説明

マイクロストリップアンテナ及び該アンテナを使用したアレーアンテナ

【課題】基板の振動によっても放射アンテナ素子と給電ストリップ線路との電気的接続が失われ難いマイクロストリップアレーアンテナを提供する。
【解決手段】裏面に導体の接地層が形成された誘電体基板の表側の面に形成されるマイクロストリップアレーアンテナ60であり、入力端65と終端66とを備えた直線状の給電ストリップ線路63と、給電ストリップ線路63の軸線Xに対して、終端方向から45度の角度で傾斜した方向の軸線を有する矩形状の放射アンテナ素子44a、44b、44d、44eとを備えて構成される。放射アンテナ素子44b、44d、44eは、その4つの頂点P、Q、R、Sのうちの対向する2つの頂点Q、Sが、給電ストリップ線路63の両側に位置するように給電ストリップ線路63に重ね合わされて接続されているマイクロストリップアレーアンテナ60である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロストリップアンテナ及び該アンテナを使用したアレーアンテナに関し、特に、給電回路とアンテナ部との接続部の接続構成が簡素であり、レーダ装置からの電波の送信及び受信用のアンテナに用いることができるマイクロストリップアンテナ及び該アンテナを使用したアレーアンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の走行安全性を向上させる技術として、衝突防止や自動追尾に用いられるレーダ装置が知られている。車載のレーダ装置では、レーダ装置を搭載した車両(以下自車という)の前方或いは後方に電波を送信し、自車の前後に位置する目標物(物標)で反射された電波を受信することによって自車と物標との距離や角度を推定している。このようなレーダ装置におけるアンテナの初期のものには導波管スロットアンテナが使用されていたが、近年では電波の送受信にコムライン型のマイクロストリップアンテナが使用される。
【0003】
図1(a)、(b)は特許文献1に記載された第1の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ10の構成を示すものである。マイクロストリップアレーアンテナ10は誘電体基板12の一方の面の上に、直線状に延びた給電ストリップ線路13と、この給電ストリップ線路13から延伸された放射アンテナ素子14a〜14jとを備えて構成される。誘電体基板12の他方の面には接地導体層11が形成されている。給電ストリップ線路13には、電力が入力される入力端15と残留電力が到達する終端16があり、給電ストリップ線路13の両側辺から延伸された放射アンテナ素子14a〜14jは短冊状をしている。
【0004】
放射アンテナ素子14a〜14eは、給電ストリップ線路13の一方の側辺から終端16に向かって、給電ストリップ線路13の軸線から略45度の向きに傾斜した状態で延伸されて設けられている。また、放射アンテナ素子14f〜14jは、給電ストリップ線路13の他方の側辺から入力端15に向かって、給電ストリップ線路13の軸線から略45度の向き(終端16に向かっては略135度の向き)に傾斜した状態で延伸されて設けられている。
【0005】
これは、マイクロストリップアレーアンテナ10を車載レーダのアンテナに使用した場合、自車に対して前方より走行してくる車載レーダを備えた車両からの放射電波と、自車からの放射電波の干渉を避けるためである。即ち、車載レーダから放射する電波として、地面に対して斜め45度方向の直線偏波を使用すれば、同様に斜め45度方向の直線偏波を使用する対向車からの放射電波と電波同士が交差し、干渉が低減されるからである。
【0006】
一方、給電ストリップ線路13に接続する放射アンテナ素子14a〜14eの間隔dは、放射電波の動作周波数における給電ストリップ線路13の管内波長λgになっており、給電ストリップ線路13の一方の側辺からの突出方向の長さLはd/2となっている。また、放射アンテナ素子14f〜14jの間隔もdであるが、放射アンテナ素子14f〜14jは、放射アンテナ素子14a〜14eとはd/2だけずらして配置されている。更に、終端16には、残留電力を吸収するための整合終端素子が設けられることもある。
【0007】
以上のように構成された特許文献1に記載のマイクロストリップアレーアンテナ10では、入力端15から入力された電力は、入力端15に近い放射アンテナ素子14a、14f、14b…の順に、その一部が順次放射され、放射されなかった電力は終端16に向かって伝搬して徐々に減衰する。また、インピーダンスの不整合により、入力された電力の一部が放射アンテナ素子で反射されて入力端15に戻る。特許文献1に記載された第1の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ10では、放射アンテナ素子の延伸方向の横幅を大きくすると、入力端15への電力の反射量が大きくなる問題点があった。
