マスク及びそれに用いるフィルタ
【課題】安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現可能とする。
【解決手段】本発明のマスク1は、呼気を透過させるフィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを備えたフィルタ21と、前記フィルタ21を着用者に対して固定する固定具3とを具備している。
【解決手段】本発明のマスク1は、呼気を透過させるフィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを備えたフィルタ21と、前記フィルタ21を着用者に対して固定する固定具3とを具備している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気及び呼気を透過させるフィルタを含んだマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
飛沫感染などの空気感染を抑制する目的で使用するマスクには、細菌を遮断する能力が高いことが望まれる。特許文献1には、燐酸カルシウム系化合物からなる粒子をマスクのフィルタ基材に担持させ、これら粒子に細菌を吸着させることが記載されている。
【0003】
また、上述した目的で使用するマスクには、細菌の発育を阻止する能力が高いことが望まれる。例えば、フィルタ基材に銀又は酸化銀を担持させると、抗菌性に優れたマスクが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−115582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銀は高価であり、一般には安価なマスクにおいては、より安価な抗菌剤を使用することが望まれる。
そこで、本発明は、安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によると、呼気を透過させるフィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを備えたマスク用フィルタが提供される。
【0007】
本発明の第2側面によると、第1側面に係るフィルタと、前記フィルタを着用者に対して固定する固定具とを具備したマスクが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一態様に係るマスクを概略的に示す平面図。
【図2】図1に示すマスクのII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示すマスクを着用している様子を概略的に示す図。
【図4】図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの一例を概略的に示す断面図。
【図5】図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの他の例を概略的に示す断面図。
【図6】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの分子構造を示す図。
【図7】図1及び図2に示すマスクの一変形例を概略的に示す斜視図。
【図8】マスクの着用時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフ。
【図9】ヒトの呼気と同様の雰囲気中における抗菌剤の放置時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフ。
【図10】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【図11】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネート及び他の抗菌剤の抗菌性の一例を示すグラフ。
【図12】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの抗菌性に他の抗菌剤が及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【図13】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの抗菌性に他の抗菌剤が及ぼす影響の他の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係るマスクを概略的に示す平面図である。図2は、図1に示すマスクのII−II線に沿った断面図である。図3は、図1及び図2に示すマスクを着用している様子を概略的に示す図である。なお、以下の説明において、マスク1及びその構成要素に関して使用する用語「上」、「下」、「左」及び「右」は、マスク1が着用された状態にあるか否かに拘らず、図3に示すようにマスク1を着用した着用者Wが直立しているときの方位を意味している。
【0012】
図1乃至図3に示すマスク1は、飛沫感染などの空気感染を抑制する目的で使用するマスクである。このマスク1は、図1及び図3に示すように、マスク本体2と固定具3とを含んでいる。
【0013】
マスク本体2は、フィルタ21と、一対の保持部材22と、付形部材23とを含んでいる。
【0014】
フィルタ21は、通気性を有している。フィルタ21には、図1乃至図3に示すように、互いに対して略平行な複数の折り目が設けられている。
【0015】
具体的には、フィルタ21の上端部と下端部とは、図2に示すように折り返されており、それぞれ、折り返し部P1及びP3を形成している。折り返し部P1及びP3では、その形状を維持するべく、フィルタ21の互いに向き合った部分は接合されている。フィルタ21の上端部及び下端部の少なくとも一方は、折り返されていなくてもよい。
【0016】
また、フィルタ21のうち、折り返し部P1及びP3間に位置した部分P2は、ひだ状に折り畳まれている。この部分P2は、折り畳まれていなくてもよい。
なお、フィルタ21の材料及び詳細な構造については、後で説明する。
【0017】
保持部材22は、図1及び図3に示すように帯形状を有している。これら保持部材22は、それぞれ、折られた状態のフィルタ21の左右の端を挟み込むように配置されており、そこでフィルタ21に接合されている。保持部材22は、フィルタ21の中央部の上下方向への伸縮を制限することなしに、フィルタ21の左右の端部の上下方向への伸長を制限する。保持部材22は、例えば、織布及び不織布などの布、紙又はフィルムからなる。
【0018】
付形部材23は、典型的には樹脂で被覆された針金又は帯状の薄い金属板からなる。付形部材23は、その長さ方向がフィルタ21に設けられた折り目に対して略平行となるように、フィルタ21の上端近傍に設置されている。付形部材23は、図2に示すように、折り返し部P1においてフィルタ21によって挟持されている。付形部材23は、図3に示すように、マスク1の着用時に着用者Wの顔に沿った形状へと変形させることにより、フィルタ2と着用者Wの顔との隙間を最小にする。
【0019】
固定具3は、図1及び図3に示すように、マスク本体2に取り付けられている。ここでは、固定具3は一対のゴム紐である。これらゴム紐の一方は、その2つの端がそれぞれマスク本体2の左側に位置した2つの角部に接合されており、マスク本体2とともに環構造を形成している。また、これらゴム紐の他方は、その2つの端がそれぞれマスク本体2の右側に位置した2つの角部に接合されており、マスク本体2とともに環構造を形成している。これらゴム紐を着用者Wの左右の耳にかけることにより、マスク本体2を着用者Wに対して固定する。
【0020】
次に、フィルタ21の構造及びそれに使用する材料について説明する。
図4は、図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【0021】
このフィルタ21は、層状のフィルタ材21aを含んでいる。フィルタ21は、フィルタ材21aからなる単層構造を有していてもよい。或いは、フィルタ21は、フィルタ材21aを含んだ多層構造を有していてもよい。後者の場合、フィルタ材21aと他の層とを積層してもよく、フィルタ材21aを重ね合わせてもよい。
【0022】
フィルタ材21aは、フィルタ基材21a1と抗菌剤21a2とを含んでいる。
【0023】
フィルタ基材21a1は、例えば、不織布である。図4に示すフィルタ21では、フィルタ基材21a1は二層構造を有している。フィルタ基材21a1として、織布、紙又は多孔質フィルムを使用してもよい。
【0024】
抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1を構成している2つの層に担持されている。ここでは、抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1の層間に分布している。このような構造は、例えば、フィルタ基材21a1を構成する一方の層の上に抗菌剤21a2を散布し、その上に、フィルタ基材21a1を構成する他方の層を設け、それら層を一体化することにより得られる。抗菌剤21a2をフィルタ基材21a1の層間に配置すると、抗菌剤21a2の脱落を防止できる。
【0025】
図5は、図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
【0026】
このフィルタ21では、抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1の全体に亘って分布している。この構造を採用した場合、抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1から脱落する可能性がある。そこで、このフィルタ21では、層状のフィルタ材21aに加え、一対の表層材21bを更に設けている。
【0027】
このフィルタ21のフィルタ基材21a1は、例えば、以下の方法により得られる。まず、フィルタ基材21a1として、芯鞘型の繊維からなる不織布又は織布を準備する。次いで、このフィルタ基材21a1に、熱風を利用して抗菌剤21a2を送り込む。これにより、芯部を構成している樹脂を軟化させることなしに、鞘部を構成している熱可塑性樹脂を軟化させ、そこに抗菌剤21a2を付着させる。抗菌剤21a2の粒径が繊維の隙間と比較して十分に小さければ、フィルタ基材21a1の全体に抗菌剤21a2を分布させることができる。
【0028】
表層材21bは、それぞれ、フィルタ材21aの表面と裏面とに接合されている。表層材21bは、例えば、不織布である。
【0029】
表層材21bのフィルタ材21aへの接合には、例えば熱融着を利用することができる。表層材21bは、接着剤を利用してフィルタ材21aに接合してもよく、ニードルパンチを利用してフィルタ材21aに接合してもよい。
【0030】
表層材21bとして、織布、紙又は多孔質フィルムを使用してもよい。また、表層材21b又は双方を省略してもよい。
【0031】
図4及び図5に示すフィルタ21は、抗菌剤21a2の少なくとも一部として、マイエナイト構造を有している化合物、例えば、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートを使用している。この化合物について、図6を参照しながら説明する。
【0032】
