説明

マイクロビーズ作製方法及びマイクロビーズ

【課題】多種類のマイクロビーズを含むビーズセットであって、各マイクロビーズのポピュレーションが明確なビーズセットを供給できるマイクロビーズ作製方法の提供。
【解決手段】基板上に製膜された薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する成形工程S2と、成形後の前記薄膜上に所定の物質を固相化する固相化工程S5と、前記物質が固相化された成形後の前記薄膜を前記基板から剥離する剥離工程S6と、を含むマイクロビーズ作製方法を提供する。このマイクロビーズ作製方法によれば、フォトマスクの形状を設計することで、任意の多形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロビーズ作製方法及びマイクロビーズに関する。より詳しくは、所定の物質が表面に固相化されたマイクロビーズを、基板上でのフォトリソグラフィーによって作製するマイクロビーズ作製方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸やタンパク等を対象とした生化学分析において、従来、「マイクロビーズ」と称される粒子状担体が用いられている。例えば、核酸分析においては、標的核酸鎖に対して相補的な塩基配列を有するプローブ核酸鎖を表面に固相化したマイクロビーズを用いて、標的核酸鎖とプローブ核酸鎖の相互作用に基づき、標的核酸鎖を分離することが行われている。また、タンパク分析では、表面に標的タンパクに対する抗体を固相化したマイクロビーズを用いて、同様に標的タンパクを分離することが行われている。
【0003】
近年、これらのマイクロビーズを用いた生化学分析では、一層のハイスループット化が求められており、分析の高速化を図るための技術が開発されてきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「試料内の多数の分析物であり、それぞれの分析反応物によって認識される分析物を検出する方法であって、a)集団のそれぞれが異なる蛍光シグナル及び異なる分析反応物を有する蛍光粒子の集団であり、前記分析反応物が特異的に試料内の1つの分析物に結びつき、前記各蛍光粒子がそれぞれの蛍光染料で標識された少なくとも1つのナノ粒子を表面に有してなる蛍光粒子の集団を多数、試料と接触させ、b)標識試薬へ前記試料を加え、c)前記標識を検出することにより、前記分析反応物が分析物に結びついたことを示す前記蛍光粒子を分析し、同時に、d)前記各集団に関連付けられた前記異なる蛍光シグナルの機能から、それぞれの分析物と結びついた前記蛍光粒子の集団を決定すること、を含んでなる方法。」(請求項23参照)が開示されている。
【0005】
この技術に基づきLuminex社が提供する「Suspension Array Technology」では、2種類の蛍光色素を発光の色味に変化を持たせてマイクロビーズに標識することにより、最大100種類のマイクロビーズを識別することが可能である。「Suspension Array Technology」によれば、100種類のマイクロビーズに、それぞれ異なるプローブ核酸鎖や抗体を固相化することによって、一回の分析で100種類の異なる核酸鎖やタンパクを同時に分離、検出することが可能である。
【0006】
また、上記文献には、「前記蛍光粒子の集団がさらに、それらのサイズと形状によって決定される」(請求項25参照)と記載され、マイクロビーズを識別するための追加的なパラメータとして、ビーズのサイズや形状を採用できる旨が開示されている(当該文献段落0037等参照)。これに関連して、非特許文献1には、流路中でのフォトリソグラフィーによって、多数の形状の異なるマイクロビーズを作製する方法が記載されている。この方法によれば、100万種類を超えるマイクロビーズを作製することが可能となる。
【0007】
【特許文献1】特許第3468750号公報
【非特許文献1】Multifunctionalencoded particles for high-throughput biomolecule analysis.・Science, 2007, Mar 9;315(5817):1393-6.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1や非特許文献1に開示される蛍光特性や形状の異なる超多種類のマイクロビーズは、それぞれ異なるプローブ核酸鎖や抗体を固相化した後、混合され、ビーズセットとして用いられる。このビーズセットと標的核酸鎖等を含むサンプルとを混合し、洗浄を行った後、各マイクロビーズとその表面に捕捉された標的核酸鎖等を光学的もしくは磁気的、電気的シグナルによって検出する。
【0009】
このとき、高い分析精度を得るためには、ビーズセット中に含まれる各マイクロビーズの数が明確となっている必要がある。例えば、最も簡単な例として、2種類のマイクロビーズ間のシグナル強度を比較する場合、仮に、ビーズセット中に含まれる両マイクロビーズの数(ポピュレーション)が不明である場合、得られたシグナル強度を比較することができない。この場合、シグナル強度を正確に比較分析するためには、両マイクロビーズが同数ずつ含まれていることが望ましく、もしくは、同数でないとしても両ビーズの数の比率が既知である必要がある。
【0010】
従来、ビーズセットのポピュレーションは、製造後の各マイクロビーズを重量や吸光度に基づいて定量し、混合することによって調整されていた。しかし、この方法では、各ビーズの数を厳密に調整することはできず、ポピュレーションにばらつきが生じて、高い分析精度を得るための障害となっていた。
【0011】
そこで、本発明は、多種類のマイクロビーズを含むビーズセットであって、各マイクロビーズのポピュレーションが明確なビーズセットを供給できるマイクロビーズ作製方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題解決のため、本発明は、基板上に製膜された薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する成形工程と、成形後の前記薄膜上に所定の物質を固相化する固相化工程と、前記物質が固相化された成形後の前記薄膜を前記基板から剥離する剥離工程と、を含むマイクロビーズ作製方法を提供する。このマイクロビーズ作製方法によれば、フォトリソグラフィーに用いるフォトマスクの形状を設計することで、任意の多形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数作製することができる。
このマイクロビーズ作製方法では、前記基板上に、前記剥離工程において物理的あるいは化学的に侵食され得る犠牲層を積層した後、前記薄膜の製膜を行うことが望ましい。犠牲層の上層に薄膜を製膜することにより、剥離工程において薄膜を剥離し易くすることができる。
また、このマイクロビーズ作製方法では、前記成形工程後、前記固相化工程前に、成形後の前記薄膜間の基板領域に撥水加工を行うことが望ましい。これにより、成形後の薄膜表面に滴下される溶液が互いに混じり合うことを防止して、各マイクロビーズに所望の物質を固相化することが可能となる。
さらに、前記固相化工程は、前記薄膜上における前記物質の化学合成によって行うことができる。
このマイクロビーズ作製方法において、前記薄膜は、フォトレジスト又は二酸化珪素により形成されることが好適である。また、前記犠牲層は、フッ素系有機材料層、又は前記基板表面の表面カップリング剤処理層、若しくは金属酸化物層により形成されることが好適である。
犠牲層をフッ素系有機材料層により形成した場合には、前記剥離工程において、前記フッ素系有機材料層を昇華させることにより、又はフッ素系溶剤を用いて溶解させることにより、成形後の前記薄膜を前記基板から剥離することができる。
【0013】
本発明は、また、上記マイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズをも提供する。
このマイクロビーズは、略平行に対向する2つの面を備える立体形状を有し、これらの面の一方のみに所定の物質が固相化されたものである。
【0014】
