説明

マイクロ波透過窓構体

【課題】金属部分の腐食を防止するとともに冷却効率の高いマイクロ波透過窓構体を提供することを目的とする。
【解決手段】平板状に形成されその両面におけるループ状の周縁部及びこれらの周縁部を繋ぐ端面にメタライズ部Mが延在した誘電体ディスク21と、誘電体ディスクの周縁部に延在したメタライズ部の上に固定された金属スリーブ22及び23と、メタライズ部と金属スリーブとの間に介在するとともに少なくとも金属スリーブより外側の周縁部及び端面に延在したメタライズ部を被覆するロウ材40と、を備えたことを特徴とするマイクロ波透過窓構体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波透過窓構体に係り、特に、マイクロ波を発生するマイクロ波電子管の出力窓や、マイクロ波の伝送系の透過窓の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ジャイロトロンなどのマイクロ波電子管に適用される出力窓構体の構造が開示されている。すなわち、ダイヤモンド薄板からなる出力窓の両面には、出力導波管部の一部を構成する出力窓支持内筒が真空気密にろう接により固定されている。出力窓の突出した外周縁は、冷却媒体と直接接触して出力窓全体の放熱又は冷却に利用される。
【0003】
このような特許文献1の構成においては、ロウ材としてアルミニウム系を利用する場合、アルミニウムの腐食を防止するために、比較的冷却効率が高い水系の冷却媒体を適用できない。また、冷却媒体がロウ材と出力窓との隙間から進入しやすく、金属部分を腐食するおそれがあり、さらには真空気密を保てなくなるおそれもある。
【0004】
一方で、非特許文献1によれば、ロウ接部のメタライズ部の冷却媒体腐食を防止するために、金属スリーブと誘電体ディスク周端面まで保護被覆を設けて、ロウ接部が直接水などの冷却媒体に接しない構造が開示されている。しかしながら、ロウ接部の隙間など必ずしも完全にメッキ被覆することが難しく、保護メッキ層にできたピンホールなどから水が浸入して、腐食を進め真空気密を保てなくなるおそれがある。
【0005】
また、この非特許文献1によれば、誘電体ディスクと金属スリーブの構造として、ロウ接部が直接冷却水に接しない構造も開示されている。しかしながら、薄肉の金属スリーブを経由した冷却は熱伝導による熱流を十分に伝導できないおそれがある。
【0006】
また、この非特許文献1によれば、金属スリーブを二重構造として、180°対向方向に冷却水の入出口を設け、二重円筒の間を冷却水路として利用して直接水冷する構造も開示されている。しかしながら、ディスク周端面の冷却面としての寄与が期待できない上に、金属スリーブを二重にしてその面積で有効な冷却面積をうる為には、周辺部にある程度の幅の代を確保する必要がある。このため、周辺部の幅が大きくなり、出力窓の有効口径がその分小さくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−338588号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】"Torus window development for the ITER ECRH Upper Launcher":Journal of Physics: Conference Series 25(2005) pp.174
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、金属部分の腐食を防止するとともに冷却効率の高いマイクロ波透過窓構体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、
マイクロ波を装置外部に導出するマイクロ波透過窓構体であって、
平板状に形成され、その両面におけるループ状の周縁部及びこれらの周縁部を繋ぐ端面にメタライズ部が延在した誘電体ディスクと、
前記誘電体ディスクの周縁部に延在した前記メタライズ部の上に固定された金属スリーブと、
前記メタライズ部と前記金属スリーブとの間に介在するとともに、少なくとも前記金属スリーブより外側の周縁部及び端面に延在した前記メタライズ部を被覆するロウ材と、
を備えたことを特徴とするマイクロ波透過窓構体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属部分の腐食を防止するとともに冷却効率の高いマイクロ波透過窓構体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、電子管の一例であるジャイロトロンの構成を概略的に示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る出力窓構体の主要構成の一部断面を示した分解斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る出力窓構体の断面図である。