図6は、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの分子構造を示す図である。
【0033】
マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートは、化学式12CaO・7Al2O3で表される化合物である。以下、この化合物を「C12A7」と略記する。
【0034】
C12A7の構成原子は、図6に示すように、三次元的に連結された複数の籠(ケージ)構造を形成している。これらケージは、直径が約0.4nmの内部空間を有しており、O-、O2-及びO2-などの活性酸素種を包接することが可能である。これら活性酸素種は、C12A7の骨格を構成している酸素原子とは異なり、高い酸化力を示す。また、C12A7は、銀及び銀化合物などの抗菌剤と比較して遥かに安価である。従って、先の酸化力を殺菌に利用することができれば、安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現できる可能性がある。
【0035】
C12A7は、水分の不存在下では、高い酸化力を発現することはなく、それ故、高い殺菌力を示さない。しかしながら、C12A7は、十分な量の水分を供給することにより、極めて高い殺菌力を示す。なお、水分が殺菌力に影響を及ぼす理由は必ずしも明らかになっている訳ではないが、本発明者らは、酸素活性種と水との反応によってOH-イオンが発生し、このOH-イオンが殺菌に寄与しているためであると考えている。
【0036】
マスク1の着用時には、着用者Wの吸気に伴って大気中の水分がC12A7に供給され得るのに加え、着用者Wの呼気からC12A7に水分が供給される。一般に、呼気は、吸気と比較してより高い濃度で水分を含んでいる。しかも、呼気の水分濃度には、大気の湿度などの外部環境が大きな影響を及ぼすことはない。それ故、このマスク1は、外部環境の如何に拘らず、着用してからほぼ一定の時間で優れた抗菌性を発現する。
【0037】
このマスク1では、C12A7は、フィルタ基材21a1の全体に亘って分布していてもよい。或いは、C12A7は、フィルタ基材21a1のうち吸気と呼気とが通過する領域にのみ分布していてもよい。或いは、C12A7は、フィルタ基材21a1のうち吸気と呼気とが通過する領域では高い密度で分布し、他の領域ではより低い密度で分布していてもよい。
【0038】
フィルタ21のうち呼気が通過する領域では、この面積に対するC12A7の量は、例えば10g/m2以上とし、典型的には27g/m2以上とする。また、先の面積に対するC12A7の量は、例えば60g/m2以下とし、典型的には30g/m2以下とする。C12A7の量が少ない場合、高い抗菌性を発現させることが難しい。呼気によって供給される水分量に対してC12A7の量が多い場合、C12A7の量の増やしても抗菌性が大きく向上することはない。
【0039】
C12A7としては、例えば、レーザ回折散乱法によって測定した平均粒径が0.5μm乃至50μmの範囲内にあるものを使用する。平均粒径が小さなC12A7を使用すると、C12A7と細菌との接触確率が高くなる。但し、平均粒径が著しく小さなC12A7は、取扱いが難しく、また、フィルタ基材21a1に担持させることが難しい。
【0040】
C12A7のカルシウム原子は、ストロンチウム原子によって少なくとも部分的に置換されていてもよい。即ち、抗菌剤21a2は、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートを含んでいてもよく、マイエナイト構造を有しているストロンチウムアルミネートを含んでいてもよく、それらの双方を含んでいてもよい。
【0041】
また、カルシウム原子及び/又はストロンチウム原子の一部は、マグネシウム原子及びバリウム原子の少なくとも一方によって置換されていてもよい。
【0042】
C12A7のアルミニウム原子は、珪素原子、ゲルマニウム原子及びガリウム原子の少なくとも1つによって部分的に置換されていてもよい。
【0043】
抗菌剤21a2として、マイエナイト構造を有している化合物と他の抗菌剤とを併用してもよい。マイエナイト構造を有している化合物は、水分の不存在下でも抗菌性を示す可能性があるが、十分な量の水分が供給されるまで高い抗菌性を示さない。他の抗菌剤として、水分量がその性能に大きな影響を及ぼさないものを使用すれば、マイエナイト構造を有している化合物が高い抗菌性を発現するまでの期間においても、優れた抗菌効果を達成することができる。
【0044】
そのような抗菌剤としては、例えば、銀、銀化合物、酸化チタン、酸化マグネシウム、ドロマイト、ゼオライト、又は、それらの2つ以上を含んだ混合物を使用することができる。特に、マイエナイト構造を有している化合物と、銀、銀化合物、酸化マグネシウム及びドロマイトの少なくとも1つとを併用すると、マイエナイト構造を有している化合物が高い抗菌性を示す期間における抗菌性能も向上する。なお、酸化マグネシウムを使用する場合、C12A7に対するその質量比は、約1以下とすることが好ましく、0.5乃至1の範囲内とすることがより好ましい。
【0045】
上記の通り、マイエナイト構造を有している化合物と併用する抗菌剤は、抗菌性に関して補助的な役割を果たす。従って、マイエナイト構造を有している化合物に対する追加の抗菌剤の質量比は、例えば10%乃至100%の範囲内とする。
【0046】
このマスク1には、様々な変形が可能である。
図7は、図1及び図2に示すマスクの一変形例を概略的に示す斜視図である。
【0047】
図7に示すマスク1において、マスク本体2は、面体2aとフィルタユニット2bとを含んでいる。
【0048】
面体2aは、マスク1の着用時に着用者Wの鼻及び口並びにその周囲を覆うように成形された成形品である。典型的には、面体2aは、マスク1の着用時に変形してその縁の全体が着用者Wの顔と密着するように、ゴムなどの可撓性を有している材料からなる。
【0049】
面体2aには、着用者Wの吸気及び呼気が通過する1つ以上の貫通孔が設けられている。フィルタユニット2bは、この貫通孔の位置で面体2aに取り付けられている。
【0050】
フィルタユニット2bは、図示しないマウントと、ホルダ2b1と、フィルタ21とを含んでいる。
【0051】
マウントは、例えば、筒形状を有している。或いは、マウントは、貫通孔が設けられた板形状を有している。マウントは、面体2aに設けられた貫通孔の位置で、面体2aに取り付けられている。
【0052】
ホルダ2b1は、マウントに着脱可能に取り付けられている。例えば、ホルダ2b1は、マウントと係合しているか又は螺合している。
【0053】
ホルダ2b1には、吸気及び呼気が流通する流路が設けられている。ホルダ2b1は、その流路内でフィルタ21を着脱可能に支持している。
【0054】
また、このマスク1において、固定具3は、例えばゴムからなるベルトである。このベルトの一端は面体2aの右側の端部に取り付けられており、他端は、面体2aの左側の端部に取り付けられている。面体2aを着用者Wの顔の所定の位置に押し当て、ベルトを着用者Wの後頭部に廻らすことにより、マスク本体2を着用者Wに対して固定する。
【0055】
このマスク1では、上記の通り、フィルタ21は着脱可能である。従って、このマスク1は、使用済みのフィルタ21を未使用のフィルタ21と交換することによって繰り返し使用することができる。
【0056】
以上説明した技術は、典型的には衛生用マスクに適用するが、衛生用マスク以外のマスクに適用してもよい。例えば、上述した技術は、防塵マスク又は防毒マスクに適用することも可能である。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の例を記載する。
【0058】
<抗菌剤A1の製造>
炭酸カルシウム粉末とアルミナ粉末とを、炭酸カルシウムとアルミナとのモル比が12:7となるように十分に混合した。この混合物を、酸素雰囲気中、1350℃で6時間に亘って焼成した。次いで、ボールミルを用いて焼成品を粉砕して、平均粒径が約10μmの粉末を得た。この粉末についてX線回折解析を行ったところ、化学式12CaO・7Al2O3で表されるマイエナイト構造のカルシウムアルミネートであることが確認された。以下、このカルシウムアルミネートを「抗菌剤A1」と呼ぶ。
【0059】
<フィルタFA1の作成>
繊維の芯部及び鞘部がそれぞれポリプロピレン及びポリエチレンからなる不織布を裁断し、面積が50cm2の不織布片を2枚準備した。次に、0.15gの抗菌剤A1を、一方の不織布片の上に均一に散布した。次いで、この不織布片上に他方の不織布片を重ね、この積層体に、アイロンを用いて熱と圧力とを加えた。これにより、不織布片同士を熱融着させた。以上のようにして、フィルタを得た。以下、このフィルタを「フィルタFA1」と呼ぶ。
【0060】
<フィルタの抗菌性試験1>
1mL当たり約105個の大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を準備し、その0.1mLをフィルタFA1上に噴霧した。室温で5分間に亘って放置した後、フィルタFA1に付着している大腸菌を10mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0061】
また、抗菌剤A1を省略したこと以外はフィルタFA1と同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFB1」と呼ぶ。このフィルタFB1をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表1に纏める。
【表1】
【0062】
表1において、「E.coli生存率」は、フィルタFB1を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0063】
表1に示すように、C12A7を含んだフィルタFA1は、フィルタFB1と比較して遥かに優れた抗菌性を示した。
【0064】
<市販の抗菌マスク用フィルタの抗菌性試験>
抗菌剤A1の代わりに下記表2に示す抗菌剤をそれぞれ含んだ市販のフィルタFB2乃至FB6を用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表2に纏める。
【表2】
【0065】
表1及び表2に示すデータの比較から明らかなように、C12A7を含んだフィルタFA1は、市販のフィルタと比較して優れた抗菌性を示した。
【0066】
<C12A7の量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響1>
抗菌剤A1の散布量を0.05gとしたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA2」と呼ぶ。このフィルタFA2をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
【0067】
また、抗菌剤A1の散布量を0.3gとしたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA3」と呼ぶ。このフィルタFA3をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表3に纏める。
【表3】
【0068】
