説明

マイクロ流体デバイス内でオンボード試薬を脱水保存する組成物および方法

分子生物学的検査のためのオンボード試薬を伴う、内臓型マイクロ流体カートリッジデバイスを作製するための製造方法および組成物が記載される。高感度の試薬を、凍結乾燥することも凍結することもなく、乾燥形態で保存し、使用の時点で、生物学的試料または試料溶出物により使用の時点で復元する。製造方法は、試薬を所定位置にプリントし、個別のマイクロ流体カートリッジ内に密封してからゲルをガラス化させる、シート製作工程およびロール製作工程を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、米国特許法第119条(e)項の下、2009年6月12日に出願された米国仮特許出願第61/186,442号の利益を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
背景
分野
本発明は一般に、オンボードの脱水試薬を有し、試薬を、凍結乾燥させることなく、脱水により安定化させる、マイクロ流体カートリッジによる分子診断アッセイの分野、ならびにこのような試薬を有するマイクロ流体カートリッジの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
先行技術の説明
マイクロ流体カートリッジは、それらが簡便であり、未熟練の作業者でも作動させることができ、廃棄処理が容易であるため、診断分子生物学に極めて適切である。各カートリッジは、試料を添加するだけでよいように、特定のアッセイのためのすべての試薬を含有する。次いで、カートリッジを自動式装置に挿入するだけで、アッセイが実施される。しかし、1990年代の初期に初めて構想されて以来、これらのカートリッジを開発するには20年間を要し、市販化への障害はなおも存在する。意図される使用者の大半は、凍結保存設備へのアクセスを欠くため、カートリッジの保管寿命が特に懸念されている。
【0004】
水分感受性の試薬を、長期間にわたり室温で保存するのに「凍結乾燥」が用いられて成功しているが、マイクロ流体カートリッジの製造は、工程の一部としての凍結乾燥の使用を、容易には許容しない。部分的に組み立てられたデバイスのウェルまたはチャネル内に試薬を入れた後で、さらなる組立てが要求される。粉末または遊離球体は、適正な位置から取り除かれる場合もあり、適正な位置に据えることができない場合もあり、シートまたはロールから形成されるカートリッジを高速で組み立てることを妨げる。乾燥試薬はまた、接着剤の使用も妨げる場合がある。マイクロ流体カートリッジの最終的な組立ては、商業的規模での凍結乾燥技術に容易には適合しない、マスキング除去、積層化、接着、および/または超音波溶接のための手順を必要とする。また、マイクロ流体カートリッジを組み立てる際に遭遇する多湿環境または高温環境は、製品が完全に組み立てる前に既に、凍結乾燥させた試薬を不活化しうる。
【0005】
代替的に、ガラス形態における脱水は、凍結温度を超える温度で保存中の酵素または試薬の機能を保存することが公知であるが、この技術は結果の予測が極めて困難であり、具体的な成功を期待できないので、研究される各試薬に応じて方法および組成物を変更させなければならない。
【0006】
分子生物学アッセイ用の内蔵型マイクロ流体カートリッジを組み立てるのに要求されうるタンパク質試薬には、TAQポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、逆転写酵素、RNアーゼH、プロテイナーゼK、免疫グロブリン、ルシフェラーゼ、ピロホスファターゼ、クロモペプチダーゼ、リゾチームなどが含まれる。光、水分、または熱に対する感受性を有する可能性がある他の試薬には、ヌクレオチド三リン酸、デオキシヌクレオチド三リン酸、プライマーおよびプローブが含まれる。
【0007】
PCRは、分子生物学アッセイ大ファミリーの根幹をなしており、現在のところ、マイクロ流体カートリッジのフォーマットでは使用できない多くの分子診断法のゴールドスタンダードである。PCRを、マイクロ流体フォーマットへと適応させることは、TAQポリメラーゼ、逆転写酵素、デオキシリボヌクレオチド三リン酸、プライマーおよびプローブを含めた試薬をオンボードで安定的に保存する方法を開発することを伴う。Thermus aquaticusにおいて最初に発見されたために、「TAQポリメラーゼ」と一般的に称される、PCRで使用される好熱性生物のDNAポリメラーゼは、室温で保存するために安定化させるのが特に困難であることが分かっている。にもかかわらず、室温中のマイクロ流体デバイス内において室温で商業的に有用な保管寿命を有するPCR製品の開発では、この問題の解決に依存している。
【0008】
TAQは、5’−3’ポリメラーゼ活性およびエクソヌクレアーゼ活性を有するが、他のポリメラーゼが有する3’−5’プルーフリーディング能は有さない。しかし、その酵素構造物は、他のDNAポリメラーゼに共有されており、DNA鋳型の結合に関連する深い窪み(cleft)により分断された、対向性のサム−パームドメイン(opposable thumb−palm domain)を含有する。TAQポリメラーゼの熱安定性と関連特色には、Lysに対するArg、Aspに対するGlu、Glyに対するAla、Serに対するThrの比が大きいこと、ならびにシステインが見られないことが含まれる。疎水性相互作用、水素結合による相互作用、静電相互作用、ならびにファンデルワールス相互作用により、高温でのフォールディングが確立および維持されている。
【0009】
酵素は、それらの触媒機能およびフォールディングと関連する協同的運動および可撓性を有する、複雑に折り畳まれたナノ機械である。特定の構造サブドメインは、構造が比較的固定されているが、他の構造サブドメインは、より流動性であり、かつ動的である。保存中には、脱水により天然状態を保存することが理想的であるが、脱水は、あるレベルでフォールディングの不安定化を結果としてもたらすことが極めてよく観察される。酵素のアンフォールディングからは変性および活性の喪失が結果として生じ、脱水(または凍結)後における構造の変化は、再水和後に、活性な「天然状態」の形態へのリフォールディングが生じないほどに重大でありうる。
【0010】
酵素構造物における水の役割は、堅固に確立されている。タンパク質の水和度は、「Dh」で表わすことができ、Dh≒0.4(g HO/g タンパク質)は、タンパク質を取り巻く水の完全水和殻または単層を示唆する。中間レベルの水和もまた、公知である。Dh≒0.15〜0.2のとき、水は、より極性の表面およびよりイオン性の表面と会合するのに十分であるに過ぎず、酵素活性は失われる。大半の凍結乾燥工程は、Dh≒0.02を結果としてもたらす。水の誘電遮蔽がなければ、静電相互作用の結果として変性が生じうる。水は、水和殻内の水素結合を絶え間なく切断および再形成することにより(疎水性相互作用および親水性相互作用の両方をもたらす)、ならびにペプチド間相互作用および側鎖間相互作用を介して、αヘリックスモチーフおよびβターンモチーフなどの二次構造および三次構造を誘導することにより、タンパク質構造を支配する。溶媒としての水の液晶能および水素結合能により、酵素の構造ドメインの運動が、潤滑化または「可塑化」される。
【0011】
アモルファス固体は、再水和が対応する結晶状態の場合より急速に進行するため、試薬の「乾燥」保存には、アモルファス固体が好ましい。タンパク質は、過剰の水により再水和すると、制御された形で脱ガラス化を経る、固体で非吸湿性のガラス状マトリックス内で安定化させることが理想的である。好ましい状態は、液体を過冷却することにより形成されるガラス状態と共通するところが多い。同様に、タンパク質ドメインは、低分子およびポリマーにおいてガラス状態を形成させるT(ガラス転移温度)に類似する温度T(動的転移温度)以下の、アモルファス「ガラス」状態またはアモルファスゲル様状態で凍結させることもできる。T未満では、タンパク質のアンフォールディングが有効に阻害される。同様に、臨界レベルまで脱水させることは、タンパク質のアンフォールディングの阻害を随伴しうる:Dh<0.2では、水和殻が斑状であり、室温で供給可能な熱エネルギーが、タンパク質を変性させるのに十分であっても、タンパク質ドメインのアンフォールディングに関連する水素結合の再編成を遂行するには水分子が不十分である。
【0012】
乾燥保存中において、タンパク質を変性から保護する分子である、リオプロテクタントからなるガラス内でタンパク質を脱水させることは、特に興味深い。リオプロテクタントの活性は、リオプロテクタントが、水素結合および疎水性結合を介してタンパク質と直接相互作用し、水を除去することの変性効果を何らかの形で補正すると考えられる、「水置換モデル」によりおそらく最もよく説明される。例えば、グリセロールは、タンパク質の水和殻内の水に代えて置き換わり、脱水タンパク質を、水の立体構造の不安定性を伴わないとはいえ、再水和可能な形態へと可塑化するのに有効であると考えられる。
【0013】
したがって、ガラス形成分子との親密な混合物中でタンパク質を冷却することにより形成されるアモルファスガラス状態と、この混合物を脱水させることにより形成されるアモルファスガラス状態とを、共通の枠組みを用いて考えることができる。いずれの場合にも、固体の生成物は、糖などのアモルファスガラス中で「溶媒和した」および分子分散している、多様な程度の天然状態を有するタンパク質のコンフォーマーからなる。例えば、タンパク質と糖との混合物は、その混合物の組成に比例して、糖のTとタンパク質のTとの間の中間的なバルクTを有することが、熱量測定により判明している。同様に、その機構が完全に理解されているわけではないが、タンパク質を、適切なリオプロテクタントと親密に会合させることにより、タンパク質のTを調節することもできる。したがって、脱水タンパク質の立体構造は、ガラスの分子構造と何らかの形で結合すると考えられる。
【0014】
候補リオプロテクタントには、一般にポリヒドロキシ化合物(PHC)が含まれ、特に、各種の糖(単糖、二糖、三糖、およびオリゴ糖)、糖アルコール、ならびに各種のポリヒドロキシ性低分子およびポリヒドロキシ性ポリマーが含まれる。ラクチトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、エリトリトール、ミオイノシトール、トレイトール、ソルビトール(グルシトール)、およびグリセロールが、糖アルコールの例である。非還元糖には、スクロース、トレハロース、ソルボース、スタキオース、ゲンチアノース、メレチトース、およびラフィノースが含まれる。リオプロテクタントである糖誘導体には、中でも、メチルグリコシドおよび2’デオキシグルコースが含まれる。糖酸には、L−グルコン酸およびその金属塩が含まれる。大半の適用にはそれほど好ましくない還元糖には、フルクトース、アピオース、マンノース、マルトース、イソマルツロース、ラクトース、ラクツロース、アラビノース、キシロース、リキソース、ジギトキソース、フコース、クエルシトール、アロース、アルトロース、プリメベロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、グリセルアルデヒド、アロース、アピオース、アルトロース、タガトース、ツラノース、ソホロース、マルトトリオース、マンニノトリオース、ルチノース、シラビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、およびグルコースなどの還元糖が含まれる。ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチルイミン、ペクチン、セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ヒドロキシエチルデンプン、可溶性デンプン、デキストラン、Ficoll(登録商標)などの高分岐状、高分子量の親水性多糖もまた有用である。ガラス形成性のアルブミン、ゼラチン、およびアミノ酸もまた使用される。試行錯誤により、各標的タンパク質に応じて異なることが典型的な、上記の有用な混合物もまた発見されている。
