のコーティングを有する第一のマイクロキャリアーを用いてもよく、そしてこれらの細胞の分化のため、第二のコーティングを有する第二のマイクロキャリアーを用いてもよい。第二のマイクロキャリアーはコーティングされていなくてもよいし、またはマトリックスで表面コーティングされていてもよい。
【0032】
多能性または多分化能細胞の増殖およびその分化の両方のためのマイクロキャリアー培養の使用は、増殖培養を分化培養に再植え付けする必要を回避する利点を有し、分化させる多能性または多分化能細胞を多数提供し、そして培養条件を変化させることによって、増殖から分化に変化させる利便性を提供する。
【0033】
他の態様において、他の培養法、例えば2Dコロニー培養によって、分化させる多能性または多分化能細胞を、必要な細胞密度に増殖させてもよい。次いで、細胞をマイクロキャリアーに付着させ、そしてROCK阻害剤の存在下、多能性または多分化能細胞の分化を誘導する条件下で、懸濁培養中で培養する。
【0034】
いくつかの態様において、すでに分化を経ている(が、好ましくは最終分化はしていない)多能性または多分化能細胞をマイクロキャリアーに付着させて、そしてROCK阻害剤の存在下、細胞分化を誘導する条件下で、懸濁培養中で培養してもよい。
【0035】
本発明の方法において、ROCK阻害剤は、好ましくは、培養するかまたは分化させる細胞との接触を可能にされる。ROCK阻害剤はまた、好ましくは、細胞が付着しているかまたは付着されようとしているマイクロキャリアーとの接触も可能にされる。こうした接触を可能にするため、液体、流体、ジェルまたは他の流動可能培地が好ましい。
【0036】
本発明の1つの側面において、in vitroで多能性または多分化能細胞を培養する方法であって:
(i)多能性または多分化能細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、そして
(ii)ROCK阻害剤の存在下で、懸濁培養中、マイクロキャリアー−細胞複合体を培養する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0037】
いくつかの態様において、該方法は、(ii)由来の培養細胞をさらに継代する工程をさらに含み、ここで継代後の細胞は多能性または多分化能である。
【0038】
いくつかの態様において、方法はさらに:
(iii)(ii)由来の培養細胞を継代し;そして
(iv)少なくとも2回の継代に渡って、工程(i)〜(iii)を反復する
工程を含み、
工程(iv)後の培養中の細胞は多能性または多分化能である。いくつかの態様において、各反復周期において、工程(i)の幹細胞は、先行する反復周期の工程(iii)の継代細胞から得られる。
【0039】
工程(iv)において、工程(i)〜(iii)を:少なくとも3回の継代、少なくとも4回の継代、少なくとも5回の継代、少なくとも6回の継代、少なくとも7回の継代、少なくとも8回の継代、少なくとも9回の継代、少なくとも10回の継代、少なくとも11回の継代、少なくとも12回の継代、少なくとも13回の継代、少なくとも14回の継代、少なくとも15回の継代、少なくとも16回の継代、少なくとも17回の継代、少なくとも18回の継代、少なくとも19回の継代、少なくとも20回の継代、少なくとも21回の継代、少なくとも22回の継代、少なくとも23回の継代、少なくとも24回の継代、少なくとも25回の継代、少なくとも30回の継代、少なくとも40回の継代、少なくとも50回の継代、少なくとも60回の継代、少なくとも70回の継代、少なくとも80回の継代、少なくとも90回の継代、少なくとも100回の継代の1つに渡って反復する。
【0040】
いくつかの態様において、工程(ii)において、培養中の細胞数が拡大するために十分な期間、細胞を培養する。いくつかの態様において、工程(iv)後、培養中の細胞の少なくとも60%は多能性または多分化能である。いくつかの態様において、工程(iv)後、培養中の細胞の少なくとも60%は、Oct4、SSEA4、TRA−1−60およびMab84の1つ、2つ、3つまたはすべてを発現する。
【0041】
いくつかの態様において、増殖した細胞は、好ましくは、言及した回数の継代後、多能性または多分化能細胞の少なくとも1つの生物学的活性を保持する。(i)多能性マーカーの発現、(ii)細胞生存度;(iii)正常核型;(iv)内胚葉、外胚葉または中胚葉に分化する能力;からなる群より、生物学的活性を選択してもよい。生物学的活性は: OCT−4、SSEA−4、TRA−1−60およびMab84からなる群より選択される多能性マーカーの発現を含んでもよい。
【0042】
いくつかの態様において、方法は、血清不含培地、または幹細胞馴化培地、またはフィーダー細胞不含条件中で細胞を培養する工程を含む。フィーダー細胞不含培地には、懸濁培養中に存在するマイクロキャリアー上にコーティングされたフィーダー細胞の非存在、および/または懸濁培養からのフィーダー細胞の完全な非存在が含まれうる。
【0043】
いくつかの態様において、フィーダー細胞もまた、マイクロキャリアーに付着している。いくつかの態様において、培養が、多能性または多分化能細胞が付着しているマイクロキャリアーとは異なるマイクロキャリアーに付着しているフィーダー細胞をさらに含む。
【0044】
本発明記載の方法は、別の培養系、例えば2D培養へのまたは該培養からの継代を含んでもよい。培養系間のトランスファーを容易にするため、細胞を保存して、例えば凍結融解してもよい。
【0045】
いくつかの態様において、多能性または多分化能細胞を、制限された期間、他の粒子/表面上で培養してもよい。例えば、工程(ii)または(iii)由来の多能性または多分化能細胞を、ROCK阻害剤の存在下でのマイクロキャリアー上の培養に戻す前に、制限された回数の継代(例えば5回未満、より好ましくは3回未満、より好ましくは1回)に渡って、別の培養系(例えば2D培養上)で培養してもよい。
【0046】
他の態様において、本発明にしたがって懸濁培養に戻す前に、培養法から多能性または多分化能細胞を除去してそして保存(例えば凍結細胞として)してもよい。細胞をROCK阻害剤の存在下で保存(例えば凍結)してもよい。
【0047】
こうした態様において、本発明にしたがって懸濁培養に戻す際、同じ培養に戻す必要はない。本発明にしたがった懸濁培養を、例えば細胞を凍結し、そして輸送した後、異なる地理的位置で続けることさえ可能である。
【0048】
本発明にしたがった方法は、マイクロキャリアーからヒト胚性幹細胞を分離する工程をさらに含んでもよい。
【0049】
いくつかの態様において、方法は、培養から得られる多能性または多分化能細胞の分化を誘導する工程をさらに含む。したがって、いくつかの態様において、方法は、マイクロキャリアー−細胞複合体を、細胞分化を誘導する条件下に置く工程を含む。
【0050】
いくつかの態様において、方法は、培養法から得られる多能性または多分化能細胞をマイクロキャリアーから分離し、そして分離した細胞を、細胞分化を誘導する条件下、非マイクロキャリアー培養中で培養する工程を含む。
【0051】
いくつかの態様において、方法は、培養法から得られる多能性または多分化能細胞のin vitro分化をさらに含み:
(a)培養法から得られる多能性または多分化能細胞を複数の第二のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し:
(b)(a)由来のマイクロキャリアー−細胞複合体を、細胞分化を誘導する条件下、懸濁培養中で培養する
工程を含む。
【0052】
該方法はさらに:
(c)工程(b)から得られる分化した細胞を複数の第三のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し;そして
(d)(c)由来のマイクロキャリアー−細胞複合体を、すでに分化している細胞のさらなる分化を誘導する条件下、懸濁培養中で培養する
工程を含んでもよい。
【0053】
いくつかの態様において、分化のための培養条件は、ROCK阻害剤の存在下、細胞を培養する工程を含む。
【0054】
他の態様において、分化のための培養条件は、ROCK阻害剤の非存在下、細胞を培養する工程を含む。
【0055】
本発明の方法によって得られる多能性または多分化能細胞(単数または複数)を提供する。本発明の方法によって得られる分化した細胞(単数または複数)もまた提供する。いくつかの態様において、本発明の方法によって得られる分化した細胞を培養して胚様体を形成する。したがって、こうして得られる胚様体もまた提供する。
【0056】
本発明の1つの側面において、in vitroで多能性または多分化能細胞を分化させる方法であって、多能性または多分化能細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、ここでマイクロキャリアー表面はコーティングされていないかまたはマトリックスでコーティングされ、そしてROCK阻害剤の存在下、および細胞分化を誘導する条件下、懸濁培養中でマイクロキャリアー−細胞複合体を培養する工程を含む、前記方法を提供する。
【0057】
本発明の別の側面において、細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させ、それによってマイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、そして懸濁培地がROCK阻害剤を含有する、多能性または多分化能細胞の懸濁培養を提供する。
【0058】
いくつかの態様において、懸濁培養を含む多能性または多分化能細胞を増殖させるための容器、例えばバイオリアクター、またはデバイスを提供する。懸濁培養はスピナー懸濁培養であってもよい。
【0059】
いくつかの態様において、ROCK阻害剤は:少なくとも1μM、少なくとも2μM、少なくとも3μM、少なくとも4μM、少なくとも5μM、少なくとも6μM、少なくとも7μM、少なくとも8μM、少なくとも9μM、少なくとも10μM、少なくとも15μM、少なくとも20μM、少なくとも30μM、少なくとも40μM、または少なくとも50μMの1つの濃度で培地中に存在する。ROCK阻害剤は、場合によって:100μM、90μM、80μM、70μM、または60μMの1つ未満の濃度で培地中に存在してもよい。
【0060】
本発明のさらなる側面において、多能性または多分化能細胞のin vitro懸濁培養におけるROCK阻害剤の使用であって、細胞がマイクロキャリアー−細胞複合体の形である、前記使用を提供する。
【0061】
本発明のさらに別の側面において、in vitroでの懸濁培養中の多能性または多分化能細胞の分化におけるROCK阻害剤の使用であって、細胞がマイクロキャリアー−細胞複合体の形である、前記使用を提供する。
【0062】
本発明のさらなる側面において、多能性または多分化能細胞を増殖させる方法であって:
(a)マイクロキャリアーを提供し;
(b)多能性または多分化能細胞がマイクロキャリアーに付着するのを可能にし;そして
(c)多能性または多分化能細胞が付着したマイクロキャリアーを凝集して、それによって多能性または多分化能細胞を増殖させる
工程を含み、
工程(a)、(b)または(c)の1もしくはそれより多くまたはすべてにおいて、マイクロキャリアーおよび/または細胞をROCK阻害剤と接触させる
前記方法を提供する。
【0063】
本発明の別の側面において、多能性または多分化能細胞を増殖させる方法であって:
(a)第一のマイクロキャリアーに付着した第一の多能性または多分化能細胞を提供し;
(b)第二のマイクロキャリアーに付着した第二の多能性または多分化能細胞を提供し;
(c)第一の多能性または多分化能細胞が第二の多能性または多分化能細胞に接触するのを可能にして、細胞凝集体を形成し;そして
(d)ROCK阻害剤の存在下で凝集体を培養して、少なくとも1回の継代に関して、多能性または多分化能細胞を増殖させる
工程を含む、前記方法を提供する。
【0064】
本発明のさらに別の側面において、多能性または多分化能細胞を増殖させる方法であって:
(a)多能性または多分化能細胞が付着した第一のマイクロキャリアーを提供し;
(b)付着した第二の多能性または多分化能細胞を含む第二のマイクロキャリアーと、第一のマイクロキャリアーが接触するのを可能にして、凝集体を形成し;そして
(c)ROCK阻害剤の存在下で凝集体を培養する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0065】
本発明の別の側面において、多能性または多分化能細胞を増殖させる方法であって:
(a)多能性または多分化能細胞が付着した複数のマイクロキャリアーを提供し;
(b)複数のマイクロキャリアーを凝集させて、凝集体を形成し;そして
(c)ROCK阻害剤の存在下で凝集体を培養する
工程を含む、前記方法を提供する。
【0066】
記載する側面および態様において、ROCK阻害剤は、好ましくは:Y−27632、HA−1077(ファスジル)、HA−1100(ヒドロキシファスジル)、H−1152、3−(4−ピリジル)−1H−インドール、N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素、アウロチオグルコース、LY294002あるいはその塩、塩基、エステルまたはプロドラッグより選択される。
【0067】
好ましい態様において、マイクロキャリアーはマトリックスコーティングを持たない。
【0068】
他の態様において、マイクロキャリアー表面は、マトリックスでコーティングされていてもよい。マトリックスは細胞外マトリックス構成要素を含んでもよく、そしてMatrigelTM(BD Biosciences)、ヒアルロン酸、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、エラスチン、ヘパラン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸の1またはそれより多くであってもよい。マトリックスは、ラミニン、コラーゲンI、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン1の混合物を含んでもよい。
【0069】
いくつかの態様において、多能性または多分化能細胞は幹細胞であり、そして胚性幹細胞、人工多能性幹細胞または成体幹細胞であってもよい。細胞は、哺乳動物(例えばウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他のげっ歯類(げっ歯目(Rodentia)中の任意の動物由来の細胞を含む)、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、非ヒト哺乳動物、非ヒト霊長類)、霊長類またはヒトであってもよい。
【0070】
記載する側面および態様において、マイクロキャリアーは、セルロース、デキストラン、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、セラミック、シリコーンの1またはそれより多くを含むかまたはこれらからなることも可能である。あるいは、マイクロキャリアーは、マクロ多孔性またはミクロ多孔性カルボシード(carboseed)マイクロキャリアーであってもよい。
【0071】
いくつかの態様において、マイクロキャリアーをプロタミンまたはポリリジンとカップリングさせる。いくつかの態様において、マイクロキャリアーは正に荷電している。いくつかの態様において、マイクロキャリアーは正の表面電荷を有する。いくつかの態様において、マイクロキャリアーは親水性である。いくつかの態様において、マイクロキャリアーは棒の形状である。他の態様において、マイクロキャリアーは実質的に球形である。
【0072】
本発明記載の方法は、例えば約5〜約200rpm、約5〜約150rpm、約5〜約100rpm、約30rpm以上または約50rpm以上、あるいは約100rpm以上の細胞培養の連続または断続的な攪拌を含んでもよい。あるいは、方法は静置培養を含んでもよい。
【0073】
いくつかの態様において、攪拌の速度または量の増加を用いて、細胞の分化を誘導してもよく、一方、有意な分化を誘導することなく、多能性または多分化能細胞集団を拡大するため、攪拌のより低い速度または量を用いてもよい。
【0074】
有意な分化を誘導することなく、多能性または多分化能細胞集団を培養するため、培養を約5rpm〜約100rpm、約5rpm〜約50rpm、約5rpm〜約40rpm、約5rpm〜約30rpm、約5rpm〜約25rpm、約5rpm〜約20rpm、約5rpm〜約15rpm、約5rpm〜約10rpmで攪拌してもよい。
【0075】
有意な分化を誘導するため、培養を約25rpm〜約200rpm以上、例えば約30rpm〜約200rpm以上、約35rpm〜約200rpm以上、約40rpm〜約200rpm以上、約45rpm〜約200rpm以上、約50rpm〜約200rpm以上、約75rpm〜約200rpm以上、約100rpm〜約200rpm以上で攪拌してもよい。
【0076】
有意な細胞分化には、培養中の細胞の少なくとも約10%が分化する状況が含まれる。あるいは、これは、培養中の細胞の少なくとも約15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%または50%の1つが分化するものであってもよい。
【0077】
したがって、本発明の方法は、細胞を培養しつつ、その多能性または多分化能状態を維持するための攪拌の第一の速度または量での方法の第一部に続いて、細胞が培養中で分化するのを可能にするための攪拌の第二の速度または量で細胞を培養する第二部を行うことを含んでもよい。第一の速度または量は、好ましくは、第二の速度または量より少ない。方法の第一の部分は、したがって、多能性または多分化能細胞集団を拡大可能であり、そして方法の第二の部分は、内胚葉、外胚葉または中胚葉系譜に向かう、これらの細胞のいくつかまたはすべての分化のプロセスを開始してもよい。
【0078】
本発明のさらなる側面において、治療が必要な個体において、疾患を治療する方法であって、本明細書記載の方法にしたがって多能性または多分化能細胞を増殖させ、分化した細胞または胚様体を産生し、そして多能性または多分化能幹細胞、分化した細胞または胚様体を個体に投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0079】
本発明の原理を例示する態様および実験は、ここで、付随する図に言及して論じられるであろう:
【図1】Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含み、DE53セルロースマイクロキャリアー上でhESCを継代した連続9週間の結果を示すチャート。ROCK阻害剤を含まないと、hESCは4週以降、継代不能である。
【図2】FACS分析。Matrigelを含まないがROCK阻害剤を含む、マイクロキャリアー培養中、3週間に渡る、多能性マーカーOct4およびmAb84の安定発現、ROCK阻害剤を含まない場合はマーカーの下方制御が示される。
【図3】Matrigelを含まないが、ROCK阻害剤を含むマイクロキャリアー培養中、9週間に渡る、多能性マーカーOct4、mAb84およびTra−1−60の安定発現を示すチャート。
【図4】Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含み、球状ポリリジンコーティングTosohマイクロキャリアー上でhESCを継代した連続6週間の結果を示すチャートおよびFACS分析。ROCK阻害剤を含まないと、hESCは2週以降、継代不能である。
【図5】Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含み、セルロースDE53、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上でhESCを継代した連続5週間の結果を示すチャート。
【図6】Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含む、セルロースDE53、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの顕微鏡写真。
【図7】FACS分析。Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含み、セルロース、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上で培養した5継代目のhESCにおける、Oct4およびmAb84発現。
【図8】Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含む、セルロースマイクロキャリアー上のhESCの走査型電子顕微鏡写真(SEM)。
【図9】Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含むhESCセルロースマイクロキャリアーのSEM。
【図10】それぞれ8継代目および7継代目の、DE53およびQA52セルロースマイクロキャリアー上で培養したhESCの安定核型。
【図11】それぞれ10継代目および5継代目の、球状TosohおよびCytodex3マイクロキャリアー上で培養したhESCの安定核型。
【図12】0継代目および1継代目で、阻害剤HA1077およびアウロチオグルコースが、Matrigelを含まないセルロースマイクロキャリアー上のhESCの増殖を補助することを示すチャート。
【図13】FACS分析。0継代目での阻害剤HA1077およびアウロチオグルコースを含むhESC培養の多能性マーカーOct4およびmAb84の安定発現。
【図14】FACS分析。1継代目での阻害剤HA1077およびアウロチオグルコースを含むhESC培養の多能性マーカーOct4およびmAb84のFACSの安定発現。
【図15】別のROCK阻害剤を含む、マイクロキャリアー上のhESCの集密培養の顕微鏡写真。
【図16】ROCK阻害剤Y−27632を含むセルロースマイクロキャリアー上の長期hESC培養の影響を示すチャート。ROCK阻害剤を含まない場合、Oct4およびmAb84が下方制御され、そしてROCK阻害剤を含む場合、9週間に渡って、Oct4およびmAb84が安定発現する。
【図17】ROCK阻害剤(Y−27632)を含むおよび含まない、セルロースDE53、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESC培養の比較を示すチャート。
【図18】胚性幹細胞において基本的細胞−細胞相互作用を制御するRho−Rock−ミオシン経路の概要を示す略図。点線は、細胞完全性および細胞再生経路内または該経路間の潜在的な機械的作用を示す(Harbら The Rho-Rock-Myosin Signaling Axis Determines Cell-Cell Integrity of Self-Renewing Pluripotent Stem Cells. PLoS ONE 3(8): e3001. doi:10:1371/journal.pone.0003001より)。
【図19】0継代目〜4継代目の、アウロチオグルコースの添加を伴う、MatrigelでコーティングされたセルロースDE53マイクロキャリアー対コーティングされていないマイクロキャリアー上のhESCの細胞密度(100万細胞/ウェル)を示すチャート。
【図20】FACS分析。1、3および4継代目でのアウロチオグルコースを含むhESC培養の多能性マーカーOct4およびmAb84の発現。
【図21A】ファスジル、ヒドロキシファスジルおよびアウロチオグルコースを毎日9週間連続添加した際の、hESC細胞拡大の補助に対する影響。(A)ファスジル、ヒドロキシファスジルおよびアウロチオグルコースを毎日9週間連続添加した際、対照DE53マイクロキャリアーと類似の細胞密度までhESC細胞拡大を補助する影響があることを示すチャート。
【図21B】ファスジル、ヒドロキシファスジルおよびアウロチオグルコースを毎日9週間連続添加した際の、hESC細胞拡大の補助に対する影響。(B)多能性マーカーTra−1−60の発現が、9週後、対照が90%であることと比較して、ファスジルおよびヒドロキシファスジルに関して約80%であり、そしてアウロチオグルコースでは60%であることを示すチャート。
【図21C】ファスジル、ヒドロキシファスジルおよびアウロチオグルコースを毎日9週間連続添加した際の、hESC細胞拡大の補助に対する影響。(C)多能性マーカーOct4の発現が、9週後、対照が55%であることと比較して、ファスジルおよびヒドロキシファスジルに関して約30〜40%であり、そしてアウロチオグルコースでは50%であることを示すチャート。
【図22】対照マイクロキャリアー対ヒドロキシファスジル処理マイクロキャリアーで培養されたhESCにおける胚様体形成後の分化マーカーに関するゲル電気泳動の結果を示す写真。多能性遺伝子NanogおよびOct4の発現を含める。
【図23】ファスジルおよびアウロチオグルコース処理マイクロキャリアーで培養されたhESCにおける胚様体形成後の分化マーカーに関するゲル電気泳動の結果を示す写真。多能性遺伝子NanogおよびOct4の発現を含める。
【図24】(A)ファスジル、ヒドロキシファスジル、アウロチオグルコースおよびY27632 ROCK阻害剤の6週間(週あたり1回継代、P)の単回用量添加(10μM)が、対照DE53マイクロキャリアーと類似の細胞密度(500万/ウェル)までのhESC細胞拡大の補助を可能にすることを示すチャート。(B)多能性マーカーTra−1−60の発現が、6週後(P6−週あたり1回の継代(P))、ファスジルおよびY27632 ROCK阻害剤に関して約80%であり、アウロチオグルコースに関して70%であり、そしてヒドロキシファスジルでは50%であることを示すチャート。
【図25】多能性マーカーOct4の発現が、6週後(P6−週あたり1回の継代(P))、ファスジルおよびヒドロキシファスジル、アウロチオグルコースおよびY27632 ROCK阻害剤に関して60%で非常に類似であることを示すチャート。
【図26】Cytodex1(5mg/ウェル、1mg/ml)およびDE53(20mg/ウェル、4mg/ml)マイクロキャリアー上で培養されたhESC細胞株HES−2(植え付け密度0.8x10細胞/ml)由来の細胞が、対照(Matrigel)培養と比較して類似の細胞濃度を有することを示すチャート。
【図27】対照(Matrigelコーティングマイクロキャリアー)培養に比較した、ROCK阻害剤(Y−27632(10μM))を含み、Cytodex1(5mg/ウェル、1mg/ml)およびDE53(20mg/ウェル、4mg/ml)マイクロキャリアー上で培養された、hESC細胞株HES−2(植え付け密度0.8x10細胞/ml)由来の細胞における多能性マーカー発現(Tra−1−60)。(A)5継代目のCytodex1+Y−27632(10μM)上のTra−1−60発現は〜94%であり、(B)5継代目のDE53+Matrigel上では〜88%であり、そして(C)5継代目のDE53+Y−27632(10μM)上では〜92%であることを示すFACS分析。
【図28】血清不含培地mTeSR1中、Y−27632(10μM)を含み、DE53マイクロキャリアー上で培養されたヒトiPS細胞(IMR90)の12継代に渡る細胞密度を示すチャート。
【図29】mTeSR1培地中、Y−27632(10μM)を含み、DE53マイクロキャリアー上で培養されたヒトiPS細胞(IMR90)の12継代に渡る、多能性マーカー(A)Oct4および(B)Tra−1−60の発現を示すチャート。
【図30】12継代目での、mTeSR1培地中、Y−27632(10μM)を含み、DE53マイクロキャリアー上で培養されたヒトiPS細胞(IMR90)における(A)Oct4および(B)Tra−1−60のFACS分析。
【発明を実施するための形態】
【0080】
例として、本発明を実施するために本発明者らが意図する最適な様式の特定の詳細を含めて、本発明の1以上の態様の詳細を、以下の付随する説明に示す。当業者には、これらの特定の詳細に限定されることなく、本発明を実施可能であることが明らかであろう。
【0081】
結果の要約
本発明者らは、ROCK阻害剤補充(例えばY27632、HA1077(ファスジル)またはアウロチオグルコース)の存在下で、多様なマイクロキャリアー(DE53、QA52、Tosoh、Cytodex1、Cytodex3)を用いて、連続5回を超える継代に渡り、マトリックスコーティング、例えばMatrigel非存在下で、マイクロキャリアー上、hESCを培養する方法を開発した。hESCは、5回以上の継代後、その増殖、最終細胞密度、多能性マーカーOct4、Mab84、およびTRA−1−60の発現、ならびに正常核型を維持した。
【0082】
これは、ある範囲のマイクロキャリアーコーティングを用いた多能性および多分化能細胞を培養するためのマイクロキャリアーの使用に関する本発明者らの以前の研究を改良する(部分的に、Ohら 2009に報告し、そしてさらに、米国特許出願、2009年3月17日出願のUS 61/069,694、2008年10月31日出願のUS 61/110,256、2009年1月29日出願のUS 61/148,064、および2009年2月27日出願のUS 61/155,940に記載する。これらの文献はすべて本明細書に援用される)。
【0083】
本発明の方法は、多能性hESCの拡大および分化を達成するため、Matrigel、動物由来マトリックス、または他の細胞外マトリックス構成要素でマイクロキャリアーをコーティングする必要を回避することから、特に有望である。これは、研究、療法および診断適用で使用するための、hESC、ならびに他の多能性および多分化能細胞を拡大しそして分化させる、GMPに準拠した方法を開発するのを補助するであろう。
【0084】
特に、本発明者らは:
1. ROCK阻害剤Y−27632を用いた、9週間(9回の継代)のセルロースDE53マイクロキャリアー上のhESCの長期培養(図1)。
【0085】
2. ROCK阻害剤Y−27632を用いた、6週間(6回の継代)の球状Tosohマイクロキャリアー上のhESCの長期培養(図4)。
【0086】
3. ROCK阻害剤Y−27632を用いた、5週間(5回の継代)のセルロースDE53、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの長期培養の比較(図5)。
【0087】
4. ROCK阻害剤Y−27632を用いた、5〜10週の間のセルロースDE53、QA52、Tosoh、およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの正常核型(図10および11)。
【0088】
5. 別のROCK阻害剤、HA1077(ファスジル)およびアウロチオグルコースを用いた、2週間のセルロースDE53マイクロキャリアー上のhESCの培養(図12〜14)。
を示した。
【0089】
懸濁培養および幹細胞の継代
本発明者らは、マトリックスコーティングを有する粒子上で、霊長類およびヒト幹細胞およびiPS細胞を培養し、増殖させ、そして継代することが可能であることを先に立証した。特に、本発明者らは、懸濁培養中、マトリックスコーティングしたマイクロキャリアー上で、幹細胞を連続して増殖させ、そして継代することも可能であることを示した。
【0090】
本発明者らは、ここで、ROCK阻害剤の存在下、懸濁中で幹細胞を増殖させる方法を記載する。増殖法は、幹細胞を成長させるか、繁殖させるか、増殖させるか、培養するか、拡大するかまたは増加させることを含んでもよい。増殖している幹細胞を、以下に記載するように、1回以上の継代に渡って継代することが可能である。こうした増殖は、特定の特性を持つマイクロキャリアーまたは粒子を使用することによって達成可能である。マイクロキャリアーまたは粒子は電荷を含んでもよい。マイクロキャリアーまたは粒子は、場合によって、コーティングを含んでもよい。さらなる特性はサイズを含んでもよい。
【0091】
幹細胞を増殖させる方法は、粒子を提供する工程を含んでもよい。粒子はコーティングされていなくてもよいし、または上にコーティングされたマトリックスを含んでもよい。これらは正電荷を有してもよい。粒子は付着した霊長類またはヒト幹細胞の凝集を可能にするサイズを有してもよい。幹細胞が粒子に付着することを可能にする。異なる粒子上で増殖する細胞が互いに接触し、そして凝集体を形成することを可能にする。培養を少なくとも1回の継代に関して継代する。幹細胞はキャリアーに付着しても、あるいはキャリアーから引き離されてもまたは分離されてもよい。これらを未分化もしくは多能性状態または両方で用いてもよく、あるいは望ましい細胞タイプに分化させてもよい。これらを用いて胚様体を形成してもよい。
【0092】
粒子が連続増殖を補助するため、これらは霊長類またはヒト幹細胞の寸法に適合するサイズ、例えば10μm、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μm、110μm、120μm、130μm、140μm、150μm、160μm、170μm、180μm、190μm、200μm、210μm、220μm、230μm、240μm、250μm程度を有するべきである。この桁のサイズを有するこうした粒子上の霊長類またはヒト幹細胞の培養は、その上で増殖する細胞が互いに凝集するのを可能にし、そして連続増殖を補助するであろう。粒子の適切な組成、形状およびサイズを、以下にさらに詳細に記載する。
【0093】
実施例は、ヒト胚性幹細胞2Dコロニー培養などの幹細胞培養をマイクロキャリアー粒子上に接種し、そして1回以上の継代を伴って、数世代に渡り、ROCK阻害剤の存在下で増殖させうることを示す。機械的または酵素的解離、あるいは両方の方法の組み合わせなどの任意の手段により、表面から除去することによって、幹細胞を継代してもよい。
【0094】
マイクロキャリアー粒子培養を粒子上で世代から世代に増殖させてもよい。あるいは、またはさらに、間に1以上の世代に渡って、慣用的な2D培養上で培養を増殖させてもよい。マイクロキャリアー上で増殖しているヒト幹細胞を2Dコロニー培養に戻してもよいし、そして逆を行ってもよい。
【0095】
本明細書記載の方法は、未分化型の幹細胞を効率的に増殖させるための方法を利用可能にする。1対2および1対10の間のスプリット比で、機械的にまたは酵素的に解離させることによって、マイクロキャリアー培養をマイクロキャリアー上に継代することも可能であり、この比は、慣用的な2D培養に関して可能であるよりも高い。これによって、より迅速に培養をスケールアップしつつ、バイオマテリアルのより効率的な利用が可能になる。
【0096】
マイクロキャリアー培養中の細胞の体積収量は、ルーチンに、2Dコロニー対照の2〜4倍である。本明細書に記載する方法によって増殖するヒト幹細胞の体積収量は、最大200万細胞/ml以上である可能性もある。
【0097】
本明細書記載の方法は、以下にさらに詳細に記載するように、9回以上の継代に関して、粒子から粒子にヒト幹細胞を継代することを可能にする。
【0098】
本明細書記載の方法は、その多能性特性を保持する幹細胞の増殖を可能にする。実施例は、本明細書に記載する方法および組成物にしたがって増殖させたヒト胚性幹細胞が、幹細胞の1以上の生物学的特性を維持可能であることを示す。したがって、増殖幹細胞は、2Dコロニー培養として増殖する幹細胞と同等の多能性マーカー、Oct−4、Tra−1−60およびmAb84の発現を、5回以上の継代に渡って示し、正常核型を保持する。
【0099】
重要なことに、マイクロキャリアー上に幹細胞を係留することによって、より大規模なスピナーフラスコ中で細胞を連続継代することが可能である。
【0100】
本明細書記載の方法を用いて、任意の幹細胞を増殖させてもよい。これらは、霊長類幹細胞、例えば、サル、類人猿またはヒト幹細胞を含んでもよい。幹細胞は胚性幹細胞または成体幹細胞を含んでもよい。幹細胞は、人工多能性幹細胞を含んでもよい。例えば、幹細胞はヒト胚性幹細胞(hESC)を含んでもよい。本明細書記載の方法および組成物で使用するのに適したこれらのおよび他の幹細胞を、以下にさらに詳細に記載する。本明細書記載の方法および組成物は、既知の「2D」培養法に勝る多様な利点を有する。粒子は、2Dコロニー培養支持体よりも、幹細胞を付着させるのにより効率的である。このためそして他の理由のため、懸濁培養細胞は、より効率的に継代可能である。本明細書記載の方法は、数サイクルに渡って、幹細胞を凍結融解することを可能にする。該細胞をマイクロキャリアー上で直接凍結し、そして増殖培地上(伝統的なプレート培養または微粒子マイクロキャリアー上のいずれであっても)で融解してもよい。マイクロキャリアー上で増殖させた幹細胞を、GMP準拠の血清不含培地中で増殖させてもよい。
【0101】
本明細書に記載する方法は、本質的に、未分化状態で、胚性幹細胞などの幹細胞を培養し、そして維持することを可能にする。増殖幹細胞は、培養中(例えばマイクロキャリアー上)で、またはそこから引き離されて、部分的に、または完全に分化させることも可能である。
【0102】
増殖幹細胞を用いて、さらなる使用のため、胚様体を形成してもよい。胚様体形成前に、2D増殖表面から細胞を除去するさらなる工程を必要とする以前の方法とは対照的に、マイクロキャリアー上で増殖する幹細胞を、単に、分化培地にトランスファーして、直接、胚様体を形成することも可能である。
【0103】
したがって、本明細書記載の方法および組成物は、増殖表面または支持体から除去することなく、それらの上で幹細胞の分化を導くことを可能にする。
【0104】
本明細書記載の方法および組成物は、より多量に、培養幹細胞の拡大およびスケールアップを可能にする。バイオリアクターまたは産業スケールへのスケールアップによって、幹細胞のより生産的な培養が可能になる。攪拌培養中、マイクロキャリアー上で幹細胞を増殖させることが可能であれば、つまり、培養を懸濁状態でスケールアップすることも可能である。Waveバイオリアクターなどの制御バイオリアクターまたは攪拌培養を用いてもよい。これによって、係留依存性の2次元コロニー培養の現在の制限に比較して、細胞をより多量に拡大することが可能になる。最大数百リットルのバイオリアクター中での大規模懸濁培養が可能である。
【0105】
ROCK阻害剤
本発明記載の方法は、ROCK阻害剤の存在下での多能性または多分化能細胞の培養、成長、繁殖、増殖、集団拡大および/または分化に関する。
【0106】
セリン/スレオニンキナーゼであるRhoキナーゼ(Rho関連コイルドコイルキナーゼまたはROCK; GenBank寄託番号: NM 005406)は、Rho(3つのアイソフォームRhoA、RhoBおよびRhoCが存在する)のターゲットタンパク質として働き、そしてRhoA誘導性ストレスファイバーおよび接着点の形成の仲介因子として特徴付けられてきている。
【0107】
ROCK I(またはROK bと呼ばれる)およびROCK II(RhoキナーゼまたはROK aとしてもまた知られる)は、元来、RhoA−GTP相互作用タンパク質として単離された。2つのキナーゼはヒトにおいて64%の全体同一性を有し、触媒性キナーゼドメインでは89%同一性を有する。どちらのキナーゼもコイルドコイル領域(55%同一性)、およびC1保存領域によって分けられたプレクストリン相同性(PH)ドメイン(80%同一性)を含有する。ROCKキナーゼ阻害の概説に関しては、Olsonら(Current Opinion in Cell Biology 2008, 20:242-248、本明細書に援用される)を参照されたい。
【0108】
ROCKは、下流ターゲットタンパク質のリン酸化を通じて、アクチン−ミオシン仲介性収縮力生成を促進する。ROCKは、LIMキナーゼ−1およびキナーゼ−2(LIMK1およびLIMK2)を、活性化ループ中で保存されるスレオニンでリン酸化し、LIMK活性、およびそれに続くコフィリンタンパク質のリン酸化を増加させ、これがFアクチン(Factin)切断活性を遮断する。ROCKはまた、制御性ミオシン軽鎖(MLC)およびMLCホスファターゼのミオシン結合サブユニット(MYPT1)を直接リン酸化して、触媒活性を阻害する。ROCK活性化によって、力生成および形態学的変化を促進する一連の事象が導かれる。これらの事象は、いくつかのアクチン−ミオシン仲介プロセスに直接寄与し、こうしたプロセスには、例えば細胞運動、接着、平滑筋収縮、神経突起退縮、および食作用がある。さらに、ROCKキナーゼは、増殖、分化、アポトーシス、および発癌性トランスフォーメーションにおいて役割を果たすが、これらの反応は細胞タイプ依存性でありうる。
【0109】
本明細書において、「ROCK阻害剤」は、ROCK Iおよび/またはROCK IIを阻害することが可能な分子、化合物、物質または組成物であり、そして好ましくは100μM未満、より好ましくは10μM未満、さらにより好ましくは1μM未満、そしてさらにより好ましくは900nM未満、あるいは約800nM、700nM、600nM、または500nMの1つ未満であるかまたはこれらに同等であるIC50を有する。本発明で有用なROCKキナーゼは、同じROCKキナーゼアッセイで測定した際、Y−27632のIC50と実質的に同じかまたはそれより優れた(すなわちそれ未満の)、またはY−27632のIC50の500nM以内のIC50を有してもよい。
【0110】
本明細書において、「ROCK阻害剤」はまた、アウロチオグルコースおよびLY294002も指し、これらは主に、NFカッパBおよびPI3キナーゼの阻害剤として知られる。こうしたものとして、本明細書記載の側面および態様におけるROCK阻害剤の使用には、NFカッパBおよび/またはPI3キナーゼの阻害剤の使用が含まれる。
【0111】
ROCKキナーゼ阻害アッセイは、当該技術分野に周知である。例えば、HTScan(登録商標)ROCK2キナーゼアッセイキット♯7508(Cell Signaling Technology, Inc.)、ならびにROCK−IIアッセイキット、製品番号R8163およびR8164(Molecular Devices)がある。
【0112】
本発明の方法において、培養に添加されるROCK阻害剤の量は、通常、製造者の指示および培養サイズを考慮する。例えば、ROCK阻害剤の典型的な濃度は、10〜50μMの範囲であろう。ROCK阻害剤を培地に定期的に、例えば毎日、添加して、所望の濃度を維持してもよい。
【0113】
培地中のROCK阻害剤の濃度が;少なくとも1μM、少なくとも2μM、少なくとも3μM、少なくとも4μM、少なくとも5μM、少なくとも6μM、少なくとも7μM、少なくとも8μM、少なくとも9μM、少なくとも10μM、少なくとも15μM、少なくとも20μM、少なくとも30μM、少なくとも40μM、または少なくとも50μMの1つになるように、ROCK阻害剤を培地に添加してもよい。場合によって、ROCK阻害剤は:100μM、90μM、80μM、70μM、または60μMの1つ未満の濃度で培地中に存在してもよい。
【0114】
ROCK阻害剤を、活性剤の塩、塩基、エステルまたはプロドラッグとして提供してもよい。
【0115】
ROCK阻害剤の例には、以下が含まれる:
(A)Y−27632
Y−27632は、ROCK IおよびROCK IIの非常に強力で細胞浸透性の選択的およびATP競合性阻害剤であり、約800nMのIC50を有し、そして以下のような構造(1)を有する:
【0116】
【化1】

