説明

マイクロ流体細胞培養デバイスおよびその使用方法

細胞を培養するためのマイクロ流体デバイスおよびその使用方法を開示する。1つのデバイスには基盤とメンブレンが含まれる。基盤には通路と流体連絡しているリザーバーが含まれる。生物学的適合性の流体をリザーバーおよび通路に加えてもよい。リザーバーは、細胞塊の少なくとも一部を受け入れて保持するように構成される。メンブレンは、通路からの生物学的適合性の流体の蒸発に対する障壁として作用する。生物学的適合性の流体の蒸発を防止するために、生物学的適合性の液を覆うカバー液を加えてもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、以下の米国特許出願:2005年10月18日に出願された米国特許出願第60/727,934号、2005年10月18日に出願された米国特許出願第60/728,030号、2005年12月2日に出願された米国特許出願第60/741,665号、;2005年12月2日に出願された米国特許出願第60/741,864号;2006年5月23日に出願された米国特許出願第60/802,705号、および2006年6月9日に出願された米国特許出願第60/812,166号の恩典を主張し、本出願は2006年10月17日に出願された米国特許出願第_____号の継続出願である。
【0002】
連邦政府助成研究または開発に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所によって与えられた契約番号第F012482号;契約番号第F008090号;契約番号第N006624号;助成金番号第HD049607-01号;U.S. Army Research Officeおよび U.S. Army Research Officeによって与えられた契約/助成金番号第DAAD19-03-1-0168号;National Science Foundationによって与えられたBES-0238625;NASA BioScience and Engineering Instituteによって与えられたNNC04AA21A;およびUnited State Department of Agricultureによって与えられたUSDA 2005-35203-16148の少なくとも1つにおいて政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明に対して一定の権利を保有する。
【0003】
1.発明の分野
本発明はマイクロ流体細胞培養デバイスおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2.考察
マイクロ流体デバイスによって、ユーザーは、ナノリットルからマイクロリットル容積の流体で作業することが可能となり、これは試薬の消費量を低減させるために、インビボで流体対細胞容積によりよくマッチする生理的細胞培養環境を作製するために、および多層流による細胞の細胞下処置のような低いレイノルド数の現象を利用する実験を行うために有用である。多くのマイクロ流体システムは、その都合のよい力学的特性、光学的透明度、および生物学的適合性のために、ポリジメチルシロキサン(PDMS)で作製されている。
【0005】
マイクロチャンネルに接続した2つまたはそれより多いリザーバーを含むマイクロ流体デバイスは、リザーバー間の流体の高さの差を実質的に維持すること、およびマイクロチャンネルにおける望ましくない自然発生流を消失させることに関連する問題を呈する可能性がある。
【0006】
これらの問題は、物質輸送の制限、流体流の閉鎖ループ制御、および流体流の開放ループ制御が含まれるいくつかの方法において取り組むことが試みられている。
【0007】
物質輸送の制限は、デバイスを水で過飽和させることによってデバイスへの流体の浸透を低減させること、およびチャンネルとリザーバーのあいだにフィルターを挿入することによって流速を制限することによって成就されている。
【0008】
流体流の閉鎖ループ制御は、バルブマニホルドおよび自動空気加圧を通して成就されている。
【0009】
流体流の開放ループ制御は、受動的バルブ調節を有するCD-フォーマットマイクロ流体デバイスを用いることによって、リザーバーの相対的位置を調節することによって、およびKikuchiの走化性チャンバーのようにリザーバーに培地を完全に満たすことによって、成就されている。
【0010】
これらのこれまでのアプローチは、いくつかが、動的条件においてごく限られた効果を有し、閉鎖リザーバーを必要とし、流れを正確かつ動的に制御できず、または能動的システムを必要としたことから、さしあたっては問題に十分に取り組んでいない。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明の態様は、マイクロ流体細胞培養デバイスの形をとってもよい。デバイスには、基盤、ならびにそれぞれが上部と下部とを有する、基盤において形成される第一および第二の空間的に離れたリザーバーが含まれる。リザーバーの下部は生物学的流体を含み、リザーバーの上部は、生物学的流体の浸透圧における望ましくない変化を防止するために生物学的流体上にカバー液を含む。デバイスにはまた、基盤において形成された上部および下部の空間的に離れた通路が含まれる。下部通路は、リザーバーの下部間で生物学的流体を流体連絡し、上部通路は、リザーバーの上部間でカバー液を流体連絡している。上部および下部通路は、基盤におけるリザーバー間の連続的な流体路を少なくとも部分的に提供する。
【0012】
カバー液は不混和性の流体を含んでもよい。
【0013】
カバー液は、生物学的流体の密度に等しいまたはそれ未満の密度を有してもよい。
【0014】
カバー液は、生物学的流体の蒸発を低減させる可能性がある。
【0015】
カバー液は、生物学的流体の内部および外部への酸素ならびに二酸化炭素の少なくとも1つの流れを低減させる可能性がある。
【0016】
生物学的流体は、水ベースであってもよく、上部通路は、生物学的流体をはじくように基盤の疎水性表面によって少なくとも部分的に規定されてもよい。
【0017】
基盤は光学的に透明であってもよい。
【0018】
基盤は生物学的適合性であってもよい。
【0019】
上部通路の少なくとも一部は、基盤の環境に露出されてもよい。
【0020】
カバー液は水ベースなくてもよく、基盤には、カバー液をはじくように上部通路に隣接して親水性表面が含まれてもよい。
【0021】
下部通路は、上部通路より大きい流体流に対する抵抗性を有してもよい。
【0022】
本発明の態様は、細胞を培養するための方法の形をとってもよい。方法には、基盤、それぞれが上部と下部とを有する、基盤において形成された第一および第二の空間的に離れたリザーバー、ならびに基盤において形成された上部および下部の空間的に離れた通路が含まれるマイクロ流体細胞培養デバイスを提供する段階が含まれる。下部通路はリザーバーの下部に接続し、上部通路はリザーバーの上部に接続する。上部および下部通路は、基盤におけるリザーバー間の連続的な流体通路を少なくとも部分的に提供する。方法にはまた、第一および第二のリザーバーに生物学的流体を添加する段階、ならびに第一のリザーバーにおける生物学的流体に細胞塊を添加する段階が含まれる。方法にはさらに、生物学的流体の浸透圧における望ましくない変化を防止するために、および連続的な流体路内での連続的な流体のループを形成するために、生物学的流体上にカバー液を添加する段階が含まれる。方法にはさらに、第一と第二のリザーバーにおける生物学的流体の所望の高さの差を確立するために流体路における流体の運動を制御する段階、および所望の高さの差を所望の時間実質的に維持する段階が含まれる。
【0023】
カバー液は不混和性の流体を含んでもよい。
【0024】
カバー液は、生物学的流体の密度に等しいまたはそれ未満の密度を有してもよい。
【0025】
カバー液は、生物学的流体の蒸発を低減させる可能性がある。
【0026】
生物学的流体は、水ベースであってもよく、上部通路は生物学的流体をはじくように基盤の疎水性表面によって少なくとも部分的に規定されてもよい。
【0027】
基盤は、光学的に透明であってもよい。
【0028】
基盤は生物学的適合性であってもよい。
【0029】
上部通路の少なくとも一部は、基盤の環境に露出されてもよい。
【0030】
カバー液は水ベースでなくてもよく、基盤には、カバー液をはじくように上部通路に隣接して親水性表面が含まれてもよい。
【0031】
下部通路は、上部通路より大きい流体流に対する抵抗性を有してもよい。
【0032】
カバー液は、生物学的流体の内部および外部への酸素ならびに二酸化炭素の少なくとも1つの流れを低減させる可能性がある。
【0033】
本発明に従って例示的な態様を説明して開示するが、そのような開示は特許請求の範囲を制限すると解釈されてはならない。様々な改変および代替的な設計を行ってもよく、それらも本発明の範囲に含まれると予想される。
【0034】
詳細な説明
図1は、マイクロ流体細胞培養システムまたはデバイス10の拡大透視図である。デバイス10には、以下に詳細に記述するように細胞塊、たとえば胚を受けるように構成される基盤12、非硬性メンブレン14、配置ブロック16、およびピン作動デバイス18が含まれる。
【0035】
図2aは、基盤12の上面図である。基盤12には漏斗22、リザーバー24、重層リザーバー26が含まれる。漏斗22の底部28はマイクロチャネル30を通してリザーバー24に流体連絡している。マイクロチャネル30は1μL未満の容積を有する。リザーバー24には、以下に詳細に説明されるように、流体が漏斗22とリザーバー24とのあいだを移動してもよいようにマイクロチャネル30に対する開口部を提供するリザーバー開口部32が含まれる。
【0036】
図2bは、図2aにおける切断線2b-2bに沿って得た基盤12の断面での側面図である。マイクロチャネル30の一部は基盤12において形成され、マイクロチャネル30のもう1つの部分は、以下により詳細に記述されるようにメンブレン14によって形成される。しかし、マイクロチャネル30は、基盤12において完全に形成されてもよく、または他の任意の適した方法で形成されてもよい。マイクロチャネル30は、四角、円形、ベル状、または他の任意の適した形状の断面を有してもよい。基盤12にはさらに、重層リザーバー26内で流体滞留を促進するために親水性表面34が含まれる。
【0037】
流体は、メンブレン14の局所的な変形を通して漏斗22とリザーバー24とのあいだを移動してもよい。流体はまた、以下に詳細に記述するように重力の影響下で漏斗22とリザーバー24とのあいだを移動してもよい。
【0038】
基盤12は光学的に透明であって、プラスチック、たとえばPDMS、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、またはガラスのような材料で作製されてもよい。
【0039】
図2cは、基盤12の底面図である。基盤12には、以下に詳細に説明されるように、メンブレン14に対する基盤12の配置を補助するメス配置子36が含まれる。
【0040】
