説明

マイクロ波加熱用温度分布測定装置およびマイクロ波加熱用温度分布測定方法

【課題】マイクロ波加熱中である被加熱物の温度分布を測定できる測定装置を提供する。
【解決手段】本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置は、
マイクロ波加熱器(10)と、加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過しつつマイクロ波の透過と筐体(11)内のガスの漏出とを遮蔽する観察窓(13)と、被加熱物の温度分布を測定し得る赤外線測定器(20)とからなる。この測定装置によれば、被加熱物と赤外線検出部との間に観察窓を介在させて、マイクロ波加熱器で加熱中の被加熱物の温度分布を赤外線測定器で測定可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波の照射によって加熱された被加熱物の温度分布を測定することができるマイクロ波加熱用温度分布測定装置およびその測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質(被加熱物)を効率的に加熱する方法の一つとして、被加熱物へマイクロ波を照射して加熱するマイクロ波加熱がある。このマイクロ波加熱は、家庭調理等のみならず工業的にも利用され得る。もっとも、マイクロ波加熱はマイクロ波を吸収し易い部分が集中的に加熱される傾向にあるため、均一加熱する場合など、所望した通りに被加熱物を安定的に加熱するには、加熱中の被加熱物の加熱状況(特に温度分布)を的確に把握することが必要となる。
【0003】
ピンポイント的な温度測定をする場合は熱電対や放射温度計などが用いられるが、全体的な温度分布を測定する場合には赤外線サーモグラフィを利用して加熱状況を把握することが考えられる。参考までに、それら各種温度測定に関連した記載のある特許文献を下記に挙げておく。
【特許文献1】特開2002−349867号公報
【特許文献2】特開2007−121238号公報
【特許文献3】特開平5−333073号公報
【特許文献4】特開2005−214632号公報
【特許文献5】特開2006−111351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
もっとも、被加熱物の温度分布を測定する手段として赤外線サーモグラフィは一般的ではあるものの、マイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を赤外線サーモグラフィで測定することはなされていなかった。この理由は次のように考えられる。
【0005】
そもそも赤外線サーモグラフィは、測定対象物が放出する赤外線(赤外線放射エネルギー)を検出し、その検出情報を画像処理等して、対象物全体の温度分布を表示するものである。このため、正確な温度分布を測定する前提として、測定対象物の放出する赤外線を良好に検出することが必要となる。ところが、マイクロ波加熱は、通常、赤外線を透過しない金属製の筐体内に被加熱物を収容して行われる。その筐体の一部に電磁波シールド材付きの覗き窓が設けられる場合でも、その覗き窓にはガラス製またはアクリル樹脂製の板材が取付けらるのが通常である。これらガラスまたはアクリル樹脂は、波長10μm付近に多数の赤外線吸収ピークをもち、赤外線をよく吸収する。しかもその波長域は多用される赤外線サーモグラフィの検出波長域と重なるためため、筐体外にある赤外線サーモグラフィがその覗き窓越しに被加熱物の放出する赤外線を検出することはできなかった。このような理由により、一般的な赤外線サーモグラフィでマイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を測定することは、従来全く行われてこなかったと思われる。
【0006】
