説明

マクロ多孔性ハイドロゲル、その調製法及びその使用

一般式(I)CR1R2=CR3R4(I)[式中、R1及びR2は等しいか又は異なり、各々が水素原子又は重合反応に有害ではない置換基を表し;R3及びR4各々が、水素原子又は重合反応に有害ではない置換基を表す(ただし、R3及びR4の両方が水素原子ではない)]の少なくとも1つのモノマーを、マクロ多孔性クリオゲル上に重合させることによって形成されるポリマー鎖をその上にグラフトされたマクロ多孔性クリオゲルが開示される。グラフト(共)重合による該マクロ多孔性クリオゲルの調製方法及び分離工程における該マクロ多孔性クリオゲルの使用もまた開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマクロ多孔性ハイドロゲル、その調製方法及びそのようなマクロ多孔性クリオゲルの使用に関する。より詳細には、本発明は、その表面上にポリマー鎖がグラフトされたマクロ多孔性ハイドロゲル及びそのようなマクロ多孔性ハイドロゲルの調製方法及びそのようなマクロ多孔性ハイドロゲルの分離工程における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、大量の水を保持しつつ、同時にそれらの形状を維持する能力をもつ、物理的又は化学的に架橋された3次元のポリマーネットワークによって形成される。低い界面張力及び親水性の性質は、ハイドロゲルを高度に生体適合性にし、それらのクロマトグラフィの材料、分子及び細胞の固定化のための担体、電気泳動及び免疫拡散のための基質、微生物及び哺乳動物細胞の培養のための足場、インプラント並びに薬物送達系としての使用を含む、生物工学及び生物医学におけるそれらの数多くの適用を可能とする。異なる適用のためのハイドロゲルの増加する需要は、改良された性質をもつ新しいタイプのハイドロゲルの入手法を必要とする。ポリマー材料の骨格上へとポリマー鎖をグラフトすることは、ポリマー材料の性質を改良するための便利な方法として指摘されている。
【0003】
末端に結合したポリマー鎖をもつハイドロゲル(グラフトされたハイドロゲル)は、いくつかの方法によって調製され得る。重合混合物がマクロモノマーを含有していた場合、又は事前に形成された可溶性グラフトコポリマーの架橋の結果、グラフトされたハイドロゲルが形成された。新たな温度及びpH感受性ハイドロゲルが、この方法によって取得された。しかし、このアプローチは、時間を要し、かつ場合によってはかなり複雑である、マクロモノマー又はグラフトコポリマーの調製を必要とする。さらに、そのようなグラフトされたハイドロゲルにおいて、グラフトされたポリマー鎖の局在及び密度を制御するのは困難である。
【0004】
一方で、ゲル表面へポリマーをグラフティングすることは、ゲル表面上の反応基と事前に形成されたポリマーの反応性末端基との間の化学結合を介して達成され得る(いわゆるグラフティング・トゥー(grafting to))。ここでの明らかな利点は、グラフトされるポリマーの性質(分子量、MW分布)を事前に決定できることである。問題点は、ハイドロゲルは、グラフティングに適切な反応基を有すべきであり、グラフトされた鎖は、適した官能基をその端に保有すべきことである。グラフティング・トゥー法を用いて高いグラフティング密度を達成することは、既に結合したポリマー分子によるゲル表面における反応性部位の立体的な込み合いのために非常に困難である。さらに、グラフティング・トゥー法の効率はかなり低く、末端が修飾されたポリマーの明白な損失をもたらす。
【0005】
表面に結合した開始剤を用いた表面開始重合(グラフティング・フロム(grafting from)ともまた呼ばれる)は、ポリマーブラシの密度及び厚さを制御するための、強力な代替法である。それは、ハイドロゲル形成ポリマーの骨格上の活性部位の形成を必要とし、望ましい重合は、これらの反応性部位から開始される。重合反応の間、ポリマー鎖は、表面から「育つ(grow)」。長鎖及び高密度のポリマーがグラフトされたグラフト型ハイドロゲルは、この方法で調製され得る。しかし、いくつかのグラフトされていないポリマーがまた、反応の間に溶液中に形成され、したがってグラフティング効率を低下させる。開始剤としてCe(IV)を用いることは、ヒドロキシル基又はエポキシ基を含むハイドロゲル上へと種々のビニルモノマーをグラフト重合するために、幅広く用いられているアプローチである。担体表面上のヒドロキシル基の密度及び用いられる触媒の量が、グラフティングの密度を決定する。高いグラフト密度をもつハイドロゲルが、この方法を用いることによって調製された(Mueller W.,J.Chromatogr.1990;510(1):133−140.)。
【0006】
グラフティング・フロムアプローチでは、ゲル相の内部のモノマーの分散が制限される(特に高いポリマー密度をもつゲルでは)ため、グラフティングは、ハイドロゲルと液相との界面にて主に起こることが期待される。したがって、ゲル相の高い密度によって、グラフティングは、ゲル−液界面にて主に起こる。
【0007】
Abeer Abd El−Hadi(Process Biochemistry 38(2003)1659−166)は、マクロ多孔性ハイドロゲル、クリオゲルの調製法を開示し)、γ線照射による重合の結果、PVAクリオゲルの孔内におけるN−IPAAm及びHEMAコポリマーの架橋ネットワークがもたらされた。この孔内部の架橋ネットワークの形成は、材料を通る液体の乏しい流れをもたらし、それは自然な選択であり得る生産された材料をもとのまま用いるのではなく、材料を小さな(直径2〜3mm)顆粒にカットする(1660ページ)という筆者らの選択を説明する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明によれば、グラフティング・フロムアプローチを用いてハイドロゲルへポリマー鎖をグラフティングする場合のグラフティング度は、該ハイドロゲルとしてマクロ多孔性クリオゲルを用いることによって改良され得ることが見出された。
【0009】
本発明のグラフティング方法は、グラフトされたポリマーのブラシの、孔壁の表面での生成をもたらす。本発明のポリマーブラシでの孔壁の修飾は、多孔性材料を通る液体の流れを妨害せず、したがって、例えば、細胞懸濁物が材料を通過することを可能とする。本発明の方法は、ポリマーブラシの化学組成とは別にそれらの密度及び厚さの微調整を許容するのに対して、Abeer Abd El−Hadiによって開示された方法は、架橋されたポリマーネットワークの化学組成におけるバリエーションのみを許容する。本発明の方法によって生産された材料、及びAbeer Abd El−Hadiによって開示された方法によって生産された材料は、異なる目的のために設計されている。Abeer Abd El−Hadiによって開示された方法によって生産された材料は、細胞が材料内に捕捉されることを保障して細胞を固定化するために用いられる一方で、本発明の方法に従って生産された材料は、細胞が孔を容易に通過して、ポリマーブラシと所定の方法で相互作用できることを保障して、タンパク質と細胞とを分離するために用いられる。
【0010】
したがって、本発明の第一の態様によれば、マクロ多孔性クリオゲル上へ少なくとも1つのモノマーを重合することによって形成されるポリマー鎖がその上にグラフトされた、マクロ多孔性クリオゲルが提供される。
【0011】
本発明の別の態様によれば、マクロ多孔性クリオゲル上へのモノマー(単数)又はモノマー(複数)のグラフト(共)重合の方法であって、開始剤としてジペルヨーダトクプラート(diperiodatocuprate)カリウムが用いられる方法が提供される。
【0012】
本発明のさらなる態様によれば、分離工程における本発明のマクロ多孔性クリオゲルの使用が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明の第一の態様によれば、一般式(I)