表3に示すように、C12A7の担持量を10g/m2乃至60g/m2の範囲内とした場合、優れた抗菌性を達成することができた。
【0069】
<活性酸素量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響>
焼成を酸素雰囲気中で行う代わりに大気雰囲気中で行ったこと以外は、抗菌剤A1について上述したのと同様の方法により、平均粒径が約10μmの粉末を得た。この粉末についてX線回折解析を行ったところ、化学式12CaO・7Al2O3で表されるマイエナイト構造のカルシウムアルミネートであることが確認された。以下、このカルシウムアルミネートを「抗菌剤A2」と呼ぶ。
【0070】
次いで、抗菌剤A1及びA2の各々について、活性酸素量を測定した。具体的には、抗菌剤A1及びA2の各々について、77Kで電子スピン共鳴スペクトルを測定し、このスペクトルからO2-イオンラジカル及びO-イオンラジカルの濃度を求めた。
【0071】
次に、抗菌剤A1の代わりに抗菌剤A2を用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA4」と呼ぶ。このフィルタFA4をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表4に纏める。
【表4】
【0072】
上記表4において、「抗菌剤」の欄には、使用したC12A7の活性酸素量、即ち、抗菌剤A1及びA2のO2-イオンラジカル濃度又はO-イオンラジカル濃度を括弧書きしている。
表4に示すように、活性酸素量がより多い抗菌剤A1を使用した場合、特に優れた抗菌性を達成することができた。そして、活性酸素量がより少ない抗菌剤A2を使用した場合でも、十分な抗菌性を達成することができた。
【0073】
<フィルタの抗菌性試験2>
1mL当たり約105個の黄色ブドウ球菌(NBRC13276)を含んだ菌液を準備し、その0.1mLをフィルタFA1上に噴霧した。室温で5分間に亘って放置した後、フィルタFA1に付着している大腸菌を10mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から黄色ブドウ球菌の数を求めた。
【0074】
また、フィルタFA1の代わりにフィルタFB1を用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表5に纏める。
【表5】
【0075】
表5において、「S.aureus生存率」は、フィルタFB1を用いた場合に得られた結果を基準とした黄色ブドウ球菌数の相対値である。
【0076】
表5に示すように、C12A7を含んだフィルタFA1は、フィルタFB1と比較して遥かに優れた抗菌性を示した。
【0077】
<水分が抗菌性に及ぼす影響>
抗菌剤A1を十分に乾燥させ、その0.5gに約104個の大腸菌を接触させた。室温で5分間に亘って放置した後、これを緩衝液中に懸濁させた。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、抗菌剤を沈降させ、この液の上澄みの一部を、SCD寒天培地に塗布した。続いて、30℃で24時間に亘る培養を行い、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0078】
また、大腸菌に接触させる前に抗菌剤A1を含水させたこと以外は、これと同様の試験を行った。ここでは、抗菌剤A1の含水量は、抗菌剤A1に対して0.2、1.0、5.0及び10.0質量%とした。
これらの結果を下記表6に纏める。
【表6】
【0079】
表6において、「N.D.」は、大腸菌を検出できなかったこと、即ち、大腸菌の数が200個以下であったことを表している。
【0080】
表6に示すように、C12A7は、水分の存在下では、水分の不存在下と比較して、遥かに優れた抗菌性を示した。具体的には、C12A7の含水量が0.2質量%と少ない場合であっても、含水量を0質量%とした場合と比較して、C12A7の抗菌性は向上した。そして、C12A7の含水量を1.0質量%以上としたC12A7は、極めて優れた抗菌性を示した。
【0081】
<着用時におけるマスクの質量変化>
フィルタが不織布からなる市販のマスクを複数の被験者に着用させて、時間の経過に伴うマスクの質量変化を調べた。その結果を図8に示す。
【0082】
図8は、マスクの着用時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフである。
図8において、横軸はマスクの着用時間を表している。また、縦軸は、着用開始から時間tを経過した時点におけるマスクの質量M1(t)と初期におけるマスクの質量M1(0)との差M1(t)−M1(0)と質量M1(0)との比[M1(t)−M1(0)]/M1(0)を表している。そして、図8に示すデータは、複数の被験者について得られた結果を平均したものである。
【0083】
図8に示すように、着用からの経過時間が7時間の範囲内では、マスクの質量は時間の経過とともに増加した。着用時におけるマスクの質量の変化は、主として、マスクの含水量の変化によるものである。そして、一定の環境中では、マスクへの水分の供給は、主に着用者の呼気によってなされる。以上から、着用からの経過時間が7時間の範囲内では、着用者の呼気がマスクに水分を供給するため、マスクの含水量は時間の経過とともに増加することが分かる。
【0084】
また、図8に示すように、マスクの質量は、着用から約30分経過した時点で約0.2%増加し、着用から約3時間経過した時点で約1%増加した。呼気からの水分がマスクの構成要素へ均等に配分されるとすると、C12A7をフィルタ基材に担持させてなるフィルタを含んだマスクを着用した場合には、C12A7の含水量は、着用から約30分経過した時点で約0.2%に達し、着用から約3時間経過した時点で約1%に達すると推定される。以上から、C12A7をフィルタ基材に担持させてなるフィルタを含んだマスクは、着用から比較的短い時間で優れた抗菌性を発現するのに加え、着用から数時間を経過して一般には細菌が発育し易い高湿潤状態となったときには極めて優れた抗菌性を示すことが分かる。
【0085】
<吸湿によるC12A7の質量変化>
ヒトの呼気は、温度が約36℃であり、相対湿度が約95%以上の高温多湿ガスである。この高温多湿条件を恒温槽内に再現し、C12A7の吸湿による重量増加を測定した。
【0086】
具体的には、30gの抗菌剤A1を、雰囲気を36±1℃の温度及び85%以上の相対湿度に設定した恒温槽内に放置した。そして、恒温槽内への放置を開始してから1、2、3及び5時間経過後に抗菌剤の質量を測定し、質量増加率を算出した。これを3回繰り返し、質量増加率の平均値を経過時間毎に求めた。その結果を図9に示す。
【0087】
図9は、ヒトの呼気と同様の雰囲気中における抗菌剤の放置時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフである。
図9において、横軸は、恒温槽内でのC12A7の放置時間を表している。また、縦軸は、放置を開始してから時間tを経過した時点におけるC12A7の質量M2(t)と初期におけるC12A7の質量M2(0)との差M2(t)−M2(0)と質量M2(0)との比[M2(t)−M2(0)]/M2(0)を表している。
【0088】
通常、ヒトの呼気は、吸気と比較して遥かに高湿度である。それ故、C12A7をマスクのフィルタにおいて使用した場合、C12A7の吸湿による質量増加は、主として、呼気によってもたらされる。即ち、フィルタがC12A7を含んだマスクを着用した場合、息を吸い込んでいる期間内におけるC12A7の質量増加は、息を吐き出している期間内におけるC12A7の質量増加と比較して僅かである。
【0089】
息を吐き出している期間の呼吸に占める割合が約50%であり、息を吸い込んでいる期間においてC12A7の質量は変化しないとすると、フィルタがC12A7を含んだマスクを着用した際のC12A7の質量増加率は、図9に示す値の約半分になると考えられる。これを考慮して、図9に示すデータと図8に示すデータとを対比すると、放置時間が約2時間までの期間内では、マスク着用時のC12A7の質量増加率は、マスク着用時のマスクの質量増加率と同等以上であることが分かる。
【0090】
<飛沫感染に対する抑制効果の検証>
大腸菌と水とを含んだ10μLの菌液を100mgの寒天に添加し、これを1分間に亘って混和させた。これにより、約1×105個の大腸菌と9質量%の水とを含んだ大腸菌添加寒天を得た。また、同様の方法により、水分含有量を17質量%、33質量%、50質量%及び67質量%とした大腸菌添加寒天を調製した。
【0091】
次に、これら大腸菌添加寒天の各々に、1000mgの抗菌剤A1を加えた。これらを1分間に亘って混和させた後、各混和物に50mMのクエン酸緩衝液を10mL加えて、反応を停止させた。次いで、各上澄み液100μLを平板培地に塗沫し、37℃で24時間に亘って培養した。そして、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0092】
また、比較のため、上記と同様の方法により、水分含有量を9質量%、17質量%、33質量%、50質量%及び67質量%とした大腸菌添加寒天を調製し、抗菌剤A1を加えなかったこと以外は同様の試験を行った。これら比較試験の結果として得られた大腸菌の数に基づいて、大腸菌の生存率を算出した。
これらの結果を下記表7に纏める。
【表7】
【0093】
表7において、「E.coli生存率」は、比較試験において得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0094】
表7に示すように、大腸菌添加寒天の水分含有量が67質量%である場合、極めて優れた殺菌性能を達成できた。また、表7に示すように、大腸菌添加寒天の水分含有量が50質量%以下であっても優れた殺菌性能を達成でき、大腸菌添加寒天の水分含有量が33質量%以上である場合、大腸菌添加寒天の水分含有量が17質量%以下である場合と比較して優れた殺菌性能を達成できた。これから分かるように、C12A7をフィルタ基材に担持させたマスクを着用すれば、細菌を含んだ飛沫がマスクのフィルタ上で乾燥したとしても、感染を抑制することができる。
【0095】
<フィルタFA5乃至FA8及びFB7の作成>
フィルタFA1の製造において使用したのと同様の不織布上に抗菌剤A1を均一に散布した。ここでは、抗菌剤A1は、不織布の単位面積当たりの量が0.41mg/cm2となるように散布した。次いで、これに100℃乃至150℃の熱処理を施して、抗菌剤A1を不織布に接着させることにより、フィルタを得た。以下、このフィルタを「フィルタFA5」と呼ぶ。
【0096】
抗菌剤A1を不織布の単位面積当たりの量が0.80mg/cm2、1.60mg/cm2、及び2.72mg/cm2となるように散布したこと以外は、フィルタFA5について上述したのと同様の方法により、フィルタを作成した。以下、抗菌剤A1の散布量を0.80mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA6」と呼び、抗菌剤A1の散布量を1.60mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA7」と呼び、抗菌剤A1の散布量を2.72mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA8」と呼ぶ。