いずれにしろ、従来、マイクロ波加熱しながら被加熱物の温度分布を測定すること(In−Situ測定)はなされておらず、せいぜい、上記の特許文献5にもあるように、マイクロ波加熱直後にマイクロ波加熱器の扉を開いて被加熱物の温度分布を赤外線サーモグラフィで測定する程度に過ぎなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、マイクロ波加熱を行いながらも、被加熱物の温度分布を測定できるマイクロ波加熱用温度分布測定装置およびその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、マイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を観察窓越しに赤外線サーモグラフィで測定できる温度分布測定装置を新たに開発し、実際にこれを用いて被加熱物の温度分布を精度良く測定することに成功した。そしてこの成果を発展させることで、本発明者は以降に述べる種々の発明を完成させるに至った。
【0009】
〈マイクロ波加熱用温度分布測定装置〉
(1)本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置は、筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱するマイクロ波加熱器と、該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過しつつ該マイクロ波の透過と該筐体内のガスの漏出とを遮蔽する観察窓と、該被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部を有し該赤外線検出部の検出情報に基づいて該被加熱物の温度分布を測定し得る赤外線測定器とからなり、
前記マイクロ波加熱器で加熱中の被加熱物の温度分布を、該被加熱物と前記赤外線検出部との間に介在させた前記観察窓を通じて、該赤外線測定器で測定可能としたことを特徴とする。
【0010】
(2)本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置(以下、適宜、単に「温度分布測定装置」という。)によれば、直接、観察窓越しにマイクロ波加熱中の被加熱物の温度分布を測定できる。これにより、マイクロ波加熱中の試料温度分布のIn−Situ観測が可能となった。しかも、この温度分布測定装置の観察窓は、照射したマイクロ波の透過を遮蔽しつつ被加熱物から放出される赤外線を透過するのみならず、筐体内のガスの漏出も遮蔽する。このため、温度分布測定時の操作環境が優れることは勿論、筐体内が所望の雰囲気に維持された状態における被加熱物の温度分布の観察や測定が可能となる。具体的にいえば、筐体内で被加熱物を真空雰囲気または特定ガスを充満させたガス雰囲気で加熱する加熱工程(例えば、焼結工程、焼成工程など)を行いつつ、そのときの被加熱物の温度分布を直接的に観察、測定することが可能となる。これにより、加熱された被加熱物の温度分布を単に測定するのみならず、各種の製造工程で行われる加熱工程に関して好適な加熱条件の検出、特定、設定さらには加熱制御等を行うことも、本発明の温度分布測定装置を用いて行うことが可能となる。より具体的には、不均一な加熱状態(加熱ムラ)の原因調査やマイクロ波による均一加熱制御などが可能となる。その結果、製造過程でマイクロ波加熱を用いる場合でも、製品の品質確保が容易となる。
【0011】
このように本発明の温度分布測定装置は、試料(被加熱物)の温度分布をリアルタイムで観察でき、さらには、加熱時の雰囲気制御等を行いつつ、試料温度分布のIn−Situ観測できるという点が従来になく画期的であり、幅広い利用が期待される。しかも、高精度な温度分布測定が可能となるにも拘らず、市販の赤外線測定器を使用できるため、比較的簡易で安価である。
【0012】
〈マイクロ波加熱用温度分布測定方法〉
本発明は、上記の温度分布測定装置としてのみならず、次のような温度分布測定方法としても把握される。この測定方法は、上記の測定装置を用いる場合には限らない。もっとも、上記の測定装置を使用すれば、本発明の測定方法を実質的に使用することになる。
【0013】
本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定方法は、筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱する加熱工程と、
該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過しつつ該マイクロ波の透過と該筐体内のガスの漏出とを遮蔽する観察窓を、該被加熱物と該被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部との間に介在させて、該赤外線検出部の検出情報に基づき前記マイクロ波が照射された加熱中の被加熱物の温度分布を測定する測定工程と、からなることを特徴とする。
