説明

マイクロ流体チップ

【課題】簡易な構成でセルに収容される流体の流速分布を均一にして気泡の発生を防止することができるマイクロ流体チップを提供すること。
【解決手段】流体を収容可能な内部空間を形成する収容セルD10と、内部空間内に前記流体を導入する流体導入口11と、内部空間内の気体または/および内部空間内に収容された流体を排出可能な排出口12と、を備えたマイクロ流体チップ1であって、内部空間の長手方向に垂直な断面を所定範囲となる最大幅と最大高さとの比に設定することによって、内部空間に注入された流体の流速分布を均一にすることができ、内部空間に収容された流体中への気泡の混入を防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微少量の液体を収容するマイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液や体液等の検体に含まれる免疫成分などを自動的に分析する技術として自動分析装置が知られている。この自動分析装置は、試薬が入った反応容器に検体を加え、反応容器内の試薬との間で生じた反応を光学的に検出するものである。この自動分析装置による検体の分析に必要な試薬量は、一つの検体に対して数μl(マイクロリットル)〜数ml(ミリリットル)程度と少量で済むが、コスト的な観点から見て、分析に用いる試薬量をさらに低減することのできる技術が待望されていた。また、従来の自動分析装置は、検体や試薬を分注する分注ノズルの洗浄に用いる洗浄水の廃液量も多く、この点においてもコスト面で改善の余地があった。
【0003】
このような状況を解決しうる技術として、検体の分析に必要な要素を微小なチップ上に集積化することによって流体の秤量および混合を行うことが可能なマイクロ流体チップがある。このマイクロ流体チップは、たとえば、数μl以下の検体および試薬をそれぞれ収容可能な複数の収容部(収容セル)と、各セルに収容された検体および試薬を混合する混合セルとを有し、各収容セルが流路によって混合セルに連結されている。マイクロ流体チップを用いることによって、微少量の検体および試薬を収容セルに収容させ、流路を介して混合セルで混合させることができるため、使用量をさらに低減させることが可能となった。
【0004】
ところで、このマイクロ流体チップを用いた分析では、秤量または混合を行なう場合に所定量の検体および試薬を所定のセルまたはセル間を連結する流路に充填することが一層重要となる。特に、セルまたは流路への気泡の混入によって収容する検体または試薬が所定量以下となり、反応効率および目的物質の検出精度が低下してしまうというおそれがあった。これに対して、流路内に制御板部材を設けて、流路内を流通する流体の流速分布を制御するという技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−322822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すマイクロ流体チップは、制御板部材を設けることによって構成が複雑になっていた。なお、制御板部材によって流体の流速を制御できるものの、流路壁面または制御板流路壁面の抵抗等によって流速分布を均一にすることは困難であり、制御板部材によって分割された流体が再び合流する際に、流体の張力等によっては、気泡が発生してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、簡易な構成でセルに収容される流体の流速分布を均一にして気泡の発生を防止することができるマイクロ流体チップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるマイクロ流体チップは、流体を収容可能な内部空間を形成する収容部と、前記内部空間内に前記流体を導入する流体導入口と、前記内部空間内の気体または/および前記内部空間内に収容された前記流体を排出可能な排出口と、を備え、前記内部空間の長手方向に垂直な断面は、所定範囲となる最大幅と最大高さとの比に設定されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記比は、0.2〜1.0に設定されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記比は、0.4であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記排出口は、前記流体が前記内部空間内を流通する流通方向の終端側に設けられることを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、一端が前記内部空間と連結し、該一端から前記内部空間内に収容された流体を流出可能であるとともに、該流出方向に対して逆方向に働くラプラス力によって前記流体の流出を停止させる移送制御流路をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記移送制御流路は、他端が前記内部空間に収容された前記流体を収容可能な収容空間を形成する他の収容部と連結し、前記排出口は、前記他の収容部に設けられることを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかるマイクロ流体チップは、上記の発明において、前記内部空間の前記移送制御流路近傍は、傾斜していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、内部空間の水平成分と垂直成分との比を所定範囲内となるように形成するようにしたので、簡易な構成で内部空間に注入された液体の流速分布を均一にし、内部空間に収容された液体中への気泡の混入を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかるマイクロ流体チップの概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示すマイクロ流体チップのA−A線断面を示す断面図である。
【図3】図3は、図1に示すマイクロ流体チップのB−B線断面を示す断面図である。
【図4】図4は、本発明にかかるマイクロ流体チップの収容セルに流体が収容される様子を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1の変形例であるマイクロ流体チップの概略構成を示す模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2にかかるマイクロ流体チップの概略構成を示す模式図である。
【図7】図7は、図6に示すマイクロ流体チップのC−C線断面を示す断面図である。
【図8】図8は、秤量セルに流体を収容した場合を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態2の変形例1であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態2にかかるマイクロ流体チップを用いた秤量および移送方法を示す模式図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態2の変形例2であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の実施の形態2の変形例3であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図13】図13は、本発明の実施の形態2の変形例4であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図14】図14は、本発明の実施の形態2の変形例5であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図15】図15は、本発明の実施の形態2の変形例6であるマイクロ流体チップの構成を示す模式図である。
【図16】図16は、図15に示すマイクロ流体チップのD−D線断面を示す断面図である。
【図17】図17は、図15に示すマイクロ流体チップのD−D線断面を示す断面図である。
【図18】図18は、本発明の実施の形態2の変形例7であるマイクロ流体チップの構成を示す断面図である。
【図19】図19は、本発明の実施の形態2の変形例8であるマイクロ流体チップの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明のマイクロ流体チップを実施するための形態について説明する。本発明は、以下に例示する実施の形態や変形例に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば、種々の変形が可能である。また、図面の記載において、同一部分には同一符号を付している。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかるマイクロ流体チップ1の概略構成を示す模式図であり、図2は、図1に示すマイクロ流体チップ1のA−A線断面を示す断面図、図3は、図1に示すマイクロ流体チップ1のB−B線断面を示す断面図である。図1〜3に示すマイクロ流体チップ1は、光の80%以上を透過する光学的に透明な素材、たとえば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂を用いて本体部10が形成され、内部空間としての収容セルD10、流体導入口11、排出口12を有する。
【0019】