【0097】
また、抗菌剤A1を省略したこと以外は、フィルタFA5について上述したのと同様の方法により、フィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFB7」と呼ぶ。
【0098】
<C12A7の量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響2>
フィルタFA5を約5mm×5mmの寸法へと断片化した。これら断片化したフィルタFA5を、不織布の質量が3gとなるように量り取り、直系が14.2cmの円盤上に広げた。そして、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を準備し、フィルタFA5の断片上に25μLの菌液を噴霧した。室温で2分間に亘って放置した後、フィルタFA5の断片に付着している大腸菌を50mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、50mMのクエン酸緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0099】
次に、菌液の噴霧量を30μL及び35μLとしたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。そして、菌液の噴霧量を25μL、30μL及び35μLとした場合に得られた大腸菌の数を相加平均し、これを用いて大腸菌の生存率を算出した。なお、噴霧量を25μL乃至35μLとすることは、不織布に対して0.83質量%乃至1.17質量%の水分を大腸菌とともに供給していることに相当している。
【0100】
また、フィルタFA5の代わりにフィルタFA6乃至FA8及びFB7を使用したこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。そして、フィルタFA6乃至FA8及びFB7の各々について、菌液の噴霧量を25μL、30μL及び35μLとした場合に得られた大腸菌の数を相加平均し、これを用いて大腸菌の生存率を算出した。
【0101】
下記表8に、使用した菌液の量と、その菌液が含んでいた大腸菌の数とを纏める。また、フィルタFA5乃至FA8及びFB7の各々について得られた試験結果を、下記表9と図10とに纏める。
【表8】
【0102】
【表9】
【0103】
表9において、「E.coli生存率」は、上記の相加平均によって得られた大腸菌数と、30μLの菌液が含んでいた大腸菌の数との比である。
【0104】
表9及び図10に示すように、フィルタ基材にC12A7を担持させた場合、フィルタ基材にC12A7を担持させなかった場合と比較して、大腸菌の生存率を低くすることができた。特に、C12A7の担持量を約2.7mg/cm2とした場合、フィルタ基材にC12A7を担持させなかった場合と比較して、大腸菌の生存率を著しく低くすることができた。
【0105】
<C12A7と他の抗菌剤との性能の比較>
まず、比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。その結果、大腸菌の数は、約1×103個であった。
【0106】
次に、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0107】
50mLのイオン交換水に、25mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0108】
50mLのイオン交換水に、25mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0109】
50mLのイオン交換水に、25mgの二酸化チタン粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0110】
50mLのイオン交換水に、25mgのゼオライト粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
上記試験の結果を、下記表10と図11とに纏める。
【表10】
【0111】
表10において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0112】
表10及び図11に示すように、C12A7を使用した場合、酸化マグネシウム、二酸化チタン及びゼオライトを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。また、C12A7を使用した場合、銀を使用した場合とほぼ同等の性能を達成することができた。
【0113】
<C12A7の性能に他の抗菌剤が及ぼす影響1>
比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0114】
また、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0115】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0116】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0117】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの二酸化チタン粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0118】
50mLのイオン交換水に、2.5mgのゼオライト粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0119】
更に、以下に記載するように、C12A7と他の抗菌剤とを組み合わせて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0120】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0121】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの二酸化チタン粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0122】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgのゼオライト粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
上記試験の結果を、下記表11と図12とに纏める。
【表11】
【0123】
表11において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0124】
表11及び図12に示すように、抗菌剤の少なくとも一部としてC12A7を使用した場合、抗菌剤として、銀、酸化マグネシウム、二酸化チタン及びゼオライトの何れかを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。また、抗菌剤としてC12A7と銀又は酸化マグネシウムとを組み合わせて使用した場合、抗菌剤としてC12A7のみを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。
【0125】
<C12A7の性能に他の抗菌剤が及ぼす影響2>
比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0126】
また、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0127】
50mLのイオン交換水に、25mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0128】
50mLのイオン交換水に、25mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0129】
更に、以下に記載するように、C12A7と他の抗菌剤とを組み合わせて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0130】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と12.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0131】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と25mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0132】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0133】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と12.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0134】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と25mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0135】
上記試験の結果を、下記表12と図13とに纏める。
【表12】
【0136】
表12において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0137】
表12及び図13に示すように、C12A7と銀とを組み合わせた場合、銀の添加量を多くすると、抗菌性が向上した。他方、C12A7と酸化マグネシウムとを組み合わせた場合、酸化マグネシウムの添加量が少ない場合には、抗菌性は殆ど向上せず、酸化マグネシウムの添加量を250ppm及び500ppmとした場合に、抗菌剤としてC12A7のみを使用した場合と比較して優れた抗菌性を達成できた。
【符号の説明】
【0138】
1…マスク、2…マスク本体、21…フィルタ、21a…フィルタ材、21a1…フィルタ基材、21a2…抗菌剤、21b…表層材、22…保持部材、23…付形部材、2a…面体、2b…フィルタユニット、2b1…ホルダ、3…固定具、P1…折り返し部、P2…折り返し部、P3…折り返し部、W…着用者。
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気及び呼気を透過させるフィルタを含んだマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
飛沫感染などの空気感染を抑制する目的で使用するマスクには、細菌を遮断する能力が高いことが望まれる。特許文献1には、燐酸カルシウム系化合物からなる粒子をマスクのフィルタ基材に担持させ、これら粒子に細菌を吸着させることが記載されている。
【0003】
また、上述した目的で使用するマスクには、細菌の発育を阻止する能力が高いことが望まれる。例えば、フィルタ基材に銀又は酸化銀を担持させると、抗菌性に優れたマスクが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−115582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、銀は高価であり、一般には安価なマスクにおいては、より安価な抗菌剤を使用することが望まれる。