【0014】
〈付加的構成〉
本発明のマイクロ波加熱用温度分布測定装置およびその測定方法は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであると好適である。なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。
【0015】
また、下記に示したいずれの構成も、カテゴリーを越えて相互に適宜組合わせ可能である。例えば、一見、測定装置または測定方法の一方にのみに関連するようにみえる構成であっても、他方にも関連し得る。
(i)前記観察窓は、前記マイクロ波の透過を遮蔽しつつ前記加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔遮蔽体と、該多孔遮蔽体に近接して設けられ該被加熱物から放射される赤外線を透過しつつ前記筐体内のガスの流出を封じる封気体とからなる。
(ii)前記封気体は、2〜14μmの波長域における透過率が60%以上である赤外線透過材からなる。
(iii)前記赤外線透過材は、一例として、フッ化カルシウム、サファイアまたはセレン化亜鉛の一種または複数種からなる。
(iv)前記多孔遮蔽体は、前記透過孔となる細孔が多数形成された金属多孔板または金網である。
(v)前記多孔遮蔽体は、特定範囲内の総表面積(St)に対する該特定範囲内にある前記透過孔の総面積(Sd)の割合である開口率(Sd/St x 100%)が40〜80%である。
(vi)前記赤外線測定器は、赤外線サーモグラフィである請求項1または6に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
(vii)前記赤外線サーモグラフィの検出波長は2〜14μmである。
(viii)前記赤外線検出部は、サーモパイル、ボロメータ、InSbまたはPtSiである。
【0016】
〈その他〉
特に断らない限り、本明細書でいう「x〜y」は、下限xおよび上限yを含む。また、本明細書に記載した下限および上限は任意に組合わせて、「a〜b」のような範囲を構成し得ることを断っておく。
また、本発明の測定装置または測定方法により測定される被加熱物は無機物、有機物、金属または金属化合物、無水物、含水物等を問わない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
発明の実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。
なお、以下の実施形態を含め、本明細書で説明する内容は、本発明に係るマイクロ波加熱用温度分布測定装置のみならずその測定方法にも、適宜適用できるものであることを断っておく。また、いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なることを断っておく。
【0018】
(1)マイクロ波加熱器
本明細書でいうマイクロ波は、マイクロ波加熱が可能であれば特に限定されないが、一般的に波長(λm)が10〜1000mmのものである。周波数でいえば、0.3〜30GHzである。
【0019】
マイクロ波の発振には、固体発振器、マグネトロン、クライストロン、ジャイロトロンなどが用いられるが、これもマイクロ波加熱に有効なものならばいずれでもよい。もっとも、一般的にはマグネトロンが用いられる。このようなマイクロ波を用いた加熱装置(マイクロ波加熱器)として、いわゆる電子レンジが代表的ではあるが、家庭用に限らず工業的に大規模のものでもよい。
【0020】
マイクロ波加熱器は、通常マイクロ波を遮蔽する金属製の筐体を備え、その筐体内へ被加熱物を出し入れするための扉を備える。本発明でいう筐体は、必ずしも被加熱物を完全に囲繞または密閉する必要はなく、効率的なマイクロ波加熱が行える限度で、部分的に開放部分があってもよい。もっとも、観察窓が筐体内のガスの漏出を遮蔽できるものであるから、観察窓と筐体とによって密封空間が形成されるものであると好ましいことはいうまでもない。そして、本発明に係る観察窓は、その筐体の一部を加工して形成されてもよいし、その筐体や扉の一部を改良して後付的に形成されてもよい。
【0021】
(2)赤外線測定器
赤外線測定器は、被加熱物が放出する赤外線を検出する赤外線検出部からの検出情報に基づいて被加熱物の温度分布を測定し得るものである。より具体的には、例えば、その赤外線検出部と、その検出情報を画像処理する処理部と、処理部の処理結果を画像表示する表示部とから赤外線測定器はなる。
【0022】
この赤外線測定器はその種類を問わないが、一般的には赤外線サーモグラフィ(適宜「サーモグラフィ」という。)が代表的である。一般的なサーモグラフィは市販されており、比較的安価に入手できる。
【0023】
被加熱物の放出する赤外線の波長は通常0.4〜30μmである。そこでサーモグラフィの検出波長もそれに応じて2〜14μmであればよい。具体的には、例えば、前記赤外線検出部の検出波長(λe)は、2〜5μm(InSb等)、8〜14μm(ボロメータ等)であると好ましい。なお、赤外線検出部は、具体的には、レンズなどを介してInSbまたはボロメータなどにより構成される。
【0024】
(3)観察窓
観察窓は、加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過しつつマイクロ波の透過と筐体内のガスの漏出とを遮蔽するものである。この具体例として、前述した多孔遮蔽体と封気体とを組み合わせた観察窓がある。この観察窓は、マイクロ波加熱器の筐体(扉を含む)を枠体とすると、測定装置が簡素になり好ましい。観察窓の外形状、大きさや厚さなど問わない。例えば、観察窓は円形でも方形でもよい。要するに、マイクロ波の透過および筐体内のガスの漏出を抑止しつつ、被加熱物の温度分布を測定できればよい。
この観察窓は、筐体の窓枠との間でパッキン等を介して気密性が保持されていると好ましい。観察窓が多孔遮蔽体と封気体とからなる場合、金属製の多孔遮蔽体は少なくともその外周部などで金属製の筐体と接触し導通していると、マイクロ波の遮蔽が確実にあり好適である。
【0025】
(i)多孔遮蔽体
多孔遮蔽体の典型は、金網や金属板に多数の開孔を設けた金属多孔板からなる電磁波シールド部材である。マイクロ波を遮蔽する限り、多孔遮蔽体の材質は問わないが、金属特に鉄系材料が安価で好ましい。その他、多孔遮蔽体は銅(または銅合金)製、アルミニウム(アルミニウム合金)製、ニッケル(ニッケル合金)製さらには黄銅製でもよい。
【0026】
このような電磁波シールド部材として、厚さ数mmの金属板に直径数mmの細孔を穿孔したパンチングメタル、展開すると網目状の開孔ができる金網(エキスパンドメタル等)がある。このような電磁波シールド材は多種多様なものが市販されており、安価に入手できる。
【0027】
多孔遮蔽体の厚さの下限は0.1mm、0.3mm、0.5mm、0.7mmさらには1mmが好ましい。その上限は3mm、2mm、1.5mmさらには1.2mmが好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、その厚さが0.5〜2mmであると好ましい。
多孔遮蔽体の厚さが過小では、マイクロ波の漏洩が過大となり好ましくない。その厚さが過大では、被加熱物から放出された赤外線がサーモグラフィ等の赤外線検出部に正確に到達し辛くなり、測定温度に誤差が生じ易くなる。なお、多孔遮蔽体は、薄くなりその強度や剛性が低下しても、封気体で補強されるのであまり問題はない。
【0028】
例えば、マイクロ波の周波数:2.45GHz(波長:122mm)の場合であれば、透過孔の孔径の下限は0.5mm、0.7mm、1mm、1.2mmさらには1.5mmが好ましい。孔径の上限は3.5mm、3mm、2.5mmさらには2.0mmが好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、孔径が1〜2.5mmであると好ましい。
孔径が過小の場合、赤外線が透過し難くなる。孔径が過大の場合、マイクロ波の波長にも依るが、マイクロ波の漏洩が過大となり好ましくない。
【0029】
多孔遮蔽体の特定範囲内の総表面積(St)に対する、その特定範囲内にある透過孔の総面積(Sd)の割合である開口率(Sd/St x 100%)は、下限が35%、40%、50%、60%さらには65%であると好ましい。また、その上限が85%、80%以下、75%さらには70%であると好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、開口率が40〜80%であると好ましい。
