説明

マグネシウム合金の表面処理方法

【課題】 マグネシウム合金で製造された多種類の成型部材に対して、成型部材表面の侵食を抑制しながら、高効率に疲労強度を向上させる。
【解決手段】 マグネシウム合金の成型部材を液状媒体に浸漬し、成型部材表面と超音波発振部端面とが接触しないよう離隔した状態で、成型部材に対して超音波を印加することにより、マグネシウム合金の疲労強度を向上させる。液状媒体としては、水又はコロイダルアルミナを使用するのが効果的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金の成型部材の機械的性質、特に疲労強度を向上させるための表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量かつ強靱で、高い振動吸収性を有するマグネシウム合金がノート型パーソナルコンピュータや携帯電話の筐体に使用されている。一方で自動車部品への応用に関しては、結晶粒微細化によって強度の向上が図られた高張力鋼やアルミニウム合金が利用されることで板厚低下による軽量化が実現しているため、マグネシウム合金の適用は遅れている。
【0003】
しかし、自動車の電装化が進む中で自動車重量は増加する傾向が続いており、アルミニウム合金の2/3の密度で、リサイクル性に優れるマグネシウム合金は、今後の自動車用構造部材として最も有望な金属材料と考えられている。
マグネシウム合金の欠点は、高張力鋼よりも機械的性質、耐食性が劣ることであり、その機械的性質には、引張強さ、強靱性、硬さ、クリープ特性、疲労強度等があるが、自動車のように繰り返し負荷が加わる構造部材には疲労強度の向上が必要である。
【0004】
疲労強度は、通常、引張強さを増大させれば向上し、そのための処理として熱処理があるが、さらに浸炭、窒化、タフトライド(登録商標)、高周波焼入れ、ハンマーピーニング、ショットピーニングのような表面硬化処理を施すことが有効である。
浸炭、窒化、タフトライド(登録商標)、高周波焼入れは一般に鉄鋼で行われる手法であり、マグネシウム合金においては、熱処理で引張強さを増大させる方法やショットピーニングが適している。
【0005】
例えば、マグネシウム合金の機械的特性をさらに向上させるための熱処理方法として、重量%でカルシウム(Ca):0.5〜3.0%、亜鉛(Zn):1.0〜6.0%、ジルコニウム(Zr):0〜1.0%、1種類以上のランタノイド:1.0〜5.0%を含み、残部がマグネシウム(Mg)と不可避不純物とからなるマグネシウム合金を、703〜743Kに加熱し、焼入れし、次いで423〜523Kに加熱することにより焼戻すことからなる特定の組成のマグネシウム合金に対する熱処理方法(特許文献1参照)がある。
【0006】
また、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの軽合金製部材の表面部にショットピーニング加工等の残留応力付与処理加工を施した後、その表面に軽合金部材よりも熱膨張係数の小さい低熱膨張層を形成するか、あるいは、軽合金部材よりも熱膨張の大きい高熱膨張層を軽合金部材の表面部に生成した後、ショットピーニング加工等の残留応力付与処理加工を施す軽合金製部材の表面の改質方法(特許文献2参照)が提案されている。
【0007】
ショットピーニングは、表面粗さが増加した場合に疲労強度低下を引き起こす原因にもなるため、その改善が検討されてきた結果、最近はショットを使用しないショットレスピーニングが実用可能な技術となっている。
ショットレスピーニングを利用した例として、ウォータージェットを用い金属材料表面に形成された表面異質層を除去し、表面に残留応力を付加して疲労強度を向上する方法がある。これは高速のウォータージェットを、水中に浸漬した表面異質層を有する金属又は非金属からなる材料表面に衝突させ、ウォータージェットの噴出水流によるキャビテーションにより材料表面に侵食を発生させて表面異質層を除去し、更に材料表面に局所的高圧力を付加することで少なくとも降伏点に相当する歪みが蓄積した表面異質層を有する材料表面の処理方法(特許文献3参照)である。
【特許文献1】特開平10−140304号公報
【特許文献2】特開平05−287466号公報
