説明

マグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材

【課題】
本発明は、カルシウム成分およびマグネシウム成分を豊富に含む焼却灰を酸性土壌改良材として利用するために、マグネシウム溶出性能を改善することにより、安全性が高く、しかも農作物の生産性を持続的に向上させる性能に優れた酸性土壌改良材を提供することを課題とする。
【解決手段】
焼却灰に、硫酸アルミニウム類および濃硫酸、特には木質バイオマスを酸加水分解処理して糖液と分離された廃硫酸を加えて粒状化したマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材に関する。詳細には、本発明は、焼却灰に硫酸アルミニウム類および濃硫酸、特には木質バイオマスを酸加水分解処理して糖液と分離された廃硫酸を加えて粒状化した酸性土壌改良材であって、硫酸アルミニウム類および濃硫酸の添加量による焼却灰の水素イオン指数(pH)の調整により、マグネシウムの溶出性能を改善し、かつフッ素並びに有害重金属の溶出を抑制した、安全性が高く、しかも農作物の生産性を持続的に向上させる性能に優れた酸性土壌改良材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素および二酸化硫黄の存在増により雨水の酸性化が進み、土壌の化学風化やカルシウムなどの塩基性イオンの溶脱が進行した結果、土壌の酸性化が拡大している。酸性土壌では、溶けにくいアルミニウムや鉄の酸化物があとに残り、リンを難溶性の形態で土壌に保持し、それが農作物の生産性を低下させてしまう。また酸性土壌では、アルミニウムイオンがAl3+の形で遊離し、土壌溶液の水素イオン指数(pH)の低下に従って、 Al3+の濃度が高くなる。ここで、Al3+は植物の根の伸長を阻害する働きがあるので、酸性土壌の改良は、農業・林業生産上の課題となっている。
【0003】
酸性土壌は、生石灰(酸化カルシウム)、消石灰(水酸化カルシウム)、炭酸カルシウムなどのカルシウムを含む石灰肥料で中和されることが知られている。さらに酸性土壌の中和剤としては、上記石灰肥料の他に、石膏(硫酸カルシウム)、炭などが知られている。
【0004】
農業系バイオマスを燃焼させて得られる草木灰あるいは、各工業で固体燃料(石炭など)、バイオマス固形化燃料(木質ペレットなど)、廃棄物系バイオマス(製紙汚泥など)を燃焼させて副生成する焼却灰には、カルシウムなどが多く含まれ、塩基性陽イオンを放出する作用により、前記石灰肥料の代替として用いることができる。中和のメカニズムはそれらに含まれるカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、とりわけカルシウムが塩基性陽イオンになる反応による。
【0005】
ところが、石灰肥料や焼却灰は、カルシウムを一過的に多量に溶出してしまい、必ずしも酸性土壌の中和剤として適切ではない。すなわち、我々の研究によれば、焼却灰から平成15年環境省告示第18号に基づく溶出試験(以下「環告18号試験」という)により溶出されるカルシウムが357mg/Lに対し、葉緑素の構成元素として植物の生育に必須であるマグネシウムの溶出は0.01mg/Lにも満たなかった。これは、焼却灰の全カルシウムに占める交換性カルシウムの割合が約80%であるのに対し、全マグネシウムに占める交換性マグネシウムの割合が数%であることによる。その結果、焼却灰を化工しないで施用した場合、土壌溶液に含まれるマグネシウムイオン量は、土壌溶液のpHに依存して減少し、土壌からのマグネシウム溶出を抑制してしまい、植物の成長にクロロシス(黄化)などの負の影響を与えることが明らかとなった(非特許文献1)。以上のことから、マグネシウムの溶出性能を改善することが課題である。
【0006】
さらに焼却灰は、廃棄物として埋め立て処分されるかあるいは、セメント原料などにリサイクル利用される場合がほとんどで、酸性土壌改良材としての利用技術の開発はまだ十分ではない。この背景としては、焼却灰からしばしばフッ素やホウ素などの土壌汚染対策法の規制物質が基準値以上に溶出することが挙げられる。
【0007】
この課題に対し、焼却灰に、酸化カルシウム類、水酸化カルシウム類、アルミナセメント、高炉セメント、硫酸アルミニウム類、希硫酸などを加えて混合処理することにより、フッ素やホウ素の溶出を規制値以下に抑制する焼却灰の処理方法が開示されており、特許文献1、2、3などに例示される。
【0008】
しかしながら、このような方法で安全性に配慮して適切に処理された焼却灰を粒状化した酸性土壌改良材を施用した場合であっても、前述のようにカルシウムとマグネシウムの溶出が極めてアンバランスであるため、農作物の生産性を向上させる目的には、別途マグネシウム(苦土)肥料を併用する必要があることが我々の研究により判明した(非特許文献1)。これでは、農・林業上の生産コスト増になり、普及が妨げられる。
