説明

マグネシウム合金鋳造品の製造方法

【課題】耐クリープ性に優れ、砂型鋳造又は重力鋳造により鋳造した場合であっても十分な強度を有するマグネシウム合金鋳造品の製造方法の提供。
【解決手段】マグネシウム合金鋳造品の製造方法では、先ず、Alを4.5〜11.0質量%、Caを0.3〜1.75質量%、Snを0.15〜1.5質量%、Znを0.1〜1.5質量%、Mnを0.1〜0.5質量%含み、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金を用いてマグネシウム合金鋳造品を砂型鋳造又は重量鋳造により鋳造する鋳造工程を行う。次に、該マグネシウム合金鋳造品を390〜530℃で1〜17時間溶体化処理する溶体化処理工程と、該マグネシウム合金鋳造品を100〜250℃で1〜10時間時効処理する時効処理工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金鋳造品の製造方法に関し、特に耐クリープ性に優れたマグネシウム合金鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐クリープマグネシウム合金としては下記特許文献1に所載の合金が公知である。特許文献1の耐クリープマグネシウム合金は、Alを6.5〜11.0質量%、Caを0.3〜1.9質量%、Snを0.15〜1.5質量%、Mnを0.1〜0.5質量%、Srを0.01〜0.3質量%、Naを0.03〜0.5質量%含み残部がMgおよび不可避的不純物からなり、耐クリープ性、耐食性、鋳造性(ダイカスト性)、防燃性及び防振性に優れるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の耐クリープマグネシウム合金はダイカスト法で鋳造した場合には十分な強度が得られるが、重力鋳造や砂型鋳造により鋳造した場合には強度が低くなり、自動車部品等の構造材等には用いることができないという問題を有している。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐クリープ性に優れ、重力鋳造又は砂型鋳造で鋳造した場合であっても十分な強度を有するマグネシウム合金鋳造品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、Alを4.5〜11.0質量%、Caを0.3〜1.75質量%、Snを0.15〜1.5質量%、Znを0.1〜1.5質量%、Mnを0.1〜0.5質量%含み、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金を用いてマグネシウム合金鋳造品を砂型鋳造又は重力鋳造により鋳造する鋳造工程と、該マグネシウム合金鋳造品を390〜530℃で1〜17時間溶体化処理する溶体化処理工程と、該マグネシウム合金鋳造品を100〜250℃で1〜10時間時効処理する時効処理工程とを有することを特徴とするマグネシウム合金鋳造品の製造方法を提供している。
【0007】
ここで、該マグネシウム合金は更にSrを0.01〜0.3質量%含むことが好ましい。
【0008】
また、該マグネシウム合金は更にNaを0.01〜0.1質量%含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐クリープ性に優れ、砂型鋳造又は重力鋳造により鋳造した場合であっても十分な強度を有するマグネシウム合金鋳造品を製造することができる等の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実験1のマグネシウム合金の組成を示す表1の図である。
【図2】実験1〜3に用いた試験片の形状を示す図である。
【図3】実験1の耐クリープ性の実験の様子を示す側面図である。
【図4】実験1における本発明の実施形態によるマグネシウム合金鋳造品と比較材料の耐クリープ性実験の測定結果を示す図である。
【図5】実験2のマグネシウム合金の組成を示す表2の図である。
【図6】実験2における本発明の実施形態によるマグネシウム合金鋳造品と比較材料の引張特性実験の測定結果を示す図である。
【図7】実験3のマグネシウム合金の組成を示す表3の図である。
【図8】実験3における本発明の実施形態によるマグネシウム合金鋳造品と比較材料の引張特性実験の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係るマグネシウム合金について説明する。このマグネシウム合金は、Al(アルミニウム)が4.5〜11.0質量%、Ca(カルシウム)が0.3〜1.75質量%、Sn(スズ)が0.15〜1.5質量%、Zn(亜鉛)が0.1〜1.5質量%、Mn(マンガン)が0.1〜0.5質量%、Sr(ストロンチウム)が0.01〜0.3質量%、Naが0.01〜0.1質量%含まれ、残部はMg(マグネシウム)と不可避的不純物である。Al、Ca、Sn、Zn、Mn、Mgは必須の元素であり、Sr、Naは任意の元素である。
【0012】
Alを添加すると湯流れ性や割れ性などの鋳造性及び防燃性に効果あるが、Mg17Al12化合物を晶出するため耐クリープ性が低下する。Alの添加量が11.0質量%を超えると高い耐クリープ性が得られない。従って、Al添加量は11.0質量%以下とした。一方、Alの添加量が4.5質量%未満であると、湯流れ性や割れ性などの鋳造性が低下する。従って、Alの添加量は4.5質量%以上とした。良好な鋳造性及び引張特性を有するためにはAlは7.5〜11.0質量%の範囲がより好ましい。