【0008】
図1(c)は、特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20の構成を部分的に示すものである。マイクロストリップアレーアンテナ20も、誘電体基板22の一方の面の上に、直線状に延びた給電ストリップ線路23と、この給電ストリップ線路23に接続する放射アンテナ素子24a〜24j(図には放射アンテナ素子24a、24b、24fのみを示してある)とを備えて構成される。誘電体基板22の他方の面には接地導体層21が形成されている点も同様である。
【0009】
特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20が、同第1の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ10と異なる点は、放射アンテナ素子24a、24b、24fの給電ストリップ線路23への接続形状である。特許文献1に記載された第1の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ10では、短冊状の放射アンテナ素子の側辺がそのまま延伸された状態で給電ストリップ線路13に接続されていた。一方、特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20では、放射アンテナ素子24a、24b、24fは矩形状をしており、給電ストリップ線路23からの延伸方向と、給電ストリップ線路23への配置間隔は特許文献1に記載された第1の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ10と同じであるが、放射アンテナ素子24a、24b、24fの給電ストリップ線路23への接続形状が異なる。
【0010】
即ち、特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20では、放射アンテナ素子24a、24b、24fにある4つの頂角のうちの1つの頂角部分だけが、給電ストリップ線路23に接続している。4つの頂角のうちの1つの頂角部分の給電ストリップ線路23への接続部分の長さは、放射アンテナ素子24a、24b、24fの横幅Wの半分以下の幅となっている。特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20では、放射アンテナ素子の突出方向の横幅を大きくしても、入力端15への電力の反射量が大きくならず、反射特性が殆ど悪化しない利点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3306592号公報(図2、図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20では、放射アンテナ素子24a、24b、24fにある4つの頂角のうちの1つの頂角部分が短い長さで給電ストリップ線路23に接続しているので、給電ストリップ線路23の作成が困難であった。また、特許文献1に記載された第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナ20は、レーダ装置のアンテナとして、例えば車両に搭載されることがある。すると、車両の走行によって誘電体基板22が振動することにより、放射アンテナ素子24a、24b、24fと給電ストリップ線路23との短い接続部には、疲労によって亀裂が生じる虞がある。そして、この亀裂が成長すると、放射アンテナ素子24a、24b、24fと給電ストリップ線路23との間の電気的接続が失われる虞があるという問題点があった。
【0013】
本発明は、特許文献1に記載の第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナにおける問題点を解消し、放射アンテナ素子の形状を矩形状に保ったまま、放射アンテナ素子と給電ストリップ線路との接続部分の長さが長くて給電ストリップ線路の作成が容易であり、また、基板の振動によっても放射アンテナ素子と給電ストリップ線路との電気的接続が失われる虞の少ないマイクロストリップアンテナ及び該アンテナを使用したアレーアンテナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成する本発明のマイクロストリップアンテナは、誘電体基板に形成されるマイクロストリップアンテナであって、入力端と終端とを備えた直線状の給電ストリップ線路と、給電ストリップ線路の軸線に対して、終端方向から所定の角度で傾斜した方向の軸線を有する矩形状の放射アンテナ素子とを備え、放射アンテナ素子は、該素子にある4つの頂点のうちの対向する2つの頂点が、給電ストリップ線路の両側に位置するように給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されていることを特徴としている。