そこで、本発明は、安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1側面によると、呼気を透過させるフィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを備えたマスク用フィルタが提供される。
【0007】
本発明の第2側面によると、第1側面に係るフィルタと、前記フィルタを着用者に対して固定する固定具とを具備したマスクが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一態様に係るマスクを概略的に示す平面図。
【図2】図1に示すマスクのII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2に示すマスクを着用している様子を概略的に示す図。
【図4】図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの一例を概略的に示す断面図。
【図5】図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの他の例を概略的に示す断面図。
【図6】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの分子構造を示す図。
【図7】図1及び図2に示すマスクの一変形例を概略的に示す斜視図。
【図8】マスクの着用時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフ。
【図9】ヒトの呼気と同様の雰囲気中における抗菌剤の放置時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフ。
【図10】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【図11】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネート及び他の抗菌剤の抗菌性の一例を示すグラフ。
【図12】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの抗菌性に他の抗菌剤が及ぼす影響の一例を示すグラフ。
【図13】マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの抗菌性に他の抗菌剤が及ぼす影響の他の例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
図1は、本発明の一態様に係るマスクを概略的に示す平面図である。図2は、図1に示すマスクのII−II線に沿った断面図である。図3は、図1及び図2に示すマスクを着用している様子を概略的に示す図である。なお、以下の説明において、マスク1及びその構成要素に関して使用する用語「上」、「下」、「左」及び「右」は、マスク1が着用された状態にあるか否かに拘らず、図3に示すようにマスク1を着用した着用者Wが直立しているときの方位を意味している。
【0012】
図1乃至図3に示すマスク1は、飛沫感染などの空気感染を抑制する目的で使用するマスクである。このマスク1は、図1及び図3に示すように、マスク本体2と固定具3とを含んでいる。
【0013】
マスク本体2は、フィルタ21と、一対の保持部材22と、付形部材23とを含んでいる。
【0014】
フィルタ21は、通気性を有している。フィルタ21には、図1乃至図3に示すように、互いに対して略平行な複数の折り目が設けられている。
【0015】
具体的には、フィルタ21の上端部と下端部とは、図2に示すように折り返されており、それぞれ、折り返し部P1及びP3を形成している。折り返し部P1及びP3では、その形状を維持するべく、フィルタ21の互いに向き合った部分は接合されている。フィルタ21の上端部及び下端部の少なくとも一方は、折り返されていなくてもよい。
【0016】
また、フィルタ21のうち、折り返し部P1及びP3間に位置した部分P2は、ひだ状に折り畳まれている。この部分P2は、折り畳まれていなくてもよい。
なお、フィルタ21の材料及び詳細な構造については、後で説明する。
【0017】
保持部材22は、図1及び図3に示すように帯形状を有している。これら保持部材22は、それぞれ、折られた状態のフィルタ21の左右の端を挟み込むように配置されており、そこでフィルタ21に接合されている。保持部材22は、フィルタ21の中央部の上下方向への伸縮を制限することなしに、フィルタ21の左右の端部の上下方向への伸長を制限する。保持部材22は、例えば、織布及び不織布などの布、紙又はフィルムからなる。
【0018】
付形部材23は、典型的には樹脂で被覆された針金又は帯状の薄い金属板からなる。付形部材23は、その長さ方向がフィルタ21に設けられた折り目に対して略平行となるように、フィルタ21の上端近傍に設置されている。付形部材23は、図2に示すように、折り返し部P1においてフィルタ21によって挟持されている。付形部材23は、図3に示すように、マスク1の着用時に着用者Wの顔に沿った形状へと変形させることにより、フィルタ2と着用者Wの顔との隙間を最小にする。
【0019】
固定具3は、図1及び図3に示すように、マスク本体2に取り付けられている。ここでは、固定具3は一対のゴム紐である。これらゴム紐の一方は、その2つの端がそれぞれマスク本体2の左側に位置した2つの角部に接合されており、マスク本体2とともに環構造を形成している。また、これらゴム紐の他方は、その2つの端がそれぞれマスク本体2の右側に位置した2つの角部に接合されており、マスク本体2とともに環構造を形成している。これらゴム紐を着用者Wの左右の耳にかけることにより、マスク本体2を着用者Wに対して固定する。
【0020】
次に、フィルタ21の構造及びそれに使用する材料について説明する。
図4は、図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【0021】
このフィルタ21は、層状のフィルタ材21aを含んでいる。フィルタ21は、フィルタ材21aからなる単層構造を有していてもよい。或いは、フィルタ21は、フィルタ材21aを含んだ多層構造を有していてもよい。後者の場合、フィルタ材21aと他の層とを積層してもよく、フィルタ材21aを重ね合わせてもよい。
【0022】
フィルタ材21aは、フィルタ基材21a1と抗菌剤21a2とを含んでいる。
【0023】
フィルタ基材21a1は、例えば、不織布である。図4に示すフィルタ21では、フィルタ基材21a1は二層構造を有している。フィルタ基材21a1として、織布、紙又は多孔質フィルムを使用してもよい。
【0024】
抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1を構成している2つの層に担持されている。ここでは、抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1の層間に分布している。このような構造は、例えば、フィルタ基材21a1を構成する一方の層の上に抗菌剤21a2を散布し、その上に、フィルタ基材21a1を構成する他方の層を設け、それら層を一体化することにより得られる。抗菌剤21a2をフィルタ基材21a1の層間に配置すると、抗菌剤21a2の脱落を防止できる。
【0025】
図5は、図1及び図2に示すマスクにおいて使用可能なフィルタの他の例を概略的に示す断面図である。
【0026】
このフィルタ21では、抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1の全体に亘って分布している。この構造を採用した場合、抗菌剤21a2は、フィルタ基材21a1から脱落する可能性がある。そこで、このフィルタ21では、層状のフィルタ材21aに加え、一対の表層材21bを更に設けている。
【0027】
このフィルタ21のフィルタ基材21a1は、例えば、以下の方法により得られる。まず、フィルタ基材21a1として、芯鞘型の繊維からなる不織布又は織布を準備する。次いで、このフィルタ基材21a1に、熱風を利用して抗菌剤21a2を送り込む。これにより、芯部を構成している樹脂を軟化させることなしに、鞘部を構成している熱可塑性樹脂を軟化させ、そこに抗菌剤21a2を付着させる。抗菌剤21a2の粒径が繊維の隙間と比較して十分に小さければ、フィルタ基材21a1の全体に抗菌剤21a2を分布させることができる。
【0028】
表層材21bは、それぞれ、フィルタ材21aの表面と裏面とに接合されている。表層材21bは、例えば、不織布である。
【0029】
表層材21bのフィルタ材21aへの接合には、例えば熱融着を利用することができる。表層材21bは、接着剤を利用してフィルタ材21aに接合してもよく、ニードルパンチを利用してフィルタ材21aに接合してもよい。
【0030】
表層材21bとして、織布、紙又は多孔質フィルムを使用してもよい。また、表層材21b又は双方を省略してもよい。
【0031】
図4及び図5に示すフィルタ21は、抗菌剤21a2の少なくとも一部として、マイエナイト構造を有している化合物、例えば、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートを使用している。この化合物について、図6を参照しながら説明する。
【0032】
図6は、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートの分子構造を示す図である。
【0033】
マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートは、化学式12CaO・7Al2O3で表される化合物である。以下、この化合物を「C12A7」と略記する。
【0034】
C12A7の構成原子は、図6に示すように、三次元的に連結された複数の籠(ケージ)構造を形成している。これらケージは、直径が約0.4nmの内部空間を有しており、O-、O2-及びO2-などの活性酸素種を包接することが可能である。これら活性酸素種は、C12A7の骨格を構成している酸素原子とは異なり、高い酸化力を示す。また、C12A7は、銀及び銀化合物などの抗菌剤と比較して遥かに安価である。従って、先の酸化力を殺菌に利用することができれば、安価であり且つ抗菌性に優れたマスクを実現できる可能性がある。
【0035】
C12A7は、水分の不存在下では、高い酸化力を発現することはなく、それ故、高い殺菌力を示さない。しかしながら、C12A7は、十分な量の水分を供給することにより、極めて高い殺菌力を示す。なお、水分が殺菌力に影響を及ぼす理由は必ずしも明らかになっている訳ではないが、本発明者らは、酸素活性種と水との反応によってOH-イオンが発生し、このOH-イオンが殺菌に寄与しているためであると考えている。
【0036】
マスク1の着用時には、着用者Wの吸気に伴って大気中の水分がC12A7に供給され得るのに加え、着用者Wの呼気からC12A7に水分が供給される。一般に、呼気は、吸気と比較してより高い濃度で水分を含んでいる。しかも、呼気の水分濃度には、大気の湿度などの外部環境が大きな影響を及ぼすことはない。それ故、このマスク1は、外部環境の如何に拘らず、着用してからほぼ一定の時間で優れた抗菌性を発現する。