本発明において、薄膜上、すなわち、マイクロビーズ上に固相化される「物質」には、マイクロビーズを用いた生化学分析において、分析対象とする標的核酸や標的タンパク質等と相互作用し得る物質が広く含まれるものとする。この物質は、特に好適には、所定配列核酸又はペプチド、糖鎖から選択される生体高分子であって、標的核酸等と相互作用し得る分子が含まれるものとする。「生体高分子」が核酸である場合、該核酸は所定の塩基配列の核酸である。そして、「相互作用」とは、相補的な塩基配列を有する核酸間の二本鎖形成である。また、「生体高分子」がペプチドである場合、該ペプチドは所定のアミノ酸配列のペプチドである。そして、「相互作用」とは、例えば受容体タンパクとリガンドタンパク間との結合や抗原と抗体との間の結合のようなタンパク質間結合である。さらに、「生体高分子」が糖鎖である場合、該糖鎖は単糖の結合鎖や、この結合鎖に脂質やタンパク質がさらに結合したものであり、オリゴ糖や糖脂質、糖タンパク質などである。その他、この「物質」には、小分子としての各種化合物が含まれるものとする。これらの化合物は、生化学分析の対象となる標的核酸や標的タンパク質等に結合し得るものであり、核酸やタンパク質の機能を促進又は阻害し得るような化合物であって、創薬領域においていわゆる「シーズ化合物」となるものである。なお、本発明において「核酸」には、DNAやRNAの他、これらのリボース部分の構造を改変して得られる核酸類似体(例えば、LNA(Locked Nucleic Acid))等も含み得るものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、多種類のマイクロビーズを含むビーズセットであって、各マイクロビーズのポピュレーションが明確なビーズセットを供給できるマイクロビーズ作製方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
1.マイクロビーズ及びビーズセット
図1は、本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズ及びビーズセットを示す模式図である。
【0018】
図1中、符号1で示すビーズセットは、略円柱形状のマイクロビーズ11と、略立方体形状のマイクロビーズ12と、の2種類のマイクロビーズから構成されている。本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズは、このような略平行に対向する2つの面を備えた立体形状を有している。
【0019】
マイクロビーズ11とマイクロビーズ12は、全体の形状が異なっており、この形状の違いに基づき一般的な画像識別手段によって弁別可能とされている。ビーズセット1には、これらマイクロビーズ11及びマイクロビーズ12が、それぞれ所定数ずつ(図1では、4つずつ)含まれている。
【0020】
本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズセットは、このように形状の異なる複数種のマイクロビーズを所定数ずつ含み、その数が明確であることを特徴としている。
【0021】
ビーズセット1中に含まれる各マイクロビーズの数は任意数に設定できる。図1では、簡略化のため、略円柱形状と略立方体形状の2種類のマイクロビーズをそれぞれ4つずつ示したが、ビーズセット1中に含まれるマイクロビーズは3種以上であってよく、各マイクロビーズの数は異なる数であってもよい。また、各マイクロビーズの形状は、一般的な画像識別手段によって弁別可能な限りにおいて任意に設計し得るものである。
【0022】
マイクロビーズ11表面には、図1中、符号P11で示す核酸又はペプチド、糖鎖などの生体高分子や小分子(以下、「核酸等」という)が固相化されている。これらの物質は、マイクロビーズ11表面のうち、略平行に対向する2つの面のうち一方(図では、上面)のみに固相化されていることが特徴である。
【0023】
核酸等P11は、分析対象に応じて、所定の塩基配列又はアミノ酸配列とできる。さらに、核酸等P11は、糖鎖や各種化合物とすることもできる。以下、核酸等P11を核酸又はペプチドとする場合を中心に説明する。
【0024】
例えば、分析対象を核酸とする場合には、その標的核酸鎖に対して相補的な塩基配列を有する核酸鎖が核酸等P11として固相化される。これにより、サンプル中の標的核酸鎖を、核酸等P11とのハイブリダイズ(二本鎖)形成によってマイクロビーズ11上に捕捉し、分離することができる。なお、核酸鎖等P11の塩基数(長さ)は任意であり、標的核酸鎖の塩基配列の少なくとも一部に相補的な塩基配列を有し、二本鎖形成が可能な限りにおいて、塩基数は特に限定されない。通常、核酸鎖等P11の塩基数は、数塩基〜数十塩基であり、好ましくは10塩基〜30塩基程度である。
【0025】
また、例えば、分析対象をタンパクとする場合には、その標的タンパク(例えば、レセプタータンパク)と相互作用し得るペプチド(例えば、リガンドタンパクの一部アミノ酸配列)が核酸等P11として固相化される。これにより、サンプル中の標的タンパクを、核酸等P11との相互作用によってマイクロビーズ11上に捕捉し、分離することができる。
【0026】
一方、マイクロビーズ12表面には、図1中、符号P12で示す核酸等が固相化されている。核酸等P12も、分析対象とする核酸やタンパクに応じ、所定の塩基配列又はアミノ酸配列とでき、糖鎖や各種化合物とすることもできる。マイクロビーズ12においても、これらの物質は、略平行に対向する2つの面のうち一方(図では、上面)に固相化されている。
【0027】
ここで、マイクロビーズ11表面に固相化する核酸等P11とマイクロビーズ12表面に固相化する核酸等P12とを、例えば塩基配列又はアミノ酸配列を異にする核酸又はペプチドのように異なる物質とすることで、それぞれのマイクロビーズにおいて異なる標的核酸や標的タンパク等を捕捉、分離することができる。
【0028】
そして、マイクロビーズ11、12に捕捉、分離された標的核酸や標的タンパク等を蛍光色素標識による光学検出などによって検出し、同時に画像識別手段によってマイクロビーズ11, 12を弁別することで、2種類の標的核酸や標的タンパク等を同時に分析することができる。
【0029】
例えば、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)分析を行う場合、核酸等P11の塩基配列を一のSNPに対応する塩基配列とし、核酸等P12の塩基配列を他のSNPに対応する塩基配列とする。このビーズセットをサンプルと混合し、マイクロビーズ11上の信号(例えば、蛍光シグナル強度)とマイクロビーズ12上の信号を比較することにより、サンプル中に含まれる核酸のSNP型の比率を判定することができる。
【0030】
このように、ビーズセット1は、それぞれ異なる塩基配列又はアミノ酸配列の核酸鎖又はペプチドを固相化した、形状の異なる複数種類のマイクロビーズから構成されている。これにより、サンプル中に含まれる複数の標的核酸やタンパクを同時に分析することが可能である。
【0031】
この際、先に説明したように、高い分析精度を得るためには、ビーズセット中に含まれる各マイクロビーズの数が明確となっている必要がある。例えば、上記のSNP分析の例において、ビーズセット1中にマイクロビーズ11, 12のポピュレーションが不明である場合、両者から得られる信号を比較して、サンプル中の核酸のSNP型比率を正確に決定することができない。
【0032】
この点、形状の異なる複数種のマイクロビーズの数が明確であるビーズセット1では、例えば、マイクロビーズ11及びマイクロビーズ12の数を精緻に一致させ同数に設定することができ、両者から得られる信号を正確に比較して、高い分析精度を得ることが可能となる。
【0033】
2.マイクロビーズ作製方法
以下、図2を参照しながら、このマイクロビーズ及びビーズセットの作製方法について説明する。図2は、本発明に係るマイクロビーズ作製方法の手順を示すフローチャートである。
【0034】
(1)製膜工程
(A)薄膜の製膜
図2中、符号S1の「製膜工程」は、マイクロビーズの材料となる薄膜を基板上に製膜する工程である。
【0035】