収容セルD10は、所定の体積となるような内部空間を有する収容部である。特に、収容セル10内が流体で充填された場合においては、注入された流体が所定体積であるか否かを判定し、秤量することができる。なお、セルの形状は、円形でもよく、角形でもよい。
【0020】
流体導入口11は、マイクロ流体チップ1の上部平面に開口を有し、収容セルD10に連通している。流体導入口11にプローブ等を挿入して検体または試薬としての流体を分注することによって、収容セルD10に流体を送り込む。
【0021】
排出口12は、流体導入口11と同様、マイクロ流体チップ1の上部平面に開口を有し、収容セルD10に連通している。流体の秤量を行なう場合、排出口12から収容セルD10内の気体および流体を排出することによって収容セルD10内を流体で充填することができ、充填された流体を秤量することが可能となる。なお、排出口12から流体を導入する場合は、流体導入口11が、収容セルD10内の気体および流体の排出を行なう排出口としての役割を担う。
【0022】
また、流体導入口11および排出口12は、それぞれ排出口、流体導入口の役割を状況に応じて担うことができる。たとえば、排出口12から流体を収容セルD10内に導入した場合は、流体導入口11が排出口の役割を担い、収容セルD10内の気体の排出を行なう。
【0023】
ここで、収容セルD10の断面について、図3を参照して説明する。図3に示すB−B線断面において、収容セルD10の最大高さL1と最大幅L2との比であるアスペクト比が0.2〜1.0の範囲になるように設定する。特に、アスペクト比が0.4に設定されることが好ましい。なお、アスペクト比の算出においては、最大高さL1と最大幅L2との値の大きい方が分母となる。図3の場合、最大高さL1に比して最大幅L2の方の数値が大きいため、最大高さ/最大幅(L1/L2)としてアスペクト比を算出する。
【0024】
収容セルD10の断面を上述したアスペクト比に設定することによって、流体導入口11から導入された流体が収容セルD10内に浸入する場合に、流体の流速分布を一定とすることができ、流速分布の不均一によって生ずる気泡の発生を防止することができる。なお、上述したアスペクト比の効果は、流体の粘性・浸透性等に因らない。
【0025】
つづいて、収容セルD10に流体を収容する流れを、図4を参照して説明する。図4は、本発明にかかるマイクロ流体チップ1の収容セルD10に流体が収容される様子を示す模式図である。図4における模式図は、マイクロ流体チップ1の上面図と、図1のA−A線断面に対応する断面図とを示している。まず、流体導入口11から流体Fを注入すると、流体Fは、収容セルD10に浸入する(図4(a))。このとき、予め収容セルD10内に存在した気体は、流体の浸入に伴う圧力によって排出口12から外部へと放出される。
【0026】
その後、流体導入口11から流体Fの注入を継続すると、流体Fは、収容セルD10内を排出口12側へと浸入していく(図4(b))。ここで、収容セルD10の流体の流通方向に垂直な断面が、上述したアスペクト比に設定されているため、流体Fの最前面は、浸入方向に対して垂直になり、流速分布が均一な状態で収容セルD10に浸入する。
【0027】
さらに注入を継続すると、収容セルD10内に流体Fが充填される(図4(c))。流体Fの均一な流速分布によって、収容セルD10内に気体が混入することなく、流体Fを収容セルD10内に充填することができる。また、収容セルD10、流体導入口11および排出口12の体積を予め設定しておくことで、収容された流体Fの体積を秤量することが可能である。
【0028】
なお、1つの収容セルに複数種の流体を連続して注入し、混合することも可能であり、予め収容セルの体積を設定することで、混合した流体の秤量を行なうことができる。さらに、収容セルの上方または下方に光源と、光源に対応する位置に受光部とを配置することで、反応物の光学的測定も可能となる。
【0029】
また、流体Fの最前面は、流体の性質によって若干弧を形成して浸入する場合もある。この場合においても、流体導入口と排出口とを結ぶ直線を軸に緩やかな弧を形成する程度であるため、流速分布はほぼ均一であるとみなすことができ、気泡の混入を防止することが可能である。
【0030】
ここで、実施の形態1にかかるマイクロ流体チップにおいて、流体導入口を収容セルの中央部に配置してもよい。図5は、本発明の実施の形態1の変形例であるマイクロ流体チップ2の概略構成を示す模式図である。図5に示すマイクロ流体チップ2は、収容セルD11の中央部に流体導入口11aを有している。流体導入口11aから注入された流体Fは、図中、矢印Y1,Y2方向に収容セルD11内を浸入していく。このとき、流体の浸入方向に対する終端は2箇所となるため、収容セルD11内に存在する気体を排出する排出口12a,12bを、それぞれの流通終端側に設ける。排出口を流体の流通方向によって複数設けることで、各流通方向に存在する気体を排出でき、収容セル内に流体を充填することができる。
