説明

マイクロ波加熱装置

【課題】テーブル、アンテナ、位相器の回転機構などを用いない簡易的な構造で被加熱物を効率良く、均一に加熱すること。
【解決手段】Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管106に複数のマイクロ波放射部を設け、加熱室103下部の広い範囲にマイクロ波放射部108を配置した状態で、加熱室103内に載置された被加熱物102にマイクロ波を放射することで、回転機構を用いることなく被加熱物102を均一に加熱することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ等のマイクロ波加熱装置に関し、特にマイクロ波放射部の構造に特徴を有するマイクロ波加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波により被加熱物を加熱処理するマイクロ波加熱装置の代表的な装置としては、電子レンジがある。電子レンジにおいては、マイクロ波供給手段において発生したマイクロ波が金属製の加熱室の内部に放射され、加熱室内部の被加熱物が放射されたマイクロ波により加熱処理される。
【0003】
従来の電子レンジにおけるマイクロ波供給手段としては、マグネトロンが用いられている。マグネトロンにより生成されたマイクロ波は、導波管を介して加熱室内部に放射される。加熱室内部におけるマイクロ波の電磁界分布が不均一であると、被加熱物を均一にマイクロ波加熱することができない。
【0004】
被加熱物を均一に加熱する手段として、被加熱物を載置するテーブルを回転させて被加熱物を回転させる構造、被加熱物を固定してマイクロ波を放射するアンテナを回転させる構造、または位相器によってマイクロ波供給手段から発生するマイクロ波の位相を変化させる構造を有するマイクロ波加熱装置が一般的であった。
【0005】
例えば、従来のマイクロ波加熱装置では、導波管内部に回転アンテナ、アンテナシャフトなどが配置されており、アンテナモータによって回転アンテナを回転させながらマグネトロンを駆動することで、加熱室内のマイクロ波分布の不均一さを低減している。
【0006】
また、特許文献1に記載されているように、マグネトロンの上部に回転可能なアンテナを設け、該回転アンテナの羽根に送風ファンからの冷却風をあてることにより、該送風ファンの風力でアンテナを回転させ、加熱室内のマイクロ波分布を変化させているマイクロ波加熱装置が提案されている。
【0007】
一方、マイクロ波加熱による被加熱物の不均一加熱の低減と共にコストダウンおよび給電部の省スペース化を図った特許文献2に記載されているように、円偏波を加熱室内部に放射する単一のマイクロ波放射部を有したマイクロ波加熱装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭62−64093号公報
【特許文献2】米国特許第4301347号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記従来の構成の電子レンジのようなマイクロ波加熱装置では、なるべく簡易的な構造で、被加熱物を効率良く、ムラ無く加熱することが求められているが、これまで提案されていた構造では種々の問題があった。
【0010】
また、マイクロ波加熱装置、特に電子レンジは、高出力化の技術開発が進み、国内では定格高周波出力1000Wが商品化されている。電子レンジは、熱伝導によって食品を加熱するのではなく、誘電加熱を用いて直接食品を加熱できる利便性が商品の大きな特徴で
あるが、不均一加熱が未解決の中での高出力化は不均一加熱の問題をより顕在化させることになる。
【0011】
従来のマイクロ波加熱装置が抱える構造上の問題としては、下記の2点のことが挙げられる。1点目は、不均一加熱を低減するためにテーブルまたはアンテナを回転させる機構を必要としており、このため回転スペースおよびテーブルまたはアンテナを回転させるモータなどの設置スペースを確保しなければならず、電子レンジの小型化を阻害していたことである。
【0012】
2点目は、テーブルまたはアンテナを安定的に回転させるために、該回転アンテナを加熱室の上部又は下部に設ける必要があり、構造が制限されていたことである。
【0013】
マイクロ波加熱装置におけるマイクロ波照射室内にテーブルまたは位相器の回転機構などを設置することは信頼性を下げる。よって、これら機構を不要とするマイクロ波加熱装置が要求されている。
【0014】
また、マイクロ波加熱による被加熱物の不均一加熱の低減と共に、コストダウンおよび給電部の省スペース化を図った特許文献2に記載されているような、円偏波を加熱室内部に放射する単一のマイクロ波放射部を有したマイクロ波加熱装置については、回転機構を有していないという利点はあるが、マイクロ波加熱による十分な均一加熱が実現されていないことが課題である。
【0015】
本発明は前記課題を解決するものであり、回転機構を用いないで、被加熱物を均一にマイクロ波加熱させることができるマイクロ波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記従来の課題を解決するために、Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管に複数のマイクロ波放射部を設けることにより、加熱室底面の広い範囲にマイクロ波放射部を配置した状態で、加熱室内に載置された被加熱物のマイクロ波加熱を行うことが可能となる。この構成によれば、マイクロ波を複数箇所の広い範囲に分散させた開口から放射することとなり、回転機構を用いることなく被加熱物を均一にマイクロ波加熱することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0017】
