説明

マグネトロン

【課題】チョークコイル製造における作業工数を低減する。
【解決手段】マグネトロンに、マグネトロン本体とフィルターボックス31とチョークコイル35と貫通コンデンサ34とを備える。マグネトロン本体の陰極部のフィラメント15は、フィルターボックス31内の陰極端子33に接続されている。チョークコイル35は、フィルターボックス31内に設けられて、陰極端子33に接続された空心型インダクタ37と、磁性体コア91を備えて空心型インダクタ37に直列接続されたコア型インダクタ38を有している。チョークコイル35は、比抵抗が銅線よりも高い裸の導線を回巻して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
マグネトロンは、発振部と入力部と出力部とを有している。発振部は、陽極部と陰極部と一対のポールピースとで構成される。陽極部は、陽極円筒と、陽極円筒の内側に配置された複数のベインとを有している。陰極部は、陽極円筒の軸に配置されたフィラメントを有している。一対のポールピースは、陽極円筒の軸方向の両端部に配置されている。
【0003】
入力部は、発振部の一方のポールピースを貫通して延びる陰極リードを支持するステムを有する。出力部は、他方のポールピースを貫通して延びるアンテナを有する。ポールピースは、永久磁石で挟まれるように配置されていて、陽極部と陰極部との間の作用空間に磁束を集中させる。
【0004】
入力部から陰極にフィラメント電流を供給し、陽極部と陰極部との間に電圧を印加すると、マグネトロンはマイクロ波発振し、出力部からマイクロ波を出力する。一般的な電子レンジ用のマグネトロンにおいて、発振周波数は、2450MHzである。発振出力の一部は、入力部から漏えいして外部機器の障害となるため、入力部はフィルターボックスでシールドされ、電波漏えいが抑制されている。また、発振出力は、2450MHzの基本波だけでなく、電子擾乱などによって広い帯域にわたる周波数の電波を発振しており、フィルターボックスは、これらの電波の漏えいも抑制している。
【0005】
フィルターボックスは、外部電源に接続され、外部入力端子も兼ねる一対の貫通コンデンサを有している。また、フィルターボックス内には、一対の陰極入力ステム端子と各貫通コンデンサをそれぞれ直列接続する一対のチョークコイルが配置されている。各チョークコイルは、フェライトコアを有するコイル状のコア型インダクタと空心コイルの空心型インダクタを直列接続したものからなっている。
【0006】
フィルター回路を構成するチョークコイルは、陰極部から漏えいするマイクロ波を熱として消費する。このため、漏えい出力が大きくなると、チョークコイルが焼損するおそれがある。チョークコイルが焼損して表面のエナメル絶縁被覆がなくなると、インダクタとして機能しなくなる場合もある。
【0007】
また、過熱によってフェライトの透磁率が低下するとインダクタンスが低下し、マイクロ波の漏えいが増大する。また、空心型インダクタは、漏えい波の最大成分である2450MHzの基本波の定在波の最大振幅部をこのインダクタ内に位置させて減衰させ、コア型インダクタに至らないようにし、コア型インダクタの負担を軽減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−38806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般的に、マグネトロンのフィルターボックスのチョークコイルに用いられるコイル線は、エナメル絶縁被覆で表面を覆われている。このため、密にコイルを巻いた状態でもインダクタンスが維持されている。しかし、チョークコイルの温度が上昇し、エナメル絶縁被覆が焼損すると、インダクタンスが低下し、これに伴ってフィラメント電流が増大して、フィラメントの寿命が短くなる。
【0010】
また、マグネトロンの製造において、チョークコイルと貫通コンデンサおよびマグネトロン本体のステム端子は、TIG溶接によって接合される。チョークコイルのコイル線にエナメル絶縁被覆がある状態のまま溶接を行うと、溶接不良が生じやすい。このため、溶接個所であるチョークコイルの両端部のエナメル絶縁被覆を剥がす剥離工程が必要になる。また、剥離用の刃も定期的な交換が必要になり、この工程での設備稼働率が低下する。さらに、この剥離工程では、エナメル絶縁被覆のごみが発生するため、環境への影響がある。
【0011】
チョークコイルのコイル材としては、電気伝導率が良く、機械加工性もよいことから、一般的に銅線が使用されることが多い。しかし、近年、銅価格が高騰しているため、電気抵抗の比較的小さいアルミ線もしくは銅クラッドアルミ線を用いることが検討されている。しかし、アルミ線と貫通コンデンサの中心導体およびマグネトロンのステム端子の材料である鉄とをTIG溶接した場合、鉄とアルミとの間に脆弱層が形成されて、溶接強度が低くなり、実用化が難しい。
【0012】
そこで、本発明は、チョークコイル製造における作業工数の低減を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するため、本発明は、マグネトロンにおいて、陰極端子を有するマグネトロン本体と、前記陰極端子を覆うフィルターボックスと、前記陰極端子に接続されて前記フィルターボックスに収容されたチョークコイルと、前記チョークコイルに接続されたコンデンサと、を具備し、前記チョークコイルは、前記陰極端子に接続された空心型インダクタおよび磁性体コアを備えて前記空心型インダクタに直列接続されたコア型インダクタを有し、比抵抗が銅線よりも高い裸の導線を回巻して形成されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チョークコイル製造における作業工数が低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るマグネトロンの一実施の形態におけるフィルターボックス近傍の平面図である。
