マイクロ波加熱用の加温具
【課題】電子レンジのマイクロ波加熱によって誤って過熱される場合に爆発的な破裂等を防止するとともに、身体の様々な部位にフィットするマイクロ波加熱用の加温具を提供する。
【解決手段】含水ゲル状蓄熱材と、蓄熱材が封入される密封袋体と、密封袋体を覆うとともに気体を通過させるものの蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する中カバーと、中カバーを覆うとともに気体を通過させるものの蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する外カバーと、を備え、密封袋体は、合成樹脂ベース体と、合成樹脂ベース体の周縁部に介在配置されて合成樹脂ベース体同士を接合する合成樹脂接合層と、によって構成され、合成樹脂ベース体は、蓄熱材の過熱によっても熱変形しない耐熱性を有し、合成樹脂接合層の一部分には、蓄熱材の過熱により他の通常接合部分よりも熱的に接合強度が劣ってしまう弱接合部分を配設する。
【解決手段】含水ゲル状蓄熱材と、蓄熱材が封入される密封袋体と、密封袋体を覆うとともに気体を通過させるものの蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する中カバーと、中カバーを覆うとともに気体を通過させるものの蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する外カバーと、を備え、密封袋体は、合成樹脂ベース体と、合成樹脂ベース体の周縁部に介在配置されて合成樹脂ベース体同士を接合する合成樹脂接合層と、によって構成され、合成樹脂ベース体は、蓄熱材の過熱によっても熱変形しない耐熱性を有し、合成樹脂接合層の一部分には、蓄熱材の過熱により他の通常接合部分よりも熱的に接合強度が劣ってしまう弱接合部分を配設する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波の照射で水分子が振動することにより水分が発熱することを利用したマイクロ波加熱によって加熱される含水ゲル状蓄熱材を内包したマイクロ波加熱用の加温具に関する。
【背景技術】
【0002】
人体やペット(犬や猫)等の身体の所定部位に温熱を与えるための加温具としては、含水ゲル状蓄熱材やポリエチレングリコール等の蓄熱材が合成樹脂フィルムやシート等の密閉体の中に封入された構造をしているのが一般的である。吸水ポリマーや含水ゲル状体からなる蓄熱材を硬質樹脂容器に密封した保温体が、例えば、特許文献1に開示されている。また、ポリエチレングリコールの蓄熱材を熱可塑性合成樹脂シートに密封した蓄熱あんかが、例えば、特許文献2に開示されている。これらの蓄熱材は、熱湯への浸漬による間接加熱方法や電子レンジのマイクロ波加熱による直接加熱方法により繰り返し加熱することが可能となっている。
【0003】
熱湯への浸漬による間接加熱方法(熱湯という加熱媒体を介した加熱方法)は、容器の中に蓄熱材と水等の加熱媒体を入れて電気やガス等の加熱手段で加熱させるために、後述するマイクロ波加熱との比較で、加熱の簡便さや加熱効率が劣っている。
【0004】
マイクロ波加熱による直接加熱方法(マイクロ波が蓄熱材に直接的に作用する加熱方法)は、電子レンジの庫内でマイクロ波(2.45GHzの周波数)を照射することで水分子を振動させ、そのときの摩擦熱で水分子を発熱させる加熱方法である。当該加熱方法は、水分子の発熱を利用して含水ゲル状蓄熱材を加熱するので、含水ゲル状蓄熱材を非常に短時間で簡便且つ効果的に加熱・昇温させることが可能になっている。したがって、マイクロ波加熱は、水分を含む食品の簡便な加熱方法として一般家庭等で広く用いられている。
【0005】
マイクロ波加熱は、電子レンジに設けられたタイマーの加熱時間や出力パワー選択ボタン等で加熱条件を適宜に設定するものであるが、所定の加熱条件を越えて長時間加熱すると、蓄熱材が過熱状態になる。
【0006】
電子レンジによる長時間のマイクロ波加熱は、蓄熱材を大気開放状態(非密閉状態)で加熱する場合には収納体の爆発的な破裂等を引き起こす危険性が無いが、密閉体の中に封入された蓄熱材が誤って過熱される場合には、密閉体の爆発的な破裂等を引き起こして、密閉体に封入されていた高温の蓄熱材が流出する恐れがある。そして、爆発的な破裂は、周囲にいる人達を驚かせるとともに、密閉体に封入された蓄熱材が電子レンジの中で散乱するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−33300号公報
【特許文献2】特開昭63−220864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された蓄熱あんかは、融点が100℃以上の熱可塑性合成樹脂シートの中にポリエチレングリコールを密封したものである。当該蓄熱あんかには特別の防爆対策が施されていないために、熱可塑性合成樹脂シートの融点を越える温度まで蓄熱あんかが誤って過熱される場合には、熱可塑性合成樹脂シートの爆発的な破裂等を引き起こして、熱可塑性合成樹脂シートに封入されていた高温のポリエチレングリコールが流出する恐れがあり、安全対策が施されていない。
【0009】
また、特許文献1に開示された保温体は、硬質樹脂容器の中に蓄熱材を密封したものである。当該保温体では、破裂しないような硬質な樹脂容器を使用しているので、破裂の恐れを低減して一応の安全対策が施されているが、硬質樹脂容器であるために変形不可で外形形状が一義的に固定されてしまうので、身体の所定の部位にピッタリと密着するというフィット性を備えていない。すなわち、身体へのフィット性が非常に悪いという問題がある。
【0010】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、電子レンジのマイクロ波加熱によって誤って過熱される場合に爆発的な破裂等を防止するとともに、身体の様々な部位にフィットすることのできるマイクロ波加熱用の加温具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下のマイクロ波加熱用の加温具が提供される。
【0012】
すなわち、本発明の請求項1に係るマイクロ波加熱用の加温具では、
水を主成分とする含水ゲル状蓄熱材と、
前記含水ゲル状蓄熱材が封入される密封袋体と、
前記密封袋体を覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する中カバーと、
前記中カバーを覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する外カバーと、を備え、
前記密封袋体は、フィルム状又はシート状の合成樹脂ベース体と、前記合成樹脂ベース体の周縁部に介在配置されて前記合成樹脂ベース体同士を接合する合成樹脂接合層と、によって構成され、
前記合成樹脂ベース体は、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱によっても熱変形しない耐熱性を有し、
前記合成樹脂接合層の一部分には、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱により、他の通常接合部分よりも熱的に接合強度が劣ってしまう弱接合部分を配設していることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項2に係る加温具では、
前記弱接合部分での接合幅は、前記他の通常接合部分での接合幅よりも狭いことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項3に係る加温具では、
前記弱接合部分での接合強度は、前記他の通常接合部分での接合強度よりも低いことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項4に係る加温具では、
前記接合は、熱溶着であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項5に係る加温具では、
前記接合は、接着であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項6に係る加温具では、
前記弱接合部分は、周囲と縁の切れた周縁部において形成されることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7に係る加温具では、
前記密封袋体において、前記合成樹脂ベース体がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン又はポリアミド系樹脂であり、前記合成樹脂接合層がポリエチレン樹脂であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項8に係る加温具では、
前記外カバーは、断熱性を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項9に係る加温具では、
前記密封袋体と前記中カバーとの間には、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部と断熱性とを有する内カバーがさらに配設されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項10に係るマイクロ波加熱用の加温具セットでは、
請求項1乃至9に記載されたマイクロ波加熱用の加温具と、
当該加温具を収納してマイクロ波加熱にも耐える蓋付き耐熱樹脂製容器と、を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項11に係る加温具セットでは、
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体に通気部を有するか、蓋と容器本体とが緩く係合するように構成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項12に係る加温具セットでは、
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体において容器内の温度を検出・表示するための温度検出表示部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る本発明では、密封袋体が、フィルム状又はシート状の合成樹脂ベース体の周縁部に合成樹脂接合層を介在配置した構成であるので、密封袋体が自在に変形して身体の様々な部位にフィットすることができるとともに、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材が誤って過熱されると、合成樹脂接合層の一部分に配設された弱接合部分に隙間ができて、その隙間がガス抜き孔となり、その隙間から含水ゲル状蓄熱材の過熱で発生した水蒸気が外部の周囲環境に逃げて密封袋体のガス抜きが可能となるために、密封袋体の爆発的な破裂等を防止するという効果を奏する。
【0025】
請求項2に係る本発明では、接合幅が広いと弱接合部分に隙間ができるまでに長い時間を要し、接合幅が狭いと弱接合部分に短時間で隙間ができてしまうために、接合幅の大小によって隙間ができるまでの時間(ガス抜きまでの時間)を調節することができる。したがって、弱接合部分の接合幅によってガス抜きのタイミング調節を行うという効果を奏する。
【0026】
請求項3に係る本発明では、弱接合部分での接合強度が他の通常接合部分の接合強度よりも低いために、弱接合部分が他の通常接合部分より早いタイミングで隙間を形成することができる。したがって、接合強度の異なる材料の選択によってガス抜きのタイミング調節を行うという効果を奏する。
【0027】
請求項4に係る本発明では、熱溶着(ヒートシール)という既に十分に確立した技術を用いることで、密封袋体の密封構造を安定的に作成できるという効果を奏する。
【0028】
請求項5に係る本発明では、多種多様な接着剤の中から最適な接着剤の組合せを選択することができるので、ガス抜き温度の自由度が向上するという効果を奏する。
【0029】
請求項6に係る本発明では、弱接合部分に隙間が形成されると、密封袋体の中と外界とが連通するために、直接的なガス抜きを可能にするという効果を奏する。
【0030】
請求項7に係る本発明では、熱溶着(ヒートシール)の分野においてしばしば用いられる技術であるので、低コスト化や安定性の確保を可能にするという効果を奏する。
【0031】
請求項8に係る本発明では、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材が誤って過熱された場合でも、使用者に対して熱すぎる温感ではなくて適度の温感を与えるという効果を奏する。
【0032】
請求項9に係る本発明では、よりソフトな温感を与えるという効果を奏する。
【0033】
請求項10に係る本発明では、電子レンジ庫内でのニオイ移りを防止するという効果を奏する。
【0034】
請求項11に係る本発明では、ガス抜きによって流出した水蒸気の圧力で、容器の蓋が勢いよく外れることを防止するという効果を奏する。
【0035】
請求項12に係る本発明では、容器が高温になっていて危険性のあることを使用者に注意喚起するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1に示した、含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの要部拡大図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】図3のC−C断面図である。
【図6】図1に示した加温具を耐熱樹脂製容器に収納した状態を示す斜視図である。
【図7】図1に示した加温具を頸部に巻き付けた使用形態を示す説明図である。
【図8】含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの第1変形例の要部拡大図である。
【図9】図8のD−D断面図である。
【図10】図8のE−E断面図である。
【図11】含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの第2変形例の要部拡大図である。
【図12】含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの第3変形例の要部拡大図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具の斜視図である。
