説明

マグネシウム封鎖によるPCRホットスタート

本発明は、二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ぺプチドに関する。本発明によるかかるペプチドは、核酸増幅のための組成物の一部であり、いわゆるホットスタート効果を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、ポリメラーゼ連鎖反応プロセス(PCR)を実施することによる核酸の増幅の技術分野に関する。より正確には、本発明は、PCRを実施するための新規ホットスタートの代替法を提供し、非特異的なプライミング事象および偽の増幅産物の発生を妨げる。
【背景技術】
【0002】
(先行技術背景)
核酸増幅、より具体的にPCRに関する主要な問題は、非特異的な増幅産物の発生である。多くの場合、これは、熱安定性DNAポリメラーゼがまた、周囲温度で弱い活性であるために、実際のサーモサイクリング手順自体の前の非特異的なオリゴヌクレオチドプライミングおよび続くプライマー伸張事象によるものである。例えば、結果的にプライマー二量体化および続く伸張が偶然生じることによって増幅産物がよく観察される。この問題を克服するために、増幅反応に不可欠な1つの成分が、反応混合物の温度が最初に上昇するまで反応混合物から分離されるかまたは不活性状態に保たれるかのいずれかであるいわゆる「ホットスタート」PCRを実施することが当該技術分野で周知である。ポリメラーゼはこれらの条件下で機能することができないため、プライマーが特異的に結合し得ない間にプライマー伸張はない。この効果を達成するために、いくつかの方法が利用されている:
【0003】
a)DNAポリメラーゼの物理分離
物理分離は、例えば固体ワックスの障壁によって得られ得、これは他の試薬のバルクを含む区画とDNAポリメラーゼを含む区画を分離する。最初の加熱工程中に、ワックスは自動的に溶解し、流体区画が混合される(Chou, Q., et al., Nucleic Acids Res 20 (1992) 1717-23, US 5,411,876)。あるいは、DNAポリメラーゼは、増幅反応の前に固体支持体上に親和性固定され、熱媒介放出によってのみ反応混合物中に放出される(Nilsson, J., et al., Biotechniques 22(1997) 744-51)。しかし、両方の方法は、時間を消費し、実施するには不都合である。
【0004】
b)DNAポリメラーゼの化学改変
この型のホットスタートPCRのために、DNAポリメラーゼは、化学改変の結果として可逆的に不活性化される。より正確に、熱に不安定なブロック基が、室温で酵素を不活性にするTaq DNAポリメラーゼに導入される(US 5,773,258)。これらのブロック基は、酵素が活性になるように、プレPCR工程中の高温度で除去される。このような熱に不安定な改変は、例えばシトラコンアンヒドリド(Citraconic Anhydride)またはアコニトリアンヒドリド(Aconitric Anhydride)の酵素のリジン残基への結合によって得られ得る(US 5,677,152)。このような改変を保有する酵素は一方で、Amplitaq Gold(Moretti, T., et al., Biotechniques 25 (1998) 716-22)またはFastStart DNAポリメラーゼ(Roche Molecular Biochemicals)として市販されている。しかし、ブロック基の導入は、酵素の立体的に利用可能な全てのリジン残基で任意に生じる化学反応である。従って、化学的に改変された酵素調製物の再現性および質は変化し得、ほとんど調節することができない。
【0005】
c)DNAポリメラーゼの組み換え改変
Taq ポリメラーゼの低温感受性変異体は、遺伝子改変の手段によって調製される。これらの変異体は、N末端を欠くという点で野生型酵素と異なる(US 6,241,557)。ネイティブまたは野生型の組み換えTaqポリメラーゼと比べて、これらの変異体は、35℃以下で完全に不活性であり、従ってある場合においてホットスタートPCRを実施するために使用され得る。しかし、N末端切断低温感受性変異体形態は、低塩バッファ条件を必要とし、野性型酵素と比較してより低い進化性(processivity)を有し、従って短い標的核酸の増幅にのみ使用され得る。さらに、切断形態は5'-3'エキソヌクレアーゼ活性を欠くために、これはTaqMan検出形式に基づくリアルタイムPCR実験に使用され得ない。
【0006】
d)核酸添加物によるDNAポリメラーゼ阻害
非特異的にアニーリングしたプライマーの伸張が、短い二本鎖DNA断片の添加によって阻害されることが示されている(Kainz, P., et al., Biotechniques 28(2000)278-82)。この場合において、プライマー伸張は、短い二本鎖DNA断片の融点以下の温度で阻害されるが、競合物DNA自体の配列とは独立している。しかし、どの程度まで過剰の競合物DNAが核酸増幅反応の収量に影響を及ぼすかは不明である。
【0007】
あるいは、規定された二次構造をもたらす特定の配列を有するオリゴヌクレオチドアプタマーが使用され得る。このようなアプタマーは、SELEX技術を用いてDNAポリメラーゼへの非常に高い親和性について選択されている(US 5,693,502, Lin, Y.,およびJayasena, S.D., J Mol Biol 271(1997)100-11)。実際のサーモサイクリングプロセス自体の前の増幅混合物内のこのようなアプタマーの存在は、DNAポリメラーゼへの高い親和性結合および結果的にその活性の熱不安定阻害をもたらす(US 6,020,130)。しかし、選択プロセスのために、これまで利用可能なアプタマーの全ては、特定の種類のDNAポリメラーゼと組み合わせてのみ使用され得る。
【0008】
e)Taq DNA抗体
Taq DNAポリメラーゼの熱不安定阻害を達成する代替アプローチは、精製酵素に対して惹起されたモノクローナル抗体の添加である(Kellogg, D. E., et al., Biotechniques 16(1994) 1134-7; Sharkey, D.J., et al., Biotechnology(NY)12 (1994)506-9)。オリゴヌクレオチドアプタマーと同様に、抗体は、阻害する様式において周囲温度での高い親和性でTaq DNAポリメラーゼに結合する(US 5,338,671)。複合体は、サーモサイクリングプロセス自体の前のプレ加熱工程で分解される。これは、特に急速サーモサイクリングのためのプロトコルが利用される場合に、全体として実質的に時間を浪費する増幅の延長をもたらす(WO 97/46706)。
【0009】
