説明

マイクロビーズ作製方法及びマイクロビーズ

【課題】多種類のマイクロビーズを含むビーズセットであって、各マイクロビーズのポピュレーションが明確なビーズセットを供給できるマイクロビーズ作製方法の提供。
【解決手段】基板上に親水性有機材料からなる親水層を製膜する工程S1と、この親水層にマイクロビーズとして剥離され得る薄膜を積層する工程S2と、製膜された薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する成形工程S3と、成形後の薄膜上に所定の物質を固相化する固相化工程S6と、前記物質が固相化された成形後の薄膜を、前記親水層の少なくとも一部とともに基板から剥離してマイクロビーズを得る剥離工程S7と、を含むマイクロビーズ作製方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロビーズ作製方法及びマイクロビーズに関する。より詳しくは、所定の物質が表面に固相化されたマイクロビーズを、基板上でのフォトリソグラフィーによって作製するマイクロビーズ作製方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
核酸やタンパク等を対象とした生化学分析において、従来、「マイクロビーズ」と称される粒子状担体が用いられている。例えば、核酸分析においては、標的核酸鎖に対して相補的な塩基配列を有するプローブ核酸鎖を表面に固相化したマイクロビーズを用いて、標的核酸鎖とプローブ核酸鎖の相互作用に基づき、標的核酸鎖を分離することが行われている。また、タンパク分析では、表面に標的タンパクに対する抗体を固相化したマイクロビーズを用いて、同様に標的タンパクを分離することが行われている。
【0003】
近年、これらのマイクロビーズを用いた生化学分析では、一層のハイスループット化が求められており、分析の高速化を図るための技術が開発されてきている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「試料内の多数の分析物であり、それぞれの分析反応物によって認識される分析物を検出する方法であって、a)集団のそれぞれが異なる蛍光シグナル及び異なる分析反応物を有する蛍光粒子の集団であり、前記分析反応物が特異的に試料内の1つの分析物に結びつき、前記各蛍光粒子がそれぞれの蛍光染料で標識された少なくとも1つのナノ粒子を表面に有してなる蛍光粒子の集団を多数、試料と接触させ、b)標識試薬へ前記試料を加え、c)前記標識を検出することにより、前記分析反応物が分析物に結びついたことを示す前記蛍光粒子を分析し、同時に、d)前記各集団に関連付けられた前記異なる蛍光シグナルの機能から、それぞれの分析物と結びついた前記蛍光粒子の集団を決定すること、を含んでなる方法。」(請求項23参照)が開示されている。
【0005】
この技術に基づきLuminex社が提供する「Suspension Array Technology」では、2種類の蛍光色素を発光の色味に変化を持たせてマイクロビーズに標識することにより、最大100種類のマイクロビーズを識別することが可能である。「Suspension Array Technology」によれば、100種類のマイクロビーズに、それぞれ異なるプローブ核酸鎖や抗体を固相化することによって、一回の分析で100種類の異なる核酸鎖やタンパクを同時に分離、検出することが可能である。
【0006】
また、上記文献には、「前記蛍光粒子の集団がさらに、それらのサイズと形状によって決定される」(請求項25参照)と記載され、マイクロビーズを識別するための追加的なパラメータとして、ビーズのサイズや形状を採用できる旨が開示されている(当該文献段落0037等参照)。これに関連して、非特許文献1には、流路中でのフォトリソグラフィーによって、多数の形状の異なるマイクロビーズを作製する方法が記載されている。この方法によれば、100万種類を超えるマイクロビーズを作製することが可能となる。
【0007】
【特許文献1】特許第3468750号公報
【非特許文献1】Multifunctionalencoded particles for high-throughput biomolecule analysis. Science, 2007, Mar 9;315(5817):1393-6.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1や非特許文献1に開示される蛍光特性や形状の異なる超多種類のマイクロビーズは、それぞれ異なるプローブ核酸鎖や抗体を固相化した後、混合され、ビーズセットとして用いられる。このビーズセットと標的核酸鎖等を含むサンプルとを混合し、洗浄を行った後、各マイクロビーズとその表面に捕捉された標的核酸鎖等を光学的もしくは磁気的、電気的シグナルによって検出する。
【0009】
このとき、高い分析精度を得るためには、ビーズセット中に含まれる各マイクロビーズの数が明確となっている必要がある。例えば、最も簡単な例として、2種類のマイクロビーズ間のシグナル強度を比較する場合、仮に、ビーズセット中に含まれる両マイクロビーズの数(ポピュレーション)が不明である場合、得られたシグナル強度を比較することができない。この場合、シグナル強度を正確に比較分析するためには、両マイクロビーズが同数ずつ含まれていることが望ましく、もしくは、同数でないとしても両ビーズの数の比率が既知である必要がある。
【0010】
従来、ビーズセットのポピュレーションは、製造後の各マイクロビーズを重量や吸光度に基づいて定量し、混合することによって調整されていた。しかし、この方法では、各ビーズの数を厳密に調整することはできず、ポピュレーションにばらつきが生じて、高い分析精度を得るための障害となっていた。
【0011】
そこで、本発明は、多種類のマイクロビーズを含むビーズセットであって、各マイクロビーズのポピュレーションが明確なビーズセットを供給できるマイクロビーズ作製方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題解決のため、本発明は、基板上に親水性有機材料からなる親水層を製膜する工程と、この親水層にマイクロビーズとして剥離され得る薄膜を積層する工程と、製膜された薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する成形工程と、成形後の薄膜上に所定の物質を固相化する固相化工程と、前記物質が固相化された成形後の薄膜を、前記親水層の少なくとも一部とともに基板から剥離してマイクロビーズを得る剥離工程と、を含むマイクロビーズ作製方法を提供する。このマイクロビーズ作製方法によれば、フォトリソグラフィーに用いるフォトマスクの形状を設計することで、任意の多形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数作製することができる。
このマイクロビーズ作製方法では、溶媒に溶解させた親水性有機材料を基板上に塗工し、乾燥させて前記親水層の製膜を行った後、前記剥離工程において、親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を用いて親水層の一部を溶解させることにより、又は超音波処理を行うことにより、成形後の前記薄膜を親水層の少なくとも一部とともに剥離してマイクロビーズを得る。これにより、略平行に対向する2つの面を備える立体形状を有し、これらの面の一方の面のみに所定の物質が固相化され、他方の面の少なくとも一部に親水性が付与されているマイクロビーズを得ることができる。
この場合、前記親水層は、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン、ローガストビーンガム又は感光性親水樹脂から選択される一以上の親水性有機材料を用いて形成される。
【0013】
このマイクロビーズ作製方法は、さらに、基板上に犠牲層を製膜する工程を含んでいてもよく、この場合には前記親水層をこの犠牲層に積層した後、前記剥離工程において前記犠牲層を物理的あるいは化学的に侵食させることにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに剥離してマイクロビーズを得る。これにより、上記と同様に、略平行に対向する2つの面を備える立体形状を有し、これらの面の一方の面のみに所定の物質が固相化され、他方の面の少なくとも一部に親水性が付与されているマイクロビーズを得ることができる。
この場合、前記親水層は、感光性親水樹脂、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン又はローガストビーンガムから選択される一以上の親水性有機材料を用いて形成される。
また、犠牲層は、フッ素系有機材料又はポリイミド系有機材料、若しくは前記親水層と同一の親水性有機材料又は異なる親水性有機材料を用いて形成できる。
前記犠牲層を、フッ素系有機材料を用いて形成した場合、前記剥離工程において、フッ素系有機材料からなる犠牲層を、昇華させることにより、又はフッ素系溶剤を用いて溶解させることにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに前記基板から剥離してマイクロビーズを得る。
前記犠牲層を、ポリイミド系有機材料を用いて形成した場合、前記剥離工程において、ポリイミド系有機材料からなる犠牲層を、非プロトン性溶媒を用いて溶解させることにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに前記基板から剥離してマイクロビーズを得る。
前記犠牲層を、前記親水層と同一の親水性有機材料又は異なる親水性有機材料を用いて形成した場合、前記剥離工程において、親水性有機材料からなる犠牲層をこの親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を用いて溶解させることにより、又は超音波処理を行うことにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに前記基板から剥離してマイクロビーズを得る。
【0014】
このマイクロビーズ作製方法において、前記固相化工程は、前記薄膜上における前記物質の化学合成によって行うことが好適であり、具体的には前記物質として特に所定配列の核酸又はペプチド、糖鎖から選択される一以上の生体高分子を固相化する。前記成形工程後、前記固相化工程前には、成形後の前記薄膜間の領域に撥水加工を行うことが望ましい。撥水加工によって、成形後の薄膜表面に滴下される溶液が互いに混じり合うことを防止して、各マイクロビーズに所望の物質を固相化することが可能となる。
また、このマイクロビーズ作製方法において、前記薄膜は、フォトレジスト又は二酸化珪素により形成することが好適である。
【0015】
