説明

マイクロ波発振装置

【課題】簡素で小型な構成で、可搬型としても構成可能なマイクロ波発振装置を提供すること。
【解決手段】直流電圧を発生するコンデンサ群10からの電流がスイッチ11を介してインダクタ20へ供給されるようにし、このインダクタ20と開放スイッチ30を用いた誘導性電源80と高速動作の短絡スイッチ40との組合せにて、急峻な立上りの高電圧パルスを生成し、この高電圧パルスの印加によって仮想陰極電子管50を直接駆動する。つまり、インダクタ20と開放スイッチ30による誘導性電源80と、短絡スイッチ40との組合せによる簡素で小型な構成によってマイクロ波発振装置200を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波を発生させるマイクロ波発振装置に関り、特にマイクロ波発振素子である仮想陰極電子管を誘導性パルス電源で発振駆動し、GHz周波数帯の高出力マイクロ波を発生させるマイクロ波発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、従来のマイクロ波発振装置100の構成を示す図であり、仮想陰極電子管50を容量性電源70により発振することによって、アンテナ60からマイクロ波を発生するように成されている。
容量性電源70は、エネルギー供給源として高電圧を発生させる直流電源として作用するマルクス発生器1と、マルクス発生器1から供給された高電圧を充電し、パルス形成路線として作用する水コンデンサ2と、水コンデンサ2への高電圧充電が終えると作動する放電スイッチ3と、水コンデンサ2からの高電圧パルスを伝送する伝送路線4と、伝送線路4と真空を分ける真空インターフェイス5と、この真空を通して伝送路線4からの高電圧パルスを伝送する磁気絶縁伝送線路(MITL)6とを備えて構成されている。
【0003】
先ず、仮想陰極電子管50の構造を、図4を参照して説明する。図4に示すように、仮想陰極電子管50は、概略円筒形状の金属製の真空容器内に、金属メッシュのアノード51と、円筒金属の先端にベルベットを貼ったカソード52との双方が対向配置された構成となっている。
このような構成の仮想陰極電子管50によるマイクロ波発生の動作原理を、図5を参照して説明する。
【0004】
図5に示すように、アノード51とカソード52間に、これらに接続されたパルス電源54によって高電圧パルス電圧が印加されると、カソード52の表面にプラズマが発生し、アノード51に向けて成長する。更に、アノード51に印加される電圧値が大きくなると、アノード51とカソード52間の強電界により、プラズマから電子が引き出され、アノード51を飛び越えた空間に入射するようになる。更に、プラズマから引き出される電子ビームが増加すると、アノード51を越えた空間で仮想陰極53と呼ばれる空間ポテンシャルの塊を形成するようになり、この仮想陰極53が時間的及び空間的に振動することで電界が時間的に変化してマイクロ波が発生する。
【0005】
このマイクロ波の発振時間は、カソード52の表面で発生したプラズマが成長しアノード51まで到達することで、アノード51とカソード52間の電位差がゼロになり、仮想陰極53が消滅するまでの時間で決定される。
このようなマイクロ波発振装置100においては、マルクス発生器1で発生した高電圧で水コンデンサ2を充電し、この充電を終えると放電スイッチ3が動作する。この時、水コンデンサ2はパルス形成線路の単一線路として作動し、高電圧が、その水コンデンサ2の形状によるパルス幅を持った高電圧パルスに整形され、伝送路線4、MITL6を通して伝送され、仮想陰極電子管50に高電圧パルスが印加されることで、当該仮想陰極電子管50が発振し、アンテナ60からマイクロ波を発生する。
【0006】
なお、このマイクロ波発振装置100での仮想陰極電子管50のマイクロ波電力変換効率(電子管に入力した電力と出力されたマイクロ波電力の比)は1%未満である。
この種の従来のマイクロ波発振装置として、例えば特許文献1に記載のものがある。
【特許文献1】特開2003−298352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のマイクロ波発振装置においては、容量性電源70を適用した原理に基づくため、マルクス発生器1や水コンデンサ2などの大型構成部品を使用しなければならず、このため、容量性電源70が複雑で大規模となり、マイクロ波発振装置も構成が複雑で、体積及び重量ともに大規模になってしまうという問題があった。
また、水コンデンサ2のインピーダンス保守のための図示せぬ純水循環装置も必要となるので、マイクロ波発振装置を可搬型として構成することが非常に困難となる問題があった。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、簡素で小型な構成で、可搬型としても構成可能なマイクロ波発振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1によるマイクロ波発振装置は、直流電圧を発生する直流電圧発生手段と、前記直流電圧発生手段から供給される電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段と、通常時の閉状態にて前記エネルギー蓄積手段に蓄積された電気エネルギーを電流として通過させ、所定制御時の開状態にて前記蓄積された電気エネルギーを電圧パルスとして発生させる誘導性パルス電源として作用する開放スイッチと、通常時の開状態にて前記電圧パルスの電圧値が所定値以上になると作動し、この作動により急峻な立上り電圧波形を有する高電圧パスルを生成する短絡スイッチと、前記高電圧パルスの印加時に高周波の電磁波を発生する電磁波発生手段と、前記電磁波発生手段で発生された電磁波を放射するアンテナとを備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、直流電圧発生手段から発生する電流がエネルギー蓄積手段及び閉状態の開放スイッチヘ流れ、エネルギー蓄積手段には電気エネルギーとして蓄積される。