マイクロチップ電気泳動方法及び装置
【課題】マイクロチップを繰り返し使用したときの分析性能や分析再現性の低下を抑える。
【解決手段】マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前に、分析工程ごとに、又は複数回の分析工程の終了後に、流路を洗浄液で洗浄する。その洗浄の際、洗浄液を毛細管現象により流路内に導入させる。
【解決手段】マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前に、分析工程ごとに、又は複数回の分析工程の終了後に、流路を洗浄液で洗浄する。その洗浄の際、洗浄液を毛細管現象により流路内に導入させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップ電気泳動方法及びそのマイクロチップ電気泳動方法を実行するためのマイクロチップ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動では、分離用主流路の一端側に導入されたDNA、RNA又はタンパク質などの試料をその流路の両端間に印加した電圧によりその流路の他端方向に電気泳動させることにより分離させて検出する。
マイクロチップ電気泳動において、電気泳動流路を有するマイクロチップを繰り返し使用して、分離媒体の充填、試料分注、電気泳動及び分離された試料成分の検出を自動で行なう装置が開発されている。
【0003】
マイクロチップとして流路の端部に基板表面に開口したリザーバをもったものを使用し、マイクロチップ電気泳動装置に装着するときはリザーバが上面にくるようにマイクロチップを保持する。例えば分離媒体としても分離バッファ液を使用する場合、流路への分離媒体の充填は分離バッファ液充填・排出部により1つのリザーバに分離バッファ液を供給し、そのリザーバ上に空気供給口を押し付けて空気を供給することにより分離バッファ液を流路に押し込むことにより行なう。流路に分離バッファ液を充填した後、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズルで吸引する。その後、試料供給用のリザーバに試料を分注し、全てのリザーバに分離バッファ液を分注した後、リザーバ間に泳動用の電圧を印加する。
【0004】
分析の稼働率を上げるために、複数個のマイクロチップを固定して配置し、各マイクロチップを繰り返して使用する電気泳動分析装置も開発されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7678254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロチップを繰り返し使用する場合、前の分析が終わると泳動媒体を交換することにより前の分析の試料や泳動媒体の影響は除去されるものと考えられていた。しかし、マイクロチップを繰り返し使用していると理論段数や検出時間といった分析性能や分析再現性が低下することがあった。
【0007】
そこで本発明は、マイクロチップを繰り返し使用したときの分析性能や分析再現性の低下を抑えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マイクロチップを繰り返し使用すると、前の分析試料溶液に含まれていた成分や分離媒体に含まれていた成分がマイクロチップ流路表面に吸着し、それらの吸着成分が電気泳動装置の性能、特に理論段数や検出時間などの分析性能や分析再現性といった性能に影響を与える場合のあることがわかった。
【0009】
本発明は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、前記リザーバが上側を向き前記流路が水平方向になるように配置し、各マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返すマイクロチップ電気泳動方法において、前記マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前に、分析工程ごとに、又は複数回の分析工程の終了後に、以下の工程(1)から(3)を含む洗浄工程を実行することを特徴とするものである。
【0010】
(1)前記流路及びリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、
(2)その後、一定時間保持して前記流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、及び
(3)その後、1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより前記流路及びリザーバの洗浄液を除去する工程。
【0011】
洗浄工程において、流路内に洗浄液を導入させる方法として、1つのリザーバに洗浄液を供給した後、空気圧による加圧して洗浄液を流路内に導入させる方法が考えられるが、そのような方法を採用した場合には、他のリザーバから洗浄液が漏出し、その後の電気泳動における理論段数の低下や、マイクロチップ表面が洗浄液で濡れることによるリザーバ間の短絡による印加電圧異常などが発生することがある。特に有機溶剤や界面活性剤などを含有する表面張力の低い洗浄液を使用する場合、リザーバから洗浄液が漏出するリスクがより高くなる。しかし、本発明のように、洗浄工程での洗浄液の流路への導入を毛細管現象により行なった場合にはそのような不具合は生じない。
【0012】
このマイクロチップ電気泳動方法を実現する本発明のマイクロチップ電気泳動装置は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、リザーバが上側を向き流路が水平方向になるように保持するチップ保持部と、洗浄液保持部と、前記マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、前記分注プローブを分注すべき液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、前記リザーバから液を吸引するための吸引ノズルと、リザーバ間に泳動用電圧を印加するための電気泳動用高圧電源部と、前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構、吸引ノズル及び電気泳動用高圧電源部の動作を少なくとも制御する制御部と、を少なくとも備えている。そして、前記制御部は、本発明のマイクロチップ電気泳動方法におけるバッファ液除去工程、バッファ液充填工程、試料分注工程及び泳動分離工程を実行する泳動制御部と、前記洗浄液保持部に保持された洗浄液を用いて同マイクロチップ電気泳動方法における洗浄工程を実行する洗浄制御部を備えている。
【0013】
このような洗浄工程を設けることにより、マイクロチップの繰返し使用時の吸着物によるマイクロチップの性能劣化を抑えることができる。
【0014】
洗浄工程を含む本発明のマイクロチップ電気泳動方法は、本発明のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に各工程の処理を行うプログラムを組み込むことにより自動的に実行される。
【0015】
マイクロチップの繰返し使用による性能劣化についてさらに検討した結果、流路への吸着物による性能劣化は分析対象となる試料成分や分析条件などの影響を受けることも分かった。
【0016】
そこで、好ましい形態は、洗浄工程の洗浄条件として、洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量のうちの少なくとも1つを変更できるようにした。
【0017】
そのため、マイクロチップ電気泳動装置の制御部における洗浄制御部は、洗浄工程の洗浄条件として洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量が設定された洗浄条件設定部を備え、その洗浄条件設定部には洗浄条件のうちの少なくとも1つについては複数種類が設定されているようにする。そして、洗浄制御部は、その洗浄条件設定部に設定された洗浄条件に基づいて、かつ複数種類が設定された洗浄条件についてはその中から選択された洗浄条件に基づいて、洗浄工程を実行するように構成されている。
【0018】
洗浄条件の選択によって、分析した試料溶液の種類に応じて適切な洗浄動作を実現することが可能になる。また、試料溶液の種類やマイクロチップ性能低下の度合いに応じた適切な洗浄条件を実施することによって、性能劣化の程度が軽微な場合は短時間で完了するように洗浄を実施するなど、マイクロチップの洗浄作業の効率を飛躍的に向上することができる。
【0019】
好ましい形態では、洗浄工程で1つのリザーバに洗浄液を供給する際、他のリザーバを空にしておくか、又は液が入っていてもリザーバから漏出しない量にしておく。リザーバから漏出しない量は予め実験により求めることができる。
【0020】
好ましい形態では、有機溶剤又は界面活性剤を含有した洗浄液を使用して洗浄工程を自動的に実行する。有機溶剤又は界面活性剤を含有した洗浄液は水よりも表面張力が低く、リザーバから洗浄液が漏出する恐れが高くなる。そのような表面張力の低い洗浄液を使用した場合には、仮に注入された洗浄液の液面がマイクロチップ表面より低いときであっても洗浄液がリザーバからマイクロチップ表面へ漏出する現象がみられる。洗浄液がリザーバからマイクロチップ表面へ漏出すると、その後の電気泳動における理論段数の低下や、マイクロチップ表面が洗浄液で濡れることによるリザーバ間の短絡による印加電圧異常などが発生する虞がある。
【0021】
泳動媒体としては電気泳動を実行でき、流路に充填されたものを排出して新たなものと交換できるものであれば、溶液であってもゲルであっても特に限定はされないが、泳動電圧を印加する際にリザーバに注入される泳動バッファ液を使用するようにすれば、泳動媒体と泳動バッファ液を同じ機構で分注できるようになり、装置を簡略化でき、装置コストを低下することができる。
【0022】
チップ保持部が複数個のマイクロチップを固定して配置するものとし、制御部が各マイクロチップについて本発明のマイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成されているようにすれば、電気泳動の稼働率が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、1つの試料の分析終了後に泳動媒体を入れ替える際、前の分析に使用した泳動媒体を除去した後、新たな泳動媒体を充填する前に、流路を洗浄液で洗浄するようにし、かつ、その洗浄の際、洗浄液を毛細管現象により流路内に導入させるようにしたので、マイクロチップを繰り返し使用するマイクロチップ電気泳動方法において分析性能を高い状態で維持することが可能となり、マイクロチップの繰返し利用可能回数を増加させることができる。そして、マイクロチップの繰返し利用可能回数の増加によって分析コストの低減及び廃棄物量の削減とともに、チップ交換頻度の減少による作業効率の改善を達成することができる。
