説明

マイクロ波放電光源装置

【課題】
無電極タイプにおいては確実性に欠ける紫外線エンハンサを使用することなく、また、有電極タイプにおいては始動時に高電圧パルスを印加することなく、マイクロ波放電を確実に開始できるようにする。
【解決手段】
マイクロ波によって放電発光する発光物質を放電空間(3)内に封入した発光管(4)と、当該発光管(4)にマイクロ波を印加するマイクロ波発生装置(8)を備え、発光管(4)が破壊されない程度の衝撃力若しくは振動を当該発光管(4)に対して作用させる外力付与機構(12)と、前記マイクロ波発生装置(8)から発光管(4)に対しマイクロ波を印加しながら前記外力付与機構(12)を一定時間稼動させる制御装置(13)を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光管に給電することなくマイクロ波を印加することにより放電発光させるマイクロ波放電光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高圧放電ランプは高効率・高演色という特性からハロゲンランプに代わり、一般照明だけでなく、自動車用の前照灯やプロジェクタ用のバックライトとして、需要が高まっている。
このようなランプの一つとしては、マイクロ波放電ランプが知られており、マイクロ波によって放電発光する発光物質が放電空間に封入された発光管に、電極を介さず電磁エネルギーを作用させることにより、点灯させることができる。
【0003】
そして、マイクロ放電ランプには、放電空間内に電極を有さない無電極タイプ(特許文献1参照)と、放電空間内にマイクロ波のアンテナとして機能する一対の電極を備えた有電極タイプ(特許文献2参照)が知られている。
【0004】
無電極タイプは、電極の消耗がないため発光効率の低下が少なく、電極材料と反応するために有電極ランプでは使用することのできない発光物質も使用することができ、長寿命、高効率、高演色の光源として期待されている。
有電極タイプは、電極間のギャップで放電を生じるため、無電極タイプでは実現困難であった点光源化が可能となるというメリットがあり、光学システム上の効率の向上を図ることができる。
【0005】
しかしながら、いずれのタイプも、マイクロ波の発振のみによって放電を開始させることは困難であり、その確率は低く始動性能は安定しない。
しかも、無電極タイプにおいては、放電を開始させるために外部から電極間にパルス電圧を印加して絶縁破壊を起こすなどの方法がとれない。
このため、ランプの始動は例えば外部に紫外線エンハンサと称する始動補助光源を設け、この始動補助光源から発生する紫外線により、放電開始のための初期電子を発生させることで行なっている(特許文献3参照)が、発明者の実験によればそれでもまだ確実性に欠けるという問題がある。
【0006】
また、有電極タイプは、導体間に高電圧パルスを印加することにより、確実に放電開始させることができるが、始動時の高電圧パルスは、沿面距離の確保から装置の大型化につながり、また高電圧パルスのノイズによる装置の不具合などが発生するため、始動電圧の低減が求められている。
他にも始動性能の向上という点から、始動電圧の低下のために放射性元素が封入されている放電ランプも存在するが、放射性元素の使用は環境負荷の面から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−245746号公報
【特許文献2】特開2008−288025号公報
【特許文献3】特開昭55−122398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、無電極タイプにおいては確実性に欠ける紫外線エンハンサを使用することなく、また、有電極タイプにおいては始動時に高電圧パルスを印加することなく、マイクロ波放電を確実に開始できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために、本発明は、マイクロ波によって放電発光する発光物質を放電空間内に封入した発光管と、当該発光管にマイクロ波を印加するマイクロ波発生装置を備えて成るマイクロ波放電光源装置において、前記発光管が破壊されない程度の衝撃力若しくは振動を当該発光管に対して作用させる外力付与機構と、前記マイクロ波発生装置から発光管に対しマイクロ波を印加しながら前記外力付与機構を一定時間稼動させる制御装置を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロ波放電光源装置によれば、マイクロ波発生装置から出力されるマイクロ波を印加しながら、マイクロ波だけでは放電開始されなかった発光管に対し、外力付与機構によって衝撃や振動を与えることにより、無電極タイプ、有電極タイプを問わず、確実に放電開始させることができた。
