説明

マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法およびその方法に用いられるメッキ排水処理用薬液

【課題】メッキ事業所から排出される排水を処理するのに当たり、マイクロバブルを利用して、亜鉛等の重金属類からなる浮遊懸濁物質を被処理水から分離し除去する場合において、浮遊懸濁物質を高効率で捕収して除去することができる方法を提供する。
【解決手段】炭素数8〜14のアルキル基を有するアミンもしくはその塩、または、炭素数8〜14の高級アルコールの硫酸エステルもしくはその塩からなる捕収剤と、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物塩または酸からなる捕収助剤と、炭素数8以下の低級アルコールまたは炭素数8以下の低級ケトンからなる起泡剤とを被処理水に混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メッキ関連の事業所から排出されるメッキ排水に含有される環境規制物質を除去する処理方法、特に、マイクロバブルを利用して亜鉛、鉄、クロム、ニッケル、鉛等の重金属およびその化合物の数十μm以下の大きさの浮遊懸濁物質などを被処理水から分離して除去するメッキ排水処理方法、ならびに、その処理方法において使用されるメッキ排水処理用薬液に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ関連の事業所から排出される排水中に含まれる亜鉛、鉄、クロム、ニッケル、鉛等の重金属類を除去する処理法としては、従来から、メッキ排水中の重金属類を水酸化物や硫化物に変えて凝集剤でフロック化し沈殿させて分離し除去するアルカリ凝集沈殿法や硫化物凝集沈殿法が用いられてきた。これらの凝集沈殿法では、凝集沈殿物を沈降分離した上澄み水を濾過した後に放流する。ところが、濾過装置の性能不足や不良、粒子の微細化などに起因した微粒子の流出の問題があり、一方、近年においては亜鉛等の排出基準が強化される傾向があり、従来の凝集沈殿法による処理だけでは対応しきれない状況が現出している。このため、メッキ業界においては、放流水中の亜鉛、クロム等の重金属濃度をさらに低減させる新たな処理技術が要望されている。
【0003】
ところで、排水中の懸濁物質を除去する技術として、浮遊選鉱法(浮選法)を応用しマイクロバブルを利用した排水処理方法が提案されている。この排水処理技術は、マイクロ(ナノ)バブル発生槽で作製されたマイクロバブル含有水を排水に混合した後、マイクロバブルを含有した排水を加圧浮上槽に導入し、マイクロバブルを排水中の超微細な懸濁物質に付着させ、このマイクロバブルが付着した懸濁物質を浮上させて排水中から分離する、といったものである。そして、マイクロバブル発生槽でのマイクロバブルの発生効率を向上させるために、マイクロバブル発生助剤として界面活性剤をマイクロバブル発生槽に添加したりする(例えば、特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−34683号公報(第5頁、第9頁、図4)
【特許文献2】特開2008−36518号公報(第5頁、第9−10頁、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2等には、マイクロバブルを利用して排水を処理する方法が開示されている。しかしながら、メッキ関連の事業所から排出される排水の処理にマイクロバブルを利用しようとする場合に、単に処理槽内で被処理水とマイクロバブルとを接触させるだけでは、現実的に排水中の浮遊懸濁物質を高効率で分離して除去することができない。また、特許文献1、2には、マイクロバブル発生助剤として界面活性剤を排水に添加することが記載されているが、界面活性剤はマイクロバブルの発生効率を向上させるために添加されるのであって、それによって直接的に浮遊懸濁物質の捕収効果が高まる訳ではない。
【0006】