基盤12は、ソフトリソグラフィーを用いることによって製作された厚い、たとえば約8 mmのPDMSスラブを含んでもよい。PDMSスラブはまた、プレポリマー(Sylgard 184, Dow-Corning)をポジ型レリーフ形態(positive relief feature)に対して1:10の硬化剤対基剤比で入れることによって調製してもよい。レリーフ形態は、SU-8(MicroChem, Newton, MA)を含んでもよく、裏面の拡散光フォトリソグラフィーを用いて薄い、たとえば200μmのガラスウェーハ上に作製してもよい。次に、プレポリマーを60℃で60分間硬化させ、尖った14ゲージの太針によって穴を開けてもよい。
【0041】
基盤12は、非可逆的にプラズマ酸化を用いて共に密閉された、基剤対硬化剤1:10の比で硬化されたPDMSの2層を含んでもよい(SPI supplies, West Chester, PA)。漏斗22およびリザーバー24は、上層に形成される。マイクロチャネル30は、ソフトリソグラフィーを用いて底面層において形成される。マイクロチャネル30は、下向きに面して、以下に詳細に説明されるようにメンブレン14に対して密閉されてもよい。
【0042】
図3aは、メンブレン14およびピン作動デバイス18(図1)のピン54の分離独立し断面での側面図である。メンブレン14には、基盤12に対してメンブレン14を配置するために基盤12のメスの配置子36によって受けられるように構成されるオスの配置子38(図1)が含まれる。
【0043】
メンブレン14は、光学的に透明であり、上層40、上表面41、中層42、底層44および底表面45が含まれる。上層40および底層42は、PDMSを含む。中層42は、パリレンを含む。上層40および底層44は、または、軟質プラスチック、たとえばポリウレタン、またはハイドロゲル、たとえばポリビニルアルコールのような任意の適した軟質の生物学的適合性のポリマーを含んでもよい。または中層42は、塩化ポリビニリデンまたはポリウレタンのような任意の適した非硬質ポリマーを含んでもよい。
【0044】
上層40および底層44は、合計の厚さ1 mm未満、たとえば200μmを有してもよい。中層42は、2〜20μm、たとえば2〜5μmの範囲であってもよい。
【0045】
ピン作動デバイス18のピン54は、上層40の少なくとも一部がマイクロチャネル30の中に伸長するようにメンブレン14を局所的に変形させるために、示された位置からメンブレン14の中に選択的に伸長してもよい(図2b)。ピン54の選択的作動は、以下に詳細に説明されるように、マイクロチャネル30における流体を移動させる、またはマイクロチャネル30における流体の運動を防止、もしくは妨害してもよい。
【0046】
中層42は、たとえば流体の浸透圧の望ましくない変化を防止するために、マイクロチャネル30内に含まれる流体、たとえば水ベースの流体の蒸発を最小限にする。中層42はまた、マイクロチャネル30からの酸素およびに酸化炭素のような少なくとも1つの気体の流れに対して抵抗性であり、ピン54の選択的作動によって引き起こされる亀裂に対する機械的耐久性および安定性を提供する。ピン54の作動による疲労は、マイクロチャネル30からの流体がメンブレン14の中を移動する速度を中層42が実質的に低減させる能力を、実質的に増加させない。
【0047】
メンブレン14には、以下に詳細に説明されるように、配置ブロック16に対してメンブレン14を配置するために用いられるメス配置子(示していない)が含まれる。
【0048】
メンブレン14は、4"シラン化シリコンウェーハにPDMSを厚さ100μmにスピンコーティングする段階、この層を120℃で30分間硬化する段階、厚さ2.5または5μmのパリレン層を沈着させる段階、得られたパリレン層を90秒間プラズマ酸化する段階、もう1つの厚さ100μmのPDMS層をスピンコーティングする段階、および全体の厚さ約200μmに硬化する段階によって調製してもよい。
【0049】
図3bは、メンブレン114およびピン作動デバイス118のピン154(示していない)の代替的態様の分離独立し断面での側面図である。メンブレン114には、上層140、上表面141、底層142、および下表面145が含まれる。上層140は、PDMSを含み、底層142は塩化ポリビニリデンを含む。または上層140は、軟質プラスチック、たとえばポリウレタン、またはハイドロゲル、たとえばポリビニルアルコールのような任意の適した軟質の生物学的適合性ポリマーを含んでもよいが、底層142は、ポリウレタンのような任意の適した軟質ポリマーを含んでもよい。
【0050】
上層140および底層142は、合計の厚さ1 mm未満、たとえば200μmを有してもよい。
【0051】
底層142は、たとえば流体の浸透圧の望ましくない変化を防止するために、マイクロチャネル30内に含まれる流体、たとえば水ベースの流体の蒸発を最小限にする。底層142はまた、マイクロチャネル30からの酸素および二酸化炭素のような少なくとも1つの気体の流れに対して抵抗性であり、ピン154の選択的作動によって引き起こされる亀裂に対して機械的耐久性および安定性を提供する。ピン154の作動による疲労は、マイクロチャネル30からの流体がメンブレン114の中を移動する速度を底層142が実質的に低減させる能力を実質的に増加させない。
【0052】
メンブレン114は、混合したばかりの1:10 PDMSを約120μmまたは400μmのいずれかの均一な厚さまでシラン化スライドガラス(Corning Glass Works, Corning, NY)にスピンコーティングする段階、120℃で終夜硬化する段階、および次にPDMSとの相似接触によって塩化ポリビニリデンを密着させる段階によって調製してもよい。
【0053】
図1を参照して、配置ブロック16には、ピン穴48とオス配置子50が含まれる。ピン穴48は、ピン作動デバイス18のピン54を受けるように構成される。オス配置子50は、メンブレン14に対して配置ブロック16を配置するために、メンブレン14のメス配置子によって受けられるように構成される。特に、メンブレン14に対する配置ブロック16によって、ピン穴48はマイクロチャネル30と整列する。配置ブロック16には、以下に詳細に説明されるように、ピン作動デバイス18に対して配置ブロック16を配置するために用いられるメス配置子(示していない)が含まれる。
【0054】
配置ブロック16は、硬質で光学的に透明であり、ポリスチレン、環状オレフィンコポリマー、ガラス、または金属のような材料で作製される。
【0055】
ピン作動デバイス18は、以下に詳細に記述されるようにブライユ型アクチュエータである。ピン54は、18gの力で作動される。しかし、ピン54は、約3g〜300gの範囲の力で作動されてもよい。ピン54は、たとえば1秒間に10回または1分間に1回作動されてもよい。ピン54は、数分から数週間の期間作動されてもよい。しかし、任意の適した接触型デバイスを用いてもよい。
【0056】
ピン作動デバイス18のピン54は、作動されると、伸長してメンブレン14を押し、マイクロチャネル30を制限または閉鎖する。ピン54は、漏斗22とリザーバー24とのあいだをマイクロチャネル30を通して流体が流れるように任意の適した方法で作動されてもよい。ピン54はまた、漏斗22とリザーバー24とのあいだをマイクロチャネル30を通して流体が移動しないように作動されてもよい。
【0057】
ピン作動デバイス18には、オス配置子56が含まれる。オス配置子56は、ピン作動デバイス18に対して配置ブロック16を整列させるために、配置ブロック16のメス配置子52によって受けられるように構成される。配置子46、56を整列させることによって、ピン54はピン穴48に整列する。
【0058】
図4aは、基盤112およびメンブレン114の分離独立し断面での側面図である。リザーバー124および漏斗112は、マイクロチャネル130を通して流体連絡している。生物学的適合性流体158は、ピン作動デバイス118によるメンブレン114の局所的な変形を通してリザーバー124と漏斗122とのあいだで輸送されてもよい。Dは、リザーバー124および漏斗122における生物学的適合性流体158の高さの差である。
【0059】
漏斗122およびリザーバー124は、上チャネル126を通してさらに流体連絡している。マイクロチャネル130は、上チャネル126より大きい流体の流れに対する抵抗性を有する。上チャネル126は、たとえば生物学的適合性流体158に反発するように疎水性表面によって規定される。
【0060】
不混和性流体160、たとえば生物学的適合性流体158より低い密度を有する油は、チャネル126を通して漏斗122とリザーバー124とのあいだを移動してもよい。不混和性流体160は、生物学的適合性流体158の蒸発を低減させて、生物学的適合性流体158の内外への酸素および二酸化炭素の流れを低減させる。漏斗122における不混和性流体160の高さがリザーバー124における不混和性流体160の高さと等しくなるように、不混和性流体160に重力が作用して、それによって生物学的適合性流体158の高さDの差を維持すると考えられる。
【0061】
D'は、たとえばピン作動デバイス118を用いて、生物学的適合性流体158をリザーバー124から漏斗122まで移動させた後の、漏斗122における生物学的適合性流体158とリザーバー124における生物学的適合性流体158の所望の高さの差である。そのような高さは、細胞培養を行うために漏斗122において所望の量の流体を提供してもよい。生物学的適合性流体158が、リザーバー124から漏斗122まで移動すると、不混和性流体160は、重力の影響下でチャネル126によって漏斗122からリザーバー124に流れるが、これは、たとえば生物学的適合性流体158を漏斗122とリザーバー124とのあいだまでさらに移動させる、または生物学的適合性流体158が漏斗122とリザーバー124のあいだを移動することを防止する、メンブレン114の変形が存在しなければ、不混和性流体160が、所望の時間、たとえば約30分間のあいだ重力の影響下で高さD'の差を実質的に維持するように行われる。このように、マイクロチャネル130とチャネル126は、漏斗122とリザーバー124とのあいだで連続的な流体通路を形成する。
【0062】
流体は漏斗122とリザーバー124とのあいだを任意の数の方法において移動してもよい。たとえば、ポンプは、漏斗122とリザーバー124の一方から漏斗122とリザーバー124の他方まで不混和性流体160を押し出して、それによって生物学的適合性流体158の高さを変化させてもよい。
【0063】
漏斗122には、上部164と下部166とが含まれる。漏斗122の表面168は、上部164から下部166に向かって内部が先細りとなる。さらに、164の上部は、下部166より大きい幅を有する。
【0064】
漏斗122の形状は、下部166の内外での細胞の一段階ローディングおよびアンローディングを促進する。細胞を保持するピペットを、ユーザーが下部166を実質的に妨害されずに見ることができる角度で漏斗122の中に挿入してもよい。同様に、ピペットは、ユーザーが下部166を実質的に妨害されずに見えるように、下部166から細胞を取り出すために漏斗122の中に挿入してもよい。
【0065】