【0031】
上述した実施の形態1にかかるマイクロ流体チップによって、簡易な構成で収容セルに流体を収容した際に起こる気体空間の形成等による気泡混入を防止することができる。本発明にかかるマイクロ流体チップは、たとえば、生化学、免疫学分析における検体または試薬の秤量、混合に用いることが可能であり、気泡混入の防止によって、分析精度を向上させることができる。一方、従来のマイクロ流体チップは、流体の流速分布が不均一であり、流体の各最前面の流通端部に到達するまでの時間に差が生じることによって、流体の最前面が気泡空間を形成し、その結果、流体中に気泡を保持した状態となっていた。
【0032】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について、図6,7を参照して説明する。図6は、本発明の実施の形態2にかかるマイクロ流体チップ3の概略構成を示す模式図であり、図7は、図6に示すマイクロ流体チップ3のC−C線断面を示す断面図である。図1,2に示したマイクロ流体チップ1と同様、マイクロ流体チップ3は、光の80%以上を透過する光学的に透明な素材、たとえば、耐熱ガラスを含むガラス、環状オレフィンやポリスチレン等の合成樹脂を用いて形成され、内部空間としての収容セルD12,D13、流体導入口13、排出口14を有し、収容セルD12,D13は、移送制御流路LF10によって連結されている。
【0033】
収容セルD12,D13は、上述したアスペクト比となるように断面が形成された内部空間を有する。また、収容セルD12は、収容セルD13に対して逆方向の端部に流体導入口13を有し、収容セルD13は、収容セルD12に対して逆方向の端部に排出口14を有し、流体導入口13から収容セルD12に注入された流体を、移送制御流路LF10を介して収容セルD13に送液することが可能である。
【0034】
移送制御流路LF10は、流体の流通方向に対して垂直な断面積が、1mm以下となるように形成されることが好ましく、特に、0.1mm以下が好ましい。収容セルD12に注入された流体が毛細管現象によって移送制御流路LF10に流れ込むが、移送制御流路LF10と収容セルD13との境界における拡径領域で流体の流通方向とは逆向きの力であるラプラス力が生じ、このラプラス力によって流体の流通が停止し、収容セルD13に流体が流れ込まない。また、移送制御流路LF10および収容セルD12、収容セルD13内の気体は、流体の流入に従って排気口14から排出される。流体を秤量する場合は、収容セルD12と移送制御流路LF10と流体導入口13および排出口14とを秤量単位とし、充填された流体の総量が対象となる。
【0035】
ここで、収容セルD12に流体が収容された場合について、図8を参照して説明する。図8は、収容セルD12に流体Fを収容した場合を示す断面図である。流体導入口13から分注された流体Fは、毛細管現象によって移送制御流路LF10に入り込むが、移送制御流路LF10の収容セルD13側の端部にかかる流通方向とは逆向きのラプラス力によって流体Fの流通が停止する。この流通停止によって流体Fは、収容セルD12に充填される。
【0036】
なお、移送制御流路LF10の断面積は、下式(1)によって決定される。ラプラス力は、流体の表面張力、移送流路に対する検体、試薬、または反応液の接触角、流路幅、流路深さによって決定され、毛細管力による液の流通を抑制している。ここで、γを表面張力、θを接触角、wを流路幅、hを流路深さ(移送流路の断面が円であればwと同値)とした場合、下式(1)によって決定されるラプラス力Pをもとに移送制御流路LF10の断面積を構成するwおよびhが設定される。ラプラス力Pは、任意に設定されるものとする。
P=2γ(1/w+1/h)Sinθ ・・・(1)
【0037】
また、図7に示すマイクロ流体チップ3において、収容セルD12,D13の移送制御流路LF10近傍が傾斜していてもよい。図9は、本発明の実施の形態2の変形例1であるマイクロ流体チップ3aの構成を示す断面図である。図9に示すマイクロ流体チップ3aは、収容セルD12a,D13aの移送制御流路LF10近傍において、上部が傾斜して形成されている。この構成によって、収容セルD12aから移送制御流路LF10に流体が浸入する場合に、図7に示すマイクロ流体チップ3のように流体の流通方向に対して垂直に形成される壁面と比して、流体が壁面から受ける圧力が低減されて、流体の流通にかかる圧力変化が緩和されるため、一層気泡の発生を防止することが可能となる。
【0038】