【図2】本発明に係るマグネトロンの一実施の形態の断面図である。
【図3】本発明に係るマグネトロンの一実施の形態におけるチョークコイルの温度の試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るマグネトロンの一実施の形態を、図面を参照して説明する。なお以下の実施の形態は単なる例示であり、本発明はこれに限定されない。
【0017】
図1は、本発明に係るマグネトロンの一実施の形態の断面図である。
【0018】
このマグネトロンは、たとえば電子レンジに用いられる。マグネトロンは、マグネトロン本体と、フィルターボックス31とを有している。
【0019】
マグネトロン本体は、陽極部と陰極部とを有している。陽極部は、陽極円筒12と、この陽極円筒12の内周面から管軸に向かって突出した複数のベイン13とを有している。陰極部は、フィラメント15と一対のエンドハット16,17と陰極センターリード18と陰極サイドリード19とを有している。フィラメント15は、マグネトロンの管軸に配置されている。エンドハット16,17は、フィラメント15の管軸方向両端部に設けられている。陰極センターリード18と陰極サイドリード19とは、マグネトロン本体の入力部に向かって延びている。陰極センターリード18および陰極サイドリード19は、それぞれフィラメント15の両端部にエンドハット16,17を介して接続されている。
【0020】
ベイン13の陽極円筒12とは反対側の遊端と、フィラメント15との間は、所定の間隔を有するように配置されている。この所定の間隔の環状空間は、作用空間23となる。
【0021】
陽極円筒12の管軸方向両端部には、漏斗状(すり鉢状)の一対のポールピース20,21が作用空間を挟むように対向して設けられている。ポールピース20,21のそれぞれ管軸方向外側には、フィラメント印加用電流およびマグネトロン駆動用高電圧を供給するための入力部と、マイクロ波を伝送し放射するためのアンテナリード41を含む出力部とが設けられている。アンテナリード41の一方の端部は、一つのベイン13に接続されている。アンテナリード41の他方は、管軸に沿って出力部側に延びている。
【0022】
一対のポールピース20,21の管軸方向の両外側には、フェライトからなる一対の環状永久磁石50,51が設けられている。また、環状永久磁石50,51の管軸方向外側およびその側面を囲むように枠状ヨーク52,53が設けられている。枠状ヨーク52,53は、強磁性体製である。環状永久磁石50,51は、ポールピース20,21に対向する面がポールピース20,21と、ポールピース20,21の反対側の面が枠状ヨーク52,53とそれぞれ磁気的に結合されて構成された磁気回路によって、ベイン13とフィラメント15との間の作用空間23に磁界を供給している。
【0023】
図1は、本実施の形態におけるフィルターボックス内部の下面図である。
【0024】
フィルターボックス31は、マグネトロンの入力部をカバーしている。入力部は、陰極センターリード18および陰極サイドリード19を保持するセラミックステム32と、陰極センターリード18および陰極サイドリード19にそれぞれ接続された一対の陰極端子33とを有している。
【0025】
フィルターボックス31の側壁には、その側壁を貫通する2端子の貫通コンデンサ34が取り付けられている。フィルターボックスのほぼ中央に位置する一対の陰極端子33と貫通コンデンサ34のフィルターボックス31の内側の端子81とのそれぞれの間には、チョークコイル35が直列接続される。貫通コンデンサ34およびチョークコイル35は、フィルター回路を形成している。
【0026】
それぞれのチョークコイル35は、コア型インダクタ36と空心型インダクタ37とを直列接続したものである。コア型インダクタ36は、円柱状の磁性体コア91を有している。空心型インダクタ37側は、所定長の折り曲げ配線38を介して陰極端子33に接続されている。コア型インダクタ36側は、貫通コンデンサの端子81に接続されている。
【0027】
陰極端子33を通して漏えいするマイクロ波のうち、2450MHzの基本波成分が最大であり、この基本波の1/4波長に相当する位置、すなわち、漏えいマイクロ波の振幅が最大になる位置が、空心型インダクタ37内となるように折り曲げ配線38を含めてチョークコイルの長さが設定されている。この場合、漏えいするマイクロ波の大部分が空心型インダクタ37で吸収される。空心型インダクタ37は、周囲の空気などを利用して冷却できるため、疎巻の空心型インダクタ37の最大発熱部をコア型インダクタ36から離すことにより、コア型インダクタ36の温度上昇が抑制され、チョークコイル35のインダクタンスの低下を抑制できる。
【0028】