図4bは、漏斗122とマイクロチャネル130の分離独立し断面での拡大側面図である。漏斗122の下部166は細胞塊170を受けるように構成される。細胞塊170は、細胞の高さHを有し、マイクロチャネル130はチャネルの高さhを有する。細胞塊170は、たとえばヒト接合体、哺乳動物接合体、哺乳動物細胞の集塊、または単一の哺乳動物細胞であってもよい。マイクロチャネル130は細胞塊170が漏斗122の下部166から出ないように構成されてもよい。
【0066】
図4cは、マイクロチャネル130の長さを見下ろす、漏斗122とマイクロチャネル130の分離独立し断面での拡大側面図である。細胞塊170は、細胞の幅Wを有し、マイクロチャネル130はチャネルの幅wを有する。細胞塊170はまた、細胞の長さ(示していない)を有する。マイクロチャネル130は、チャネルの高さhとチャネルの幅wの少なくとも1つが細胞の高さH、細胞の幅W、および細胞の長さLの少なくとも1つより小さくなるように構成されてもよい。
【0067】
角度Aは、漏斗122の反対表面168によって規定される。角度Aは30°〜160°までの範囲であってもよい。
【0068】
チャネルの高さhとチャネルの幅wの少なくとも1つは、250μmまたはヒトの毛髪の幅未満であってもよい。細胞塊170が露出されたヒト接合体である場合、チャネルの高さhとチャネルの幅wの少なくとも1つは、140μm未満であってもよい。細胞塊170が露出された哺乳動物接合体である場合、チャネルの高さhとチャネルの幅wの少なくとも1つは70 μm未満であってもよい。細胞塊170が哺乳動物細胞の集塊である場合、チャネルの高さhとチャネルの幅wの少なくとも1つは50μm未満であってもよい。細胞塊170が単一の哺乳動物細胞である場合、チャネルの高さhとチャネルの幅wの少なくとも1つは、5μm未満であってもよい。
【0069】
図5aは、漏斗222とマイクロチャネル230の分離独立し断面での拡大側面図である。下部266は、細胞塊270の一部が下部266に限定されるような大きさを有する。
【0070】
下部266は幅250μm未満を有してもよい。細胞塊270が露出されたヒト接合体である場合、幅は140μm未満であってもよい。細胞塊270が露出された哺乳動物接合体である場合、幅は70μm未満であってもよい。細胞塊270が哺乳動物細胞の集塊である場合、幅は50μm未満であってもよい。細胞塊270が単一の哺乳動物細胞である場合、幅は5μm未満であってもよい。
【0071】
図5bは漏斗322とマイクロチャネル330の分離独立し断面での拡大側面図である。下部366は、細胞塊370の一部が下部366に限定されるような大きさを有する。さらに、マイクロチャネル330は下部366より上に存在する。
【0072】
図5cは、漏斗422とマイクロチャネル430の分離独立し断面での拡大側面図である。下部466とマイクロチャネル430は、細胞塊470の一部が下部466および下部466に隣接するマイクロチャネル430の部分のいずれかに存在してもよいような大きさを有する。
【0073】
本発明の態様は、ベル型マイクロ流体チャネル特徴(feature)を有するPDMSスラブ、培地リザーバー、および漏斗型の培養ウェルで構成されるマイクロ流体デバイスの形をとってもよい。培地のリザーバーおよび漏斗型のウェルは、マイクロ流体チャネルに接続される。漏斗型のウェルは、細胞の一段階ローディングおよびアンローディングを促進するための約60°のアプローチ角度および直径約500μmの先端を有してもよい。
【0074】
漏斗型ウェルにおいて、細胞は指定された領域に移動する必要はない。その代わりに、漏斗にローディングされた細胞は静止されたまま留まっている。漏斗における培地または化学組成は、インビボで細胞が経験する条件を模倣するように徐々に変化させることができる。さらに、漏斗に接続されたチャネルの寸法は、細胞が漏斗に拘束されるようにソフトリソグラフィープロセスを通して制御することができる。次に、細胞を多様な流動条件に供してもよい。
【0075】
PDMSスラブは、高さ約30μmおよび幅400μmのポジ型レリーフ形態に対して1:10の硬化剤対基剤比でプレポリマー(Sylgard 184, Dow-Corning)を入れることによって調製してもよい。レリーフ形態はSU-8(MicroChem, Newton, MA)を含んでもよく、裏面の拡散光フォトリソグラフィーを用いて厚さ約200μmの薄いガラスウェーハにおいて作製してもよい。
【0076】
本発明の態様には、その先端で1つまたは複数のマイクロチャネルと連絡している開口部を有する、先細りのウェルが含まれてもよい。ウェルおよびマイクロチャネルに流体を満たしてもよい。1つまたは複数の細胞、たとえば胚をピペットによってウェルに導入してもよい。細胞は底に沈降するが、マイクロチャネルより大きいためにウェルからはみ出すことは防止される。
【0077】
流体は連続的または不連続的にウェルに導入してもよい。流体は細胞にとって必要な増殖培地であってもよい。たとえば、底に単一の穴を有するウェルでは、流体はウェルにおいてマイクロチャネルから上昇させられて、さらなる栄養を導入した後、降下して外因性の物質、たとえば老廃物を含む流体をマイクロチャネルを通して除去することができる。
【0078】
流体の導入および除去は、通常の重力ポンプまたは一定流重力駆動ポンプを用いて行うことができる。流体の導入および除去はまた、ポンプのような外部供給物、または搭載型もしくは「半搭載型」の接触型アクチュエータに基づくポンプシステムによって行うことができる。
【0079】
ウェルは、入り口が細胞がチャネルを通過しないような大きさである限り、底よりむしろ他の位置および/または高さで入り口を有してもよい。たとえば、ウェルの底部で開口部が存在し、中部または上部付近で開口部が存在してもよく、流体は底部から供給されて、上部に近いところから除去される。
【0080】
ウェルは、ウェルに加えられた細胞がウェルの底および中心に向かって沈降する傾向を有するように、直線状または曲線状のいずれかでその壁が傾いている多角形形状を有してもよい。
【0081】
ウェルが形成される材料は、たとえば熱硬化性樹脂、熱可塑性、金属、ガラス、またはセラミックであってもよい。
【0082】
本発明の態様は、多層デバイスの形をとってもよい。上層はウェルを含み、より低い強度または低い係数の弾性層または複数の層の支持体を提供するために比較的硬質な材料で構築される。上層は、ガラスまたはポリメチルメタクリレートのような硬い透明な材料を含んでもよい。ウェルは、たとえば5μm Ra〜0.1μm Raの範囲の低い表面あらさを有してもよい。
【0083】
ウェルは、上層を通して浸透してもよく、このように大きく開いた末端を上層の片側に有し、底層には、第二層におけるマイクロチャネルと流体連絡させる比較的狭い穴を有してもよい。
【0084】
マイクロチャネルは、誤整列を最小限にするために、ウェルにおける開口部に関して近位に存在してもよい。たとえば、誤整列は50μmを超えてはならない。第二層はまた、特にマイクロチャネルが、たとえば上層の下表面に隣接して実質的に第二層の上部に存在する場合、底層を構成してもよい。
【0085】
本発明の態様には、少なくとも部分的に第二層の底に沿ってマイクロチャネルが含まれてもよい。第三層、または密閉層をそこに適用してもよい。この密閉層は、ブライユ型接触アクチュエータが、様々なマイクロチャネルのバルブおよびポンプとして作用するように、少々薄くてもよい。たとえばこの手段によって、バルブの調節、バルブが開いているか閉じているか、およびポンプがマイクロチャネルに関して一方向または他方向に送り出すか否かに応じて、流体を所定のマイクロチャネルにおいて1つまたは双方の方向に流れさせる、または送り出すことができる。
【0086】
使用にあたって、ウェルにまず流体、たとえば胚培養用培地を満たし、1つまたは複数の胚をウェルに添加する。次に、油の小さい1または2滴をウェルの液体表面上に滴下することによって産生された油重層物を提供する。
【0087】
油は、ウェルからの液体の蒸発を防止して、このようにその中の成分の浸透圧、または濃度を安定化させる。油の重層物はまた、具体的に酸素およびCO2を含む空気の流体への流れ、および流体からのこれらの気体の放出にも影響を及ぼす。油は、任意の適合性の油、たとえばシリコン油、パラフィン油、ポリエチレンオリゴマー油であってもよい。同じ理由から、第二または第三の層には、存在する場合、水分喪失を最小限にする、たとえばパリレンまたは他の材料が含まれてもよい。
【0088】
第二および第三の層は、特に態様が接触型アクチュエータを用いる場合には、鋳型エラストマーで作製されてもよい。しかし、「オフチップ」流体供給またはバルブ調節を用いる場合、エラストマーを用いる必要はなく、鋳型エポキシ、注入成型熱可塑材料、またはガラスのような他の材料を用いることができる。これらの材料の表面は、生物学的適合性でなければならず、そうでない場合には、適切にコーティングされなければならない。
【0089】
接合体を、胚培養物に通常用いられるような流体を含むウェルに導入してもよい。次に、ウェルの流体を油で覆って、適切な温度でインキュベートする。流体は、連続的または不連続にマイクロチャネルを通してウェルの内外に向けられ、ウェルにおける流体レベルが増加した周期的に減少する、行ったり来たりする型の流体供給である。生育途中の胚を、通常の光学顕微鏡法によって検査してもよく、適当な段階まで生育したと判断された場合、胚をウェルから取り出す。ウェルの上層が底部より大きければ、一段階での取り出しは特に容易で、胚を損傷するリスクは低い。
【0090】
本発明の態様は、その流動特質が能動的に変化して、オルガノポリシロキサンエラストマーのような圧縮可能または変形可能な弾性材料で形成されるマイクロチャネルを含んでもよい。しかし、基盤は、能動制御が望ましくない位置では、硬い、たとえば実質的に非弾性の材料で構築されてもよい。
【0091】
本発明の態様は、チャンバーまたは通路(「空隙」)の形状または容積を変化させる少なくとも1つの能動部分を含んでもよい。そのような能動部分には、混合部分、ポンピング部分、バルブ調節部分、流動部分、チャネル、またはリザーバー選択部分、細胞粉砕部分、および障害除去部分が含まれる。これらの能動部分は、マイクロ流体デバイスの関連する部分に圧力を発揮して、このようにこれらの特徴を構成する空隙の形状または容積を変化させることによって、流体の流れ、流体の特質、チャネル、またはリザーバー特質に何らかの変化を誘導する。「空隙」という用語は、基盤材料が存在しないことを指す。使用にあたって、空隙は、流体で満たされてもよい。
【0092】
能動部分は、所望の能動制御を成就するために、そのそれぞれのチャネルを閉鎖する圧力またはチャネルの断面積を制限する圧力によって能動型にされてもよい。この目的を達成するために、チャネルまたはリザーバーは、マイクロ流体デバイスの外部からの中等度の圧力によって、チャネルまたはリザーバー(「マイクロ流体特徴」)が圧縮して、それぞれの特徴の局所制限または全閉鎖(total closure)を引き起こすように、構築してもよい。
【0093】
特徴および外部表面を取り囲む壁は、軽微な量の圧力によって、外部表面および任意で内部特徴壁が歪んで、この点で断面積を低減させるまたは特徴を完全に閉鎖する(closing)ように弾性であってもよい。