CR=CR (I)
[式中、R及びRは等しいか又は異なり、各々が水素原子又は重合反応にとって有害ではない置換基を表し;かつ
及びR各々が、水素原子又は重合反応にとって有害ではない置換基を表す(ただし、R及びRの両方が水素原子ではない)]
の少なくとも1つのモノマーをマクロ多孔性クリオゲル上に重合することによって形成されるポリマー鎖がその上にグラフトされた、マクロ多孔性クリオゲルが提供される。
【0014】
上記式(I)において、記号R及びRは、例えば、両者とも水素原子を表していてもよく、あるいはR及びRの一方が水素原子を表し、他方がアルコール、有機酸、エーテル、エステル、アミド及びそのN−置換アミド、アミン、N−置換アミン、複素環芳香族環並びにそれらの誘導体からなる群より選択される置換基を表す。
【0015】
上記式(I)の記号R及びRについては、R及びRの一方が水素原子又は1〜3個の炭素原子のアルキル基を表していてもよく、他方がカルボキシル基並びにアルコール、有機酸、エーテル、エステル、アミド及びそのN−置換アミド、アミン、N−置換アミン、複素環芳香族環等のような誘導体からなる群より選択されるメンバーである。
【0016】
及びRの1つの特に興味深い意味は、そこに結合した親和性リガンドを含む誘導体である。
【0017】
式(I)のモノマーの好ましいクラスは、アクリル酸(R=R=R=H)及びメタクリル酸(R=R=H;R=CH)(R=COOH)並びに該酸のエステル及びアミドのような誘導体を含む。
【0018】
本発明において用いられる一般式(I)のモノマーの例としては、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAC)、N,N−ジメチルアミノエチル−メタクリレート(DMAEMA)、(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)−トリメチルアンモニウムクロライド(META)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N−ビニルイミダゾール(VI)、グリシジルメタクリレート(GMA)、ヒドロキシ−エチルメタクリレート(HEMA)、アクリルアミド、メチレン−ビス−アクリルアミド(MBAA)ジアリルタルタルアミド(diallyltartaramide)(DATAm)、ジアリル−アクリルアミド(diallylacryalamide)(DAAm)、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(PEG−D(M)A)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PEG−DGE)、3−(アクリルアミド)フェニルボロン酸(APBA)及びそれらの誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0019】
マクロ多孔性クリオゲル及びそれらの調製の方法は、以前に記載されている。例えば、WO 03/041830 A2が参照されてもよく、その開示は全体として、参照によって本明細書中に組み込まれるものとする。
【0020】
WO 03/041830 A2によれば、クリオゲルは:
N−置換及び非置換(メタ)アクリルアミド;
N−アルキル置換N−ビニルアミド;
ヒドロキシアルキル(hydroxialkyl)(メタ)アクリレート;
ビニルアセテート;
ビニルアルコールのアルキルエーテル;
環置換スチレン誘導体;
ビニルモノマー;
(メタ)アクリル酸及びその塩;
ケイ酸及び
重縮合を介してポリマーを形成する能力のあるモノマー;
からなる群より選択される1つ以上の水溶性モノマーの水溶液を、水性溶媒の結晶点より低い温度にて凍結下で重合させることによって、調製されてもよく、そこで系における溶媒は部分的に凍結し、クリオゲルが形成するまで、溶解した物質が溶媒の非凍結画分に濃縮される。
【0021】
本発明のマクロ多孔性クリオゲルの好ましい実施形態によれば、その上へとモノマーを重合させることによってポリマー鎖をグラフトさせる基本のクリオゲルは、アクリル酸及びその誘導体からなる群より選択されるモノマーであって、該モノマーの1つがアクリルアミドであるモノマーを共重合させることによって調製されるクリオゲルである。好ましくは、該基本のマクロ多孔性クリオゲルは、アクリルアミドとN,N’−メチレン−ビス−アクリルアミドとのラジカル共重合によって調製されたクリオゲルである。
【0022】
本発明のマクロ多孔性クリオゲルの別の実施形態によれば、その上へとモノマーを重合させることによってポリマー鎖をグラフトさせる基本のクリオゲルは、二官能性試薬(例、グルタルアルデヒド)によって架橋されたポリ(ビニルアルコール)クリオゲルであって、かつ該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーが、全て重合可能な二重結合を含む、アルコール、有機酸、エーテル、エステル、アミド及びそのN−置換アミド、アミン、N−置換アミン、複素環芳香族化合物からなる群より選択されるメンバーである。
【0023】
本発明のクリオゲルは、好ましくはモノリスの形状である。
【0024】
本発明に従ってモノマーを重合させることによってその上へとポリマー鎖をグラフトさせる基本のクリオゲルのモノリスは、例えば、WO 2004/087285 Al中に開示されているような方法を用いることによって調製されてもよく、その開示は全体として、参照によって本明細書中に組み込まれるものとする。あるいは、クリオゲルモノリスは、管中に出発モノマーの水溶液を調製し、系における溶媒が部分的に凍結し、クリオゲルが形成されるまで溶解した物質が溶媒の非凍結画分中に濃縮されるように水性溶媒の結晶点より低い温度にて管を凍結することによって単に調製されてもよく、その後、そのように取得されたクリオゲル基質の解凍及び洗浄が行われる。
【0025】
クリオゲルのモノリスはまた、市販もされている(例、Protista Biotechnology AB社,Lund,Swedenのポリアクリルアミドベースのクリオゲルモノリス)。
【0026】
本発明の別の態様によれば、一般式(I)
CR=CR (I)
(式中、R、R、R及びRは上記のとおりである)の少なくとも1つのモノマーの、マクロ多孔性クリオゲル上へのグラフト(共)重合の方法が提供され、その方法は、上記のとおりの該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーを、開始剤としてジペルヨーダトクプラート(diperiodatocuprate)カリウムの存在下でマクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルと反応させることを含む。
【0027】
本発明の方法の1実施形態によれば、乾燥マクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルは、該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーとジペルヨーダトクプラート(diperiodactocuprate)とのアルカリ水性溶液と接触させられる。
【0028】
本発明の方法の別の実施形態によれば、乾燥マクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルは、カラム中でジペルヨーダトクプラートカリウムのアルカリ水溶液で飽和され、その後該アルカリ水溶液は、該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーの水溶液又は水−有機溶液をカラムに通過させることによって、クリオゲルから置換され、その後グラフト(共)重合が進行することが可能となる。
【0029】