基板には、例えば、ガラス基板やシリコン基板などが用いられる。基板の材質は、特に限定されず、通常のフォトリソグラフィー技術に用いられる材質を適宜採用し得る。
【0036】
これらの基板に、各種のポリマーや二酸化珪素、金属(アルミニウムやクロム、金、銀など)の薄膜を製膜する。製膜は、薄膜の材料に応じて、スピンコーターやスリットコーター、吹き付け等による塗布、又は物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)による蒸着などの従来公知の手法によって行うことができる。薄膜の製膜厚は、作製するマイクロビーズの厚み(図1中、符号h参照)によって適宜設定される。
【0037】
薄膜の材料には、SU-8などのエポキシ系レジストや、ポリイミド系レジスト、アクリル系レジスト、ノボラック系レジストなどのフォトレジストを好適に採用できる。ポリマーフォトレジスト薄膜を用いることで、二酸化珪素薄膜や金属薄膜に比して、低コストにマイクロビーズを作製することができ、かつ、低比重のマイクロビーズを得られる。分析時、マイクロビーズはサンプルと混合され、液相中に分散される。このとき、マイクロビーズの比重が大きいと、液相中での分散状態を長く維持することができない。
【0038】
さらに、ポリマーには、SU-8を採用することが特に好適となる。SU -8は、化学増幅型のエポキシベースのネガ型フォトレジストである。SU-8は、レジストの超薄膜形成技術とフォトリソグラフィー技術とを組み合わせて微細構造を形成するための材料として、米IBM社によって開発された。
【0039】
SU-8はスピンコートによる製膜で簡単に厚みを調整することができる。また、SU-8は高い光透過性を有し、各種溶媒や酸、アルカリに対する耐溶性と耐温性を備えている。従って、このSU-8を用いることにより、様々な厚みのマイクロビーズを簡便に作製することが可能である。また、マイクロビーズの作製工程及びマイクロビーズを用いた分析工程において、安定したパフォーマンスを得ることができる。
【0040】
(B)犠牲層の積層
以上に説明した薄膜の製膜に先立って、基板上に、後述する(6)剥離工程において物理的あるいは化学的に侵食され得る犠牲層を積層しておくことが望ましい。この犠牲層の上層に薄膜を製膜することにより、剥離工程において薄膜を剥離し易くすることができる。
【0041】
犠牲層は、例えば、フッ素系有機材料層や、基板表面のカップリング処理層、金属酸化物層を基板に積層することにより形成できる。フッ素系有機材料層は、例えば、低分子材料としてトリアジンのフッ素誘導体、縮合芳香族のフッ素誘導体、アダマンタンのフッ素誘導体等が用いられる。また、高分子材料のフッ素系有機材料層としては、完全フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素含有光硬化性樹脂等のフッ素樹脂層が挙げられる。フッ素系有機材料は、溶媒に溶解しスピンコートによって製膜した後、乾燥又は光硬化を行うことにより製膜する。
【0042】
表面カップリング層は、例えば、シラン化合物やチタン化合物、ジルコニウム化合物などのカップリング剤を用いて形成できる。また、金属酸化物層は、MgOやNb2O5、Ta2O5、WO3、TiO2、Al2O3、CrO3、Y2O3、ZrO2などを蒸着処理やスパッタによって製膜する。
【0043】
犠牲層は、剥離工程前のビーズ作製の諸工程及び核酸等を固相化する工程において使用される薬液によって、基板上のビーズが剥離するほどの侵食・損傷を受けないものが好ましい。
【0044】
また、犠牲層は、マイクロビーズに固相化された核酸等を変性させたり、遊離させるたりすることなく、剥離工程において侵食され得るものであることが好ましい。マイクロビーズに固相化された核酸等が変性、損傷、遊離等した場合には、標的核酸や標的タンパク等をビーズ上に捕捉することができない。従って、犠牲層は、マイクロビーズに固相化された核酸等の標的核酸や標的タンパク等に対する相互作用能を温存しつつ、侵食され得るものが用いられる。
【0045】
具体的には、犠牲層は、上記のフッ素系有機材料層により形成することが好適である。フッ素系有機材料は、フッ化度を高めるに従って水や有機溶媒に対し難溶性となり、フッ素系溶剤のみに溶解性となる。従って、フッ素系有機材料層により犠牲層を形成すれば、剥離工程前のビーズ作製の諸工程及び核酸等を固相化する工程において使用される薬液により、犠牲層が侵食・損傷を受けることがない。
【0046】
さらに、フッ素系溶剤は電荷を有する高分子と混合し難く、フッ素系高分子以外の高分子を溶かし難い性質を有する。そのため、フッ素系有機材料層により犠牲層を形成し、剥離工程においてフッ素系溶剤を用いて犠牲層を侵食させれば、マイクロビーズに固相化された核酸等を変性、損傷、遊離等させることがない。さらに、フッ素系有機材料層として、特に、トリアジンのフッ素誘導体等の低分子材料を用いれば、剥離工程においてフッ素系有機材料層を昇華させることによりマイクビーズを剥離することができるため、核酸等の標的核酸や標的タンパク等に対する相互作用能を一層確実に温存することができる。
【0047】
フッ素系有機材料の好適なフッ化度は、原子%として30%程度以上である。フッ化度をこの数値範囲とすることで、例えば先に説明した製膜工程S1で使用されるシクロペンタノンや1−メトキシー2−プロピルアセテート等の溶媒に対する耐溶性を備えた犠牲層を形成することができる。
【0048】
犠牲層を金属酸化物により形成する場合には、Nb2O5やTa2O5、WO3、TiO2、Al2O3等はアルカリに溶けやすいため、例えば、以下に説明する(2)成形工程において強アルカリ性の現像液が使用される場合には、犠牲層をMgOやCrO3、Y2O3、ZrO2等によって形成することが望ましい。一般に、ポジ型レジストの現像液には強アルカリ性のものが用いられるが、ネガ型レジストでは有機溶剤を現像液として使用できる。従って、上記SU-8のようなネガ型レジストを用いることは、強アルカリ性の現像液による不適切な犠牲層の侵食を防止する観点からも望ましい。
【0049】
また、強アルカリ性現像液による不適切な侵食を防止するため、MgOやCrO3、Y2O3、ZrO2等によって犠牲層を形成した場合にも、以下に説明する(5)固相化工程において、物質の固相化のため、酸性条件下での反応が行なわれると、やはり犠牲層の不適切な侵食が生じえる。また、逆に、Nb2O5やTa2O5、WO3、TiO2、Al2O3等によって犠牲層を形成した場合、アルカリ条件下での反応で溶侵食されるおそれがある。
【0050】
従って、剥離工程前のビーズ作製の諸工程、及び核酸等を固相化する工程において使用される薬液の条件を考慮すると、犠牲層の材質は上述のフッ素系有機材料が好ましい。
【0051】
(2)成形工程
図2中、符号S2の「成形工程」は、製膜工程S1で製膜した薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する工程である。この工程は、マイクロビーズの材料として、(2-1)SU-8のようなレジストを製膜した場合と、(2-2)二酸化珪素や各種金属を製膜した場合とで、手順が異なる。
【0052】
(2-1)マイクロビーズの材料としてSU-8のようなレジストを製膜した場合
始めに、製膜工程S1で薄膜した薄膜を、必要に応じて加熱し、固化する(プリベーク)。次に、マイクロビーズの形状を描いたフォトマスク(以下、単に「マスク」ともいう)を用いて露光を行う。露光した基板を現像液に浸し、余分な部分の薄膜を除去する。さらに、リンス液(イソプロピルアルコール:IPA)ですすぎ、不要部分を完全に除去する。その後、ポストベークを行うと、基板上に残された薄膜にマイクロビーズの形状が現れる。
【0053】
このとき、作製するマイクロビーズの形状に応じて、マスクの形状を設計することにより、基板上に任意の形状を有するマイクロビーズを成形することが可能となる。また、同様にマスクを任意に設計することによって、様々な形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数成形することが可能である。また、マスクレス露光機を用いれば、フォトマスク作製することなく、同様の任意形状の任意数のマイクロビーズを成形することができる。
【0054】