【0024】
本発明のマイクロチップ電気泳動装置はこのマイクロチップ電気泳動方法を実施するように構成されている。
【0025】
また、マイクロチップ上に洗浄液保持部を設けた場合には十分な容量のものとすることが困難であるため、流路内の洗浄に十分な洗浄液量を保持することができないが、本発明のマイクロチップ電気泳動装置は洗浄液保持部を備えているので、十分な洗浄液量を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施例のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例の制御部を示すブロック図である。
【図3】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す斜視図である。
【図4】マイクロチップの一例を示す図であり、(A)と(B)はマイクロチップを構成する透明板状部材を示す平面図、(C)はマイクロチップの正面図である。
【図5】同マイクロチップの具体的な一例を示す平面図である。
【図6】同マイクロチップ電気泳動装置において分離バッファ液を充填する際、及び洗浄液を排出する際の空気供給口とマイクロチップの接続状態を概略的に示す断面図である。
【図7】一実施例における洗浄工程を工程順に示す斜視図である。
【図8】一実施例における分析工程の開始部を工程順に示す斜視図である。
【図9】同実施例における分析工程のその後の部分を工程順に示す斜視図である。
【図10】同実施例における分析工程のさらにその後の部分を工程順に示す斜視図である。
【図11】同実施例における分析工程の処理手順を示すフローチャートである。
【図12】分析性能が劣化したマイクロチップによる電気泳動分離結果を示す図である。
【図13】実施例により洗浄を施した後のマイクロチップによる電気泳動分離結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1はマイクロチップ電気泳動装置の一実施例における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【0028】
分注部2は分注すべき液の吸入位置とマイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構を含んでいる。分注部2の分注プローブは、シリンジポンプ4により分離バッファ液又は試料を吸入し、マイクロチップの電気泳動流路のリザーバに注入するものであり、複数の電気泳動流路について共通に設けられている。分離バッファ液は分離媒体としても使用されるものであり、例えばpH緩衝剤と水溶性高分子(セルロース系高分子など)の少なくとも一方を含むものである。
【0029】
マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構として、分離バッファ液充填・排出部16と吸引ポンプ部23が設けられている。分離バッファ液充填・排出部16は電気泳動流路の1つのリザーバに一定量の分離バッファ液を注入し、その注入された分離バッファ液をそのリザーバから空気圧により電気泳動流路に充填する。吸引ポンプ部23は他のリザーバに溢れ出た不用な分離バッファ液を排出する。分離バッファ液充填・排出部16と吸引ポンプ部23も、処理しようとする複数の電気泳動流路について共通に設けられている。
【0030】
電気泳動用高圧電源部26は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加するように、リザーバ間に泳動用電圧を印加する。
【0031】
蛍光測定部31は電気泳動流路で分離された試料成分を検出する検出部の一例である。
【0032】
制御部38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行するように分注部2の動作を制御し、試料注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように電気泳動用高圧電源部26の動作を制御し、蛍光測定部31による検出動作を制御するものである。さらに、マイクロチップは固定された状態で配置されており、制御部38はマイクロチップを繰り返して使用するために、前の試料の分析が終了した電気泳動流路への分離バッファ液充填の前にその電気泳動流路の洗浄動作も制御する。
【0033】
制御部38は図2に示されるように、泳動制御部70と洗浄制御部72を備えている。
【0034】
泳動制御部70は、空の流路に泳動媒体を充填するバッファ液充填工程、試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程、リザーバ間に泳動電圧を印加することにより分離流路で試料の電気泳動分離を行う泳動分離工程、及び1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから泳動媒体及び泳動バッファ液を吸引することにより流路及びリザーバの泳動媒体及び泳動バッファ液を除去するバッファ液除去工程を自動的に繰り返す。
【0035】
洗浄制御部72は後述の洗浄液保持部に保持された洗浄液を用いて、(1)流路及びリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、(2)その後、一定時間保持して流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、及び(3)その後、1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより流路及びリザーバの洗浄液を除去する工程を含む洗浄工程を自動的に実行する。
【0036】
洗浄制御部72は洗浄条件設定部74を備えている。洗浄条件設定部74には洗浄工程の洗浄条件として洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量が設定されている。好ましい例として、洗浄条件設定部74には洗浄条件のうちの少なくとも1つについては複数種類が設定されている。そして、洗浄制御部72は、洗浄条件設定部74に設定された洗浄条件に基づいて、かつ複数種類が設定された洗浄条件についてはその中から選択された洗浄条件に基づいて、洗浄工程を実行するように構成されている。
【0037】
パーソナルコンピュータ40はこのマイクロチップ電気泳動装置の動作を指示したり、蛍光測定部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。
【0038】
図3に一実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す。マイクロチップ5−1〜5−4は保持部7に4個が保持されており、それぞれが繰り返して使用される。マイクロチップ5−1〜5−4は後で詳しく説明するように、それぞれ1試料を処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。マイクロチップ5−1〜5−4は、分析操作中は保持部7に固定されている。
【0039】
それらのマイクロチップ5−1〜5−4に分離バッファ液と試料を分注するために、分注部2は、吸引と吐出を行なうシリンジポンプ4と、分注ノズルを備えた分注プローブ8と、洗浄液保持部としての洗浄液用の容器10とを備えており、分注プローブ8と洗浄液用の容器10は三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。分離バッファ液と試料はマイクロタイタプレート12上のウエルにそれぞれ収容されて、分注部2によりマイクロチップ5−1〜5−4に分注される。なお、分離バッファ液は専用の容器に収容してマイクロタイタプレート12の近くに配置してもよい。14は分注プローブ8を洗浄するための洗浄部であり、洗浄液が溢れている。
【0040】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4が接続される方向に接続して分離バッファ液又は試料を分注プローブ8に吸引し、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動させてシリンジポンプ4によりマイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路のリザーバに吐出する。分注プローブ8を洗浄する際は三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8を接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより洗浄を行なう。
【0041】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路を洗浄するときは、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4のリザーバへ移動させ、所定量の洗浄液をそのリザーバへ分注する。リザーバに分注された洗浄液は毛細管現象により電気泳動流路に入っていく。
【0042】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバに分注された分離バッファ液を流路内に充填するために、4つのマイクロチップ5−1〜5−4について分離バッファ液充填・排出部16が共通に備えられている。分離バッファ液充填・排出部16は、電気泳動流路に洗浄液が入った状態で所定時間保持した後にその洗浄液を排出する際にも使用される。電気泳動流路に分離バッファ液を充填するときは、分離バッファ液充填・排出部16はマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動し、マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路のリザーバ(分離バッファ液が分注されたリザーバ)上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。電気泳動流路の洗浄液を排出するときも同様であり、マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで電気泳動流路の洗浄液を押し出すとともに、他のリザーバに出てきた洗浄液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。
【0043】
各マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路に独立して泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに独立した電気泳動用高圧電源26(26−1〜26−4)が設けられている。