この発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、メッキ関連事業所から排出される排水を処理するのに当たり、被処理水に含有される亜鉛、鉄、クロム、ニッケル、鉛等の重金属およびその化合物からなる浮遊懸濁物質を被処理水から分離して除去するのに、マイクロバブルを利用する場合において、被処理水中の浮遊懸濁物質を高効率で捕収して除去することができるメッキ排水処理方法を提供すること、ならびに、その処理方法において好適に使用されるメッキ排水処理用薬液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、被処理水を処理槽内でマイクロバブルと接触させ、被処理水中の浮遊懸濁物質をマイクロバブルに付着させて浮上させ、浮遊懸濁物質を被処理水から分離し除去して処理槽の上部から排出するとともに、処理後の排水を処理槽の底部から排出する、マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法において、特定の化合物からなる捕収剤と、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物塩または酸からなる捕収助剤と、炭素数8以下の低級アルコールまたは炭素数8以下の低級ケトンからなる起泡剤とを被処理水に混合し、前記捕収剤として、炭素数8〜14のアルキル基を有するアミンもしくはその塩、または、炭素数8〜14の高級アルコールの硫酸エステルもしくはその塩を使用することを特徴とする。アルキルアミンやアルキル硫酸エステルのアルキル基の炭素数が8より小さくなると、疎水性が弱くなってマイクロバブルへの付着力が不十分となる。一方、アルキルアミンやアルキル硫酸エステルのアルキル基の炭素数が14より大きくなると、水への溶解度が低くなるため取扱い難くなる。
【0008】
上記した捕収剤は、(イ)被処理水中の浮遊懸濁物質に吸着してその粒子表面を疎水性にすることにより、マイクロバブルへの浮遊懸濁物質の付着確率を高める、といった役割のほか、(ロ)被処理水中の、油滴となった油脂汚れに吸着して油脂汚れを浮遊懸濁物質に付着させることにより、油脂汚れを浮遊懸濁物質と共に除去し、(ハ)被処理水中の、浮遊懸濁物質や油脂汚れに吸着してその表面の電位を下げ、粒子間の電気的反発力を低下させることにより、迅速分離に必要とされる凝集体の形成を容易にする、といった役割などを有する。
上記した捕収助剤は、被処理水中の浮遊懸濁物質に吸着して、浮遊懸濁物質への捕収剤の吸着を促進することにより、処理を目的とする金属化合物の除去率を向上させる、といった役割を有する。また、上記した起泡剤は、被処理水でのマイクロバブルの発生、および、金属化合物の分離・除去に必要なマイクロバブルの泡沫層の安定形成を助ける、といった役割を有する。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のメッキ排水処理方法において、前記処理槽内に貯留された被処理水中に、前記捕収剤が0.0001w/v%〜1w/v%の濃度で含まれ、前記捕収助剤および前記起泡剤がそれぞれ1w/v%以下の濃度で含まれるように混合することを特徴とする。捕収剤の濃度が0.0001w/v%より低い場合には、マイクロバブルへの付着力が不十分となり、マイクロバブルによる浮遊懸濁物質の捕収力が低下する。一方、捕収剤の濃度が1w/v%より高くなると、捕収剤がミセルを形成して安定化するため、この場合も浮遊懸濁物質の捕収力が低下することとなる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のメッキ排水処理方法において、前記捕収剤としてn−ドデシルアミン塩酸塩を使用し、前記捕収助剤として水酸化ナトリウムを使用し、前記起泡剤としてエタノールを使用することを特徴とする。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項2に記載のメッキ排水処理方法において、前記捕収剤としてn−ドデシル硫酸ナトリウムを使用し、前記捕収助剤として水酸化ナトリウムを使用し、前記起泡剤としてエタノールを使用することを特徴とする。
【0012】
請求項5に係る発明は、被処理水をマイクロバブルと接触させ被処理水中の浮遊懸濁物質をマイクロバブルに付着させて浮上させ浮遊懸濁物質を被処理水から分離し除去して系外へ排出するために使用されるメッキ排水処理用薬液が、炭素数8〜14のアルキル基を有するアミンもしくはその塩、または、炭素数8〜14の高級アルコールの硫酸エステルもしくはその塩からなる捕収剤と、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物塩または酸からなる捕収助剤と、炭素数8以下の低級アルコールまたは炭素数8以下の低級ケトンからなる起泡剤とを混合して調製されたことを特徴とする。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載のメッキ排水処理用薬液において、前記捕収剤に対する前記捕収助剤および前記起泡剤の混合割合がそれぞれ重量比で1以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項6に記載のメッキ排水処理用薬液において、前記捕収剤がn−ドデシルアミンであり、前記捕収助剤が水酸化ナトリウムであり、前記起泡剤がエタノールであることを特徴とする。