【図14】図13に示した加温具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、図1乃至7を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具1を詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明のマイクロ波加熱用の加温具1を説明する正面図である。図1において、加温具1は、含水ゲル状蓄熱材11の封入される蓄熱パック(密封袋体)10と、当該蓄熱パック10を覆いながら収容する中カバー3と、当該中カバー3を覆う外カバー5と、を備えている。中カバー3は、縦長の蓄熱パック10を長手方向に収容する縦長の略長方形の形状をした中央収容部4と、中央収容部4の左右の端部に設けられた連結端部7と、を備えている。連結端部7の先端部分は、三角形の先細形状をした先細部9を備えている。なお、本願明細書では、参照符号10は、基本的には、含水ゲル状蓄熱材11の封入を考慮しない場合には密封袋体を指し、含水ゲル状蓄熱材11の封入を考慮する場合には蓄熱パックを指している。
【0039】
中カバー3は、ポリエステルやポリアミド系樹脂や綿等の各種生地を使用することが可能であるが、ポリエステル等の化繊の織物や編物や不織布等の通気性素材から構成されている。また、中カバー3は、蓄熱パック10から漏出したガスを外部に逃がすという目的を達成するためには、全体として通気性を持った素材でなくとも、通気性の無い素材に少なくとも一つの通気孔を形成した態様であってもよい。さらに、中カバー3は、直接的な熱伝導を抑制するために、比較的断熱性を持った素材から構成されていることが好ましい。ポリエステルスウェードの生地(例えば、帝人製の品番:SW3652)を中カバー3に用いることは、豊かなボリュームと滑らかな感触を提供するので、特に好ましい。
【0040】
外カバー5は、身体の部位に対して直接に接触するものであるから、高温に加熱された蓄熱パック10からの高熱が身体の部位を熱しすぎないような断熱性を備えていることが好適である。また、外カバー5は、通気性素材から構成されている。なお、蓄熱パック10から漏出したガスを中カバーを介して外部に逃がすという目的を達成するためには、外カバー5は、全体として通気性を持った素材でなくとも、通気性の無い素材に少なくとも一つの通気孔を形成した態様であってもよい。表面は優れた吸湿性をもつ天然繊維コットン(綿100%)で、中心連結糸には弾力回復性に優れたポリアミド系樹脂、裏面はポリエステルからなるハニカム立体構造ダブルラッシェルの素材(例えば、福井編物製の品番:ハニカム1000)を外カバー5に用いることは、ハニカム立体構造に起因した空気層断熱性とサラサラの感触を提供するので、特に好ましい。また、この素材は、洗濯を繰り返しても型くずれしにくく、手入れも容易であるという特徴を有する。
【0041】
中カバー3の中央収容部4には、蓄熱パック10が収容されている。蓄熱パック10が中央収容部4の中で位置ズレを起こさないように、蓄熱パック10は、後述する長手直交境界接合部14において、縫着又は接着又は熱融着によって中カバー3に対して固着している。例えば、図1の実施形態では中央の長手直交境界接合部14に対して取着部24で縫着する。中央収容部4に蓄熱パック10を収容したあとには、上下端の開口部が縫着又は接着又は熱融着によって閉止する。例えば、図1の実施形態では上下端の取着端部22において縫着する。なお、取着部24は、上下の長手直交周縁接合部13や他の長手直交境界接合部14に設けることも可能である。
【0042】
密封袋体10の左側の周縁端部には、熱融着(ヒートシール)により長手周縁接合部12を形成している。例えば、長手周縁接合部12は、フィルム状又はシート状の長手方向に延びる合成樹脂ベース体60の上に合成樹脂接合層62を形成した袋体基材を準備し、当該袋体基材の中央部分を長手直交方向に2つに折り曲げて、折り曲げた結果、対向する側縁端部同士を熱融着(ヒートシール)することにより作成される(図4を参照)。
【0043】
密封袋体10の上下の周縁端部には、熱融着(ヒートシール)により長手直交周縁接合部13をそれぞれ形成している。また、隣り合う収納室16の間の境界を画定する境界部分には、熱融着(ヒートシール)により長手直交境界接合部14を形成している(図5を参照)。
【0044】
したがって、図1に示した密封袋体10では、3つの長手直交境界接合部14は、4つの収納室16に分割・区画するとともに隣り合う収納室16を連結している。各収納室16には、含水ゲル状蓄熱材11を封入している。隣り合う収納室16を連結する長手直交境界接合部14は、樹脂フィルム同士を熱融着(ヒートシール)したものであるので、それらが折り目となって蓄熱パック10の全体形状を自在に変形させることを可能にする。これらの接合部12,13,14は、熱融着(ヒートシール)の代わりに、接着剤を用いた接着方法によって形成することもできる。なお、密封袋体10は、2個乃至6個程度の小型化された収納室16に分割・区画することができる。中央収容部4への蓄熱パック10の挿入時や装着後において、蓄熱パック10が中カバー3の中央収容部4を傷付けないように、蓄熱パック10のコーナー部分、すなわち長手周縁接合部12と長手直交周縁接合部13とが交わる部分には、丸め加工又は面取加工を施すことが好適である。
【0045】
加温具1のサイズを例示すると、全長が約100cm、幅が約5.5cmである。2つ折りした蓄熱パック10のサイズを例示すると、全長が約40cm、幅が約5.5cmである。各収納室16のサイズを例示すると、全長が約10cm、幅が約5.5cmである。上下の連結端部7のサイズを例示すると、全長が約30cm、幅が約5.5cmである。フラップ部5のサイズを例示すると、全長が約10cm、幅が約5.5cmである。また、例えば、各収納室16の中には、約40gの含水ゲル状蓄熱材11を充填する。
【0046】
この実施形態では、図2の断面図に示すように、蓄熱パック10を2段折りにして折り目18が長手方向に延在するようにして、蓄熱パック10を中央収容部4に収容している。蓄熱パック10の折り曲げは、3段折りや4段折りであってもよい。蓄熱パック10を複数段に折り曲げることは、予め形成した固着部を用いて各収納室16を予め小さく分割・区切を行う場合よりも、多くの含水ゲル状蓄熱材11を各収納室16の中に封入することができ、より長い加温保持時間を確保することができるという効果を奏する。また、収納室16の内部空間を折り目18で区画しているので、収納室16の内部で含水ゲル状蓄熱材11の熱対流が起こりにくく、区画された収納室16のそれぞれが小さな独立収納部のように振る舞い、加温保持時間を長くすることができる。なお、蓄熱パック10を折り曲げずに、そのままの形態で用いることも可能である。
【0047】
図3乃至5に示すように、密封袋体10は、合成樹脂ベース体60(例えば、ポリアミド系樹脂フィルム)と合成樹脂接合層62(例えば、ポリエチレン樹脂フィルム)とを積層したラミネート樹脂フィルムの袋体基材を折り曲げた上で重ね合わせて、左辺と下辺とを熱圧着(ヒートシール)して袋状体を形成し、形成された袋状空間に含水ゲル状蓄熱材11を封入したあと上辺の開口部を熱圧着して封止したものである。蓄熱パック10は、中央収容部4に挿入可能であるように寸法構成されている。熱圧着して封止した部分が、密封袋体10の長手周縁接合部12、長手直交周縁接合部13及び長手直交境界接合部14である。長手周縁接合部12、長手直交周縁接合部13及び長手直交境界接合部14の幅を例示すると、それぞれ、約10mm、約10mm、約22mmである。
【0048】
図3及び4に示すように、密封袋体10において、各収納室16に対応する各長手周縁接合部12の一部分には、弱接合部分38が配設されている。その他の部分は、長手周縁接合部12の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている。図4に示すように、弱接合部分38は、長手直交方向(すなわち、長手周縁接合部12の幅方向)に沿って延在する、合成樹脂接合層62の欠落した非接合部30と、合成樹脂接合層62の幅狭接合部31と、から構成されている。当該構成によれば、幅狭接合部31が接合に寄与して、非接合部30が接合に寄与しないので、通常接合部分39よりも接合強度が低下する。蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が過熱された場合(例えば約80乃至約100℃)には、合成樹脂接合層62の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるが、通常接合部分39よりも接合強度の弱い幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に隙間ができる。その結果、幅狭接合部31(弱接合部分38)に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。したがって、幅狭接合部31(弱接合部分38)の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0049】
なお、弱接合部分38において、幅狭接合部31及び非接合部30の長手直交方向の配置順序が図4に示したものと逆であってもよい。また、長手直交方向(すなわち、長手周縁接合部12の幅方向)の幅狭接合部31の接合幅によって、隙間ができるまでの時間(ガス抜きまでの時間)を調節することができる。長手直交方向における幅狭接合部31の幅と非接合部30の幅との比は、例えば、1:0.2乃至0.8、好ましくは、1:0.4乃至0.6である。その結果、弱接合部分38での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下する。なお、常温における通常接合部分39での接合強度は、例えば、下限が10N/15mm以上、好ましくは15N/15mm以上、より好ましくは25N/15mm以上、さらに好ましくは40N/15mm以上である。上限は特に限定されるものではないが60N/15mm以下である。
【0050】
含水ゲル状蓄熱材11に含まれる水分や気化した水蒸気が経時的に透過・漏出しにくい素材として、高い耐熱性及びガスバリア性を持った合成樹脂ベース体60が好適である。高い耐熱性及びガスバリア性を持った合成樹脂ベース体60としては、融点が170℃以上のものであって、例えば、二軸延伸ポリアミド系フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、シリカ膜やアルミナ膜を蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム等が好適に使用することができる。合成樹脂ベース体60の厚さは、10乃至70μm程度、好ましくは20乃至50μm程度である。なお、無延伸のものも使用可能であるが、強度や剛性の点から二軸延伸のものが好ましい。
【0051】
ところで、蓄熱パック10の加熱によって蓄熱パック10の各収納室16に封入された含水ゲル状蓄熱材11の温度が上昇するが、当該温度上昇につれて、封入された含水ゲル状蓄熱材11に含まれた水の蒸気圧が上昇する。水の沸騰温度(すなわち100℃)近傍の高蒸気圧温度(おおよそ97乃至100℃)になると、水の蒸気圧が一気に高くなり、周りの1気圧まで高くなると水が一気に気化して沸騰状態になる。その結果、含水ゲル状蓄熱材11を封入した収納室16内での圧力が一気に高まり、蓄熱パック10を膨張させるようとする。したがって、蓄熱パック10を膨張させるようとする温度において、合成樹脂接合層62が軟化することなく、上述した合成樹脂ベース体60との十分な接合強度を持った合成樹脂接合層62が好適である。
【0052】
合成樹脂接合層62としては、各種のシーラント剤、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)等を挙げることができる。合成樹脂接合層62の厚さは、20乃至100μm程度、好ましくは30乃至80μm程度である。
【0053】
含水ゲル状蓄熱材11としては、蓄熱剤として広く使用されている様々な材料が使用可能であるが、ポリアクリル酸ナトリウムに多量の水を含んだゲル状物質や、硫酸ナトリウム10水塩(Na2SO4・10H2O)と水(H2O)とを適量調合した硫酸ナトリウム10水塩が例示される。含水ゲル状蓄熱材11は、97乃至99重量%程度の水を含んでおり、水を主成分としている。
【0054】
蓄熱パック10は、上下方向に配置される複数の小分けされた収納室16が、長手直交境界接合部14を介して連結されている複数個連結形態をしている。図1に示した実施形態では、長手方向に沿って一列に4個の収納室16が整列配置されている。また、図2に示すように、蓄熱パック10を、内カバー20で覆った状態で中央収容室4に収容することが好ましい。内カバー20としては、織りや編みでは無い、通気性を持った不織布が好適である。薄いシート状の繊維集合体であるウェブを作成したあと、何らかの方法で当該ウェブ中の繊維同士の結合又は接着(化学的接着、熱的接着又は機械的結合)を行うことにより、不織布を製造する。したがって、内カバー20として不織布を用いた場合には、微視的に見て、ある規則的な繰り返し構造を持たない不規則な(ランダムな)交錯構造体から構成されており、伸長特性に関して方向性を有しない。すなわち、内カバー20は、縦横方向の伸長度と斜め方向の伸長度とがほとんど変わらない特性、言いかえれば、引張力に対して略等方的な形状安定性を有している。そして、内カバー20は、ポリプロピレンやポリエステルやアクリルやレーヨンやポリアミド系等の合成繊維等の吸湿性のない通気性素材から構成されている。また、内カバー20は、ポリエステル等の化繊の織物や編物を二重や三重に重ねて使用する態様であってもよい。内カバー20を介在させることにより、蓄熱パック10を保護したり、加温具1の全体的な強度をアップさせたりすることが可能になる。また、内カバー20は、通気性の無い素材に少なくとも一つの小さな通気孔を備える構造であってもよい。したがって、本願発明の内カバー20は、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材11が誤って過熱されたとしても、水蒸気が逃げるものの、高温の含水ゲル状蓄熱材が流出しないような小さな開口サイズの通気性又は通気孔を備えている。
【0055】
上述した加温具1は、図6に示すように、耐熱樹脂製容器40の収納空間43の中に多段に折り曲げてコンパクトにした状態で加熱することが好ましい。すなわち、電子レンジの庫内でのマイクロ波の照射分布が必ずしも均一ではなく中央部及びその周辺に集中する傾向があるので、加温具1を収納空間43の中にできるだけコンパクトに収納し且つ中央部及びその周辺に配置できるようにした方が、加温具1をできるだけ均一な温度に加熱できるようになる。