【0009】
焼却灰のマグネシウム溶出性能を改良する目的には、マグネシウム化合物を配合する方法(例えば特許文献4)があるが、我々の研究によれば、水溶性のマグネシウム化合物は、前述の安全性の目的で添加される酸化カルシウム類や硫酸アルミニウム類と共に不溶化して、マグネシウムはほとんど溶出しないことが明らかとなっている。また、焼却灰に酸を加える方法が考えられる(例えば特許文献5)が、酸加水分解により溶出されるイオンには、砒素、六価クロムなどの土壌汚染対策法の規制重金属が含まれる可能性がある(例えば特許文献6)。このため、これら有害重金属類の溶出を抑制するための処理処方が求められる。
【0010】
焼却灰を原材料として、このような不利な点を改善し、安全性が高く、しかも農作物の生産性を持続的に向上させるマグネシウム溶出性能に優れた酸性土壌改良材については、全く知られていない。
【特許文献1】特開2005−329343号公報
【特許文献2】特開2006−181535号公報
【特許文献3】特開2006−198505号公報
【特許文献4】特開2005−103464号公報
【特許文献5】特許第3743729号公報
【特許文献6】特開2005−161123号公報
【非特許文献1】第57回日本木材学会広島大会発表要旨PQ013
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、焼却灰を酸性土壌改良材として利用するために、マグネシウムの溶出性能を改善することにより、安全性が高く、しかも農作物の生産性を持続的に向上させる性能に優れた酸性土壌改良材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成することができる本発明は、焼却灰に硫酸アルミニウム類および濃硫酸を加えて粒状化したマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材である。
【0013】
本発明者らは、焼却灰に含まれるマグネシウムなどの植物の成長に必要な元素のみを優先的に溶出させ、有害重金属類の溶出を抑制させる処方について鋭意研究した。その結果、硫酸アルミニウム類および濃硫酸を加えて焼却灰のpHを下げていった時に、マグネシウムの溶出が促進されること、硫酸アルミニウム存在下に濃硫酸を25質量%以上添加し、pHを9以下にした場合に、フッ素だけでなくクロムの溶出も抑制されること、木質バイオマスを酸加水分解して糖液と分離されたシュウ酸を含む廃硫酸を用いた場合に、シュウ酸の還元作用によって六価クロムの生成が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、焼却灰に硫酸アルミニウム類および濃硫酸を加えて粒状化したマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材であり、以下の各発明を包含する。
【0015】
(1)焼却灰に硫酸アルミニウム類および濃硫酸を加えて粒状化した粒状物であって、平成15年環境省告示第18号に基づく溶出試験方法によるマグネシウムの溶出量が2mg/L以上であり、かつフッ素の溶出量が0.8mg/L以下および六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であるマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
(2)濃硫酸が、木質バイオマスを酸加水分解処理して糖液と分離された廃硫酸である(1)記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
(3)廃硫酸が、樹皮を酸加水分解処理して糖液と分離されたシュウ酸を含む廃硫酸である(2)記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
(4)硫酸アルミニウム類の添加量が焼却灰に対して1〜10質量%であり、かつ濃硫酸あるいは廃硫酸の添加量が、焼却灰に対して10〜50質量%である(1)〜(3)のいずれか1項に記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
(5)酸性土壌改良材の水素イオン指数が、pH6〜10に調整されている(1)〜(4)のいずれか1項に記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、環告18号試験によるマグネシウムの溶出量が2mg/L以上である酸性土壌改良材であり、焼却灰に含まれるカルシウムおよびマグネシウムを同時にバランス良く溶出することができるため、優れた酸性土壌改良効果を発揮できる。しかも焼却灰に含まれるフッ素や六価クロムなどの土壌汚染対策法の規制物質の溶出を基準値以下に抑制することができるため、高い安全性を有する酸性土壌改良効果を発揮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材について具体的に説明する。
