説明

マイクロ流体装置および沈殿試薬を使用した核酸を単離する方法およびキット

本発明は、マイクロ流体装置および沈殿試薬を使用して、サンプルから、好ましくは生物学的サンプルから核酸を単離する方法およびキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
血液、組織サンプル、細菌細胞培養液、および法医学サンプルなどの複雑な基質からの核酸(例えばDNAおよびRNA)の単離および精製は、遺伝的研究、核酸プローブ診断、法医学DNA試験、および核酸の増幅を必要とするその他の分野における重要なプロセスである。増幅手順のために核酸を調製する多様な方法が当該技術分野で知られているが、それぞれその限界を有する。
【0002】
全血からDNAを単離する最も一般的な方法は、密度勾配を使用した抹消血単核細胞(PBMC)の単離を伴う。この方法は研究用途では功を奏するが、これは概して従来の一体型ハイスループットマイクロ流体装置で使用するのには適さない。
【0003】
非イオン洗剤を含有する低張緩衝液を使用して、核を無傷のままで(すなわち破壊せずに)赤血球細胞(RBC)ならびに白血球細胞(WBC)を溶解できる。別の手順では、全血を凍結および解凍する際にRBCのみが溶解される。無傷のWBCまたはそれらの核は、遠心分離によって回収できる。WBCの破壊なしにRBCを溶解するために、方法として水での希釈を使用することもできる。RBCの選択的溶解のその他の方法としては、塩化アンモニウムまたは第四級アンモニウム塩の使用、ならびにRBCを低張緩衝液の存在下で低張性ショックに曝すことが挙げられる。しかしこれらのアプローチの1つを使用した従来の方法では、PCRを阻害する物質(例えば酵素阻害物質)が核および/または核酸と共沈する。これらの阻害物質は、従来のハイスループットマイクロ流体装置中での分析に先だって除去されなくてはならない。
【0004】
沸騰、タンパク質分解酵素での加水分解、超音波、洗剤、または強塩基への曝露などの処理がDNA抽出のために使用されているが、アルカリ抽出が最も単純なストラテジーの一つである。例えばリン(Lin)らに付与された米国特許第5,620,852号明細書は、1分間程度の短い時間枠内での室温におけるアルカリ(例えばNaOH)処理による全血からのDNAの効率的な抽出について述べる。しかしきれいなDNAを得るためには、ヘモグロビンならびに血漿タンパク質の除去が必要である。これは短時間の洗浄ステップの使用によって、例えば水中での血液の懸濁とそれに続く遠心分離によって、上清の廃棄と、次にNaOHでのペレット抽出によって達成されている(例えばBiotechniques、25巻4号(1998年)588頁を参照されたい)。細胞を溶解するのに使用される大量の水は、方法を標準マイクロ流体装置中で使用するのに不適切なものにする。
【0005】
ケロッグ(Kellogg)らに付与された米国特許第5,010,183号明細書は、血液からのDNA抽出のためにアルカリ溶解を使用する、遠心マイクロ流体ベースのプラットフォームについて述べる。この方法は、生サンプル(例えば5μLの全血または大腸菌懸濁液)と5μLの10mM NaOHとを混合して95℃で1〜2分間加熱して細胞を溶解するステップと、DNAを放出してPCRを阻害するタンパク質を変性するステップと、溶解産物を5μLの16mMトリス−HCl(pH7.5)との混合によって中和するステップと、中和された溶解産物を8〜10μLの液体PCR試薬およびプライマーと混合するステップと、それに続く熱循環を伴う。試薬容積が小さくマイクロ流体装置に適する一方、あいにくマイクロ流体装置内でのDNAの下流処理は困難である。
【0006】
別の従来の方法は、フェノールクロロホルム抽出を使用する。しかしこれは有毒で腐食性の化学薬品の使用を要し容易に自動化されない。
【0007】
核酸単離のために固相抽出が使用されている。例えば核酸を核酸源から単離する一方法は、反応容器内でシリカ粒子懸濁液とグアニジニウムチオシアネートなどの緩衝カオトロピック剤とを混合するステップと、それに続くサンプルの添加を伴う。カオトロープの存在下で核酸はシリカ上に吸着され、それは遠心分離によって液相から分離され、アルコール水混合物で洗浄され、最終的に希釈水性緩衝液を使用して溶出される。シリカ固相抽出は、核酸を溶出せずに残留カオトロープを除去するのにアルコール洗浄ステップの使用を要する。しかし引き続くステップで核酸を増幅または変性するのに使用される感応性酵素の阻害を防止するために、(加熱蒸発によって、または別の非常に揮発性かつ可燃性の溶剤での洗浄により)アルコールのあらゆる痕跡を除去するように、高度の注意が必要である。次に核酸が水または溶出緩衝液によって溶出される。この結合、洗浄、および溶出手順は、カリフォルニア州バレンシアのキアジェン(Qiagen(Valencia,CA))などの多くの市販キットの基本である。しかしこの手順は非常に厄介で複数の洗浄ステップを含み、マイクロ流体の設定に適応させるのを困難にする。
【0008】
イオン交換法は高品質の核酸を生成する。しかしイオン交換方法は、高レベルの塩の存在をもたらし、それは典型的に核酸がさらに利用できる前に、除去されなくてはならない。
【0009】
国際公開第01/37291 A1号パンフレット(MagNA Pure)は、磁性ガラス粒子の使用および単離方法について述べ、そこではサンプルはカオトロピック塩およびプロテイナーゼKを含有する特別な緩衝液とのインキュベーションによって溶解される。ガラス磁性粒子が添加され、サンプル中に含有される全ての核酸がそれらの表面に結合する。非結合の物質はいくつかの洗浄ステップによって除去される。最終的に精製された全核酸を高温において低塩緩衝液で溶出する。
【0010】
さらに別の従来の方法は、生物学的サンプルを疎水性有機ポリマー固相に塗布するステップと、核酸を選択的に捕捉するステップと、引き続いて捕捉された核酸を非イオン性界面活性剤で除去するステップと、を伴う。別の方法は、疎水性有機ポリマー材料を非イオン性界面活性剤で処理するステップと、表面を洗浄するステップと、引き続いて処理された固体有機ポリマー材料と生物学的サンプルとを接触させて、有機ポリマー固相に結合する核酸量を低下させるステップと、を伴う。これらの固相方法は生物学的サンプルから核酸を単離する効果的な方法であるが、別の方法、特にマイクロ流体装置内で使用するのに適した方法が必要である。
【0011】
先行公報およびその他の先行知識に関する考察は、このような材料が公開され、既知であり、または一般的な一般知識の一部であることを認めるものではない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、核酸の単離、および好ましくは精製および回収のための方法を提供する。本発明のプロセスは、沈殿試薬(すなわち沈殿剤)を使用する。沈殿試薬は、阻害物質から核酸含有材料を分離することで知られている。典型的に阻害物質は沈殿試薬と組み合わさって、上清が対象の核酸を含有するように、サンプルから沈降する。したがって沈殿試薬と組み合わさった後、サンプルは、対象の核酸の大部分がある濃縮領域、および沈殿試薬の少なくとも一部(好ましくは沈殿試薬の大部分)と阻害物質の少なくとも一部(好ましくは阻害物質の大部分)がある濃縮度の低い領域を含む。
【0013】
本発明に従って単離された核酸は、例えばサンプル中の特定の核酸の存在を検出するためのアッセイで有用である。このようなアッセイは、疾患の予測および診断、法医学、疫学、および公衆衛生で重要である。例えば単離されたDNAをハイブリダイズおよび/または増幅にかけて、個体中の感染性ウィルスまたは突然変異遺伝子の存在を検出し、個体が感染性または遺伝的原因の疾患にかかる確率の判定を可能にしてもよい。スクリーンされる数百または数千個のサンプル中の1個のサンプルに感染性ウィルスまたは突然変異を検出する能力は、例えば早期検出が診断および治療に役立つかもしれないHIV感染、癌または癌羅病性の早期検出、または疾患についての新生児スクリーニングなど、疾患のリスクをもつ観察集団の早期診断または疫学において、かなりの重要性を担う。さらに本発明の方法はまた、基礎研究所において、培養細胞または生化学的反応から核酸を単離するためにも使用できる。核酸は、制限酵素消化、配列決定、および増幅などの酵素的変性のために使用できる。
【0014】
本発明は、核含有細胞(例えば白血球細胞)内に含まれるまたは含まれなくてもよい核酸(例えばDNA、RNA、PNA)を含むサンプルから、核酸を単離するための方法およびキットを提供する。これらの方法は、(例えばPCR反応で使用されるような)増幅反応を阻害できるので望ましくないヘムおよびその分解産物(例えば鉄イオンまたはその塩)などの阻害物質から、核酸を最終的に分離するステップを伴う。
【0015】
本発明の特定の実施態様は、顕著な量の核酸を保持することなく、固相材料内またはその上に阻害物質を保持する(すなわち阻害物質を材料に付着する)ステップを伴う。適切な固相材料としては、典型的に、そこに捕獲部位(例えばキレート官能基)が付着するあらゆる形態(例えば粒子、原線維、膜)の固体マトリックス、固相材料上に被覆されたコーティング試薬(好ましくは界面活性剤)、またはその両方が挙げられる。
【0016】
一実施態様では、本発明は、装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含むマイクロ流体装置を提供するステップと、核酸含有材料および阻害物質を含むサンプルを提供するステップと、沈殿試薬を提供するステップと、サンプルを装填用チャンバ内に入れるステップと、サンプルをバルブ付処理用チャンバに移動させるステップと、沈殿試薬を使用してバルブ付処理用チャンバ内にサンプル濃縮領域を形成するステップと、バルブ付処理用チャンバ内のバルブを始動して、サンプル濃縮領域の少なくとも一部を混合用チャンバに移動させ、サンプル濃縮領域の少なくとも一部を濃縮度の低い領域から分離するステップと、混合用チャンバ内の核酸含有材料を(任意の加熱により)溶解して核酸を放出するステップと、任意に、放出された核酸を含むサンプルのpHを調節するステップと、を含み、サンプル濃縮領域が核酸含有材料の大部分を含んでなり、サンプルの濃縮度の低い領域が沈殿試薬の少なくとも一部(そして典型的には大部分)および阻害物質の少なくとも一部を含んでなる、サンプルから核酸を単離する方法を提供する。
【0017】
一実施態様では、本発明は、装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含むマイクロ流体装置を提供するステップと、核酸含有材料および阻害物質を含有する細胞を含むサンプル(このような核酸含有材料および阻害物質を含有する細胞は、同一でもまたは異なってもよい)を提供するステップと、沈殿試薬を提供するステップと、サンプルを装填用チャンバ内に入れるステップと、サンプルをバルブ付処理用チャンバに移動させるステップと、沈殿試薬を使用してバルブ付処理用チャンバ内にサンプル濃縮領域を形成するステップと、バルブ付処理用チャンバ内のバルブを始動して、サンプル濃縮領域の少なくとも一部を混合用チャンバに移動させ、サンプル濃縮領域の少なくとも一部を濃縮度の低い領域から分離するステップと、混合用チャンバ内の核酸含有材料を溶解して核酸を放出するステップと、任意に、放出された核酸を含むサンプルのpHを調節するステップと、を含み、サンプル濃縮領域が核酸含有材料の大部分を含んでなり、サンプルの濃縮度の低い領域が沈殿試薬の少なくとも一部(そして典型的には大部分)および阻害物質の少なくとも一部を含んでなる、サンプルから核酸を単離する方法を提供する。
【0018】
所望ならば、方法は、核酸含有材料を溶解するステップに先だって、分離したサンプル濃縮領域を水(好ましくはRNAseを含まない滅菌水)または緩衝液で希釈するステップと、任意に、希釈された領域をさらに濃縮して核酸材料濃度を増大させるステップと、任意に、さらに濃縮された領域を分離するステップと、任意に、希釈とそれに続く濃縮および分離の上記プロセスを反復するステップと、を含み、増幅法を妨げない濃度にまで阻害物質濃度を低下させることができる。
【0019】
代案としては、方法は、核酸含有材料を溶解する前、それと同時に、またはその後に、分離したサンプル濃縮領域を固相材料との接触のために分離チャンバに移動させて、阻害物質の少なくとも一部を固相材料に優先的に付着させるステップを含み、固相材料が、捕獲部位(例えばキレート官能基)、固相材料に被覆されたコーティング試薬、またはその両方を含み、コーティング試薬が、界面活性剤、強塩基、多価電解質、選択的透過性ポリマーバリア、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されることができる。
【0020】
本発明はまた、本発明の様々な方法を実施するためのキットを提供する。
【0021】
定義
「核酸」は、当該技術分野で知られている意味を有し、DNA(例えばゲノムDNA、cDNA、またはプラスミドDNA)、RNA(例えばmRNA、tRNA、またはrRNA)、およびPNAを指すものとする。それは限定されるものではないが、二本鎖または一本鎖構造、環状形態、プラスミド、比較的短いオリゴヌクレオチド、(ニールセン(Nielsen)ら、Chem.Soc.Rev.、26、73〜78(1997年)で述べられるような)PNAとも称されるペプチド核酸などをはじめとする多種多様な形態であることができる。核酸は、染色体全体または染色体の一部を含むことができる、ゲノムDNAであることができる。DNAは、コード(例えばmRNA、tRNA、および/またはrRNAのコードのための)および/または非コード配列(例えばセントロメア、テロメア、遺伝子間領域、イントロン、トランスポゾン、および/またはマイクロサテライト配列)を含むことができる。核酸は、あらゆる自然発生的ヌクレオチドならびに人工的または化学的に変性させたヌクレオチド、変異ヌクレオチドなどを含むことができる。核酸は、例えばペプチド(PNAにおけるような)、標識(放射性同位体または蛍光性のマーカー)などの非核酸構成要素を含むことができる。
【0022】
「核酸含有材料」は、細胞(例えば白血球細胞、除核赤血球細胞)、核、またはウィルス、または核酸(例えばプラスミド、コスミド、またはウイロイド、古細菌)を含む構造を保有するあらゆるその他の組成物などの核酸源を指す。細胞は、原核生物性(例えばグラム陽性またはグラム陰性細菌)または真核生物性(例えば血液細胞または組織細胞)であることができる。核酸含有材料がウィルスの場合、それはRNAまたはDNAゲノムを含むことができ、それは毒性、弱毒性、または非感染性であることができ、原核生物または真核生物細胞に感染できる。核酸含有材料は、天然物、人工的変性物、または人工的製造物であることができる。
【0023】
「単離された」とは、サンプル中の阻害物質の少なくとも一部(すなわち少なくとも1つのタイプの阻害物質の少なくとも一部)から分離された核酸(または核酸含有材料)を指す。これは例えば、タンパク質、脂質、塩、およびその他の阻害物質のような細胞構成要素などのその他の材料から、所望の核酸を分離することを含む。より好ましくは、単離された核酸は実質的に精製される。「実質的に精製される」とは、原サンプルから阻害物質量を少なくとも20%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも99%減少させながら、少なくとも3pg/μL、好ましくは少なくとも2ng/μL、より好ましくは少なくとも15ng/μLの核酸を単離することを指す。汚染物質は、典型的に、サンプル中の溶剤以外のヘムおよび関連生成物(ヘミン、ヘマチン)および金属イオン、タンパク質、脂質、塩などの細胞構成要素および核構成要素である。したがって「実質的に精製された」という用語は、単離された核酸の引き続く使用を妨害できる化合物が少なくとも部分的に除去されるように、概してサンプルからの阻害物質(例えばヘムおよびその分解産物)の大部分を分離することを指す。
【0024】
「付着する」または「付着」または「結合」は、ファン・デル・ワールス相互作用、静電相互作用、親和結合、または物理的捕捉などの弱力をはじめとする多種多様な機序を通じた、任意の固相材料への阻害物質の可逆的保持を指す。この用語の使用は作用機序を意味せず、吸着性および吸収性機序を含む。
【0025】
「固相材料」とは、好ましくは同一または異なってもよい、天然および/または合成起源の有機および/または無機化合物の反復する単位からできたポリマーである無機および/または有機材料を指す。これにはホモポリマーおよびヘテロポリマー(例えばランダムまたはブロックであってもよい共重合体、ターポリマー、テトラポリマーなど)が含まれる。この用語には、当該技術分野でよく知られている方法によって容易に調製できる、繊維または微粒子形態のポリマーが含まれる。このような材料は、典型的に、多孔性マトリックスを形成するが、特定の実施態様では、固相はまた、ポリマー材料の非多孔性シートなどの固体表面も指す。
【0026】
任意の固相材料は、捕獲部位を含んでもよい。「捕獲部位」とは、材料が付着する固相材料上の部位を指す。典型的に、捕獲部位は固相材料に共有結合的に付着し、またはその他の様式で付着する(例えば疎水的に付着する)官能基または分子を含む。
【0027】
「固相材料上に被覆されたコーティング試薬」という句は、例えば原線維マトリックスおよび/または吸着性粒子の少なくとも一部の上など、固相材料の少なくとも一部の上に被覆された材料を指す。
【0028】
「界面活性剤」とは、それが溶解した媒質の表面または界面張力を低下させる物質を指す。
【0029】
「強塩基」とは、例えばNaOHなどの水中で完全に解離する塩基を指す。
【0030】
「多価電解質」とは、例えばポリスチレンスルホン酸などの典型的に比較的高分子量の荷電ポリマーである電解質を指す。
【0031】
「選択的に透過性のポリマーバリア」とは、サイズおよび電荷に基づいて流体の選択的輸送を許すポリマーバリアを指す。
【0032】
「濃縮領域」とは、濃縮度の低い領域に比べて、より高い濃度の核酸含有材料、核、および/または核酸を有し、ペレット形態であることができるサンプルの領域を指す。
【0033】
「実質的に分離する」とは、本明細書での用法では、特にサンプル濃縮領域をサンプルの濃縮度の低い領域から分離する文脈で、核酸総量の少なくとも40%を(それが遊離であるか、核内またはその他の核酸含有材料内に含まれるか否かに関わらず)サンプル総容積の25%未満中で除去することを意味する。好ましくは、核酸総量の少なくとも75%をサンプル総容積の10%未満中でサンプル残部から分離する。より好ましくは、核酸総量の少なくとも95%をサンプル総容積の5%未満中でサンプル残部から分離する。
【0034】
「阻害物質」とは、例えば増幅反応で使用される酵素の阻害物質を指す。このような阻害物質の例としては、典型的に、鉄イオンまたはその塩(例えばFe2+またはその塩)およびその他の金属塩(例えばアルカリ金属イオン、遷移金属イオン)が挙げられる。その他の阻害物質としては、タンパク質、ペプチド、脂質、炭水化物、ヘムおよびその分解産物、尿素、胆汁酸、フミン酸、多糖類、細胞膜、および細胞質ゾル構成要素が挙げられる。PCRに対するヒト血液中の主要な阻害物質は、それぞれ赤血球、白血球,および血漿中に存在する、ヘモグロビン、ラクトフェリン、およびIgGである。本発明の方法は、核酸含有材料から、阻害物質の少なくとも一部(すなわち少なくとも1つのタイプの阻害物質の少なくとも一部)を分離する。本明細書で考察するように、阻害物質を含有する細胞は、核またはその他の核酸含有材料を含有する細胞と同一であることができる。阻害物質は細胞に含有され、または細胞外であることができる。細胞外阻害物質としては、例えば血清またはウィルス中に存在する阻害物質をはじめとする、細胞内に含有されない全ての阻害物質が挙げられる。
【0035】
「阻害物質の少なくとも一部を固相材料に優先的に付着させる」とは、典型的に核酸含有材料および/または核のかなりの部分を固相材料に付着させずに、核酸含有材料(例えば核)および/または核酸よりも大きな程度に、1つ以上のタイプの阻害物質を任意の固相材料に付着させることを意味する。
【0036】
「マイクロ流体装置」とは、例えば500μm未満、典型的には0.1μm〜500μmの間である、深さ、幅、長さ、直径などの少なくとも1つの内部断面寸法を有する1つ以上の流体通路、チャンバ、または導管がある装置を指す。本発明で使用される装置内で、マイクロスケールの溝またはチャンバは、好ましくは0.1μm〜200μmの間であり、より好ましくは0.1μm〜100μmの間であり、1μm〜20μmの間であることが多い、少なくとも1つの断面寸法を有する。典型的にマイクロ流体装置は、各チャンバがサンプルを含有する容積を画定する複数のチャンバ(処理用チャンバ、分離チャンバ、混合用チャンバ、廃棄物チャンバ、試薬希釈チャンバ、増幅反応チャンバ、装填用チャンバなど)と、複数の配列チャンバを連結する少なくとも1つの分布溝とを含み、例えば配列内の少なくとも1つのチャンバは固相材料を含むことができ(その結果、分離チャンバと称されることが多い)、および/または配列内の少なくとも1つの処理用チャンバは溶解試薬を含むことができる(その結果、混合用チャンバと称されることが多い)。
【0037】
「含んでなる」という用語およびその変形は、これらの用語が説明および特許請求の範囲に現れる場合に限定的意味を有さない。
【0038】
本明細書での用法では、単数形(「a」、「an」、「the」)、「少なくとも1つ」、および「1つ以上」は区別なく使用され、1つ以上を意味する。
【0039】
また本明細書では、端点による数値域の列挙は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば1から5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0040】
上の本発明の概要は、それぞれの開示される実施態様またはあらゆる本発明の実行について述べることを意図しない。続く説明は例証的な実施態様をより詳しく例証する。本明細書全体の数カ所において、実施例のリストを通じてガイダンスが提供され、その実施例は様々な組み合わせで使用できる。各例で列挙されるリストは、代表群としてのみの役目を果たし、排他的リストではないものとする。さらに様々な実施態様について述べられ、その中で各実施態様の様々な要素は、具体的には述べられなくてもその他の実施態様で使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
本発明は、サンプル、典型的に生物学的サンプルから、好ましくは実質的に精製された形態で核酸を単離する様々な方法およびキットを提供する。本発明は、核含有細胞(例えば白血球細胞)内に含まれるまたは含まれなくてもよい核酸(例えばDNA、RNA、PNA)を含むサンプルから、核酸を単離する方法およびキットを提供する。
【0042】
方法はサンプルから核酸を単離することに関するものであるが、方法は核酸含有材料(例えば核)から、核酸を必ずしも除去しないものと理解される。すなわち、例えば核から核酸をさらに分離するさらなるステップが必要であってもよい。
【0043】
本発明の方法は、最終的に(例えばPCR反応で使用されるような)増幅反応を阻害できるので望ましくないヘムおよびその分解産物(例えば鉄塩)などの阻害物質から、核酸を分離することを伴う。より具体的には、本発明の方法は、少なくとも1つのタイプの阻害物質の少なくとも一部から、サンプル中の核酸の少なくとも一部を分離することを伴う。好ましい方法は、核酸が実質的に純粋であるように、核酸を含有するサンプル中の実質的に全ての阻害物質を除去することを伴う。例えば鉄含有阻害物質の最終濃度は、従来のPCRシステムにおいて許容される現在のレベルである約0.8μMを超えない。
【0044】
全血からきれいなDNAを得るために、典型的にヘモグロビンならびに血漿タンパク質の除去が所望される。赤血球細胞が溶解されるとヘムおよび関連化合物が放出され、Taqポリメラーゼを阻害する。全血中の正常なヘモグロビン濃度は100mLあたり15gであり、それに基づき、溶血した全血中のヘムの濃度は10mM前後である。PCRが満足に機能するためには、ヘムの濃度をマイクロモル(μM)レベルにまで低下させなくてはならない。これは希釈、または例えば阻害物質に結合する材料を使用した阻害物質の除去によって達成できる。
【0045】
典型的に、核酸を含有するサンプルは、流液容器内で処理されるが、この容器は本発明の必要要件ではない。好ましくは本発明の特定の方法のためには、処理装置はマイクロ流体装置の形状である。
【0046】
本発明のプロセスは、沈殿試薬(すなわち沈殿剤)を使用する。沈殿試薬は、阻害物質から核酸含有材料を分離することで知られている。典型的に、阻害物質が沈殿試薬と組み合わさって、上清が対象の核酸を含有するようにサンプルから沈降する。したがって沈殿試薬と組み合わせた後に、サンプルは、対象の核酸の大部分がある濃縮領域と、沈殿試薬の少なくとも一部(好ましくは沈殿試薬の大部分)および阻害物質の少なくとも一部(好ましくは阻害物質の大部分)がある濃縮度の低い領域とを含む。
【0047】
沈殿試薬は、デキストラン、またはニューヨーク州バッファローのゼプトメトリックス・コーポレーション(ZeptoMetrix Corporation(Buffalo,NY))からのゼポゲル(ZeptoGel)塩添加ゼラチンであってもよい。沈殿剤は乾燥形態で添加でき、例えば使用者が水を添加して6%溶液を作成し、それに続いてサンプル(例えば血液)を添加するまでマイクロ流体装置内に保存できる。別の場合では、ユーザーは、マイクロ流体装置内に沈殿試薬およびサンプルを一緒に添加できる。次に混合物をしばらく沈殿させ(特定状況ではより長時間も使用できるが、例えば45分間以下)。サンプルが血液である場合、次にリンパ球に富む(白血球細胞)上清を別のチャンバ内に隔離して、赤血球に富む(赤血球細胞)沈殿物から分離させる。次に典型的にリンパ球に富む層を溶解してあらゆる残留赤血球細胞混入物を破壊し、これらの放出された阻害物質の清浄化がそれに続く。
【0048】
場合によっては、リンパ球に富む(白血球細胞)上清は、(例えば部分的溶血のために)阻害物質を含有するかもしれない。これらの阻害物質は、固相材料の使用によって、または一連の濃縮/分離/任意の希釈ステップによって除去できる。
【0049】
サンプル
本発明の方法を使用して、多種多様なサンプル、特に体液(例えば全血、血液血清、尿、唾液、脳脊髄液、精液、または滑膜リンパ液)、様々な組織(例えば皮膚、髪、毛皮、糞便、腫瘍、または肝臓また脾臓などの器官)、細胞培養または細胞培養上清などの生物学的サンプルから核酸を単離できる。サンプルは、食物サンプル、飲料サンプル、発酵液、疾患または障害を診断、処置、モニター、または治療するのに使用される臨床サンプル、法医学サンプル、農業サンプル(例えば植物または動物からの)、または環境サンプル(例えば土壌、汚れ、または塵芥)であることができる。
【0050】
生物学的サンプルは、生物学的または生化学的起源のものである。本発明の方法で使用するのに適したものは、哺乳類、植物、細菌、または酵母起源に由来することができる。生物学的サンプルは、単細胞の形態または組織の形態であることができる。細胞または組織は、生体外(in vitro)培養に由来することができる。顕著なことに、本発明の特定の実施態様は、いかなる前処理(例えば溶解、濾過など)もなしに、対象のサンプルとして全血を使用する。
【0051】
特定の実施態様では、全血などのサンプルが遠心分離によって前処理され、血液から白血球細胞(すなわち軟膜)が分離され、本発明の方法におけるサンプルとして使用できれる。
【0052】
特定の実施態様では、サンプルを超遠心分離にかけて、それを本発明プロセスにかけるのに先だってサンプルを濃縮できる。
【0053】
サンプルは、水または有機媒質中に溶解または分散された、またはそれから水または有機媒質中に核酸が抽出された、固体サンプル(例えば固体組織)であることができる。例えばサンプルは、器官ホモジェネート(例えば肝臓、脾臓)であることができる。したがってサンプルは、(特にそれが固体サンプルであれば)あらかじめ抽出された核酸を含むことができる。
【0054】
サンプルのタイプは、本発明を限定しない。しかし典型的に、サンプルはそれから核酸が分離されなくてはならない核酸含有材料および阻害物質を含む。この文脈で核酸含有材料とは、細胞(例えば白血球細胞、細菌細胞)、核、ウィルス、または核酸(例えばプラスミド、コスミド、またはウイロイド、古細菌)を含む構造があるあらゆるその他の組成物を指す。このような方法の特定の好ましい実施態様では、核酸含有材料は核を含む。
【0055】
特定の実施態様では、サンプルを部分的に溶解してもよく(例えば水によるRBC溶解など、例えば前溶解して阻害物質を放出する)、その場合溶解は、本発明のプロセスで必要かもしれない。しかし典型的に沈殿試薬に接触するサンプルは、完全に前溶解されていない(または好ましくは、部分的に前溶解されてすらいない)。例えば赤血球細胞は、沈殿試薬と接触させて、赤血球細胞およびその中の阻害物質の沈降を増強する際に、好ましくは無傷(すなわち未破壊)であるべきである。しかし破壊赤血球細胞からのいくらかの阻害物質が、時折上清中の白血球細胞に混合することもあり、それは次にその他の技術を使用して除去できる。
【0056】
単離された(すなわち阻害物質から分離された)核酸は、好ましくはさらに精製または洗浄することなく、多種多様な用途(例えば増幅、配列決定、標識、アニーリング、制限酵素消化、ライゲーション、逆転写酵素、ハイブリダイズ、サザンブロット、ノーザンブロットなど)のために使用できる。特にそれは、対象のゲノムを判定するために使用できる。それはサンプル中の微生物(例えば細菌、ウィルス)の存在の診断のために使用でき、引き続いて、微生物によってサンプル供給源に引き起こされた損傷をモニタリングおよび/または回復するために使用できる。本発明の方法、材料、システム、およびキットは、ハイスループットまたは自動化されたプロセス、特にマイクロ流体システムで使用される増幅技術(例えばPCR、LCR、MASBA、SDA、およびbDNA)で使用するための核酸抽出物を調製するのに特に良く適している。したがって本発明の特定の実施態様では、単離された核酸が(マイクロ流体装置内のPCRサンプルチャンバなどの)増幅反応チャンバに移される。
【0057】
核酸は本発明に従って、不純、部分的に純粋、または純粋サンプルから単離(すなわち阻害物質から分離)されてもよい。核酸は極めて不純なサンプルから単離されてもよいので、原サンプルの純度は重要でない。例えば核酸は、血液、唾液、または組織などの生体液の不純サンプルから得られてもよい。より高純度の原サンプルが所望ならば、本発明の方法を施すのに先だって、当業者に知られている従来の手段に従ってサンプルを処理してもよい。例えばサンプルに本発明の方法を施すのに先だって、不溶性材料などの特定の不純物を除去するようにサンプルを処理してもよい。
【0058】
本明細書で述べられる単離された核酸は、あらゆる分子量、および一本鎖形態、二本鎖形態、環状、プラスミドなどであってもよい。様々なタイプの核酸が互いに分離できる(例えばDNAからRNA、または一本鎖DNAから二本鎖DNA)。例えば本発明の方法を使用して、長さ約10〜約50塩基の小型オリゴヌクレオチドまたは核酸分子、長さ約1000塩基〜約10,000塩基のより長い分子、そして約50kb〜約500kbのさらに高分子量の核酸を単離できる。いくつかの態様では、本発明に従って単離された核酸は、好ましくは約10塩基〜約100キロ塩基の範囲であってもよい。
【0059】
核酸含有サンプルは、多種多様な容積であってもよい。例えばマイクロ流体形式の場合、典型的に例えば10μL(好ましくは100μL以下)の非常に小さな容積が好ましい。濃縮などによって前処理すれば、より大きなサンプルも使用できるものと理解される。
【0060】
低コピー数遺伝子では、対象の配列がサンプル中に存在することを確実にするために、より大きなサンプルサイズが典型的に必要である。しかしより大きなサンプルサイズは、より多量の阻害物質を有し、典型的にマイクロ流体形式に順応しない。したがって低コピー数状況では、再現可能な結果を得るために100μL以上の容積を使用することが必要かもしれない。しかしマイクロ流体装置あたりの処理されるサンプル数は、より高いサンプル容積のために低下するかもしれない。
【0061】
本発明の特定の方法では、濃縮領域(例えばリンパ球に富む上清)の分離後、核酸含有材料を濃縮する遠心分離ステップが、低コピー数サンプルのために有用である。しかしこの遠心分離ステップ後に、例えば核酸濃度が処理用チャンバの底で実質的に増大しながら、阻害物質濃度は依然として高い。阻害物質、血清および破壊RBC(例えばヘムおよびヘム−関連生成物)中のタンパク質のほとんどが濃縮度の低い領域内で除去されながら、核酸含有サンプル濃縮領域には依然として顕著な量の阻害物質が存在する。しかし阻害物質に対する核酸の比率は非常に高く、核酸に関して濃縮されたサンプルがもたらされる。次に所望ならば、本明細書で述べられるように、このサンプル濃縮領域を固相材料と接触させ、または一連の濃縮/分離/任意の希釈ステップにかけて、(典型的に溶解に先だって)残留阻害物を除去できる。
【0062】
高コピー数遺伝子では、2μL程に小さいサンプルサイズが使用できるが、より大きな容積(例えば20μL)の方が再現性が良い。より小さな容積の場合、より高い処理能力(すなわちマイクロ流体装置あたりの処理されるサンプル数)を得ることができる。より大きな容積(例えば20μL)の場合、核酸含有細胞の濃縮のための予備遠沈ステップは必要ないかもしれない。
【0063】
沈殿試薬に加えて固相材料が使用される実施態様では、固相材料に核酸含有サンプルがあらゆる量で適用されてもよく、その量は固相材料の量によって定まる。好ましくは、固相材料に適用されるサンプル中の核酸の量は、固相材料の乾燥重量未満であり、典型的に約1/10,000〜約1/100(核酸重量/固相)である。例えば固相材料に適用されるサンプル中の核酸の量は、100g程度に大きくてもまたは1pg程度に小さくてもよい。
【0064】
本発明の方法から単離される所望の核酸は、最初にサンプルに適用された総核酸量の好ましくは少なくとも20%の量、より好ましくは少なくとも30%の量、より好ましくは少なくとも70%、および最も好ましくは少なくとも90%である。したがって特定の好ましい本発明の方法は、サンプルからの所望の核酸の高い回収を提供する。さらに本発明に従って、極めて少量の核酸分子が定量的に回収されてもよい。回収または収量は、手順それ自体よりも主にサンプルの質に依存する。本発明の特定の実施態様は、大きな容積からの濃縮を必要としない核酸の調製を提供するので、本発明は核酸損失のリスクを回避する。
【0065】
PCRサンプル中に過剰なDNAを有すると、多くのミスプライム部位があるので、DNA増幅に弊害をもたらすことができる。これは多数の直線的にまたは指数関数的に増幅された非標的配列をもたらす。非標的DNAの量が増大するにつれて増幅の特異性は失われるので、対象の標的配列の指数関数的蓄積はいかなる顕著な程度にも起きない。したがって各PCRサンプルに入るDNA量を制御することが望ましい。DNA量は典型的に1μg/反応を超えず、典型的に少なくとも1pg/反応である。PCR混合物中の典型的な最終DNA濃度は、0.15ng/μL〜1.5ng/μLの範囲である。マイクロ流体装置の場合、各サンプルが適量のDNAを有するように、清浄化後PCRに先だってサンプルを分割できる。代案としては、各PCR混合物内に適量のDNAが存在するように、下で詳細に述べられるように、可変性バルブ付処理用チャンバを含むサンプル処理装置(特にマイクロ流体装置)内で、サンプルを十分に希釈することができる。診断用の設定では、白血球細胞の量は顕著に異なることができるので、単離されるDNA量を先験的に予期することは不可能である。しかし有用な範囲は、200μLの血液あたり3μg〜12μgのDNAである。軟膜では、200μLの軟膜あたり25μg〜50μgが有用な範囲である。
【0066】
溶解試薬および条件
本発明の特定の実施態様では、プロセス中のある点で、サンプル内の細胞、特に核酸含有細胞(例えば白血球細胞、細菌細胞、ウィルス細胞)が溶解されて細胞の内容物を放出し、サンプル(すなわち溶解産物)を形成する。本明細書で溶解とは、細胞外膜、および存在する場合は、核膜を指す細胞膜の物理的中断である。これはタンパク質分解酵素による加水分解と、それに続くタンパク質分解酵素の加熱不活性化、界面活性剤(例えば非イオン性界面活性剤またはドデシル硫酸ナトリウム)での処理、グアニジニウム塩、または強塩基(例えばNaOH)、(例えば超音波での)物理的中断、沸騰、または凍結/解凍プロセスを含むことができる加熱/冷却(例えば少なくとも55℃(典型的に95℃)への加熱および室温以下(典型的に8℃)への冷却)などの標準的技術を使用して実行できる。典型的に溶解試薬を使用する場合、それは水性媒質中にあるが、所望ならば有機溶剤を使用できる。
【0067】
典型的に、サンプルと沈殿試薬を接触させ、より濃縮された領域の隔離後、サンプルを溶解試薬と接触させる。溶解試薬は、例えば非イオン性界面活性剤であることができ、核を放出する。
【0068】
白血球細胞は界面活性剤を使用して溶解でき、無傷の核を生成できる。核単離のために、トリトン(TRITON)X−100などの非イオン性界面活性剤をスクロースおよびマグネシウム塩を含有するトリス緩衝液に添加できる。
【0069】
溶解のために使用される界面活性剤の量は、例えばサンプルを効果的に溶解するのに十分高く、しかも沈殿を避けるのに十分に低い。溶解手順で使用される界面活性剤の濃度は、サンプル総重量を基準にして典型的に少なくとも0.1重量%である。溶解手順で使用される界面活性剤濃度は、サンプル総重量を基準にして典型的に4.0重量%以下、好ましくは1.0重量%以下である。濃度は、可能な最短時間内での完全な溶解を得るために通常最適化され、得られる混合物はPCR適合性である。事実上、PCRカクテルに添加される調合物内の核酸は、リアルタイムPCRの阻害がほとんど皆無でなくてはならない。
【0070】
所望ならば界面活性剤と共に、混合材料内の緩衝液を使用できる。典型的にこのような緩衝液は、pHが少なくとも7、典型的には9以下のサンプルを提供する。
【0071】
典型的に、強塩基などのより強力な溶解試薬を使用して、あらゆる白血球細胞を溶解して核酸を放出できる。例えば1分間程度の短い時間枠内における、室温でのアルカリ処理(例えばNaOH)による全血からのDNA抽出を伴う、リン(Lin)らに付与された米国特許第5,620,852号明細書で述べられる方法を特定の本発明の方法に適応できる。概して多種多様な強塩基を使用して、アルカリ溶解手順における効果的なpH(例えば8〜13、好ましくは13)を作り出すことができる。強塩基は、典型的にNaOH、LiOH、KOHなどの水酸化物、第四級窒素含有カチオンがある水酸化物(例えば第四級アンモニウム)、ならびに第三級、第二級または第一級アミンなどの塩基である。典型的に、強塩基の濃度は少なくとも0.01Nであり、典型的に1N以下である。次に典型的に、特に核酸が引き続く増幅プロセス(例えばPCR)にかけられる場合、混合物を中和できる。したがって本発明の特定の実施態様は、サンプルのpHを典型的に少なくとも7.5、典型的に9以下に調節するステップを含む。別の手順では、塩基での溶解に引き続いて、加熱を使用してタンパク質をさらに変性でき、それに続いてサンプルを中和する。
【0072】
核またはWBCからの核酸単離のために、加熱と共にプロテイナーゼKもまた使用でき、引き続きより高い温度でプロテイナーゼKを加熱不活性化する。
【0073】
マイクロ流体寸法に縮小されたシグマ(Sigma)のエキストラクトNアンプ(Extract−N−Amp)血液PCRキットなどの市販される溶解剤および中和剤もまた使用できる。ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)などの困難な細菌を溶解するためのノルウェー国オスロのジェンポイントGenPoint(Oslo、Norway)からのパワーライス(POWERLYSE)などのより強力な溶解溶液が、本発明の特定の方法において有利に使用できる。
【0074】
別の手順では、沸騰法を使用して細胞および核を溶解し、DNAを放出し、同時にヘモグロビンを沈殿できる。上清中のDNAは、濃縮ステップなしにPCRで直接使用でき、この手順を低コピー数サンプルのために有用なものにする。
【0075】
任意の固相材料
本発明の特定の実施態様では、(沈殿試薬以外の)固相材料が使用できる。例えば沈殿試薬を血液に添加して、RBCを沈降させることができる。上清(隔離された部分)は、核酸材料(WBC中の)、(水で溶解したRBC部分からの)溶血した阻害物質、ならびに血清タンパク質を含有する。次にこの隔離された部分を固相材料と接触させて、溶血したRBC(例えば鉄含有阻害物質)を除去する。WBCは溶解し、引き続いて核酸を放出できる。
【0076】
阻害物質は、好ましくは捕獲部位(例えばキレート官能基)がそこに付着し、コーティング試薬(好ましくは界面活性剤)が固相材料上に被覆され、またはその両方である、あらゆる形態の固体マトリックス(例えば粒子、原線維、膜)をはじめとする固相(好ましくはポリマー)材料に付着することが分かっている。コーティング試薬は、カチオン性、アニオン性、非イオン性、または両性イオン性界面活性剤であることができる。代案としては、コーティング試薬は、多価電解質または強塩基であることができる。所望ならばコーティング試薬の様々な組み合わせが使用できる。
【0077】
本発明の方法で有用な固相材料としては、例えばヘムおよびヘム分解産物、特に鉄イオンなどの阻害物質を保持する多種多様な有機および/または無機材料が挙げられる。このような材料は、捕獲部位(好ましくはキレート基)で官能性付与され、1つ以上のコーティング試薬(例えば界面活性剤、多価電解質、または強塩基)で被覆され、またはその両方である。典型的に、固相材料は有機ポリマーマトリックスを含む。
【0078】
概して適切な材料は化学的に不活性であり、物理的および化学的に安定性で、多様な生物学的サンプルと適合性である。固相材料の例としては、シリカ、ジルコニア、アルミナビーズ、金などの金属コロイド、例えば捕獲部位を生じさせるためにメルカプト化学反応を通じて官能性付与された金被覆シートが挙げられる。適切なポリマーの例としては、例えばポリオレフィンおよびフッ素化されたポリマーが挙げられる。固相材料は典型的に使用に先だって洗浄され、塩およびその他の汚染物質が除去される。それは乾燥状態で、または水性懸濁液中のいずれかですぐ使える状態で保存できる。固相材料は、好ましくは、例えばピペット、シリンジ、またはより大きなカラム、マイクロタイタープレート、またはマイクロ流体装置などの流液容器内で使用されるが、このような容器を伴わない懸濁液法もまた使用できる。
【0079】
本発明の方法で有用な固相材料としては、多種多様な形態の多種多様な材料が挙げられる。例えばそれは、ばらばらでもまたは固定化されていてもよい粒子またはビーズ、繊維、フォーム、フリット、微孔性フィルム、膜、または微細複製構造表面がある基材の形態であることができる。固相材料が粒子を含む場合、それらは好ましくは均一で球状および硬質であり、良好な流体流れ特性を確実にする。
【0080】
本発明の流液用途では、このような材料は典型的に、ばらばらで多孔性の網目状組織の形態であり、均一で損なわれていない大型分子の出入りを許し、大きな表面積を提供する。好ましくはこのような用途では、固相材料が例えば1m2/gを超えるような比較的広い表面積を有する。流液装置の使用を伴わない用途では、固相材料は多孔性マトリックス内にあってもなくてもよい。したがって本発明の特定の方法では、膜もまた有用であることができる。
【0081】
粒子またはビーズを使用する用途では、例えばそれらをサンプルに導入し、またはサンプルを粒子/ビーズ床に導入し、遠心処理によってそれから除去してもよい。代案としては、粒子/ビーズが不活性基材(例えばポリカーボネートまたはポリエチレン)に被覆(例えばパターン被覆)され、任意に多様な方法(例えば噴霧乾燥)により接着剤で被覆できる。所望ならば基材は、表面積を増大させ清浄化を増強するために微細複製できる。これはまた酸素プラズマ、電子ビームまたは紫外線放射線、熱、またはコロナ処理プロセスで前処理できる。この基材は、例えばマイクロ流体装置内のレザバー上でカバーフィルムとして使用され、またはカバーフィルムにラミネートできる。
【0082】
一実施態様では、固相材料は、その中に絡まった粒子を有しても有さなくてもよい原線維マトリックスを含む。原線維マトリックスは、あらゆる多種多様な繊維を含むことができる。典型的に繊維は水性環境に不溶性である。例としては、ガラス繊維、特にポリプロピレンおよびポリエチレンマイクロファイバーであるポリオレフィン繊維、アラミド繊維、特にポリテトラフルオロエチレン繊維であるフッ素化ポリマー、および天然セルロース誘導体繊維が挙げられる。核酸の結合に対して活性または不活性であってもよい、繊維の混合物が使用できる。好ましくは、原線維マトリックスは、少なくとも約15μmで約1ミリメートル以下、より好ましくは、約500μm以下の厚さのウェブを形成する。
【0083】
使用される場合、粒子は典型的に水性環境に不溶性である。それらは1種の材料、または被覆された粒子のように材料の組み合わせからできていることができる。それらは膨潤性または非膨潤性であることができるが、それらは好ましくは水および有機液体中で非膨潤性である。好ましくは粒子が付着する場合、それは非膨潤性の疎水性材料からできている。それらは核酸に対するそれらの親和力について選択できる。いくつかの水膨潤性粒子の例は、エレーデ(Errede)らに付与された米国特許第4,565,663号明細書、エレーデ(Errede)らに付与された米国特許第4,460,642号明細書、およびエレーデ(Errede)らに付与された米国特許第4,373,519号明細書で述べられる。水中で非膨潤性の粒子は、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第4,810,381号明細書、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第4,906,378号明細書、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第4,971,736号明細書、およびマーケル(Markell)らに付与された米国特許第5,279,742号明細書で述べられる。好ましい粒子は、ポリプロピレン粒子(例えば粉末)などのポリオレフィン粒子である。核酸の結合に対して活性または不活性であってもよい粒子混合物が使用できる。
【0084】
被覆された粒子を使用する場合、コーティングは好ましくは水性−または有機物−不溶性の非膨潤性材料である。コーティングは、核酸が付着するものであってもなくてもよい。したがって被覆されたベース粒子は、無機または有機物であることができる。ベース粒子としては、有機基がそれに共有結合する、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなどの無機酸化物が挙げられる。例えば異なる鎖長の脂肪族基(C2、C4、C8、またはC18基)などの共有結合する有機基が使用できる。
【0085】
適切な固相材料の例としては、マーケル(Markell)らに付与された米国特許第5,279,742号明細書、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第4,906,378号明細書、リー(Ree)らに付与された米国特許第4,153,661号明細書、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第5,071,610号明細書、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第5,147,539号明細書、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第5,207,915号明細書、およびハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第5,238,621号明細書で述べられる原線維マトリックスが挙げられる。このような材料は、ミネソタ州セントポールの3M社(3M Company(St.Paul,MN))から商品名SDB−RPS(スチレン−ジビニルベンゼン逆相スルホネート、3Mパーツ番号2241)、カチオン−SR膜(3Mパーツ番号2251)、C−8膜(3Mパーツ番号2214)、およびアニオン−SR膜(3Mパーツ番号2252)の下に市販される。
【0086】
ポリテトラフルオロエチレンマトリックス(PTFE)を含むものが特に好ましい。例えばハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第4,810,381号明細書は、ポリテトラフルオロエチレン原線維マトリックス、およびマトリックス内に絡まった非膨潤性吸着性粒子を含み、非膨潤性吸着性粒子とポリテトラフルオロエチレンとの重量率が19:1〜4:1の範囲であり、さらに複合材固相材料が1mあたり20〜300ミリニュートンの範囲の正味表面エネルギーを有する固相材料を開示する。マーケル(Markell)らに付与された再発行米国特許第Re 36,811号明細書は、PTFE原線維マトリックス、およびマトリックス内に絡まった吸着性粒子を含み、粒子が30を超え100重量%までの多孔性有機粒子、および70〜0重量%未満の多孔性(有機被覆または未被覆)無機粒子を含み、吸着性粒子とPTFEとの重量比が40:1〜1:4の範囲にある、固相抽出媒質を開示する。
【0087】
特に好ましい固相材料は、ミネソタ州セントポールの3M社(3M Company(St.Paul,MN))から商品名エムポア(EMPORE)の下に入手できる。エムポア(EMPORE)技術の基礎的ベースは、あらゆる吸着粒子を使用して、粒子装填膜、またはディスクを作り出す能力である。粒子は、ポリテトラフルオロエチレンの不活性マトリックス(90%収着材:10%PTFE、重量基準)内で共に密接につなぎ合わされる。PTFE原線維は、粒子の活性をどのようにも妨げない。エムポア(EMPORE)膜製造工程は、同一サイズ粒子で調製された伝統的固相抽出(SPE)カラムまたはカートリッジ内で達成できるよりも高密度でより均一の抽出媒質をもたらす。
【0088】
別の好ましい実施態様では、固相(例えば微孔性熱可塑性ポリマー担体)は、多数の離間して無作為に分散し非均一形状で原線維によって結合される熱可塑性ポリマーの等軸粒子によって特徴づけられる、微孔性構造を有する。粒子は互いに離間して、それらの間の微小孔の網目状組織を提供する。粒子は、各粒子から隣接する粒子に放射状に広がる原線維によって互いに結合する。粒子または原線維のどちらかまたは両方が、疎水性であってもよい。このような材料の好ましい例は、Hg表面積技術による測定で40m2/gほどに高いことが多い広い表面積と、約5μmまでの孔径を有する。
【0089】
このタイプの繊維材料は、誘導相分離の使用を伴う好ましい技術によって作ることができる。これは、熱可塑性ポリマーと非混合性液体とを均質な混合物を形成するのに十分な温度で溶融混合するステップと、溶液から所望の形状に物品を形成するステップと、液体とポリマーの相分離を誘導するように成型物品を冷却するステップと、最終的にポリマーを凝固して液体のかなりの部分を除去し、微孔性ポリマーマトリックスを残すステップと、を伴う。この方法および好ましい材料については、ムロジンスキー(Mrozinski)に付与された米国特許第4,726,989号明細書、マカリスター(McAllister)らに付与された米国特許第4,957,943号明細書、およびシップマン(Shipman)に付与された米国特許第4,539,256号明細書で詳述される。このような材料は、熱誘起相分離法膜(TIPS膜)と称され、特に好ましい。
【0090】
その他の適切な固相材料としては、マーケル(Markell)らに付与された米国特許第5,328,758号明細書で開示されるような不織材料が挙げられる。この材料は、高吸着効率クロマトグラフィー等級粒子を含む、圧搾されまたは融合した微粒子含有不織ウェブ(好ましくはブローンマイクロ繊維状)を含む。
【0091】
その他の適切な固相材料としては、例えばタン(Tan)らに付与された米国特許公報第2003/0011092号明細書で述べられるHIPEフォームとして知られているものが挙げられる。「HIPE」または「高分散相エマルジョン」とは、典型的に油相である連続の反応相、および典型的に水相である油相と非混合性の不連続または共連続相を含むエマルジョンを意味し、そこでは非混合性相はエマルジョンの少なくとも74容積%を含む。HIPEからできた多くのポリマーフォームは、典型的に比較的開放気泡性である。これはほとんど全ての細胞が、隣り合う細胞と遮られずにつながっていることを意味する。このような実質的に開放気泡性のフォーム構造にある細胞は、典型的にフォーム構造内の1細胞から別の細胞への流体移動を許すのに十分大きい細胞間窓を有する。
【0092】
固相材料は、阻害物質の捕獲部位を含むことができる。本明細書で「捕獲部位」とは、固相材料に、共有結合的に付着する(例えば官能基)、または非共有結合的に(例えば疎水性に)付着する分子のいずれかの群を指す。
【0093】
好ましくは固相材料は、阻害物質を捕獲する官能基を含む。例えば固相材料はキレート基を含んでもよい。この文脈で「キレート基」とは多座であり、金属原子またはイオンとキレート錯体を形成できるものである(阻害物質はキレート化機序を通じて固相材料上に保持されてもされなくてもよいが)。キレート基の組み込みは、多様な技術を通じて達成できる。例えば不織材料は、キレート基で官能性付与されたビーズを保持できる。代案としては、不織材料の繊維をキレート基で直接に官能性付与できる。
【0094】
キレート基の例としては、例えば、−(CH2−C(O)OH)2、トリス(2−アミノエチル)アミン基、イミノ二酢酸基、ニトリロ三酢酸基が挙げられる。キレート基は、多様な技術を通じて固相材料内に組み込むことができる。それらは材料を化学的に合成して組み込むことができる。代案としては、不活性基材(例えばポリカーボネートまたはポリエチレン)上に、所望のキレート基を含有するポリマーを被覆できる(例えばパターン被覆)。所望ならば基材は、表面積を増大させ清浄化を増強するために微細複製できる。これはまた、酸素プラズマ、電子ビームまたは紫外線放射線、熱、またはコロナ処理プロセスで前処理もできる。この基材は、例えばマイクロ流体装置内のレザバー上でカバーフィルムとして使用され、またはカバーフィルムにラミネートできる。
【0095】
キレート固相材料は市販され、本発明において固相材料として使用できる。例えば本発明の特定の実施態様では、(ナトリウム塩の形態の)イミノ二酢酸などのキレート基を含むエムポア(EMPORE)膜が好ましい。このような膜の例は、ハーゲン(Hagen)らに付与された米国特許第5,147,539号明細書で開示され、3M社(3M Company)からエムポア(EMPORE)抽出ディスク(47mm、No.2271または90mm、No.2371)として市販される。本発明の特定の実施態様では、キレート基を含むアンモニウム誘導体化エムポア(EMPORE)膜が好ましい。ディスクをアンモニウム形態にするためには、それをpH5.3の50mL 0.1Mアンモニウム酢酸緩衝液で洗浄し、引き続いていくつかの試薬水で洗浄できる。
【0096】
その他のキレート材料の例としては、カリフォルニア州ハーキュリーズのバイオ・ラッド・ラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories,Inc.(Hercules,CA))から商品名キレックス(CHELEX)の下に入手できる架橋ポリスチレンビーズと、トリス(2−アミノエチル)アミン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ポリアミン、およびポリイミンで架橋されたアガロースビーズ、ならびにペンシルベニア州フィラデルフィアのローム・アンド・ハース(Rohm & Haas(Philadelphia、PA))から商品名デュオライト(DUOLITE)C−467およびデュオライト(DUOLITE)GT73、アンバーライト(AMBERLITE)IRC−748、ダイヤイオン(DIAION)CR11、デュオライト(DUOLITE)C647の下に入手できる、市販されるキレートイオン交換樹脂が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0097】
典型的に、固相材料上のキレート基の所望の濃度密度は、平方ミリメートルあたり約0.02ナノモルであるが、より広い範囲濃度密度も可能であると考えられる。
【0098】
その他のタイプの捕獲材料としては、アニオン交換材料、カチオン交換材料、活性炭、逆相、順相、スチレン−ジビニルベンゼン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、および金属コロイドが挙げられる。適切なアニオン交換材料の例としては、通常は塩化物形態である第四級アンモニウム、ジメチルエタノールアミン、第四級アルキルアミン、トリメチルベンジルアンモニウム、およびジメチルエタノールベンジルアンモニウムなどの強アニオン交換体と、ポリアミンなどの弱アニオン交換体とが挙げられる。適切なカチオン交換材料の例としては、典型的にナトリウム形態であるスルホン酸などの強カチオン交換体と、典型的に水素形態であるカルボン酸などの弱カチオン交換体が挙げられる。適切な炭素ベースの材料の例としては、エムポア(EMPORE)炭素材料、炭素ビーズが挙げられる。適切な逆相C8およびC18材料の例としては、オクタデシル基またはオクチル基でエンドキャップされたシリカビーズ、およびC8およびC18シリカビーズを有するエムポア(EMPORE)材料が挙げられる(エムポア(EMPORE)材料は、ミネソタ州セントポール(St.Paul,MN))の3M社から入手できる)。正常な順相材料の例としては、ヒドロキシ基およびジヒドロキシ基が挙げられる。
【0099】
市販される材料はまた変性でき、または直接に本発明の方法で使用できる。例えばイリノイ州ロックフォードのピアス(Pierce(Rockford,IL))からの商品名ライス・アンド・ゴー(LYSE AND GO)、ニュージャージー州のCPG(CPG(NJ))からのリリース・イット(RELEASE−IT)、フランス国のユーロバイオ(Eurobio(France))からのジーン・フィズ(GENE FIZZ)、テネシー州マーフリーズボロのバイオベンチャーズ(Bioventures Inc.(Murfreesboro,TN))からのジーン・リリーサー(GENE RELEASER)、およびノルウェー国オスロのジェンポイント(GenPoint(Oslo,Norway))からのバグズ・ン・ビーズ(BUGS N BEADS)、ならびにカリフォルニア州オレンジのザイモ・リサーチ(Zymo Research(Orange,CA))からのサイモズ・ビーズ(Zymo’s beads)およびノルウェー国オスロのダイナル(Dynal(Oslo,Norway))からのダイナルビーズ(Dynal’s beads)の下に入手できる固相材料は、本発明の方法に組み込むことができ、特に固相捕獲材料としてマイクロ流体装置内に組み込むことができる。
【0100】
このような方法の特定の実施態様では、固相材料がコーティング試薬を含む。コーティング試薬は、好ましくは界面活性剤、強塩基、多価電解質、選択的透過性ポリマーバリア、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。このような方法の特定の実施態様では、固相材料は、ポリテトラフルオロエチレン原線維マトリックス、マトリックス内に絡まった吸着性粒子、および固相材料上に被覆されたコーティング試薬を含み、コーティング試薬は界面活性剤、強塩基、多価電解質、選択的透過性ポリマーバリア、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。本明細書で「固相材料に被覆されたコーティング試薬」とは、例えば原線維マトリックスおよび/または吸着性粒子の少なくとも一部など、固相材料の少なくとも一部に被覆された材料を指す。
【0101】
適切な界面活性剤の例を下に列挙する。
【0102】
適切な強塩基の例としては、NaOH、KOH、LiOH、NH4OH、ならびに第一級、第二級、または第三級アミンが挙げられる。
【0103】
適切な多価電解質の例としては、ポリストリエンスルホン酸(例えばポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)またはPSSA)、ポリビニルホスホン酸、ポリビニルホウ酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリスチレンホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、リグノスルホナート、カラゲナン、ヘパリン、コンドロイチン硫酸、およびそれらの塩またはその他の誘導体が挙げられる。
【0104】
選択的透過性ポリマーバリアの適切な例としては、アクリレート、アクリルアミド、アズラクトン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンイミン、多糖類などのポリマーが挙げられる。このようなポリマーは、多様な形態であることができる。それらは水溶性、水膨潤性、水不溶性、ヒドロゲルなどであることができる。例えばポリマーバリアは、白血球細胞、核、ウィルス、細菌、ならびにヒトゲノムDNAなどの核酸、およびタンパク質などのより大きな粒子のフィルターとして作用するように調製できる。これらの表面は、当業者により、適切な官能基の選択や架橋などによって、サイズおよび/または電荷に基づいて分離するように作られる。このような材料は、当業者によって容易に入手されまたは調製される。
【0105】
好ましくは、固相材料は、いかなる過剰な界面活性剤も洗い流すことなく、界面活性剤で被覆されるが、所望ならばその他のコーティング試薬はすすぎ落とすことができる。典型的に、コーティングは、浸漬、ロール掛け、スプレーなどの多様な方法を使用して実施できる。次に典型的に、使用に先だって、コーティング試薬装填固相材料を例えば空気中で乾燥させる。
【0106】
特に望ましいのは、界面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤で被覆された固相材料である。これは実施例セクションに記載される手順に従って達成できる。理論による拘束は意図しないが、界面活性剤の添加が固相材料の濡れ性を増大させると考えられ、それによって阻害物質を固相材料に染み込ませて、そこに結合させることが可能になる。
【0107】
固相材料のためのコーティング試薬は好ましくは水性ベースの溶液であるが、所望ならば有機溶剤(アルコールなど)も使用できる。コーティング試薬の装填は、サンプルが固相材料を浸せるように十分に高くあるべきである。しかしそれは、コーティング試薬それ自体の顕著な溶出があるほどに高すぎてはならない。好ましくはコーティング試薬が核酸で溶出される場合、溶出されるサンプル中に約2重量%以下のコーティング試薬がある。典型的にコーティング溶液濃度は、溶液中0.1重量%のコーティング試薬程度に低く、溶液中10重量%のコーティング試薬程度に高くあることができる。
【0108】
界面活性剤
非イオン性界面活性剤。溶解試薬(上で考察)、溶出試薬(下で考察)として、および/または任意の固相材料上のコーティングとして使用できる、多種多様な適切な非イオン性界面活性剤が知られている。それらとしては、例えばポリオキシエチレン界面活性剤、カルボン酸エステル界面活性剤、カルボン酸アミド界面活性剤などが挙げられる。市販される非イオン性界面活性剤としては、n−ドデカノイルスクロース、n−ドデシル−β−D−グルコピラノシド、n−オクチル−β−D−マルトピラノシド、n−オクチル−β−D−チオグルコピラノシド、n−デカノイルスクロース、n−デシル−β−D−マルトピラノシド、n−デシル−β−D−チオマルトシド、n−ヘプチル−β−D−グルコピラノシド、n−ヘプチル−β−D−チオグルコピラノシド、n−ヘキシル−β−D−グルコピラノシド、n−ノニル−β−D−グルコピラノシド、n−オクタノイルスクロース、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド、シクロヘキシル−n−ヘキシル−β−D−マルトシド、シクロヘキシル−n−メチル−β−D−マルトシド、ジギトニン、および商品名プルロニック(PLURONIC)、トリトン(TRITON)、ツイーン(TWEEN)の下に入手できるもの、ならびに多数のその他の市販され、カーク・オスマー化学大辞典(Kirk Othmer Technical Encyclopedia)に列挙されるものが挙げられる。例を下の表1に列挙する。好ましい界面活性剤は、ポリオキシエチレン界面活性剤である。より好ましい界面活性剤は、オクチルフェノキシポリエトキシエタノールを含む。
【0109】
【表1】

【0110】
サウ(Savu)らに付与された米国特許公報第2003/0139550号明細書、およびサウ(Savu)らに付与された米国特許公報第2003/0139549号明細書で開示されるタイプのフッ素化された非イオン性界面活性剤もまた適切である。その他の非イオン性フッ素化された界面活性剤としては、デラウェア州ウィルミントンのデュポン(DuPont(Wilmington,DE))から商品名ゾニル(ZONYL)の下に入手できるものが挙げられる。
【0111】
両性イオン性界面活性剤。固相材料上のコーティングとして、溶解試薬として、および/または溶出試薬として使用できる、多種多様な適切な両性イオン界面活性剤が知られている。これらとしては、例えばアルキルアミドベタインおよびそのアミンオキシド、アルキルベタインおよびそのアミンオキシド、スルホベタイン、ヒドロキシスルホベタイン、アンフォグリシナート、アンフォプロピオネート、平衡アンフォポリカルボキシグリシナート、およびアルキルポリアミノグリシナートが挙げられる。タンパク質はpH次第で荷電または非荷電する能力を有するので、適切なpHでは、変性されたウシ血清アルブミンまたはキモトリプシノーゲンなどの好ましくはpHが約8〜9のタンパク質は、両性イオン界面活性剤として機能できる。両性イオン界面活性剤の具体例は、シグマ(Sigma)から商品名チャップス(CHAPS)の下に入手できるコールアミドプロピルジメチルアンモニウムプロパンスルホネートである。より好ましい界面活性剤は、N−ドデシル−N,Nジメチル−3−アンモニア−1−プロパンスルホネートを含む。
【0112】
カチオン性界面活性剤。溶解試薬、溶出試薬、および/または固相材料上のコーティングとして使用できる、多種多様な適切なカチオン性界面活性剤が知られている。それらとしては、例えば第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアミンオキシドが挙げられる。典型的に、少なくとも1個のより高分子量の基および2または3個のより低分子量の基を含む適切な第四級アンモニウム塩は、一般的な窒素原子に結合してカチオンを生じ、電気的平衡アニオンは、ハロゲン化物(臭化物、塩化物など)、アセテート、亜硝酸化合物、および低級アルコスルフェート(メトスルフェートなど)からなる群から選択される。窒素上のより高分子量の置換基は、約10〜約20個の炭素原子を含有する高級アルキル基であることが多く、より低分子量の置換基は、メチルまたはエチルなどの炭素原子約1〜約4個の低級アルキルであってもよく、それは場合によってはヒドロキシで置換されていてもよい。1つ以上の置換基はアリール部分を含んでもよく、またはベンジルまたはフェニルなどのアリールによって置換されていてもよい。可能な低級分子量の置換基としては、メチルおよびエチルなどの炭素原子約1〜約4個の低級アルキルも挙げられ、それらはポリオキシエチレン部分などの低級ポリアルコキシ部分によって置換され、ヒドロキシル末端基があり、一般式R(CH2CH2O)(n-1)CH2CH2OH(式中、Rは窒素に結合する(C1〜C4)二価のアルキル基であり、nは約1〜約15の整数を表す)に含まれる。代案としては、末端ヒドロキシルを有する1または2個のこのような低級ポリアルコキシ部分が、既述の低級アルキルを通じて結合する代わりに、直接、第四級窒素に結合してもよい。本発明で使用するために有用な第四級アンモニウムハロゲン化物界面活性剤の例としては、アクゾ・ケミカル(Akzo Chemical Inc.)からのメチル−ビス(2−ヒドロキシエチル)ココ−塩化アンモニウムまたはオレイル−塩化アンモニウム(それぞれエソカード(ETHOQUAD)C/12およびO/12)、およびメチルポリオキシエチレン(15)オクタデシル塩化アンモニウム(エソカード(ETHOQUAD)18/25)が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0113】
アニオン性界面活性剤。溶解試薬、溶出試薬としておよび/または固相材料上のコーティングとして使用できる、多種多様な適切なアニオン性界面活性剤が知られている。有用なアニオン性タイプの界面活性剤としては、アルキルスルフェート、アルキルエーテルスルフェート、アルキルスルホネート、アルキルエーテルスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンエーテルスルフェート、アルキルスルホアセテート、第二級アルカンスルホネート、第二級アルキルスルフェートなどのスルホネートおよびスルフェートが挙げられる。これらの多くは、ポリアルコキシレート基(例えばランダム、逐次、またはブロック配置であることができるエチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基)および/またはNa、K、Li、アンモニウムなどのカチオン性対イオン、トリエタノールアミンなどのプロトン化第三級アミンまたは第四級アンモニウム基を含むことができる。例としては、イリノイ州ノースフィールドのステパン・カンパニー(Stepan Company(Northfield,IL))から商品名ポリステップB12およびB22の下に入手できるラウリルエーテルスルフェートなどのアルキルエーテルスルホネート、および日本国東京の日光ケミカルズ(Nikko ChemicalsCo.(Tokyo,Japan)から商品名ニッコール(NIKKOL)CMT30の下に入手できるナトリウムメチルタウレート、ノースカロライナ州シャーロットのクラリアント(Clariant Corp.(Charlotte,NC))から商品名ホスタプァー(HOSTAPUR)SASの下に入手できるナトリウム(C14−C17)第二級アルカンスルホネート(α−オレフィンスルホネート)である第二級アルカンスルホネート、ナトリウムメチル−2−スルフォ(C12−C16)エステルおよびステパン・カンパニー(Stepan Company)から商品名アルファステ(ALPHASTE)PC−48の下に入手できる二ナトリウム2−スルフォ(C12〜C16)脂肪酸などのメチル−2−スルフォアルキルエステル、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム(商品名ランタノール(LANTHANOL)LAL)および二ナトリウムラウレトスルホコハク酸(商品名ステパンマイルド(STEPANMILD)SL3)としてどちらもステパン・カンパニー(Stepan Co.)から入手できるアルキルスルホ酢酸およびアルキルスルホコハク酸、およびステパン・カンパニー(Stepan Co.)から商品名ステパノール(STEPANOL)AMの下に市販されるアンモニウムラウリルスルフェートなどのアルキルスルフェートが挙げられる。
【0114】
有用なアニオン性界面活性剤の別のクラスとしては、アルキルリン酸、アルキルエーテルリン酸、アラルキルリン酸、およびアラルキルエーテルリン酸などのリン酸塩が挙げられる。これらの多くは、ポリアルコキシル酸基(例えばランダム、逐次、またはブロック配置であることができるエチレンオキシド基および/またはプロピレンオキシド基)を含むことができる。例としては、概してトリラウレト−4−リン酸塩と称されクラリアント(Clariant Corp.)から商品名(HOSTAPHAT)340KLの下に市販される、モノ−、ジ−、およびトリ−(アルキルテトラグリコールエーテル)−o−リン酸エステルの混合物、およびニュージャージー州パーシッパニーのクロダ(Croda Inc.、(Parsipanny,NJ))から商品名クロダフォス(CRODAPHOS)SGの下に入手できるPPG−5セテス10リン酸塩、ならびにアルキルおよびアルキルアミドアルキルジアルキルアミンオキシドが挙げられる。アミンオキシド界面活性剤の例としては、ラウリルジメチルアミンオキシド、ラウリルアミドプロピルジメチルアミンオキシド、およびセチルアミンオキシドである、全てステパン・カンパニー(Stepan Co.)から商品名アンモニクス(AMMONYX)LO、LMDO、およびCOの下に市販されるものが挙げられる。
【0115】
溶出技術
阻害物質を保持するために固相材料を使用する実施態様では、核酸含有材料(例えば核)および/または放出された核酸を含むサンプルのより高濃度の領域が、多様な溶出試薬を使用して溶出できる。このような溶出試薬は、水(好ましくはRNAseを含まない水)、緩衝液、カチオン性,アニオン性、非イオン性、または両性イオン性、または強塩基であることができる界面活性剤を含むことができる。
【0116】
好ましくは溶出試薬は塩基性である(すなわち7を超える)。特定の実施態様では、溶出試薬のpHは少なくとも8である。特定の実施態様では、溶出試薬のpHは10までである。特定の実施態様では、溶出試薬のpHは13までである。溶出された核酸をPCRなどの増幅プロセスで直接使用する場合、成分の濃度が酵素(例えばTaqポリメラーゼ)を阻害したり、別のやり方で増幅反応を防止しないように、溶出試薬を調合しなくてはならない。
【0117】
適切な界面活性剤の例としては、上で列挙されたもの、特にSDS、トリトン(TRITON)X−100、ツイーン(TWEEN)、フッ素化界面活性剤、およびプルロニックス(PLURONICS)として知られているものが挙げられる。界面活性剤は典型的に水性ベースの溶液を提供するが、所望ならば有機溶剤(アルコールなど)も使用できる。溶出試薬中の界面活性剤濃度は、溶出試薬総重量を基準にして好ましくは少なくとも0.1重量/容積%(w/v−%)である。溶出試薬中の界面活性剤濃度は、溶出試薬総重量を基準にして好ましくは1w/v−%以下である。ポリエチレングリコールなどの安定剤が、界面活性剤と共に任意に使用できる。
【0118】
適切な溶出緩衝液例としては、トリス−HCl、N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸](HEPES)、3−[N−モルホリノ]プロパンスルホン酸(MOPS)、ピペラジン−N,N’−ビス[2−エタンスルホン酸](PIPES)、2−[N−モルホリノ]エタンスルホン酸(MES)、トリス−EDTA(TE)緩衝液、クエン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、炭酸塩、および炭酸水素塩などが挙げられる。
【0119】
溶出試薬中の溶出緩衝液濃度は、好ましくは少なくとも10mMである。溶出試薬中の界面活性剤濃度は、好ましくは2重量%以下である。
【0120】
典型的に、核酸含有材料および/または放出された核酸の溶出は、好ましくはアルカリ性溶液を使用して達成される。理論による拘束は意図しないが、アルカリ性溶液が、水での溶出と比べて阻害物質の改善された結合を可能にすると考えられる。アルカリ性溶液はまた、核酸含有材料の溶解を容易にする。好ましくはアルカリ性溶液は8〜13、より好ましくは13のpHを有する。高pH供給源の例としては、NaOH、KOH、LiOH、第四級窒素ベースの水酸化物、第三級、第二級または第一級アミンなどの水性溶液が挙げられる。溶出のためにアルカリ性溶液が使用される場合、それは典型的に引き続くステップで例えばトリス緩衝液によって中和され、PCR準備済みのサンプルが形成される。
【0121】
アルカリ性溶液の使用は、選択的にRNAを破壊してDNA分析を可能にできる。さもなければRNAseを調合物に添加してRNAを不活性化でき、RNAseの加熱不活性化がそれに続く。同様に、DNAseを添加してDNAを選択的に破壊し、RNA分析を可能にできる。しかしRNAを破壊しないその他の溶解緩衝液(例えばTE)が、このような方法で使用される。RNAsinなどのRNAse阻害物質の添加もまた、リアルタイムPCRにかけられるRNA調製のための調合物中で使用できる。
【0122】
溶出は典型的に室温で実施されるが、より高い温度がより高い収量を生成するかもしれない。例えば溶出試薬の温度は、所望ならば95℃までであることができる。溶出は典型的に10分間以内で実施されるが、1〜3分間の溶出時間が好ましい。
【0123】
装置およびキット
多様な例証的なマイクロ流体装置の実施態様については、ベディンガム(Bedingham)らに付与された米国特許公報第2002/0047003号明細書(2003年4月25日公開)で述べられる。これらは、典型的に、その中に一体型マイクロ流体溝網目状組織が配置された構体を用いる。好ましい態様では、マイクロ流体装置の溝体は2つ以上の別個の層の集合を含み、それが共に適切に噛み合わせまたは結合すると、例えば本明細書で述べられる溝および/またはチャンバを含有する本発明のマイクロ流体装置を形成する。典型的に有用なマイクロ流体装置は、頂部、底部、および内部を含み、内部が実質的に装置の溝およびチャンバを画定する。典型的にチャンバはバルブ(例えばバルブ隔壁)を含み、バルブ付きチャンバと称される。
【0124】
本明細書での特定の実施態様に特に好ましい装置は、可変バルブ装置と称され、2003年12月12日に出願され「可変バルブ装置および方法(Variable Valve Apparatus and Method)」と題された出願人の譲受人の同時係属中の米国特許出願第10/734,717号明細書で開示される。この可変バルブ装置ではバルブ構造が、処理用チャンバ(すなわち可変バルブ付処理用チャンバ)内に位置するサンプル材料の選択部分の除去を可能にする。選択部分の除去は、バルブ隔壁内に所望の位置で開口部を形成して達成される。
【0125】
バルブ隔壁は、好ましくは処理用チャンバ内のサンプル材料の特性に基づいて開口部の位置の調節ができるように十分大きい。開口部が形成された後にサンプル処理装置を回転させると、回転軸により近く位置する材料の選択部分は、開口部を通じて処理用チャンバを出る。サンプル材料の残部は、回転軸よりも開口部により遠く位置するので開口部を通じて出ることができない。
【0126】
バルブ隔壁内の開口部は、処理用チャンバ内で検出されたサンプル材料の1つ以上の特性に基づく位置で形成されてもよい。処理用チャンバが、光を処理用チャンバに伝送し、および/またはそれから伝送する検出窓を含むことが好ましいかもしれない。サンプル材料の検出される特性としては、例えば(処理用チャンバ内のサンプル材料容積の指標である)サンプル材料の自由表面が挙げられる。自由表面の半径方向外向きの選択される距離でバルブ隔壁内の開口部を形成することで、サンプル材料の選択される容積を処理用チャンバから除去する能力を提供できる。
【0127】
いくつかの実施態様では、1つ以上のバルブ隔壁内の選択される位置に開口部を形成することで、サンプル材料の選択されたアリコートを除去することが可能でかもしれない。選択されるアリコート容積は、開口部間の放射状距離(回転軸に対して測定される)、および開口部間の処理用チャンバ断面積に基づいて判定できる。
【0128】
バルブ隔壁内の開口部は、好ましくは物理的接触の不在下で、例えばレーザー切断、集束光学的加熱などを通じて形成される。その結果、開口部は好ましくは、サンプル処理装置の最外層を穿孔せずに形成でき、したがってサンプル処理装置からのサンプル材料の漏れの可能性が限定される。
【0129】
一態様では、本発明は、サンプル処理装置(例えばマイクロ流体装置)内のバルブ付処理用チャンバを使用し、バルブ付処理用チャンバは、サンプル処理装置の対向する第1および第2の主要面間に位置する処理用チャンバ容積を有する処理用チャンバを含み、処理用チャンバはサンプル処理装置内の処理用チャンバ領域を占め、処理用チャンバ領域は長さおよび長さを横断する幅を有し、さらに長さが幅を超える。可変バルブ付処理用チャンバはまた、処理用チャンバ領域内に位置するバルブチャンバを含み、バルブチャンバは処理用チャンバ容積とサンプル処理装置の第2の主要面との間に位置し、バルブチャンバはバルブチャンバと処理用チャンバを分離するバルブ隔壁によって処理用チャンバから単離され、処理用チャンバ容積の一部はバルブ隔壁とサンプル処理装置の第1の主要面との間にある。検出窓は処理用チャンバ領域内に位置し、検出窓は選択される電磁エネルギーを処理用チャンバ容積に伝送し、および/またはそれから伝送する。
【0130】
別の態様では、本発明は、可変バルブ付処理用チャンバからのサンプルの一部の選択的除去を可能にする方法を提供する。方法は、上述のようにサンプル処理装置(例えばマイクロ流体装置)を提供するステップと、処理用チャンバ内のサンプル材料を提供するステップと、検出窓を通して処理用チャンバ内のサンプル材料の特徴を検出するステップと、処理用チャンバの長さに沿って選択される位置でバルブ隔壁内に開口部を形成するステップと、を含み、選択される位置は検出されたサンプル材料の特徴に相関する。方法はまた、バルブ隔壁内に形成された開口部を通じて、サンプル材料の一部のみを処理用チャンバからバルブチャンバに移動させるステップも含む。
【0131】
本発明はまた、マイクロ流体装置、溶解試薬(特に非イオン性界面活性剤などの界面活性剤、無希釈または溶液中のいずれか)、および核酸から阻害物質を分離するための取扱説明書を含むことができるキットも提供する。
【0132】
本発明のキット内に含まれることができるその他の構成要素としては、洗浄溶液、カップリング緩衝液、クエンチング緩衝液、ブロッキング緩衝液、溶出緩衝液などの従来の試薬が挙げられる。本発明のキット内に含まれることができるその他の構成要素としては、スピンカラム、カートリッジ、96−ウェルフィルタープレート、シリンジフィルター、収集ユニット、シリンジなどの従来の装置が挙げられる。
【0133】
キットは典型的に、キットの内容物を収納するのに使用される1つ以上の物理的構造を指す、包装材料を含む。包装材料はよく知られている方法によって構築でき、好ましくは滅菌で汚染物質を含まない環境を提供する。包装材料はキット内容物を示唆するラベルを有してもよい。さらにキットは、キット内の材料をどのようにして用いるかを示す取扱説明書を含有する。本明細書での用法では、「包装」という用語は、固体マトリックス、またはガラス、プラスティック、紙、フォイルのような材料などを指す。
【0134】
「取扱説明書」は、典型的に、溶解条件(例えば溶解試薬のタイプおよび濃度)、混合される試薬およびサンプルの相対量、試薬/サンプル混合材料の保守時間、温度、緩衝液条件などをはじめとする様々な本発明の方法について述べる具体的表現を含む。
【0135】
例証的な方法
好ましい実施態様では、本発明は、装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含むマイクロ流体装置を提供するステップと、核酸含有材料および阻害物質を含有する細胞を含むサンプルを提供するステップと、沈殿試薬を提供するステップと、装填用チャンバ内にサンプルを入れるステップと、サンプルをバルブ付処理用チャンバに移動させるステップと、沈殿試薬を使用してバルブ付処理用チャンバ内でサンプル濃縮領域を形成するステップ、ここで、サンプル濃縮領域が核酸含有材料の大部分を含み、サンプルの濃縮度の低い領域が沈殿試薬の少なくとも一部(好ましくは沈殿試薬の大部分)および阻害物質の少なくとも一部(サンプルは任意に、沈殿ステップに先だって例えば水に溶解できる)を含む、と、バルブ付処理用チャンバ内のバルブを始動して、サンプル濃縮領域の少なくとも一部を混合用チャンバに移動させ、濃縮領域をサンプルの濃縮度の低い領域から実質的に分離するステップと、混合用チャンバ内の核酸含有材料を溶解して核酸を放出するステップと、任意に、放出された核酸を含むサンプルのpHを調節するステップと、を含む、サンプルから核酸を単離する方法を提供する。沈殿試薬については上で述べた。
【0136】
核酸含有材料および阻害物質を含有する細胞は典型的に異なるが、それらは同一または異なってもよい。すなわち核酸含有材料および阻害物質含有細胞は、潜在的に同一である。例えばサンプルが軟膜である場合、核酸含有材料は、核および阻害物質の両方を含む白血球細胞であることができる。溶解試薬(例えば非イオン性界面活性剤)が使用される場合、それは白血球細胞の細胞膜を溶解するが、その中に包含される核は溶解せず、次に阻害物質ならびに無傷の核が放出され、それもまた本明細書で定義される核酸含有材料と見なされる。本明細書での特定の実施態様では、沈殿させるサンプルは、遊離(例えば細胞内にない)阻害物質を含むことができる。
【0137】
所望ならば、方法は、核酸含有材料を溶解するステップに先だって、分離したサンプル濃縮領域を水または緩衝液で希釈するステップと、任意に、希釈された領域をさらに濃縮して核酸材料濃度を増大させるステップと、任意に、さらに濃縮された領域を分離するステップと、任意に、希釈とそれに続く濃縮および分離の上記プロセスを反復するステップと、を含み、増幅法を妨げない濃度にまで阻害物質濃度を低下させることができる。
【0138】
代案としては方法は、所望ならば、核酸含有材料を溶解する前、それと同時に、またはその後に、分離したサンプル濃縮領域を固相材料との接触のために分離チャンバに移動させて、阻害物質の少なくとも一部を固相材料に優先的に付着させるステップを含み、固相材料は、捕獲部位(例えばキレート官能基)、固相材料に被覆されたコーティング試薬、またはその両方を含み、コーティング試薬は、界面活性剤、強塩基、多価電解質、選択的透過性ポリマーバリアからなる群から選択されることができる。
【0139】
図1について述べると、これらの実施態様で使用するのに適したマイクロ流体装置の好ましい実施態様は、装填用チャンバ50、任意の混合用チャンバ52、バルブ付処理用チャンバ54、任意の溶出試薬チャンバ58、廃棄物チャンバ60、および任意の増幅反応チャンバ62を含む。これらのチャンバは、装填用チャンバ50内にサンプルが装填できるように互いに流体連絡し、次にそれを混合用チャンバ52に移動させ、またはそれが存在しない場合、直接バルブ付処理用チャンバ54に移動させる。
【0140】
サンプルは、バルブ付処理用チャンバ54内への装填前(すなわち装入前)、またはサンプルをチャンバに入れた後のいずれかに、沈殿試薬を使用してバルブ付処理用チャンバ54内で濃縮できる。ひとたびサンプルおよび沈殿試薬(例えば水性デキストラン溶液)が合わさると、それらを混合して沈殿させる。バルブ付処理用チャンバ54のバルブは、典型的にサンプルの濃縮度の低い領域(沈殿試薬の大部分および阻害物質の大部分を含むことが多い)から、サンプル濃縮領域(核酸含有材料の大部分を含む)を実質的に分離できるように配置される。サンプルの濃縮度の低い領域は、典型的に廃棄物チャンバ60に移動される。サンプル濃縮領域は、使用するためにチャンバ、例えば増幅反応チャンバ62に直接移動できる。本明細書で溶出試薬チャンバ58と称されるチャンバで保存できる溶解試薬をさらなる溶解のために、サンプル濃縮領域と合わせることができる。代案としては、核酸を放出するためおよび/または放出された核酸を含むサンプルのpHを調節するため、溶解試薬と合わせるために、サンプル濃縮領域を混合用チャンバ(図示せず)に移動できる。
【0141】
追加的実施態様
緩衝液(特にトリス緩衝液)へのスクロースの添加は、核の単離を助けるかもしれない。緩衝液はまた、マグネシウム塩およびトリトン(TRITON)X−100などの界面活性剤も含むことができる。それらはまた、白血球細胞溶解のための良好な媒質も提供する。さらに特定の場合、特にマイクロ流体装置内に核をアーカイブする必要がある場合、核保存緩衝液の使用が有用かもしれない。核保存緩衝液は、例えば緩衝液(例えばトリス緩衝液)内に、スクロース、マグネシウム塩、EDTA、ジチオスレイトール、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニルフッ化物(AEBSF)、および/またはグリセロールを含み、および核の安定した保存を可能にする。
【0142】
特定の実施態様では、マイクロ流体装置の使用を伴うこのような方法は、バルブ付処理用チャンバ内のサンプル濃縮領域を形成するステップが、処理用チャンバ内のサンプルを遠心処理するステップを含む。濃縮度の低い領域は例えば赤血球細胞である沈殿物を含有し、典型的にどこにも移動されず、典型的に、核酸を含有するより濃縮された領域がバルブで仕切られて別のチャンバに移動され、そこでさらに処理される。
【0143】
本明細書で述べられる方法の特定の実施態様では、サンプルは全血であることができる。次に全血は典型的に構成要素部分に分離され、白血球細胞を含有する部分(典型的に軟膜と称される)が分離および溶解されて、核および/または核酸が放出される。例えば特定の実施態様では、方法は、全血を(例えばバルブ付処理用チャンバ内で)遠心処理して、血漿層(上層であることが多い)、赤血球細胞層(下層であることが多い)、および白血球細胞を含む界面層を形成するステップと、界面層(すなわち軟膜)のかなりの部分を除去するステップと、を含むことができる。次に軟膜をさらに処理できる。
【0144】
特定の実施態様では、軟膜は従来の技術を使用して全血から分離できる。次に本明細書で述べられる方法で、軟膜をサンプルとして使用できる。
【0145】
特定の実施態様では、「固相材料を使用した核酸単離方法およびキット(METHODS FOR NUCLEIC ACID ISOLATION AND KITS USING SOLID PHASE MATERIAL)」と題され、____________に出願された米国特許出願第_____________号明細書(代理人整理番号第59073US003号)で開示されるように、(例えば沈殿の前または後に)固相材料を使用して阻害物質を除去できる。
【0146】
場合によっては、「マイクロ流体装置および濃縮ステップを使用した核酸単離方法およびキット(METHODS FOR NUCLEIC ACID ISOLATION AND KITS USING A MICROFLUIDIC DEVICE AND CONCENTRATION STEP)」と題され、____________に出願された米国特許出願第_____________号明細書(代理人整理番号第59801US002号)で開示されるように、(例えばウィルス粒子の沈殿および/またはビーズ上へのウィルス捕獲後に)一連の濃度/分離/任意の希釈ステップによって、阻害物質を除去できる。例えばサンプルが血液である場合、RBCが沈殿試薬で沈降した後、上清(隔離された部分)は、(WBC中の)核酸材料、(水による溶解に起因する)RBCの小部分からの溶血した阻害物質、ならびに血清タンパク質を含有する。この隔離された部分を濃度/分離/任意の希釈ステップにかけて、溶血したRBC(例えば鉄含有阻害物質)の濃度を低下できる。
【0147】
感染性疾患では、全血からの細菌またはウィルスを分析することが必要かもしれない。例えば細菌の場合、白血球細胞が細菌細胞と共に存在するかもしれない。マイクロ流体装置では、沈殿試薬を使用して赤血球細胞を沈降し、次にさらに溶解するのに先だって、例えば細菌細胞および白血球細胞を分別することが可能である。この核酸含有細胞(細菌および白血球細胞/核)の濃縮スラッグを阻害物質除去のために、チャンバ内にさらに移動できる。次に例えば細菌細胞を溶解できる。
【0148】
細菌細胞溶解は、タイプ次第で熱を使用して達成されてもよい。代案としては、細菌細胞溶解は、酵素的方法(例えばリゾチーム、ミュータノリシン)または化学的方法を使用して生じることができる。細菌細胞は、好ましくはアルカリ溶解によって溶解する。
【0149】
血漿および血清は、ウィルスを含む、分子試験に供される標本の大部分に相当する。全血の分画後、血漿または血清サンプルは、ウィルス(すなわちウィルス粒子)抽出のために使用できる。例えばウィルスからDNAを単離するために、最初に沈殿剤を使用して赤血球細胞を分別することが可能である。次に隔離された濃縮溶液を遠心分離してウィルスを濃縮でき、または例えば本明細書で述べられるような固相材料を使用した、または一連の希釈/濃度ステップによる、阻害物質の除去後、引き続く溶解ステップで直接使用できる。
【0150】
固相材料は、ウィルス粒子が材料を透過しないように溶液を吸収できる。次にウィルス粒子は、小さな溶出容積内に溶出できる。ウィルスは、熱によって、または酵素的または化学的手段によって、例えば界面活性剤の使用によって溶解でき、PCRまたはリアルタイムPCRなどの下流用途のために使用される。ウィルスRNAが必要とされる場合、RNAse阻害物質を溶液に添加してRNAの分解を防止することが必要かもしれない。
【0151】
したがって本発明の多様な実施態様において、上で言及される固相材料および沈殿試薬に加えて、その他のタイプの固相材料、特にビーズをマイクロ流体装置内に導入できる。例えばビーズに適切な基を官能性付与して、特定の細胞、ウィルス、細菌、タンパク質、核酸などを単離できる。ビーズは、遠心分離と引き続く分離によってサンプルから隔離できる。ビーズは、隔離のために適切な密度およびサイズ(nm〜μm)を有するようにデザインできる。例えばウィルス捕獲の場合、ウィルスのタンパク質被覆を認識するビーズを使用して、血清サンプルからの少量の残留阻害物質の除去の前または後に、ウィルスを捕獲および濃縮できる。
【0152】
核酸は、隔離されたウィルス粒子から溶解によって抽出できる。したがってビーズは、マイクロ流体装置内の特定領域で適切な材料を濃縮し、また不適切な材料を洗い流し、および捕獲された粒子から適切な材料を溶出する方法を提供できる。
【0153】
このようなビーズの例としては、カリフォルニア州ハーキュリーズのバイオ・ラッド・ラボラトリーズ(Bio−Rad Laboratories,Inc.(Hercules,CA))から商品名キレックス(CHELEX)の下に入手できる架橋されたポリスチレンビーズと、トリス(2−アミノエチル)アミン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、ポリアミン、およびポリイミンで架橋されたアガロースビーズ、ならびにペンシルベニア州フィラデルフィアのローム・アンド・ハース(Rohm & Haas(Philadelphia、PA))から商品名デュオライト(DUOLITE)C−467およびデュオライト(DUOLITE)GT73、アンバーライト(AMBERLITE)IRC−748、ダイヤイオン(DIAION)CR11、デュオライト(DUOLITE)C647の下に入手できる、市販されるキレートイオン交換樹脂が挙げられるが、これに限定されるものではない。これらのビーズはまた、上述のように固相材料として使用するのに適している。
【0154】
その他のビーズの例としては、フランス国のユーロバイオ(Eurobio(France))からのジーン・フィズ(GENE FIZZ)、テネシー州マーフリーズボロのバイオベンチャーズ(Bioventures Inc.(Murfreesboro,TN))からのジーン・リリーサー(GENE RELEASER)、およびノルウェー国オスロのジェンポイント(GenPoint(Oslo,Norway))からのバグズ・ン・ビーズ(BUGS N BEADS)、ならびにカリフォルニア州オレンジのザイモ・リサーチ(Zymo Research(Orange,CA))からのサイモズ・ビーズ(Zymo’s beads)およびノルウェー国オスロのダイナル(Dynal(Oslo,Norway))からのダイナルビーズ(Dynal’s beads)の商品名の下に入手できるものが挙げられる。
【0155】
その他の材料もまた、病原体捕獲のために利用できる。例えば本発明の特定の実施態様において、ポリマーコーティングを使用して、特定の細胞、ウィルス、細菌、タンパク質、核酸などを単離できる。これらのポリマーコーティングは、例えばマイクロ流体装置のカバーフィルム上に直接スプレージェットできる。
【0156】
ウィルス粒子は、抗体をビーズ表面に共有結合的に付着させてビーズ上に捕獲できる。抗体は、ウィルス外被タンパク質に対して生じさせることができる。例えばダイナル(DYNAL)ビーズを使用して、抗体を共有結合的に連結できる。代案としては、例えば、アニオン交換ポリマーなどの合成ポリマーを使用して、ウィルス粒子を濃縮できる。ニュージャージー州イースト・ブランズウィックのバイオテック・サポート・グループ(Biotech Support Group(East Brunswick,NJ))からのビラフィニティ(viraffinity)などの市販される樹脂を使用してビーズを被覆し、またはマイクロ流体装置内の選択位置にポリマーコーティングとして塗布して、ウィルス粒子を濃縮できる。例えばノルウェー国オスロのジェンポイント(GenPoint(Oslo,Norway))からのバグズ・ン・ビーズ(BUGS N BEADS)を細菌抽出のために使用できる。本明細書ではこれらのビーズを使用して、ブドウ球菌(Staphylococcus)、連鎖球菌(Streptococcus)、大腸菌、サルモネラ(Salmonella)、およびクラミジア(Clamydia)基本小体などの細菌を捕獲できる。
【0157】
したがって本発明の一実施態様では、サンプルがウィルス粒子またはその他の病原体(例えば細菌)を含む場合、マイクロ流体装置は、ウィルス捕獲ビーズまたはその他の病原体捕獲材料の形態の固相材料を含むことができる。より具体的には、一例ではビーズは、例えばウィルスまたは細菌の濃縮のためにのみ使用でき、引き続いて別のチャンバへのビーズの隔離に続いてウィルスまたは細菌の溶解で終了する。別の場合ではビーズはウィルスまたは細菌の濃縮のために使用でき、溶解および同一ビーズ上における核酸の捕獲、ビーズの希釈、ビーズの濃縮、ビーズの隔離が続き、捕獲された核酸の溶出に先だってプロセスを複数回反復する。