US 5,985,619は、Taqポリメラーゼの他に、例えば大腸菌に由来するエキソヌクレアーゼIIIが非特異的なプライマー二量体中間体を消化するために増幅混合物への添加物として添加される、ホットスタート抗体を用いてPCRを実施するための特別の態様を開示する。上記に開示されるように、エキソヌクレアーゼIIIは、例えば標的/プライマーまたは標的/プライマー伸張産物ハイブリッドのような基質として二本鎖DNAを認識する。消化は、3'末端デオキシヌクレオチド残基の5'末端でのホスホジエステル結合の切断によって起こる。この型のエキソヌクレアーゼは周囲温度で活性であるために、全ての非特異的なアニーリングプライマーおよびプライマー伸張産物は、この結果消化される。これは、いくつかの態様において、増幅反応のさらに増強された特異性をもたらす。なお、プレインキュベーション時間に依存する非特異的なプライマーの消化は、プライマー濃度の実質的で調節されない低下をもたらし得、次に増幅反応自体に影響を与え得る。
【0010】
f)改変プライマー単独でまたはエキソヌクレアーゼと組み合わせた使用
EP 0 799 888およびGB 2293238は、3'側をブロックしたオリゴヌクレオチドのPCR反応への添加を開示する。3'側ブロックのために、これらのオリゴヌクレオチドはプライマーとして機能することができない。ブロックされたオリゴヌクレオチドは、PCRプライマーと競合/相互反応するように設計され、非特異的な産物の減少をもたらす。
【0011】
別の代替は、PCR反応ミックス中のエキソヌクレアーゼIIIと組み合わせたホスホロチオエートオリゴヌクレオチドプライマーの使用である(EP 0 744 470)。この場合において、二本鎖および単鎖DNA基質を通常受け入れる3'エキソヌクレアーゼはプライマー二量体等の二重人工物および持込みアンプリコンを分解するが、単鎖増幅プライマーは分解されない。同様に、塩基改変3'末端を有するプライマーおよび大腸菌エンドヌクレアーゼIVによる鋳型依存性除去の使用が示唆されている(US 5,792,607)。
【0012】
一般概念の特定の態様が、EP 1 275 735に見られる。その明細書は、(i)熱安定性DNAポリメラーゼ、(ii)熱安定性3'-5'エキソヌクレアーゼ、および(iii)該熱安定性DNAポリメラーゼによって伸張されない改変3'末端残基を有する核酸増幅のための少なくとも1つのプライマーを含む核酸増幅反応を実施するための組成物ならびにこの組成物を用いてPCR反応を実施するための方法を開示する。さらに、該方法は、このような組成物を含むキットに関する。
【0013】
しかし、それぞれのPCR反応について、改変プライマーが必要とされ、それぞれの個々のアッセイの費用を増大する点で増大した要件をもたらすことは開示された代替の主な欠点である。
【0014】
g)他のPCR添加物
DMSO、ベタイン、およびホルムアミドのような当該技術分野で公知の他の有機添加物(WO 99/46400;Hengen, P. N., Trends Biochem Sci 22(1997)225-6;Chakrabarti, R., およびSchutt, C. E., Nucleic Acids Res 29(2001)2377-81)は、プライマー二量体形成の阻害よりむしろ、GCリッチ配列の増幅の改善をもたらす。同様に、ヘパリンは、染色体DNAが接近可能になるためにおそらくヒストンのようなタンパク質の除去によってインビトロで進む転写を刺激し得る(Hildebrand, C.E., et al., Biochimica et Biophysica Acta 477(1997)295-311)。
【0015】
単鎖結合タンパク質(US 5,449,603)またはtRNA(Sturzenbaum, S.R., Biotechniques 27(1999)50-2)の添加は、これらの添加物のプライマーへの非共有結合をもたらすことも公知である。この結合は、PCR中に加熱する場合に阻害される。DNAヘリカーゼの添加は、プライマーのランダムアニーリングを妨げることも見出されている(Kaboev, O. K., et al., Bioorg Khim 25 (1999)398-400)。さらに、いくつかの場合において、ポリグルタミン酸(WO 00/68411)は、低温度でポリメラーゼ活性を阻害するために使用され得る。
【0016】
さらに、ポリアニオン性ポリメラーゼインヒビターは適用されたインキュベーション温度に依存する熱安定性DNAポリメラーゼの活性を調節し得ることが公知である。US 6,667,165は、不活性ポリメラーゼ-インヒビター複合体が40℃以下の温度で形成されることを特徴とするホットスタート態様を開示する。40℃〜55℃で、インヒビターはTaqポリメラーゼに結合するための鋳型DNAと競合するが、55℃を超える温度で、インヒビターはポリメラーゼ活性部位からはずされる。なお、インヒビターは、より低いアニーリング温度でプライマーが使用される場合に、得られ得る産物収量を減少する傾向がある。
【0017】
h)マグネシウム封鎖
熱安定性ポリメラーゼは、Mg2+カチオンの存在下のみで長時間活性であることが公知であるために、サーモサイクリングプロトコルの開始前にマグネシウムの封鎖がミスプライミングおよび非特異化プライマー伸張を回避するために試みられる。US 6,403,341に開示されるように、Mg2+は沈殿の形態で存在し得、従って、増幅反応の開始に利用可能ではない。第一ラウンドのサーモサイクリング中の温度上昇時に、沈殿物が溶解し、Mg2+が最初の3サイクル以内で十分に利用可能になる。このような溶液は、かなり実用的であり、良好なホットスタート結果を提供することができることが示されている。他方で、このような溶液は、核酸増幅反応を実施するために必要なプライマーおよび標的核酸を除く、全ての試薬を含むマスターミックスの調製を可能にしない。結果として、アッセイ間データ再現性およびデータ比較が複合化される。
【0018】
概略を述べた先行技術を考慮して、本発明の目的は、増幅プロセス自体の前だけでなくサーモサイクリングプロセス中にも非特異的なプライミングおよびプライマー伸張の阻害を可能にする、改善された代替的な組成物およびホットスタートPCRのための方法を提供することであった。より正確に、本発明の目的は、非特異的にアニーリングしたプライマーの伸張が起こり得ない、代替的な組成物およびホットスタートPCRのための方法を提供することであった。
【0019】
(発明の簡単な説明)
ポリメラーゼ連鎖反応を触媒することができるほとんどの熱安定性ポリメラーゼは、二価カチオン、通常Mg2+の存在に依存する。本発明は、温度依存的な様式で二価カチオンと結合する、ポリメラーゼ連鎖反応混合物に二価カチオン結合化合物を添加することでホットスタート効果を生じる原理に基づく。
【0020】