【0044】
マイクロチップ5−1〜5−4の分離流路55で電気泳動分離された試料成分を検出するための蛍光測定部31は、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに設けられてそれぞれの電気泳動流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30−1〜30−4と、電気泳動流路を移動する試料成分がLED30−1〜30−4からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32−1〜32−4と、それらの光ファイバ32−1〜32−4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させるフィルタ34−1,34−2を介して蛍光を受光する光電子増倍管36とを備えている。ここではフィルタ34−1と34−2で異なる蛍光を透過させるものを使用しているので、マイクロチップ51−1,51−2と51−3,51−4で互いに異なる蛍光を検出することができる。しかし、4つのマイクロチップ51−1〜4で同じ蛍光を検出する場合には、1つのフィルタを共通に使用することができる。LED30−1〜30−4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子増倍管36で4つのマイクロチップ5−1〜5−4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限らずLD(レーザダイオード)を用いてもよい。
【0045】
図4と図5はこの実施例におけるマイクロチップの一例を示したものである。本発明におけるマイクロチップは基板内に電気泳動流路が形成されたこのような電気泳動用の媒体を指しており、必ずしもサイズの小さいものに限定される意味ではない。
【0046】
図4に示されるように、このマイクロチップ5は一対の透明基板(石英ガラスその他のガラス基板や樹脂基板)51,52からなる。一方の基板52の表面には(B)に示されるように、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55が形成され、他方の基板51には(A)に示されるように、その溝54,55の端に対応する位置にリザーバ53が貫通穴として設けられている。両基板51,52は(C)に示されるように重ねられて接合されている。キャピラリ溝54,55は、試料の電気泳動分離用の分離流路55と、その分離流路に試料を導入するための試料導入流路54となっている。
【0047】
マイクロチップ5は基本的には図4に示したものであるが、取扱いを容易にするために、図5に示されるように、電圧を印加するための電極端子を予めチップ上に形成したものを使用する。図5はそのマイクロチップ5の平面図を示したものである。4つのリザーバ53は流路54,55に電圧を印加するためのポートでもある。ポート#1と#2は試料導入流路54の両端に位置するポートであり、ポート#3と#4は分離流路55の両端に位置するポートである。各ポートに電圧を印加するために、このチップ5の表面に形成された電極パターン61〜64がそれぞれのポートからマイクロチップ5の側端部に延びて形成されており、電気泳動用高圧電源部26−1〜26−4に接続されるようになっている。
【0048】
図6はバッファ充填・排出部16における空気供給口18とマイクロチップ5の接続状態を概略的に示したものである。空気供給口18の先端にはOリング20が設けられており、空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ上に押し当てることにより、マイクロチップ5の電気泳動流路に対し、空気供給口18を機密を保って取り付け、空気供給口18から空気を加圧して流路内に送り出すことができる。他のリザーバにはノズル22が挿入され、流路から溢れ出した不用な分離バッファ液又は洗浄液を吸入して排出する。
【0049】
このマイクロチップ電気泳動装置においてマイクロチップは移動せずに保持部7に固定された状態で繰り返し使用される。
【0050】
マイクロチップ処理の処理は制御部38が保持しているブログラムにより自動的に実行される。そのプログラムは、洗浄工程と、電気泳動分離による分析工程を含んでいる。分析工程は各マイクロチップについて繰り返し行われる。洗浄工程は各マイクロチップについて複数回の一連の分析工程の前に、分析工程1回ごとに、又は複数回の一連の分析工程の終了後に実行される。
【0051】
洗浄工程を図7(a)から(c)に示す。
(a)洗浄は流路及びリザーバが空の状態のマイクロチップについて行われる。分注プローブ8がリザーバ53−4へ移動させられ、洗浄液が分注される。洗浄液としては種々のものを使用することができるが、例えばエタノールを約70vol%含有した水溶液である。洗浄液の分注量は洗浄条件として設定されたものであり、好ましくは洗浄条件設定部74に設定された複数の設定値から選択された分注量の洗浄液が分注される。
【0052】
マイクロチップ電気泳動装置において自動洗浄を実現しようとする場合、洗浄液として水を使用したときは、クロスインジェクタ型マイクロチップなど、特に分岐流路が2つ以上存在する場合には、分岐部を均等に洗浄することが困難であるが、上記のようなエタノールを含有した水溶液からなる洗浄液のように有機溶剤を含有した洗浄液や界面活性剤を含有した洗浄液を使用すれば分岐流路の洗浄も可能になる。自動洗浄機構を搭載したマイクロチップ電気泳動装置では一般に洗浄液としては水が使用されており、自動洗浄機構を搭載したマイクロチップ電気泳動装置で上記のような有機溶剤を含有した洗浄液や界面活性剤を含有した洗浄液を使用したものは実現されていないが、本発明はそのような、水以外の洗浄液を使用した自動洗浄機構を搭載したマイクロチップ電気泳動装置も含む。
【0053】
(b)リザーバ53−4に洗浄液が分注された状態で静置されて所定時間保持される。この状態で、リザーバ53−4に分注された洗浄液は毛細管現象により流路に入っていく。この工程の保持時間も洗浄条件として設定されたものであり、好ましくは洗浄条件設定部74に設定された複数の設定値から選択された保持時間だけ静置される。
【0054】
(c)所定の保持時間の経過後、リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、空気がリザーバ53−4から流路に供給される。他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に押し出された洗浄液が吸引されて除去される。
【0055】
工程(a)から(c)で1サイクルの洗浄工程となる。洗浄サイクル(a)〜(c)は所定回数だけ繰り返される。この繰返し回数も洗浄条件として設定されたものであり、好ましくは洗浄条件設定部74に設定された複数の設定値から選択された繰返し回数だけ繰り返えされる。
【0056】
電気泳動分離による分析工程を図8から図10の工程図と図11のフローチャートを参照して説明する。図11のフローチャート中での符号(A〜U)は図8〜図10での工程の符号を意味する。ここで行なわれる処理は、1回目の分析工程のためのマイクロチップ又は前回の分析で使用されたマイクロチップから分離媒体が排出された状態のマイクロチップを使用し、流路に分離媒体として分離バッファ液を充填し、各リザーバにも分離バッファ液を充填した状態で流路に電流が正常に流れるか否かの泳動テストを行ない、その後試料を分注して電気泳動による分析を実行し、分析終了後、泳動媒体を排出し、その後、分注プローブと吸引ノズルを洗浄する一連の工程である。この一例の工程は複数回繰り返して実行される。
【0057】
(A)は1つのマイクロチップ5を示している。マイクロチップ5は図4及び図5に示されたものであり、分離流路55と試料導入流路54が交差するように設けられ、各流路54,55の端部にリザーバ53が形成されたものである。図5の1番から4番までのリザーバをここでは符号53−1〜53−4で示す。
【0058】
このマイクロチップ5は、1回目の分析工程のためのマイクロチップ又は前回の分析で使用されたマイクロチップから分離媒体が排出された状態のマイクロチップである。
【0059】
分注プローブ8がリザーバ53−4へ移動させられ、分注プローブ8から分離バッファ液が分注される。
【0060】
(B)リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。空気が空気供給口18からリザーバ53−4を経て流路に供給され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に溢れ出した分離バッファ液が吸引ノズル22−1〜22−3により吸引されて除去される。
【0061】
(C)リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
【0062】
(D)〜(G)リザーバ53−1〜53−4に分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0063】
(H)それぞれのリザーバに電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。ここでは電極間の電流値を検出することにより流路にゴミや気泡が混入していないかどうかを確認する。ここで流路に印加される電圧は、試料を分離するための泳動電圧と同じであってもよいが、それよりも低電圧としてもよい。
【0064】
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート100に挿入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0065】
この泳動テスト工程で流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されたときは、試料を注入して分析を行なうために次の工程(I)へ進むが、流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、流路への分離バッファ液の充填をし直すために工程(A)に戻る。
【0066】
流路への分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数(n)は予め設定しており、その回数だけ分離バッファ液の充填し直しを行なっても流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、そのマイクロチップを保持部7から取り外し、別のマイクロチップに交換した後、工程(A)から始める。分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数nは特に限定されるものではないが、例えば2又は3が適当である。
【0067】