本実施の形態では、これらのチョークコイル35は、裸の導線を回巻して形成されている。ここで、「裸の」とは、エナメル銅線などとは違い、樹脂製の絶縁被膜がないことを意味している。線間の絶縁のために、酸化被膜を設けてもよい。酸化被膜を設けた裸の導線を用いた場合には、酸化被膜の耐電圧を考慮すると、0.3〜0.5mm程度のピッチでコイルを形成することができる。また、これらのチョークコイル35は、比抵抗が銅線よりも高い材料で形成される。コア型インダクタ36の磁性体コア91としては、キュリー点がエナメル銅線を用いていた場合に比べて高い材料を用いる。
【0029】
このように、本実施の形態では、チョークコイル35に樹脂製の絶縁被膜がないため、チョークコイル35の製造において、絶縁被膜の剥離工程が不要となり製造コストが削減される。また、絶縁被膜のごみが排出されないというメリットが得られる。
【0030】
また、チョークコイル35に樹脂製の絶縁被膜がないため、チョークコイル35の温度が高くなるような材料でもチョークコイル35に用いることができる。エナメル銅線で形成した場合よりもチョークコイル35の温度が上昇した場合であっても、絶縁被膜の焼失による絶縁不良の心配がない。つまり、従来チョークコイルの材料として用いられていたエナメル銅線よりも電気抵抗が高い材料でチョークコイル35を形成することができる。ただし、電気抵抗が過度に大きい材料を用いてチョークコイル35を形成すると、コイル線の抵抗で発熱し、磁性体コア91の温度がキュリー点を超え、インダクタンスが低下してしまうので、できるだけ電気抵抗が小さい材料が好ましい。
【0031】
電気抵抗が比較的小さいものである真鍮(銅・亜鉛合金)線、あるいは、銅および亜鉛を主成分としSn、Fe、Au、Agなどを含む合金でチョークコイル35を形成してもよい。これらの材料は、溶接が容易であるという利点を有している。
【0032】
チョークコイル35の材料の変更に伴って温度がどの程度上昇するかを調べるため、試験を行った。
【0033】
図3は、本実施の形態におけるチョークコイルの温度の試験結果を示す表である。
【0034】
この試験では、線径がφ1.2mmの真鍮線を用いた3種類のチョークコイル35の温度を測定した。これらの3種類のチョークコイル35は、空心部は3ターンで同一であるが、コア部が10ターン、8ターンあるいは6ターンである。また、比較のため、線径がφ1.2mmのエナメル銅線を用いたチョークコイルの温度を測定した。
【0035】
比較例と同一のターン数の試験体1のコア部温度は、コア部の温度が比較例に比べて約50℃高い。したがって、この磁性体コア91の材料としては、線径がφ1.2mmのエナメル銅線を用いたマグネトロンで用いていたものよりも、キュリー点が50℃以上高いものを選択する必要がある。マグネトロンでは、磁性体コア91として、安価なフェライトが用いられている場合が多い。したがって、このような場合には、他の部分の設計を変えることなく、磁性体コア91をフェライトよりもキュリー点が50℃以上高い材料で形成することによって、チョークコイル35を真鍮または真鍮よりも電気抵抗が小さい材料の裸のコイル線を用いて製造することができる。
【0036】
なお、コア部のターン数が小さい試験体2あるいは試験体3のコア部の試験結果から、巻き数の減少に伴って、コア部の温度はある程度低下するが、エナメル銅線の場合よりは高いことがわかる。しかし、ターン数を過度に小さくするとインダクタンスが小さくなり過ぎてしまう。また、電気抵抗を小さくするため線径を太くすると、製造性の点で問題がある。そこで、これらの点を考慮して、チョークコイル35の線径および線長を決定する必要がある。
【符号の説明】
【0037】
12…陽極円筒、13…ベイン、15…フィラメント、16…エンドハット、17…エンドハット、18…陰極センターリード、19…陰極サイドリード、20…ポールピース、21…ポールピース、23…作用空間、31…フィルターボックス、32…セラミックステム、33…陰極端子、34…貫通コンデンサ、35…チョークコイル、36…コア型インダクタ、37…空心型インダクタ、38…折り曲げ配線、41…アンテナリード、50…環状永久磁石、51…環状永久磁石、52…枠状ヨーク、53…枠状ヨーク、81…端子、91…磁性体コア


【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極端子を有するマグネトロン本体と、前記陰極端子を覆うフィルターボックスと、前記陰極端子に接続されて前記フィルターボックスに収容されたチョークコイルと、前記チョークコイルに接続されたコンデンサと、を具備し、
前記チョークコイルは、
前記陰極端子に接続された空心型インダクタおよび磁性体コアを備えて前記空心型インダクタに直列接続されたコア型インダクタを有し、
比抵抗が銅線よりも高い裸の導線を回巻して形成されている、
ことを特徴とするマグネトロン。
【請求項2】
前記導線は銅および亜鉛を主成分とする合金で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項3】
前記導線の表面には酸化被膜が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマグネトロン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−77516(P2013−77516A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217981(P2011−217981)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000113322)東芝ホクト電子株式会社 (172)
【Fターム(参考)】