従って、第一の局面において、本発明は、二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ぺプチドに関する。
【0021】
好ましくは、本発明による前記合成ぺプチドは、0.01mM〜10000μMの親和性定数で前記二価カチオンと結合する。
【0022】
ほとんどの熱安定性ポリメラーゼはMg2+依存性であるために、前記二価カチオン結合部位は好ましくは、Mg2+と結合するモチーフ(motive)である。
【0023】
特定の態様において、本発明による合成ペプチドは、アミノ酸配列モチーフX1X2X3を少なくとも1度含み、
X1は負電荷アミノ酸、優先的にアスパラギン酸であり、
X2はグリシンまたは脂肪族アミノ酸のいずれかであり、
X3は負電荷アミノ酸である。
【0024】
第二の局面において、本発明は、
-熱安定性DNAポリメラーゼ
-少なくとも1種の二価カチオン、好ましくはMg2+
-デオキシヌクレオチド
-バッファ
-上記に開示される二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ぺプチド
を含む組成物に関する。
【0025】
好ましくは、本発明による前記組成物は、プライマーおよび/または増幅される標的核酸等の少なくとも1つの核酸化合物を更に含む。
【0026】
第三の局面において、本発明は、
-上記に開示されるペプチド、および
-熱安定性DNAポリメラーゼ
を含むキットに関する。
【0027】
第四の局面において、本発明は、
-標的核酸を含むことが疑われる試料を提供する工程、
-上記に開示される組成物を添加する工程、および
-ポリメラーゼ連鎖反応を実施する工程
を含む、特異的標的核酸の増幅方法に関する。
【0028】
特定の態様において、前記ポリメラーゼ連鎖反応は、リアルタイムでモニターされる。
【0029】
さらなる特定の態様において、前記増幅によって生じる増幅産物が融解曲線分析に供される。
【0030】
(発明の詳細な説明)
ポリメラーゼ連鎖反応を触媒することができるほとんどの熱安定性ポリメラーゼは、二価カチオン、通常Mg2+の存在に依存する。本発明は、温度依存的な様式で二価カチオンと結合する、ポリメラーゼ連鎖反応混合物に二価カチオン結合化合物を添加することでホットスタート効果を生じる原理に基づく。
【0031】
従って、第一の局面において、本発明は、二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ぺプチドに関する。17未満のアミノ酸長を有するより小さな合成ペプチドも使用され得る。二価カチオンのための結合部位は、少なくとも3〜4個のアミノ酸残基を必要とするために(以下を参照)、より小さいサイズ限界は、モノマーの二価カチオン結合部位を表わす3〜4個のアミノ酸からなるペプチドである。前記合成ぺプチドが1つより多くの二価カチオン結合部位モチーフを含む場合、すなわち、これらが前記モチーフを2回、3回または4回含む場合に、これはまた、本発明の範囲内である。しかし、二価カチオン結合配列モチーフを表すアミノ酸に加えて、本発明による前記合成ぺプチドは、このようなモチーフの一部でないが、前記ペプチドの他の特徴に寄与し得る更なるアミノ酸を含み得る。例えば、更なるアミノ酸残基は、異なる溶媒中の前記ペプチドの溶解性を増大し得る。
【0032】
本発明の文脈において、用語「合成ぺプチド」は、アミド結合で連結されたアミノ酸鎖として定義され、縮合によって化学合成される。しかし、単離および(任意に)断片化の手段によって生きた個体から得られたペプチドまたはペプチド断片は明確に除外される。
【0033】
このような合成ぺプチドは、当該技術分野で一般的に周知である方法によって使用され得る。合成は、アミノ酸がアミド結合を形成する手段によって縮合反応において発生するペプチド鎖に連結される自動化サイクリング反応に基づく。結合したアミノ酸の反応性側鎖は、適切に除去可能な保護基によって覆われる。当該技術分野の水準の包括的な概説がFields, G.B., Noble, R.L., J. Peptide Protein Res. 35(1990)161-214に与えられる。このような化学合成は、典型なH2N-末端(通常「H」と呼ばれる)およびカルボキシ-アミデートを有するC-末端(通常「−NH2」と呼ばれる)を有するペプチドの生成をもたらす。
【0034】
本発明によるペプチドは、二価カチオンと結合し得る。結合の強度は、ペプチドの一次ペプチド配列モチーフと共に二価カチオンの性質に主に依存する。好ましくは、本発明による前記合成ぺプチドは、中性pHで0.01mM〜10000μMの親和性定数で前記二価カチオンと結合する。EDTA等のより強い親和性割合(affinity rate)を有する化合物は増幅反応に添加される場合に悪い効果をもたらすが、他方で最小親和性割合がこのようなペプチド化合物が核酸増幅反応に添加される場合に測定可能な陽性効果を生み出すために必要とされる。より好ましくは、前記親和性定数は、0.1mM〜1000mMの値を有する。最も好ましくは、前記親和性定数は、1mM〜100mMの値を有する。
【0035】
ほとんどの熱安定性ポリメラーゼは、Mg2+依存性であるために、前記二価カチオン結合部位は、好ましくはMg2+と結合するモチーフである。
【0036】
以下のセクションで、以下のアミノ酸の分類が利用される。
サブクラスなし:
グリシン(Gly)G
プロリン(Pro)P
非極性、脂肪族:
アラニン(Ala)、A
バリン(Val)、V
ロイシン(Leu)、L
イソロイシン(Ile)I
【0037】
芳香族:
フェニルアラニン(Phe)、F
チロシン(Tyr)、Y
トリプトファン(Trp) W
【0038】
極性非電荷:
セリン(Ser)、S
トレオニン(Thr)、T
システイン(Cys)、C
メチオニン(Met)、M
アスパラギン(Asn)、N
グルタミン(Gln)、O
【0039】
正電荷:
リジン(Lys)、K
アルギニン(Ag)、R
ヒスチジン(His) H
【0040】
負電荷:
アスパラギン酸(Asp)、D
グルタミン酸(Glu) E
【0041】
好ましくは、本発明による合成ペプチドは、アミノ酸配列モチーフ(motive)X1X2X3を、少なくとも1回含み、
X1は負電荷アミノ酸、優先的にアスパラギン酸であり、
X2はグリシンまたは脂肪族アミノ酸のいずれかであり、
X3は負電荷アミノ酸である。
【0042】
一態様において、X3はグルタミン酸である。
【0043】
その場合、X2は、好ましくはイソロイシンである。また、好ましくは、X3に隣接するc末端に、トレオニンなどの極性非電荷アミノ酸であるX4がある。
【0044】
最も好ましくは、X2はイソロイシンであり、X3に隣接するc末端に、トレオニンなどの極性非電荷アミノ酸であるX4がある。
【0045】
別の態様において、X3はアスパラギン酸である。
【0046】
