説明

マイクロチップ

【課題】マイクロチップに落下のような衝撃を与えても毛細管キャビティ内の試料液を保持して試料の定量が出来るマイクロチップを提供する。
【解決手段】毛細管力の作用により試料となる液体を採取するための注入口と、前記注入口に連結され前に採取された液体を計量するための毛細管キャビティと、前記毛細管キャビティに連結され前に計量された液体を保持するための保持チャンバーと、を備え、前記注入口に多孔質膜フィルタを有することを特徴とするマイクロチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的流体を電気化学的、もしくは光学的に分析するマイクロチップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ流路を形成したマイクロチップを用いて生物学的流体を電気化学的にあるいは光学的に分析する方法がある。電気化学的に分析する方法としては、試料液中の特定の成分を分析するバイオセンサーとして、例えば、血液中のグルコースとセンサー中に担持したグルコースオキシダーゼ等の試薬との反応により得られる電流値を測定することにより、血糖値などを求めるものがある。
【0003】
また、マイクロチップを用いて分析する方法では、水平軸を有する回転装置を使って流体の制御をすることが可能であり、遠心力を利用して試料液の計量、細胞質材料の分離、分離された流体の移送分配、液体の混合/攪拌等を行うことができるため、種々の生物化学的な分析を行うことが可能である。
【0004】
マイクロチップに試料を導入するための従来の試料液採取方法としては、図5に示す電気化学式バイオセンサーがあり、試料液は吸引口208から毛細管現象によりキャビティ212内に導入され、作用極201、対極202と試薬層210のある位置まで導かれる。この時キャビティ212の容積で試料の定量採取を行っている。そして作用極201、対極202での試料液と試薬との反応により生じる電流値は、リード203,204を通じて図示しない外部の測定装置に接続して読み取られる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、図6に示す遠心移送式バイオセンサーでは、試料液は入り口313から毛細管現象により第1の毛細管キャビティ312内に定量採取され、次に遠心力を作用させることで、毛細管キャビティ312内の試料液は第1の流路314を介して受入キャビティ317に移送され、受入キャビティ317で試薬と反応したものを遠心分離させ、第2のキャビティ316に溶液成分のみを毛細管力によって採取し、光学的に反応状態を読み取られる(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、図7に示す遠心移送式バイオセンサーでは、試料を入口ポート409から出口ポート410まで毛細管力で移送し、各毛細管キャビティ404a−fを試料液で満たした後、バイオセンサーの回転によって発生する遠心力によって、それぞれの毛細管キャビティ内の試料液を各通気孔406a−gの位置で分配し、各連結微小導管407a−fを通って、次の処理室(図示省略)へ移送される(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2001−159618号公報
【特許文献2】特表平4−504758号公報
【特許文献3】特表2004−529333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、毛細管キャビティに試料液が充填された状態で誤ってマイクロチップを落下させた時に、毛細管キャビティ内に保持された試料液がチャンバー内に流入し試料の定量が出来ないという課題を有していた。
【0008】
本発明は前記従来の課題を解決するもので、マイクロチップに落下のような衝撃を与えても毛細管キャビティ内の試料液を保持して試料の定量が出来るマイクロチップを提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明のマイクロチップは、液体を採取するための注入口と、前記注入口に連結され前に採取された液体を計量するための毛細管キャビティと、前記毛細管キャビティに連結され前に計量された液体を保持するための保持チャンバーと、を備え、前記注入口に多孔質膜フィルタを有することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロチップによれば、毛細管キャビティ内へ試料液が充填されている状態でマイクロチップを落下させる等の衝撃が与えた場合でも、定量後の試料液を他流路などへ漏洩させることなく試料液の定量性を確保できるマイクロチップを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明のマイクロチップの実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1に、マイクロチップ100を示す。図1(a)は、マイクロチップ100の上部基板9を示し、図1(b)は、マイクロチップ100の下部基板10を示す。図1に示すように、マイクロチップ100は上部基板9と下部基板10との貼り合わせで構成されている。下部基板10の上部基板9と対向する面には、微細な凹凸形状をもつマイクロチャネル構造が形成されており、試料液の移送や保持など、それぞれに機能出来るように形成されている。注入口1は、マイクロチップ100本体の一側面より突出した形状にすることにより、指先などによる点着がしやすくなり、点着時に注入口1以外の位置に指などが接触して血液が付着するのを防ぐという効果がある。
【0013】