【0056】
耐熱樹脂製容器40は、容器本体42と、上蓋44と、から構成され、容器本体42の内部には収納空間43を備えている。容器本体42の上縁には、下係合部45が形成されている。上蓋44の下縁には、上係合部46が形成されている。下係合部45及び上係合部46が緩く係合しており、ガス抜きされた水蒸気の圧力で、耐熱樹脂製容器40の上蓋44が勢いよく外れることを防止している。また、ガス抜きされた水蒸気が逃げるものの、高温の含水ゲル状蓄熱材が流出しないような小さな開口サイズの通気孔を、容器本体42の側壁面や上蓋44の壁面に形成することも可能である。電子レンジは食品を加熱するために使用することが一般的であるので、耐熱樹脂製容器40に入れて加温具1を加熱するときには、上蓋44を閉じるようにして、電子レンジ庫内でのニオイ移りを防止することが好ましい。
【0057】
また、容器本体42及び上蓋44の左右の側端には、それぞれ、外方に突出した下把持部47及び上把持部48が設けられており、下把持部47及び上把持部48を把持することで、高温に加熱された加温具1及び耐熱樹脂製容器40を電子レンジの庫外に安全に持ち運ぶことが容易になる。上蓋44の上壁面には、耐熱樹脂製容器40内の温度を検出・表示するための温度検出表示部49が配設されている。また、温度検出表示部49は容器本体42の側壁面に配設されてもよい。温度検出表示部49は、小型の温度計や、温度によって表示される色が変化するサーモラベルである。温度検出表示部49の設置により、耐熱樹脂製容器40が高温になっていて危険性のあることを使用者に注意喚起することができる。
【0058】
加温具1の収納された耐熱樹脂製容器40を、定格出力500乃至700Wの電子レンジの回転皿の上に載置して、マイクロ波を所定時間照射して加温具1を加熱する。その結果、加温具1が身体の所定部位を温めるのに適した温度に加熱される。所定の温度に加熱された加温具1は、耐熱樹脂製容器40から取り出されて、図7に示すように、使用者の頸部に巻き付けられ、含水ゲル状蓄熱材11からの熱が、密封袋体10、内カバー20、中カバー3、外カバー5の順で、頸部に伝えられる。
【0059】
図7において、各先細部9を導入部として、各連結端部7をリング体70の挿入穴72に挿通している。リング体70は、連結端部7に対して摩擦係止する材料、例えばゴム材料から構成されている。各連結端部7をリング体70の中に挿入して軽く係着することにより、巻き付けられた加温具1で頸部を誤って締め付けないようにすることができる。すなわち、摩擦力という弱い係止力で各連結端部7を連結することができる。なお、リング体70の代わりに、クリップで各連結端部7を弱く係止する構成であってもよい。あるいは、各連結端部7に面状係合体やホック等を設けて両者が弱い係着力で係着する構成にすることもできる。
【0060】
含水ゲル状蓄熱材11を含む複数の収納室16が、フィルム状又はシート状の長手直交境界接合部14を介して連結しているので、長手直交境界接合部14を折り目として加温具1を自在に折り曲げることができる。したがって、加温具1が、全体として、自在に屈曲して加温対象部位(図7では頚部)の外形形状にピッタリと密着するので、好適なフィット性を提供することができる。第1実施形態に係る加温具1は、人体の上記加温対象部位(図7では頚部)に限らず、膝や肩や肘や腰や足裏等の各種部位に対して巻き回して温める形態に使用することができる。また、人体に限らず、犬や猫等のペット動物を温めるためにも使用することができる。
【0061】
加温具1の通常の加熱形態は、加温具1を耐熱樹脂製容器40に収納し、火傷や低温火傷を防止するために、含水ゲル状蓄熱材11がおおよそ50乃至65℃の推奨加熱温度になるような推奨加熱条件(マイクロ波の投入パワーに応じて、推奨される加熱時間が異なる)に設定して、電子レンジでマイクロ波加熱するものである。しかしながら、加温具1の収納された耐熱樹脂製容器40を、電子レンジでマイクロ波加熱する際に、加熱条件(タイマーの加熱時間や出力パワー選択ボタンの選択)を使用者が誤って設定する場合がある。所定の加熱条件を越えて加熱すると、含水ゲル状蓄熱材11が過熱状態になってしまう。含水ゲル状蓄熱材11が誤って過熱されると、含水ゲル状蓄熱材11に含まれた水の蒸気圧が上昇し、水の沸騰温度(すなわち100℃)近傍の高蒸気圧温度(おおよそ97乃至100℃)になると、水の蒸気圧が一気に高くなり、周囲環境の1気圧まで高くなると含水ゲル状蓄熱材11に含まれた水分が一気に気化して沸騰状態になる。その結果、含水ゲル状蓄熱材11を封入した収納室16内での圧力が一気に高まり、蓄熱パック10を膨張させるようとする。
【0062】
しかしながら、本発明の第1実施形態に係る加温具1がそのような高蒸気圧温度を含む危険温度(例えば約80乃至約100℃)に過熱された場合には、合成樹脂接合層62の熱軟化及び/又は接合強度の低下により、長手周縁接合部12の一部分に配設された幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に隙間ができて、その隙間が、水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。幅狭接合部31(弱接合部分38)に形成された隙間から、収納室16の中に閉じ込められていた水蒸気が流出し、蓄熱パック10から流出した水蒸気が、さらに内カバー20、中カバー3、外カバー5、耐熱樹脂製容器40の順で流出し、最終的に外部の周囲環境に逃げて、蓄熱パック10のガス抜きが可能となる。その結果、プッシュという小さなガス抜き音がするものの、蓄熱パック10が爆発的に破裂して周囲にいる人達を驚かせるようなことを防止することができる。また、内カバー20、中カバー3、外カバー5及び耐熱樹脂製容器40の全てが、高温の含水ゲル状蓄熱材11が流出しないような小さな開口サイズの通気性又は通気孔を備えるので、高温の含水ゲル状蓄熱材11が電子レンジの庫内で散乱するようなことも起こらない。
【0063】
次に、図8,9,10を参照しながら、含水ゲル状蓄熱材11の封入された蓄熱パック10の第1変形例について説明する。蓄熱パック10の基本的な構成は、図3に示したものと同じであるので、相違点を重点的に説明する。
【0064】
図8及び9に示すように、密封袋体10において、各収納室16に対応する各長手周縁接合部12の一部分には、弱接合部分32が配設されている。その他の部分は、長手周縁接合部12の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている(図10を参照)。図8,9に示すように、弱接合部分32は、長手直交方向(すなわち、長手周縁接合部12の幅方向)の全幅にわたって、延在している。弱接合部分32は、通常接合部分39の材料よりも熱的特性が劣った異質な材料層64から構成されている。熱的特性が劣っているとは、危険温度(例えば約80乃至約100℃)において、熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こることを意味している。当該構成によれば、蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、弱接合部分32の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こり、通常接合部分39よりも弱接合部分32に優先的に隙間ができる。その結果、弱接合部分32に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。したがって、弱接合部分32の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0065】
第1変形例では、弱接合部分32に用いる材料が、熱的特性において、他の通常接合部分39と異なっているという材料的なアプローチを特徴としている。すなわち、弱接合部分32に用いる材料が、他の通常接合部分39に用いる材料よりも低い温度で、熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるように構成されている。熱的劣化の起こるような、弱接合部分32と他の通常接合部分39との間での温度差としては、5乃至25℃程度であり、好適には10乃至20℃程度である。すなわち、弱接合部分32では、他の通常接合部分39よりも5乃至25℃程度(好ましくは10乃至20℃程度)の低温側の温度差で、熱的劣化が起こるように構成されている。より好適には、他の通常接合部分39が約100℃の温度で接合強度がほとんど低下しないのに対して、弱接合部分32が約80℃の温度で接合強度が大幅に低下するように構成されている(弱接合部分32と他の通常接合部分39との間での温度差が約20℃)。弱接合部分32と他の通常接合部分39との間での温度差が小さい方が好ましいが、数℃程度の小さな温度差になると、お互いの熱的材料特性が劇的に異なるような材料の組合せがそれほど多くなく、製造上のバラツキや電子レンジによる加熱ムラを考慮すると選択肢が制限される。温度差が大きくなると、危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱される手前の準過熱状態(例えば70℃程度)になっただけでも、弱接合部分32での接合が解離してガス抜き孔が形成されて、それ以降は加温具として使用不可になるために、加温具1の本来的な使い勝手が悪くなるということが起こる。熱的劣化により、長手直交方向に延在する弱接合部分38での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下するように構成されている。
【0066】
異質な材料層64として、各種のシーラント剤や接着剤が使用可能である。弱接合部分32で使用されるシーラント剤は、上記第1実施形態のところで説明したシーラント剤であって、合成樹脂接合層62で使用されるものより、熱的特性の劣ったものである。また、弱接合部分32で使用される接着剤は、様々なものが使用可能であるが、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリアクリル系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系のものが好適である。
【0067】
次に、図11を参照しながら、含水ゲル状蓄熱材11の封入された蓄熱パック10の第2変形例について説明する。蓄熱パック10の基本的な構成は、図3に示したものと同じであるので、相違点を重点的に説明する。
【0068】
図11に示すように、密封袋体10において、隣接する収納室16の間に配置される長手直交境界接合部14の一部分と、上端側の収納室16及び下端側の収納室16のそれぞれに隣接配置される長手直交周縁接合部13の一部分とには、それぞれ、弱接合部分38が配設されている。その他の部分は、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている。図11に示すように、弱接合部分38は、長手方向(すなわち、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の幅方向)に沿って延在する、合成樹脂接合層62の欠落した非接合部33と、合成樹脂接合層62の幅狭接合部34と、合成樹脂接合層62の欠落した非接合部33と、から構成されている。
【0069】
当該構成によれば、幅狭接合部34が接合に寄与して、2箇所の非接合部33が接合に寄与しないので、通常接合部分39よりも接合強度が低下する。蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、合成樹脂接合層62の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるが、通常接合部分39よりも接合強度の弱い幅狭接合部34(弱接合部分38)に優先的に隙間ができる。その結果、幅狭接合部34(弱接合部分38)に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。長手直交境界接合部14においては、ガス抜き孔としての弱接合部分38を介して、隣接する収納室16同士が連通する。また、上端側及び下端側の長手直交周縁接合部13においては、ガス抜き孔としての弱接合部分38を介して、上端側の収納室16及び下端側の収納室16と外界がそれぞれ連通する。したがって、幅狭接合部34(弱接合部分38)の隙間の全てが連通して、連通した幅狭接合部34(弱接合部分38)の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0070】
なお、弱接合部分38において、幅狭接合部34及び非接合部33の長手方向の配置は、図11に示したものに限られることはなく、例えば、幅狭接合部34をどちらか一方の収納室16の側に配置して1つの幅狭接合部34と1つの非接合部33を備える構成にしたり、幅狭接合部34を上下の両方の収納室16の側にそれぞれ配置して2つの幅狭接合部34と1つの非接合部33を備える構成(すなわち、図11に示したものと、幅狭接合部34と非接合部33との配置関係が逆になる)にしたりすることもできる。なお、長手方向における幅狭接合部34の合計幅と非接合部33の幅との比は、例えば、1:0.2乃至0.8、好ましくは、1:0.4乃至0.6である。その結果、弱接合部分38での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下する。
【0071】
次に、図12を参照しながら、含水ゲル状蓄熱材11の封入された蓄熱パック10の第3変形例について説明する。蓄熱パック10の基本的な構成は、図3に示した第1実施形態、図8乃至10に示した第1変形例と同じであるので、相違点を重点的に説明する。
【0072】
図12に示すように、密封袋体10において、隣接する収納室16の間に配置される長手直交境界接合部14の一部分と、上端側の収納室16及び下端側の収納室16のそれぞれに隣接配置される長手直交周縁接合部13の一部分とには、それぞれ、弱接合部分35が配設されている。その他の部分は、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている。図12に示すように、弱接合部分35は、長手方向(すなわち、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の幅方向)に沿って延在している。
【0073】