つづいて、図6,7に示すマイクロ流体チップ3を用いて、流体Fを収容セルD12において収容・秤量し、秤量された流体Fを収容セルD12に移送させる秤量および移送方法について、図10を参照して説明する。図10は、本発明の実施の形態2にかかるマイクロ流体チップ3を用いた秤量および移送方法を示す模式図である。
【0039】
まず、流体導入口13から分注対象の流体Fを注入する(図10(a))。流体Fを注入すると、収容セルD12底部から毛細管現象により移送制御流路LF10内に流体Fが入り込み、ラプラス力によって収容セルD13側の端部で流通が停止して、収容セルD12内に流体Fが充填される(図10(b))。
【0040】
移送制御流路LF10および収容セルD12への流体Fの注入が完了すると、プローブ等を用いてエアを流体導入口13から収容セルD12内部に注入し、流体Fを押圧する。流体Fが押圧されることによって、流体Fの流通方向に対する力が、移送制御流路LF10にかかるラプラス力を超えることで、ラプラス力による流通停止が解除され、収容セルD13に流体Fが流れ込む(図10(c))。エアによる押圧を継続し、収容セルD12に収容された流体Fを収容セルD13に移送完了すると、流体導入口13を封止部材Cによって封止する(図10(d))。
【0041】
なお、図10(d)に示す流体導入口13の封止を行うか否かは、任意であるが、流体導入口13を封止することによって、収容セルD12内の気体の流出が抑制でき、収容セルD12内の内部圧力を維持できるため、収容セルD12内への逆流を防止できるため、封止部材Cによって流体導入口13を封止することが好ましい。また、秤量された流体Fを回収する場合は、排気口14からピペット等によって吸引することで回収できる。
【0042】
また、収容セルの配置において、収容セルの底部が移送制御流路の底部と一致していなくてもよい。図11は、本発明の実施の形態2の変形例2であるマイクロ流体チップ4の構成を示す断面図である。図11に示すマイクロ流体チップ4は、移送制御流路LF11が収容セルD14,D15の側面と連結し、移送制御流路LF11の底部と収容セルD14,D15の底部に高低差を設けてある。これにより、移送制御流路LF11の各収容セルD14,D15側端部において、移送制御流路LF11の底部方向にも拡径領域が形成されるため、一層ラプラス力の効力を確実なものとすることができる。ここで、図7と同様、収容セルD15内の気体は、排気口14から外部に排出される。
【0043】
なお、図11に示すマイクロ流体チップ4の構成において、図9に示すマイクロ流体チップ3aのように、各収容セルの移送制御流路LF11近傍が傾斜していてもよい。図12は、本発明の実施の形態2の変形例3であるマイクロ流体チップ4aの構成を示す断面図である。図12に示すマイクロ流体チップ4aは、各収容セルD14a,D15aの移送制御流路LF11近傍が傾斜して移送制御流路LF11と連結されている。収容セルD14a内に粒子等が含まれる場合、図11に示すマイクロ流体チップ4の構成では、収容セルD14の移送制御流路LF11側の底部に滞留してしまうおそれがあるが、マイクロ流体チップ4aのように傾斜を設けることによって粒子を円滑に収容セルD15aに送り込むことが可能となる。
【0044】
また、移送制御流路の上部が、収容セルの上部と一致するように配置されていてもよい。図13は、本発明の実施の形態2の変形例4であるマイクロ流体チップ5の構成を示す断面図である。図13に示すマイクロ流体チップ5は、収容セルD16と収容セルD17とを連結させる移送制御流路LF12が、移送制御流路LF12の上部と収容セルD17の上部とが一致するように配置される。移送制御流路LF12の収容セルD17側の端部では、図8に示すラプラス力と同様の効果によって流体の流通を停止する。流体が収容セルD16に収容され、秤量された流体が収容セルD17に送液された場合、収容セルD17内部の気体は、排気口15から外部に排出される。移送制御流路LF12を収容セルD17の上部側に設けたことによって、外的な力による収容セルD16への逆流が生じた場合でも、逆流する流体を最小限に抑えることが可能である。
【0045】
なお、図13に示すマイクロ流体チップ5においても、収容セルの移送制御流路LF12近傍を傾斜するように構成してもよい。図14は、本発明の実施の形態2の変形例5であるマイクロ流体チップ5aの構成を示す断面図である。図14に示すマイクロ流体チップ5aは、収容セルD16a,D17aの移送制御流路LF12近傍が傾斜して移送制御流路LF12と連結されている。傾斜を設けることによって一層確実に移送制御流路LF12を介した送液が可能となる。
【0046】