【0015】
前記目的を達成する本発明のマイクロストリップアンテナを使用したマイクロストリップアレーアンテナは、複数種類のマイクロストリップアンテナのうち、何れか1種類、或いは少なくとも2種類のマイクロストリップアンテナを複数個組み合わせ、また、場合によっては放射アンテナ素子の4つの頂点のうちの1つの頂点が、給電ストリップ線路の線路幅内に位置するように給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されたマイクロストリップアンテナも組み合わせ、その給電ストリップ線路が軸線方向に連結されて形成されたマイクロストリップアレーアンテナであって、連結された給電ストリップ線路に接続されている複数個の放射アンテナ素子の間隔が、全て同じ所定間隔になっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマイクロストリップアンテナによれば、矩形状の複数の放射アンテナ素子が、その4つの頂点のうちの対向する2つの頂点が、給電ストリップ線路の両側に位置するように給電ストリップ線路に接続されているので、給電ストリップ線路に放射アンテナ素子が接続された状態のマイクロストリップアンテナの作成が容易となる。
【0017】
また、本発明のマイクロストリップアンテナを使用したマイクロストリップアレーアンテナによれば、高い結合度を実現することができるので、電力分配比を調整でき、低サイドローブ設計ができるという効果がある。サイドローブを低減すると、例えばレーダ装置を車両に搭載した場合に、レーダ装置正面の物標とは異なる道路脇の標識、陸橋などを誤検出する虞が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は特許文献1に記載の第1の実施例のマイクロストリップアレーアンテナの平面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は特許文献1に記載の第2の実施例のマイクロストリップアレーアンテナの部分斜視図である。
【図2】(a)は従来のコムラインマイクロストリップアンテナの一例の構成を示す図、(b)はマイクロストリップアンテナの入射電力と放射電力と結合度の関係を説明する説明図、(c)は(a)に示したコムラインマイクロストリップアンテナの各素子に供給される電力と結合度を示す図、(d)は(a)に示した構造のコムラインマイクロストリップアンテナの素子幅を変えた時の結合度の変化を示す図である。
【図3】(a)は矩形状のマイクロストリップアンテナの1つの放射アンテナ素子の1つの頂点が、給電ストリップラインの中心線の位置に配置された従来の構成を示す部分平面図、(b)〜(g)は本発明のマイクロストリップアンテナの実施例を示すものであり、マイクロストリップアンテナの1つの放射アンテナ素子にある2つの対向する頂点をそれぞれ給電ストリップラインの両側に配置した構成を示す部分平面図、(h)は(a)に示した給電ストリップラインの中心線の位置に配置された放射アンテナ素子の頂点に対向する頂点が、給電ストリップラインの中心線の位置に配置された従来の構成を示す部分平面図である。
【図4】(a)は本発明のマイクロストリップアンテナの1つの実施例を示すものであり、給電ストリップラインの両側にそれぞれ位置させる放射アンテナ素子の頂点の一方を、給電ストリップラインの軸線から給電ストリップラインの幅と同程度離間させた構成を示す平面図、(b)は(a)に示すように給電ストリップラインに接続された放射アンテナ素子の、延伸方向の長さを変化させた時の反射率と透過率の変化を示す特性図、(c)は(b)に示した放射アンテナ素子の延伸方向の長さを変化させた時の結合度の変化を示す特性図である。
【図5】(a)は本発明のマイクロストリップアンテナの別の実施例を示すものであり、給電ストリップラインの両側にそれぞれ位置させる放射アンテナ素子の頂点の一方を、給電ストリップラインの軸線から給電ストリップラインの幅の2倍程度離間させ、他の対向する2つの頂点が給電ストリップラインの幅の中に位置させた構成を示す平面図、(b)は(a)のように給電ストリップラインに配置された放射アンテナ素子の、延伸方向の長さを変化させた時の反射率と透過率の変化を示す特性図、(c)は(b)に示した放射アンテナ素子の延伸方向の長さを変化させた時の結合度の変化を示す特性図である。