【0117】
Y−27632は、二塩酸塩[(R)−(+)−トランス−N−(4−ピリジル)−4−(1−アミノエチル)−シクロヘキサンカルボキサミド.2HCl]として一般的に製造されそして販売されている。
【0118】
Y−27632は、以下の公表される論文に概説され、該論文はすべて、本明細書に援用される:
【0119】
【化2】

【0120】
(B)HA−1077(ファスジル)
HA−1077は、ミオシン軽鎖キナーゼおよびCa2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIの阻害剤である。該分子は、PKCβI、PKCβIIおよびPKCζの転位置を阻害し、そして抗血管攣縮特性を持つ細胞浸透性Ca2+アンタゴニストである。該分子は、〜291.36の分子量を有する。該分子は、ATPと競合することによってROCKを阻害する。ROCK1に関するIC50は1.2mmol/lであり、そしてROCK2に関するIC50は0.82mmol/lである。該分子は、他のセリン/スレオニンキナーゼに対してもまた非特異的阻害効果を持ち、例えばPKAに対するIC50は5.3mmol/lであり、そしてPKCaに対するIC50は>100mmol/lである。二塩酸塩は、以下のような構造(2)を有する:
【0121】
【化3】

【0122】
HA−1077は、以下の公表される論文に概説され、該論文はすべて、本明細書に援用される:
【0123】
【化4】

【0124】
(C)HA−1100(ヒドロキシファスジル)
HA−1100は、HA−1077の細胞浸透性ヒドロキシル化代謝産物であり、MLCK、MRCKβおよびPKCよりも〜100倍高い選択性を持つ、Rhoキナーゼ(ROCK)のATP競合性および可逆的阻害剤として作用する。分子量は〜343.8である。該分子は、ファスジルよりも、ROCKに対するより選択的な阻害効果を有する: ROCK1に対するIC50は0.73mmol/lであり、そしてROCK2に対するIC50は0.72mmol/lである。他のセリン/スレオニンキナーゼに対しても非特異的な阻害効果を有し、例えばPKAに対するIC50は37mmol/lであり、そしてPKCaに対するIC50は>100mmol/lである。塩酸塩は、以下のような構造(3)を有する:
【0125】
【化5】

【0126】
HA−1100は、以下の公表される論文に概説され、該論文はすべて、本明細書に援用される:
【0127】
【化6】

【0128】
(D)H−1152(Rhoキナーゼ阻害剤I)
H−1152[(S)−(+)−2−メチル−1−[(4−メチル−5−イソキノリニル)スルホニル]ホモピペラジン]は、細胞浸透性の非常に特異的で強力な、そしてATP競合性のRhoキナーゼ(ROCK)阻害剤である(Ki=1.6nM)。該分子は、Y−27632より強力でそして選択的である。K ROCK 1.6nM(K PKA: 630nM、K PKC: 9.27μM、K MLCK: 10.1μM)。分子量は〜392.3である。H−1152の二塩酸塩は、以下のような構造(4)を有する:
【0129】
【化7】

【0130】
HA−1152は、以下の公表される論文に概説され、該論文はすべて、本明細書に援用される:
【0131】
【化8】

【0132】
(E)3−(4−ピリジル)−1H−インドール
3−(4−ピリジル)−1H−インドールは、Rhoキナーゼ(ROCK)の細胞浸透性、選択的、およびATP競合性阻害剤であり(IC50=25μM)、Y−27632より強力でないことが示されており、そして以下のような構造(5)を有する:
【0133】
【化9】

【0134】
3−(4−ピリジル)−1H−インドールは、以下の公表される論文に概説され、該論文はすべて、本明細書に援用される:
【0135】
【化10】

【0136】
(F)N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素(Rhoキナーゼ阻害剤II)
N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素は、Rhoキナーゼ(ROCK)の強力で、選択的な、そしてATP競合性の阻害剤であり(IC50=0.2μM)、以下のような構造(6)を有する:
【0137】
【化11】

【0138】
N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素は、以下の公表される論文に概説され、該論文は、本明細書に援用される:
【0139】
【化12】

【0140】
(G)アウロチオグルコース
アウロチオグルコースはまた金チオグルコースとしても知られ、式AuSC11を有する:
【0141】
【化13】

【0142】
アウロチオグルコースは、PKCイオタ−Par6相互作用阻害剤である。この相互作用を破壊すると、非小細胞肺癌の形質転換増殖に必要なRac1シグナル伝達経路が破壊される。IC50: 1μM。
【0143】
アウロチオグルコースは、IL−1機能アンタゴニストとして作用することによって、誘導されるNF−κBおよびAP−1活性を阻害する。
【0144】
アウロチオグルコースは、関節炎による炎症および腫脹を減少させる際の作用に関して知られる。そして該分子は、成人または若年性関節リウマチの初期段階の治療に用いられてきている。
【0145】
アウロチオグルコース(ATG)を含む金(I)含有化合物は、いくつかのセレノシステイン含有酵素の強力なin vitro阻害剤である(Smithら J Nutr. 1999 Jan;129(1):194-8)。アウロチオグルコースは、プロテインキナーゼCが仲介する阻害に関連付けられる(Stallings-Mann Mら A novel small-molecule inhibitor of protein kinase C blocks transformed growth of non-small cell lung cancer cells. Cancer Res 2006; 66:1767-74およびBeverly A.Teicher. Protein Kinase C as a Therapeutic Target. Clin Cancer Res 2006;12(18) 2006年9月15日)。
【0146】
アウロチオグルコースは、IL−1機能アンタゴニストとして作用することによって、誘導されるNF−κBおよびAP−1活性を阻害することが示されてきている(Williams, D H : Jeffery, L J : Murray, E J Biochim-Biophys-Acta. 1992 Oct 13; 1180(1): 9-14)。
【0147】
アウロチオグルコースはまた、TPAが誘導するNF−カッパB核転座を阻害することも示されてきている(Yamashita Mら Inhibition of TPA-induced NF-kappaB nuclear translocation and production of NO and PGE2 by the anti-rheumatic gold compounds. J Pharm Pharmacol. 2003 Feb;55(2):245-51)。
【0148】
(H)LY294002
LY294002は、以下のような構造(7)を有する:
【0149】
【化14】