本発明において、薄膜上、すなわちマイクロビーズ上、に固相化される「物質」には、マイクロビーズを用いた生化学分析において、分析対象とする標的核酸や標的タンパク質等と相互作用し得る物質が広く含まれるものとする。この物質は、特に好適には、所定配列核酸又はペプチド、糖鎖から選択される生体高分子であって、標的核酸等と相互作用し得る分子が含まれるものとする。「生体高分子」が核酸である場合、該核酸は所定の塩基配列の核酸である。そして、「相互作用」とは、相補的な塩基配列を有する核酸間の二本鎖形成である。また、「生体高分子」がペプチドである場合、該ペプチドは所定のアミノ酸配列のペプチドである。そして、「相互作用」とは、例えば受容体タンパクとリガンドタンパク間との結合や抗原と抗体との間の結合のようなタンパク質間結合である。さらに、「生体高分子」が糖鎖である場合、該糖鎖は単糖の結合鎖や、この結合鎖に脂質やタンパク質がさらに結合したものであり、オリゴ糖や糖脂質、糖タンパク質などである。その他、この「物質」には、小分子としての各種化合物が含まれるものとする。これらの化合物は、生化学分析の対象となる標的核酸や標的タンパク質等に結合し得るものであり、核酸やタンパク質の機能を促進又は阻害し得るような化合物であって、創薬領域においていわゆる「シーズ化合物」となるものである。なお、本発明において「核酸」には、DNAやRNAの他、これらのリボース部分の構造を改変して得られる核酸類似体(例えば、LNA(Locked Nucleic Acid))等も含み得るものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、多種類のマイクロビーズを含むビーズセットであって、各マイクロビーズのポピュレーションが明確なビーズセットを供給できるマイクロビーズ作製方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0018】
1.マイクロビーズ
(1)形状及びポピュレーション
図1は、本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズ及びビーズセットを示す模式図である。
【0019】
図1中、符号1で示すビーズセットは、略円柱形状のマイクロビーズ11と、略立方体形状のマイクロビーズ12と、の2種類のマイクロビーズから構成されている。本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズは、このような略平行に対向する2つの面を備えた立体形状を有している。
【0020】
マイクロビーズ11とマイクロビーズ12は、全体の形状が異なっており、この形状の違いに基づき一般的な画像識別手段によって弁別可能とされている。ビーズセット1には、これらマイクロビーズ11及びマイクロビーズ12が、それぞれ所定数ずつ(図1では、4つずつ)含まれている。
【0021】
本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズセットは、このように形状の異なる複数種のマイクロビーズを所定数ずつ含み、その数が明確であることを特徴としている。
【0022】
ビーズセット1中に含まれる各マイクロビーズの数(ポピュレーション)は任意数に設定できる。図1では、簡略化のため、略円柱形状と略立方体形状の2種類のマイクロビーズをそれぞれ4つずつ示したが、ビーズセット1中に含まれるマイクロビーズは3種以上であってよく、各マイクロビーズの数は異なる数であってもよい。また、各マイクロビーズの形状は、一般的な画像識別手段によって弁別可能な限りにおいて任意に設計し得るものである。ここでいう「形状」には、ビーズ全体の形状の他、ビーズ表面に加工された微細形状(典型的には、いわゆる「バーコード」)が含まれるものとする。
【0023】
(2)プローブ
マイクロビーズ11表面には、図1中、符号P11で示す核酸又はペプチド、糖鎖などの生体高分子や小分子(以下、「核酸等」という)が固相化されている。これらの物質は、マイクロビーズ11表面のうち、略平行に対向する2つの面のうち一方(図では、上面)のみに固相化されていることが特徴である。
【0024】
核酸等P11は、分析対象に応じて、所定の塩基配列又はアミノ酸配列とできる。さらに、核酸等P11は、糖鎖や各種化合物とすることもできる。以下、核酸等P11を核酸又はペプチドとする場合を中心に説明する。
【0025】
例えば、分析対象を核酸とする場合には、その標的核酸鎖に対して相補的な塩基配列を有する核酸鎖が核酸等P11として固相化される。これにより、サンプル中の標的核酸鎖を、核酸等P11とのハイブリダイズ(二本鎖)形成によってマイクロビーズ11上に捕捉し、分離することができる。なお、核酸鎖等P11の塩基数(長さ)は任意であり、標的核酸鎖の塩基配列の少なくとも一部に相補的な塩基配列を有し、二本鎖形成が可能な限りにおいて、塩基数は特に限定されない。通常、核酸鎖等P11の塩基数は、数塩基〜数十塩基であり、好ましくは10塩基〜30塩基程度である。
【0026】
また、例えば、分析対象をタンパクとする場合には、その標的タンパク(例えば、レセプタータンパク)と相互作用し得るペプチド(例えば、リガンドタンパクの一部アミノ酸配列)が核酸等P11として固相化される。これにより、サンプル中の標的タンパクを、核酸等P11との相互作用によってマイクロビーズ11上に捕捉し、分離することができる。
【0027】
一方、マイクロビーズ12表面には、図1中、符号P12で示す核酸等が固相化されている。核酸等P12も、分析対象とする核酸やタンパクに応じ、所定の塩基配列又はアミノ酸配列とでき、糖鎖や各種化合物とすることもできる。マイクロビーズ12においても、これらの物質は、略平行に対向する2つの面のうち一方(図では、上面)に固相化されている。
【0028】
ここで、マイクロビーズ11表面に固相化する核酸等P11とマイクロビーズ12表面に固相化する核酸等P12とを、例えば塩基配列又はアミノ酸配列を異にする核酸又はペプチドのように異なる物質とすることで、それぞれのマイクロビーズにおいて異なる標的核酸や標的タンパク等を捕捉、分離することができる。
【0029】
そして、マイクロビーズ11、12に捕捉、分離された標的核酸や標的タンパク等を蛍光色素標識による光学検出などによって検出し、同時に画像識別手段によってマイクロビーズ11, 12を弁別することで、2種類の標的核酸や標的タンパク等を同時に分析することができる。
【0030】
例えば、一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism: SNP)分析を行う場合、核酸等P11の塩基配列を一のSNPに対応する塩基配列とし、核酸等P12の塩基配列を他のSNPに対応する塩基配列とする。このビーズセットをサンプルと混合し、マイクロビーズ11上の信号(例えば、蛍光シグナル強度)とマイクロビーズ12上の信号を比較することにより、サンプル中に含まれる核酸のSNP型の比率を判定することができる。
【0031】
(3)親水性
マイクロビーズ11、12の略平行に対向する2つの面のうち、核酸等P11、P12が固相化されていない側の面(図では、底面)には、後述する「親水層」に起因した親水性が付与されている。
【0032】
通常、マイクロビーズは、使用時の水溶液中における形状維持のため、疎水性材料を用いて形成される。本発明に係るマイクロビーズ11、12も、後述するようにフォトリソグラフィーを用いて、疎水性の薄膜材料から形成されるものである。
【0033】
しかしながら、マイクロビーズを疎水性材料により形成した場合には、ビーズ表面も疎水性となるため、疎水相互作用によるマイクロビーズ同士の凝集が問題となる。マイクロビーズ同士が凝集すると、核酸等P11、P12の固相化を行うことができない。また、分析に供した際に、画像識別手段による形状の弁別が不能となったり、標的核酸や標的タンパク等を効率良く補足、分離できなくなったりして、正確な分析結果を得られなくなる。
【0034】
そのため、マイクロビーズ11、12では、略平行に対向する2つの面のうち一方(図では、底面)に親水性を付与し、これによってマイクロビーズ同士の凝集を抑制できるよう構成している。
【0035】
2.ビーズセット
このように、ビーズセット1は、それぞれ異なる塩基配列又はアミノ酸配列の核酸鎖又はペプチドを固相化した、形状の異なる複数種類のマイクロビーズから構成されている。これにより、サンプル中に含まれる複数の標的核酸やタンパクを同時に分析することが可能である。
【0036】
この際、先に説明したように、高い分析精度を得るためには、ビーズセット中に含まれる各マイクロビーズの数が明確となっている必要がある。例えば、上記のSNP分析の例において、ビーズセット1中にマイクロビーズ11, 12のポピュレーションが不明である場合、両者から得られる信号を比較して、サンプル中の核酸のSNP型比率を正確に決定することができない。
【0037】
この点、形状の異なる複数種のマイクロビーズの数が明確であるビーズセット1では、例えば、マイクロビーズ11及びマイクロビーズ12の数を精緻に一致させ同数に設定することができ、両者から得られる信号を正確に比較して、高い分析精度を得ることが可能となる。
【0038】
3.マイクロビーズ作製方法I(親水層を犠牲層とする場合)
以下、図2を参照しながら、このマイクロビーズ及びビーズセットの作製方法の第一実施形態について説明する。図2は、第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の手順を示すフローチャートである。
【0039】
(1)親水層の製膜工程
図2中、符号S1の「親水層の製膜工程」は、マイクロビーズの底面に親水性を付与するための「親水層」を基板上に製膜する工程である。本実施形態に係るマイクロビーズ作製方法においては、この親水層は、マイクロビーズを剥離するためのいわゆる犠牲層としても機能するものである。
【0040】
基板には、例えば、ガラス基板やシリコン基板などが用いられる。基板の材質は、特に限定されず、通常のフォトリソグラフィー技術に用いられる材質を適宜採用し得る。
【0041】
本発明において「犠牲層」とは、後述する剥離工程S7において、物理的あるいは化学的に侵食され得る物質層を意味する。この犠牲層の上層にマイクロビーズとして剥離され得る薄膜を製膜し、剥離工程において犠牲層を侵食することで、薄膜を剥離してマイクロビーズを得ることができる。
【0042】
犠牲層は、剥離工程前のビーズ作製の諸工程、特に核酸等を固相化する工程において使用される薬液によって、基板上のマイクロビーズが剥離するほどの侵食・損傷を受けないものが好ましい。
【0043】
また、犠牲層は、マイクロビーズに固相化された核酸等を変性させたり、遊離させるたりすることなく、剥離工程において侵食され得るものであることが好ましい。マイクロビーズに固相化された核酸等が変性、損傷、遊離等した場合には、標的核酸や標的タンパク等をビーズ上に捕捉することができない。従って、犠牲層は、マイクロビーズに固相化された核酸等の標的核酸や標的タンパク等に対する相互作用能を温存しつつ、侵食され得るものが用いられる。
【0044】
この第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、マイクロビーズの底面に親水性を付与するための親水層をいわゆる犠牲層としても機能させる。この親水層は、親水性有機材料によって形成される。具体的には、溶媒に溶解させた親水性有機材料を基板上に塗工し、乾燥させて親水層を製膜する。親水性有機材料の塗工は、スピンコート、ディップコート、スクリーン印刷、スプレイ法、インクジェット印刷などによって行うことができる。
【0045】