【図6】(a)は本発明のマイクロストリップアンテナの更に別の実施例を示すものであり、給電ストリップラインの両側にそれぞれ位置させる放射アンテナ素子の頂点の一方を、給電ストリップラインの軸線から給電ストリップラインの幅の2倍より大きく離間させ、他の対向する2つの頂点が給電ストリップラインの幅の中に位置させた構成を示す平面図、(b)は(a)に示すように給電ストリップラインに配置された放射アンテナ素子の、延伸方向の長さを変化させた時の反射率と透過率の変化を示す特性図、(c)は(b)に示した放射アンテナ素子の延伸方向の長さを変化させた時の結合度の変化を示す特性図である。
【図7】(a)は、図5(a)に示したマイクロストリップアンテナを給電ストリップ線路の上に所定間隔を隔てて配置して構成した本発明のマイクロストリップアレーアンテナの構成を示す平面図、(b)は(a)に示した本発明のマイクロストリップアレーアンテナの終端に終端素子を取り付けた構成を示す平面図である。
【図8】(a)は従来のマイクロストリップアンテナにおける放射アンテナ素子と、図4(a)、図5(a)及び図6(a)に示した本発明のマイクロストリップアンテナにおける放射アンテナ素子を組み合わせて構成した本発明のマイクロストリップアレーアンテナの構成を示す平面図、(b)は(a)における各放射アンテナ素子の位置、電力量、結合度、給電ストリップ線路の軸線に対する1つの頂点の離間距離(挿入量)を示す図、(c)は(a)に示すように構成されたマイクロストリップアレーアンテナから出力される電波のメインローブとサイドローブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を用いて本発明の実施の形態を、具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。なお、本発明のマイクロストリップアンテナの構成を説明する前に、本発明に関連する従来のコムラインマイクロストリップアンテナ30の構成を、図2(a)〜(d)を用いて説明する。コムラインマイクロストリップアンテナとは、マイクロストリップアンテナ(放射アンテナ素子)が給電ストリップ線路の一方の側面上に所定間隔で櫛歯状に接続されたものである。なお、以後、放射アンテナ素子は簡略して放射素子と記す。
【0020】
図2(a)は従来のコムラインマイクロストリップアンテナ30の構成を示すものである。コムラインマイクロストリップアンテナ30には、入力端35と終端36を備えた給電ストリップ線路33、給電ストリップ線路33の一方の側辺に所定間隔で接続された7つの放射素子34a〜34g(放射素子34d、34eの図示は省略)及び整合終端素子(以後単に終端素子という)37がある。各素子位置1〜8は♯1〜♯8で示してある。入力端35に電力が供給されると、供給された電力は給電ストリップ回路33を通じて各放射素子34a〜34gに伝わって放射され、放射素子34gで放射されなかった残留電力は終端素子37で放射される。
【0021】
図2(b)は図2(a)の1つの放射素子34fとこれが接続する給電ストリップ線路33の部分を拡大して示すものである。矢印Pinは放射素子34fに入力する入射電力を示すものであり、矢印Poutは放射素子34fから放射される電力を示している。また、入射電力Pinのうち、放射素子34fから放射されなかった電力(Pin−Pout)は通過電力である。通過電力(Pin−Pout)の一部は次の段の放射素子34gから放射され、残りは終端素子37で放射される。このとき、放射電力Poutを入射電力Pinで除算した値が結合度Kと呼ばれる。結合度Kは放射素子の長さLが同じ場合、放射素子の幅Wが大きい程大きい。
【0022】
サイドローブ比の小さいアレイアンテナを実現するためには、各放射素子から放射する電力量を調整する必要がある。図2(a)に示した従来のコムラインマイクロストリップアンテナ30では、各放射素子34a〜34gは1λgの間隔で給電ストリップ線路33に接続されている。そして、各放射素子34a〜34gに供給する電力分配比を、所望のビームパターンを実現するために必要な各放射素子から放射する電力分配比に近づけるために、放射素子の幅Wが終端36に近づくほど大きく形成されている。
【0023】