【0150】
LY294002(ホスファチジルイノシトール3キナーゼ阻害剤)は、ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼの非常に選択的な阻害剤としてin vivoで作用することが示されてきている。50μMの濃度で用いると、PI3キナーゼ活性を特異的に消失させる(IC50=0.43μg/ml; 1.40μM)が、他の脂質およびプロテインキナーゼ、例えばPI4キナーゼ、PKC、MAPキナーゼまたはc−Srcを阻害しなかった(Vlahos, C.(1994) J. Biol. Chem. 269, 5241-5248)。
【0151】
他のROCK阻害剤には、Wf−536(Nakajimaら, Cancer Chemother Pharmacol. 52(4): 319-324(2003))およびY−30141(US 5478838を参照されたい)、ならびにROCKのアンチセンス核酸、ROCKのRNA干渉核酸(例えばsiRNA)が含まれる。
【0152】
正電荷
粒子またはマイクロキャリアーは、例えば中性pHまたは生理学的に適切なpH、例えばpH7.4またはpH7.2で、正電荷を含んでもよい。粒子は、陰イオン交換樹脂などのクロマトグラフィー樹脂を含んでもよい。
【0153】
正電荷の量は多様であることも可能であるが、いくつかの態様において、細胞が粒子に付着するのを可能にするために十分に高いことが意図される。例えば、粒子がアミン、例えば三級または四級アミンとカップリングすることによって荷電される場合、粒子上の電荷は、グラム乾燥物質(粒子の)あたり、約0.5〜4ミリ当量、例えばグラム乾燥物質(粒子の)あたり、約1〜3.5ミリ当量の間、またはグラム乾燥物質(粒子の)あたり、約1〜2ミリ当量の間の小イオン交換容量に対応しうる。
【0154】
正電荷は、粒子のpKaが7より大きく(例えば7.4より大きく、例えば7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5またはそれより大きく)なるようなものであってもよい。
【0155】
最大20mg/ml粒子の濃度で、例えば硫酸プロタミンまたは臭化水素酸ポリ−L−リジンにカップリングすることによって、粒子を誘導体化してもよい。
【0156】
理論によって束縛されることは望ましくないが、本発明者らは、粒子上の正電荷の存在が、粒子への細胞の付着を補助すると考えている。
【0157】
粒子は、当該技術分野に知られる任意の手段を通じて正電荷を所持してもよい。粒子は、正荷電基を含んでもよいし、またはこれらを所持するように誘導体化されてもよい。
【0158】
粒子は、ジエチルアミノエチル−セルロース(DEAE−セルロース)またはその誘導体を含んでもよい。DEAE−セルロースは、炭水化物の−CHOH基がイオン化可能三級アミン基に変換されているように、化学的に修飾されている、微小顆粒セルロースを含む。該粒子は中性pHで正に荷電される。
【0159】
粒子は、Sephadexビーズ、例えばDEAE−Sephadexを含んでもよい。粒子は、Sepharoseなどの共有架橋されていてもよいアガロースビーズ(すなわちDEAE−Sepharose)を含んでもよい。粒子は、DEAE−Sephacelを含んでもよい。DEAE−Sepharose、DEAE−SephacelおよびDEAE−Sephadexは、Sigma−Aldrichから入手可能である。粒子は、Q−Sepharose Fast FlowまたはS−Sepharose Fast Flowを含んでもよい。Q−Sepharoseの荷電基は、滴定不能正電荷を所持する四級アミンである。
【0160】
粒子が正電荷を所持するように粒子を誘導体化してもよい。例えば、粒子はそれに付着したアミン基を含んでもよい。アミン基は、一級アミン基、二級アミン基、三級アミン基または四級アミン基であってもよい。粒子をアミン含有化合物にカップリングすることによって、アミン基を粒子に付着させてもよい。カップリング法は当該技術分野に周知である。例えば、臭化シアンを使用することによって、アミンを粒子にカップリングしてもよい。架橋剤もまた使用可能である。これらは、2つの同一反応基を含有するホモ二官能性架橋剤、または2つの異なる反応基を含有するヘテロ二官能性架橋剤に分けられる。ヘテロ二官能性架橋剤は、連続コンジュゲート化を可能にし、重合を最小限にする。カップリングおよび架橋試薬は、いくつかの製造者から、例えばCalbiochemまたはPierce Chemical Companyから得られうる。カップリング前に粒子を活性化して、その反応性を増加させてもよい。クロロ酢酸を用いてコンパクトな粒子を活性化した後、EDAC/NHS−OHを用いてカップリングしてもよい。また、ジイソシアン酸ヘキサンを用いて粒子を活性化して、一級アミノ基を得てもよい。こうして活性化された粒子を、任意のヘテロ二官能性架橋剤と組み合わせて用いてもよい。特定の態様において、ジビニルスルホンを用いて、コンパクトな粒子を活性化する。こうして活性化されたコンパクトな粒子は、例えば、ペプチド上のアミノ基またはチオール基と反応可能な部分を含む。
【0161】
また、塩化トレシルを用いて粒子を活性化して、アミノ基またはチオール基と反応可能な部分を得てもよい。また、塩化シアンを用いて粒子を活性化して、アミノ基またはチオール基と反応可能な部分を得てもよい。
【0162】
Cytodex1は、正に荷電されたN,N−ジエチルアミノエチル基で置換される架橋デキストランマトリックスに基づく。荷電基は、マイクロキャリアーマトリックス全体に分布する。
【0163】
非荷電粒子
粒子またはマイクロキャリアーは、例えば中性pHまたは生理学的に適切なpH、例えばpH7.4またはpH7.2で、非荷電であるか、または電荷中性であってもよい。
【0164】
非荷電粒子の例には、ゼラチンまたはコラーゲン粒子が含まれる。例えば、Cytodex3は、架橋デキストランのマトリックスに化学的にカップリングされた変性コラーゲンの薄層からなる。
【0165】
マトリックスコーティング
ROCK阻害剤の使用が、マイクロキャリアー上のマトリックスコーティングの非存在下で、マイクロキャリアー上、多能性および多分化能細胞の培養および継代の成功を可能にすることを本発明者らが見出したことが、本発明の中心である。今日まで、多能性および多分化能細胞のマイクロキャリアー培養は、マトリックスコーティングを有する必要があると考えられてきており、そして本発明は、よりGMP準拠しやすい、コーティングされていないマイクロキャリアー培養への扉を開く。したがって、多くの態様において、マイクロキャリアーはコーティングされないか、またはマトリックスコーティングを持たないが、別の方式でコーティングされるかまたは誘導体化されて、マイクロキャリアー表面に電荷を提供してもよい。しかし、他の態様において、以下に記載するように、マトリックスコーティングを含むことが可能である。
【0166】
したがって、粒子をマトリックスでコーティングしてもよく、本文書の文脈では、マトリックスは、表面上などで、粒子に付着する物質の層(例えば薄層またはフィルム)を指す。マトリックスは、細胞の増殖を補助することが可能な生物学的に適合したまたは生理学的に適切なマトリックスを含んでもよい。マトリックスは、細胞増殖のための支持体を含んでもよい。
【0167】
マトリックスは、細胞外マトリックス(ECM)の構成要素を含んでもよい。幹細胞増殖を補助可能であるものなどのECMの任意の既知の構成要素を用いてもよい。細胞外マトリックスの構成要素が当該技術分野に知られ、そして例えば、Albertsら(2002),Molecular Biology of the Cell,第IV章、および該文献に引用される参考文献に記載される。
【0168】
慣用的な手段を通じて、ECM構成要素を粒子に付着させるかまたはカップリングするかまたはコーティングしてもよい。例えば、上述の任意のカップリング試薬および架橋剤を用いて、粒子にECM構成要素をカップリングしてもよい。
【0169】
ECM構成要素は、巨大分子、例えば多糖、タンパク質、プロテオグリカン、糖タンパク質、通常はプロテオグリカンの形でタンパク質に共有結合して見出されるグリコサミノグリカン(GAG)、エラスチン、フィブロネクチン、およびラミニンを含む線維状タンパク質、コラーゲン(例えばコラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV)などを含んでもよい。
【0170】
マトリックスコーティングは、グリコサミノグリカン(GAG)を含んでもよい。グリコサミノグリカンは、反復二糖単位で構成される、非分枝多糖鎖を含む。この反復二糖中の2つの糖の一方は、常に、アミノ糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)であり、大部分の場合、硫酸化されている。第二の糖は通常、ウロン酸(グルクロン酸またはイズロン酸)である。
【0171】
マトリックスコーティングは、ヒアルロナン(ヒアルロン酸またはヒアルロネートとも呼ばれる)またはその誘導体を含んでもよい。ウシ硝子体液などの、いくつかの供給源のいずれからヒアルロン酸を得てもよい。ヒアルロン酸ナトリウムなどのヒアルロン酸の塩または塩基を使用してもよい。これは連鎖球菌由来であってもよい。
【0172】
マトリックスコーティングは、ラミニンを含んでもよい。マトリックスコーティングは、フィブロネクチンを含んでもよい。マトリックスコーティングは、ビトロネクチンを含んでもよい。
【0173】
マトリックスコーティングは、例えば、プロテオグリカンとしてタンパク質に連結されるような、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびケラタン硫酸などのGAGを含んでもよい。ECM構成要素は、アグリカン、デコリン等を含んでもよい。
【0174】
マトリックスコーティングは、ヘパランあるいは塩基または塩などのその誘導体を含んでもよい。マトリックスコーティングは、ヘパラン硫酸プロテオグリカンを含んでもよい。ウシ腎臓などのいくつかの供給源のいずれからヘパラン硫酸プロテオグリカンを得てもよい。
【0175】
マトリックスコーティングは、デキストラン、例えばデキストラン硫酸またはデキストラン硫酸ナトリウムを含んでもよい。マトリックスコーティングは、フィブロネクチン、ラミニン、ナイドジェンまたはタイプIVコラーゲンを含んでもよい。マトリックスコーティングは、コンドロイチン硫酸を含んでもよい。
【0176】
マトリックスは、ゼラチン、ポリオルニチン、またはフィブロネクチンのRGD結合ドメインの結合モチーフを含んでもよい。
【0177】
マトリックスコーティングは、多様な比率で、これらの構成要素の任意の2以上の混合物を含んでもよい。マトリックスコーティングは、ECMの精製されたかまたは実質的に精製された構成要素を含んでもよい。マトリックス構成要素は、ECMの部分的に精製された構成要素を含んでもよい。マトリックスはMatrigelなどのECM抽出物を含んでもよい。
【0178】
細胞培養は、異なるマトリックスコーティングを有する粒子を含んでもよい。例えば、第一の粒子集団は、上述のものより選択される第一のマトリックスコーティングを有し、そして第二の粒子集団は、上述のものより選択される第二のマトリックスコーティングを有する。
【0179】
Matrigel
Matrigelを含むマトリックスコーティングで粒子をコーティングしてもよい。
【0180】
Matrigelは、マウス腫瘍細胞によって分泌され、そしてBD Biosciences(米国マサチューセッツ州ベッドフォード)によって販売される、ゼラチン性タンパク質混合物の商用名(trade name)である。この混合物は、多くの組織で見られる複雑な細胞外環境に似ており、そして細胞生物学者によって、細胞培養支持体として用いられている。
【0181】
BD MatrigelTMマトリックスは、ECMタンパク質が豊富な腫瘍であるEHSマウス肉腫から抽出された可溶化基底膜調製物である。主な構成要素は、ラミニン(約56%)、続いてコラーゲンIV(約31%)、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン1(約8%)である。室温では、BD MatrigelTMマトリックスは重合して、哺乳動物細胞性基底膜に似た、生物学的に活性であるマトリックス物質を産生する。
【0182】
一般的な実験室法は、少量の冷却(4℃)Matrigelをプラスチック組織培養実験機器などの表面上に分配するものである。37℃(体温)でインキュベーションした際、Matrigelタンパク質は自己アセンブリして、表面を覆う薄いフィルムを生じる。
【0183】
Matrigelは、細胞形態、生化学的機能、遊走または浸潤、および遺伝子発現に関して生理学的に適切な環境を提供する。
【0184】
Matrigelが複雑な細胞の振る舞いを刺激する能力は、不均一な組成を有することによるものである。Matrigelの主な構成要素は、ラミニンおよびコラーゲンなどの構造タンパク質であり、これらは、培養細胞が天然環境で出会う接着性のペプチド配列を、培養細胞に提示する。多くの細胞タイプの分化および増殖を促進する増殖因子もまた存在する。Matrigelは、以下の増殖因子を含む(濃度範囲、平均濃度): EGF(0.5〜1.3ng/ml、0.7ng/ml)、bFGF(<0.1〜0.2pg/ml、未知)、NGF(<0.2ng/ml、未知)、PDGF(5〜48pg/ml、12pg/ml)、IGF−1(11〜24ng/ml、16ng/ml)、TGF−β(1.7〜4.7ng/ml、2.3ng/ml)。Matrigelは、少量の中に多数の他のタンパク質を含有する。
【0185】
代替マトリックスコーティング
いくつかの態様において、細胞を1回以上の継代(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上の継代)に関して、第一のマトリックスコーティングを有する粒子上で培養し、その後、1回以上の継代(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10回以上の継代)に関して、異なる(第二の)マトリックスコーティングを有する粒子にトランスファーしてもよい。場合によって、次いで、細胞を、第二のコーティングとは異なるマトリックスコーティングを有する粒子に、例えば第一のマトリックスコーティングに戻して、または別のマトリックスコーティングに、あるいはコーティングされていない粒子にトランスファーしてもよい。
【0186】
粒子組成
本明細書に記載する方法および組成物において、幹細胞を粒子またはマイクロキャリアー上で増殖させる。この文書において該用語を用いる場合、「粒子」は、幹細胞がそれに付着するかまたはその上で増殖することが可能な任意の支持体を含む。粒子は、以下に記載するように、任意の形状または配置であってもよい。
【0187】
粒子は、IUPAC Compendium of Chemical Terminology(第2版,1992,Vol.64,p.160)に記載されるようなマイクロキャリアーを含んでもよい。
【0188】
粒子は例えば付着ポイントまたは幹細胞の支持体として、上述のような目的を果たすことが可能である物理的特性を有する限り、任意の物質を含んでもよい。したがって、粒子は、この目的のため、硬直性、剛性、可鍛性、固体、多孔性または別の性質の物質を含んでもよい。粒子は固体物質、または半固体、ゲル等の物質を含んでもよい。
【0189】
物質は、正電荷および/またはマトリックスコーティングの付着を可能にするために、少なくとも反応性であるか、あるいはアクチベーターによって反応性にされることが可能であるが、別の方式で、一般的に不活性の物質を含んでもよい。粒子は、1より多い物質が粒子を構成可能であるように、複合体を含んでもよい。例えば、粒子のコアは表面部分とは異なる物質を含んでもよい。したがって、粒子コアは、一般的に不活性の物質を含んでもよく、一方、表面部分は、マトリックスまたは正電荷の付着または化学的カップリングに関して反応性である物質を含んでもよい。粒子は天然起源であってもよいし、または合成でもよい。天然および合成物質、ならびにこれらを得るための供給源は、当該技術分野に周知である。粒子は、少なくともある程度の機械的耐性、化学的攻撃または熱処理に対する少なくともある程度の耐性、あるいはこれらの任意の組み合わせを有してもよい。
【0190】
別の態様において、粒子は、「非生物学的」物体を含んでもよく、この用語によって、本発明者らは、細胞性物質を含まないかまたは実質的に含まない粒子を意味する。したがって、こうした非生物学的または非細胞性粒子は、合成物質、または非天然存在物質を含んでもよい。多様な形状の多様な粒子が当該技術分野に知られ、そしてこれらには、例えば多様な種類のビーズが含まれる。粒子の態様には、マイクロビーズ、例えばアガロースビーズ、ポリアクリルアミドビーズ、シリカゲルビーズ等が含まれる。例えば、粒子を作製する物質は、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーン、ゼラチン、デキストラン、セルロース、ヒドロキシル化メタクリレート、ポリスチレン、コラーゲンまたはその他のものを含んでもよい。例えば、粒子は、セルロースまたは誘導体、例えばDEAE−セルロース(以下に記載するとおり)で作製されてもよい。粒子は、セルロース、修飾親水性ビーズおよび炭素に基づくマイクロキャリアーを含んでもよい。
【0191】
粒子は、商業的に入手可能なマトリックスまたはキャリアー、例えばビーズまたはマイクロビーズを含んでもよい。粒子は、クロマトグラフィーマトリックスとして使用するために販売されている樹脂、例えば陰イオン交換樹脂を含んでもよい。
【0192】
粒子は、セルロースマイクロキャリアーを含んでもよい。粒子は、DE−52(Whatman)、DE−53(Whatman)またはQA−52(Whatman)を含んでもよい。粒子は、親水性マイクロキャリアー、ヒドロキシル化メタクリル酸マトリックスマイクロキャリアーまたは誘導体化親水性ビーズ化マイクロキャリアーを含んでもよい。粒子は、TSKゲル・トレシル−5Pw(Tosoh)またはToyopearl AF−トレシル−650(Tosoh)を含んでもよい。粒子はマクロ多孔性またはミクロ多孔性Carboseedマイクロキャリアー、例えばSM1010(Blue Membranes)またはSH1010(Blue Membranes)を含んでもよい。
【0193】
粒子は、デキストランに基づくマイクロキャリアーであってもよい。粒子は、Cytodex 1(GE Healthcare)またはCytodex 3(GE Healthcare)を含んでもよい。Cytodex1は、正に荷電したN,N−ジエチルアミノエチル基で置換された架橋デキストランマトリックスに基づく。荷電基は、マイクロキャリアーマトリックス全体に分布する。Cytodex 3は、架橋デキストランのマトリックスに化学的にカップリングした変性コラーゲンの薄層からなる。
【0194】
粒子はポリスチレンに基づくマイクロキャリアーであってもよい。粒子は、HillexまたはHillex II(SoloHill Engineering, Inc.)を含んでもよい。HillexおよびHillex IIは、陽イオン性トリエチルアンモニウムコーティングを有する、修飾ポリスチレンマイクロキャリアーである。
【0195】
細胞増殖を可能にする前に、粒子を処理してもよい。本文書の別の箇所に記載するように、より強い接着、電荷の利用可能性、生物学的適合性などを達成するため、こうした処理を試みてもよい。
【0196】
DE−53、DE−52およびQA−52などのセルロースマイクロキャリアーは棒の形状であってもよい。
【0197】
細胞培養は、1より多いタイプの粒子の混合物を含んでもよい。例えば、第一の粒子集団(例えばコンパクトな形状の粒子)および第二の粒子集団(例えば伸長した形状の粒子)。いくつかの態様において、第一の細胞タイプ、例えばフィーダー細胞を第一の粒子に付着させてもよく、そして第二の細胞タイプ、例えばhESCを第二の粒子に付着させてもよい。各粒子タイプは、同じまたは異なるマトリックスコーティングを有してもよい。場合によって一方または両方の粒子タイプがマトリックスコーティングを持たなくてもよい。
【0198】
ビーズ
使用に適したビーズまたはマイクロビーズには、ゲルクロマトグラフィーに用いるもの、例えばゲルろ過媒体、例えばSephadexが含まれる。この種類の適切なマイクロビーズには、本文書の別の箇所に説明するように、サイズに関して適合する限り、40〜120のビーズサイズを有するSephadex G−10(Sigma Aldrichカタログ番号27、103−9)、40〜120μmのビーズサイズを有するSephadex G−15(Sigma Aldrichカタログ番号27、104−7)、20〜50μmのビーズサイズを有するSephadex G−25(Sigma Aldrichカタログ番号27、106−3)、20〜80μmのビーズサイズを有するSephadex G−25(Sigma Aldrichカタログ番号27、107−1)、50〜150μmのビーズサイズを有するSephadex G−25(Sigma Aldrichカタログ番号27、109−8)、100〜300μmのビーズサイズを有するSephadex G−25(Sigma Aldrichカタログ番号27、110−1)、20〜50μmのビーズサイズを有するSephadex G−50(Sigma Aldrichカタログ番号27、112−8)、20〜80μmのビーズサイズを有するSephadex G−50(Sigma Aldrichカタログ番号27、113−6)、50〜150μmのビーズサイズを有するSephadex G−50(Sigma Aldrichカタログ番号27、114−4)、100〜300μmのビーズサイズを有するSephadex G−50(Sigma Aldrichカタログ番号27、115−2)、20〜50μmのビーズサイズを有するSephadex G−75(Sigma Aldrichカタログ番号27、116−0)、40〜120μmのビーズサイズを有するSephadex G−75(Sigma Aldrichカタログ番号27、117−9)、20〜50μmのビーズサイズを有するSephadex G−100(Sigma Aldrichカタログ番号27、118−7)、40〜120μmのビーズサイズを有するSephadex G−100(Sigma Aldrichカタログ番号27、119−5)、40〜120μmのビーズサイズを有するSephadex G−150(Sigma Aldrichカタログ番号27、121−7)、および40〜120μmのビーズサイズを有するSephadex G−200(Sigma Aldrichカタログ番号27、123−3)が含まれる。
【0199】