【0030】
多孔遮蔽体の開口率が過小では被加熱物の放出する赤外線の相対強度が低下し、赤外線検出部が十分に検出できず、温度誤差が大きくなり得る。一方、開口率が過大になると、多孔遮蔽体の剛性や強度などが不足する他、また、マイクロ波の漏洩も大きくなり好ましくない。
【0031】
本発明者がマイクロ波の波長と多孔遮蔽体の透過孔の大きさ(孔径)との関係を調査したところ、マイクロ波の波長(λm:mm)に対する多孔遮蔽体の透過孔の平均径(d:mm)の割合である開口径比(d/λm)は、下限が1/300さらには1/120であると好ましい。その上限は1/40さらには1/50であると好ましい。これら上限および下限は任意に組合せ可能であり、例えば、開口径比が1/120〜1/50であると好ましい。この場合も、開口径比が過小では透過する赤外線の強度が低下し、開口径比が過大ではマイクロ波の漏洩が大きくなり好ましくない。
【0032】
なお、透過孔の孔形状は円形である必要はなく、正方形、長方形、星形、台形など多様な形状が考えられる。これはエキスパンドメタル等でも同じである。なお、孔形状が円形でない場合、開孔面積から換算した孔径(換算孔径)に対して、上記孔径の上下限が適用される。
【0033】
(ii)封気体
封気体は、多孔遮蔽体に近接して設けられ被加熱物から放射される赤外線を透過すると共にガスの流出を封じるものである。この封気体は、多孔遮蔽体からのガスの漏洩を阻止できれば足る。つまり、少なくとも本発明では、封気体が設けられる範囲で気流が阻害されれば足る。もっとも、前述したように筐体内の雰囲気を制御しつつマイクロ波加熱器等を行う上で、封気体は筐体の全体構造と協調して、筐体内が気密に保持され得るものであると好ましい。
封気体は、そのようなものである限り、形態(外形、大きさ、厚さ、透明性、色彩等)は問わない。多孔遮蔽体と封気体との配置も自由である。例えば、多孔遮蔽体が筐体内側で封気体が筐体外側の場合でも、その逆でもよい。さらには、多孔遮蔽体の両面側に封気体が設けられてもよい。いずれにしても、多孔遮蔽体と封気体は基本的には別部材であるから、観察窓はそれらを接合、結合、貼合せ等したものとなる。
【0034】
勿論、製造上は両者を一体的に複合化したものでも良い。例えば、封気体が多孔遮蔽体の全面を覆っている場合の他、封気体を構成する赤外線透過材が多孔遮蔽体の個々の透過孔に一体的または個別的に充填または埋設されたものでも良い。いずれにしても、封気体と多孔遮蔽体とが協調して、マイクロ波の遮蔽と、赤外線の透過および気流の阻止を行うものであれば、観察窓として足る。
【0035】
封気体を構成する赤外線透過材としては、例えば、サファイア(Al2O3)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化リチウム(LiF)がある。これらの赤外線透過材の透過波長域は、主に2〜5μmである。この他の赤外線透過材としては、例えば、セレン化亜鉛(ZnSe)、イオウ化亜鉛(ZnS)、フッ化バリウム(BaF2)などがある。これらの赤外線透過材の透過波長域は、主に8〜14μmまたは2〜5μmである。いずれの赤外線透過材を使用するかは、前述した赤外線サーモグラフィの赤外線の検出波長(λe)、例えば、2〜5μm(InSb等)または8〜14μm(ボロメータ等)に応じて選択すればよい。勿論、逆に、赤外線透過材の透過波長に合わせて、それに応じた検出波長をもつ赤外線サーモグラフィを使用するようにしてもよい。さらに例示した上記の赤外線透過材以外にも、表面に反射防止膜(AR)をコートGeまたはSiからなる板材を利用可能である。Ge板の両側にARコートした場合、透過波長域:8〜14μmで透過率が80〜95%となる。Si板の両側にARコートした場合、透過波長域:8〜14μmで透過率が65〜90%となる。いずれの場合にも、ARコートすることで赤外線透過率が向上し得る。
【0036】
また、赤外線測定器で検出可能な波長の赤外線を透過する限り、赤外線透過材は単種でもそれらを組み合わせた複数種でも良い。
いずれの赤外線透過材を使用するにしても、一般的に用いられる赤外線サーモグラフィの検出波長の範囲(2〜14μm、特に、2〜5μmまたは8〜14μm)内で、赤外線の透過率の高いものを選択するとよい。具体的には、赤外線の透過率が60%以上、70%以上、72%以上、80%以上さらには85%以上となるものを選択するとよい。透過率が過小であると、補正量が多くなり試料の温度分布を高精度で測定することが困難となる。勿論、透過率が高いほど好ましいが、そのような赤外線透過材の探索やコスト、測定精度などを考慮すると、過大な透過率は必ずしも必要ではない。