さらに、移送制御流路内に排出口を設けてもよい。図15は、本発明の実施の形態2の変形例6であるマイクロ流体チップ6の構成を示す模式図であり、図16は、図15に示すマイクロ流体チップ6のD−D線断面を示す断面図である。図15,16に示すマイクロ流体チップ6は、所定のアスペクト比で形成された収容セルD18,D19が移送制御流路LF13a,13bを介して連結されるが、移送制御流路LF13a,13b間に液溜部CF10が形成されている。液溜部CF10は、外部に連通する排出口18を有する。図16に示すように、流体導入口16から注入された流体Fは、移送制御流路LF13aにかかるラプラス力によって移送制御流路LF13aの液溜部CF10側で停止する。このとき、収容セルD18内部の気体は、排出口17または18から外部に排出される。
【0047】
液溜部CF10を設けることによって、一方の収容セルに収容された流体が移送制御流路を介して連結される他方の収容セルの壁面近傍に到達することがないため、他方の収容セルの内部環境を未使用状態として一層確実に維持できる。また、外的な力によって移送制御流路LF13aのラプラス力による流通停止力が解除された場合でも、移送制御流路LF13bにかかるラプラス力によって流体の流通を停止させることができるため、収容セルD19側への流体の流れ込みを防止するという効果を奏する。
【0048】
特に、図6〜14に示したマイクロ流体チップでは、各収容セルに流体を収容する場合、一方の流体によって移送制御流路が封止されてしまい、他方の収容セルに流体を注入する際の予め収容セル内に存在する気体の排出先がないため、同時に2液を収容することができないが、図17に示すように、収容セルD18,D19にそれぞれ流体F1,F2を収容する場合、マイクロ流体チップ6の構成では、一方の流体が収容セルに収容された際に、排出口18によって他方の収容セルの気体が排出可能なため、2液を同時に収容することができる。
【0049】
また、収容セルの移送制御流路近傍に傾斜を設けてもよい。図18は、本発明の実施の形態2の変形例7であるマイクロ流体チップ6aの構成を示す断面図である。図18に示すマイクロ流体チップ6aは、収容セルD18aの移送制御流路LF13a近傍および収容セルD19aの移送制御流路LF13b近傍が傾斜して、移送制御流路LF13a,LF13bとそれぞれ連結している。この傾斜によって、収容セルから移送制御流路に浸入または移送制御流路から収容セルに浸入した場合に、流体の流通を円滑にすることが可能となる。
【0050】
上述した各構成は、例えば検体と試薬との反応を分析する処理に応用することができる。図19は、本発明の実施の形態2の変形例8であるマイクロ流体チップ7の構成を示す模式図である。図19に示すマイクロ流体チップ7は、検体または試薬を収容・秤量可能な収容セルD20,D21,D22と、収容セルD20,D21,D22に収容された検体および試薬を収容可能な収容セルD23とを有し、各収容セルD20,D21,D22は、移送制御流路LF14a,14b,14c,15を介して収容セルD23に連結されている。また、移送制御流路LF14a,14b,14c間は、液溜部CF11によって接続され、液溜部CF11は、排出口24を有する。各収容セルD20,D21,D22は、検体または試薬を注入可能な流体導入口20,21,22を有し、収容セルD23は、収容セルまたは移送制御流路内の気体または流体を排出可能な排出口23を有する。
【0051】
各収容セルD20,D21,D22,D23は、流路方向に垂直な断面が所定のアスペクト比となるように形成され、各流体導入口20,21,22または移送制御流路LF14c,15から送り込まれた流体を均一な流速分布で流通させることができる。また、収容セルD23は、少なくとも収容セルD20,D21,D22を加算した体積以上の内部空間を有するように形成される。
【0052】
液溜部CF11は、収容セルD20,D21に収容された検体または試薬を合流させ、移送制御流路LF14cを介して収容セルD23に送り込む。移送制御流路LF14a,14bに対して液溜部CF11側にかかるラプラス力によって、収容セルD20に収容された流体と、収容セルD21に収容された流体とが接触しないため、反応前にコンタミネーションが起こらず、一層精度の高い分析処理を行うことができる。なお、各収容セルD20,D21に予め存在する気体は、各収容セルD20,D21に検体または試薬を注入した場合に、移送制御流路LF14cを介して排出口23から外部に放出することが可能なため、排出口24を設けない構成でも実現可能である。より効率良く気体の排出を行なうため、排出口24を設けることが好ましい。
【0053】
図19に示すマイクロ流体チップ7の構成において、たとえば、生化学分析処理を行う場合、検体を収容セルD20に収容し、第1試薬を収容セルD21、第2試薬を収容セルD22に収容する。このとき、検体、第1試薬および第2試薬は、それぞれの移送制御流路LF14a,14b,15によって、流通が停止しており、検体と試薬が接触しない。
【0054】