(2-2)マイクロビーズの材料として二酸化珪素や各種金属を製膜した場合
始めに、薄膜の表面に、通常使用されるレジストをスピンコートし、必要に応じてプリベークを行う。次に、上記と同様のマスクを用いて露光を行う。露光した基板を現像液に浸し、余分な部分のレジストを除去する。さらに、リンス液(主に超純水)で数回すすぎ、不要部分を除去し、ポストベークを行う。その後、薄膜をエッチングによりパターニングした後、レジストを完全に除去する。これにより、基板上に残された薄膜にマイクロビーズの形状が現れる。
【0055】
(3)官能基修飾工程
図2中、符号S3の「官能基修飾工程」は、成形工程S2で成形した薄膜の表面に官能基を修飾する工程である。
【0056】
製膜工程S1において基板上に製膜された薄膜は、成形工程S2によりマイクロビーズとなる部分のみが残され、それ以外の部分は除去される。官能基修飾工程S3では、このマイクロビーズとなる部分の薄膜表面に、次に説明する固相化工程のための官能基修飾を行う。
【0057】
修飾する官能基は、例えば、ヒドロキシル基や、アミノ基、カルボキシル基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレインイミド基などであってよい。基板表面への官能基の修飾は、従来、DNAチップやプロテインチップの製造において、基板表面に核酸鎖やペプチドを固相化するためのリンカーを導入するために行われている。本発明においても、同様の手法を採用し得る。
【0058】
具体例として、薄膜表面にヒドロキシ基を修飾する場合について説明する。この場合、まず、基板表面をアミノプロピルトリエトキシシラン処理した後、基板をγ−バレロラクトンを溶解したジメチルホルムアミド(DMF)に浸漬し、反応させることにより、ヒドロキシル基修飾を行うことができる。又は、基板表面をグリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理した後、基板をテトラエチレングリコールに少量の濃硫酸を添加した混合液中に浸漬し、反応させることにより行うこともできる。
【0059】
この官能基修飾工程S3と、次に説明する撥水加工工程S4は、先に撥水加工工程S4を行った後、官能基修飾工程S3を行ってもよい。なお、これらの工程はともに必須の工程となるものではない。
【0060】
(4)撥水加工工程
図2中、符号S4の「撥水加工工程」は、成形工程S2で成形した薄膜間の基板領域に撥水加工を行う工程である。
【0061】
製膜工程S1において基板上に製膜された薄膜は、成形工程S2によりマイクロビーズとなる部分のみが残され、それ以外の部分は除去される。撥水加工工程S3では、この薄膜が除去された基板領域(成形した薄膜間の基板領域)に、次に説明する固相化工程のための撥水性を付与する。
【0062】
薄膜が除去された基板領域に撥水性を持たせることにより、マイクロビーズとなる薄膜部分に滴下される溶液が互いに混じり合うことを防止することができる。
【0063】
撥水加工は、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、マイクロビーズとなる薄膜部分を一旦通常使用されるレジストでカバーし、薄膜が除去された基板領域をトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理する。その後、レジストを除去することで、マイクロビーズとなる部分以外の基板領域に撥水性を付与できる。又は、レジストでカバーした後、フッ素樹脂をスピンコート、ベークすることによって撥水性を付与することもできる。
【0064】
なお、先に撥水加工工程S4を行った後、官能基修飾工程S3を行う場合には、薄膜が除去された基板領域が撥水加工された後、マイクロビーズとなる部分のみに官能基が修飾されることとなる。
【0065】
(5)固相化工程
図2中、符号S5の「撥水加工工程」は、成形工程S2で成形した薄膜の表面への核酸又はペプチドの固相化を行う工程である。なお、固相化される物質には、核酸及びペプチドの他、糖鎖や各種化合物が含まれる点は上述の通りである。
【0066】
この段階で、基板上にはマイクロビーズとなる部分の薄膜のみが残され、それ以外の基板領域には撥水性が付与されている。固相化工程S5では、このマイクロビーズとなる部分の薄膜表面に、ヌクレオシド溶液又はアミノ酸溶液(以下、「モノマー溶液」と総称する)を滴下し、薄膜上でのステップ合成によって核酸又はペプチドの固相化を行う。
【0067】
核酸又はペプチドのステップ合成は、所望の塩基配列又はアミノ酸配列に従って、マイクロビーズとなる部分の薄膜上に順次対応する塩基又はアミノ酸を含むモノマー溶液を滴下し、結合反応させる合成サイクルを繰り返すことによって行うことができる。
【0068】
例えば、核酸を固相化する場合、まず、ヌクレオシドを含むモノマー溶液をピペットで滴下し、続けて5-エチルチオテトラゾール溶液を滴下して反応させる。洗浄・乾燥後、酸化溶液を滴下し、反応させて、ヌクレオシド亜リン酸トリエステルをヌクレオシドリン酸トリエステルに転化する。洗浄後、無水酢酸/テトラヒドロフラン混合溶液を滴下し、反応させて、官能基修飾工程S3において導入された未反応ヒドロキシル基をキャップ化する。さらに、洗浄・乾燥後、ジクロロ酢酸を含むジクロロメタン溶液を滴下し、基板に連結されたヌクレオシドの5'-ヒドロキシル基からジメトキシトリチル保護基を除去する。この後、洗浄・乾燥を行い、以上の(a)ヌクレオシド連結、(b)洗浄、(c)酸化、(d)洗浄、(e)ジメトキシトリチル保護基の除去及び(f)洗浄の各工程を繰り返し、最後に核酸塩基部の脱保護を行う。これにより、所望の塩基配列の核酸を固相化することができる。
【0069】
また、ペプチドを固相化する場合には、例えば、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を含むモノマー溶液を滴下し、各種縮合方法に従い薄膜上で縮合させる工程を繰り返し、最後に各種保護基を除去する。これにより、所望のアミノ酸配列のペプチドを固相化できる。
【0070】
核酸又はペプチドの固相化は、予め合成した核酸又はペプチドを含む溶液を、マイクロビーズとなる部分の薄膜上に滴下して、官能基修飾工程S3で導入した官能基と結合させることにより、固相化することもできる。
【0071】
モノマー溶液、及び予め合成した核酸又はペプチド溶液の滴下は、ピペットやマイクロディスペンサーによるスポッティングや、インクジェット式のスポッティングにより行うことができる。
【0072】
(6)剥離工程
図2中、符号S6の「剥離工程」は、核酸又はペプチドが固相化された成形後の薄膜を基板から剥離する工程である。
【0073】
薄膜の剥離は、例えば、基板をアルカリ性又は酸性の剥離液に浸漬することにより行うことができる。また、浸漬と同時に、超音波処理を行うことで剥離を進行させてもよい。
【0074】
このとき、製膜工程S1において薄膜の製膜に先立って、物理的あるいは化学的に侵食され得る犠牲層を積層しておくことで、薄膜をより剥離し易くすることができる。例えば、核酸をステップ合成で固相化した場合、最後に核酸塩基部の脱保護をアルカリ性水溶液で行う。この時シランカップリング剤を犠牲層に用いておけば、核酸の脱保護を行いながら犠牲層も侵食され、ビーズを剥離させることができる。また、酸化マグネシウムを犠牲層に用いた場合、希塩酸水溶液や塩化アンモニウム水溶液などの酸性水溶液で侵食させて、ビーズを剥離することができる。
【0075】
剥離液は、剥離工程以前に成形されたビーズ形状や固相化された核酸等を変性させたり、遊離させるたりすることなく、犠牲層を侵食し、基板上からビーズを剥離できるものが好ましい。このためには、フッ素系有機材料層により犠牲層を形成し、剥離液としてフッ素系溶剤を用いてフッ素系有機材料層を侵食するか、フッ素系有機材料層を昇華させて侵食することが好適となる。
【0076】
先に説明したように、フッ素系溶剤は電荷を有する高分子と混合し難く、高分子を溶かし難い性質を有する。フッ素系溶剤を用いて犠牲層を侵食させれば、核酸等を変性、遊離等させることがない。
【0077】