【0015】
請求項8に係る発明は、請求項6に記載のメッキ排水処理用薬液において、前記捕収剤がn−ドデシル硫酸ナトリウムであり、前記捕収助剤が水酸化ナトリウムであり、前記起泡剤がエタノールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明のメッキ排水処理方法によると、メッキ関連事業所から排出されるメッキ排水をアルカリ剤で中和処理した排水やそれをさらに凝集沈殿処理した排水などの被処理水に含有される重金属およびその化合物からなる浮遊懸濁物質を、マイクロバブルを利用して被処理水中から高効率で除去することができる。そして、この処理方法では、メッキ工程で排出される油脂汚れが被処理水中に混入していても浮遊懸濁物質の除去効果は変わらず、また、被処理水中に混入した油脂汚れも同時に除去することができ、このため、処理水(放流水)中のBOD(生化学的酸素要求量)もしくはCOD(化学的酸素要求量)や有機物の浮遊懸濁物質の濃度も低減させることができる。このように、このメッキ排水処理方法によると、多くの環境規制物質を規制値以下の濃度に低減させて放流することが可能となる。また、凝集沈殿法を用いただけの従来の排水処理方式において微粒子(浮遊懸濁物質)を濾過するために使用されていた濾過装置を設置する必要が無くなり、また、濾過装置の逆洗浄や濾過材の交換といった面倒なメンテナンス作業が不要となる。さらに、メッキ関連事業所から排出されるメッキ排水をアルカリ剤で中和処理しただけの排水を被処理水とするときは、凝集剤でフロック化する処理や沈殿(沈降)処理の操作が不要となり、またそのための設備が不要となる。
【0017】
請求項2ないし請求項4に係る各発明のメッキ排水処理方法では、請求項1に係る発明の上記効果が確実に得られる。
【0018】
請求項5に係る発明のメッキ排水処理用薬液を使用してマイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法を実施すると、メッキ関連事業所から排出されるメッキ排水をアルカリ剤で中和処理した排水やそれをさらに凝集沈殿処理した排水などの被処理水に含有される重金属およびその化合物からなる浮遊懸濁物質を、マイクロバブルを利用して被処理水中から高効率で除去することができる。
【0019】
請求項6ないし請求項8に係る各発明のメッキ排水処理用薬液を使用すると、請求項5に係る発明の上記効果が確実に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明に係るメッキ排水処理方法による効果を確認するための実験に使用した装置の概略構成図である。
【図2】上記した実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられたn−ドデシルアミン塩酸塩のモル濃度と各種重金属の残留濃度との関係を示すものである。
【図3】第2の実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられた各種アルキルアミン塩酸塩のモル濃度と亜鉛の残留濃度との関係を示すものである。
【図4】第3の実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられたn−ドデシル硫酸ナトリウムのモル濃度と各種重金属の残留濃度との関係を示すものである。
【図5】第4の実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられた2種のアルキル硫酸ナトリウムのモル濃度と亜鉛の残留濃度との関係を示すものである。
【図6】この発明に係るメッキ排水処理方法を実施するために使用される装置構成の1例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の最良の実施形態について説明する。