また、Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管の終端処理部が、導波管内のマイクロ波を固定端反射し定在波を発生させるための反射構成を備え、定在波の腹もしくは節が加熱室のマイクロ波伝送方向における略中央に配置されることで、定在波の状態を加熱室中心に対して対称とすることができ、マイクロ波放射部から対称性を備えたマイクロ波放射を行うことが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0018】
また、Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管の終端処理部が、導波管内を通るマイクロ波を前記加熱室に導くための加熱室入力部を備え、導波管内を伝送するマイクロ波を、定在波の少ない進行波とした状態で、導波管に設けたマイクロ波放射部によりマイクロ波を加熱室内に放射して被加熱物の加熱を行うことにより、放射量が変化するマイクロ波を複数箇所に分散させた開口から放射することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0019】
また、マイクロ波放射部が前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管に設けた開口からなり、マイクロ波放射部の開口面積を、前記マイクロ波供給手段からの伝送距離が遠くなるに従って大きくすることにより、マイクロ波放射部からのマイクロ波放射量を均等化することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0020】
また、マイクロ波放射部が円偏波を放射する形状とすることで、均一加熱範囲をより広くすることができる。
【0021】
また、マイクロ波放射部を加熱室中心に対し略対称に複数個配置されているマイクロ波加熱装置とすることで、加熱室内にある被加熱物への放射量を対称とし均一にマイクロ波放射を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管に複数のマイクロ波放射部を設けることにより、加熱室底面の広い範囲にマイクロ波放射部を配置した状態で、加熱室内に載置された被加熱物のマイクロ波加熱を行うことが可能となる。この構成によれば、マイクロ波を複数箇所の広い範囲に分散させた開口から放射することとなり、回転機構を用いることなく被加熱物を均一にマイクロ波加熱することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の上面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の断面図
【図3】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の斜視図
【図4】本発明の実施の形態1におけるHコーナーを備えた導波管の斜視図
【図5】本発明の実施の形態1におけるマイクロ波放射部配置を説明する説明図
【図6】本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置の上面図
【図7】本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置の断面図
【図8】本発明の実施の形態2におけるマイクロ波放射部配置を説明するための模式図
【図9】本発明の実施の形態3におけるマイクロ波放射部配置を説明するための模式図
【図10】本発明の実施の形態4におけるマイクロ波放射部配置を説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の発明は、被加熱物を入れる加熱室と、前記被加熱物を載置する載置部と、前記加熱室にマイクロ波を供給するためのマイクロ波供給手段と、前記マイクロ波供給手段から供給されるマイクロ波を前記加熱室へ伝送するためのHコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管と、前記導波管の終端処理部と、前記導波管内を通るマイクロ波を前記加熱室内の前記被加熱物へ放射するために前記マイクロ波供給手段と前記Hコーナーとの間および前記Hコーナーと前記終端処理部との間に複数のマイクロ波放射部を備えたマイクロ波加熱装置とすることにより、加熱室底面の広い範囲に複数のマイクロ波放射部を分散配置した状態でマイクロ波を放射することができ、回転機構を用いることなく被加熱物を均一にマイクロ波加熱することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0025】
第2の発明は、特に、第1の発明において、前記終端処理部が、前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管内のマイクロ波を固定端反射し定在波を発生させるための反射構成を備え、前記定在波の腹もしくは節が前記加熱室のマイクロ波伝送方向における略中央に配置されるマイクロ波加熱装置とすることにより、定在波を加熱室中心に対し対称に配置することができ、マイクロ波放射部から対称性を備えたマイクロ波放射を行うことが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0026】