図2(b)に示す形状の放射素子34fにおいて、放射素子の幅Wを増やして行くと、図2(d)に示すように結合度Kは次第に増大するが、最大幅1mmでも結合度Kの値は0.3以下である。一方、ビームパターンをテーラー20dB分布にするのに必要な電力の量は、コムラインマイクロストリップアンテナの給電ストリップ線路に8つの放射素子を接続した場合、例えば図2(c)に示されるようになる。図2(c)に示されるように、第4番目の素子位置♯4〜第8番目の素子位置♯8に必要な電力比に対応する結合度Kは0.3を超える。なお、ビームパターンをテーラー20dB分布にすると、図8(c)に示すように、サイドローブをメインローブより20dB程度低減することができる。
【0024】
ところが、従来例のコムラインマイクロストリップアンテナ30の構成では、放射素子の幅Wを変化させて得られる結合度Kが、図2(d)に示されるように0.3以下と小さい。このため、各放射素子で必要な結合度Kが高くなってしまい、適切な電力分配比が実現できず、また、終端素子37から放射される電力量が大きくなってビームが形成できないという問題があった。
【0025】
そこで、本発明は、従来のコムラインマイクロストリップアンテナ30の放射素子の給電ストリップ線路に対する接続を改良し、テーラー20dB分布のビームパターンを実現することができるマイクロストリップアンテナ、及びこのマイクロストリップアンテナを使用したマイクロストリップアレーアンテナを提供するものである。
【0026】
図3(b)〜(g)は、本発明のマイクロストリップアンテナ40B〜40Gの実施例を示すものであり、図3(a)、(h)に示す従来例のマイクロストリップアンテナ40A,40Hと構成を比較して示すものである。ここで、マイクロストリップアンテナの放射素子44a〜44hは矩形状であり、4つの頂点P、Q、R,Sを備えるものとする。また、放射素子44a〜44hは、その長手方向の中心線Yが給電ストリップ線路43の軸線Xに対して左側に角度θ傾斜しているものとする。マイクロストリップアンテナが車載レーダ装置のアンテナとして使用される場合は、一般的にはθは45度である。
【0027】
なお、ここでいう45度とは、厳密な45度であることを要するものではなく、略45度であれば良い。また、45度は前述したように対向車からの放射電波との干渉を避ける効果が最も高い角度であるが、必ずしも45度である必要はなく許容できる干渉の程度に応じて定まる角度であればよい。そして、給電ストリップ線路43は上側が終端側、下側が入力端側であり、4つの頂点P、Q、R,Sは、頂点Pが給電ストリップ線路43の終端に最も近い位置にあって、左回りに頂点Q、R,Sとなっている。
【0028】
図3(a)は従来の構成のマイクロストリップアンテナ40Aを示すものである。従来のマイクロストリップアンテナ40Aでは、放射素子44aの頂点Sが給電ストリップ線路43の軸線Xの上に位置するように、放射素子44aが給電ストリップ線路43に接続されていた。図3(h)も従来の構成のマイクロストリップアンテナ40Hを示すものである。従来のマイクロストリップアンテナ40Hでは、放射素子44hの頂点Qが給電ストリップ線路43の軸線Xの上に位置するように、放射素子44hが給電ストリップ線路43に接続されていた。マイクロストリップアンテナ40Hは、マイクロストリップアンテナ40Aの頂点Sを給電ストリップ線路43の軸線Xに対して垂直方向に、頂点Qが軸線Xの上に位置するまで移動させた形態である。
【0029】
図3(b)〜図3(g)は、本発明のマイクロストリップアンテナ40B〜40Gの構成を示すものである。本発明の特徴は、マイクロストリップアンテナ40B〜40Gの放射素子44b〜44gにある対向する2つの頂点Q,Sが、それぞれ給電ストリップライン43の両側に配置されている点である。即ち、本発明のマイクロストリップアンテナ40B〜40Gは、図3(a)に示したマイクロストリップアンテナ40Aの頂点Sを、給電ストリップライン43の軸線Xに垂直な方向に移動させ、給電ストリップライン43の右側に位置するようにすると共に、この頂点Sの移動によって頂点Qが給電ストリップライン43の左側に必ず位置するように構成した形態である。頂点Sと頂点Qの何れか一方が、給電ストリップライン43の幅内に位置する構成は本発明に含まれない。
【0030】