その場合(If this is he case)、X2は、好ましくはグリシンである。また、好ましくは、X1に隣接するN末端に、フェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸であるX0がある。
【0047】
最も好ましくは、X2はイソロイシンであり、X1に隣接するN末端に、フェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸であるX0がある。
【0048】
第2の局面において、本発明は、
− 熱安定性DNAポリメラーゼ
− 少なくとも1種の二価カチオン、好ましくはMg2+
− デオキシヌクレオチド
− バッファー
− 上記に開示した二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ペプチド
を含む組成物に関する。
【0049】
本発明によるかかる組成物は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の形態の核酸増幅反応を行なうために使用されている。
【0050】
熱安定性ポリメラーゼとして、種々の多くの酵素が使用され得る。好ましくは、前記熱安定性DNAポリメラーゼは、エアロパイラム・ペルニクス、アーキオグロブス・フルジダス、デスルフロコッカス種Tok.、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム、メタノコッカス種(例えば、ヤニシ、ボルタエ)、メタノサーマス・フェルビダス、パイロコッカス種(フリオサス、GB-D種、ウーゼイ、アビシ、ホリコシ、KOD、Deep Vent、Proofstart )、パイロディクチウム・アビシ、パイロディクチウム・オカルタム、スルホロバス種(例えば、アシドカルダリアス、ソルファタリカス)、サーモコッカス種(ジリギ、バロッシ、ファミコランス、ゴルゴナリアス、JDF-3、コダカラエンシスKODI、リトラリス、9デグリー ノース-7種、JDF-3種、ゴルゴナリアス、TY)、サーモプラズマ・アシドフィラム、テルモシフォ・アフリカナス、サーモトガ種(例えば、マリティマ、ネアポリタナ)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム、サーマス種(例えば、アクアティカス、ブロッキアナス、フィリフォルミス、フラバス、ラクテウス、ルーベンス、ルーバー、サーモフィラス、ZO5またはダイナザイム)からなる群より選択される。また、その変異体、バリアントまたは誘導体、キメラまたは「融合-ポリメラーゼ」、例えば、Phusion (FinnzymesもしくはNew England biolabs、カタログ番号F-530S)またはiProof (Biorad、カタログ番号172-5300)、Pfx Ultima (Invitrogen、カタログ番号12355012)またはHerculase II Fusion (Stratagene、カタログ番号600675)は本発明の範囲内である。さらに、本発明による組成物は、上記のポリメラーゼの1種類以上の混合物を含み得る。
【0051】
一態様において、熱安定性DNAポリメラーゼは、DNA依存性ポリメラーゼである。別の態様において、熱安定性DNAポリメラーゼは、さらなる逆転写酵素活性を有し、RT-PCRに使用され得る。かかる酵素の1つの例は、サーマス・サーモフィラス(Roche Diagnosticsカタログ番号:11 480 014 001)である。また、レトロウイルス逆転写酵素、例えば、MMLV、AMV、AMLV、HIV、EIAV、RSV由来のポリメラーゼおよびこれらの逆転写酵素の変異体を有する上記のポリメラーゼの1種類以上の混合物は、本発明の範囲内である。
【0052】
二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ペプチドは、いったん組成物を用いて標的核酸を増幅したら「ホットスタート効果」を可能にする濃度で存在する。通常、Mg2+結合部位を含むペプチドは、0.1〜10mMの最終濃度で存在し得る。好ましくは、Mg2+結合部位を含むペプチドは、0.5〜5mMで存在する。1〜3mMの濃度が非常に好ましい。
【0053】
DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチドおよびその他のバッファー成分の濃度は、標準的な量で存在し、その濃度は、当該技術分野で周知である。Mg2+濃度は、0.1mM〜3mMで異なり得、好ましくは適合され、実験により最適化される。しかしながら、最適濃度は、通常、使用される実際のプライマー配列に依存するため、理論的に予測できない。
【0054】
上記に開示した組成物に加え、これらの組成物が少なくとも1つの核酸化合物を更に含む場合もまた、本発明の範囲内である。例えば、かかる組成物は、核酸増幅反応を行なうのに有用な少なくとも1対の増幅プライマーを含み得る。本発明による組成物はまた、PCR反応混合物であり得、これは、さらに、少なくとも部分的に精製された核酸試料を含み、該混合物から、前記試料中に存在することが疑われる標的核酸配列が増幅される。
【0055】
さらに、かかる組成物は、それぞれの増幅産物をリアルタイムで検出するための蛍光化合物、ならびに限定されないが、FRETハイブリダイゼーションプローブ、TaqManプローブ、分子ビーコンおよび単一標識プローブからなる群より選択される、以下に開示される検出方法に有用なそれぞれ2、3、4または5〜6種類に種々に標識されたハイブリダイゼーションプローブを含み得る。代替的に、かかる組成物は、二本鎖DNAに結合された場合にのみ蛍光を発するSybrGreenなどのdsDNA結合蛍光存在物を含有し得る。
【0056】
第3の局面において、本発明は、少なくとも
(i) 熱安定性DNAポリメラーゼ
(ii) 上記に開示された合成Mg2+結合ペプチド
を含むキットに関し、好ましくは、かかるキットは、少なくとも
(i) 熱安定性DNAポリメラーゼ
(ii) 上記に開示された合成Mg2+結合ペプチド、および
(iii) 最終Mg2+濃度を調整するためのMgCl2ストック溶液
を含む。
【0057】
最も好ましくは、かかるキットは、少なくとも
(i) 熱安定性DNAポリメラーゼ
(ii) 上記に開示された合成Mg2+結合ペプチド
(iii) 最終Mg2+濃度を調整するためのMgCl2ストック溶液
(iv) デオキシヌクレオシド三リン酸の混合物、および
(v) バッファー
を含む。
【0058】
また、本発明によるかかるキットは、少なくとも1対の増幅プライマーを含む、パラメータ特異的キットであり得る。かかるキットはまた、多数の対の増幅プライマー、好ましくは2、3、4または5対の増幅プライマーを含み得る。
【0059】