ここで、形成された親水層は、後述の剥離工程S7において、親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を用いて一部を溶解され得る。従って、この場合には、親水性有機材料は、例えば、室温(30℃)前後の溶媒では再溶解せず、45℃前後以上で再溶解するような材料を用いることが好適となる。具体的には、熱水又は温水に再溶解する親水性有機材料として、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン又はアミロース等の水溶性高分子から一以上の材料を選択して用いることができる。特に、ポリビニルアルコールは、加熱した溶媒に溶解して基板上に塗工し、乾燥させた後は、再度加熱しない限り再溶解しないため、犠牲層の材料として好適である。
【0046】
この他、親水性有機材料には、ゼラチン(主成分コラーゲン)、寒天(主成分アガロース、アガロペクチン)、カラギーナン(主成分ガラクトース、アンヒドロ・ガラクトース)、ペクチン(主成分ガラクチュロン酸、ガラクチュロン酸メチルエステル)、ローガストビーンガム(主成分ガラクトマンナン)、感光性親水樹脂などを採用できる。
【0047】
(2)マイクロビーズ薄膜の製膜工程
図2中、符号S2の「マイクロビーズ薄膜の製膜工程」は、基板上に製膜した親水層に積層してマイクロビーズの材料となる薄膜を製膜する工程である。
【0048】
マイクロビーズ材料としては、各種のポリマーや二酸化珪素、金属(アルミニウムやクロム、金、銀など)の薄膜を製膜する。製膜は、薄膜の材料に応じて、スピンコーターやスリットコーター、吹き付け等による塗布、又は物理蒸着(PVD)や化学蒸着(CVD)による蒸着などの従来公知の手法によって行うことができる。薄膜の製膜厚は、作製するマイクロビーズの厚み(図1中、符号h参照)によって適宜設定される。
【0049】
薄膜の材料には、SU-8などのエポキシ系レジストや、ポリイミド系レジスト、アクリル系レジスト、ノボラック系レジストなどのフォトレジストを好適に採用できる。ポリマーフォトレジスト薄膜を用いることで、二酸化珪素薄膜や金属薄膜に比して、低コストにマイクロビーズを作製することができ、かつ、低比重のマイクロビーズを得られる。分析時、マイクロビーズはサンプルと混合され、液相中に分散される。このとき、マイクロビーズの比重が大きいと、液相中での分散状態を長く維持することができない。
【0050】
さらに、ポリマーには、SU-8を採用することが特に好適となる。SU -8は、化学増幅型のエポキシベースのネガ型フォトレジストである。SU-8は、レジストの超薄膜形成技術とフォトリソグラフィー技術とを組み合わせて微細構造を形成するための材料として、米IBM社によって開発された。SU-8はスピンコートによる製膜で簡単に厚みを調整することができる。また、SU-8は高い光透過性を有し、各種溶媒や酸、アルカリに対する耐溶性と耐温性を備えている。従って、このSU-8を用いることにより、様々な厚みのマイクロビーズを簡便に作製することが可能である。また、マイクロビーズの作製工程及びマイクロビーズを用いた分析工程において、安定したパフォーマンスを得ることができる。
【0051】
(3)成形工程
図2中、符号S3の「成形工程」は、製膜工程S2で製膜した薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する工程である。この工程は、マイクロビーズの材料として、(3-1)SU-8のようなレジストを製膜した場合と、(3-2)二酸化珪素や各種金属を製膜した場合とで、手順が異なる。
【0052】
(3-1)マイクロビーズの材料としてSU-8のようなレジストを製膜した場合
始めに、製膜工程S2で薄膜した薄膜を、必要に応じて加熱し、固化する(プリベーク)。次に、マイクロビーズの形状を描いたフォトマスク(以下、単に「マスク」ともいう)を用いて露光を行う。露光した基板を現像液に浸し、余分な部分の薄膜を除去する。さらに、リンス液(イソプロピルアルコール:IPA)ですすぎ、不要部分を完全に除去する。その後、ポストベークを行うと、基板上に残された薄膜にマイクロビーズの形状が現れる。
【0053】
このとき、作製するマイクロビーズの形状に応じて、マスクの形状を設計することにより、基板上に任意の形状を有するマイクロビーズを成形することが可能となる。また、同様にマスクを任意に設計することによって、様々な形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数成形することが可能である。また、マスクレス露光機を用いれば、フォトマスク作製することなく、同様の任意形状の任意数のマイクロビーズを成形することができる。
【0054】
(3-2)マイクロビーズの材料として二酸化珪素や各種金属を製膜した場合
始めに、薄膜の表面に、通常使用されるレジストをスピンコートし、必要に応じてプリベークを行う。次に、上記と同様のマスクを用いて露光を行う。露光した基板を現像液に浸し、余分な部分のレジストを除去する。さらに、リンス液(主に超純水)で数回すすぎ、不要部分を除去し、ポストベークを行う。その後、薄膜をエッチングによりパターニングした後、レジストを完全に除去する。これにより、基板上に残された薄膜にマイクロビーズの形状が現れる。
【0055】
(4)官能基修飾工程
図2中、符号S4の「官能基修飾工程」は、成形工程S3で成形した薄膜の表面に官能基を修飾する工程である。
【0056】
製膜工程S2において基板上に製膜された薄膜は、成形工程S3によりマイクロビーズとなる部分のみが残され、それ以外の部分は除去される。官能基修飾工程S4では、このマイクロビーズとなる部分の薄膜表面に、次に説明する固相化工程のための官能基修飾を行う。
【0057】
修飾する官能基は、例えば、ヒドロキシル基や、アミノ基、カルボキシル基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレインイミド基などであってよい。基板表面への官能基の修飾は、従来、DNAチップやプロテインチップの製造において、基板表面に核酸鎖やペプチドを固相化するためのリンカーを導入するために行われている。本発明においても、同様の手法を採用し得る。
【0058】
具体例として、薄膜表面にヒドロキシル基を修飾する場合について説明する。この場合、まず、基板表面をアミノプロピルトリエトキシシラン処理した後、基板をγ−バレロラクトンを溶解したジメチルホルムアミド(DMF)に浸漬し、反応させることにより、ヒドロキシル基修飾を行うことができる。又は、基板表面をグリシドキシプロピルトリメトキシシラン処理した後、基板をテトラエチレングリコールに少量の濃硫酸を添加した混合液中に浸漬し、反応させることにより行うこともできる。
【0059】
この官能基修飾工程S4と、次に説明する撥水加工工程S5は、先に撥水加工工程S5を行った後、官能基修飾工程S4を行ってもよい。なお、これらの工程はともに必須の工程となるものではない。
【0060】
(5)撥水加工工程
図2中、符号S5の「撥水加工工程」は、成形工程S3で成形した薄膜間の基板領域に撥水加工を行う工程である。
【0061】
製膜工程S2において基板上に製膜された薄膜は、成形工程S3によりマイクロビーズとなる部分のみが残され、それ以外の部分は除去される。撥水加工工程S5では、この薄膜が除去された基板領域(成形した薄膜間の基板領域)に、次に説明する固相化工程のための撥水性を付与する。
【0062】
薄膜が除去された基板領域に撥水性を持たせることにより、マイクロビーズとなる薄膜部分に滴下される溶液が互いに混じり合うことを防止することができる。
【0063】
撥水加工は、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、マイクロビーズとなる薄膜部分を一旦通常使用されるレジストでカバーし、薄膜が除去された基板領域をトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理する。その後、レジストを除去することで、マイクロビーズとなる部分以外の基板領域に撥水性を付与できる。又は、レジストでカバーした後、フッ素樹脂をスピンコート、ベークすることによって撥水性を付与することもできる。
【0064】
なお、先に撥水加工工程S5を行った後、官能基修飾工程S4を行う場合には、薄膜が除去された基板領域が撥水加工された後、マイクロビーズとなる部分のみに官能基が修飾されることとなる。
【0065】
(6)固相化工程
図2中、符号S6の「撥水加工工程」は、成形工程S3で成形した薄膜の表面への核酸又はペプチドの固相化を行う工程である。なお、固相化される物質には、核酸及びペプチドの他、糖鎖や各種化合物が含まれる点は上述の通りである。
【0066】
この段階で、基板上にはマイクロビーズとなる部分の薄膜のみが残され、それ以外の基板領域には撥水性が付与されている。固相化工程S6では、このマイクロビーズとなる部分の薄膜表面に、ヌクレオシド溶液又はアミノ酸溶液(以下、「モノマー溶液」と総称する)を滴下し、薄膜上でのステップ合成によって核酸又はペプチドの固相化を行う。
【0067】
核酸又はペプチドのステップ合成は、所望の塩基配列又はアミノ酸配列に従って、マイクロビーズとなる部分の薄膜上に順次対応する塩基又はアミノ酸を含むモノマー溶液を滴下し、結合反応させる合成サイクルを繰り返すことによって行うことができる。
【0068】
例えば、核酸を固相化する場合、まず、ヌクレオシドを含むモノマー溶液をピペットで滴下し、続けて5-エチルチオテトラゾール溶液を滴下して反応させる。洗浄・乾燥後、酸化溶液を滴下し、反応させて、ヌクレオシド亜リン酸トリエステルをヌクレオシドリン酸トリエステルに転化する。洗浄後、無水酢酸/テトラヒドロフラン混合溶液を滴下し、反応させて、官能基修飾工程S3において導入された未反応ヒドロキシル基をキャップ化する。さらに、洗浄・乾燥後、ジクロロ酢酸を含むジクロロメタン溶液を滴下し、基板に連結されたヌクレオシドの5'-ヒドロキシル基からジメトキシトリチル保護基を除去する。この後、洗浄・乾燥を行い、以上の(a)ヌクレオシド連結、(b)洗浄、(c)酸化、(d)洗浄、(e)ジメトキシトリチル保護基の除去及び(f)洗浄の各工程を繰り返し、最後に核酸塩基部の脱保護を行う。これにより、所望の塩基配列の核酸を固相化することができる。
【0069】
また、ペプチドを固相化する場合には、例えば、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を含むモノマー溶液を滴下し、各種縮合方法に従い薄膜上で縮合させる工程を繰り返し、最後に各種保護基を除去する。これにより、所望のアミノ酸配列のペプチドを固相化できる。
【0070】
核酸又はペプチドの固相化は、予め合成した核酸又はペプチドを含む溶液を、マイクロビーズとなる部分の薄膜上に滴下して、官能基修飾工程S4で導入した官能基と結合させることにより、固相化することもできる。
【0071】
モノマー溶液、及び予め合成した核酸又はペプチド溶液の滴下は、ピペットやマイクロディスペンサーによるスポッティングや、インクジェット式のスポッティングにより行うことができる。
【0072】
(7)剥離工程
図2中、符号S7の「剥離工程」は、核酸又はペプチドが固相化された成形後の薄膜を基板から剥離する工程である。
【0073】