(I)試料供給用リザーバ53−1にのみ吸引ノズル22−1が挿入され、そのリザーバ53−1の分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0068】
(J)分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。
【0069】
(K)試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
【0070】
この(J),(K)の工程は試料供給用リザーバ53−1内に残存する分離バッファ液を除去するための洗浄工程である。この洗浄動作は必要に応じて複数回繰返し行なわれるようにしてもよい。
【0071】
(L)試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から試料が注入される。必須ではないが、試料注入に続いて試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から内部標準物質が分注されることがある。
【0072】
(M)それぞれのリザーバ53−1〜53−4に電極が挿入されて試料導入用の電圧が印加され、試料が流路54と55の交差位置へ導かれる。
【0073】
(N)印加電圧が泳動分離用の電圧に切り換えられ、試料が分離流路55でリザーバ53−4の方向に電気泳動されて分離され、検出装置(図示略)により検出されていく。
【0074】
(O)分析終了後、リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。空気供給口18からの空気がリザーバ53−4から流路に供給され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に押し出された分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0075】
(P)その後、各吸引ノズル22−1〜22−4がリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、プローブ8がリンスポート100に挿入されて内外が洗浄される。
【0076】
これで1つのマイクロチップにおける1つの試料の電気泳動分析サイクルが終了したことになる。そのマイクロチップについて新たな試料の電気泳動分析が繰り返されるときは、工程(A)に戻って操作が繰り返される。
【0077】
第1の実施例は、図7に示されたマイクロチップ洗浄工程が、上記の工程(A)から(P)の一連の電気泳動分析サイクルの前に実行されるものである。
【0078】
第3の実施例は、図7に示されたマイクロチップ洗浄工程が、上記の工程(A)から(P)の一連の電気泳動分析サイクルの後で実行されるものである。
【0079】
第3の実施例は、図7に示されたマイクロチップ洗浄工程が、上記の工程(A)から(P)の一連の電気泳動分析サイクルごとに、その工程(A)の前に実行されるものである。
【0080】
洗浄工程を設けたことによるマイクロチップ電気泳動の分析性能の評価をマイクロチップ電気泳動装置(島津製作所 MCE−202MultiNA)を使用して行なった。このマイクロチップ電気泳動装置は実施例に示したものを実現したものである。
【0081】
分析性能の評価条件として、分離バッファ液はDNA−1000キット(株式会社島津製作所の製品)、試料溶液はφ×174-HaeIII marker(Promega社の製品)をTE緩衝液(トリス(Tris)とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる緩衝液)(ナカライテスク社製)にて100倍希釈したものを使用した。また、洗浄液はチップクリーニングキットRA(株式会社島津製作所の製品)をポリプロピレン製容器に分注し、試薬ホルダ部の所定の位置に設置した。この洗浄液はエタノールを約70vol%含有しており、純水と比較して表面張力が低い。
【0082】
効果検証手法として、マイクロチップを所定の手順にて洗浄した前後での内部標準物質である高分子マーカ(以下UMと称す)の理論段数変化を判定基準とした。
【0083】
理論段数Nは次の式により定義される半値幅法により算出した。
N=5.54(tr/W0.5h)2
trは電気泳動分析でえられるピークの保持時間、W0.5h)はピークの半値幅である。
【0084】
洗浄条件は次のように設定した。図7との対応関係で示すと次のようになる。
(a)洗浄液分注:分注量は2.0μL。
ここでは洗浄液はリザーバ53−4のみに分注し、他のリザーバ53−1〜3は空の状態とする。ただし、リザーバ53−1〜3にもそれぞれのリザーバから漏出しない量の洗浄液を分注してもよい。
(b)洗浄液を流路に入れて静置する保持時間:30秒。
この間に洗浄液が毛細管現象により流路に侵入する。
(c)洗浄液除去。
【0085】
工程(a)から(c)を1サイクルとして、20サイクルで1回の洗浄とする。実施例のマイクロチップ電気泳動装置では、洗浄回数は洗浄条件設定部74に複数種類が設定されており、その設定されたもののうちのいずれかの洗浄回数を選択することができる。
【0086】
図12は試料溶液成分などの吸着により分析性能が劣化したマイクロチップの分析例である。UMピーク(図中に▼マークで示された2つのピーク)のピーク幅は大きく、理論段数の平均値は約47,000であり、初期性能と比較して著しく低下している。また、そのマイクロチップを純水で繰返し洗浄しても理論段数の改善は認められなかった。
【0087】
図13は同マイクロチップを上記の洗浄液で5回(100サイクル)洗浄した後に図12と同条件で分析した結果を示す。UMピークの幅は尖鋭化しており、理論段数の平均値が約113,000と向上した。
【0088】
表1と表2は分析性能が劣化した8個のマイクロチップに洗浄を実施した場合のUM理論段数の変化を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1は洗浄繰り返し回数が1回(20サイクル)の場合の、図13に示された2つのUMピークのUM理論段数の平均値の結果である。UM理論段数が著しく向上しているチップがある一方で、理論段数に大きな変化が認められない場合が存在する。
【0092】
表2は分析性能が劣化したマイクロチップに対して洗浄条件を設定する機能を用いて洗浄縛り返し回数を5回(100サイクル)とした場合の、図13に示された2つのUMピークのUM理論段数の平均値の結果である。洗浄繰り返し回数が増加することで洗浄の時間は増加するが、表1で示した場合と異なり、全てのマイクロチップに対してUM理論段数の向上が認められる。
【符号の説明】
【0093】
2 分注部
4 シリンジポンプ
5,5−1〜5−4 マイクロチップ
8 分注プローブ
10 洗浄液用の容器
16 分離バッファ液充填・排出部
22−1〜22−4 吸引ノズル
26(26−1〜26−4) 電気泳動用高圧電源部
38 制御部
70 泳動制御部
72 洗浄制御部
74 洗浄条件設定部
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロチップ電気泳動方法及びそのマイクロチップ電気泳動方法を実行するためのマイクロチップ電気泳動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロチップ電気泳動では、分離用主流路の一端側に導入されたDNA、RNA又はタンパク質などの試料をその流路の両端間に印加した電圧によりその流路の他端方向に電気泳動させることにより分離させて検出する。
マイクロチップ電気泳動において、電気泳動流路を有するマイクロチップを繰り返し使用して、分離媒体の充填、試料分注、電気泳動及び分離された試料成分の検出を自動で行なう装置が開発されている。
【0003】
マイクロチップとして流路の端部に基板表面に開口したリザーバをもったものを使用し、マイクロチップ電気泳動装置に装着するときはリザーバが上面にくるようにマイクロチップを保持する。例えば分離媒体としても分離バッファ液を使用する場合、流路への分離媒体の充填は分離バッファ液充填・排出部により1つのリザーバに分離バッファ液を供給し、そのリザーバ上に空気供給口を押し付けて空気を供給することにより分離バッファ液を流路に押し込むことにより行なう。流路に分離バッファ液を充填した後、他のリザーバから溢れた分離バッファ液を吸引ノズルで吸引する。その後、試料供給用のリザーバに試料を分注し、全てのリザーバに分離バッファ液を分注した後、リザーバ間に泳動用の電圧を印加する。
【0004】
分析の稼働率を上げるために、複数個のマイクロチップを固定して配置し、各マイクロチップを繰り返して使用する電気泳動分析装置も開発されている(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7678254号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロチップを繰り返し使用する場合、前の分析が終わると泳動媒体を交換することにより前の分析の試料や泳動媒体の影響は除去されるものと考えられていた。しかし、マイクロチップを繰り返し使用していると理論段数や検出時間といった分析性能や分析再現性が低下することがあった。
【0007】
そこで本発明は、マイクロチップを繰り返し使用したときの分析性能や分析再現性の低下を抑えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
マイクロチップを繰り返し使用すると、前の分析試料溶液に含まれていた成分や分離媒体に含まれていた成分がマイクロチップ流路表面に吸着し、それらの吸着成分が電気泳動装置の性能、特に理論段数や検出時間などの分析性能や分析再現性といった性能に影響を与える場合のあることがわかった。
【0009】
本発明は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、前記リザーバが上側を向き前記流路が水平方向になるように配置し、各マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返すマイクロチップ電気泳動方法において、前記マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前に、分析工程ごとに、又は複数回の分析工程の終了後に、以下の工程(1)から(3)を含む洗浄工程を実行することを特徴とするものである。
【0010】
(1)前記流路及びリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、
(2)その後、一定時間保持して前記流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、及び
(3)その後、1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより前記流路及びリザーバの洗浄液を除去する工程。
【0011】
洗浄工程において、流路内に洗浄液を導入させる方法として、1つのリザーバに洗浄液を供給した後、空気圧による加圧して洗浄液を流路内に導入させる方法が考えられるが、そのような方法を採用した場合には、他のリザーバから洗浄液が漏出し、その後の電気泳動における理論段数の低下や、マイクロチップ表面が洗浄液で濡れることによるリザーバ間の短絡による印加電圧異常などが発生することがある。特に有機溶剤や界面活性剤などを含有する表面張力の低い洗浄液を使用する場合、リザーバから洗浄液が漏出するリスクがより高くなる。しかし、本発明のように、洗浄工程での洗浄液の流路への導入を毛細管現象により行なった場合にはそのような不具合は生じない。
【0012】
このマイクロチップ電気泳動方法を実現する本発明のマイクロチップ電気泳動装置は、板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、リザーバが上側を向き流路が水平方向になるように保持するチップ保持部と、洗浄液保持部と、前記マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、前記分注プローブを分注すべき液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、前記リザーバから液を吸引するための吸引ノズルと、リザーバ間に泳動用電圧を印加するための電気泳動用高圧電源部と、前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構、吸引ノズル及び電気泳動用高圧電源部の動作を少なくとも制御する制御部と、を少なくとも備えている。そして、前記制御部は、本発明のマイクロチップ電気泳動方法におけるバッファ液除去工程、バッファ液充填工程、試料分注工程及び泳動分離工程を実行する泳動制御部と、前記洗浄液保持部に保持された洗浄液を用いて同マイクロチップ電気泳動方法における洗浄工程を実行する洗浄制御部を備えている。
【0013】
このような洗浄工程を設けることにより、マイクロチップの繰返し使用時の吸着物によるマイクロチップの性能劣化を抑えることができる。
【0014】
洗浄工程を含む本発明のマイクロチップ電気泳動方法は、本発明のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に各工程の処理を行うプログラムを組み込むことにより自動的に実行される。
【0015】
マイクロチップの繰返し使用による性能劣化についてさらに検討した結果、流路への吸着物による性能劣化は分析対象となる試料成分や分析条件などの影響を受けることも分かった。
【0016】
そこで、好ましい形態は、洗浄工程の洗浄条件として、洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量のうちの少なくとも1つを変更できるようにした。
【0017】
そのため、マイクロチップ電気泳動装置の制御部における洗浄制御部は、洗浄工程の洗浄条件として洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量が設定された洗浄条件設定部を備え、その洗浄条件設定部には洗浄条件のうちの少なくとも1つについては複数種類が設定されているようにする。そして、洗浄制御部は、その洗浄条件設定部に設定された洗浄条件に基づいて、かつ複数種類が設定された洗浄条件についてはその中から選択された洗浄条件に基づいて、洗浄工程を実行するように構成されている。
【0018】
洗浄条件の選択によって、分析した試料溶液の種類に応じて適切な洗浄動作を実現することが可能になる。また、試料溶液の種類やマイクロチップ性能低下の度合いに応じた適切な洗浄条件を実施することによって、性能劣化の程度が軽微な場合は短時間で完了するように洗浄を実施するなど、マイクロチップの洗浄作業の効率を飛躍的に向上することができる。
【0019】
好ましい形態では、洗浄工程で1つのリザーバに洗浄液を供給する際、他のリザーバを空にしておくか、又は液が入っていてもリザーバから漏出しない量にしておく。リザーバから漏出しない量は予め実験により求めることができる。
【0020】
好ましい形態では、有機溶剤又は界面活性剤を含有した洗浄液を使用して洗浄工程を自動的に実行する。有機溶剤又は界面活性剤を含有した洗浄液は水よりも表面張力が低く、リザーバから洗浄液が漏出する恐れが高くなる。そのような表面張力の低い洗浄液を使用した場合には、仮に注入された洗浄液の液面がマイクロチップ表面より低いときであっても洗浄液がリザーバからマイクロチップ表面へ漏出する現象がみられる。洗浄液がリザーバからマイクロチップ表面へ漏出すると、その後の電気泳動における理論段数の低下や、マイクロチップ表面が洗浄液で濡れることによるリザーバ間の短絡による印加電圧異常などが発生する虞がある。
【0021】
泳動媒体としては電気泳動を実行でき、流路に充填されたものを排出して新たなものと交換できるものであれば、溶液であってもゲルであっても特に限定はされないが、泳動電圧を印加する際にリザーバに注入される泳動バッファ液を使用するようにすれば、泳動媒体と泳動バッファ液を同じ機構で分注できるようになり、装置を簡略化でき、装置コストを低下することができる。
【0022】
チップ保持部が複数個のマイクロチップを固定して配置するものとし、制御部が各マイクロチップについて本発明のマイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成されているようにすれば、電気泳動の稼働率が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、1つの試料の分析終了後に泳動媒体を入れ替える際、前の分析に使用した泳動媒体を除去した後、新たな泳動媒体を充填する前に、流路を洗浄液で洗浄するようにし、かつ、その洗浄の際、洗浄液を毛細管現象により流路内に導入させるようにしたので、マイクロチップを繰り返し使用するマイクロチップ電気泳動方法において分析性能を高い状態で維持することが可能となり、マイクロチップの繰返し利用可能回数を増加させることができる。そして、マイクロチップの繰返し利用可能回数の増加によって分析コストの低減及び廃棄物量の削減とともに、チップ交換頻度の減少による作業効率の改善を達成することができる。
【0024】
本発明のマイクロチップ電気泳動装置はこのマイクロチップ電気泳動方法を実施するように構成されている。
【0025】
また、マイクロチップ上に洗浄液保持部を設けた場合には十分な容量のものとすることが困難であるため、流路内の洗浄に十分な洗浄液量を保持することができないが、本発明のマイクロチップ電気泳動装置は洗浄液保持部を備えているので、十分な洗浄液量を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施例のマイクロチップ電気泳動装置における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【図2】同実施例の制御部を示すブロック図である。
【図3】同実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す斜視図である。
【図4】マイクロチップの一例を示す図であり、(A)と(B)はマイクロチップを構成する透明板状部材を示す平面図、(C)はマイクロチップの正面図である。
【図5】同マイクロチップの具体的な一例を示す平面図である。
【図6】同マイクロチップ電気泳動装置において分離バッファ液を充填する際、及び洗浄液を排出する際の空気供給口とマイクロチップの接続状態を概略的に示す断面図である。
【図7】一実施例における洗浄工程を工程順に示す斜視図である。
【図8】一実施例における分析工程の開始部を工程順に示す斜視図である。
【図9】同実施例における分析工程のその後の部分を工程順に示す斜視図である。
【図10】同実施例における分析工程のさらにその後の部分を工程順に示す斜視図である。
【図11】同実施例における分析工程の処理手順を示すフローチャートである。
【図12】分析性能が劣化したマイクロチップによる電気泳動分離結果を示す図である。
【図13】実施例により洗浄を施した後のマイクロチップによる電気泳動分離結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1はマイクロチップ電気泳動装置の一実施例における制御部に関する部分を概略的に示すブロック図である。
【0028】
分注部2は分注すべき液の吸入位置とマイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構を含んでいる。分注部2の分注プローブは、シリンジポンプ4により分離バッファ液又は試料を吸入し、マイクロチップの電気泳動流路のリザーバに注入するものであり、複数の電気泳動流路について共通に設けられている。分離バッファ液は分離媒体としても使用されるものであり、例えばpH緩衝剤と水溶性高分子(セルロース系高分子など)の少なくとも一方を含むものである。
【0029】
マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構として、分離バッファ液充填・排出部16と吸引ポンプ部23が設けられている。分離バッファ液充填・排出部16は電気泳動流路の1つのリザーバに一定量の分離バッファ液を注入し、その注入された分離バッファ液をそのリザーバから空気圧により電気泳動流路に充填する。吸引ポンプ部23は他のリザーバに溢れ出た不用な分離バッファ液を排出する。分離バッファ液充填・排出部16と吸引ポンプ部23も、処理しようとする複数の電気泳動流路について共通に設けられている。
【0030】
電気泳動用高圧電源部26は電気泳動流路のそれぞれに独立して泳動用電圧を印加するように、リザーバ間に泳動用電圧を印加する。
【0031】
蛍光測定部31は電気泳動流路で分離された試料成分を検出する検出部の一例である。
【0032】
制御部38は、1つの電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入が終了すると次の電気泳動流路への分離バッファ液充填及び試料注入に移行するように分注部2の動作を制御し、試料注入が終了した電気泳動流路で泳動電圧を印加して電気泳動を起こさせるように電気泳動用高圧電源部26の動作を制御し、蛍光測定部31による検出動作を制御するものである。さらに、マイクロチップは固定された状態で配置されており、制御部38はマイクロチップを繰り返して使用するために、前の試料の分析が終了した電気泳動流路への分離バッファ液充填の前にその電気泳動流路の洗浄動作も制御する。
【0033】
制御部38は図2に示されるように、泳動制御部70と洗浄制御部72を備えている。
【0034】