例えば液体クロマトグラフィーで用いられるようなSepharoseビーズもまた使用可能である。例は、例えば、Q Sepharose XL(カタログ番号17−5072−01)、Q Sepharose XL(カタログ番号17−5072−04)、Q Sepharose XL(カタログ番号17−5072−60)、SP Sepharose XL(カタログ番号17−5073−01)、SP Sepharose XL(カタログ番号17−5073−04)およびSP Sepharose XL(カタログ番号1 17−5073−60)などのAmersham Bioscience Europe GmbH(ドイツ・フライベルグ)より入手可能な、Q−Sepharose、S−SepharoseおよびSP−Sepharoseビーズである。
【0200】
粒子形状
粒子は細胞増殖に適した任意の形状、例えばコンパクトな形状または伸長した形状を含んでもよい。
【0201】
コンパクトな形状
コンパクトな形状の例は、一般的に球状粒子、楕円形粒子、または顆粒形粒子である。
【0202】
「コンパクトな」によって、本発明者らは、一般的に伸長していない形状を意味する。言い換えると、「コンパクトな」形状は、一般的に、伸長していないかまたは伸展しておらず、あるいはいかなる1つの方向にも伸展していない。コンパクトな形状は、一般的に広がっていないか、あるいは長くもまたは細長くもないものであってもよい。したがって、こうした「コンパクトな形状」は、一般的に類似であるか、または大きくは異ならない線寸法(linear dimensions)を一般的に所持する。
【0203】
したがって、コンパクトな形状の任意の2つの寸法の比は、5:1以下、例えば4:1以下、例えば3:1、2.5:1、2.4:1、2.3:1、2.2:1、2.1:1、2:1、1.9:1、1.8:1、1.7:1、1.6:1、1.5:1、1.4:1、1.3:1、1.2:1、1.1:1以下であってもよい。例えば、いかなる2対の寸法も、5:1以上の比を持ちえない。
【0204】
いくつかの態様において、コンパクトな形状の最長の寸法は、コンパクトな形状の最短の寸法の5倍未満である。他の態様において、コンパクトな形状の最長の寸法は、最短の寸法より有意に長くなく、すなわち形状は比較的均一である。
【0205】
「最長の寸法」は、本文書で用いた際、主軸、すなわち粒子を通じて引くことが可能な最長の線を含有する軸の長さを意味するよう解釈されるべきである。同様に、「最短の寸法」は、本文書で用いた際、短軸、すなわち粒子を通じて引くことが可能な最短の線を含有する軸の長さである。
【0206】
線寸法がほぼ同じであるかまたは匹敵するか、あるいは最長の寸法対最短の寸法の比が5:1未満である、均一な形状が、本明細書に記載するコンパクトな粒子に含まれる。上記の比は、したがって、最長の寸法対最短の寸法の比に関する。いくつかの態様において、2寸法の比(例えば最長の寸法対最短の寸法)は、1.1:1未満、例えば1:1(すなわち均一なまたは一律な形状)である。
【0207】
したがって、適用可能な場合、粒子の長さは、その幅または直径の5x未満、例えばその幅または直径の4x未満、例えば3x未満、例えば2x未満、またはそれより小さくてもよい。
【0208】
コンパクトな形状は、正多面体(regular solid)、球体、スフェロイド、偏球、扁平スフェロイド、楕円体、立方体、円錐体、円柱、または多面体であってもよい。多面体には、単純多面体または正多面体(regular polyhedra)が含まれる。多面体には、例えば六面体、ホリヘドロン(holyhedron)、キュボイド、デルタ多面体、五面体、十四面体、多面体、テトラフレクサゴン(tetraflexagon)、ねじれ双角錐、一部切除(truncated)多面体、ジオデシックドーム、七面体および六十面体が含まれる。上に提供する定義にしたがって、「コンパクト」であるような、上記形状のいずれを用いてもよい。例えば、形状が扁平スフェロイドを含む場合、これは、スフェロイドがコンパクトであり、そして伸長していないように、適切な扁平さを有する。
【0209】
いくつかの態様において、コンパクトな形状は、寸法が上に提供するとおりである限り、バルーン形、葉巻形、ソーセージ形、ディスク形、涙形、ボール形または楕円形を含んでもよい。コンパクトな形状はまた、球形、立方体形、キュボイド形、タイル形、卵形、楕円形、ディスク形、セル形、ピル形、カプセル形、平たい円柱形、豆形、ドロップ形、球状形、エンドウ豆形、ペレット形も含んでもよい。
【0210】
伸長した形状
粒子は、一般的に伸長した形状を有してもよい。伸長した形状の例には、一般的に、棒の形状の粒子、円柱の形状の粒子、またはスティックの形状の粒子がある。伸長した粒子は、ホロー・ファイバーを含んでもよい。
【0211】
「伸長した」によって、本発明者らは、一般的にコンパクトでない形状を意味する。言い換えると、「伸長した」形状は、一般的に、別のものに比較して、1つの寸法が伸展しているものである。伸長した形状は、広がっているか、長いかまたは細長いものであってもよい。したがって、こうした「伸長した形状」は、一般的に、多かれ少なかれ、互いに異なる線寸法を所持する。
【0212】
したがって、伸長した形状の任意の2つの寸法の比は、5:1以上、4:1以下、例えば、1.1:1以上、1.2:1以上、1.3:1以上、1.4:1以上、1.5:1以上、1.6:1以上、1.7:1以上、1.8:1以上、1.9:1以上、2:1以上、2.1:1以上、2.2:1以上、2.3:1以上、2.4:1以上、2.5:1以上、3:1以上、4:1以上、または5:1以上であってもよい。
【0213】
例えば、任意の2対の寸法が5:1以上の比を有してもよい。したがって、いくつかの態様において、伸長した形状の最長の寸法は、伸長した形状の最短の寸法の5倍より大きい。
【0214】
したがって、適用可能な場合、粒子の長さは、その幅または直径の2xより大きく、例えばその幅または直径の3xより大きく、例えば4xより大きく、例えば5xより大きく、または10xより大きくてもよい。
【0215】
伸長したまたは棒の形状のマイクロキャリアーが、本発明の方法で使用するのに特に好ましい。これらは、細胞−マイクロキャリアー凝集体生成のため、より優れた付着マトリックスを提供することが観察されている。理論によって限定されず、または束縛されないが、棒の形状のマイクロキャリアーの長軸は、攪拌中に安定である、数時間以内の細胞−キャリアー凝集を可能にする、付着に利用可能な広い表面積を有するため、ビーズ(球状)マイクロキャリアーに比較して、優れた付着を提供する。
【0216】
粒子サイズ
粒子が連続増殖を補助するため、これらは細胞が粒子上で増殖することを可能にするサイズを有してもよい。粒子サイズはまた、他の粒子上で増殖している他の細胞と、細胞が凝集することも可能にする。例えば、粒子サイズが、少なくとも1つの寸法が霊長類またはヒト幹細胞の寸法と適合するものである必要がある。
【0217】
粒子サイズを選択し、幹細胞が付着しそして増殖するのを可能にし、そして増殖、生存度、幹細胞の生物学的性質の保持、核型などの任意のいくつかのパラメーターをアッセイすることによって、実験的に粒子サイズを選択してもよい。
【0218】
例として、粒子は、一般的に球状または顆粒状の形状を有するコンパクトなマイクロキャリアーを含んでもよい。これが当てはまる場合、コンパクトなマイクロキャリアーは、約20μm〜約250μmの間の範囲の寸法を有してもよい。
【0219】
コンパクトなマイクロキャリアーに関する寸法範囲の上限は、約250μm、約240μm、約230μm、約220μm、約210μm、約200μm、約190μm、約180μm、約170μm、約160μm、約150μm、約140μm、約130μm、約120μm、約110μm、約100μm、約90μm、約80μm、約70μm、約60μm、約50μm、約40μmまたは約30μmであってもよい。
【0220】
コンパクトなマイクロキャリアーの寸法範囲の下限は、約20μm、約30μm、40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μmまたは約110μmであってもよい。
【0221】
コンパクトなマイクロキャリアーは、120μm〜20μm、110μm〜30μm、100μm〜40μm、90μm〜50μm、80μm〜40μm、70μm〜50μmの間または90〜30μm、80〜40μm、70〜40μm、70〜30μm、60〜40μm、60〜30μm、60〜50μm、50〜40μm、50〜30μm、50〜5μm、50〜10μm、60〜10μm、70〜10μm、60〜20μm、70〜20μmの間の寸法を有してもよい。
【0222】
コンパクトなマイクロキャリアーは、約20μm、約30μm、40μm、約50μm、約60μm、約65μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約110μmまたは約120μmの寸法を有してもよい。
【0223】
コンパクトなマイクロキャリアーの寸法は、例えば、約65μmであってもよい。
【0224】
寸法はマイクロキャリアーの直径であってもよい。
【0225】
コンパクトな粒子は、例えば、親水性マイクロキャリアー、ヒドロキシル化メタクリル酸マトリックスマイクロキャリアーまたは誘導体化親水性ビーズ化マイクロキャリアー、例えばTSKゲル・トレシル−5Pw(Tosoh)またはToyopearl AF−トレシル−650(Tosoh)を含んでもよい。
【0226】
TSKゲル・トレシル−5Pwに関する情報は:
http://www.separations.us.tosohbioscience.com/Products/HPLCColumns/ByMode/Affinity/TSKgel+Tresyl-5PW.htm
に見出されうる。
【0227】
Toyopearl AF−トレシル−650に関する情報は:
http://www.separations.us.tosohbioscience.com/Products/ProcessMedia/ByMode/AFC/ToyopearlAF-Tresyl-650.htm
に見出されうる。
【0228】
別の例として、粒子は、一般的に棒または円柱形状を有する伸長したマイクロキャリアーを含んでもよい。これが当てはまる場合、伸長したマイクロキャリアーは、約400μm〜約50μmの間の範囲の最長の寸法を有してもよい。
【0229】
伸長したマイクロキャリアーに関する最長の寸法範囲の上限は、約2000μm、約1900μm、約1800μm、約1700μm、約1600μm、約1500μm、約1400μm、約1300μm、約1200μm、約1100μm、約1000μm、約900μm、約800μm、約700μm、約600μm、約500μm、約400μm、約390μm、約380μm、約370μm、約360μm、約350μm、約340μm、約330μm、約320μm、約310μm、約300μm、約290μm、約280μm、約270μm、約260μm、約250μm、約240μm、約230μm、約220μm、約210μm、約200μm、約190μm、約180μm、約170μm、約160μm、約150μm、約140μm、約130μm、約120μm、約110μm、約100μm、約90μm、約80μm、約70μm、約60μmまたは約50μmであってもよい。
【0230】
伸長したマイクロキャリアーの最長の寸法範囲の下限は、約20μm、約30μm、約40μm、約50μm、約60μm、約70μm、約80μm、約90μm、約100μm、約110μm、約120μm、約130μm、約140μm、約150μm、約160μm、約170μm、約180μm、約190μm、約200μm、約210μm、約220μm、約230μm、約240μm、約250μm、約260μm、約270μm、約280μm、約290μm、約300μm、約310μm、約320μm、約330μm、約340μm、約350μm、約360μm、約370μm、約380μmまたは約390μmであってもよい。
【0231】
伸長したマイクロキャリアーは、2000μm〜20μmの間、例えば400μm〜50μm、390μm〜60μm、380μm〜70μm、370μm〜80μm、360μm〜90μm、350μm〜100μm、340μm〜110μm、330μm〜120μm、320μm〜130μm、310μm〜140μm、300μm〜150μm、290μm〜160μm、280μm〜170μm、270μm〜180μm、260μm〜190μm、250μm〜200μm、240μm〜210μmまたは230μm〜220μmの間の最長の寸法を有してもよい。伸長したマイクロキャリアーの最長の寸法は、例えば、約190μm、200μm、210μm、220μm等であってもよい。
【0232】
伸長したマイクロキャリアーは、10μm〜50μmの間の範囲の最短の寸法を有してもよい。伸長したマイクロキャリアーは、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μmまたは約45μmの最短の寸法を有してもよい。
【0233】
伸長したマイクロキャリアーは、ほぼ円形または楕円形の横断面を有する円柱または棒の形状であってもよく、その最短の直径は、約5μm〜約50μmの範囲、例えば、約10μm、約15μm、約20μm、約25μm、約30μm、約35μm、約40μm、または約45μmの1つであってもよい。直径は:約5μm〜20μm、約10μm〜25μm、約15μm〜30μm、約20μm〜35μm、約25μm〜40μm、約30μm〜45μm、約35μm〜50μmの1つの間であってもよい。
【0234】
伸長した粒子は、例えば、セルロース円柱状マイクロキャリアー、例えばDE−52(Whatman)、DE−53(Whatman)またはQA−52(Whatman)を含んでもよい。
【0235】
任意の所定のマイクロキャリアーのサイズおよび寸法は、バッチ内でまたはバッチ間で多様でありうる。例えばDE−53棒形状セルロースマイクロキャリアーに関して、本発明者らはバッチ内でマイクロキャリアーの長さおよび直径を測定し、そしてキャリアーの長さが50〜250μmの間(130±50μmの平均の長さ)であり、そしてキャリアーの直径が17μm〜少なくとも50μmの間(35±7μmの平均直径)でありうることを見出した。
【0236】
粒子は、多孔性または非多孔性であってもよい。多孔性粒子は、培地が増殖領域内をそして該領域全体を循環することを可能にし、そしてこれが細胞成長を補助しうる。例えば、粒子は、マクロ多孔性またはミクロ多孔性carboseedマイクロキャリアーを含んでもよい。粒子は、SM1010(Blue Membranes)またはSH1010(Blue Membranes)を含んでもよい。
【0237】
幹細胞培養
例えば実施例に示すように、幹細胞を培養する任意の適切な方法を、本明細書に記載する方法および組成物において用いてもよい。
【0238】
任意の適切な容器を用いて、本明細書に記載する方法および組成物にしたがって、幹細胞を増殖させてもよい。適切な容器には、米国特許公報US2007/0264713(Terstegge)に記載されるものが含まれる。
【0239】
容器には、例えば、バイオリアクターおよびスピナーが含まれてもよい。本文書で用いる際、用語「バイオリアクター」は、真核細胞、例えば動物細胞または哺乳動物細胞を、例えば大規模に培養するのに適した容器である。制御バイオリアクターの典型的な培養体積は、20ml〜500mlの間である。
【0240】
バイオリアクターは、1以上の条件、例えば酸素分圧を調節または監視可能な、制御バイオリアクターを含んでもよい。これらの条件を測定しそして制御するためのデバイスが当該技術分野に知られる。例えば、酸素分圧に関して、酸素電極を用いてもよい。選択するガス混合物(例えば空気、あるいは空気および/または酸素および/または窒素および/または二酸化炭素の混合物)の量および組成を通じて、酸素分圧を制御してもよい。酸素分圧を測定しそして制御するのに適したデバイスは、Bailey, J E.(Bailey, J E., Biochemical Engineering Fundamentals, 第2版, McGraw-Hill, Inc. ISBN 0-07-003212-2 Higher Education, (1986))またはJackson A T. Jackson A T., Verfahrenstechnik in der Biotechnologie, Springer, ISBN 3540561900(1993))に記載される。
【0241】
他の適切な容器にはスピナーが含まれる。スピナーは、ガラスボール攪拌装置、羽根車攪拌装置、および他の適切な攪拌装置などの多様な攪拌機構を用いて攪拌可能な、制御または非制御バイオリアクターである。スピナーの培養体積は、典型的には20ml〜500mlの間である。回転ボトルは、400〜2000cmの間の培養面積を有するプラスチックまたはガラス製の丸い細胞培養フラスコである。これらのフラスコの全内表面に沿って、細胞を培養する;細胞は培地で覆われ、これは「回転」運動によって達成され、すなわちボトルをそれ自体の個々の軸の周りに回転させる。
【0242】
あるいは、培養は静的であってもよく、すなわち培養/培地の能動的な攪拌を使用しなくてもよい。培養の攪拌を減少させることによって、細胞/マイクロキャリアーの凝集塊の形成が可能になりうる。何らかの攪拌を使用して、培養細胞上への培地の分布および流動を促してもよいが、凝集塊形成を実質的に妨害しないようにこの攪拌を適用してもよい。例えば、低いrpm、例えば30rpm未満または20rpm未満の攪拌を使用してもよい。
【0243】
継代による増殖
本明細書に記載する方法および組成物は、培養中の継代または分割を含んでもよい。該方法は、連続的なまたは継続的な継代を伴ってもよい。
【0244】
「継続的な」または「連続的な」によって、本発明者らは、幹細胞が継代される、例えば増殖中のマイクロキャリアーから剥がされ、そして他のマイクロキャリアーまたは粒子にトランスファーされるのを可能にする方式で該細胞のマイクロキャリアー上での増殖を、本発明者らの方法が可能にすることを意味し、そしてこのプロセスを少なくとも1回、例えば2回、3回、4回、5回等、反復してもよいことを意味する(以下に示すとおり)。いくつかの場合、これを任意の回数、例えば不確定にまたは無限に反復してもよい。最も好ましくは、プロセスを5回以上、例えば6回以上、7回以上、8回以上、9回以上、10回以上、11回以上、12回以上、13回以上、14回以上、15回以上、16回以上、17回以上、18回以上、19回以上、20回以上、21回以上、22回以上、23回以上、24回以上、25回以上、反復する。また、用語「継続的な」または「連続的な」を用いて、事象、例えば細胞増殖の実質的に中断されない延長を意味してもよい。例えば、本発明者らの方法は、増殖または培養を終結させる必要を伴わずに、幹細胞を任意の望ましい世代数まで拡大することを可能にする。
【0245】
培養中の細胞を、支持体またはフラスコから解離させ、そして組織培地内に希釈しそして再プレーティングすることによって、「分割する」か、継代培養するか、または継代してもよい。
【0246】
粒子上で増殖している細胞を、粒子培養に継代し直してもよい。あるいは、これらを慣用的な(2D)培養に継代し直してもよい。プレート上で増殖している組織培養細胞を粒子培養に継代してもよい。これらの方法を各々、以下により詳細に記載する。
【0247】
用語「継代」は、一般的に、細胞培養のアリコットを取り、細胞を完全にまたは部分的に解離させ、希釈し、そして培地に接種するプロセスを指してもよい。継代を1回以上反復してもよい。アリコットは、細胞培養のすべてまたは一部を含んでもよい。アリコットの細胞は、完全に集密、部分的に集密、または集密でなくてもよい。継代は、工程の以下の順列の少なくともいくつかを含んでもよい:吸引、リンス、トリプシン処理、インキュベーション、除去、急冷(quenching)、再植え付けおよびアリコット。UCサンディエゴ校のHedrick研究室によって公表されたプロトコルを用いてもよい(http://hedricklab.ucsd.edu/Protocol/COSCell.html)。
【0248】
当該技術分野に知られる機械的または酵素的手段などの任意の適切な手段によって、細胞を解離させてもよい。機械的解離によって、例えば細胞スクレーパーまたはピペットを用いて、細胞を破壊してもよい。100ミクロンまたは500ミクロン篩を通じるなど、適切な篩サイズを通じて篩にかけることによって、細胞を解離させてもよい。酵素的解離によって、例えばコラゲナーゼまたはtrypLEでの処理によって採取し、分割してもよい。解離は完全であってもまたは部分的であってもよい。
【0249】
希釈は任意の適切な希釈であってもよい。細胞培養中の細胞を任意の適切な比で分割してもよい。例えば、細胞を1:2以上、1:3以上、1:4以上または1:5以上の比で分割してもよい。細胞を1:6以上、1:7以上、1:8以上、1:9以上または1:10以上の比で分割してもよい。分割比は1:10以上であってもよい。これは、1:11、1:12、1:13、1:14、1:15、1:16、1:17、1:18、1:19または1:20以上であってもよい。分割比は1:21、1:22、1:23、1;24、1:25または1:26以上であってもよい。
【0250】
したがって、幹細胞を1回以上、継代してもよい。例えば、幹細胞を2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25回またはそれ以上、継代してもよい。幹細胞を25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95回またはそれ以上、継代してもよい。幹細胞を無期限に培養中で継代してもよい。
【0251】
継代を細胞増殖の世代として表してもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25世代またはそれ以上、増殖することを可能にする。幹細胞を25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95世代またはそれ以上、増殖させてもよい。
【0252】
また、継代を細胞倍加の回数として表してもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25細胞倍加またはそれ以上、増殖することを可能にする。幹細胞を25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95細胞倍加またはそれ以上、増殖させてもよい。
【0253】
幹細胞を5より多く、10より多く、15より多く、20より多く、25より多く、30より多く、40より多く、45より多く、50より多く、100より多く、200より多く、500より多く、または800より多い継代、世代または細胞倍加に渡って、培養してもよい。幹細胞を100、200、500以上の継代、世代または細胞倍加に渡って維持してもよい。
【0254】
増殖および生産性
本明細書記載の方法および組成物は、幹細胞を多量に産生することを可能にする。
【0255】
該方法は、培養中の幹細胞の指数関数的な増殖を可能にしうる。指数関数的増殖には、遅滞期が付随してもまたはしなくてもよい。指数関数的増殖は、培養中の細胞増殖の一部またはかなりの期間を形成してもよい。指数関数的な増殖を評価する方法が当該技術分野に知られる。
【0256】
例えば、細胞の特異的増殖速度は:
【0257】
【化15】