第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、親水層に対して、マイクロビーズの底面に親水性を付与する機能と同時にいわゆる犠牲層としての機能を持たせている。この剥離工程S7では、親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を用いてこの親水層の一部を溶解させ侵食する。例えば、親水性有機材料としてポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン又はアミロース等の水溶性高分子を用いる場合、45℃前後以上とした溶媒で再溶解させる。
【0074】
親水層を再溶解によって侵食すると、親水層上に積層された薄膜がマイクロビーズとして剥離される。このとき、親水層と接していた側の薄膜表面には、親水層の一部が溶解されずに残り、この残存した親水層によってマイクロビーズの表面に親水性が付与される。
【0075】
親水性有機材料を加温した溶媒によって溶解させると、多くの場合、親水層の少なくとも一部が薄膜表面に残存することとなるが、ビーズ表面に十分な親水性を付与するため、親水層の再溶解は、親水層の一部を積極的に薄膜表面に残すような条件で行われることが望ましい。
【0076】
本実施形態の剥離工程S7では、いわゆる犠牲層としての親水層を侵食するための剥離液として、親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒、好適には加温した純水、を用いることができる。上述の通り、犠牲層は、マイクロビーズに固相化された核酸等を変性させたり、遊離させるたりすることなく、剥離工程において侵食され得るものであることが好ましい。本実施形態では、剥離液として純水を用いることで、マイクロビーズに固相化された核酸等の標的核酸や標的タンパク等に対する相互作用能を温存しつつ、犠牲層を侵食して、マイクロビーズを得ることが可能となる。なお、薄膜の剥離は、薄膜成形後の基板を超音波処理し、物理的に親水層を侵食することによって行うこともできる。この超音波処理についても、親水層の一部が薄膜表面に残存するような条件で行われることが望ましい。
【0077】
4.マイクロビーズ作製方法Iの具体例(親水層をいわゆる犠牲層とする場合)
(1)親水層の製膜工程〜成形工程
次に、図3〜図5を参照しながら、第一実施形態に係るマイクロビーズ及びビーズセットの作製方法についてより具体的に説明する。図3は、製膜工程S1〜成形工程S3及び剥離工程S7における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。ここでは、マイクロビーズの材料としてSU-8を用いて、図1に示したマイクロビーズ及びマイクロビーズセットを作製する場合を例として説明する。
【0078】
始めに、製膜工程S1において、基板2上に親水層3を積層する(図3(A)参照)。次に、製膜工程S2において、親水層3上にSU-8を載せて(図3(B)参照)、スピンコートを行い、薄膜4を製膜する(図3(C)参照)。
【0079】
この際、SU-8の量及びスピンコーターの回転速度(図中矢印参照)を調節することにより、薄膜4の製膜厚を調整し、作製するマイクロビーズの作製するマイクロビーズの厚み(図1中、符号h参照)を適宜設定する。
【0080】
製膜工程S1で製膜した薄膜4をプリベークした後、成形工程S3でマイクロビーズの形状を描いたマスクMを用いて露光を行う(図3(D)参照)。図中矢印は、光源からの光を示している。
【0081】
露光した基板2を現像液に浸し、余分な部分の薄膜4を除去する。さらに、リンス液によるすすぎ等を行うことにより、基板2上に残された薄膜4にマイクロビーズ11,12の形状が現れる(図3(E)参照)。
【0082】
このとき、作製するマイクロビーズの形状に応じて、マスクMの形状を設計することにより、基板2上に任意の形状を有するマイクロビーズを成形することが可能となる。また、同様にマスクMを任意に設計することによって、様々な形状のマイクロビーズを、それぞれ任意の数成形することが可能である。従って、本実施形態に係るマイクロビーズ作製方法によれば、形状の違いによって識別可能なマイクロビーズを効率的に、低コストに作製することができる。さらに、マスクの設計によって、多種類のマイクロビーズのポピュレーションが明確に設定されたビーズセットを作製することが可能となる。
【0083】
(2)官能基修飾工程〜撥水加工工程
本実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、さらに、官能基修飾工程S4でマイクロビーズ11,12となる部分の薄膜4表面に官能基修飾を行い、撥水加工工程S5において薄膜4が除去された基板2領域(マイクロビーズ11,12となる部分の薄膜4間の基板領域)の撥水加工を行った後、固相化工程S6において薄膜表面への核酸又はペプチド等の固相化を行う。
【0084】
図4は、撥水加工工程S5における基板上の構成を模式的に示す上面図である。
【0085】
図4(A)は、図3で説明したように、基板2上にマイクロビーズ11,12を成形した場合を示している。成形工程S3により基板上にはマイクロビーズ11,12となる部分の薄膜4のみが残され、それ以外の部分は除去されている(図3(E)参照)。撥水加工工程S5では、図中斜線で示す薄膜4が除去された基板領域(ここでは、親水層3が露出した領域)に撥水性を付与する。撥水加工は、斜線で示した基板領域を、例えば、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理することによって行うことができる。
【0086】
これにより、マイクロビーズ11,12となる部分の薄膜4表面に滴下される溶液が互いに混じり合うことを防止することができる。従って、固相化工程S6において、モノマー溶液や予め合成した核酸又はペプチド溶液、をマイクロビーズとなる部分の薄膜表面に滴下する際に、溶液を確実に狙った部位にスポッティングして、所望の塩基配列又はアミノ酸配列を有する核酸鎖等を合成、固相化することが可能となる。また、糖鎖や化合物などを固相化する際にも、これらが混じり合うことがない。
【0087】
図4(A)ではマイクロビーズとなる各薄膜部分のそれぞれを囲むように撥水加工を行っているが、基板上に同一種類のマイクロビーズを複数成形した場合には、同一種のマイクロビーズが成形されている領域を取り囲むように撥水加工を行うことができる。例えば、2種類のマイクロビーズ11,12をそれぞれ所定数ずつ成形した場合、例えば図4(B)に示すような斜線領域に撥水加工を行う。これにより、同一種のマイクロビーズ(マイクロビーズ群)に対しては、一括してモノマー溶液等を滴下することができ、かつ、隣接する他のマイクロビーズ群に滴下した溶液と混じり合うことを防止することが可能である。
【0088】
モノマー溶液等の滴下は、ピペットやマイクロディスペンサーによるスポッティングや、インクジェット式のスポッティングにより行われる。このようなスポッティング方式では、それぞれ液物性が微妙に異なる比較的粘度の高い微小液滴を空中に吐出し、基板上に付着させるものであるため、液滴を吐出する際にしぶき状の液滴(いわゆる「サテライト」)が発生し、目的外の部位にモノマー溶液等が付着することがあった。
【0089】
本発明に係るマイクロビーズ製造方法では、最終的にマイクロビーズを基板から剥離するため、サテライトによってマイクロビーズとなる部分以外の基板領域にモノマー溶液等が付着したとしても問題は生じない。
【0090】
(3)固相化工程
図5は、固相化工程S6における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。ここでは、図3及び図4(A)に示したように、基板2上にマイクロビーズ11,12を成形し、撥水加工を行った後、マイクロビーズ11,12の表面に核酸をステップ合成によって固相化する場合を例として説明する。図は、親水層3の上層に成形されたマイクロビーズ11,12を拡大して示している。
【0091】
まず、マイクロビーズ11となる部分の薄膜4表面に、アデニン「A」を含むモノマー溶液を滴下する。薄膜4表面には、官能基修飾工程S4でリンカーが導入されている。同様に、マイクロビーズ12となる部分の薄膜4表面には、グアニン「G」を含むモノマー溶液を滴下する。その後、滴下したモノマー溶液中のアデニン又はグアニンとの結合反応を行なう(図5(A)参照)。
【0092】
次に、マイクロビーズ11となる部分にはシトシン「C」を含むモノマー溶液を、マイクロビーズ12となる部分にはチミン「T」を含むモノマー溶液を、それぞれ滴下し、2段階目の結合反応を行なう(図5(B)参照)。以下、この合成ステップを、所望の塩基配列に従って繰り返す。
【0093】
このとき、撥水加工工程S5において、図中斜線部で示す領域に撥水加工を行っているため、マイクロビーズ11となる部分に滴下されたモノマー溶液と、マイクロビーズ12となる部分に滴下されたモノマー溶液とが混じり合うことはない。このため、マイクロビーズ11,12の表面において、所望の塩基配列の核酸鎖を正確に合成して、固相化を行うことが可能となる。
【0094】
従来のDNAチップで行なわれているような光化学反応による固相化では、1段の合成に各塩基(A,G,T,C)用の4つのフォトマスクを用いて4回の結合反応を行なう必要があった。これに対して、本発明では、撥水加工された領域で区切られたマイクロビーズ上に各塩基を含むモノマー溶液をそれぞれ滴下し、同時に結合反応を行なうことができるため、核酸鎖の合成、固相化を低コストに行うことができる。
【0095】
(4)剥離工程
図6は、製膜工程S1〜固相化工程S6を行った後の基板(A)と、さらに剥離工程S7を行った後の基板(B)を模式的に示す断面図である。図は、マイクロビーズ11が成形された基板2上の領域の断面を示している。
【0096】
製膜工程S1〜固相化工程S6を行った後の基板2上には、親水層3を介して、フォトリソグラフィーによって成形され、表面に核酸等P11が固相化された薄膜4(マイクロビーズ11)が積層されている。
【0097】
剥離工程S7では、いわゆる犠牲層として機能する親水層3を再溶解可能な温度とした溶媒を用いて一部溶解させることにより、又は基板2を超音波処理することにより、マイクロビーズ11(薄膜4)を基板2から剥離する(図6(B)参照)。これにより、図3(F)に示したように、マイクロビーズ11,12及びこれらから構成されるビーズセット1を得ることができる。
【0098】
得られたマイクロビーズ11は、上記の作製工程に起因して、略平行に対向する2つの面を備えた立体形状を有することとなる。すなわち、略平行に対向する2つの面は、薄膜4の製膜工程S2に由来して形成される。2つの面間の距離は、マイクロビーズ厚み(図1中、符号h参照)に対応し、製膜厚を調整することによって任意に設定できる。
【0099】
そして、マイクロビーズ11の略平行に対向する2つの面のうち一方には、核酸等P11が固相化されている。また、他方の面(親水層3と接していた側の表面)には、親水層3の一部が溶解されずに残り、残存した親水層3よる親水性が付与される。
【0100】
5.マイクロビーズ作製方法II(親水層とは別に犠牲層を設ける場合)
図7は、第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の手順を示すフローチャートである。