この発明に係る排水処理方法において処理の対象となる被処理水は、メッキ関連の事業所から排出されるメッキ排水であって、そのメッキ排水をアルカリ剤で中和処理して亜鉛、鉄、クロム、ニッケル、鉛等の重金属イオンを水酸化物に変えたりメッキ排水を硫化ソーダ等で処理して重金属イオンを金属硫化物に変えたりして重金属類を粒子化した後の排水、この排水を凝集剤でフロック化し沈殿物とした後の排水、あるいは、その排水から凝集沈殿物を沈降分離した後の上澄み水である。また、場合によっては、凝集沈殿物を沈降分離した後の上澄み水を濾過装置で濾過した後の現状の放流水を被処理水としてもよい。そして、この排水処理方法では、被処理水を処理槽内でマイクロバブルと接触させることにより、被処理水中の亜鉛等の重金属およびその化合物の数十μm以下の大きさの浮遊懸濁物質をマイクロバブルに付着させて浮上させ、浮遊懸濁物質を被処理水から分離して除去する。
【0022】
被処理水中にマイクロバブルを発生させるマイクロバブル発生器としては、市販されているものを使用すればよい。マイクロバブルは、一般に直径が1μm〜数十μmである微細な気泡のことであるが、ここでは、マイクロバブル発生後の収縮運動により直径が数百nm以下となった超微細な気泡(ナノバブル)も含有したものをマイクロバブルと呼ぶこととする。
【0023】
この排水処理方法では、捕収剤と捕収助剤と起泡剤とを混合して調製された薬液を使用し、その薬液を被処理水に混合する。
捕収剤は、被処理水中の浮遊懸濁物質に吸着してその粒子表面を疎水性にし、マイクロバブルとの浮遊懸濁物質の付着確率を高める、といった目的で被処理水に添加される。また、捕収剤を被処理水に添加することにより、被処理水中の、油滴となった油脂汚れに吸着して油脂汚れを浮遊懸濁物質に付着させ、油脂汚れを浮遊懸濁物質と共に除去したり、被処理水中の、浮遊懸濁物質や油脂汚れに吸着してその表面の電位を下げ、粒子間の電気的反発力を低下させて、迅速分離に必要とされる凝集体の形成を容易にする、といった役割などを果たす。このような捕収剤として、炭素数8〜14のアルキル基(C2n+1−、n=8〜14)を有するアミンまたはそれの酸との中和塩が使用される。アルキル基は、直鎖状構造のものに限らない。また、アミンは、第一級アミンに限らず、第二級アミンや第三級アミン、第四級アンモニウムであってもよい。塩は、塩酸塩、酢酸塩、硝酸塩または硫酸塩である。具体的には、陽イオン性界面活性剤であるn−オクチルアミン塩酸塩、n−ノニルアミン塩酸塩、n−デシルアミン塩酸塩、n−ドデシルアミン塩酸塩、n−トリデシルアミン塩酸塩、n−テトラデシルアミン塩酸塩などが捕収剤として使用される。あるいは、捕収剤として、炭素数8〜14の高級アルコールの硫酸エステル(アルキル硫酸エステル)またはその塩が使用される。具体的には、陰イオン性界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムが捕収剤として使用される。捕収剤の添加量は、被処理水中の濃度が例えば0.0001w/v%〜1w/v%となるように設定される。
【0024】
捕収助剤は、被処理水中の浮遊懸濁物質に吸着して、浮遊懸濁物質への捕収剤の吸着を促進する、といった目的で被処理水に添加される。このような捕収助剤は、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物塩または酸からなり、被処理水への添加によって被処理水のpHが調整される。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどが捕収助剤として使用され、また塩酸、硫酸、硝酸などが捕収助剤として使用される。また、起泡剤は、被処理水でのマイクロバブルの発生およびマイクロバブルの泡沫層の安定形成を助ける、といった目的で被処理水に添加される。このような起泡剤として、炭素数8以下の低級アルコールまたは炭素数8以下の低級ケトンが使用される。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどが起泡剤として使用され、またメチルイソブチルケトン、メチルイソブチルカービノールなどが起泡剤として使用される。捕収助剤および起泡剤の各添加量は、被処理水中の濃度が例えばそれぞれ1w/v%以下となるように設定される。また、捕収剤に対する捕収助剤および起泡剤の各混合割合は、例えばそれぞれ重量比で1以下とされる。
【0025】
次に、この発明に係る排水処理方法を実施したときの効果を確認するための実験およびその実験結果について説明する。