【特許文献3】特開平08−267400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1のマグネシウム合金の熱処理方法では、熱処理によって引張強さが向上し、それと共に疲労強度が向上しているが、これは特定の組成のマグネシウム合金に対する処理方法である。汎用されている多種類のマグネシウム合金に対しても熱処理は有効な手段ではあるが、一般的に疲労強度の大きな向上は望めない。
一方、特許文献2の表面の改質方法は、ショットピーニングを利用した効果的な疲労強度向上の方法を示しているが、ショットピーニングはショット同士の衝突によるエネルギー損失があるだけでなく、ショットの届かないような複雑な形状をした部材では表面硬化が行き渡らず、表面硬化層の生成が不十分な部分で応力集中がかかり破断の原因になることがある。
【0009】
また、特許文献3の材料表面の処理方法は、ショット同士の衝突によるエネルギー損失がなく、キャビテーション崩壊時に発生する衝撃波が伝播する範囲が広いため材料形状の影響を受け難い利点を有するが、ウォータージェットの噴出水流によりマグネシウム合金の侵食は著しく進行し、侵食の進行を抑制しようとすると衝撃波のエネルギーが小さく、マグネシウム合金に対しては有効な効果を得ることが難しい。
本発明は、マグネシウム合金の疲労強度を向上させる方法における上記問題を解決するものであって、マグネシウム合金で製造された多種類の成型部材に対して、成型部材表面の侵食を抑制しながら、高効率に疲労強度を向上させることのできるマグネシウム合金の表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマグネシウム合金の表面処理方法では、マグネシウム合金の成型部材を液状媒体に浸漬し、成型部材表面と超音波発振部端面とが接触しないよう離隔した状態で、成型部材に対して超音波を印加することにより、マグネシウム合金の疲労強度を向上させる。
液状媒体としては、水を使用するのが効果的である。
超音波発振部端面とは、超音波発振子から生じる超音波を外部に伝達、発振する部品の先端面を指し、例えば超音波ホモジナイザーではホーンの先端面のことを言う。
【0011】
ところで、マグネシウムは高い減衰能を有することが知られている。
マグネシウムに振動が与えられると、振動は短時間で減衰する。振動が減衰する機構は二つあり、一つは外部摩擦(external friction)と呼ばれ、振動している金属材料から外部へ空気等を介して振動エネルギーが放出される機構である。他の一つは内部摩擦(internal friction) で、金属材料内部で振動エネルギーが熱あるいは歪み等に変換される機構である。この内部摩擦が減衰能(damping capacity)である。
【0012】
減衰能は、振動エネルギーの変換機構の違いによって次の四つに分類される。
(1)母相と第2相との間の粒界面ですべりまたは移動をおこすことによるもの。
(2)強磁性材料において磁区壁の非可逆移動によるもの。
(3)転位が不純物原子による固着点から離脱することによるもの。
(4)双晶転移の移動によるもの。
【0013】
マグネシウムでは、振動エネルギーの多くが上記(3)又は(4)の何れかの変換機構で熱として消費されるか、あるいは歪みとして蓄積される。歪みが蓄積されたマグネシウムは、機械的に圧縮せん断を加えるのと同様の大きな歪みが導入されることで硬化する。
減衰能は、一般的に固有減衰能(specific damping capacity:S.D.C と略記)で評価され、次式の通り、振動する物体の1サイクルあたりの振動エネルギー損失率で表される。
S.D.C(%) = (ΔW/W)×100
ここでWは振動エネルギー、ΔWは1サイクルに失われるエネルギーである。
【0014】
マグネシウムは固有減衰能が金属の中で最高の60%以上を示すが、強度及び耐蝕性が比較的弱く、これら課題を改善したマグネシウム合金は、マグネシウムより固有減衰能は低下するが、他の金属と比較すれば固有減衰能は大きい部類に属し、振動エネルギーの多くを歪みとして蓄積する。
マグネシウム合金の成形部材は、溶湯あるいは半溶融状態からの成形方法で分類すると、鋳造材、ダイキャスト材、及びチクソモールディング材があり、これらの部材の一部は圧延、押出し等の二次加工を施すことで展伸材と呼ばれて使用されている。
【0015】
これらの成形部材に超音波を印加すると、超音波振動は成形部材の表面から面内方向に歪みとして蓄積され、表面で蓄積できなくなると、その歪みは内部へ伝播する。従って周波数、超音波印加出力、超音波印加時間を制御することによって表面層のみに歪みを蓄積せることが可能であり、表面硬化によって疲労強度が向上する。