ここで、図3(a)に示したマイクロストリップアンテナ40Aの頂点Sが、給電ストリップライン43の軸線Xの上に位置する状態を、放射素子の挿入量が0であると表現する。また、頂点Sの給電ストリップライン43の軸線Xからの距離を放射素子の挿入量として表す。例えば、給電ストリップ線路43の線幅を0.3mmとすると、図3(b)に示す状態は、頂点Sを給電ストリップライン43の軸線Xから距離0.15mmを越えて移動させた状態を示す。図3(c)に示す状態は、頂点Rが給電ストリップライン43の左側の側辺に重なる位置まで頂点Sを移動させた状態を示し、図3(d)に示す状態は、頂点Pが給電ストリップライン43の左側の側辺に重なる位置まで頂点Sを移動させた状態を示している。図3(b)〜(d)に示す実施例は、放射素子の給電ストリップライン43からの延伸長さが、給電ストリップライン43の左側で長い形態である。
【0031】
図3(e)に示す状態は、頂点Rが給電ストリップライン43の右側の側辺に重なる位置まで頂点Sを移動させた状態を示し、図3(f)に示す状態は、頂点Pが給電ストリップライン43の右側の側辺に重なる位置まで頂点Sを移動させた状態を示している。更に、図3(g)に示す状態は、頂点Qが給電ストリップライン43の軸線Xから距離0.15mmを越えて離れている状態を示す。図3(e)〜(g)に示す実施例は、放射素子の給電ストリップライン43からの延伸長さが、給電ストリップライン43の右側で長い形態である。放射素子の延伸方向は、給電ストリップライン43の終端側の軸線Xから左側に135度回転した方向である。
【0032】
次に、図3(b)に示した実施例のマイクロストリップアンテナ40Bにおいて、頂点Sの給電ストリップライン43の軸線Xからの距離が0.3mmの場合、即ち、頂点Sの挿入量が0.3mmの場合を図4(a)に示す。図4(b)にはマイクロストリップアンテナ40Bの電力の反射率S11と透過率S21を示し、図4(c)には結合度Kを示す。反射率S11は、給電ストリップ線路43から放射素子44bに向かう電力が、放射素子44bで反射されて入力端側に戻る割合であり、この実施例では、放射素子44bの中心線Y方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくしても殆ど変化がない。また、透過率S21は、給電ストリップ線路43から放射素子44bに向かう電力と、放射素子44bを通過して次の段の放射素子に向かう電力の割合であり、この実施例では放射素子44bの長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくすると、最初は減少するがその後徐々に増大している。更に、この実施例のマイクロストリップアンテナ40Bでは、結合度Kのピーク値が0.4より大きい。
【0033】
同様に、図3(d)に示したマイクロストリップアンテナ40Dにおいて、頂点Sの給電ストリップライン43の軸線Xからの距離が0.7mmの場合、即ち、頂点Sの挿入量が0.7mmの場合を図5(a)に示す。また、電力の反射率S11、透過率S21及び結合度Kを図5(b)、(c)に示す。反射率S11は、この実施例では、放射素子44bの延伸方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくすると、反射率S11は最初は減少するがその後徐々に増大している。また、透過率S21は、この実施例では放射素子44bの延伸方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくすると徐々に減少する。なお、この実施例における結合度Kのピーク値は0.6より大きい。
【0034】
更に、図3(e)に示したマイクロストリップアンテナ40Eにおいて、頂点Sの給電ストリップライン43の軸線Xからの距離が0.8mmの場合、即ち、頂点Sの挿入量が0.8mmの場合を図6(a)に示す。また、電力の反射率S11、透過率S21及び結合度を図6(b)、(c)に示す。反射率S11は、この実施例では、放射素子44eの延伸方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくし、その長さが1.18を越えると減少し、透過率S21は放射素子44eの延伸方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくなるように変えても変わらない。また、結合度Kは、放射素子44eの延伸方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくしても、その値が1.18を越えるまで小さく、Lが1.18を越えてから0.4程度まで増大する。
【0035】