【0094】
デバイスの能動部分を「能動型にする」ために必要な圧力は、充電型ブライユ型ディスプレイのような外部接触型デバイスによって供給されてもよい。接触型アクチュエータはデバイスの能動部分に接触して、電圧を与えられると、伸長して変形可能なエラストマーを押し、能動部分における特徴を制限または閉鎖する。
【0095】
様々な流動チャネルおよびリザーバーの寸法は、容積および流速特性によって決定されてもよい。完全に閉鎖するように設計されたチャネルは、マイクロチャネルとアクチュエータのあいだの弾性層がチャネルの底に近づくことができるような深さであってもよい。弾性材料の基盤を製造することによって、円形の断面の場合と同様に、一般的に、特に最も遠い角(アクチュエータから最も離れている)での完全な閉鎖が促進される。深さはまた、たとえばアクチュエータの伸長可能な突出部、たとえばピンに関して可能な伸長に依存すると考えられる。このように、チャネルの深さは、たとえば1 nm〜500 μmまで変化してもよい。
【0096】
本発明の態様は、ネガ型フォトレジスト、たとえばSU-8 50フォトレジスト(Micro Chem Corp., Newton, Mass.)を用いることによって調製してもよい。フォトレジストをガラス基盤に適用して、適したマスクを通して非コーティング面から露光してもよい。硬化の深さは、光源の露光時間および強度のような要因に依存することから、非常に薄い特徴からフォトレジストの深さまでの特徴が作製される可能性がある。露光されていないレジストを除去すると、ガラス基盤上に隆起パターンが残される。硬化可能なエラストマーをこのマスター上に入れた後除去する。
【0097】
SU-8 50フォトレジストの材料特性および安価な光源からの拡散光を用いて、端部では丸くなめらかであるが上部は平坦な、たとえばベル型の断面プロフィールを有する微細構造およびチャネルを生成することができる。短い露光は丸みのある上面を産生する傾向があり、長い露光は丸い角を有する平坦な上部を産生する傾向がある。これらのプロフィールは、流体の流れを停止させるためにチャネル構造の完全な崩壊を必要とする圧縮型の変形に基づくバルブとして用いるために理想的である。そのようなチャネルによって、ブライユ型アクチュエータは、マイクロチャネルの完全な閉鎖を生じ、このように、非常に有用なバルブ調節型マイクロチャネルを産生する。そのような形状はまた、それ自身、均一な流れの場を産生させて、同様に良好な光学特性を有する。
【0098】
典型的な技法において、フォトレジスト層は、マスク、たとえばフォトプロット被膜を通して、紫外線(UV)トランスイルミネーターによって生成された拡散光によって、基盤の裏面から露光される。ベル型の断面は、拡散光によって作製された球状の波面がネガ型フォトレジストに浸透する方法のために生成される。SU-8吸収係数における露光量依存的変化は、端部での露光の深さを制限する。
【0099】
製作された構造の正確な断面の形状および幅は、フォトマスク特徴の大きさ、露光時間/強度、レジストの厚さ、フォトマスクおよびフォトレジストのあいだの距離の組み合わせによって決定されてもよい。裏面の露光は、フォトマスクによって規定される大きさより広く、いくつかの場合において当初のフォトレジストコーティングの厚さと比較して高さがより低い特徴を作製するが、転写されるパターンの寸法の変化は、マスクの寸法および露光時間から容易に予想される。
【0100】
得られたフォトマスクパターンとフォトレジストパターンの幅の関係は、特定のフォトマスク開口部の大きさを超えて、本質的に直線的であり、たとえば勾配は1である。この直線関係により、一定の値の単純な引き算によって、フォトマスク上の開口部の大きさの単純な代償が可能となる。露光時間を一定に保つ場合、それより下では不完全な露光によりマイクロチャネルの高さが当初のフォトレジストの厚さより小さくなる、閾値開口部の大きさが存在する。より少ない露光は、よりなめらかでより丸みのある断面プロフィールを有するチャネルを作製する。しかし、遅すぎる露光量、または大きすぎるフォトレジストの厚さは、フォトレジストの中を浸透するには不十分であり、それによって当初のフォトレジストの厚さより薄い断面が得られる。
【0101】
厚さ30μmのベル型の断面のマイクロチャネルの適切性は、市販の充電型ブライユ型ディスプレイのピエゾ電気バーチカルアクチュエータを用いてチャネルに外力を発揮することによって評価してもよい。チャネルの断面が、長方形の断面のような不連続な接線を有する場合、メンブレンと壁のあいだに空間が残る可能性がある。対照的に、ベル型の断面を有するチャネルは同じ条件で完全に閉鎖する可能性がある。ブライユピンを、200μm PDMSメンブレンを通してベル型または長方形状の断面のマイクロチャネルに対して押すと、ベル型チャネルは完全閉鎖する可能性があるが、同じ幅の長方形のチャネルはかなりの漏出がある可能性がある。
【0102】
変形に基づくマイクロ流体バルブとして用いる場合、ベル型のマイクロチャネルは従来の長方形または半円形の断面チャネルと比較して圧縮の際に自己密閉を示す可能性がある。一例として、幅および高さ30μmを有するベル型のチャネルは、ブライユピンの18 gfの力の圧迫によって完全に閉鎖する可能性がある。
【0103】
徐々に傾く側壁を有するベル型の断面を有するチャネルは、プロフィールが表面張力によって決定されることから、フォトマスク規定可能な丸みのあるパターンを製作するための最も簡便な方法の1つである融解レジスト技術によって製作してはならない。
【0104】
ベル型の形状は、変形の際にチャネルを完全に閉鎖する能力を損ねることなくマイクロ流体チャネル内で断面積を最大限にする。さらに、ベル型の断面は、平坦な天井および床を有するチャネルを提供し、これは光学顕微鏡における異常を低減するために、およびチャネルの幅を超えてより均一な速度プロフィールを有する流動場を得るために有用である。充電型ブライユ型ディスプレイに基づく簡便で安価な市販のバルブ作動メカニズムと組み合わせた、ベル型の断面形状を有するマイクロチャネルのこれらの長所は、マイクロ流体細胞および培養分析システムのような広範囲のマイクロ流体応用、バイオセンサー、ならびにマイクロレンズのようなチップ上の光学デバイスにとって有用であると考えられる。
【0105】
接触型アクチュエータの外向きの伸長は、その所望の目的にとって十分でなければならない。たとえば、深さ40μmのマイクロチャネルの完全な閉鎖は、たとえば単一のアクチュエータを用いる場合には、一般的に40μmまたはそれより長い伸長、たとえばピンを必要とし、チャネルの反対側に2つのアクチュエータを用いる場合には20μmまたはそれより長い伸長を必要とすると考えられる。
【0106】
ぜん動性ポンプ、混合、および流動調節の場合、チャネルの高さに対してより少ない伸長が有用である。接触型アクチュエータの面積の大きさは、チャネルの幅および機能と共にほぼ変化して、40μm〜約2 mmの範囲であってもよい。より大きいおよびより小さい大きさも同様に可能である。
【0107】
補遺Aは、マイクロ流体細胞培養に関する携帯型再循環システムおよび特別仕様の培地を開示する。補遺Bは、胚の培養のためのデバイスおよびその使用を開示する。補遺Cは、プログラム可能な接触型アクチュエータを用いる集積型マイクロ流体制御を開示する。補遺Dは、マイクロ流体のためのコンピューター化制御法およびシステム、ならびにその使用のためのコンピュータープログラム産物を開示する。本発明の態様は、補遺A、B、C、およびDにおいて記述される態様の形または態様の一部の形状であってもよい。
【0108】
補遺A
本発明の多くの改変は当業者に明らかとなり、本明細書に開示の対象物質の一部である。たとえば、クランプ機構を、指板と離れているが連動することができる、またはブライユ型ディスプレイモジュールを含むデバイス全体の高さに及びうる簡単なクランプが含まれる他のクランプ機構に置換してもよく、またはそれによって増強してもよい。
【0109】
類似の方法で、透明な加熱素子がスライドガラスにおいて製作されるように記述されているが、このスライドガラスは、使い捨てのデバイスに組み入れられ、異なるデバイスよりむしろその一体型となってもよいと認識されると考えられる。あまり都合がよくはないが、加熱素子はまた、マイクロ流体チップ上に直接配置されてもよい。加熱単位はまた、スライドガラスまたはチップの一部のみが加熱されて、このように加熱が望ましくない領域、たとえば流体貯蔵領域における加熱を回避すると共に電力を保存するようにパターン形成されてもよい。
【0110】
本発明のラブオンチップの進行したバージョンにおいて、ヒーターユニットおよび同様に望ましい場合、接触型アクチュエータの操作を制御するための電子回路と共に、チップそのものの上に1回使用または充電型バッテリー電源を有することが望ましい。コードで繋がれた電源から構造を分離できることによって、モジュール内での微小環境を保持しながら、モジュールを試験、分析等のための他の位置に容易に移動することができる。
【0111】
本発明はさらに、デバイスのチャネル、リザーバー等に含まれる液体の蒸発を最小限にするための蒸気障壁として作用する、モジュール構造の全てまたは一部のみに対して被膜、コーティング、またはメンブレンを組み入れるPMDSまたは他の弾性シリコン構造に関する。適した蒸気障壁は一般的に、たとえばパリレンの比較的に孔を含まない疎水性被膜である。さらに、酸素、二酸化炭素、またはこれらの気体の双方の流れに対して抵抗性である被膜もまた、デバイス内で確立された条件に及ぼす周囲の大気のいかなる影響も最小限にするために適用してもよい。そのような被膜は、プラスチックの分野、特に飲料容器であるテレフタル酸ポリエチレンにおいて周知である。
【0112】
補遺B
胚は、その底に近いウェルに流体を供給するマイクロチャネルデバイスに連絡しているウェルの底部での生育によって、効率的に良好な生存率で生育する可能性があることが、意外にも発見された。底部の開口部は、胚がチャネルに入ることができないような大きさを有する。
【0113】
本発明は、その多くがデバイスそのものの壁よりむしろマイクロ流体デバイス内の容積、中空、チャネル等を図示する、添付の図面と比較して記述される。図示されるように、デバイスの最善の様式は一般的に、その先端部で1つまたは複数のマイクロチャネルに連絡している開口部を有する円錐形のウェルである。マイクロチャネルと同様にウェルに流体を満たし、1つまたは複数の胚をたとえばピペットによってウェルに導入する。胚は、底に沈むが、ウェルにおける穴より大きいためにウェルからはみ出すことが防止される。
【0114】
流体を、ウェルに連続的または不連続に導入されてもよく、流体は好ましくは胚にとって必要な生育培地を含む。たとえば、底に単一の穴を有するウェルでは、流体はウェルにおいてマイクロチャネルから上昇して、さらなる栄養を導入した後、降下して外因性の物質(老廃物)を含む流体をマイクロチャネルを通して除去してもよい。
【0115】
流体の導入および除去は、通常の重力ポンプまたは一定流重力駆動ポンプを用いて行うことができる。流体はまた、ポンプのような外部供給物、または好ましくは搭載型もしくは「半搭載型」の接触型アクチュエータに基づくポンプシステムによって供給することができる。
【0116】
ウェルは、チャネルへの入り口が、胚がチャネルの中に通過しないような大きさである限り、底部のみよりむしろ他の任意の位置および/または高さで入り口を有しうる。たとえば、ウェルの底部で開口部が存在し、中部または上部で開口部が存在してもよく、流体を底部から供給して、上部に近いところから除去してもよい。
【0117】
ウェルはまた、形状が完全に円錐形である必要はないが、好ましくは胚がウェルの底および中心に向かって沈降する傾向を有するように、直線状または曲線状のいずれであるかによらず、壁が傾くような形状を有する。ウェルの材料は、それほど重要ではなく、熱硬化性樹脂、熱可塑性、金属、ガラス、またはセラミックであってもよい。好ましい構築物において、デバイスは、上層がウェルを含み、より少ない強度および/または低い係数の弾性層または複数の層の支持体を提供するために比較的硬質の材料で構築される、多層デバイスである。
【0118】
このように、上層は、ガラス、ポリメチルメタクリレートのような硬い透明な材料で作製されることが好ましい。円錐形のウェルは、好ましくは5μm Ra未満、より好ましくは1μm Ra未満、およびさらにより好ましくは0.1μm Ra未満の低い表面あらさを有しなければならない。
【0119】
好ましいデバイスにおいて、円錐形のウェルは、上層の中を完全に浸透して、このように大きく開いた末端を上層の片側に有し、この層の底層に、第二層におけるマイクロチャネルと流体連絡している比較的狭い穴を有する。第二層は好ましくは、第一層に直接隣接して、円錐形のウェルと流体連絡している1つまたは複数のマイクロチャネルを有する。チャネルが、ウェルにおいて開口部に関してより近位に存在することが比較的重要である。たとえば、誤整列は、好ましくは最大で50μmでなければならない。第二層はまた、特に微小流体チャネルが、実質的に第二層の上部に存在する場合、すなわち上層の底表面に隣接する場合、低層を構成してもよい。しかし、好ましいデバイスにおいて、チャネルは少なくとも部分的に第二層の底に沿って存在し、第三のまたは密閉層がそこに適用される。この密閉層は好ましくは、ブライユ型接触型アクチュエータが、様々なマイクロチャネルのバルブおよびポンプとして作用するように、少々薄い。たとえばこの手段によって、流体は、バルブが開いているか閉じているか、およびポンプがマイクロチャネルに関して一方向または他方向に送り出すか否かのバルブ調節に応じて所定のマイクロチャネルにおける1方向に流れさせる、もしくは送り出すことができる、または双方向流となりうる。
【0120】
使用にあたって、ウェルにまず流体、たとえば胚培養用培地を満たし、1つまたは複数の胚をウェルに添加する。次に、油の小さい1または2滴をウェルの液体表面上に滴下することによって産生された油重層物を提供する。油は、ウェルからの液体の蒸発を防止して、このようにその中の成分の浸透圧、または濃度の変化を防止する。油の重層物はまた、具体的に酸素およびCO2を含む空気の流体への流れ、および流体からのこれらの気体の放出にも影響を及ぼす。油は、任意の適合性の油、たとえばシリコン油、パラフィン油、ポリエチレンオリゴマー油等であってもよい。同じ理由から、第二および/または第三の層における装置の部分は、たとえば特に水分喪失を最小限にする、パリレンまたは他のコーティングによってコーティングされてもよい。
【0121】
第二および第三の層は、特に接触型アクチュエータを使用するバルブ調節およびポンプ態様が使用される場合には、好ましくは鋳型エラストマーで作製される。しかし、「オフチップ」流体供給、バルブ調節等を用いる場合、エラストマーを用いる必要はなく、鋳型エポキシ、注入成型熱可塑材料、またはガラス等のような他の材料を用いることができる。当然、これらの材料の表面は、胚の培養物と適合性でなければならず、そうでない場合には、適切にコーティングされなければならないと認識される。
【0122】
本発明のプロセスは、流体、好ましくは胚培養物に慣例的に使用されるような生育流体を含むウェルに接合体を導入することを必要とする。次に、円錐形のウェルにおける流体を油、好ましくは鉱油で覆って、デバイスを適切な温度でインキュベートする。流体は、連続的または不連続にマイクロチャネルを通してウェルの内外に向けられる。たとえば、ウェルにおける流体レベルが増加した周期的に減少する、行ったり来たりする型の流体供給は、最も有利であることが見いだされている。生育しつつある胚を、通常の光学顕微鏡法によって検査してもよく、適当な段階まで生育したと判断された場合、胚をウェルから取り出す。ウェルの上層が底部より大きいことから、取り出しは特に容易で、胚を損傷するリスクは低い。
【0123】
補遺C
本発明のマイクロ流体デバイスは、圧縮可能または変形可能な弾性材料で形成された、その流動特質が能動的に変化するマイクロチャネルを含む。このように、実質的に全体のマイクロ流体デバイスを、本明細書において以降記述するように、オルガノポリシロキサンエラストマー(「PDMS」)のような柔軟な弾性材料で構築することが好ましい。しかし、デバイスの基盤はまた、能動制御が望ましくない場所では、硬い、すなわち実質的に軟質材料で構築されてもよいが、そのような構築物は一般的にさらなる構築の複雑さおよび出費を伴う。一般的に平面のデバイスは、適切な支持体を提供するためにデバイスの一面に好ましくはガラス、シリカ、硬質プラスチック、金属等を含むが、いくつかのデバイスにおいて、双方の主要な表面からの作動は、これらの支持体が存在しないこと、または弾性デバイスそのものとは離れて存在することを必要とするである場合がある。
【0124】
本発明のマイクロ流体デバイスは、チャンバーまたは通路(「空隙」)の形状および/または容積を変化させる、特にデバイスの流体の流動能を変化させる、少なくとも1つの能動部分を含む。そのような能動部分には、混合部分、ポンピング部分、バルブ調節部分、流動部分、チャネルまたはリザーバー選択部分、細胞粉砕部分、障害除去部分等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。これらの能動部分は全て、デバイスの関連する部分に圧力をかけることによって、かつこのようにこれらの特徴を構成する空隙の形状および/または容積を変化させることによって、流体の流れ、流体の特質、チャネル、またはリザーバー特徴等に何らかの変化を誘導する。「空隙」という用語は、基盤材料が存在しないことを指す。使用にあたって、空隙に、流体、微生物等を充填する。
【0125】
デバイスの能動部分は、所望の能動制御を成就するためにそのそれぞれのチャネルを閉じる、またはチャネルの断面積を制限する圧力によって能動化可能である。この目的を達成するために、チャネル、リザーバー等は、マイクロ流体デバイスの外部からの中等度の圧力によって、チャネル、リザーバー等(「マイクロ流体特徴」)が、圧縮して、それぞれの特徴の局所的な制限または全閉鎖を引き起こすように構築される。この結果を成就するために、特徴周辺のデバイスの平面内の壁は、好ましくは弾性であり、外表面(たとえば、平面デバイスにおいて、外部主要表面)は、小さい量の圧力によって、外表面および任意で内部特徴の壁が歪んで、この点での断面積を低減させる、または特徴を完全に閉鎖するように、必然的に弾性である。
【0126】
デバイスの能動部分を「能動化」させるために必要な圧力は、充電型ブライユ型ディスプレイにおいて用いられるように、外部接触型デバイスによって供給される。接触型アクチュエータは、デバイスの能動部分に接触して、電圧を与えられると伸長して変形可能なエラストマーを押し、能動部分の特徴を制限または閉鎖する。
【0127】
電圧を加えられることによって特徴を閉鎖または制限するより、接触型アクチュエータは、電圧を加えられると収縮する伸長した位置で製造されてもよく、または電圧を加えた状態でマイクロ流体デバイスに適用されてもよく、通路を閉鎖または制限して、電圧が加えられない場合には通路をさらに開く。
【0128】
現時点での好ましいアクチュエータは、スクリーンの本文をブライユ暗号に直接翻訳するGateway(商標)ソフトウェアを有するNavigator(商標)ブライユ型ディスプレイとしてTelesensoryから既に販売されているデバイスのような、プログラム可能なブライユ型ディスプレイである。これらのデバイスは、一般的に、「8-ドット」セルの直線状のアレイからなり、それぞれのセルおよびそれぞれのセル「ドット」は、個々にプログラム可能である。そのようなデバイスは、たとえば本文メッセージ、本等を「読む」ために本文の行をブライユ記号に1行を同時に変換するために視覚障害者によって用いられる。これらのデバイスは、それらが既に市販されていることから、現在好ましい。マイクロ流体デバイスの能動部分は、それらがブライユ型ディスプレイにおけるそれぞれの作動可能な「ドット」または突出部分の下に配置可能となるように設計される。ブライユ型ディスプレイは、他の供給元の中でもHandy Tech、Blazie、およびAlvaから入手可能である。
【0129】
しかし、柔軟性を増加させるために、たとえば10×10、16×16、20×100、100×100、または他のアレイを有する、複数のマイクロ流体デバイスについて使用可能な規則正しい直方形のアレイを提供することが可能である。空間がより近接しており、プログラム可能な伸長可能な突出数がより多くなるほど、マイクロデバイスの設計における柔軟性は大きくなる。そのようなデバイスの産生は、当技術分野において公知の構築法に従う。アドレス指定能力も同様に慣例的な方法に従う。不規則なアレイ、すなわち望ましい場合に限ってアクチュエータを有するパターンにおける不規則なアレイも同様に可能である。
【0130】
非組み込みでの使用にとって適した適したブライユ型ディスプレイデバイスは、24×16の接触ピンのアレイを有するGraphic Window Professional(商標)(GWP)として、Handy Tech Electronik GmbH, Horb, Germanyから販売されている。微小バルブによって操作される空気型ディスプレイは、Orbital Research, Incによって開示されており、ブライユ型接触セルの費用をセルあたり70米ドルからセル当たり約5〜10米ドルまで低減させると言われている。ピエゾ電気アクチュエータも同様に、ピエゾ電気素子が電気流体学的流体を置換して、それに従って電極の配置が変化する場合に使用可能である。
【0131】
本発明のマイクロ流体デバイスは多くの用途を有する。細胞の生育において、供給される栄養は生存系における利用可能性をシミュレーションするために変化させる必要がある可能性がある。様々なチャネルを閉鎖または制限するために、いくつかの供給チャネルに能動部分を提供することによって、栄養および他の流体の供給は意のままに変化すると考えられる。例は、骨様組織を作製するための三次元足場システム、天然の循環を模倣するためにぜん動ポンプと連結させたリザーバーからの様々な栄養によって供給される足場構造である。
【0132】
さらなる応用は、細胞の粉砕を伴う。能動部分を通してチャネルの中に細胞を輸送すること、およびチャネルの中を流れる細胞を粉砕するためにチャネルの閉鎖を作動することによって、細胞を粉砕してもよい。細胞の検出は、たとえば透明なマイクロ流体デバイスおよび適した検出器を用いるフローサイトメトリー技術によって達成してもよい。光ファイバーを様々な角度でチャネルに埋め込むことによって、検出および適当な能動化物質の能動化を促進することができる。チャネルからそれぞれの異なる収集部位またはリザーバーまでの送出を変化させるためにバルブを使用することと連結させた類似の検出技術を用いて、胚および細菌、真菌、藻類、酵母、ウイルス、精子細胞等を含む微生物をソーティングすることができる。
【0133】
胚の生育は一般的に、胚に適合することができ、その後の生育を可能にするチャネルまたは生育チャンバーが必要である。しかし、そのような深いチャネルは有効に閉じることができない。胚を生育させることができるマイクロ流体デバイスは、2つのマスクを用いて多重露光フォトリソグラフィーによって製作してもよい。第一に、任意でより大きい、深さ200μm×長さ300μmおよび幅300μmの生育チャンバーを片方の端部に有する、大きいいくぶん長方形の(幅200μm×深さ200μm)のチャネルを製作する。200μm×200μmチャネルとの合併により、ブライユピンによって容易に閉鎖可能な深さ約30μmのより小さいチャネルが得られる。球根状の生育チャンバーの出口は、1つまたは複数の薄い(30μm)チャネルである。操作にあたって、胚および培地を大きいチャネルに導入して、球根状の生育チャンバーに移動させる。生育チャンバーからの出口チャネルは非常に小さいことから、胚は、チャンバーに捕獲される。合併チャネルおよび出口チャネルを用いて、任意の方法で、すなわち連続流、拍動流、逆流等によって栄養等を供給することができる。胚は、分光法および/または顕微鏡法によって調べてもよく、様々なチャネルを収容するPDMS本体を覆う弾性層を分離することによって取り出してもよい。
【0134】
流体デバイスの構築は、好ましくはたとえばD. C. Duffy et al., Rapid Prototyping of Microfluidic Systems in Poly(dimethylsiloxane), ANALYTICAL CHEMISTRY 70, 4974-4984 (1998)において記述されるように、ソフトリソグラフィー技術によって行われる。同様に、J. R. Anderson et al., ANALYTICAL CHEMISTRY 72, 3158-64 (2000);およびM. A. Unger et al., SCIENCE 288, 113-16 (2000)を参照されたい。SYLGARD. RTM. 184, Dow Corning Co.のような付加硬化可能なRTV-2シリコンエラストマーを、この目的のために用いることができる。
【0135】
様々な流動チャネル、リザーバー、生育チャンバー等の寸法は、容積および流速特性等によって容易に決定される。完全な閉鎖のために設計されたチャネルは、マイクロチャネルとアクチュエータとのあいだの弾性層がチャネルの底部に近づくことができるように深くなければならない。弾性材料の基盤の製造は、一般的に、丸い断面を有する基盤と同様に、特に最も遠い角(アクチュエータから最も遠い)で完全な閉鎖を促進する。深さはまた、たとえばアクチュエータの伸長可能な突出部に関して可能な伸長に依存すると考えられる。このように、チャネルの深さは、かなり変化する可能性がある。深さ100μm未満が好ましく、50μm未満がより好ましい。深さ10μm〜40μmの範囲のチャネルがほとんどの応用にとって好ましいが、非常に小さいチャネルの深さ、すなわち1μmでさえ実現可能であり、深さ500μmは、特に部分的閉鎖(「部分的バルブ調節」)が十分である場合に、適したアクチュエータについて可能である。
【0136】
基盤は、1つの層または複数の層の基盤であってもよい。個々の層は、レーザー剥離、プラズマエッチング、湿式化学法、注入成型、圧縮成型等を含む多数の技術によって調製されてもよい。しかし、既に示されているように、硬化性シリコンからの鋳造は、特に光学特性が重要である場合には、最も好ましい。ネガ型の鋳型の作製は多数の方法によって行うことができ、その全てが当業者に周知である。次に、シリコンを鋳型に注ぎ、必要に応じて脱気して、硬化させる。多数の層の互いへの密着は、通常の技術によって成就される可能性がある。
【0137】
いくつかのデバイスを製造するための好ましい方法は、ネガ型フォトレジストを用いることによってマスターを調製する段階を使用する。Micro Chem Corp., Newton, Mass.のSU-8 50フォトレジストが好ましい。フォトレジストを、ガラス基盤に適用して、適したマスクを通して非コーティング面から露光してもよい。硬化の深さは、露光の長さおよび光源の強度のような要因に依存することから、非常に薄いものからフォトレジストの深さまでの特徴が作製される可能性がある。露光されないレジストを除去すると、ガラス基盤状に隆起パターンが残される。硬化可能エラストマーをこのマスターに入れた後除去する。
【0138】
SU-8フォトレジストの材料特性および安価な光源からの拡散光を用いて、端部では丸くなめらかであるが上部は平坦な(すなわち、ベル型)断面プロフィールを有する微細構造およびチャネルを作製することができる。短い露光は丸みのある上面を産生する傾向があり、長い露光は丸い角を有する平坦な上部を産生する傾向がある。より長い露光はまた、より広いチャネルを産生する傾向がある。これらのプロフィールは、M. A. Unger, et al., SCIENCE 2000, 288, 113によって開示されているように、流体の流れを停止させるためにチャネル構造の完全な崩壊を必要とする圧縮型の変形に基づくバルブとして用いるために理想的である。そのようなチャネルによって、ブライユ型アクチュエータは、マイクロチャネルの完全な閉鎖を生じ、このように、非常に有用なバルブ調節マイクロチャネルを産生する。そのような形状はまた、それ自身、均一な流れ場を産生させて、同様に良好な光学特性を有する。
【0139】
典型的な技法において、フォトレジスト層は、マスク、たとえばフォトプロットした被膜を通して、紫外線(UV)トランスイルミネーターによって生成された拡散光によって、基盤の裏面から露光される。ベル型の断面は、拡散光によって作製された球状の波面がネガ型フォトレジストに浸透する方法により生成される。SU-8吸収係数における露光量依存的変化(365 nmに露光した場合の9700 m.sup.-1に対して非露光の3985 m.sup.-1)は、端部で露光の深さを制限する。
【0140】
製作された構造の正確な断面の形状および幅は、フォトマスク特徴の大きさ、露光時間/強度、レジストの厚さ、フォトマスクとフォトレジストのあいだの距離の組み合わせによって決定されてもよい。裏面の露光は、フォトマスクによって規定される大きさより広く、いくつかの場合において当初のフォトレジストコーティングの厚さと比較して高さがより低い特徴を作製するが、転写されたパターンの寸法の変化は、マスクの寸法および露光時間から容易に予想される。得られたフォトマスクパターンとフォトレジストパターンの幅の関係は、特定のフォトマスク開口部の大きさを超えて、本質的に直線状(勾配は1)である。この直線関係により、一定の値の単純な引き算によって、フォトマスク上の開口部の大きさの単純な代償が可能となる。露光時間を一定に保つ場合、それより下では不完全な露光によりマイクロチャネルの高さが当初のフォトレジストの厚さより低くなる、開口部の大きさの閾値が存在する。より少ない露光量は、よりなめらかでより丸みのある断面プロフィールを有するチャネルを作製する。しかし、遅すぎる露光量(または大きすぎるフォトレジストの厚さ)は、フォトレジストの中を浸透するには不十分であり、それによって当初のフォトレジストの厚さより薄い断面が得られる。
【0141】
厚さ30μmのベル型の断面のマイクロチャネルの適切性は、市販の充電型ブライユ型ディスプレイのピエゾ電気バーチカルアクチュエータを用いてチャネルに外力を発揮することによって評価してもよい。チャネルの断面が、長方形の断面のような不連続な接線を有する場合、メンブレンと壁のあいだに空間が残る可能性がある。対照的に、ベル型の断面を有するチャネルは同じ条件で完全に閉鎖する。ブライユピンを、200μmポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)メンブレンを通してベル型または長方形状の断面のマイクロチャネルに対して押すと、ベル型チャネルは完全に閉鎖したが、同じ幅の長方形のチャネルはかなりの漏出を有した。
【0142】
記述の技術は、レーザー、照準光源(マスクアライアー)、またはサブミクロン分解フォトマスクのような特殊な設備を必要としないことから、グレースケールマスクリソグラフィーまたはレーザー光線重合化のような十分に規定された丸みのあるプロフィールを生成するための他のフォトリソグラフィー法と比較して、費用および時間効果が高く、これは多くの生物学研究室において利用可能なトランスイルミネーターを必要とするに過ぎない。さらに、裏面露光技術は、マイクロ流体マスクリソグラフィーのような他のソフトリソグラフィーに基づくパターン形成法、および既存のマイクロチャネルにおける腐食液のパターン化層流を用いる場合と比較してより多くのプロフィールを生成することができる。
【0143】
変形に基づくマイクロ流体バルブとして用いる場合、これらのベル型のマイクロチャネルは、シミュレーションおよび実験によって証明されたように、従来の長方形または半円形の断面チャネルと比較して圧縮の際に改善された自己密閉を示した。ベル型のチャネル(幅30μmおよび高さ30μm)は、ブライユ型ピンの18 gfの力の圧迫によって完全に閉鎖した。「徐々に傾く」側壁を有するベル型の断面を有するチャネルは、プロフィールが表面張力によって決定されることから、フォトマスク規定可能な丸みのあるパターンを製作するための最も簡便な方法の1つである融解レジスト技術によって製作してはならないことに注意すべきである。ベル型のチャネルは、変形の際にチャネルを完全に閉鎖する能力を損ねることなくマイクロ流体チャネル内で断面積を最大限にする。たとえば、本明細書に記述のチャネルの断面は、既に報告された、空気作動型の変形に基づくバルブ(幅100μm;高さ201μm)より大きく、哺乳動物細胞培養により適している可能性がある。さらに、ベル型の断面は、平坦な天井および床を有するチャネルを提供し、これは光学顕微鏡における異常を低減するために、およびチャネルの幅を超えてより均一な速度プロフィールを有する流れ場を得るために有用である。充電型ブライユ型ディスプレイに基づく簡便で安価な市販のバルブ作動メカニズムと組み合わせた、ベル型の断面形状を有するマイクロチャネルのこれらの長所は、マイクロ流体細胞および培養分析システムのような広範囲のマイクロ流体応用、バイオセンサー、ならびにマイクロレンズのようなチップ上の光学デバイスにとって有用であると考えられる。
【0144】