さらに、フッ素系有機材料層として、特に、トリアジンのフッ素誘導体等の低分子材料を用いれば、フッ素系有機材料層を昇華させることによりマイクビーズを剥離することができるため、核酸等の標的核酸や標的タンパク等に対する相互作用能を一層確実に温存することができる。フッ素系有機材料層の昇華条件は、使用する材料の分子量等に応じて適宜設定される。昇華温度は、100℃程度とでき、真空条件下で昇華を行うことで100℃未満とすることが可能である。
【0078】
3.マイクロビーズ作製方法の具体例
次に、図3及び図4を参照しながら、上述したマイクロビーズ及びビーズセットの作製方法についてより具体的に説明する。図3は、製膜工程S1及び成形工程S2における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。ここでは、マイクロビーズの材料としてSU-8を用いて、図1に示したマイクロビーズ及びマイクロビーズセットを作製する場合を例として説明する。
【0079】
始めに、図3(A)に示すように、基板2上に犠牲層3を積層する。次に、犠牲層3上にSU-8を載せる(図3(B)参照)。スピンコートを行い、図3(C)に示すように、犠牲層3上に薄膜4を製膜する。
【0080】
この際、SU-8の量及びスピンコーターの回転速度(図中矢印参照)を調節することにより、薄膜の製膜厚を調整し、作製するマイクロビーズの作製するマイクロビーズの厚み(図1中、符号h参照)を適宜設定する。
【0081】
製膜工程S1で製膜した薄膜4をプリベークした後、図3(D)に示すように、マイクロビーズの形状を描いたマスクMを用いて露光を行う。図中矢印は、光源からの光を示している。
【0082】
露光した基板2を現像液に浸し、余分な部分の薄膜4を除去する。さらに、リンス液によるすすぎ等を行うことにより、基板2上に残された薄膜4にマイクロビーズ11,12の形状が現れる(図3(E)参照)。
【0083】
そして、先に説明したように、マイクロビーズ11,12となる部分の薄膜4表面の官能基修飾と、薄膜4が除去された基板2領域(マイクロビーズ11,12となる部分の薄膜4間の基板領域)の撥水加工を行い、核酸又はペプチド等の固相化を行う。その後、フッ素系溶剤、酸又はアルカリ処理によって犠牲層3を崩壊させることによって、図3(F)にように、薄膜4を基板2から剥離し、マイクロビーズ11,12及びこれらから構成されるビーズセット1を得る。
【0084】
このとき、作製するマイクロビーズの形状に応じて、マスクMの形状を設計することにより、基板2上に任意の形状を有するマイクロビーズを成形することが可能となる。また、同様にマスクMを任意に設計することによって、様々な形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数成形することが可能である。従って、本発明に係るマイクロビーズ作製方法によれば、形状の違いによって識別可能なマイクロビーズを効率的に、低コストに作製することができる。さらに、マスクの設計によって、多種類のマイクロビーズのポピュレーションが明確に設定されたビーズセットを作製することが可能となる。
【0085】
そして、得られたマイクロビーズは、作製工程に起因として、略平行に対向する2つの面を備えた立体形状を有し、これらの面のうち一方のみに核酸等が固相化されているという特徴を有する。略平行に対向する2つの面は、薄膜の製膜工程に由来して形成されるものであり、2つの面間の距離、すなわちマイクロビーズ厚み(図1中、符号h参照)は、製膜厚を調整することによって任意に設定できるものである。また、マイクロビーズの剥離前に核酸等の固相化を行っているため、核酸等は対向する面の一方のみに固相化されることとなる。
【0086】
図4は、撥水加工工程S4における基板上の構成を模式的に示す上面図である。
【0087】
図4(A)は、図3で説明したように、基板2上にマイクロビーズ11,12を成形した場合を示している。成形工程S2により基板上にはマイクロビーズ11,12となる部分の薄膜のみが残され、それ以外の部分は除去されている。撥水加工工程S3では、図中斜線で示す薄膜が除去された基板領域(ここでは、犠牲層3が露出した領域)に撥水性を付与する。撥水加工は、斜線で示した基板領域を、例えば、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理することによって行うことができる。
【0088】
これにより、マイクロビーズ11,12となる部分の薄膜表面に滴下される溶液が互いに混じり合うことを防止することができる。従って、固相化工程S5において、モノマー溶液や予め合成した核酸又はペプチド溶液、をマイクロビーズとなる部分の薄膜表面に滴下する際に、溶液を確実に狙った部位にスポッティングして、所望の塩基配列又はアミノ酸配列を有する核酸鎖等を合成、固相化することが可能となる。また、糖鎖や化合物などを固相化する際にも、これらが混じり合うことがない。
【0089】
図4(A)ではマイクロビーズとなる各薄膜部分のそれぞれを囲むように撥水加工を行っているが、基板上に同一種類のマイクロビーズを複数成形した場合には、同一種のマイクロビーズが成形されている領域を取り囲むように撥水加工を行うことができる。例えば、2種類のマイクロビーズ11,12をそれぞれ所定数ずつ成形した場合、例えば図4(B)に示すような斜線領域に撥水加工を行う。これにより、同一種のマイクロビーズ(マイクロビーズ群)に対しては、一括してモノマー溶液等を滴下することができ、かつ、隣接する他のマイクロビーズ群に滴下した溶液と混じり合うことを防止することが可能である。
【0090】
モノマー溶液等の滴下は、ピペットやマイクロディスペンサーによるスポッティングや、インクジェット式のスポッティングにより行われる。このようなスポッティング方式では、それぞれ液物性が微妙に異なる比較的粘度の高い微小液滴を空中に吐出し、基板上に付着させるものであるため、液滴を吐出する際にしぶき状の液滴(いわゆる「サテライト」)が発生し、目的外の部位にモノマー溶液等が付着することがあった。
【0091】
本発明に係るマイクロビーズ製造方法では、最終的にマイクロビーズを基板から剥離するため、サテライトによってマイクロビーズとなる部分以外の基板領域にモノマー溶液等が付着したとしても問題は生じない。
【0092】
図5は、固相化工程S5における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。ここでは、図3及び図4(A)に示したように、基板2上にマイクロビーズ11,12を成形し、撥水加工を行った後、マイクロビーズ11,12の表面に核酸をステップ合成によって固相化する場合を例として説明する。図は、犠牲層3の上層に成形されたマイクロビーズ11,12を拡大して示している。
【0093】
まず、マイクロビーズ11となる部分の薄膜4表面に、アデニン「A」を含むモノマー溶液を滴下する。薄膜4表面には、官能基修飾工程S3でリンカーが導入されている。同様に、マイクロビーズ12となる部分の薄膜4表面には、グアニン「G」を含むモノマー溶液を滴下する。その後、滴下したモノマー溶液中のアデニン又はグアニンとの結合反応を行なう(図5(A)参照)。
【0094】
次に、マイクロビーズ11となる部分にはシトシン「C」を含むモノマー溶液を、マイクロビーズ12となる部分にはチミン「T」を含むモノマー溶液を、それぞれ滴下し、2段階目の結合反応を行なう(図5(B)参照)。以下、この合成ステップを、所望の塩基配列に従って繰り返す。
【0095】
このとき、撥水加工工程S4において、図中斜線部で示す領域に撥水加工を行っているため、マイクロビーズ11となる部分に滴下されたモノマー溶液と、マイクロビーズ12となる部分に滴下されたモノマー溶液とが混じり合うことはない。このため、マイクロビーズ11,12の表面において、所望の塩基配列の核酸鎖を正確に合成して、固相化を行うことが可能となる。
【0096】
従来のDNAチップで行なわれているような光化学反応による固相化では、1段の合成に各塩基(A,G,T,C)用の4つのフォトマスクを用いて4回の結合反応を行なう必要があった。これに対して、本発明では、撥水加工された領域で区切られたマイクロビーズ上に各塩基を含むモノマー溶液をそれぞれ滴下し、同時に結合反応を行なうことができるため、核酸鎖の合成、固相化を低コストに行うことができる。