【実施例】
【0037】
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
〈マイクロ波加熱用温度分布測定装置〉
(1)本発明の一実施例であるマイクロ波加熱用温度分布測定装置(以下単に「測定装置」という。)を図1に示す。この測定装置1は、電磁波であるマイクロ波を発生させるマグネトロンを備えたマイクロ波加熱器10と、このマイクロ波加熱器10により加熱される試料Sの温度分布を測定する非冷却型の赤外線サーモグラフィ20(赤外線測定器)とからなる。
【0038】
マイクロ波加熱器10は、軟鉄製鋼板からなる直方体状の筐体11と、その筐体11の一面側に取り付けられた開閉式の扉12と、扉12に対向して設けられた観察窓13とからなる。扉12も軟鉄製鋼板からなる。なお、この扉12は、後述する図4に示す従来のマイクロ波加熱器110の扉112と同様に、覗き窓113を兼ね備えるものでも良い。
本実施例の観察窓13は、図2に示すように、筐体11の一部に嵌め込まれる、パンチングメタルからなる電磁シールド板30(多孔遮蔽体)と、その片面側(筐体11の外面側)に設けられた赤外線透過材からなる赤外線透過板40(封気体)とからなる。電磁シールド板30と赤外線透過板40とは、機械的に接触させつつ、赤外線透過板40の外周囲に気密性保持用のシール材を介在させて、筐体11にネジでとも締めされる。
電磁シールド板30は、図3に示すように、軟鉄製鋼板からなる金属板31に多数の開孔32(透過孔)をパンチングして穿孔したものである。その諸元は、130x250mmの略長方形状で厚さ0.5mm、金属板31に穿孔した開孔32の開孔径はφ1.5mm、開口率は60%とした。
赤外線透過板40は、フッ化カルシウムからなる板厚2mmの透明板であって、その透過率は92%である。
【0039】
本実施例で用いたマイクロ波加熱器10の仕様は、照射されるマイクロ波の周波数:2.45GHz(波長:λm=122mm)、出力:200〜750Wとした。
【0040】
赤外線サーモグラフィ20(以下単に「サーモグラフィ20」という。)は、赤外線をレンズを介して検出する赤外線検出部21と、その赤外線検出部21から検出された検出情報に基づき画像処理をして被加熱物の温度分布を画像表示する表示部22とからなる。本実施例のサーモグラフィ20には、市販されている赤外線サーモグラフィ(日本アビオニクス社製)を用いた。このサーモグラフィ20の赤外線の検出波長(λe)は2〜5μmである。
【0041】
(2)上記実施例に対する比較例となる従来のマイクロ波加熱用温度分布測定装置を図4に示す。この測定装置100も、マイクロ波加熱器110とサーモグラフィ20とからなる点は上記実施例の測定装置1と同様である。しかし、マイクロ波加熱器110の筐体111および扉112の構造が異なる。マイクロ波加熱器100では、市販の電子レンジなどと同様に扉112に覗き窓113が設けられている。
【0042】
この覗き窓113は電磁シールド板130の両側が透明な耐熱ガラス140によって挟持され補強された構造となっている。この電磁シールド板130には、上記の電磁シールド板30と同じものを用いた。耐熱ガラス140には、板厚1.5mmのホウケイ酸ガラスを用いた。なお、耐熱ガラス140は、通常のガラスや樹脂と同様に、波長10μm付近に多数の赤外吸収ピークを有する。
【0043】
〈マイクロ波加熱用温度分布測定方法〉
マイクロ波加熱器の筐体(11または111)の中央に試料Sを置き、セラミックス(酸化亜鉛焼成体(純度100%)からなる8個の試料(8x16mm)を等間隔に置き、筐体外からサーモグラフィ20を用いて各試料の温度分布を測定した。各試料からサーモグラフィ20までの測定距離は約30cmとした。
これらの試料Sへ出力500Wのマイクロ波を30秒間照射してマイクロ波加熱を行った。
【0044】
〈評価1〉
(1)先ず、比較例の測定装置100を用いて、覗き窓113越しに加熱された試料Sの温度分布をサーモグラフィ20で測定したところ、赤外線が全く検出されず、サーモグラフィ20による試料Sの温度分布測定はできなかった。