長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13のそれぞれに形成された弱接合部分35は、上記第1変形例と同様に、通常接合部分39の材料よりも熱的特性が劣った異質な材料層64から構成されている。熱的特性が劣っているとは、危険温度(例えば約80乃至約100℃)において、熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こることを意味している。当該構成によれば、蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、弱接合部分35の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こり、通常接合部分39よりも弱接合部分35に優先的に隙間ができる。その結果、弱接合部分35に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。長手直交境界接合部14においては、ガス抜き孔としての弱接合部分35を介して、隣接する収納室16同士が連通する。また、上端側及び下端側の長手直交周縁接合部13においては、ガス抜き孔としての弱接合部分35を介して、上端側の収納室16及び下端側の収納室16と外界がそれぞれ連通する。したがって、弱接合部分35の隙間の全てが連通して、連通した弱接合部分35の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。なお、熱的劣化により、長手方向に延在する弱接合部分35での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下するように構成されている。
【0074】
第3変形例においても、異質な材料層64として、第1変形例と同様の各種のシーラント剤や接着剤が使用可能である。
【0075】
次に、図13,14を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具50について説明する。
【0076】
第2実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具50は、敷物のように、加温対象部位を下から温める態様で使用するものである。図14において、加温具50は、含水ゲル状蓄熱材11の封入される蓄熱パック(密封袋体)10と、当該蓄熱パック10を覆う上側の中カバー52及び下側の中カバー53と、当該中カバー3を覆う上側の外カバー54及び下側の外カバー55と、を備えている。
【0077】
上下の中カバー52,53は、織りや編みでは無い、通気性を持った不織布が好適である。薄いシート状の繊維集合体であるウェブを作成したあと、何らかの方法で当該ウェブ中の繊維同士の結合又は接着(化学的接着、熱的接着又は機械的結合)を行うことにより、不織布を製造する。したがって、中カバー52,53として不織布を用いた場合には、微視的に見て、ある規則的な繰り返し構造を持たない不規則な(ランダムな)交錯構造体から構成されており、伸長特性に関して方向性を有しない。すなわち、中カバー52,53は、縦横方向の伸長度と斜め方向の伸長度とがほとんど変わらない特性、言いかえれば、引張力に対して略等方的な形状安定性を有している。そして、中カバー52,53は、ポリプロピレンやポリエステルやアクリルやレーヨンやポリアミド系等の合成繊維等の吸湿性のない通気性素材から構成されている。また、中カバー52,53は、ポリエステル等の化繊の織物や編物を二重や三重に重ねて使用する態様であってもよい。中カバー52,53を介在させることにより、蓄熱パック10を保護したり、加温具1の全体的な強度をアップさせたり、補助的な断熱性を提供したりすることが可能になる。また、中カバー52,53は、通気性の無い素材に少なくとも一つの小さな通気孔を備える構造であってもよい。したがって、中カバー52,53は、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材11が誤って過熱されたとしても、水蒸気が逃げるものの、高温の含水ゲル状蓄熱材が流出しないような小さな開口サイズの通気性又は通気孔を備えている。
【0078】
上下の外カバー54,55は、身体の部位に対して直接に接触するものであるから、高温に加熱された蓄熱パック10からの高熱が身体の部位を熱しすぎないように断熱性を備えていることが好適である。外カバー54,55は、ポリエステルやポリアミド系樹脂や綿等の各種生地を使用することが可能であるが、ポリエステル等の化繊の織物や編物や不織布等の通気性素材から構成されている。蓄熱パック10から漏出したガスを中カバー52,53を介して外部に逃がすという目的を達成するためには、外カバー54,55は、全体として通気性を持った素材でなくとも、通気性の無い素材に少なくとも一つの通気孔を形成した態様であってもよい。外カバー54,55は、第1実施形態で説明した、ポリエステルスウェードの生地(例えば、帝人製の品番:SW3652)や、ハニカム立体構造ダブルラッシェルの素材(例えば、福井編物製の品番:ハニカム1000)を用いることができる。上下の外カバー54,55として、同じ素材とすることもできるし、異なった素材とすることもできる。同じ素材を用いる構成は部品点数の削減や製造コストの低減に寄与し、異なった素材を用いる構成は一つの加温具50で異なった2つの温感を提供するという効果を奏する。すなわち、ハニカム立体構造ダブルラッシェルの素材の側を使用者側に配置すると温感をソフトにし、ポリエステルスウェードの生地の側を使用者と反対側に配置すると温感をハードにすることができる。
【0079】
加温具50に使用される蓄熱パック10は、上述した第1実施形態のものと実質的に同じであり、2つの蓄熱パック10を並べて配置している。蓄熱パック10は、長手方向に延びる長手周縁接合部12と、長手直交方向に延びる長手直交周縁接合部13と、隣り合う収納室16の間にあって長手直交方向に延びる長手直交境界接合部14と、を備えている。各接合部12,13,14は、合成樹脂ベース体(例えば、ポリアミド系樹脂フィルム)と合成樹脂接合層(例えば、ポリエチレン樹脂フィルム)とを積層したラミネート樹脂フィルムの袋体基材10を、熱融着(ヒートシール)することにより作成される。各収納室16の中には、上述した第1実施形態と同様に、水を主成分とする含水ゲル状蓄熱材11が封入されている。長手周縁接合部12や、2つに並列配置した蓄熱パック10の境界部分は、加温具50を容器40に折り畳んで入れて電子レンジで加熱する際の折り目として用いることができる。
【0080】
図14に示すように、上述した第1実施形態と同様に、密封袋体10において、各収納室16に対応する各長手周縁接合部12の一部分には、合成樹脂接合層の欠落した同士非接合部30と、幅狭で合成樹脂接合層同士の接合した幅狭接合部31と、から構成される弱接合部分38が配設されている。その他の部分は、長手周縁接合部12の全幅にわたって合成樹脂接合層同士が接合した通常接合部分39になっている。当該構成によれば、幅狭接合部31が接合に寄与して、非接合部30が接合に寄与しないので、通常接合部分39よりも接合強度が低下する。蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、合成樹脂接合層の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるが、通常接合部分39よりも接合強度の弱い幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に隙間ができる。その結果、幅狭接合部31(弱接合部分38)に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。したがって、幅狭接合部31(弱接合部分38)の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0081】
なお、弱接合部分38において、幅狭接合部31及び非接合部30の長手直交方向の配置順序が図14に示したものと逆であってもよい。また、図14に示したものでは、収納室16及び弱接合部分38の数がそれぞれ3個であるが、当該数量は3個に限定されず、加温具50の適用部位に応じて8個程度までの範囲で増減することができる。また、蓄熱パック10における弱接合部分38の構成は、上述した第1実施形態における第1変形例、第2変形例及び第3変形例として説明したものであってもよい。
【0082】
上下の中カバー52,53の間には、蓄熱パック10が配設されている。蓄熱パック10の位置ズレを防止するために、蓄熱パック10は、対向する一対の長手直交周縁接合部13において、縫着又は接着又は熱融着によって中カバー52,53に対してそれぞれ固着する。蓄熱パック10の固着された中カバー52,53は、その周縁端部において、縫着又は接着又は熱融着によって外カバー54,55に対してそれぞれ固着する。その結果、図13に示すような、加温具50を作成することができる。また、加温具50は、蓄熱パック10、中カバー52,53及び外カバー54,55の三者を一度に一体的に固着する形態であってもよい。
【0083】
上述した加温具50は、上述した第1実施形態の図6と同様に、耐熱樹脂製容器40の収納空間43の中に多段に折り曲げてコンパクトにして上蓋44を閉じた状態で加熱される。所定の温度に加熱された加温具50は、耐熱樹脂製容器40から取り出されて、ベッド等の上に載置される。使用者の加温対象部位(例えば、踵や脹脛(ふくらはぎ)や腰部)がその上に置くことで、含水ゲル状蓄熱材11からの熱が、密封袋体10、中カバー52(53)、外カバー54(55)の順で、加温対象部位に伝えられる。また、第2実施形態に係る加温具50は、人体に限らず、犬や猫等のペット動物を温めるためにも使用することができる。
【0084】
また、電子レンジのマイクロ波による加熱条件(加熱時間や出力パワー)の設定誤りにより、加温具50が電子レンジで危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、長手周縁接合部12の一部分に配設された幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に形成される隙間(いわゆる、ガス抜き孔)から、収納室16の中に閉じ込められていた水蒸気が流出し、蓄熱パック10から流出した水蒸気が、さらに中カバー52,53、外カバー54,55の順で流出し、最終的に外部の周囲環境に逃げて、蓄熱パック10のガス抜きが可能となる。その結果、プッシュという小さなガス抜き音がするものの、蓄熱パック10が爆発的に破裂して周囲にいる人達を驚かせるようなことを防止することができる。また、加温具50から、高温の含水ゲル状蓄熱材11が電子レンジの庫内で散乱するようなことも起こらない。
【0085】
なお、本発明の理解を容易にするために、具体的な数値や構成材料物を示しながら説明したが、これらはあくまでも例示であって本願発明の保護範囲を制限するものではない。
【符号の説明】
【0086】
1:加温具
3:中カバー
4:中央収容部
5:外カバー
7:連結端部
9:先細部
10:蓄熱パック(密封袋体)
11:含水ゲル状蓄熱材
12:長手周縁接合部
13:長手直交周縁接合部
14:長手直交境界接合部
16:収納室
18:折り目
20:内カバー
22:取着端部
24:取着部
30,33:非接合部
31,34:幅狭接合部
32,35,38:弱接合部分
39:通常接合部分
40:耐熱樹脂製容器
42:容器本体
43:収納空間
44:上蓋
45:下係合部
46:上係合部
47:下把持部
48:上把持部
49:温度検出表示部
60:合成樹脂ベース体
62:合成樹脂接合層
64:異質な材料層
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波の照射で水分子が振動することにより水分が発熱することを利用したマイクロ波加熱によって加熱される含水ゲル状蓄熱材を内包したマイクロ波加熱用の加温具に関する。
【背景技術】
【0002】
人体やペット(犬や猫)等の身体の所定部位に温熱を与えるための加温具としては、含水ゲル状蓄熱材やポリエチレングリコール等の蓄熱材が合成樹脂フィルムやシート等の密閉体の中に封入された構造をしているのが一般的である。吸水ポリマーや含水ゲル状体からなる蓄熱材を硬質樹脂容器に密封した保温体が、例えば、特許文献1に開示されている。また、ポリエチレングリコールの蓄熱材を熱可塑性合成樹脂シートに密封した蓄熱あんかが、例えば、特許文献2に開示されている。これらの蓄熱材は、熱湯への浸漬による間接加熱方法や電子レンジのマイクロ波加熱による直接加熱方法により繰り返し加熱することが可能となっている。
【0003】
熱湯への浸漬による間接加熱方法(熱湯という加熱媒体を介した加熱方法)は、容器の中に蓄熱材と水等の加熱媒体を入れて電気やガス等の加熱手段で加熱させるために、後述するマイクロ波加熱との比較で、加熱の簡便さや加熱効率が劣っている。
【0004】
マイクロ波加熱による直接加熱方法(マイクロ波が蓄熱材に直接的に作用する加熱方法)は、電子レンジの庫内でマイクロ波(2.45GHzの周波数)を照射することで水分子を振動させ、そのときの摩擦熱で水分子を発熱させる加熱方法である。当該加熱方法は、水分子の発熱を利用して含水ゲル状蓄熱材を加熱するので、含水ゲル状蓄熱材を非常に短時間で簡便且つ効果的に加熱・昇温させることが可能になっている。したがって、マイクロ波加熱は、水分を含む食品の簡便な加熱方法として一般家庭等で広く用いられている。
【0005】
マイクロ波加熱は、電子レンジに設けられたタイマーの加熱時間や出力パワー選択ボタン等で加熱条件を適宜に設定するものであるが、所定の加熱条件を越えて長時間加熱すると、蓄熱材が過熱状態になる。
【0006】
電子レンジによる長時間のマイクロ波加熱は、蓄熱材を大気開放状態(非密閉状態)で加熱する場合には収納体の爆発的な破裂等を引き起こす危険性が無いが、密閉体の中に封入された蓄熱材が誤って過熱される場合には、密閉体の爆発的な破裂等を引き起こして、密閉体に封入されていた高温の蓄熱材が流出する恐れがある。そして、爆発的な破裂は、周囲にいる人達を驚かせるとともに、密閉体に封入された蓄熱材が電子レンジの中で散乱するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−33300号公報