【0037】
このマスク1では、C12A7は、フィルタ基材21a1の全体に亘って分布していてもよい。或いは、C12A7は、フィルタ基材21a1のうち吸気と呼気とが通過する領域にのみ分布していてもよい。或いは、C12A7は、フィルタ基材21a1のうち吸気と呼気とが通過する領域では高い密度で分布し、他の領域ではより低い密度で分布していてもよい。
【0038】
フィルタ21のうち呼気が通過する領域では、この面積に対するC12A7の量は、例えば10g/m2以上とし、典型的には27g/m2以上とする。また、先の面積に対するC12A7の量は、例えば60g/m2以下とし、典型的には30g/m2以下とする。C12A7の量が少ない場合、高い抗菌性を発現させることが難しい。呼気によって供給される水分量に対してC12A7の量が多い場合、C12A7の量の増やしても抗菌性が大きく向上することはない。
【0039】
C12A7としては、例えば、レーザ回折散乱法によって測定した平均粒径が0.5μm乃至50μmの範囲内にあるものを使用する。平均粒径が小さなC12A7を使用すると、C12A7と細菌との接触確率が高くなる。但し、平均粒径が著しく小さなC12A7は、取扱いが難しく、また、フィルタ基材21a1に担持させることが難しい。
【0040】
C12A7のカルシウム原子は、ストロンチウム原子によって少なくとも部分的に置換されていてもよい。即ち、抗菌剤21a2は、マイエナイト構造を有しているカルシウムアルミネートを含んでいてもよく、マイエナイト構造を有しているストロンチウムアルミネートを含んでいてもよく、それらの双方を含んでいてもよい。
【0041】
また、カルシウム原子及び/又はストロンチウム原子の一部は、マグネシウム原子及びバリウム原子の少なくとも一方によって置換されていてもよい。
【0042】
C12A7のアルミニウム原子は、珪素原子、ゲルマニウム原子及びガリウム原子の少なくとも1つによって部分的に置換されていてもよい。
【0043】
抗菌剤21a2として、マイエナイト構造を有している化合物と他の抗菌剤とを併用してもよい。マイエナイト構造を有している化合物は、水分の不存在下でも抗菌性を示す可能性があるが、十分な量の水分が供給されるまで高い抗菌性を示さない。他の抗菌剤として、水分量がその性能に大きな影響を及ぼさないものを使用すれば、マイエナイト構造を有している化合物が高い抗菌性を発現するまでの期間においても、優れた抗菌効果を達成することができる。
【0044】
そのような抗菌剤としては、例えば、銀、銀化合物、酸化チタン、酸化マグネシウム、ドロマイト、ゼオライト、又は、それらの2つ以上を含んだ混合物を使用することができる。特に、マイエナイト構造を有している化合物と、銀、銀化合物、酸化マグネシウム及びドロマイトの少なくとも1つとを併用すると、マイエナイト構造を有している化合物が高い抗菌性を示す期間における抗菌性能も向上する。なお、酸化マグネシウムを使用する場合、C12A7に対するその質量比は、約1以下とすることが好ましく、0.5乃至1の範囲内とすることがより好ましい。
【0045】
上記の通り、マイエナイト構造を有している化合物と併用する抗菌剤は、抗菌性に関して補助的な役割を果たす。従って、マイエナイト構造を有している化合物に対する追加の抗菌剤の質量比は、例えば10%乃至100%の範囲内とする。
【0046】
このマスク1には、様々な変形が可能である。
図7は、図1及び図2に示すマスクの一変形例を概略的に示す斜視図である。
【0047】
図7に示すマスク1において、マスク本体2は、面体2aとフィルタユニット2bとを含んでいる。
【0048】
面体2aは、マスク1の着用時に着用者Wの鼻及び口並びにその周囲を覆うように成形された成形品である。典型的には、面体2aは、マスク1の着用時に変形してその縁の全体が着用者Wの顔と密着するように、ゴムなどの可撓性を有している材料からなる。
【0049】
面体2aには、着用者Wの吸気及び呼気が通過する1つ以上の貫通孔が設けられている。フィルタユニット2bは、この貫通孔の位置で面体2aに取り付けられている。
【0050】
フィルタユニット2bは、図示しないマウントと、ホルダ2b1と、フィルタ21とを含んでいる。
【0051】
マウントは、例えば、筒形状を有している。或いは、マウントは、貫通孔が設けられた板形状を有している。マウントは、面体2aに設けられた貫通孔の位置で、面体2aに取り付けられている。
【0052】
ホルダ2b1は、マウントに着脱可能に取り付けられている。例えば、ホルダ2b1は、マウントと係合しているか又は螺合している。
【0053】
ホルダ2b1には、吸気及び呼気が流通する流路が設けられている。ホルダ2b1は、その流路内でフィルタ21を着脱可能に支持している。
【0054】
また、このマスク1において、固定具3は、例えばゴムからなるベルトである。このベルトの一端は面体2aの右側の端部に取り付けられており、他端は、面体2aの左側の端部に取り付けられている。面体2aを着用者Wの顔の所定の位置に押し当て、ベルトを着用者Wの後頭部に廻らすことにより、マスク本体2を着用者Wに対して固定する。
【0055】
このマスク1では、上記の通り、フィルタ21は着脱可能である。従って、このマスク1は、使用済みのフィルタ21を未使用のフィルタ21と交換することによって繰り返し使用することができる。
【0056】
以上説明した技術は、典型的には衛生用マスクに適用するが、衛生用マスク以外のマスクに適用してもよい。例えば、上述した技術は、防塵マスク又は防毒マスクに適用することも可能である。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明の例を記載する。
【0058】
<抗菌剤A1の製造>
炭酸カルシウム粉末とアルミナ粉末とを、炭酸カルシウムとアルミナとのモル比が12:7となるように十分に混合した。この混合物を、酸素雰囲気中、1350℃で6時間に亘って焼成した。次いで、ボールミルを用いて焼成品を粉砕して、平均粒径が約10μmの粉末を得た。この粉末についてX線回折解析を行ったところ、化学式12CaO・7Al2O3で表されるマイエナイト構造のカルシウムアルミネートであることが確認された。以下、このカルシウムアルミネートを「抗菌剤A1」と呼ぶ。
【0059】
<フィルタFA1の作成>
繊維の芯部及び鞘部がそれぞれポリプロピレン及びポリエチレンからなる不織布を裁断し、面積が50cm2の不織布片を2枚準備した。次に、0.15gの抗菌剤A1を、一方の不織布片の上に均一に散布した。次いで、この不織布片上に他方の不織布片を重ね、この積層体に、アイロンを用いて熱と圧力とを加えた。これにより、不織布片同士を熱融着させた。以上のようにして、フィルタを得た。以下、このフィルタを「フィルタFA1」と呼ぶ。
【0060】
<フィルタの抗菌性試験1>
1mL当たり約105個の大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を準備し、その0.1mLをフィルタFA1上に噴霧した。室温で5分間に亘って放置した後、フィルタFA1に付着している大腸菌を10mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0061】
また、抗菌剤A1を省略したこと以外はフィルタFA1と同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFB1」と呼ぶ。このフィルタFB1をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表1に纏める。
【表1】
【0062】
表1において、「E.coli生存率」は、フィルタFB1を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0063】
表1に示すように、C12A7を含んだフィルタFA1は、フィルタFB1と比較して遥かに優れた抗菌性を示した。
【0064】
<市販の抗菌マスク用フィルタの抗菌性試験>
抗菌剤A1の代わりに下記表2に示す抗菌剤をそれぞれ含んだ市販のフィルタFB2乃至FB6を用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表2に纏める。
【表2】
【0065】
表1及び表2に示すデータの比較から明らかなように、C12A7を含んだフィルタFA1は、市販のフィルタと比較して優れた抗菌性を示した。
【0066】
<C12A7の量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響1>
抗菌剤A1の散布量を0.05gとしたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA2」と呼ぶ。このフィルタFA2をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
【0067】
また、抗菌剤A1の散布量を0.3gとしたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA3」と呼ぶ。このフィルタFA3をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表3に纏める。
【表3】
【0068】
表3に示すように、C12A7の担持量を10g/m2乃至60g/m2の範囲内とした場合、優れた抗菌性を達成することができた。
【0069】
<活性酸素量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響>
焼成を酸素雰囲気中で行う代わりに大気雰囲気中で行ったこと以外は、抗菌剤A1について上述したのと同様の方法により、平均粒径が約10μmの粉末を得た。この粉末についてX線回折解析を行ったところ、化学式12CaO・7Al2O3で表されるマイエナイト構造のカルシウムアルミネートであることが確認された。以下、このカルシウムアルミネートを「抗菌剤A2」と呼ぶ。
【0070】
次いで、抗菌剤A1及びA2の各々について、活性酸素量を測定した。具体的には、抗菌剤A1及びA2の各々について、77Kで電子スピン共鳴スペクトルを測定し、このスペクトルからO2-イオンラジカル及びO-イオンラジカルの濃度を求めた。
【0071】
次に、抗菌剤A1の代わりに抗菌剤A2を用いたこと以外は、フィルタFA1について上述したのと同様の方法によりフィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFA4」と呼ぶ。このフィルタFA4をフィルタFA1の代わりに用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表4に纏める。
【表4】
【0072】
上記表4において、「抗菌剤」の欄には、使用したC12A7の活性酸素量、即ち、抗菌剤A1及びA2のO2-イオンラジカル濃度又はO-イオンラジカル濃度を括弧書きしている。
表4に示すように、活性酸素量がより多い抗菌剤A1を使用した場合、特に優れた抗菌性を達成することができた。そして、活性酸素量がより少ない抗菌剤A2を使用した場合でも、十分な抗菌性を達成することができた。
【0073】
<フィルタの抗菌性試験2>