【0101】
上記の第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、工程S1において製膜する親水層にいわゆる犠牲層としての機能を持たせている。そして、剥離工程S7において親水層を薄膜表面に一部残存させて侵食することにより、マイクロビーズを剥離し、同時にビーズ表面に親水性を付与している。この場合には、ビーズ表面に十分な親水性を付与できるように、親水層の一部を薄膜表面に残すような条件で親水層を侵食することが必要となる。
【0102】
ここで、説明する第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法は、親水層の製膜に先立ち、これに替わってマイクロビーズを剥離するために機能する「犠牲層」を別途製膜することを特徴としている。従って、この第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法において、親水層は、マイクロビーズの底面に親水性を付与するためのみに機能することとなる。
【0103】
(1)犠牲層の製膜工程
図7中、符号S0で示す「犠牲層の製膜工程」では、フッ素系有機材料又はポリイミド系有機材料、若しくは親水層と同一の親水性有機材料又は異なる親水性有機材料を用いて犠牲層を基板上に製膜する。
【0104】
(1-1)フッ素系有機材料を用いて犠牲層を形成する場合
前記犠牲層を、フッ素系有機材料を用いて形成する場合、低分子材料としてトリアジンのフッ素誘導体、縮合芳香族のフッ素誘導体、アダマンタンのフッ素誘導体等が用いられる。また、高分子材料のフッ素系有機材料としては、完全フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、フッ素含有光硬化性樹脂等のフッ素樹脂が挙げられる。フッ素系有機材料は、溶媒に溶解しスピンコートによって製膜した後、乾燥又は光硬化を行うことにより製膜する。
【0105】
フッ素系有機材料は、フッ化度を高めるに従って水や有機溶媒に対し難溶性となり、フッ素系溶剤のみに溶解性となる。従って、犠牲層をフッ素系有機材料により形成すれば、剥離工程前のビーズ作製の諸工程及び核酸等を固相化する工程において使用される薬液により、犠牲層が侵食・損傷を受けることがない。
【0106】
さらに、フッ素系溶剤は電荷を有する高分子と混合し難く、フッ素系高分子以外の高分子を溶かし難い性質を有する。そのため、犠牲層をフッ素系有機材料層とし、剥離工程S7においてフッ素系溶剤を用いて侵食させれば、マイクロビーズに固相化された核酸等を変性、損傷、遊離等させることがない。さらに、フッ素系有機材料として、特に、トリアジンのフッ素誘導体等の低分子材料を用いれば、剥離工程S7において犠牲層を昇華させることによりマイクビーズを剥離することができるため、核酸等の標的核酸や標的タンパク等に対する相互作用能を一層確実に温存することができる。
【0107】
フッ素系有機材料の好適なフッ化度は、原子%として30%程度以上である。フッ化度をこの数値範囲とすることで、例えば製膜工程S2で使用されるシクロペンタノンや1−メトキシー2−プロピルアセテート等の溶媒に対する耐溶性を備えた犠牲層を形成することができる。
【0108】
(1-2)ポリイミド系有機材料を用いて犠牲層を形成する場合
犠牲層を、ポリイミド系有機材料を用いて形成する場合、汎用のポリイミド樹脂が用いられる。犠牲層をポリイミド系有機材料により形成すれば、剥離工程前のビーズ作製の諸工程及び核酸等を固相化する工程において使用される薬液により、犠牲層が侵食・損傷を受けることがない。さらに、剥離工程S7においてN−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性溶媒を用いて侵食させれば、マイクロビーズに固相化された核酸等を変性、損傷、遊離等させることがない。なお、ポリイミド樹脂に替えて、ノボラック樹脂を用いて犠牲層を形成してもよい。
【0109】
(1-3)親水性有機材料を用いて犠牲層を形成する場合
犠牲層を、親水性有機材料を用いて形成する場合、後述する親水層と同一の親水性有機材料又は異なる親水性有機材料が用いられる。この第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法において、親水層の材料には、感光性親水樹脂、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン又はローガストビーンガムから選択される一以上の親水性有機材料が用いられる。
【0110】
犠牲層は、これら親水層の材料と同一の親水性有機材料を用いて形成することができるが、好適には親水層と異なる親水性有機材料であって、再溶解性の高い材料が用いられる。これは以下の理由による。
【0111】
すなわち、親水性有機材料を用いて形成した犠牲層は、剥離工程S7において、犠牲層をなす親水性有機材料を再溶解可能な温度(例えば、45℃前後以上)とした溶媒を用いて溶解される。この際、製膜工程S1で製膜した親水層までもが溶解してしまわないように、犠牲層は親水層よりも再溶解されやすい材料を用いて形成することが望ましい。
【0112】
具体的には、親水層の材料に感光性親水樹脂又はポリビニルアルコールを用い、犠牲層の材料にこれら以外の親水性有機材料を用いることが好適となる。感光性親水樹脂は、感光するとゲル化して冷水に不溶となる。また、ポリビニルアルコールは、加熱した溶媒に溶解して基板上に塗工し、乾燥させた後は、再度加熱しない限り再溶解しない。従って、親水層を光性親水樹脂又はポリビニルアルコールによって形成し、犠牲層を他の親水性有機材料により形成することで、親水層を温存したまま犠牲層のみを侵食することが可能となる。なお、超音波処理によって物理的に親水層を侵食して薄膜の剥離を行う場合には、同様の理由により、犠牲層を親水層と異なる親水性有機材料であって、超音波処理によって侵食され易い材料を用いて形成することが望ましい。
【0113】
(2)親水層の製膜工程〜固相化工程
図7中、符号S1の「親水層の製膜工程」は、基板上に製膜した犠牲層に積層して親水層を製膜する工程である。この工程S1は、犠牲層に親水層を積層する点以外は、第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法と同様に行うことができる。
【0114】
ただし、この第二実施形態の工程S1で製膜される親水層は、犠牲層としてではなく、マイクロビーズ表面に親水性を付与するためのみに機能する点に注意を要する。
【0115】
親水層の材料には、感光性親水樹脂、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン又はローガストビーンガムから選択される一以上の親水性有機材料が用いられる。このうち、剥離工程S7において親水層を温存したまま犠牲層のみを侵食することを目的として、親水層は再溶解性の低い感光性親水樹脂又はポリビニルアルコールを用いて形成することが好適である。
【0116】
感光性親水樹脂には、例えば、アジト系感光基をポリビニルアルコールにペンダントした、水溶性の感光性樹脂を用いることができる。感光性親水樹脂の製膜は、溶媒に溶解させた樹脂をスピンコート等によって基板上に塗工し、感光させることにより行う。
【0117】
感光性親水樹脂の感光は、続くマイクロビーズ薄膜の製膜工程S2で製膜する薄膜材料と同じ感光波長域及び露光エネルギーで、ポジ・ネガが同じ属性の感光性親水樹脂を用いることができる。この場合には、成形工程S3において、製膜した薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する際に、同一のマスクを用いて親水層の感光も行うことができる。感光性親水樹脂からなる親水層とマイクロビーズ薄膜の露光を同一のマスクを用いて一度に行うことで、作業効率を高めることができる。また、親水層のうち、マイクロビーズとして成形された薄膜に接触する部分のみについて架橋を施すことができ、マイクロビーズとなる薄膜への親水層の密着性を高めることが可能となる。なお、親水層とマイクロビーズ薄膜の露光を別々のマスクを用いて行うことも当然に可能である。
【0118】
感光させた感光性親水樹脂は、ゲル化して冷水に不溶化する。未硬化の感光性樹脂は35℃以上とした温水を用いて溶解させて除去することができる。
【0119】
本実施形態のマイクロビーズ薄膜の製膜工程S2、成形工程S3、官能基修飾工程S4、撥水加工工程S5、撥水加工工程S6のここで説明した以外の工程は、第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法と同様に行うことができる。そのため、ここでは説明を省略する。
【0120】
(3)剥離工程
(3−1)犠牲層の侵食
図7中、符号S7の「剥離工程」は、核酸又はペプチドが固相化された成形後の薄膜を基板から剥離する工程である。
【0121】
図8は、製膜工程S0〜固相化工程S6を行った後の基板(A)と、さらに剥離工程S7を行った後の基板(B)を模式的に示す断面図である。図は、マイクロビーズ11が成形された基板2上の領域の断面を示している。
【0122】
図8(A)に示すように、本実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、犠牲層として犠牲層5を製膜し(工程S0)、これに親水層3(工程S1)及びマイクロビーズ薄膜4(工程S2)を積層している。この剥離工程S7では、犠牲層5を物理的あるいは化学的に侵食して、薄膜4を親水層3とともに剥離して、マイクロビーズ11を得る。
【0123】
具体的には、犠牲層5をフッ素系有機材料により形成した場合には、剥離液としてフッ素系溶剤を用いて犠牲層5を侵食するか、フッ素系有機材料を昇華させて犠牲層5を侵食する。フッ素系溶剤は、電荷を有する高分子と混合し難く、高分子を溶かし難い性質を有する。従って、フッ素系溶剤を用いて犠牲層5を侵食すれば、親水層3を再溶解させることなく、犠牲層5のみを侵食することができる。フッ素系有機材料層として、特にトリアジンのフッ素誘導体等の低分子材料を用いれば、100℃以下の低温で昇華除去することができるため、親水層を損なうことがない。
【0124】
また、犠牲層5をポリイミド系有機材料により形成した場合には、剥離液として非プロトン性溶媒を用いて犠牲層5を侵食する。
【0125】
フッ素系有機材料又はポリイミド系有機材料により形成された犠牲層5を侵食する際には、剥離されたマイクロビーズ11表面に残存することがないように、完全に溶解又は昇華させて取り除く。マイクロビーズ表面に犠牲層5が残存すると、フッ素系有機材料やポリイミド系有機材料の疎水性によって、得られたマイクロビーズ同士が凝集してしまう可能性がある。
【0126】
犠牲層5を親水性有機材料により形成した場合には、親水性有機材料を再溶解可能な温度(例えば、45℃前後以上)とした溶媒により、又は超音波処理により、犠牲層5を侵食する。この際、犠牲層5は、親水層3と異なる親水性有機材料であって、より侵食され易い材料を用いて形成されていることが望ましい。これにより、超音波処理や温水処理によって親水層3を温存したまま犠牲層のみを侵食することが可能となる。
【0127】