【図4】図4は、図3に示した誘電体ディスクの周縁部付近を囲んだPの部分を拡大した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
ここでは、マイクロ波透過窓構体の一例として、マイクロ波電子管の一つであるジャイロトロンに適用される出力窓構体を例に説明する。
【0015】
図1に示すように、ジャイロトロン1は、中空の旋回電子ビーム2を生成するマグネトロン型電子銃3を備えている。電子銃3とコレクタ5との間には、電子銃3で生成された電子ビーム2と相互作用してミリ波又はマイクロ波を生起させる空胴共振器すなわちキャビティ7と、電子銃3により生成された電子ビーム2をキャビティ7に案内するビームトンネル6と、が配置されている。
【0016】
キャビティ7とコレクタ5との間には、放射器9及び反射器10が配置され、さらに、キャビティ7で生起された電磁波8を平行ビーム状に変換する準光学的モード変換器11と、このモード変換器11により平行ビーム状に変換された電磁波8を反射する出射ミラー12とが配置されている。
【0017】
出射ミラー12により反射された平行ビーム状の電磁波8は、出力窓構体20を通じてジャイロトロン1の外部に導出される。なお、電子銃部やキャビティ部、或いはコレクタの外周には、それぞれ磁場発生コイル、或いはスイープコイル4が配置される。
【0018】
次に、出力窓構体20についてより詳細に説明する。
【0019】
図2は、出力窓構体20の主要構成の一部断面を示した分解斜視図である。すなわち、出力窓構体20は、誘電体ディスク21と、この誘電体ディスク21の両面21A及び21Bにそれぞれ固定される金属スリーブ22及び23と、を備えている。
【0020】
誘電体ディスク21は、平板状に形成されている。この誘電体ディスク21は、熱伝導性が良好で高周波数領域において誘電体損失の少ない人工ダイヤモンドやサファイア、アルミナセラミックなどを用いて形成されている。このような誘電体ディスク21は、出力窓構体20を構成する出力窓として機能する。
【0021】
この誘電体ディスク21の両面21A及び21Bにおけるループ状の周縁部及びこれらの周縁部を繋ぐ端面21Eには、メタライズ部Mが延在している。このメタライズ部Mは、例えば、チタン(Ti)、金(Au)、白金(Pt)などによって形成され、さらにロウ材の流れ性の向上のためのニッケル(Ni)等のメッキが施されたものである。
【0022】
金属スリーブ22及び23は、円筒状に形成されている。この金属スリーブ22及び23は、例えばインコネル(Ni一Cr一Fe合金)製である。このような金属スリーブ22及び23は、出力窓構体20の出力導波管部を構成する。
【0023】
金属スリーブ22は、誘電体ディスク21の一方の面21A側においてメタライズ部Mが延在した周縁部に配置される。また、金属スリーブ23は、誘電体ディスク21の他方の面21B側においてメタライズ部Mが延在した周縁部に配置される。これらの金属スリーブ22及び23と、誘電体ディスク21とは後述するロウ材により気密接合される。
【0024】
図3は、出力窓構体20の断面図である。すなわち、金属スリーブ22の一端側は、誘電体ディスク21の一方の面21Aに接続され、また、金属スリーブ22の他端側には溶接ツバ24が接続されている。同様に、金属スリーブ23の一端側は、誘電体ディスク21の他方の面21Bに接続され、また、金属スリーブ23の他端側には溶接ツバ25が接続されている。これらの金属スリーブ22及び23の外側には、冷却媒体30が流れる流路31が形成されている。
【0025】
図4は、図3に示した誘電体ディスクの周縁部付近を囲んだPの部分を拡大した断面図である。すなわち、誘電体ディスク21の一方の面21Aに設けられたメタライズ部Mと、金属スリーブ22との間には、ロウ材40が介在しており、誘電体ディスク21と金属スリーブ22とを接続している。また、誘電体ディスク21の他方の面21Bに設けられたメタライズ部Mと、金属スリーブ23との間にも、同様にロウ材40が介在しており、誘電体ディスク21と金属スリーブ23とを接続している。
【0026】
このロウ材40は、さらに、金属スリーブ22及び23よりも外側のメタライズ部Mを被覆している。つまり、ロウ材40は、誘電体ディスク21の一方の面21A及び他方の面21Bにおける周縁部に設けられたメタライズ部M、及び、誘電体ディスク21の端面21Eに設けられたメタライズ部Mを被覆している。
【0027】
これにより、冷却媒体30に接触する金属スリーブ22及び23の外側において、ロウ材40と誘電体ディスク21との界面が存在せず、ロウ材40と誘電体ディスク21との隙間から冷却媒体が侵入することを防止できる。しかも、メタライズ部Mがロウ材40によって被覆されているため、メタライズ部Mが冷却媒体に接することは無く、メタライズ部Mの腐食を防止できる。
【0028】