泳動制御部70は、空の流路に泳動媒体を充填するバッファ液充填工程、試料供給用リザーバに試料を分注する試料分注工程、リザーバ間に泳動電圧を印加することにより分離流路で試料の電気泳動分離を行う泳動分離工程、及び1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから泳動媒体及び泳動バッファ液を吸引することにより流路及びリザーバの泳動媒体及び泳動バッファ液を除去するバッファ液除去工程を自動的に繰り返す。
【0035】
洗浄制御部72は後述の洗浄液保持部に保持された洗浄液を用いて、(1)流路及びリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、(2)その後、一定時間保持して流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、及び(3)その後、1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより流路及びリザーバの洗浄液を除去する工程を含む洗浄工程を自動的に実行する。
【0036】
洗浄制御部72は洗浄条件設定部74を備えている。洗浄条件設定部74には洗浄工程の洗浄条件として洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量が設定されている。好ましい例として、洗浄条件設定部74には洗浄条件のうちの少なくとも1つについては複数種類が設定されている。そして、洗浄制御部72は、洗浄条件設定部74に設定された洗浄条件に基づいて、かつ複数種類が設定された洗浄条件についてはその中から選択された洗浄条件に基づいて、洗浄工程を実行するように構成されている。
【0037】
パーソナルコンピュータ40はこのマイクロチップ電気泳動装置の動作を指示したり、蛍光測定部31が得たデータを取り込んで処理したりするための外部制御装置である。
【0038】
図3に一実施例のマイクロチップ電気泳動装置の要部を概略的に示す。マイクロチップ5−1〜5−4は保持部7に4個が保持されており、それぞれが繰り返して使用される。マイクロチップ5−1〜5−4は後で詳しく説明するように、それぞれ1試料を処理するための1つの電気泳動流路が形成されたものである。マイクロチップ5−1〜5−4は、分析操作中は保持部7に固定されている。
【0039】
それらのマイクロチップ5−1〜5−4に分離バッファ液と試料を分注するために、分注部2は、吸引と吐出を行なうシリンジポンプ4と、分注ノズルを備えた分注プローブ8と、洗浄液保持部としての洗浄液用の容器10とを備えており、分注プローブ8と洗浄液用の容器10は三方電磁弁6を介してシリンジポンプ4に接続されている。分離バッファ液と試料はマイクロタイタプレート12上のウエルにそれぞれ収容されて、分注部2によりマイクロチップ5−1〜5−4に分注される。なお、分離バッファ液は専用の容器に収容してマイクロタイタプレート12の近くに配置してもよい。14は分注プローブ8を洗浄するための洗浄部であり、洗浄液が溢れている。
【0040】
分注部2は、三方電磁弁6を分注プローブ8とシリンジポンプ4が接続される方向に接続して分離バッファ液又は試料を分注プローブ8に吸引し、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動させてシリンジポンプ4によりマイクロチップ5−1〜5−4のいずれかの電気泳動流路のリザーバに吐出する。分注プローブ8を洗浄する際は三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8を洗浄部14の洗浄液に浸し、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と分注プローブ8を接続する側に切り替えて分注プローブ8の内部から洗浄液を吐出することにより洗浄を行なう。
【0041】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路を洗浄するときは、三方電磁弁6をシリンジポンプ4と洗浄液用の容器10を接続する方向に切り替え、シリンジポンプ4に洗浄液を吸引した後、分注プローブ8をマイクロチップ5−1〜5−4のリザーバへ移動させ、所定量の洗浄液をそのリザーバへ分注する。リザーバに分注された洗浄液は毛細管現象により電気泳動流路に入っていく。
【0042】
マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバに分注された分離バッファ液を流路内に充填するために、4つのマイクロチップ5−1〜5−4について分離バッファ液充填・排出部16が共通に備えられている。分離バッファ液充填・排出部16は、電気泳動流路に洗浄液が入った状態で所定時間保持した後にその洗浄液を排出する際にも使用される。電気泳動流路に分離バッファ液を充填するときは、分離バッファ液充填・排出部16はマイクロチップ5−1〜5−4上へ移動し、マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路のリザーバ(分離バッファ液が分注されたリザーバ)上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで分離バッファ液を電気泳動流路に押し込むとともに、他のリザーバから溢れた分離バッファ液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。電気泳動流路の洗浄液を排出するときも同様であり、マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路の一端のリザーバ上に空気供給口18を気密を保って押し付け、他のリザーバに吸引ノズル22を挿入し、空気供給口18から空気を吹き込んで電気泳動流路の洗浄液を押し出すとともに、他のリザーバに出てきた洗浄液をノズル22から吸引ポンプにより吸引して外部へ排出する。
【0043】
各マイクロチップ5−1〜5−4の電気泳動流路に独立して泳動用の電圧を印加するために、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに独立した電気泳動用高圧電源26(26−1〜26−4)が設けられている。
【0044】
マイクロチップ5−1〜5−4の分離流路55で電気泳動分離された試料成分を検出するための蛍光測定部31は、マイクロチップ5−1〜5−4ごとに設けられてそれぞれの電気泳動流路の一部に励起光を照射するLED(発光ダイオード)30−1〜30−4と、電気泳動流路を移動する試料成分がLED30−1〜30−4からの励起光により励起されて発生した蛍光を受光する光ファイバ32−1〜32−4と、それらの光ファイバ32−1〜32−4からの蛍光から励起光成分を除去し、蛍光成分のみを透過させるフィルタ34−1,34−2を介して蛍光を受光する光電子増倍管36とを備えている。ここではフィルタ34−1と34−2で異なる蛍光を透過させるものを使用しているので、マイクロチップ51−1,51−2と51−3,51−4で互いに異なる蛍光を検出することができる。しかし、4つのマイクロチップ51−1〜4で同じ蛍光を検出する場合には、1つのフィルタを共通に使用することができる。LED30−1〜30−4を互いに時間をずらして発光させることにより、1つの光電子増倍管36で4つのマイクロチップ5−1〜5−4からの蛍光を識別して検出することができる。なお、励起光の光源としては、LEDに限らずLD(レーザダイオード)を用いてもよい。
【0045】
図4と図5はこの実施例におけるマイクロチップの一例を示したものである。本発明におけるマイクロチップは基板内に電気泳動流路が形成されたこのような電気泳動用の媒体を指しており、必ずしもサイズの小さいものに限定される意味ではない。
【0046】
図4に示されるように、このマイクロチップ5は一対の透明基板(石英ガラスその他のガラス基板や樹脂基板)51,52からなる。一方の基板52の表面には(B)に示されるように、互いに交差する泳動用キャピラリ溝54,55が形成され、他方の基板51には(A)に示されるように、その溝54,55の端に対応する位置にリザーバ53が貫通穴として設けられている。両基板51,52は(C)に示されるように重ねられて接合されている。キャピラリ溝54,55は、試料の電気泳動分離用の分離流路55と、その分離流路に試料を導入するための試料導入流路54となっている。
【0047】
マイクロチップ5は基本的には図4に示したものであるが、取扱いを容易にするために、図5に示されるように、電圧を印加するための電極端子を予めチップ上に形成したものを使用する。図5はそのマイクロチップ5の平面図を示したものである。4つのリザーバ53は流路54,55に電圧を印加するためのポートでもある。ポート#1と#2は試料導入流路54の両端に位置するポートであり、ポート#3と#4は分離流路55の両端に位置するポートである。各ポートに電圧を印加するために、このチップ5の表面に形成された電極パターン61〜64がそれぞれのポートからマイクロチップ5の側端部に延びて形成されており、電気泳動用高圧電源部26−1〜26−4に接続されるようになっている。
【0048】
図6はバッファ充填・排出部16における空気供給口18とマイクロチップ5の接続状態を概略的に示したものである。空気供給口18の先端にはOリング20が設けられており、空気供給口18をマイクロチップ5の1つのリザーバ上に押し当てることにより、マイクロチップ5の電気泳動流路に対し、空気供給口18を機密を保って取り付け、空気供給口18から空気を加圧して流路内に送り出すことができる。他のリザーバにはノズル22が挿入され、流路から溢れ出した不用な分離バッファ液又は洗浄液を吸入して排出する。
【0049】
このマイクロチップ電気泳動装置においてマイクロチップは移動せずに保持部7に固定された状態で繰り返し使用される。
【0050】
マイクロチップ処理の処理は制御部38が保持しているブログラムにより自動的に実行される。そのプログラムは、洗浄工程と、電気泳動分離による分析工程を含んでいる。分析工程は各マイクロチップについて繰り返し行われる。洗浄工程は各マイクロチップについて複数回の一連の分析工程の前に、分析工程1回ごとに、又は複数回の一連の分析工程の終了後に実行される。
【0051】
洗浄工程を図7(a)から(c)に示す。
(a)洗浄は流路及びリザーバが空の状態のマイクロチップについて行われる。分注プローブ8がリザーバ53−4へ移動させられ、洗浄液が分注される。洗浄液としては種々のものを使用することができるが、例えばエタノールを約70vol%含有した水溶液である。洗浄液の分注量は洗浄条件として設定されたものであり、好ましくは洗浄条件設定部74に設定された複数の設定値から選択された分注量の洗浄液が分注される。
【0052】
マイクロチップ電気泳動装置において自動洗浄を実現しようとする場合、洗浄液として水を使用したときは、クロスインジェクタ型マイクロチップなど、特に分岐流路が2つ以上存在する場合には、分岐部を均等に洗浄することが困難であるが、上記のようなエタノールを含有した水溶液からなる洗浄液のように有機溶剤を含有した洗浄液や界面活性剤を含有した洗浄液を使用すれば分岐流路の洗浄も可能になる。自動洗浄機構を搭載したマイクロチップ電気泳動装置では一般に洗浄液としては水が使用されており、自動洗浄機構を搭載したマイクロチップ電気泳動装置で上記のような有機溶剤を含有した洗浄液や界面活性剤を含有した洗浄液を使用したものは実現されていないが、本発明はそのような、水以外の洗浄液を使用した自動洗浄機構を搭載したマイクロチップ電気泳動装置も含む。
【0053】
(b)リザーバ53−4に洗浄液が分注された状態で静置されて所定時間保持される。この状態で、リザーバ53−4に分注された洗浄液は毛細管現象により流路に入っていく。この工程の保持時間も洗浄条件として設定されたものであり、好ましくは洗浄条件設定部74に設定された複数の設定値から選択された保持時間だけ静置される。
【0054】
(c)所定の保持時間の経過後、リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、空気がリザーバ53−4から流路に供給される。他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に押し出された洗浄液が吸引されて除去される。
【0055】
工程(a)から(c)で1サイクルの洗浄工程となる。洗浄サイクル(a)〜(c)は所定回数だけ繰り返される。この繰返し回数も洗浄条件として設定されたものであり、好ましくは洗浄条件設定部74に設定された複数の設定値から選択された繰返し回数だけ繰り返えされる。
【0056】
電気泳動分離による分析工程を図8から図10の工程図と図11のフローチャートを参照して説明する。図11のフローチャート中での符号(A〜U)は図8〜図10での工程の符号を意味する。ここで行なわれる処理は、1回目の分析工程のためのマイクロチップ又は前回の分析で使用されたマイクロチップから分離媒体が排出された状態のマイクロチップを使用し、流路に分離媒体として分離バッファ液を充填し、各リザーバにも分離バッファ液を充填した状態で流路に電流が正常に流れるか否かの泳動テストを行ない、その後試料を分注して電気泳動による分析を実行し、分析終了後、泳動媒体を排出し、その後、分注プローブと吸引ノズルを洗浄する一連の工程である。この一例の工程は複数回繰り返して実行される。
【0057】
(A)は1つのマイクロチップ5を示している。マイクロチップ5は図4及び図5に示されたものであり、分離流路55と試料導入流路54が交差するように設けられ、各流路54,55の端部にリザーバ53が形成されたものである。図5の1番から4番までのリザーバをここでは符号53−1〜53−4で示す。
【0058】
このマイクロチップ5は、1回目の分析工程のためのマイクロチップ又は前回の分析で使用されたマイクロチップから分離媒体が排出された状態のマイクロチップである。
【0059】
分注プローブ8がリザーバ53−4へ移動させられ、分注プローブ8から分離バッファ液が分注される。
【0060】
(B)リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。空気が空気供給口18からリザーバ53−4を経て流路に供給され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に溢れ出した分離バッファ液が吸引ノズル22−1〜22−3により吸引されて除去される。
【0061】
(C)リザーバ53−4に吸引ノズル22−4が挿入され、そのリザーバ53−4の分離バッファ液が吸引されて除去される。これにより流路内にのみ分離バッファ液が残る状態となる。
【0062】
(D)〜(G)リザーバ53−1〜53−4に分注プローブ8により分離バッファ液が順次分注される。
【0063】
(H)それぞれのリザーバに電極が挿入され、泳動テストが行なわれる。ここでは電極間の電流値を検出することにより流路にゴミや気泡が混入していないかどうかを確認する。ここで流路に印加される電圧は、試料を分離するための泳動電圧と同じであってもよいが、それよりも低電圧としてもよい。
【0064】
分離バッファ液を分注した分注プローブ8はリンスポート100に挿入され、分注プローブ8内の分離バッファ液が全量吐出されるとともに分注プローブ8の内外が洗浄される。
【0065】
この泳動テスト工程で流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されたときは、試料を注入して分析を行なうために次の工程(I)へ進むが、流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、流路への分離バッファ液の充填をし直すために工程(A)に戻る。
【0066】
流路への分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数(n)は予め設定しており、その回数だけ分離バッファ液の充填し直しを行なっても流路への分離バッファの充填が正常に行なわれたと判定されなかったときは、そのマイクロチップを保持部7から取り外し、別のマイクロチップに交換した後、工程(A)から始める。分離バッファ液の充填のし直しを許容する回数nは特に限定されるものではないが、例えば2又は3が適当である。
【0067】
(I)試料供給用リザーバ53−1にのみ吸引ノズル22−1が挿入され、そのリザーバ53−1の分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0068】
(J)分注ノズル8により試料供給用リザーバ53−1に洗浄液が供給される。
【0069】
(K)試料供給用リザーバ53−1に吸引ノズル22−1が挿入され、洗浄液が吸引されて除去される。
【0070】
この(J),(K)の工程は試料供給用リザーバ53−1内に残存する分離バッファ液を除去するための洗浄工程である。この洗浄動作は必要に応じて複数回繰返し行なわれるようにしてもよい。
【0071】
(L)試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から試料が注入される。必須ではないが、試料注入に続いて試料供給用リザーバ53−1に分注プローブ8から内部標準物質が分注されることがある。
【0072】
(M)それぞれのリザーバ53−1〜53−4に電極が挿入されて試料導入用の電圧が印加され、試料が流路54と55の交差位置へ導かれる。
【0073】
(N)印加電圧が泳動分離用の電圧に切り換えられ、試料が分離流路55でリザーバ53−4の方向に電気泳動されて分離され、検出装置(図示略)により検出されていく。
【0074】
(O)分析終了後、リザーバ53−4上に空気供給口18が気密を保って押しつけられ、他のリザーバ53−1〜53−3にはそれぞれ吸引ノズル22−1〜22−3が挿入される。空気供給口18からの空気がリザーバ53−4から流路に供給され、流路からそれぞれのリザーバ53−1〜53−3に押し出された分離バッファ液が吸引されて除去される。
【0075】
(P)その後、各吸引ノズル22−1〜22−4がリンスプール102に挿入されて洗浄液が吸引され、ノズル内外が洗浄されるとともに、プローブ8がリンスポート100に挿入されて内外が洗浄される。
【0076】
これで1つのマイクロチップにおける1つの試料の電気泳動分析サイクルが終了したことになる。そのマイクロチップについて新たな試料の電気泳動分析が繰り返されるときは、工程(A)に戻って操作が繰り返される。
【0077】
第1の実施例は、図7に示されたマイクロチップ洗浄工程が、上記の工程(A)から(P)の一連の電気泳動分析サイクルの前に実行されるものである。
【0078】
第3の実施例は、図7に示されたマイクロチップ洗浄工程が、上記の工程(A)から(P)の一連の電気泳動分析サイクルの後で実行されるものである。
【0079】
第3の実施例は、図7に示されたマイクロチップ洗浄工程が、上記の工程(A)から(P)の一連の電気泳動分析サイクルごとに、その工程(A)の前に実行されるものである。
【0080】
洗浄工程を設けたことによるマイクロチップ電気泳動の分析性能の評価をマイクロチップ電気泳動装置(島津製作所 MCE−202MultiNA)を使用して行なった。このマイクロチップ電気泳動装置は実施例に示したものを実現したものである。
【0081】
分析性能の評価条件として、分離バッファ液はDNA−1000キット(株式会社島津製作所の製品)、試料溶液はφ×174-HaeIII marker(Promega社の製品)をTE緩衝液(トリス(Tris)とエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる緩衝液)(ナカライテスク社製)にて100倍希釈したものを使用した。また、洗浄液はチップクリーニングキットRA(株式会社島津製作所の製品)をポリプロピレン製容器に分注し、試薬ホルダ部の所定の位置に設置した。この洗浄液はエタノールを約70vol%含有しており、純水と比較して表面張力が低い。
【0082】
効果検証手法として、マイクロチップを所定の手順にて洗浄した前後での内部標準物質である高分子マーカ(以下UMと称す)の理論段数変化を判定基準とした。
【0083】
理論段数Nは次の式により定義される半値幅法により算出した。
N=5.54(tr/W0.5h)2
trは電気泳動分析でえられるピークの保持時間、W0.5h)はピークの半値幅である。
【0084】
洗浄条件は次のように設定した。図7との対応関係で示すと次のようになる。
(a)洗浄液分注:分注量は2.0μL。
ここでは洗浄液はリザーバ53−4のみに分注し、他のリザーバ53−1〜3は空の状態とする。ただし、リザーバ53−1〜3にもそれぞれのリザーバから漏出しない量の洗浄液を分注してもよい。
(b)洗浄液を流路に入れて静置する保持時間:30秒。
この間に洗浄液が毛細管現象により流路に侵入する。
(c)洗浄液除去。
【0085】
工程(a)から(c)を1サイクルとして、20サイクルで1回の洗浄とする。実施例のマイクロチップ電気泳動装置では、洗浄回数は洗浄条件設定部74に複数種類が設定されており、その設定されたもののうちのいずれかの洗浄回数を選択することができる。
【0086】
図12は試料溶液成分などの吸着により分析性能が劣化したマイクロチップの分析例である。UMピーク(図中に▼マークで示された2つのピーク)のピーク幅は大きく、理論段数の平均値は約47,000であり、初期性能と比較して著しく低下している。また、そのマイクロチップを純水で繰返し洗浄しても理論段数の改善は認められなかった。
【0087】
図13は同マイクロチップを上記の洗浄液で5回(100サイクル)洗浄した後に図12と同条件で分析した結果を示す。UMピークの幅は尖鋭化しており、理論段数の平均値が約113,000と向上した。
【0088】
表1と表2は分析性能が劣化した8個のマイクロチップに洗浄を実施した場合のUM理論段数の変化を示す。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