さらに、かかるキットは、それぞれの増幅産物をリアルタイムで検出するための蛍光化合物、ならびに限定されないが、FRETハイブリダイゼーションプローブ、TaqManプローブ、分子ビーコンおよび単一標識プローブからなる群より選択される、以下に開示される検出方法に有用なそれぞれに2、3、4または5〜6種類の種々に標識されたハイブリダイゼーションプローブを含み得る。代替的に、かかるキットは、二本鎖DNAに結合された場合にのみ蛍光を発するdsDNA結合蛍光存在物を含み得る。例えば、かかるキットはSybrGreenを含み得る。
【0060】
例示的な一態様において、かかるキットは、一工程RT-PCRを行なうために特別に適合され、Taq DNAポリメラーゼおよびAMV逆転写酵素などの逆転写酵素の混合物を含む。さらなる例示的な特定の態様において、かかるキットは、一工程リアルタイムRT-PCRを行なうために特別に適合され、SybrGreenなどの核酸検出存在物または蛍光標識された核酸検出プローブを含む。
【0061】
異なる成分は各々、異なる容器に個々に保存され得る。代替的に、異なる成分は、すべて一緒に1つの保存容器に保存され得る。また、代替的に、成分(i)〜(v)のサブセットのみの任意に選択された組合せが一緒に保存され得る。好ましい態様において、酵素(i)または酵素+MgU2、dNTP(i、ii、iv、v)およびペプチドを含有する反応バッファーなどの成分が一緒に保存される。
【0062】
第4の局面において、本発明は、
-標的核酸を含むことが疑われる試料を提供する工程
-上記に開示した組成物を添加する工程
-核酸増幅反応を行なう工程
を含む、特異的標的核酸の増幅方法に関する。
【0063】
核酸増幅反応を行なうため、および最適化するための方法は、当該技術分野で周知である。特に、当該技術分野で使用される最も一般的な方法は、US 4,683,195、US 4,683,202およびUS 4,965,188に詳細に開示されたポリメラーゼ連鎖反応である。
【0064】
特に、本発明による方法は、
a) 増幅されるべき標的核酸を含むことが疑われる試料を提供する工程
b) 二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ペプチドを提供する工程
c) DNAポリメラーゼ、dNTP、バッファーおよびMg2+塩を提供する工程
d) 所定の標的核酸を特異的に増幅するように設計された1対の増幅プライマーを提供する工程
を含む。
【0065】
記載されたすべての成分の添加は、任意の順で行なわれ得る。しかしながら、ホットスタート効果を達成するため、すなわち、熱サイクル増幅プロトコルそれ自体の前に低温でのミスプライマー結合およびその後のプライマー伸長を妨げるため、DNAポリメラーゼ、dNTPおよび増幅プライマーを合わせる前に、前記合成ペプチドが反応混合物に添加されることは重要である。
【0066】
二価カチオン結合部位を含む前記合成ペプチドがどのようにしてより特異的な増幅反応をもたらすのかという機構は詳細に知られていないが、低温では、ペプチドが、それ自体がプライマー伸長反応におけるDNAポリメラーゼの補因子であることが知られているMg2+と複合体を形成すると仮定するのが妥当である。定量的複合体形成により、遊離Mg2+の濃度の減少がもたらされ、その結果、DNAポリメラーゼ活性が、その補因子の利用可能性の欠如により不活性化される。温度サイクルプロトコルの開始後、合成ペプチドと二価カチオン間の熱不安定性複合体が分離され、Mg2+が再びプライマー伸長反応を触媒するポリメラーゼの補因子として利用可能になる。
【0067】
好ましくは、核酸増幅中に添加される合成ペプチドは、アミノ酸配列モチーフX1X2X3を少なくとも1回含み、
X1は負電荷アミノ酸、優先的にアスパラギン酸であり、
X2はグリシンまたは脂肪族アミノ酸のいずれかであり、
X3は負電荷アミノ酸である。
【0068】
一態様において、X3はグルタミン酸である。
【0069】
その場合、X2は、好ましくはイソロイシンである。また、好ましくは、X3に隣接するC末端に、トレオニンなどの極性非電荷アミノ酸であるX4がある。
【0070】
最も好ましくは、X2はイソロイシンであり、X3に隣接するC末端に、トレオニンなどの極性非電荷アミノ酸であるX4がある。
【0071】
別の態様において、X3はアスパラギン酸である。
【0072】
その場合、X2は、好ましくはグリシンである。また、好ましくは、X1に隣接するN末端に、フェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸であるX0がある。
【0073】
最も好ましくは、X2はイソロイシンであり、X1に隣接するN末端に、フェニルアラニンなどの芳香族アミノ酸であるX0がある。
【0074】
特定の態様において、前記ポリメラーゼ連鎖反応は、リアルタイムでモニターされる。かかるモニタリングには異なる検出形態がある。
【0075】
a) TaqMan形態:
単鎖ハイブリダイゼーションプローブを2つの成分で標識する。第1の成分が適当な波長の光で励起されると、吸収されたエネルギーは、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に従って、いわゆるクエンチャーである第2の成分に移動される。PCR反応のアニーリング工程中、ハイブリダイゼーションプローブが標的DNAに結合し、続く伸長相中に、Taqポリメラーゼの5’-3’エキソヌクレアーゼ活性によって分解される。その結果、励起された蛍光成分およびクエンチャーが空間的に互いに分離され、したがって、第1の成分の蛍光発光が測定され得る。TaqManプローブアッセイは、US 5,210,015、US 5,538,848、およびUS 5,487,972に詳細に開示されている。TaqMan ハイブリダイゼーションプローブおよび試薬混合物は、US 5,804,375に開示されている。
【0076】
b) 放出形態:
さらに、標的核酸への結合に関してマッチまたはミスマッチ状態による標識された3’末端ヌクレオチドの放出の特異的検出の原理に基づく、対立遺伝子特異的検出に限定された2つの他の形態が最近開示された。US 6,391,551は、標的配列とプローブとの間に完全なマッチが生じた場合、解重合酵素によってハイブリダイゼーションプローブの3’末端ヌクレオチドが放出されることを特徴とする方法を開示する。同様に、EP 0 930 370は、プライマーと増幅標的との間に完全なマッチが生じない場合、3’-5’プルーフリーディング活性により1つの部分が除去されることを特徴とする、レポーターおよびクエンチャー部分で標識されたプライマーを使用することを示唆する。
【0077】
c) 分子ビーコン:
これらのハイブリダイゼーションプローブはまた、第1の成分およびクエンチャーで標識され、標識は、好ましくはプローブの両端に位置する。プローブの二次構造の結果、両成分は、溶液中で空間的に近接する。標的核酸へのハイブリダイゼーション後、両成分が互いに分離され、適当な波長の光での励起後、第1の成分の蛍光発光が測定され得る(US 5,118,801)。
【0078】
d) FRETハイブリダイゼーションプローブ:
FRETハイブリダイゼーションプローブ試験形態は、すべての種類の均一系ハイブリダイゼーションアッセイ(Matthews, J.A.、およびKricka, L.J.、Analytical Biochemistry 169 (1988) 1-25)に特に有用である。これは、同時に使用され、増幅された標的核酸の同じ鎖の隣接部位に相補的な2種類の単鎖ハイブリダイゼーションプローブを特徴とする。両方のプローブは、異なる蛍光成分で標識される。適当な波長の光で励起した場合、第1の成分は、蛍光共鳴エネルギー移動の原理に従って吸収されたエネルギーを第2の成分に移動させ、両方のハイブリダイゼーションプローブが、検出される標的分子の隣接位置に結合する場合、第2の成分の蛍光発光が測定され得る。FRETアクセプター成分の蛍光の増加のモニタリングの代替として、ハイブリダイゼーション事象の定量的測定としてFRETドナー成分の蛍光の減少をモニターすることも可能である。
【0079】
特に、FRETハイブリダイゼーションプローブ形態は、増幅された標的DNAを検出するため、リアルタイムPCRに使用され得る。リアルタイムPCRの技術分野で公知のすべての検出形態のうち、FRET-ハイブリダイゼーションプローブ形態は、非常に感度がよく、正確で信頼性があることが証明されている(WO 97/46707;WO 97/46712;WO 97/46714)。2種類のFRETハイブリダイゼーションプローブの使用の代替として、蛍光標識プライマーおよび1種類のみの標識されたオリゴヌクレオチドプローブを使用することも可能である(Bernard, P. S., et al., Analytical Biochemistry 255 (1998) 101-107)。これに関して、プライマーをFRETドナーで標識するか、FRETアクセプター化合物で標識するかは、任意に選択され得る。
【0080】
e) 単一標識プローブ(SLP)形態:
この検出形態は、5’-または3’-末端のいずれかが単一の蛍光色素で標識された単一のオリゴヌクレオチドからなる(WO 02/14555)。オリゴ標識のために、2つの異なる設計:G-クエンチング(Quenching)プローブおよびニトロインドール-脱クエンチング(Dequenching)プローブが使用され得る。G-クエンチング態様において、蛍光色素は、オリゴ 5’-または3’-末端のCに結合される。2つのGが、Cに対向する標的鎖上で相補的なオリゴヌクレオチドプローブの側の1位に位置する場合、プローブが標的にハイブリダイズされると、蛍光は有意に減少する。ニトロインドール脱クエンチング態様では、蛍光色素が、オリゴヌクレオチドの5’-または3’-末端でニトロインドールに結合される。ニトロインドールは、遊離プローブの蛍光シグナル伝達をいくぶん減少させる。脱クエンチング効果によりプローブが標的DNAとハイブリダイズした場合、蛍光は増大する。
【0081】
f) SybrGreen形態:
増幅産物が二本鎖核酸結合部分を用いて検出される場合に、リアルタイムPCRが本発明による添加剤の存在下で行なわれる場合もまた本発明の範囲である。例えば、それぞれの増幅産物はまた、適当な波長の光での励起後、二本鎖核酸との相互作用時に、対応する蛍光シグナルを発する蛍光DNA結合色素によって本発明に従って検出され得る。色素SybrGreenIおよびSybrGold(Molecular Probes)は、この適用に特に適当であることが証明されている。インターカレート色素は代替的に使用され得る。しかしながら、この形態では、異なる増幅産物を区別するために、それぞれの融解曲線分析を行なうことが必要である(US 6,174,670)。
【0082】
本発明のさらなる局面は、上記に開示の二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ペプチドが、リアルタイムPCRおよび続く融解曲線分析に使用されることを特徴とする方法に関する。
【0083】
SybrGreen形態を用いたリアルタイムアンプリコン検出は、特異的産物とプライマー/ダイマーなどの増幅人工物とを区別することができないという事実のために、通常、続いて融解曲線分析が行なわれる。PCR-反応の終了後、試料の温度は構成的に増大し、SybrGreenが、試料中に存在する二本鎖DNAに結合している限り、蛍光が検出される。二本鎖DNAの解離時、シグナルは直ちに減少する。この減少は、最大の蛍光減少が観察される一次導関数の値が決定され得るように、適切な蛍光対温度-時間プロットによりモニターされる。通常、プライマー/ダイマー二本鎖DNAは短いため、単鎖DNAへの解離は、二本鎖特異的増幅産物の解離と比べて低温で起こる。
【0084】
かかる融解曲線分析中、二価カチオン結合部位を有する合成ペプチドが試料中に存在する場合、それぞれの蛍光対温度-時間プロットの一次導関数が決定されたとき、多くの場合で、ずっとシャープな曲線が得られる。
【0085】
PCRおよびリアルタイムPCRの他に、FRETハイブリダイゼーションプローブが融解曲線分析に使用される。かかるアッセイにおいて、標的核酸は、まず、適当な増幅プライマーを用いる典型的なPCR反応において増幅される。ハイブリダイゼーションプローブは、増幅反応中に既に存在し得るか、後に添加され得る。PCR-反応の終了後、試料の温度は構成的に増大し、ハイブリダイゼーションプローブが標的DNAに結合している限り、蛍光が検出される。融解温度では、ハイブリダイゼーションプローブがその標的から放出され、蛍光シグナルは、直ちにバックグラウンドレベルまで減少する。この減少は、最大の蛍光減少が観察される一次導関数の値が決定され得るように、適切な蛍光対温度-時間プロットによりモニターされる。
【0086】
かかる融解曲線分析中、二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ペプチドが試料中に存在する場合、それぞれの蛍光対温度-時間プロットの一次導関数が決定されたとき、ずっとシャープな曲線が得られる。分子ビーコンまたは単一の標識プローブのいずれかが融解曲線分析のための検出実体として使用される場合、同様の効果が観察され得る。
【0087】
以下の実施例、配列表および図面は、本発明の理解を補助するために提供され、その真の範囲は添付の特許請求の範囲に示されている。本発明の精神から逸脱することなく、示された手順において変形がなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0088】
実施例1:
配列H-DIETDIET-NH2を有するペプチドを合成し、HPLC精製し、凍結乾燥し、30mM Tris-HCl、pH8.5中に溶解した。PCR反応は、50ng、25ng、10ng、5ngまたは1ngのヒトゲノムDNA、2.5単位のTaqポリメラーゼ(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)、0.4mMのフォワードプライマー(aga cag tac agc cag cct ca)(配列番号:1)、0.4mMのリバースプライマー(gac ttc aaa ttt ctg ctc ctc)(配列番号:2)、0.2mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdCTP、Taq PCR反応バッファー(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)を、H-DIETDIET-NH2-ペプチドの有り無しで含む50μl容量中で行なった。PCRは、以下のとおり:94℃で2分間、94℃で10秒、60℃で30秒および72℃で30秒ならびに72℃で7分間にわたる最終伸長工程を35サイクルで行なった。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。
【0089】
図1に見られ得るように、2.0mMの開示されたペプチドの添加により、プライマー/ダイマー増幅産物の生成の有意な減少がもたらされる。
【0090】
実施例2:
配列H-FDGDFDGD-NH2を有するペプチドの分析。PCR反応は、25ngまたは10ngのヒトゲノムDNA、2.5単位のTaqポリメラーゼ(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)、0.4mMのフォワードプライマー(aga cag tac agc cag cct ca)(配列番号:1)、0.4mMのリバースプライマー(agt atg ccc ccg cac agg a)(配列番号:3)、0.2mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdCTP、Taq PCR反応バッファー(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)を、H-FDGDFDGD-NH2-ペプチドの有り無しで含む50μl容量中で行なった。PCRサイクル条件は以下のとおり:94℃で2分間、94℃で10秒、60℃で30秒および72℃で30秒ならびに72℃で7分間にわたる最終伸長工程を35サイクルであった。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。
【0091】
図2に見られ得るように、3mMのH-FDGDFDGD-NH2の添加により、プライマー/ダイマー生成物形成の減少がもたらされる。平行して、特異的生成物の形成の増大が観察される。
【0092】
実施例3:
配列H-DIETDIET-NH2を有するペプチドをリアルタイムRT-PCRにおいて分析した。PCR反応は、Roche Applied ScienceのLightCycler h-G6PDH Housekeeping遺伝子キット(カタログ番号:3261883)において入手可能な102、103、104、105および106コピーのRNA標準、2.4単位のTranscriptorおよび1.6単位のFastStartポリメラーゼ、LightCycler RNA Amplification Kit SYBR Green (Roche Applied Scienceカタログ番号12 015 137 001)の反応バッファー、0.5mMのフォワードプライマー(ggg tgc atc ggg tga cct g)(配列番号:4)、0.5mMのリバースプライマー(agc cac tgt gag gcg gga)(配列番号:5)を、 1mMのH-DIETDIET-NH2-ペプチドの有り無しで含む20μl容量において行なった。PCRは、LightCycler 2.0において以下のとおり:55℃で10分間、95℃で10分間、95℃で10秒、55℃で10秒および72℃で13秒を45サイクルで行なった。
【0093】
この実施例の結果を図3に示す。これは、マグネシウム結合ペプチドがRT-PCRにおいてプライマー-ダイマー形成を低減することを示す。増幅曲線(図3a)は、ペプチドの非存在下で、非特異的生成物が形成されることを示す。102、103および104コピーの標的から増幅されたPCR産物は、類似したcp-値で検出される。増幅曲線は、いくつかの形成された生成物から派生され得る。図3bに示す融解曲線分析において、2つの融解プロフィールが、103および102コピーの標的RNAで検出可能である。これらの標的希釈物では、融解曲線は、2つの生成物を示す。
【0094】
図3cは、1mMのマグネシウム結合ペプチドの存在下の増幅曲線を示す。標的希釈物の増幅産物は、増大する交点で検出され、増幅曲線は充分分離する。また、図3dの融解曲線分析において、マグネシウム結合ペプチドなしの実験と比べて、特異性の増大が観察される。特異的生成物のTmを有する1つの融解曲線で、106〜103の標的希釈物が排他的に検出される。102コピーの標的を有する試料では、主生成物は特異的生成物であり、プライマー-ダイマーはほとんど観察されない。
【0095】
実施例4:
配列H-DIETDIETDIET-NH2(配列番号:8)を有するペプチドを合成し、HPLC精製し、凍結乾燥し、30mMのTris-HCl、pH8.5中に溶解した。PCR反応は、50ng、25ng、10ng、5ngまたは1ngのヒトゲノムDNA、2.5単位のTaqポリメラーゼ(Roche Applied Science カタログ番号11146165001)、0.4mMのフォワードプライマー(cac ccc gtg ctg ctg acc ga)(配列番号:6)、0.4mMのリバースプライマー(agg gag gcg gcc acc aga ag)(配列番号:7)、0.2mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdCTP、Taq PCR反応バッファー(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)を、図4に示す量のH-DIETDIETDIET-NH2ペプチドの有り無しで含む50μl容量中で行なった。PCRは、以下のとおり:94℃で2分間、94℃で10秒、65℃で30秒および72℃で15秒ならびに72℃で7分間にわたる最終伸長工程を35サイクルで行なった。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。
【0096】