犠牲層5を親水性有機材料により形成した場合には、侵食される犠牲層5が完全に溶解されずにマイクロビーズ11表面に残存したとしても、親水層3に基づくビーズ表面の親水性が低下することがない。
【0128】
(3−2)親水層のエッチング
犠牲層5の侵食に先立っては、親水層3のエッチングを行うことが望ましい。製膜工程S2において基板上に製膜された薄膜4は、成形工程S3によりマイクロビーズ11となる部分のみが残され、それ以外の部分は除去される。この薄膜4が除去された基板領域(成形した薄膜間の基板領域)に露出した親水層3をエッチングにより取り除く。これにより、親水層3の下層に位置する犠牲層5を溶解又は昇華させやすくなる。
【0129】
エッチングは、親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を剥離液として、成形後の薄膜4(マイクロビーズ11)間に露出した親水層3を溶解、除去し得るような条件で行う。エッチング条件は、親水層3が過度に溶解されてマイクロビーズ11が剥離してしまうことがないような条件であることが必要となる。
【0130】
この点、親水層3を感光性親水樹脂によって形成した場合には、成形後の薄膜4(マイクロビーズ11)間に露出した非硬化の感光性親水樹脂のみを選択的に除去することができるため、マイクロビーズの剥離を効果的に防止することができる。
【0131】
このように、第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、剥離工程S7において、犠牲層5を侵食することにより、薄膜4の親水層3と接していた側の表面に、親水層5の大部分を残したまま成形後の薄膜4(マイクロビーズ11)を剥離することができる。
【0132】
特に、先に説明したように、薄膜4と同じ感光波長域及び露光エネルギーで、ポジ・ネガが同じ属性の感光性親水樹脂によって親水層3を形成し、同一のマスクを用いて親水層とマイクロビーズ薄膜の露光を行った場合には、成形後の薄膜4(マイクロビーズ11)とこれに接触する親水層の密着性が高まり、親水層5の全層を温存した状態でマイクロビーズを剥離することができる。
【0133】
これにより、本実施形態に係るマイクロビーズ作製方法では、先に説明した第二実施形態に係る方法に比べて、さらに高い親水性をマイクロビーズ表面に付与することが可能となる。
【実施例1】
【0134】
1.親水層(PVA)を犠牲層として機能させるマイクロビーズ作製
本実施例では、基板上に製膜したSU-8をフォトリソグラフィーによって成形し、核酸鎖の固相化を行った後、剥離することによってマイクロビーズの作製を行った。ここでは、ポリビニルアルコール(PVA)を用いて親水層を形成し、これをいわゆる犠牲層としても機能させることでSU-8薄膜を剥離した。
【0135】
(1)親水層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にPVA(完全けん化型、重合度500、和光純薬工業製、10重量%に加熱溶解させて調整し用いた)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に2500rpmで30秒保持)した後、85℃で120分乾燥した。接触式膜厚計によりPVAの膜厚を測定したところ、約600nmであった。
【0136】
(2)マイクロビーズ薄膜の製膜工程
PVAとSU−8との密着性を持たせるため、PVAをスピンコートした基板にO−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(東京化成工業製)をトルエンに30重量%に希釈してスピンコート(まず500rpmで5秒、次に5000rpmで30秒保持)した後、100℃で90秒乾燥した。
【0137】
SU−8(SU-8 -3035-N-02、化薬マイクロケム製、シクロペンタノンで2倍に希釈して用いた)をスピンコート(まず500rpmで15秒、次に1500rpmで30秒保持)した後、100℃で2分間乾燥した。
【0138】
(3)成形工程
ビーズパターンを描出したクロムマスクを用いてコンタクトアライナーにてi線露光(170mJ/cm)して、100℃で3分乾燥させた。SU−8ディベロッパー(化薬マイクロケム製)で現像を行い、IPAにてリンス洗浄の後、150℃で10分間ハードベークを行うことにより基板上に整列したビーズパターンを得た。接触式膜厚計によりSU−8の膜厚を測定したところ、約3μmであった。
【0139】
(4)官能基修飾工程
SU−8ビーズパターン付き基板にO−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン処理(120℃、10時間、気相反応)した。
【0140】
(5)固相化工程
図9(A)に示すオリゴDNA-1(「表1」配列番号1参照)を2×SSCバッファーに10 μMとなるよう溶解し、シランカップリング処理済ビーズ付き基板を12時間攪拌浸透させた。基板を取り出して0.2MのSDSを含む2×SSCバッファー中で15分間攪拌洗浄し、次に新しい0.2MのSDSを含む2×SSCバッファー中で90℃に加熱しつつ5分間攪拌洗浄した。基盤を流水で3分間洗浄後、乾燥した。
【0141】
【表1】

【0142】
ここで、蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0143】
(6)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を冷水浴に浸漬し、徐々に温度を45℃まで上昇させた後、水を廃棄した。次に冷水とトルエンを加えて浴の温度を65℃まで上昇させ、剥離したビーズを熱時ろ過し、温水で洗浄して乾燥した。
【0144】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【実施例2】
【0145】
2.親水層(でんぷん)を犠牲層として機能させるマイクロビーズ作製
本実施例では、でんぷんを用いて親水層を形成し、これをいわゆる犠牲層としても機能させることでSU-8薄膜を剥離した。
【0146】
(1)親水層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にでんぷん(とうもろこし由来、和光純薬工業製、4重量%に加熱溶解させて調製)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に2500rpmで30秒保持)した後、85℃で120分乾燥した。接触式膜厚計によりでんぷんの膜厚を測定したところ、平均約150nmであった。
【0147】
(2)マイクロビーズ薄膜の製膜工程〜固相化工程
実施例1と同様にして、SU−8をスピンコートし、パターニング、現像を行い、O−プラズマ処理を施して活性化した後、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン処理を行った。
【0148】
また、同様に、図9(A)に示すオリゴDNA-1(「表1」配列番号1参照)の固相化を行った。蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0149】
(3)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を冷水浴に浸漬し、徐々に温度を45℃まで上昇させた後、水を廃棄した。次に冷水とトルエンを加えて浴の温度を65℃まで上昇させ、剥離したビーズを熱時ろ過し、温水で洗浄して乾燥した。
【0150】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【実施例3】
【0151】
3.親水層(寒天)を犠牲層として機能させるマイクロビーズ作製
本実施例では、寒天を用いて親水層を形成し、これをいわゆる犠牲層としても機能させることでSU-8薄膜を剥離した。
【0152】
(1)親水層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上に寒天(かんてんぱぱ、伊那食品工業製、8重量%に加熱溶解させて調製)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に2500rpmで30秒保持)した後、85℃で10分乾燥した。接触式膜厚計により寒天の膜厚を測定したところ、約100nmであった。
【0153】
(2)マイクロビーズ薄膜の製膜工程〜固相化工程
実施例1と同様にして、SU−8をスピンコートし、パターニング、現像を行い、O−プラズマ処理を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのCVD処理を行った。
【0154】
また、同様に、図9(A)に示すオリゴDNA-1(「表1」配列番号1参照)の固相化を行った。蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0155】
(3)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を冷水浴に浸漬し、徐々に温度を45℃まで上昇させた後、水を廃棄した。次に冷水とトルエンを加えて浴の温度を65℃まで上昇させ、剥離したビーズを熱時ろ過し、温水で洗浄して乾燥した。
【0156】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【実施例4】
【0157】
4.親水層(PVA)とは別に犠牲層(フッ素樹脂)を設けたマイクロビーズ作製
本実施例では、アモルファスフッ素樹脂を用いて犠牲層を形成し、これを侵食してSU−8薄膜を剥離することにより、マイクロビーズを作製した。
【0158】
(1)犠牲層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にサイトップ(CTX-809AP2、旭硝子製、パーフルオロトリブチルアミンで原液を80%に希釈して用いた)をスピンコート(まず700rpmで3秒、次に4000rpmで20秒保持)した後、50℃で30分、次に80℃で60分、最後に200℃で30分乾燥した。接触式膜厚計によりサイトップの膜厚を測定したところ、約400nmであった。
【0159】
サイトップのぬれ性を向上させ、次に製膜するPVAとの密着性を向上させるため、O−RIE処理(ガス種:O、パワー:70W、圧力:18Pa、流量:10sccm、時間:15s)を行った後、O−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、圧力:3Pa、流量:30sccm、時間:15s)を行った。
【0160】
(2)親水層の製膜工程〜官能基修飾工程
実施例1と同様にして、親水層としてPVAを製膜し、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのスピンコートを行った後、SU−8をスピンコートし、パターニング、現像を行った。
【0161】
同様に、SU−8ビーズパターン付き基板にO−プラズマ処理を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン処理(120℃、10時間、気相反応)した。
【0162】
(3)固相化工程