【0258】
式中、x=細胞濃度であり、そしてt=時間である
に一致する。
【0259】
本明細書記載の方法および組成物は、伝統的な2D培養法(例えばプレート上の培養)に比較して、細胞増殖の、より大きい生産性を可能にしうる。例えば、本発明者らの方法の体積生産性は、1x10細胞/ウェル以上、例えば2.5x10細胞/ウェル以上、例えば3、4、5、6、または7x10細胞/ウェル以上でありうる。ウェルは、約3.5cmの直径または約9.5cmの面積を有してもよい。本発明者らの方法の体積生産性は、100万細胞/ml以上、例えば200万細胞/ml以上、250万細胞/ml以上、300万細胞/ml以上、350万細胞/ml以上、100万細胞/ml以上、例えば400万細胞/ml以上、450万細胞/ml以上、500万細胞/ml以上でありうる。
【0260】
幹細胞特性の維持
増殖した幹細胞は、哺乳動物、霊長類またはヒト幹細胞の少なくとも1つの特性を維持しうる。幹細胞は、1回以上の継代後、該特性を維持しうる。幹細胞は、複数回の継代後、その特性を維持しうる。幹細胞は、上述のような言及する回数の継代後、該特性を維持しうる。
【0261】
特性は、形態学的特性、免疫組織化学的特性、分子生物学的特性等を含んでもよい。特性は、生物学的活性を含んでもよい。
【0262】
幹細胞特性
本発明者らの方法によって増殖する幹細胞は、以下の幹細胞特性のいずれを示してもよい。
【0263】
幹細胞は、Oct4および/またはSSEA−1および/またはTRA−1−60および/またはMab84の発現増加を示しうる。自己再生性である幹細胞は、自己再生性でない幹細胞に比較して短くなった細胞周期を示しうる。
【0264】
幹細胞は定義される形態を示しうる。例えば、標準的顕微鏡画像の二次元において、ヒト胚性幹細胞は、画像平面における高い核/細胞質比、顕著な仁、および細胞接合がほとんど認識不能なコンパクトなコロニー形成を示す。
【0265】
幹細胞はまた、以下にさらに詳細に記載するような、発現細胞マーカーによっても特徴付け可能である。
【0266】
多能性マーカーの発現
維持される生物学的活性は、1以上の多能性マーカーの発現を含んでもよい。
【0267】
ステージ特異的胎児抗原(SSEA)は、特定の胚性細胞タイプに特徴的である。SSEAマーカーに対する抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(メリーランド州ベセスダ)より入手可能である。他の有用なマーカーは、Tra−1−60およびTra−1−81と称される抗体を用いて検出可能である(Andrewsら, Cell Lines from Human Germ Cell Tumors, E. J. Robertson, 1987, 上記中)。ヒト胚性幹細胞は、典型的には、SSEA−1陰性およびSSEA−4陽性である。hEG細胞は、典型的には、SSEA−1陽性である。霊長類多能性幹細胞(pPS)細胞のin vitroでの分化は、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81発現の喪失、ならびにSSEA−1発現増加を生じる。pPS細胞はまた、アルカリホスファターゼ活性の存在によっても特徴付け可能であり、これは、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、そして次いで、製造者によって記載されるように、基質としてVector Redで現像することによって検出可能である(Vector Laboratories、カリフォルニア州バーリンゲーム)。
【0268】
胚性幹細胞はまた、典型的には、テロメラーゼ陽性およびOCT−4陽性である。テロメラーゼ活性は、商業的に入手可能なキット(TRAPeze.RTM.XKテロメラーゼ検出キット、カタログ番号s7707; Intergen Co.、ニューヨーク州パーチェス;またはTeloTAGGG.TM.テロメラーゼPCR ELISAプラス、カタログ番号2,013,89; Roche Diagnostics,インディアナポリス)を用い、TRAP活性アッセイ(Kimら, Science 266:2011, 1997)を用いて決定可能である。また、RT−PCRによって、mRNAレベルでhTERT発現を評価してもよい。LightCycler TeloTAGGG.TM. hTERT定量化キット(カタログ番号3,012,344; Roche Diagnostics)が、研究目的のため、商業的に入手可能である。
【0269】
FOXD3、PODXL、アルカリホスファターゼ、OCT−4、SSEA−4、TRA−1−60およびMab84等を含む、これらの多能性マーカーの任意の1以上が、増殖幹細胞によって保持されうる。
【0270】
マーカーの検出は、当該技術分野に知られる任意の手段を通じて、例えば免疫学的に達成可能である。組織化学染色、フローサイトメトリー(FACS)、ウェスタンブロット、酵素連結イムノアッセイ(ELISA)等が使用可能である。
【0271】
フロー免疫細胞化学を用いて、細胞表面マーカーを検出してもよい。細胞内または細胞表面マーカーに関して、免疫組織化学(例えば固定細胞または組織切片の)を用いてもよい。細胞抽出物に対してウェスタンブロット分析を行ってもよい。細胞抽出物または培地内に分泌される産物に関して、酵素連結イムノアッセイを用いてもよい。
【0272】
この目的のため、商業的供給源から入手可能であるような、多能性マーカーに対する抗体を用いてもよい。
【0273】
ステージ特異的胎児抗原1および4(SSEA−1およびSSEA−4)ならびに腫瘍拒絶抗原1−60および1−81(TRA−1−60、TRA−1−81)を含む幹細胞マーカーの同定のための抗体は、例えばChemicon International, Inc(米国カリフォルニア州テメキュラ)より得られうる。モノクローナル抗体を用いたこれらの抗原の免疫学的検出は、多能性幹細胞を特徴付けるために広く用いられてきている(Shamblott M.J.ら(1998) PNAS 95:13726-13731; Schuldiner M.ら(2000). PNAS 97:11307-11312; Thomson J.A.ら(1998). Science 282:1145-1147; Reubinoff B.E.ら(2000). Nature Biotechnology 18:399-404; Henderson J.K.ら(2002). Stem Cells 20:329-337; Pera M.ら(2000). J. Cell Science 113:5-10.)。
【0274】
組織特異的遺伝子産物の発現はまた、ノーザンブロット分析、ドットブロットハイブリダイゼーション分析によって、あるいは標準的増幅法において配列特異的プライマーを用いた逆転写酵素開始ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、mRNAレベルで検出可能である。本開示に列挙する特定のマーカーに関する配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.gov:80/entrez)などの公的データベースから得られうる。さらなる詳細に関しては、米国特許第5,843,780号を参照されたい。
【0275】
実質的にすべての増殖細胞、またはそのかなりの部分が、マーカー(単数または複数)を発現しうる。例えば、単数または複数のマーカーを発現する細胞の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0276】
細胞生存度
生物学的活性は、言及する回数の継代後の細胞生存度を含んでもよい。細胞生存度は、例えばトリパンブルー排除によるなど、多様な方式でアッセイされうる。生存染色のプロトコルは以下のとおりである。適切な試験管に、適切な体積の細胞懸濁物(20〜200μL)を入れ、等体積の0.4%トリパンブルーを添加し、そして穏やかに混合し、室温で5分間放置する。10μlの染色細胞を血球計数板に入れ、そして生存(未染色)および死亡(染色)細胞の数を計数する。各象限の未染色細胞の平均数を計算し、そして2x10を乗じて、細胞/mlを見出す。生存細胞の割合は、生存細胞数を死亡細胞および生存細胞の数で割ったものである。
【0277】
細胞生存度は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0278】
核型
増殖幹細胞は、増殖中または増殖後、正常な核型を保持しうる。「正常な」核型は、幹細胞が由来する親幹細胞の核型と同一であるか、類似であるかまたは実質的に類似である核型、あるいは親幹細胞と異なるが、いかなる実質的な意味でも異ならないものである。例えば、転座、染色体の喪失、欠失等のいかなる全体的な異常もあってはならない。
【0279】
核型は、いくつかの方法によって、例えば光学顕微鏡法のもとで視覚的に評価可能である。核型は、McWhirら(2006)、Hewittら(2007)、ならびにGallimoreおよびRichardson(1973)に記載されるように、調製および分析可能である。また、標準的なGバンド形成技術(カリフォルニア州オークランドのCytogenetics Labなどの、ルーチンの核型決定サービスを提供する多くの臨床診断実験室で利用可能)を用いて細胞の核型を決定し、そして公表される幹細胞核型と比較してもよい。
【0280】
増殖細胞のすべてまたはかなりの部分が正常な核型を保持しうる。この比率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0281】
多能性
増殖幹細胞は、3つの細胞系譜すべて、すなわち内胚葉、外胚葉および中胚葉に分化する能力を保持しうる。幹細胞を誘導して、これらの細胞系譜の各々に分化させる方法が当該技術分野に知られ、そしてこれを用いて、増殖幹細胞の能力をアッセイしてもよい。
【0282】
増殖細胞のすべてのまたはかなりの部分がこの能力を保持しうる。これは、増殖幹細胞の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0283】
共培養およびフィーダー
本発明者らの方法は、共培養の存在下または非存在下で、幹細胞を培養する工程を含んでもよい。用語「共培養」は、一緒に増殖する2以上の異なる種類の細胞混合物、例えば間質フィーダー細胞の混合物を指す。2以上の異なる種類の細胞を、同じ表面上で、例えば粒子または細胞容器表面上で、または異なる表面上で、増殖させてもよい。異なる種類の細胞を異なる粒子上で増殖させてもよい。
【0284】
本文書で用いる場合、用語、フィーダー細胞は、異なるタイプの細胞の培養のために用いられるかまたは必要とされる細胞を意味しうる。幹細胞培養の状況において、フィーダー細胞は、生存、増殖、およびES細胞多能性の維持を確実にする機能を有する。ES細胞多能性は、フィーダー細胞を直接共培養することによって達成されうる。あるいは、またはさらに、フィーダー細胞を培地中で培養して、培地を馴化させてもよい。馴化培地を用いて、幹細胞を培養してもよい。
【0285】
培養ディッシュなどの容器の内表面を、分裂しないように処理してあるマウス胚性皮膚細胞のフィーダー層でコーティングしてもよい。フィーダー細胞は、ES細胞増殖に必要な栄養分を培地内に放出する。したがって、粒子上で増殖する幹細胞は、こうしたコーティングされた容器中で増殖可能である。
【0286】
フィーダー細胞自体が粒子上で増殖可能である。幹細胞に関して記載するのと類似の方式で、これらを粒子上に植え付けてもよい。増殖させようとする幹細胞を、こうしたフィーダー粒子と一緒にまたは別個に増殖させてもよい。したがって、幹細胞はこうしたフィーダー細胞コーティング粒子上の層上で増殖可能である。一方、幹細胞を別個の粒子上で増殖させてもよい。これらの任意の設定の任意の組み合わせもまた可能であり、例えば粒子上で増殖するフィーダー細胞、フィーダー細胞および幹細胞を含む粒子、ならびに増殖する幹細胞を含む粒子を含む培養も可能である。これらの組み合わせを、フィーダー層を含むまたは含まない容器中で増殖させてもよい。フィーダー細胞をその上に増殖させる粒子は、マトリックスコーティングでコーティングされてもまたはコーティングされなくてもいずれでもよい。
【0287】
フィーダー細胞が存在しないか、または必要とされない設定もまた可能である。例えば、フィーダー細胞または幹細胞によって馴化された培地(馴化培地)中で細胞を増殖させてもよい。
【0288】
培地およびフィーダー細胞
多能性幹細胞を単離しそして増殖させるための培地は、得られる細胞が望ましい特性を有し、そしてさらに増殖可能である限り、いくつかの異なる配合のいずれを有してもよい。
【0289】
適切な供給源は以下のとおりである: Dulbeccoの修飾イーグル培地(DMEM)、Gibco#11965−092;ノックアウトDulbeccoの修飾イーグル培地(KO DMEM)、Gibco#10829−018; 200mM L−グルタミン、Gibco#15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;ベータ−メルカプトエタノール、Sigma#M7522;ヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco#13256−029。例示的な血清含有胚性幹(ES)培地は、80% DMEM(典型的にはKO DMEM)、熱不活化されていない20%定義ウシ胎児血清(FBS)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMベータ−メルカプトエタノールで作製される。培地をろ過し、そして4℃で2週間まで保存する。血清不含胚性幹(ES)培地は、80% KO DMEM、20%血清代用品(replacement)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMベータ−メルカプトエタノールで作製される。有効な血清代用品は、Gibco#10828−028である。培地をろ過し、そして4℃で2週間以内、保存する。使用直前、ヒトbFGFを最終濃度4ng/mLまで添加する(Bodnarら、Geron Corp、国際特許公報WO 99/20741)。培地は、10%血清置換培地(Invitrogen-Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)、5ng/ml FGF2(Invitrogen-Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)および5ng/ml PDGF AB(Peprotech、ニュージャージー州ロッキーヒル)を補充したノックアウトDMEM培地(Invitrogen-Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)を含んでもよい。
【0290】
フィーダー細胞(用いる場合)は、90% DMEM(Gibco#11965−092)、10% FBS(Hyclone#30071−03)、および2mMグルタミンを含有するmEF培地中で増殖可能である。mEFをT150フラスコ(Corning#430825)中で増殖させ、トリプシンを用いて、1日おきに1:2で細胞を分割し、細胞を集密以下に維持する。フィーダー細胞層を調製するため、増殖を阻害するが、ヒト胚性幹細胞を補助する、重要な因子の合成を可能にする線量(約4000radガンマ照射)で、細胞を照射する。6ウェル培養プレート(Falcon#304など)を、ウェルあたり1mLの0.5%ゼラチンと、37℃で一晩インキュベーションすることによってコーティングし、そしてウェルあたり375,000の照射mEFをプレーティングする。フィーダー細胞層は、典型的には、プレーティング5時間後〜4日後に用いられる。pPS細胞を植え付ける直前に、培地を新鮮なヒト胚性幹(hES)培地に交換する。
【0291】
他の幹細胞を培養するための条件が知られ、そして細胞タイプに応じて、適切に最適化可能である。先のセクションに言及される特定の細胞タイプのための培地および培養技術は、引用する参考文献中に提供される。
【0292】
血清不含培地
本明細書に記載する方法および組成物には、血清不含培地中の幹細胞の培養が含まれてもよい。
【0293】
用語「血清不含培地」は、血清タンパク質、例えばウシ胎児血清を含まない細胞培地を含んでもよい。血清不含培地は、当該技術分野に知られ、そして例えば、米国特許5,631,159および5,661,034に記載される。血清不含培地は、例えば、Gibco−BRL(Invitrogen)から商業的に入手可能である。
【0294】
血清不含培地は、タンパク質、加水分解物、および未知の組成の構成要素を欠いていてもよいという点で、タンパク質不含であってもよい。血清不含培地は、すべての構成要素が既知の化学構造を有する、化学的に定義された培地を含んでもよい。化学的に定義される血清不含培地は、変動を排除し、改善された再現性およびより一貫した性能を可能にし、そして不定の剤による混入の可能性を減少させる、完全に定義された系を提供するため、好適である。それはまた、動物由来の成分を含まないものであってもよい。
【0295】
血清不含培地は、ノックアウトDMEM培地(Invitrogen-Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)を含んでもよい。
【0296】
血清不含培地に、例えば5%、10%、15%等の濃度で、血清置換培地などの1以上の構成要素を補充してもよい。血清不含培地に、Invitrogen-Gibco(ニューヨーク州グランドアイランド)の血清置換培地を10%補充してもよい。
【0297】
解離または脱凝集された胚性幹細胞を培養する血清不含培地は、1以上の増殖因子を含んでもよい。FGF2、IGF−2、ノギン、アクチビンA、TGFベータ1、HRG1ベータ、LIF、S1P、PDGF、BAFF、April、SCF、Flt−3リガンド、Wnt3Aおよびその他を含む、いくつかの増殖因子が当該技術分野に知られる。増殖因子(単数または複数)を、1pg/ml〜500ng/mlの間などの任意の適切な濃度で用いてもよい。
【0298】
培地補充物
培地に1以上の添加物を補充してもよい。例えばこれらは:脂質混合物、ウシ血清アルブミン(例えば0.1% BSA)、大豆タンパク質の加水分解物の1以上から選択可能である。
【0299】
幹細胞
本文書で用いる際、用語「幹細胞」は、分裂に際して、2つの発生オプションに直面する細胞を指す:娘細胞は、元来の細胞に同一であってもよく(自己再生)、またはこれらはより特殊化された細胞タイプの前駆体であってもよい(分化)。したがって、幹細胞は一方または他方の経路を採用可能である(各細胞タイプの1つを形成可能であるさらなる経路が存在する)。したがって、幹細胞は、最終分化しておらず、そして他のタイプの細胞を産生可能である細胞である。
【0300】
本文書で言及されるような幹細胞には、全能性幹細胞、多能性幹細胞、および多分化能幹細胞が含まれてもよい。
【0301】
一般的に、本明細書における(複数の)幹細胞への言及には、単数の幹細胞が含まれうる。特に、幹細胞を培養し、そして分化させる方法には、単細胞および凝集体培養技術が含まれてもよい。
【0302】
本発明において、幹細胞培養は、凝集体または単細胞のものであってもよい。
【0303】
全能性幹細胞
用語「全能性」細胞は、成人の体の任意の細胞タイプ、または胚体外膜(例えば胎盤)の任意の細胞になる潜在能力を有する細胞を指す。したがって、全能性細胞は受精卵およびその分裂によって産生される最初の4つ程度の細胞のみである。
【0304】
多能性幹細胞
「多能性幹細胞」は真の幹細胞であり、体の中で任意の分化した細胞を作製する潜在能力を持つ。しかし、これらは胚体外膜を作製するのに寄与できず、該膜は栄養膜に由来する。いくつかのタイプの多能性幹細胞が見出されてきている。
【0305】
胚性幹細胞
胚性幹(ES)細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離可能であり、胚盤胞は着床が起こる胚発生段階である。
【0306】
胚性生殖細胞
中絶胎児における生殖腺の前駆体から胚性生殖(EG)細胞を単離してもよい。
【0307】
胚性癌腫細胞
胎児の生殖腺にしばしば生じる腫瘍である奇形癌腫から胚性癌腫(EC)細胞を単離してもよい。最初の2つとは異なり、これらは通常、異数体である。これらの3つのタイプの多能性幹細胞はすべて、胚性または胎児組織からのみ単離可能であり、そして培養中で増殖可能である。これらの多能性細胞が分化するのを防ぐ方法が当該技術分野に知られる。
【0308】
成体幹細胞
成体幹細胞は、骨髄移植において活性構成要素である神経、皮膚および血液形成幹細胞を含む、非常に多様なタイプを含む。これらの後者の幹細胞タイプはまた、臍帯由来幹細胞の主な特徴でもある。成体幹細胞は、実験室および体内の両方において、機能する、より特殊化された細胞タイプに成熟可能であるが、細胞タイプの実際の数は、選択した幹細胞タイプによって限定される。例えば、成体幹細胞は、間葉系幹細胞、造血幹細胞、乳腺幹細胞、内皮幹細胞、または神経幹細胞であってもよい。成体幹細胞は多分化能である可能性もある。
【0309】
多分化能幹細胞
多分化能幹細胞は、真の幹細胞であるが、限定された数のタイプにのみ分化可能である。例えば、骨髄は、血液の細胞すべてを生じさせるが、他のタイプの細胞を生じない、多分化能幹細胞を含有する。多分化能幹細胞は、成体動物に見られる。死んだまたは損傷を受けた細胞を置換可能な体のすべての臓器(脳、肝臓)は、該細胞を含有すると考えられる。
【0310】
幹細胞を特徴付ける方法が当該技術分野に知られ、そしてこれには、クローンアッセイ、フローサイトメトリー、長期培養、ならびに分子生物学技術、例えばPCR、RT−PCRおよびサザンブロッティングなどの標準的アッセイ法の使用が含まれる。
【0311】
形態学的相違に加えて、ヒトおよびネズミ多能性幹細胞は、いくつかの細胞表面抗原(幹細胞マーカー)の発現が異なる。幹細胞マーカーおよびその検出法は、本文書の別の箇所に記載される(「幹細胞特性の維持」以下)。
【0312】
幹細胞の供給源
米国特許第5,851,832号は、脳組織から得られる多分化能神経幹細胞を報告する。米国特許第5,766,948号は、新生大脳半球からの神経芽細胞産生を報告する。米国特許第5,654,183号および第5,849,553号は、哺乳動物神経冠細胞の使用を報告する。
【0313】
米国特許第6,040,180号は、哺乳動物多分化能CNS幹細胞培養からの、分化したニューロンのin vitro生成を報告する。WO 98/50526およびWO 99/01159は、神経上皮幹細胞、オリゴデンドロサイト−アストロサイト前駆体、および細胞系譜制限神経前駆体の生成および単離を報告する。
【0314】
米国特許第5,968,829号は、胚性前脳から得られ、そしてグルコース、トランスフェリン、インスリン、セレン、プロゲステロン、およびいくつかの他の増殖因子を含む培地で培養される、神経幹細胞を報告する。
【0315】
初代肝細胞培養は、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼの適切な組み合わせを用いた灌流によって、ヒト生検または外科的に切除された組織から得られうる。あるいは、EP 0 953 633 A1は、刻んだヒト肝臓組織を用意し、増殖培地中に濃縮組織細胞を再懸濁し、そして培養中で細胞を拡大することによって、肝細胞を単離する工程を報告する。増殖培地は、グルコース、インスリン、トランスフェリン、T3、FCS、および悪性形質転換を伴わずに、肝細胞が増殖するのを可能にする、多様な組織抽出物を含む。
【0316】
肝臓中の細胞は、肝臓実質細胞、クッパー細胞、類洞内皮、および胆管上皮を含む特殊化細胞、ならびに成熟肝細胞または胆管上皮細胞の両方に分化する能力を有する前駆細胞(「肝芽細胞」または「卵円形細胞」と称される)を含有すると考えられる(L. E. Rogler, Am. J. Pathol. 150:591 , 1997; M. Alison, Current Opin. Cell Biol. 10:710, 1998; Lazaroら, Cancer Res. 58:514, 1998)。
【0317】
米国特許第5,192,553号は、ヒト新生または胎児造血幹細胞または前駆細胞を単離するための方法を報告する。米国特許第5,716,827号は、Thy−1陽性前駆体であるヒト造血細胞、およびin vitroでこれらを再生するのに適した増殖培地を報告する。米国特許第5,635,387号は、ヒト造血細胞およびその前駆体を培養するための方法およびデバイスを報告する。米国特許第6,015,554号は、ヒトリンパ系細胞および樹状細胞を再構成する方法を記載する。
【0318】
米国特許第5,486,359号は、1より多い結合組織タイプ、例えば骨、軟骨、腱、靱帯、および真皮の細胞に分化可能な、ヒト間葉系幹細胞の均一な集団を報告する。これらは骨髄または骨膜より得られる。やはり報告されるのは、間葉系幹細胞を拡大するために用いられる培養条件である。WO 99/01145は、G−CSFまたはGM−CSFなどの増殖因子で処置された個体の末梢血から単離される、ヒト間葉系幹細胞を報告する。WO 00/53795は、実質的に脂肪細胞および赤血球を含まない、脂肪由来幹細胞および格子を報告する。報告によれば、これらの細胞を拡大し、そして培養して、ホルモンおよび馴化培地を産生することも可能である。
【0319】
任意の脊椎動物種の幹細胞を用いてもよい。含まれるのは、ヒト;ならびに非ヒト霊長類、飼育動物、家畜、および他の非ヒト哺乳動物、例えばげっ歯類、マウス、ラット等由来の幹細胞である。
【0320】
本明細書に記載する方法および組成物で使用するのに適した幹細胞の中には、妊娠後に形成される組織に由来する霊長類またはヒト多能性幹細胞、例えば胚盤胞、あるいは妊娠中の任意の時点に採取される胎児または胚性組織がある。限定されない例は、胚性幹細胞の初代培養または樹立された株である。
【0321】
胚性幹細胞
胚性幹細胞は、霊長類種のメンバーの胚盤胞から単離可能である(Thomsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:7844, 1995)。Thomsonら(米国特許第5,843,780号; Science 282:1145, 1998; Curr. Top. Dev. Biol. 38:133 ff., 1998)およびReubinoffら, Nature Biotech. 18:399, 2000によって記載される技術を用いて、ヒト胚性幹(hES)細胞をヒト胚盤胞細胞から調製することも可能である。
【0322】
簡潔には、ヒト胚盤胞は、ヒトin vivo着床前胚から得られうる。あるいは、in vitro受精(IVF)胚を用いてもよいし、または一細胞ヒト胚を胚盤胞段階まで拡大してもよい(Bongsoら, Hum Reprod 4: 706, 1989)。ヒト胚をG1.2およびG2.2培地中で胚盤胞段階まで培養する(Gardnerら, Fertil. Steril. 69:84, 1998)。胚性幹細胞単離のため、発生する胚盤胞を選択する。プロナーゼ(Sigma)に短時間曝露することによって、胚盤胞から透明帯を除去する。1:50希釈のウサギ抗ヒト脾臓細胞抗血清に胚盤胞を30分間曝露して、次いで、DMEMで5分間3回洗浄し、そして1:5希釈のモルモット補体(Gibco)に3分間曝露する、免疫手術によって、内部細胞塊を単離する(Solterら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 72:5099, 1975を参照されたい)。DMEMでさらに2回洗浄した後、穏やかにピペッティングすることによって、溶解した栄養外胚葉細胞を損なわれていない内部細胞塊(ICM)から除去し、そしてICMをmEFフィーダー層上にプレーティングする。
【0323】
9〜15日後、1mM EDTAを含むカルシウムおよびマグネシウム不含リン酸緩衝生理食塩水(PBS)に曝露するか、ディスパーゼまたはトリプシンに曝露するか、あるいはマイクロピペットで機械的に解離させるか、いずれかによって、内部細胞塊由来外植を凝集塊に解離させ;そして次いで、新鮮な培地中、mEF上に再プレーティングする。解離細胞を、新鮮な胚性幹(ES)培地中、mEFフィーダー層上に再プレーティングし、そしてコロニー形成に関して観察する。未分化形態を示すコロニーをマイクロピペットによって個々に選択し、機械的に凝集塊に解離させ、そして再プレーティングする。胚性幹細胞様形態は、見かけ上の高い核対細胞質比および顕著な仁を持つコンパクトなコロニーとして特徴付けられる。次いで、短時間のトリプシン処理、ダルベッコのPBS(カルシウムまたはマグネシウムを含まず、そして2mM EDTAを含む)への曝露、タイプIVコラゲナーゼ(約.200U/mL; Gibco)への曝露によって、あるいはマイクロピペットによる個々のコロニーの選択によって、1〜2週間ごとに、生じる胚性幹細胞をルーチンに分割する。約50〜100細胞の凝集塊のサイズが最適である。
【0324】
胚性生殖細胞
ヒト胚性生殖(hEG)細胞は、最後の月経期間の約8〜11週後に採取されるヒト胎児材料中に存在する始原生殖細胞より調製可能である。適切な調製法は、Shamblottら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:13726, 1998および米国特許第6,090,622号に記載される。
【0325】
簡潔には、生殖隆起を等張緩衝液でリンスし、次いで、0.1mLの0.05%トリプシン/0.53mMナトリウムEDTA溶液(BRL)に入れ、そして<1mmのぶつ切りに切る。次いで、組織を100/μLチップを通じてピペッティングして、細胞をさらに脱凝集させる。37℃で約5分間インキュベーションし、次いで、約3.5mLのEG増殖培地を添加する。EG増殖培地は、DMEM、4500mg/L D−グルコース、2200mg/L mM重炭酸ナトリウム; 15%胚性幹(ES)品質ウシ胎児血清(BRL); 2mMグルタミン(BRL); 1mMピルビン酸ナトリウム(BRL); 1000〜2000U/mLヒト組換え白血病阻害因子(LIF、Genzyme); 1〜2ng/mlヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、Genzyme);および10μMフォルスコリン(10%DMSO中)である。別のアプローチにおいて、ヒアルロニダーゼ/コラゲナーゼ/DNアーゼを用いて、EG細胞を単離する。生殖腺原基または生殖隆起を腸間膜とともに胎児材料から切除し、生殖隆起をPBS中でリンスし、次いで0.1ml HCD消化溶液(EG増殖培地中で調製された、すべてSigma由来の0.01%ヒアルロニダーゼ・タイプV、0.002%DNアーゼI、0.1%コラゲナーゼ・タイプIV)に入れる。組織を刻み、そして37℃で1時間または一晩インキュベーションし、1〜3mLのEG増殖培地中に再懸濁し、そしてフィーダー層上にプレーティングする。
【0326】
LIF、bFGFまたはフォルスコリンを含まない修飾EG増殖培地中、3日間培養し、5000ラドのγ照射で不活性化したフィーダー細胞の集密以下の層を用いて、96ウェル組織培養プレートを調製する。適切なフィーダーは、STO細胞(ATCC寄託番号CRL 1503)である。0.2mLの初代生殖細胞(PGC)懸濁物を各ウェルに添加する。第一の継代をEG増殖培地中、7〜10日後に行い、照射したSTOマウス線維芽細胞を用いてあらかじめ調製した24ウェル培養ディッシュの1つのウェルに、各ウェルをトランスファーする。EG細胞と一致する細胞形態が観察されるまで、典型的には7〜30日後、または1〜4回の継代後まで、培地を毎日交換しながら細胞を培養する。
【0327】
人工多能性幹細胞
本明細書記載の方法および組成物を人工多能性幹細胞の増殖に用いてもよい。
【0328】
一般的にはiPS細胞またはiPSCと略される人工多能性幹細胞は、特定の遺伝子を挿入することによって、非多能性細胞、典型的には成体体細胞、例えば線維芽細胞、肺またはB細胞から人工的に得られる多能性幹細胞の一種である。
【0329】
iPS細胞は、すべて本明細書に援用される、Takahashi, K. & Yamanaka(Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 2006;126:663-676)、Yamanaka Sら(Yamanaka Sら Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors. doi:10.1016/j.cell.2007.11.019、およびYamanaka Sら Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells. Nature 2007;448:313-7)、Wernig Mら(In vitro reprogramming of fibroblasts into a pluripotent ES-cell-like state. Nature 2007;448:318-24)、Maherali Nら(Directly reprogrammed fibroblasts show global epigenetic remodeling and widespread tissue contribution. Cell Stem Cell 2007;1:55-70)およびThomson JA, Yu Jら(Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells. Science DOI: 10.1126/science.1151526)およびTakahashiら(Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell.(2007)131(5):861-72.)に概説され、そして論じられる。
【0330】
iPS細胞は、典型的には、非多能性細胞、例えば成体線維芽細胞内に特定の幹細胞関連遺伝子をトランスフェクションすることによって得られる。トランスフェクションは、典型的には、レトロウイルスなどのウイルスベクターを通じて達成される。トランスフェクション遺伝子には、マスター転写制御因子Oct−3/4(Pouf51)およびSox2が含まれるが、他の遺伝子が誘導効率を増進させると示唆される。3〜4週間後、少数のトランスフェクション細胞が、形態学的におよび生化学的に多能性幹細胞と類似となり始め、そして典型的には、形態学的選択、倍加時間を通じて、またはレポーター遺伝子および抗生物質感染を通じて単離される。
【0331】
多能性幹細胞の供給源
本発明のいくつかの側面および態様は、多能性細胞の使用に関する。胚性幹細胞および人工多能性幹細胞は、こうした細胞の例として記載される。
【0332】
胚性幹細胞は、伝統的に、胚盤胞段階の胚の内部細胞塊(ICM)に由来している(Evans, M.J.およびKaufman, M.H.(1981). Establishment in culture of pluripotential cells from mouse embryos. Nature 292, 154-156. Martin, G.R.(1981). Isolation of a pluripotent cell line from early mouse embryos cultured in medium conditioned by teratocarcinoma stem cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78, 7634-7638. Thomson, J.A., Itskovitz-EIdor, J., Shapiro, S.S., Waknitz, M.A., Swiergiel, J.J., Marshall, V.S.およびJones, J.M.(1998). Embryonic stem cell lines derived from human blastocysts. Science 282, 1145-1147)。胚性幹細胞を単離する際、これらの方法は胚を破壊しうる。
【0333】
現在、胚の破壊につながらない、例えば成体体細胞または生殖細胞の形質転換による、多能性幹細胞の単離のためのいくつかの方法が提供されてきている。これらの方法には、以下が含まれる:
1.核トランスファーによる再プログラミング。この技術は、体細胞から卵母細胞または接合子内への核のトランスファーを伴う。いくつかの状況において、これは、動物−ヒト・ハイブリッド細胞の生成を導きうる。例えば、ヒト体細胞と動物卵母細胞または接合子の融合、あるいはヒト卵母細胞または接合子と動物体細胞の融合によって、細胞を生成することも可能である。
【0334】
2.胚性幹細胞との融合による再プログラミング。この技術は、体細胞と胚性幹細胞の融合を伴う。この技術はまた、上記1におけるように、動物−ヒト・ハイブリッド細胞の生成を導きうる。
【0335】
3.培養による自発的再プログラミング。この技術は、長期培養後の非多能性細胞からの多能性細胞の生成を伴う。例えば、始原生殖細胞(PGC)の長期培養によって、多能性胚性生殖(EG)細胞が生成されてきている(参照により本明細書に援用される、Matsuiら, Derivation of pluripotential embryonic stem cells from murine primordial germ cells in culture. Cell 70, 841-847, 1992)。骨髄由来細胞の長期培養後の多能性幹細胞の発生もまた報告されてきている(参照により本明細書に援用される、Jiangら, Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow. Nature 418, 41-49, 2002)。彼らは、これらの細胞を多分化能成体前駆細胞(MAPC)と称した。Shinoharaらもまた、新生マウス精巣由来の生殖系列幹(GS)細胞の培養経過中に多能性幹細胞が生成可能であることを示し、これを多分化能生殖系列幹(mGS)細胞と称した(参照により本明細書に援用される、Kanatsu-Shinoharaら, Generation of pluripotent stem cells from neonatal mouse testis. Cell 119, 1001-1012, 2004)。
【0336】
4.定義される因子による再プログラミング。例えば、レトロウイルスが仲介する、例えば上述のような、マウス胚性または成体線維芽細胞内への転写因子(例えばOct−3/4、Sox2、c−Myc、およびKLF4)の導入による、iPS細胞の生成。Kajiら(本明細書に援用される、Virus-free induction of pluripotency and subsequent excision of reprogramming factors. Nature. Online publication 1 March 2009)はまた、2Aペプチドと連結されたc−Myc、Klf4、Oct4およびSox2のコード配列を含む、単一の多タンパク質発現ベクターの非ウイルストランスフェクションを記載し、これは、マウスおよびヒト線維芽細胞をどちらも再プログラミング可能であった。この非ウイルスベクターで産生されたiPS細胞は、多能性マーカーの頑強な発現を示し、再プログラミング状態が、in vitro分化アッセイおよび成体キメラマウスの形成によって、機能的に確認されることを示した。彼らは、胚性線維芽細胞から、多能性マーカーを頑強に発現する、再プログラミングされたヒト細胞株を確立するのに成功した。
【0337】
方法1〜4は、本明細書に援用される、山中伸弥による、Strategies and New Developments in the Generation of Patient-Specific Pluripotent Stem Cells(Cell Stem Cell 1, July 2007a2007 Elsevier Inc)に記載され、そして論じられる。
【0338】
5.単一卵割球または生検卵割球由来のhESC株の誘導。すべて本明細書に援用される、Klimanskaya I, Chung Y, Becker S, Lu SJ, Lanza R. Human embryonic stem cell lines derived from single blastomeres. Nature 2006; 444:512、Leiら Xeno-free derivation and culture of human embryonic stem cells: current status, problems and challenges. Cell Research(2007)17:682-688、Chung Y, Klimanskaya I, Becker Sら Embryonic and extraembryonic stem cell lines derived from single mouse blastomeres. Nature. 2006;439:216-219. Klimanskaya I, Chung Y, Becker Sら Human embryonic stem cell lines derived from single blastomeres. Nature. 2006;444:481-485. Chung Y, Klimanskaya I, Becker Sら Human embryonic stem cell lines generated without embryo destruction. Cell Stem Cell. 2008;2:113-117およびDusko Ilicら(Derivation of human embryonic stem cell lines from biopsied blastomeres on human feeders with a minimal exposure to xenomaterials. Stem Cells And Development−公表前の論文)を参照されたい。
【0339】
6. in vitroで、卵割を停止し、そして桑実胚および胚盤胞まで発生するのに失敗した停止胚から得られるhESC株。どちらも本明細書に援用される、Zhang X, Stojkovic P, Przyborski SらDerivation of human embryonic stem cells from developing and arrested embryos. Stem Cells 2006;24:2669-2676およびLeiら Xeno-free derivation and culture of human embryonic stem cells: current status, problems and challenges. Cell Research(2007)17:682-688を参照されたい。
【0340】
7.単為生殖(または単為発生)。この技術は、未受精卵を化学的または電気的に刺激して、胚性幹細胞を得られうる割球に発生させる工程を伴う。例えば、幹細胞を産生するために未受精中期II卵母細胞の化学的活性化を使用した、Linら Multilineage potential of homozygous stem cells derived from metaphase II oocytes. Stem Cells. 2003;21(2):152-61を参照されたい。
【0341】
8.胎児起源の幹細胞。これらの細胞は、可能性の観点からは胚性および成体幹細胞の間に位置し、そして該細胞を用いて、多能性または多分化能細胞を得ることも可能である。多能性マーカー(Nanog、Oct−4、Sox−2、Rex−1、SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81、β−ガラクトシダーゼ染色によって示されるような老化の証拠が最小限であること、およびテロメラーゼ活性の一貫した発現を含む)を発現するヒト臍帯由来胎児間葉系幹細胞(UC fMSC)が、Chris H. Joら(本明細書に援用される、Fetal mesenchymal stem cells derived from human umbilical cord sustain primitive characteristics during extensive expansion. Cell Tissue Res(2008)334:423-433)によって成功裡に得られている。Winston Costa Pereiraら(本明細書に援用される、Reproducible methodology for the isolation of mesenchymal stem cells from human umbilical cord and its potential for cardiomyocyte generation J Tissue Eng Regen Med 2008;2:394-399)は、ヒト臍帯のWhartonゼリーから、間葉系幹細胞の純粋な集団を単離した。Whartonゼリー由来の間葉系幹細胞はまた、Troyer & Weiss(本明細書に援用される、Concise Review: Wharton’s Jelly-Derived Cells Are a primitive Stromal Cell Population. Stem Cells 2008:26:591-599)にも概説されている。Kimら(本明細書に援用される、Ex vivo characteristics of human amniotic membrane-derived stem cells. Cloning Stem Cells 2007 Winter;9(4):581-94)は、ヒト羊膜からヒト羊膜由来間葉系細胞を単離することに成功した。臍帯は、通常廃棄される組織であり、そしてこの組織由来の幹細胞は、道徳的または倫理的な反対を招かない傾向がある。
【0342】
本発明には、これらの供給源のいずれかによって得られるか、またはこれらの方法のいずれかによって生成される多能性または多分化能幹細胞の使用が含まれる。いくつかの態様において、本発明の方法で用いる多能性または多分化能細胞は胚の破壊を引き起こさない方法によって得られてきている。より好ましくは、いくつかの態様において、本発明の方法で用いられる多能性または多分化能細胞は、ヒトまたは哺乳動物胚の破壊を引き起こさない方法によって得られてきている。こうしたものとして、こうした細胞が得られうるヒト胚の破壊を必然的に伴う方法のみによって調製されたのではない細胞を用いることによって、本発明の方法を実行可能である。この場合による限定は、欧州特許庁拡大審判廷の2008年11月25日の決定G0002/06を考慮に入れることが特に意図される。
【0343】
分化/胚様体
当業者に知られる分化技術を用いることによって、培養した幹細胞を、任意の適切な細胞タイプに分化させることも可能である。
【0344】
本発明者らは、分化した細胞を産生するためのプロセスであって、本明細書に記載するような方法によって幹細胞を増殖させ、そして次いで、既知の技術にしたがって幹細胞を分化させる工程を含む、前記方法を記載する。例えば、本発明者らは、外胚葉、中胚葉および内胚葉、ならびに心筋細胞、脂肪細胞、軟骨細胞および骨細胞等に分化させる方法を提供する。本発明者らはさらに、こうした方法によって得られうる胚様体および分化した細胞を提供する。こうした幹細胞および分化した細胞から作製される細胞株もまた提供する。
【0345】
幹細胞を分化させる方法は当該技術分野に知られ、そして例えば、Itskovitz−Eldor(J Itskovitz-Eldor, M Schuldiner, D Karsenti, A Eden, O Yanuka, M Amit, H Soreq, N Benvenisty. Differentiation of human embryonic stem cells into embryoid bodies compromising the three embryonic germ layers. Mol Med. 2000 Feb ;6 (2):88-95)およびGraichenら(2007)、Kroonら(2008)およびHayら(2008. Highly efficient differentiation of hESCs to functional hepatic endoderm requires ActivinA and Wnt3a signalling. PNAS Vol.105. No.34 12310-12306.)、WO 2007/030870、WO 2007/070964、Niebruggeら(Generation of Human Embryonic Stem Cell-Derived Mesoderm and Cardiac Cells Using Size-Specified Aggregates in an Oxygen-Controlled Bioreactor. Biotechnology and Bioengineering. Vol.102, no.2, February 1 , 2009.)、R Passierら(Serum free media in cocultures(FBS inhibits cardiomyocytes differentiation). Curr Opin Biotechnol. 2005 Oct;16(5):498-502. Review. Stem Cells. 2005 Jun-Jul;23(6):772-80)、P W Burridgeら(Defined Medium with polyvinyl alcohol(PVA), Activin A and bFGF. Stem Cells. 2007 Apr;25(4):929-38. Epub 2006年12月21日.)、M A Laflammeら(Culture sequentially supplemented with Activin A for 24 h, and BMP 4 for 4 days. Nat Biotechnol. 2007 Sep;25(9):1015-24. Epub 2007年8月26日.)、L Yangら(Defined medium supplemented with BMP4(1 day), BMP4, Activin A and bFGF(days 1-4), Activin A and bFGF(days 4-8), and DKK1 and VEGF. Nature. 2008 May 22;453(7194):524-8. Epub 2008年4月23日.)、ならびにX Q Xuら(SB203580(p38 MAP kinase inhibitor) PGI2(prostaglandin member accumulated in END2-CM). Differentiation. 2008 Nov;76(9):958-70. Epub 2008年6月13日)に記載される。
【0346】
また、胚様体を形成するために培養幹細胞を用いてもよい。胚様体、および胚様体を作製するための方法が、当該技術分野に知られる。用語「胚様体」は、懸濁中で胚性幹細胞を増殖させることによって産生される、培養中に見られる球状コロニーを指す。胚様体は、細胞タイプが混合されたものであり、そして特定の細胞タイプの分布および出現タイミングは、胚内で観察されるものに対応する。半固形培地などの培地上に胚性幹細胞をプレーティングすることによって、胚様体を生成することも可能である。Limら, Blood. 1997;90:1291-1299に記載されるように、メチルセルロース培地を用いてもよい。
【0347】
例えばItskovitz−Eldor(2000)に記載される方法を用いて、胚性幹細胞を誘導して胚様体を形成してもよい。胚様体は、3つの胚性胚葉すべての細胞を含有する。
【0348】
例えば適切な誘導因子または環境変化への曝露によって、胚様体をさらに誘導して、異なる細胞系譜に分化させることも可能である。Graichenら(2007)は、p38MAPキナーゼ経路の操作によって、ヒト胚性幹細胞からの心筋細胞の形成を記載する。Graichenは、10マイクロモル未満のSB203580などのp38 MAPキナーゼの特異的阻害剤に曝露することによって、幹細胞から心筋細胞形成が誘導されることを示す。
【0349】
当該技術分野に知られるような、再生療法などの、任意の適切な目的のために、分化した細胞を使用してもよい。
【0350】
本発明記載の培養法および技術を通じて得られる幹細胞を用いて、医学的治療法で用いるための別の細胞タイプに分化させてもよい。したがって、分化した細胞タイプは、本明細書記載の培養法および技術によって得られ、続いて分化を許されている幹細胞に由来しうる。分化した細胞タイプは、本明細書記載の培養法および技術によって得られ、続いて分化を許されている幹細胞の産物と見なされうる。場合によって薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と一緒に、こうした分化した細胞を含む薬学的組成物を提供してもよい。こうした薬学的組成物は、医学的治療法において有用でありうる。
【0351】
マイクロキャリアー上での分化
本発明者らの以前の発見(米国特許出願、2009年3月17日出願のUS 61/069,694、2008年10月31日出願のUS 61/110,256、2009年1月29日出願のUS 61/148,064、および2009年2月27日出願のUS 61/155,940)にしたがって、マイクロキャリアー上での懸濁培養中、幹細胞、特に胚性幹細胞およびiPSを誘導して、分化させてもよい。
【0352】
胚性幹細胞を誘導して、3つの一次胚葉:外胚葉、内胚葉および中胚葉、ならびにその誘導体に分化させてもよい。胚性幹細胞を誘導して胚様体を形成してもよい。したがって、ある範囲の細胞タイプまたは組織、例えば心筋細胞、心臓中胚葉、肝細胞、肝臓内胚葉、膵島細胞、膵臓内胚葉、インスリン産生細胞、神経組織、神経外胚葉、上皮組織、表面外胚葉、骨、軟骨、筋肉、靱帯、腱または他の結合組織が得られうる。
【0353】
幹細胞の分化および胚様体の形成のための方法は上記のとおりであり、そしてこれはマイクロキャリアー培養中の幹細胞の分化に適用可能である。
【0354】
ROCK阻害剤の存在下または非存在下で、マイクロキャリアー培養中に幹細胞を分化させる方法を実行してもよい。例えば、分化を誘導する培養条件に細胞(およびマイクロキャリアー)を曝露することによって、本発明にしたがって、ROCK阻害剤の存在下、マイクロキャリアー上で増殖させた幹細胞を、誘導して、分化させてもよい。こうした培養条件には、幹細胞をROCK阻害剤(細胞の増殖に用いたROCK阻害剤と同じでもまたは異なってもよい)に引き続き曝露することが含まれてもよいし、または培養条件はROCK阻害剤を排除してもよい。
【0355】
マイクロキャリアー培養中で幹細胞を分化させる方法は、上述のように、マイクロキャリアーをコーティングしないか、またはマトリックスコーティングでコーティングする必要がありうる。例えば、適切なコーティングには: Matrigel、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ヒアルロン酸の1以上が含まれてもよい。
【0356】
マイクロキャリアー培養中で幹細胞を分化させる方法には、培地への補助剤の添加が含まれてもよい。例えば、補助剤には、ウシ血清アルブミン、脂質またはHy−Soy(Sigma−Aldrich−これは大豆タンパク質の酵素的加水分解物である)が含まれてもよい。
【0357】
マイクロキャリアー培養中で幹細胞を分化させる方法は、2D培養中または3D懸濁マイクロキャリアー培養中のいずれかでの幹細胞の初期培養および増殖、その後、マイクロキャリアー培養中の分化誘導を伴ってもよい。
【0358】
使用
本明細書記載の方法および組成物を多様な手段に用いてもよい。
【0359】
例えば、本明細書記載の粒子を、より単純な幹細胞培養のための研究ツールまたは実験室試薬として提供してもよい。分化した細胞を生成するために、マイクロキャリアー上の未分化幹細胞の拡大のため、これらを用いてもよい。これを委託製造能に発展させてもよい。幹細胞を拡大し、そして薬剤試験で使用するために場合によって分化させてもよい。異なる培地条件下で、幹細胞を組み合わせ分化させるため、粒子またはマイクロキャリアーを標識してもよい。本明細書記載の方法によって増殖させた幹細胞を、多様な商業的に重要な研究、診断、および療法目的のため、用いてもよい。これらの目的のため、幹細胞を直接用いてもよいし、または当該技術分野に知られる方法を用いて、任意の選択した細胞タイプに分化させてもよい。また、幹細胞から前駆細胞を得てもよい。分化した細胞または前駆細胞、あるいはその両方を、同じ目的のため、幹細胞の代わりに、または幹細胞と組み合わせて用いてもよい。したがって、幹細胞に関して本文書に記載する任意の使用は、幹細胞から得られる前駆細胞および分化した細胞に等しく適用される。同様に、分化した細胞の任意の使用は、これらが前駆体または前駆細胞である幹細胞に等しく適用されるであろう。
【0360】
幹細胞等の使用は当該技術分野に一般的に周知であるが、本明細書に簡単に記載する。
【0361】
療法使用
本明細書記載の方法および組成物を用いて、再生療法のため、幹細胞を増殖させてもよい。幹細胞を拡大して、そして患者に直接投与してもよい。外傷後の損傷組織の再増殖のために、これらを用いてもよい。胚性幹細胞を、再生療法のため直接用いてもよいし、あるいは該細胞を用いて外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞集団を生成してもよい。ex vivo拡大によって前駆細胞を作製してもよいし、または患者に直接投与してもよい。また、外傷後の損傷組織の再増殖のために、これらを用いてもよい。
【0362】
したがって、骨髄置換のために造血前駆細胞を用いてもよいし、一方、心臓不全患者のために心臓前駆細胞を用いてもよい。患者のための皮膚移植片を増殖させるために皮膚前駆細胞を使用してもよく、そしてステントまたは人工心臓などの人工装具の内皮化(endothelization)のために内皮前駆細胞を使用してもよい。
【0363】
糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの変性疾患の治療のために、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞の供給源として、胚性幹細胞を用いてもよい。癌の免疫療法のために、NKまたは樹状細胞の中胚葉または内胚葉前駆体の供給源として、胚性幹細胞を用いてもよい。
【0364】
本明細書記載の方法および組成物は、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞の産生を可能にし、もちろん、当該技術分野に知られる方法を用いて、これらの細胞を最終分化細胞タイプにさらに分化させることも可能である。
【0365】
したがって、供給源である内胚葉、中胚葉または外胚葉前駆細胞(または幹細胞)には、最終分化細胞のいかなる使用も等しく伴うであろう。
【0366】
本明細書記載の方法および組成物によって産生される幹細胞、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞および分化した細胞は、疾患の治療のため、または疾患の治療のための薬学的組成物の調製のために使用可能である。こうした疾患は、再生療法によって治療可能な疾患を含んでもよく、心不全、骨髄疾患、皮膚疾患、火傷、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの変性疾患、および癌が含まれる。
【0367】
ライブラリー
例えば、未分化細胞および分化細胞の集団を用いて、分化した表現型に特異的な抗体およびcDNAライブラリーを調製してもよい。抗体を作製し、精製し、そして修飾するのに用いられる一般的な技術、ならびにイムノアッセイおよび免疫単離法におけるその使用が、Handbook of Experimental Immunology(Weir & Blackwell監修); Current Protocols in Immunology(Coliganら監修);およびMethods of Immunological Analysis(Masseyeffら監修, Weinheim: VCH Verlags GmbH)に記載される。mRNAおよびcDNAライブラリーの調製に関与する一般的な技術が、RNA Methodologies: A Laboratory Guide for Isolation and Characterization(R. E. Farrell, Academic Press, 1998); cDNA Library Protocols(CowellおよびAustin監修, Humana Press);およびFunctional Genomics(HuntおよびLivesey監修, 2000)に記載される。薬剤スクリーニングおよび療法適用で使用するには、比較的均一な細胞集団が特に適している。
【0368】
薬剤スクリーニング
また、幹細胞および分化した細胞を用いて、幹細胞または分化した細胞の特性に影響を及ぼす因子(例えば溶媒、小分子薬剤、ペプチド、ポリヌクレオチド等)または環境条件(例えば培養条件または操作)をスクリーニングしてもよい。
【0369】
幹細胞を用いて、多分化能または分化を促進する因子に関してスクリーニングしてもよい。いくつかの適用において、分化した細胞を用いて、成熟を促進するか、または長期培養中でのこうした細胞の増殖および維持を促進する因子をスクリーニングする。例えば、これらを異なるウェル中の細胞に添加し、そして次いで、さらなる培養および細胞の使用に関する所望の規準にしたがって、生じるいかなる表現型的変化も決定することによって、候補成熟因子または増殖因子を試験する。
【0370】
特定のスクリーニング適用は、薬剤研究において、薬学的化合物を試験することに関する。一般的に、標準的な教科書、“In vitro Methods in Pharmaceutical Research”, Academic Press, 1997、および米国特許第5,030,015号、ならびに本文書の別の箇所の薬剤スクリーンの一般的な説明を参照されたい。候補薬学的化合物の活性の評価には、一般的に、候補化合物と幹細胞または分化した細胞を合わせ、化合物に起因しうる、細胞の形態、マーカー表現型、または代謝活性のいかなる変化も測定し(未処理細胞または不活性化合物で処理した細胞と比較して)、そして次いで、観察される変化と化合物の効果を相関させる工程を伴う。
【0371】
例えば、特定の細胞タイプに対する薬理学的効果を有するように化合物を設計するため、または他の箇所で影響を有するように設計された化合物は、意図されない副作用を有しうるため、スクリーニングを行ってもよい。2以上の薬剤を組み合わせて(同時にまたは連続してのいずれかで細胞と組み合わせることによって)試験して、ありうる薬剤−薬剤相互作用効果を検出してもよい。いくつかの適用において、化合物をまず、潜在的な毒性に関してスクリーニングする(Castellら, pp. 375-410 “In vitro Methods in Pharmaceutical Research”中, Academic Press, 1997)。まず、細胞生存度、生存、形態、および特定のマーカー、受容体または酵素の発現または放出に対する効果によって、細胞傷害性を決定してもよい。DNA合成または修復を測定することによって、染色体DNAに対する薬剤の効果を決定してもよい。特に細胞周期中のスケジュールされない時点での、または細胞複製に必要なレベルを超える、[H]チミジンまたはBrdU取り込みは、薬剤の影響と一致する。望ましくない影響にはまた、中期スプレッドによって決定される、異常な率の娘染色分体交換も含まれうる。さらなる詳細に関しては、A. Vickers(PP 375-410 “In vitro Methods in Pharmaceutical Research”中, Academic Press, 1997)を参照されたい。
【0372】
組織再生
本明細書記載の方法および組成物にしたがって増殖する幹細胞(および該幹細胞から得られる分化した細胞)を、療法、例えば必要がある個々の患者における組織再構成または再生に用いてもよい。細胞が意図される組織部位に移植され、そして機能的に欠陥がある領域を再構成するかまたは再生するのを可能にする方式で、細胞を投与してもよい。
【0373】
増殖幹細胞または該幹細胞から得られる分化した細胞を、組織操作のため、例えば皮膚移植片の増殖のため、用いてもよい。人工臓器または組織のバイオエンジニアリングのため、あるいはステントなどの装具のため、これらを用いてもよい。
【0374】
また、その必要があるヒト患者における組織再構成または再生のため、分化した細胞を用いてもよい。細胞が意図される組織部位に移植され、そして機能的に欠陥がある領域を再構成するかまたは再生するのを可能にする方式で、細胞を投与する。例えば、本明細書記載の方法および組成物を用いて、幹細胞の分化を調節してもよい。分化した細胞を、組織操作のため、例えば皮膚移植片の増殖のため、用いてもよい。人工臓器または組織のバイオエンジニアリングのため、あるいはステントなどの装具のため、幹細胞分化の調節を用いてもよい。別の例において、治療中の疾患に応じて、中枢神経系の実質部位またはクモ膜下腔内部位に、神経幹細胞を直接移植する。μLあたり25,000〜500,000細胞の密度で単細胞懸濁物または小凝集塊を用いて、移植を行う(米国特許第5,968,829号)。McDonaldら(Nat. Med. 5:1410, 1999)によって記載されるように、急性脊髄傷害のラットモデルにおいて、神経細胞移植の有効性を評価してもよい。成功した移植は、2〜5週間後に、病変中に移植片由来細胞が存在し、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよび/またはニューロンに分化し、そして病変端から脊髄に沿って移動し、そしてゲート、協調および荷重付加が改善していることを示すであろう。
【0375】
神経系に対する急性または慢性損傷の治療のため、特定の神経前駆細胞を設計する。例えば、癲癇、脳卒中、虚血、ハンチントン病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む多様な状態において、興奮毒性が関連付けられてきている。本明細書に記載する方法にしたがって作製するような特定の分化細胞はまた、ペリツェウス・メルツバッヘル病、多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経炎および神経疾患などのミエリン形成不全障害(dysmyelinating disorders)を治療するのにもまた適切でありうる。これらの目的に適しているのは、再ミエリン形成を促進する、オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆体が濃縮された細胞培養である。
【0376】
本発明者らの方法を用いて調製した肝細胞および肝細胞前駆体が肝臓損傷を修復する能力に関して、動物モデルにおいて評価してもよい。1つのこうした例は、D−ガラクトサミンの腹腔内注射によって引き起こされる損傷である(Dabevaら, Am. J. Pathol. 143:1606, 1993)。肝臓細胞マーカーに関する免疫組織化学染色、増殖中の組織において毛細胆管構造が形成されるかどうかの微視的決定、および治療が肝臓特異的タンパク質の合成を回復する能力によって、治療有効性を決定してもよい。直接投与によって、または被験体の肝臓組織が、劇症肝不全後に再生する間、一時的な肝機能を提供する生体補助(bioassist)デバイスの一部として、療法において肝細胞を用いてもよい。
【0377】
例えば、Graichenら(2007)に記載されるような、特異的p38 MAPキナーゼ阻害剤であるSB203580を用いて、MAPキナーゼ経路を調節することにより、幹細胞の分化を誘導することによって、心筋細胞を調製してもよい。治療を伴わないと左心室壁組織の55%を瘢痕組織にする、心臓凍結傷害(cryoinjury)の動物モデルにおいて、こうした心筋細胞の有効性を評価してもよい(Liら, Ann. Thorac. Surg. 62:654, 1996; Sakaiら, Ann. Thorac. Surg. 8:2074, 1999、 Sakaiら, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 118:715, 1999)。治療が成功すると、瘢痕面積が減少し、瘢痕拡大が限定され、そして収縮期圧、拡張期圧、および最大圧によって決定されるように、心臓機能が改善されるであろう。また、左前下行枝の遠位部分において塞栓コイルを用いて、心臓傷害をモデリングしてもよく(Watanabeら, Cell Transplant. 7:239, 1998)、そして組織学および心臓機能によって、治療有効性を評価してもよい。療法において、心筋細胞調製物を用いて、心筋を再生し、そして不十分な心臓機能を治療してもよい(米国特許第5,919,449号およびWO 99/03973)。
【0378】

本明細書記載の方法および組成物にしたがって増殖させた幹細胞およびそこから得られる分化した細胞を癌治療に用いてもよい。
【0379】
用語「癌」および「癌性」は、典型的には、制御されない細胞増殖によって特徴付けられる、哺乳動物における生理学的状態を指すかまたは記載する。癌の例には、限定されるわけではないが、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫、および白血病が含まれる。こうした癌のより特定の例には、扁平上皮癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胃癌、膵臓癌、グリア細胞腫瘍、例えば神経膠芽腫および神経線維腫症、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、肝細胞腫、乳癌、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、唾液腺癌、腎臓癌、腎癌、前立腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、肝臓癌腫、ならびに多様なタイプの頭部および頸部癌が含まれる。さらなる例は、結腸癌、乳癌、肺癌および前立腺癌を含む固形腫瘍癌、白血病およびリンパ腫を含む造血悪性疾患、ホジキン病、再生不良性貧血、皮膚癌および家族性大腸ポリポーシスがある。さらなる例には、脳新生物、結腸直腸新生物、乳房新生物、子宮頸部新生物、目の新生物、肝臓新生物、肺新生物、膵臓新生物、卵巣新生物、前立腺新生物、皮膚新生物、精巣新生物、新生物、骨新生物、栄養膜細胞新生物、卵管新生物、直腸新生物、結腸新生物、腎臓新生物、胃新生物、および副甲状腺新生物が含まれる。乳癌、前立腺癌、膵臓癌、結腸直腸癌、肺癌、悪性黒色腫、白血病、リンパ腫、卵巣癌、子宮頸癌および胆管癌もまた含まれる。また、本明細書記載の方法および組成物にしたがって増殖され、そして場合によって分化される幹細胞を、抗癌剤、例えばエンドスタチンおよびアンギオスタチンまたは細胞傷害性剤または化学療法剤と組み合わせて用いてもよい。例えば薬剤、例えば、アドリアマイシン、ダウノマイシン、シスプラチン、エトポシド、タキソール、タキソテールおよびアルカロイド、例えばビンクリスチン、ならびに代謝拮抗剤、例えばメトトレキセート。用語「細胞傷害性剤」は、本明細書において、細胞の機能を阻害するかまたは防止し、そして/または細胞の破壊を引き起こす物質を指す。該用語は、放射性同位体(例えばI、Y、Pr)、化学療法剤、および毒素、例えば細菌、真菌、植物または動物起源の酵素的に活性である毒素、あるいはその断片を含むよう意図される。
【0380】
また、該用語には、癌遺伝子産物/チロシンキナーゼ阻害剤、例えばWO 94/22867に開示される二環性アンサマイシン; EP 600832に開示される1,2−ビス(アリールアミノ)安息香酸誘導体; EP 600831に開示される6,7−ジアミノ−フタラジン−1−オン誘導体; EP 516598に開示されるような4,5−ビス(アリールアミノ)−フタルイミド誘導体;またはSH2含有基質タンパク質へのチロシンキナーゼの結合を阻害するペプチド(例えば、WO 94/07913を参照されたい)が含まれる。「化学療法剤」は、癌治療に有用な化学的化合物である。化学療法剤の例には、アドリアマイシン、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル(5−FU)、シトシンアラビノシド(Ara−C)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、シトキシン、タキソール、メトトレキセート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、エトポシド、イフォスファミド、マイトマイシンC、ミトキサントロン、ビンクリスチン、VP−16、ビノレルビン、カルボプラチン、テニポシド、ダウノマイシン、カルミノマイシン、アミノプテリン、ダクチノマイシン、マイトマイシン、ニコチンアミド、エスペラミシン(米国特許第4,675,187号を参照されたい)、メルファランおよび他の関連ナイトロジェンマスタード、ならびに内分泌療法(例えば、ジエチルスチルベストロール(DES)、タモキシフェン、LHRH拮抗薬剤、プロゲスチン、抗プロゲスチン等)が含まれる。
【0381】
本発明の実施は、別に示さない限り、化学、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の慣用的技術を使用し、これらは一般の当業者の能力内である。こうした技術は文献中に説明される。例えば、J. Sambrook, E.F. Fritsch, およびT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 第1-3巻, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F.M.ら(1995および定期的な改訂; Current Protocols in Molecular Biology, 第9、13、および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.); B. Roe, J. CrabtreeおよびA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; J.M. PolakおよびJames O’D. McGee, 1990, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press; D.M.J. LilleyおよびJ.E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press; Using Antibodies: A Laboratory Manual: Portable Protocol NO.1 Edward Harlowによる, David Lane, Ed Harlow(1999, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-544-7);Antibodies: A Laboratory Manual Ed Harlow(監修), David Lane(監修)(1988, Cold Spring Harbor Laboratory Press, ISBN 0-87969-314-2),1855;ならびにLab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench, Jane RoskamsおよびLinda Rodgers監修, 2002, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-630-3を参照されたい:これらの一般的な教科書は本明細書に援用される。
【0382】
本発明には、記載する側面および好ましい特徴の組み合わせが含まれるが、こうした組み合わせが明らかに許容しえないかまたは明確に回避される場合を除く。
【0383】
本明細書で用いるセクション見出しは、構成目的のみのためであり、そして記載する主題を限定すると見なされないものとする。
【0384】
本発明の側面および態様を、例として、付随する図に言及しながら例示する。さらなる側面および態様は、当業者には明らかであろう。本テキストに言及されるすべての文書は、本明細書に援用される。
【実施例】
【0385】
以下の実施例は、細胞外マトリックスの使用を伴わないが、ROCK阻害剤(Y−27632、HA1077またはファスジル、およびアウロチオグルコース)の補充を伴う、多様なマイクロキャリアー(DE53、QA52、Tosoh、Cytodex1、Cytodex3)上の安定した長期のヒト胚性幹細胞の増殖の証拠を提供する。hESCは、5回以上の継代後、これらの増殖、最終細胞密度、多能性マーカーOct4、mAb84およびTRA−1−60の発現、ならびに正常核型を保持した。
【0386】
実施例1 ヒト胚性幹細胞(hESC)
ヒト胚性幹細胞株、HES−2(46 X、X)、およびHES−3(46 X、X)をES Cell Internationalから得る。2Dコロニー培養から得られる200x200μm細胞塊の懸濁物として、またはマイクロキャリアー培養から得られる細胞−マイクロキャリアー凝集体として、細胞を凍結し、そして液体窒素中で保存する。
【0387】
実施例2 細胞培養: 2Dコロニー培養
hESCを維持するため、Matrigelコーティング培養ディッシュ上(冷KO−DMEM、1:30希釈中で希釈したMatrigel(Becton Dickinson)と4℃で一晩インキュベーションする)で細胞を37℃/5%COで培養してもよい。1mlの培地を含む臓器培養ディッシュ(OCD)中で細胞をルーチンに維持する。
【0388】
用いる培地は、MEFフィーダー由来の馴化培地(CM)、StemPro hESC血清不含培地(Invitrogen)またはmTeSR−1血清不含培地(Cell Technologies)のいずれかである。培地を毎日交換する。コラゲナーゼ(Chooら、2004)またはtrypLE Express(Invitrogen)での酵素処理によって、あるいはStemPro EZPassage幹細胞継代ツール(Invitrogen)を用いた機械的解離によって、静置コロニー培養を毎週継代する。
【0389】
実施例3 細胞培養:3Dマイクロキャリアー培養
分散2Dコロニー培養から得たかまたは液体窒素保存から直接得た細胞懸濁物(2Dコロニー培養から得た200x200μm組織または細胞−マイクロキャリアー凝集体として)を、マイクロキャリアー懸濁物(4mg/ml)上、0.1〜0.3x106/mlの濃度で植え付ける。
【0390】
いくつかの実験において、より均一な培養を確実にするため、マイクロキャリアー懸濁物に添加する前に、100および500μmメッシュ篩を通じて、細胞接種物をスクリーニングする。静置条件下で、あるいは100または150rpm(IKA軌道振盪装置)で攪拌して、非付着6ウェルディッシュ(Corning)上、37℃/5%COで細胞を培養する。用いる培地は、MEF−CMまたは定義する培地のいずれかである。培地を毎日交換する。コラゲナーゼまたはtrypLEでの酵素処理後、あるいは1:2〜1:10の分割比での反復ピペッティングによる機械的解離後、培養を毎週継代する。8mlの培地を含む、Matrigelでコーティングした6cm組織培養ペトリディッシュ上に、集密細胞−マイクロキャリアー凝集体を置き、そして細胞を7日間培養することによって、2Dコロニー培養に対するマイクロキャリアー培養の再プレーティングを行う。
【0391】
実施例4 スピナー培養
シリコーン処理した(Sigmacote、SL2 Sigma-Aldrich)100ml Bellcoスピナーフラスコに、3x10細胞/ml〜5mg/mlマイクロキャリアーの密度で、最初の体積を25mlとして、攪拌を伴わず、制御インキュベーター中、37℃および5% COで、hESCを植え付ける。
【0392】
新鮮な馴化培地を用いて反応容器体積を50mlに増加させ、そして接種後12時間、30rpmで攪拌する。80%の消費した培地を毎日取り除き、そして新鮮な馴化培地と交換する。細胞計数および代謝産物分析のため、毎日の試料を採取する。
【0393】
実施例5 Matrigelの非存在下およびROCK阻害剤の存在下でのマイクロキャリアー上での培養
材料および方法
マイクロキャリアー上のhESC培養のための馴化培地の調製
本発明者らの公表したプロトコルにしたがって、馴化培地を調製した−Chooら, 2007(Identification of proteins from feeder conditioned medium that support human embryonic stem cells. J. Biotechnol. 130, 320-328)。
【0394】
DE53、QA52、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの植え付け
コーティングされていないマイクロキャリアー上にhESCを植え付け、そして実施例3のプロトコル、およびOhら, 2009(Long term microcarrier suspension cultures of human embryonic stem cells, Stem Cell Research(2009))のプロトコルにしたがって、毎週継代した。
【0395】
ROCK阻害剤の調製
Y−27632−10mMストック: 5mgを1.48mlの水に溶解する。
【0396】
HA1077(ファスジル)− 10mMストック: 5mgを1.37mlの水に溶解する。
【0397】
アウロチオグルコース(AuTG)− 10mMストック: 5mgを1.28mlの水に溶解する。
【0398】
すべての化学薬品をCalbiochemより購入した。マイクロキャリアー上のhESCに供給する前に、すべての阻害剤を馴化培地中でその最終作業濃度に希釈した。
【0399】
多能性マーカーのFACS性質決定
Ohら, 2009(Long term microcarrier suspension cultures of human embryonic stem cells, Stem Cell Research(2009))による本発明者らの最近の研究にしたがって、性質決定を行った。
【0400】
簡潔には、フローサイトメトリーを用いて、免疫蛍光によって、hESC集団における細胞外抗原TRA−1−60、および細胞内転写因子、Oct4の発現レベルを評価する。トリプシンまたはtrypLE expressを用い、単細胞懸濁物として、細胞を採取し、40μm篩(BD)を通じてろ過し、固定し、浸透処理し(Caltag Laboratories)、そしてTRA−1−60(1:50希釈、Chemicon、MAB4360/4381)およびOct−4(1:20希釈、Santa Cruz)に対する一次抗体とインキュベーションする。
【0401】
次いで、1%BSA/PBSで細胞を洗浄し、そして暗所で、1:500希釈のヤギα−マウス抗体FITC−コンジュゲート化(DAKO)とインキュベーションする。インキュベーション後、細胞を再び洗浄し、そしてFACScan(Becton Dickinson FACS Calibur)上での分析のため、1%BSA/PBSに再懸濁する。すべてのインキュベーションを室温で15分間行う。
【0402】
核型決定
活発に増殖しているhESC培養を、1ml KO−培地中で希釈したコルセミド溶液と15〜16時間、37℃/5%COでインキュベーションした後、中期で停止させる。細胞遺伝学分析を、KK Women’s and Children’s Hospital, シンガポールのCytogenetics Laboratoriesに委託する。
【0403】
SEM
SEM Unit, Institute of Molecular Cell Biology, シンガポールで、走査型電子顕微鏡法を行った。
【0404】
結果
以下の議論において、Matrigel不含マイクロキャリアー上でのhESCの培養を、以下の見出し以下に提示する:
1. ROCK阻害剤Y−27632を含む、9週間のセルロースDE53マイクロキャリアー上でのhESC長期培養。
【0405】
2. ROCK阻害剤Y−27632を含む、6週間の球状Tosohマイクロキャリアー上でのhESC長期培養。
【0406】
3. ROCK阻害剤Y−27632を含む、5週間のセルロースDE53、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上でのhESC長期培養の比較。
【0407】
4. ROCK阻害剤Y−27632を含む、セルロースDE53上のhESCの走査型電子顕微鏡法。
【0408】
5. ROCK阻害剤Y−27632を含む、5〜10週の間のセルロースDE53、QA52、Tosoh、およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの核型。
【0409】
6. 別のROCK阻害剤、HA1077(ファスジル)およびアウロチオグルコースを含む、2週間のセルロースDE53マイクロキャリアー上でのhESC培養。
【0410】
ROCK阻害剤Y−27632を含む、9週間のセルロースDE53マイクロキャリアー上でのhESC長期培養
図1は、10μMで補充したROCK阻害剤Y−27632を含むセルロースDE53マイクロキャリアー上で、hESCを連続9週間継代可能であることを示す。達成される細胞密度は、6ウェルプレート中(各ウェル体積は4mlである)、300万〜750万/ウェルで多様である。しかし、ROCK阻害剤Y−27632を含まないと、細胞数は急速に減少し、そして4週を超えては、継代不能である。hESCは、マイクロキャリアー周囲に集密凝集体を形成する。図2は、Matrigelを含まないがROCK阻害剤を含む、マイクロキャリアー培養中、3週間に渡る多能性マーカーOct4およびmAb84の安定発現を示すが、ROCK阻害剤を含まない場合はマーカーの有意な下方制御が示される。9週目までに、Matrigelを含まないがROCK阻害剤Y−27632を含むマイクロキャリアー培養中、多能性マーカーOct4、mAb84およびTra−1−60の発現はなお頑強である(図3)。
【0411】
ROCK阻害剤Y−27632を含む、6週間の球状Tosohマイクロキャリアー上でのhESC長期培養
図4は、Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を補充し、ポリリジンで正に荷電している球状Tosoh 65ミクロン・マイクロキャリアー上での連続6週間のhESC継代を示す。細胞数は300万〜500万/ウェルの範囲である。多能性マーカーOct4、およびTra−1−60は、4継代目で強く発現される。しかし、Rock阻害剤Y−27632の非存在下では、2継代目で細胞数が劇的に低下し、そして残された細胞は、多能性マーカーTra−1−60の有意な下方制御を示す。
【0412】
ROCK阻害剤Y−27632を含む、5週間のセルロースDE53、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上でのhESC長期培養の比較
図5は、Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含むセルロース、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上での連続5週間のhESC継代を示す。特に、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上で達成される細胞数は、500万〜700万/ウェルでより高い範囲であるようであり、一方、セルロースおよびTosohマイクロキャリアーは、5継代目で400万/ウェルを達成した。Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含むセルロース、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの写真を示す(図6)。hESCクラスターは、これらのマイクロキャリアー培養すべての上で集密に見える。図7は、Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含む、Cytodex1、Cytodex3、セルロース、およびTosohマイクロキャリアー上で培養した5継代目のhESCによって、多能性マーカーOct4およびmAb84の頑強な発現があることを示す。
【0413】
ROCK阻害剤Y−27632を含む、セルロースDE53上のhESCの走査型電子顕微鏡法
図8は、Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含む、セルロースマイクロキャリアー上のhESCの走査型電子顕微鏡写真(SEM)を示す。hESCは、セルロースマイクロキャリアーを取り巻く、緊密でそして集密な細胞凝集体を形成する。図9は、Matrigelを含まないが、Rock阻害剤Y−27632を含む、セルロースマイクロキャリアー上のhESCのSEMの第二の例を示す。
【0414】
ROCK阻害剤Y−27632を含む、5〜10週の間のセルロースDE53、QA52、Tosoh、およびCytodex3マイクロキャリアー上のhESCの核型
図10は、それぞれ8継代目および7継代目の、DE53およびQA52セルロースマイクロキャリアー上で培養したhESCが、安定な核型を保持することを示す。同様に、図11は、それぞれ10継代目および5継代目の、球状ポリリジンコーティングTosohおよびCytodex3マイクロキャリアー上で培養したhESCの安定な核型を示す。
【0415】
別のROCK阻害剤、HA1077(ファスジル)およびアウロチオグルコースを含む、2週間のセルロースDE53マイクロキャリアー上でのhESC培養
以下を含む、他のタイプのROCK阻害剤を評価した:
1. HA1077(ファスジル): ROCK阻害剤
2. アウロチオグルコース: NF−κB阻害剤
3. LY 294002: P13K阻害剤
4. ヒドロキシファスジル: ROCK阻害剤
5. Rhoキナーゼ阻害剤I: ROCK阻害剤
6. Rhoキナーゼ阻害剤II: ROCK阻害剤
用いた対照は、MatrigelでコーティングされたDE53マイクロキャリアーであった。0.02μl DMSOをスパイク処理したコーティングされていないDE53を含むブランクもまた用いた。
【0416】
阻害剤HA1077(10および40μMで補充)およびアウロチオグルコース(10μM)は、0継代目および1継代目で、Matrigelを含まないセルロースマイクロキャリアー上のhESCの頑強な増殖を補助する(図12)。細胞数は、600万〜900万/ウェルに到達し、これは、1継代目で800万/ウェルを達成した、Matrigelコーティングを含む対照培養に同等である。図13および14は、Matrigelコーティングを含む対照に比較した、0継代目および1継代目の、阻害剤HA1077およびアウロチオグルコースを含むhESC培養の多能性マーカーOct4およびmAb84の安定発現を示す。図15は、別のROCK阻害剤、アウロチオグルコースおよびHA1077(ファスジル)を含むマイクロキャリアー上のhESCの集密培養の写真を示す。
【0417】
今日まで、本発明者らは、4継代目まで、アウロチオグルコースの存在下でのhESC継代に成功してきており、多能性マーカーOct4およびmAb84の強い発現が連続している(図19および20を参照されたい)。
【0418】
このデータは、5タイプのマイクロキャリアー:すべてコーティングされていないセルロースDE53、QA52、Tosoh、Cytodex1およびCytodex3が、ROCK阻害剤Y−27632を含む長期培養中でhESCを補助しうることを立証する。HA1077(ファスジル)およびアウロチオグルコースなどの他の阻害剤もまた、Matrigelを含まないhESC培養を補助しうる。
【0419】
実施例6
マトリックス不含セルロースDE53マイクロキャリアー上でのhESC(HES−2)細胞培養を可能にする能力に関して、ある範囲のROCK阻害剤(10μM)を試験した。これらには、ファスジル、ヒドロキシファスジルおよびアウロチオグルコースが含まれ、そしてこれらを対照(MatrigelでコーティングされたDE53マイクロキャリアー)に比較した。
【0420】
連続して添加したROCK阻害剤を9週間(週あたり1回の継代)に渡って試験し、図21(A〜C)に結果を示した。ファスジル、ヒドロキシファスジルおよびアウロチオグルコースを毎日9週間連続添加すると、対照DE53マイクロキャリアーと類似の細胞密度までのhESC細胞拡大を補助することが可能であった(図21A)。多能性マーカーTra−1−60の発現は、対照の90%と比較して、9週後、ファスジルおよびヒドロキシファスジルに関して約80%であり、そしてアウロチオグルコースでは60%であった(図21B)。多能性マーカーOct4の発現は、対照の55%と比較して、9週後、ファスジルおよびヒドロキシファスジルに関して約30〜40%であり、そしてアウロチオグルコースでは50%であった(図21C)。
【0421】
ファスジル、ヒドロキシファスジル、アウロチオグルコースおよびY27632の6週間の単回用量添加は、対照DE53マイクロキャリアーと類似の細胞密度(500万/ウェル)までのhESC(HES−2)細胞拡大補助を可能にした(図24A)。多能性マーカーTra−1−60の発現は、6週後、ファスジルおよびY27632に関して約80%であり、アウロチオグルコースに関しては70%であり、そしてヒドロキシファスジルでは50%であった(図24B)。多能性マーカーOct4の発現は、6週後、ファスジルおよびヒドロキシファスジル、アウロチオグルコースおよびY27632 ROCK阻害剤に関して60%で非常に類似であった(図25)。
【0422】
実施例7 マイクロキャリアー上のROCK阻害剤を含まないiPS細胞の培養
Y−27632(10μM)を含む、Cytodex1およびDE53マイクロキャリアー上で培養したHES−2細胞は、対照培養(MatrigelでコーティングされたCytodex1またはDE53)と類似の細胞濃度および多能性マーカー発現(Tra−1−60)を示した(図26および27)。
【0423】
実施例8 マイクロキャリアー上のROCK阻害剤を含むiPS細胞の培養
iPS IMR90細胞(1.6x105細胞/ml)を、20mgのコーティングされていないDE53、5mlの血清不含培地mTeSR1、4μlのROCK阻害剤(Y−27632)[10μM]を含む6ウェルプレートのウェル中で培養した。毎日、80%の培地を新鮮にし、そして阻害剤を添加した。
【0424】
細胞密度は12回の継代に渡って安定であった(図28)。Oct4およびTra−1−60発現は12回の継代に渡って安定であった(図29および図30)。
【0425】
実施例9 ROCK阻害剤は、Matrigelの非存在下で、どのようにhESCおよびhiPSマイクロキャリアー培養を維持するか?
本発明者らは、2つのhESC(HES2およびHES3)および2つのヒトiPS(IMR90および包皮)細胞株の多能性を保持しつつ、多様なマイクロキャリアー(DE53、CytodexおよびTosoh)上、Matrigelの非存在下で10週間より長く、これらの細胞株を維持可能であることを立証した。
【0426】
ROCK阻害剤を含むhESCの長期培養のこの独特の現象を調べつつ、本発明者らは、マイクロアレイ研究によって、Matrigelを含まないROCK阻害剤マイクロキャリアー培養対Matrigelを含むマイクロキャリアー培養の遺伝子発現を比較し、そして141遺伝子の共通のセットが、ROCK阻害剤での処理に際して、2倍を超えて示差的に上方または下方制御されていることを見出した(結果は示さない)。
【0427】
Pantherデータベース(http://www.pantherdb.org/)中の162経路に対する経路に基づく分析によって、示差的に発現される遺伝子が濃縮された、5つの適切な経路が明らかになった。これらの経路内では、インテグリン/コラーゲン合成と関連するいくつかの遺伝子、FOX転写因子およびTGF−ベータ遺伝子が上方制御され、一方、いくつかのカドヘリン遺伝子が下方制御されていた。
【0428】
参考文献
【0429】
【化16】

【0430】
出願および特許各々の手続き遂行中のものを含む、本文書で言及する出願および特許各々、ならびに上記出願および特許各々に引用されるかまたは言及される各文書(「出願に引用される文書」)、ならびに出願および特許各々に、そして任意の出願に引用される文書に、引用されるかまたは言及される任意の製品に関する任意の製造者の使用説明書またはカタログが、本明細書に援用される。さらに、本テキストに引用するすべての文書、および本テキストに引用する文書に引用されるかまたは言及されるすべての文書、ならびに本テキストに引用するかまたは言及する任意の製品に関する任意の製造者の使用説明書またはカタログが、本明細書に援用される。
【0431】
本発明の範囲および精神から逸脱することのない、本発明に記載する方法および系の多様な修飾および変型が、当業者には明らかであろう。本発明は、特定の好ましい態様と関連して記載されてきているが、請求するような本発明が、こうした特定の態様に、過度に限定されてはならず、そしてこれに対する多くの修飾および付加を、本発明の範囲内で行いうることが理解されなければならない。実際、分子生物学または関連分野の当業者に明らかである、本発明を実行するための記載する様式の多様な修飾は、請求の範囲内であるように意図される。さらに、本発明の範囲から逸脱することなく、独立クレームの特徴を持つ、以下の従属クレームの特徴の多様な組み合わせを行うことも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroで多能性または多分化能細胞を培養する方法であって:
(i)多能性または多分化能細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、そして
(ii)ROCK阻害剤の存在下で、懸濁培養中、マイクロキャリアー−細胞複合体を培養する
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
ROCK阻害剤が:Y−27632、HA−1077(ファスジル)、HA−1100(ヒドロキシファスジル)、H−1152、3−(4−ピリジル)−1H−インドール、N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素、アウロチオグルコース、LY294002あるいはその塩、塩基、エステルまたはプロドラッグより選択される、請求項1の方法。
【請求項3】
方法が(ii)由来の培養細胞を継代する工程をさらに含み、継代後の細胞が多能性または多分化能である、請求項1または2の方法。
【請求項4】
方法がさらに:
(iii)(ii)由来の培養細胞を継代し;そして
(iv)少なくとも2回の継代に渡って、工程(i)〜(iii)を反復する
工程を含み、
工程(iv)後の培養中の細胞が多能性または多分化能である、請求項1または2の方法。
【請求項5】
マイクロキャリアーがマトリックスコーティングを持たない、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
マイクロキャリアー表面が、マトリックスでコーティングされている、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
マトリックスが細胞外マトリックス構成要素を含む、請求項6の方法。
【請求項8】
マトリックスが、MatrigelTM(BD Biosciences)、ヒアルロン酸、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、エラスチン、ヘパラン硫酸、デキストラン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸の1またはそれより多くを含む、請求項6の方法。
【請求項9】
マトリックスが、ラミニン、コラーゲンI、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、およびエンタクチン1の混合物を含む、請求項6の方法。
【請求項10】
細胞が幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項の方法。
【請求項11】
細胞が胚性幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項の方法。
【請求項12】
細胞が人工多能性幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項の方法。
【請求項13】
細胞が成体幹細胞である、請求項1〜9のいずれか一項の方法。
【請求項14】
細胞が哺乳動物、霊長類またはヒトのものである、請求項1〜13のいずれか一項の方法。
【請求項15】
工程(iv)において、工程(i)〜(iii)を:少なくとも3回の継代、少なくとも4回の継代、少なくとも5回の継代、少なくとも6回の継代、少なくとも7回の継代、少なくとも8回の継代、少なくとも9回の継代、少なくとも10回の継代、少なくとも11回の継代、少なくとも12回の継代、少なくとも13回の継代、少なくとも14回の継代、少なくとも15回の継代、少なくとも16回の継代、少なくとも17回の継代、少なくとも18回の継代、少なくとも19回の継代、少なくとも20回の継代、少なくとも21回の継代、少なくとも22回の継代、少なくとも23回の継代、少なくとも24回の継代、少なくとも25回の継代、少なくとも30回の継代、少なくとも40回の継代、少なくとも50回の継代、少なくとも60回の継代、少なくとも70回の継代、少なくとも80回の継代、少なくとも90回の継代、少なくとも100回の継代、の1つに渡って反復する、請求項4〜14のいずれか一項の方法。
【請求項16】
マイクロキャリアーが、セルロース、デキストラン、ヒドロキシル化メタクリレート、コラーゲン、ゼラチン、ポリスチレン、プラスチック、ガラス、セラミック、シリコーンの1またはそれより多くを含むかまたはこれらからなる、請求項1〜15のいずれか一項の方法。
【請求項17】
マイクロキャリアーがマクロ多孔性またはミクロ多孔性カルボシード(carboseed)マイクロキャリアーである、請求項1〜15のいずれか一項の方法。
【請求項18】
マイクロキャリアーをプロタミンまたはポリリジンとカップリングさせる、請求項1〜17のいずれか一項の方法。
【請求項19】
マイクロキャリアーが正に荷電している、請求項1〜18のいずれか一項の方法。
【請求項20】
マイクロキャリアーが正の表面電荷を有する、請求項1〜19のいずれか一項の方法。
【請求項21】
マイクロキャリアーが親水性である、請求項1〜20のいずれか一項の方法。
【請求項22】
マイクロキャリアーが棒の形状である、請求項1〜21のいずれか一項の方法。
【請求項23】
マイクロキャリアーが実質的に球形である、請求項1〜21のいずれか一項の方法。
【請求項24】
工程(ii)において、培養中の細胞数が拡大するために十分な期間、細胞を培養する、請求項1〜24のいずれか一項の方法。
【請求項25】
工程(iv)後、培養中の細胞の少なくとも60%が多能性または多分化能である、請求項4〜24のいずれか一項の方法。
【請求項26】
工程(iv)後、培養中の細胞の少なくとも60%が、Oct4、SSEA4、TRA−1−60およびMab84の1つ、2つ、3つまたはすべてを発現する、請求項4〜25のいずれか一項の方法。
【請求項27】
血清不含培地、または幹細胞馴化培地、またはフィーダー細胞不含条件中で細胞を培養する工程を含む、請求項1〜26のいずれか一項の方法。
【請求項28】
フィーダー細胞もまた、マイクロキャリアーに付着している、請求項1〜27のいずれか一項の方法。
【請求項29】
培養が、多能性または多分化能細胞が付着しているマイクロキャリアーとは異なるマイクロキャリアーに付着しているフィーダー細胞をさらに含む、請求項1〜27のいずれか一項の方法。
【請求項30】
培養から得られる多能性または多分化能細胞の分化を誘導する工程をさらに含む、請求項1〜29のいずれか一項の方法。
【請求項31】
マイクロキャリアー−細胞複合体を、細胞分化を誘導する条件下に置く工程を含む、請求項30の方法。
【請求項32】
培養法から得られた多能性または多分化能細胞をマイクロキャリアーから分離し、そして分離した細胞を、細胞分化を誘導する条件下、非マイクロキャリアー培養中で培養する工程を含む、請求項1〜30のいずれか一項の方法。
【請求項33】
培養法から得られた多能性または多分化能細胞のin vitro分化をさらに含み:
(a)培養法から得られた多能性または多分化能細胞を複数の第二のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、
(b)(a)由来のマイクロキャリアー−細胞複合体を、細胞分化を誘導する条件下、懸濁培養中で培養する
工程を含む、請求項1〜29のいずれか一項の方法。
【請求項34】
さらに:
(c)工程(b)から得られた分化した細胞を複数の第三のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し;そして
(b)(c)由来のマイクロキャリアー−細胞複合体を、すでに分化している細胞のさらなる分化を誘導する条件下、懸濁培養中で培養する
工程を含む、請求項33の方法。
【請求項35】
分化のための培養条件が、ROCK阻害剤の存在下で、細胞を培養する工程を含む、請求項30〜34のいずれか一項の方法。
【請求項36】
分化のための培養条件が、ROCK阻害剤の非存在下で、細胞を培養する工程を含む、請求項30〜34のいずれか一項の方法。
【請求項37】
請求項1〜29のいずれか一項の方法によって得られる多能性または多分化能細胞(単数または複数)。
【請求項38】
請求項30〜36のいずれか一項の方法によって得られる分化した細胞(単数または複数)。
【請求項39】
分化した細胞を培養して胚様体を形成する、請求項30〜36のいずれか一項の方法。
【請求項40】
請求項39の方法によって得られる胚様体。
【請求項41】
in vitroで多能性または多分化能細胞を分化させる方法であって、多能性または多分化能細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させて、マイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、ここでマイクロキャリアー表面はコーティングされていないか、またはマトリックスコーティングされ、そしてROCK阻害剤の存在下、および細胞分化を誘導する条件下、懸濁培養中でマイクロキャリアー−細胞複合体を培養する工程を含む、前記方法。
【請求項42】
細胞を複数のマイクロキャリアーに付着させ、それによってマイクロキャリアー−細胞複合体を形成し、そして懸濁培地がROCK阻害剤を含有する、多能性または多分化能細胞の懸濁培養物。
【請求項43】
ROCK阻害剤が少なくとも1μMの濃度で培地中に存在する、請求項42の懸濁培養。
【請求項44】
ROCK阻害剤が少なくとも10μMの濃度で培地中に存在する、請求項42の懸濁培養。
【請求項45】
ROCK阻害剤が: Y−27632、HA−1077(ファスジル)、HA−1100(ヒドロキシファスジル)、H−1152、3−(4−ピリジル)−1H−インドール、N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素、アウロチオグルコース、LY294002あるいはその塩、塩基、エステルまたはプロドラッグより選択される、請求項42〜44のいずれか一項の懸濁培養。
【請求項46】
細胞がマイクロキャリアー−細胞複合体の形である、多能性または多分化能細胞のin vitro懸濁培養中のROCK阻害剤の使用。
【請求項47】
細胞がマイクロキャリアー−細胞複合体の形である、in vitroで懸濁培養中、多能性または多分化能細胞の分化におけるROCK阻害剤の使用。
【請求項48】
ROCK阻害剤が: Y−27632、HA−1077(ファスジル)、HA−1100(ヒドロキシファスジル)、H−1152、3−(4−ピリジル)−1H−インドール、N−(4−ピリジル)−N’−(2,4,6−トリクロロフェニル)尿素、アウロチオグルコース、LY294002あるいはその塩、塩基、エステルまたはプロドラッグより選択される、請求項46または請求項47の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図21C】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公表番号】特表2012−520672(P2012−520672A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500748(P2012−500748)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【国際出願番号】PCT/SG2010/000091
【国際公開番号】WO2010/107392
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】