第3の発明は、特に、第1の発明において、前記終端処理部が、前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管の終端において前記導波管内を通るマイクロ波を前記加熱室に導くための加熱室入力部を備えているマイクロ波加熱装置とすることにより、導波管内を伝送するマイクロ波を、定在波の少ない進行波とした状態で、導波管に設けたマイクロ波放射部によりマイクロ波を加熱室内に放射して被加熱物の加熱を行うことにより、放射量が変化するマイクロ波を複数箇所に分散させた開口から放射することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0027】
第4の発明は、特に、第3の発明において、前記マイクロ波放射部が前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管に設けた開口からなり、前記マイクロ波放射部の開口面積を、前記マイクロ波供給手段からの伝送距離が遠くなるに従って大きくすることにより、マイクロ波放射部からのマイクロ波放射量を均等化するマイクロ波加熱装置とすることにより、マイクロ波放射部からのマイクロ波放射量を均等化することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0028】
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明において、前記マイクロ波放射部が円偏波を放射する構成であるマイクロ波加熱装置とすることにより、均一加熱範囲をより広くすることができる。
【0029】
第6の発明は、特に、第1〜5のいずれか1つの発明において、前記マイクロ波放射部が前記加熱室中心に対し略対称に配置されるマイクロ波加熱装置とすることにより、加熱室内にある被加熱物への放射量を対称とし均一にマイクロ波放射を行うことができる。
【0030】
以下、本発明に係るマイクロ波加熱装置の好適な実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態のマイクロ波加熱装置においては電子レンジについて説明するが、電子レンジは例示であり、本発明のマイクロ波加熱装置は電子レンジに限定されるものではなく、誘電加熱を利用した加熱装置、生ゴミ処理機、あるいは半導体製造装置などのマイクロ波加熱装置を含むものである。また、本発明は、以下の実施の形態の具体的な構成に限定されるものではなく、同様の技術的思想に基づく構成が本発明に含まれる。
【0031】
(実施の形態1)
図1および図2は、本発明の実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の上面図および断面図である。図1、図2において、101は筐体、102は被加熱物、103は加熱室、104は載置部、105はマイクロ波供給手段、106は導波管、107は終端処理部、108はマイクロ波放射部、109はHコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)である。なお、載置部104にはガラス板、マイクロ波供給手段105にはマグネトロン、導波管106にはHコーナーを備えた方形導波管、終端処理部107にはマイクロ波を反射するための反射構成、マイクロ波放射部108には導波管106に設けた開口部を用いることでこの構成を容易に実現できる。
【0032】
図3は実施の形態1におけるマイクロ波加熱装置の斜視図である。図3において301は被加熱物102を加熱室103へ出し入れするための扉である。
【0033】
図4はHコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管106の概略斜視図、図5(a)は終端処理部107付近の導波管106の側面図、図5(b)は導波管上面のマイクロ波放射部の概略図、図5(c)はマイクロ波供給手段105とHコーナー109の間にあるマイクロ波放射部108付近における導波管106の側面図である。ここでは、マイクロ波放射部108を導波管106上部に設けた開口とし、導波管106内に存在するマイクロ波を加熱室103へ放射する構成として説明を行う。
【0034】
まず、マイクロ波加熱装置の概略動作の説明を行う。使用者により加熱室103内の載置部104上に被加熱物102が置かれ、加熱開始指示が行われると、マイクロ波加熱装置は、マイクロ波供給手段105であるマグネトロンから導波管106内にマイクロ波を供給し、マイクロ波反射構成をなす終端処理部107で反射させることで図5(b)に示すように加熱室103下の導波管106内にマイクロ波の定在波を形成する。ここでマイクロ波供給源として形成された定在波からマイクロ波放射部108により、加熱室103内にマイクロ波を放射することで、マイクロ波加熱装置は被加熱物102の加熱を行う。
【0035】
次にマイクロ波加熱装置における定在波の在り方の説明を行う。図4に示すような終端処理部107を備えた導波管106をマイクロ波が伝送する場合、導波管106内には定在波502が形成される。導波管106は終端処理部107で閉じられているため、図5(a)に示すように、終端処理部107における振幅は0に固定される。マイクロ波供給手段105の供給側は、マイクロ波を供給する発振元であるため、振幅最大値を示す自由端となる。導波管106内に発生する定在波の波長は、マイクロ波供給手段105から終端処理部107までの導波管106内の伝送距離をcとすると、定在波モードを示す自然数sを用いて、下記の数式1により簡易的に演算することができる。