このように、給電ストリップ線路43の線幅が0.3mmの時に、放射素子の挿入量が0.7mmとしたマイクロストリップアンテナ40Dを構成すれば、結合度Kの大きなマイクロストリップアンテナが可能になる。図7(a)は、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)基板(フッ素樹脂基板)を使用し、図5(a)に示したマイクロストリップアンテナ40Eを給電ストリップ線路43の上に所定間隔(例えば1λg=1.23mm)を隔てて配置して構成したマイクロストリップアレーアンテナ50の構成を示すものである。ここではPTFE基板の図示は省略し、PTFE基板の上のマイクロストリップアレーアンテナ50のパターンのみを示してある。この場合、図7(b)に示すように、給電ストリップ線路43の終端47に終端素子47を配置したマイクロストリップアレーアンテナ50Aも可能である。
【0036】
更に、本発明の図4、図5及び図6に示したマイクロストリップアンテナ40B、40D、40Eと、従来のマイクロストリップアンテナ(放射素子の挿入量が0のアンテナ)を組み合わせてテーラー20dB分布を実現した電波を放射することができるマイクロストリップアレーアンテナ60を構成することができ、この実施例を図8(a)に示す。ここでもPTFE基板の図示は省略し、PTFE基板の上のマイクロストリップアレーアンテナ60のパターンのみを示してある。図8(a)に示したマイクロストリップアレーアンテナ60は、各素子位置♯1〜♯8に配置した各放射素子への電力、結合度K、挿入量、及び放射素子の延伸方向の長さLを頂点P、Qが給電ストリップ線路43から離れる方向に大きくして、図8(b)に示すような数値にすることによって構成したものである。
【0037】
各放射素子の結合度Kを図8(b)に示した数値にするために、放射素子の挿入量をそれぞれ変化させて、反射率が最も低くなる時の結合度Kを測定して求める。そして、結合度Kが図8(b)に示した数値になるように、挿入量と延伸方向の長さLを備えた放射素子を、該当する素子位置に設置することにより、図8(a)に示したマイクロストリップアレーアンテナ60を構成することができる。
【0038】
図8(a)に示したマイクロストリップアレーアンテナ60では、第1番目の素子位置♯1から第3番目の素子位置♯3と終端素子である第8番目の素子位置♯8に従来構成の放射素子44aを使用している。従来構成の放射素子の長さLは、管内波長λgの半数により構成することができる。また、第4番目の素子位置♯4には図4に示した放射素子44bを使用しており、第5番目の素子位置♯5と第7番目の素子位置♯7には図5に示した放射素子44dを使用しており、第6番目の素子位置♯6には図6に示した放射素子44eを使用している。
【0039】
そして、図8(a)のように構成したマイクロストリップアレーアンテナ60によれば、図8(c)に示されるような、電波のメインローブとサイドローブの差が20dBとなる、テーラー20dB分布を実現した電波を放射することができる。図8(c)では、メインローブの中心がレーダ装置の位置であり、横軸の角度はレーダ装置からの左右の角度を示す。
【0040】
以上説明したように、本発明のように矩形状の放射素子の対向する2つの頂点を、給電ストリップ線路の両側に位置するように、放射素子を給電ストリップ線路に接続することにより、マイクロストリップアンテナの横幅が小さくなり、アンテナの小型化が実現できる。また、本発明のマイクロストリップアンテナを組み合わせて給電ストリップ線路に所定間隔で配置することにより、ビーム幅が広いアンテナを実現することができ、更には、高い結合度を実現することができるため、電力分配比を調整でき、低サイドローブ設計が可能となる。
【0041】
また、マイクロストリップアレーアンテナとしては、図7や図8に示すように、給電ストリップ線路が1本の場合のものを説明したが、給電ストリップ線路を並列に複数本並べて入力端を接続したマイクロストリップアレーアンテナや、1本の給電ストリップ線路の入力端に180度回転させた給電ストリップ線路の入力端を接続したマイクロストリップアレーアンテナ及び両者を組み合わせたマイクロストリップアレーアンテナを構成することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10、20、30、40A、40H 従来のマイクロストリップアンテナ
11 接地導体層
12 誘電体基板
13、23、33、43 給電ストリップ回路
14a〜14j、24a、24b、24f、34a〜34c、34f、34g、44a〜44h 放射アンテナ素子
15、35、55、65 入力端
16、36、56,66 終端
37、47 終端素子
40B〜40G 本発明のマイクロストリップアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板に形成されるマイクロストリップアンテナであって、
入力端と終端とを備えた直線状の給電ストリップ線路と、