【特許文献2】特開昭63−220864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された蓄熱あんかは、融点が100℃以上の熱可塑性合成樹脂シートの中にポリエチレングリコールを密封したものである。当該蓄熱あんかには特別の防爆対策が施されていないために、熱可塑性合成樹脂シートの融点を越える温度まで蓄熱あんかが誤って過熱される場合には、熱可塑性合成樹脂シートの爆発的な破裂等を引き起こして、熱可塑性合成樹脂シートに封入されていた高温のポリエチレングリコールが流出する恐れがあり、安全対策が施されていない。
【0009】
また、特許文献1に開示された保温体は、硬質樹脂容器の中に蓄熱材を密封したものである。当該保温体では、破裂しないような硬質な樹脂容器を使用しているので、破裂の恐れを低減して一応の安全対策が施されているが、硬質樹脂容器であるために変形不可で外形形状が一義的に固定されてしまうので、身体の所定の部位にピッタリと密着するというフィット性を備えていない。すなわち、身体へのフィット性が非常に悪いという問題がある。
【0010】
したがって、本発明の解決すべき技術的課題は、電子レンジのマイクロ波加熱によって誤って過熱される場合に爆発的な破裂等を防止するとともに、身体の様々な部位にフィットすることのできるマイクロ波加熱用の加温具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するために、本発明によれば、以下のマイクロ波加熱用の加温具が提供される。
【0012】
すなわち、本発明の請求項1に係るマイクロ波加熱用の加温具では、
水を主成分とする含水ゲル状蓄熱材と、
前記含水ゲル状蓄熱材が封入される密封袋体と、
前記密封袋体を覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する中カバーと、
前記中カバーを覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する外カバーと、を備え、
前記密封袋体は、フィルム状又はシート状の合成樹脂ベース体と、前記合成樹脂ベース体の周縁部に介在配置されて前記合成樹脂ベース体同士を接合する合成樹脂接合層と、によって構成され、
前記合成樹脂ベース体は、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱によっても熱変形しない耐熱性を有し、
前記合成樹脂接合層の一部分には、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱により、他の通常接合部分よりも熱的に接合強度が劣ってしまう弱接合部分を配設していることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項2に係る加温具では、
前記弱接合部分での接合幅は、前記他の通常接合部分での接合幅よりも狭いことを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項3に係る加温具では、
前記弱接合部分での接合強度は、前記他の通常接合部分での接合強度よりも低いことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項4に係る加温具では、
前記接合は、熱溶着であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項5に係る加温具では、
前記接合は、接着であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項6に係る加温具では、
前記弱接合部分は、周囲と縁の切れた周縁部において形成されることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項7に係る加温具では、
前記密封袋体において、前記合成樹脂ベース体がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン又はポリアミド系樹脂であり、前記合成樹脂接合層がポリエチレン樹脂であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項8に係る加温具では、
前記外カバーは、断熱性を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項9に係る加温具では、
前記密封袋体と前記中カバーとの間には、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部と断熱性とを有する内カバーがさらに配設されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項10に係るマイクロ波加熱用の加温具セットでは、
請求項1乃至9に記載されたマイクロ波加熱用の加温具と、
当該加温具を収納してマイクロ波加熱にも耐える蓋付き耐熱樹脂製容器と、を備えることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項11に係る加温具セットでは、
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体に通気部を有するか、蓋と容器本体とが緩く係合するように構成されていることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項12に係る加温具セットでは、
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体において容器内の温度を検出・表示するための温度検出表示部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に係る本発明では、密封袋体が、フィルム状又はシート状の合成樹脂ベース体の周縁部に合成樹脂接合層を介在配置した構成であるので、密封袋体が自在に変形して身体の様々な部位にフィットすることができるとともに、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材が誤って過熱されると、合成樹脂接合層の一部分に配設された弱接合部分に隙間ができて、その隙間がガス抜き孔となり、その隙間から含水ゲル状蓄熱材の過熱で発生した水蒸気が外部の周囲環境に逃げて密封袋体のガス抜きが可能となるために、密封袋体の爆発的な破裂等を防止するという効果を奏する。
【0025】
請求項2に係る本発明では、接合幅が広いと弱接合部分に隙間ができるまでに長い時間を要し、接合幅が狭いと弱接合部分に短時間で隙間ができてしまうために、接合幅の大小によって隙間ができるまでの時間(ガス抜きまでの時間)を調節することができる。したがって、弱接合部分の接合幅によってガス抜きのタイミング調節を行うという効果を奏する。
【0026】
請求項3に係る本発明では、弱接合部分での接合強度が他の通常接合部分の接合強度よりも低いために、弱接合部分が他の通常接合部分より早いタイミングで隙間を形成することができる。したがって、接合強度の異なる材料の選択によってガス抜きのタイミング調節を行うという効果を奏する。
【0027】
請求項4に係る本発明では、熱溶着(ヒートシール)という既に十分に確立した技術を用いることで、密封袋体の密封構造を安定的に作成できるという効果を奏する。
【0028】
請求項5に係る本発明では、多種多様な接着剤の中から最適な接着剤の組合せを選択することができるので、ガス抜き温度の自由度が向上するという効果を奏する。
【0029】
請求項6に係る本発明では、弱接合部分に隙間が形成されると、密封袋体の中と外界とが連通するために、直接的なガス抜きを可能にするという効果を奏する。
【0030】
請求項7に係る本発明では、熱溶着(ヒートシール)の分野においてしばしば用いられる技術であるので、低コスト化や安定性の確保を可能にするという効果を奏する。
【0031】
請求項8に係る本発明では、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材が誤って過熱された場合でも、使用者に対して熱すぎる温感ではなくて適度の温感を与えるという効果を奏する。
【0032】
請求項9に係る本発明では、よりソフトな温感を与えるという効果を奏する。
【0033】
請求項10に係る本発明では、電子レンジ庫内でのニオイ移りを防止するという効果を奏する。
【0034】
請求項11に係る本発明では、ガス抜きによって流出した水蒸気の圧力で、容器の蓋が勢いよく外れることを防止するという効果を奏する。
【0035】
請求項12に係る本発明では、容器が高温になっていて危険性のあることを使用者に注意喚起するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図1に示した、含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの要部拡大図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】図3のC−C断面図である。
【図6】図1に示した加温具を耐熱樹脂製容器に収納した状態を示す斜視図である。
【図7】図1に示した加温具を頸部に巻き付けた使用形態を示す説明図である。
【図8】含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの第1変形例の要部拡大図である。
【図9】図8のD−D断面図である。
【図10】図8のE−E断面図である。
【図11】含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの第2変形例の要部拡大図である。
【図12】含水ゲル状蓄熱材の封入された蓄熱パックの第3変形例の要部拡大図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具の斜視図である。
【図14】図13に示した加温具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下に、図1乃至7を参照しながら、本発明の第1実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具1を詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明のマイクロ波加熱用の加温具1を説明する正面図である。図1において、加温具1は、含水ゲル状蓄熱材11の封入される蓄熱パック(密封袋体)10と、当該蓄熱パック10を覆いながら収容する中カバー3と、当該中カバー3を覆う外カバー5と、を備えている。中カバー3は、縦長の蓄熱パック10を長手方向に収容する縦長の略長方形の形状をした中央収容部4と、中央収容部4の左右の端部に設けられた連結端部7と、を備えている。連結端部7の先端部分は、三角形の先細形状をした先細部9を備えている。なお、本願明細書では、参照符号10は、基本的には、含水ゲル状蓄熱材11の封入を考慮しない場合には密封袋体を指し、含水ゲル状蓄熱材11の封入を考慮する場合には蓄熱パックを指している。
【0039】
中カバー3は、ポリエステルやポリアミド系樹脂や綿等の各種生地を使用することが可能であるが、ポリエステル等の化繊の織物や編物や不織布等の通気性素材から構成されている。また、中カバー3は、蓄熱パック10から漏出したガスを外部に逃がすという目的を達成するためには、全体として通気性を持った素材でなくとも、通気性の無い素材に少なくとも一つの通気孔を形成した態様であってもよい。さらに、中カバー3は、直接的な熱伝導を抑制するために、比較的断熱性を持った素材から構成されていることが好ましい。ポリエステルスウェードの生地(例えば、帝人製の品番:SW3652)を中カバー3に用いることは、豊かなボリュームと滑らかな感触を提供するので、特に好ましい。
【0040】
外カバー5は、身体の部位に対して直接に接触するものであるから、高温に加熱された蓄熱パック10からの高熱が身体の部位を熱しすぎないような断熱性を備えていることが好適である。また、外カバー5は、通気性素材から構成されている。なお、蓄熱パック10から漏出したガスを中カバーを介して外部に逃がすという目的を達成するためには、外カバー5は、全体として通気性を持った素材でなくとも、通気性の無い素材に少なくとも一つの通気孔を形成した態様であってもよい。表面は優れた吸湿性をもつ天然繊維コットン(綿100%)で、中心連結糸には弾力回復性に優れたポリアミド系樹脂、裏面はポリエステルからなるハニカム立体構造ダブルラッシェルの素材(例えば、福井編物製の品番:ハニカム1000)を外カバー5に用いることは、ハニカム立体構造に起因した空気層断熱性とサラサラの感触を提供するので、特に好ましい。また、この素材は、洗濯を繰り返しても型くずれしにくく、手入れも容易であるという特徴を有する。
【0041】
中カバー3の中央収容部4には、蓄熱パック10が収容されている。蓄熱パック10が中央収容部4の中で位置ズレを起こさないように、蓄熱パック10は、後述する長手直交境界接合部14において、縫着又は接着又は熱融着によって中カバー3に対して固着している。例えば、図1の実施形態では中央の長手直交境界接合部14に対して取着部24で縫着する。中央収容部4に蓄熱パック10を収容したあとには、上下端の開口部が縫着又は接着又は熱融着によって閉止する。例えば、図1の実施形態では上下端の取着端部22において縫着する。なお、取着部24は、上下の長手直交周縁接合部13や他の長手直交境界接合部14に設けることも可能である。
【0042】
密封袋体10の左側の周縁端部には、熱融着(ヒートシール)により長手周縁接合部12を形成している。例えば、長手周縁接合部12は、フィルム状又はシート状の長手方向に延びる合成樹脂ベース体60の上に合成樹脂接合層62を形成した袋体基材を準備し、当該袋体基材の中央部分を長手直交方向に2つに折り曲げて、折り曲げた結果、対向する側縁端部同士を熱融着(ヒートシール)することにより作成される(図4を参照)。
【0043】
密封袋体10の上下の周縁端部には、熱融着(ヒートシール)により長手直交周縁接合部13をそれぞれ形成している。また、隣り合う収納室16の間の境界を画定する境界部分には、熱融着(ヒートシール)により長手直交境界接合部14を形成している(図5を参照)。
【0044】
したがって、図1に示した密封袋体10では、3つの長手直交境界接合部14は、4つの収納室16に分割・区画するとともに隣り合う収納室16を連結している。各収納室16には、含水ゲル状蓄熱材11を封入している。隣り合う収納室16を連結する長手直交境界接合部14は、樹脂フィルム同士を熱融着(ヒートシール)したものであるので、それらが折り目となって蓄熱パック10の全体形状を自在に変形させることを可能にする。これらの接合部12,13,14は、熱融着(ヒートシール)の代わりに、接着剤を用いた接着方法によって形成することもできる。なお、密封袋体10は、2個乃至6個程度の小型化された収納室16に分割・区画することができる。中央収容部4への蓄熱パック10の挿入時や装着後において、蓄熱パック10が中カバー3の中央収容部4を傷付けないように、蓄熱パック10のコーナー部分、すなわち長手周縁接合部12と長手直交周縁接合部13とが交わる部分には、丸め加工又は面取加工を施すことが好適である。