排水試料としては、メッキ事業所から排出されるメッキ排水をアルカリ剤で中和処理しただけの(凝集沈殿処理していない)第2pH調整水(以下、「中和原水」という)を用いた。排水試料中の亜鉛濃度は、100ppm程度であった。実験には、図1に示すように、内径60mm、高さ500mm(内容積:約1.4l)のアクリル製円筒容器1の底部にJIS呼称No.5(細孔の大きさ:4μm〜5.5μm )のガラスフィルター板2を取り付け、円筒容器1の底から窒素ガスを吹き込むことにより微細気泡(直径:数μm)の発生させることができるようにし、円筒容器1の底部に処理水を抜き取るための側孔3を設けた実験装置を使用した。
【0026】
第1の実験は、以下のようにして行った。
中和原水1000mlに、捕収剤としてn−ドデシルアミン塩酸塩を各種の濃度となるように添加し、起泡剤としてエタノール2mlを添加し(エタノール濃度:0.2%)、さらに捕収助剤として水酸化ナトリウムを添加した後、中和原水を5分間攪拌してエージングした。このとき、水酸化ナトリウムの添加により、中和原水のpHは7.6−8.4に調整された。この中和原水1000mlを円筒容器1内に注ぎ込み、円筒容器1の底から30ml/分の流量で窒素ガスを円筒容器1内へ吹き込んだ。これにより、中和原水中にマイクロバブルが発生して、円筒容器1内の中和原水が白濁した。そして、マイクロバブルによって沈殿粒子(浮遊懸濁物質)が水面まで浮上させられ、水面付近に沈殿粒子が凝縮された液層が形成された。処理を始めてから10分後に、円筒容器1の底部の側孔3から処理水を抜き取り、処理水中に残留した亜鉛(Zn)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)およびマンガン(Mn)の各濃度の分析を行った。
【0027】
残留亜鉛濃度等の分析は、JIS K 0102に準拠し次のようにして行った。
処理水から試料水50mlを採取し、その試料水に硝酸2.5mlを添加し、この液を約10mlとなるまで濃縮した後、その濃縮液に内標(イットリウム:1000ppm)を0.5ml加え、全量が50mlとなるようにメスアップしたものを分析に供した。分析は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICAP−55:日本ジャーレルアッシュ株式会社製)を使用し、内部標準法によって行った。
【0028】
図2は、実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられたn−ドデシルアミン塩酸塩のモル濃度(mmol/l)と各種重金属の残留濃度との関係を示すものであり、上側のグラフは、縦軸における濃度を0−100ppmのスケールで表し、下側のグラフは、縦軸における濃度を0−10ppmのスケールで表したものである。なお、n−ドデシルアミン塩酸塩のモル質量は221.81g/molである。
【0029】
図2に示した実験結果から、捕収剤、捕収助剤および起泡剤を適量だけ中和原水に添加してマイクロバブルで浮遊選別を行うことにより、分析対象としたすべての重金属について環境規制値以下、例えば2ppm以下となるような濃度まで浄化処理することができることが分かった。また、捕収剤の濃度が0.0001%〜1%の範囲内であれば中和原水中から重金属を良好に除去することができるが、その濃度範囲の下限を下回っても、また上限を超えても、そのような濃度領域では環境規制値以下となるような濃度まで重金属を除去することが困難であることが分かった。
【0030】
また、アルキルアミンのアルキル基の炭素数を種々に変えて行った第2の実験について説明する。
第2の実験では、捕収剤としてn−オクチルアミン塩酸塩(C17NH・HCl:C)、n−デシルアミン塩酸塩(C1021NH・HCl:C10)、n−ドデシルアミン塩酸塩(C1225NH・HCl:C12)およびn−テトラデシルアミン塩酸塩(C1429NH・HCl:C14)をそれぞれ使用し、また、濃度分析は、処理水中に残留した亜鉛についてだけ行った。それ以外の実験方法および濃度の分析方法は、上記した第1の実験と同じである。
【0031】