【0045】
次に、比較例のマイクロ波加熱器110を用いて加熱した直後(加熱終了後1秒以内)に、マイクロ波加熱器110の扉112を開放して、試料Sの温度分布を直接的にサーモグラフィ20で測定した。このときも、試料Sとサーモグラフィ20の赤外線検出部21との距離は30cmとした。これにより得られた温度分布の測定画像を図5に示す。図5から明らかなように、左右の試料が高温で中央右部分が低温の温度分布を示すことが確認された。
【0046】
(2)実施例である測定装置1を用いて同様に測定した結果を図6に示す。図6から明らかなように、本実施例によれば、観察窓13越しの測定であっても、サーモグラフィ20により、試料Sの温度分布を同様に測定できることが確認された。しかも、この測定結果は、絶対的なピーク値こそ異なるものの、扉112を開いて観察した場合(図5の場合)と同様な温度分布を示した。
【0047】
〈評価2〉
(1)赤外線透過材を前述したフッ化カルシウムから、サファイア(赤外線透過率83%、サーモグラフィの検出波長2〜5μm)、セレン化亜鉛(赤外線透過率72%、検出波長8〜14μm)またはゲルマニウム(赤外線透過率50%、検出波長8〜14μm)に変えた赤外線透過板40を用いて、上述の測定と同様な測定を行った。さらに、赤外線透過板40を石英ガラス板(検出波長8〜14μm)にも変更して同様な測定を行った。なお、赤外線透過板40の材質変更に応じて、検出波長が2〜5μmのサーモグラフィ以外に、検出波長が8〜14μmのサーモグラフィをも適宜使用した。
こうして得られた温度分布の測定結果を図7にまとめて示した。なお、図7中の「実温度」は、測定装置1でマイクロ波加熱した直後に扉12を開放して、試料Sの温度分布を直接に測定したものである。また、図7中の試料No.1〜8は、図5および図6に写っている各試料を左側から数えた順番にそれぞれ対応する。
【0048】
図7から次のことが分かる。先ず、封気体を石英ガラス(赤外線透過率:0%)とした場合、測定装置100でホウケイ酸ガラスを用いた場合と同様に、筐体内の試料の温度分布を全く測定できなかった。次に、ゲルマニウム(赤外線透過率:50%)を用いた場合は、実温度と似た傾向の温度分布も一部観察されたが、全体的な観測は困難であった。フッ化カルシウム(赤外線透過率:92%)、サファイア(赤外線透過率:83%)およびセレン化亜鉛(赤外線透過率:72%)を用いた場合は、それらの透過率に応じて実温度よりは低くなるものの、実温度の温度分布と全体的な傾向は近似していた。
これらの結果から赤外線透過率60%以上さらに好ましくは72%以上のガラス材料を用いることで、全体的な傾向として、測定された温度分布を実温度の温度分布に近似させることができることがわかる。
【0049】
〈補足〉
(1)上述したような温度分布の測定結果は、筐体内の雰囲気を窒素ガス等を充填した場合または真空とした場合等であっても同様であった。
(2)上述の測定装置1でマイクロ波加熱したときのマイクロ波の漏洩は、実施例および比較例ともに0.1mW/cm2 以下であった。
(3)測定装置100の覗き窓113の耐熱ガラスを透明な耐熱樹脂材(ポリメチルペンテン、ポリザルフォンなど)に替えて同様な測定を行ったが、やはりその覗き窓113越しには試料Sから放出された赤外線が全く検出されず、温度分布を測定することはできなかった。
【0050】
(4)なお、上述した測定では、マイクロ波加熱の終了から30秒経過した後の試料Sの温度分布を測定したが、当然、本実施例によれば加熱途中の試料Sの温度分布も測定できることはいうまでもない。すなわち、本発明に係る測定装置を用いれば、これまで困難であった、いわゆるIn−Situ測定をマイクロ波加熱中でも容易に行える。このように本発明を用いれば、単に被加熱物の温度分布をリアルタイムで測定できるにとどまらず、そのリアルタイムな測定情報に基づいて、高精度なマイクロ波の加熱制御等を比較的容易に行い得る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るマイクロ波加熱用温度分布測定装置を示す概要図である。
【図2】その測定装置で用いた観察窓の構成図である。
【図3】その測定装置で用いた電磁シールド板の拡大図である。
【図4】従来のマイクロ波加熱用温度分布測定装置を示す概要図である。