【0097】
本発明に係るマイクロビーズ作製方法では、このステップ合成の完了後、剥離工程S5において、犠牲層3を崩壊させることによりマイクロビーズを剥離する。このため、各マイクロビーズの犠牲層3に接していた面には核酸鎖等が固相化されない。従って、得られるマイクロビーズは、対向する面の一方のみに核酸等が固相化された状態となる。
【0098】
通常、核酸鎖等を固相化したマイクロビーズ表面は、核酸鎖等と標的核酸や標的タンパク質とを相互作用させるため、親水表面とされる。このとき、マイクロビーズの犠牲層3に接していた面に、核酸鎖等が固相化されていなければ、この面を疎水表面とすることができる。これにより、例えば、スライドガラスのようなサンプルホルダー上にマイクロビーズを分散して載置し、観察や光学検出を行う場合に、親水−疎水表面間の反発力によりマイクロビーズ同士が重なることを防止することができる。また、例えば、サンプルホルダー表面を疎水表面とすることで、疎水−疎水表面間の親和力によりマイクロビーズを核酸鎖等が固相化された面をサンプルホルダー上方に向けて載置させることが可能となる。
【実施例1】
【0099】
<SU-8製マイクロビーズの作製>
本実施例では、基板上に製膜したSU-8をフォトリソグラフィーによって成形し、核酸のステップ合成を行った後、剥離することによってマイクロビーズの作製を行った。
【0100】
(1)製膜工程
シリコン基板表面をアミノシラン処理(信越シリコーン製KBM-603、120℃、10時間)した後、SU-8をスピンコートし、プリベーク(100℃、3分)を行った。SU-8は、化薬マイクロケム製 SU-8-3035-N-02をシクロペンタノンで2倍に希釈して用い、最終的な厚みが3μmとなるようにコートした。
【0101】
(2)成形工程
円形と星型の2種類の異なる形状を、2つの領域(以下、「ビーズ領域」という)に分けて、それぞれ複数描いたマスクを用いて露光を行った。ポストベーク(100℃、2分)の後、現像を行い、IPAで洗浄・乾燥し、さらにハードベーク(150℃、10分)を行った。
【0102】
基板上の2つのビーズ領域に成形されたSU-8薄膜の形状を、図6に示す。図6(A)及び(B)は円形のマスクを、(C)及び(D)は星形のマスクを用いて成形したビーズ領域の上面図である。図6(B)及び(D)は、それぞれ(A)及び(D)の拡大図である。図6(A)及び(B)のビーズ領域(以下、「ビーズ領域A」)からは、円内部にドットパターンが形成された円柱型のマイクロビーズaが作製される。また、図6(C)及び(D)のビーズ領域(以下、「ビーズ領域B」)からは、星形内部に数字5が形成された星柱型のマイクロビーズbが作製される。
【0103】
(3)ヒドロキシ基修飾
基板表面をグリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理(120℃、10時間)した後、基板を800mLのテトラエチレングリコールと3mLの濃硫酸の混合液中に浸漬し、攪拌しながら80℃で8時間反応させ、ヒドロキシル基修飾を行った。
【0104】
(4)撥水加工
次に、ビーズ領域A, Bを一旦レジストでカバーし、それ以外の基板領域をトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理(120℃、10時間)した。レジストを除去することにより、ビーズ領域A, B以外の基板領域に撥水性を付与した。
【0105】
(5)核酸のステップ合成
ビーズ領域A, Bにおいて、「表1」に示す塩基配列に従い、核酸のステップ合成を行った。
【0106】
【表1】

【0107】
各ヌクレオシドホスホルアミダイトをプロピレンカーボネートに0.1Mで調製した。また、5-エチルチオテトラゾールをプロピレンカーボネートに0.5Mで調製した。
【0108】
ビーズ領域に、ヌクレオシドホスホルアミダイト溶液をピペットで滴下し、続けて5-エチルチオテトラゾール溶液を同量ピペットで滴下した。窒素雰囲気下で60秒間反応させた後、アセトニトリルですすぎ、過剰の試薬を除去し、乾燥した。次に、酸化溶液(ピリジン/テトラヒドロフラン/水の混合液で調製した0.02Mヨウ素溶液)を滴下し、30秒間反応させて、得られたヌクレオシド亜リン酸トリエステルをヌクレオシドリン酸トリエステルに転化した。アセトニトリルですすぎ、次いで無水酢酸/テトラヒドロフラン混合溶液を滴下し、30秒間反応させて、ビーズ領域に修飾された未反応ヒドロキシル基をキャップ化した。アセトニトリルですすぎ、乾燥した後、2.5%ジクロロ酢酸ジクロロメタン溶液を滴下し、60秒間反応させて、ヌクレオシドの5'-ヒドロキシル基からジメトキシトリチル保護基を除去した。
【0109】
アセトニトリルですすぎ、乾燥した後、以上の(a)ヌクレオシド連結、(b)アセトニトリルすすぎ、(c)酸化、(d)アセトニトリルすすぎ、(e)ジメトキシトリチル保護及び(f)アセトニトリルすすぎの各工程を19回繰り返した。最後に、基板を13%アンモニア/20%メチルアミン水溶液に室温で1時間程度浸漬し、核酸塩基部の脱保護を行った。
【0110】
(6)剥離工程
13%アンモニア/20%メチルアミン水溶液中の基板に、さらに30分程度超音波をかけ、SU-8薄膜を基板から剥離させ、ビーズ領域A(円形)及びビーズ領域B(星形)に由来する2種類の異なる形状のマイクロビーズa(円柱型)及びマイクロビーズb(星柱型)からなるビーズセットを得た。回収したビーズセットは、純水で洗浄し、乾燥させた。
【実施例2】
【0111】
<SU-8製マイクロビーズを用いた標的核酸鎖の分離>
本実施例では、実施例1で得たビーズセットを用いて、標的核酸鎖の分離、検出を行った。
【0112】
標的核酸鎖として、ビーズ領域A(円形)に固相化した核酸に相補的な塩基配列を有する核酸を合成した。標的核酸鎖の塩基配列を「表2」に示す。表中、下線部は、ビーズ領域Aに固相化した核酸に相補的な塩基配列を示す。また、標的核酸の5’末端には蛍光色素(Cy3)を修飾した。
【0113】
【表2】

【0114】
標的核酸鎖溶液にビーズセットを加え、エッペンチューブ内にて室温で1時間ハイブリダイゼーション反応を行った。溶液中からマイクロビーズを回収した後、バッファーで洗浄し、スライドガラス上にビーズを並べて蛍光顕微鏡で観察した。その結果、標的核酸と相補的な塩基配列を有するマイクロビーズa(円柱型)でのみCy3の蛍光が観察された。
【実施例3】
【0115】
<二酸化珪素製マイクロビーズの作製及び標的核酸鎖の分離>
本実施例では、基板上に製膜した二酸化珪素膜をフォトリソグラフィーによって成形し、予め合成された核酸の固定化を行った後、剥離することによってマイクロビーズの作製を行った。
【0116】
(1)製膜工程
ガラス基板表面にアルバック社製の蒸着装置を用い、1オングストローム/sの成膜速度で酸化マグネシウムを200nm蒸着した後、二酸化珪素膜の厚みが3μmとなるようにテトラエトキシシラン(TEOS)をCVD処理した。
【0117】
(2)成形工程
二酸化珪素薄膜の表面にAZエレクトロニックマテリアルズのポジ型レジストAZ1500をスピンコートし、90℃で90秒間プリベークを行った。実施例1で用いた円形のマスク(図6(A)及び(B)参照)をポジ型としたものを用いて露光を行い、現像後純水で洗浄し、乾燥した。
【0118】
基板上の2つの領域に成形したレジスト薄膜の形状を、図7に示す。図7(A)及び(B)に示す領域には、円内部に異なるドットパターンが形成された円形のレジスト薄膜がそれぞれ成形されている。
【0119】
ポストベーク(130℃、5分)の後、二酸化珪素薄膜をドライエッチングによりパターニングした。その後、レジストを除去することにより、基板上の2つのビーズ領域A, Bに、異なるドットパターンを有する円形の二酸化珪素薄膜を得た。
【0120】
(3)エポキシ基修飾
基板表面をグリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理(120℃、10時間)し、エポキシ基修飾を行った。
【0121】
(4)撥水加工