【0013】
Caを添加するとマグネシウム合金の防燃性を向上させ、ある程度の高い鋳造温度でも鋳造を可能とする。また、CaAlとして晶出し、粒界すべりを制御させて耐クリープ性を向上させる。しかし、添加しすぎると湯流れ性、粒界割れ性、焼付き性が低下して健全な鋳造品を得ることができない。従って、Caの添加量は1.75質量%以下とした。一方で、Caの添加量が0.3質量%未満であると、十分な耐クリープ性が得られない。従って、Caの添加量は0.3質量%以上とした。
【0014】
Mg−Al−Ca系合金でAlとCaだけでは金型に焼付きや粒界割れを発生し、鋳造が困難であるが、Snを添加すると焼付きが激減する。また、SnはCaと接合し、Sn−Ca化合物を晶出して粒内変形を制御する。また、Snを添加することにより粒界割れが改善する。ただ、Snの添加量が1.5質量%を超えると、割れ性への効果があまりなく、むしろ焼付きなどが発生しやすくなる。又、Snの添加量を増やすと耐食性が低下し、十分な耐食性が得られなくなる。従って、Snの添加量は1.5質量%以下とした。一方、Snの添加量が0.15質量%未満であると、鋳造割れや金型への焼付きを起こしやすく、健全な鋳造品を得ることができない。従って、Snの添加量は0.15質量%以上とした。
【0015】
Mnを添加するとFeによる耐食性の影響を防ぐことができ耐食性に効果があるが、Mnの添加量が0.5質量%を超えると、金型への焼付きが発生するなど鋳造性が低下する。従って、Mnの添加量は0.5質量%以下とした。一方、Mnの添加量が0.1質量%未満であると、耐食性が低下する。従って、Mnの添加量は0.1質量%以上とした。なお、Mnは耐クリープ性の向上にも効果を奏する。
【0016】
Mg−Al−Ca系合金はダイカスト法で鋳造した場合には高強度を有するが、砂型鋳造や重力鋳造で鋳造した場合には十分な強度が得られない。また、熱処理を行っても機械的特性についての効果を得ることが出来ないが、Znを添加することにより熱処理による効果が得られるようになる。Zn添加によりCaとZnが規則的に配列した単原子GPゾーンが析出し、この板状の析出物により大きな時効硬化をもたらす。このGPゾーンはCaとZnが単一の(0001)面上で規則的に配列した構造を有する。さらに、ピーク時効段階においてMgCaZn相とΒ‘−MgZn相が形成される。ただ、Znの添加量が1.5質量%を超えると割れなどの鋳造性、耐食性などが低下する。従ってZnの添加量は1.5質量%以下とした。一方、Znの添加量が少ないとGPゾーンが形成されず、0.1質量%未満であると、熱処理の効果が認められない。従って、Znの添加量は0.1質量%以上とした。
【0017】
少量のSrは、耐クリープ性において効果が少ないが、Srを添加するとマグネシウム合金の鋳造性を向上し、粒界割れなどを防ぐことができる。また、SrはMg17Al12の粒界への晶出を制御することができる。Srの添加量が0.3質量%を超えると、焼付きが発生しやすくなる。従って、Srの添加量は0.3質量%以下とした。一方、Srの添加量が0.01質量%未満であると、ひけ割れや粒界割れ等への効果はあまり得られない。従って、Srの添加量は0.01質量%以上とした。
【0018】
Naを添加すると防燃性に効果があるが、Naの添加量が0.5質量%を超えると、耐食性や引張特性に悪影響を及ぼす。従って、Naの添加量は0.5質量%以下とした。一方で、Naの添加量が0.03質量%未満であると防燃性の効果をあまり得られない。従って、Naの添加量は0.03質量%以上とした。
【0019】
なお、通常存在する不可避的不純物は0.004質量%未満のFe(鉄)、0.001質量%未満のNi(ニッケル)、0.08質量%未満のCu(銅)等である。
【0020】
砂型鋳造又は重力鋳造による鋳造工程の後、鋳造されたマグネシウム合金鋳造品に対して溶体化処理工程を行うと機械的性質を向上することができる。熱処理温度が390℃未満では、溶体化処理が不完全となり、530℃を超えると熱処理中に燃焼し、防燃ガスが必要となる。従って、溶体化処理温度を390〜530℃の範囲とする。また、処理時間が1時間未満では溶体化の効果が得られず、17時間を越えるとフクレ等の欠陥が発生する。従って、溶体化処理時間は1〜17時間の範囲とする。
【0021】
溶体化処理工程の後、マグネシウム合金鋳造品に対して時効処理工程を行うと時効硬化し、機械的性質を向上させることができる。処理温度が100℃未満では時効析出が不完全となり、250℃を超えると析出が進行し、整合性のある析出物が得られない。従って、時効処理温度を100〜250℃の範囲とする。また、処理時間が1時間未満では析出が不完全となり十分な析出硬化が得られず、10時間を越えると過時効となり整合性のある析出物が得られない。従って、時効処理時間は1〜10時間の範囲とする。
【0022】
本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品と比較材料について種々の実験を行った。
(実験1)
実験1では、本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品(本発明材料―1及び本発明材料―2)と比較材(比較材料―1)について、150℃の温度雰囲気で50時間曲げ荷重を負荷する耐クリープ性実験を行って変位を測定した。実験に用いたマグネシウム合金の組成は図1の表1に示すとおりであり、図2に示す試験片1を鋳造した。本発明材料−1は、砂型鋳造した後に、420℃×16hrの溶体化処理工程と、200℃×3hrの時効処理工程を行ったものである。本発明材料−2は、砂型鋳造した後に、420℃×16hrの溶体化処理工程と、200℃×3hrの時効処理工程を行ったものである。比較材料−1は、ダイカスト法で鋳造したものであり、熱処理を行っていない。試験片1は、ASTMのB−85の引張試験片(平行部の直径6.35mm、標点間距離57.5mm、長さ210mm)であり、図3で示されるように、試験片1の両端を支持台2a、2bの間は150mmとし、試験片1の中央部に19.6Nの荷重を所定時間かけ、試験片1に曲げ変異を生じさせた。
【0023】
図4は耐クリープ性実験の結果を示している。本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品(本発明材料−1及び本発明材料−2)は、比較材料−1と同様に優れた耐クリープ性を備えている。
【0024】
(実験2)
実験2では、本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品(本発明材料−3)と比較材(比較材料―2、比較材料―3及び比較材料−4)についての引張特性の実験を行った。実験に用いたマグネシウム合金の組成は図5の表2に示すとおりであり、図2に示す試験片1を鋳造した。本発明材料−3は、砂型鋳造した後に、420℃×16hrの溶体化処理工程と、200℃×3hrの時効処理工程を行ったものである。比較材料−2、比較材料−3及び比較材料−4は、ダイカスト法で鋳造したものであり、熱処理を行っていない。
【0025】
図6は引張特性の実験の結果を示している。図6において、引張強さを斜線、耐力を白塗り、破断伸びを折れ線とする。本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品(本発明材料−3)は、比較材とほぼ同程度の値を示している。従来のMg―Al―Ca系の耐クリープマグネシウム合金は砂型鋳造や重力鋳造によっては十分な引張特性を得ることができなかったが、この様に本発明のマグネシウム合金鋳造品は熱処理後にダイカスト材と同程度の引張特性(強度)を有することから、自動車部品等の構造材等には用いることができ、その用途を拡大することができる。
【0026】
(実験3)
実験3では、本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品(本発明材料−4、本発明材料−5、本発明材料−6、本発明材料−7、本発明材料−8及び本発明材料−9)と比較材料(比較材料−5、比較材料−6及び比較材料−7)について引張特性の実験を行った。実験に用いたマグネシウム合金の組成は図7の表3に示すとおりであり、図2に示す試験片1を鋳造した。実験3における全ての材料は、砂型鋳造した後に、430℃×16hrの溶体化処理工程と、200℃×2hrの時効処理工程を行ったものである
【0027】
図8は引張特性の実験の結果を示している。図8において、引張強さを斜線、耐力を白塗り、破断伸びを折れ線とする。本発明の実施形態のマグネシウム合金鋳造品(本発明材料−4、本発明材料−5、本発明材料−6、本発明材料−7、本発明材料−8及び本発明材料−9)は、ダイカスト材と同程度の値を示しているが、Znを含んでいない比較材料(比較材料−5、比較材料−6及び比較材料−7)はダイカスト材と同程度の値には至らない結果であった。この様に本発明のマグネシウム合金鋳造品はZnの添加により熱処理の効果が得られ、ダイカスト材と同程度の引張特性を有するので、自動車部品等の構造材等には用いることができ、その用途を拡大することができる。
【0028】
本発明によるマグネシウム合金鋳造品の製造方法は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 試験片
2a 支持台
2b 支持台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを4.5〜11.0質量%、Caを0.3〜1.75質量%、Snを0.15〜1.5質量%、Znを0.1〜1.5質量%、Mnを0.1〜0.5質量%含み、残部がMgおよび不可避的不純物からなるマグネシウム合金を用いてマグネシウム合金鋳造品を砂型鋳造又は重力鋳造により鋳造する鋳造工程と、該マグネシウム合金鋳造品を390〜530℃で1〜17時間溶体化処理する溶体化処理工程と、該マグネシウム合金鋳造品を100〜250℃で1〜10時間時効処理する時効処理工程とを有することを特徴とするマグネシウム合金鋳造品の製造方法。
【請求項2】
該マグネシウム合金がSrを0.01〜0.3質量%含むことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金鋳造品の製造方法。
【請求項3】
該マグネシウム合金がNaを0.01〜0.1質量%含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム合金鋳造品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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