【0045】
加温具1のサイズを例示すると、全長が約100cm、幅が約5.5cmである。2つ折りした蓄熱パック10のサイズを例示すると、全長が約40cm、幅が約5.5cmである。各収納室16のサイズを例示すると、全長が約10cm、幅が約5.5cmである。上下の連結端部7のサイズを例示すると、全長が約30cm、幅が約5.5cmである。フラップ部5のサイズを例示すると、全長が約10cm、幅が約5.5cmである。また、例えば、各収納室16の中には、約40gの含水ゲル状蓄熱材11を充填する。
【0046】
この実施形態では、図2の断面図に示すように、蓄熱パック10を2段折りにして折り目18が長手方向に延在するようにして、蓄熱パック10を中央収容部4に収容している。蓄熱パック10の折り曲げは、3段折りや4段折りであってもよい。蓄熱パック10を複数段に折り曲げることは、予め形成した固着部を用いて各収納室16を予め小さく分割・区切を行う場合よりも、多くの含水ゲル状蓄熱材11を各収納室16の中に封入することができ、より長い加温保持時間を確保することができるという効果を奏する。また、収納室16の内部空間を折り目18で区画しているので、収納室16の内部で含水ゲル状蓄熱材11の熱対流が起こりにくく、区画された収納室16のそれぞれが小さな独立収納部のように振る舞い、加温保持時間を長くすることができる。なお、蓄熱パック10を折り曲げずに、そのままの形態で用いることも可能である。
【0047】
図3乃至5に示すように、密封袋体10は、合成樹脂ベース体60(例えば、ポリアミド系樹脂フィルム)と合成樹脂接合層62(例えば、ポリエチレン樹脂フィルム)とを積層したラミネート樹脂フィルムの袋体基材を折り曲げた上で重ね合わせて、左辺と下辺とを熱圧着(ヒートシール)して袋状体を形成し、形成された袋状空間に含水ゲル状蓄熱材11を封入したあと上辺の開口部を熱圧着して封止したものである。蓄熱パック10は、中央収容部4に挿入可能であるように寸法構成されている。熱圧着して封止した部分が、密封袋体10の長手周縁接合部12、長手直交周縁接合部13及び長手直交境界接合部14である。長手周縁接合部12、長手直交周縁接合部13及び長手直交境界接合部14の幅を例示すると、それぞれ、約10mm、約10mm、約22mmである。
【0048】
図3及び4に示すように、密封袋体10において、各収納室16に対応する各長手周縁接合部12の一部分には、弱接合部分38が配設されている。その他の部分は、長手周縁接合部12の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている。図4に示すように、弱接合部分38は、長手直交方向(すなわち、長手周縁接合部12の幅方向)に沿って延在する、合成樹脂接合層62の欠落した非接合部30と、合成樹脂接合層62の幅狭接合部31と、から構成されている。当該構成によれば、幅狭接合部31が接合に寄与して、非接合部30が接合に寄与しないので、通常接合部分39よりも接合強度が低下する。蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が過熱された場合(例えば約80乃至約100℃)には、合成樹脂接合層62の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるが、通常接合部分39よりも接合強度の弱い幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に隙間ができる。その結果、幅狭接合部31(弱接合部分38)に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。したがって、幅狭接合部31(弱接合部分38)の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0049】
なお、弱接合部分38において、幅狭接合部31及び非接合部30の長手直交方向の配置順序が図4に示したものと逆であってもよい。また、長手直交方向(すなわち、長手周縁接合部12の幅方向)の幅狭接合部31の接合幅によって、隙間ができるまでの時間(ガス抜きまでの時間)を調節することができる。長手直交方向における幅狭接合部31の幅と非接合部30の幅との比は、例えば、1:0.2乃至0.8、好ましくは、1:0.4乃至0.6である。その結果、弱接合部分38での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下する。なお、常温における通常接合部分39での接合強度は、例えば、下限が10N/15mm以上、好ましくは15N/15mm以上、より好ましくは25N/15mm以上、さらに好ましくは40N/15mm以上である。上限は特に限定されるものではないが60N/15mm以下である。
【0050】
含水ゲル状蓄熱材11に含まれる水分や気化した水蒸気が経時的に透過・漏出しにくい素材として、高い耐熱性及びガスバリア性を持った合成樹脂ベース体60が好適である。高い耐熱性及びガスバリア性を持った合成樹脂ベース体60としては、融点が170℃以上のものであって、例えば、二軸延伸ポリアミド系フィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリプロピレンフィルム、シリカ膜やアルミナ膜を蒸着したポリエチレンテレフタレートフィルム等が好適に使用することができる。合成樹脂ベース体60の厚さは、10乃至70μm程度、好ましくは20乃至50μm程度である。なお、無延伸のものも使用可能であるが、強度や剛性の点から二軸延伸のものが好ましい。
【0051】
ところで、蓄熱パック10の加熱によって蓄熱パック10の各収納室16に封入された含水ゲル状蓄熱材11の温度が上昇するが、当該温度上昇につれて、封入された含水ゲル状蓄熱材11に含まれた水の蒸気圧が上昇する。水の沸騰温度(すなわち100℃)近傍の高蒸気圧温度(おおよそ97乃至100℃)になると、水の蒸気圧が一気に高くなり、周りの1気圧まで高くなると水が一気に気化して沸騰状態になる。その結果、含水ゲル状蓄熱材11を封入した収納室16内での圧力が一気に高まり、蓄熱パック10を膨張させるようとする。したがって、蓄熱パック10を膨張させるようとする温度において、合成樹脂接合層62が軟化することなく、上述した合成樹脂ベース体60との十分な接合強度を持った合成樹脂接合層62が好適である。
【0052】
合成樹脂接合層62としては、各種のシーラント剤、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)等を挙げることができる。合成樹脂接合層62の厚さは、20乃至100μm程度、好ましくは30乃至80μm程度である。
【0053】
含水ゲル状蓄熱材11としては、蓄熱剤として広く使用されている様々な材料が使用可能であるが、ポリアクリル酸ナトリウムに多量の水を含んだゲル状物質や、硫酸ナトリウム10水塩(Na2SO4・10H2O)と水(H2O)とを適量調合した硫酸ナトリウム10水塩が例示される。含水ゲル状蓄熱材11は、97乃至99重量%程度の水を含んでおり、水を主成分としている。
【0054】
蓄熱パック10は、上下方向に配置される複数の小分けされた収納室16が、長手直交境界接合部14を介して連結されている複数個連結形態をしている。図1に示した実施形態では、長手方向に沿って一列に4個の収納室16が整列配置されている。また、図2に示すように、蓄熱パック10を、内カバー20で覆った状態で中央収容室4に収容することが好ましい。内カバー20としては、織りや編みでは無い、通気性を持った不織布が好適である。薄いシート状の繊維集合体であるウェブを作成したあと、何らかの方法で当該ウェブ中の繊維同士の結合又は接着(化学的接着、熱的接着又は機械的結合)を行うことにより、不織布を製造する。したがって、内カバー20として不織布を用いた場合には、微視的に見て、ある規則的な繰り返し構造を持たない不規則な(ランダムな)交錯構造体から構成されており、伸長特性に関して方向性を有しない。すなわち、内カバー20は、縦横方向の伸長度と斜め方向の伸長度とがほとんど変わらない特性、言いかえれば、引張力に対して略等方的な形状安定性を有している。そして、内カバー20は、ポリプロピレンやポリエステルやアクリルやレーヨンやポリアミド系等の合成繊維等の吸湿性のない通気性素材から構成されている。また、内カバー20は、ポリエステル等の化繊の織物や編物を二重や三重に重ねて使用する態様であってもよい。内カバー20を介在させることにより、蓄熱パック10を保護したり、加温具1の全体的な強度をアップさせたりすることが可能になる。また、内カバー20は、通気性の無い素材に少なくとも一つの小さな通気孔を備える構造であってもよい。したがって、本願発明の内カバー20は、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材11が誤って過熱されたとしても、水蒸気が逃げるものの、高温の含水ゲル状蓄熱材が流出しないような小さな開口サイズの通気性又は通気孔を備えている。
【0055】
上述した加温具1は、図6に示すように、耐熱樹脂製容器40の収納空間43の中に多段に折り曲げてコンパクトにした状態で加熱することが好ましい。すなわち、電子レンジの庫内でのマイクロ波の照射分布が必ずしも均一ではなく中央部及びその周辺に集中する傾向があるので、加温具1を収納空間43の中にできるだけコンパクトに収納し且つ中央部及びその周辺に配置できるようにした方が、加温具1をできるだけ均一な温度に加熱できるようになる。
【0056】
耐熱樹脂製容器40は、容器本体42と、上蓋44と、から構成され、容器本体42の内部には収納空間43を備えている。容器本体42の上縁には、下係合部45が形成されている。上蓋44の下縁には、上係合部46が形成されている。下係合部45及び上係合部46が緩く係合しており、ガス抜きされた水蒸気の圧力で、耐熱樹脂製容器40の上蓋44が勢いよく外れることを防止している。また、ガス抜きされた水蒸気が逃げるものの、高温の含水ゲル状蓄熱材が流出しないような小さな開口サイズの通気孔を、容器本体42の側壁面や上蓋44の壁面に形成することも可能である。電子レンジは食品を加熱するために使用することが一般的であるので、耐熱樹脂製容器40に入れて加温具1を加熱するときには、上蓋44を閉じるようにして、電子レンジ庫内でのニオイ移りを防止することが好ましい。
【0057】
また、容器本体42及び上蓋44の左右の側端には、それぞれ、外方に突出した下把持部47及び上把持部48が設けられており、下把持部47及び上把持部48を把持することで、高温に加熱された加温具1及び耐熱樹脂製容器40を電子レンジの庫外に安全に持ち運ぶことが容易になる。上蓋44の上壁面には、耐熱樹脂製容器40内の温度を検出・表示するための温度検出表示部49が配設されている。また、温度検出表示部49は容器本体42の側壁面に配設されてもよい。温度検出表示部49は、小型の温度計や、温度によって表示される色が変化するサーモラベルである。温度検出表示部49の設置により、耐熱樹脂製容器40が高温になっていて危険性のあることを使用者に注意喚起することができる。
【0058】
加温具1の収納された耐熱樹脂製容器40を、定格出力500乃至700Wの電子レンジの回転皿の上に載置して、マイクロ波を所定時間照射して加温具1を加熱する。その結果、加温具1が身体の所定部位を温めるのに適した温度に加熱される。所定の温度に加熱された加温具1は、耐熱樹脂製容器40から取り出されて、図7に示すように、使用者の頸部に巻き付けられ、含水ゲル状蓄熱材11からの熱が、密封袋体10、内カバー20、中カバー3、外カバー5の順で、頸部に伝えられる。
【0059】
図7において、各先細部9を導入部として、各連結端部7をリング体70の挿入穴72に挿通している。リング体70は、連結端部7に対して摩擦係止する材料、例えばゴム材料から構成されている。各連結端部7をリング体70の中に挿入して軽く係着することにより、巻き付けられた加温具1で頸部を誤って締め付けないようにすることができる。すなわち、摩擦力という弱い係止力で各連結端部7を連結することができる。なお、リング体70の代わりに、クリップで各連結端部7を弱く係止する構成であってもよい。あるいは、各連結端部7に面状係合体やホック等を設けて両者が弱い係着力で係着する構成にすることもできる。
【0060】
含水ゲル状蓄熱材11を含む複数の収納室16が、フィルム状又はシート状の長手直交境界接合部14を介して連結しているので、長手直交境界接合部14を折り目として加温具1を自在に折り曲げることができる。したがって、加温具1が、全体として、自在に屈曲して加温対象部位(図7では頚部)の外形形状にピッタリと密着するので、好適なフィット性を提供することができる。第1実施形態に係る加温具1は、人体の上記加温対象部位(図7では頚部)に限らず、膝や肩や肘や腰や足裏等の各種部位に対して巻き回して温める形態に使用することができる。また、人体に限らず、犬や猫等のペット動物を温めるためにも使用することができる。
【0061】
加温具1の通常の加熱形態は、加温具1を耐熱樹脂製容器40に収納し、火傷や低温火傷を防止するために、含水ゲル状蓄熱材11がおおよそ50乃至65℃の推奨加熱温度になるような推奨加熱条件(マイクロ波の投入パワーに応じて、推奨される加熱時間が異なる)に設定して、電子レンジでマイクロ波加熱するものである。しかしながら、加温具1の収納された耐熱樹脂製容器40を、電子レンジでマイクロ波加熱する際に、加熱条件(タイマーの加熱時間や出力パワー選択ボタンの選択)を使用者が誤って設定する場合がある。所定の加熱条件を越えて加熱すると、含水ゲル状蓄熱材11が過熱状態になってしまう。含水ゲル状蓄熱材11が誤って過熱されると、含水ゲル状蓄熱材11に含まれた水の蒸気圧が上昇し、水の沸騰温度(すなわち100℃)近傍の高蒸気圧温度(おおよそ97乃至100℃)になると、水の蒸気圧が一気に高くなり、周囲環境の1気圧まで高くなると含水ゲル状蓄熱材11に含まれた水分が一気に気化して沸騰状態になる。その結果、含水ゲル状蓄熱材11を封入した収納室16内での圧力が一気に高まり、蓄熱パック10を膨張させるようとする。
【0062】