次に、ビーズ領域A, Bを一旦レジストでカバーし、それ以外の基板領域をトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理(120℃、10時間)した。レジストを除去することにより、ビーズ領域A, B以外の基板領域に撥水性を付与した
【0122】
(5)核酸の固相化と剥離工程
基板のビーズ領域A及びB表面に、実施例1の「表1」に示す塩基配列を持つ核酸を固相化した。ここでは、表1に示す塩基配列の5'末端にアミノ修飾(グレンリサーチ社、5'-Amino-Modifier C12)した核酸を予め合成しておき、上記のエポキシ基とアルカリ性条件下室温で6時間反応させた。
【0123】
純水で洗浄した後、1Mの塩化アンモニウム水溶液に室温で1時間浸漬して、二酸化珪素薄膜を基板から剥離させ、ビーズ領域A及びBに由来するドットパターンが異なる円柱型マイクロビーズa及びbからなるビーズセットを得た。回収したビーズセットは、純水で洗浄し、乾燥させた。
【0124】
(6)標的核酸鎖の分離
得られたビーズセットを用いて、実施例2で合成した標的核酸鎖の分離、検出を行った。
【0125】
標的核酸鎖溶液にビーズセットを加え、エッペンチューブ内にて室温で1時間ハイブリダイゼーション反応を行った。溶液中からマイクロビーズを回収した後、バッファーで洗浄し、スライドガラス上にビーズを並べて蛍光顕微鏡で観察した。その結果、標的核酸と相補的な塩基配列を有するマイクロビーズaでのみCy3の蛍光が観察された。
【実施例4】
【0126】
<犠牲層の検討>
1.高分子材料サイトップによるフッ素系有機材料犠牲層
(1)犠牲層の製膜
UV-オゾン洗浄したシリコン基板上にサイトップ(CTX-809AP2、旭硝子製、パーフルオロトリブチルアミンで原液を80%に希釈して用いた)をスピンコート(まず700rpmで3秒、次に4000rpmで20秒保持)した後、50℃で30分、次に80℃で60分、最後に200℃で30分乾燥した。接触式膜厚計によりサイトップの膜厚を測定したところ、約400nmであった。
【0127】
SU-8の密着性を向上させるためO−RIE処理(ガス種:O、パワー:70W、圧力:18Pa、流量:10sccm、時間:15s)を行った後、O−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、圧力:3Pa、流量:30sccm、時間:15s)を行った。
【0128】
(2)成形工程
−RIE処理後、SU−8(SU-8 -3035-N-02、化薬マイクロケム製、シクロペンタノンで2倍に希釈して用いた)をスピンコート(まず500rpmで15秒、次に1500rpmで30秒保持)した後に2分間100℃で乾燥した。さらにその上にビーズパターンを描出したクロムマスクを用いてコンタクトアライナーにてi線露光(170mJ/cm2)して、100℃で3分乾燥させた。SU−8ディベロッパー(化薬マイクロケム製)で現像を行い、IPAにてリンス洗浄の後、150℃で10分間ハードベークを行うことにより基板上に整列したビーズパターンを得た。接触式膜厚計によりSU−8の膜厚を測定したところ、約3μmであった。
【0129】
(3)核酸の固相化工程
SU−8ビーズパターン付き基板にO−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)を施して活性化した後、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン処理(120℃、10時間、気相反応)した。
【0130】
図8(A)に示すオリゴDNA-1(「表3」配列番号4参照)を2xSSCバッファーに10 μMとなるよう溶解し、シランカップリング処理済ビーズ付き基板を12時間攪拌浸透させた。基板を取り出して0.2MのSDSを含む2xSSCバッファー中で15分間攪拌洗浄し、次に新しい0.2MのSDSを含む2xSSCバッファー中で90℃に加熱しつつ5分間攪拌洗浄した。基盤を流水で3分間洗浄後、乾燥した。
【0131】
【表3】

【0132】
ここで、蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0133】
(4)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を75℃に加熱したフッ素系洗浄剤(ノベックHFE7300、住友3M製)中にて40℃、20分、超音波処理した後ビーズを減圧ろ過し、常温のノベックHFE7300で繰り返し洗浄し、乾燥した。
【0134】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【0135】
(5)標的核酸鎖の分離
また、上記の核酸の固相化工程において、図8(A)に示すオリゴDNA-1に替えて、図8(B)に示すオリゴDNA-2(「表3」配列番号5参照)を同様の条件で固相化し、図8(C)に示すオリゴDNA-3(「表3」配列番号6参照)を標的核酸鎖として分離、検出を行った。
【0136】
標的核酸鎖オリゴDNA-3を2μM(1xSSC水溶液)に調整し、オリゴDNA-2を固相化したマイクロビーズと50℃にて12時攪拌混合させた。ビーズをろ別して0.2MのSDSを含む1xSSCバッファー中で20分間攪拌洗浄した。ビーズをろ別してスライドガラス上に分散させ、蛍光顕微鏡により観察してシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。
【0137】
2.高分子材料ディフェンサによるフッ素系有機材料犠牲層
(1)犠牲層の製膜
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にディフェンサ(7710z-70、DIC製)をスピンコート(まず700rpmで3秒、次に4000rpmで20秒保持)した後、十分に窒素置換したグローブボックス中で170mW/cmのUVランプ(高圧水銀ランプ光源)で40秒照射して光硬化させた。接触式膜厚計によりディフェンサの膜厚を測定したところ、約200nmであった。
【0138】
SU-8の密着性を向上させるためO−RIE処理(ガス種:O、パワー:70W、圧力:18Pa、流量:10sccm、時間:15s)を行った後、O−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、圧力:3Pa、流量:30sccm、時間:15s)を行った。
【0139】
(2)成形工程
上記のサイトップを用いた場合と同様にして、SU−8のパターニングを行った。ただし、ここでは、露光装置にマスクレス露光機を使用した(紫外線レーザ、パワー:75J/cm)。
【0140】
(3)ヒドロキシ基修飾、撥水加工及び核酸のステップ合成
実施例1と同様にして、行った。
【0141】
(4)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を75℃に加熱したフッ素系洗浄剤(ノベック7300、住友3M製)中にて80℃、30分、浸透攪拌した後ビーズをろ別し、常温のFC−84で洗浄し、乾燥した。
【0142】
3.高分子材料テフロン(登録商標)AFによるフッ素系有機材料犠牲層
(1)犠牲層の製膜
UV-オゾン洗浄したシリコン基板上にテフロン(登録商標)AF(AF 1601 SOL FC、三井デュポンフロロケミカル製)をスピンコート(まず500rpmで3秒、次に1500rpmで20秒保持)した後、50℃で10分、次に165℃で10分乾燥した。接触式膜厚計によりテフロン(登録商標)AFの膜厚を測定したところ、約100nmであった。
【0143】
SU-8の密着性を向上させるためO−RIE処理(ガス種:O、パワー:70W、圧力:18Pa、流量:10sccm、時間:15s)を行った。
【0144】
(2)成形工程
上記のディフェンサを用いた場合と同様にして、露光装置にマスクレス露光機にてSU−8のパターニングを行った。
【0145】
(3)核酸の固相化工程
SU−8ビーズパターン付き基板にO−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)を施して活性化した後、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン処理(120℃、10時間、気相反応)した。