表1は洗浄繰り返し回数が1回(20サイクル)の場合の、図13に示された2つのUMピークのUM理論段数の平均値の結果である。UM理論段数が著しく向上しているチップがある一方で、理論段数に大きな変化が認められない場合が存在する。
【0092】
表2は分析性能が劣化したマイクロチップに対して洗浄条件を設定する機能を用いて洗浄縛り返し回数を5回(100サイクル)とした場合の、図13に示された2つのUMピークのUM理論段数の平均値の結果である。洗浄繰り返し回数が増加することで洗浄の時間は増加するが、表1で示した場合と異なり、全てのマイクロチップに対してUM理論段数の向上が認められる。
【符号の説明】
【0093】
2 分注部
4 シリンジポンプ
5,5−1〜5−4 マイクロチップ
8 分注プローブ
10 洗浄液用の容器
16 分離バッファ液充填・排出部
22−1〜22−4 吸引ノズル
26(26−1〜26−4) 電気泳動用高圧電源部
38 制御部
70 泳動制御部
72 洗浄制御部
74 洗浄条件設定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、前記リザーバが上側を向き前記流路が水平方向になるように配置し、各マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返すマイクロチップ電気泳動方法において、
前記マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前に、分析工程ごとに、又は複数回の分析工程の終了後に、以下の工程(1)から(3)を含む洗浄工程を実行することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
(1)前記流路及びリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、
(2)その後、一定時間保持して前記流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、及び
(3)その後、1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより前記流路及びリザーバの洗浄液を除去する工程。
【請求項2】
前記洗浄工程の洗浄条件として、洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量のうちの少なくとも1つを変更できるようにした請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項3】
洗浄液として、有機溶剤又は界面活性剤を含有した洗浄液を使用して前記洗浄工程を自動的に実行する請求項1又は2に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項4】
前記洗浄工程で1つのリザーバに洗浄液を供給する際、他のリザーバを空にしておくか、又は液が入っていてもリザーバから漏出しない量にしておく請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項5】
泳動媒体として泳動バッファ液を使用する請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項6】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、前記リザーバが上側を向き前記流路が水平方向になるように保持するチップ保持部と、
洗浄液保持部と、
前記マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、
液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、
前記分注プローブを分注すべき液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、
前記リザーバから液を吸引するための吸引ノズルと、
前記リザーバ間に泳動用電圧を印加するための電気泳動用高圧電源部と、
前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構、吸引ノズル及び電気泳動用高圧電源部の動作を少なくとも制御する制御部と、を少なくとも備え、
前記制御部は、バッファ液充填工程、試料分注工程、泳動分離工程及びバッファ液除去工程を自動的に繰り返す泳動制御部と、前記洗浄液保持部に保持された洗浄液を用いて請求項1に記載の洗浄工程を自動的に実行する洗浄制御部を備えて、マイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成されているマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項7】
前記洗浄制御部は、洗浄工程の洗浄条件として洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量が設定された洗浄条件設定部を備え、該洗浄条件設定部には洗浄条件のうちの少なくとも1つについては複数種類が設定されており、
前記洗浄制御部は、前記洗浄条件設定部に設定された洗浄条件に基づいて、かつ複数種類が設定された洗浄条件についてはその中から選択された洗浄条件に基づいて、前記洗浄工程を実行するように構成されている請求項6に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項8】
前記チップ保持部は複数個のマイクロチップを固定して配置するものであり、
前記制御部は各マイクロチップについて前記マイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成されている請求項6又は7に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項1】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、前記リザーバが上側を向き前記流路が水平方向になるように配置し、各マイクロチップでの電気泳動分離による分析工程を繰り返すマイクロチップ電気泳動方法において、
前記マイクロチップでの複数回の分析工程の開始前に、分析工程ごとに、又は複数回の分析工程の終了後に、以下の工程(1)から(3)を含む洗浄工程を実行することを特徴とするマイクロチップ電気泳動方法。
(1)前記流路及びリザーバが空の状態で1つのリザーバに一定量の洗浄液を供給する工程、
(2)その後、一定時間保持して前記流路内に洗浄液を毛細管現象により導入させる工程、及び
(3)その後、1つのリザーバから加圧気体を供給し、他のリザーバから洗浄液を吸引することにより前記流路及びリザーバの洗浄液を除去する工程。
【請求項2】
前記洗浄工程の洗浄条件として、洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量のうちの少なくとも1つを変更できるようにした請求項1に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項3】
洗浄液として、有機溶剤又は界面活性剤を含有した洗浄液を使用して前記洗浄工程を自動的に実行する請求項1又は2に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項4】
前記洗浄工程で1つのリザーバに洗浄液を供給する際、他のリザーバを空にしておくか、又は液が入っていてもリザーバから漏出しない量にしておく請求項1から3のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項5】
泳動媒体として泳動バッファ液を使用する請求項1から4のいずれか一項に記載のマイクロチップ電気泳動方法。
【請求項6】
板状部材の内部に分離流路を少なくとも含む微細管からなる流路を備え、前記流路の端部に板状部材の表面に開口したリザーバを備えているマイクロチップを、前記リザーバが上側を向き前記流路が水平方向になるように保持するチップ保持部と、
洗浄液保持部と、
前記マイクロチップの流路に分離バッファ液を充填するバッファ液充填機構と、
液を吸入し前記マイクロチップの所定のリザーバに注入するための分注プローブと、
前記分注プローブを分注すべき液の吸入位置と前記マイクロチップ上の分注位置との間で移動させるプローブ移動機構と、
前記リザーバから液を吸引するための吸引ノズルと、
前記リザーバ間に泳動用電圧を印加するための電気泳動用高圧電源部と、
前記バッファ液充填機構、分注プローブ、プローブ移動機構、吸引ノズル及び電気泳動用高圧電源部の動作を少なくとも制御する制御部と、を少なくとも備え、
前記制御部は、バッファ液充填工程、試料分注工程、泳動分離工程及びバッファ液除去工程を自動的に繰り返す泳動制御部と、前記洗浄液保持部に保持された洗浄液を用いて請求項1に記載の洗浄工程を自動的に実行する洗浄制御部を備えて、マイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成されているマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項7】
前記洗浄制御部は、洗浄工程の洗浄条件として洗浄繰返し回数、流路での洗浄液保持時間、及び洗浄液供給量が設定された洗浄条件設定部を備え、該洗浄条件設定部には洗浄条件のうちの少なくとも1つについては複数種類が設定されており、
前記洗浄制御部は、前記洗浄条件設定部に設定された洗浄条件に基づいて、かつ複数種類が設定された洗浄条件についてはその中から選択された洗浄条件に基づいて、前記洗浄工程を実行するように構成されている請求項6に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【請求項8】
前記チップ保持部は複数個のマイクロチップを固定して配置するものであり、
前記制御部は各マイクロチップについて前記マイクロチップ電気泳動方法を実行するように構成されている請求項6又は7に記載のマイクロチップ電気泳動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−251821(P2012−251821A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−123418(P2011−123418)
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月1日(2011.6.1)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
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