本発明の方法のこれらの実施形態において用いられるアルカリ水溶液は、好ましくはアルカリ金属水酸化物、好ましくは水酸化ナトリウムによってアルカリ性にされる。アルカリ金属水酸化物の濃度及びアルカリ金属水酸化物対モノマー比は、グラフティング度及びグラフトされたポリマー鎖の密度のようなグラフト重合パラメータに大いに影響することが見出された。したがって、グラフティング度及びグラフトされた鎖の密度は、アルカリ金属水酸化物:モノマー比を、グラフティング度及びグラフトされた鎖の密度の最大値を与える特定の比まで、又はグラフティング度及びグラフトされた鎖の密度がプラトーになる特定の比まで上昇させることによって、有意に上昇され得る。各具体的な場合における最適比は、用いられる系の具体的な構成要素(すなわち、アルカリ金属水酸化物、モノマー(単数)又はモノマー(複数)、及びグラフティングが行われるマクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲル)に依存する。本発明の方法における使用のための有用な比は、過度の実験をすることなく、アルカリ金属水酸化物対モノマー比を変化させる一連の実験によって、容易に推定され得る。例えば、水酸化ナトリウムを含有するアクリル酸の水溶液から、アクリル酸をマクロ多孔性ポリアクリルアミドゲル上へとグラフティングすることを含む系の場合、本発明の方法において用いるための適当なNaOH:アクリル酸のモル比は、一般的に2:1〜8:1、好ましくは3:1〜7:1、より好ましくは4:1〜6:1の範囲内である。
【0030】
グラフティング度はまた、用いられる反応温度に依存する。最大のグラフティング度が取得されるまで反応温度を上昇させることによって、グラフティング度を上昇させてもよい。反応温度におけるさらなる上昇は、グラフティング度及びグラフティングの密度の減少をもたらし、これはおそらくグラフトされたポリマー鎖の終結の率の上昇が原因である。最適反応温度は、用いられる具体的な系によって変化する。したがって、25℃〜75℃の範囲の異なる温度それぞれにて、アクリル酸をマクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲル上へとグラフトした一連の実験においては、25℃から45℃まで温度を上昇させるとともにグラフティング度が上昇したが、その後の反応温度における上昇は、グラフティング度及びグラフティングの密度における減少をもたらした。
【0031】
グラフティング度はまた、反応溶液の開始剤濃度を変化させることによって、影響され得る。従って、グラフティング度は、開始剤濃度を、グラフティング度がプラトーになる値まで上昇させるとともに、上昇するであろう。
【0032】
本発明のさらなる態様によれば、分離工程における本発明のマクロ多孔性クリオゲルの使用が提供される。
【0033】
グラフティング過程において用いられる異なるモノマー及びグラフティング後の鎖の可能な修飾に基き、本発明のマクロ多孔性ハイドロゲルは、基本のマクロ多孔性クリオゲルが用いられ得る全てのタイプの分離工程において用いられ得る。
【0034】
特許請求されたマクロ多孔性クリオゲルが用いられ得る分離工程の例としては、タンパク質、封入体、プラスミドDNA、ウイルス、細胞小器官、微生物細胞及び哺乳類細胞の分離が挙げられるが、それらに限定されない。
【0035】
本発明のこの態様の使用の実施形態によれば、本発明のマクロ多孔性クリオゲルは、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)−トリメチルアンモニウムクロライドからなる群より選択されるモノマーを、ポリアクリルアミドクリオゲルの表面上へとグラフト重合させることによって調製される三級及び四級アミノ基を保有するマクロ多孔性クリオゲルであり、そこで該マクロ多孔性クリオゲルはRNA及びgDNAのクロマトグラフィに用いられる。
【0036】
これから、本発明を幾つかの具体的な実施例によってさらに説明するが、これら実施例は、例示のみを目的としており、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0037】
実施例1 マクロ多孔性ポリアクリルアミド(pAAm)クリオゲル上へのアクリル酸のグラフト重合
A.マクロ多孔性クリオゲルの調製
水溶液中で、N,N,N’,N’−テトラメチル−エチレンジアミン(TEMED)及び過硫酸アンモニウム(APS)の存在下、アクリルアミド(AAm、99,9%より高い純度)及びメチレン−ビス−アクリルアミド(MBAA)を、8:1のAAm/MBAA比で、AAm+MBAA=溶液の6重量%の合計濃度で、かつTEMED並びにAPSを各1,2重量%(AAm+MBAAmの総重量に対して算出した)の量を用いて共重合させることによって、マクロ多孔性クリオゲルを、ガラス管中で調製した。管内の反応溶液を、−12℃にて凍結させ、20時間この温度にて保った。解凍及び水(200ml)での洗浄後、そのように取得したゲル基質(AAm−クリオゲルモノリス)を60℃にて乾燥し、乾燥状態中にて保管した。
【0038】
B.ジペルヨーダトクプラート(Cu(III))カリウム溶液の調製
Cu(III)溶液を、以下のように調製した;CuSO 5HO(3.54g)、KIO(6.82g)、K(2.20g)及びKOH(9.00g)を、200mlの脱イオン水に添加した。混合物を、40分間煮沸した。室温まで冷却後、混合物をろ過し、ろ液を250mlまで脱イオン水で希釈した。Cu(III)の最終濃度は、0.0562Mであった。
【0039】
C.ポリアクリルアミド(pAAm)クリオゲルモノリス上へのアクリル酸(AAc)のグラフト重合
適当量のアクリル酸(AAc)及びNaOHを混合し、Cu(III)溶液を添加する前に、反応溶液を窒素で10分間フラッシュした。総容積を、脱イオン水で10mlに調整した。上記セクションAに従って調製した乾燥pAAm−クリオゲル(0.15±0.03g)を、反応溶液中に浸した。重合を、2時間、規定の温度にて行った。グラフト共重合を、異なる濃度のNaOH、AAc及び開始剤並びに異なる温度を用いて行った。反応が終了後、クリオゲルを、0.1M HClで洗浄し、引き続き過剰量の熱い脱イオン水で洗浄した。
【0040】
D.AAc−グラフト化pAAmクリオゲルによるCu(III)及びリゾチームの結合
Cu(II)結合を、異なるグラフティング度を有するAAcグラフト化pAAmクリオゲルを、0.2M CuSOの溶液で飽和させ、非結合のCu(II)イオンを水で洗浄し、結合したCu(II)イオンを0.1M EDTA(pH7.3)で溶出することによって測定した。リゾチーム結合を、AAcグラフト化pAAmクリオゲルをリゾチーム(20mM Tris−HClバッファー(pH7.0)中、1mg/ml)で飽和させ、非結合のリゾチームを洗浄し、20mM Tris−HClバッファー(pH7.0)中、1.5M NaClで溶出することによって測定した。
【0041】
グラフティングは、グラフティング度(G)として示し、AAcグラフティングの密度(D)及びグラフティング重合のグラフティング収率(E)は、以下のように定義し、算出した:
G(%)=[(W−W)/W]×100%、
(mmol/g)=[(W−W)/W]×(1000/MAAc)、
E(%)=(W−W)/W×100%、
ここで、W及びWは、最初のサンプル及びグラフト化したサンプルそれぞれの重量(g)であり、Wは、添加したAAcの重量(g)である;MAAcはAAcの分子量、72Daである。あるいは、AAcグラフティングの密度、Dを、AAcのグラフトされたカルボキシル基のNaOHでの滴定から算出し、乾燥クリオゲル1グラムあたりのカルボキシル基のmmoleとして決定した。
結果を、以下の表1〜6に報告する。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
【表5】

【0047】
【表6】

【0048】
実施例2 マクロ多孔性ポリアクリルアミド(pAAm)クリオゲル上へのN,N−ジメチルアミノエチル−メタクリレート(methacrylatea)(DMAEMA)のグラフト重合
この実験では、実施例1のセクションA及びBそれぞれにおいて記載されているように調製したpAAmクリオゲルモノリス及びジペルヨーダトクプラートカリウム溶液を用いた。
【0049】
A.1工程技術を用いるグラフト重合
乾燥pAAmクリオゲルモノリス(0.15±0.03g)を、モノマーと開始剤[Cu(III) 0.008M]との反応溶液10ml中へと浸した。反応混合物を、Cu(III)溶液を添加する前に、窒素で10分間フラッシュした。重合を、2時間、45℃にて行った。
【0050】
B.2工程技術を用いるグラフト重合
上記セクションA中のような乾燥pAAmクリオゲルモノリスをガラス管中に置き、1M NaOH中0.033MのCu(III)溶液5mlで飽和させた。乾燥クリオゲルは、水溶液と接触後1分未満(less then)以内に再水和し、モノリスの相互連結した多孔性の系を液体が通過するよう、ガラス管内を満たした。Cu(III)で飽和させたサンプルを、40℃にて30分間インキュベートした。次いで、クリオゲル基質を4ml/minの流速にて通過させた8mlの脱気モノマー溶液で、開始剤系をクリオゲルから置換した。流れはコルクで止めた。グラフト重合は、40℃にて、1時間進行した。
【0051】
上記セクションA及びB中の反応の終了後、クリオゲルを30mlの0.1M HClで洗浄し、引き続き過剰量の脱イオン水で洗浄した。ホモポリマーを含有する洗液を収集し、残存しているモノマーを、30時間水に対して透析することによって全て除去した。その間、水は4回交換した。次いで、最終的なホモポリマーを、恒量になるまで、減圧下で凍結乾燥した。
【0052】
グラフト重合のグラフティング度(G)、グラフティング効率(EG)及びモノマー変換(C)を、以下のように定義し、算出した:
G(%)=[(W−W)/W]×100%、
EG(%)=(W−W)/[(W−W)+W]×100%、
C(%)=[(W−W)+W]/W×100%、
ここで、W及びWは、最初のサンプル及びグラフト化サンプルの重量(g)であり、W及びWは、用いられたホモポリマー及びモノマーそれぞれの重量(g)である。
【0053】
反応溶液中、いくつかの異なる濃度のDMAEMAを用いることによって取得された結果を、以下の表7〜10に報告する。
【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
【表9】

【0057】
【表10】

【0058】
上記表7〜10より、pAAmクリオゲル上で110%(w/w)までのDMAEMAグラフティングを達成することが可能であることが理解される。DMAEMAでグラフトしたpAAmクリオゲルのグラフト密度は、表7から理解できるように、モノマー濃度を上昇させると共に上昇した。
【0059】
乾燥pAAmクリオゲルを開始剤及びモノマーを含有する反応混合物中に直接浸すこと(上記方法A)によるpAAmクリオゲル上へのDMAEMAの直接的なグラフト重合は、多量のホモポリマーの形成を生じた(表10A)。ホモポリマーの量は、モノマー濃度を上昇させると共に上昇した。ジペルヨーダトクプラートカリウムをモノマー溶液に添加した際に集中的なホモポリマー形成があった(データ示さず)ことから、ジペルヨーダトクプラートカリウムもまた、DMAEMAのホモ重合を開始させた。したがって、モノマー及び開始剤の溶液中に乾燥pAAmクリオゲルを浸すことによるグラフト重合の間、pAAm骨格上へのラジカルの生成及び溶液中のラジカルの生成の両方が進行した。それが、グラフト重合の間の集中的なホモポリマー形成をもたらし、それによって、グラフト重合の効率を低下させた。総ポリマー形成に関するグラフト重合の効率は、60〜70%のモノマー変換で、たった10%であった(表8A)。モノマー含有反応混合物中への乾燥クリオゲルの浸漬による直接的なグラフト重合の間に形成された大部分はホモポリマーであった。
【0060】
まずポリマー基質の活性化を介し、次いでモノマー溶液での飽和を介した2工程グラフト重合(上記方法B)は、グラフト重合の間の集中的なホモポリマー形成を回避することを可能とした(表10B)。ラジカルは、pAAmクリオゲル表面上にのみ生成される。DMAEMAの重合は、活性中心からゲル表面上へと開始され、溶液中のホモポリマーの形成を制限し、グラフト重合の効率を50%まで上昇させた(表8B)。しかし、重合のためのモノマーの利用は低下した。モノマー変換は、1工程直接グラフト重合の60〜70%(表9A)と比較して、2工程手法ではたった10〜15%であった(表9B)。
【0061】
2工程手法における活性化条件を、ラジカル生成の最大効率となるよう最適化した。しかし、最適条件下においても、直接グラフティングと比較して、グラフティングパーセンテージはより低かった(表7)。2工程グラフト重合のグラフト密度の低下は、おそらくモノマー溶液とpAAm骨格上のより少ないラジカル部位との接触に起因し、これはクリオゲルがモノマー溶液と接触したときには既に開始剤が除去されていることと、モノマー溶液とともに流入した不純物及び酸素によってフリーラジカルが消光される可能性とのためである。
【0062】
実施例3.polyAAmクリオゲル上へのN−イソプロピルアクリルアミド(NI−PAM)及びN−ビニルイミダゾール(VI)のグラフト重合
polyAAmクリオゲルモノリスを、コモノマーの4.7%溶液(AAm/MBAAm=4:1)を用いて調製した。Cu(III)ストック溶液を、以下のように調製した:CuSO(0.885g)、KIO(1.705g)、K(0.55g)、KOH(2.25ml)を含有する50mlの脱イオン水を40分間煮沸し、容積を62.5mlに調節した。3mlのCu(III)ストック溶液を、異なる濃度のNIPAM(polyAAmクリオゲル上へのNIPAM−VIのグラフト重合では、0.5mlのVIを反応混合物に添加した)を含有する7mlの脱イオン水と混合した。クリオゲルモノリスを、得られたNIPAM/開始剤溶液(2mlを、各モノリスを通過させた)で平衡化し、20又は37℃にて一晩インキュベートし、0.1M HCl及び脱イオン水で洗浄し、60℃にて乾燥させた。
【0063】
以下のグラフティングパラメータを算出した:
グラフティングパーセンテージG%=(W−W)/W×100%
グラフティング重合の効率E%=(W−W)/W×100%、
ここでW及びWは、乾燥クリオゲルモノリスの最初のサンプル及びグラフトしたサンプルの重量(g)であり、Wは、添加したNIPAMの重量(g)である。結果を表11及び12に示す。
【0064】
NIPAM−クリオゲルの流動性を、1mlの液体が20℃及び37℃にてモノリスを通過するのに必要な時間を測定することによって推定した。
【0065】
NIPAM−クリオゲルの疎水性を、BSAのモノリスへの吸着を37℃にて解析することによって推定した。2Mの(NHSOを含有するリン酸カリウムバッファー(pH7.2)(バッファーA)中のBSA溶液(2mg/ml)0.2mlを、37℃にてバッファーAで平衡化したモノリスへ適用し、引き続き1.5mlの温かいバッファーAで洗浄した。結合したタンパク質を、(NHSOを含有しないバッファーAで、室温にて溶出した。溶出は、タンパク質のほぼ定量的な回収をもたらした。結果を表11に示す。
【0066】
酵母細胞の懸濁液(OD600=1.21)を、20℃及び37℃にてリン酸カリウムバッファー(pH7.2)で平衡化したNIPAM−クリオゲルモノリスに適用した(モノリスあたり0.2ml)。非保持細胞を、4mlのバッファーで洗浄した。結合した細胞の量を、適用した細胞の量と非結合細胞の量との間の差として算出した。適用した細胞の量を100%とした。結果を表11に示す。
【0067】
【表11】

【0068】
【表12】

【0069】
実施例4.水−有機溶媒中でのグリシジルメタクリレート(GMA)のグラフト重合
実施例1において説明したように調製した乾燥polyAAmクリオゲル(総容積2ml)を、ガラス管中に置き、2mlのCu(III)ストック溶液(実施例3におけるように調製した)1ml蒸留水及び1ml 5M NaOHあるいは1ml 5M NaCl溶液からなる4ml混合物で飽和させた。サンプルを、40℃にて、30分間インキュベートした。サンプルを、40℃にて、30分間インキュベートした。次いで、70%水性DMSO中の異なる濃度のGMA溶液5mlを、流速2ml/minにてカラムを通過させた。ガラス管をコルクで封管し、80℃にて4時間インキュベートした。
【0070】
グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表13に示す。
【0071】
【表13】

【0072】
実施例5.(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)トリメチル−アンモニウムクロライド(META)のグラフト重合
polyAAmクリオゲル(総容積2ml)を、コモノマーの6%溶液(AAm/MBAAM=8/l)を用いて調製した。乾燥クリオゲルをガラス管中に置き、2mlのCu(III)ストック溶液、1ml HO及び0.35mlの10M NaOHを含有した3.35mlの溶液で飽和させた。サンプルを、40℃にて、30分間インキュベートした。次いで、8mlのMETA水溶液を、流速4ml/minでクリオゲルを通過させた。ガラス管をコルクで封管し、40℃にて2時間、水浴中に置いた。次いで、クリオゲルを、0.1M HCl及び過剰量の水で洗浄した。グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表14に示す。
【0073】
【表14】

【0074】
乾燥クリオゲルを、モノマーを含有した8mlの反応溶液、1.5mlのCu(III)及び0.5mlの10M NaOHに浸した。サンプルを、40℃にて2時間インキュベートした。グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表15に示す。
【0075】
【表15】

【0076】
実施例6.AAcとNIPAMとのグラフト共重合
実施例5中のように調製した乾燥クリオゲルを、ガラス管中に置き、2mlのCu(III)ストック溶液(実施例3中のように調製した)、1mlの水及び0.35mlの10M NaOHを含有した3.35mlで飽和させた。サンプルを、40℃にて30分間インキュベートした。次いで、8mlの脱気したモノマー溶液(AAc+NIPAM=1M)を、クリオゲル基質を通過させた。AAcと等量のNaOHを、モノマー溶液に添加し、モノマー溶液のpHをpH7.0±0.5へと調整した。クリオゲルを通るモノマーの流れは、コルクで停止させた。グラフト重合は2時間進行した。反応の完了後、クリオゲルを、30mlの0.1M HClで洗浄し、引き続き過剰量の脱イオン水で洗浄した。
【0077】
グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表16に示す。
【0078】
リゾチームのクロマトグラフィを、276nmフィルターを備えたLKB UVI−cordを用いてモニターした。グラフトされたクリオゲルのモノリスを、上部及び下部アダプターを備えたガラスカラム(内径10mm、2ml容積)中へと入れた。リゾチーム溶液(ランニングバッファー(20mM Tris−HClバッファー(pH7.0))中1mg/ml)をカラムに適用し、引き続き、溶出液の276nmでの吸光度がベースラインに下がるまでランニングバッファーで洗浄した。溶出を、ランニングバッファー中1.5MのNaClで行った。3mlずつの画分を採取し、280nmでの吸光度を測定した。280nmで確立したリゾチームの較正曲線(0.1〜1mg/ml)を用いて、リゾチーム含量を算出した。結果を表16に示す。
【0079】
【表16】

【0080】
実施例7.NIPAとジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEM)とのグラフト共重合
実施例5中のように調製した乾燥クリオゲルを、ガラス管中に置き、2mlのCu(III)ストック溶液(実施例3中のように調製した)、1mlの水及び0.35mlの10M NaOHを含有した3.35mlで飽和させた。サンプルを40℃にて30分間インキュベートした。次いで、8mlの脱気モノマー溶液(DMAEMA+NIPA)を、クリオゲル基質を通過させた。クリオゲルを通るモノマーの流れを、コルクで止めた(方法I)。
【0081】
あるいは、実施例5中のように調製した乾燥クリオゲルを、モノマーを含有した10mlの反応溶液及び3mlのCu(III)ストック溶液(実施例3中のように調製した)中に浸した(方法II)。サンプルを、40℃にて2時間インキュベートした。反応の完了後、クリオゲルを30mlの0.1M HClで洗浄し、引き続き過剰量の脱イオン水で洗浄した。
【0082】
グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表17に示す。
【0083】
BSAのクロマトグラフィを、276nmフィルターを備えたLKB UVI−cordを用いてモニターした。グラフトされたクリオゲルのモノリスを、上部及び下部アダプターを備えたガラスカラム(内径10mm、2ml容積)中へと入れた。BSA溶液(ランニングバッファー(20mM Tris−HClバッファー(pH7.0))中1mg/ml)をカラムに適用し、引き続き、溶出液の276nmでの吸光度がベースラインに下がるまでランニングバッファーで洗浄した。溶出を、ランニングバッファー中1.5MのNaClで行った。3mlずつの画分を収集し、280nmでの吸光度を測定した。280nmで確立したリゾチームの較正曲線(0.1〜1mg/ml)を用いて、BSA含量を算出した。
【0084】
【表17】

【0085】
実施例8.ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のグラフト重合
実施例5中のように調製した乾燥クリオゲルを、ガラス管中に置き、2mlのCu(III)ストック溶液(実施例3中のように調製した)、1mlの水及び0.35mlの10M NaOHを含有した3.35mlで飽和させた。サンプルを、40℃にて異なる期間インキュベートした。次いで、8mlの異なる濃度の脱気したHEMA溶液を、クリオゲル基質を通過させた。クリオゲルを通るモノマーの流れを、コルクで停止させた。反応の完了後、クリオゲルを、30mlの0.1M HClで洗浄し、引き続き過剰量の脱イオン水で洗浄した。次いでカラムを、90%のエタノールに20時間浸し、50%のエタノール及び水で再び洗浄した。
【0086】
グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表18に示す。
【0087】
【表18】

【0088】
イミノ二酢酸(IDA)を、以下のようにHEMAグラフト化クリオゲルへ共有結合させた。HEMAグラフト化クリオゲルを、0.07gの水素化ホウ素ナトリウムを含有する20mlの1M NaOH中の2.2mlのエピクロロヒドリンの懸濁液とともにインキュベートした。次いで、1M NaCO(pH10)中0.5MのIDA溶液20mlを、クリオゲルカラムを通して一晩、1ml/minの流速にて再循環させた。Cu2+を搭載した、調製されたIDA修飾HEMAグラフト化クリオゲルカラムを、大腸菌の粗ホモジネート及び遠心によって清澄したホモジネートからの組換え(His)−乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の捕捉に用いた。OD620 0.5をもつ細胞ホモジネートを、ランニングバッファーとして、200mM NaCl及び2mM イミダゾールを含む20mM HEPES(pH7.0)中で、破過点(15%)までカラムに適用した。溶出バッファーは、20mM EDTA、50mM NaCl、pH8.0であった。溶出画分を、20mM Tris−HClバッファー(pH7.0)に対して透析した。クロマトグラフィを、276nmフィルターを備えたLKB UVI−cordを用いてモニターした。タンパク質濃度を、BCA法を用いて推定した。結果を表19に示す。
【0089】
【表19】

【0090】
実施例9
A.クリオゲルビーズの作成
ポリ(ビニルアルコール)の溶液(PVA、MOWIOL 20−98、100g/L)を調製した。PVA−クリオゲルビーズを、冷却造粒装備(set−up)を用いて形成させた。PVAの溶液を、液体ジェットヘッド中へと押し込み、そこで水と非混和性の溶媒(石油エーテル)の流れによって、ジェットを液滴へとスプリントさせた(splinted)。懸濁液の液滴は、−20℃まで冷却された同一の溶媒で満たされたカラム中へと落ち、凍結して球状のビーズを形成した。凍結ビーズを、カラム底部の採取装置(collector)中に集めた。ビーズを、−20℃で一晩凍結して保ち、次いで0.01℃/minの速度で解凍した。解凍したビーズを脱イオン水で洗浄後、それらを振動するテーブル上での1時間の振とう下、0.5% グルタルアルデヒド(pH1.0)で架橋した。最後に、架橋されたf−クライオPVAGビーズを、洗浄水が中性になるまで、脱イオン水で洗浄した。
【0091】
B.PVA−クリオゲル上へのアクリルアミドのグラフト共重合、及びグラフト化ポリアクリルアミドのポリアクリル酸への加水分解
上記セクションAからの2グラムのビーズを、12mlの蒸留水中に懸濁した。アクリルアミド(AAm、0.323g)を添加後、懸濁液をNで20分間流した。次いで、0.5mlの硝酸セリウムアンモニウム(CAN)溶液(0.2M HNO中、0.1M)を添加し、グラフト重合を開始させた。反応は、一晩、室温にて、回転型テーブル上で進行させた。ポリ(アクリルアミド)がグラフトされたビーズを、アクリルアミド基のカルボキシル基への加水分解のために、0.1M NaOH溶液で一晩、室温にて、持続的な振とう下で処理した。グラフト化PVA−クリオゲルビーズのカルボキシル含量のアッセイを、酸ベースの滴定(titrometry)によって決定した。ビーズを、pH7.0となるまで、過剰量の蒸留水で洗浄した。1グラムのビーズを、ビーカー中の、2M NaClを含有する0.1M HCl標準液(25ml)へと移した。材料を24時間、室温にて、周期的な撹拌下でインキュベートし、その後正確に測定された上清のサンプル(10ml)を取り出し、ゆっくりとした撹拌にて、pH6.9〜7.3まで0.1M NaOHで滴定した。
【0092】
PVA−クリオゲル上へのリゾチーム及びCu+2吸着のバッチ実験は、修飾されたサンプルが、ビーズの乾燥ポリマー0.1gあたり3.7mgのタンパク質及び9.6μmolのCu+2を結合することを実証する(表20)。さらに、十分なカルボキシル基の存在は、グラフト化PVA−クリオゲルの膨潤度の上昇へとつながり(表20)、それはビーズサイズの上昇として視覚的に観察される。
【0093】
【表20】

【0094】
実施例10.アクリル酸又はグリシジルメタクリレートでエステル化したPVA−クリオゲルビーズ上へのアクリル酸のグラフト重合
実施例9Aにしたがって調製した3グラムのPVA−クリオゲルビーズを、30mlの0.5M HCl溶液中で4.5mlのアクリル酸(AAc)と混合し、室温にて96時間、シェーカーテーブル上での連続した撹拌下でエステル化反応を行った。
【0095】
3グラムのPVA−クリオゲルビーズを、30mlの0.5M HCl溶液中で4.5mlのAAcと混合し、室温にて96時間、シェーカーテーブル上での連続した撹拌下でエステル化反応を行った。あるいは、3gのPVA−クリオゲルビーズを、30mlの1.0M NaCO溶液中で6mlのアリルグリシジルエーテルと混合し、室温にて96時間、シェーカーテーブル上での連続した撹拌下でエステル化反応を行った。
【0096】
修飾したPVA−クリオゲルビーズ(1.5g)を、13mlの脱気蒸留水中に懸濁した。次いで、2mlのAAcを添加した。376μmolのTEMED及び300mgのAPSを添加することによって、グラフト重合を開始させた。反応を、一晩、室温にて、振とう機上で進行させた。反応が完了後、クリオゲルビーズを、過剰量の水で洗浄した。
【0097】
ポリアクリル酸でグラフトされたPVA−クリオゲルを、Cu+2及びリゾチームの吸収によって解析した(表21)。
【0098】
【表21】