しかしながら、本発明の第1実施形態に係る加温具1がそのような高蒸気圧温度を含む危険温度(例えば約80乃至約100℃)に過熱された場合には、合成樹脂接合層62の熱軟化及び/又は接合強度の低下により、長手周縁接合部12の一部分に配設された幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に隙間ができて、その隙間が、水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。幅狭接合部31(弱接合部分38)に形成された隙間から、収納室16の中に閉じ込められていた水蒸気が流出し、蓄熱パック10から流出した水蒸気が、さらに内カバー20、中カバー3、外カバー5、耐熱樹脂製容器40の順で流出し、最終的に外部の周囲環境に逃げて、蓄熱パック10のガス抜きが可能となる。その結果、プッシュという小さなガス抜き音がするものの、蓄熱パック10が爆発的に破裂して周囲にいる人達を驚かせるようなことを防止することができる。また、内カバー20、中カバー3、外カバー5及び耐熱樹脂製容器40の全てが、高温の含水ゲル状蓄熱材11が流出しないような小さな開口サイズの通気性又は通気孔を備えるので、高温の含水ゲル状蓄熱材11が電子レンジの庫内で散乱するようなことも起こらない。
【0063】
次に、図8,9,10を参照しながら、含水ゲル状蓄熱材11の封入された蓄熱パック10の第1変形例について説明する。蓄熱パック10の基本的な構成は、図3に示したものと同じであるので、相違点を重点的に説明する。
【0064】
図8及び9に示すように、密封袋体10において、各収納室16に対応する各長手周縁接合部12の一部分には、弱接合部分32が配設されている。その他の部分は、長手周縁接合部12の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている(図10を参照)。図8,9に示すように、弱接合部分32は、長手直交方向(すなわち、長手周縁接合部12の幅方向)の全幅にわたって、延在している。弱接合部分32は、通常接合部分39の材料よりも熱的特性が劣った異質な材料層64から構成されている。熱的特性が劣っているとは、危険温度(例えば約80乃至約100℃)において、熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こることを意味している。当該構成によれば、蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、弱接合部分32の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こり、通常接合部分39よりも弱接合部分32に優先的に隙間ができる。その結果、弱接合部分32に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。したがって、弱接合部分32の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0065】
第1変形例では、弱接合部分32に用いる材料が、熱的特性において、他の通常接合部分39と異なっているという材料的なアプローチを特徴としている。すなわち、弱接合部分32に用いる材料が、他の通常接合部分39に用いる材料よりも低い温度で、熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるように構成されている。熱的劣化の起こるような、弱接合部分32と他の通常接合部分39との間での温度差としては、5乃至25℃程度であり、好適には10乃至20℃程度である。すなわち、弱接合部分32では、他の通常接合部分39よりも5乃至25℃程度(好ましくは10乃至20℃程度)の低温側の温度差で、熱的劣化が起こるように構成されている。より好適には、他の通常接合部分39が約100℃の温度で接合強度がほとんど低下しないのに対して、弱接合部分32が約80℃の温度で接合強度が大幅に低下するように構成されている(弱接合部分32と他の通常接合部分39との間での温度差が約20℃)。弱接合部分32と他の通常接合部分39との間での温度差が小さい方が好ましいが、数℃程度の小さな温度差になると、お互いの熱的材料特性が劇的に異なるような材料の組合せがそれほど多くなく、製造上のバラツキや電子レンジによる加熱ムラを考慮すると選択肢が制限される。温度差が大きくなると、危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱される手前の準過熱状態(例えば70℃程度)になっただけでも、弱接合部分32での接合が解離してガス抜き孔が形成されて、それ以降は加温具として使用不可になるために、加温具1の本来的な使い勝手が悪くなるということが起こる。熱的劣化により、長手直交方向に延在する弱接合部分38での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下するように構成されている。
【0066】
異質な材料層64として、各種のシーラント剤や接着剤が使用可能である。弱接合部分32で使用されるシーラント剤は、上記第1実施形態のところで説明したシーラント剤であって、合成樹脂接合層62で使用されるものより、熱的特性の劣ったものである。また、弱接合部分32で使用される接着剤は、様々なものが使用可能であるが、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、エポキシ系、ポリアクリル系、ポリ酢酸ビニル系、セルロース系のものが好適である。
【0067】
次に、図11を参照しながら、含水ゲル状蓄熱材11の封入された蓄熱パック10の第2変形例について説明する。蓄熱パック10の基本的な構成は、図3に示したものと同じであるので、相違点を重点的に説明する。
【0068】
図11に示すように、密封袋体10において、隣接する収納室16の間に配置される長手直交境界接合部14の一部分と、上端側の収納室16及び下端側の収納室16のそれぞれに隣接配置される長手直交周縁接合部13の一部分とには、それぞれ、弱接合部分38が配設されている。その他の部分は、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている。図11に示すように、弱接合部分38は、長手方向(すなわち、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の幅方向)に沿って延在する、合成樹脂接合層62の欠落した非接合部33と、合成樹脂接合層62の幅狭接合部34と、合成樹脂接合層62の欠落した非接合部33と、から構成されている。
【0069】
当該構成によれば、幅狭接合部34が接合に寄与して、2箇所の非接合部33が接合に寄与しないので、通常接合部分39よりも接合強度が低下する。蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、合成樹脂接合層62の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるが、通常接合部分39よりも接合強度の弱い幅狭接合部34(弱接合部分38)に優先的に隙間ができる。その結果、幅狭接合部34(弱接合部分38)に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。長手直交境界接合部14においては、ガス抜き孔としての弱接合部分38を介して、隣接する収納室16同士が連通する。また、上端側及び下端側の長手直交周縁接合部13においては、ガス抜き孔としての弱接合部分38を介して、上端側の収納室16及び下端側の収納室16と外界がそれぞれ連通する。したがって、幅狭接合部34(弱接合部分38)の隙間の全てが連通して、連通した幅狭接合部34(弱接合部分38)の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0070】
なお、弱接合部分38において、幅狭接合部34及び非接合部33の長手方向の配置は、図11に示したものに限られることはなく、例えば、幅狭接合部34をどちらか一方の収納室16の側に配置して1つの幅狭接合部34と1つの非接合部33を備える構成にしたり、幅狭接合部34を上下の両方の収納室16の側にそれぞれ配置して2つの幅狭接合部34と1つの非接合部33を備える構成(すなわち、図11に示したものと、幅狭接合部34と非接合部33との配置関係が逆になる)にしたりすることもできる。なお、長手方向における幅狭接合部34の合計幅と非接合部33の幅との比は、例えば、1:0.2乃至0.8、好ましくは、1:0.4乃至0.6である。その結果、弱接合部分38での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下する。
【0071】
次に、図12を参照しながら、含水ゲル状蓄熱材11の封入された蓄熱パック10の第3変形例について説明する。蓄熱パック10の基本的な構成は、図3に示した第1実施形態、図8乃至10に示した第1変形例と同じであるので、相違点を重点的に説明する。
【0072】
図12に示すように、密封袋体10において、隣接する収納室16の間に配置される長手直交境界接合部14の一部分と、上端側の収納室16及び下端側の収納室16のそれぞれに隣接配置される長手直交周縁接合部13の一部分とには、それぞれ、弱接合部分35が配設されている。その他の部分は、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の全幅にわたって合成樹脂接合層62同士が接合した通常接合部分39になっている。図12に示すように、弱接合部分35は、長手方向(すなわち、長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13の幅方向)に沿って延在している。
【0073】
長手直交境界接合部14及び長手直交周縁接合部13のそれぞれに形成された弱接合部分35は、上記第1変形例と同様に、通常接合部分39の材料よりも熱的特性が劣った異質な材料層64から構成されている。熱的特性が劣っているとは、危険温度(例えば約80乃至約100℃)において、熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こることを意味している。当該構成によれば、蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、弱接合部分35の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こり、通常接合部分39よりも弱接合部分35に優先的に隙間ができる。その結果、弱接合部分35に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。長手直交境界接合部14においては、ガス抜き孔としての弱接合部分35を介して、隣接する収納室16同士が連通する。また、上端側及び下端側の長手直交周縁接合部13においては、ガス抜き孔としての弱接合部分35を介して、上端側の収納室16及び下端側の収納室16と外界がそれぞれ連通する。したがって、弱接合部分35の隙間の全てが連通して、連通した弱接合部分35の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。なお、熱的劣化により、長手方向に延在する弱接合部分35での接合強度が、通常接合部分39での接合強度の0.2乃至0.8、好ましくは、0.4乃至0.6に低下するように構成されている。
【0074】
第3変形例においても、異質な材料層64として、第1変形例と同様の各種のシーラント剤や接着剤が使用可能である。
【0075】
次に、図13,14を参照しながら、本発明の第2実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具50について説明する。
【0076】
第2実施形態に係るマイクロ波加熱用の加温具50は、敷物のように、加温対象部位を下から温める態様で使用するものである。図14において、加温具50は、含水ゲル状蓄熱材11の封入される蓄熱パック(密封袋体)10と、当該蓄熱パック10を覆う上側の中カバー52及び下側の中カバー53と、当該中カバー3を覆う上側の外カバー54及び下側の外カバー55と、を備えている。
【0077】
上下の中カバー52,53は、織りや編みでは無い、通気性を持った不織布が好適である。薄いシート状の繊維集合体であるウェブを作成したあと、何らかの方法で当該ウェブ中の繊維同士の結合又は接着(化学的接着、熱的接着又は機械的結合)を行うことにより、不織布を製造する。したがって、中カバー52,53として不織布を用いた場合には、微視的に見て、ある規則的な繰り返し構造を持たない不規則な(ランダムな)交錯構造体から構成されており、伸長特性に関して方向性を有しない。すなわち、中カバー52,53は、縦横方向の伸長度と斜め方向の伸長度とがほとんど変わらない特性、言いかえれば、引張力に対して略等方的な形状安定性を有している。そして、中カバー52,53は、ポリプロピレンやポリエステルやアクリルやレーヨンやポリアミド系等の合成繊維等の吸湿性のない通気性素材から構成されている。また、中カバー52,53は、ポリエステル等の化繊の織物や編物を二重や三重に重ねて使用する態様であってもよい。中カバー52,53を介在させることにより、蓄熱パック10を保護したり、加温具1の全体的な強度をアップさせたり、補助的な断熱性を提供したりすることが可能になる。また、中カバー52,53は、通気性の無い素材に少なくとも一つの小さな通気孔を備える構造であってもよい。したがって、中カバー52,53は、電子レンジのマイクロ波加熱によって含水ゲル状蓄熱材11が誤って過熱されたとしても、水蒸気が逃げるものの、高温の含水ゲル状蓄熱材が流出しないような小さな開口サイズの通気性又は通気孔を備えている。
【0078】
上下の外カバー54,55は、身体の部位に対して直接に接触するものであるから、高温に加熱された蓄熱パック10からの高熱が身体の部位を熱しすぎないように断熱性を備えていることが好適である。外カバー54,55は、ポリエステルやポリアミド系樹脂や綿等の各種生地を使用することが可能であるが、ポリエステル等の化繊の織物や編物や不織布等の通気性素材から構成されている。蓄熱パック10から漏出したガスを中カバー52,53を介して外部に逃がすという目的を達成するためには、外カバー54,55は、全体として通気性を持った素材でなくとも、通気性の無い素材に少なくとも一つの通気孔を形成した態様であってもよい。外カバー54,55は、第1実施形態で説明した、ポリエステルスウェードの生地(例えば、帝人製の品番:SW3652)や、ハニカム立体構造ダブルラッシェルの素材(例えば、福井編物製の品番:ハニカム1000)を用いることができる。上下の外カバー54,55として、同じ素材とすることもできるし、異なった素材とすることもできる。同じ素材を用いる構成は部品点数の削減や製造コストの低減に寄与し、異なった素材を用いる構成は一つの加温具50で異なった2つの温感を提供するという効果を奏する。すなわち、ハニカム立体構造ダブルラッシェルの素材の側を使用者側に配置すると温感をソフトにし、ポリエステルスウェードの生地の側を使用者と反対側に配置すると温感をハードにすることができる。