図3は、第2の実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられた各種アルキルアミン塩酸塩のモル濃度(mmol/l)と亜鉛の残留濃度との関係を示すものであり、上側のグラフは、縦軸における濃度を0−100ppmのスケールで表し、下側のグラフは、縦軸における濃度を0−10ppmのスケールで表したものである。この実験結果から、捕収剤、捕収助剤および起泡剤を適量だけ中和原水に添加し捕収剤であるアルキルアミンのアルキル基の炭素数を変えてマイクロバブルで浮遊選別を行ったとき、検討したいずれのアルキルアミン塩酸塩でも残留亜鉛の濃度を環境規制値以下(2ppm以下)となるように低減させることができることが分かった。そして、モル濃度でみた場合に、アルキルアミンのアルキル基の炭素数が増加するほど、より低濃度領域で亜鉛の除去効果があることが分かった。また、捕収剤の濃度が0.0001%〜1%の範囲の下限を下回ってもまた上限を超えても、環境規制値以下となるような濃度まで亜鉛を除去することが困難であることが分かった。
【0032】
次に、捕収剤をアルキル硫酸エステルに変えて行った第3の実験について説明する。
第3の実験では、中和原水1000mlに、捕収剤としてn−ドデシル硫酸ナトリウムを各種の濃度となるように添加し、起泡剤としてエタノール2mlを添加し(エタノール濃度:0.2%)、さらに、中和原水のpHが8.5となるように捕収助剤として水酸化ナトリウムを添加した後、中和原水を5分間攪拌してエージングした。以後の操作および濃度の分析方法は、上記した第1の実験と同じである。
【0033】
図4は、第3の実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられたn−ドデシル硫酸ナトリウムのモル濃度(mmol/l)と各種重金属の残留濃度との関係を示すものであり、上側のグラフは、縦軸における濃度を0−70ppmのスケールで表し、下側のグラフは、縦軸における濃度を0−10ppmのスケールで表したものである。なお、n−ドデシル硫酸ナトリウムのモル質量は288.38g/molである。
【0034】
図4に示した実験結果から、捕収剤としてアルキル硫酸エステルを使用し、その捕収剤と共に捕収助剤および起泡剤を適量だけ中和原水に添加してマイクロバブルで浮遊選別を行うことにより、分析対象としたすべての重金属について環境規制値以下、例えば2ppm以下となるような濃度まで浄化処理することができることが分かった。また、また、捕収剤の濃度が0.0001%〜1%の範囲の下限を下回ってもまた上限を超えても、環境規制値以下となるような濃度まで重金属を除去することが困難であることが分かった。
【0035】
また、アルキル硫酸エステルのアルキル基の炭素数を変えて行った第4の実験について説明する。
第4の実験では、捕収剤としてn−ドデシル硫酸ナトリウム(C1225OSONa:C12)およびn−テトラデシル硫酸ナトリウム(C1429OSONa:C14)をそれぞれ使用し、また、濃度分析は、処理水中に残留した亜鉛についてだけ行った。それ以外の実験方法および濃度の分析方法は、上記した第3の実験と同じである。
【0036】
図5は、第4の実験の結果を示すグラフであって、捕収剤として用いられた2種のアルキル硫酸ナトリウムのモル濃度(mmol/l)と亜鉛の残留濃度との関係を示すものであり、上側のグラフは、縦軸における濃度を0−70ppmのスケールで表し、下側のグラフは、縦軸における濃度を0−10ppmのスケールで表したものである。この実験結果から、捕収剤、捕収助剤および起泡剤を適量だけ中和原水に添加し捕収剤であるアルキル硫酸エステルのアルキル基の炭素数を変えてマイクロバブルで浮遊選別を行ったとき、検討した2種のアルキル硫酸エステルにいずれによっても残留亜鉛の濃度を環境規制値以下(2ppm以下)となるように低減させることができることが分かった。そして、モル濃度でみた場合に、アルキル硫酸エステルのアルキル基の炭素数が大きい方が、より低濃度領域で亜鉛の除去効果があることが分かった。また、捕収剤の濃度が0.0001%〜1%の範囲の下限を下回ってもまた上限を超えても、環境規制値以下となるような濃度まで亜鉛を除去することが困難であることが分かった。
【0037】
上記した実験では、排水試料を回分処理したが、実際のメッキ排水処理では排水を連続処理する。図6に、連続処理を行う装置構成の1例を概略的に示す。