【0036】
【数1】

【0037】
ここで導波管106内に存在する定在波は、マイクロ波供給手段105が供給する発振周波数が基になった波である。したがって、導波管106内に存在する定在波数は、導波管106内を伝送する波が呈する状態をとるのが自然な在り方であり、最も存在し易い状態となる。導波管106内を伝送する波の管内波長λgは、マイクロ波供給手段105の波長をλ(λ=(光速)/(発振周波数))、導波管106の遮断波長をλc(λc=2×a:aは導波管幅)、下記の数式2のように表される。
【0038】
【数2】

【0039】
マイクロ波供給手段105の発振周波数が2.46[GHz]、図4に示している導波管106の幅aが例えば100[mm]である場合、上記数式2に代入すると管内波長λg=153.86[mm]となる。したがって、数式1を用いて得られる定在波波長が数式2で得られるλgに等しくなるように伝送距離cを設定すれば、安定した定在波を存在させることができるため、終端処理部107を用いたマイクロ波加熱装置を安定して動作させることが可能になる。
【0040】
例えば、図5に示すような、加熱室103に対して1回屈曲する形態のHコーナー109を備えた導波管106を用いて均一加熱を実現する場合は、まず発生させる定在波の配置を検討する。定在波は様々な状態に設定することが可能だが、一例として数式1における定在波モードを示す自然数sとしてs=13(定在波の波数12と、マイクロ波供給手段105が呈する自由端を1として合計した数値)を設定する。ここで、定在波12個の内訳としては、図5(a)に示している終端処理部107からHコーナー109の間に存在するマイクロ波放射部108の数と同数の定在波3個、Hコーナー109内に定在波3個、図5(c)に示しているHコーナー109からマイクロ波供給手段105の間のマイ
クロ波放射部108に対応する定在波3個、図5(c)に示す定在波からマイクロ波供給手段105までの間の定在波3個として設定している。この状態を実現するための伝送路長さcは数式1を変形して得られる下記数式3により計算される。
【0041】
【数3】

【0042】
すなわち上記数式3において、s=13およびλ≒λg=153.86[mm]を代入することで、Hコーナーを備えた導波管106の伝送路長さc≒961.6[mm]を得ることができる。ここで得られた長さの伝送路を設定し、導波管内のマイクロ波を固定端反射し定在波502を発生させるための反射構成を備えた終端処理部107を用いることで、マイクロ波放射部108の下に状態の揃った安定した定在波を存在させることが可能となる。
【0043】
ここで、図5(a)、図5(c)に示しているように、導波管内定在波腹位置501を加熱室中心線503と同位置に配置するようにすれば、マイクロ波放射部108の下に存在する状態の揃った安定した定在波を発生源としたマイクロ波を放射することができるため、加熱室中央に対し対称かつ均質なマイクロ波放射を行うことが可能となる。
【0044】
以上のように、本実施の形態においては、Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管106の終端処理部107が、導波管106内のマイクロ波を固定端反射し定在波502を発生させるための反射構成を備え、定在波502の腹もしくは節が加熱室103のマイクロ波伝送方向における略中央に配置されることで、定在波502の状態を加熱室中心に対して対称とすることができ、マイクロ波放射部108から対称性を備えたマイクロ波放射を行うことが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0045】
なお、本実施の形態においては、定在波502の腹を加熱室中心線503と重ねる場合について説明を行ったが、定在波502の節を加熱室中心線503と重ねても対称性を得ることができることは明らかである。
【0046】
(実施の形態2)
図6および図7は、本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置の上面図および断面図である。図8は、本発明の実施の形態2におけるマイクロ波加熱装置におけるマイクロ波放射部の配置を説明するための模式図である。以下、その動作、作用を説明する。
【0047】
図6、図7において実施の形態1と異なるのは、図1の終端処理部107が、導波管終端において伝送するマイクロ波を全て加熱室103へ入力するための終端処理部601として加熱室方向反射構成602と加熱室入力用開口603から構成されている点である。ここで終端処理部601を、導波管106終端に面取り構成を設けて導波管106を進行する波を反射させる加熱室方向反射構成602と、加熱室方向に反射したマイクロ波を加熱室103に入力するための加熱室入力用開口603として機能させることにより、この構成を容易に実現できる。
【0048】
なお、図面において、実施の形態1と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、実施の形態2における基本的な動作は実施の形態1と同様である。
【0049】
マイクロ波供給手段105から供給され導波管106内を進行するマイクロ波は、終端処理部601を構成する加熱室方向反射構成602により加熱室103に向かうよう方向