前記給電ストリップ線路の軸線に対して、前記終端方向から所定の角度で傾斜した方向の中心線を有する、矩形状の放射アンテナ素子とを備え、
前記放射アンテナ素子は、該素子にある4つの頂点のうちの対向する2つの頂点が、前記給電ストリップ線路の両側に位置するように前記給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されていることを特徴とするマイクロストリップアンテナ。
【請求項2】
前記放射アンテナ素子の4つの頂点のうちの対向する残りの2つの頂点の両方が、前記給電ストリップ線路の一方の側辺の外側に位置するように、前記放射アンテナ素子が前記給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項3】
前記放射アンテナ素子の4つの頂点のうちの対向する残りの2つの頂点のうちの一方が、前記給電ストリップ線路に重なるように、前記放射アンテナ素子が前記給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項4】
前記放射アンテナ素子の4つの頂点のうちの対向する残りの2つの頂点の両方が、前記給電ストリップ線路に重なるように、前記放射アンテナ素子が前記給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されていることを特徴とする請求項1に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項5】
前記矩形状の放射アンテナ素子は、前記給電ストリップ線路に対して所望の結合度を得るために、前記中心線方向の長さが変更されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載のマイクロストリップアンテナ。
【請求項6】
請求項2から4の何れか1項に記載のマイクロストリップアンテナのうち、何れか1種類のマイクロストリップアンテナが複数個、その給電ストリップ線路を前記軸線方向に連結して形成されたマイクロストリップアレーアンテナであって、
連結された前記給電ストリップ線路に接続されている複数の前記放射アンテナ素子の間隔は、全て同じ所定間隔になっていることを特徴とするマイクロストリップアレーアンテナ。
【請求項7】
請求項2から4の何れか1項に記載のマイクロストリップアンテナのうち、少なくとも2種類のマイクロストリップアンテナを複数個組み合わせ、その給電ストリップ線路を前記軸線方向に連結して形成されたマイクロストリップアレーアンテナであって、
連結された前記給電ストリップ線路に接続されている複数種類の前記放射アンテナ素子の間隔は、全て同じ所定間隔になっていることを特徴とするマイクロストリップアレーアンテナ。
【請求項8】
請求項2から4の何れか1項に記載の3種類のマイクロストリップアンテナのうち、少なくとも2種類のマイクロストリップアンテナと、放射アンテナ素子の4つの頂点のうちの1つの頂点が、前記給電ストリップ線路の線路幅内に位置するように前記給電ストリップ線路に重ね合わされて接続されたマイクロストリップアンテナとを複数個組み合わせ、その給電ストリップ線路を前記軸線方向に連結して形成されたマイクロストリップアレーアンテナであって、
連結された前記給電ストリップ線路に接続されている複数種類の前記放射アンテナ素子の間隔は、全て同じ所定間隔になっていることを特徴とするマイクロストリップアレーアンテナ。
【請求項9】
前記所定間隔が前記マイクロストリップアレーアンテナが送受信する電波の1波長の長さであることを特徴とする請求項5から7の何れか1項に記載のマイクロストリップアレーアンテナ。
【請求項10】
前記給電ストリップ線路に接続された複数の前記放射アンテナ素子のうちの少なくとも1つは、放射電波のメインローブに対して所望のサイドローブを得るために、前記中心線方向の長さが変更されていることを特徴とする請求項6から9の何れか1項に記載のマイクロストリップアレーアンテナ。
【請求項11】
前記給電ストリップ線路の終端に終端素子が接続されていることを特徴とする請求項6から10の何れか1項に記載のマイクロストリップアレーアンテナ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−5218(P2013−5218A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134225(P2011−134225)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】