更に、開放スイッチでは、所定制御、例えば所定の制御信号が与えられると直流電圧発生手段からの電流を急速に遮断することで開状態となり、エネルギー蓄積手段が例えばインダクタであれば、このインダクタンスの存在により、エネルギー蓄積手段から開放スイッチヘのエネルギー移行が正常に行われ、開状態となった開放スイッチの電極間に誘導電圧L×di/dt(L:インダクタのインダクタンス値、di:開放スイッチが閉→開状態に変移する際の開放スイッチを流れる電流値の変動分、dt:開放スイッチが閉→開状態に変移する時間)の高電圧パルスが発生する。この高電圧パルスの電圧値が所定の値以上になると、短絡スイッチが作動し、急峻な立上り電圧波形、換言すれば高速立上り波形を有する高電圧パルスを、電磁波発生手段に印加することができる。
【0010】
また、本発明の請求項2によるマイクロ波発振装置は、請求項1において、前記電磁波発生手段に、真空容器中にカソードとアノードを対向配置して成り、これらカソードとアノード間への前記高電圧パルスの印加によりマイクロ波を発生する仮想陰極電子管を用いたことを特徴とする。
この構成によれば、仮想陰極電子管への高電圧パルスの印加によって適正にマイクロ波を発生させることができる。
【0011】
また、本発明の請求項3によるマイクロ波発振装置は、請求項1または2において、エネルギー蓄積手段に、インダクタンス値が周波数1kHzにおいて、3〜10μHに設定されたインダクタを用いたことを特徴とする。
この構成によれば、高電圧パルスの電圧は、開放スイッチが開状態になる際のエネルギー蓄積手段を構成するインダクタンス値及び電流の時間変化率の積に比例するが、そのインダクタンス値を概ね3μHから10μHに選定しておくことにより、エネルギー蓄積手段の電気エネルギー蓄積を可能とし、開放スイッチの発生パルス電圧値を大きくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように本発明のマイクロ波発振装置によれば、エネルギー蓄積手段(インダクタ)と開放スイッチを用いて誘導性の電源を構成し、この誘導性電源と高速動作の短絡スイッチとの組合せによる簡素で小型な構成によって、電磁波発生手段(仮想陰極電子管)を直接駆動することができる。つまり、従来に比べ、簡素で小型な構成のマイクロ波発振装置にて、高電力のマイクロ波を高効率で出力することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書中の全図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適時省略する。
図1は、本発明の実施の形態に係るマイクロ波発振装置の構成を示す図である。
図1に示すマイクロ波発振装置200は、直流電圧発生手段としてのコンデンサ群10と、コンデンサ群10に接続されたスイッチ11と、コンデンサ群10からスイッチ11がオン時に供給される電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段として作用するインダクタ20及び高電圧パルスを発生させる開放スイッチ30から成る誘導性電源80と、誘導性電源80により発生した高電圧パルスが所定の電圧値以上になると作動して閉状態となり、この状態によって誘導性電源80からの高電圧パルスを高速立上り波形を持つ高電圧パルスに整形する短絡スイッチ40と、マイクロ波を発振する電磁波発生手段である仮想陰極電子管50と、その発振されたマイクロ波を放射するためのアンテナ60とを備えて構成されている。
【0014】
コンデンサ群10は、7.5μFのコンデンサが予め20kVに充電されており、スイッチ11がオン時にインダクタ20及び開放スイッチ30に電流を供給し、インダクタ20で電気エネルギーを蓄積する。
但し、コンデンサ群10とインダクタ20までのインダクタンス値は、概ねインダクタ20のインダクタンス値の10%以下になるように設定されている。また、コンデンサ群10のコンデンサ容量は、概ね8μF以下に設定した際に、後段の開放スイッチ30での高電圧パルスを効率よく発生できるようになっている。
【0015】
本実施の形態では、インダクタ20のインダクタンス値を概ね3μ〜10μHとし、開放スイッチ30の一例として金属線によるヒューズ遮断を行うように構成し、そのヒューズ材質としてφ0・1mmの銅線を複数本用いた。
短絡スイッチ40は作動電圧150kVで作動する。仮想陰極電子管50は、従来技術で図5を参照して既に説明したように、アノード51及びカソード52を備えて仮想陰極53を形成してマイクロ波を発生するように構成されており、周波数2〜3GHz、インピーダンス5Ω、パルス電圧150kVでマイクロ波を発生する。アンテナ60は、角錐ホーンアンテナでゲイン20dBのものを用いた。
【0016】
短絡スイッチ40は、図2(a)に示すように、収納筐体41の内部に3気圧のSF6ガスを封入し、直径50mmの真鍮製の平面電極42aと42bをギャップ間隔5mmで対向配置して構成し、各平面電極42a,42bを電線43a,43bによって開放スイッチ30と仮想陰極電子管50に接続している。