【0015】
ガラス形成の成功はまた、冷却速度、濃度、圧力、および種結晶の存在または不在など、他のプロセスパラメータにも感受性であることが公知である。ガラスとは、準安定状態であることを想起しなければならない。これらの複雑系の困難は、WO1996/033744から取った以下の例により例示されるが、この例では、2%の残留水を伴う95%のラクトース中2%のカルシトニンによるアモルファス固体の凍結乾燥組成物の温度を、そのTである40℃を超えて上昇させたところ、ラクトースの侵入結晶化、ならびにこの結晶相から排除された60%の水および40%のタンパク質からなる結晶化水の形成が結果として生じたことが報告された。溶液相のガラス温度は凍結温度未満であったので、結果として、タンパク質は、室温で極めて急速に生物学的活性を喪失した。スクロースの結晶化に伴う酵素の不活化についても同様に言及されている(非特許文献1)。
【0016】
失効した特許文献1で開示される通り、Rosenは、タンパク質を室温で乾燥させ、凍結乾燥および噴霧乾燥の過酷な条件を回避すると、Tがラクトースまたはスクロースより高温であるトレハロースがリオプロテクティブとなることを発見し、この方式で蛍光マーカーもまた脱水しうることを報告した。Rosenは、糖:タンパク質比が、1.4:1〜10:1であることを示唆した。トレハロースは、水が除去されたとき、高分子の構造的完全性を維持する乾燥した足場として作用することが提案された。これらの知見は、他の文献でさらに拡張され(非特許文献2)、および特許文献2では、製剤がまた、メイラードの褐変反応に対する阻害剤も包含する限りにおいて、ラクトースまたはスクロースを含めた各種の炭水化物を用いうることが報告された。ガラス化させた生物学的物質の活性が失われるときの酸素、光、および化学反応の重要性についての見解と共に、関連する結果が、Franks(特許文献3)およびWettlaufer(特許文献4)により報告されている。
【0017】
スクロース、ソルビトール、メレチトース、およびラフィノースもまた、好ましいリオプロテクタントとして示唆されている。しかし、知るところでは、乾燥TAQを、凍結乾燥させることなく、トレハロースまたは他の任意の糖により長い安定保存期間にわたり安定化させることに成功したという報告はなされていない。これに対して、Madejonの主張(図5=出典:米国特許出願第10/292848号のファイルラッパー)するところでは、トレハロースが、4℃で1週間にわたり保存した乾燥試薬形態において、せいぜいのところ、部分的に保護的であるにとどまり、37℃で1週間後には、リオプロテクタントなしの基準PCR混合物が、リオプロテクタントを有する乾燥試薬より大きな残留活性を有することが示された。Madejonは、メレチトース自体はまったく保護的でないことをさらに示している。本明細書では図5として再現されているゲルについて言及すると、レーン1〜9(ラダーの間)は、4℃における反応成分の保存後に実行し(run)、レーン10〜18は、37℃における保存後に実行した(「M」=メレチトース、「L」=リジン、「G」=グリコーゲン、「T」=トレハロース、「S」=リオプロテクタントなしの基準混合物)。
【0018】
少量の水を添加しても、他の糖の場合のようにTが低下しないという点で、トレハロースは、通常と異なるか、または並はずれてさえいると報告されてきた(非特許文献3)。それどころか、トレハロースの二水和物結晶が形成され、これにより、残りのガラス状トレハロースを、添加された水の効果から遮蔽している。しかし、米国特許第6071428号において、Franksは、この効果が顕著なものではなく、ラフィノース五水和物もまた、酵素を乾燥状態で保存するのに有用であることを示している。この結晶性の五水和物は、これを取り巻く、無水物のガラス状態と共に共存することが報告されている。これらの水和糖は一般に、変性に有利に働く、結晶化水の形成または侵入性の結晶化と関連しない。
【0019】
特許文献5において、Arieliは、凍結温度を超えた温度で乾燥させることにより、典型的には、55℃で1〜3時間にわたり乾燥させることにより、BSAと組み合わせた、スクロース、トレハロース、メレチトース、糖アルコール、および還元糖などの安定化剤によりTAQを安定化させることを提起している。該出願で例示されている質的データは、一晩または短期間にわたる保存後におけるTAQの活性を実証している。しかし、乾燥工程において達成された水和度(Dh)についてはなにも示唆されていないが、既に公知の通り、TAQは、水溶液中室温で一晩にわたり完全な活性を維持しており(図6=出典:Marenco Aら、2004年、「Fluorescent−based genetic analysis for a microfluidics device」、カナダ防衛研究開発契約第W7702−00−R849/001/EDM号最終報告書)、短期間の保存でもおそらく完全な活性を維持する。したがって、達成された脱水およびガラス状態が、数カ月間または数年間にわたる長期の保存に十分であったかどうかは不明である。Rosado(特許文献6)は、TAQが、完全に水和した「ゲル化」形態で最も良好に安定化すると論じたが、開示されたデータは、安定性が達成されたのは限定された期間に過ぎないこと、おそらく、数日間または数週間であることを示唆する。
【0020】
例えば、特許文献7では、商業的TAQ凍結製剤の開発について報告されている。しかし、凍結保存は、マイクロ流体カードが使用されるポイントオブケア施設では利用可能でないことが典型的である、特殊な設備を必要とる。また、TAQ調製物の凍結乾燥に成功したことについて、一群の研究者が報告していることも注意される。これらには、Walker(特許文献8)、Treml(特許文献9)、およびParkら(特許文献10および特許文献11)が含まれる。Parkは、グルコース、ソルビトール、スクロース、またはFicoll(登録商標)の存在下におけるTAQの凍結乾燥について記載している。Klatser PRらは、凍結保護物質としてのトレハロースと、Triton X−100とを使用する凍結乾燥PCRミックスについて記載している。Klatserは、調製の最長で1年後において再水和させたときの、それらの凍結乾燥混合物のTAQ活性を見出した。賦形剤と共にTAQを含有する市販の凍結乾燥ビーズ(Ready−to−Go PCRビーズ、Amersham Bioscinces;Sprint(商標)Advantage(登録商標)、Clontech、Mt View CA)もまた利用可能である。これらの製品は吸湿性であり、かつ、湿度に対して感受性であるため、凍結乾燥させたら即座に密封しなければならない。これらの製品はまた、超純水による再水和過程において、ならびにその後の使用前において、氷上に保持しなければならず、試薬オンボード(reagents−on−board)の次世代型マイクロ流体デバイスにおけるそれらの使用を、不可能ではないにせよ、困難なものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】米国特許第4891319号明細書
【特許文献2】米国特許第5955448号明細書
【特許文献3】米国特許第5098893号明細書
【特許文献4】米国特許第5200399号明細書
【特許文献5】国際公開第2007/137291号
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0119042号明細書
【特許文献7】米国特許第6127155号明細書
【特許文献8】米国特許第5565318号明細書
【特許文献9】米国特許第5763157号明細書
【特許文献10】米国特許第5861251号明細書
【特許文献11】米国特許第6153412号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Schebor Cら、2008年、「Glassy state and thermal inactivation of invertase and lactase in dried amorphous matrices」、Biotech Progress、13巻:857〜863頁
【非特許文献2】Colaco Cら、1992年、「Extraordinary stability of enzymes dried in trehalose: simplified molecular biology」、Bio/Technology、10巻:1007〜11頁
【非特許文献3】Crowe JHら、1998年、「The role of vitrification in anhydrobiosis」、Ann Rev Physiol、60巻:73〜103頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
これに対し、次世代型マイクロ流体デバイスは、試薬が再水和する間に氷または純水の使用が可能でないように構成されている。該デバイス試薬は、試料により、または、例えば、Boom(米国特許第5234809号)の方法により試料から調製される溶出物により再水和することが典型的である。したがって、当技術分野では、PCR試薬ミックスのの関連において、凍結乾燥を伴わず、マイクロ流体カードによる高感度診断アッセイの実践的な商業化に十分な長期の保存期間にわたり十分な信頼性を保持する、DNAポリメラーゼの環境(ambient)安定化を達成する方法が、依然として必要とされている。
【0024】
したがって、最新の開示も、TAQポリメラーゼを、凍結乾燥することなしにまたは凍結させることなく、長期間にわたり安定的に乾燥保存するのに適する製剤を可能としてはいないようである。マイクロ流体デバイスを診断適用へと商業化することが成就へと近づくにつれ、この問題に対する実現可能な解決策が、より緊急に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
簡単な要旨
核酸アッセイのための分子生物学試薬、特に、TAQポリメラーゼを、マイクロ流体カード上で室温乾燥保存することは、困難であることが分かっている。本明細書で実証される通り、試薬は、リオプロテクタントを含有するマトリックス中に液体形態でプリントされる。自動式プリントデバイスにより、カード型デバイス製作物を破壊する、凍結ステップまたは凍結乾燥ステップなしに、該カードのマイクロ流体チャネル内に、生物学的物質を伴うマトリックスの液滴がマイクロリットル単位でプリントされる。典型的には、制御された室温で約10分間にわたり乾燥させることにより、液滴マトリックスをゲル化させると、カートリッジの組立てが完了する。適切な場合、この工程により、6カ月以上の安定保存期間が達成されるが、これは、商品化に十分な期間である。
【0026】
TAQポリメラーゼに関して、約75℃における多くのTAQポリメラーゼのVmaxにより証拠立てられている通り、高温環境に活性を適応させた酵素は、高いTを有する可能性があり、その天然状態を最良の形で保存するためには、ガラス化した状態において、比較的高いTを有するガラスと結合させるべきであると、本発明者らは論証した。試薬材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)など、表面活性の低い表面上にプリントされることが好ましく、乾燥時および再水和の間に、界面吸着および変性を受けるため、特に、マイクロ流体デバイス内で乾燥保存する間に、TAQの高度に折り畳まれた構造物をを安定化させるには、界面活性剤など、他の賦形剤が必要でありうることもまた、本発明者らは認識した。不動態化(passivation)の方法もまた、採用した。試薬を所定位置にプリントしたら、積層化または超音波溶接により、マイクロ流体デバイスをさらに加工して、完成したカートリッジ本体を形成する。密封された試薬を含有する、合成物のプラスチックシートまたはロールを凍結および真空加工することは技術的に困難であるため、凍結乾燥ステップには適合しない工程である、ロールツーロール製法およびシートバイシート製法が、試薬を分注した後にゲルをガラス化させる自動式プリンターを使用ことで可能になる。