【0016】
ただし、厚さが薄い成型部材などは超音波振動が短時間で内部まで伝播するため、成型部材全体が硬化し、引張強さの増加と相まって疲労強度が向上する。このように厚さが薄い成型部材は、超音波を印加後に適当な温度に加熱することで再結晶を起こさせることにより高強度で延性に富んだ微細結晶粒の成型部材になり、次にその成型部材に適当な条件で超音波を再度印加すれば成型部材表面が硬化し、より一層疲労強度が向上する。
【0017】
本発明が適用できるマグネシウム合金としては、実用合金として知られるMg−Al合金、Mg−Al−Zn合金、Mg−Zr合金、Mg−Zn−Zr合金、Mg−Mg2 Ni合金、Mg−RE−Zn合金(REはレアアース)、Mg−Ag−RE合金(REはレアアース)、Mg−Y−RE合金(REはレアアース)、Mg−Zn−Ca合金、Mg−RE−Ca合金(REはレアアース)、Mg−Al−Ca合金などがあるが、これらの合金には限定されない。
【0018】
ただし、Al添加量が多い合金、例えばMg−10%Al合金(AM100)、Mg−9%Al−1%Zn合金(AZ91)、Mg−6%Al−3%Zn合金(AZ63)などは固有減衰能S.D.C =10%未満であるので、疲労強度向上の効果は小さい。
マグネシウム合金の成型部材を液状媒体に浸漬し、成型部材表面と超音波発振部端面とが接触しないよう離隔した状態で、成型部材に対して超音波を印加するが、液状媒体は超音波振動を効率的に成型部材に伝達するための伝達媒体、および熱の拡散媒体としての役目を果たす。
【0019】
液状媒体に浸漬しないとき、例えば成型部材を超音波発振部端面と密着させ、超音波を印加すると成型部材表面と超音波発振部端面との接触面で振動エネルギーが摩擦熱となって損失するので、超音波振動は成型部材内部へ十分に伝達し難い。また、液状媒体に浸漬したときでも、超音波の印加中に成型部材表面と超音波発振部端面とが接触すると成型部材表面と超音波発振部端面との接触箇所で振動エネルギーが摩擦熱となって損失するだけでなく成型部材表面に傷がつくので、成型部材表面と超音波発振部端面とは接触しないよう離隔する。
【0020】
超音波発振部端面の振幅はさまざまであるが一般的に40μm以下の場合が多いので、成型部材表面と超音波発振部端面との距離は少なくとも40μm以上とする。
液状媒体としては、水、エタノール、ポリエチレングリコール水溶液、金属酸化物または金属水酸化物のコロイド溶液、メタノールを除く多くの有機溶媒が使用可能である。金属酸化物または金属水酸化物のコロイド溶液としては、アルミニウム、マンガン、ジルコニウム、チタン、シリコン、鉄の酸化物または水酸化物のコロイド溶液などがある。酸性溶液およびアンモニア塩等の塩が溶解した液では腐食が進むが、これらの希薄溶液を使用し短時間で超音波を印加すれば腐食による影響は小さい。超音波振動の伝達を高効率に行うには、超音波の吸収が小さい液状媒体が良く、その中でも水が最適な液状媒体の一つに挙げられる。
【0021】
一方、マグネシウム合金の成型部材は、通常、耐食性向上のため陽極酸化処理や化成処理を行うが、超音波を印加した成型部材に対しても同様の表面皮膜処理が可能である。
特に化成処理によって形成されるMgAl2 4 、CrOHCrO4 、2Cr(OH)3 あるいはMgCrO4 は高密度な酸化物あるいは水和物であるため、マグネシウム合金母材に対して圧縮応力を与えるので耐食性向上の効果以外に疲労強度の向上に寄与する場合が多く、また酸化物あるいは水和物による断熱効果で母材表面に蓄積した歪みが外部からの熱で回復するのを防ぐ役割をする。
【0022】
本発明者は、液状媒体として金属酸化物または金属水酸化物のコロイド溶液を使用すると、成型部材表面へ歪みが蓄積すると同時に成型部材の最表面にMgを含む金属酸化物(例えば、MgAl2 4 、MgMnO3 、MgMn2 4 、Mg2 Zr5 12、MgTiO3 、MgTi2 5 、Mg2 TiO4 、MgSiO3 、Mg2 SiO4 、MgFe2 4 、Mg1-x Fex O等)を主とした表面皮膜が形成されることを見出した。
【0023】