図9(B)に示すオリゴDNA-2(「表1」配列番号2参照)を2×SSCバッファーに10 μMとなるよう溶解し、シランカップリング処理済ビーズ付き基板を12時間攪拌浸透させた。基板を取り出して0.2MのSDSを含む2×SSCバッファー中で15分間攪拌洗浄し、次に新しい0.2MのSDSを含む2×SSCバッファー中で90℃に加熱しつつ5分間攪拌洗浄した。基板を流水で3分間洗浄後、乾燥した。
【0163】
(4)剥離工程
オリゴDNA-2が修飾されたシリコン基板を冷水浴に浸漬し、徐々に温度を45℃まで上昇させて5分間保持した後、水を廃棄することにより、親水層のエッチングを行った。
【0164】
ビーズがパターンされたシリコン基板をフッ素系洗浄剤(ノベックHFE7300、住友3M製)中に24時間静置してビーズを剥離した後にろ別し、常温のノベックHFE7300で洗浄し、乾燥した。
【0165】
(5)標的核酸鎖の分離
次に、図9(C)に示すオリゴDNA-3(「表3」配列番号6参照)を標的核酸鎖として分離、検出を行った。
【0166】
標的核酸鎖オリゴDNA-3を2μM(1×SSC水溶液)に調整し、オリゴDNA-2を固相化したマイクロビーズと50℃にて12時攪拌混合させた。ビーズをろ別して0.2MのSDSを含む1×SSCバッファー中で20分間攪拌洗浄した。ビーズをろ別してスライドガラス上に分散させ、蛍光顕微鏡により観察してシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。
【実施例5】
【0167】
5.親水層(PVA)とは別に犠牲層(ポリイミドレジスト)を設けたマイクロビーズ作製
本実施例では、脂肪族ポリイミドレジストであるオムニコート(OmniCoatTM、化薬マイクロケム製)を用いて犠牲層を形成し、これを侵食してSU−8薄膜を剥離することにより、マイクロビーズを作製した。
【0168】
(1)犠牲層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にオムニコート(化薬マイクロケム製)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に3000rpmで30秒保持)した後、200℃で1分乾燥した。
【0169】
オムニコートのぬれ性を向上させ、次に製膜するPVAとの密着性を向上させるため、O−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)を施して活性化した。
【0170】
(2)親水層の製膜工程〜成形工程
実施例1と同様にして、親水層としてPVAを製膜し、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのスピンコートを行った後、SU−8をスピンコートし、パターニング、現像を行った。
【0171】
ここでは、2種類の異なる形状を、2つの領域(以下、「ビーズ領域」という)に分けて、それぞれ複数描いたマスクを用いて露光を行った。
【0172】
(3)官能基修飾工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を冷水浴に浸漬し、徐々に温度を45℃まで上昇させて5分間保持した後、水を廃棄することにより、親水層のエッチングを行った。
【0173】
実施例1と同様にして、SU−8ビーズパターン付き基板にO−プラズマ処理を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのCVD処理を行った。
【0174】
基板を800mLのテトラエチレングリコールと3mLの濃硫酸の混合液中に浸漬し、攪拌しながら80℃で8時間反応させ、ヒドロキシル基修飾を行った。
【0175】
(4)撥水加工
次に、2つのビーズ領域A, Bを一旦レジストでカバーし、それ以外の基板領域をトリエトキシ-1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロ-n-オクチルシラン処理(120℃、10時間)した。レジストを除去することにより、ビーズ領域A, B以外の基板領域に撥水性を付与した。
【0176】
(5)核酸のステップ合成
ビーズ領域A, Bにおいて、「表1」に示す塩基配列に従い、核酸のステップ合成を行った。
【0177】
【表2】

【0178】
各ヌクレオシドホスホルアミダイトをプロピレンカーボネートに0.1Mで調製した。また、5-エチルチオテトラゾールをプロピレンカーボネートに0.5Mで調製した。
【0179】
ビーズ領域に、ヌクレオシドホスホルアミダイト溶液をピペットで滴下し、続けて5-エチルチオテトラゾール溶液を同量ピペットで滴下した。窒素雰囲気下で60秒間反応させた後、アセトニトリルですすぎ、過剰の試薬を除去し、乾燥した。次に、酸化溶液(ピリジン/テトラヒドロフラン/水の混合液で調製した0.02Mヨウ素溶液)を滴下し、30秒間反応させて、得られたヌクレオシド亜リン酸トリエステルをヌクレオシドリン酸トリエステルに転化した。アセトニトリルですすぎ、次いで無水酢酸/テトラヒドロフラン混合溶液を滴下し、30秒間反応させて、ビーズ領域に修飾された未反応ヒドロキシル基をキャップ化した。アセトニトリルですすぎ、乾燥した後、2.5%ジクロロ酢酸ジクロロメタン溶液を滴下し、60秒間反応させて、ヌクレオシドの5'-ヒドロキシル基からジメトキシトリチル保護基を除去した。
【0180】
アセトニトリルですすぎ、乾燥した後、以上の(a)ヌクレオシド連結、(b)アセトニトリルすすぎ、(c)酸化、(d)アセトニトリルすすぎ、(e)ジメトキシトリチル保護及び(f)アセトニトリルすすぎの各工程を19回繰り返した。最後に、基板を13%アンモニア/20%メチルアミン水溶液に室温で1時間程度浸漬し、核酸塩基部の脱保護を行った。
【0181】
(6)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板をN−メチル2−ピロリドン中にて10分浸透攪拌した後ビーズをろ別し、エタノールで洗浄し、乾燥した。
【実施例6】
【0182】
6.親水層(感光性親水樹脂)とは別に犠牲層(PVA)を設けたマイクロビーズ作製
本実施例では、感光性親水樹脂を用いて親水層を形成し、PVA(GH-07)を犠牲層としてSU-8薄膜を剥離することにより、マイクロビーズを作製した。
【0183】
(1)犠牲層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にGH-07(88%部分けん化型ゴーセノール、日本合成化学製、10重量%に加熱溶解させて調整し用いた)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に2500rpmで30秒保持)した後、85℃で120分乾燥した。
【0184】
(2)親水層の製膜工程
GH-07と感光性親水樹脂との密着性を向上させるため、O−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)を施して活性化した。感光性親水樹脂(Biosurfine AWP、東洋合成工業、3重量%に水で希釈して用いた)をスピンコート(まず350rpmで2秒、次に1000rpmで30秒保持)した後、80℃で5分乾燥した。次に、感光性親水樹脂とSU−8との密着性を向上させるため、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(トルエンに30重量%に希釈したもの)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に4000rpmで40秒、最後に5000rpmで30秒保持)した後、100℃で2分乾燥した。
【0185】
(3)マイクロビーズ薄膜の製膜工程〜固相化工程
実施例1と同様にしてSU−8をスピンコートし、ビーズパターンを描出したクロムマスクを用いてコンタクトアライナーにてi線露光(170mJ/cm)して、100℃で3分乾燥させた。SU−8露光と同時に上記AWPも硬化している。SU−8ディベロッパー(化薬マイクロケム製)でSU−8の現像を行い、IPAにてリンス洗浄の後、30℃の水で感光性親水樹脂の現像を行った。80℃で10分間ハードベークを行うことによりGH-07層上に整列したビーズパターンを得た。接触式膜厚計により感光性親水樹脂の膜厚を測定したところ、約200nmであった。SU−8表面にO−プラズマ処理を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのCVD処理を行った。
【0186】
また、同様に、図9(A)に示すオリゴDNA-1(「表1」配列番号1参照)の固相化を行った。蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0187】
(4)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を冷水浴に浸漬し、徐々に温度を45℃まで上昇させた後、水を廃棄した。次に冷水とトルエンを加えて浴の温度を65℃まで上昇させ、剥離したビーズを熱時ろ過し、温水で洗浄して乾燥した。
【0188】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【実施例7】
【0189】
7.親水層(感光性親水樹脂)とは別に犠牲層(フッ素樹脂)を設けたマイクロビーズ作製
本実施例では、感光性親水樹脂を用いて親水層を形成し、アモルファスフッ素樹脂を犠牲層としてSU-8薄膜を剥離することにより、マイクロビーズを作製した。
【0190】
(1)犠牲層の製膜工程
−プラズマ処理(ダイレクトプラズマ、ガス種:O、パワー:100W、流量:30sccm、時間:10秒)したシリコン基板上にサイトップ(CTX-809AP2、旭硝子製、パーフルオロトリブチルアミンで原液を80%に希釈して用いた)をスピンコート(まず700rpmで3秒、次に4000rpmで20秒保持)した後、50℃で30分、次に80℃で60分、最後に200℃で30分乾燥した。
【0191】
サイトップのぬれ性を向上させ、次に製膜する感光性親水樹脂との密着性を向上させるため、実施例4に記載の方法でO−RIE処理を行った。
【0192】
(2)親水層の製膜工程
感光性親水樹脂(Biosurfine AWP、東洋合成工業、3重量%に水で希釈して用いた)をスピンコート(まず350rpmで2秒、次に1000rpmで30秒保持)した後、80℃で5分乾燥した。次に3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(トルエンに30重量%に希釈したもの)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に4000rpmで40秒、最後に5000rpmで30秒保持)した後、100℃で2分乾燥した。
【0193】
(3)マイクロビーズ薄膜の製膜工程〜固相化工程
実施例1と同様にしてSU−8をスピンコートし、ビーズパターンを描出したクロムマスクを用いてコンタクトアライナーにてi線露光(170mJ/cm)して、100℃で3分乾燥させた。SU−8露光と同時に上記AWPも硬化している。SU−8ディベロッパー(化薬マイクロケム製)でSU−8の現像を行い、IPAにてリンス洗浄の後、30℃の水で感光性親水樹脂の現像を行った。80℃で10分間ハードベークを行うことによりサイトップ層上に整列したビーズパターンを得た。SU−8表面にO−プラズマ処理を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのCVD処理を行った。