【図5】マイクロ波加熱後に開扉して測定した温度分布を示す赤外線サーモグラフィの画像図である。
【図6】本発明に係るマイクロ波加熱用温度分布測定装置を用いて測定した温度分布を示す赤外線サーモグラフィの画像図である。
【図7】種々の観察窓を介して測定したそれぞれの温度分布を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1 マイクロ波加熱用温度分布測定装置(実施例)
10 マイクロ波加熱器
13 観察窓
20 赤外線サーモグラフィ
30 電磁シールド板(多孔遮蔽体)
32 開孔(透過孔)
40 赤外線透過板 (封気体)
100 マイクロ波加熱用温度分布測定装置(比較例)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱するマイクロ波加熱器と、
該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過しつつ該マイクロ波の透過と該筐体内のガスの漏出とを遮蔽する観察窓と、
該被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部を有し該赤外線検出部の検出情報に基づいて該被加熱物の温度分布を測定し得る赤外線測定器とからなり、
前記マイクロ波加熱器で加熱中の被加熱物の温度分布を、該被加熱物と前記赤外線検出部との間に介在させた前記観察窓を通じて、該赤外線測定器で測定可能としたことを特徴とするマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項2】
前記観察窓は、前記マイクロ波の透過を遮蔽しつつ前記加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過する透過孔を複数有する多孔遮蔽体と、
該多孔遮蔽体に近接して設けられ該被加熱物から放射される赤外線を透過しつつ前記筐体内のガスの流出を封じる封気体とからなる請求項1に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項3】
前記封気体は、2〜14μmの波長域における透過率が60%以上である赤外線透過材からなる請求項2に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項4】
前記赤外線透過材は、フッ化カルシウム、サファイアまたはセレン化亜鉛の一種または複数種からなる請求項2または3に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項5】
前記多孔遮蔽体は、前記透過孔となる細孔が多数形成された金属多孔板または金網である請求項2または4に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項6】
前記多孔遮蔽体は、特定範囲内の総表面積(St)に対する該特定範囲内にある前記透過孔の総面積(Sd)の割合である開口率(Sd/St x 100%)が40〜80%である請求項2または5に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項7】
前記赤外線測定器は、検出波長が2〜14μmの赤外線サーモグラフィである請求項1または6に記載のマイクロ波加熱用温度分布測定装置。
【請求項8】
筐体内に収容した被加熱物に波長(λm)が10〜1000mmの電磁波であるマイクロ波を照射して該被加熱物を加熱する加熱工程と、
該加熱された被加熱物から放射される赤外線を透過しつつ該マイクロ波の透過と該筐体内のガスの漏出とを遮蔽する観察窓を、該被加熱物と該被加熱物から放射された赤外線を検出する赤外線検出部との間に介在させて、該赤外線検出部の検出情報に基づき前記マイクロ波が照射された加熱中の被加熱物の温度分布を測定する測定工程と、
からなることを特徴とするマイクロ波加熱用温度分布測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−236888(P2009−236888A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87004(P2008−87004)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】