検体、第1試薬を収容セルD23に送液する場合は、逆流を防止するため、排出口24および流体導入口22を封止部材によって封止した後、流体導入口20,21からポンプ等によってエアを送り込み、収容セルD23に送液する。また、収容セルD22に収容された第2試薬を収容セルD23に送液する場合は、流体導入口20,21および排出口24を封止して送液を行なう。ここで、排出口23の配置は、収容セルD20,D21を加算した体積に応じて、気体の排出を容易に行なうことができる位置に配置されることが好ましい。なお、各流体導入口20,21,22からの送液のタイミングは反応の順序によって如何なる順序でもよい。
【0055】
各収容セルD20,D21,D22から検体または試薬が収容セルD23に送液され、所定条件下で反応処理を行った後、マイクロ流体チップ7の上方または下方に光源、対応する位置に受光部を設置することによって反応物の光学的測定が可能である。
【0056】
上述した実施の形態2にかかるマイクロ流体チップを用いることで、簡易な構成によって、気泡の混入なく、所望の流体を収容セルに収容させることができ、また、移送制御流路を介して送液することで複数の流体を混合することが可能である。
【0057】
なお、移送制御流路を介して収容セルに流体を送液する場合も、送液先が所定範囲内にアスペクト比が設定された収容セルであるため、気泡の発生を防止し、気泡の混入なく、流体を混合することができる。また、液溜部を設けることで、各セルに収容された流体が接触することなく、秤量および混合することが可能となるため、一層確実な処理を行うことが可能であり、段階的な処理にも対応できる。
【0058】
さらに、上述した実施の形態2において、移送制御流路の内部表面は、少なくともラプラス力が生じうる箇所が疎水性となるように形成されることが好ましい。また、移送制御流路の流路長は、如何なる流路長でもよく、流路が屈曲していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
以上のように、本発明にかかるマイクロ流体チップは、正確な秤量を行なう場合に有用であり、特に、微量分析における秤量・混合処理に適している。
【符号の説明】
【0060】
1〜7,3a,4a,5a,6a マイクロ流体チップ
11,11a,13,16,20,21,22 流体導入口
12,12a,12b,14,15,17,18,23,24 排出口
D10〜D23,D12a,D13a,D14a,D15a,D16a,D17a,D18a,D19a 収容セル
LF10,LF11,LF12,LF13a,LF13b,LF14a,LF14b,LF14c,LF15 移送制御流路
C 封止部材
CF10,CF11 液溜部
F,F1,F2 流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容可能な内部空間を形成する収容部と、
前記内部空間内に前記流体を導入する流体導入口と、
前記内部空間内の気体または/および前記内部空間内に収容された前記流体を排出可能な排出口と、
を備え、前記内部空間の長手方向に垂直な断面は、所定範囲となる最大幅と最大高さとの比に設定されることを特徴とするマイクロ流体チップ。
【請求項2】
前記比は、0.2〜1.0に設定されることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
前記比は、0.4であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
前記排出口は、前記流体が前記内部空間内を流通する流通方向の終端側に設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
一端が前記内部空間と連結し、該一端から前記内部空間内に収容された流体を流出可能であるとともに、該流出方向に対して逆方向に働くラプラス力によって前記流体の流出を停止させる移送制御流路をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のマイクロ流体チップ。
【請求項6】
前記移送制御流路は、他端が前記内部空間に収容された前記流体を収容可能な収容空間を形成する他の収容部と連結し、
前記排出口は、前記他の収容部に設けられることを特徴とする請求項5に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項7】
前記内部空間の前記移送制御流路近傍は、傾斜していることを特徴とする請求項5または6に記載のマイクロ流体チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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