図4に示した例では、ロウ材40は、さらに、金属スリーブ22及び23よりも内側のメタライズ部Mも被覆している。つまり、ロウ材40は、誘電体ディスク21の一方の面21A及び他方の面21Bにおける周縁部に設けられたメタライズ部Mを被覆している。このように、メタライズ部Mの全体がロウ材によって被覆されているため、メタライズ部Mが外環境に曝されることがなく、さらなる腐食防止効果が得られる。
【0029】
上述したロウ材40は、銀(Ag)及び銅(Cu)の合金、または、金(Au)及び銅(Cu)の合金によって形成されている。銀(Ag)及び銅(Cu)の合金のロウ材4−の一例としては、銀が72%、銅が28%の割合の材料が挙げられる。また、金(Au)及び銅(Cu)の合金のロウ材40の一例としては、金が37%、銅が63%の割合の材料が挙げられる。
【0030】
これらの合金によって形成されたロウ材40は、熱伝達性が高く、しかも、水に対して耐蝕性が高い極めて安定な特性を有している。このため、冷却媒体30として水を適用した場合であっても、ロウ材40の腐食を防止できる。一方で、水は、比較的冷却効率が高い冷却媒体であるため、誘電体ディスク21の端面付近と、金属スリーブ22及び23とが直接水によって冷却され、冷却効率を改善することができる。
【0031】
また、使用する誘電体ディスク21(特に口径が大きくなると高価になる人工ダイヤモンド)の周縁部及び端面のみにメタライズ部Mを設け、且つ、メタライズ部Mをロウ材40によって被覆することにより、腐食防止効果及び冷却効率改善効果が得られるため、誘電体ディスク21の口径に対して、比較的大きな有効口径の出力窓が実現できる。
【0032】
図4に示したような構造の出力窓構体20を製造するロウ接工程では、メタライズ部Mとほぼ同じ環状の薄いロウ材(ワッシャー形状ロウ)40を用い、金属スリーブ22及び23と、このメタライズ部Mの間にロウ材40を挟み、ロウ材40を溶融させる。このロウ接工程の雰囲気は、メタライズ部Mがマンガン(Mn)−モリブデン(Mo)系の組成の場合には、水素雰囲気でも良いが、メタライズ部Mがチタン(Ti)活性を利用して形成された場合には、メタライズ部Mが水素と反応劣化しない真空雰囲気が必要となる。
【0033】
誘電体ディスク21の周縁部及び端面までメタライズ部Mが延在している場合、使用するワッシャー形状ロウ40の外径は、誘電体ディスク21の外径より端面21Eの厚さ程度大きなものを用いることで、端面21Eにロウ材40が流れ被覆される。このため、ロウ材40の被覆とロウ接とを同時に行うことができる。
【0034】
以上説明したように、金属部分の腐食を防止するとともに冷却効率の高いマイクロ波透過窓構体を提供することができる。
【0035】
なお、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、その実施の段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【0036】
なお、上述した実施形態においては、マイクロ波電子管の一つとしてジャイロトロンを例に説明したが、クライストロンなどの他のマイクロ波電子管において適用されるマイクロ波透過窓構体にも上記発明を利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…ジャイロトロン
20…出力窓構体
21…誘電体ディスク
21E…端面 21A…一方の面 21B…他方の面
22、23…金属スリーブ
24、25…溶接ツバ
30…冷却媒体
40…ロウ材
M…メタライズ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を装置外部に導出するマイクロ波透過窓構体であって、
平板状に形成され、その両面におけるループ状の周縁部及びこれらの周縁部を繋ぐ端面にメタライズ部が延在した誘電体ディスクと、
前記誘電体ディスクの周縁部に延在した前記メタライズ部の上に固定された金属スリーブと、
前記メタライズ部と前記金属スリーブとの間に介在するとともに、少なくとも前記金属スリーブより外側の周縁部及び端面に延在した前記メタライズ部を被覆するロウ材と、
を備えたことを特徴とするマイクロ波透過窓構体。
【請求項2】
前記ロウ材は、前記メタライズ部の全体を被覆することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波透過窓構体。
【請求項3】
前記ロウ材は、銀及び銅の合金、または、金及び銅の合金によって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波透過窓構体。
【請求項4】
前記金属スリーブの外側に、冷却媒体が流れる流路が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波透過窓構体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate