説明

マイヤー毛布の製造方法と該方法により製造されたマイヤー毛布

【課題】通常のセンターカットによる長さのパイル糸領域部と、通常のセンターカットより長いパイル糸領域部を碁盤目状に配置することで、通気性を確保し、保温性を向上させ、使用時の段差感覚が殆ど感じられない感触の良いマイヤー毛布を提供すること。
【解決手段】所定本数のパイル糸を地編組織領域部に掛け渡すことによってパイル糸領域部を編成し、別の所定本数のパイル糸を、前記所定本数のパイル糸のニードル針分を飛び越して、次の所定本数のニードル針分として地編組織領域部に掛け渡すことにより延長パイル糸領域部を編成し、然る後に編成生地をセンターカットして、通常の長さのパイル糸領域部とそれよりも長い延長パイル糸領域部とを碁盤目状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、マイヤー編機によって製造するマイヤー毛布の製造方法該方法により製造されたマイヤー毛布に関する。
【背景技術】
【0002】
マイヤー毛布は、一般にマイヤー編機(普通名称化)とよばれているダブルラッセル編機によって前後二枚の地編組織を構成しながら、パイル糸を両地編組織間に掛けわたして編みつけ、編成後に、両地編組織を、そのパイル糸の中間で切り離して(センターカットという)二枚に分け、しかる後に、パイル糸面を起毛或いは捌き処理し、また、地編組織側の反対側を起毛処理等することによって製造されている。
【0003】
この種のマイヤー毛布としては、一般に、センターカットの後に、上記二枚の地編組織側を背中あわせで重ねて1枚ものとし、パイル糸面を両面に位置させて両面に毛羽の嵩のある毛布として用いる場合と、上述の如く、二枚をそれぞれ1枚物の毛布として用いる場合とがある。
【0004】
こうしマイヤー毛布は、保温性に優れているが、厚みがあるもので、冬季のみならず、春秋にも用い得るところの軽く、通気性に優れた毛布が望まれ、こうした要求に応えるマイヤー毛布が提案されている。例えば、次の文献を挙げることができる。
【先行技術文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−127458。
【特許文献2】特開2006−299492。
【0006】
上記特許文献1にあるのは、パイル糸の編付けを碁盤目として、他の碁盤目に、地編組織の領域とパイル糸を編みつけた地編組織の領域とを交互になるように碁盤目(全体が市松模様)としたマイヤー毛布である。
この毛布は、全面(全地編組織)にパイル糸が立ち上げられているのではないので、従来のマイヤー毛布に比べて、毛羽量が少なく、通気性に優れながら保温性を有するという点で優れたものであった。
【0007】
しかし乍ら、このマイヤー毛布は、パイル糸を二本用い、パイル糸の立ち上げのない碁盤目の地編組織に対しても、その1本が、交互の位置において、地編組織に編付けられて強度を付加しているものであり、この部分において地編組織が密となって、通気性がいま少し良好でないこと、及び、この1本分のパイル糸分だけ、コストが高く、また、重量軽減が図れないという問題が残っていた。
更に、製造上においても、二本のパイル糸の編み付けを行わなければならない分だけ編成スピードを上げることができず、生産効率を上げることが出来ないという問題点もあった。
【0008】
此れに対し、特許文献2は、マイヤー編機の筬送りをニードルの4針分から8針分とし、1本のパイル糸によってパイル糸領域部を編成すると共にパイル糸が立ち上げられていない碁盤目の地編組織領域部を、経糸及び横糸による地編組織のみで編成し、然る後に編成生地をセンターカットし、得られた2枚の毛布生地1Aの夫々の地編組織面側4を少なくとも起毛及び/又は捌き処理し、また、パイル面側5を少なくとも起毛及び/又は捌き処理するものである。
これにより、マイヤー毛布を、保温性に優れながら軽量、且つ通気性が良好で、コストダウンを図り得ながら生産性を上げることができるというものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術の後者のマイヤー毛布は、前者に比べて種々の利点があるが、機能上の問題がある。
即ち、碁盤目のパイル糸領域部と地編組織領域部の編成によれば、通気性の改善を図りながら、且つ、保温性に優れながら軽量、且つ通気性が良好で、コストダウンを図り得るが、パイル糸領域部と地編組織領域部とに段差が生じることになるので、ここに触れる人体への肌触りが、段差感覚として、大きなものに感じられ、使用時の感触が今ひとつであるという問題である、
【0010】
本発明は、マイヤー毛布の全面において、通常のセンターカットによる長さのパイル糸領域部と、通常のセンターカットより長いパイル糸領域部を碁盤目状に配置することで、通気性を確保し、保温性を向上させながら、従来技術のようなパイル糸領域部分のない碁盤目状とは異なり、使用時の段差感覚が殆ど感じられない感触の良いマイヤー毛布を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるマイヤー毛布の製造方法は、上記課題を解決するために、請求項1に記載の通り、マイヤー編機により、地編組織からパイル糸が編み付けられ、センターカットにより立ち上げられたパイル糸領域を備えるマイヤー毛布の製造方法であって、
マイヤー編機の筬送りを所定本数のニードル針分とし、所定本数のパイル糸(L3)を地編組織領域部(7)に掛け渡すことによってパイル糸領域部(6A)を編成し、
別の所定本数のパイル糸(4)を、前記所定本数のパイル糸(L3)のニードル針分を飛び越して、次の所定本数のニードル針分として地編組織領域部(7)に掛け渡すことにより延長パイル糸領域部(6B)を編成し、
然る後に編成生地をセンターカットして、通常の長さのパイル糸領域部(6A)とそれよりも長い延長パイル糸領域部(6B)とを碁盤目状に形成し、
得られた2枚の毛布生地(1A)の夫々の地編組織面側を少なくとも起毛処理し、また、パイル面側を少なくとも起毛及び/又は捌き処する、という手段を講じたものである。
【0012】
本発明によるマイヤー毛布は、上記目的を達成するために、請求項1の方法によって製造されたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マイヤー毛布の全面において、通常のセンターカットによる長さのパイル糸領域部と、通常のセンターカットより長いパイル糸領域部を碁盤目状に配置することで、通気性を確保し、保温性を向上させながら、従来技術のようなパイル糸領域部分のない碁盤目状とは異なり、使用時の段差感覚が殆ど感じられない感触の良いマイヤー毛布を提供できるが、これを、編成に際して所定本数のパイル糸を通常に地編組織に掛け渡す編成と、所定本数のパイル糸を、先の所定本数を飛ばした先に掛け渡す編成とにより、その後のセンターカットだけで、自動的に長さの異なるパイル糸の碁盤目状が得られるという利点がある。
そして得られたマイヤー毛布は、粗密の異なる碁盤目による通気性と保温性を確保しながら、パイル糸の長さがことなるだけの碁盤目であるので、その段差違和感が、全くパイル糸の存在しない従来技術とは異なり、殆ど感じられないものであって、肌触りは極めて良好なものであるという利点がある。
本発明のその他の利点については、以下の説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の方法により製造されたマイヤー毛布の全体斜視図。
【図2】本発明の方法により製造されたマイヤー毛布の要部の拡大模式斜視図。
【図3】本発明の方法の編成概念を示す拡大模式平面図。
【図4】本発明の方法の編成概念を示す拡大模式側面図。
【図5】本発明の方法に用いるマイヤー編機の要部の側面図。
【図6】本発明の方法に用いるマイヤー編機の要部の平面図。
【図7】本発明の方法に用いるマイヤー編機の一作用状態を示す要部の概略展開模式図。
【図8】本発明の方法に用いるマイヤー編機の一作用状態を示す要部の概略展開模式図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、この発明に係るマイヤー毛布の要部の外観斜視図、図2は、センターカット後の要部の拡大模式斜視図、図3は、編成を示す模式平面図、図4は、センターカット後の模式縦断側面図である。図5は、針床、筬と糸供給を示す要部の側面図、図6は、パイル糸に対する二つの筬の関係を示す展開模式である。図7及び図8は、パイル糸に対する二つの筬と基布との関係を示す展開模式である。
【0016】
この発明のマイヤー毛布を作製するには、従来のマイヤー毛布と同様にマイヤー編機(ダブルラッセル編機)を用い、前後2枚の地編組織(基布)を編成しつつ、パイル糸を両地編組織間に掛けわたすように編み付けると共に、両地編組織をパイル糸の中間で切り離して二枚に分けてカットパイル生地とし、この生地を起毛機にかけてパイルの繊維束を起毛仕上げして毛羽を形成する。
【0017】
ここでは、マイヤー編機の筬送りを所定本数のニードル針分とし、所定本数(ここでは4本)のパイル糸L3を地編組織領域部7に掛け渡すことによってパイル糸領域部6Aを編成し、別の所定本数(ここでは4本)のパイル糸4を、前記所定本数のパイル糸L3のニードル針分を飛び越して、次の所定本数のニードル針分として地編組織領域部7に掛け渡すことにより延長パイル糸領域部6Bを編成し、然る後に編成生地を、カッター10によりセンターカットして、通常の長さのパイル糸領域部6Aとそれよりも長い延長パイル糸領域部6Bとを碁盤目状に形成し、得られた2枚の毛布生地1Aの夫々の地編組織面側を少なくとも起毛処理し、また、パイル面側を少なくとも起毛及び/又は捌き処理するものである。
【0018】
具体的には、針床5の前後面に配列する前後のニードル13、14に対し、筬8よりそれぞれ、一方の地編用の緯糸L1及び経糸L2、パイル糸L3,L4、他方の地編用の経糸L5及び緯糸L6を供給し、緯糸L1と経糸L2にて前側の地編組織2Fを、経糸L5と緯糸L6にて後側の地編組織2Bを編成すると共に、パイル糸L3,L4を両地編組織2F,2B間に掛けわたすように編み付け、この編成を行いつつカッター10で掛けわたしたパイル糸L3,L4の中間を切断して両地編組織2F,2Bを切り離す。
【0019】
上述の一方のパイル糸L3は、数ウエールの範囲において数コース毎のピッチで、両地編組織2F,2B間への掛けわたしと前側の地編組織2Fへの経糸L2に沿う編み込みとを交互に行う。
また、他方のパイル糸L4は、同様に数コース毎のピッチで、両地編組織2F,2B間への掛けわたしと後側の地編組織2Bへの経糸L5に沿う編み込みとを交互に行うが、その掛けわたしは、パイル糸L3を編み付ける列に隣合う数ウエール幅の縦列範囲ではなくて、前記パイル糸L3とは異なり、図3に示すように、前記数コース毎のピッチを飛ばした位置に斜めに掛け渡すのである。
【0020】
上述したセンターカットを行うと、斜めに掛け渡されたパイル糸L4は、その斜めに延びた分だけ、通常の掛け渡しのパイル糸L3よりも長いため、カットされると、基布側を基点として立ち上がり、その立ち上がり高さが、前記パイル糸L3より高くなるのであり(20%乃至40%高い)、結果として、図2、図4に示すように、段差を生じて、段差による碁盤目状態が得られるのである。
【0021】
尚、上述したようなパイル糸L4の所定ピッチの飛ばし掛け渡しは、マイヤー編機のチェンリンクを調整することによって行うことができるのであり、こうした作業は、機械的に困難性はなく、当業者にとって問題はない。勿論、飛ばしのピッチについても、所要のものに設定できる。
ここでは、図示及び説明の簡略化のためにパイル糸L3,L5の両地編組織2F,2B間への掛けわたしと地編組織2F,2Bへの経糸L2,L6に沿う編み込みの幅とピッチは、通常は12〜28ウエール、8〜48コース程度とされる。
【0022】
なお、緯糸L1,L6及び経糸L2、L5としてはポリエステル等の合成樹脂繊維フィラメントとからなる撚り糸、パイル糸L3,L4としては、ウール、アクリル、ポリエステル等の綿糸、がそれぞれ好適に使用される。
また、実際には、起毛と共に染色工程、ピーリング(艶出し)加工等、マイヤー毛布生産の為に一般に行われている種々の処理加工が行われる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明にかかるマイヤー毛布の方法とマイヤー毛布は、そのパイル糸の編成に工夫こ凝らすだけで、センターカットで自動的に達成可能であり、既存の編み機でも実施可能でるもので、その利用可能性は広い。
【符号の説明】
【0024】
1A:毛布生地
6A:パイル糸領域部
6B:延長パイル糸領域部
7:地編組織領域部
L3:パイル糸
L4:別のパイル糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイヤー編機により、地編組織からパイル糸が編み付けられ、センターカットにより立ち上げられたパイル糸領域を備えるマイヤー毛布の製造方法であって、
マイヤー編機の筬送りを所定本数のニードル針分とし、所定本数のパイル糸(L3)を地編組織領域部(7)に掛け渡すことによってパイル糸領域部(6A)を編成し、
別の所定本数のパイル糸(4)を、前記所定本数のパイル糸(L3)のニードル針分を飛び越して、次の所定本数のニードル針分として地編組織領域部(7)に掛け渡すことにより延長パイル糸領域部(6B)を編成し、
然る後に編成生地をセンターカットして、通常の長さのパイル糸領域部(6A)とそれよりも長い延長パイル糸領域部(6B)とを碁盤目状に形成し、
得られた2枚の毛布生地(1A)の夫々の地編組織面側を少なくとも起毛処理し、また、パイル面側を少なくとも起毛及び/又は捌き処理することを特徴とするマイヤー毛布の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマイヤー毛布の製造方法によって製造されたマイヤー毛布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217813(P2012−217813A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93472(P2011−93472)
【出願日】平成23年4月2日(2011.4.2)
【出願人】(393026032)岸部毛織株式会社 (1)
【Fターム(参考)】