接触型アクチュエータの外向きの伸長は、その所望の目的にとって十分でなければならない。たとえば、深さ40μmのマイクロチャネルの完全な閉鎖は、たとえば単一のアクチュエータを用いる場合には、一般的に40μmまたはそれより長い伸長(「突出」)を必要とし、チャネルの反対側に2つのアクチュエータを用いる場合には20μmまたはそれより長い伸長を必要とする。ぜん動性ポンプ、混合、および流れの調節の場合、チャネルの高さに対してより小さい伸長が有用である。接触型アクチュエータの面積の大きさは、チャネルの幅および機能(閉鎖、流れの調節、ポンプ等)と共にほぼ変化して、40μm〜約2 mmの範囲、より好ましくは0.5 mm〜1.5 mmの範囲であってもよい。より大きいおよびより小さい大きさも同様に可能である。アクチュエータは十分な力を生成しなければならない。1つのブライユ型ディスプレイピンによって生成された力は、約176 mNであり、他のディスプレイではより高いまたはより低い。
【0145】
本発明を用いることによって、多数の機能を単一のデバイスで実行することができる。栄養、増殖因子等を供給するために多数のリザーバーを用いることが可能である。様々なリザーバーは、同時に単一のリザーバーからの、またはリザーバーの任意の組み合わせからの流体供給のいかなる組み合わせも可能にする。これは、既に記述されているようにバルブ調節マイクロチャネルによってリザーバーとの流体連絡を確立することによって成就される。ブライユ型ディスプレイまたはアクチュエータアレイをプログラムすることによって、それぞれの個々のリザーバーを意のままに生育チャネルまたはチャンバーに接続してもよい。同様に、マイクロチャネル供給に沿って複数の伸長可能な突出を組み入れることによって、ぜん動ポンピングを多様な流速で行ってもよい。脊椎動物の循環系に典型的な不均一な拍動性の流れを容易に作成することができる。本発明のシステムが提供する柔軟性にもかかわらず、構築は単純である。単純なプログラム可能な外部アクチュエータと連結させたマイクロ流体デバイス自体の単純性により、マイクロ流体デバイスがその技術的能力にもかかわらず、比較的安価で使い捨て可能である、費用効果の高いシステムを調製することができる。
【0146】
ラップトップから携帯型システムにおけるマイクロ流体細胞試験においてより高い柔軟性を提供する多数のポンプおよびバルブを有する複合の調節された流れは、充電型ブライユ型ディスプレイ上の小さいアクチュエータのグリッドを用いて作製される。これらのディスプレイは典型的に、コンピューターモニターに対する接触類似体として視覚障害者によって用いられる。ディスプレイは通常、それぞれが垂直に移動する(約1〜1.3 mm)ピン8本(4×2)を有する20〜80行のセルを含む。同じセル上のピン2本は、典型的に中心から2.45 mm離れて、異なるセルでは3.8 mm離れている。それぞれのピンは、ピエゾ電気メカニズムを用いて0.7〜約1 mm上に突出能を有してもよく、約15〜20 cNまで保持してもよい。ブライユピンアクチュエータの制御は、コンピュータープログラムにおける本文の行を変化させることによって成就される。独自の組み合わせのブライユピンは所定の時間に表示される文字に応じて突出すると考えられる。ブライユ型ディスプレイは、ソフトウェアと共に予め包装され、使用が容易で、容易にアクセスすることができる。それらは個人が使用するために設計され、ACまたはバッテリー電源を用いるウォークマン型からラップトップ型に及ぶ。弾性のある透明なゴムにおけるチャネルに対して移動するブライユピンを用いることによって、チャネルを変形させ、インサイチューでポンプおよびバルブを作製することが可能である。
【0147】
補遺D
マイクロ流体デバイスの態様は、生きている生物の流体中での培養にとって適している可能性がある。マイクロ流体デバイスは、生きている生物に提供される流体の流れおよび組成を制御する可能性がある。マイクロ流体デバイスは、層流、擬似多層層流、または非層流を提供してもよい。マイクロ流体デバイスは、生きている生物において物理的操作を行ってもよい。マイクロ流体デバイスは、たとえば細胞の洗浄および剥離、細胞の播種および培養を含む全般的細胞培養のために用いてもよい。マイクロ流体デバイスは、マイクロリアクター、組織培養デバイス、細胞培養デバイス、細胞ソーティングデバイス、細胞粉砕デバイス、マイクロフローサイトメーター、運動性精子ソーター、マイクロキャブレター、マイクロ分光光度計、またはマイクロスケール組織工学デバイスとして用いてもよい。マイクロ流体デバイスには、マイクロ流体デバイスの素子の状態もしくは流れの特質またはチャネルにおける粒子の通過を決定するためのセンサーが含まれてもよい。センサーは、たとえば光学、電気、または電気機械センサーであってもよい。
【0148】
1つの態様において、マイクロ流体デバイスには、能動的に変化して、圧縮可能なまたは変形可能な弾性材料で形成される流れの特質を有するマイクロチャネルが含まれる。1つの態様において、マイクロ流体デバイス全体は、本明細書において以降記述されるように、オルガノポリシロキサンエラストマー(「PDMS」)のような柔軟な弾性材料で構築される。しかし、デバイスの基盤はまた、能動制御が望ましくない部位では、硬い、たとえば実質的に非弾性の材料で構築されてもよい。
【0149】
マイクロ流体デバイスは、チャンバーまたは通路の形状および/または容積(「空隙」)、特にデバイスの流体の流動能を変化させる少なくとも1つの能動部分を含んでもよい。そのような能動部分には、混合部分、ポンピング部分、バルブ調節部分、流動部分、チャネル、またはリザーバー選択部分、細胞粉砕部分、および障害除去部分が含まれる。これらの能動部分は全て、デバイスの関連する部分に圧力を発揮して、このようにこれらの特徴を構成する空隙の形状または容積を変化させることによって、流体の流れ、流体の特質、チャネル、またはリザーバー特質に何らかの変化を誘導する。「空隙」という用語は、基盤材料が存在しないことを指す。使用にあたって、空隙は、流体で満たされてもよい。
【0150】
デバイスの能動部分は、所望の能動制御を成就するために、そのそれぞれのチャネルを閉鎖する、またはチャネルの断面積を制限する圧力によって能動型にされてもよい。この目的を達成するために、チャネル、リザーバー、または他の素子は、マイクロ流体デバイスの外部からの中等度の圧力によって、チャネル、リザーバー、または他の素子(「マイクロ流体特徴」)が圧縮して、それぞれの特徴の局所制限または全閉鎖を引き起こすように、構築される。この結果を成就するために、特徴を取り囲むデバイスの平面内の壁は、好ましくは弾性であり、外力(たとえば、平面デバイスにおいて、外部主要表面)は、軽微な量の圧力によって、外部表面および任意で内部特徴壁が歪み、この点で断面積を低減させる、または特徴を完全に閉鎖するように弾性である。
【0151】
デバイスの能動部分を「能動型にする」ために必要な圧力は、アクチュエータシステムの充電型ブライユ型ディスプレイのような外部接触型デバイスによって供給される。接触型アクチュエータはデバイスの能動部分に接触して、電圧を与えられると、伸長して変形可能なエラストマーを押し、能動部分における特徴を制限または閉鎖する。
【0152】
いくつかの態様において、電圧を与えられることによって特徴を閉鎖または制限するよりむしろ、接触型アクチュエータを、電圧が与えられると収縮する、または電圧が与えられた状態でマイクロ流体デバイスに適用されて、通路を閉鎖または制限し、電圧が与えられないと通路をさらに開く、伸長した位置で製造してもよい。
【0153】
本発明のデバイスのみならず、デバイス特徴を能動化するために圧力、たとえば空気圧を用いる他のマイクロ流体デバイスの性能の有意な改善は、チャネルの壁に隣接する1つまたは複数の間隙を含めるようにデバイスを成型することによって達成される可能性がある。これらの間隙はそれぞれの特徴のより完全な閉鎖またはひずみを考慮に入れる。
【0154】
1つの態様において、アクチュエータシステムは、それぞれが流体操作を行うために、マイクロ流体デバイスの対応する素子と連動する複数の移動可能なピンが含まれるプログラム可能なブライユ型ディスプレイである。マイクロ流体デバイスの素子にはポンプおよびバルブが含まれる。ピンは、規則的な幾何学的アレイで整列してもよい。そのような整列は、マイクロ流体デバイスの異なる構造と共に用いてもよい。この整列において、デバイスにおける素子はピンに対応していないことから、いくつかのピンは特定のマイクロ流体デバイスのために用いられなくてもよい。または、ピンは、特殊な、または一群のマルチ流体ディックデバイスの素子に対応するように選択してもよい。それぞれのピンは、独立して制御され、個々にアドレス指定可能であってもよい。
【0155】
アクチュエータシステムの例は、スクリーンの本文をブライユ暗号に直接翻訳するGateway(商標)ソフトウェアを有するNavigator(商標)ブライユ型ディスプレイのようなTelesensoryシステムである。これらのデバイスは、一般的に、「8-ドット」セルの直線状のアレイを含み、それぞれのセルおよびそれぞれのセル「ドット」は、個々にプログラム可能である。そのようなデバイスは、たとえば本文メッセージ、本等を「読む」ために本文の行をブライユ記号に1行を同時に変換するために、視覚障害者によって用いられる。マイクロ流体デバイスの能動部分は、それらがブライユ型ディスプレイにおけるそれぞれの作動可能な「ドット」または突出部分の下に配置可能となるように設計される。ブライユ型ディスプレイは他の供給元の中でもHandy Tech、Blazie、およびAlvaから入手可能である。以下に記述されるように、システムは、生物において行われるプロセスをユーザーに選択させて、次にライブラリからプロセスを実行することによってアクチュエータシステムのピンを制御するための様々なソフトウェアプログラムを用いてもよい。
【0156】
しかし、柔軟性を増加させるために、たとえば10×10、16×16、20×100、100×100、または他の大きさのアレイを有する、複数のマイクロ流体デバイスについて使用可能な規則正しい長方形のアレイを提供することが可能である。空間がより近接して、プログラム可能な伸長可能な突出数がより多くなるほど、マイクロデバイスの設計における柔軟性は大きくなる。そのようなデバイスの産生は、当技術分野において公知の構築法に従う。アドレス指定能力も同様に慣例的な方法に従う。不規則なアレイ、すなわち望ましい場合に限ってアクチュエータを有するパターンにおける不規則なアレイも同様に可能である。
【0157】
マイクロ流体デバイスと共に接触型アクチュエータを組み入れるデバイスも同様に構築することができる。アクチュエータは、なおもマイクロ流体デバイス自体の外部に存在するが、それに付着または結合させて、一体構造を形成する。電気流体学的流体の構築を使用する接触型アクチュエータデバイス、「オン」および「オフ」部分のあいだの置換のための形状記憶ワイヤを利用するブライユ型デバイス、電気流体または磁気流体作業液またはゲルを使用するデバイス、空気作動型ブライユデバイス、「音声コイル」型構造、特に強い永久磁石を使用する構造、形状記憶合金および固有伝導ポリマーシートを使用するデバイス、のような他のタイプのアクチュエータシステムを用いてもよい。
【0158】