【0027】
制御された室温における乾燥期間の後、該方法により、密封された防湿性バッグ内で、ゲル乾燥剤の使用に依拠して、カートリッジ本体内で酵素のガラス化が完了する。試料注入ポートおよび廃棄口により、これを介してDh<0.2のゆっくりとした脱水過程を継続させる開口部が、カートリッジ本体に提供される。したがって、酵素は、脱水期間の数週間にわたり、部分的な水和状態を経過する。理論により拘束されることなく述べると、糖または他のポリオールが水素結合ドナーとしての水に代えて徐々に置き換わる間、酵素を天然状態で安定化させるには、長期間にわたる漸進的な時間−脱水曲線が不可欠であると、本発明者らは考える。驚くべきことに、この乾燥過程の間、TAQ活性が実際に急激に上昇することを、本発明者らは見出している。具体的ないかなる理論にも拘束されることなく述べると、体積オスモル濃度が細胞内の細胞質ゾルにより酷似する、部分的水和状態でのリフォールディング過程を介して、凍結ショック下にあるコンフォーマーの潜伏性活性が回復されることとして、本発明者らはこれを説明する。この過程の間、ゲルから複合体ゲル様ガラスへと物質状態が変化すると、糖のTが高いために、室温を超える複合体T(すなわち、混合物中の複数のガラス前駆体から結果として生じる)が発生する。
【0028】
高分子量ポリエチレングリコール(PEG)、セルロースガム、アルブミンまたはゼラチン、増強剤、アミノ酸、ならびに、必要に応じて選択されるフッ素系界面活性剤を含めた共リオプロテクタントがこの過程において有用であり、複合体Tに寄与することが判明した。理論により拘束されることなく述べると、共リオプロテクタントは、糖により形成されるバルクのゲルガラスを破壊することなく、タンパク質殻と選択的に会合しうると考えられる。記載される方法は、TAQポリメラーゼについて最適化されているが、必要な場合は、マイクロ流体カートリッジを作製するロールツーロール工程またはシートバイシート工程との不適合性がなしで、要求に応じて、dNTP、DNAポリメラーゼ一般、RNAポリメラーゼ一般、逆転写酵素、プロテイナーゼK、RNアーゼH、プライマーおよびプローブなど、他の生物学的試薬を安定化させるのにも必要な場合適応させることができ、かつ、これに有効である。
【0029】
凍結乾燥状態および凍結保存状態が要求されないことが有利である。それに限定されず、一般的方法は、診断的核酸アッセイのためのマイクロ流体デバイスおよびキットを製造するのに広く使用される。適切であれば、これらの方法により大量生産されるマイクロ流体カートリッジは、保管寿命が6カ月を超える。
【0030】
本発明の教示は、付属の図面および特許請求の範囲と共に、以下の詳細な記載を考え合わせることにより、よりよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、核酸アッセイ用の取外し可能なマイクロ流体カートリッジのシートを示す図である。シートは、個々のマイクロ流体カートリッジの製造における中間体である。この場合のシートは、8つの取外し可能なマイクロ流体カートリッジを含有する。
【図2】図2Aおよび2Bは、最終組立ての間において、マイクロ流体カートリッジ上に試薬スポットをプリントするステップを概略的に例示する図である。図2Aは、4つの液体試薬スポット(黒丸)を有する下層を示す図である;図2Bは、ゲル状スポット(白丸)を封入する、組立てが完成したカートリッジを示す図である。
【図3】図3A〜3Dは、液体の試薬をマイクロ流体チャネルまたはチャンバー内に適用しうる数種の構成を例示する図である。液体の試薬が所定の位置でゲル化してから、最終の組立てを行う。
【図4】図4A〜4Dは、オンボードの試薬ならびにペルチエ型の熱サイクリング能を有するマイクロ流体カートリッジの代替的な構成を概略的に表わす図である。
【図5】図5は、脱水された各種の反応混合物中にPCR増幅産物が存在することを実証する先行技術のゲルを再現する図である。図は、米国特許出願第10/292848号のファイルラッパーに記録されるA Madejon(図1、上パネル)による陳述物から複製されている。
【図6】図6は、一晩にわたりTAQ試薬溶液を保存した後においてPCR増幅産物が存在することを実証する先行技術のゲルを再現する図である。
【図7】図7は、2カ月間にわたる乾燥保存後におけるTAQ製剤を比較する棒グラフである。
【図8】図8は、新たに調製した湿潤反応混合物(未乾燥)のTAQ活性に対して、再水和後における乾燥混合物のTAQ活性を示すrtPCR曲線である。
【図9】図9は、室温のメレチトースガラスにおける漸進的なガラス化の間に、TAQ効力が、商業的に供給された原液を上回って上昇することを示す棒グラフである。
【図10】図10は、選択された賦形剤を伴うメレチトース対トレハロース中おける、ガラス状保存後のTAQ効力を示す棒グラフである。
【図11】図11は、賦形剤であるフッ素系界面活性剤FC−4430(3M Corp)を伴うガラス状保存後におけるTAQ効力を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
本明細書で定義される意味のうちのあるものは、本発明者らが意図する通りに定義される、すなわち、それらは内在的な意味を持つ。本明細書で使用される他の語および語句は、当業者に明らかな用法と符合する意味を持つ。引用される業績を参照により組み込む場合、本明細書で使用される意味と齟齬を来すか、またはその意味を狭める、参考文献中の語の任意の意味または定義は、前記参考文献に特異であると考えるものとし、本明細書の開示で使用される語の意味を超えないものとする。
【0033】
定義
リオプロテクタント:タンパク質、プライマー、またはプローブ、例えば、TAQポリメラーゼを、乾燥保存中における変性ならびに生物学的活性の喪失から保護する分子である。多くのリオプロテクタントはポリオールであるが、このクラスにはまた、アミノ酸、ペプチド、タンパク質のほか、PHC、糖、ポリビニルピロリドン、PEGなども含み得る。定義にはまた、第1の物質、ならびにこの第1の物質と共に協同的な保護効果を有する第2の物質を混合物中で用いる、共リオプロテクタントも含まれることを理解すべきである。
【0034】
「T」とは、それを超えるとアモルファスガラス物質の粘稠度が急速に低下し、ゲルから可変性のプラスチックを経て液体へと進行する温度であり、逆にそれを下回るとアモルファス非晶質の固体が形成される温度でもある、ガラス転移温度である。Tが40℃以上であると、室温における試薬の安定性が確保されるが、TAQポリメラーゼについてはこれが未知であると考えられている。一般に、Tは、示差走査熱量測定(DSC)を使用して決定され、転移の始点、中点、または終点として定義されうる。技術的詳細は、「Differential Scanning Calorimetry Analysis of Glass Transitions」、Jan P. Wolanczyk、1989年、Cryo−Letters、10巻、73〜76頁(1989年)ならびにGibbs JH およびEA DiMarzio、1958年、「Nature of the Glass Transition and the Glassy State」、J Chemical Physics、28巻:373〜393頁において記載されている。本方法で有用なガラスは一般に、純粋のガラス前駆体からは形成されず、かわりにリオプロテクタント、ならびに共リオプロテクタント、共溶媒、共界面活性剤、または混合物として添加された賦形剤から形成され、したがって、「複合体ガラス」と称する。これらの複合体ガラスは、中間体ガラスの特性および「ゲル様」の特性を有する場合があり、水和値が、約0.01≦Dh≦0.4、より好ましくは0.022≦Dh≦0.2の範囲にある。複合材料のTは一般に、個々の構成要素のT値に依存する(Franks, F、1994年、「Long term stabilization of biologicals」、Bio/Technology、12巻:253〜56頁)。保存について意図される温度を20℃上回るTが好ましい。
【0035】
プローブ:「プローブ」とは、室温で安定的な二本鎖(double 5 helix)を形成するのに十分な相補性を有する相補的塩基対合により標的の核酸に結合することが可能な核酸である。プローブは標識することができる。プローブに結合しうる適切な標識には、放射性同位体、フルオロフォア、発色団、質量標識(mass label)、高電子密度粒子、磁性粒子、スピン標識、化学発光を発生させる分子、電気化学的な活性分子、酵素、補因子、および酵素基質が含まれるがこれらに限定されない。蛍光プローブには、Syber Green(登録商標)(Molecular Probes)、臭化エチジウム、またはチアゾールオレンジ、FRETプローブ、TaqMan(登録商標)プローブ(Roche Molecular Systems)、分子ビーコンプローブ、Black Hole Quencher(商標)(Biosearch Technologies)、MGB−Eclipse(登録商標)プローブ(Nanogen)、Scorpions(商標)(DxS Ltd)プローブ、LUX(商標)プライマープローブ(Invitrogen)、Sunrise(商標)プローブ(Oncor)、MGB−Pleiades(Nanogen)などの挿入プローブなどが含まれる。プローブ技術における近年の進歩については、例えば、Lukhtanov EAら、2007年、「Novel DNA probes with low background and high hybridization−triggered fluorescence」、Nucl Acids Res、35巻:e30頁により総説されている。
【0036】
「安定保存期間」とは、乾燥試薬混合物が、生物学的活性を保持しながら、制御された条件下でマイクロ流体カード内に保存される期間、例えば、「保管寿命」を指す。生物学的活性材料の生物学的活性がPCR増幅を実施する任意の所与の時間において有効であれば、TAQポリメラーゼは、試薬組成物中の「その生物学的活性を保持する」。保管寿命が6カ月間を超える組成物が好ましい。
【0037】
マイクロ流体カートリッジ:慣例では少なくとも一方向の寸法が500um未満である、流体操作のための内部的メソ構造を有する「デバイス」、「カード」、または「チップ」である。これらの流体構造には、例えば、マイクロ流体チャネル、チャンバー、バルブ、ベント、ビア、ポンプ、注入口、ニップル、および検出手段が含まれうる。
【0038】
マイクロ流体チャネルは、z方向の寸法(高さまたは深さ)が500um未満、より好ましくは約150um(約4ミル)以下であり、一般に断面領域の幅が深さより大きい、封入型の導管または通路である。チャネルが最も狭い方向の寸法が、流量、レイノルズ数、圧力低下に最も重大な影響を及ぼし、本明細書で記載するデバイスでは、最も狭い方向の寸法は、z方向の寸法または直径であることが典型的である。射出成形により形成される場合、チャネルの天盤および壁面は、放射面(radius)により接合されることが典型的である。一部のマイクロ流体チャネルは、円形の断面を有し、直径により特徴づけられる。他の形状もまた可能である。
【0039】