図2(b)及び(c)に開放スイッチ30の出力電圧波形を示すように、開放スイッチ30の電圧値が150kVに達した時に、短絡スイッチ40が作動し、電圧150kVを100nsで立上る電圧波形整形を実現している。
【0017】
このような構成のマイクロ波発振装置200において、コンデンサ群10から供給された電流がピーク値に到達するタイミングで、開放スイッチ(ヒューズ)30が溶断して気化するように銅線本数と長さを調整した結果、開放スイッチ30の電極間でピーク値180kVの高圧パルス電圧が発生した。また、短絡スイッチ40は、開放スイッチ30で発生したパルス電圧値が150kVに達した時点で動作し、150kVを100nsで立ち上がる高速パルス電圧波形整形を行う。
【0018】
この波形整形された高速で高圧パルス(高電圧パルス)を仮想陰極電子管50のアノード51に印加し、カソード52表面に均一なプラズマを形成することで、仮想陰極53の形成・成長が促進されるので、仮想陰極電子管50が安定してマイクロ波発振を行い、アンテナ60から周波数2〜3GHz、電力80MW、当該アンテナ60から3mの地点において電界強度73kV/mの電界強度のマイクロ波が放射された。
【0019】
このマイクロ波発振装置200では、仮想陰極電子管50への入力電力が6.5GW、出力のマイクロ波電力が80MWであるから、仮想陰極電子管50のマイクロ波電力変換効率(電子管に入力した電力と出力されたマイクロ波電力の比)は1.2%であり、従来のマイクロ波発振装置100の容量性電源70では実現出来なかった高変換効率で仮想陰極電子管50を発振することができた。
【0020】
このように、本実施の形態のマイクロ波発振装置200によれば、インダクタ20と開放スイッチ30を用いた誘導性電源80と高速動作の短絡スイッチ40との組合せによる簡素で小型な構成によって、仮想陰極電子管50を直接駆動することができる。つまり、従来の容量性電源70によるマイクロ波発振装置100に比べ、簡素で小型な構成のマイクロ波発振装置200にて、高電力のマイクロ波を高効率で出力することができる。
また、従来の容量性パルス電源(容量性電源70)に比べ、非常に高いマイクロ波電力変換効率を可能とし、仮想陰極電子管50を効率よく発振することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るマイクロ波発振装置の構成を示す図である。
【図2】(a)上記マイクロ波発振装置における短絡スイッチの構成を示す図、(b)マイクロ波発振装置における開放スイッチの出力電圧波形図、(c)短絡スイッチ作動時の開放スイッチの出力電圧波形図である。
【図3】従来のマイクロ波発振装置の構成を示す図である。
【図4】従来のマイクロ波発振装置における仮想陰極電子管の構成を示す図である。
【図5】仮想陰極電子管によるマイクロ波発生の動作原理の説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 マルクス発生器
2 水コンデンサ
3 放電スイッチ
4 伝送線路
5 真空インターフェイス
6 磁気絶縁伝送線路
10 コンデンサ群
11 スイッチ
20 インダクタ
30 開放スイッチ
40 短絡スイッチ
41 収納筐体
42a,42b 平面電極
43a,43b 電線
50 仮想陰極電子管
51 アノード
52 カソード
53 仮想陰極
54 パルス電源
60 アンテナ
70 容量性電源
80 誘導性電源
100,200 マイクロ波発振装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電圧を発生する直流電圧発生手段と、
前記直流電圧発生手段から供給される電流を電気エネルギーとして蓄積するエネルギー蓄積手段と、
通常時の閉状態にて前記エネルギー蓄積手段に蓄積された電気エネルギーを電流として通過させ、所定制御時の開状態にて前記蓄積された電気エネルギーを電圧パルスとして発生させる誘導性パルス電源として作用する開放スイッチと、
通常時の開状態にて前記電圧パルスの電圧値が所定値以上になると作動し、この作動により急峻な立上り電圧波形を有する高電圧パスルを生成する短絡スイッチと、
前記高電圧パルスの印加時に高周波の電磁波を発生する電磁波発生手段と、
前記電磁波発生手段で発生された電磁波を放射するアンテナと
を備えたことを特徴とするマイクロ波発振装置。
【請求項2】
前記電磁波発生手段に、真空容器中にカソードとアノードを対向配置して成り、これらカソードとアノード間への前記高電圧パルスの印加によりマイクロ波を発生する仮想陰極電子管を用いたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波発生装置。
【請求項3】
エネルギー蓄積手段に、インダクタンス値が周波数1kHzにおいて、3〜10μHに設定されたインダクタを用いたことを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ波発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−318306(P2007−318306A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144065(P2006−144065)
【出願日】平成18年5月24日(2006.5.24)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)