このメッキ排水処理装置は、二重壁構造の処理槽10を備えている。処理槽10は、鉛直方向に立設された円筒状の外槽12、この外槽12の内側に、その底部付近から中程まで延びるように配設された円筒状の内槽14、および、外槽12の上部外壁に、その上部を取り囲むように取り付けられた角形の廃液受け槽16から構成され、外槽12の内周面と内槽14の外周面との間に処理水の排出通路18が形成されている。処理槽10の底部には、サイホン式レベル管20が連通して接続されており、処理槽10内へ流入した被処理水の流量に相当する流量の処理水がサイホン式レベル管20を通って排出されるように構成されている。また、処理槽10の上部には、浮上汚泥、すなわちマイクロバブルによって水面付近まで浮上させられた沈殿粒子(浮遊懸濁物質)が凝縮された液層を廃液受け槽16へ掻き出すための掻取り機22が設置されている。処理槽10の内槽14の底部近傍には、被処理水の流入口24が設けられており、その流入口24に被処理水の供給管26が連通して接続されている。
【0038】
また、メッキ排水処理装置には、薬液混合槽28が併設されている。薬液混合槽28には、被処理水、例えば中和原水の送液管30が流路接続され、メッキ事業所から排出されるメッキ排水を中和剤で中和処理した後の中和原水が送液管30を通って薬液混合槽28内へ送り込まれる。また、薬液混合槽28には、薬液タンク32が付設されている。薬液タンク32内には、n−ドデシルアミン塩酸塩、n−ドデシル硫酸ナトリウム等の捕収剤と水酸化ナトリウム等の捕収助剤とエタノール等の起泡剤とを所定割合で混合して調製されたメッキ排水処理用薬液34が貯留されている。この薬液タンク32内から薬液供給管36を通って薬液混合槽28内へ薬液34が注ぎ込まれ、薬液混合槽28内の中和原水38に薬液34が混合される。薬液混合槽28には攪拌機40が設置されており、攪拌機40によって中和原水38が攪拌される。
【0039】
薬液混合槽28内に一旦貯留され薬液34が混合された中和原水38は、供給管26を通って処理槽10へ送給される。供給管26には、送液ポンプ42、流量調整弁44および流量計46が介挿されている。また、供給管26には、サイホン式レベル管20の途中から分岐した液循環管48が連通接続されている。液循環管48には、循環ポンプ50および空気吹込み型のマイクロバブル発生器52が介設されており、マイクロバブル発生器52に、圧縮空気供給源に流路接続されたエアー管54が連通接続されている。そして、処理槽10内からレベル管20を通って排出される処理水の一部が液循環管48内へ流入し、マイクロバブル発生器52を通過する間に加圧空気と混和されてマイクロバブル含有水が生成され、供給管26を通って処理槽10へ送給される中和原水にマイクロバブル含有水が合流して、マイクロバブルを含有した中和原水が処理槽10内へ流入するように構成されている。
【0040】
図6に示した構成の装置において、マイクロバブルを含有した中和原水が処理槽10内へ連続して供給される。処理槽10内には、内槽14の底部から上部へ向かい内槽14の上端部で反転して排出通路18内へ入り排出通路18内を下部に向かう液の流れが生じる。そして、処理槽10内へ供給される中和原水の流量に相当する流量の処理水が、処理槽10内からサイホン式レベル管20を通って排出される。処理槽10内に流入した中和原水は、内槽10の内部を上方に向かって流れる間に、中和原水中の浮遊懸濁物質がマイクロバブルに付着して浮上する。そして、マイクロバブルに付着した浮遊懸濁物質が処理槽10の上端部まで浮上させられ、水面付近に浮遊懸濁物質が凝縮された液層(汚泥層)が形成される。この凝縮液層を掻取り機22によって外側に掻き寄せ、廃液受け槽16内へ流出させ、亜鉛等の重金属類を含んだ廃液として排出し回収する。一方、重金属類が分離して除去された処理水は、排出通路18内を下向きに流れて処理槽10内から流出し、サイホン式レベル管20を通って放流水として排出され、処理水の一部は液循環管48を通して循環する。
【0041】
図6に示したような構成の装置を使用して中和原水の排水処理を行うことにより、処理水中における亜鉛およびその化合物やクロムおよびその化合物の濃度を2ppmといった環境規制値以下の濃度まで低減させることができ、また、カドミウムおよびその化合物、鉛およびその化合物、銅およびその化合物、鉄およびその化合物、ニッケルおよびその化合物などについても環境規制値以下の濃度まで低減させた処理水を得ることが可能となる。そして、それらの除去効果は、メッキ工程で排出される油脂汚れが被処理水中に混入していても変わらず、また、被処理水中に混入した油脂汚れも同時に除去することができる。このため、処理水中のBODもしくはCODや有機物の浮遊懸濁物質の濃度も、例えば600ppm以下の濃度まで低減させて放流することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