本明細書で使用される「上部」、「底部」、「上方」、「下方」、「側面」、「天盤」、「床面」、および「基底層(base)」という語は相対的な用語であり、そのように明示的に述べられない限り、地表平面に対するデバイスまたはデバイス構成要素の配向性を必ずしも記載するわけではないことが認識されよう。テーブル表面上にフラットなデバイスの使用が好ましいことは、限定的であることを意図するものではなく、z軸が一般にデバイス本体の主平面に対して垂直であるように選択することは、説明および製造の便宜の問題であるに過ぎない。
【0040】
「従来の」とは、本発明が関する先行技術において公知のものを指示する用語である。
【0041】
「約」および「一般に」とは、ばらつきが重要でないか、明白であるか、または有用性もしくは機能が同等である「おおむね」の意味における、「多かれ少なかれ〜」、「近似的に〜」、または「ほぼ〜」である状態を説明する、不正確さを含む広がりのある表現であり、基準、規則、または限界に対してわずかの例外が明白に存在することをさらに示す。
【0042】
文脈が別段に要請しない限り、以下の明細書および特許請求の範囲全体において、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」など、その変化形は、すなわち、「〜が含まれるがこれらに限定されない」のような開かれた包含的な意味で理解するものとする。
【0043】
PCR用のマイクロ流体デバイスの工学的作製および操作
マイクロ流体デバイスの表面積対体積比が高いことが典型的であるために、該デバイス内でのPCRは難題である。試料の反応体積が数マイクロリットルであることが典型的であり、チャネルおよびチャンバーの寸法は、幅が500マイクロメートル未満であり、深さはおそらくその10〜20%であることが典型的である。本発明のマイクロ流体デバイスは、好ましくはプラスチックから大量生産される小型の化学反応槽であり、あらかじめプリントされたアッセイ試薬を含有する微細なチャネルおよびチャンバーを有する。
【0044】
好ましい実施形態では、デバイスが、核酸診断アッセイを実施するための、使い捨ての内蔵型器械であるように、診断アッセイを実施するのに要求されるすべての試薬が、その内部にあらかじめ配置されている。必要に応じて、デバイスはまた、オンボードの希釈剤、洗浄液、およびアッセイにおいて生成されるすべての廃液を含有するのに十分な体積の廃液トラップも含有する。
【0045】
本発明を実施するのに適するマイクロ流体カードのデザインおよび特色の詳細は、例えば、それらのすべてが本出願者に共譲渡された米国特許出願第12/207627号、「Integrated Nucleic Acid Assays」;同第11/562611号、「Microfluidic Mixing and Analytical Apparatus」;同第12/203715号、「System and Method for Diagnosis of Infectious Diseases」;および同第10/862826号、「System and Method for Heating, Cooling and Heat Cycling on Microfluidic Device」において開示されている。この技術は、Zhangによる近年の総説(2007年、「Miniaturized PCR chips for nucleic acid amplification and analysis: latest advances and future trends」、Nucl Acids Res、35巻:4223〜37頁)の主題である。
【0046】
当技術分野において公知である通り、マイクロ流体PCRは、の4つの構成のPCR用熱サイクル反応槽:a)蛇行式反応槽、b)循環式反応槽、c)往復式反応槽、ならびにd)加熱および冷却を局在化させた単一のチャンバー反応槽において実施することができる。蛇行式反応槽は、2つまたは3つの温度帯間を行き来しながらループする拡張チャネルを含有し、循環式反応槽は、2つまたは3つの温度帯を横断する単一のループであり、往復式反応槽は、各チャンバーが相互連結されて反応混合物を交換する、温度の異なる2つまたは3つのチャンバーを含有し、単一チャンバーベースの反応槽は、ペルチエ型サーモエレクトロニクスなどにより局在化された加熱および冷却が施される反応混合物を含有する。蛇行式反応槽、循環式反応槽、および往復式反応槽はすべて、温度帯を通してまたは温度帯間で反応混合物を循環させるポンプ(複数可)を必要とする。これらの構成を反映するように、マイクロ流体デバイスの構築様式を変化させる。
【0047】
アッセイには、終点検出または動態(また、「リアルタイム」とも呼ばれる)検出が包含されうる。プローブなどの指示試薬を用いる場合は、増幅中または増幅後においてこれを添加することができる。当技術分野で公知の通り、蛍光プローブ、蛍光消光プローブ、および「アップコンバーティング」蛍光プローブが好ましい。
【0048】
好ましい実施形態では、核酸を含有する生物学的試料を、マイクロ流体カードのポートへとピペッティングし、次いで、アッセイの残り時間にわたってこれを密封する。空気式制御装置を使用して、アッセイを完了するのに必要とされる通りに、試料および液体試薬を方向づける。第1段階では、試料核酸を、必要に応じて、固相マトリックス上に抽出し、PCRバッファー中で再水和させてから、プライマーを含有する乾燥PCR試薬と接触させる。TAQポリメラーゼを含有する乾燥試薬を別個に供給する。次いで、カード上で熱サイクリングを実施し、マイクロ流体デバイスに装備されている蛍光プローブの使用を含めた各種の方法により、アンプリコンの陽性検出を実施する。
【0049】
水とプラスチックとの界面張力のために、時には界面活性剤およびPEGまたはアルブミンなどの共界面活性剤を使用して、生物学的物質が、マイクロ流体デバイスのプラスチック表面へと吸着することを抑制する。吸着による喪失を抑制するのに有用な公知の界面活性剤には、Tween20、Triton X−100、Nonidet P40、PEG−8000、およびウシ血清アルブミンが含まれる。これらの物質はまた、TAQポリメラーゼの凝集を抑制するとも考えられ、ポリメラーゼ活性を増大させるのにも使用されることが多い。生物学的物質が接触するプラスチック表面を不動態化させる技法もまた、本発明者らの手元にあって有用である。これらの技法は、プラスチックがフリーラジカル開始剤により活性化される、該プラスチックをポリエチレングリコールジアクリレートなどの親水性分子により不動改変および共有結合改変することを含む。併せて接着される表面など、改変されない表面は、不動態化処理の間、遮蔽する。
【0050】
一般に、dNTP、マグネシウム塩、塩化カリウム、塩化ナトリウム、バッファー、プローブ分子種、必要に応じてプライマー、ならびに非特異的湿潤剤または界面活性剤を、必要に応じて、マイクロ流体デバイスのオンボードに等分されそして乾燥させる「マスターミックス」中で混合する。
【0051】
プライマーは、TAQポリメラーゼ試薬とは距離を置いて別個にプリントするのが最良であることを経験は示している。この理由が完全に理解されているわけではないが、本発明者らに得られる収量は、この改変と符合して増大した。プライマーは、乾燥状態で良好に保存され、例えば、密封パウチ内の乾燥剤存在下で、水中で1.6%トレハロース溶液に由来するゲル〜ガラス状のガラス化により安定化させると、室温で長期間保存することができる。
【0052】
オンボードの試薬を伴うマイクロ流体デバイスを製造する間、各種の自動式液滴分注器具を用いて、ガラス、賦形剤、および生物学的試薬を含有する溶液を、マイクロ流体デバイスのチャネルまたはチャンバー内にプリントすることが典型的である。次いで、カバー層または蓋をデバイスに適用し、デバイスを密封する。組立ておよび検査の後、完成したマイクロ流体デバイスを、ホイルバッグ内に挿入する。各デバイスが入ったバッグ内に乾燥剤を入れる。有用でありうる乾燥剤の例には、指示薬を伴う場合であれ伴わない場合であれ、シリカゲル、ベントナイト、ホウ砂、Anhydrone(登録商標)、過塩素酸マグネシウム、酸化バリウム、活性化アルミナ、無水塩化カルシウム、無水硫酸カルシウム、ケイ酸チタン、無水酸化カルシウム、無水酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、およびDryrite(登録商標)が含まれる。次いで、好ましくは酸素を伴わない乾燥ガス雰囲気下で熱加圧式密封装置を使用してバッグを密封し、指定の保管寿命にわたり保存する。
【0053】
カートリッジの製造
PCR用のマイクロ流体カートリッジを製造するための詳細について記載するが、記載される方法および製剤は一般に、熱サイクリング手段および等温手段の双方よる核酸増幅にも適用可能であり、オンボードの乾燥試薬の使用を意図する核酸アッセイ一般に適用可能である。
【0054】
マイクロ流体カートリッジは、層をビルドアップする工程による、プラスチック体により作製される。
【0055】
各カートリッジは、共に接着もしくは融合された部材もしくは層の対、または共に接着もしくは融合された複数の層から形成することができる。「層」という用語は、1つ以上の一般に平面状の固体基板の部材のうちのいずれか、またはカートリッジを含む接着層を指す;「層」にはまた、個々のシート、ロールストック、ならびに、一般に平面部材として形成される任意の成形体部材も含まれる。層は、感圧性接着剤(PSA)または熱接着剤により接合することができる。代替的に、層は、圧力下で、熱、溶媒により、または超音波溶接により融合することもできる。デバイス内の層の数は、要求される機能に依存しそして製作工程が選択される。
【0056】
層内に形成されるチャネルおよびチャンバーは、連続して積み重ねられた層が接合されることにより封入されると、液体の導管となる。したがって、これらのカートリッジは、シートを積み重ねることにより製造する、または、ロールツーロール工程などにおいて、複数のフィードリールから送られるときに互いの上に重ねられる複数のロールから製造するのに有用である。個々のチャネルおよびチャンバーは、各種の工程のうちの1つにより層内で切除されるか、エンボスされるか、または成形される。製作方法には、レーザーステンシリング、積層化、エンボス、スタンピング、射出成形、マスキング、エッチング、光触媒性ステレオリソグラフィー、ソフトリソグラフィーなど、または上記の任意の組合せが含まれる。
【0057】
プラスチックは、本発明のマイクロ流体デバイスを作り上げるのに好ましい材料である。使用しうるプラスチックには、オレフィン、環状ポリオレフィン、環状オレフィンコポリマー、ポリエステル、テレフタル酸ポリエチレン、テレフタル酸ポリブチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリシラン、三酢酸セルロース、熱プラスチック一般などが含まれる。複合体およびコポリマーもまた使用されることが多い。プラスチックまたは他の固体基板および従来の接着剤を選択するための知識は、関連技術分野において広く公知である。
【0058】
必要に応じて、弾性のダイアフラムを介して流体ネットワーク(hydraulic network)へと作用性に連結される空気力ネットワークを重ね合せることにより制御される、チャネル、チャンバー、バルブ、ポンプ、ならびに他のマイクロ流体特色の流体ネットワークである、カートリッジのマイクロ流体工作物のデザインは、単純な場合もあり、複雑な場合もあるが、試料を試料注入ポートへと注入するための装備、ならびにそれらの工作物を介して液体を移動させるときの出すための装備を包含する。試料注入ポートおよびベントは、試料注入ポートに接合された上流の流体路と、ベントに接合された下流の流体路とを有する、直列式または並列式のチャネルおよびチャンバーのシステムにより流体連絡されている。
【0059】
下記のステップにより内部のチャンバーまたはチャネル内に作製された、少なくとも1つのガラス化したゲル状試薬スポットが、該チャンバーまたはチャネル内に封入されている:
a)第1の試薬を、プリントおよび安定化のための溶液と混合し、該第1のプリントおよび安定化のための溶液の液滴を該チャンバーまたはチャネル内にプリントし、簡潔に、該液滴を水和ゲル状態に乾燥させ、これにより、該チャンバーまたはチャネル内に第1のゲル状試薬スポットを形成するステップと;
b)必要に応じて、第2の試薬を、第2のプリントおよび安定化のための溶液と混合し、該第2のプリントおよび安定化のための溶液の液滴を該チャンバーまたはチャネル内にプリントし、簡潔に、該液滴を水和ゲル状態に乾燥させ、これにより、該チャンバーまたはチャネル内に第2のゲル状試薬スポットを形成するステップと;
c)必要に応じて、複数のオンボードゲル状試薬スポットが該チャンバーまたはチャネル内にスポットされるまで、ステップbの操作を継続するステップと;
d)カバー(複数可)を積層させるか、接着するか、超音波溶接するか、または他の方法で接合することにより、該チャンバーまたはチャネルを、プラスチック製本体内に封入するステップと;
e)次いで、ゲル状試薬スポット(複数可)を封入した該マイクロ流体カートリッジを、乾燥剤と共に乾燥雰囲気下で気密パウチ内に密封するステップであって、該乾燥剤が、保存期間中に、該ゲル状試薬スポット(複数可)をさらにガラス化させ、これによりガラス化したゲル状スポット(複数可)を形成し、該マイクロ流体カートリッジの室温での保管寿命が、凍結乾燥保存の必要も凍結保存の必要もなしに延長され、該マイクロ流体カートリッジが、分子診断アッセイに要求されるすべてのオンボード試薬を含有するステップ。
【0060】
この方式で、製造工程中の中間段階で、マイクロ流体カートリッジ内に乾燥試薬スポットを封入することが可能となっている。この方法を使用すると、図1で例示する通り、マイクロ流体カートリッジのシートを、ロールストックからの連続工程または半連続工程で作製することができる。この図では、8つの個別取外し可能なマイクロ流体カートリッジが、単一の作製単位(1)として形成されることが示されている。正確な数は重要でなく、48個または60個または200個のカートリッジを同時に作製することができる。上記で説明した通り、工程の最終段階において、個々のカートリッジ(2)を互いから分離し、乾燥剤と共にホイルパウチ内に包装する。
【0061】
BioDot AD1500などの自動式試薬プリンターを、BioDot Plus Dispenser(Biodot、Irvine、CA)、ならびにX−Y−Z方向のヘッドコントロールと共に用いることにより、液滴をシートの基底層または下層に自動式で迅速に沈着させることが達成される。複数のヘッドを直列で使用することにより、異なる試薬からなる液滴パターンを、シート全体に反復させることができる。必要に応じて、シートの個々のマイクロ流体カートリッジに、異なる試薬をプリントすることもできる。プリントヘッドは、接触型の場合もあり、または非接触型の場合もある。
【0062】
ここで図2を参照すると、プリント工程がより詳細に説明されている。例として述べると、図2Aでは、PCR増幅用の分岐回路を形成する、チャネルおよびチャンバーの底部ウェルが切り出された、プラスチック製下層(20)が示されている。この段階におけるチャネルおよびチャンバーのウェルは、後続の層内にビアおよびバルブを配置することが可能となるように不連続であることが多い。この概略表示では、各々が、環境条件下で迅速にゲル化する液体として適用される、4つの試薬スポット(黒丸)を受容するものとして、4つのチャンバーが示されている。スポット1(21)は、増幅のアンプリコン産物を検出するのに使用される蛍光プローブを含有する。スポット2(22)は、ゲル状安定化マトリックス中において標的を増幅するのに有効な量のTAQポリメラーゼ、dNTP、バッファー、およびマグネシウム塩を含有する。スポット3(23)は、液滴中にプライマー対を含有する。スポット4(24)は任意選択であり、RNA鋳型からcDNAを合成するのに有効な逆転写酵素、dNTP、およびバッファーを製剤中に含有する。各スポットは、スポット後迅速にゲル化し始め、次いで、乾燥して、カートリッジの保管寿命にわたり試薬を安定化させる複合体ゲルまたは複合体ガラスとなる、プリント可能なマトリックス中に調合されている。ある量の乾燥剤が施されているホイルパウチ内で、各スポットから過剰な水和水を除去する最後の乾燥工程が開始される。流体、一般に生物学的試料、または生物学的試料の溶出物、抽出物、もしくは濾過物が、試料注入口(下)に導入されると、各スポットは配合され迅速に再水和する。
【0063】
図2Bでは、4つの試薬スポットすべて(白丸)が、ガラス化したゲル状態にある。スポットがプリントされた下層へと被覆層の積み重ねを付加することにより、カートリッジ本体(25)が完全に組み立てられる。外部インターフェース(図示しない)へと伸長する空気力制御ラインに沿って、バルブ上ならびに必要に応じアニーリングチャンバー上に、空気力ダイアフラムもまた配置されている。使用時には、カートリッジ底部に流入する核酸抽出物が、第1のバルブ(26)によって受け入れられ、急速水和マトリックス(スポット24)内に逆転写酵素およびdNTPを含有するチャンバーへと流入する。チャネルをベント(29)する。その後インキュベーションを行い、そこで、任意のRNA標的を二本鎖の二重鎖体へと転換すると、PCRに適する二重鎖体となる。増幅の第2段階では、第2のバルブ(27)を開き、試料流体をアニーリングチャンバー(15)へと送入する。ここには、標的核酸配列に特異的なプライマー対が、試料中で迅速に溶解するガラス状マトリックス(スポット23)においてプリントされている。次いで、試料を融解チャンバー(16)へと送入し、TAQポリメラーゼおよび、標的配列を有するDNA二重鎖体の融解温度を超える温度のゲルマトリックス(スポット22)中でガラス化させた改変「マスターミックス」を接触させる。次いで、融解チャンバーとアニーリングチャンバーとの間の往復作用(アニーリングチャンバーの天盤を形成するダイアフラム17により推進される)により試料が流動し、各々の熱サイクルの結果として、標的配列が増幅され、アンプリコン産物の量が漸進的に倍増する。次いで、対合増幅チャンバー(18)における規定回数の熱サイクル後、第3のバルブ(28)を介して、産物を検出チャンバー(19)内へと流動させ、ガラス状マトリックスまたはゲル状マトリックス中に蛍光プローブを含有するスポット1(21)と接触させることによって任意のアンプリコンを検出する。プローブを再水和およびハイブリダイズさせた後、蛍光分光分析により、アンプリコンの存在について試料を探査することができる。この目的で、検出チャンバー上部には、光学ウインドウが施される。アッセイの結果を読み取り、記録したら、マイクロ流体カートリッジを取り外し、廃棄することができる。
【0064】
上記の説明は概観であり、このように構築されたカートリッジは、示した通りの往復流動を伴うPCRおよび熱サイクリングに限定されないが、上記の例は、カートリッジ製造工程において、最終的な組立て前の中間段階が必要であることについて、明確で簡潔な見取り図を与える。プリントの後、ゲル状スポットは、その後の積層化ステップ、溶接ステップ、または接着ステップにより、プラスチック製本体内に密封され、小径のベント孔(29)および試料注入口を介する以外は本体の外部と連絡しない。その後、凍結乾燥に要求される通りに、プラスチック製本体を凍結させ、真空を適用すると、積層化構造が破壊されるかまたは熱的に歪む可能性があり、また、光学視ウインドウも閉鎖されうる。さらに、凍結乾燥の間に形成される細粉および微粒子が、真空から解放される間にマイクロ流体工作物を介して再分配される可能性があり、このため、例えば、第2の標的に特異的なプライマーにより、特定の標的に特異的な第1のアッセイ経路が汚染される。同様に、1つのチャネル内の陽性対照鋳型が、試料または陰性対照用に意図されるアッセイチャネル内へと偶発的に導入され、その結果として、品質管理問題が大きな比率で生じる可能性もある。製造工程後に高度の真空を適用してもまた、カートリッジ本体内の所定位置に設置された弾性ダイアフラムが損傷される。したがって、瓶内に船を入れる場合と同様、内部のチャネルおよびチャンバー内にオンボード試薬を封入しているマイクロ流体カードの製造工程に、凍結乾燥をどのようにして適応させうるかを想像することは困難であるか、または不可能でさえある。
【0065】
本発明の組成物および方法によるゲル状スポットの使用は、Barlag(WO2006/042838)により提起されている、すべての試薬をパラフィンでコーティングし、このパラフィンを融解させて反応を開始させるものより、はるかに洗練されており、信頼できるものである。ゲル状スポットは、他の発明者らにより提起されている、凍結乾燥球体、打錠成形球体、または試薬球体に随伴する細粉および微粒子の問題を、信頼できる形で回避する。カードシート上における標的のチャンバーまたはチャネルの寸法が微小であることを踏まえれば、先行技術による、細粉、錠剤、または凍結乾燥試薬球体を正確に分別処理することは、技術的に困難または不可能であり、その後の処理の間に要求される操作は、これらの内容物を障害するおよび再分配することが確実であり、この場合も品質管理問題を複雑にする。
【0066】
単純乾燥は、受容可能な代替法ではない。適切なマトリックスの不在下では、多くの生物学的試薬が乾燥に耐えないことを、多くの研究が示している。適切なマトリックスは、試行錯誤の過程により初めて発見されなければならず、そこには、多くの努力が費やされてきたが、成功を伴わないことが多い。TAQポリメラーゼは、このような例の1つである。TAQポリメラーゼを単純乾燥させる方法は、乾燥の6、3、2カ月後、または乾燥の1カ月後でさえ、活性を有する再水和可能な固体を結果としてもたらしたことがない。
【0067】
本発明によれば、ゲル化可能なマトリックス中の液体試薬を、マイクロ流体カートリッジの各種表面へとまず分注し、そこで、その後の組立てステップを妨げないようにそれをゲル化させる。ゲル化可能マトリックスは、ガラス前駆体であり、カートリッジの製造後、さらに数日間または数週間にわたりこれを脱水させる。プリントヘッドにアクセス可能な表面を形成するカートリッジの任意の層は、スポッティングの候補層である。図3A〜Dに示す通り、チャンバーまたはチャネルの天盤および床面には、各種の配置で、ガラス固体化ゲル状試薬スポット(31a〜e)をスポットすることができる。必要に応じて、スポットは、チャンバー内の壁面全体に伸展させることもでき、チャンバーの天盤または床面いずれかの上のより離散したスポットに制限することもできる。所望の場合は、層を積み重ねるとき、チャンバーの天盤上の1つのスポットを、そのチャンバーの床面上の他のスポットと対にすることにより、1つの層上に適用したスポットと、別の層上に適用したスポットとを近接させることができる。
【0068】
認めることができる通り、組立て方法は、所望の目的:商業的に許容可能な保管寿命にわたる保存の安定性、自動式分注装置による正確な操作、最終的な組立ての間、カートリッジ上の試薬の偶発的な移動を防止する迅速なゲル化、マイクロ流体カートリッジを伴う気密パケットまたは気密パウチ内に密封された乾燥剤の影響下における、in situのゆっくりとしたガラス化、ならびに最後に、生物学的試料またはその誘導体である流体中における迅速な再水和および試薬活性化を達成するための試薬の調合に依拠する。したがって、調合は、本発明のガラス化したゲル状試薬スポットを封入したマイクロ流体カートリッジへと試薬を適応させることにおける重要な考慮点である。
【0069】
図2で説明したマイクロ流体カートリッジとは対照的な本発明のマイクロ流体カートリッジの別の実施形態では、試薬の構成およびスポットを、ペルチエ型PCRまたは等温増幅に適応させることができる。ペルチエ型増幅のプロトコールでは、最適な鎖伸長の滞留時間を該変性温度とアニーリング温度の間に有して、チャンバー内の温度が変性温度とアニーリング温度との間で熱サイクリングし得るように、単一のチャンバーを可逆的な加熱および冷却源ならびに熱交換膜(例えば、共譲渡されている米国特許出願第10/862826号において記載されている)と接触させる。この配置により、熱サイクリングの間、増幅混合物を移動させる必要がなくなる。
【0070】
ここで図4Aを参照すると、オンボードで試薬をプリントしたマイクロ流体カートリッジのペルチエ駆動型PCRの構成が示されている。逆転写酵素をガラス化したゲル状試薬スポット(41)として供給すること、および、まず標的RNA抽出物を処理してcDNAコピーを形成することが仮定されている(左端のチャンバー40)。必要な場合は、dNTPおよび必要なプライマーもまた供給される。中央のチャンバーである「ペルチエ型増幅チャンバー」(42)では、まず試料物質を使用して、2つの試薬スポットである、TAQポリメラーゼ試薬スポット(43)ならびにプライマーを含有するスポット(44)を溶解させる。TAQポリメラーゼスポットは、添加されたマグネシウム塩、dNTP、KCl、および乾燥緩衝剤など、必要な補因子を含有しうる。次いで、試料の静置を保持しながら、単一のチャンバー内で熱サイクリングを実施する。必要なサイクル数の後、増幅反応産物を検出チャンバー(46)へと移動させ、そこで、試薬スポット(47)内のガラス化プローブを液体により溶解させる。ハイブリダイゼーション後、例えば、検出チャンバー上に取り付けた光学ウインドウを介する蛍光光度分析により、反応混合物中の任意のアンプリコンを検出する。検出チャンバーは、例えば、FRET検出複合体の融解曲線を決定する目的で、温度勾配に有用な別個の加熱ブロックを包含しうる。
【0071】
図4Bで例示される第2の例では、逆転写酵素を含有する試薬スポット(50)を、ここでもまた必要に応じて使用し(逆転写酵素チャンバー51内で)、任意のRNAを、PCRに適するDNA鋳型へと転換する。例えば、各種の微生物学的またはウイルス学的診断アッセイでは、RNAが対象である。次いで、試料を、3つのガラス化させたゲル状試薬スポットを含有する、ペルチエ型増幅チャンバーと検出チャンバーとの組合せである右端のチャンバー(52)へと進ませる。スポットはほぼ瞬間的に溶解し、そして該スポットは、補因子と共にTAQポリメラーゼをガラス化させたゲル状試薬スポット(53)、プライマー試薬スポット(54)、およびプローブ試薬スポット(55)からなる。この方式で、アンプリコンの増幅および同時的な検出に要求される完全な試薬の投入が達成される。リアルタイムPCRを実施しようと所望する場合は、増幅チャンバー中にプローブの存在が必要である。これは、既に論じた(図2)増幅のためのペルチエ型加熱帯または別個の加熱帯が、物理的に分離されている場合である。したがって、本明細書で例示される通り、増幅チャンバーおよび検出チャンバーは、二重使用チャンバーであり得、必要に応じて、温度をサイクリングさせる加熱手段、ならびに蛍光をモニタリングする検出手段の双方と適合する。
【0072】
図4Cは、例えば、PCRならびにRNA標的を検出するためのすべての試薬を単一のチャンバー内にプリントして、マイクロ流体チャンバー内のガラス化させたゲル状試薬スポットの組立てを圧縮しうることを示すものである。PCR検出チャンバー(60)内の逆転写酵素試薬スポット(61)、TAQポリメラーゼ試薬スポット(62)、プライマー試薬スポット(63)、およびプローブ試薬スポット(64)が示されている。逆転写酵素を使用することなく、DNA標的を検出しうることは明らかである。
【0073】
断面図を示す図4Dでは、ゲル状スポットの構成をより詳細に示している。この図では、左側の注入口を介して試料を導入する前に活性化させうる酵素であるTAQポリメラーゼおよび逆転写酵素が、加熱ブロック(71)と直接接触させずに、チャンバー(70)の天盤上にスポットされている(72、73)。プライマー(74)およびプローブ(75)は、チャンバーの床面上にスポットされている。最終的な組立て製品が、チャンバー内に試薬を含有するように、組立て前は、天盤および床面の基板層が開放され、プリントにアクセス可能である。スポッティングマトリックス中にガラス化させたアモルファスゲル状複合体を使用することにより、各反応に応じてバッファー濃度および塩濃度を最適な濃度に調整した、典型的には20μL未満の全反応容量中で迅速な溶解を達成する。加熱ブロックは、薄い熱交換膜を介して増幅チャンバーと接触し、適切に作動すれば、試薬の混合を促進する。
【0074】
示される通り、試薬は、単一のチャンバー内にスポットすることもでき、複数のチャンバー内にスポットすることもできる。各種のスポット構成を用いることができる。変更すべき点は変更するものとして、一部のスポットが、チャンバーに対面する1つの基板層上にあり、他のスポットが、そのチャンバーに対面する別の基板層上にあるように、スポットを隣り合わせで、または隔てて配置することができる。好ましい構成では、別個の検出チャンバーを施し、1以上のプローブを、この検出チャンバー内にスポットすることができる。製造の間、カートリッジの各個別のチャネルに、特定のアッセイ適用にあつらえた、個々の試薬の固有パターンが施されうるように、一部の試薬をカートリッジの1つの層にスポットし、他の試薬を別の層にスポットする調整が容易である。この方式で、一連のアッセイを、単一のカートリッジ上で実施することができる。単発反応を実施することもでき、多重反応を実施することもできる。非対称PCRで有用であるように、プローブを非対称的な比率で供給する場合もある。順方向プローブおよび逆方向プローブを併せて混合して個別にスポットすることもでき、分離してスポットすることもできる。スポットは迅速にゲル化するため、一部の場合には、スポットが、互いの上に積み重なる場合もあり、接触が可能となる場合もある。システムに固有の柔軟性を使用すると、ネスト型PCR用の構成もまた意図される。図3に例示されるスポットされたものの形状、ならびに図2に例示されるチャネルまたはチャンバーの形状のいずれも、適用要件を満たすように変化させることができる。
【0075】
製剤
ここで、本発明者らは、ゲル試薬スポット内に含有される生物学的試薬を安定化させなければならず、組立ての間に迅速にゲル化しなければならず、組立て後の段階では漸進的なガラス化を可能にし、かつ、直ちに再水和しなければならない、ゲル試薬スポットの製剤を調べる。ここでもまた、本発明のマイクロ流体カートリッジを製造するのに使用される試薬を調合する際に考慮すべき点を例示するための例として、TAQポリメラーゼを選択する。しかし、これらの一般的な考慮点はまた、NASBAなどにおいて使用されるDNAポリメラーゼをゲル状に安定化させる際にも適用される。図5および6は、先行技術の代表例であり、「背景技術」(上記)で論じられている。
【0076】
オンボードの試薬を伴うマイクロ流体デバイスを製造した数カ月後に、PCRにより標的核酸配列を増幅するためには、保存期間中に、有効レベルのTAQ活性が保存されていなければならない。乾燥剤を伴い、ホイルで裏打ちした、密封式バッグ内にデバイスを包装することにより、室温で保存するための条件を、湿度の変動を防止するように改変することができる。ガラス状リオプロテクタントの前駆体および賦形剤を伴う緩衝混合物中のTAQ試薬をデバイス上にスポットした後、デバイスをバッグ内に密封してから、完全な乾燥を達成する。この段階において、スポットは、ゲル様の粘稠度である。バッグ内に密封した後、結合水を試薬スポットから乾燥剤へと移動させることにより、ガラス化を継続させる。適合するガラス/賦形剤組成を選択することにより、この方法は、試料を添加してアッセイを行うこと以外は要求しない、内臓型マイクロ流体デバイス内に組み込まれた保存安定性のTAQをもたらす。
【0077】
糖、共リオプロテクタント、賦形剤、界面活性剤、およびキャリアタンパク質の数百の組合せを調べた後、トレハロースおよびメレチトースをさらなる研究用に選択した。約75℃における多くのTAQポリメラーゼのVmaxにより証拠立てられている通り、高温環境に活性を適応させた酵素は、高いTを有する可能性があり、その天然状態を最良の形で保存するためには、ガラス化した状態において、比較的高いTを有するガラスと結合させるべきであると、本発明者らは論証した。乾燥保存の間にTAQの高度に折り畳まれた構造を安定化させ、界面の変性に起因する活性の喪失を防止するには、界面活性剤など、他の賦形剤が必要でありうることもまた、本発明者らは認識した。
【0078】
トレハロースは、α,α−1,1結合により結合する2つのグルコース分子からなる二糖である。グルコシル残基の還元末端は互いと連結されているので、トレハロースは、還元力を有さない。トレハロースは、自然界に広く分布し、乾燥、凍結、および浸透圧など、各種のストレスから生物を保護する。乾燥に抵抗する、ブラインシュリンプおよびある種の線虫などの無水性生物は、それらの高トレハロース含量のために、水の喪失を忍容することが可能であり、トレハロースは、極限的な環境条件下で、膜ならびに他の高分子アセンブリーを安定化させるのに重要な役割を果たしている。トレハロースはまた、他の二糖と比較してガラス転移温度が高く、乾燥処理製品における安定剤としての長い歴史を有し(例えば、Crowe JHら、1984年、「Preservation of membranes in anhydrobiotic organisms the role of trehalose」、Science、223巻:701〜703頁;米国特許第4457916号、同第4206200号、および同第4762857号;ならびに英国特許第GB2009198号を参照されたい)、このために、スクロールより優れていると考えられている。トレハロースは、他のすべてのリオプロテクタントより優れていると広く考えられている(Colaco Cら、1992年、「Extraordinary stability of enzymes dried in trehalose: simplified molecular biology」、Bio/Technology、10巻:1007〜11頁)。
【0079】
メレチトース(α−D−グルコピラノシル−[1→3]−β−D−フルクトフラノシル−[2→1]−α−D−グルコピラノシド)水和物は、2つのグルコース分子と1つのフルクトース分子とからなる三糖であり、乾燥状態の分子量が504.44Daである。メレチトースは、アブラムシおよびコナジラミを含め、植物樹液を摂取する多くの昆虫により生成される。メレチトースは、保存炭水化物として、細胞内の水ポテンシャルを低減することにより浸透圧ストレスを軽減するので、これらの昆虫にとって有益である。メレチトースはまた、凍結保護剤としても機能することが広く公知であり、その容量オスモル濃度が低いために、多種多様の哺乳動物細胞を凍結保存するのに使用されている。加水分解すると、グルコースおよびツラノースが放出されるが、この三糖自体は非還元性であり、メイラードの褐変反応に対して比較的抵抗性である。メレチトースのガラス転移温度は、二糖のそれより高温である。
【0080】
の比較値を、以下の表Iに示す。
【0081】
【表1】