【0158】
核酸の下流用途が、それをPCRなどの増幅プロセスにかけることである場合、方法で使用される全試薬は、好ましくはこのようなプロセスと適合性(例えばPCR適合性)である。さらにPCR促進剤の添加が、特に診断用目的のためには有用かもしれない。また増幅に先だつ増幅する材料の加熱が有益かもしれない。
【0159】
阻害物質が完全に除去されない実施態様では、緩衝液、酵素、およびPCR促進剤の使用が追加でき、阻害物質存在下における増幅プロセスを助ける。例えば阻害物質に対してより抵抗性であるrTthなどのTaqポリメラーゼ以外の酵素を使用することで、PCR増幅に大きな利点を提供できる。ウシ血清アルブミン、ベタイン、タンパク質分解酵素阻害物質、ウシトランスフェリンなどの添加は、増幅プロセスをよりさらに助けることが知られているので、それらを使用できる。代案としては高度な精製を必要としない全血からの直接増幅のために、ドイツ国ダルムシュタットのEMDバイオサイエンシズ(EMD Biosciences、(Darmstadt,Germany))からのノバジェン(Novagen)血液直接PCR緩衝液キットなどの市販の製品が使用できる。
【0160】
以下の実施例によって本発明の目的および利点をさらに例証するが、これらの実施例で述べられる特定の材料および量、ならびにその他の条件および詳細は、本発明を不当に限定するものではない。
【実施例】
【0161】
固相材料の調製:トリトン(TRITON)X−100によるアンモニア形態
3MのNo.2271エムポア(EMPORE)抽出キレートディスクをガラスフィルターホルダーに入れた。添付文書に印刷された手順に従って、抽出ディスクをアンモニア形態に転換した。ディスクをバイアルに入れ、ミズーリ州セントルイスのシグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich(St.Louis,MO))からの1%トリトン(TRITON)X−100溶液(10mLの水中の0.1gのトリトン(TRITON)X−100)に浸し、アイオワ州ドゥビュークのバーンステッド/サーモリン(Barnstead/Thermolyne(Dubuque,IA))からのサーモリン・バリミクス(Thermolyne Vari−Mix)モデルM48725ロッカー上で約6〜8時間混合した。ディスクをガラスフィルターホルダーに入れて、約20分間真空にして乾燥させ、次にディスクを洗浄したりすすいだりしないように注意して、室温(およそ21℃)で一晩乾燥させた。
【0162】
実施例1:デキストラン沈殿を使用した、全血から単離された白血球細胞からDNAサンプルを得るための手順
方法1(「デキストラン沈殿による白血球の調製(Preparation of leucocytes by dextran sedimentation)」-National Referral Laboratory for Lysosomal,Peroxisomal and Related Genetic Disorders)に従って、デキストラン/塩溶液中での沈殿によって全血から白血球細胞を除去した。1μLの無希釈のトリトン(TRITON)X−100を2μLの白血球細胞に添加した。溶液を短時間ボルテックスしてエッペンドルフモデル5415D遠心分離機内で400rcfで約1分間遠沈した。3μLのサンプルを上述のようにして調製されたキレート膜にのせた。材料を膜上で約2〜5分間乾燥させた。13μLの0.077M NaOHをキレート膜に添加した。溶液が泡立つ場合、4,000rpmで1分間遠沈した。溶液をピペット先端中で上下に2〜3回混合し、混合後に取り出した。2μLのアリコートを取り出して、10μLの40mMトリス−HCl(pH7.4)に添加した。
【0163】
実施例2A:PCRに対する阻害物質/DNAの効果:一定のDNA濃度を有する異なる阻害物質濃度
PCRに対する阻害物質の効果を研究するために、きれいなヒトゲノムDNAでスパイキングするのに先だって、阻害物質の一連の希釈を作った。10μLの15ng/μLヒトゲノムDNAに、1μLの異なるMix I(無希釈または希釈)(サンプル2−阻害物質無添加、2D−無希釈、2E−1:10、2F−1:30、2G−1:100、2H−1:300)を添加し、ボルテックスした。各サンプルの2μLアリコートを20μLのPCRのために取り出した。結果を表2に示す。
【0164】
Mix I:100μLの全血を1μLの無希釈トリトン(TRITON)X−100に添加した。溶液を室温(およそ21℃)で約5分間インキュベートし、溶液を間欠的にボルテックスした(20秒毎におよそ5秒間)。次のステップに進む前に、液を調べて透明であることを確かめた。溶液をエッペンドルフモデル5415D遠心分離機内で400rcfで約10分間遠沈した。微小遠心管の上部からのおよそ80μLをMix Iと命名した。
【0165】
実施例2B:PCRに対する阻害物質/DNAの効果:一定の阻害物質濃度を有する異なるDNA濃度
10μLのヒトゲノムDNAに、1μLの1:3希釈されたMix I(上述)を添加した。調べたDNA濃度は次のとおり。サンプル2J−15ng/μL、2K−7.5ng/μL、2L−3.75ng/μL、2M−1.5ng/μL。各サンプルの2μLアリコートを20μLのPCRのために取り出した。結果を表2に示す。
【0166】
実施例2C:PCRに対する阻害物質/DNAの効果:阻害物質無添加のDNA
各DNAサンプルに阻害物質の代わりに1μLの水を添加して、以下のサンプルを調製した。サンプル2N−15ng/μL、2P−7.5ng/μL、2Q−3.75ng/μL、2R−1.5ng/μL。各サンプルの2μLアリコートを20μLのPCRのために取り出した。結果を表2に示す。
【0167】
【表2】

【0168】
結果
表3は、実施例1〜2について、10μLのPCRサンプル(10μLのSYBRグリーンマスターミックス中の2μLのサンプル、4μLのβ−アクチン、4μLの水)の調製に関するクアンティテック(QuantiTech)SYBRグリーンPCRハンドブック10〜12頁の指示に従って、カリフォルニア州フォスターシティのアプレラ(Applera(Foster City,CA))からのABI 7700 QPCRマシン上で得られた結果を報告する。これらの実験では、鋳型を含まない対照(NTC)は増幅しなかった。1%アガロース・ゲル(バンド明度−+淡い、+++明るい)をメリーランド州ゲーサーズバーグのギブコBRL(Gibco BRL(Gaithersburg,MD)からのホライゾン(Horizon)11−14電気泳動法マシンにかけた。カリフォルニア州サニーベールのモレキュラー・デバイシス(Molecular Devices Corporation(Sunnyvale,CA))からのスペクトラマックス・プラス384(SpectraMax Plus384)分光光度計上で405nmで分光測定を行った。各サンプルに対する2、3または4つの値は、二連、三連、四連を表す。
【0169】
【表3】

【0170】
本発明の範囲を逸脱することなく、本発明の様々な修正と変更が可能であることは当業者には明らかである。本発明は、例証的な実施態様およびここに記載される実施例によって不当に限定されず、このような実施例および実施態様は例証としてのみ提示され、本発明の範囲は、本明細書中の冒頭に記載される特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】本発明の特定の方法で使用されるマイクロ流体装置の図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルから核酸を単離する方法であって、以下の:
装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含んでなるマイクロ流体装置を提供するステップと、
核酸含有材料および阻害物質を含んでなるサンプルを提供するステップと、
沈殿試薬を提供するステップと、
前記サンプルを前記装填用チャンバに入れるステップと、
前記サンプルを前記バルブ付処理用チャンバに移動させるステップと、
前記沈殿試薬を使用して前記バルブ付処理用チャンバ内に前記サンプルの濃縮領域を形成するステップ、ここで、前記サンプルの濃縮領域が前記核酸含有材料の大部分を含んでなり、サンプルの濃縮度の低い領域が前記沈殿試薬の少なくとも一部および前記阻害物質の少なくとも一部を含んでなり、
前記バルブ付処理用チャンバ内のバルブを始動して前記サンプルの濃縮領域の少なくとも一部を前記混合用チャンバに移動させ、前記濃縮領域の少なくとも一部を前記サンプルの濃縮度の低い領域から分離するステップと、
任意の加熱により前記混合用チャンバ内の核酸含有材料を溶解して核酸を放出するステップと、
任意に、放出された核酸を含んでなるサンプルのpHを調節するステップと、
を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
サンプルから核酸を単離する方法であって、以下の:
装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含んでなるマイクロ流体装置を提供するステップと、
核酸含有材料および阻害物質を含有する細胞を含んでなるサンプルを提供するステップと、
沈殿試薬を提供するステップと、
前記サンプルを前記装填用チャンバ内に入れるステップと、
前記サンプルを前記バルブ付処理用チャンバに移動させるステップと、
前記沈殿試薬を使用して前記バルブ付処理用チャンバ内に前記サンプルの濃縮領域を形成するステップ、ここで、前記サンプルの濃縮領域が前記核酸含有材料の大部分を含んでなり、サンプルの濃縮度の低い領域が前記沈殿試薬の少なくとも一部および前記阻害物質の少なくとも一部を含んでなり、
前記バルブ付処理用チャンバ内のバルブを始動して前記サンプルの濃縮領域の少なくとも一部を前記混合用チャンバに移動させ、前記サンプルの濃縮領域の少なくとも一部を前記濃縮度の低い領域から分離するステップと、
前記混合用チャンバ内の核酸含有材料を溶解して核酸を放出するステップと、
任意に、放出された核酸を含んでなる前記サンプルのpHを調節するステップと、
を含んでなる、前記方法。
【請求項3】
前記サンプルが血液である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記核酸含有材料が核を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記濃縮度の低い領域が前記沈殿試薬の大部分を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記サンプルが組織抽出物である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記放出された核酸を含んでなるサンプルを増幅反応チャンバに移動させるステップをさらに含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記放出された核酸を増幅プロセスにかけるステップをさらに含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記バルブ付処理用チャンバ内で前記サンプルの濃縮領域を形成するステップが、該処理用チャンバ内のサンプルを遠心分離するステップを含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記核酸含有材料を溶解するステップに先だって、前記分離したサンプルの濃縮領域を水または緩衝液で希釈するステップと、任意に、上記希釈された領域をさらに濃縮して核酸材料濃度を増大させるステップと、任意に、上記さらに濃縮された領域を分離するステップと、任意に、希釈とそれに続く濃縮および分離の上記プロセスを反復して増幅法を妨げない濃度にまで阻害物質濃度を低下させるステップと、を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸含有材料を溶解する前、それと同時に、またはその後に、前記分離したサンプルの濃縮領域を固相材料との接触のために分離チャンバに移動させて、前記阻害物質の少なくとも一部を上記固相材料に優先的に付着させるステップを含んでなり、ここで、上記固相材料が、捕獲部位、上記固相材料に被覆されたコーティング試薬、またはその両方を含んでなり、さらにここで、上記コーティング試薬が、界面活性剤、強塩基、多価電解質、選択的透過性ポリマーバリア、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
サンプルから核酸を単離するためのキットであって、以下の:
沈殿試薬、
装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含んでなるマイクロ流体装置、および
請求項1に記載の方法に従ってサンプルを溶解し、前記核酸含有材料の大部分を前記阻害物質の少なくとも一部から分離するための取扱説明書
を含んでなる、前記キット。
【請求項13】
サンプルから核酸を単離するためのキットであって、以下の:
沈殿試薬、
装填用チャンバ、バルブ付処理用チャンバ、および混合用チャンバを含んでなるマイクロ流体装置、および
請求項2に記載の方法に従ってサンプルを溶解し、前記核酸含有材料の大部分を前記阻害物質の少なくとも一部から分離するための取扱説明書
を含んでなる、前記キット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−516722(P2007−516722A)
【公表日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546978(P2006−546978)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【国際出願番号】PCT/US2004/035330
【国際公開番号】WO2005/068626
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】