金属酸化物または金属水酸化物のコロイド溶液としては、例えばコロイダルアルミナがある。コロイダルアルミナは、通常希薄な硝酸、塩酸、酢酸溶液に繊維状構造または板状構造のアルミナ粒子が10%前後分散したゾルであり、そのアルミナ粒子は正に帯電している。コロイダルアルミナの希薄酸性溶液中でマグネシウム表面が侵食される際、その表面近傍がアルカリにシフトすることで、正に帯電したアルミナ粒子がマグネシウム表面で凝集すると同時に溶出したMg2+を吸着する。そして超音波振動エネルギーの一部がMg2+の酸化とアルミナ粒子の反応を促進しMgAl2 4 が生成する。歪みが蓄積した成型部材最表面にMgAl2 4 皮膜が形成されることで、耐食性向上と疲労強度向上が達成されるため、最適な液状媒体の一つと考えられる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のマグネシウム合金の表面処理方法によれば、汎用されているマグネシウム合金で製造された多種類の成型部材に対して、成型部材表面の侵食を抑制しながら、高効率に疲労強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
マグネシウム合金の成型部材を液状媒体に浸漬し、成型部材表面と超音波発振部端面とが接触しないよう離隔した状態で、成型部材に対して超音波を印加する。
成型部材の形状には特別な制限を設けない。
成型部材へ超音波を印加するには、成型部材を液槽に貯めた液状媒体中に入れ、液状媒体を伝達材料として超音波発振部端面から発せられる超音波振動を成型部材に伝達させるのが良いが、効率よく安全に振動を伝達できる手段であれば、上記以外の方法を用いても差し支えない。
【0026】
例えば、液槽の壁面を介して液中に伝達される超音波振動を成型部材に印加させる方法もあるが、前者の方が超音波振動は伝達されやすく効率的である。
超音波の周波数と出力および印加時間は、マグネシウム合金の融点、固有減衰能、大きさ、形状などを考慮に入れ最適値を決定しなければならないが、例えば超音波ホモジナイザーを利用して、AZ31(Al3%、Zn1%、残りMg)鋳造材(幅50mm×長さ50mm×厚さ30mm)に超音波を印加する場合では、周波数19KHzで出力240Wの超音波を直径22mmのチタン合金製ホーンで各表面に対し2.5min〜10min、合計15min〜60min印加する。
【0027】
ホーンと成型部材間の距離は、周波数19KHzで出力150W〜300Wの超音波を直径22mmのチタン合金製ホーンで印加する場合には、5mm〜15mmの範囲が適当である。ホーンと成型部材との距離が5mm未満ではホーンの出力によってはキャビテーションによる侵食が発生する場合があり、15mm以上では成型部材表面への歪みを蓄積させるために長時間を必要とし生産性が著しく低下する。
【0028】
超音波発振部端面は、成型部材表面を網羅するように走査しても良いが、超音波発振部端面を走査する代わりに、複数個の超音波発振部端面を成型部材に近接する位置に固定し超音波印加する方法を採用すれば、短時間で大きな超音波振動を伝達できる。
また流れ作業の中で超音波印加を行うことも可能であり、一例として液槽の中にローラーコンベアのような搬送装置を配置し、ローラーの間隙、さらにローラーコンベアの上部を取り囲むように複数個の超音波発振部端面を配置し、成形部材がローラー上を通過する際に上下左右から超音波を印加する。
【0029】
液状媒体は、一般に高温であるほど超音波の吸収が小さくなるので、液状媒体の蒸発損失が少なく、かつ成型部材の表面酸化が進行し難い温度範囲で高い温度を選択する。
例えば水の場合、温度が273K以下では、水による音波の吸収が298Kに対して2倍以上大きくなるため、効率的な超音波振動の伝達ができなくなる。一方、373Kでは水による音波の吸収が298Kに対して1/2以下になり超音波振動の伝達が高効率になるが、373K付近では水の蒸発が著しく、成型部材の酸化も進み易いため操業条件として適当ではない。従って、水は333K前後が適温である。また不純物イオンが少ない純水が最も適している。
【0030】
液状媒体としてコロイダルアルミナを用いる場合は、硝酸、塩酸、酢酸溶液のpHが通常4前後であるため、超音波発振部あるいは液槽の材質に耐酸性の材質を採用しなければならない。金属としてはステンレス、ハステロイ、チタン合金、非金属ではホウ珪酸ガラス、石英ガラスなどが入手し易く使用に適した材質である。
コロイダルアルミナを用いる場合の超音波印加条件は、純水を使用する場合よりも出力を増加するか、あるいは長時間超音波を印加するが、詳細な条件はコロイダルアルミナの粘度、粒子形状、溶液の種類を考慮し適宜変更を加える。
【0031】
成型部材最表面に形成されるMgAl2 4 皮膜は、超音波印加直後は水和していると予想され、乾燥するとひび割れを生じる。ひびの部分は母材が露出するので耐食性低下の原因になりやすい。その場合は、短時間の超音波印加で薄いMgAl2 4 皮膜を形成させ、一度乾燥させた後、再度短時間の超音波印加を行うことでひびをある程度埋めることができる。
【実施例1】
【0032】
マグネシウム合金として、AZ31連続鋳造ビレット(幅1194mm×長さ1000mm×厚さ355.6mm)から鋳造部材(幅50mm×長さ50mm×厚さ30mm)を外周刃カッターで切り出した。鋳造部材の結晶粒径は約200μmであった。
ステンレス製水槽(容積1000ml)に鋳造部材と純水500mlを入れ鋳造部材を純水中に浸漬した。超音波ホモジナイザーを利用し、φ22mmのチタン合金製のホーンを鋳造部材表面から15mm位置に固定し、鋳造部材の各表面(6面)に対し、純水を343Kに制御しながら、周波数19KHz、出力300Wの超音波を60minずつ印加した。
【0033】
超音波を印加した鋳造部材表面にどの程度歪みが蓄積されているかを目視で観察するために、真空中で加熱処理することで歪みが蓄積された部位に再結晶を生じさせ、鋳造部材表面の結晶組織変化を調べた。真空中の加熱処理条件は、真空加熱炉を使用し、133Pa以下、453Kで1hとした。
図1に超音波印加前と超音波印加後の鋳造部材表面の光学顕微鏡写真(×200)を示す。
超音波印加前の結晶粒径は約200μmであるのに対し、超音波印加後は鋳造部材表面の深さ方向約100μmまでが約20μmに微細化しており、超音波印加によって鋳造部材表面に歪みが蓄積されることが確認された。
【実施例2】
【0034】
マグネシウム合金として、AZ31圧延板(幅304.8mm×長さ1000mm×厚さ1.25mm)から圧延部材(幅50mm×長さ50mm×厚さ1.25mm)を、またZK60押出し材(幅76.2mm×長さ1000mm×厚さ76.2mm)から押出し部材(幅50mm×長さ50mm×厚さ1.25mm)を外周刃カッターで切り出した。圧延部材の結晶粒径は約30μmであり、押出し部材の結晶粒径は約10μmであった。
【0035】
ステンレス製水槽(容積1000ml)に圧延部材または押出し部材と純水500mlを入れ圧延部材または押出し部材を純水中に浸漬した。超音波ホモジナイザーを利用し、φ22mmのチタン合金製のホーンを圧延部材または押出し部材表面から15mm位置に固定し、幅50mm×長さ50mm面に対し、純水を333Kに制御しながら、周波数19KHz、出力240Wの超音波を2.5min印加した。
圧延部材および押出し部材から平行部の長さ18mm、平行部の幅6mm、肩部半径3mmのS型試験片を切り出し、10-2/sの引張速度で引張試験を行った。
【0036】
図2にAZ31圧延部材の超音波印加後=(a)として示した。引張強さは超音波印加前に比べて約5%向上した。また、超音波印加後の圧延部材を真空加熱炉で133Pa以下、453K、1h加熱した場合の引張強さを(a)の再結晶後=(b)として示した。引張強さは(a)より約2%向上した。さらに、再結晶後の圧延部材を純水500ml中で、φ22mmのチタン合金製のホーンを圧延部材表面から15mm位置に固定し、幅50mm×長さ50mm面に対し、純水を333Kに制御しながら、周波数19KHz、出力240Wの超音波を2.5min印加した場合の引張強さを(b)の超音波印加後として示した。その引張強さは(b)より約0.5%向上した。
図3には、ZK60押出し部材の超音波印加後の引張強さを超音波印加前と比較して示した。超音波印加後の引張強さは、超音波印加前と比べて約2%向上した。
以上のように厚さが薄い成型部材では引張強さが一様に向上し、疲労強度が改善されていることが推察された。
【実施例3】
【0037】
マグネシウム合金として、AZ31圧延板(幅304.8mm×長さ1000mm×厚さ1.25mm)から圧延部材(幅50mm×長さ50mm×厚さ1.25mm)を外周刃カッターで切り出した。圧延部材の結晶粒径は約30μmであった。