を変えられ、加熱室入力用開口603を通して加熱室103へ導かれる。この状態でマイクロ波放射部108からの放射量を大きくとり、加熱室入力用開口603から入力されるマイクロ波よりもマイクロ波放射部108から放射されるマイクロ波総量を充分に大きくする(例えば9割以上)となるように設定することで、被加熱物102の加熱に用いるマイクロ波量を多く確保することができると同時に進行波801を支配的な状態とすることができる。
【0050】
このように導波管106を伝送するマイクロ波を進行波状態とすると、図8において点線で示しているように進行波801はマイクロ波放射部108の下において様々な位相・振幅を示すため、マイクロ波放射部108から加熱室103へ放射され、被加熱物102を加熱するマイクロ波は、放射元となる進行波801の振幅変化に従い放射量を変化させつつ、複数の開口に分散されて放射されることとなる。これにより、被加熱物102の加熱を行う際に、一部のみに加熱が集中する状態の発生を防止し、加熱におけるムラを低減することができる。
【0051】
ここで、導波管106内を伝送するマイクロ波が進行波として存在する場合、マイクロ波放射部108から放射されるマイクロ波は、マイクロ波放射部108が同一形状・同一面積の開口である場合、進行波の伝送量に対して一定の割合のマイクロ波が放射される特性を持つ。すなわち、マイクロ波放射部108が同一形状・同一面積の開口である場合、マイクロ波供給手段105からHコーナー109を通過して終端処理部601へ至る間に、マイクロ波放射部108を通過する度にマイクロ波放射部108から放射されるマイクロ波放射量は少なくなってしまう。したがって、マイクロ波放射部108から放射されるマイクロ波放射量を均等化するためには、マイクロ波放射部108の開口面積を、マイクロ波供給手段105からの伝送距離が遠くなるに従って大きくすることにより、マイクロ波放射部108からの放射量を調節することが必要となる。
【0052】
以上のように、本実施の形態においては、導波管106内を伝送するマイクロ波を、定在波の少ない進行波とした状態で、導波管106に設けたマイクロ波放射部108によりマイクロ波を加熱室103内に放射して被加熱物の加熱を行うことにより、放射量が変化するマイクロ波を複数箇所に分散させた開口から放射することが可能なマイクロ波加熱装置を提供することができる。また、マイクロ波放射部108の開口面積を、マイクロ波供給手段105からの伝送距離が遠くなるに従って大きくすることにより、マイクロ波放射部108からのマイクロ波放射量を均等化するマイクロ波加熱装置を提供することができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、マイクロ波を進行波が支配的な状態とする終端処理部601として、導波管106と同じ面に配置してコンパクトに構成できる構成として説明を行ったが、反射を抑える入力形状であれば何でもよく、この形状に限定されるものではない。例えば、より円滑に加熱室へマイクロ波を入力できるように、導波管106から加熱室103に向かって開口面積が拡がっていくホーン形状で、加熱室103の側面や上面から加熱室にマイクロ波を入力することで進行波状態を実現してもよいことは明らかである。
【0054】
(実施の形態3)
図9は、本発明の実施の形態3における円偏波を放射する形状をもったマイクロ波放射部108の配置説明図である。図9において901は導波管106の管軸、902はマイクロ波伝送方向である。以下、その動作、作用を説明する。なお、図面において、実施の形態1と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、実施の形態3における基本的な動作は実施の形態1または実施の形態2と同様である。
【0055】
本実施の形態においては、マイクロ波放射部108を図9に示すような円偏波を放射す
る形状としている。円偏波とは、移動通信および衛星通信の分野で広く用いられている技術であり、身近な使用例としては、ETC(Electronic Toll Collection System)「ノンストップ自動料金収受システム」などが挙げられる。円偏波は、電界の偏波面が電波の進行方向に対して時間に応じて回転するマイクロ波であり、円偏波を形成すると電界の方向が時間に応じて変化し続けるので、加熱室103内に放射されるマイクロ波の放射角度も変化し続け、時間的に電界強度の大きさが変化しないという特徴を有している。これにより、従来のマイクロ波加熱装置に用いられている直線偏波によるマイクロ波加熱と比較して、広範囲にわたってマイクロ波が分散放射されて、被加熱物を均一にマイクロ波加熱することができるようになる。特に、円偏波の周方向に対して均一加熱の傾向が強い。なお、円偏波は回転方向から右旋偏波(CW:clockwise)と左旋偏波(CCW:counter clockwise)の2種類に分類されるが、加熱性能に違いはない。
【0056】
前記の特長を利用し、マイクロ波放射部108を通して円偏波のマイクロ波を放射することで、加熱室103内の加熱分布をより均一化することができる。なお、方形の導波管106に設けたマイクロ波放射部108から円偏波を出力するためには、図9に示すように、幅を持ったスリット2本を中央で交差させ、マイクロ波伝送方向902に対し45度傾けた形状を、導波管106のマイクロ波伝送方向の管軸901を通らない位置に配置する必要がある。
【0057】