【0018】
本発明で使用される焼却灰としては、農業系バイオマスを燃焼させて得られる草木灰あるいは、石炭などの固体燃料、木材ペレット、樹皮などのバイオマス固形化燃料、RPF、RDFなどの廃棄物固形化燃料、廃紙、廃タイヤ、黒液、製紙スラッジ、活性汚泥、脱水下水汚泥などの廃棄物系バイオマスを燃焼した際に発生する灰の他に、ガス化した際に発生する灰も用いることができる。また、予め人工ゼオライト化した灰も使用可能である。なお、灰は1種または複数から選ばれた燃料または廃棄物を燃焼させて得られた焼却灰であればよく、複数の焼却灰を混合して用いることもできる。上記の酸性土壌を改良する目的からは、カルシウムおよびマグネシウムの含有量が高い灰が好ましく、製紙スラッジ焼却灰には、カルシウムが酸化物換算で30質量%以上、マグネシウムが酸化物換算で数質量%以上含まれることから特に好ましい。
【0019】
本発明の最大の特徴は、焼却灰に単に濃硫酸を加えるのではなく、硫酸アルミニウム類を併用しながら濃硫酸を加え、マグネシウムの溶出を促進しつつ、有害金属類の溶出を同時に抑制している点である。焼却灰に対して硫酸アルミニウム類を1〜10質量%添加し、かつ濃硫酸あるいは廃硫酸を10〜50質量%添加し、酸性土壌改良材のpHが6〜10に調整されていることにより、製紙スラッジ焼却灰に含まれるフッ素や六価クロムなどの土壌汚染対策法の規制物質の溶出量を基準値以下に抑制することができる。
【0020】
本発明で使用される硫酸アルミニウム類には、液体硫酸アルミニウム、粉末硫酸アルミニウム、固形硫酸アルミニウムを用いることができる。溶解する手間が要らず水で簡単に希釈できる液体硫酸アルミニウムが好ましく使用できる。なお、硫酸アルミニウム類に含まれる具体的な化合物として無水硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウム14〜18水和物、硫酸アルミニウム12水和物、硫酸アルミニウムカリウム12水和物、硫酸アンモニウムアルミニウム12水和物などを挙げることができる。また、産業排水処理に用いられるポリ塩化アルミニウムを代用することも可能である。
【0021】
本発明で使用される濃硫酸には、木質バイオマスを酸加水分解処理して糖液と分離された廃硫酸を用いることができる。木質バイオマスにはシュウ酸カルシウムが含まれ、シュウ酸は酸加水分解処理して糖液と分離された廃硫酸に移行するが、シュウ酸は強い還元作用を有することから、有害な六価クロムの一部が無害な三価クロムに還元されるとともに、シュウ酸塩として沈析して無害化(不溶化)されるので好ましい。なかでも樹皮には大量にシュウ酸カルシウムが含まれることから特に好ましい。また、木質バイオマス以外の所謂ソフトバイオマスであっても、シュウ酸カルシウムを含むものであれば、本発明に好ましく用いることができる。
【0022】
焼却灰に、硫酸アルミニウム類および濃硫酸を加えて粒状化する方法としては、人力での攪拌による方法の他に、混合攪拌装置を用いることができる。また、混練機で均一に混和した後、ディスクペレッターなどの造粒機で成型することもできる。焼却灰に対して硫酸アルミニウム類を所定量投入し、数分〜10分間混練後、濃硫酸を所定量投入して数分〜10分間混練し、水(蒸留水)を加えてさらに数分〜10分間混練する。酸化カルシウムなど他の薬剤を加えて攪拌しておいても良い。
【0023】
粒状化物の大きさには制限が無く、ハンドリングを考慮すれば平均粒径が0.1〜10mmとすることが好ましい。また本発明は、粒状物に限定されるものではなく、板状などに大型成型しても差し支えない。また成型後は、風乾でもかまわないが加熱乾燥することが好ましい。
【0024】
焼却灰に、硫酸アルミニウム類を加える割合としては、特に制限はないが1〜10質量%(対灰)が好ましく、より好ましくは6〜8質量%である。焼却灰には、フッ素及びクロムなどの土壌汚染対策法の溶出規制対象物質が含まれる場合があるが、硫酸アルミニウム類の添加割合が1質量%未満であると、フッ素の溶出量が規制値を上回ってしまうおそれがある。逆に硫酸アルミニウム類の添加割合が10質量%を超えると、フッ素の溶出抑制能が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
【0025】
焼却灰に、濃硫酸あるいは廃硫酸を加える割合としては、特に制限はないが10〜50質量%(対灰)が好ましく、より好ましくは25〜50質量%である。因みに、濃硫酸あるいは廃硫酸の添加割合が10質量%未満であると、六価クロムの溶出量が規制値を上回ってしまうおそれがある。逆に濃硫酸あるいは廃硫酸の添加割合が50質量%を超えると、六価クロムの溶出抑制能が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