1mL当たり約105個の黄色ブドウ球菌(NBRC13276)を含んだ菌液を準備し、その0.1mLをフィルタFA1上に噴霧した。室温で5分間に亘って放置した後、フィルタFA1に付着している大腸菌を10mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から黄色ブドウ球菌の数を求めた。
【0074】
また、フィルタFA1の代わりにフィルタFB1を用いたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。
これらの結果を下記表5に纏める。
【表5】
【0075】
表5において、「S.aureus生存率」は、フィルタFB1を用いた場合に得られた結果を基準とした黄色ブドウ球菌数の相対値である。
【0076】
表5に示すように、C12A7を含んだフィルタFA1は、フィルタFB1と比較して遥かに優れた抗菌性を示した。
【0077】
<水分が抗菌性に及ぼす影響>
抗菌剤A1を十分に乾燥させ、その0.5gに約104個の大腸菌を接触させた。室温で5分間に亘って放置した後、これを緩衝液中に懸濁させた。ここでは、pH値が4の緩衝液を使用した。次いで、抗菌剤を沈降させ、この液の上澄みの一部を、SCD寒天培地に塗布した。続いて、30℃で24時間に亘る培養を行い、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0078】
また、大腸菌に接触させる前に抗菌剤A1を含水させたこと以外は、これと同様の試験を行った。ここでは、抗菌剤A1の含水量は、抗菌剤A1に対して0.2、1.0、5.0及び10.0質量%とした。
これらの結果を下記表6に纏める。
【表6】
【0079】
表6において、「N.D.」は、大腸菌を検出できなかったこと、即ち、大腸菌の数が200個以下であったことを表している。
【0080】
表6に示すように、C12A7は、水分の存在下では、水分の不存在下と比較して、遥かに優れた抗菌性を示した。具体的には、C12A7の含水量が0.2質量%と少ない場合であっても、含水量を0質量%とした場合と比較して、C12A7の抗菌性は向上した。そして、C12A7の含水量を1.0質量%以上としたC12A7は、極めて優れた抗菌性を示した。
【0081】
<着用時におけるマスクの質量変化>
フィルタが不織布からなる市販のマスクを複数の被験者に着用させて、時間の経過に伴うマスクの質量変化を調べた。その結果を図8に示す。
【0082】
図8は、マスクの着用時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフである。
図8において、横軸はマスクの着用時間を表している。また、縦軸は、着用開始から時間tを経過した時点におけるマスクの質量M1(t)と初期におけるマスクの質量M1(0)との差M1(t)−M1(0)と質量M1(0)との比[M1(t)−M1(0)]/M1(0)を表している。そして、図8に示すデータは、複数の被験者について得られた結果を平均したものである。
【0083】
図8に示すように、着用からの経過時間が7時間の範囲内では、マスクの質量は時間の経過とともに増加した。着用時におけるマスクの質量の変化は、主として、マスクの含水量の変化によるものである。そして、一定の環境中では、マスクへの水分の供給は、主に着用者の呼気によってなされる。以上から、着用からの経過時間が7時間の範囲内では、着用者の呼気がマスクに水分を供給するため、マスクの含水量は時間の経過とともに増加することが分かる。
【0084】
また、図8に示すように、マスクの質量は、着用から約30分経過した時点で約0.2%増加し、着用から約3時間経過した時点で約1%増加した。呼気からの水分がマスクの構成要素へ均等に配分されるとすると、C12A7をフィルタ基材に担持させてなるフィルタを含んだマスクを着用した場合には、C12A7の含水量は、着用から約30分経過した時点で約0.2%に達し、着用から約3時間経過した時点で約1%に達すると推定される。以上から、C12A7をフィルタ基材に担持させてなるフィルタを含んだマスクは、着用から比較的短い時間で優れた抗菌性を発現するのに加え、着用から数時間を経過して一般には細菌が発育し易い高湿潤状態となったときには極めて優れた抗菌性を示すことが分かる。
【0085】
<吸湿によるC12A7の質量変化>
ヒトの呼気は、温度が約36℃であり、相対湿度が約95%以上の高温多湿ガスである。この高温多湿条件を恒温槽内に再現し、C12A7の吸湿による重量増加を測定した。
【0086】
具体的には、30gの抗菌剤A1を、雰囲気を36±1℃の温度及び85%以上の相対湿度に設定した恒温槽内に放置した。そして、恒温槽内への放置を開始してから1、2、3及び5時間経過後に抗菌剤の質量を測定し、質量増加率を算出した。これを3回繰り返し、質量増加率の平均値を経過時間毎に求めた。その結果を図9に示す。
【0087】
図9は、ヒトの呼気と同様の雰囲気中における抗菌剤の放置時間とその質量増分との関係の一例を示すグラフである。
図9において、横軸は、恒温槽内でのC12A7の放置時間を表している。また、縦軸は、放置を開始してから時間tを経過した時点におけるC12A7の質量M2(t)と初期におけるC12A7の質量M2(0)との差M2(t)−M2(0)と質量M2(0)との比[M2(t)−M2(0)]/M2(0)を表している。
【0088】
通常、ヒトの呼気は、吸気と比較して遥かに高湿度である。それ故、C12A7をマスクのフィルタにおいて使用した場合、C12A7の吸湿による質量増加は、主として、呼気によってもたらされる。即ち、フィルタがC12A7を含んだマスクを着用した場合、息を吸い込んでいる期間内におけるC12A7の質量増加は、息を吐き出している期間内におけるC12A7の質量増加と比較して僅かである。
【0089】
息を吐き出している期間の呼吸に占める割合が約50%であり、息を吸い込んでいる期間においてC12A7の質量は変化しないとすると、フィルタがC12A7を含んだマスクを着用した際のC12A7の質量増加率は、図9に示す値の約半分になると考えられる。これを考慮して、図9に示すデータと図8に示すデータとを対比すると、放置時間が約2時間までの期間内では、マスク着用時のC12A7の質量増加率は、マスク着用時のマスクの質量増加率と同等以上であることが分かる。
【0090】
<飛沫感染に対する抑制効果の検証>
大腸菌と水とを含んだ10μLの菌液を100mgの寒天に添加し、これを1分間に亘って混和させた。これにより、約1×105個の大腸菌と9質量%の水とを含んだ大腸菌添加寒天を得た。また、同様の方法により、水分含有量を17質量%、33質量%、50質量%及び67質量%とした大腸菌添加寒天を調製した。
【0091】
次に、これら大腸菌添加寒天の各々に、1000mgの抗菌剤A1を加えた。これらを1分間に亘って混和させた後、各混和物に50mMのクエン酸緩衝液を10mL加えて、反応を停止させた。次いで、各上澄み液100μLを平板培地に塗沫し、37℃で24時間に亘って培養した。そして、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0092】
また、比較のため、上記と同様の方法により、水分含有量を9質量%、17質量%、33質量%、50質量%及び67質量%とした大腸菌添加寒天を調製し、抗菌剤A1を加えなかったこと以外は同様の試験を行った。これら比較試験の結果として得られた大腸菌の数に基づいて、大腸菌の生存率を算出した。
これらの結果を下記表7に纏める。
【表7】
【0093】
表7において、「E.coli生存率」は、比較試験において得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0094】
表7に示すように、大腸菌添加寒天の水分含有量が67質量%である場合、極めて優れた殺菌性能を達成できた。また、表7に示すように、大腸菌添加寒天の水分含有量が50質量%以下であっても優れた殺菌性能を達成でき、大腸菌添加寒天の水分含有量が33質量%以上である場合、大腸菌添加寒天の水分含有量が17質量%以下である場合と比較して優れた殺菌性能を達成できた。これから分かるように、C12A7をフィルタ基材に担持させたマスクを着用すれば、細菌を含んだ飛沫がマスクのフィルタ上で乾燥したとしても、感染を抑制することができる。
【0095】
<フィルタFA5乃至FA8及びFB7の作成>
フィルタFA1の製造において使用したのと同様の不織布上に抗菌剤A1を均一に散布した。ここでは、抗菌剤A1は、不織布の単位面積当たりの量が0.41mg/cm2となるように散布した。次いで、これに100℃乃至150℃の熱処理を施して、抗菌剤A1を不織布に接着させることにより、フィルタを得た。以下、このフィルタを「フィルタFA5」と呼ぶ。
【0096】
抗菌剤A1を不織布の単位面積当たりの量が0.80mg/cm2、1.60mg/cm2、及び2.72mg/cm2となるように散布したこと以外は、フィルタFA5について上述したのと同様の方法により、フィルタを作成した。以下、抗菌剤A1の散布量を0.80mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA6」と呼び、抗菌剤A1の散布量を1.60mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA7」と呼び、抗菌剤A1の散布量を2.72mg/cm2としたフィルタを「フィルタFA8」と呼ぶ。
【0097】
また、抗菌剤A1を省略したこと以外は、フィルタFA5について上述したのと同様の方法により、フィルタを作成した。以下、このフィルタを「フィルタFB7」と呼ぶ。
【0098】
<C12A7の量がフィルタの抗菌性に及ぼす影響2>
フィルタFA5を約5mm×5mmの寸法へと断片化した。これら断片化したフィルタFA5を、不織布の質量が3gとなるように量り取り、直系が14.2cmの円盤上に広げた。そして、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を準備し、フィルタFA5の断片上に25μLの菌液を噴霧した。室温で2分間に亘って放置した後、フィルタFA5の断片に付着している大腸菌を50mLの緩衝液で洗い流した。ここでは、50mMのクエン酸緩衝液を使用した。次いで、緩衝液によって洗い流した大腸菌をSCD寒天培地に塗沫した。そして、30℃で24時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0099】
次に、菌液の噴霧量を30μL及び35μLとしたこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。そして、菌液の噴霧量を25μL、30μL及び35μLとした場合に得られた大腸菌の数を相加平均し、これを用いて大腸菌の生存率を算出した。なお、噴霧量を25μL乃至35μLとすることは、不織布に対して0.83質量%乃至1.17質量%の水分を大腸菌とともに供給していることに相当している。
【0100】
また、フィルタFA5の代わりにフィルタFA6乃至FA8及びFB7を使用したこと以外は、上述したのと同様の抗菌性試験を行った。そして、フィルタFA6乃至FA8及びFB7の各々について、菌液の噴霧量を25μL、30μL及び35μLとした場合に得られた大腸菌の数を相加平均し、これを用いて大腸菌の生存率を算出した。