この発明に係るメッキ排水処理方法は、メッキ関連の事業所においてメッキ排水中の環境規制物質を除去するために適用されて、水質汚濁防止・環境保全に役立つものであり、また、メッキ関連の事業所における環境汚染対策費の負担やメンテナンス作業の軽減に寄与し得る。
【符号の説明】
【0043】
10 処理槽
12 処理槽の外槽
14 処理槽の内槽
16 廃液受け槽
18 処理水の排出通路
20 サイホン式レベル管
26 被処理水の供給管
28 薬液混合槽
30 被処理水(中和原水)の送液管
32 薬液タンク
34 メッキ排水処理用薬液
36 薬液供給管
38 中和原水
42 送液ポンプ
48 液循環管
50 循環ポンプ
52 マイクロバブル発生器
54 エアー管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を処理槽内でマイクロバブルと接触させ、被処理水中の浮遊懸濁物質をマイクロバブルに付着させて浮上させ、浮遊懸濁物質を被処理水から分離し除去して処理槽の上部から排出するとともに、処理後の排水を処理槽の底部から排出する、マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法において、
炭素数8〜14のアルキル基を有するアミンもしくはその塩、または、炭素数8〜14の高級アルコールの硫酸エステルもしくはその塩からなる捕収剤と、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物塩または酸からなる捕収助剤と、炭素数8以下の低級アルコールまたは炭素数8以下の低級ケトンからなる起泡剤とを被処理水に混合することを特徴とする、マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法。
【請求項2】
前記捕収剤、前記捕収助剤および前記起泡剤は、前記処理槽内に貯留された被処理水中の濃度がそれぞれ0.0001w/v%〜1w/v%、1w/v%以下および1w/v%以下となるように混合される請求項1に記載の、マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法。
【請求項3】
前記捕収剤がn−ドデシルアミン塩酸塩であり、前記捕収助剤が水酸化ナトリウムであり、前記起泡剤がエタノールである請求項2に記載の、マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法。
【請求項4】
前記捕収剤がn−ドデシル硫酸ナトリウムであり、前記捕収助剤が水酸化ナトリウムであり、前記起泡剤がエタノールである請求項2に記載の、マイクロバブルを利用したメッキ排水処理方法。
【請求項5】
被処理水をマイクロバブルと接触させ被処理水中の浮遊懸濁物質をマイクロバブルに付着させて浮上させ浮遊懸濁物質を被処理水から分離し除去して系外へ排出するために使用されるメッキ排水処理用薬液であって、
炭素数8〜14のアルキル基を有するアミンもしくはその塩、または、炭素数8〜14の高級アルコールの硫酸エステルもしくはその塩からなる捕収剤と、
アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の水酸化物塩または酸からなる捕収助剤と、
炭素数8以下の低級アルコールまたは炭素数8以下の低級ケトンからなる起泡剤と、
を混合して調製されたことを特徴とするメッキ排水処理用薬液。
【請求項6】
前記捕収剤に対する前記捕収助剤および前記起泡剤の混合割合がそれぞれ重量比で1以下である請求項5に記載のメッキ排水処理用薬液。
【請求項7】
前記捕収剤がn−ドデシルアミンであり、前記捕収助剤が水酸化ナトリウムであり、前記起泡剤がエタノールである請求項6に記載のメッキ排水処理用薬液。
【請求項8】
前記捕収剤がn−ドデシル硫酸ナトリウムであり、前記捕収助剤が水酸化ナトリウムであり、前記起泡剤がエタノールである請求項6に記載のメッキ排水処理用薬液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−24729(P2012−24729A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167656(P2010−167656)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(591097702)京都府 (19)
【Fターム(参考)】