メレチトースのT値は、Mollmann, SHら、2006年、「The stability of insulin in solid formulations containing melezitose and starch」、Drug Dev Indust Pharmacy、32巻:765〜778頁から得た。他の値は、Green JLおよびCA Angell、1989年、「Phase relations and vitrification in saccharide−water solutions and the trehalose anomaly」、J Phys Chem、93巻:2880〜82頁; Kajiwara KおよびF Franks、1997年、「Crystalline and amorphous phases in the binary system water−raffinose」、J Chem Soc Faraday Trans、93巻:1779〜1783頁; Slade LおよびH Levine、1988年、「Non−equilibrium behavior of small carbohydrate−water systems」、Pure & Appl Chem、60巻:1841〜64頁;ならびにHeldman DRおよびDB Lund、2006年、「Handbook of Food Engineering」(第2版)、CRC Press、Boca Raton FLから得た。すべての出典が完全に一致するわけではないが、Tが分子量と共に増大し、水和水と共に減少することは一般に認められる。
【0082】
水和した糖で開始することにより、初期にはTが低値であり、製剤が液体であることが確実となるが、乾燥すると、Tが上昇し、室温保存がアモルファスガラス形態でなされる場合の値に近づく。この過程の間、無水糖の結晶化が生じないことが望ましい。試行錯誤の過程により決定される通り、望ましくない結晶化を防止し、TAQポリメラーゼとより選択的に会合させるには、共溶媒賦形剤が有用である。
【0083】
製剤1は、水溶液中(水中の最終濃度として)1.5%のメレチトース水和物、0.005%のPolyox WSR−301(Amerchol Corp、Piscataway NY)、0.1mg/mLのBSA、および10単位のTAQポリメラーゼからなる。安定化剤を伴うTAQ原液を調製した後、透明なゲル前駆体溶液を、3μLのスポットにより、プラスチック製のマイクロ流体デバイスまたはマイクロ流体カードの内部表面へと適用した。プライマーとプローブとは個別に保存した。制御された室温で約10分間以内にわたりスポットを乾燥させ、次いで、これらのプラスチック製デバイスを、乾燥剤の小袋と共に気密パウチ内に密封し、制御された室温で保存した。Polyox WSR−301は、長鎖のポリオキシエチレングリコールである(分子量4MDaであり、「PEG−90M」とも称する)。すべての製剤には、分子生物学グレードの水を用いた。ウシ血清アルブミンが好ましいタンパク質キャリアであるが、本方法では、魚類ゼラチンもまた使用することができる。ベタインまたはリジンもまた使用することができる。
【0084】
以下の製剤を調製して、2カ月間の安定性試験において、並列に比較した:製剤2は、1.5%のトレハロース、0.005%のPolyox WSR−301、0.1mg/mLのBSA、および10単位のTAQポリメラーゼとして混合した。製剤3は、1.5%のメレチトース水和物、0.1%のFicoll(登録商標)400、0.1mg/mLのBSAを含有した。製剤4は、1.5%のトレハロース、0.1%のフッ素系界面活性剤FC4430(3M Corp)、および0.1mg/mLのBSAを含有した。製剤5は、1.5%のトレハロース、0.1%のPEG8000、および0.1mg/mLのBSAを含有した。製剤6は、1.5%のトレハロース、0.1%のCellulose Gum 7LF、および0.1mg/mLのBSAを含有した。製剤7は、1.5%のラクチトール、0.005%のPolyox WSR−301、および0.1mg/mLのBSAを含有した。これらの実験で使用されたTAQは、10U/uLで調合されたEconoTaq(登録商標)Plus(Lucigen Corp、Middleton WI)であった。
【0085】
すべての製剤を、基準量のTAQポリメラーゼと共に混合し、試験用のプラスチック表面上にスポットした。スポットした後、ゲル複合体前駆体スポットを、約10分間で手早く配置し、次いで、過剰量の乾燥剤と共に防湿性の気密性パウチ内に密閉および密封し、ゲル状スポットを漸進的にガラス化させた。指示薬を伴うシリカゲルまたはベントナイトを使用することが典型的である。パウチは、乾燥した不活性雰囲気下で、熱処理により密封した。
【0086】
2カ月間にわたる保存安定性試験のデータを、図7で報告する。結果は、新たに混合した「湿潤」を乾燥させることなく実施した増幅についての活性に対して標準化した蛍光比として示す。認めることができる通り、大半の製剤は、完全な効力を維持できなかった。しかし、メレチトース/Polyox WSR−301/BSAゲルベースの製剤である製剤1は、室温で2カ月間にわたる保存後において、基準湿潤増幅混合物を1.3倍上回る効能を示すことが観察される。これに対し、Ficoll 400と共に調製したメレチトース水和物は、2カ月後において十分に安定的ではなく、Polyox WSR−301または各種の代替的賦形剤と共に調合したトレハロースも同様に、適切な安定保存期間をもたらすことができなかった。
【0087】
これらの研究では、反応1回当たり5000コピーを有するSalmonella paratyphiによるプライマー対を増幅のために使用した。再水和させた完全な増幅混合物を熱サイクリングし、分子ビーコンまたはFRETプローブを使用して検出を完了させた。各反応について、Ctおよび蛍光による収量比を測定した。長期乾燥保存後におけるメレチトース製剤1と、新鮮な湿潤反応物とを比較する、試料のリアルタイムPCR増幅曲線を、図8に示す。実線の曲線(81)は、乾燥TAQ試薬の活性であり、点線の曲線(82)は、基準の湿潤TAQ反応混合物の活性である。
【0088】
図9では、安定保存期間の関数としての、製剤1のメレチトース挙動をさらに検討する。処理の初期期間では、TAQポリメラーゼ活性が、4週間にわたり着実に上昇することを観察できる。蛍光比とは、ここでもまた、リアルタイムPCRで達成される蛍光の比である。本発明者らは、この結果をアーチファクトではないと解釈する;この結果は、製造工程および保存工程中に損傷したTAQポリメラーゼ分子の原液から、天然状態のコンフォーマーが動員されることを表わしうる。理論により拘束されることなく述べると、天然状態の立体構造の場合もあるが、そうでない場合もあり、一部の変異体は他の変異体より活性が低い、コンフォーマーの混合物である凍結変性したTAQ分子を、市販の凍結調製物はある割合で含有し、安定化手順は、損傷した分子のうちの少なくとも一部について、立体構造状態を修復する効果を及ぼすと考えられる。
【0089】
図10は、異なるプライマーシステムでの増幅において、3つの製剤を比較する。製剤10A、10B、および10Cを比較するが、10Aは上記の製剤3と同等であり、10Bは上記の製剤1と同等であり、10Cは上記の製剤5と同等である。認めることができる通り、1.5%のメレチトース/0.005%のPolyox WSR−301/0.1%のBSAを含有する製剤は、乾燥剤を伴う気密性パウチ内にゲル状スポットを密封する方法による乾燥保存後においてもまたすぐれており、段階的で漸進的な酵素の脱水が達成される。
【0090】
図11は、0.1%のPEG8000と共にトレハロースを含有する製剤11Aを、0.1%のフッ素系界面活性剤FC4430と共にトレハロースを含有する製剤11Bと比較する。驚くべきことに、フッ素系界面活性剤は、この2週間にわたる乾燥保存データにおいて、蛍光収量に対して顕著な効果を及ぼした。
【0091】
マイクロ流体PCRでは、乾燥PCR増強剤が有用であることが、さらに判明した。増強剤は、鋳型としてのGCに富むDNA基質の性能を改善すること、ならびに特異性および収量を増大させることを含め、複数の機能に資する。各種のアミド、スルホキシド、スルホン、およびジオールは、しばしば劇的にベタインを上回って、PCRの収量および特異性を改善することが公知である。DMSO、テトラメチレンスルホキシド、ホルムアミド、2−ピロリドンが例である。n,n−ジメチルホルムアミド(dimethyformamide)およびDMSOなど、一部の増強剤は、食塩水中で溶液を沸点近くまで加熱することを要求して、圧力およびガス放出の問題を付随させうる、熱サイクリングで要求される温度を低下させるのに使用されている。しかし、ここでは、ゲルまたはガラスなどの複合体としての乾燥形態で保存されうる増強剤が要求されている。
【0092】
増強剤には、共リオプロテクタントとして有用なガラス形成剤が含まれる。これらの増強剤には、n−ホルミルモルホリン(融点:23℃)、δ−バレロラクタム(2−ピペリドン;融点:38〜40℃)、ε−カプロラクタム(融点:69〜70℃)、ならびに1,2−シクロペンタンジオール(融点:54〜56℃)が含まれる。PVP−10のガラス転移温度は66℃であり、PVP−40のTは99℃であることが報告されている。PCRを改善する機能を有する他のガラス形成剤には、リジンなどのアミノ酸、低分子量のアミド、グリコーゲンおよびイヌリンなどの炭水化物、アルブミン(HSAおよびBSAの両方)、ならびに前出で論じた範囲の糖が含まれる。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
PCR基準反応
湿潤基準反応として、凍結TAQポリメラーゼ原液を、表IIに従って新たに調製したPCR試薬原液ミックスへ添加した。
【0094】
【表2】

rtPCRモニタリングを伴うRotor Gene(登録商標)Q(Qiagen、Carlsbad CA)サーモサイクラーを使用して、反応混合物を熱サイクリングした。リアルタイムPCRをモニタリングして、交点閾値(Ct);すなわち、蛍光(ならびに、したがって、DNA)の増大が指数関数的となるときのサイクル数の測定値と、蛍光収量(FSTD)とを得た。増幅が成功したときのすべてにおいて融解曲線を描き、標的アンプリコンの増幅が適正であることを検証した。終点検出もまた、使用することができる。必要に応じて、FRET融解曲線も含めて、アンプリコンの同定を検証することもできる。
【0095】
(実施例2)
乾燥試薬アッセイ
TAQポリメラーゼ、リオプロテクタント、共リオプロテクタント、およびタンパク質キャリアまたは賦形剤、ならびにKCl、Mg2+、およびdNTPを含有する反応ミックスを、約5倍濃度の原液として調製し、マイクロ流体カード内、またはプラスチック製表面上に、3uLのスポットとしてスポットした。約10分間以内にわたり室温でスポットをゲル化させ、次いで、Vaporflex Preservation Packaging(LPS Industries、Moonachie、NJ)により供給されるホイルバッグ内に入れた。復元には、標的DNAおよびプライマーを含有する容量15uLを使用した。
【0096】
次いで、復元した容量を、Rotor Gene(登録商標)内のプライマーおよび鋳型の存在下で増幅した。Ctおよび蛍光収量(F)を測定し、基準である湿潤ミックス(上記)と比較した。蛍光比(F/FSTD)を計算した。
【0097】
メレチトース、トレハロース、ラクツロース、および他の糖は、Sigma Chemicals(St Louis MO)から入手した。Polyox WRS301(また、「PEG 90M」としても公知である、1%、粘度1650〜550cps、分子量4MDa)は、Amerchol Corp、Piscataway NYから供給を受けた。フッ素系界面活性剤FC−4430は、3M Corpから入手した。可能な場合、試薬は分子生物学グレードであった。
【0098】
(実施例3)
製剤1
表IIIに従い、マイクロ流体デバイス内でTAQポリメラーゼを環境乾燥保存するための製剤を調製した。糖は、メレチトース水和物の25%水溶液により添加した。本実施例では、賦形剤として0.01%のPolyol WRS301を含有する原液を使用した。
【0099】
【表3】

結果として得られる透明のゲル複合体前駆体溶液を、ピペットにより、マイクロ流体デバイスの不動態化プラスチック製表面(PET)上にスポットした。約10分間にわたりスポットを静置し、次いで、乾燥剤を伴うホイルバッグ内に密封した。発色性の指示薬を使用して、保存中の密封バッグの完全性を検証した。パウチを熱処理により密封してから保存した。