【0026】
また、焼却灰のpHを6〜10に調整すればよく、好ましくはpH7〜9にすることで安全性を一層高めることができる。pHが6未満になり酸性側に偏りすぎると、フッ素の溶出量が規制値を上回ってしまうおそれがある。
【0027】
本発明によれば、焼却灰と硫酸アルミニウムと濃硫酸(廃硫酸)から、カルシウムおよびマグネシウムを、同時にバランス良く溶出することができる優れた酸性土壌改良性能を発揮する酸性土壌改良材を提供することが可能となる。しかも粒状物のため取り扱いが容易であり、農業及び林業分野で広範囲に利用できる。
【0028】
本発明のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材は、対象となる酸性土壌に、0.3〜2.4kg/m、好ましくは0.6〜1.2kg/mの割合で用いた場合に優れた効果を発揮する。一般に酸性土壌改良材として用いられる石灰肥料などと比べ、カルシウムおよびマグネシウムの溶出量がバランス良く、しかも徐放的であるため、過剰害が出にくいことが大きな特徴である。
【0029】
また本発明のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材は、適度な強度を有しており、そのカルシウムおよびマグネシウムの徐放性能から、酸性土壌化が進むわが国の森林の、林道開設時の路盤材としての利用が特に薦められる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、その実施態様を変更することができる。
【0031】
焼却灰には、主に製紙スラッジを燃料とした流動床炉のバグフィルターで捕獲した飛灰(参考例1)を使用した。環告18号試験で溶出させた場合のフッ素溶出量が1.75mg/Lと規制値(0.8mg/L)を超えている。また、同じく、六価クロムの溶出量は0mg/Lと規制値(0.05mg/L)を超えていない。マグネシウムおよびカルシウムの溶出量は、それぞれ0mg/L、357mg/Lであった(表1参照)。
【0032】
ニーダー(混練機)に製紙スラッジ焼却灰(以下「PS灰」という)を6kg投入した後に機器を作動し、硫酸アルミニウムを所定量(対灰6質量%)添加して均一に分散するよう6分間混練し、次いで濃硫酸(濃度85質量%)を所定量(対灰30質量%)添加して均一に分散するよう6分間混練し、蒸留水を加えてさらに6分間混練した。混練された試料をニーダーから取り出し、速やかにディスクペレッターに投入し、粒状化した。粒状化物を速やかに乾燥機に入れ、105℃で2時間乾燥して3〜10mmに粒状化した酸性土壌改良材(実施例1〜2)を作製した。また、マグネシウム溶出性能比較のため、硫酸アルミニウムのみ(対灰8質量%)を添加して濃硫酸を含まない粒状化物(比較例1)を同様に作製した。
【0033】
上記の実施例1〜2および比較例1の粒状化物並びに原灰であるPS灰を、法定の溶出試験(環告18号試験)を行い、安全性(溶出規制物質が土壌汚染対策防止法の基準値を超過していないこと)を確認しつつ、マグネシウムなどの溶出量を調べた。すなわち試料を、粒状化物は破砕した後、非金属製である目開き2mmの篩を通過させたもの50gを1000mLの蓋つきのポリエチレン容器に取り、純水(pH5.8〜6.3)を500mL加え、この調製した試料液を常温、大気圧下で、産廃溶出振とう機を用いて6時間連続して振とうした(振とう幅4〜5cm、振動数200回/分)。この液を30分静置した後、毎分約3000回転で20分間遠心分離した。上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、濾液をとり、定量に必要な量を正確に計り取り、これを検液とした。表1に環告18号試験の結果を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
本発明による硫酸アルミニウムおよび濃硫酸を加えて粒状化した酸性土壌改良材(実施例1〜2)によれば、マグネシウムの溶出量が2mg/L以上であり、かつフッ素の溶出量が0.8mg/L以下および六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であり、焼却灰そのもの(参考例1)や従来技術で安全性が保証された酸性土壌改良材(比較例1)の不利な点を改良し、安全性を兼ね備えたマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材を提供することができた。
【0036】
また、造粒機アイリッヒミキサーを使用してPS灰に硫酸アルミニウム(対灰6質量%)および/あるいは濃硫酸を所定量(対灰18〜54質量%)添加して均一分散を図り、攪拌後、処理灰(参考例2〜9)を採取し、環告18号試験を行った。表2に環告18号試験の結果を示す。