【0099】
0.1M EDTA溶液(pH7.5)でのCu+2溶出のプロファイルを調査した。0.2M CuSO溶液をカラムへ適用する間、AAc−グラフト化PVAビーズは収縮し、それらの容積は2回に分けて低下した。その条件では、カルボキシル基はCu+2イオンと相互作用するので、ポリアクリル酸の水和が低下する。0.1M EDTAでの溶出後、クリオゲル基質の膨潤度は、再び上昇した。
【0100】
ポリアクリル酸がグラフトされたPVAビーズで充填されたカラム上でのリゾチームの破過プロファイルを調査した。破過曲線は、リゾチーム溶液の適用の間の、不安定なクロマトグラフィの挙動を実証する。リゾチームのカラムへの吸着は、同じポンプスピードにおいて、背圧を発生させ、カラムを通る流速を低下させる結果をもたらした。同一の問題が、1.5M NaCl溶液での溶出を行った場合に観察された。実験の間、カラムを通る流速は、1分あたり1mlから0.3mlへと低下した。
【0101】
40%破過にて保持されたリゾチーム容量は、1mlのgPVA−AAcあたり50mgであった。主に、タンパク質はクリオゲルビーズの表面上にグラフトされたポリアクリル酸鎖上に吸着され、第一画分中に溶出された。
【0102】
実施例11.PVA−クリオゲルモノリス上へのアクリル酸のグラフト重合(polymerisation)
50mlの0.5M HCl溶液を、流速1ml/minにてPVAクリオゲルモノリス(2ml;PCT/SE02/01857にしたがって作成した)を通過させ、引き続き0.5M HCl中2.0MのAAc溶液30mlを、流速1ml/minにて、一晩リサイクルモードで、室温にてカラムに適用した。次いで、カラム中の修飾されたクリオゲルを、pHが中性になるまで水で洗浄した。次いで、2.0M AAc溶液を、流速0.2ml/minにて適用した。40分ごとに、活性剤及び開始剤(50μLのTEMED及び50mgのAPS)を注入した。反応は、5時間、室温にて進行した。
【0103】
グラフトされたPVA−クリオゲルモノリスは、クリオゲル1mlあたり40μmolのCu+2を吸着した。
【0104】
gPVA−AAcモノリス上におけるリゾチームの破過プロファイル及び溶出プロファイルを調査した。リゾチームの容量は、gPVA−AAc1mlあたり15mgであった。ビーズで典型的な背圧の創出及びカラムを通る流速の低下は、この場合には観察されなかった。
【0105】
実施例12.NIPAM及び3−(アクリルアミド)フェニルボロン酸)(APBA)のグラフト共重合。
修飾のないクリオゲルモノリスを、コモノマー(AAm/MBAAM=8/l)の6%溶液を用いて調製した。乾燥pAAmクリオゲル(0.09〜0.14g)を、ガラス管中に置き、適当量のNIPAM及びAPBA(NIPA/APBA=9/1(mole/mole))、0.06ml NaOH(10M)及び3mlのCu(III)溶液(実施例3中のように調製した)を含有する10mlの反応溶液で飽和させた。クリオゲルを通るモノマーの流れを、コルクで停止させた。グラフト重合は、室温にて、20時間進行した。
【0106】
反応の完了後、クリオゲルを30mlの0.1M HClで洗浄し、引き続き過剰量の脱イオン水で洗浄した。
【0107】
グラフティングパーセンテージ、G%を、実施例3中のように算出した。結果を表22に示す。
【0108】
【表22】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
CR=CR (I)
[式中、R及びRは等しいか又は異なり、各々が水素原子又は重合反応にとって有害ではない置換基を表し;かつ
及びR各々が、水素原子又は重合反応にとって有害ではない置換基を表す(ただし、R及びRの両方が水素原子ではない)]
の少なくとも1つのモノマーをマクロ多孔性(macroporous)クリオゲル上に重合させることによって形成されるポリマー鎖をその上にグラフトされた、マクロ多孔性(macroporus)クリオゲル。
【請求項2】
及びRの両方が水素原子であるか、R及びRの一方が水素原子を表し、他方が、アルコール、有機酸、エーテル、エステルアミド及びそのN−置換アミド、アミン、N−置換アミン、複素環芳香族環並びにそれらの誘導体からなる群より選択される置換基を表す、請求項1記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項3】
及びRの一方が水素原子又はアルキル基を表し、他方が、カルボキシル基並びにアルコール、有機酸、エーテル、エステル、アミド及びそのN−置換アミド、アミン、N−置換アミン、複素環芳香族環等のような誘導体からなる群より選択されるメンバーである、請求項1又は請求項2記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項4】
該カルボキシル基の誘導体が、その誘導体に結合した親和性リガンドを含有する誘導体である、請求項3記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項5】
該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーが、アクリル酸(AAc)、メタクリル酸(MAc)、N,N−ジメチル−アミノエチル−メタクリレート(DMAEMA)、(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)−トリメチルアンモニウムクロライド(META)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、N−ビニルイミダゾール(VI)、グリシジルメタクリレート(GMA)、ヒドロキシ−エチルメタクリレート(HEMA)、アクリルアミド、メチレン−ビス−アクリルアミド(MBAA)ジアリルタルタルアミド(DATAm)、ジアリルアクリルアミド(DAAm)、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(PEG−D(M)A)、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PEG−DGE)、3−(アクリルアミド)フェニルボロン酸(APBA)及びそれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーである、請求項1記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項6】
マクロ多孔性クリオゲルが、アクリル酸及びその誘導体からなる群より選択されるモノマーを共重合させることによって調製されるクリオゲルであって、該モノマーの1つがアクリルアミドである、請求項1〜5のいずれかに記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項7】
マクロ多孔性クリオゲルが、アクリルアミドとN,N’−メチレン−ビス−アクリルアミドとのラジカル共重合によって調製されるクリオゲルである、請求項6記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項8】
マクロ多孔性クリオゲルが、グルタルアルデヒドのような二官能性試薬によって架橋されたポリ(ビニルアルコール)クリオゲルであって、かつ該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーが、全て重合可能な二重結合を含む、アルコール、有機酸、エーテル、エステルアミド及びそのN−置換アミド、アミン、N−置換アミン、複素環芳香族化合物からなる群より選択されるメンバーである、請求項1記載のマクロ多孔性ゲル。
【請求項9】
モノリスの形状である、請求項1〜8のいずれかに記載のマクロ多孔性クリオゲル。
【請求項10】
一般式(I)
CR=CR (I)
[式中、R及びRは等しいか又は異なり、各々が水素原子又は重合反応にとって有害ではない置換基を表し;かつ
及びR各々が、水素原子又は重合反応にとって有害ではない置換基を表し(ただし、R及びRの両方が水素原子ではない)]
の少なくとも1つのモノマーの、マクロ多孔性クリオゲル上へのグラフト(共)重合の方法であって、該方法が、上記一般式(I)の少なくとも1つのモノマーとマクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルとを、開始剤としてジペルヨーダトクプラートカリウムの存在下で反応させることを含む、方法。
【請求項11】
乾燥マクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルを、該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーとジスペルヨーダトクプラート(disperiodatocuprate)カリウムとのアルカリ水溶液と接触させる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
乾燥マクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルが、カラム中でジスペルヨーダトクプラートカリウムのアルカリ水溶液で飽和され、その後該一般式(I)の少なくとも1つのモノマーの水溶液又は水−有機溶液をカラムを通過させることによって該アルカリ水溶液がクリオゲルから置換され、その後グラフト(共)重合が進行することが可能となる、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれかに記載の方法で調製された、その上にポリマー鎖をグラフト化されたマクロ多孔性クリオゲルが、その上に親和性リガンドを導入する試薬とさらに反応させられる、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
アクリルアミド及びアクリル酸からなる群より選択されるモノマーをマクロ多孔性クリオゲル上にグラフト重合する方法であって、該方法が、重合反応のための開始剤及び活性剤からなる群より選択される少なくとも1つのメンバーの存在下で、該モノマーとマクロ多孔性ポリ(ビニルアルコール)クリオゲルとを反応させることを含む、方法。
【請求項15】
分離工程における、請求項1〜9記載のいずれかに記載のマクロ多孔性クリオゲルの使用。
【請求項16】
該マクロ多孔性クリオゲルが、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)及び(2−(メタクリロイルオキシ)エチル)−トリメチルアンモニウムクロライドからなる群より選択されるモノマーのポリアクリルアミドクリオゲルの表面上へのグラフト重合によって調製される三級及び四級アミノ基を保有するマクロ多孔性ポリアクリルアミドクリオゲルであり、かつ該マクロ多孔性クリオゲルがRNA及びgDNAのクロマトグラフィのために用いられる、該請求項15記載の使用。




【公表番号】特表2008−540761(P2008−540761A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511084(P2008−511084)
【出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際出願番号】PCT/SE2006/000555
【国際公開番号】WO2006/121395
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(504334049)プロティスタ バイオテクノロジー アーベー (3)
【Fターム(参考)】