以上のように、本実施の形態においては、マイクロ波放射部108を、円偏波を放射する形状とすることで、マイクロ波放射部108から拡がりをもったマイクロ波が加熱室103内に放射され、被加熱物102へのマイクロ波の放射をより広い範囲で均一化することができる。
【0058】
なお、本実施の形態において、円偏波を放射するマイクロ波放射部108の形状は図9で示した形状で説明したが、形状は図9に限定されるものではなく円偏波を放射する形状であれば何でもよい。
【0059】
(実施の形態4)
図10は、本発明の実施の形態4における円偏波を放射する形状をもったマイクロ波放射部108の配置説明図である。以下、その動作、作用を説明する。なお、図面において、実施の形態1と同一動作を示す部分は同一番号を付与している。また、実施の形態4における基本的な動作は実施の形態1、実施の形態2、実施の形態3と同様である。
【0060】
本実施の形態においては、マイクロ波放射部108の開口形状を、図10に示すように加熱室103中心に対し対称に複数個配置している。このように配置することで、被加熱物102へのマイクロ波放射を対称とすることができる上に、導波管106のマイクロ波伝送方向902の管軸901に対して垂直な方向(すなわち図10における紙面の上下方向、図3の扉301から見た加熱室103の前後方向)にもマイクロ波放射をより拡げることができる。更にその開口形状を円偏波出力形状とすることで拡張効果を高めることができ、被加熱物102をより均一に加熱することができる。
【0061】
以上のように、本実施の形態においては、マイクロ波放射部108を、加熱室103中心に対し対称に複数個配置することで、被加熱物102へのマイクロ波放射を対称とし、かつ、導波管106のマイクロ波伝送方向902の管軸901に対して垂直な方向にもマイクロ波放射をより拡げることができ、被加熱物102へのマイクロ波の放射を均一化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明のマイクロ波加熱装置は、被加熱物への均一照射ができるので、食品の加熱加工や殺菌などを行うマイクロ波加熱装置などに有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0063】
102 被加熱物
103 加熱室
104 載置部
105 マイクロ波供給手段
106 導波管
107 終端処理部
108 マイクロ波放射部
109 Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)
301 扉
501 導波管内定在波腹位置
502 定在波
503 加熱室中心線
601 終端処理部
602 加熱室方向反射構成
603 加熱室入力用開口
801 進行波
901 管軸
902 マイクロ波伝送方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を入れる加熱室と、
前記被加熱物を載置する載置部と、
前記加熱室にマイクロ波を供給するためのマイクロ波供給手段と、
前記マイクロ波供給手段から供給されるマイクロ波を前記加熱室へ伝送するためのHコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管と、
前記導波管の終端処理部と、
前記導波管内を通るマイクロ波を前記加熱室内の前記被加熱物へ放射するために前記マイクロ波供給手段と前記Hコーナーとの間および前記Hコーナーと前記終端処理部との間に複数のマイクロ波放射部を備えていることを特徴とするマイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記終端処理部が、前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管内のマイクロ波を固定端反射し定在波を発生させるための反射構成を備え、
前記定在波の腹もしくは節が前記加熱室のマイクロ波伝送方向における略中央に配置されることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記終端処理部が、前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管の終端において前記導波管内を通るマイクロ波を前記加熱室に導くための加熱室入力部を備えていることを特徴とする請求項1記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記マイクロ波放射部が前記Hコーナー(磁界と平行方向の屈曲部)を備えた導波管に設けた開口からなり、前記マイクロ波放射部の開口面積を、前記マイクロ波供給手段からの伝送距離が遠くなるに従って大きくすることにより、マイクロ波放射部からのマイクロ波放射量を均等化することを特徴とする請求項3記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記マイクロ波放射部が円偏波を放射する構成であることを特徴とする請求項1〜4記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
前記マイクロ波放射部が前記加熱室中心に対し略対称に配置されることを特徴とする請求項1〜5記載のマイクロ波加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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