図1(b)において、多孔質膜フィルタ2を設けた注入口1に注入された血液などの試料液は、毛細管キャビティ3を介して所定量だけ保持チャンバー4に一時的に保持する。保持チャンバー4には、分析試薬(図示せず)が担持されている。そして、試料液と分析試薬とが混合され、試薬と試料液との混合が所定のレベルに到達すると、保持チャンバー4内の試料液は、毛細管力により流路6内を通じて、測定チャンバー5の入口まで運ばれ、マイクロチップ100を所定の回転数で回転して発生する遠心力を利用して測定チャンバー5へ移送される。
【0014】
測定チャンバー5は、大気開放孔8を有する毛細管流路7と連通している。測定チャンバー5に移送された試料液と分析試薬とが混合物は、光学的手法により所定の項目が測定され分析される。試料液の測定は、測定チャンバー5に光を照射して、検査すべき試料液と分析試薬の反応状態を光学的に分析する。試料液と分析試薬との反応の割合で吸光度が変化するため照射する光の吸光度を測定することにより所定の項目が測定され、反応状態を分析することができる。
【0015】
図2に本発明の実施の形態1のマイクロチップ100における注入口および注入口近傍の拡大図を示す。図2(a)は、注入口1の斜視図を、図2(b)は注入口1の正面図、図2(c)は注入口1の断面図を示す。図2(b)および(c)に示す破線は、上部基板9を示す。本実施例では、マイクロチップ100の毛細管キャビティ3は試料を点着する側、すなわち、A方向から見ると矩形状である。この注入口の入口に多孔質膜フィルタ2を設置する。この多孔質膜フィルタ2を通して導入した試料液は、マイクロチップ100の落下による衝撃を受けた場合でも注入口1及び毛細管キャビティ3内から漏れない構造となっている。
【0016】
本実施例では、注入口の厚みは毛細管力で試料液が流れるような厚みを設けた。これら毛細管キャビティ3、流路6、流路7の厚みは毛細管力で試料液が流れるのであれば、適宜、選べば良い。測定する試料が血液の場合には、0.02〜0.3mm未満が望ましい。この注入口1に多孔質膜フィルタ2を注入口1に隙間無く設けている。ここで使用する多孔質膜フィルタ2の1つの空孔の径は毛細管キャビティ3内に導入させるために、少なくとも赤血球が通過できる径以上とする。このマイクロチップ100の大きさは、マイクロチップ100が一体構造となる下部基板10の厚みは5mm、上部基板10の厚みは1mmで、略65mm角で構成する。これらの寸法は、試料液採取部として適当な大きさとするため、適宜変更することができる。
【0017】
一方、毛細菅キャビティ3と連結され下部基板10に形成される保持チャンバー4の厚みは、t=0.3mm〜0.5mmと毛細菅キャビティ3の厚み(即ち、流路となる厚み)より厚く形成する。このように設定することにより、毛細管キャビティ3内に注入された試料液は、毛細管力だけでは、保持チャンバー4に進まず、マイクロチップ100を回転して得られる遠心力を利用して、試料液を移送するためである。また各チャンバーの厚みはサンプル溶液の量や、吸光度を測定するための条件(光路長、測定波長、サンプル溶液の反応濃度、試薬の種類等)によって調整可能である。そして測定チャンバー5に移送された試料液を光学的に測定する。毛細管力が作用する形状であれば、毛細管キャビティ3の断面形状は矩形状以外でも良く、例えば円形、楕円形状などでも同様の効果が得られる。
【0018】
さらに注入口1を構成する壁面および多孔質膜フィルタ2は、親水性を有する材料で形成し、接触角を所定の角度未満になるようにする。具体的には、注入口1の壁面との接触角を一般的に親水性と言われる90度未満となるように設ける。この接触角が小さくなるほど流路内を試料液が進みやすくなることは当然であり、即ち毛細管力が強く働く事を意味する。親水処理方法としては、プラズマ、コロナ、オゾン、フッ素等の活性ガスを用いた表面処理方法や、界面活性剤や親水性ポリマーによる表面処理が挙げられる。
【0019】
図3に、本発明の特徴である多孔質膜フィルタ2の有無による衝撃を受けた際の流れパターンの差異を示し、本発明の作用効果を説明する。図3(a)は、マイクロチップ100より突出した注入口1に多孔質膜フィルタ2を設けたもの、図3(b)は(a)と同形状において、多孔質膜フィルタ2が無い場合を示す。また図3の(1)は試料液を点着した直後の図、図3の(2)は落下による衝撃を与えた後の図、図3の(c)は落下後に2度付け、3度付けによる再点着を行った時の動きについて示す。図中の斜線は試料液を示し、網掛けは多孔質膜フィルタ2を意味する。
【0020】
本実施例では、注入口1の幅Wを点着する試料液の液体径を考慮し、W=5mmとした。また注入口1の厚みは毛細管キャビティ3と同様にt=0.1mmに設けた。この注入口1に多孔質膜フィルタ2を注入口1に隙間無く設け、多孔質膜フィルタ2の寸法は幅W=5mm、厚みt=0.1mm、長さL=3mmとした。材質は、ポリウレタンを使用したが、ポリスチレン又はポリエチレンのうち何れかでも良い。多孔質膜フィルタ2の空孔率は30,60,80%の3種類を使用した。
【0021】
図3(a)に本発明の実施例を示す。これは、多孔質膜フィルタ2は空孔率60%のものを使用した。このマイクロチップ100の大きさは、マイクロチップ100が一体構造となる下部基板10の厚みは5mm、上部基板10の厚みは1mmで、略65mm角で構成した。マイクロチップ100の重量は約20gであった。衝撃試験は、マイクロチップ100に試料となる血液を注入口1に充填し、その後1mの高さから木材の上に落下させ多孔質膜フィルタ2の効果を確認した。孔質膜フィルタ2の効果を確認した。図3(a)に多孔質膜フィルタ2を備えたマイクロチップ100を、図3(b)に多孔質膜フィルタ2が無い従来のマイクロチップ100を示す。