その詳細なメカニズムは不明であるが、衝撃又は振動などの機械的な外力が付与されることにより、放電空間内の放電物質が拡散され、マイクロ波によって供給される電子と放電物質との衝突電離が頻繁に起きるようになり、その結果、放電開始に必要なだけの電子が確保されるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るマイクロ波放電装置の一例を示す断面図。
【図2】他の実施形態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本例では、無電極タイプにおいては確実性に欠ける紫外線エンハンサを使用することなく、また、有電極タイプにおいては始動時に高電圧パルスを印加することなく、マイクロ波放電を確実に開始させるという目的を達成するために、マイクロ波によって放電発光する発光物質を放電空間内に封入した発光管と、当該発光管にマイクロ波を印加するマイクロ波発生装置を備えて成るマイクロ波放電光源装置において、前記発光管が破壊されない程度の衝撃力若しくは振動を当該発光管に対して作用させる外力付与機構と、前記マイクロ波発生装置から発光管に対しマイクロ波を印加しながら前記外力付与機構を一定時間稼動させる制御装置を備えた。
【実施例1】
【0013】
図1に示すマイクロ波放電光源装置1は、マイクロ波を伝える共振器として作用する金属製のチャンバ2内に、マイクロ波によって放電発光する発光物質を放電空間3内に封入した発光管4が反射鏡5に装着された状態で収納されると共に、マイクロ波出力アンテナ6が配されており、当該出力アンテナ6が同軸ケーブル7を介してマイクロ波発生装置8に接続されている。
【0014】
本例では、チャンバ2は、内径90mm、高さ70mmの円筒形状をしており、反射鏡5の開口側には光取り出しのために金属メッシュ9が取り付けられて、マイクロ波が外部に漏洩しない構造となっている。
【0015】
発光管4は石英ガラス製で、サポートロッド10の先端に外径16mmの球状の放電空間3が形成された無電極タイプのものが用いられ、その内部に水銀、希ガス、発光物質が封入されている。
また、サポートロッド10は反射鏡5及びチャンバ2に形成された挿通孔5a、2aに挿通固定されている。
【0016】
また、マイクロ波発生装置8から出力されるマイクロ波は周波数2.45GHzであり、同軸ケーブル7を伝播して出力アンテナ6に伝えられる。
出力アンテナ6は直径4mm、長さ10mmの金属製の棒であり、同軸ケーブル7が接続される同軸コネクタ11の中心導体と電気的に接続されており、この出力アンテナ6からマイクロ波がチャンバ2内に照射される。
【0017】
チャンバ2の外部には、発光管4を破壊しない程度の衝撃力若しくは振動を当該発光管4に対して作用させる外力付与機構となるバイブレータ12が設置され、このバイブレータ12が発光管4のサポートロッド10先端に装着されている。
また、バイブレータ12及びマイクロ波発生装置8は、これらをオンオフ制御する制御装置13に接続されている。
【0018】
制御装置13には、点灯スイッチ14が接続され、当該点灯スイッチ14がオンされたたときに、マイクロ波発生装置8及びバイブレータ12を同時にオンすると共に、所定時間(例えば0.5秒)経過後にバイブレータ12が停止される。
これにより、マイクロ波発生装置8から発光管4にマイクロ波を印加しながら、外力付与機構であるバイブレータ12が一定時間稼動されることとなる。
そして、点灯スイッチ14がオフされたときにマイクロ波発生装置8からのマイクロ波の出力が停止される。
【0019】
以上が、本発明の一構成例であって、次にその作用について説明する。
点灯スイッチ14がオンされると、マイクロ波発生装置8がオンされて、出力アンテナ6からチャンバ2内にマイクロ波が照射され、マイクロ波により放電空間3内に供給された電子と放電物質との衝突電離が起きる。
このとき、バイブレータ12をオンすると、放電空間3内の放電物質が拡散されて、電子と放電物質との衝突電離が頻繁に起きるようになり、その結果、放電開始に必要なだけの電子が確保されて放電が開始され、安定点灯に移行する。
【0020】
そして、点灯スイッチ14がオフされると、マイクロ波発生装置8からのマイクロ波の出力が停止されるため、出力アンテナ6からチャンバ2内へのマイクロ波の照射が停止されて発光管4が消灯する。
【0021】
なお、上述の説明では、外力付与機構としてバイブレータ12を用いた場合について説明したが、バイブレータに替えて、所定のトリガー信号の入力時に発光管4を叩くハンマーを駆動させる衝撃付与装置を設けてもよい。