図4は、配列DIETDIETDIETを有するマグネシウム結合ペプチドの効果を示す。ペプチドがPCR反応混合物中に存在する場合、特異的生成物の形成(→)に影響することなく、プライマーダイマー生成物の形成(⇒)が抑制される。
【0097】
実施例5:
配列H-DIET-NH2を有するペプチドを合成し、HPLC精製し、凍結乾燥し、30mMのTris-HCl、pH8.5中に溶解した。PCR反応は、50ng、25ng、10ng、5ngまたは1ngのヒトゲノムDNA、2.5単位のTaqポリメラーゼ(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)、0.4mMのフォワードプライマー(aga cag tac agc cag cct ca)(配列番号:1)、0.4mMのリバースプライマー(gac ttc aaa ttt ctg ctc ctc)(配列番号:2)、0.2mMのdATP、dCTP、dGTPおよびdCTP、Taq PCR反応バッファー(Roche Applied Scienceカタログ番号11146165001)を、H-DIET-NH2-ペプチドの有り無しで含む50μl容量中で行なった。PCRは、以下のとおり:94℃で2分間、94℃で10秒、60℃で30秒および72℃で30秒ならびに72℃で7分間にわたる最終伸長工程を35サイクルで行なった。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析した。少なくとも3mMのH-DIET-NH2の存在下で、プライマー/ダイマー形成の減少が観察された。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、実施例1に開示される配列DIETDIETを有するマグネシウム結合ペプチドの効果を示す。プライマー二量体産物形成(⇒)は、ペプチドが特異的産物形成(→)に影響しないPCR反応混合物に存在する場合に抑制される。レーン1:Roche Applied Scienceの分子量マーカーVI 2,7:50ngの鋳型DNA 3,8:25ngの鋳型DNA 4,9:10ngの鋳型DNA 5,10:5ngの鋳型DNA 6,11:1ngの鋳型DNA
【0099】
レーン2〜6の産物はペプチドの非存在下で増幅され、レーン7〜11の産物は2mMの配列H-DIETDIET-NH2を有するペプチドの存在下で増幅された。
【0100】
プライマー二量体産物形成(⇒)は、ペプチドが特異的産物形成(→)に影響しないPCR反応混合物に存在する場合に抑制される。
【図2】図2は、配列H-FDGDFDGD-NH2のマグネシウム結合ペプチドの効果を示す。プライマー二量体産物形成(⇒)は、ペプチドがPCR反応物に存在し、平行して特異的産物形成(→)の増大が観察される場合に減少する。レーン1:Roche Applied Scienceの分子量マーカーVI 2:25ngの標的DNA、ペプチドなし 3:25ngの標的DNA、3mMのペプチド 4:10ngの標的DNA、ペプチドなし 5:10ngの標的DNA、3mMのペプチド
【図3a】図3aは、マグネシウム結合ペプチドの非存在下で102から106コピーのG6PDH RNAを用いたRT-PCRである。
【図3b】図3bは、マグネシウム結合ペプチドの非存在下で102から106コピーのG6PDH RNAを用いたRT-PCRの融解曲線分析である。
【図3c】図3cは、1mMのマグネシウム結合ペプチドの存在下で102から106コピーのG6PDH RNAを用いたRT-PCRである。
【図3d】図3dは、1mMのマグネシウム結合ペプチドの存在下で102から106コピーのG6PDH RNAを用いたRT-PCRの融解曲線分析である。
【図4】図4は、レーン2〜6の産物は、ペプチドH-DIETDIETDIET-NH2の非存在下で増幅され、レーン7〜11の産物は、2.0mMの配列H-DIETDIETDIET-NH2を有するペプチドの存在下で増幅されたことを示す。プライマー二量体産物形成(⇒)は、ペプチドが特異的産物形成(→)に影響しないPCR反応混合物に存在する場合に抑制される。レーン1,12:Roche Applied Scienceの分子量マーカーV 2,7:50ngの鋳型DNA 3,8:25ngの鋳型DNA 4,9:10ngの鋳型DNA 5,10:5ngの鋳型DNA 6,11:1ngの鋳型DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価カチオン結合部位を含む30以下のアミノ酸長を有する合成ぺプチド。
【請求項2】
0.01mM〜10000μMの親和性定数で前記二価カチオンと結合する、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
Mg2+と結合する、請求項1〜2いずれか記載のペプチド。
【請求項4】
ペプチド配列X1X2X3を少なくとも1度含み、
X1は負電荷アミノ酸、優先的にアスパラギン酸であり、
X2はグリシンまたは脂肪族アミノ酸のいずれかであり、
X3は負電荷アミノ酸である
、請求項3記載のペプチド。
【請求項5】
−熱安定性DNAポリメラーゼ
−少なくとも1種の二価カチオン、好ましくはMg2+
−デオキシヌクレオチド
−バッファ
−請求項1〜4いずれか記載の合成ペプチド
を含む組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの核酸化合物を更に含む、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
−請求項1〜4いずれか記載のペプチド
−熱安定性DNAポリメラーゼ
を含むキット。
【請求項8】
−標的核酸を含むことが疑われる試料を提供する工程
−請求項5〜6いずれか記載の組成物を添加する工程
−核酸増幅反応を実施する工程
を含む、特異的標的核酸の増幅方法。
【請求項9】
前記核酸増幅反応がリアルタイムでモニターされるポリメラーゼ連鎖反応であることを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記増幅によって生じる増幅産物が融解曲線分析に供されることを特徴とする、請求項8〜9いずれか記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−528283(P2009−528283A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555707(P2008−555707)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001585
【国際公開番号】WO2007/096182
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】