【0037】
【表2】

【0038】
本実験によって、硫酸アルミニウム類の添加量が焼却灰に対して1〜10質量%であり、かつ濃硫酸の添加量が焼却灰に対して10〜50質量%であり、水素イオン指数がpH6〜10に調整されている場合(参考例2〜5)に、環告18号試験によるマグネシウムの溶出量が2mg/L以上であり、かつフッ素の溶出量が0.8mg/L以下および、六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下である酸性土壌改良材を提供することが可能であることが確認された。硫酸アルミニウム(参考例6)あるいは濃硫酸(参考例7〜9)の添加のみでは、両者を添加した場合と比べて、フッ素あるいは全クロムの溶出量が増加した。
【0039】
次いで、アイリッヒ造粒機にPS灰2kgを入れ、攪拌しながら硫酸アルミニウム(対灰6質量%)および濃硫酸を所定量(対灰27〜30質量%)入れ均一分散を図り、その後攪拌しながら水を徐々に添加して粒状化した後105℃で2時間乾燥した(実施例3〜4)。また、マグネシウム溶出性能比較のため、硫酸アルミニウム(対灰8質量%)のみを添加した粒状化物(比較例2)、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)および塩化マグネシウム(対灰3〜6質量%)を添加した粒状化物(比較例3〜4)、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)、酸化カルシウム(対灰3質量%)および塩化マグネシウム(対灰3〜6質量%)を添加した粒状化物(比較例5〜6)、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)および酸化カルシウム(対灰3質量%)を添加した粒状化物(比較例7)を同様に作製した。さらに、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)および酸化マグネシウム(対灰2〜6質量%)を添加した処理灰(参考例10〜15)、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)、酸化カルシウム(対灰3質量%)および酸化マグネシウム(対灰1〜10質量%)を添加した処理灰(参考例16〜17)、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)および水酸化マグネシウム(対灰3〜7質量%)を添加した処理灰(参考例18〜19)、硫酸アルミニウム(対灰6質量%)、酸化カルシウム(対灰3質量%)および水酸化マグネシウム(対灰2〜10質量%)を添加した処理灰(参考例20〜21)、の各試料についても環告18号試験を行った。表3に環告18号試験の結果を示す。
【0040】
【表3】

【0041】
本発明による硫酸アルミニウムおよび濃硫酸を加えて粒状化した酸性土壌改良材(実施例3〜4)によれば、マグネシウムの溶出量が2mg/L以上であり、かつフッ素の溶出量が0.8mg/L以下および六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であるが、硫酸アルミニウムのみの添加(比較例2)ではマグネシウムの溶出量が少なく、塩化マグネシウムを加えたもの(比較例3〜4)では全クロム溶出量が多く安全性に問題があり、さらに酸化カルシウムを加えて安全性に配慮したもの(比較例5〜6)ではマグネシウムが全く溶出しない。同様に、酸化マグネシウムや水酸化マグネシウムを添加した処理灰(参考例10〜21)は、添加量の多少を問わず、硫酸アルミニウムや酸化カルシウムと共に不溶化して、マグネシウムはほとんど溶出しないことは明らかである。以上のことから、本発明によれば、従来の酸性土壌改良材(比較例2〜7)の不利な点を改良し、安全性を兼ね備えたマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材を提供することができた。
【0042】
前述の要領で作製した実施例3〜4の粒状化物を、比較例2、7とともに、一定量(1L)の酸性試験土壌(参考例22;pH 5.15、電気伝導度EC 0.19dS/m)にそれぞれ12g配合し、ポットに詰めてスギ苗およびユーカリ(Eucalyptus camaldulensis)苗を植え、2〜4ヶ月間育成し、苗高、乾物重量を測定した。苗の初期苗高が異なるため、スギは4ヵ月後の苗高増加量、ユーカリは2ヵ月後の苗高増加量をΔHとして比較した。
【0043】
図1にスギ苗高、図2にユーカリ苗高、図3にユーカリ乾物質量の結果を示す(n=8の平均値で表示)。