【0022】
図3(a)及び(b)の(2)は、それぞれ衝撃後の注入口1の血液の流れの状態を示す。図を見ると、図3(a)では衝撃を与えた後でも注入口1に試料液は保持されているが、図3(b)では毛細管キャビティ内に保持されていた試料液は、保持チャンバー4あるいは注入口1から流出し、毛細管キャビティ3内にはほとんど試料液が残らなかった。
【0023】
その後、再度点着した場合の様子を図3(a)及び(b)の(3)に示す。図3(a)では試料液の採取が1度目の点着から引き続き可能であり毛細管キャビティ3を満たすまで何度でもでき、所定量の試料液を確実に採取できる。しかし図3(b)の(3)では再度点着すると、注入口1と保持チャンバー4との接続部が濡れているため、保持チャンバー4に試料液が流入してしまった。
【0024】
従って、従来のマイクロチップ100では一度試料液が別流路に流入してしまい試料液を定量する毛細管キャビティ3が機能せず、マイクロチップ100を再度使用することが不可能となる。本発明の様に注入口1に多孔質膜フィルタ2を設置することで、毛細管キャビティ3に保持した試料液を落下や振動などの衝撃により漏れさせること無く、また採点着の可能である。
【0025】
図3(a)は、空孔率が60%の多孔質膜フィルタ2を備えたマイクロチップ100の効果を示すが、同様な実験を空孔率が30%及び80%の多孔質膜フィルタを備えたマイクロチップ100において行った。結果、空孔率が30%及び80%の多孔質膜フィルタを備えたマイクロチップ100においても、図3(a)に示す良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明のマイクロチップは、電気化学式センサーや光学式センサーで生物学的流体の成分測定に使用する分析デバイス等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1におけるマイクロチップの分解斜視図
【図2】(a)本発明の実施の形態1における注入口及び注入口近傍の斜視図(b)本発明の実施の形態1における注入口及び注入口近傍の正面図(c)本発明の実施の形態1における注入口及び注入口近傍の断面図
【図3】本発明の実施の形態1におけるマイクロチップの流れパターンを示す図
【図4】従来例の電気化学式バイオセンサーの構成を説明するための図
【図5】従来例の遠心移送式バイオセンサーの構成を説明するための図
【図6】従来例の遠心移送式バイオセンサーの試料液分配構成を説明するための図
【符号の説明】
【0028】
1 注入口
2 多孔質膜フィルタ
3 毛細管キャビティ
4 保持チャンバー
5 測定チャンバー
6、7 流路
8 大気開放孔
9 上部基板
10 下部基板
100 マイクロチップ
201 作用極
202 対極
203、204 リード
205 絶縁基板
206 カバー
207 スペーサー
208 吸引口
209 空気逃げ孔
210 試薬層
212 キャビティ
310 壁
312 第1のキャビティ
313 入り口
314 流路
315 濾過材料
316 上区画
317 低区画
318 芯
401 連続微小導管
402、403 上部部分
404a-f 毛細管キャビティ
405a-e 導管部分
406a-g 頂部通気孔
407a-f 連結微小導管
408a-f バルブ機能
409 入口ポート
410 出口ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を採取するための注入口と、
前記注入口に連結され前に採取された液体を計量するための毛細管キャビティと、
前記毛細管キャビティに連結され前に計量された液体を保持するための保持チャンバーと、を備え、
前記注入口に多孔質膜フィルタを有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記注入口は、毛細管力の作用により前記液体を採取することを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記毛細管キャビティと前記保持チャンバーとの壁面は、親水性であることを特徴とした請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記多孔質膜フィルタの空孔率は、30〜80%であることを特徴とした請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記多孔質膜フィルタが、親水性であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記多孔質膜フィルタの空孔径は、前記液体に含まれる赤血球が通過する径であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記多孔質膜フィルタの高さおよび幅は、前記注入口の高さおよび幅と等しいことを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記多孔質膜フィルタは、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレンのうち、いずれかを用いることを特徴とした請求項1に記載のマイクロチップ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−174891(P2009−174891A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11257(P2008−11257)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】