この場合、ハンマーは、発光管4のサポートロッド10の先端を、その軸方向に叩くものであっても、軸方向に対して直交する方向に叩くものであってもよい。
【実施例2】
【0022】
図2は、本発明の他の実施形態を示し、本例では、発光管として有電極タイプのものを用いている。
なお、図1と重複する部分は同一符号を付して、その詳細説明を省略する。
本例のマイクロ波放電光源装置21は、マイクロ波を伝える共振器として作用する金属製のチャンバ22内に、マイクロ波によって放電発光する発光物質を放電空間23内に封入した発光管24が反射鏡25に装着された状態で収納されると共に、マイクロ波出力アンテナ6が配されており、当該出力アンテナ6が同軸ケーブル7を介してマイクロ波発生装置8に接続されている。
【0023】
チャンバ22は、内径90mm、高さ70mmの円筒形状をしており、反射鏡25の開口側には二次焦点近傍に開口径約10mm程度の小径孔26が形成されており、反射鏡25で集光された光を外部に導出できるようになっている。
【0024】
発光管24は石英ガラス製で、放電空間23内に対応する一対の電極27a、27bを封止するシール部28a、28bが形成され、放電空間23内には水銀、希ガス、発光物質が封入されており、一方のシール部28aはチャンバ22及び反射鏡25に形成された挿通孔22a及び25aに挿通されて固定されている。
【0025】
なお、チャンバ22の外部には、発光管24を破壊しない程度の衝撃力若しくは振動を当該発光管24に対して作用させる外力付与機構となるバイブレータ12が設置され、このバイブレータ12が発光管24の一方のシール部28aに装着されている。
また、バイブレータ12及びマイクロ波発生装置8は、これらをオンオフ制御する制御装置13に接続されている点は、これらの作用効果は実施例1と同様である。
【0026】
これによれば、点灯スイッチ14がオンされると、マイクロ波発生装置8によりマイクロ波が発光管24に印加された状態でバイブレータ12がオンされ、発光管24に振動が与えられ、高電圧パルスを印加することなく放電開始することができる。
さらに、確実を期すため、高電圧パルスを併用する場合でも、従来の半分程度の電圧の高電圧パルスを印加すれば十分である。
なお、外力付与機構としてバイブレータ12に替えて、ハンマーを駆動させる衝撃付与装置を設けてもよいことは、実施例1と同様である。
この場合、ハンマーは、発光管24のシール部28aの先端を、その軸方向に叩くものであっても、軸方向に対して直交する方向に叩くものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、発光管に給電することなくマイクロ波を印加することにより放電発光させるマイクロ波放電光源装置の始動性を向上させる用途に適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1、21 マイクロ波放電光源装置
2、22 チャンバ
3、23 放電空間
4、24 発光管
5、25 反射鏡
6 出力アンテナ
8 マイクロ波発生装置
12 バイブレータ
13 制御装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波によって放電発光する発光物質を放電空間内に封入した発光管と、当該発光管にマイクロ波を印加するマイクロ波発生装置を備えて成るマイクロ波放電光源装置において、前記発光管が破壊されない程度の衝撃力若しくは振動を当該発光管に対して作用させる外力付与機構と、前記マイクロ波発生装置から発光管に対しマイクロ波を印加しながら前記外力付与機構を一定時間稼動させる制御装置を備えたことを特徴とするマイクロ波放電光源装置。
【請求項2】
前記発光管が放電空間内に電極が配されていない無電極タイプである請求項1記載のマイクロ放電光源装置。
【請求項3】
前記発光管の放電空間内に、対向する一対の電極が配された請求項1記載のマイクロ波放電光源装置。
【請求項4】
前記外力付与機構が、所定のトリガー信号の入力時に発光管を叩くハンマーを駆動させる衝撃付与装置である請求項1乃至3いずれか一項記載のマイクロ波放電光源装置。
【請求項5】
前記外力付加機構が、発光管に一体に設けられたバイブレータである請求項1乃至3いずれか一項記載のマイクロ波放電光源装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−210545(P2011−210545A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77232(P2010−77232)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】