ステンレス製水槽(容積1000ml)を3槽用意して各液槽に圧延部材を入れ、液状媒体として第一の液槽には25vol %ポリエチレングリコール水溶液、第二の液槽には純水、第三の液槽にはエタノールを各500mlを入れ圧延部材をそれぞれ浸漬した。超音波ホモジナイザーを利用し、φ22mmのチタン合金製のホーンを圧延部材表面から15mm位置に固定し、幅50mm×長さ50mm面に対し、各液状媒体を298Kに制御しながら、周波数19KHz、出力240Wの超音波を2.5min印加した。
【0038】
超音波を印加した圧延部材表面にどの程度歪みが蓄積されているかを目視で観察するために、真空中で加熱処理することで歪みが蓄積された部位に再結晶を生じさせ、圧延部材表面の結晶組織変化を調べた。真空中の加熱処理条件は、真空加熱炉を使用し、133Pa以下、453Kで1hとした。
図4にAZ31圧延部材の超音波印加における液状媒体と結晶粒径の関係を示した。液状媒体として純水を使用した場合が最も結晶粒径は小さくなり、歪みが効果的に蓄積されることが確認された。なお、すべての液状媒体で、結晶粒径の微細化は圧延部材全体で生じていた。
【実施例4】
【0039】
マグネシウム合金として、AZ31圧延板(幅304.8mm×長さ1000mm×厚さ1.25mm)から圧延部材(幅50mm×長さ50mm×厚さ1.25mm)2個を外周刃カッターで切り出した。圧延部材の結晶粒径は約30μmであった。
ステンレス製水槽(容積1000ml)に圧延部材とコロイダルアルミナ(日産化学株式会社製アルミナゾル100)500mlを入れ圧延部材をコロイダルアルミナ中に浸漬した。超音波ホモジナイザーを利用し、φ22mmのチタン合金製のホーンを圧延部材表面から15mm位置に固定し、幅50mm×長さ50mm面に対し、コロイダルアルミナを303Kに制御しながら、周波数19KHz、出力240Wの超音波を20min印加した。
【0040】
超音波印加後の圧延部材表面を光学顕微鏡で観察し、エネルギー分散型蛍光X線分析装置で表面生成物の組成分析を行った。
次に、超音波印加後の圧延部材内部にどの程度歪みが蓄積されているかを目視で観察するために、真空中で加熱処理することで歪みが蓄積された部位に再結晶を生じさせ、圧延部材内部の結晶組織変化を調べた。真空中の加熱処理条件は、真空加熱炉を使用し、133Pa以下、453Kで1hとした。
【0041】
図5に液状媒体としてコロイダルアルミナを使用したときのAZ31圧延部材最表面の光学顕微鏡写真(×500)を示す。
超音波印加した圧延部材表面は約40μmの透明な結晶で覆われ、エネルギー分散型蛍光X線分析による組成分析結果からMgAl2 4 を主とした表面皮膜であることが確認された。
図6にAZ31圧延部材内部の結晶組織の光学顕微鏡写真(×500)を示す。
圧延部材内部は、約4μmの結晶粒に変化しており、超音波印加によって歪みが蓄積されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】超音波印加前と超音波印加後の鋳造部材表面の結晶構造を示す光学顕微鏡写真である。
【図2】AZ31圧延部材の超音波印加後の引張強さを示す図である。
【図3】ZK60押出し部材の超音波印加後の引張強さを示す図である。
【図4】AZ31圧延部材の超音波印加における液状媒体と結晶粒径の関係を示す図である。
【図5】液状媒体としてコロイダルアルミナを使用したときのAZ31圧延部材最表面の結晶構造を示す光学顕微鏡写真である。
【図6】液状媒体としてコロイダルアルミナを使用したときのAZ31圧延部材内部の結晶構造を示す光学顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金の成型部材を液状媒体に浸漬し、成型部材表面と超音波発振部端面とが接触しないよう離隔した状態で、成型部材に対して超音波を印加することを特徴とするマグネシウム合金の表面処理方法。
【請求項2】
液状媒体が水であることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム合金の表面処理方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−117988(P2006−117988A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306026(P2004−306026)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】