【0100】
上記が、本発明の現時点で好ましい実施形態についての完全な説明であるが、各種の代替法、改変、および同等物を使用することが可能である。本明細書で言及され、優先度の高い文書として主張され、かつ/または任意の情報データシート中で列挙される、米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、ならびに非特許刊行物のすべては、参照によりそれらの全体において本明細書に組み込まれる。一般に、以下の特許請求の範囲において使用される用語は、該特許請求の範囲を、本明細書および該特許請求の範囲において開示される特定の実施形態に限定するものと解釈すべきではなく、このような主張がその権利を与えられる同等物の全範囲と共に可能なすべての実施形態を包含するものと解釈すべきである。したがって、本特許請求の範囲は、本開示により限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子的診断アッセイを実施するためのオンボード試薬を含有するマイクロ流体カートリッジであって、前記マイクロ流体カートリッジが、少なくとも1つのチャンバーまたはチャネルを有するマイクロ流体工作物を封入したプラスチック製本体を含み、前記チャンバーまたはチャネルが、試料注入ポートへと接続された上流の流体路と、ベントへと接続された下流の流体路を有し、
a)第1の試薬を、プリントおよび安定化のための溶液と混合し、前記第1のプリントおよび安定化のための溶液の液滴を前記チャンバーまたはチャネル内にプリントし、前記液滴を乾燥させ、これにより、前記チャンバーまたはチャネル内に第1のゲル状試薬スポットを形成するステップと;
b)必要に応じて、第2の試薬を、第2のプリントおよび安定化のための溶液と混合し、前記第2のプリントおよび安定化のための溶液の液滴を前記チャンバーまたはチャネル内にプリントし、前記液滴を乾燥させ、これにより、その中に第2のゲル状試薬スポットを形成するステップと;
c)必要に応じて、複数のオンボードゲル状試薬スポットが前記チャンバーまたはチャネル内にスポットされるまで、ステップbの操作を継続するステップと;
d)カバー(複数可)を積層させるか、接着するか、超音波溶接するか、または他の方法で接合することにより、前記チャンバーまたはチャネルを、前記プラスチック製本体内に封入するステップと;
e)次いで、ゲル状試薬スポット(複数可)を封入した前記マイクロ流体カートリッジを、乾燥剤と共に乾燥雰囲気下で気密パウチ内に密封するステップであって、前記乾燥剤が、保存期間中に、前記ゲル状試薬スポット(複数可)をさらにガラス化させ、前記マイクロ流体カートリッジの保管寿命が、凍結乾燥させる必要も凍結保存する必要もなしに延長され、前記マイクロ流体カートリッジが、分子診断アッセイに要求されるすべてのオンボード試薬を含有するステップと
により前記チャンバーまたはチャネル内に作製された、少なくとも1つのガラス化したゲル状試薬スポットが、前記チャンバーまたはチャネル内に封入されている、マイクロ流体カートリッジ。
【請求項2】
前記第1のガラス化したゲル状試薬スポットが、TAQポリメラーゼを含む、請求項1に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項3】
前記第1のガラス化したゲル状試薬スポットが、
i)約1.0%〜10% w/vの三糖と;
ii)必要に応じて、約0.001%〜0.1% w/vの高分子量ポリエチレングリコールまたはポリヒドロキシル化合物と;
iii)必要に応じて、約0.001%〜0.3%のフッ素系界面活性剤と;
iv)必要に応じて、アミノ官能基またはアミド官能基を有する非タンパク質の化合物と;
v)約0.1%〜10%のキャリアタンパク質と;
vi)適合バッファーと
を含む安定化マトリックス中にTAQポリメラーゼを含む、請求項1に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項4】
前記第2のガラス化したゲル状試薬スポットが、プライマー(複数可)を含む、請求項1に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項5】
前記複数のガラス化したゲル状試薬スポットが、プローブ(複数可)を含有するスポット、逆転写酵素を含有するスポット、RNAポリメラーゼを含有するスポット、ヌクレオチド三リン酸を含有するスポット、核酸鋳型を含有するスポット、またはバッファーを含有するスポットを含む、請求項1に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項6】
前記マイクロ流体工作物が、前記試料注入ポートと、前記ベントとの間で平行するアッセイ経路のアレイとして流体連絡される複数のチャンバーまたはチャネルを含み、前記各アッセイ経路内に、前記チャンバーまたはチャネル内にプリントされた少なくとも1つのガラス化したゲル状試薬スポットが存在する、請求項1に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項7】
前記各アッセイ経路内に、少なくとも1つの固有のプライマー対を含むガラス化したゲル状試薬スポットが存在する、請求項6に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項8】
前記各アッセイ経路内に、少なくとも1つのプローブを含むガラス化したゲル状試薬スポットが存在する、請求項6に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項9】
前記各アッセイ経路が、安定化マトリックス中にTAQポリメラーゼを有するガラス化したゲル状試薬スポットを含む、請求項6に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項10】
取外し可能なマイクロ流体カートリッジのテセレーションを含み、前記テセレーションのうちの前記取外し可能なカートリッジの各々が、前記取外し可能なカートリッジの各々の中に作製された、少なくとも1つのガラス化したゲル状試薬スポットと共に形成される、工程中間体としての、請求項1または6に記載のマイクロ流体カートリッジのシート。
【請求項11】
前記取外し可能なマイクロ流体カートリッジの各々に、特定の分子診断アッセイまたはアッセイセットのために形成されたガラス化したゲル状試薬スポットのパターンがプリントされている、請求項10に記載のマイクロ流体カートリッジのシート。
【請求項12】
各シートが、複数の診断アッセイまたはアッセイセットのために形成された、取外し可能なマイクロ流体カートリッジを含む、請求項11に記載のマイクロ流体カートリッジのシート。
【請求項13】
前記少なくとも1つのガラス化したゲル状試薬スポットが、室温でガラスを形成するように選択されるPCR増強剤をさらに含む、請求項1または6に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項14】
前記PCR増強剤が、ベタイン、n−ホルミルモルホリン、δ−バレロラクタム(2−ピペリドン)、ε−カプロラクタム、1,2−シクロペンタンジオール、PVP−10、PVP−40、またはこれらの混合物である、請求項13に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項15】
前記少なくとも1つのガラス化したゲル状試薬スポットが、イヌリン、セルロース、誘導体化セルロース、ポリビニルピロリドン、リジン、アルギニン、またはメイラード反応阻害剤をさらに含む、請求項1または6に記載のマイクロ流体カートリッジ。
【請求項16】
乾燥剤と共に乾燥雰囲気下で気密パウチ内に個別包装され、表示ならびに使用のための指示書を含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載のマイクロ流体カートリッジを含むキット。
【請求項17】
核酸アッセイ試薬を、マイクロ流体デバイスのチャンバーまたはチャネル内で凍結乾燥させることなく、水の凍結温度を超える温度のゲル様ガラス内で安定化させて保存する方法であって、
a)前記核酸アッセイ試薬を、
i)約1.0%〜10% w/vの二糖または三糖と;
ii)必要に応じて、約0.001%〜0.1% w/vの高分子量ポリエチレングリコールと;
iii)必要に応じて、約0.001%〜0.3%のフッ素系界面活性剤と;
iv)必要に応じて、約0.001%〜約1.0%のアミノ酸と;
iv)必要に応じて、約0.1%〜10%のキャリアタンパク質と;
v)必要に応じて、適合バッファーと
からなる水溶液と混合して、これにより複合体ガラス前駆体溶液を形成するステップと;
b)前記アッセイに有効な量の前記核酸アッセイ試薬を含有する、前記複合体ガラス前駆体溶液の液滴を、前記マイクロ流体デバイス内に沈着させるステップと;
c)前記液滴を、制御された室温、または約20℃で乾燥させて、前記表面上にゲル状スポットを形成するステップと;
d)次いで、前記マイクロ流体カートリッジ内の前記ゲル状スポットを、乾燥剤と共に乾燥雰囲気下で気密パウチ内に密閉および密封するステップであって、前記乾燥剤が、保存期間中に、前記ゲル状スポットをさらにガラス化させるステップと
を含む方法。
【請求項18】
前記二糖がトレハロースから選択され、前記三糖がメレチトースまたはラフィノースから選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記高分子量ポリエチレングリコールが、0.1〜5MDaの分子量を有し、直鎖状のポリオキシエチレングリコールまたは分岐鎖状のポリオキシエチレングリコールである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記キャリアタンパク質が、ウシ血清アルブミンまたは魚類ゼラチンである、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記フッ素系界面活性剤が、非イオン性フルオロアルキル系界面活性剤であり、短鎖のアルキル側鎖を有することが好ましい、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記フッ素系界面活性剤が、フッ素系界面活性剤FC−4430である、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記チャンバーまたはチャネルを不動態化してから、前記液滴を沈着させるステップをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
本特許請求の範囲で個別にもしくは集合的に開示されるか、または本出願の明細書で個別にもしくは集合的に示されるステップ、特色、整数、組成物、および/または化合物、ならびに前記ステップ、特色、整数、組成物、および/または化合物のうちの2つ以上の任意のおよび全ての組合せ。

【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−529888(P2012−529888A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515132(P2012−515132)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/038141
【国際公開番号】WO2010/144683
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(503466853)マイクロニクス, インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】