【0194】
また、同様に、図9(A)に示すオリゴDNA-1(「表1」配列番号1参照)の固相化を行った。蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0195】
(4)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板をフッ素系洗浄剤(ノベックHFE7300、住友3M製)中に24時間静置してビーズを剥離した後にろ別し、常温のノベックHFE7300で洗浄し、乾燥した。
【0196】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【実施例8】
【0197】
8.親水層(感光性親水樹脂)を犠牲層として機能させるマイクロビーズ作製
本実施例では、感光性親水樹脂を用いて親水層を形成し、これをいわゆる犠牲層としても機能させることでSU-8薄膜を剥離した。
【0198】
(1)親水層の製膜工程
感光性親水樹脂(Biosurfine AWP、東洋合成工業、3重量%に水で希釈して用いた)をスピンコート(まず350rpmで2秒、次に1000rpmで30秒保持)した後、80℃で5分乾燥した。次に3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(トルエンに30重量%に希釈したもの)をスピンコート(まず500rpmで5秒、次に4000rpmで40秒、最後に5000rpmで30秒保持)した後、100℃で2分乾燥した。
【0199】
(2)マイクロビーズ薄膜の製膜工程〜固相化工程
実施例1と同様にしてSU−8をスピンコートし、ビーズパターンを描出したクロムマスクを用いてコンタクトアライナーにてi線露光(170mJ/cm)して、100℃で3分乾燥させた。SU−8ディベロッパー(化薬マイクロケム製)でSU−8の現像を行い、IPAにてリンス洗浄の後、30℃の水で感光性親水樹脂の現像を行った。80℃で10分間ハードベークを行うことによりAWP層上に整列したビーズパターンを得た。SU−8表面にO−プラズマ処理を施して活性化した後、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのCVD処理を行った。
【0200】
また、同様に、図9(A)に示すオリゴDNA-1(「表1」配列番号1参照)の固相化を行った。蛍光顕微鏡によりシアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を観察して、オリゴDNA-1がSU−8ビーズ上に固相化されていることを確認した。
【0201】
(3)剥離工程
ビーズがパターンされたシリコン基板を水浴中に置き、95℃で10分超音波処理した後ビーズをろ別し、常温の水、続いてIPAで洗浄し、乾燥した。
【0202】
その後、得られたマイクロビーズを蛍光顕微鏡により観察し、シアニン色素Cy3に由来する赤色蛍光を確認した。マイクロビーズの蛍光強度は、剥離工程前のSU−8ビーズの蛍光強度に比べて変化せず、この剥離工程においてオリゴDNA-1が変性、遊離等していないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明に係るマイクロビーズ作成方法によれば、多種類のマイクロビーズを一定のポピュレーションで含んだビーズセットを供給できる。このビーズセットは、マイクロビーズを用いた種々の生化学的分析に利用することができ、例えば、遺伝子発現量やタンパク発現量の網羅的な比較解析において、一層信頼性の高い比較解析結果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】本発明に係るマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズ及びビーズセットを示す模式図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の製膜工程S1〜成形工程S3及び剥離工程S7における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。
【図4】本発明に係るマイクロビーズ作製方法の撥水加工工程S4における基板上の構成を模式的に示す上面図である。
【図5】本発明に係るマイクロビーズ作製方法の固相化工程S5における基板上の構成を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の第一実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の製膜工程S1〜固相化工程S6を行った後の基板(A)と、さらに剥離工程S7を行った後の基板(B)を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の手順を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第二実施形態に係るマイクロビーズ作製方法の製膜工程S0〜固相化工程S6を行った後の基板(A)と、さらに剥離工程S7を行った後の基板(B)を模式的に示す断面図である。
【図9】実施例1及び3でマイクロビーズ表面に固相化したオリゴDNA及び標的オリゴDNAの構造を示す図である。(A)オリゴDNA-1、(B)オリゴDNA-2、(C)オリゴDNA-3。
【符号の説明】
【0205】
1 ビーズセット
11,12 マイクロビーズ
2 基板
3 親水層
4 薄膜
5 犠牲層
M フォトマスク(マスク)
P11,P12 核酸等

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に親水性有機材料からなる親水層を製膜する工程と、
この親水層にマイクロビーズとして剥離され得る薄膜を積層する工程と、
製膜された薄膜をフォトリソグラフィーによって所定の形状に成形する成形工程と、
成形後の薄膜上に所定の物質を固相化する固相化工程と、
前記物質が固相化された成形後の薄膜を、前記親水層の少なくとも一部とともに基板から剥離してマイクロビーズを得る剥離工程と、を含むマイクロビーズ作製方法。
【請求項2】
溶媒に溶解させた親水性有機材料を基板上に塗工し、乾燥させて前記親水層の製膜を行った後、
前記剥離工程において、親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を用いて親水層の一部を溶解させることにより、又は超音波処理を行うことにより、成形後の前記薄膜を親水層の少なくとも一部とともに剥離してマイクロビーズを得る請求項1記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項3】
前記親水層を、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン、ローガストビーンガム又は感光性親水樹脂から選択される一以上の親水性有機材料を用いて形成する請求項2記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項4】
さらに、基板上に犠牲層を製膜する工程を含み、
前記親水層をこの犠牲層に積層した後、前記剥離工程において前記犠牲層を物理的あるいは化学的に侵食させることにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに剥離してマイクロビーズを得る請求項1記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項5】
前記親水層を、感光性親水樹脂、ポリビニルアルコール、でんぷん、デキストリン、アミロース、ゼラチン、寒天、カラギーナン、ペクチン又はローガストビーンガムから選択される一以上の親水性有機材料を用いて形成する請求項4記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項6】
前記犠牲層を、フッ素系有機材料を用いて形成し、
前記剥離工程において、フッ素系有機材料からなる犠牲層を、昇華させることにより、又はフッ素系溶剤を用いて溶解させることにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに前記基板から剥離してマイクロビーズを得る請求項5記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項7】
前記犠牲層を、ポリイミド系有機材料を用いて形成し、
前記剥離工程において、ポリイミド系有機材料からなる犠牲層を、非プロトン性溶媒を用いて溶解させることにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに前記基板から剥離してマイクロビーズを得る請求項5記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項8】
前記犠牲層を、前記親水層と同一の親水性有機材料又は異なる親水性有機材料を用いて形成し、
前記剥離工程において、親水性有機材料からなる犠牲層を該親水性有機材料を再溶解可能な温度とした溶媒を用いて溶解させることにより、又は超音波処理を行うことにより、成形後の前記薄膜を前記親水層とともに前記基板から剥離してマイクロビーズを得る請求項5記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項9】
前記固相化工程を、前記薄膜上における前記物質の化学合成によって行う請求項3又は6〜8のいずれか一項に記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項10】
前記物質として、所定配列の核酸又はペプチド、糖鎖から選択される一以上の生体高分子を固相化する請求項9記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項11】
前記成形工程後、前記固相化工程前に、成形後の前記薄膜間の領域に撥水加工を行う請求項10記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項12】
前記薄膜を、フォトレジスト又は二酸化珪素により形成する請求項11記載のマイクロビーズ作製方法。
【請求項13】
請求項3又は6〜8のいずれか一項に記載のマイクロビーズ作製方法により得られるマイクロビーズ。
【請求項14】
略平行に対向する2つの面を備える立体形状を有し、これらの面の一方の面のみに所定の物質が固相化され、他方の面の少なくとも一部に親水性が付与されている請求項13記載のマイクロビーズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−85149(P2010−85149A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252329(P2008−252329)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】