本発明による硫酸アルミニウムおよび濃硫酸を加えて粒状化した酸性土壌改良材(実施例3〜4)によれば、マグネシウムの溶出量が改善されたことにより、酸性土壌そのもの(参考例22)や従来技術でマグネシウムがほとんど溶出しなかった酸性土壌改良材(比較例2、7)と比べ、優れた肥料効果を発揮して、農作物の生産性を持続的に向上させる性能に優れた酸性土壌改良材を提供することができた。
【0044】
さらに、前述の要領で作成した実施例3〜4の粒状化物、並びに比較例2、7の粒状化物2.5gを、試験土壌261.8gに配合し、土壌カラムに詰めて、カラム上部から予めpH4に調製した硫酸水(170.2g)を2日間に亘って滴下(約4mL/h)し、カラムの下から滲みだした液について各種元素の濃度を測定した。その後硫酸水を滴下する操作を6回繰り返した。
【0045】
図4にカルシウムイオンの溶出結果を、図5にマグネシウムイオンの溶出結果を示す。本発明による硫酸アルミニウムおよび濃硫酸を加えて粒状化した酸性土壌改良材(実施例3〜4)によれば、濃硫酸を添加しない比較例2、7と比べ、優れたカルシウムおよびマグネシウムの放出性能を発揮することが明らかとなった。
【0046】
また、PS灰に攪拌しながら硫酸アルミニウム(対灰6質量%)を添加した後に、濃硫酸としてユーカリ樹皮を酸加水分解して糖液と分離されたシュウ酸を含む廃硫酸を所定量(対灰30質量%)入れ均一分散を図り、その後攪拌しながら水を徐々に添加して粒状化した後、105℃で2時間乾燥した(実施例5)。環告18号試験、前述のポット苗試験を行った結果、前述の濃硫酸を用いる実施例1〜4と同等の性能を有していた。
【0047】
以上のことから、従来の酸性土壌改良材に見られなかった、カルシウムおよびマグネシウムのバランスの良い溶出性能を有し、かつ安全性に優れた酸性土壌改良材を提供することが可能になった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、農業・林業生産上問題となっている酸性土壌での植物の生産性を持続的に向上させるマグネシウム溶出性能に優れた酸性土壌改良材として、広範囲に用いることが可能である。特に酸性土壌でのユーカリ植林に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明による酸性土壌改良材の肥料効果(スギの苗高増加量)を示した図である。
【図2】本発明による酸性土壌改良材の肥料効果(ユーカリの苗高増加量)を示した図である。
【図3】本発明による酸性土壌改良材の肥料効果(ユーカリの乾物質量)を示した図である。
【図4】本発明による酸性土壌改良材の酸性土壌改良効果の持続性(カルシウムイオンの溶出性)を示した図である。
【図5】本発明による酸性土壌改良材の酸性土壌改良効果の持続性(マグネシウムイオンの溶出性)を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰に、硫酸アルミニウム類および濃硫酸を加えて粒状化した粒状物であって、平成15年環境省告示第18号に基づく溶出試験方法によるマグネシウムの溶出量が2mg/L以上であり、かつフッ素の溶出量が0.8mg/L以下および六価クロムの溶出量が0.05mg/L以下であることを特徴とするマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
【請求項2】
前記濃硫酸が、木質バイオマスを酸加水分解処理して糖液と分離された廃硫酸であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
【請求項3】
前記廃硫酸が、樹皮を酸加水分解して糖液と分離されたシュウ酸を含む廃硫酸であることを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
【請求項4】
硫酸アルミニウム類の添加量が焼却灰に対して1〜10質量%であり、かつ濃硫酸あるいは廃硫酸の添加量が、焼却灰に対して10〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。
【請求項5】
酸性土壌改良材の水素イオン指数が、pH6〜10に調整されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネシウム溶出性能を有する酸性土壌改良材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−35641(P2009−35641A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201479(P2007−201479)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「バイオマスエネルギー転換要素技術開発」プロジェクト委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】