【0101】
下記表8に、使用した菌液の量と、その菌液が含んでいた大腸菌の数とを纏める。また、フィルタFA5乃至FA8及びFB7の各々について得られた試験結果を、下記表9と図10とに纏める。
【表8】
【0102】
【表9】
【0103】
表9において、「E.coli生存率」は、上記の相加平均によって得られた大腸菌数と、30μLの菌液が含んでいた大腸菌の数との比である。
【0104】
表9及び図10に示すように、フィルタ基材にC12A7を担持させた場合、フィルタ基材にC12A7を担持させなかった場合と比較して、大腸菌の生存率を低くすることができた。特に、C12A7の担持量を約2.7mg/cm2とした場合、フィルタ基材にC12A7を担持させなかった場合と比較して、大腸菌の生存率を著しく低くすることができた。
【0105】
<C12A7と他の抗菌剤との性能の比較>
まず、比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。その結果、大腸菌の数は、約1×103個であった。
【0106】
次に、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0107】
50mLのイオン交換水に、25mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0108】
50mLのイオン交換水に、25mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0109】
50mLのイオン交換水に、25mgの二酸化チタン粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0110】
50mLのイオン交換水に、25mgのゼオライト粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
上記試験の結果を、下記表10と図11とに纏める。
【表10】
【0111】
表10において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0112】
表10及び図11に示すように、C12A7を使用した場合、酸化マグネシウム、二酸化チタン及びゼオライトを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。また、C12A7を使用した場合、銀を使用した場合とほぼ同等の性能を達成することができた。
【0113】
<C12A7の性能に他の抗菌剤が及ぼす影響1>
比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0114】
また、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0115】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0116】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0117】
50mLのイオン交換水に、2.5mgの二酸化チタン粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0118】
50mLのイオン交換水に、2.5mgのゼオライト粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0119】
更に、以下に記載するように、C12A7と他の抗菌剤とを組み合わせて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0120】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0121】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの二酸化チタン粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0122】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgのゼオライト粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
上記試験の結果を、下記表11と図12とに纏める。
【表11】
【0123】
表11において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0124】
表11及び図12に示すように、抗菌剤の少なくとも一部としてC12A7を使用した場合、抗菌剤として、銀、酸化マグネシウム、二酸化チタン及びゼオライトの何れかを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。また、抗菌剤としてC12A7と銀又は酸化マグネシウムとを組み合わせて使用した場合、抗菌剤としてC12A7のみを使用した場合と比較して、優れた性能を達成することができた。
【0125】
<C12A7の性能に他の抗菌剤が及ぼす影響2>
比較のために、以下の試験を行った。
5mLの生理食塩水に20μLの菌液を添加して、それらを混和させた。ここでは、大腸菌(NBRC3972)を含んだ菌液を使用した。30℃の温度で20分間に亘って静置した後、この混和物の100μLをSCD寒天培地に塗沫した。そして、36±1℃で20時間に亘って培養し、形成されたコロニーの数から大腸菌の数を求めた。
【0126】
また、以下に記載するように、各種抗菌剤を用いて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0127】
50mLのイオン交換水に、25mgの銀粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0128】
50mLのイオン交換水に、25mgの酸化マグネシウム粉末を加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0129】
更に、以下に記載するように、C12A7と他の抗菌剤とを組み合わせて同様の試験を行った。
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0130】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と12.5mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0131】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と25mgの銀粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0132】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と2.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0133】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と12.5mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0134】
50mLのイオン交換水に、25mgの抗菌剤A1と25mgの酸化マグネシウム粉末とを加えた。これを十分に攪拌した後、2時間に亘って静置した。これによって得られた上澄み液の5mLを生理食塩水の代わりに使用したこと以外は、上述した比較試験と同様の試験を行った。
【0135】
上記試験の結果を、下記表12と図13とに纏める。
【表12】
【0136】
表12において、「E.coli生存率」は、生理食塩水を用いた場合に得られた結果を基準とした大腸菌数の相対値である。
【0137】
表12及び図13に示すように、C12A7と銀とを組み合わせた場合、銀の添加量を多くすると、抗菌性が向上した。他方、C12A7と酸化マグネシウムとを組み合わせた場合、酸化マグネシウムの添加量が少ない場合には、抗菌性は殆ど向上せず、酸化マグネシウムの添加量を250ppm及び500ppmとした場合に、抗菌剤としてC12A7のみを使用した場合と比較して優れた抗菌性を達成できた。
【符号の説明】
【0138】
1…マスク、2…マスク本体、21…フィルタ、21a…フィルタ材、21a1…フィルタ基材、21a2…抗菌剤、21b…表層材、22…保持部材、23…付形部材、2a…面体、2b…フィルタユニット、2b1…ホルダ、3…固定具、P1…折り返し部、P2…折り返し部、P3…折り返し部、W…着用者。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼気を透過させるフィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを備えたマスク用フィルタ。
【請求項2】
前記フィルタ基材のうち前記マスクの着用時に前記呼気が透過する部分では、この部分が担持している前記化合物の質量と前記部分の面積との比が10g/m2以上である請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記フィルタ基材に担持された抗菌剤を更に備え、前記抗菌剤は銀及び酸化マグネシウムの少なくとも一方を含んだ請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のフィルタと、前記フィルタを着用者に対して固定する固定具とを具備したマスク。
【請求項1】
呼気を透過させるフィルタ基材と、前記フィルタ基材に担持され、マイエナイト構造を有する化合物とを備えたマスク用フィルタ。
【請求項2】
前記フィルタ基材のうち前記マスクの着用時に前記呼気が透過する部分では、この部分が担持している前記化合物の質量と前記部分の面積との比が10g/m2以上である請求項1に記載のフィルタ。
【請求項3】
前記フィルタ基材に担持された抗菌剤を更に備え、前記抗菌剤は銀及び酸化マグネシウムの少なくとも一方を含んだ請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のフィルタと、前記フィルタを着用者に対して固定する固定具とを具備したマスク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−20006(P2012−20006A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160913(P2010−160913)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(503210740)株式会社Oxy Japan (12)
【出願人】(510195582)雙寶有限公司 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(503210740)株式会社Oxy Japan (12)
【出願人】(510195582)雙寶有限公司 (2)
【Fターム(参考)】
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