【0146】
図8(A)に示すオリゴDNA-1(「表3」配列番号4参照)を2xSSCバッファーに10 μMとなるよう溶解し、シランカップリング処理済ビーズ付き基板を12時間攪拌浸透させた。基板を取り出して0.2MのSDSを含む2xSSCバッファー中で15分間攪拌洗浄し、次に新しい0.2MのSDSを含む2xSSCバッファー中で90℃に加熱しつつ5分間攪拌洗浄した。基盤を流水で3分間洗浄後、乾燥した。
【0147】
ここで、蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0148】
(4)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を75℃に加熱したフッ素系洗浄剤(ノベック7300、住友3M製)中にて室温で12時間、浸透攪拌した後ビーズをろ別し、常温のFC−84で洗浄し、乾燥した。
【0149】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【0150】
4.低分子材料2,4,6-トリス(ノナデカフルオロノニル)−1,3,5-トリアジンによるフッ素系有機材料犠牲層
(1)犠牲層の製膜
2,4,6-トリス(ノナデカフルオロノニル)−1,3,5-トリアジンの10重量%パーフルオロトルエン溶液を調製した。O−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にヘキサメチルジシラザンをスピンコート(まず500rpmで5秒、次に4000rpmで40秒保持、さらに次に5000rpmで30秒保持)した後、上記2,4,6-トリス(ノナデカフルオロノニル)−1,3,5-トリアジン溶液をスピンコート(まず700rpmで3秒、次に4000rpmで20秒保持)した後、室温で2時間乾燥させた。
【0151】
(2)成形工程
上記のサイトップを用いた場合と同様にして、SU−8のパターニングを行った。ただし、ここでは、露光装置にマスクレス露光機を使用した(紫外線レーザ、パワー:75J/cm)。
【0152】
現像及び洗浄の後、100℃で2分間ハードベークを行い、基板表面上のビーズ以外の部分にコートされている2,4,6-トリス(ノナデカフルオロノニル)−1,3,5-トリアジンを3華により除去した。
【0153】
(3)核酸の固相化工程
上記のサイトップを用いた場合と同様にして、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン処理(120℃、10時間、気相反応)を行い、オリゴDNA−1を固相化した。
【0154】
ここで、蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0155】
(4)剥離工程
ビーズがパターンされた基板を真空容器に入れ、5μmのフィルターを介して減圧しつつ65℃に加熱しながらオーブン中で12時間乾燥し、ビーズ下に残存する2,4,6-トリス(ノナデカフルオロノニル)−1,3,5-トリアジンを昇華により除去し、マクロビーズを剥離した。
【0156】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明に係るマイクロビーズ作成方法によれば、多種類のマイクロビーズを一定のポピュレーションで含んだビーズセットを供給できる。このビーズセットは、マイクロビーズを用いた種々の生化学的分析に利用することができ、例えば、遺伝子発現量やタンパク発現量の網羅的な比較解析において、一層信頼性の高い比較解析結果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズ及びビーズセットを示す模式図である。
【図2】本発明に係るマイクロビーズ作製方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】製膜工程S1及び成形工程S2における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】撥水加工工程S4における基板上の構成を模式的に示す上面図である。
【図5】固相化工程S5における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。
【図6】実施例1の成形工程において成形を行ったSU-8薄膜を示す図面代用写真である。
【図7】実施例3の成形工程において成形を行ったレジスト薄膜を示す図面代用写真である。
【図8】実施例4でマイクロビーズ表面に固相化したオリゴDNA及び標的オリゴDNAの構造を示す図である。(A)オリゴDNA-1、(A)オリゴDNA-2、(A)オリゴDNA-3。
【符号の説明】
【0159】
1 ビーズセット
11,12 マイクロビーズ
2 基板
3 犠牲層
4 薄膜
M フォトマスク(マスク)
P11,P12 核酸等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に製膜された薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する成形工程と、
成形後の前記薄膜上に所定の物質を固相化する固相化工程と、
前記物質が固相化された成形後の前記薄膜を前記基板から剥離する剥離工程と、を含むマイクロビーズ作製方法。
【請求項2】
前記基板上に、前記剥離工程において物理的あるいは化学的に侵食され得る犠牲層を積層した後、前記薄膜の製膜を行う請求項1記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項3】
前記成形工程後、前記固相化工程前に、成形後の前記薄膜間の基板領域に撥水加工を行う請求項2記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項4】
前記固相化工程は、前記薄膜上における前記物質の化学合成によって行われる請求項3記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項5】
前記物質として、所定配列の核酸又はペプチド、糖鎖から選択される一の生体高分子を固相化する請求項4記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項6】
前記薄膜は、フォトレジスト又は二酸化珪素により形成される請求項5記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項7】
前記犠牲層を、フッ素系有機材料層により形成する請求項6記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項8】
前記剥離工程において、前記フッ素系有機材料層を昇華させることにより、又はフッ素系溶剤を用いて溶解させることにより、成形後の前記薄膜を前記基板から剥離する請求項7記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項9】
前記犠牲層を、前記基板表面の表面カップリング剤処理層により形成する請求項6記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項10】
前記犠牲層を、金属酸化物層により形成する請求項6記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項11】
請求項1記載のマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズ。
【請求項12】
略平行に対向する2つの面を備える立体形状を有し、これらの面の一方のみに所定の物質が固相化されている請求項11記載のマイクロビーズ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−294195(P2009−294195A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209147(P2008−209147)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】