【0079】
加温具50に使用される蓄熱パック10は、上述した第1実施形態のものと実質的に同じであり、2つの蓄熱パック10を並べて配置している。蓄熱パック10は、長手方向に延びる長手周縁接合部12と、長手直交方向に延びる長手直交周縁接合部13と、隣り合う収納室16の間にあって長手直交方向に延びる長手直交境界接合部14と、を備えている。各接合部12,13,14は、合成樹脂ベース体(例えば、ポリアミド系樹脂フィルム)と合成樹脂接合層(例えば、ポリエチレン樹脂フィルム)とを積層したラミネート樹脂フィルムの袋体基材10を、熱融着(ヒートシール)することにより作成される。各収納室16の中には、上述した第1実施形態と同様に、水を主成分とする含水ゲル状蓄熱材11が封入されている。長手周縁接合部12や、2つに並列配置した蓄熱パック10の境界部分は、加温具50を容器40に折り畳んで入れて電子レンジで加熱する際の折り目として用いることができる。
【0080】
図14に示すように、上述した第1実施形態と同様に、密封袋体10において、各収納室16に対応する各長手周縁接合部12の一部分には、合成樹脂接合層の欠落した同士非接合部30と、幅狭で合成樹脂接合層同士の接合した幅狭接合部31と、から構成される弱接合部分38が配設されている。その他の部分は、長手周縁接合部12の全幅にわたって合成樹脂接合層同士が接合した通常接合部分39になっている。当該構成によれば、幅狭接合部31が接合に寄与して、非接合部30が接合に寄与しないので、通常接合部分39よりも接合強度が低下する。蓄熱パック10の含水ゲル状蓄熱材11が危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、合成樹脂接合層の熱軟化及び/又は接合強度の低下が起こるが、通常接合部分39よりも接合強度の弱い幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に隙間ができる。その結果、幅狭接合部31(弱接合部分38)に形成された隙間は、収納室16内に封止された含水ゲル状蓄熱材11から発生する高圧の水蒸気を放出するためのガス抜き孔となる。したがって、幅狭接合部31(弱接合部分38)の隙間を通じて高圧の水蒸気が外界に逃げるために、蓄熱パック10の爆発的な破裂等を防止することができる。
【0081】
なお、弱接合部分38において、幅狭接合部31及び非接合部30の長手直交方向の配置順序が図14に示したものと逆であってもよい。また、図14に示したものでは、収納室16及び弱接合部分38の数がそれぞれ3個であるが、当該数量は3個に限定されず、加温具50の適用部位に応じて8個程度までの範囲で増減することができる。また、蓄熱パック10における弱接合部分38の構成は、上述した第1実施形態における第1変形例、第2変形例及び第3変形例として説明したものであってもよい。
【0082】
上下の中カバー52,53の間には、蓄熱パック10が配設されている。蓄熱パック10の位置ズレを防止するために、蓄熱パック10は、対向する一対の長手直交周縁接合部13において、縫着又は接着又は熱融着によって中カバー52,53に対してそれぞれ固着する。蓄熱パック10の固着された中カバー52,53は、その周縁端部において、縫着又は接着又は熱融着によって外カバー54,55に対してそれぞれ固着する。その結果、図13に示すような、加温具50を作成することができる。また、加温具50は、蓄熱パック10、中カバー52,53及び外カバー54,55の三者を一度に一体的に固着する形態であってもよい。
【0083】
上述した加温具50は、上述した第1実施形態の図6と同様に、耐熱樹脂製容器40の収納空間43の中に多段に折り曲げてコンパクトにして上蓋44を閉じた状態で加熱される。所定の温度に加熱された加温具50は、耐熱樹脂製容器40から取り出されて、ベッド等の上に載置される。使用者の加温対象部位(例えば、踵や脹脛(ふくらはぎ)や腰部)がその上に置くことで、含水ゲル状蓄熱材11からの熱が、密封袋体10、中カバー52(53)、外カバー54(55)の順で、加温対象部位に伝えられる。また、第2実施形態に係る加温具50は、人体に限らず、犬や猫等のペット動物を温めるためにも使用することができる。
【0084】
また、電子レンジのマイクロ波による加熱条件(加熱時間や出力パワー)の設定誤りにより、加温具50が電子レンジで危険温度(例えば約80乃至約100℃)まで過熱された場合には、長手周縁接合部12の一部分に配設された幅狭接合部31(弱接合部分38)に優先的に形成される隙間(いわゆる、ガス抜き孔)から、収納室16の中に閉じ込められていた水蒸気が流出し、蓄熱パック10から流出した水蒸気が、さらに中カバー52,53、外カバー54,55の順で流出し、最終的に外部の周囲環境に逃げて、蓄熱パック10のガス抜きが可能となる。その結果、プッシュという小さなガス抜き音がするものの、蓄熱パック10が爆発的に破裂して周囲にいる人達を驚かせるようなことを防止することができる。また、加温具50から、高温の含水ゲル状蓄熱材11が電子レンジの庫内で散乱するようなことも起こらない。
【0085】
なお、本発明の理解を容易にするために、具体的な数値や構成材料物を示しながら説明したが、これらはあくまでも例示であって本願発明の保護範囲を制限するものではない。
【符号の説明】
【0086】
1:加温具
3:中カバー
4:中央収容部
5:外カバー
7:連結端部
9:先細部
10:蓄熱パック(密封袋体)
11:含水ゲル状蓄熱材
12:長手周縁接合部
13:長手直交周縁接合部
14:長手直交境界接合部
16:収納室
18:折り目
20:内カバー
22:取着端部
24:取着部
30,33:非接合部
31,34:幅狭接合部
32,35,38:弱接合部分
39:通常接合部分
40:耐熱樹脂製容器
42:容器本体
43:収納空間
44:上蓋
45:下係合部
46:上係合部
47:下把持部
48:上把持部
49:温度検出表示部
60:合成樹脂ベース体
62:合成樹脂接合層
64:異質な材料層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を主成分とする含水ゲル状蓄熱材と、
前記含水ゲル状蓄熱材が封入される密封袋体と、
前記密封袋体を覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する中カバーと、
前記中カバーを覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する外カバーと、を備え、
前記密封袋体は、フィルム状又はシート状の合成樹脂ベース体と、前記合成樹脂ベース体の周縁部に介在配置されて前記合成樹脂ベース体同士を接合する合成樹脂接合層と、によって構成され、
前記合成樹脂ベース体は、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱によっても熱変形しない耐熱性を有し、
前記合成樹脂接合層の一部分には、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱により、他の通常接合部分よりも熱的に接合強度が劣ってしまう弱接合部分を配設していることを特徴とするマイクロ波加熱用の加温具。
【請求項2】
前記弱接合部分での接合幅は、前記他の通常接合部分での接合幅よりも狭いことを特徴とする、請求項1に記載の加温具。
【請求項3】
前記弱接合部分での接合強度は、前記他の通常接合部分での接合強度よりも低いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の加温具。
【請求項4】
前記接合は、熱溶着であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項5】
前記接合は、接着であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項6】
前記弱接合部分は、周囲と縁の切れた周縁部において形成されることを特徴とする、1乃至5のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項7】
前記密封袋体において、前記合成樹脂ベース体がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン又はポリアミド系樹脂であり、前記合成樹脂接合層がポリエチレン樹脂であることを特徴とする、1乃至4、6のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項8】
前記外カバーは、断熱性を有することを特徴とする、1乃至7のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項9】
前記密封袋体と前記中カバーとの間には、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部と断熱性とを有する内カバーがさらに配設されていることを特徴とする、1乃至8のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載されたマイクロ波加熱用の加温具と、
当該加温具を収納してマイクロ波加熱にも耐える蓋付き耐熱樹脂製容器と、を備えることを特徴とする、マイクロ波加熱用の加温具セット。
【請求項11】
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体に通気部を有するか、蓋と容器本体とが緩く係合するように構成されていることを特徴とする、請求項10に記載の加温具セット。
【請求項12】
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体において容器内の温度を検出・表示するための温度検出表示部を有することを特徴とする、請求項10に記載の加温具セット。
【請求項1】
水を主成分とする含水ゲル状蓄熱材と、
前記含水ゲル状蓄熱材が封入される密封袋体と、
前記密封袋体を覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する中カバーと、
前記中カバーを覆うとともに、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部を有する外カバーと、を備え、
前記密封袋体は、フィルム状又はシート状の合成樹脂ベース体と、前記合成樹脂ベース体の周縁部に介在配置されて前記合成樹脂ベース体同士を接合する合成樹脂接合層と、によって構成され、
前記合成樹脂ベース体は、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱によっても熱変形しない耐熱性を有し、
前記合成樹脂接合層の一部分には、前記含水ゲル状蓄熱材の過熱により、他の通常接合部分よりも熱的に接合強度が劣ってしまう弱接合部分を配設していることを特徴とするマイクロ波加熱用の加温具。
【請求項2】
前記弱接合部分での接合幅は、前記他の通常接合部分での接合幅よりも狭いことを特徴とする、請求項1に記載の加温具。
【請求項3】
前記弱接合部分での接合強度は、前記他の通常接合部分での接合強度よりも低いことを特徴とする、請求項1又は2に記載の加温具。
【請求項4】
前記接合は、熱溶着であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項5】
前記接合は、接着であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項6】
前記弱接合部分は、周囲と縁の切れた周縁部において形成されることを特徴とする、1乃至5のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項7】
前記密封袋体において、前記合成樹脂ベース体がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン又はポリアミド系樹脂であり、前記合成樹脂接合層がポリエチレン樹脂であることを特徴とする、1乃至4、6のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項8】
前記外カバーは、断熱性を有することを特徴とする、1乃至7のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項9】
前記密封袋体と前記中カバーとの間には、気体を通過させるものの前記含水ゲル状蓄熱材の通過を妨げる通気部と断熱性とを有する内カバーがさらに配設されていることを特徴とする、1乃至8のいずれか一つに記載の加温具。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載されたマイクロ波加熱用の加温具と、
当該加温具を収納してマイクロ波加熱にも耐える蓋付き耐熱樹脂製容器と、を備えることを特徴とする、マイクロ波加熱用の加温具セット。
【請求項11】
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体に通気部を有するか、蓋と容器本体とが緩く係合するように構成されていることを特徴とする、請求項10に記載の加温具セット。
【請求項12】
前記耐熱樹脂製容器は、蓋及び/又は容器本体において容器内の温度を検出・表示するための温度検出表示部を有することを特徴とする、請求項10に記載の加温具セット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図14】
【公開番号】特開2013−5937(P2013−5937A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140928(P2011−140928)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(506229741)株式会社タカラ (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(506229741)株式会社タカラ (13)
【Fターム(参考)】
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