非一体型使用にとって適したブライユ型ディスプレイデバイスは、24×16の接触ピンのアレイを有するGraphic Window Professional(商標)(GWP)として、Handy Tech Electronik GmbH, Horb, Germanyから入手可能である。ピエゾ電気アクチュエータも同様に、ピエゾ電気素子が電気流体学的流体を置換して、それに従って電極の配置が変化する場合に使用可能である。
【0159】
マイクロ流体デバイスは多くの用途を有する。本明細書に記述のソフトウェアはこれらの用途の操作を自動化する。細胞の生育において、供給される栄養は、生存系における利用可能性をシミュレーションするために変化させる必要がある可能性がある。様々なチャネルを閉鎖または制限するために、いくつかの供給チャネルに能動部分を提供することによって、栄養および他の流体の供給は意のままに変化すると考えられる。例は、骨様組織を作製するための三次元足場システム、天然の循環をシミュレーションするためにぜん動ポンプと連結させたリザーバーからの様々な栄養によって供給される足場構造である。
【0160】
さらなる応用は、細胞の粉砕を伴う。能動部分を通してチャネルの中に細胞を輸送すること、およびチャネルの中を流れる細胞を粉砕するためにチャネルの閉鎖を作動することによって粉砕してもよい。細胞の検出は、たとえば透明なマイクロ流体デバイスおよび適した検出器を用いるフローサイトメトリー技術によって達成してもよい。光ファイバーを様々な角度でチャネルに埋め込むことによって、検出および適当な能動化物質の能動化を促進することができる。チャネルからそれぞれの異なる収集部位またはリザーバーまでの送出を変化させるためにバルブの使用に連結させた類似の検出技術を用いて、胚ならびに細菌、真菌、藻類、酵母、ウイルス、および精子細胞等を含む微生物をソーティングすることができる。
【0161】
ソフトウェアは、圧力を制御するためのアクチュエータシステムを制御して、このようにチャネルの開口および閉鎖、ならびに時期を制御する。行われるプロセスに応じて、ソフトウェアは、個々にまたは一群でアクチュエータに、チャネルにおける流体に関してぜん動ポンピング作用または混合作用のような作用を提供するように指示を出してもよい。ソフトウェアは、チャネルの流れを選択的に制御するためにマイクロ流体デバイスのセンサーをモニターしてもよい。
【0162】
マイクロ流体デバイスに埋め込まれるこれらのピンによって形成されるぜん動ポンプの実例として、チャネルにおける流体をポンプで押し出すために、Xが閉鎖位置であり、Oが開口位置であるXXO、OXX、OOX、XOXのような反復パターンを用いてもよい。得られた流体の流れは拍動的であり、双方の方向に一過性に移動する。真の移動はパターン変化頻度に対するその直線的関係によって予測することができ、流れの方向は作動パターンを逆転させることによって切り換えることができる。
【0163】
本発明を用いることによって、多数の機能を単一のデバイスで実行することができる。栄養、増殖因子等を供給するために多数のリザーバーを用いることが可能である。様々なリザーバーは、たとえば単一のリザーバーから一度に、またはリザーバーの任意の組み合わせからの流体供給の任意の組み合わせを可能にする。これは、既に記述されるように、バルブを有するマイクロチャネルによって、リザーバーとの流体連絡を確立することによって成就される。アクチュエータシステムをプログラムすることによって、それぞれの個々のリザーバーを、生育チャネルまたはチャンバーと意のままに接続してもよい。同様に、マイクロチャネル供給に沿って複数の伸長可能な突出部を組み入れることによって、ぜん動ポンピングを多様な流速で行ってもよい。脊椎動物の循環系に典型的な不均一な拍動流を容易に作成することができる。マイクロ流体細胞試験においてより高い柔軟性を提供する多数のポンプおよびバルブを有する複合の調節された流れは、充電型のブライユ型ディスプレイにおける小さいアクチュエータのグリッドを用いることによって作製され、行われるプロセスのユーザーの選択に反応して、ソフトウェアによって自動的に実行される。
【0164】
本発明の態様を例証し説明してきたが、これらの態様は、本発明の起こりうる全ての形状を図示および説明すると意図されない。むしろ、本明細書において用いられた用語は、制限するためではなくて説明のための用語であり、様々な変更を行ってもよく、それらも本発明の趣旨および範囲に含まれると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明の態様に従うマイクロ流体細胞培養デバイスの拡大透視図である。
【図2A】図1のシステムの基盤の上面図である。
【図2B】図2aにおける切断線2b-2bに沿って得た基盤の断面の側面図である。
【図2C】図2aの基盤の底面図である。
【図3】図3aは、図1のシステムのメンブレンの分離独立し断面での側面図であり、アクチュエータピンの対がメンブレンの下表面に埋め込まれている。図3bは、図1のシステムのメンブレンの代替的態様の分離独立し断面での側面図であり、アクチュエータピンの対はメンブレンの下表面から離れて存在する。
【図4A】図1の基盤および図3bのメンブレンの代替的態様の分離独立し断面での側面図であり、基盤において形成されたリザーバーの対における生物学的流体2つの異なる高さを図示する。
【図4B】図4aの基盤およびメンブレンの分離独立し断面での拡大側面図であり、細胞塊の相対的な高さおよび通路の末端部分を図示する。
【図4C】図4aの基盤およびメンブレンの分離独立し断面でのもう1つの拡大側面図であり、リザーバーを規定する表面の角度ならびに細胞塊の相対的な幅およびリザーバーの下部を図示する。
【図5A】図1の基盤およびメンブレンの代替的態様の分離独立し断面での拡大側面図であり、通路の上のリザーバーの下部において保持される細胞塊を図示する。
【図5B】図1の基盤およびメンブレンの代替的態様の分離独立し断面での拡大側面図であり、通路の下のリザーバーの下部において保持される細胞塊を図示する。
【図5C】図1の基盤およびメンブレンの代替的態様の分離独立し断面での拡大側面図であり、リザーバーの下部の幅より小さい幅を有する細胞塊を図示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基盤;
それぞれが上部と下部とを有し、下部が生物学的流体を含み、上部が生物学的流体の浸透圧における望ましくない変化を防止するために生物学的流体の上にカバー液を含む、基盤において形成された第一と第二の空間的に離れたリザーバー;ならびに
下部通路がリザーバーの下部間で生物学的流体を流体連絡し、上部通路がリザーバーの上部間でカバー液を流体連絡し、上部および下部通路が少なくとも部分的に基盤におけるリザーバーのあいだの連続的な流体路を提供する、基盤において形成された上部および下部の空間的に離れた通路を含む、
マイクロ流体細胞培養デバイス。
【請求項2】
カバー液が不混和性の流体を含む、請求項1記載のデバイス。
【請求項3】
カバー液が、生物学的流体の密度と等しいまたはそれ未満の密度を有する、請求項1記載のデバイス。
【請求項4】
カバー液が生物学的流体の蒸発を低減させる、請求項1記載のデバイス。
【請求項5】
カバー液が生物学的流体の内部および外部への酸素ならびに二酸化炭素の少なくとも1つの流れを低減させる、請求項1記載のデバイス。
【請求項6】
生物学的流体が水ベースであり、
上部通路が生物学的流体をはじくように基盤の疎水性表面によって少なくとも部分的に規定される、
請求項1記載のデバイス。
【請求項7】
基盤が光学的に透明である、請求項1記載のデバイス。
【請求項8】
基盤が生物学的適合性である、請求項1記載のデバイス。
【請求項9】
上部通路の少なくとも一部が基盤の環境に露出している、請求項1記載のデバイス。
【請求項10】
カバー液が水ベースではなく、
基盤に、カバー液をはじくように上部通路に隣接して親水性表面が含まれる、
請求項9記載のデバイス。
【請求項11】
下部通路が上部通路より大きい流体流に対する抵抗性を有する、請求項1記載のデバイス。
【請求項12】
基盤、それぞれが上部と下部とを有する、基盤において形成された第一と第二の空間的に離れたリザーバー、および下部通路がリザーバーの下部に接続し、上部通路がリザーバーの上部に接続して、上部通路と下部通路が基盤におけるリザーバー間の連続的な流体路を少なくとも部分的に提供する、基盤において形成された上部および下部の空間的に離れた通路が含まれるマイクロ流体細胞培養デバイスを、提供する段階;
第一および第二のリザーバーに生物学的流体を添加する段階;
第一のリザーバーにおける生物学的流体に細胞塊を添加する段階;
生物学的流体の浸透圧における望ましくない変化を防止するために、および連続的な流体路において連続的な流体ループを形成するために、生物学的流体にカバー液を添加する段階;
第一および第二のリザーバーにおける生物学的流体の所望の高さの差を確立するために流体路における流体の運動を制御する段階;ならびに
所望の高さの差を所望の時間実質的に維持する段階を含む、
細胞を培養するための方法。
【請求項13】
カバー液が不混和性の流体を含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
カバー液が、生物学的流体の密度と等しいまたはそれ未満の密度を有する、請求項12記載の方法。
【請求項15】
カバー液が生物学的流体の蒸発を低減させる、請求項12記載の方法。
【請求項16】
生物学的流体が水ベースであり、
上部通路が生物学的流体をはじくように基盤の疎水性表面によって少なくとも部分的に規定される、
請求項12載の方法。
【請求項17】
基盤が光学的に透明である、請求項12記載の方法。
【請求項18】
基盤が生物学的適合性である、請求項12記載の方法。
【請求項19】
上部通路の少なくとも一部が基盤の環境に露出している、請求項12記載の方法。
【請求項20】
カバー液が水ベースではなく、
基盤に、カバー液をはじくように上部通路に隣接して親水性表面が含まれる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
下部通路が上部通路より大きい流体流に対する抵抗性を有する、請求項12記載の方法。
【請求項22】
カバー液が生物学的流体の内部および外部への酸素ならびに二酸化炭素の少なくとも1つの流れを低減させる、請求項12記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate


【公表番号】特表2009−511083(P2009−511083A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536793(P2008−536793)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2006/040856
【国際公開番号】WO2007/047825
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ウオークマン
【出願人】(507286909)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミシガン (13)
【Fターム(参考)】